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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095913
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】自動給脂器
(51)【国際特許分類】
   F16N 11/00 20060101AFI20240704BHJP
   F16N 7/38 20060101ALI20240704BHJP
   F16N 11/10 20060101ALI20240704BHJP
   F16N 3/02 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
F16N11/00
F16N7/38 E
F16N11/10
F16N3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000003
(22)【出願日】2023-01-01
(71)【出願人】
【識別番号】312010308
【氏名又は名称】マフレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大徳 一美
(57)【要約】
【課題】本発明は以下の問題を解決するにある。1)長期にわたり常時連続的にかつ自動的にグリース給脂できるようにする。2)天候や気候に応じて適正な給脂量を供給できるようにする。3)自動給脂器のグリース残存量を目視可能にする。4)電動ポンプやガス膨脹を利用せず安定して稼働できるようにした。
【解決手段】空気中の水蒸気を吸収して膨張する粉体からなる膨張剤を膨張せしめて、円筒容器に充填したグリースを軸受けに給脂する自動給脂器である。膨張剤を充填した膨張剤カップにテーパを設けて膨張剤が効率的に上方に膨脹できるようにした。膨張剤の圧力で円筒容器が半径方向に膨張しても、ゴム性のシール板をポアソン変形せしめてシール性能を維持可能にした。膨張剤カップやピストンに吸気孔を設けて膨張剤が空気中の水分を安定して吸収できるようにした。円筒容器は上下に蓋をしてボルトで着脱可能にした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリースを膨張剤で加圧して軸受けなどに供給する自動給脂器において、前記グリースと前記膨張剤は円筒容器に収納されており、該円筒容器は着脱自在な上蓋と底板を備えており、前記上蓋と前記底板は対向する部分に複数の貫通孔が設けられており、該貫通孔にボルトを通して前記円筒容器を挟んで固定されており、前記上蓋は前記グリースを排出する吐出管を備えており、前記円筒容器は弾性体からなるシール板でグリース室と膨張剤室に仕切られており、前記グリース室には前記グリースが充填され、前記膨張剤室には複数の吸気孔が設けられた膨張剤カップが載置され、該膨張剤カップには複数の吸気孔が設けられたピストンが被せられて、前記シール板の下部に載置されており、前記底板の通気孔を通して前記吸気孔から外気を取り込み前記膨張剤が膨脹し前記ピストンが押し上げられ、該ピストンが前記シール板を押し上げて、該シール板により前記グリースが加圧され排出されることを特徴とする自動給脂器。
【請求項2】
グリースを膨張剤で加圧して軸受けなどに供給する自動給脂器において、前記グリースと前記膨張剤は円筒容器に収納されており、該円筒容器は着脱自在な上蓋と底板を備えており、前記上蓋と前記底板は対向する部分に複数の貫通孔が設けられており、該貫通孔にボルトを通して前記円筒容器を挟んで固定されており、前記上蓋は前記グリースを排出する吐出管を備えており、前記グリースは弾性体からなるグリース容器に充填されており、該グリース容器は雄ネジが設けられた排出管を備えており、該排出管は前記上蓋に取付けられた吐出管の雌ネジに螺合されており、前記膨張剤は複数の吸気孔が設けられた膨張剤カップに充填され、複数の吸気孔が設けられたピストンが被せられて、前記グリース容器の下部に載置されており、前記底板の通気孔を通して前記吸気孔から外気を取り込み前記膨張剤が膨脹し前記ピストンが押し上げられ、該ピストンが前記グリース容器を加圧して前記グリースが排出されることを特徴とする自動給脂器。
