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  • 特開-掘削用フッ素ゴムシール部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009588
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】掘削用フッ素ゴムシール部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20240116BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240116BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240116BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20240116BHJP
   E21B 17/04 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
C08K5/14
F16J15/10 Y
E21B17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111235
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】横幕 恭子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 剛
【テーマコード(参考)】
2D129
3J040
4J002
【Fターム(参考)】
2D129AB01
2D129EA21
2D129EC03
2D129EC27
3J040BA01
3J040EA16
3J040EA19
3J040FA06
3J040FA11
3J040HA15
4J002BD14W
4J002BD14X
4J002BD15W
4J002BD15X
4J002BD16X
4J002DA037
4J002EK036
4J002FD017
4J002FD020
4J002FD070
4J002FD146
4J002FD150
4J002FD200
4J002GJ02
4J002GL00
4J002GM00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】 塩基性水溶液である掘削泥水に対する耐性に優れると同時に、海底などの低温環境下においても破損しにくく信頼性に優れた掘削用フッ素ゴムシール部材を提供する。
【解決手段】 掘削用フッ素ゴムシール部材であって、前記フッ素ゴムシール部材は、フッ素ゴム、有機過酸化物、及びカーボンブラックを含むゴム組成物を加硫成形したものであり、
前記フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(メトキシメチルビニルエーテル)系フッ素ゴムであるフッ素ゴム(A)と、
フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)系フッ素ゴム、及び、フッ化ビニリデン/HFO-1234yf系フッ素ゴムからなる群より選択される1種以上であるフッ素ゴム(B)と、を含み、さらに、
前記フッ素ゴム(A)及び前記フッ素ゴム(B)のいずれもが30重量部超70重量部未満で、かつ前記フッ素ゴム(A)と前記フッ素ゴム(B)との合計が100重量部である、掘削用フッ素ゴムシール部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削用フッ素ゴムシール部材であって、前記フッ素ゴムシール部材は、フッ素ゴム、有機過酸化物、及びカーボンブラックを含むゴム組成物を加硫成形したものであり、
前記フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(メトキシメチルビニルエーテル)系フッ素ゴムであるフッ素ゴム(A)と、
フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)系フッ素ゴム、及び、フッ化ビニリデン/HFO-1234yf系フッ素ゴムからなる群より選択される1種以上であるフッ素ゴム(B)と、を含み、さらに、
前記フッ素ゴム(A)及び前記フッ素ゴム(B)のいずれもが30重量部超70重量部未満で、かつ前記フッ素ゴム(A)と前記フッ素ゴム(B)との合計が100重量部である、掘削用フッ素ゴムシール部材。
【請求項2】
前記掘削用シール部材は、PH9.5~10.5の塩基性水溶液に浸漬して用い、
前記塩基性水溶液は、水系掘削泥水または/および油系掘削泥水であり、前記水系掘削泥水は塩化カリウム水溶液を主成分とし、前記油系掘削泥水はパラフィンオイルあるいはミネラルオイルと塩化カルシウム水溶液との混合物を主成分とし、当該塩基性水溶液中に、温度225±2℃の環境温度で前記掘削用フッ素ゴムシール部材を288時間浸漬後において前記掘削用フッ素ゴムシール部材に亀裂が生じない、
