(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096010
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】エピラム剤で被覆された表面を含む基材およびそのような基材をエピラムコーティングする方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240704BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240704BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20240704BHJP
C08F 220/22 20060101ALI20240704BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240704BHJP
G04B 31/08 20060101ALN20240704BHJP
【FI】
B32B27/00 Z
C09D133/14
C08F220/18
C08F220/22
C23C26/00 A
G04B31/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023209989
(22)【出願日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】22217090.4
(32)【優先日】2022-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】エヤー、 マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ルトンドール、 クリストフ
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
4J100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA16B
4F100AA17B
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AA37B
4F100AB01B
4F100AB03B
4F100AB11B
4F100AD05B
4F100AD08B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK25A
4F100AK25J
4F100AL01A
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4F100AL03A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100JB04
4J038CG131
4J038GA03
4J038GA06
4J038GA07
4J038GA12
4J038GA13
4J038GA14
4J038GA15
4J038NA04
4J038PB02
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4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100BA02P
4J100BA02Q
4J100BA08P
4J100BA15P
4J100BB12P
4J100BB18P
4J100BC54Q
4J100CA04
4J100FA03
4J100JA01
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA21
4K044BB01
4K044CA53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境上の理由で規制されないエピラム剤を提供する。
【解決手段】単位Mと単位Nを含む共重合体の形態の化合物を含むエピラム剤で被覆された表面を含む基材が提供され、Mは
であり、Nは
であり、R
1とR
2はH、C
1-C
10アルキル基、C
2-C
10アルケニル基であり、XとYはスペーサーアームであり、Aは基材に対するアンカリング基であり、Lはハロゲン化エーテル基である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がエピラム剤で被覆された表面を含む基材であって、前記エピラム剤が、主鎖を介した共有結合により結合された単位Mおよび単位Nを含む共重合体の形態の少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とし、ここで、
Mは
【化1】
であり、
Nは
【化2】
であり、式中、
R
1およびR
2は、同一であっても異なっていてもよく、H、C
1~C
10アルキル基、C
2~C
10アルケニル基、好ましくはHまたはCH
3であり、
XおよびYは、同一であっても異なっていてもよく、ヘテロ原子からなるか、または、少なくとも1つのヘテロ原子を含有し少なくとも1つの炭素原子を含む直鎖状または分岐状の炭化水素鎖からなる、スペーサーアームであり、
Aは、同一であっても異なっていてもよく、前記基材に対するアンカリング基を形成し、
Lは、同一であっても異なっていてもよく、下記式(I)
【化3】
によるハロゲン化エーテル基であり、式中、
Qはハロゲン原子であり、
Pは、同一であっても異なっていてもよく、少なくとも1つのハロゲン原子を含み直鎖状または分岐状であるC
1~C
10アルキル基またはC
2~C
10アルケニル基であり、
pは、1~4の間、好ましくは2~3の間で選択され、
nは、1~20の間、好ましくは1~10の間で選択される、
基材。
【請求項2】
前記共重合体がランダム共重合体であり、単位Mおよび単位Nがランダムに分布していることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
前記共重合体が、その主鎖を介した共有結合によって結合された単位Mの少なくとも1つのブロックと、その主鎖を介した共有結合によって結合された単位Nの少なくとも1つのブロックとを含むブロック共重合体であり、前記ブロックは、直線的配列においてその主鎖を介した共有結合によって互いに結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項4】
