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特開2024-95867ショットブラスト装置、制御方法、制御プログラム
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  • 特開-ショットブラスト装置、制御方法、制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095867
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ショットブラスト装置、制御方法、制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B24C 7/00 20060101AFI20240704BHJP
   B24C 5/06 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B24C7/00 E
B24C5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212829
(22)【出願日】2022-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】見城 維佐久
(72)【発明者】
【氏名】家守 修一
(57)【要約】
【課題】ショット量の下限値の調整を高精度に行うことを目的とする。
【解決手段】ショットブラスト装置(1)は、プロセッサ(213)が、インペラ(120)のモータ(121)の負荷電流値が、電流下限値(CL1)を有する設定範囲内となるように、ゲート(111)を開にする状態のシリンダ(112)に対して、サーボモータ(113)を用いた位置制御を行うことにより、投射材(400)を供給するディストリビュータ(110)のゲート(111)の開度を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のゲートを有し投射材を供給するディストリビュータと、
1以上のモータを有し、前記ゲートを介して供給された前記投射材を投射するインペラと、
1以上のプロセッサと、
前記ゲートを開閉する1以上のシリンダと、
前記シリンダの位置を変更する1以上のサーボモータと、を備え、
前記プロセッサは、前記インペラのモータの負荷電流値が、下限値を有する設定範囲内となるように、前記ゲートを開にする状態の前記シリンダに対して、前記サーボモータを用いた位置制御を行うことにより、前記ゲートの開度を調整する、
ショットブラスト装置。
【請求項2】
前記設定範囲は、更に上限値を有する、
請求項1に記載のショットブラスト装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記投射材が前記ゲートから前記インペラに到達するまでの時間に応じて、前記サーボモータの単位時間当たりの変更量を設定し、
前記インペラのモータの負荷電流値が前記下限値に達した場合、前記変更量にて前記サーボモータを駆動する、
請求項1または2に記載のショットブラスト装置。
【請求項4】
前記ショットブラスト装置は、記憶部を更に備え、
前記記憶部は、前記設定範囲の下限値を記憶する、
請求項1または2に記載のショットブラスト装置。
【請求項5】
前記記憶は、前記ショットブラスト装置が運転している間に行われる、
請求項4に記載のショットブラスト装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記記憶した下限値を前記記憶部から読み出して設定する、
請求項4に記載のショットブラスト装置。
【請求項7】
前記設定は、前記ショットブラスト装置が運転を開始する前に行われる、
請求項6に記載のショットブラスト装置。
【請求項8】
前記記憶部は、前記ゲートの開度を、時系列データとして更に記憶する、
請求項4に記載のショットブラスト装置。
【請求項9】
1以上のゲートを有し投射材を供給するディストリビュータと、
1以上のモータを有し投射材を投射するインペラとを備えるショットブラスト装置の制御方法であって、
前記ショットブラスト装置は、
前記ゲートを開閉する1以上のシリンダと、
前記シリンダの位置を変更する1以上のサーボモータと、を備え、
前記モータの負荷電流値が、下限値を有する設定範囲内となるように、前記ゲートを開にする状態の前記シリンダに対して、前記サーボモータを用いた位置制御を行うことにより、前記ゲートの開度を調整する、
ショットブラスト装置の制御方法。
【請求項10】