請求項1に記載の掘削用フッ素ゴムシール部材。
【請求項3】
前記掘削用シール部材のJIS K6253準拠のゴム硬さが81以上、JIS K6261準拠のTR10が-15℃以下である請求項1または請求項2に記載の掘削用フッ素ゴムシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削用フッ素ゴムシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の石油需要の増大により、石油や天然ガスなどの資源エネルギー採掘では、地上のより深い地層を探査・掘削することが必要になっている。より広範な土地に資源を求めて、寒冷地や海底にある地層を探査・掘削する需要もある。例えば海上掘削の場合には、水温が0~5℃の海底で操業するため、適用される部品には従来よりも耐寒性が求められる。海上掘削は、図1に示すように、海2に浮かぶプラットフォーム1から海底3に設けられた縦および横穴で構成される坑井4の中にドリルパイプやドリルカラーなどから構成される地中掘削装置5を下ろして掘削を行う。
【0003】
図2は、図1の地中切削装置5を構成する掘削・探査機器モジュールの要部を示しており、ドリルパイプ継手部分では、上部ドリルパイプ6にシール部材(О-リング)8をはめ込み、下部ドリルパイプ7を上部ドリルパイプ6に連結させる時にシール部材(О-リング)8を押しつぶし組み付けられる。そして、掘削切削時には、地中掘削装置5の先端に位置するビットと呼ばれる硬質のドリルから塩基性の掘削泥水を噴射することで、坑壁とビットとの摩擦の低減や機器の冷却、坑井の崩壊を防止しているが、掘削中の坑井4内は塩基性掘削泥水が滞留しているため、使用されるシール部材(O-リング)には、塩基性掘削泥水に対する耐性が求められている。
【0004】
特に、掘削・探査機器モジュールに用いられるシール部材は、シール性の良さからゴム部材が多く採用されており、主に耐熱性の高いフッ素系ゴム部材が用いられている。
【0005】
特許文献1には、フッ素含有量64~69重量%であり、過酸化物架橋により架橋されるフッ素共重合体が開示されている。フッ素共重合体は、フッ化ビニリデン(VdF)が30~70モル%、テトラフルオロエチレン(TFE)が10~30モル%、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(FMVE)が10~20モル%、パーフルオロ(メトキシメチルビニルエーテル)(FMMVE)が5~30モル%、臭素化合物およびヨウ素化不飽和フルオロ炭化水素からなり、このフッ素共重合体を用いることで、自動車用燃料として軽油(ディーゼル燃料)を用いた場合でも、高/低温負荷シール性に優れ、-40℃以下でのシール性も良好のため、自動車用燃料タンクのシール部材として好適なフッ素ゴムシール部材が示されている。
【0006】
特許文献2には、[フッ化ビニリデン(VdF)]/[ヘキサフルオロプロピレン(HFP]/[テトラフルオロエチレン(TFE)]/エチレン(E)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(FAVE)からなる五元フッ素ゴム共重合体100重量部当り、平均粒子径が6μm以上の珪藻土、ウォラストナイト、タルク、グラファイト、マイカ及び炭素繊維の少なくとも一種を3~60重量部含有したフッ素ゴム組成物を加硫成形されたシール部材が開示され、このシール部材が、耐熱性、耐摩耗性などの耐久性に優れるとともに、耐潤滑油性(潤滑油の塩基性添加剤への耐性)、シール性を満足することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-256418号公報
【特許文献2】特開2016-14092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のフッ素ゴム共重合体は、塩基性溶液中では、脱フッ酸反応が促進されポリマーの化学構造が変化するため、塩基性溶液に対しては十分な耐性を有しておらず、石油掘削で使用される掘削泥水などといった塩基性溶液へ接触する部品に適用することは困難である。
また、特許文献2には、耐潤滑油性、特に潤滑油に含まれる塩基性添加剤に対して耐性を持つ五元フッ素ゴム共重合体からなるフッ素ゴム部材であることが示されているが、五元フッ素ゴム共重合体は耐寒性が悪く、例えば寒冷地や海底などの低温環境で用いることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、以下を包含する。
[1]掘削用フッ素ゴムシール部材であって、前記フッ素ゴムシール部材は、フッ素ゴム、有機過酸化物、及びカーボンブラックを含むゴム組成物を加硫成形したものであり、
