(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095901
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】非破壊検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
G01N27/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212876
(22)【出願日】2022-12-30
(71)【出願人】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 浩造
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB01
2G053BA03
2G053BA13
2G053BB11
2G053BC20
2G053CA01
2G053CB21
(57)【要約】
【課題】 検査対象鉄筋の破断部の有無を極めて効率的かつ正確に検出することができる非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】 本願の第1の発明に係る非破壊検査方法によれば、第1着磁工程で着磁された後、第1磁束密度測定工程での測定によって取得された第1磁束密度と、第2着磁工程で着磁された後、第2磁束密度測定工程での測定によって取得された第2磁束密度とを、磁束密度平均化処理工程において平均化処理する。この平均化処理により得られた平均磁束密度グラフでは、上記第1磁束密度グラフ及び第2磁束密度グラフの場合よりも、上記交差鉄筋の着磁に起因する磁束密度の谷状及び山状の大きさが抑えられており、この屈曲部と上記検査対象鉄筋の破断に起因する急激な極性変化部分との差異が明確となることから、破断部検出工程における検査対象鉄筋の破断の有無の判定が極めて容易となり、破断の有無判定の精度及びその信頼性が格段に向上する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体の表面に沿って長手方向に延びるとともにその幅方向に所定間隔をもって平行に配置された複数本の検査対象鉄筋と該検査対象鉄筋と交差するように配置された交差鉄筋とが埋設されたコンクリート体の外側から磁石によって上記両鉄筋を磁化させ、しかる後、磁気センサによって上記コンクリート体の外側の磁束密度を測定することで、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法であって、
上記磁石の磁化面を、該磁石の両磁極が上記検査対象鉄筋の長手方向に沿うように上記コンクリート体の表面に近づけて配置し、次いで該磁石を上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させることを、各検査対象鉄筋の列設方向の一端側の検査対象鉄筋から他端側の検査対象鉄筋にかけて順次行って上記各検査対象鉄筋及び上記交差鉄筋に着磁した後、該磁石を撤去する第1着磁工程と、
該第1着磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく上記検査対象鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、この測定結果から上記各検査対象鉄筋の第1磁束密度グラフを作成する第1磁束密度測定工程と、
上記磁石の磁化面を、該磁石の両磁極が上記検査対象鉄筋の長手方向に沿うように上記コンクリート体の表面に近づけて配置し、次いで該磁石を上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させることを、各検査対象鉄筋の列設方向の他端側の検査対象鉄筋から一端側の検査対象鉄筋にかけて順次行って上記各検査対象鉄筋及び上記交差鉄筋に着磁した後、該磁石を撤去する第2着磁工程と、
該第2着磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく上記検査対象鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、この測定結果から上記各検査対象鉄筋の第2磁束密度グラフを作成する第2磁束密度測定工程と、
上記第1磁束密度測定工程で取得された第1磁束密度グラフと、上記第2磁束密度測定工程で取得された第2磁束密度グラフの平均化処理を行って平均磁束密度グラフを取得する磁束密度平均化処理工程と、
上記磁束密度平均化処理工程で取得された平均磁束密度グラフに基づいて、上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する破断部検出工程と、
を含むことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非破壊検査方法において、
上記磁石を、上記各検査対象鉄筋それぞれにおいてその長手方向へ移動させることにより、または上記検査対象鉄筋の隣接する複数本毎にその長手方向へ移動させることにより、着磁することを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の非破壊検査方法において、
上記第2着磁工程では、上記第1着磁工程における最終の着磁処理の対象となった検査対象鉄筋に対する着磁処理を省略することを特徴とする非破壊検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、橋、ビルまたはコンクリートポールなどの、鉄筋コンクリート構造物の体内に設けられている鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート体内に設けられた鉄筋の破断部を検出する非破壊検査方法が知られている。例えば、特開2006-177747号公報(特許文献1)に記載された非破壊検査方法は、永久磁石を、コンクリートに埋設された検査対象の鉄筋の長手方向に沿って、コンクリートの表面上を移動させることにより鉄筋を磁化させ、その後、コンクリートの表面から漏れる磁束密度を測定し、更に得られた測定値の微分値を算出して鉄筋の破断の有無を検出するものである。
