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特開2024-96100インソースイオン分離のためのシステム及び技術
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096100
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】インソースイオン分離のためのシステム及び技術
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/06 20060101AFI20240704BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240704BHJP
【FI】
H01J49/06
G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023222891
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】18/148,313
(32)【優先日】2022-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501192059
【氏名又は名称】サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】ミハイル ヴイ ウガロフ
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041DA14
(57)【要約】
【課題】インソースイオン分離のためのシステム、デバイス、及び方法を提供する。
【解決手段】イオン分離器が、分析機器の1つ以上の構成要素の流体的上流にあり、その1つ以上の構成要素に連結された、イオン伝達導管を含む。イオン分離器は、イオン伝達導管の流体的上流にあり、イオン伝達導管に流体的に連結されたガス導管であって、内部体積を画定する、ガス導管を含む。イオン分離器はまた、内部体積に露出された活性表面を画定する電子回路であって、活性表面に通電するように構成されている、電子回路を含む。本開示の実施形態は、ガス流に同伴される比較的重いイオンからの比較的軽いイオンのインソース分離に少なくとも部分的に基づいて、材料試料の改善された分析を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インソースイオン分離用のイオン分離器であって、
分析機器の1つ以上の構成要素の流体的上流にあり、前記1つ以上の構成要素に流体的に連結されたイオン伝達導管と、
前記イオン伝達導管の流体的上流にあり、前記イオン伝達導管に流体的に連結されたガス導管であって、前記ガス導管は内部体積を画定する、ガス導管と、
前記内部体積に露出された活性表面を画定する電子回路であって、前記電子回路は前記活性表面に通電するように構成されている、電子回路と、を備える、イオン分離器。
【請求項2】
前記活性表面と前記ガス導管との間に配置されたスタンドオフを更に備え、前記電子回路の少なくとも一部は、前記スタンドオフを介して前記ガス導管に機械的に連結され、前記ガス導管は、前記内部体積を前記活性表面に流体的に連結するアパーチャを画定する、請求項1に記載のイオン分離器。
【請求項3】
前記アパーチャは、第1のアパーチャであり、前記第1のアパーチャは、前記活性表面の第1の領域に近接し、前記ガス導管は、前記内部体積を前記活性表面の第2の領域に流体的に連結させる第2のアパーチャを画定する、請求項2に記載のイオン分離器。
【請求項4】
前記第1のアパーチャ及び前記第2のアパーチャは、前記ガス導管の対向する側部に形成される、請求項3に記載のイオン分離器。
【請求項5】
前記活性表面は、前記ガス導管の内側表面の中又は上に配置されている、請求項1に記載のイオン分離器。
【請求項6】
前記活性表面は、第1の活性表面であり、前記電子回路は、前記ガス導管の前記内側表面の中又は上に配置された第2の活性表面を画定する、請求項5に記載のイオン分離器。
【請求項7】
前記電子回路は、前記内部体積内に配置された導電性要素を含み、前記活性表面は、前記導電性要素の外側表面によって画定されている、請求項1に記載のイオン分離器。
【請求項8】
前記導電性要素は、前記ガス導管及び前記イオン伝達導管の中心軸に実質的に整列されている、請求項7に記載のイオン分離器。
【請求項9】
前記電子回路は、前記活性表面に通電して約10V~約1000Vの振幅の電圧にするように構成されている、請求項1に記載のイオン分離器。
【請求項10】
前記ガス導管は、前記イオン伝達導管と比較して、より高いガスコンダクタンスにより特徴付けられている、請求項1に記載のイオン分離器。
【請求項11】
前記イオン分離器は、約1m/s~約50m/sの前記ガス導管を通るガス速度を生成するように構成されている、請求項1に記載のイオン分離器。
【請求項12】
前記ガス導管は、第1の圧力で動作するように構成された第1の環境に開口し、前記イオン伝達導管は、前記第1の圧力よりも低い第2の圧力で動作するように構成された第2の環境に開口し、前記第2の環境は、前記ガス導管及び前記イオン伝達導管を介して前記第1の環境に流体的に連結されている、請求項1に記載のイオン分離器。
【請求項13】
分析機器であって、
イオン化された試料材料の流れを生成するように構成されたイオン源と、
前記イオン源に流体的に連結され、前記イオン源から前記イオン化された試料材料の流れを受け取るように方向付けられたガス導管であって、前記ガス導管は内部体積を画定する、ガス導管と、
前記内部体積に露出された活性表面を画定する電子回路であって、前記電子回路は前記活性表面に通電するように構成されている、電子回路と、
前記イオン源の下流にあり、前記ガス導管を介して前記イオン源に流体的に連結されたイオン伝達導管と、
前記イオン化された試料材料の流れのイオンを受け取り、前記イオン化された試料材料を特徴付ける分光データを生成するように構成された、前記分析機器の1つ以上の構成要素と、を備える、分析機器。
【請求項14】