前記プロセッサを備えるコンピュータを、請求項1に記載のショットブラスト装置として機能させるためのプログラムであって、前記プロセッサに前記位置制御を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットブラスト装置、制御方法、制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ショットブラスト装置において、ショット品質を管理するために、インペラのモータ電流値が一定範囲内となるようショット量を調整する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06-143147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記一定範囲は、ショット量調整の精度の限界の範囲内でしか設定できない。従来の技術では、ショット量の調整にシャッタープレートまたはゲートと、シリンダとのみを用いており、シャッタープレートまたはゲートの開度を微調整できなかった。そのため、基準品質を満たすためのショット量の下限値や、部品に過剰な負荷がかからないためのショット量の上限値を定めるほどの精度ではインペラのモータ電流値の範囲を設定できなかった。そのため、インペラのモータ電流値が前記一定範囲内であっても不良品が生産されたり、過剰な投射が行われたりすることがあった。
【0005】
本発明の一態様は、ショット量の下限値の調整を高精度に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るショットブラスト装置は、1以上のゲートを有し投射材を供給するディストリビュータと、1以上のモータを有し、前記ゲートを介して供給された前記投射材を投射するインペラと、1以上のプロセッサと、前記ゲートを開閉する1以上のシリンダと、前記シリンダの位置を変更する1以上のサーボモータと、を備え、前記プロセッサは、前記インペラのモータの負荷電流値が、下限値を有する設定範囲内となるように、ゲートを開にする状態の前記シリンダに対して、前記サーボモータを用いた位置制御を行うことにより、前記ゲートの開度を調整する。
【0007】
本発明の各態様に係るショットブラスト装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記ショットブラスト装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記ショットブラスト装置をコンピュータにて実現させるショットブラスト装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0008】
上記によれば、ショット量の下限値の調整を高精度に行うことを可能とし、投射品質を適切に保つことにより、不良品の発生確率を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る制御を行わない場合のモータの電流値の時系列推移グラフの一例である。
図3】本発明の実施形態に係る処理の全体を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る制御を行った場合のモータの電流値の時系列推移グラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔本開示の実施形態の概要〕
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0011】
(条項1)1以上のゲートを有し投射材を供給するディストリビュータと、
1以上のモータを有し、前記ゲートを介して供給された前記投射材を投射するインペラと、
1以上のプロセッサと、
前記ゲートを開閉する1以上のシリンダと、
前記シリンダの位置を変更する1以上のサーボモータと、を備え、
前記プロセッサは、前記インペラのモータの負荷電流値が、下限値を有する設定範囲内となるように、前記ゲートを開にする状態の前記シリンダに対して、前記サーボモータを用いた位置制御を行うことにより、前記ゲートの開度を調整する、
ショットブラスト装置。
【0012】
(条項2)前記設定範囲は、更に上限値を有する、
条項1に記載のショットブラスト装置。
【0013】
(条項3)前記プロセッサは、前記投射材が前記ゲートから前記インペラに到達するまでの時間に応じて、前記サーボモータの単位時間当たりの変更量を設定し、
前記インペラのモータの負荷電流値が前記下限値に達した場合、前記変更量にて前記サーボモータを駆動する、
条項1または2に記載のショットブラスト装置。
【0014】
(条項4)前記ショットブラスト装置は、記憶部を更に備え、
前記記憶部は、前記設定範囲の下限値を記憶する、
条項1~3の何れか1項に記載のショットブラスト装置。
【0015】
(条項5)前記記憶は、前記ショットブラスト装置が運転している間に行われる、
条項4に記載のショットブラスト装置。
【0016】
(条項6)前記プロセッサは、前記記憶した下限値を前記記憶部から読み出して設定する、
条項4または5に記載のショットブラスト装置。
【0017】
(条項7)前記設定は、前記ショットブラスト装置が運転を開始する前に行われる、
条項6に記載のショットブラスト装置。
【0018】
(条項8)前記記憶部は、前記ゲートの開度を、時系列データとして更に記憶する、
条項4~7のいずれか1項に記載のショットブラスト装置。
【0019】
(条項9)1以上のゲートを有し投射材を供給するディストリビュータと、
1以上のモータを有し投射材を投射するインペラとを備えるショットブラスト装置の制御方法であって、
