(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000959
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】鋳片の製造方法、2次冷却装置及び連続鋳造機
(51)【国際特許分類】
B22D 11/124 20060101AFI20231226BHJP
B22D 11/22 20060101ALI20231226BHJP
B22D 11/16 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B22D11/124 K
B22D11/22 B
B22D11/16 104P
B22D11/124 N
B22D11/124 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034509
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022099386
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】杉原 広和
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 顕一
(72)【発明者】
【氏名】上岡 悟史
(72)【発明者】
【氏名】入江 脩平
(72)【発明者】
【氏名】國府 翔
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004KA07
4E004KA14
4E004MC02
4E004MC03
(57)【要約】
【課題】分割型鋳片支持ロールを用いた場合であって鋳片の幅方向における品質差の発生を抑制できる鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造機で鋳造される鋳片を、少なくとも水平帯を有する2次冷却帯において2次冷却して鋳片を製造する鋳片の製造方法であって、水平帯では、前記鋳片を鋳片幅方向で2以上に分割された分割型鋳片支持ロールで支持しながら鋳片の表面における冷却液の沸騰状態を核沸騰にして冷却し、気体噴射ノズルから気体を噴射して、水平帯の冷却液が前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部から漏洩することを抑制する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機で鋳造される鋳片を、少なくとも水平帯を有する2次冷却帯において2次冷却して鋳片を製造する鋳片の製造方法であって、
前記水平帯では、鋳片幅方向で2以上に分割された分割型鋳片支持ロールで前記鋳片を支持しながら前記鋳片の表面における冷却液の沸騰状態を核沸騰にして冷却し、
気体噴射ノズルから気体を噴射して、前記水平帯の冷却液が前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部から漏洩することを抑制する、鋳片の製造方法。
【請求項2】
前記気体噴射ノズルは、前記水平帯の鋳造方向に対して上流側端部及び下流側端部の少なくとも一方に設置され、
前記上流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して下流側の鋳片表面に向けて気体を噴射し、
前記下流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して上流側の鋳片表面に向けて気体を噴射する、請求項1に記載の鋳片の製造方法。
【請求項3】
湯気の発生量に基づいて前記気体噴射ノズルからの気体の噴射流量を制御する、請求項1に記載の鋳片の製造方法。
【請求項4】
湯気の発生量が予め定められた湯気の発生量の閾値よりも多い場合に前記気体の噴射流量を増加させる、請求項1に記載の鋳片の製造方法。
【請求項5】
前記水平帯における前記鋳片の2次冷却は、鋳造方向に対して上流側の前段冷却工程と、鋳造方向に対して下流側の後段冷却工程とを含み、
前記前段冷却工程における冷却液の流量密度は300L/(m2・min)以上4000L/(m2・min)以下であり、前記後段冷却工程における冷却液の流量密度は100L/(m2・min)以上1000L/(m2・min)以下であり、前記気体の噴射流量は、ロールチョック部1か所あたり200NL/min以上3000NL/min以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鋳片の製造方法。
【請求項6】
鋳片を、少なくとも水平帯を有する2次冷却帯において2次冷却する2次冷却装置であって、
前記水平帯には鋳片幅方向で2以上に分割された分割型鋳片支持ロールと、前記鋳片の表面に冷却液を噴射する冷却スプレーと、前記鋳片の表面に気体を噴射する気体噴射ノズルとが設けられ、
前記気体噴射ノズルは、前記水平帯の鋳造方向に対して上流側端部及び下流側端部の少なくとも一方に設置され、
前記上流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して下流側の鋳片表面に向けて気体を噴射し、
前記下流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して上流側の鋳片表面に向けて気体を噴射する、2次冷却装置。
