(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096046
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】高温シーリング強度が保持又は増加されるセルパウチフィルム、その製造方法、それを用いた二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/131 20210101AFI20240704BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20240704BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20240704BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20240704BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20240704BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20240704BHJP
【FI】
H01M50/131
H01M10/04 Z
H01M50/129
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219368
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】10-2022-0189862
(32)【優先日】2022-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】523422299
【氏名又は名称】ユルチョン・ケミカル・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YOULCHON CHEMICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ノクチョン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ヒシク
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジウン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドゥヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ゴンリョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユハン
【テーマコード(参考)】
5H011
5H028
【Fターム(参考)】
5H011AA02
5H011BB03
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD13
5H028AA07
5H028BB05
5H028CC08
5H028EE01
5H028EE06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温でシーリング強度が保持又は増加されるセルパウチフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】セルパウチフィルムであって、少なくとも外層、バリア層、シーラント層が順次積層された積層体から構成されており、前記シーラント層はバリア層に押出により形成されたものであり、前記シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、シーラント層の結晶化度が28~32%であるセルパウチフィルム、その製造方法、それを用いた二次電池、及びその製造方法が開示される。当該パウチフィルムは、高温でシーリング強度が保持又は増加でき、これにより高温安定性に優れることで高温環境でのバッテリーの使用中でも電解液の漏液を防止し且つ不良が少なくてバッテリーの安全性を確保することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルパウチフィルムであって、
少なくとも外層、バリア層、シーラント層が順次積層された積層体から構成されており、
前記シーラント層はバリア層にノンラミネーション押出により形成されたものであり、
前記シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、
下記の方法で測定したシーラント層の結晶化度が28~32%であることを特徴とするセルパウチフィルム。
[結晶化度の測定方法]
・セルパウチフィルムから剥離されたシーラント層を、DSC装備を用い、その結晶化度を温度範囲-50℃~200℃、昇温速度10℃/min、冷却速度-20℃/minで測定する。
・結晶化度の値は、結晶化温度(Tc)でのエンタルピー値(ΔH(J/g))をイソポリプロピレン(Iso-PP)の100%結晶化エンタルピー値209J/gで除した百分率で表示する。