前記ショットブラスト装置は、
前記ゲートを開閉する1以上のシリンダと、
前記シリンダの位置を変更する1以上のサーボモータと、を備え、
前記モータの負荷電流値が、下限値を有する設定範囲内となるように、前記ゲートを開にする状態の前記シリンダに対して、前記サーボモータを用いた位置制御を行うことにより、前記ゲートの開度を調整する、
ショットブラスト装置の制御方法。
【0020】
(条項10)前記プロセッサを備えるコンピュータを、請求項1に記載のショットブラスト装置として機能させるためのプログラムであって、前記プロセッサに前記位置制御を実行させるプログラム。
【0021】
〔本開示の実施形態の例示〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0022】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0023】
(ショットブラスト装置の構成)
本発明の一実施形態に係るショットブラスト装置1の構成について、図1の(a)および(b)を参照して説明する。図1の(a)は、ショットブラスト装置1の構成を示すブロック図である。
【0024】
ショットブラスト装置1は、図1の(a)に示すように、投射装置100、PLC(Programmable Logic Controller)200、出入力装置300からなる。投射装置100は、ディストリビュータ110から供給される投射材400を、投射対象物500に投射する(打ち付ける)ことで、例えば、投射対象物500の表面加工処理を行う。
【0025】
投射材400は、例えば、金属製の球状の粒子(所謂、ショット)、金属製の鋭角状の粒子(所謂、グリッド)、が挙げられるが、非金属(例えば、ガラス、セラミックス、砂、樹脂、植物種子)の粒子であってもよい。投射対象物500は、例えば鋳物などの工業製品である。
【0026】
投射装置100は、投射材400をインペラ120に供給するディストリビュータ110、ディストリビュータ110から供給された投射材400を投射対象物500に投射するインペラ120などから構成されるが、図示しない他の部分を含んでいてもよい。投射された後の投射材400は、例えば図示しないバケットエレベーターによって回収され、ふたたびディストリビュータ110に供給されてもよい。
【0027】
ディストリビュータ110は、投射材400を、適切な投射密度(後述)を保てる分量になるように、インペラ120に供給する。ディストリビュータ110は、投射材400の供給量を調整するゲート111を備え、ゲート111は、シリンダ112およびサーボモータ113を備える。シリンダ112は、ゲート111を開にする状態とゲート111を閉にする状態との間で切り替え可能である。シリンダ112がゲート111を閉にする状態のとき、ゲート111は閉状態となる。シリンダ112がゲートを開にする状態のとき、ゲート111は開状態となる。ゲート111が閉状態の場合、投射材400はインペラ120に供給されず、ゲート111の開状態の場合、投射材400はインペラ120に供給される。そして、ゲート111を開にする状態にあるシリンダ112の位置をサーボモータ113によって変更することにより、ゲート111の開度を調整できる。
【0028】
ゲート式流量調整装置は、一般的に、開口断面積を流れる粉粒体が連続して流れる体積を調整するものである。ゲート式流量調整装置には、重力下における粉粒体の流動時のかさ密度および粉体の流動性、粉粒体安息角に代表される粉粒体の粒度構成・粉粒体各々形状の相違など各種要因により全く同じ流量にはなり難いという欠点がある。しかし、一定時間の流量を平均した流量での流量調整には構成簡便で産業的にも安価で適しているため、広く採用されている。
【0029】
ショットブラスト処理において、投射に使用された投射材400は、投射対象物500等との衝突や摩擦によって、投射前より摩耗するという問題がある。投射装置100は、投射後の投射材400を回収し、例えば風力によって、再使用に適さない投射材400を除外した後、再度投射材400を投射する。そして、投射装置100は、投射材400の除外による減少分と同量につき、所定のタイミングで未使用の投射材400をディストリビュータ110に追加する。しかし、再利用に適した投射材400であっても摩耗によって緩やかに粒度が下がり、また、未使用の投射材400を補充すると、ゲート111を通過する投射材400の平均粒度は急激に変化する。このため、インペラ120に供給される投射材400の流量を安定させるためには、ゲート111の開度を調整する必要がある。
【0030】
ゲート111が回転式である場合、ゲート111の開度は角度で表現される。本実施形態では、たとえば、ゲート111の開度の1°の変更は、シリンダ112の位置の1mmの変化に相当する。サーボモータ113は、シリンダ112の位置を変更することによって、ゲート111の開度を微調整する。サーボモータ113は、たとえば可動域が50mmであり、0.01mm~1mm単位でシリンダ112の位置を変更できる。
【0031】