【請求項3】
前記膨張剤カップは側壁にテーパが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の自動給脂器。
【請求項4】
前記膨張剤カップは両端開孔の円筒の底面に蓋を被せて形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3記載の自動給脂器。

フォームの始まり
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張剤の連続的な膨張を利用してシリンダに封入したグリースなどの潤滑油を加圧して、軸受けなどに給脂するための自動給脂器に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の軸受けにグリースなどの潤滑油を供給する方法として、定期的にグリースガンで給脂する方法や電動ポンプによる集中給脂方法がある。グリースガンは軸受けごとに手差し作業となり作業効率が悪いばかりでなく、グリースニップルには塵埃が付着するので給脂の度にコンタミ低下の恐れがあった。電動による自動給脂では作業効率は改善されるが電気制御、配管設備を要し装置全体が高価・複雑になっていた。軸受けのグリースは給脂直後から劣化、漏れ、水分やコンタミの浸入などが始まりトラブル原因が蓄積されるので、常時連続的に給脂する自動給脂器の実現が望まれている。自動給脂器の具体例として以下の方法が紹介されている。
【0003】
特開平10-38193号広報において、潤滑油が弾力性を有する潤滑剤容器に収納され、該潤滑剤容器が膨張剤を収納した膨張剤容器に収納され、該膨張剤容器の吸湿孔を介した湿分が膨張剤に供給されることにより膨張剤を膨張せしめて潤滑油を軸受けに供給する潤滑油自動供給装置が示されている。この方法においては、弾性力を有する潤滑剤容器と収納本体のシールが困難であり潤滑油が収納本体に逆流する問題があった。またシール板で潤滑油と膨張剤を仕切る方法が例示されているが、膨張剤の膨張や加圧された潤滑剤により収納本体が半径方向に変形し潤滑油が膨張剤側に洩れ、圧力が上昇しない問題や潤滑剤と膨張剤が混在しコンタミ低下の問題があった。また、グリースの残量を目視できないので適当なタイミングで交換せざるをえずコスト高になっていた。
【0004】
特開平11-325393号広報において、固形膨張剤の膨張力でピストンを押し出してグリースを押し出す方法が示されている。この方法においては、1)膨張剤封入部が円錐形状のため膨張剤深さが浅くなり、油圧と2段ピストンで押し出しストロークを確保しているので構造が複雑で重くなっていた。2)グリース貯蔵部は第2のピストンで押圧され高圧となりフープ応力で半径方向に膨らむので、第2ピストンのOリングの膨張量が不足しグリースが洩れていた。
【0005】
特開2003-83497号広報において、ピストンの面積を押し付け部材の1.1倍以上にした自動給脂器が示されている。この方法においては、1)円筒部(膨張剤カップに相当)と直胴部(ピストンに相当)にテーパがなく隙間も狭いので、膨張剤が膨脹した際に円筒部と直胴部が競り合って円滑に上昇できなかった。2)直胴部に吸気孔がないので膨張剤の膨張量が小さく自動給脂器の取替え周期が短かった。3)シリンダを当接部のみで押し上げるのでピストンが捏ねてスティッキングしていた、4)潤滑油収納シリンダの内径が大きいのでそれに応じてフープ応力による内径の広がりも大きくなり、ピストンのOリングのシール性が低下しグリース漏れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-38193号広報
【特許文献2】特開平11-325393号広報