Lが、少なくとも部分的にフッ素化され、好ましくは完全にフッ素化されたエーテル基であることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項5】
Aが、グリシジル、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、ハロゲン化シラン、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、窒素複素環、カルボン酸、無水物、およびカテコールを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項6】
同一であっても異なっていてもよいXおよびYが、C1~C20エステル基、アミド基、およびスチレン由来基を含む群から選択されることを特徴とし、同一であっても異なっていてもよいXおよびYは任意で少なくとも1つのヘテロ原子を含んでもよい、請求項1に記載の基材。
【請求項7】
単位N/単位M比が1~20の間であることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項8】
前記共重合体が、その主鎖を介した共有結合によって単位MおよびNと結合された単位Vをさらに含むことを特徴とし、ここでVは
【化4】
であり、式中、
R
4は、同一であっても異なっていてもよく、H、C
1~C
10アルキル基、C
2~C
10アルケニル基、好ましくはHまたはCH
3であり、
Zは、同一であっても異なっていてもよく、ヘテロ原子からなるか、または、少なくとも1つの炭素原子を含み少なくとも1つのヘテロ原子を含有する直鎖状または分岐状の炭化水素鎖からなる、スペーサーアームであり、
Tは、同一であっても異なっていてもよく、エピラムコーティング浴中のエピラム剤の濃度を測定するために配置されたトレーサー基である、
請求項1に記載の基材。
【請求項9】
同一であっても異なっていてもよいTは、UV吸収剤基またはフルオロフォアであることを特徴とする、請求項8に記載の基材。
【請求項10】
少なくとも一部が前記エピラム剤で被覆されているその表面が、金属、金属酸化物、ポリマー、サファイア、ルビー、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン炭化物、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、およびそれらの合金を含む群から選択される材料で作られていることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項11】
基材の表面の少なくとも一部をエピラムコーティングする方法であって、
先行請求項に記載の少なくとも1つの共重合体を含むエピラム剤を調製する工程、
任意で、前記基材の表面を調製する工程、
前記基材の表面を前記エピラム剤に接触させる工程
を含む、方法。
【請求項12】
前記エピラム剤の調製は、前記単位Mを形成することができるモノマーと前記単位Nを形成することができるモノマーとの共重合によって行われることを特徴とし、好ましくは、前記モノマーは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニル、およびスチレンのモノマーを含む群から選択される、請求項11に記載のエピラムコーティングする方法。
【請求項13】
前記エピラム剤が請求項8または9に記載の少なくとも一つの共重合体を含み、前記エピラム剤は、前記エピラム剤を含有するエピラムコーティング浴を調製することにより調製され、前記エピラムコーティング浴中で前記基材の表面が前記エピラム剤に接触されることを特徴とし、前記方法は任意で、前記接触前に、前記トレーサー基を用いて前記エピラムコーティング浴中の前記エピラム剤の濃度を制御する工程と、任意で前記エピラムコーティング浴中の前記エピラム剤の濃度を再調整する工程とを含む、請求項11に記載のエピラムコーティングする方法。
【請求項14】
前記基材の表面を前記エピラム剤に接触させる工程が、
前記基材および前記エピラム剤をエンクロージャー内に周囲環境圧にて配置する工程、
前記エンクロージャーを密閉する工程、
25バール~74バール、好ましくは45バール~70バールの圧力、および10℃~80°C、好ましくは15℃~50℃の温度におけるCO2を、前記密閉されたエンクロージャー内に導入する工程、
前記エンクロージャー内の圧力を低減する工程、および
前記エンクロージャーから、エピラムコーティングされた基材を取り出す工程
を含むことを特徴とする、請求項11に記載のエピラムコーティングする方法。
【請求項15】
基材の表面の少なくとも一部のエピラム剤としての、主鎖を介した共有結合によって結合された単位Mおよび単位Nを含む共重合体の使用であって、ここで、
Mは
【化5】
であり、
Nは
【化6】
であり、式中、
R
1およびR
2は、同一であっても異なっていてもよく、H、C
1~C
10アルキル基、C
2~C
10アルケニル基、好ましくはHまたはCH
3であり、
XおよびYは、同一であっても異なっていてもよく、ヘテロ原子からなるか、または、少なくとも1つのヘテロ原子を含有し少なくとも1つの炭素原子を含む直鎖状または分岐状の炭化水素鎖からなる、スペーサーアームであり、
Aは、同一であっても異なっていてもよく、前記基材に対するアンカリング基を形成し、
Lは、同一であっても異なっていてもよく、下記式(I)
【化7】
によるハロゲン化エーテル基であり、式中、
Qはハロゲン原子であり、
Pは、同一であっても異なっていてもよく、少なくとも1つのハロゲン原子を含み直鎖状または分岐状であるC
1~C
10アルキル基またはC
2~C
10アルケニル基であり、
pは1~10の間で選択され、nは1~20の間で選択される、
使用。
【請求項16】
請求項1に記載の基材を含む構成要素を含む、時計または宝飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部がエピラム(epilame)剤で被覆された表面を含む基材に関する。本発明はまた、そのような基材をエピラムコーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の表面特性を特異的に向上させるために、適切な薬剤による処理によって基材の表面状態を改変するための種々の方法がある。例えば、機械の分野、特に時計製造の分野、また宝飾の分野でも、エピラム剤による部品または構成要素の表面のエピラムコーティングが、使用中のその表面の表面エネルギーを制御および低減するためにしばしば行われる。より具体的には、エピラム剤の目的は、潤滑剤が処理表面の所定の位置に留まれるようにする疎水性および疎油性の表面を形成することによって、油または潤滑剤が時計または宝飾品の構成要素上に広がるのを防止することである。