前記フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(メトキシメチルビニルエーテル)系フッ素ゴムであるフッ素ゴム(A)と、
フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)系フッ素ゴム、及び、フッ化ビニリデン/HFO-1234yf系フッ素ゴムからなる群より選択される1種以上であるフッ素ゴム(B)と、を含み、さらに、
前記フッ素ゴム(A)及び前記フッ素ゴム(B)のいずれもが30重量部超70重量部未満で、かつ前記フッ素ゴム(A)と前記フッ素ゴム(B)との合計が100重量部である、掘削用フッ素ゴムシール部材。
[2]前記掘削用シール部材は、PH9.5~10.5の塩基性水溶液に浸漬して用い、
前記塩基性水溶液は、水系掘削泥水または/および油系掘削泥水であり、前記水系掘削泥水は塩化カリウム水溶液を主成分とし、前記油系掘削泥水はパラフィンオイルあるいはミネラルオイルと塩化カルシウム水溶液との混合物を主成分とし、当該塩基性水溶液中に、温度225±2℃の環境温度で前記掘削用フッ素ゴムシール部材を288時間浸漬後において前記掘削用フッ素ゴムシール部材に亀裂が生じない、
[1]に記載の掘削用フッ素ゴムシール部材。
[3]前記掘削用シール部材のJIS K6253準拠のゴム硬さが81以上、JIS K6261準拠のTR10が-15℃以下である[1]又は[2]に記載の掘削用フッ素ゴムシール部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩基性水溶液である掘削泥水に対する耐性に優れると同時に、海底などの低温環境下においても破損しにくく、信頼性に優れた掘削用フッ素ゴムシール部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】海上掘削装置の使用状態を説明する模式図である。
図2】[図1]の地中切削装置の要部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ゴム組成物>
本発明に係わるフッ素ゴムシール部材は、必須成分としてフッ素ゴム、有機過酸化物、及びカーボンブラックを含むフッ素ゴム組成物を加硫成形したものである。以下、フッ素ゴム組成物を構成する各材料について詳細に説明する。
【0013】
≪フッ素ゴム≫
本発明に関わるフッ素ゴムは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(メトキシメチルビニルエーテル)系フッ素ゴムであるフッ素ゴム(A)と、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)系フッ素ゴム、及び、フッ化ビニリデン/HFO-1234yf系フッ素ゴムからなる群より選択される1種以上であるフッ素ゴム(B)とを含む。
【0014】
フッ素ゴム(A)は、ガラス転移温度が約-40℃程度であるため、低温度下でもゴムの柔軟性を維持する効果を発揮することができる。
【0015】
また、フッ素ゴム(B)は、耐塩基性を有するため、従来品に比べて耐塩基性を向上せしめ、劣化を著しく抑制することができる。この理由は、フッ素ゴム(B)が、塩基によるポリマー主鎖への攻撃の保護ポリマーとして働くモノマー群、特にエチレン、又はHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)が導入されている点に特徴を有するからであると考えられる。
【0016】
フッ素ゴム(A)の市販品としては、VPL85540(ソルベイ製)が挙げられる。
【0017】
フッ素ゴム(B)は、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)系フッ素ゴム(以下「フッ素ゴム(B1)」ともいう。)、及び、フッ化ビニリデン/HFO-1234yf系フッ素ゴム(以下「フッ素ゴム(B2)」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0018】
フッ素ゴム(B1)の市販品としては、BR9171(ソルベイ製)、フッ素ゴム(B2)の市販品としては、GBR-6002、GBRX-6052(ダイキン工業株式会社製)等が挙げられる。
【0019】
フッ素ゴム(A)及びフッ素ゴム(B)は、それぞれ、1種又は2種類以上を併用して用いてもよい。
【0020】
≪有機過酸化物≫
有機過酸化物は、架橋剤として用いられる成分である。有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシカーボネート類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類等が挙げられ、ジアルキルパーオキサイド類が好ましい。
【0021】