【特許文献3】特開2003-83497号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以下の問題を解決するにある。1)シリンダに充填したグリースの漏れを防止し確実な給脂を具現化する。2)膨張剤の膨張力を効率的にグリースに伝え確実に軸受けに供給できるようにする。3)簡単な目視によりグリースの残存量が確認できるようにする。4)天候や気候や設置場所に応じてグリース供給量を増減し適正な給脂量の供給を可能にする。5)長期にわたり常時連続的に給脂し適正な性状のグリースを保持できるようにする。6)軸受けへの水分、コンタミの浸入を防止する。7)人力による手差し作業を解消する。8)軸受けの点検管理周期を長くする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の解決手段は特許請求項1に示すように、グリースを膨張剤で加圧して軸受けなどに供給する自動給脂器において、前記グリースと前記膨張剤は円筒容器に収納されており、該円筒容器は着脱自在な上蓋と底板を備えており、前記上蓋と前記底板は対向する部分に複数の貫通孔が設けられており、該貫通孔にボルトを通して前記円筒容器を挟んで固定されており、前記上蓋は前記グリースを排出する吐出管を備えており、前記円筒容器は弾性体からなるシール板でグリース室と膨張剤室に仕切られており、前記グリース室には前記グリースが充填され、前記膨張剤室には複数の吸気孔が設けられた膨張剤カップが載置され、該膨張剤カップには複数の吸気孔が設けられたピストンが被せられて、前記シール板の下部に載置されており、前記底板の通気孔を通して吸気孔から外気を取り込み
前記膨張剤が膨脹し前記ピストンが押し上げられ、該ピストンが前記シール板を押し上げて、該シール板により前記グリースが加圧され排出されることを特徴とする自動給脂器である。
【0009】
第2の解決手段は特許請求項2に示すように、グリースを膨張剤で加圧して軸受けなどに供給する自動給脂器において、前記グリースと前記膨張剤は円筒容器に収納されており、該円筒容器は着脱自在な上蓋と底板を備えており、前記上蓋と前記底板は対向する部分に複数の貫通孔が設けられており、該貫通孔にボルトを通して前記円筒容器を挟んで接続されており、前記上蓋は前記グリースを排出する吐出管を備えており、前記グリースは弾性体からなるグリース容器に充填されており、該グリース容器は雄ネジが設けられた排出管を備えており、該排出管は前記上蓋に取付けられた吐出管の雌ネジに螺合されており前記膨張剤は複数の吸気孔が設けられた膨張剤カップに充填され、複数の吸気孔が設けられたピストンが被せられて、前記グリース容器の下部に載置されて前記底板の通気孔を通して吸気孔から外気を取り込み前記膨張剤が膨脹し前記ピストンが押し上げられ、該ピストンが前記グリース容器を加圧して前記グリースが排出されることを特徴とする自動給脂器である。
【0010】
第3の解決手段は特許請求項3に示すように、前記膨張剤カップは側壁にテーパが形成されていることを特徴とする自動給脂器である。
【0011】
第4の解決手段は特許請求項4に示すように、前記膨張剤カップは両端開孔の円筒の底面に蓋を被せて形成されていることを特徴とする自動給脂器である。
【発明の効果】
【0012】
第1の解決手段による効果は、1)連続的に膨張する膨張剤が常時ピストン及びシール板を押し上げてグリース充填室を加圧するので、グリースを連続的に軸受けに給脂できる。2)シール板は弾性体からなっており、ピストンとグリースに挟まれ加圧され、グリースシリンダの軸方向に圧縮されるとともにポアッソン比で半径方向に延びてグリースシリンダを押し付けるので、円筒容器が加圧力で膨張しても確実にシールすることができる。3)膨張剤の膨張速度は極めて遅いので長期にわたり給脂可能で有り軸受けを適正な状態に維持できる。4)膨張剤カップやピストンに設けた吸気孔の数や大きさを変更することにより設置場所の環境に応じて給脂速度を調整できる。5)手作業給脂のように毎回汚れた給脂口にグリースガンを接続して給脂することがないので軸受けへの水分、コンタミの浸入を防止できる。6)人力による手差し作業を解消できる。7)軸受けの管理周期を長くできる。
【0013】