【0003】
しかしながら、一般的に、コンクリート体内には、位置や配置方向の異なる多数の鉄筋が埋設されている。そのため、コンクリート体の外側において検査対象鉄筋の磁気を磁気センサにより検出すると、検査対象鉄筋以外の鉄筋からの磁気も同時に検出される場合が多い。しかし、特許文献1に記載の非破壊検査方法にあっては、このような検査対象鉄筋以外から発せられる磁気の影響を除去する手段が設けられていないため、破断部の検出に正確性を欠くおそれがある。
【0004】
また、特開2013-130452号公報(特許文献2)には、磁石を、コンクリートに埋設された検査対象鉄筋の長手方向に沿って、コンクリートの表面上を移動させることにより検査対象鉄筋を磁化させ、次に、その検査対象鉄筋を磁化させた位置から一定距離離れた位置で、磁石を、検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させることにより検査対象鉄筋を再度磁化させ、その後、コンクリートの表面から漏れる磁束密度を測定することで検査対象鉄筋の破断の有無を検出する非破壊検査方法が記載されている。
【0005】
かかる検査方法によれば、検査対象鉄筋に対するコンクリートの被りが浅い場合など、着磁の際に磁石と検査対象鉄筋との距離が近づき過ぎることにより検査対象鉄筋から生じてしまう、正確な破断部検出の障害となる磁気を減少させることができる。しかし、検査対象鉄筋以外から発せられる磁気の影響を除去できる旨は記載されていない。
【0006】
さらに、特開2015-42975号公報(特許文献3)には、磁石を検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させて鉄筋を磁化させる第1着磁工程と、その後コンクリート体表面上の磁束密度を測定する第1磁束密度測定工程と、第1着磁工程とは逆方向に磁石を移動させて前記鉄筋を磁化させる第2着磁工程と、その後コンクリート体表面上の磁束密度を測定する第2磁束密度測定工程と、第1および第2磁束密度測定工程により測定された磁束密度の両方を足し合わせて両磁束密度の和を求め、非検査対象物からの磁束密度を相殺除去する非検査物磁束除去工程と、非検査物磁束除去工程により得られた前記両磁束密度の和に基づいて鉄筋の破断部の有無を検出する破断部検出工程を含む非破壊検査方法が記載されている。
【0007】
しかし、この非破壊検査方法では、検査対象鉄筋の長手方向における第1着磁工程の磁石の移動方向と、第2着磁工程の磁石の移動方向とを逆にして着磁する必要があるため、複数本の鉄筋の検査をまとめて行うような場合に、作業者が、着磁工程の際に混乱して磁石の移動方向を間違えてしまうことがあった。そのような場合には検査をし直す必要があり、効率的かつ正確な検査の妨げとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-177747号公報
【特許文献2】特開2013-130452号公報
【特許文献3】特開2015-042975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、従来の非破壊検査の方法では、効率的かつ正確に検査対象鉄筋の破断部の検出を行うことができないという課題を有していた。
【0010】
そこで、本願発明は、検査対象鉄筋以外の鉄筋の中でも、一般に設置数量が多く、検査対象鉄筋と略直交して設けられる交差鉄筋の磁気の影響を低減すると共に、検査対象鉄筋が破断部を有する場合に特徴的に現れる磁束密度の変化の性質を利用することで、破断部の有無を極めて効率的かつ正確に検出することができる非破壊検査方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0011】
[本願発明の前提となる技術的背景]
本願発明は、コンクリート体の表面に沿って長手方向に延びるとともにその幅方向に所定間隔をもって平行に配置された複数本の検査対象鉄筋と該検査対象鉄筋と交差するように配置された交差鉄筋とが埋設されたコンクリート体の外側から磁石によって上記両鉄筋を磁化させ、しかる後、磁気センサによって上記コンクリート体の外側の磁束密度を測定することで、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するものであるが、この検査対象鉄筋の破断部の有無の検出に際して、その前提となる二つの背景技術がある。
【0012】
その一つは、検査対象鉄筋に破断部がある場合における磁束密度の特異性である。即ち、検査対象鉄筋の長手方向に磁石を移動させてこれを着磁させ、磁石移動面に直交する方向の磁束密度を磁束センサで測定すると、右肩上がりの磁束密度グラフが得られる。しかし、この検査対象鉄筋の破断部においては、該破断部において検査対象鉄筋内の磁束の流れが分断され、この破断部においては該破断部より上流側における極性(例えば、N極)から下流側における極性(例えば、S極)に急激に変化する。この急激な極性の変化現象から「破断あり」との判断をすることができる。
【0013】
他の一つは、検査対象鉄筋と交差する交差鉄筋から発せられる磁束密度の影響である。磁石を検査対象鉄筋の長手方向に移動させて該検査対象鉄筋を着磁させる場合、該検査対象鉄筋から近い位置に該検査対象鉄筋と交差する交差鉄筋が存在する場合、磁石によって上記検査対象鉄筋を着磁させる際に、上記交差鉄筋も不可避的に着磁され、磁束を発生する。この交差鉄筋によって生じる磁束密度は、検査対象鉄筋に発生する磁束密度に影響を与え、磁束密度の交差鉄筋に対応する位置部分では磁束密度が交差鉄筋の極性に対応して、谷状または山状に変化する。
【0014】
しかし、磁束密度グラフにおいて、検査対象鉄筋の破断に起因する磁束の急激な変化部分と、交差鉄筋の着磁に起因する磁束密度の変化部分とを形状面から区別することは難しい。
【0015】
このことから、検査対象鉄筋の破断の有無判定の精度を高めるには、交差鉄筋の着磁に起因する磁束が検査対象鉄筋から発生する磁束に与える影響を可及的に減じて検査対象鉄筋の破断に起因する急激な極性変化部分の確認性を高めることが有効と考えられる。