【0003】
しかしながら、現在エピラムコーティングに使用されている物質は、多くの欠点を有する。例えば、Moebius(登録商標)社のFixodrop(登録商標)ES/BSや3M(商標)社のNovec(商標)シリーズのようなエピラム剤は、時計洗浄に十分な耐性を持たない。
【0004】
特許出願US2012/0088099は、鎖の末端にカテコール官能基を有するエピラム剤の使用を提案することにより、この問題の部分的な解決策を提供する。このカテコール官能基は、ある種の基材の表面にしっかりと付着することができるが、金や鋼のような時計製造や宝飾品の分野で非常に一般的な基材については、時計製造洗浄に対する耐性を向上させることはできない。その結果、既知のエピラム剤の使用は一般的に特定の材料に限定され、ユーザーは処理される表面の性質に応じて異なるタイプのエピラム剤を利用する必要がある。
【0005】
この問題に対する1つの解決策は、例えば、特許出願WO 2012/085130に記載されている。この解決策は、エピラム組成物として、相乗効果で基材へのエピラムの接着を促進する異なる性質(チオールおよびビホスホン)の化合物の混合物を使用することから成る。しかし、これらの化合物のそれぞれの合成には少なくとも4つのステップが必要であるため、エピラム組成物全体としての合成方法は長く複雑である。
【0006】
別の解決策が、例えば特許EP 3 070 133およびEP 3 070 152に記載されている。特許EP 3 070 133は、フッ素化モチーフ、アンカリングモチーフ、および任意で追加の炭化水素鎖を含むランダム共重合体を含むエピラム剤を記載している。EP 3 070 152は、フッ素化モチーフ、アンカリングモチーフ、および任意で追加の炭化水素鎖を含むブロック共重合体を含むエピラム剤を記載している。特に、-C5F11および-C6F13型のフッ素化モチーフが記載されている。
【0007】
しかしながら、ペルフルオロヘキサン酸(PFHxA、CAS 307-24-4)、その塩および関連物質は、環境上の理由から一般的な規制圧の下にある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、特に、公知のエピラム剤およびエピラムコーティング方法の種々の欠点を克服することである。
【0009】
より具体的には、本発明の一目的は、環境上の理由で一般的な規制圧力下にないと考えられるエピラム剤を提供することである。
【0010】
また、本発明の一目的は、既知のエピラム剤と比較して高い耐洗浄性を有するエピラム剤を提供することである。また、あらゆるタイプの材料に使用できる汎用エピラム剤を提供することも本発明の目的である。
【0011】
本発明の別の目的は、大量の汚染性フッ素化溶剤の使用を排除することを可能にする環境に優しいエピラムコーティング方法を提供することである。本発明の別の目的は、大量の高価なフッ素化溶剤の使用を排除することを可能にする経済的なエピラムコーティング方方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、エピラムコーティング方法全体をより堅牢にするために、経時的にエピラム剤の濃度を正確に測定することを可能にするエピラム剤およびエピラムコーティング方法を提供することである。
【0013】
この目的のために、本発明の第1の態様は、少なくとも一部が特許請求の範囲に記載のエピラム剤で被覆された表面を含む、基材に関する。
【0014】
本発明によれば、エピラム剤は単位Mと単位Nとを含む共重合体の形態の少なくとも1つの化合物を含む。これらの単位Mおよび単位Nは、主鎖を介した共有結合により結合されている。
【0015】
本発明によれば、Mは
【化1】
であり、ここで、
R
1は、同一であっても異なっていてもよく、H、C
1~C
10アルキル基またはC
2~C
10アルケニル基であり、好ましくはHまたはCH
3であり、
Yは、同一であっても異なっていてもよく、ヘテロ原子からなるか、または、少なくとも1つの炭素原子を含む、少なくとも1つのヘテロ原子を含有する直鎖状または分岐状の炭化水素鎖からなる、スペーサーアームであり、
Aは、同一であっても異なっていてもよく、基材に対するアンカリング(anchoring)基を形成する。
【0016】
有利には、Yは、同一であっても異なっていてもよく、C1~C20エステル基、アミド基、およびスチレン由来基からなる群から選択される。任意で、Yは、同一であっても異なっていてもよく、少なくとも1つのヘテロ原子を含む。
【0017】
有利には、Aは、グリシジル、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、ハロゲン化シラン、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、窒素複素環、カルボン酸、無水物およびカテコールを含む群から選択される。
【0018】
本発明によれば、Nは
【化2】
であり、ここで、
R
2は、同一であっても異なっていてもよく、H、C
1~C
10アルキル基またはC
2~C
10アルケニル基であり、好ましくはHまたはCH
3であり、
Xは、同一であっても異なっていてもよく、ヘテロ原子からなるか、または、少なくとも1つの炭素原子を含み少なくとも1つのヘテロ原子を含有する直鎖状または分岐状の炭化水素鎖からなる、スペーサーアームであり、
Lは、同一であっても異なっていてもよく、式 (I) によるハロゲン化エーテル基であり、
【化3】
ここで、Qはハロゲン原子であり、
Pは、同一であっても異なっていてもよく、少なくとも1つのハロゲン原子を含み直鎖状または分岐状であるC
1~C
10アルキル基またはC
2~C
10アルケニル基であり、
pは1~4の間、好ましくは2~3の間で選択され、
nは1~20の間、例えば1~16の間、好ましくは1~10の間で選択される。
【0019】
有利には、