第2の解決手段による効果は、1)グリースをあらかじめ弾性体のグリース容器に充填しているので円筒容器への収納が便利である。2)グリース容器の排出管の雄ネジがグリースシリンダの吐出管の雌ネジに螺合されているので、グリース容器を確実に吐出管とシール接合できる。3)グリース容器をジャバラ形状にすることにより、グリース容器を圧縮した際に横広がりすることなくジャバラがきれいに縦方向に折り畳められるのでグリースを効率的に押し出せる。
【0014】
第3の解決手段による効果は、1)膨張剤カップがテーパになっているので、膨張剤による膨張剤カップへの半径方向の力を上方向に逃がせるので膨張剤が円滑に上昇してピストンを押し上げることができる。2)膨張剤で膨張剤カップが膨らんでもピストンと干渉しないので円滑に上昇できる。3)ピストンと膨張剤カップの開孔部外径の隙間は小さくできるので、膨張するにつれ膨張剤カップからはみ出した膨張剤はピストンに拘束保持されながら上昇し型崩れすることなくグリース容器を押し上げることができる。
【0015】
第4の解決手段による効果は、1)膨張剤カップは鋼管をカットして形成できるのでグリースの吐出量に合わせて鋼管長さや口径を選択すればよいので安価である。2)底蓋は鉄やステンレス、銅などの金属以外にも樹脂や紙も使用できるので安価である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】円筒容器にグリース直接充填式の自動給脂器の断面図。
図2】グリース容器を内蔵した自動給脂器の断面図。
図3図1のa部詳細図。
図4】膨張剤カップの断面図。
図5図4のb部詳細図。
図6】膨張剤カップとピストンの組立断面図。
図7】膨張剤カップの実施態様図。
図8】シール板のシール性能向上メカニズム説明図。
図9】鋼管で形成した膨張剤カップの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を請求項1ないし2及び図1ないし8に基づいて説明する。
【0018】
第1の解決手段は特許請求項1に示すように、グリース11を膨張剤12で加圧して軸受けなどに供給する自動給脂器10において、前記グリース11と前記膨張剤12は円筒容器20に収納されており、該円筒容器20は着脱自在な上蓋21と底板22を備えており、前記上蓋21と前記底板22は対向する部分に複数の貫通孔23が設けられており、該貫通孔23にボルト25を通して前記円筒容器20を挟んで固定されており、前記上蓋21は前記グリース11を排出する吐出管24を備えており、前記円筒容器20は弾性体からなるシール板60でグリース室13と膨張剤室14に仕切られており、前記グリース室13には前記グリース11が充填され、前記膨張剤室14には複数の吸気孔30cが設けられた膨張剤カップ30が載置され、該膨張剤カップ30には複数の吸気孔40bが設けられたピストン40が被せられて、前記シール板60の下部に載置されており、前記底板22の通気孔22cを通して前記吸気孔40bから外気を取り込み前記膨張剤12が膨脹し前記ピストン40が押し上げられ、該ピストン40が前記シール板60を押し上げて、該シール板60により前記グリース11が加圧され排出されることを特徴とする自動給脂器10である。
【0019】
図1に示すように、円筒容器20は両側が開孔しており、上蓋21と底板22に設けられた複数の貫通孔23にボルト25が貫通せしめられ、円筒容器20を挟み込んでナット26で固定されているので密閉状態を形成できる。上蓋21の下面21bと底板22の上面22aには円筒容器20の端面20aに対向して凹み21cと凹み22bを設けて、円筒容器20の端面20aを嵌め込んでシール性を高めている。図3図1のa部の拡大図を示す。凹み21cにOリング29を嵌挿して円筒容器20の端面20aで押圧しシール性を向上させておりグリース室13からのグリース11の漏洩を防止している。
【0020】
円筒容器20の側面20bには縦長の開孔部20cが設けられ覗き窓の役割をはたしている。開孔部20cはレーザー加工やウォータージェット加工で形成できる。開孔部20cの幅は3~10mmである。長さはピストン40のストロークと同等で有り50~120mmである。開孔部20cには透明体28が取付けられ雨水や埃の侵入を防止している。透明体28は樹脂もしくはガラスなどが使用できるので外側からピストン40の上昇量を確認できる。ピストン側面40aに蛍光塗料の塗布や蛍光シールを貼付してマーキング40cすればグリース11の残量を明確に観察できる。グリース11の残量が把握できるので自動給脂器10の取替えタイミングを把握できる。