【請求項7】
前記水平帯は前段冷却部と後段冷却部とを有し、
前記前段冷却部において前記冷却スプレーから噴射される冷却液の流量密度は300L/(m2・min)以上4000L/(m2・min)以下であり、
前記後段冷却部において前記冷却スプレーから噴射される冷却液の流量密度は100L/(m2・min)以上1000L/(m2・min)以下であり、
前記気体の噴射流量は、ロールチョック部1か所あたり200NL/min以上3000NL/min以下である、請求項6に記載の2次冷却装置。
【請求項8】
溶鋼が注入され、前記溶鋼を冷却する鋳型と、
請求項6又は請求項7に記載の2次冷却装置と、
を有する、連続鋳造機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片を製造する鋳片の製造方法、2次冷却装置及び連続鋳造機に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳型内に注入された溶鋼は鋳型によって冷却されて、鋳型との接触面に凝固シェルを形成する。この凝固シェルを外殻とし、内部に未凝固溶鋼を有する鋳片は、鋳型下方に設けられた2次冷却帯において、冷却液によって冷却されながら鋳型下方に連続的に引抜かれ、やがて中心部までの凝固が完了する。中心部まで凝固が完了した鋳片を所定の長さに切断し、圧延用素材である鋳片が製造される。
【0003】
一般的に、2次冷却において、鋳片は膜沸騰状態で冷却される。膜沸騰とは、沸騰形態の一種であり、被冷却材の表面温度が高温で、冷却液が低圧・小流量の場合に生じやすく、冷却液と被冷却材の間に蒸気の層が生じ、それが断熱層となり、被冷却材の冷却速度が比較的遅い沸騰である。膜沸騰は、被冷却材を安定して冷却できるが、上述のとおり、被冷却材の冷却速度が遅いので、生産性が低いという課題がある。
【0004】
連続鋳造では鋳片の品質とともに生産性の向上が望まれており、そのための1つの方策として、冷却液と鋳片表面との熱伝達係数、すなわちスプレー冷却時の熱伝達係数を大きくすることが考えられる。そこで、特許文献1に開示されているように、冷却液を高圧で鋳片表面に吹き付ければ、単位時間当たりに鋳片表面に接触する冷却液量が増えて熱伝達係数が大きくなり、生産性も向上すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、冷却液圧が高いことから、鋳片幅方向で2以上に分割された分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の鋳片との隙間から、噴射エリア外に冷却液が漏洩する。冷却液が漏洩すると、その漏洩液により鋳片が冷却されるため、冷却液が漏洩するロールチョックがある領域とない領域での温度差が発生し、鋳片の幅方向に品質差が生じるという課題があった。本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、分割型鋳片支持ロールを用いた場合であって鋳片の幅方向における品質差の発生を抑制できる鋳片の製造方法、2次冷却装置及び連続鋳造機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]連続鋳造機で鋳造される鋳片を、少なくとも水平帯を有する2次冷却帯において2次冷却して鋳片を製造する鋳片の製造方法であって、前記水平帯では、鋳片幅方向で2以上に分割された分割型鋳片支持ロールで前記鋳片を支持しながら前記鋳片の表面における冷却液の沸騰状態を核沸騰にして冷却し、気体噴射ノズルから気体を噴射して、前記水平帯の冷却液が前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部から漏洩することを抑制する、鋳片の製造方法。
[2]前記気体噴射ノズルは、前記水平帯の鋳造方向に対して上流側端部及び下流側端部の少なくとも一方に設置され、前記上流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して下流側の鋳片表面に向けて気体を噴射し、前記下流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して上流側の鋳片表面に向けて気体を噴射する、[1]に記載の鋳片の製造方法。
[3]湯気の発生量に基づいて前記気体噴射ノズルからの気体の噴射流量を制御する、[1]に記載の鋳片の製造方法。
[4]湯気の発生量が予め定められた湯気の発生量の閾値よりも多い場合に前記気体の噴射流量を増加させる、[1]に記載の鋳片の製造方法。
[5]前記水平帯における前記鋳片の2次冷却は、鋳造方向に対して上流側の前段冷却工程と、鋳造方向に対して下流側の後段冷却工程とを含み、前記前段冷却工程における冷却液の流量密度は300L/(m2・min)以上4000L/(m2・min)以下であり、前記後段冷却工程における冷却液の流量密度は100L/(m2・min)以上1000L/(m2・min)以下であり、前記気体の噴射流量は、ロールチョック部1か所あたり200NL/min以上3000NL/min以下である、[1]から[4]のいずれか1つに記載の鋳片の製造方法。