有機過酸化物は、ジアルキルパーオキサイド類であることが好ましい。ジアルキルパーオキサイド類を用いることで、架橋効率を高めることができ、ゴムの混練時や加工時の熱安定性も高くなりやすい。
【0022】
有機過酸化物の市販品としては、パーヘキサ25B(日油株式会社製)、パークミルD(日油株式会社製)等が挙げられ、1種又は2種類以上を併用して用いてもよい。
【0023】
≪カーボンブラック≫
カーボンブラックには様々な種類があり、用途によって適切なものが選択されて用いられている。カーボンブラックの種類は、ASTMコード(一般呼称)では、比表面積の大きい順に、N100(SAFグレード)、N200(ISAFグレード)、N300(HAFグレード)、N500(FEFグレード)、N700(SRFグレード)、N900(MTグレード)である。
【0024】
カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が好ましくは5m/g以上120m/g以下であり、ジブチルフタレート吸着量が好ましくは25mL/100g以上200mL/100g未満である。
【0025】
カーボンブラックの市販品としては、MTカーボンブラック(キャンカーブ社製THERMAX N990、窒素吸着比表面積10m/g、ジブチルフタレート吸着量36mL/100g。)、HAF-HSカーボンブラック(東海カーボン社製シースト3H、窒素吸着比表面積82m/g、ジブチルフタレート吸着量126mL/100g。)、HAFカーボンブラック(旭カーボン社製旭#71、窒素吸着比表面積77m/g、ジブチルフタレート吸着量100mL/100g。)等が挙げられ、1種又は2種類以上を併用して用いてもよい。
【0026】
≪その他添加剤≫
ゴム組成物には、目的に応じて、共架橋剤、加工助剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤等を更に配合することができる。
【0027】
≪共架橋剤≫
共架橋剤は、ゴムの架橋効率を向上させる成分である。共架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタクリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェンレンビスマレイミドなどのビスマレイミド類等が挙げられる。フッ素ゴムシール部材の物性が優れる点から、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0028】
≪加工助剤≫
加工助剤としては、高級脂肪酸、脂肪酸エステル類、脂肪酸アミン類、脂肪酸アミド類、天然ワックス類、カルナバワックスが挙げられる。
【0029】
≪充填剤≫
充填剤は、カーボンブラック以外の充填剤(受酸剤として機能する成分を含まない)であり、シリカ、炭酸カルシウム、微粉タルク、微粉ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0030】
前記した以外のその他添加剤は、公知の成分を用いることができる。
その他添加剤は、それぞれ、1種又は2種類以上を併用して用いてもよい。
【0031】
≪各成分の含有量≫
ゴム組成物において、各成分の含有量は特に限定されないが、好ましい含有量は以下の通りである。
フッ素ゴム(A)とフッ素ゴム(B)の合計100重量部に対して、フッ素ゴム(A)の含有量は、30重量部超70重量部未満であり、より好ましくは45重量部~65重量部であり、フッ素ゴム(B)の含有量は、30重量部超70重量部未満であり、より好ましくは35重量部~55重量部である。更に好ましくは、フッ素ゴム(A)の含有量は、45重量部~55重量部であり、フッ素ゴム(B)の含有量は、45重量部~55重量部である。
フッ素ゴム(A)とフッ素ゴム(B)の合計100重量部に対して、フッ素ゴム(A)の含有量が30重量部超である場合は、耐寒性が向上し、低温環境下でゴムの硬化が起こり難く、ゴム弾性が損なわれず、ゴム部材のシール性などが向上する。フッ素ゴム(A)とフッ素ゴム(B)の合計100重量部に対して、フッ素ゴム(A)の含有量が70重量部未満である場合は、耐塩基性が向上し、掘削泥水に接触したときであってもゴム部材に亀裂が発生せず、部材が早期破壊する可能性が低い。
有機過酸化物の含有量は、ゴム組成物中のフッ素ゴムの合計100重量部に対して、好ましくは1重量部以上10重量部以下であり、より好ましくは2重量部以上4重量部以下である。
共架橋剤の含有量は、ゴム組成物中のフッ素ゴムの合計100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部であり、より好ましくは0.3~5重量部である。
前記した以外のその他添加剤の含有量は、任意である。
【0032】
<ゴム組成物の調製方法>