【0021】
円筒容器20は膨張剤12やグリース11の容量に合わせて炭素鋼管やステンレス鋼管などを適宜長さに切断して使用できる。上蓋21と底板22をボルト25で連結して固定する構造の場合、膨張剤11による膨張力は上蓋21、底板22、ボルト25が負担するので円筒容器20に掛かる力は小さくなるので薄肉円筒を使用できる。厚みは1.0~3.0mmがよい。
【0022】
上蓋21には吐出管24が取付けられている。吐出管24は上蓋21の上面21aに溶接24bやネジ止めなどで取付けることができる。吐出管24には雌ネジ24aが設けてありグリースニップル27などの雄ネジ27aと接続できる。又底板22には通気孔22cが設けられており膨張剤カップ30に外気を取り込めるようになっている。通気孔22cの直径は10~30mmである。図1図2に示すように通気孔22cには調整弁70を取付けて通気量を調整できる用にしてもよい。外気条件に応じて開閉してグリース11の吐出量を調整できる。
【0023】
図4に示すように、膨張剤12は膨張剤カップ30に充填されている。膨張剤カップ30には片側開口した有底のピストン40が被せられており、膨張剤12が膨張してピストン40が押し上げられ、さらにシール板60が押し上げられグリース室13のグリース11が加圧されて軸受けへと押し出される。
【0024】
膨張剤カップ30は側面30aと底面30bに複数の吸気孔30cが設けられている。又、ピストン40の側面40aにも複数の吸気孔40bが設けられている。吸気孔30cや吸気孔40aは外気から水蒸気を取り込むために設けられており、数や大きさで膨張剤12の膨張速度即ちグリース11の押し出し量を調整できる。吸気孔30c、40bの径は1~3mmである。1mmより小さいと孔数が増えて手間がかかる。3mmより大きいと膨張剤12がこぼれてくる。膨張剤12の膨張速度は外気温度と湿度に大きく影響を受けるので設置場所や機械の稼働状態に合わせて吸気孔30c、40bの数や大きさを調整してやれば安定した給脂が可能となる。
【0025】
膨張剤カップ30やピストン40はステンレスや鉄の薄鋼板をプレス成形や溶接加工で形成する。厚みは0.5~2.0mmである。板厚が薄いので複数の吸気孔30c、40bを簡単に形成できる。
【0026】
図4に示すように、膨張剤カップ30の外側径d1とピストン40の内側径D1に隙間Gが生じる場合は、膨張剤12がこぼれて押し上げ力や押し上げ量が低減するので隙間Gを埋めるために膨張剤カップ30にスペーサ32をリング状に取付けるのがよい。スペーサ32は金属、樹脂などで成形できる。あるいは膨張剤カップ30の端面30dを曲げてピストン側壁40aに近接せしめる方法もある。
【0027】
膨張剤カップ30の底面30bには吸気孔31aを設けた受け座31を敷設するのがよい。膨張剤カップ30を底板22の上面22bから浮かすことにより通気孔30cからの水蒸気が取り込み易くなる。また底板22の通気孔22cからの水が円筒容器20の中に浸入するのを防ぐ機能もある。
【0028】
図1にシール板60の横断面図を示す。シール板60は弾力性のあるゴム板で形成されている。ゴム板には天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロブレンゴム(CR)、アクリロニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Si)などがある。シール板60をゴム板で形成することにより、ゴム板が垂直方向の加圧力により圧縮変形するとともに水平方向に変形して延びる特性を応用している。
【0029】
シール板60の厚みは15~30mmがよい。15mmより薄いとシール性が低下する。30mmより厚いと半径方向のポアソン変形が小さくなりシール性能が落ちる。20mm前後が望ましい。
【0030】