[6]鋳片を、少なくとも水平帯を有する2次冷却帯において2次冷却する2次冷却装置であって、前記水平帯には鋳片幅方向で2以上に分割された分割型鋳片支持ロールと、前記鋳片の表面に冷却液を噴射する冷却スプレーと、前記鋳片の表面に気体を噴射する気体噴射ノズルとが設けられ、前記気体噴射ノズルは、前記水平帯の鋳造方向に対して上流側端部及び下流側端部の少なくとも一方に設置され、前記上流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して下流側の鋳片表面に向けて気体を噴射し、前記下流側端部の気体噴射ノズルは、前記分割型鋳片支持ロールのロールチョック部の位置であって鋳造方向に対して上流側の鋳片表面に向けて気体を噴射する、2次冷却装置。
[7]前記水平帯は前段冷却部と後段冷却部とを有し、前記前段冷却部において前記冷却スプレーから噴射される冷却液の流量密度は300L/(m2・min)以上4000L/(m2・min)以下であり、前記後段冷却部において前記冷却スプレーから噴射される冷却液の流量密度は100L/(m2・min)以上1000L/(m2・min)以下であり、前記気体の噴射流量は、ロールチョック部1か所あたり200NL/min以上3000NL/min以下である、[6]に記載の2次冷却装置。
[8]溶鋼が注入され、前記溶鋼を冷却する鋳型と、[6]又は[7]に記載の2次冷却装置と、を有する、連続鋳造機。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鋳片の製造方法では、気体噴射ノズルから気体を噴射して、分割型鋳片支持ロールのロールチョック部からの水平帯の冷却液の漏洩を抑制するので、鋳片の幅方向の温度差を小さくできる。これにより、鋳片の幅方向における品質差の発生を抑制しながら当該鋳片を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る鋳片の製造方法が実施できる連続鋳造機の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、スプレーノズルから噴射される冷却液の状態を説明する説明図である。
【
図3】
図3は、
図2とは異なる配置のスプレーノズルから噴射される冷却液の状態を説明する説明図である。
【
図4】
図4は、冷却液の流量、鋳片の表面温度及び冷却能力の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、冷却スプレーから噴射される冷却液の水量密度と、漏洩する冷却液の流量との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例で用いた気体噴射ノズルの配置を示す模式図である。
【
図8】
図8は、実施例で用いた気体噴射ノズルの別の配置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を本発明の実施形態を通じて説明する。
図1は、本実施形態に係る鋳片の製造方法が実施できる連続鋳造機1の一例を示す模式図である。本実施の形態に係る鋳片の製造方法は、連続鋳造機1で鋳造されている鋳片3を、垂直帯5、湾曲帯7、水平帯9を有する2次冷却帯11において2次冷却するものであり、水平帯9における2次冷却は、前段冷却部13での前段冷却工程と後段冷却部15での後段冷却工程とを含む。以下、各構成を詳細に説明する。
【0011】
<連続鋳造機1>
連続鋳造機1では、
図1に示すように、タンディッシュ(不図示)から鋳型17に注入された溶鋼は鋳型17によって冷却されて、鋳型17との接触面に凝固シェルが形成される。この凝固シェルを外殻とし、内部に未凝固溶鋼を有する鋳片3は、ロール19によって支持され、かつロール19間に設けられた冷却スプレー21によって2次冷却されることで中心部まで凝固する。鋳片3を2次冷却する2次冷却帯11は、
図1に示すように、垂直帯5、湾曲帯7、水平帯9に分かれており、本実施形態に係る鋳片の製造方法は、水平帯9において鋳片3を冷却して鋳片を製造する方法に関する。また、この未凝固溶鋼を有する鋳片3を2次冷却するのが2次冷却装置になる。本実施形態に係る鋳片の製造方法を垂直帯5、湾曲帯7、水平帯9を有する垂直曲げ型連続鋳造機を用いて説明するが、垂直曲げ型連続鋳造機に限定されるものではない。少なくとも水平帯9を有する連続鋳造機であれば本実施形態に係る鋳片の製造方法を実施できる。すなわち、湾曲帯7と水平帯8のみを有する湾曲型連続鋳造機及び水平帯9のみを有する水平型連続鋳造機であっても本実施形態に係る鋳片の製造方法を実施できる。
【0012】
<前段冷却工程>
前段冷却工程は、2次冷却帯11の水平帯9における前段冷却部13において、冷却スプレー21によって、前段冷却部13内で鋳片3の表面における冷却液の沸騰状態を核沸騰に維持して冷却を行う工程である。冷却スプレー21とは、冷却液または冷却液と気体との混合体を噴射して鋳片3の表面に散布する装置である。また、冷却液は、例えば、水であり、気体は、例えば、空気である。なお、冷却液は純粋を主成分(50質量%以上)とし、これに微量の添加剤が添加された液体であってもよい。添加剤としては、例えば、濡れ性向上のための界面活性剤など、一般的に知られている添加剤を用いてよく、また、不可逆的に混入する機械油や金属屑等が冷却液中に存在していてもよい。なお、以下の実施形態では、冷却液として水を用いた例で説明する。