【請求項2】
当該セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
【請求項3】
当該セルパウチフィルムは、200℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で1%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
【請求項4】
当該セルパウチフィルムは、220℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
【請求項5】
当該セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で1%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
【請求項6】
当該セルパウチフィルムは、200℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で10%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
【請求項7】
当該セルパウチフィルムは、220℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
【請求項8】
当該セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シール、200℃で2秒間シール、220℃で2秒間シールした各場合における下記の[式1]のTD方向への高温シーリング強度の増加率の平均値が-1%~20%の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
[式1]
[(高温TDシーリング強度-常温TDシーリング強度)/常温TDシーリング強度]×100
【請求項9】
当該セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シール、200℃で2秒間シール、220℃で2秒間シールした各場合における下記の[式2]のMD方向への高温シーリング強度の増加率の平均値が5%~25%の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
[式2]
[(高温MDシーリング強度-常温MDシーリング強度)/常温MDシーリング強度]×100
【請求項10】
当該セルパウチフィルムは、180℃、200℃、220℃で2秒間シールした各場合におけるTD方向の高温シーリング強度からTD方向の常温シーリング強度を引いた値とMD方向の高温シーリング強度からMD方向の常温シーリング強度を引いた値との和が-10~70N/15mmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のセルパウチフィルム。
【請求項11】
セルパウチフィルムの製造方法であって、
バリア層にノンラミネーション押出方式にて押出してシーラント層を形成する段階を含み、
前記シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、
下記の方法で測定したシーラント層の結晶化度が28~32%であることを特徴とするセルパウチフィルムの製造方法。
[結晶化度の測定方法]
・セルパウチフィルムから剥離されたシーラント層を、DSC装備を用い、その結晶化度を温度範囲-50℃~200℃、昇温速度10℃/min、冷却速度-20℃/minで測定する。
・結晶化度の値は、結晶化温度(Tc)でのエンタルピー値(ΔH(J/g))をイソポリプロピレン(Iso-PP)の100%結晶化エンタルピー値209J/gで除した百分率で表示する。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のセルパウチフィルムで外装されたことを特徴とする二次電池。
【請求項13】
当該二次電池は、電気自動車用又はエネルギー貯蔵装置用であることを特徴とする請求項12に記載の二次電池。
【請求項14】
二次電池の製造方法であって、
請求項1~10のいずれか一項に記載のセルパウチフィルムで二次電池を外装する段階;
を含むことを特徴とする二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、高温シーリング強度が保持又は増加されるセルパウチフィルム及びその製造方法に関し、より詳しくは、シーラント層を押出により形成し、シーラント層のガラス転移温度と結晶化度を調節することで高温シーリング強度が保持又は増加されるセルパウチフィルム、その製造方法、それを用いた二次電池及びその製造方法に関する。
【0002】
[本発明を支援した国家研究開発事業]
[課題固有番号]1415181922
[課題番号]20022450
[部署名]産業通商資源部
[課題管理(専門)機関名]韓国産業技術評価管理院
[研究事業名]素材部品パッケージ型(最高企業)