インペラ120は、モータ121によって投射材400を投射対象物500に投射する。モータ121の負荷電流値は、インペラ120に供給される投射材400の量と正の相関がある。つまり、供給される投射材400の量が少ない場合は、インペラ120にかかる負荷が低いためモータ121の負荷電流値は小さくなり、供給される投射材400の量が多い場合は、インペラ120にかかる負荷が高くなるためモータ121の負荷電流値は大きくなる。したがって、モータ121の負荷電流値に応じてゲート111の開度を制御することで、適切な量の投射材400を供給することができる。
【0032】
このように、サーボモータ113によってシリンダ112を精密に位置制御することにより、ゲート111の開度を高精度で変更することができ、ショット量の下限値の調整を高精度に行うことが可能になるため、投射品質を適切に保ち、投射対象物500が不良品となる確率を低減させることができる。なお、本図では、プロセッサ213は、投射装置100が運転している間、モータ121の負荷電流値の取得とゲート111の開度を調整する制御を行うこととしているが、プロセッサ213は、所定の時間のみ、前記取得または制御を行ってもよい。
【0033】
変流器122は、モータ121の負荷電流値を測定し、当該電流値を、通信IF211を通じてPLC200に送信する。
【0034】
PLC200は、投射装置100を制御する。PLC200は、投射装置100の各部と接続され、投射装置100を制御する。PLC200は、通信IF(インタフェース)211、記憶部212、プロセッサ213、出入力IF214を有する。通信IF(インタフェース)211、記憶部212、プロセッサ213、出入力IF214は、バスを介して互いに接続されている。
【0035】
通信IF211には、通信ネットワークを介して図示しないメータなど各種情報装置が接続される。本実施形態においては、通信ネットワークは、有線LANなどのアナログ回路であるが、例えば、イーサネット(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)、CC-Link(登録商標)などを用いてもよく、クラウドで実装されてもよい。
【0036】
記憶部212は、例えば、以下の情報を保存する。
【0037】
(1)制御処理に用いられるモータ121の負荷電流値の各上限値、各下限値
(2)投射材400がゲート111からインペラ120に到達するまでの時間と、サーボモータ113の単位時間あたりの変更量との相関関係
(3)モータ121の負荷電流値の時系列データ
(4)ゲート111の開度の時系列データ
記憶部212として利用可能なデバイスとしては、例えば、フラッシュメモリを挙げることができる。
【0038】
プロセッサ213は、変流器122からの電流値データを受信し、記憶部212から上述の各種情報を読み出して、サーボモータ113の適切な制御位置を決定する。モータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1に達した場合、プロセッサ213は、前記制御位置にしたがってサーボモータ113を駆動させることによりシリンダ112の位置を調整し、結果としてゲート111の開度を調整する。
【0039】
出入力IF214には、入力装置及び/又は出力装置が接続される。出入力IF214に接続される出力装置としては、例えば、ディスプレイやプリンタなどが挙げられる。入出力IFに接続される入力装置としては、例えば、キーボードやマウスなどが挙げられる。出入力IF214としては、例えば、HDMI(登録商標)やUSB(登録商標)などを用いることができる。本実施形態において、出入力IF214には、出力装置としての出入力装置300が接続されている。
【0040】
出入力装置300は、PLC200から送信された各種の情報を表示し、ユーザの各種入力操作を受け付ける。出入力装置300は、例えばタッチパネル等の、出力および入力ができる装置であってもよく、ディスプレイ等の出力装置とボタン等の入力装置の組み合わせであってもよい。また、出入力装置300は、図示しない警報装置を備えていてもよい。
【0041】
(制御処理の流れ)
ショットブラスト装置1のプロセッサ213により実行される制御処理の流れについて、図2図4を参照して説明する。なお、ここでは、電流下限値CL1および補正電流下限値CC1に係る制御処理について主に説明するが、電流上限値CL2、補正電流上限値CC2に係る制御も同様である。
【0042】
(制御しない場合の電流値)
図2は、投射装置100が投射を行っている間、プロセッサ213がゲート111の開度制御を行わない場合のインペラ120のモータ121に係る電流値の時系列推移グラフである。目標電流値CTは、投射装置100が投射対象物500の表面処理を行うにあたって適切な品質を保つための理想的な電流値である。
【0043】
電流下限値CL1は、投射装置100が投射対象物500の表面処理を行うにあたって最低限の品質を保つことができる電流値である。投射対象物500の単位表面積あたりに投射される投射材400の量を投射密度という。投射密度は投射品質に影響し、所定の投射品質を保つためには、電流下限値CL1以上の投射密度が必要である。そして、所定の投射品質を保つ最低限の投射密度であるとき、モータ121の負荷電流値は電流下限値CL1の値として計測される。