【0013】
代表的な添加剤である界面活性剤については、特に限定することなく、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤のいずれも用いることができる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸塩、石鹸を用いることができる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩を用いることができる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることができる。
【0014】
図2は、スプレーノズル23から噴射される冷却液の状態を説明する説明図である。
図2(a)は、正面図であり、
図2(b)は、側面図である。
図2に示すように、冷却スプレー21は、各ロール19間において、鋳片3の幅方向に設けられる複数のスプレーノズル23を有する。スプレーノズル23は、当該ノズルから噴射される冷却液25がスプレーノズル23を中心として扇状となる、いわゆるフラットスプレーノズルである。
【0015】
但し、スプレーノズル23の種類はフラットスプレーノズルに限定されるものではなく、フラットスプレーノズルの類似スプレーとして、オーバルスプレーノズル(楕円スプレー、長円吹きスプレー)を用いてもよく、円錐状に噴射するノズルであるフルコーンスプレーノズル(円錐スプレー、丸吹スプレー)を用いてもよく、フルコーンスプレーを角型にしたスクエアスプレー(角吹スプレー、正方形吹スプレー、長方形吹スプレー)のように四角錐形状に噴射するノズルを用いてもよい。
【0016】
図3は、
図2とは異なる配置のスプレーノズル23から噴射される冷却液25の状態を説明する説明図である。
図3(a)は正面図であり、
図3(b)は側面図である。
図3に示すように、スプレーノズル23として、フラットスプレーノズルやオーバルスプレーノズルを使用する際には、角丸長方形状、または楕円状の冷却面(冷却液25の鋳片3の表面への衝突面)の長軸が、鋳造方向に対して角度θ傾斜するようにノズルを配置して冷却液25を噴射することが好ましい。
【0017】
この理由は以下の通りである。
図2に示すように、各ロール19間においては、複数のスプレーノズル23が鋳片3の幅方向に設けられる。スプレーノズル23がフラットスプレーの場合、スプレーノズル23から噴射されて鋳片3の表面を流れる冷却液25の速度は、冷却液衝突面の長軸方向(以後、スプレーの幅方向と記載する。)に速く、短軸方向(以後、スプレーの厚さ方向と記載する。)は比較的遅い。そのため、鋳片3の表面に衝突後の冷却液25は、比較的緩やかにスプレーの厚さ方向、すなわち鋳造方向に広がる。一方、スプレーの幅方向については、隣り合うスプレーから噴射された冷却液25が各々の端部で、互いに逆方向の速度で衝突し、その後、鋳造方向に向きを変えて広がることになる。この結果、冷却液25は鋳片3の表面に衝突後、比較的遅い速度で、鋳片3の表面上を、鋳造方向に流れる。
【0018】
これに対し、
図3に示すように、冷却面の長軸を鋳造方向に垂直な向きから傾斜させると、隣り合うスプレーから噴射された冷却液25の干渉は、比較的速度が遅いスプレーの厚さ方向で生じ、速度が速いスプレーの幅方向では生じない。したがって、鋳片3の表面上を、速い速度で冷却液25が流れる。本発明者らの研究によれば、鋳片3の表面上を冷却液25が移動する際、冷却液25の速さが速い方が、冷却能力が高くなることがわかっている。以上より、スプレーノズル23を冷却面の長軸を鋳造方向に垂直な向きから傾斜させるよう配置することにより、冷却能力が向上する。
【0019】
本実施形態に係る鋳片の製造方法では、冷却スプレー21による前段冷却工程における冷却液25の単位時間当たりの流量密度を300L/(m2・min)以上4000L/(m2・min)以下として、鋳片3の表面の少なくとも一部または全部における冷却液25の沸騰状態を核沸騰にして冷却を行う。この理由を以下説明する。なお、流量密度とは、前段冷却部13で使用される冷却液の総液量(L/min)を、前段冷却部13の面積(m2)で除することによって算出される値である。なお、本実施形態において、Lはリットルを意味する。
【0020】
水平帯9に入る前に高い熱伝達係数で冷却を行う(以降、高い熱伝達係数で冷却を行うことを「強冷却」と記載する。)と、特に鋳片3のコーナー部に割れが生じるリスクが高くなる。このため、強冷却は水平帯9で行なうことが好ましい。しかしながら、製造費用抑制の観点からは冷却液25の使用量を抑制しつつ、強冷却を行うことが好ましい。そこで、前段冷却工程においてのみ大流量の冷却液25を使用し、後段冷却工程では小流量の冷却液25を使用する方法について検討した。
【0021】
図4は、冷却液の流量、鋳片の表面温度及び冷却能力の関係を示すグラフである。縦軸が冷却能力、横軸が鋳片3の表面温度を示しており、図中には冷却液25の流量が大、中、小の3つの場合が示されている。
図4のグラフにおいて、冷却能力の極大点以下の温度域は核沸騰領域、極小点以上の温度域は膜沸騰領域である。なお、核沸騰とは、発泡点を核として気泡が発生し、冷却液25が、冷却対象から非常に高い熱を奪うことのできる沸騰状態である。
【0022】