[研究課題名]2倍以上の高接着強度(60℃)の具現が可能な次世代二次電池パウチの開発
[寄与率]1/1
[課題遂行機関名]栗村化学(株)
[研究期間]2022-09-01~2022-12-31
[課題固有番号]1415185612
[課題番号]20022450
[部署名]産業通商資源部
[課題管理(専門)機関名]韓国産業技術評価管理院
[研究事業名]素材部品パッケージ型(最高企業)
[研究課題名]2倍以上の高接着強度(60℃)の具現が可能な次世代二次電池パウチの開発
[寄与率]1/1
[課題遂行機関名]栗村化学(株)
[研究期間]2023-01-01~2023-12-31
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池(LiB)は、高いエネルギー密度と優れた出力を有するなどの多様な長所を基に多くのアプリケーションに適用されている。
セルパウチフィルムと通称される二次電池パウチフィルムは、かかる二次電池の電極群と電解液を取り囲む多層構造の包装用積層フィルムであって、電池の安全性、寿命特性、そして作動持続力を決める核心の部品素材であり、機械的柔軟性及び強度、高い酸素/水蒸気バリア性、高い熱的接着強度、電解液に対する耐化学性、電気絶縁性、高温安全性などが要求される。
セルパウチフィルムは、通常、大別して外層/バリア層/内側シーラント層からなる。
外層又は最外層は、ナイロンやナイロンとPET(ポリエチレンテレフタレート)との混合素材、OPP(延伸ポリプロピレン)、ポリエチレンなどから構成されている。かかる外層又は最外層の要求特性としては、耐熱性、耐ピンホール性、耐化学性、成形性、及び絶縁性などが挙げられる。
バリア層は、水蒸気やその他の気体に対するバリア性と共に成形性が要求される。このような側面から、バリア層には成形可能な金属、例えば、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などが用いられ、近年、アルミニウムが最も多く用いられている。
内層のシーラント層は、熱接着性、成形性と共に電解液と接触する層である点から、耐電解液性、絶縁抵抗性などが要求される。
【0004】
一方、熱接着シーリングとは、セルパウチフィルムをセルパウチに作製するためにセルパウチフィルムの内面(シーラント層)と内面(シーラント層)とを向かい合わせた状態で熱を加えて封止することをいう。
セルパウチの熱接着シーリングが重要な理由は、シーリングが良好でないか弱い場合、電解液の漏液が生じバッテリーとしての役割を果たせなくなるためである。
特に熱接着シーリング中に高温でシーリング強度を測定する理由は、バッテリーの場合は使用中に温度が上昇し、高温でのシーリング強度が弱いと、使用中にシーリング部位から漏液(Leak)が発生することがあり、さらには、バッテリーの爆発につながり得るためである。
このような高温でのシーリング安定性は、高い安全性が要求される自動車用やESS用の中大型のバッテリーに要求され、中大型の二次電池に用いられるパウチフィルムの実際の製造過程で高温での高いシーリング強度を確保し保持することは容易なことではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の例示的な具現例では、一側面において、高温でシーリング強度が保持又は増加されるセルパウチフィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の例示的な具現例では、他の一側面において、前述したように高温シーリング強度が保持又は増加されることにより高温安定性に優れ、高温環境でのバッテリーの使用中でも電解液の漏液を防止し且つバッテリーの安全性を確保することができるセルパウチフィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的な具現例では、セルパウチフィルムであって、少なくとも外層、バリア層、シーラント層が順次積層された積層体から構成されており、前記シーラント層はバリア層にノンラミネーション押出により形成されたものであり、前記シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、下記の方法で測定したシーラント層の結晶化度が28~32%であるセルパウチフィルムを提供する。
[結晶化度の測定方法]
・セルパウチフィルムから剥離されたシーラント層を、DSC装備を用い、その結晶化度を温度範囲-50℃~200℃、昇温速度10℃/min、冷却速度-20℃/minで測定する。
・結晶化度の値は、結晶化温度(Tc)でのエンタルピー値(ΔH(J/g))をイソポリプロピレン(Iso-PP)の100%結晶化エンタルピー値209J/gで除した百分率で表示する。
【0007】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上であってよい。
【0008】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、200℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で1%以上であってよい。