【0044】
電流上限値CL2は、投射装置100の各部品、特にインペラ120のモータ121に過剰な負荷がかからないようにするための電流値上限であるが、設定されていなくてもよい。補正電流下限値CC1は、投射装置100が投射対象物500の表面処理を行うにあたって良品質を保つための電流値であるが、設定されていなくてもよい。補正電流上限値CC2は、投射装置100が投射時に過剰な電力を使わないようにするための電流値上限であるが、設定されていなくてもよい。電流下限値CL1、電流上限値CL2、補正電流下限値CC1、補正電流上限値CC2は、目標電流値CTに所定の値を加算又は減算したものであってもよく、目標電流値CTに所定の割合を乗算したものであってもよい。たとえば、工場出荷時のモータ121の最大電流値に対する所定の割合であってよい。目標電流値CTの他の設定方法としては、例えばそれぞれ随時ユーザの操作を受け付けて定めてもよい。また、各上限値または下限値に対する電流値の判定条件は、「以上」または「以下」であってもよく、「を超える」または「を下回る」であってもよい。
【0045】
投射装置100のモータ121が始動すると、モータ121の負荷電流値は、ごく短時間で始動電流値まで上昇し、その後、無負荷電流値に向かって低下する。時点t0に至ってモータ121の電流値が安定すると、プロセッサ213は、投射を開始する。プロセッサ213が投射を開始してから一定の時間、モータ121の負荷電流値は安定しないが、その後、モータ121の負荷電流値が安定し、目標電流値CT付近を推移する。しかし、投射材400の摩耗や補充などの様々な原因によって、モータ121の負荷電流値は上昇または低下する。モータ121の負荷電流値が低下したため、時点t’1ではモータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1を下回っている。この後、モータ121の負荷電流値は上昇している。時点t’2において、モータ121の負荷電流値は補正電流上限値CC2を上回り、その後、モータ121の負荷電流値は低下している。投射装置100が投射を終了すると、モータ121の負荷電流値は無負荷電流値まで低下する。このように、プロセッサ213が制御を行わない場合、投射材400の状態変化によってモータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1を下回り、投射対象物500が良品質にならないことがある。
【0046】
図3は、プロセッサ213が制御を実行する一連の流れを示したフローチャートである。図3を用いて、プロセッサ213が制御処理を行う一連の流れを説明する。なお、本図では、プロセッサ213は、投射装置100が運転している間、モータ121の負荷電流値の取得とゲート111の開度を調整する制御を行うこととしているが、プロセッサ213は、所定の時間のみ、前記取得または制御を行ってもよい。なお、ゲート111の開度を調整後、投射材400がゲート111を通過してインペラ120に到達するまでの期間は、その調整が負荷電流値に反映されない。すなわち、投射材400がインペラ120に供給されるまでのタイムラグの間は負荷電流値が安定せず、目標電流値CTに到達しない。
【0047】
ステップS101において、プロセッサ213は、ゲート111の開度の初期値を記憶部212から読み込む。なお、プロセッサ213は、ゲート111の開度に替えて、サーボモータ113によって調整されたシリンダ112の位置を読み込んでもよい。以下、ゲート111の開度に関して同様である。
【0048】
ステップS102において、プロセッサ213は、シリンダ112を、ゲート111を開にする状態にする。
【0049】
ステップS103において、プロセッサ213は、ゲート111の開度が前記初期値になるようにサーボモータ113を駆動し、シリンダ112の位置を調整する。
【0050】
ステップS104において、プロセッサ213は、投射装置100の投射を開始する。
なお、モータ121の負荷電流値は投射開始時に一時的に安定しないため、プロセッサ213は、これを判定から除外するため、ステップS110を実行する前に一定時間待機してもよい。
【0051】
プロセッサ213は、所定のサンプリング周期ごとにステップS110からステップS145を繰り返す。モータ121では、電流値が短時間で乱高下を繰り返すチャタリング現象が起きることがあり、当該乱高下する電流値を参照せず効率よく制御処理を行うために、サンプリング周期はチャタリングの影響を受けない程度の間隔、たとえば数秒~数分であることが望ましい。たとえば、連続的な処理を行う場合や、投射材400の流量が多い装置などの、摩耗等による粒度変化が少ないショットブラスト装置1であれば、モータ121の負荷電流値の変位も緩やかであるため、変化を検知するサンプリング周期も分単位で緩やかに変化させることが推奨される。たとえば、投射対象物500の表面性状の変化が激しい場合や、投射材400の流量が少ない場合は、モータ121の負荷電流値の変化が大きいため、変化を検知するサンプリング周期は数秒~数十秒単位であったほうが望ましい場合もある。適切なサンプリング周期は、投射材400を回収する機構や補充する頻度、ショットブラスト装置1の構成や投射対象物500の種類によっても異なる。なお、プロセッサ213は、チャタリングの影響を受けない他の方法として、例えばPID制御を用いてもよいが、これに限られない。