【0016】
このような背景技術を考慮する中で、本件発明者らは、
(イ)磁石を移動させて検査対象鉄筋を着磁させる場合、一回目の着磁操作においては、各検査対象鉄筋に対する着磁操作を、列設された複数の検査対象鉄筋の一端側から他端側に向けて順次行う一方、二回目の着磁操作では、一回目の着磁操作時とは逆に、他端側の検査対象鉄筋から一端側の検査対象鉄筋に向けて順次行うことで交差鉄筋の着磁に起因する磁束密度の変化を抑制する点、
(ロ)一回目の着磁操作に基づく磁束密度と二回目の着磁操作に基づく磁束密度では交差鉄筋の着磁に起因する磁束密度の谷状及び山状の変化レベルが同じであることから、これらを平均化することで交差鉄筋の影響を大幅に減じ得る点、
に想到したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明では上述の課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0018】
本願の第1の発明では、コンクリート体の表面に沿って長手方向に延びるとともにその幅方向に所定間隔をもって平行に配置された複数本の検査対象鉄筋と該検査対象鉄筋と交差するように配置された交差鉄筋とが埋設されたコンクリート体の外側から磁石によって上記両鉄筋を磁化させ、しかる後、磁気センサによって上記コンクリート体の外側の磁束密度を測定することで、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法において、上記磁石の磁化面を、該磁石の両磁極が上記検査対象鉄筋の長手方向に沿うように上記コンクリート体の表面に近づけて配置し、次いで該磁石を上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させることを、各検査対象鉄筋の列設方向の一端側の検査対象鉄筋側から他端側の検査対象鉄筋にかけて順次行って上記各検査対象鉄筋及び上記交差鉄筋に着磁した後、該磁石を撤去する第1着磁工程と、
該第1着磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく上記検査対象鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、この測定結果から上記各検査対象鉄筋の第1磁束密度グラフを作成する第1磁束密度測定工程と、
上記磁石の磁化面を、該磁石の両磁極が上記検査対象鉄筋の長手方向に沿うように上記コンクリート体の表面に近づけて配置し、次いで該磁石を上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させることを、各検査対象鉄筋の列設方向の他端側の検査対象鉄筋側から一端側の検査対象鉄筋にかけて順次行って上記各検査対象鉄筋及び上記交差鉄筋に着磁した後、該磁石を撤去する第2着磁工程と、
該第2着磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく上記検査対象鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、この測定結果から上記各検査対象鉄筋の第2磁束密度グラフを作成する第2磁束密度測定工程と、
上記第1磁束密度測定工程で取得された第1磁束密度グラフと、上記第2磁束密度測定工程で取得された第2磁束密度グラフの平均化処理を行って平均磁束密度グラフを取得する磁束密度平均化処理工程と、
上記磁束密度平均化処理工程で取得された平均磁束密度グラフに基づいて、上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する破断部検出工程と、
を含むことを特徴としている。
【0019】
この第1の発明の第1着磁工程及び第2着磁工程において検査対象鉄筋を磁化させる際に、磁石の磁化面をコンクリート体の表面に近づけて配置するには、磁石の磁化面をコンクリート体の表面付近の所定位置に一時的に近づければよく、必ずしも磁石の磁化面を直接コンクリート体の表面に当接させる必要はなく、静止させる必要もない。
【0020】
また、磁石の磁化面とは、鉄筋に着磁する際にコンクリート体に最も近づける磁石の 一面を指す。かかる磁化面は、磁石の両磁極を検査対象鉄筋の長手方向に沿わせることができれば良く、その形状は単一の平面に限るものではない。
【0021】
さらに、第1磁束密度測定工程及び第2磁束密度測定工程において、磁気センサをコンクリート体の表面に近づけて配置するには、前記の磁石の場合と同様に、磁気センサをコンクリート体の表面付近の所定位置に一時的に近づければよく、直接コンクリート体の表面に当接させる必要はなく、静止させる必要もない。
【0022】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る非破壊検査方法において、上記磁石を、上記各検査対象鉄筋それぞれにおいてその長手方向へ移動させることにより、または上記検査対象鉄筋の隣接する複数本毎にその長手方向へ移動させることにより、着磁することを特徴としている。
【0023】
本願の第3の発明では、上記第1の発明に係る非破壊検査方法において、上記第2着磁工程では、上記第1着磁工程における最終の着磁処理の対象となった検査対象鉄筋に対する着磁処理を省略することを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
(a)本願の第1の発明に係る非破壊検査方法によれば、上記第1着磁工程で着磁された後、上記第1磁束密度測定工程での測定によって取得された第1磁束密度と、上記第2着磁工程で着磁された後、上記第2磁束密度測定工程での測定によって取得された第2磁束密度とを、磁束密度平均化処理工程において平均化処理することで、ここで得られた平均磁束密度グラフにおいては、上記第1磁束密度グラフ及び第2磁束密度グラフの場合よりも、上記交差鉄筋の着磁に起因する磁束密度の谷状及び山状の大きさが抑えられており、この屈曲部と上記検査対象鉄筋の破断に起因する急激な極性変化部分との差異が明確となることから、破断部検出工程における検査対象鉄筋の破断の有無の判定が極めて容易となり、破断の有無判定の精度及びその信頼性が格段に向上する。