前記活性表面と前記ガス導管との間に配置されたスタンドオフを更に備え、前記電子回路の少なくとも一部が、前記スタンドオフを介して前記ガス導管に機械的に連結され、前記ガス導管は、前記内部体積を前記活性表面に流体的に連結するアパーチャを画定する、請求項13に記載の分析機器。
【請求項15】
前記活性表面は、前記ガス導管の内側表面の中又は上に配置されている、請求項13に記載の分析機器。
【請求項16】
前記電子回路は、前記内部体積内に配置された導電性要素を含み、前記活性表面は、前記導電性要素の外側表面によって画定されている、請求項13に記載の分析機器。
【請求項17】
前記電子回路は、前記活性表面に通電して約10V~約1000Vの振幅の電圧にするように構成されている、請求項13に記載の分析機器。
【請求項18】
前記電子回路は、前記活性表面及び前記イオン源に電子的に連結された共有電圧源を備える、請求項13に記載の分析機器。
【請求項19】
前記イオン源及び前記ガス導管は、第1の環境に配置され、
前記イオン伝達導管は、第2の環境に配置され、
前記分析機器は、前記第1の環境の第1の圧力を大気圧に実質的に等しく維持するように構成され、
前記分析機器は、前記第2の環境の第2の圧力を前記第1の圧力よりも低く維持するように構成されている、請求項13に記載の分析機器。
【請求項20】
約1m/s~約50m/sのガス導管を通るガス速度を生成するように構成されている、請求項13に記載の分析機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、分析機器構成要素、システム、及び方法を対象とする。具体的には、いくつかの実施形態は、インソースイオン分離器を含むイオン源を対象とする。
【背景技術】
【0002】
元素組成及び/又は化学構造のためなどの、質量分析計を使用する試料の化学分析は、イオン伝達セクションを介して検出器に導かれるイオン流を生成することを含む。例えば、誘導結合プラズマ質量分析(inductively coupled plasma mass spectrometry、ICP-MS)は、試料を非熱的プラズマ中で少なくとも部分的に解離させて、電界によって影響され得るイオン化された化学種を生成する。イオンと検出器の静電要素との間の相互作用により、組成分析に使用できる異なるタイプの検出可能信号が生成される。質量分析計(MS)機器では、元素組成、分子構造、及び試料の他の特性(例えば、酸化状態など)に関する詳細な情報が生成され得る。
【0003】
MS機器は、典型的には、試料をイオン化させ、生成されたイオンの質量と電荷の比を測定する。質量スペクトルは、検出器信号の強度を質量対電荷(M/Z)比の関数として表す。構成する化学種は、親イオン質量値と、特定の元素及び分子構造を特徴付けることができる分解シグネチャとを比較することにより特定される。クラスタリング、空間電荷容量制限、及び比較的軽いイオンによるトラッピングデバイスの飽和を含む現象が、それぞれ、MS機器を使用する検出、定量化、及び他の分析にとって重要な課題を提示する。例示的な実施例では、溶媒及び/又はより軽い化学種が、電荷の大部分を運ぶことができる、検出器を飽和させることができる、又はトラッピングデバイス全体を通る透過率を低減させることができる。したがって、対象の化学種及び/又は元素に対応する信号を強調することを優先して、溶媒及び他の材料のシグネチャを選択的に減衰させるための構成要素、システム、及び方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、インソースイオン分離のためのイオン分離器は、分析機器の1つ以上の構成要素の流体的上流にあり、1つ以上の構成要素に流体的に連結されたイオン伝達導管と、イオン伝達導管の流体的上流にあり、イオン伝達導管に流体的に連結されたガス導管であって、ガス導管は内部体積を画定する、ガス導管と、内部体積に露出された活性表面を画定する電子回路であって、電子回路は、活性表面に通電するように構成されている、電子回路と、を備える。
【0005】
イオン分離器はまた、活性表面とガス導管との間に配置された電気絶縁スタンドオフを更に備えることができ、電子回路の少なくとも一部が、絶縁スタンドオフを介してガス導管に機械的に連結され、ガス導管は、内部体積を活性表面に流体的に連結するアパーチャを画定する。
【0006】
活性表面は、ガス導管の内側表面の中又は上に配置することができる。
【0007】
電子回路は、内部体積内に配置された導電性要素を含むことができ、活性表面は、導電性要素の外側表面によって画定される。
【0008】
電子回路は、活性表面に通電して、約10V~約1000Vの振幅の電圧にするように構成できる。
【0009】
ガス導管は、イオン伝達導管と比較して、より高いガスコンダクタンスによって特徴付けることができる。
【0010】
イオン分離器は、約1m/s~約50m/sのガス導管を通るガス速度を生成するように構成され得る。
【0011】
ガス導管は、第1の圧力で動作するように構成された第1の環境に開口することができ、イオン伝達導管は、第1の圧力よりも低い第2の圧力で動作するように構成された第2の環境に開口することができ、第2の環境は、ガス導管及びイオン伝達導管を介して第1の環境に流体的に連結されている。
【0012】
別の態様では、分析機器は、イオン化された試料材料の流れを生成するように構成されたイオン源と、イオン源に流体的に連結され、イオン源からイオン化された試料材料の流れを受け取るように方向付けられたガス導管であって、ガス導管は内部体積を画定する、ガス導管と、内部体積に露出された活性表面を画定する電子回路であって、電子回路は、活性表面に通電するように構成されている、電子回路と、イオン源の下流にありガス導管を介してイオン源に流体的に連結されたイオン伝達導管と、イオン化された試料材料の流れのイオンを受け取り、イオン化された試料材料を特徴付ける分光データを生成するように構成された、分析機器の1つ以上の構成要素と、を備える。
【0013】
分析機器は、活性表面とガス導管との間に配置された電気絶縁スタンドオフを更に含むことができ、電子回路の少なくとも一部が、絶縁スタンドオフを介してガス導管に機械的に連結され、ガス導管は、内部体積を活性表面に流体的に連結するアパーチャを画定する。