【0052】
ステップS110において、プロセッサ213は、投射装置100において投射が終了したかどうかを判定する。投射が終了している場合(ステップS110のYES)、プロセッサ213は、制御処理を終了する。投射が終了していない場合(ステップS110のNO)、プロセッサ213は、ステップS120を実行する。
【0053】
ステップS120において、プロセッサ213は、インペラ120のモータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1以下か、または補正電流上限値CC2以上であるかを判定する。モータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1以下である場合、プロセッサ213は、ステップS130を実行する。モータ121の負荷電流値が補正電流上限値CC2以上である場合、プロセッサ213は、ステップS140を実行する。モータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1より大きく補正電流上限値CC2を下回る場合(ステップS120の「それ以外」)、プロセッサ213は、次のサンプリング周期まで待機を継続する。
【0054】
ステップS130において、プロセッサ213は、モータ121の負荷電流値が電流下限値CL1以下かどうかを判定する。モータ121の負荷電流値が電流下限値CL1以下である場合、プロセッサ213は、ステップS131を実行する。それ以外の場合、プロセッサ213は、ステップS135を実行する。
【0055】
ステップS131において、プロセッサ213は、警報装置310を通じて警報を発する。モータ121の負荷電流値が電流下限値CL1以下である場合、投射対象物500の最低限の品質を保つための投射密度が不足しているためである。なお、インペラ120のモータの電流値が電流下限値CL1を下回る場合は、投射密度不足により投射対象物500が不良品となっている可能性が高いため、プロセッサ213は、投射装置100の投射を終了させてもよい。
【0056】
ステップS135において、プロセッサ213は、モータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1より大きくなるようにサーボモータ113の制御位置を決定する。
【0057】
投射材400がゲート111からインペラ120に到達するまでの時間に応じて、ゲート111の開度調整がモータ121の負荷電流値に反映されるまで時間がかかる。そこで、プロセッサ213は、投射材400がゲート111からインペラ120に到達するまでの時間に応じて、サーボモータ113の単位時間あたりの変更量を、例えばディストリビュータ110が取り付けられた際にあらかじめ設定する。プロセッサ213は、例えばモータ121の負荷電流値を目標電流値CTに変更するために必要なゲート111の開度としてあらかじめ記憶部212に記憶された制御目標値になるまで、単位時間あたりの変更幅ずつサーボモータ113を駆動することとしてもよい。あるいは、プロセッサ213は、モータ121の負荷電流値と補正電流下限値CC1の差またはモータ121の負荷電流値と目標電流値CTの差からサーボモータ113の制御目標値を決定してもよい。なお、プロセッサ213は、モータ121の負荷電流値が目標電流値CTに達するまで、単位時間あたりの変更量ずつサーボモータ113を駆動することとしてもよい。
【0058】
ステップS136において、プロセッサ213は、決定した制御位置までサーボモータ113を駆動し、ゲート111の開度を調整する。すなわち、プロセッサ213の指令を受けたサーボモータ113は、ゲート111の開度を上げる方向にシリンダ112を前記単位時間あたりの変更量に応じて段階的に移動させる。
【0059】
ステップS140において、プロセッサ213は、インペラのモータの電流値が電流上限値CL2以上かどうかを判定する。モータ121の負荷電流値が電流上限値CL2以上である場合、プロセッサ213は、ステップS141を実行する。それ以外の場合、プロセッサ213は、ステップS145を実行する。
【0060】
ステップS141において、プロセッサ213は、警報装置310を通じて警報を発する。モータ121の負荷電流値が電流上限値CL2以上である場合、投射装置100に過剰な負荷がかかっている可能性が高いためである。
【0061】
ステップS145において、プロセッサ213は、モータ121の負荷電流値が補正電流上限値CC2より小さくなるようにサーボモータ113の制御位置を決定する。当該決定は、ステップS135と同様であり、プロセッサ213は、モータ121の負荷電流値と補正電流上限値CC2の差またはモータ121の負荷電流値と目標電流値CTの差からサーボモータ113の制御目標値を決定してもよい。