【0025】
(b)本願の第2の発明に係る非破壊検査方法によれば、上記(a)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記磁石を、上記各検査対象鉄筋それぞれにおいてその長手方向へ移動させることにより着磁し、または上記検査対象鉄筋の隣接する複数本毎にその長手方向へ移動させることにより着磁するようにしているため、前者の着磁方式によれば、磁石を含む着磁装置のコンパクト化、軽量化が可能となり、また後者の着磁方式によれば着磁操作回数の減少が可能となり、何れの場合も診断コストの低減化に寄与できる。
【0026】
(c)本願の第3の発明に係る非破壊検査方法によれば、上記(a)、(b)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記第2着磁工程では、上記第1着磁工程における最終の着磁処理の対象となった検査対象鉄筋に対する着磁処理を省略することから、この作業の省略分だけ診断作業の迅速化、低コスト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本願発明の第1の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体の側面図である。
【
図3】
図2のB-B矢視図(一部断面見上げ図)である。
【
図6】本願発明の第1の実施形態に係る第1着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
【
図7】本願発明の第1の実施形態に係る第2着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
【
図8】
図6に示す第1着磁工程後における磁束密度の垂直成分のグラフと、
図7に示す第2着磁工程後における磁束密度の垂直成分のグラフを平均化したグラフである。
【
図9】本願発明の第2の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体の一部断面見上げ図(第1の実施形態における
図3に相当する)である。
【
図12】本願発明の第2の実施形態に係る第1着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
【
図13】本願発明の第2の実施形態に係る第2着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
【
図14】
図12に示す第1着磁工程後における磁束密度の垂直成分のグラフと、
図13に示す第2着磁工程後における磁束密度の垂直成分のグラフを平均化したグラフである。
【
図15】本願発明の第3の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体の一部断面見上げ図(第1の実施形態における
図3に相当する)である。
【
図18】本願発明の第3の実施形態に係る第1着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
【
図19】本願発明の第3の実施形態に係る第2着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
【
図20】
図18に示す第1着磁工程後における磁束密度の垂直成分のグラフと、
図19に示す第2着磁工程後における磁束密度の垂直成分のグラフを平均化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
「第1の実施形態」
図1には、本願発明の第1の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体1を示している。このコンクリート体1は、桁橋として使用されるものであって、路面側を構成する本体部1Aとその下側に位置する下部フランジ部1Bを備えている。そして、この下部フランジ部1Bには、
図2~
図4にも示すように、その底面1aから所定深さ位置(この実施形態では芯被り90mmの位置)には、PC鋼として機能する5本の検査対象鉄筋21~25が、それぞれシース管20に挿通された状態で、上記底面1aに平行で、且つ幅方向に所定間隔(この実施形態では85mmピッチ)で埋設されている。これら5本の検査対象鉄筋21~25で検査対象鉄筋群2が構成される。
【0029】
さらに、上記底面1aと上記検査対象鉄筋群2の間の所定深さ位置(この実施形態では、芯被り50mmの位置)には、多数の交差鉄筋3の横設部3aが、上記検査対象鉄筋群2の長手方向に所定間隔(この実施形態では120~340mmの不等間隔)で埋設配置されている。なお、上記交差鉄筋3は、上記横設部3aの両端部が隅部3cとされ、この隅部3cには立ち上がり部3bが連続している。
【0030】
上記検査対象鉄筋群2と上記交差鉄筋3の横設部3aは芯間40mmの間隔をもっており、後述のように磁石5によって上記検査対象鉄筋群2の各検査対象鉄筋21~25を着磁させるときには、必然的に上記交差鉄筋3の横設部3aも着磁されることとなる。
【0031】
以上のように上記コンクリート体1に埋設された上記検査対象鉄筋群2の各検査対象鉄筋21~25は、該コンクリート体1の強度確保上極めて重要な要素であり、その破断の有無を確認することが重要となる。ここでは、以下に説明する第1実施形態に係る非破壊検査方法によってこれを行うようにしている。
【0032】
「非破壊検査方法の構成」
上記非破壊検査方法は、第1着磁工程と第2着磁工程と第1磁束密度測定工程と第2磁束密度測定工程と磁束密度平均化処理工程と破断部検出工程を含むものであって、磁石5と磁気センサ6を用いて検査を実行する。
【0033】
「第1着磁工程」
第1着磁工程は、上記磁石5を用いて上記各検査対象鉄筋21~25を着磁する工程であって、
図3~
図5に示すように、磁石5を上記コンクリート体1の底面1a上の第1検査対象鉄筋21の直上位置に、N極が手前側、S極が前方側となるようにして、その磁化面を上記コンクリート体1の底面1aに当接させ、あるいは僅かに離間させた状態で配置する。
【0034】