従来のように硬質の樹脂や金属で形成されているシール板とOリング61の組み合わせの場合は、シール板60の製作精度や円筒容器20の膨脹量によってOリング61のシール性が微妙に変化する。例えば、円筒容器20は金属薄板で形成されているので、真夏の日中と真冬の夜間ではグリース11の粘度は異なるので背圧の変化が生じ、円筒容器20の膨脹量は異なってくる。また円筒容器20をプレス製作する場合は真円に成形するのは困難であり、金属や硬質樹脂などの剛性の高いシール板60にOリング61を組み合わせたシールでは変形に追随できず局部的な漏れを防止できなかった。このような膨脹量の変化に追随するためには弾性体からなるシール板60のポアソン変形が必須である。弾性体シール板60の外周側面60bに溝60aを形成してOリング61を嵌装すればシール性が向上する。
【0031】
図6に膨張剤12の膨張加圧によるシール板60の半径方向膨張量δを示す。シール板60の厚みをt1、加圧後のシール板の厚みt2、シール板60の直径をs1、加圧後のシール板60の直径をs2、シール板60のポアソン比をνとすると、δ=s2-s1={(t1-t2)/t1}/(ν/s1)となる。膨張剤12が膨張するにつれてシール板60は上下方向から加圧され垂直方向に圧縮され、ポアソン比で半径方向に膨張する。薄板で形成された円筒容器20がフープ応力で半径方向に膨張変形しても変形量に追随して確実にシールすることができる。
【0032】
例えば、ゴムのポアソン比は一般に0.5程度であるので、シール板60が1mm圧縮されると横方向には約0.5mm延びることになる。シール板60がポアソン比で横方向に広がることにより円筒容器20が膨張してもグリース12が洩れることなく適正圧力で軸受けに供給できる。シール板60に硬質系樹脂や金属を使用した場合は外周部にOリングなどを嵌挿するが、薄板で形成された円筒容器20の膨張の大きさに追随できずシール不良により漏れが生じる。
【0033】
一般に油圧シリンダのように内圧が大きくなシリンダは変形を抑えるために肉厚の大きな円筒を用いる。自動給脂器10は持ち運びを容易にしたり、製作コストを抑えたりするためできるだけ肉圧を薄くし軽量化する必要がある。このため円筒容器20の材質は鉄やステンレスで、厚みは1.0~3.0mmの薄板である。1.0mmより薄いと半径方向の膨張量が大きくなりすぎてシール板60のポアソン比による膨張量では対応できない。3.0mm以上になると重量が重たくなりプレス成形が困難になる。
【0034】
膨張剤12は酸化カルシウム(CaO)を主体とする化合物である。酸化カルシウムが水和反応することにより水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を形成し時間経過ともに長大な異方性の六角板状結晶へと成長することで体積が増大する性質を利用している。膨張剤商品としては例えばブライスター(太平洋セメント(株))、Sマイト(住友大阪セメント(株))、HPロックトーン(河合石灰工業(株))などがある。これらの商品と酸化カルシウムを適宜組み合わせて軸受け環境に適合した膨張剤を調合できる。
【0035】
酸化カルシウムに潮解性のある物質の粉末を1~5重量%混合することにより膨張量や膨張速度を調整できる。1重量%より少ないと効果が無い。5重量%より多いと膨張速度が速すぎて制御が困難である。潮解性のある物質には、クエン酸(C6H8O7)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸カリウム(K2CO3)、塩化マグネシウム(MgCL2)などがある。
【0036】
膨張剤12はプレスして高密度に充填するのがよい。0.1MPa以上でプレスするのが望ましい。又、振動を与えながら充填することにより気孔を形成しないようにするのがよい。膨張剤12の充填密度の低下や気孔は、グリース11が吐出されるまでの時間に遅れを生じさせるからである。
【0037】