図4のグラフから、鋳片3の温度が低い場合、つまり、核沸騰領域では、冷却液25の流量が冷却能力におよぼす影響が小さいことがわかる。したがって、前段冷却工程において、大流量で冷却することで鋳片3の表面温度を下げておけば、その後の後段冷却部15においては小流量で核沸騰を維持できるので、小流量で高い冷却能力を発揮できる。
【0023】
図4のグラフを用いて本実施形態に係る鋳片の製造方法における鋳片3の冷却方法の概念を具体的に説明する。連続鋳造機1の上流側から下流側に向かって鋳造が進んでいく際の鋳片3の表面の温度履歴は、
図4のグラフ上では、大略右(高温側)から左(低温側)となる。湾曲帯7にある鋳片3はまだ高温であるが、鋳片3の割れなどを防止するため、過度な冷却はせず冷却液25の流量を抑えて操業する(
図4上のO点より右側)。
【0024】
一方、鋳片3が湾曲帯7を抜け水平帯9に入ると(
図4上のA点)、鋳片3の割れのリスクが低下するので、強冷却が可能になり、冷却液25の流量を大幅に増加させることができる(
図4上のA’点)。すなわち、本実施形態に係る鋳片の製造方法では、前段冷却工程において大流量の冷却液25を用いた冷却を行うことになる。鋳片3は大流量の冷却液25によって強冷却され、その表面温度が大きく低下し、最も早い場合は、水平帯9に入って最初のロール19間に設置された冷却スプレー21から噴射された冷却液25で冷却された鋳片3の表面位置の鋳造方向下流側で、冷却液25の状態は核沸騰状態に遷移する(
図4上のB点)。そのまま冷却を継続すると、鋳片3の表面温度はさらに低下して
図4上のC点に至る。鋳片3の表面温度がC点まで低下すれば冷却液25が低流量の条件でも核沸騰が維持されるので、後段冷却工程に移行後には小流量で引き続き核沸騰によって強冷却できる(
図4上のC’点)。このように、本実施形態に係る鋳片の製造方法では、
図4中における白抜き矢印で示すように冷却能力を変化させている。
【0025】
本実施形態に係る前段冷却工程における大流量での冷却では、流量密度を300L/(m
2・min)以上4000L/(m
2・min)以下としている。
図4における冷却能力の極小値は流量に応じて変化するが、本発明者らによる研究成果より、300L/(m
2・min)の流量密度にすることにより、冷却能力の極小値を示す温度が1000℃程度になることが分かっている。一般に水平帯9における鋳片3の表面温度は1000℃以下であり、冷却能力の極小値を示す温度よりも低い温度域である。したがって、300L/(m
2・min)以上の流量密度であれば、水平帯9における鋳片3を冷却能力の極小値よりも高い冷却能力で冷却を開始できる。また、
図4に示されるように、冷却能力の極小値から極大値の間では、冷却液25の流量が大きいほど冷却能力が高いので、水平帯9の前段冷却部13では流量密度を大きくする方が有利である。
【0026】
一方、発明者の知見によると、流量密度を4000L/(m2・min)より多くしても、ほとんど冷却能力が変化しないことが分かっているため、冷却液噴射のエネルギーや使用する冷却液25が無駄になる。以上の理由により、前段冷却部13における大流量での冷却では、流量密度を300L/(m2・min)以上4000L/(m2・min)以下としている。なお、より好適な流量密度は、300L/(m2・min)以上2000L/(m2・min)以下である。
【0027】
<後段冷却工程>
後段冷却工程は、水平帯9における後段冷却部15において、鋳片3の表面における冷却液25の沸騰状態を核沸騰に維持するものである。前段冷却工程で核沸騰状態が維持され、鋳片3の表面温度が十分に低下している。したがって、上述したように、後段冷却工程は、前段冷却工程に対し、冷却液流量密度を低下させても核沸騰を維持できる。
【0028】
後段冷却工程において核沸騰を維持できる流量密度は、発明者の知見より、100L/(m2・min)以上1000L/(m2・min)以下である。なお、より好適な流量密度は、100L/(m2・min)以上300L/(m2・min)以下である。一方、流量密度を1000L/(m2・min)より多くしても冷却能力に変化はなく、冷却液噴射のエネルギーや使用する冷却液25が無駄になる。したがって、後段冷却工程における冷却液25の流量密度を1000L/(m2・min)より多くすることは好ましくない。
【0029】
また、本発明者らが、鋳片3を水で冷却する種々の実験を行った結果、鋳片3の表面温度が下記(1)式を満たす場合に冷却能力が極大値を示す温度になることがわかっている。
【0030】
Ts=10^[0.08×ln(W)+2]・・・(1)
ここで、Tsは鋳片3の表面温度(℃)であり、Wは流量密度(L/(m2・min)であり、lnは自然対数である。
【0031】
したがって、後段冷却工程の流量密度から算出される上記Tsよりも低い温度まで、前段冷却工程において大流量で冷却すればよい。すなわち、鋳片3の表面温度が、後段冷却工程の流量密度と上記(1)とから算出されるTsよりも低い温度に低下するまでが水平帯9における前段冷却部13の範囲であり、それ以降が後段冷却部15の範囲となる。
【0032】
<冷却液漏洩防止>