【0062】
ステップS146において、プロセッサ213は、算出した単位時間あたりの変更量にしたがってサーボモータ113を駆動し、ゲート111の開度を調整する。すなわち、プロセッサ213の指令を受けたサーボモータ113は、ゲート111の開度を下げる方向にシリンダ112を前記単位時間あたりの変更量に応じて段階的に移動させる。
【0063】
図4は、投射装置100が投射を行っている間、プロセッサ213がゲート111の開度制御を行う場合の、投射開始以降のインペラ120のモータ121に係る電流値の時系列推移グラフである。時点t1にてモータ121の負荷電流値が補正電流上限値CC2を超えているが、プロセッサ213が上述の制御を行ったため、モータ121の負荷電流値は補正電流上限値CC2より小さくなっている。また、時点t2にてモータ121の負荷電流値が補正電流下限値CC1を下回っているが、プロセッサ213が上述の制御を行ったため、モータ121の負荷電流値は補正電流下限値CC1より大きくなっている。これにより、全体として、モータ121の負荷電流値は目標電流値CTに近い水準で推移しており、投射品質を保ちながらも過剰な投射を行わない理想的な状態となっている。
【0064】
また、前記構成によれば、製造工程において発生する二酸化炭素の排出量を低減できる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」等の達成にも貢献するものである。
【0065】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0066】
プロセッサ213は、上記電流下限値CL1または電流上限値CL2、補正電流下限値CC1、補正電流上限値CC2のいずれか又はその組み合わせを、記憶部212に、複数のパターンとして記憶させることができる。当該記憶は、投射装置100が運転を開始する前に行われてもよく、投射装置100が運転している間に、プロセッサ213が自動で、またはユーザの操作を受け付けて行ってもよい。プロセッサ213は、投射装置100が運転を開始する前または投射装置100が運転している間に、図3のステップS120、ステップS130、ステップ140の判定に使用する電流下限値CL1、電流上限値CL2、補正電流下限値CC1、補正電流上限値CC2について、記憶部212に記憶された当該複数のパターンから読み出してもよい。
【0067】
これにより、同じ投射装置100で複数種の投射対象物500に対して適切な投射をすることが可能になり、より効率的な投射処理が可能になる。たとえば、投射対象物500が鋳物の場合と、鋼線の場合とでは、求められる投射品質が違うため、上記電流下限値CL1が異なるが、上記構成によれば、1つのショットブラスト装置1にて両種とも適切な品質を保って投射することができる。
【0068】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0069】
プロセッサ213は、ゲート111の開度を、時系列データとして記憶部212に記憶させてもよい。当該データは、記憶部212が別途記憶するモータ121の負荷電流値の時系列データと照合することによって、プロセッサ213が行った制御の記録データとなる。
【0070】
この構成によれば、ゲート111開度の変更によるモータ121の負荷電流値制御を通じた投射対象物500の品質制御の記録を残し、追跡可能にできる。また、これらの記録を、例えばビッグデータとして収集・分析することにより、より効率的な投射設定が可能になる。
【0071】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ショットブラスト装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特にプロセッサに含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0072】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0073】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0074】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0075】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0076】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 ショットブラスト装置
100 投射装置
110 ディストリビュータ
111 ゲート
112 シリンダ
113 サーボモータ
120 インペラ
121 モータ
122 変流器
200 PLC
212 記憶部
213 プロセッサ
300 出入力装置
310 警報装置
400 投射材
500 投射対象物
CC1 補正電流下限値
CC2 補正電流上限値
CL1 電流下限値
CL2 電流上限値
図1
図2
図3
図4