第2の解決手段は特許請求項2に示すように、グリース11を膨張剤12で加圧して軸受けなどに供給する自動給脂器10において、前記グリース11と前記膨張剤12は円筒容器20に収納されており、該円筒容器20は着脱自在な上蓋21と底板22を備えており、前記上蓋21と前記底板22は対向する部分に複数の貫通孔23が設けられており、該貫通孔23にボルト25を通して前記円筒容器20を挟んで固定されており、前記上蓋21は前記グリース11を排出する吐出管24を備えており、前記グリース11は弾性体からなるグリース容器50に充填されており、該グリース容器50は雄ネジ51aが設けられた排出管51を備えており、該排出管51は前記上蓋21に取付けられた吐出管24の雌ネジ24aに螺合されており、前記膨張剤12は複数の吸気孔30cが設けられた膨張剤カップ30に充填され、複数の吸気孔40bが設けられたピストン40が被せられて、前記グリース容器50の下部50aに載置されており、前記シール板60の下部に載置されており、前記底板22の通気孔22cを通して前記吸気孔40bから外気を取り込み前記膨張剤12が膨脹し前記ピストン40が押し上げられ、該ピストン40が前記グリース容器50を加圧して前記グリース11が排出されることを特徴とする自動給脂器10である。
【0038】
図2に示すように、グリース容器50は塩化ビニールなどの樹脂弾性体からなりジャバラが形成されており、長手方向に自在に圧縮可能である。グリース容器50は雄ネジ51aを設けた排出管51を備えており、上蓋21に設けた吐出管24の雌ネジ24aに螺合して一体化されている。
【0039】
膨張剤カップ30には片側開口した有底のピストン40が被せられており、膨張剤12が膨張してピストン40が押し上げられ、ピストン40がグリース容器50を押し上げて充填されているグリース11が加圧されて軸受けへと押し出される。グリース容器50はジャバラが形成されているので圧縮方向に規則正しく縮んでグリース11を押し出すことができる。
【0040】
第3の解決手段は特許請求項3に示すように、前記膨張剤カップ30は側壁30aにテーパが形成されていることを特徴とする自動給脂器10である。
【0041】
図5は膨張剤12を充填した膨張剤カップ30の断面図である。反力Fは膨張剤12が膨張剤カップ30から受ける方向の力を表している。膨張剤12は膨張剤カップ30の側壁30aや底面30bを強く押圧しながら膨脹していくので、膨張剤カップ30内には膨張剤12の反力Fが付加される。
【0042】
図6図5のb部の拡大図を示す。膨張剤12の膨脹によって膨張剤12は膨張剤カップ30からの反力Fを受ける。反力Fは膨張剤カップ30の側面30aに垂直な反力F1と平行な反力F2に分解される。反力F2は膨張剤12の反力を上方に転換するので膨張剤カップ30を半径方向に変形させる力を低減し、膨張剤12を上方に膨脹しやすくする効果がある。
【0043】
テーパ角度θは5~10度がよい。5度より小さいと、膨張剤カップ30に作用する平行な力F2が小さくなり膨張剤カップ30に作用する反力を効率よく逃がせない。10度より大きいと、膨張剤カップ30の開孔部周辺の押し上げ力が小さくなる。膨張剤カップ30を円錐形状にした場合は、膨張剤カップ30の深さを十分に確保できないので加圧ストロークが不足する問題があった。
【0044】
上述したように膨張剤カップ30がテーパになっているので膨張剤12の圧縮力Fを逃がし、膨張剤カップ30の端面30dをピストン側壁40aに近接せしめて膨張剤12のこぼれを最小限にする効果があるがその他に、1)膨張剤12による膨張剤カップ30への半径方向の力を上方向に逃がせるので膨張剤12が円滑に上昇してピストン40を押し上げることができる。2)膨張剤12で膨張剤カップ30が半径方向に膨らんでもピストン40と干渉しないので円滑に上昇できる。3)ピストン40内径と膨張剤カップ30の開孔部外径の隙間Gを小さくできるので、膨張するにつれ膨張剤カップ30からはみ出した膨張剤12はピストン40に拘束保持されながら上昇し型崩れすることなくピストン40を押し上げることができる。4)膨張剤カップ30の吸気孔30cはピストン40の側壁40aに塞がれることがなく水蒸気を吸引できる。
【0045】
図7に示すように、膨張剤カップ30の側壁30aのテーパの形状は図5以外にも様々な実施態様がある。例えば、図7(a)は、側壁30aが内側に凹んだ円弧状となっている。膨張剤カップ30は上部ほどテーパが大きくなり膨張剤カップ端面30dがピストン側壁40aに近接できるとともに膨張剤12が上方に向かって膨脹しやすくなる。又膨張剤カップ側壁30aとピストン側壁40aの隙間が大きくなり両者が接触しなくなる。