この状態で、上記磁石5を上記第1検査対象鉄筋21の手前側から前方側へ向けて所定速度で移動させた後、上記磁石5をその極方向を変えることなくそのまま前方側から手前側に移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第1検査対象鉄筋21が着磁される。この実施形態では上記磁石5を上記コンクリート体1の底面1aに接触させて移動させているため、上記第1検査対象鉄筋21は手前側がS極、前方側がN極となるように着磁される。
【0035】
以上のような第1検査対象鉄筋21の直上位置での着磁操作を、第2検査対象鉄筋22の直上位置 → 第3検査対象鉄筋23の直上位置 → 第4検査対象鉄筋24の直上位置 → 第5検査対象鉄筋25の直上位置、の順で実行する。すなわち、各検査対象鉄筋21~25をそれらの列設方向の一端側(検査対象鉄筋21側)から他端側(検査対象鉄筋25側)にかけて順次着磁する。
【0036】
なお、上記磁石5による第1検査対象鉄筋21から第5検査対象鉄筋25までの検査対象鉄筋に対する着磁操作時には、これと同時に、磁石5による各交差鉄筋3の横設部3aも着磁される。この交差鉄筋3に対する着磁は、磁石5が該交差鉄筋3の横設部3aを通過するに伴って実行される。この場合、横設部3aは、磁石5のN極とS極のうち、後から通った極の反対の極に着磁されるので、第1検査対象鉄筋21の交差鉄筋3の横設部3aはN極に着磁される。
しかし、着磁操作を第2検査対象鉄筋22の直上位置 → 第3検査対象鉄筋23の直上位置 → 第4検査対象鉄筋24の直上位置 → 第5検査対象鉄筋25の直上位置、の順で順次実行することで、最終的に第5検査対象鉄筋25の交差鉄筋3の横設部3aが最も強くN極に着磁されるため、最初に着磁された第1検査対象鉄筋21の交差鉄筋3の横設部3aは相対的にS極化する。
そして、第2検査対象鉄筋22と、第3検査対象鉄筋23と、第4検査対象鉄筋24の交差鉄筋3の各横設部3aは、第5検査対象鉄筋25の交差鉄筋3のN極に着磁された横設部3aと、第1検査対象鉄筋21の交差鉄筋3のS極化した横設部3aとの距離に応じて、それぞれN極化あるいはS極化する。
このように、交差鉄筋3の各横設部3aの磁極に応じて、後述する第1磁束密度グラフにおける交差鉄筋3の着磁に基づく磁束の変化方向(谷状と山状)が決定される(
図6参照)。
【0037】
「第1磁束密度測定工程」
第1磁束密度測定工程では、
図3に示すように、上記コンクリート体1の底面1aの、上記第1検査対象鉄筋21の直上位置に磁気センサ6を配置し、該磁気センサ6を該第1検査対象鉄筋21に沿ってその長手方向に移動させることで、上記第1検査対象鉄筋21の上記底面1a上における深さ方向(Z方向)の磁束密度を測定する。このような磁束密度の測定は、例えば、第1検査対象鉄筋21 → 上記第2検査対象鉄筋22 → 第3検査対象鉄筋23 → 第4検査対象鉄筋24 → 第5検査対象鉄筋25の順に順次実行し、検査対象鉄筋21~25の上記底面1a上における深さ方向(Z方向)の磁束密度をそれぞれ測定することができる。なお、各検査対象鉄筋の磁束密度の測定順序は任意に変更可能である。
【0038】
そして、この第1磁束密度測定工程では、上記各検査対象鉄筋それぞれの磁束密度測定結果に基づいて、各検査対象鉄筋21~25の第1磁束密度グラフを取得する。これが
図6に示した磁束密度グラフであり、同図(イ)は第1検査対象鉄筋21の磁束密度グラフ、同図(ロ)は第2検査対象鉄筋22の磁束密度グラフ、同図(ハ)は第3検査対象鉄筋23の磁束密度グラフ、同図(ニ)は第4検査対象鉄筋24の磁束密度グラフ、を同図(ホ)は第5検査対象鉄筋25の磁束密度グラフである。なお、
図6(イ)、(ホ)には、黒塗り矢印を付しているが、この矢印は検査対象鉄筋の破断位置を指示するものである(以下、
図7、
図8、
図12~
図14、
図18~
図20においても同様)。
【0039】
「第2着磁工程」
第2着磁工程は、上記第1着磁工程と同じ方法で上記各検査対象鉄筋21~25を着磁するものだが、着磁操作の順序は第1着磁工程の場合とは異なる。即ち、第1着磁工程では、第1検査対象鉄筋21から第2検査対象鉄筋22 → 第3検査対象鉄筋23 → 第4検査対象鉄筋24 → 第5検査対象鉄筋25のように、列設方向の一端側から他端側にかけて順に着磁操作を行ったが、この第2着磁工程では、これとは逆に、列設方向の他端側から一端側にかけて、第5検査対象鉄筋25 → 第4検査対象鉄筋24 → 第3検査対象鉄筋23 → 第2検査対象鉄筋22 → 第1検査対象鉄筋21の順番で着磁操作を行う。
【0040】
ただし、この実施形態では、上記第1着磁工程の最後に行われた第5検査対象鉄筋25に対する着磁操作は、第2着磁工程における最初の着磁操作と同じであって当然に同じ結果が得られることから、この第2着磁工程では、同じ着磁操作を繰り返すことは無駄であるため、第5検査対象鉄筋25に対する着磁操作を省略し、第4検査対象鉄筋24に対する着磁操作から始めて、順次第3検査対象鉄筋23 → 第2検査対象鉄筋22 → 第1検査対象鉄筋21へと順次着磁操作を行うようにしている。
【0041】
このように、第2着磁工程における着磁操作を、上記第1着磁工程とは逆の順番で行うことにより、交差鉄筋3の着磁に起因する磁束密度を、第1着磁工程によるものとは略真逆の大きさにすることができる。
上記第4検査対象鉄筋24側から上記第1検査対象鉄筋21側に向けた順番で着磁操作を行うと、最終的に第1検査対象鉄筋21の交差鉄筋3の横設部3aが最も強くN極に着磁されるため、最初から着磁されていた第5検査対象鉄筋25の交差鉄筋3の横設部3aは相対的にS極化する。
そして、第4検査対象鉄筋24と、第3検査対象鉄筋23と、第2検査対象鉄筋22の交差鉄筋3の各横設部3aは、第1検査対象鉄筋21の交差鉄筋3のN極に着磁された横設部3aと、第5検査対象鉄筋25の交差鉄筋3のS極化した横設部3aとの距離に応じて、それぞれN極化あるいはS極化する。
このように、交差鉄筋3の各横設部3aの磁極に応じて、後述する第2磁束密度グラフにおける交差鉄筋3の着磁に基づく磁束の変化方向(谷状と山状)が決定される(
図7参照)。
【0042】