【0009】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、220℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上であってよい。
【0010】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で1%以上であってよい。
【0011】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、200℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で10%以上であってよい。
【0012】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、220℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上であってよい。
【0013】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シールした、200℃で2秒間シールした、220℃で2秒間シールした各場合における下記の[式1]のTD方向への高温シーリング強度の増加率の平均値が-1%~20%の範囲内にあってよい。
[式1]
[(高温TDシーリング強度-常温TDシーリング強度)/常温TDシーリング強度]×100
【0014】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シール、200℃で2秒間シール、220℃で2秒間シールした各場合における下記の[式2]のMD方向への高温シーリング強度の増加率の平均値が5%~25%の範囲内にあってよい。
[式2]
[(高温MDシーリング強度-常温MDシーリング強度)/常温MDシーリング強度]×100
【0015】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃、200℃、220℃で2秒間シールした各場合におけるTD方向の高温シーリング強度からTD方向の常温シーリング強度を引いた値とMD方向の高温シーリング強度からMD方向の常温シーリング強度を引いた値との和が-10~70N/15mmの範囲内にあってよい。
【0016】
また、本発明の例示的な具現例では、前述したセルパウチフィルムの製造方法であって、バリア層にノンラミネーション押出方式にて押出してシーラント層を形成する段階を含み、前記シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、下記の方法で測定したシーラント層の結晶化度が28~32%であるセルパウチフィルムの製造方法を提供する。
[結晶化度の測定方法]
・セルパウチフィルムから剥離されたシーラント層を、DSC装備を用い、その結晶化度を温度範囲-50℃~200℃、昇温速度10℃/min、冷却速度-20℃/minで測定する。
・結晶化度の値は、結晶化温度(Tc)でのエンタルピー値(ΔH(J/g))をイソポリプロピレン(Iso-PP)の100%結晶化エンタルピー値209J/gで除した百分率で表示する。
【0017】
さらに、本発明の例示的な具現例では、前述したセルパウチフィルムで外装された二次電池を提供する。
【0018】
例示的な一具現例において、前記二次電池は、電気自動車用又はエネルギー貯蔵装置用であってよい。
【0019】
また、本発明の例示的な具現例では、二次電池の製造方法であって、前述したセルパウチフィルムで二次電池を外装する段階;を含む二次電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の例示的な具現例のパウチフィルムは、高温でシーリング強度が保持又は増加され、これにより高温安定性に優れることで高温環境でのバッテリーの使用中でも電解液の漏液を防止し且つ不良が少なくてバッテリーの安全性を確保することができる。
このような二次電池パウチフィルムは、安全性、特に高温安全性が要求される電気自動車やエネルギー貯蔵装置などの中大型の二次電池パウチフィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】押出ラミネーション方式で製造されたセルパウチフィルムの構成を示す概略図である。
【
図2】ノンラミネーション押出方式で製造されたセルパウチフィルムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
用語の定義
本明細書において二次電池パウチフィルムが所定の層を含んでなるとしているが、必ずしも当該層だけで構成されることではなく、更なる層が含まれてよい。
本明細書において特定の層の「上」に形成されるとは、当該層に直接形成されることだけではなく、更なる他の層を介して形成されることも含む。の各層が含まれる場合必ず該当の層だけで構成されるのではなく追加的な層が含まれることができる。
【0023】