【0046】
図7(b)は、膨張剤カップ側壁30a上方にテーパを設けている。膨張剤カップ30は上部ほどテーパが大きくなり膨張剤カップ端面30dがピストン側壁40aに近接できるとともに膨張剤12が上方に向かって膨脹しやすくなる。下方はストレートであるがピストン側壁40aとの隙間を大きくできるのでお互い接触しない。
【0047】
図7(c)は、膨張剤カップ30の端面30dを円弧状に曲げてテーパを形成している。膨張剤カップ30は上部ほどテーパが大きくなり膨張剤カップ端面30dがピストン側壁40aに近接できるとともに膨張剤12が上方に向かって膨脹しやすくなる。又膨張剤カップ側壁30aとピストン側壁40aの隙間が大きくなりお互い接触しない。
【0048】
図7(d)は、膨張剤カップ30の底面30bに内部が空胴の中央ドーム33を設けている。膨張剤12は中央ドーム33の側壁33aに沿って膨脹しやすくなる。又中央ドーム33の容積分だけ膨張剤12を節約できる。中央ドーム33の空胴33aを通して水蒸気が浸入するので、中央ドーム33周辺の膨張剤12が膨脹しやすくなる。
【0049】
図7(a)、図7(b)、図7(c)、図7(d)の膨張剤カップ側壁30aテーパは金型プレスやヘラ絞りで形成できる。
【0050】
第4の解決手段は特許請求項4に示すように、前記膨張剤カップ30は両端開孔の円筒の底面30bに底蓋34を被せて形成されていることを特徴とする自動給脂器10である。
【0051】
図9に示すように膨張剤カップ30は鋼管を所用の長さに切断して形成している。鋼管には炭素鋼鋼管やステンレス鋼管などがあり、径や厚みを適宜選択して使用する。例えばステンレス鋼管には一般配管用ステンレス鋼管がある。呼径70Aは外径76.30mm、厚み1.5mmであり膨張剤カップとして適している。
【0052】
膨張剤カップ30の下側端面30eには底蓋34を設けて膨張剤12を充填できるようにしている。底蓋34は膨張剤12を充填する際に必要であり底板22に載置後は不要となるがそのまま残しておいてもよい。底蓋34の強度は膨張剤12を保持できればいいので、紙、プラスチック板、金属薄板などを使用できる。底蓋34は接着剤で端面30dに取付けることができる。底蓋34はピストン40と底板22にはさまれて固定されるので接着しなくてもよい。底蓋34に吸気孔34aを設ければ水蒸気の吸収がよくなり膨張剤12の膨脹を促進できる。
【0053】
図9(a)は膨張剤カップ30の上端30dにスペーサ32を設けて膨張剤12がこぼれないようにしている。図9(b)は膨張剤カップの上端30dにテーパを設けて膨張剤カップの上端30dとピストン側壁30aとの隙間を狭くして膨張剤12がこぼれないようにしている。底蓋34に円筒34aを設ければ底板の取付けが容易であり膨張剤12のこぼれを防止するとともに簡単に膨張剤カップ30に取付けることができる。
【符号の説明】
【0054】
10:自動給脂器
11:グリース
12:膨張剤
13:グリース室
14:膨張剤室
20:円筒容器
20a:端面
20b:側面
20c:開孔部
21:上蓋
21a:上面
21b:下面
21c:凹み
22:底板
22a:上面
22b:凹み
22c:通気孔
23:貫通孔
24:吐出管
24a:雌ネジ
24b:溶接
25:ボルト
26:ナット
27:グリースニップル
27a:雌ネジ
28:透明体
29:Oリング
30:膨張剤カップ
30a:側面
30b:底面
30c:吸気孔
30d:上端
30e:下端
31:受け座
31a:吸気孔
32:スペーサ
33:中央ドーム
33a:側壁
34:底蓋
34a:吸気孔
40:ピストン
40a:側面
40b:吸気孔
40c:マーキング
50:グリース容器
50a:下部
51:排出管
51a:雄ネジ
60:シール板
60a:溝
60b:外周側面
61:Oリング
70:調整板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9