「第2磁束密度測定工程」
第2磁束密度測定工程は、上記第1磁束密度測定工程と同様に、例えば、上記コンクリート体1の底面1a上に載置した磁気センサ6を上記各検査対象鉄筋21~25に沿ってその長手方向に移動させることで、上記各検査対象鉄筋21~25の上記底面1a上における深さ方向(Z方向)の磁束密度をそれぞれ測定する。
【0043】
そして、この第2磁束密度測定工程では、上記各検査対象鉄筋それぞれの磁束密度測定結果に基づいて、各検査対象鉄筋21~25の第2磁束密度グラフを取得する。これが
図7に示した磁束密度グラフであり、同図(イ)は第1検査対象鉄筋21の磁束密度グラフ、同図(ロ)は第2検査対象鉄筋22の磁束密度グラフ、同図(ハ)は第3検査対象鉄筋23の磁束密度グラフ、同図(ニ)は第4検査対象鉄筋24の磁束密度グラフ、同図(ホ)は第5検査対象鉄筋25の磁束密度グラフである。
【0044】
「磁束密度平均化処理工程」
磁束密度平均化処理工程は、
図6に示す上記第1磁束密度測定工程で取得された磁束密度グラフと、
図7に示す上記第2磁束密度測定工程で取得された磁束密度グラフを平均化処理して、
図8に示すような平均磁束密度グラフを得るものである。
【0045】
ここで、着磁順序が同じもの同士、即ち、
図6(イ)と
図7(ホ)、
図6(ロ)と
図7(ニ)、
図6(ハ)と
図7(ハ)、
図6(ニ)と
図7(ロ)、
図6(ホ)と
図7(イ)、をそれぞれ対比すると、これら各組の磁束密度は、その基本形体を同じにする一方、交差鉄筋3の着磁に起因する磁束密度の方向は逆方向となっており、且つ該磁束密度の大きさも同じとなっている。このため、
図6の各磁束密度グラフと
図7の各磁束密度グラフを合算し且つこれを2で除して平均化した場合(磁束密度平均化処理工程)、交差鉄筋3の着磁に起因する磁束密度が相殺され、全体としての磁束密度は、
図8の平均磁束密度グラフに示されるように、可及的に滑らかな曲線となる。この結果、同図(イ)に示す第1検査対象鉄筋21における破断部、及び同図(ホ)に示す第5検査対象鉄筋25における破断部が鮮明となり、破断の有無の検出が容易に且つ高い信頼性をもって行われる。
【0046】
「破断部検出工程」
破断部検出工程は、上記磁束密度平均化処理工程において取得された平均磁束密度グラフに基づいて上記各検査対象鉄筋21~25に破断の有無を判定するものである。なお、この実施形態では、上記各検査対象鉄筋21~25のうち、第1検査対象鉄筋21と第5検査対象鉄筋25に破断があり、それ以外の第2検査対象鉄筋22、第3検査対象鉄筋23及び第4検査対象鉄筋24には破断がなく健全なものを診断対象例とし、ここに本願発明の第1の実施形態に係る非破壊検査方法を適用したものである。
【0047】
ここで、
図6に示す第1磁束密度グラフと
図8に示す平均磁束密度グラフを対比する。
先ず、
図6の第1磁束密度グラフにおいては、同図(イ)に示す第1検査対象鉄筋21の磁束密度グラフと同図(ロ)に示す第2検査対象鉄筋22の磁束密度グラフと同図(ニ)に示す第4検査対象鉄筋24の磁束密度グラフ及び同図(ホ)に示す第5検査対象鉄筋25の磁束密度グラフにおいては、全体として右上がりの線図となるが、上記交差鉄筋3の着磁に起因する谷状の屈曲部分と山状の屈曲部分が大きく顕著に表れている。なお、同図(ハ)に示す第3検査対象鉄筋23の磁束密度グラフでは、再度の着磁による平滑化効果、いわゆる「整磁の効果」(特許文献2:特開2013-130452号参照)によって他の検査対象鉄筋の磁束密度グラフよりも平滑となっている。
【0048】
一方、
図8の磁束密度グラフにおいては、どの検査対象鉄筋の磁束密度グラフも平滑化が進んでいることから、同図(イ)に示す第1検査対象鉄筋21の磁束密度グラフに現れた急激な極性変化部(即ち、破断部に対応する位置)と同図(ホ)に示す第5検査対象鉄筋25の磁束密度グラフに現れた急激な極性変化部(即ち、破断部に対応する位置)を、他の検査対象鉄筋における磁束密度グラフとの対比によって明確に判断できる。この結果、検査対象鉄筋の破断部の有無の検出を容易に、且つ高精度で検出することが可能となる。
【0049】
「第2の実施形態」
図9には、本願発明の第2の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体1の要部を示している。この第2の実施形態の非破壊検査方法は、上記コンクリート体1に埋設された各検査対象鉄筋21~25に対する着磁方法に特徴をもつものであって、それ以外の構成等は上記第1の実施形態と同様であるためここでの説明は省略し、着磁方法についてのみ説明をする。
【0050】
図9~
図11には、コンクリート体1の底面1a寄り位置に5本の検査対象鉄筋21~25が所定間隔を持って埋設配置されるとともに、該各検査対象鉄筋21~25と交差する多数の交差鉄筋3が配置された状態を示している。これら各検査対象鉄筋21~25に対して磁石5によって着磁を行うが、この実施形態では2本の検査対象鉄筋を同時に着磁し得る幅寸法を持つ磁石5を使用する。
【0051】
そして、
図9及び
図10に示すように、着磁操作時における磁石5の設置位置として、第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の間の第1位置と、第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の間の第2位置、及び第5検査対象鉄筋25の右側の第3位置の3か所を設定している。また、着磁に関する工程として、第1着磁工程と第2着磁工程を設定している。
【0052】
「第1着磁工程」
第1着磁工程では、第1着磁操作と第2着磁操作及び第3着磁操作の合計三回の着磁操作を行う(
図10参照)。
【0053】