本明細書において押出コーティング(Extrusion Coating;EC)層は、シーラント層のうちのバリア層との貼合の役割を果たす(押出ラミネーション方式の場合)か、又はバリア層の貼合及びシーリングの役割を果たす(ノンラミネーション押出方式の場合)ために押出された樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂の押出層、好ましくは、ポリプロピレン系樹脂の押出層である。
【0024】
本明細書において高温シーリング強度が保持又は増加されるとは、常温シーリング強度に比べての高温シーリング強度の増加率、すなわち、[(高温シーリング強度-常温シーリング強度)/常温シーリング強度]×100が少なくとも-5%以上であることを意味する。なお、高温シーリング強度の増加率が-5%~0%は負の値であっても保持される程度と見なし得る。
【0025】
例示的な具現例の説明
以下、本発明の例示的な具現例を詳述する。
【0026】
二次電池パウチフィルムの製造の際のシーラント層を製造する方法として、ノンラミネーション押出方式と、押出ラミネーション(Extrusion Lamination)方式、及びソルベントドライラミネーション(Solvent-Dry Lamination;以下、SDLと略称することがある)方式がある。
【0027】
ソルベントドライラミネーション方式は、ポリプロピレン(PP)層の上にソルベント型接着剤を用いてバリア層(金属層)を接着し当該ソルベント型接着剤を乾燥させる方式であって、これにより形成されるシーラント層はポリプロピレン(PP)層からなる。ソルベント型接着剤は、乾燥後にポリプロピレン(PP)層に残存することがあるが、約4μm以下の厚さで存在し微々たるものであるので、その厚さは無視され得る。
【0028】
押出ラミネーション方式は、シーラント層にシーリング樹脂として主に用いられるポリプロピレン系樹脂層、好ましくは、特に無延伸ポリプロピレン(CPP)樹脂層をバリア層(金属層)に接着の際にポリオレフィン系樹脂、好ましくはポリプロピレン樹脂を押出する方式である。その結果、シーラント層は、押出コーティング(Extrusion Coating;以下、ECと略称することがある)層(主に押出ポリプロピレン層)と、その下部(パウチフィルムを基準に内側)のポリプロピレン(PP)層樹脂、好ましくは無延伸ポリプロピレン(CPP)層(又はフィルム)とからなる(
図1参照)。
【0029】
一方、ノンラミネーション押出方式は、押出ラミネーションやソルベントドライラミネーションのようにポリプロピレン系樹脂層といったシーリング樹脂層又はフィルムをバリア層と貼合(ラミネーション)する方式ではなく、セルパウチフィルムの製造の際にシーラント層を形成する方法であって、ポリオレフィン系樹脂、好ましくはポリプロピレン系樹脂をバリア層に直接押出(又は共押出)してシーラント層を形成する方式である。その結果、シーラント層は、押出による層、例えば、押出によるポリプロピレン層からなる。このようなノンラミネーション押出によるシーラント層は、第1押出層と第2押出層とが共押出される方式で形成されてもよい。
【0030】
本発明者らは、ノンラミネーション押出方式にてシーラント層を形成し、シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、下記の方法で測定したシーラント層の結晶化度を28~32%に制御したとき、60℃で10分放置後の高温条件でシーリング強度が保持又は増加され、これにより高温安定性に優れることで高温環境でのバッテリーの使用中でも電解液の漏液を防止し且つバッテリーの安全性を確保することができることを見出した。
【0031】
高温シーリング強度特性は、自動車向けバッテリーのような中大型電池の安全性に必須の特性であって、ノンラミネーション押出方式にてシーラント層を形成し、シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、下記の方法で測定したシーラント層の結晶化度を28~32%に制御することで、驚くべきことに高温条件(60℃で10分放置後の測定)でシーリング強度が保持又は増加された。
【0032】
例示的な一具現例において、シーラント層のガラス転移温度(Tg)は-10℃~-7℃、好ましくは、-9.5℃~-7℃であり、より好ましくは、-9℃~-7℃であってよい。シーラント層が相対的に高いガラス転移温度(Tg)を有する場合が高温シーリング強度に有利であることが分かる。シーラント層のガラス転移温度(Tg)が前記の-10℃未満である場合には、後述するデータから確認することができるように高温シーリング強度が減少することがある。
【0033】
非制限的な例示において、シーラント層のガラス転移温度(Tg)は、-10℃以上、-9.5℃以上、-9℃以上、-8.5℃以上、-8℃以上、又は-7.5℃以上であってよい。又は-7℃以下、-7.5℃以下、-8℃以下、-8.5℃以下、-9℃以下、又は-9.5℃以下であってよい。
【0034】