ゴム組成物は、公知のゴム組成物の調製方法を用いて、上記成分を配合することによって調製することができる。例えば、バンバリーミキサー、単軸あるいは2軸の押出機、ニーダー、インターミックスなどのインターナルミキサーなど公知の混合機を用いて、軟化剤、補強剤、老化防止剤等とフッ素ゴムとを調製する。ゴム組成物を得る方法としては上記以外に、単軸あるいは2軸の押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなど公知の混合機に供給して混練する方法もある。
【0033】
<フッ素ゴムシール部材>
ゴム組成物は、押出成形機、圧縮成形機、射出成形機、トランスファ成形機などによって所望のフッ素ゴムシール部材に加硫成形することができる。成形条件は、例えば150~220℃、1~30分である。また、二次加硫の条件は、200℃~250℃、4時間~24時間である。
【実施例0034】
以下に実施例、比較例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
フッ素ゴム(A)(フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/パーフルオロ(メトキシメチルビニルエーテル)系フッ素ゴム、テクノフロンVPL85540、ソルベイ製。フッ素含有量:65重量%、TR10:-40℃)65.0重量部、フッ素ゴム(B1)(エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン/パーフルオロメチルビニルエーテル系フッ素ゴム、テクノフロンBR9171、ソルベイ製。フッ素含有量:66.3重量%、TR10:-9℃)35.0重量部、N300グレードのカーボンブラック(シースト3H、東海カーボン製)24.0重量部、加工助剤(オレイン酸アマイド(ライオンスペシャリティケミカルズ製))0.5重量部、共架橋剤(トリアリルイソシアヌレート(TAIC、日本化成製))5.0重量部、及び有機過酸化物(パーヘキサ25B-40(日油製))3.0重量部を用いて、以下の「(1)ゴム組成物の製造方法」に従ってゴム組成物を製造した。
【0036】
[実施例2]
実施例1において、フッ素ゴム(A)の量を55.0重量部とし、フッ素ゴム(B1)の量を45.0重量部とした以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0037】
[実施例3]
実施例1において、フッ素ゴム(A)の量を45.0重量部とし、フッ素ゴム(B1)の量を55.0重量部とした以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0038】
[実施例4]
実施例1において、フッ素ゴム(A)の量を60.0重量部とし、フッ素ゴム(B1)(エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム、テクノフロンBR9171、ソルベイ製)の代わりに、フッ素ゴム(B2)(フッ化ビニリデン/HFO-1234yf系フッ素ゴム、GBRX-6052、ダイキン工業株式会社製。フッ素含有量:62重量%、TR10:―12℃)を40.0重量部用い、共架橋剤の量を4.3重量部とし、有機過酸化物の量を2.8重量部とした以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0039】
[実施例5]
実施例4において、フッ素ゴム(A)の量を55.0重量部とし、フッ素ゴム(B2)の量を45.0重量部とした以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0040】
[比較例1]
実施例1において、フッ素ゴム(A)の量を70.0重量部とし、フッ素ゴム(B1)の量を30.0重量部とした以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0041】
[比較例2]
実施例1において、フッ素ゴム(A)の量を30.0重量部とし、フッ素ゴム(B1)の量を70.0重量部とし、共架橋剤の量を3.6重量部とし、有機過酸化物の量を2.3重量部とした以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0042】
[比較例3]
実施例1において、フッ素ゴム(A)の65.0重量部及びフッ素ゴム(B1)の35.0重量部の代わりに、フッ素ゴム(A)を100.0重量部用いた以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0043】
[比較例4]
実施例1において、フッ素ゴム(A)の65.0重量部及びフッ素ゴム(B1)の35.0重量部の代わりに、フッ素ゴム(B1)を100.0重量部用いた以外は同様の手順で、ゴム組成物を製造した。
【0044】
2.製造条件及び測定条件
(1)ゴム組成物の製造方法