前段冷却工程においては、冷却スプレー21から噴射された冷却液が鋳片3の表面に衝突し、鋳片3の表面上を流れ、ロール19に衝突する。当該ロール19が鋳片幅方向で2分割以上に分割された分割型鋳片支持ロールである場合、分割ロール間のロールチョック部においては鋳片3との間に隙間が生じるので、冷却液25が漏洩する。通常の2次冷却においては、漏洩した冷却液25による冷却能力は比較的小さいが、核沸騰状態の冷却液25は非常に高い冷却能力を持つので、当該冷却液が漏洩するとロールチョック部における温度低下が大きくなり、鋳片3の温度分布の均一性が低下する。
【0033】
図5は、
図1のA部の拡大図である。本実施形態に係る鋳片の製造方法では、水平帯9における鋳造方向に対して上流側端部である前段冷却部13の直前と、水平帯9における鋳造方向に対して下流側端部である後段冷却部15の直後のロールチョック部に気体噴射ノズル26を配置している。鋳造方向に対して上流側端部に設けられた気体噴射ノズル26は、鋳造方向に対して下流側のロールチョック部の位置であって鋳片3の表面方向に向けて気体を噴射し、鋳造方向に対して下流側端部に設けられた気体噴射ノズル26は、鋳造方向に対して上流側のロールチョック部の位置であって鋳片3の表面に向けて気体を噴射する。これにより、ロールチョック部から水平帯9の冷却液25が漏洩することを抑制できる。この結果、ロールチョック部における温度低下が抑制され、鋳片3の温度分布の均一性が向上する。
【0034】
ロールチョック部から水平帯9の冷却液25が漏洩すると、当該冷却液25により鋳片3の一部が核沸騰状態で冷却され、冷却帯から離れるにつれ、鋳片3の温度が復熱し、その後、沸騰形態が遷移沸騰となる。遷移沸騰となると、核沸騰に対し、水蒸気の発生量、すなわち、湯気の発生量が大幅に増加する。このため、湯気の発生量を確認することで、ロールチョック部28からの水平帯9の冷却液25の漏洩を検出できる。
【0035】
気体の噴射流量の適正値は、漏洩する冷却液25の流量によって変化する。このため、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量に基づいて気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を制御することが好ましい。ロールチョック部から漏洩した冷却液25は、鋳片3の表面で大部分が蒸発して水蒸気となり、その一部が湯気になる。この湯気の発生量は漏洩する冷却液25の流量に相関があることから、当該湯気の発生量に基づいて気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を制御してもよい。具体的には、湯気の発生量を多、中、少に分類するとともに当該発生量の分類に対応した気体の噴出流量を予め定めておき、発生した湯気の分類に対応した流量の気体を気体噴射ノズル26から噴射させてもよい。また、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量は、湯気を含む水蒸気を捕集し、これを凝縮させた液体の量を計測することで求められる。このため、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量に基づいて気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を制御してもよい。
【0036】
また、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量の閾値を予め定めておき、当該閾値に基づいて気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を制御してもよい。上述したようにロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量は、湯気を含む水蒸気を捕集し、これを凝縮させた液体の量を計測することで求められるので、当該液体の量が閾値よりも多い場合には、液体の量が当該閾値以下になるまで気体の噴射流量を増加させる。これにより、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量が予め定められた閾値よりも多くならないように制御できる。ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量の閾値は、鋳片3の品質不良が発生しない冷却液25の漏洩流量の範囲を求めることで設定できる。
【0037】
さらに、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量を基準とした漏洩率に基づいて気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を制御してもよい。漏洩率は、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量を、気体噴射ノズル26を設けていない場合にロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量で除した値に100を乗じることで求められる。
【0038】