例示的な一具現例において、シーラント層の結晶化度が28~32%、好ましくは、28.5~31.5%、より好ましくは、29~30%であってよい。結晶化度が相対的に低い場合が高分子の流動性の側面で有利であり、高温でシーリング強度に有利であることを確認することができる。シーラント層の結晶化度が前記の32%よりも大きい場合には、後述するデータから確認することができるように高温シーリング強度が減少することがある。
【0035】
非制限的な例示において、シーラント層の結晶化度は、28%以上、28.5%以上、29%以上、29.5%以上、30%以上、30.5%以上、31%以上、又は31.5%以上であってよい。又は32%以下、31.5%以下、31%以下、30.5%以下、30%以下、29.5%以下、29%以下、又は28.5%以下であってよい。
【0036】
例示的な一具現例において、前述したガラス転移温度(Tg)又は結晶化度は、公知のようにシーラント層に用いられる樹脂、例えば、多用されるポリプロピレン系樹脂の種類に応じて異なってよく、例えば、ポリプロピレン系樹脂の主ポリマーの含量を変更(ホモポリプロピレン又はブロックポリプロピレンポリマーの含量を変更)したり、ゴム(rubber)成分のような低分子量の添加剤などを用いたりすることにより、通常の技術者の技術水準で適宜調節することができる。
【0037】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上、例えば、-5%~20%、又は-3%~15%、又は-2%~14%の範囲内にあってよい。
【0038】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、200℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で1%以上、例えば、1%~20%、又は2%~15%、又は2%~14%の範囲内にあってよい。
【0039】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、220℃で2秒間シールした場合におけるTD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上、例えば、-5%~30%、又は-3%~29%、又は-1%~27%の範囲内にあってよい。
【0040】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で1%以上、例えば、1%~10%、又は3%~8%、又は4%~7%の範囲内にあってよい。
【0041】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、200℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で10%以上、例えば、10%~30%、又は15%~25%、又は20%~25%の範囲内にあってよい。
【0042】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、220℃で2秒間シールした場合におけるMD方向のシーリング強度が常温に比べて高温で-5%以上、例えば、-5%~45%、又は-4%~40%、又は-4%~38%の範囲内にあってよい。
【0043】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シール、200℃で2秒間シール、220℃で2秒間シールした各場合における下記の[式1]のTD方向への高温シーリング強度の増加率の平均値が-1%~20%、又は-0.4%~18.2%の範囲内にあってよい。
[式1]
[(高温TDシーリング強度-常温TDシーリング強度)/常温TDシーリング強度]×100
【0044】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃で2秒間シール、200℃で2秒間シール、220℃で2秒間シールした各場合における下記の[式2]のMD方向への高温シーリング強度の増加率の平均値が5%~25%、又は7.6%~21.5%の範囲内にあってよい。
[式2]
[(高温MDシーリング強度-常温MDシーリング強度)/常温MDシーリング強度]×100
【0045】
例示的な一具現例において、前記セルパウチフィルムは、180℃、200℃、220℃で2秒間シールした各場合におけるTD方向の高温シーリング強度からTD方向の常温シーリング強度を引いた値とMD方向の高温シーリング強度からMD方向の常温シーリング強度を引いた値との和が-10~70N/15mm、又は-6~67N/15mmであってよい。
【0046】
例示的な一具現例において、外層としては、ナイロン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ナイロンとPETとの混合層などから構成されてよい。非制限的な例示において、外層は、好ましくは、最外側が7~12μmのPETフィルム及び内側が20~30μmのナイロンフィルムであってよい。
【0047】
例示的な一具現例において、金属層は、アルミニウム、SUS、銅などの金属から構成されてよく、水分浸透性及び耐衝撃性を有する。