好ましくは、同一であっても異なっていてもよいXは、C1~C20エステル基、アミド基、およびスチレン由来基を含む群から選択される。任意で、同一であっても異なっていてもよいXは、少なくとも1つのヘテロ原子を含む。
【0020】
有利には、Lは、少なくとも部分的にフッ素化された、例えば完全にフッ素化された、エーテル基である。本開示で使用される「完全にフッ素化された」という用語は、各水素原子がフッ素原子に置き換えられたエーテル基を示す。
【0021】
有利には、共重合体はランダム共重合体である。有利には、単位Mおよび単位Nはランダムに分布する。有利には、共重合体はランダム共重合体であり、単位Mおよび単位Nがランダムに分布する。
【0022】
あるいは、また有利には、共重合体はブロック共重合体である。有利には、ブロック共重合体は、主鎖を介した共有結合によって結合された単位Mの少なくとも1つのブロックと、主鎖を介した共有結合によって結合された単位Nの少なくとも1つのブロックとを含む。有利には、ブロックは、直線的配列において主鎖を介した共有結合によって互いに結合されている。
【0023】
有利には、単位N/単位M比は、1~20の間、例えば2~18の間、または5~15の間である。
【0024】
有利には、そして任意で、本開示による共重合体は、さらに単位Vを含む。有利には、単位Vは、主鎖を介した共有結合によって単位MおよびNと結合される。有利には、Vは、
【化4】
であり、ここで、
R
4は、同一であっても異なっていてもよく、H、C
1~C
10アルキル基、C
2~C
10アルケニル基、好ましくはHまたはCH
3であり、
Zは、同一であっても異なっていてもよく、ヘテロ原子からなるか、または、少なくとも1つの炭素原子を含み少なくとも1つのヘテロ原子を含有する直鎖状または分岐状の炭化水素鎖からなる、スペーサーアームであり、
Tは、同一であっても異なっていてもよく、エピラムコーティング浴中のエピラム剤の濃度を測定するために配置されたトレーサー基である。
【0025】
有利には、同一であっても異なっていてもよいTは、UV吸収剤基またはフルオロフォアである。
【0026】
有利には、少なくとも一部がエピラム剤で被覆された基材の表面は、金属、金属酸化物、ポリマー、サファイア、ルビー、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン炭化物、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、およびそれらの合金を含む群から選択される材料で作られている。
【0027】
本発明の第2の態様は、添付の特許請求の範囲に記載の、基材の表面の少なくとも一部をエピラムコーティングする方法に関する。
【0028】
本発明のエピラムコーティング方法は、上記に定義された少なくとも1つの共重合体を含むエピラム剤を調製することを含む。任意で、エピラムコーティング方法は、基材の表面を調製することをさらに含む。エピラムコーティング方法は、基材の表面をエピラム剤と接触させることをさらに含む。
【0029】
有利には、単位Mを形成することができるモノマーと、単位Nを形成することができるモノマーとの共重合によってエピラム剤が調製される(エピラム剤の調製が行われる)。有利には、単位Mおよび単位Nは上述したとおりのものである。有利には、モノマーは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルおよびスチレンのモノマーを含む群から選択される。
【0030】
エピラムコーティング方法の一実施形態によれば、エピラム剤は、そのエピラム剤を含むエピラムコーティング浴を調製することによって調製される。そして、例えば基材をエピラムコーティング浴に浸漬することによって、基材の表面の少なくとも一部が、エピラムコーティング浴中のエピラム剤と接触される。
【0031】
このエピラム剤の調製は、エピラム剤が、その主鎖を介した共有結合により単位MおよびNと結合された単位Vをさらに含む少なくとも1つの共重合体を含む場合に特に好適である。有利には、単位Vは上述したとおりのものである。単位Vの存在、特にトレーサー基の存在は、有利に、そして任意で、接触させることの前にエピラムコーティング浴中のエピラム剤の濃度を制御することを可能にする。任意で、そしてエピラム剤の濃度を制御した後に、エピラムコーティング浴中のエピラム剤の濃度を再調整することができる。
【0032】
エピラムコーティング方法の別の実施形態によれば、基材とエピラム剤をエンクロージャー(enclosure)内に周囲環境圧にて配置することによって、基材の表面をエピラム剤と接触させ、続いてエンクロージャーを密閉する。次に、25バール~74バール、好ましくは45バール~70バールで構成される圧力、および10℃~80℃、好ましくは15℃~50℃で構成される温度におけるCO2を、密閉されたエンクロージャー内に導入する。その後、エンクロージャー内の圧力を下げ、エピラムコーティングされた基材をエンクロージャーから取り出す。
【0033】
本発明の第3の態様は、基材の表面の少なくとも一部のエピラム剤として、その鎖を介した共有結合によって結合した単位Mおよび単位Nを含む共重合体を使用することに関する。単位Mおよび単位Nは上述したとおりである。
【0034】
本発明は、さらに、本は発明の第1の態様の基材を含む構成要素を含む時計または宝飾品に関する。
【0035】
本発明によるエピラム剤の利点の1つは、高性能なエピラム効果を提供しながら、環境上理由による規制圧力を受けないことである。もう1つの利点は、洗浄、特に時計製造時の洗浄に耐性があることである。
目的、利点および特徴は、以下の図面に示されているが、これらの図面は限定的なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、パーフルオロエーテルモノマーの構造を示す。
【
図2】
図2は、アンカリング基を含むモノマーの構造を示す。
【
図3】
図3は、本発明に係るエピラム共重合体の構造を示す。
【
図4】
図4は、本発明に係るエピラム剤で表面が覆われた異なる基材上で測定した接触角を示す。
【
図5】
図5は、C6F13型エピラム剤で表面が覆われた異なる基材上で測定した接触角を示す。
【
図6】