実施例及び比較例のゴム組成物は、以下の方法にて作製した。2軸ロール間隙を4mmに調節した6インチロールに、表1に示すフッ素ゴムの合計100.0重量部を巻き付けて、表1に示す重量のカーボンブラック、添加剤、共架橋剤、過酸化物を練り込み、切り返しを左右各5回ずつ行った後、薄どおしを5回行った。最後に4mm厚のシート状に成形した。
【0045】
(2)試験片作成条件
上記「(1)ゴム組成物の製造方法」で得られたゴム組成物を、プレス成形機により、170℃、10分で架橋させ、ギアオーブンで230℃、6時間で二次加硫を行い、残存する過酸化物を不活化させることで2mm厚のシート状テストピースを得た。得られたテストピースを用いて、後述する「(4)常態物性」及び「(5)低温性」の試験を行った。
【0046】
(3)ゴム部材(O-リング)作製条件
上記「(1)ゴム組成物の製造方法」で得られたゴム組成物を、プレス成形機により、170℃、10分で架橋させ、ギアオーブンで230℃、6時間で二次加硫を行い、残存する過酸化物を不活化させることでAS568-223(AS568規格-呼び番号223)のゴム部材(O-リング)部材を得た。得られたゴム部材(O-リング)部材を用いて、後述する「(6)掘削泥水浸漬試験」の試験を行った。
【0047】
(4)常態物性
ゴム組成物の硬さは、JIS K6253に基づき、デュロメーター硬さタイプAにより測定した。ゴム組成物の引張強さ、伸び値は、JIS K6251に基づき、オートグラフ(島津製作所製)を用いて室温(23±1℃)で測定した。試験片は、JIS K 6251に基づき、ダンベル5号形を使用した。
【0048】
(5)低温性
ゴム組成物の低温性は、JIS K6261に基づき、低温弾性回復試験(TR試験;TR10)を自動低温TR試験機(東洋精機製作所製)により測定した。低温TR試験におけるTR10の値(℃)を測定した。
【0049】
(6)掘削泥水浸漬試験
掘削泥水として、水系掘削泥水(Water based Mud;WBM)及び油系掘削泥水(Oil based Mud;OBM)を用いた。水系掘削泥水及び油系掘削泥水は、いずれもpH調整剤(水酸化ナトリウム)が加えられており、pH9.5~10.5の塩基性である。水系掘削泥水は塩化カリウム水溶液を主成分として、増粘剤(クレーやポリマーなど)、分散剤(アミン酸ナトリウム塩など)等を含んだ懸濁液である。また、油系掘削泥水はベースオイル(パラフィンオイルやミネラルオイル)と塩化カルシウム水溶液の混合物を主成分として、乳化剤(アミン系脂肪酸など)、増粘剤、乳化安定剤(親油性リグナイトなど)等を含んだ懸濁液である。
掘削泥水にゴム部材(O-リング)を浸漬し、試験温度(225±2℃)に設定したギアオーブン内に静置した。浸漬開始から168時間又は288時間経過後のゴム部材(O-リング)を取り出して、外観を観察した。ゴム劣化による傷や亀裂、破壊がないものを「◎」、ゴム表面が若干荒れているが亀裂はなく、O-リングの機能上問題ない程度の劣化を「〇」、亀裂の発生や破壊がみられ、ゴム劣化が著しいものを「×」と判定した。
【0050】
結果を、表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例のゴム部材は、ゴム硬さ(DuroA)が81以上であり、かつ、TR10が-15℃以下であり、掘削泥水浸漬試験において、288時間後のゴム部材は劣化しておらず、ゴム弾性を保っていた。即ち、実施例のフッ素ゴムシール部材は、フッ素ゴムの耐塩基性を損なうことなく、かつ低温環境下においてもゴムの柔軟性を維持していた。
【0053】
比較例1のゴム部材は、TR10が-28℃であり耐寒性は良いが、掘削泥水浸漬試験において、288時間後のゴム部材は破損及び硬化しており、塩基性溶液に接する部材としては適切でなかった。
比較例2のゴム部材は、288時間後のゴム部材は劣化しておらずゴム弾性を保っているが、TR10が-13℃であり耐寒性は不十分であった。
比較例3のゴム部材は、TR10が-40℃であり耐寒性は良いが、掘削泥水浸漬試験において、168時間後で既にゴム部材は破損及び硬化しており、塩基性溶液に接する部材としては適切でなかった。
比較例4のゴム部材は、288時間後のゴム部材は劣化しておらずゴム弾性を保っているが、TR10が-9℃であり耐寒性は不十分であった。
【0054】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、例えば掘削装置内のパッカーシール、ブーツ等のシール部材にも適用であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、塩基性水溶液である掘削泥水に対する耐性に優れると同時に、海底などの低温環境下においても破損しにくく、信頼性に優れた掘削用フッ素ゴムシール部材を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1:プラットフォーム
2:海
3:海底
4:坑井
5:地中掘削装置
6:上部ドリルパイプ
7:下部ドリルパイプ
8:シール部材(О-リング)
図1
図2