第1着磁操作では、上記磁石5を手前側がN極、前方側がS極となるようにして上記第1位置に設置する。そして、この磁石5を、上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の手前側から、長手方向の前方側まで往移動させるとともに、該磁石5の極性を維持したまま、さらに前方側から手前側まで復移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22は同時に着磁される。また、この第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の着磁時には、これら第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22に順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0054】
この第1着磁操作による上記第1検査対象鉄筋21の磁束密度グラフを
図12(イ)に示し、第2検査対象鉄筋22の磁束密度グラフを
図12(ロ)に示している。
【0055】
第2着磁操作では、上記磁石5を手前側がN極、前方側がS極となるようにして上記第2位置に設置する。そして、この磁石5を、上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の手前側から、長手方向の前方側まで往移動させるとともに、該磁石5の極性を維持したまま、さらに前方側から手前側まで復移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24は同時に着磁される。また、この第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の着磁時には、これらに順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0056】
この第2着磁操作による上記第3検査対象鉄筋23の磁束密度グラフを
図12(ハ)に示し、上記第4検査対象鉄筋24の磁束密度グラフを
図12(ニ)に示している。
【0057】
第3着磁操作では、上記磁石5を手前側がN極、前方側がS極となるようにして上記第3位置に設置する。そして、この磁石5を、上記第5検査対象鉄筋25の手前側から、長手方向の前方側まで往移動させるとともに、該磁石5の極性を維持したまま、さらに前方側から手前側まで復移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第5検査対象鉄筋25は着磁される。また、この第5検査対象鉄筋25の着磁時には、これに順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0058】
この第3着磁操作による上記第5検査対象鉄筋25の磁束密度グラフを
図12(ホ)に示している。
【0059】
「第2着磁工程」
第2着磁工程では、第1着磁操作と第2着磁操作の合計二回の着磁操作を行う(
図10参照)。なお、上記第1着磁工程では三回の着磁操作を行っていたのに、この第2着磁工程では二回の着磁操作を行うが、その理由は、第1着磁工程における最後の着磁操作を、そのまま第2着磁工程の一回目の着磁操作として利用できるので、これを省略したためである。
【0060】
第1着磁操作では、上記磁石5を上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の間の上記第2位置に載置し、該磁石5を該第3検査対象鉄筋23及び第4検査対象鉄筋24の手前側と前方側の間で往復移動させて該第3検査対象鉄筋23及び第4検査対象鉄筋24を着磁させる。
【0061】
第2着磁操作では、磁石5を第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の間の第1位置に載置し、該磁石5を該第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の手前側と前方側の間で往復移動させて該第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22を着磁させる。また、この第2着磁操作時には、第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22に順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0062】
この第2着磁工程における上記第1検査対象鉄筋21の磁束密度グラフを
図13(イ)に、上記第2検査対象鉄筋22の磁束密度グラフを
図13(ロ)に、上記第3検査対象鉄筋23の磁束密度グラフを
図13(ハ)に、上記第4検査対象鉄筋24の磁束密度グラフを
図13(ニ)に、上記第5検査対象鉄筋25の磁束密度グラフを
図13(ホ)に、それぞれ示している。
【0063】
「磁束密度平均化処理工程」
磁束密度平均化処理工程は、
図12に示す第1着磁工程で取得された磁束密度グラフと、
図13に示す第2着磁工程で取得された磁束密度グラフを平均化処理して、
図14に示すような平均磁束密度グラフを得るものである。
【0064】
ここで、着磁順序が同じもの同士、即ち、
図12(イ)と
図13(ホ)、
図12(ロ)と
図13(ニ)、
図12(ハ)と
図13(ハ)、
図12(ニ)と
図13(ロ)、
図12(ホ)と
図13(イ)、をそれぞれ対比すると、これら各組の磁束密度は、その基本形体を同じにする一方、交差鉄筋3の着磁に起因する磁束密度の方向は略真逆の方向となっており、且つ該磁束密度の大きさも同じとなっている。このため、
図12の各磁束密度グラフと
図13の各磁束密度グラフを合算し且つこれを2で除して平均化した場合(磁束密度平均化処理工程)、交差鉄筋3の着磁に起因する磁束密度が相殺され、全体としての磁束密度は、
図14の平均磁束密度グラフに示されるように、可及的に滑らかな曲線となる。この結果、
図14(イ)に示す第1検査対象鉄筋21における破断部、及び
図14(ホ)に示す第5検査対象鉄筋25における破断部が鮮明となり、破断の有無の検出が容易に且つ高い信頼性をもって行われる。
【0065】
以上に記載した第1着磁工程、第2着磁工程、磁束密度平均化処理工程以外の構成、即ち、第1磁束密度測定工程、第2磁束密度測定工程、破断部検出工程及び破断判定については、上記第1実施形態における該当工程と同じであるため、ここではこれら該当工程の記載を援用し、ここでの説明を省略する。
【0066】
「第3の実施形態」