図6は、競合するエピラム剤で表面が覆われた異なる基材上で測定した接触角を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明によれば、基材は、少なくとも一部がエピラム剤で被覆された表面を含む。有利には、基材の少なくともその表面、および任意で基材全体が、金属、金属酸化物、ポリマー、サファイア、ルビー、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン炭化物、ダイヤモンドライクカーボン (DLC) 、およびそれらの合金を含む群から選択される材料で作られている。
【0038】
より具体的には、基材の表面は、鋼、または金、ロジウム、パラジウム、プラチナ、もしくはそれらの2つ以上の組み合わせのような貴金属、または、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、銀、タングステン、もしくはそれらの2つ以上の組み合わせでドープされているかどうかにかかわらず、金属酸化物、またはポリオキシメチレンもしくはアクリルアミド、ないしそれらの合金を含むか、またはそれらで作られることができる。
【0039】
有利には、本発明において、基材は、時計または宝飾品の構成要素の基材である。
【0040】
有利には、同一であっても異なっていてもよいX基は、C1~C20エステル基、好ましくはC2~C10エステル基、より好ましくはC2~C6エステル基、さらに好ましくはC2~C5エステル基、好ましくは直鎖アルキルエステル基、アミド基およびスチレン由来基を含む群から選択される。
【0041】
有利には、同一であっても異なっていてもよいY基は、好ましくは直鎖状の、C1~C20、好ましくはC2~C10、より好ましくはC2~C6、さらに好ましくはC2~C5のエステル基、好ましくはアルキルエステル基、アミド基およびスチレン由来基を含む群から選択される。
【0042】
有利には、共重合体は、少なくとも2つの異なるA基を含む。目的とする官能基Aは、基材の表面上にエピラム剤を固定(anchoring)するための基を形成するように、エピラムコーティングされる基材の表面と反応することができる。有利には、A基は、共重合体の末端にも提供され得る。
【0043】
目的の官能基Lは、エピラム効果に寄与する。これらは少なくとも1つのハロゲン原子Qを含む。有利には、同一であっても異なっていてもよいハロゲン原子Qは、フッ素原子、ヨウ素原子、臭素原子または塩素原子である。好ましくは、ハロゲン原子はフッ素原子である。L基がいくつかのハロゲン原子を含む場合、それらの原子は同一であっても異なっていてもよい。有利には、L基のすべてのハロゲン原子Qがフッ素原子である。
【0044】
目的の官能基Lは、P基も含む。同一であっても異なっていてもよいP基は、有利には、C1~C10アルキル基、C2~C10アルケニル基またはC2~C10アルキニル基である。P基は有利には、少なくとも1つのハロゲン原子を含む。有利には、同一であっても異なっていてもよいハロゲン原子は、フッ素原子、ヨウ素原子、臭素原子または塩素原子である。好ましくは、ハロゲン原子はフッ素原子である。P基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0045】
有利には、P基は、C1~C10ペルフルオロアルキル基、好ましくはC1~C6ペルフルオロアルキル基、例えば、CF3、C2F5、C3F7またはC4F9のようなC1~C4ペルフルオロアルキル基である。
【0046】
有利に、かつ代替的に、P基は、C2~C10ペルフルオロアルケニル基、好ましくはC2~C6ペルフルオロアルケニル基、例えばC2F3、C3F5およびC4F7のようなC2~C4ペルフルオロアルケニル基である。
【0047】
有利に、かつ代替的に、P基は、C2~C10ペルフルオロアルキニル基、好ましくはC2~C6ペルフルオロアルキニル基、例えばC2F、C3F3およびC4F5のようなC2~C4ペルフルオロアルキニル基である。
【0048】
有利には、目的の官能基Lにおいて、pは、1~4の間、好ましくは2~3の間で選択される。
【0049】
有利には、目的の官能基Lにおいて、nは、1~20の間、例えば1~16の間、好ましくは1~10の間、例えば2~8の間で選択される。
【0050】
本発明における好ましい目的の官能基Lは、構造(CF(CF3)OCF2)nCF2CF3で表され、即ち、Qはフッ素 (F) 原子、PはCF3、pは2である。より具体的には、L基の好ましい構造は(CF(CF3)OCF2)5CF2CF3であり、即ち、Qはフッ素 (F) 原子、PはCF3、pは2、nは5である。
【0051】
本発明で好ましく用いられる共重合体の1つは、以下の構造 (II) を有する。
【化5】
【0052】
換言すれば、この共重合体において、XはC(O)O(CH2)2OC(O)であり、YはC(O)Oであり、Pはフッ素 (F) であり、QはCF3であり、pは2であり、Lが(CF(CF3)OCF2)nCF2CF3であることを示す。好ましくは、構造 (II) で表される共重合体において、同一であっても異なっていてもよいR1およびR2は、HまたはCH3である。
【0053】
構造 (II) で表される共重合体の特定の例は、限定されないが、nが5であり、R1がHであり、R2がCH3であり、AがCH2(CHCH2O)であり、m/p比が9である共重合体である。
【0054】
任意で、共重合体は、少なくとも1つの単位Uをさらに含むことができ、ここでUは、
【化6】
であり、ここで、
R
3は、同一であっても異なっていてもよく、H、C
1~C
10アルキル基またはC
2~C
10アルケニル基であり、好ましくはHまたはCH
3であり、
R
5は、同一であっても異なっていてもよく、H、CH
3、少なくとも2個の炭素原子を含み少なくとも1個のヘテロ原子を含有することができる直鎖状または分岐状、飽和または不飽和炭化水素鎖である。
【0055】
有利には、共重合体が少なくとも1つの単位Uを含む場合、単位Uと単位Mと単位Nは、それらの主鎖を介した共有結合によって結合されている。
【0056】
有利には、目的の官能基R5は、エピラム剤の特性を改変することおよび/または他の機能を提供することを可能にする。例えば、R5は、得られた接触角を改変するために使用されるアルキル鎖であり得、または相補的架橋ステップの際に架橋点を形成することができる鎖であり得る。
【0057】
有利には、単位N/単位M比は1~20の間、好ましくは2~18の間、例えば5~15の間、または7~12の間、例えば8、9、10若しくは11である。
【0058】