【0048】
例示的な一具現例において、シーラント層のポリプロピル(CPP)層は、要求物性に応じて各種の添加剤(ゴム、エラストマ、スリップ剤など)を含有してよい。
【0049】
例示的な一具現例において、前記二次電池パウチフィルムの総厚さは、例えば、60~185μmであってよい。一実施例において、前記二次電池パウチフィルムは、153μm以上であるか113μm以下のものであってよい。
【0050】
例示的な一具現例において、前記バリア層である金属層の厚さは、例えば、20~80μm、好ましくは、40~60μmであってよい。
【0051】
例示的な一具現例において、前記シーラント層の厚さは、例えば、20~80μmであってよい。
本発明の例示的な具現例に係る二次電池パウチフィルムの製造方法は、バリア層にポリプロピレン樹脂を押出してシーラント層を形成する段階を含み、シーラント層のガラス転移温度(Tg)が-10℃~-7℃であり、前述した方法で測定したシーラント層の結晶化度が28~32%であるセルパウチフィルムの製造方法を提供する。
【0052】
一方、本発明の例示的な具現例では、前述した二次電池パウチフィルムで外装された二次電池を提供する。かかる二次電池は、代表的にリチウム二次電池であってよく、特に電気自動車(EV)用やエネルギー貯蔵装置(ESS)用などの中大型の二次電池であってよい。
【0053】
また、本発明の例示的な具現例では、前述した二次電池パウチフィルムで二次電池を外装する段階;を含む二次電池の製造方法を提供する。
【実施例0054】
以下の実施例を通じて本発明の例示的な具現例についてより詳しく説明することにする。なお、本明細書に開示された実施例は単に説明のための目的から例示されたものであって、本発明の実施例は種々の形態で実施でき、本明細書に開示された実施例に限定されると解釈されてはならない。
【0055】
[実験方法]
実施例及び比較例において、外層はPET及びナイロンの複合の層から構成し、金属層はアルミニウム箔を用いた。
【0056】
実施例は、ポリプロピレンをバリア層に押出する方式(ノンラミネーション押出方式)にて作製したものであり、比較例は、ポリプロピレン(PP)層にポリプロフィルムを押出してバリア層と貼合する押出ラミネーション方式にて作製したものである。金属層の厚さ、シーラント層の押出層とPP層の各厚さとシーラント層のガラス転移温度、エンタルピー、結晶化度は、下記の表1のとおりである。パウチフィルムの総厚さは、下記の表3に記載した。
【0057】
【0058】
前記実施例及び比較例に対し、下記のようにシーリング強度、不良評価、圧力降下テストを行った。
【0059】
<試片の製作>
セルパウチフィルムを横(MD)200mm、縦(TD)100mmの大きさでカットして試片を準備した。
当該試片をMD方向に熱シールした。
シーリング条件は次のとおりである。
(1)シーリング時間:2.0秒
(2)シーリング温度:各180℃、200℃、220℃
(3)シーリング圧力:0.2MPa
【0060】
<シーリング強度の測定>
前記準備した試片を縦(TD)方向に幅15mmの大きさでカットし、フィルムの両側を万能試験機(UTM)のジグに90度ピール(Peel)剥離になるように引っ張った(UTM装備:SIMADZU社製のAGS-X)。
シーリング強度は常温条件及び高温条件で測定した。最大強度をシーリング強度と表示した。単位はN/15mmである。
(1)常温条件:測定速度(10mpm)
(2)高温条件:前記常温測定条件と同一にするが、60℃熱チャンバに3分放置後に測定した。熱チャンバはSIMADZU社製のTCE-N300を用いた。
【0061】
<Tg及び結晶化度の測定>
前述した試片からシーラント層を剥離した(シーリング強度の測定前の試片からシーラント層を剥離)。このために、試片をカントーカセイ(KantoKasei)社製のフロイル(FLOIL)(リムーバー200)溶液に完全に浸漬させた。試片のシーラント層が剥離されると、布や無塵紙で拭いた後にエタノールで洗浄し、再び無塵紙で拭いて常温で乾かした。
【0062】
(1)Tgの測定方法
TA社製のDSC250装備を用いた。条件は、温度範囲-50℃まで測定し、昇温速度10℃、冷却速度-20℃にした。
Tg値の計算は、ポリプロピレンの大略的なTg値の範囲である-50℃で分析プログラム(TRIOS)にかけて行った。
【0063】
(2)結晶化度の測定方法
Tgの測定方法と同様にTA社製のDSC250装備を用いた。条件は、温度範囲-50℃まで測定し、昇温速度10℃、冷却速度-20℃にした。結晶化度の値は、分析プログラム(TRIOS)にかけてTcのエンタルピー(Δ(J/g))を求めた後、一般のイソポリプロピレン(Iso-PP)の100%結晶化エンタルピー値である209J/g値で除して得た。下記の表2に結果を表した。
【0064】
【0065】