気体噴射ノズル26を設けずに、冷却スプレー21から水量密度を1000L/(m2・min)の冷却液25を噴射させると、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量は13.7L/minになる。発明者らは、冷却スプレー21から噴射される冷却液25の水量密度を変えた実験を行い、冷却スプレー21から噴射される冷却液25の水量密度と、ロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量との関係を調査した。
【0039】
図6は、冷却スプレー21から噴射される冷却液25の水量密度と、漏洩する冷却液25の流量との関係を示すグラフである。
図6において、横軸は冷却液25の水量密度L/(m
2・min)であり、縦軸は漏洩する冷却液25の流量(L/min)である。
図6に示すように、冷却スプレー21から噴射される冷却液25の水量密度が増加するとロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量も増加し、概ね比例関係になることが確認された。
【0040】
図6を用いることで、気体噴射ノズル26を設けない場合のロールチョック部から漏洩する漏洩冷却液量が求められる。このため、冷却スプレー21から噴射される冷却液25の水量密度と、ロールチョック部から発生する湯気と水蒸気の発生量とから漏洩率が求められる。例えば、冷却スプレー21から噴射される冷却液25の水量密度が1000L/(m
2・min)である場合、漏洩冷却液量は13.7L/minになる。このときロールチョック部から漏洩した冷却液25の湯気と水蒸気の発生量が1.37L/minであったとすると冷却液の漏洩率は10質量%となる。
【0041】
この漏洩率の閾値を予め定めておき、冷却液25の漏洩率が当該閾値よりも大きい場合には、漏洩率が当該閾値以下になるまで気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を増加させる。これにより、漏洩率が閾値以下になるようにロールチョック部から漏洩する冷却液25の流量を制御できる。漏洩率の閾値は、鋳片3に品質不良が生じない範囲の漏洩率に定めればよい。
【0042】
一方、ロールチョック部からの冷却液25の漏洩量が多くなり、一定量を超えると蒸発しない冷却液25の量が増加する。この場合には、漏洩した冷却液25は目視で確認できるので、目視にて漏洩した冷却液25の流量を把握し、当該流量に基づいて気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を制御してもよい。さらに、冷却液25の漏洩量が多くなり、鋳片3上に冷却液25が存在する場合には、他の部分よりも温度が低くなる。このため、ロールチョック部を放射温度計で計測し、当該温度に基づいて気体噴射ノズル26からの気体の噴射流量を制御してもよい。
【0043】
発明者らの実験結果より、冷却液25の流量密度が100L/(m2・min)の場合は、ロールチョック部1か所あたりの気体の噴射流量を200NL/min以上400NL/min以下にすることが好ましい。このように好適範囲があるのは、スプレーノズル23の角度等の冷却液25の噴射条件によって気体の噴射流量の好適範囲が変化するためである。また、冷却液25の流量密度が4000L/(m2・min)の場合は、ロールチョック部1か所あたりの気体の噴射流量を2500NL/min以上3000NL/min以下にすることが好ましい。したがって、これらをまとめると、ロールチョック部1か所あたりの気体の噴射流量は、200NL/min以上3000NL/min以下にすることが好ましい。気体の噴射流量を上限値にすればロールチョック部からの冷却液25の漏洩が防止されるので、これ以上の気体の噴射流量を増やしても効果はなく気体噴射のエネルギーが無駄になる。このため、気体の噴射流量を各上限値より多くすることは好ましくない。
【0044】
以上のように、本実施態に係る鋳片の製造方法では、2次冷却帯11の水平帯9において、前段冷却工程では大流量密度で鋳片3の表面における冷却液25の沸騰状態を核沸騰にし、後段冷却工程では、小流量密度で鋳片3の表面における冷却液25の沸騰状態を核沸騰にする。これにより、冷却液25の使用量を抑制しつつ効果的に鋳片3を冷却できる。さらに、水平帯9の鋳造方向に対して上流側端部及び下流側端部のロールチョック部に気体噴射ノズル26を設置し、当該気体噴射ノズル26からロールチョック部における鋳片3の表面に所定量の空気を噴射させることで、ロールチョック部からの水平帯9の冷却液25の漏洩を抑制でき、鋳片3の温度分布の均一性を向上させることができる。この結果、安定した品質の鋳片3の製造が実現できる。なお、本実施形態では、前段冷却部13の直前及び後段冷却部15の直後のロールチョック部に気体噴射ノズル26を設置した例を示したがこれに限らない。気体噴射ノズル26は、前段冷却部13の直前及び後段冷却部15の直後の少なくとも一方に設置されていればよく、これにより、気体噴射ノズル26が設けられていない場合よりも冷却液25の漏洩が抑制され、安定した品質の鋳片3の製造が実現できる。
【実施例0045】
本発明の効果を確認するため、
図1に示した連続鋳造機1を用いて、低炭素鋼の鋳造を行った実施例を説明する。なお、本実施例で説明する数値等は、本発明の更なる理解のために示したものであり、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