有利には、共重合体は、0.1%~50%、好ましくは5%~30%、より好ましくは5%~20%の単位Mを含み、このパーセンテージは、共重合体中の単位の総数に関して表される。有利には、共重合体は、1%~99.9%、好ましくは50%~99.9%、より好ましくは80%~95%の単位Nを含み、このパーセンテージは、共重合体中の単位の総数に関して表される。有利には、共重合体は、0%~50%、好ましくは0%~30%、より好ましくは0%~10%の単位Uを含み、このパーセンテージは、共重合体中の単位の総数に関して表される。
【0059】
任意で、共重合体は、少なくとも1つの単位Vをさらに含むことができ、ここで、Vは上述の通りである。有利には、共重合体が少なくとも1つの単位Vを含む場合、単位Vと単位Mと単位Nは、それらの主鎖を介した共有結合によって結合されている。
【0060】
有利には、同一であっても異なっていてもよいZ基は、C1~C20エステル基、好ましくはC2~C10エステル基、より好ましくはC2~C6エステル基、さらに好ましくはC2~C5エステル基、好ましくは直鎖アルキルエステル基、アミド基およびスチレン由来基を含む群から選択される。
【0061】
有利には、T基は、例えば、分光法による共重合体濃度の測定に用いることができる。
【0062】
有利には、同一であっても異なっていてもよいTは、ベンゾトリアゾール、トリアジン、フェノン(特にベンゾフェノン、アセトフェノン、ヒドロキシアルキルフェノン、ヒドロキシアリールフェノン、アミノアルキルフェノン、およびアントラキノン)およびアシルホスフィンオキシドを含む群から選択される化合物に由来するUV吸収剤基である。
【0063】
有利には、同一であっても異なっていてもよいTは、フルオロセイン、ナフチル、アントラセン、クマリン、ローダミンおよびフルオロベンゾエートを含む群から選択される化合物に由来するフルオロフォア基である。
【0064】
有利には、共重合体は、5単位から500単位、好ましくは10単位から350単位を含む。
【0065】
共重合体は、ランダム共重合体またはブロック共重合体であり得る。
【0066】
有利には、共重合体がランダム共重合体である場合、単位M、N、任意の単位V、および任意の単位Uはランダムに分布する。言い換えると、単位は主鎖を介して統計的に互いに結合している。
【0067】
有利には、共重合体がブロック共重合体である場合、共重合体は、主鎖を介した共有結合によって結合された単位Mの少なくとも1つのブロックと、主鎖を介した共有結合によって結合された単位Nの少なくとも1つのブロックとを含む。好ましくは、ブロック共重合体は、単位Mの単一ブロックおよび/または単位Nの単一ブロックを含む。
【0068】
任意で、ブロック共重合体は、それらの主鎖を介した共有結合によって結合された単位Vの少なくとも1つのブロックをさらに含む。好ましくは、また任意で、ブロック共重合体は単位Vの単一のブロックを含む。
【0069】
任意で、単位Mのブロック、単位Nのブロック、および任意の単位Vのブロックのうちの少なくとも1つは、それらの主鎖を介した共有結合によって結合された少なくとも1つの単位Uを任意選択的に含む。有利には、ブロックは、直線的配列においてそれらの主鎖を介した共有結合によって互いに結合される。ブロック共重合体が、少なくとも1つの単位Uをさらに含む場合、単位Mのブロック、単位Nのブロック、および任意の単位Vのブロックのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの単位Uを含み、単位Mのブロック内の単位Uの数は、単位Nのブロック内の単位Uの数および単位Vのブロック内の単位Uの数(後者がブロック共重合体に含まれる場合)によって変化し得る。
【0070】
好ましくは、単位Uは、例えば単位Uと単位Nとの統計的共重合によって単位Nを主とする単一のブロックを形成し単位Nのブロックに同化することによって、単位Nから構成されるブロック内に統合され分配される。
【0071】
本発明はまた、基材の表面の少なくとも一部をエピラムコーティングするための方法であって、エピラム剤を調製すること、任意で基材の表面を調製すること、および該基材の表面をエピラム剤と接触させることを含む方法に関する。
【0072】
有利には、エピラム剤の調製は、単位Mを形成することができるモノマーと、単位Nを形成することができるモノマーと、任意で少なくとも1つの単位Vを形成することができるモノマーと、任意で少なくとも1つの単位Uを形成することができるモノマーとの共重合を含む。
【0073】
有利には、モノマーは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニル、ジエン、スチレンおよびオレフィンのモノマーを含む群から選択される。
【0074】
トレーサー基Tを含む単位Vを形成するための特に好ましいモノマーは、2-H-ベンゾトリアゾール-2-イル-ヒドロキシフェニルエチルメタクリレート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(2-プロペニル)フェノール、2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート、4-アリルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ナフチル(メタ)アクリレート、フルオレセインO-(メタ)アクリレート、9-アントラセニルメチル(メタ)アクリレート、エチジウムブロミド-N,N’-ビスアクリルアミド、N-(1-ナフチル)-N-フェニルメタクリルアミド、および7-[4-(トリフルオロメチル)クマリン]メタクリルアミドを含む群から選択される。このようなモノマーは市販されており、重合可能である。
【0075】
さらに好ましくは、トレーサー基Tを含む単位Vを形成するためのモノマーは、2-H-ベンゾトリアゾール-2-イル-ヒドロキシフェニルエチルメタクリレート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(2-プロペニル)フェノール、2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート、および4-アリルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノンを含む群から選択される。これらのモノマーは、工業環境で設定することが蛍光分光法よりもはるかに容易なUV-可視分光法によってモニターすることができるトレーサー基を含む。