前記表1及び表2から分かるように、実施例1、2の場合、シーラント層が押出層のみから構成されており、比較例1、2、3の場合、押出層とPP層とから構成されている。表2から、実施例1、2の場合、高温(60℃で3分後の測定条件)でシーリング強度が増加及び維持されるのに対し、比較例1~7の場合、シーリング強度が低下することを確認することができる。したがって、シーラント層が押出層のみから構成される場合のほうが高温シーリング強度に有利であることが確認された。
【0066】
一方、表1から、実施例1、2の場合、Tg値が約-8℃であり、比較例の場合、約-11℃~-14℃であることを確認することができる。表1及び表2から、Tg値の高い実施例1、2のほうが、高温でシーリング強度が増加又は維持されることを確認することができる。したがって、相対的にシーラント層のTg値の高い場合が高温シーリング強度に有利であることが分かる。
【0067】
また、表1から、実施例1、2の場合、結晶化度が29.7%、31.4%であることを確認することができ、比較例の場合、いずれも33%以上であることを確認することができる。前述したように、結晶化度が比較的に低い場合のほうが高分子の流動性の側面で有利であり、高温でシーリング強度に有利であることを確認することができる。
【0068】
以上から、シーラント層が押出層のみから構成され且つ所定のガラス転移温度及び結晶化度を有するセルパウチフィルムが高温シーリング強度に有利であることが確認された。
【0069】
<圧力降下テストによる不良個数の評価>
高温シーリング信頼性を評価するために、シーリング後の不良個数を評価した。
具体的に、セルパウチフィルムを12mmの大きさでフォーミング後に3方向シールをした。セルパウチに赤色の浸透液と水を満杯に入れた。残りの1方向をシールした。
シーリング幅は2mmとし、時間は2秒、圧力は0.2MPaとした。
前述したような60℃のチャンバで一日中加熱後に圧力降下試験機で30分間一定の圧力で降下した(圧力:300kgf)。
【0070】
前述した180℃で2秒間シールしたサンプル10個、200℃で2秒間シールしたサンプル10個、220℃で2秒間シールしたサンプル10個に対して各不良(高温不良)個数を求めて足し合わせた。すなわち、当該180℃でのサンプル10個、200℃でのサンプル10個、220℃でのサンプル10個の全30個のうちの不良(高温不良)個数を把握した。不良の基準は、シーリングが裂けた場合、すなわち、シーリング後の圧力降下の際にシーリング部位から赤色の浸透液が漏れる場合を不良とする。
【0071】
180℃で2秒間シール、200℃で2秒間シール、220℃で2秒間シールした各場合におけるMD方向への高温シーリング強度の増加率[((高温-常温)/常温)×100]の平均値を表3に表し、TD方向への高温シーリング強度の増加率[((高温-常温)/常温)×100]の平均値を表4に表した。表5には高温不良数を表した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
前記表3~表5から分かるように、実施例の場合、各シーリング温度での高温シーリング強度増加率(%)の平均値が-0.4%以上(TD方向)、7.6%以上(MD方向)であり、特に高温不良数が10個以下と比較例に比べて優れることが分かる。
【0076】
<圧力降下テスト後の空気圧の評価>
高温シーリング信頼性を評価するために、圧力降下テスト後に空気圧を評価した。
具体的に、セルパウチフィルムを12mmの大きさでフォーミング後に3方向シールをした。セルパウチに赤色の浸透液と水を満杯に入れた。残りの1方向をシールした。
シーリング幅は2mmとし、時間は2秒、圧力は0.2MPaとした。
前述したような60℃のチャンバで一日中加熱後に圧力降下試験機で30分間一定の圧力で降下した(圧力:300kgf)。浸透液の漏れがあったか否かを確認し、浸透液の漏れがなかった試料(OK)の空気圧を評価した。
【0077】
表6には180℃、200℃及び220℃で2秒間シールした各場合におけるTD方向の高温シーリング強度からTD方向の常温シーリング強度を引いた値(下表における左側テーブル「TD高温-常温」)及びMD方向の高温シーリング強度からMD方向の常温シーリング強度を引いた値(下表における右側テーブル「MD高温-常温」)とそれらの和[「TD高温-常温」+「高温-常温」]を表した。表7には当該和の値と圧力降下テスト(高温、60℃のチャンバで一日放置後)による空気圧を表した。
【0078】
【0079】
【0080】
表7から分かるように、MD及びTD方向の高温シーリング強度から常温シーリング強度を引いたそれぞれの値の和が高いと、成形時の3方向シーリング(Cタイプシーリング)の際にMD及びTD方向のいずれもにおいてシーリングに優れ、高い外/内部の圧力からシーリングが確実に保持されることが分かる。これにより、バッテリーの安全性が向上され得る。
【0081】
以上、本発明の非制限的且つ例示的な具現例を説明したが、本発明の技術思想は添付の図面や前記説明内容に限定されない。本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で種々の形態の変形が可能であることはこの分野の通常の知識を有する者には自明であり、また、かかる形態の変形は本発明の特許請求の範囲に属すると言えよう。