本実施例で用いた連続鋳造機1の機長は45mで、そのうち水平帯9は、各2mの長さのセグメントが15個で構成される。鋳造条件として、鋳造速度は2mpm、鋳片3の厚さは250mm、鋳片3の幅は1500mmとした。冷却液25には水を使用し、空気と混合し、各冷却スプレー21から噴射させた。水温及び空気の温度は30℃であった。
【0047】
水平帯9に到達したときの鋳片3の表面温度は850℃であった。温度の測定には、放射温度計を用いた。凝固位置は、鋲打ち試験から求めた。上記の条件の下で、水平帯9における冷却条件及び気体噴射ノズルの条件を種々変更して鋳片3を製造した。
【0048】
比較例では、気体噴射ノズル26を使用せずに鋳片3の冷却を行った。発明例では、前段冷却部13の直前及び後段冷却部15の直後のロールチョック部28に気体噴射ノズル26を設置して冷却を行った。気体噴射ノズル26からは圧縮空気を噴射した。
【0049】
図7は、実施例で用いた気体噴射ノズル26の配置を示す模式図である。
図8は、実施例で用いた気体噴射ノズル29の配置を示す模式図である。発明例1は、
図7に示すように、分割型鋳片支持ロール27の1つのロールチョック部28に対し、1個の気体噴射口の大きい気体噴射ノズル26を配置した。発明例2、5~12は、
図7に示した気体噴射ノズル26の配置で、空気の噴射流量の制御を行い、湯気の発生量に基づいて空気の噴射流量を最少流量に設定した。発明例3は、
図8に示すように、分割型鋳片支持ロール27の1つのロールチョック部28に対し、3個の気体噴射口の小さい気体噴射ノズル29を配置した。発明例4は、
図8に示した気体噴射ノズル29の配置で、空気の流量制御を行い、湯気の発生量に基づいて空気の噴射流量を最少流量に設定した。
【0050】
圧縮空気流量は1か所のロールチョック部28当たりの空気噴射流量を示す。温度分布については、前段冷却部13の前と後段冷却部15の後に放射温度計を設置し、鋳片3の幅方向における温度の最大温度と最小温度の差をとった。核沸騰については、核沸騰状態が達成されなかった、または維持できなかった条件を「×」とし、核沸騰状態達成、維持できたものを「〇」とした。漏洩率については、ロールチョック部28から発生した水蒸気と湯気を捕集して凝縮させた液体の量を、
図6から求められる気体噴射ノズル不使用時の漏洩水量で除し、100を乗じることで算出した。また、湯気については、湯気の発生量を「多」、「中」、「少」で示した。湯気の発生量は下記基準で判定した。
湯気多:湯気越しの視認性に影響があり、2m先が見えにくい状況。
湯気中:湯気越しの視認性に影響があり、2m先は見えるも5m先が見えにくい状況。
湯気少:湯気の存在は確認できるが、湯気越しの視認性に影響なし。
【0051】
温度分布については、鋳片3の幅方向の最大温度と最小温度の差を示した。鋳片3の品質については、温度分布が悪化し、品質不良が生じたものを「×」とし、品質不良が生じなかったものを「〇」とした。比較例及び発明例の冷却条件及び鋳片品質の結果を下記表1に示す。
【0052】
【0053】
比較例1~3では、前段冷却部13及び後段冷却部15から冷却液25が漏洩し、鋳片3の温度分布が不均一となり、鋳片3に品質不良が生じた。発明例1、3では、前段冷却部13及び後段冷却部15からの冷却液25の漏洩がなく、鋳片3の温度分布における温度差が小さくなり、鋳片3の品質不良は生じなかった。発明例2では、前段冷却部13及び後段冷却部15からの冷却液25の漏洩がなく、鋳片3の温度分布における温度差が小さくなり、鋳片の品質不良は生じなかった。さらに、発明例2では、発明例1、3よりも圧縮空気の噴射流量を少なくすることができた。発明例4では、前段冷却部13で圧縮空気の噴射流量を少なくしすぎたため、前段冷却部13から冷却液25の漏洩が少量発生した。このため、中程度の湯気が発生し、漏洩率が7質量%になり、温度差も若干大きくなった。一方、後段冷却部15からの冷却液25の漏洩はなく、温度差も小さくなった。発明例4では、前段冷却部13の温度差が若干大きくなったものの鋳片3の品質不良は生じなかった。
【0054】
発明例5、6、8、9では、前段冷却部13及び後段冷却部15からの冷却液25の漏洩がなく、鋳片3の温度分布における温度差が小さくなり、鋳片の品質不良は生じなかった。さらに、発明例5、6、8、9では圧縮空気の噴射流量も少なくできた。発明例7では、後段冷却部15で圧縮空気の噴射流量を少なくしすぎたため、後段冷却部15から冷却液25の漏洩が少量発生した。このため、中程度の湯気が発生し、温度差も若干大きくなった。一方、前段冷却部13からの冷却液25の漏洩はなく、漏洩率が13質量%になり、温度差も小さくなった。発明例7では、後段冷却部15の温度差が若干大きくなったものの鋳片3の品質不良は生じなかった。
【0055】
発明例10では、前段冷却部13の冷却液水量密度を高めたため、前段冷却部13から冷却液25の漏洩が少量発生した。このため、中程度の湯気の発生し、漏洩率が8質量%になり、温度差も若干大きくなった。一方、後段冷却部15からの冷却液25の漏洩はなく、温度差も小さくなった。発明例10では、前段冷却部13の温度差が若干大きくなったものの鋳片3の品質不良は生じなかった。発明例11、12では、前段冷却部13及び後段冷却部15からの冷却液25の漏洩がなく、鋳片3の温度分布における温度差が小さくなり、鋳片の品質不良は生じなかった。