【0076】
重合技術は当業者に知られるものを含む。任意で、共重合は、限定されないがアゾビスイソブチロニトリル (AIBN) などの開始剤の存在下で行われる。任意で、共重合は高温で行われる。
【0077】
本発明で使用される共重合体は、粉末または粘性液体形態で得ることができる。
【0078】
ランダム共重合体を得るための特に適切な重合方法は、溶液またはエマルジョン中での、フリーラジカル共重合である。
【0079】
ブロック共重合体を得るための特に適切な重合方法は、
・単位Mの少なくとも1つのブロックを形成することができるモノマーであって、任意で少なくとも1つの単位Uを形成することができるモノマーを伴うもの、
・単位Nの少なくとも1つのブロックを形成することができるモノマーであって、任意で少なくとも1つの単位Uを形成することができるモノマーを伴うもの(Uは同一または異なる)、および
・任意で、単位Vの少なくとも1つのブロックを形成することができるモノマーであって、任意で少なくとも1つの単位Uを形成することができるモノマーを伴うもの(Uは同一または異なる)
の連続制御ラジカル共重合である。
【0080】
第1の共重合モードによれば、共重合体は、側鎖Y-Aを有するモノマーと、側鎖X-Lを有するモノマー、任意で側鎖Z-Tを有するモノマー、および任意で側鎖R5を有するモノマーとの共重合、好ましくはラジカル共重合によって、1段階で得ることができる。
【0081】
別の共重合方法によれば、共重合体は、適切な側鎖Yを有するモノマーと、適切な側鎖Xを有するモノマー、任意で適切な側鎖Zを有するモノマー、および任意でR5を有することを意図した側鎖を有するモノマーとの共重合、好ましくはラジカル共重合によって得ることができ、次いで、例えば「クリックケミストリー」によって側鎖を修飾して、目的の官能基A、L、T(任意)およびその中のR5基(任意)を導入する。
【0082】
有利には、共重合がラジカル共重合である場合、ランダム共重合体を得るためにラジカル共重合は「フリー」型である。好ましくは、ラジカル共重合は、ブロック共重合体を得るために「制御」型である。
【0083】
任意の、基材の表面の調製は、エピラムコーティングされる表面のクリーニングおよび/または洗浄を含み得る。このようなクリーニングまたは洗浄は、当業者に知られる方法を用いて実施することができる。例えば、特に基材が時計部品である場合には、クリーニングは標準的な時計製造方法に従ってクリーニングすることを含み得る。
【0084】
あるいは、基材の表面の調製は、10℃~80℃の温度および25 bar~250 barの圧力での、例えば1分~60分の時間にわたる、CO2による処理を含み得る。有利には、このような処理は、粒子状ダストを除去し、表面を脱脂することを可能にする。
【0085】
有利には、エピラム剤溶液を得るために、ペルフルオロ化またはフッ素化炭化水素、ペルフルオロポリエーテル、ヒドロフルオロオレフィンまたはヒドロフルオロエーテルのようなフッ素化溶媒に、好ましくは50 mg/L~1 g/Lの濃度で、共重合体(複数可)を溶解する。
【0086】
エピラムコーティング方法の第1の実施形態によれば、そのようなエピラム剤溶液がその後、エピラムコーティング浴中で使用される。同じエピラムコーティング浴を数回使用することができる。有利には、同じエピラムコーティング浴が数回使用される場合、好ましくは基材の表面をエピラムコーティング浴中のエピラム剤と接触させる前に、エピラム剤の濃度を制御するための手段および任意でエピラム剤の濃度を維持するための手段が存在して、この濃度を経時的に制御し、任意で維持する。
【0087】
このような濃度制御手段は、共重合体中の、上述したような少なくとも1つの単位Vの存在を含み得る。換言すれば、上述したようなT基を含む少なくとも1つの単位Vが存在することにより、エピラムコーティング浴中のエピラム剤の濃度を制御することができる。
【0088】
有利には、T基がUV吸収剤基またはフルオロフォアである場合、エピラム剤の濃度は分光法(例えば吸光度測定)によって決定される。エピラムコーティング浴中のエピラム剤の濃度を制御するステップに先立つ中間ステップは、共重合体の検量線の生成を提供する。この目的のために、共重合体を溶媒中に異なる濃度で溶解し、各溶液について分光法により波長の関数としての吸光度を測定する。吸光度が最大となる波長を特定し、吸光度が最大となるその波長で検量線A=F(濃度)をプロットする。それから、ポリマーのモル吸光係数を推定できる(Beer Lambertの法則A=εcl)。
【0089】
そうすると、エピラムコーティング浴中のエピラム剤の濃度を制御するためには、浴溶液の吸光度を分光学的に測定し、それから、先に確立した検量線を用いて浴中のエピラム剤の濃度を推定すれば足りる。それから結果に応じて、追加のエピラム剤を浴に添加して濃度を正確に調整することができる。
【0090】
基材の表面がエピラム剤と接触させられた後、本発明によるエピラムコーティング方法は、エピラムコーティングされた表面を乾燥する工程をさらに含み得る。
【0091】
エピラムコーティング方法の第2の実施形態によれば、上述したようなエピラム剤溶液が、エンクロージャーの中で使用される(配置されることを含む)。あるいは、エピラム剤を純粋な形態でエンクロージャー内に配置することもできる。
【0092】
有利には、基材とエピラム剤を、周囲環境圧すなわち0.6バール~1.1バールの圧力でのエンクロージャー内に配置し、続いてエンクロージャーを密閉する。
【0093】
次いで、密閉されたエンクロージャー内にCO2を導入する。有利には、CO2が1分~30分、好ましくは1分~20分、より好ましくは3分~15分の時間にわたり導入される。
【0094】
有利には、CO2は25バールから74バール、好ましくは45バールから70バール、より好ましくは50バールから60バールの間で構成される圧力である。
【0095】
有利には、CO2の温度は10℃から80℃、好ましくは10℃から60℃、より好ましくは15℃から50℃の間で構成される。
【0096】
その後、CO2の導入が停止され、エンクロージャー内の圧力が低減される。有利には、圧力は周囲環境圧力すなわち0.6バール~1.1バールの圧力まで低下する。
【0097】
次に、エピラム基材をエンクロージャーから取り出す。