図15には、本願発明の第3の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体1の要部を示している。この第3の実施形態の非破壊検査方法は、上記第2の実施形態と同様に、上記コンクリート体1に埋設された各検査対象鉄筋21~25に対する着磁方法に特徴をもつものであって、それ以外の構成等は上記第1の実施形態と同様であるためここでの説明は省略し、着磁方法についてのみ説明をする。
【0067】
図15~
図17には、コンクリート体1の底面1a寄り位置に5本の検査対象鉄筋21~25が所定間隔を持って埋設配置されるとともに、該各検査対象鉄筋21~25と交差する多数の交差鉄筋3が配置された状態を示している。これら5本の検査対象鉄筋21~25に対して磁石5によって着磁を行うが、この実施形態では一本の検査対象鉄筋の直上に磁石5を配置した場合、その検査対象鉄筋とその両側で隣接する合計3本の検査対象鉄筋に対して同時に着磁できるような磁力をもった磁石5を使用する。
【0068】
そして、
図15及び
図16に示すように、着磁操作時における磁石5の設置位置として、第1検査対象鉄筋22の直上の第1位置と第4検査対象鉄筋24の直上の第2位置の2か所を設定している。また、着磁に関する工程として、第1着磁工程と第2着磁工程を設定している。
【0069】
「第1着磁工程」
第1着磁工程では、第1着磁操作と第2着磁操作の合計二回の着磁操作を行う(
図16参照)。
【0070】
第1着磁操作では、上記磁石5を手前側がN極、前方側がS極となるようにして上記第1位置に設置する。そして、この磁石5を、上記検査対象鉄筋群2の手前側から、長手方向の前方側まで往移動させるとともに、該磁石5の極性を維持したまま、さらに前方側から手前側まで復移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22及び第3検査対象鉄筋23の三者は同時に着磁される。また、この第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22及び第3検査対象鉄筋23の着磁時には、これら第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22及び第3検査対象鉄筋23に順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0071】
第2着磁操作では、上記磁石5を手前側がN極、前方側がS極となるようにして上記第2位置に設置する。そして、この磁石5を、上記検査対象鉄筋群2の手前側から、長手方向の前方側まで往移動させるとともに、該磁石5の極性を維持したまま、さらに前方側から手前側まで復移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24及び第5検査対象鉄筋25の三者は、同時に着磁される。また、この第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24及び第5検査対象鉄筋25の着磁時には、これらに順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0072】
「第2着磁工程」
第2着磁工程では、着磁操作を1回だけ行う(
図16参照)。なお、上記第1着磁工程で二回の着磁操作を行っていたのに、この第2着磁工程では一回しか着磁操作を行わないが、その理由は、第1着磁工程における最後の着磁操作をそのまま第2着磁工程の一回目の着磁操作として利用できるので、これを省略したためである。
【0073】
上記着磁操作では、上記磁石5を上記第2検査対象鉄筋22の直上の第1位置に載置し、該磁石5を該第2検査対象鉄筋22に沿ってその手前側と前方側の間で往復移動させて上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22及び第3検査対象鉄筋23を着磁させる。
【0074】
この第2着磁工程における上記第1検査対象鉄筋21の磁束密度グラフを
図19(イ)に、上記第2検査対象鉄筋22の磁束密度グラフを
図19(ロ)に、上記第3検査対象鉄筋23の磁束密度グラフを
図19(ハ)に、上記第4検査対象鉄筋24の磁束密度グラフを
図19(ニ)に、上記第5検査対象鉄筋25の磁束密度グラフを
図19(ホ)に、それぞれ示している。
【0075】
「磁束密度平均化処理工程」
磁束密度平均化処理工程は、
図18に示す第1着磁工程で取得された磁束密度グラフと、
図19に示す第2着磁工程で取得された磁束密度グラフを平均化処理して、
図20に示すような平均磁束密度グラフを得るものである。
【0076】
ここで、着磁順序が同じもの同士、即ち、
図18(イ)と
図19(ホ)、
図18(ロ)と
図19(ニ)、
図18(ハ)と
図19(ハ)、
図18(ニ)と
図19(ロ)、
図18(ホ)と
図19(イ)、をそれぞれ対比すると、これら各組の磁束密度は、その基本形体を同じにする一方、交差鉄筋3の着磁に起因する磁束密度の方向は略真逆の方向となっており、且つ該磁束密度の大きさも同じとなっている。このため、
図18の各磁束密度グラフと
図19の各磁束密度グラフを合算し且つこれを2で除して平均化した場合(磁束密度平均化処理工程)、交差鉄筋3の着磁に起因する磁束密度が相殺され、全体としての磁束密度は、
図20の平均磁束密度グラフに示されるように、可及的に滑らかな曲線となる。
【0077】
この結果、
図18(イ)に示す第1検査対象鉄筋21における破断部、及び
図18(ホ)に示す第5検査対象鉄筋25における破断部が鮮明となり、破断の有無の検出が容易に且つ高い信頼性をもって行われる。
【0078】
以上に記載した第1着磁工程、第2着磁工程、磁束密度平均化処理工程以外の構成、即ち、第1磁束密度測定工程、第2磁束密度測定工程、破断部検出工程及び破断判定については、上記第1実施形態における該当工程と同じであるため、ここではこれら該当工程の記載を援用し、ここでの説明を省略する。
【符号の説明】
【0079】
1 ・・コンクリート体
2 ・・検査対象鉄筋群
3 ・・交差鉄筋
5 ・・磁石
6 ・・磁気センサ
21~25 ・・検査対象鉄筋