【0098】
任意で、エンクロージャーの圧力が下がりエピラムコーティングされた基材がエンクロージャーから取り出された後、エピラムコーティングされた基材を熱処理され得る。例えば、エピラムコーティングされた基材は、エンクロージャー内で、1分~45分、好ましくは2分~30分の時間にわたり、250℃~90℃、好ましくは30℃~80℃の温度に加熱され得る。このような熱処理は、処理された基材の表面へのエピラム剤の固定を改善することを可能にする。
【0099】
本発明によるエピラムコーティング方法は、基材の表面がエピラム剤と接触された後、相補的架橋の工程をさらに含むことができる。相補的な架橋は、単位Uの側鎖R5上に提供される適切な官能基の存在によって有利に可能とされる。
【実施例0100】
実施例1
ランダム共重合によりエピラム剤を製造し、パーフルオロエーテル共重合体を得た。
【0101】
第一工程では、パーフルオロエーテルアクリレートモノマー(「パーフルオロエーテルモノマー」)を合成した。パーフルオロ-2,5,8,11,14-ペンタメチル-3,6,9,12,15-ペンタオキサオクタデカノイルフルオリド(CAS 13252-15-8)をフッ化ナトリウムの存在下、室温で2-ヒドロキシエチルアクリレート(CAS 818-61-1)と反応させた。
図1は得られたモノマーを示し、ここでnは5、R
1はH(水素)である。
【0102】
次いで、パーフルオロエーテルアクリレートモノマーを、開始剤AIBNの存在下、
図2に示すグリシジルメタクリレート(AはCH
2(CHCH
2O)、R
2はCH
3(CAS 106-91-2))とランダム共重合により共重合した。
図3は得られたエピラム共重合体を示し、ここでnは5、R
1はH、R
2はCH
3、AはCH
2(CHCH
2O)であり、m/p比が9である。
【0103】
実施例2
エピラムコーティング浴を用いて、3種類のエピラム剤を、事前に表面調製処理した鋼基材表面に堆積した。第1のエピラムは、実施例1で合成した共重合体である。第2のエピラム剤は、エピラム基としてC6ペルフルオロアルキル基、すなわちC6F13基を含む。第3のエピラム剤は、メチルノナフルオロイソブチルエーテル(CAS 163702-08-7)、メチルノナフルオロブチルエーテル(CAS 163702-07-6)およびフッ素脂肪族ポリマーを含む競合エピラム剤である。
【0104】
エピラム剤の特性を評価するために種々の試験を行った。
【0105】
最初の試験として、表面エネルギーを測定した。当業者に知られるこの手順は、(Dataphysics社のOCA 15接触角測定装置を使用して)3液の液滴の接触角を測定することを含む。これらは水、ジヨードメタンおよびエチレングリコールであり、それぞれが非常に異なる表面張力を有する。得られた角度から、Owens, Wendt, Rabel and Kaelble(OWRK)法を用いて表面エネルギーを計算する。
【0106】
結果を表1に示す。表面調製手順を経たがエピラム剤を有さない鋼基材の表面は、34.95 mN/mの表面エネルギーを有した。すべてのエピラム剤は表面エネルギーの低減を示し、本発明のエピラム剤が最低値を示している。表面エネルギーが低いほど、疎油性が良好である。
【表1】
【0107】
実施例3
次に、実施例2の3種類のエピラム剤を、組成の異なるいくつかの基材に使用(適用)した。
【0108】
エピラム剤の性能を評価するために、試験油n°3およびMoebius(登録商標)オイル9010で接触角を測定した。両油の滴を堆積させ、光学装置(Dataphysics OCA 15)を用いて接触角を測定した。時計製造洗浄に対する耐性を評価するためには、基材を時計製造洗浄(アミン炭化水素溶液)に従って三回洗浄し、続いて接触角を測定した。
【0109】
各測定のターゲット値は次のとおりである。
・試験油n°3 ― 初期(洗浄前):60°。
・試験油n°3 ― 3回洗浄後:35°。
・オイル9010 ― 初期:70°。
・オイル9010 ― 3回洗浄後:45°。
【0110】
図4は、本発明の共重合体についての、異なる基材上の結果を示す。
図5はC
6F
13型エピラム剤についての結果を示し、
図6は競合エピラム剤についての結果を示す。
【0111】
図6から、いずれの基材についても、3回の洗浄の前後に各油のターゲット値が達成されていないことが明らかである。一方、オイル9010のターゲット値は、本発明の共重合体およびC
6F
13型エピラム剤で達成されている。油n°3のターゲット値は、これら二つのエピラム剤では特定の基材上で達成されている(
図4および
図5)。
前記共重合体が、その主鎖を介した共有結合によって結合された単位Mの少なくとも1つのブロックと、その主鎖を介した共有結合によって結合された単位Nの少なくとも1つのブロックとを含むブロック共重合体であり、前記ブロックは、直線的配列においてその主鎖を介した共有結合によって互いに結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
Aが、グリシジル、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、ハロゲン化シラン、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、窒素複素環、カルボン酸、無水物、およびカテコールを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
少なくとも一部が前記エピラム剤で被覆されているその表面が、金属、金属酸化物、ポリマー、サファイア、ルビー、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン炭化物、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、およびそれらの合金を含む群から選択される材料で作られていることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
前記エピラム剤が請求項8または9に記載の少なくとも一つの共重合体を含み、前記エピラム剤は、前記エピラム剤を含有するエピラムコーティング浴を調製することにより調製され、前記エピラムコーティング浴中で前記基材の表面が前記エピラム剤に接触されることを特徴とする、請求項11に記載のエピラムコーティングする方法。