【0014】
電子回路は、活性表面及びイオン源に電子的に連結された共有電圧源を備えることができる。
【0015】
イオン源及びガス導管は、第1の環境内に配置することができ、イオン伝達導管は、第2の環境内に配置することができ、分析機器は、第1の環境の第1の圧力を実質的に大気圧に等しく維持するように構成することができ、分析機器は、第2の環境の第2の圧力を第1の圧力よりも低く維持するように構成することができる。
【0016】
分析機器は、約1m/s~約50m/sのガス導管を通るガス速度を生成するように構成され得る。
【0017】
アパーチャは、第1のアパーチャであり得る。第1のアパーチャは、活性表面の第1の領域に近接し得る。ガス導管は、内部体積を活性表面の第2の領域に流体的に連結させる第2のアパーチャを画定し得る。第1のアパーチャ及び第2のアパーチャは、ガス導管の対向する側部に形成され得る。
【0018】
活性表面は、第1の活性表面であり得る。電子回路は、ガス導管の内側表面の中又は上に配置された第2の活性表面を画定し得る。
【0019】
導電性要素は、ガス導管及びイオン伝達導管の中心軸に実質的に整列され得る。
【0020】
更に別の態様では、本開示の実施形態は、インソースイオン分離のための前述した態様のイオン分離器及び/又は分析機器を使用するための方法及びプロセスを含む。例えば、本開示の態様を使用して、溶媒又は他の比較的軽い化学種に起因する空間電荷飽和を減衰させことができ、それにより、対象の化学種の信号対バックグラウンド特性及び/又は信号対雑音特性が改善する。本開示のプロセスは、イオン分離器に通電することと、(例えば、エレクトロスプレー、ネブライジング、昇華、蒸発、脱離などを介して)試料を噴霧化及び/又は蒸発させることと、イオン分離器を通して試料を流すことと、を含む。
【0021】
当業者には、他の技術的特徴が、以下の図面、説明、及び特許請求の範囲から容易に明らかになり得る。使用されている用語及び表現は、限定の用語としてではなく説明の用語として使用され、そのような用語及び表現を使用するに際して、図示され説明される特徴又はその一部分のいかなる同等物も除外する意図はないが、請求される主題の範囲内で様々な修正が可能であることが理解される。したがって、本明細書で請求される主題が実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書で開示される概念の修正及び変形が、当業者によってなされることが可能であり、そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本開示の範囲内にあると見なされることが理解されるべきである。
【0022】
本開示の前述した態様及び多くの付随する利点が、添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照することでより良好に理解されるので、より容易に認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示のいくつかの実施形態による、質量分析計(MS)システムを図示する概略図である。
図2A】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器を図示する概略図である。
図2B】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器を図示する概略図である。
図2C】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器を図示する概略図である。
図2D】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器を図示する概略図である。
図3A】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器を図示する概略図である。
図3B】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器を図示する概略図である。
図3C】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器を図示する概略図である。
図4A】本開示のいくつかの実施形態による、イオン分離器の性能データの化学種透過率のグラフである。
図4B】本開示のいくつかの実施形態による、イオン分離器の性能データの化学種透過率のグラフである。
図4C】本開示のいくつかの実施形態による、イオン分離器の性能データの化学種透過率のグラフである。
図5A】現在技術による、インソースイオン分離を用いない溶媒注入を使用して生成された質量スペクトルである。
図5B】本開示のいくつかの実施形態によるインソースイオン分離を用いる溶媒注入を使用して生成された質量スペクトルである。
図6】本開示のいくつかの実施形態による、荷電粒子のクロマティックビームを生成するための例示的なプロセスのブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面において、同様の参照番号は、別段の指定がない限り、様々な図の全体にわたって同様の部分を指す。必要に応じて図面における混乱を低減させるために、要素の全てのインスタンスが必ずしも標識されているわけではない。図面は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに、説明される原理を図示することに重点が置かれている。
【0025】
例示的な実施形態を図示及び説明してきたが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本開示において様々な変更を行うことができることが理解されるであろう。次の段落では、溶媒及び他の材料に起因する信号を選択的に減衰させるための、かつ結果として生じるイオン検出器の飽和を低減させるための、分析機器システム、構成要素、及び方法の実施形態。説明を簡単にするため、本開示の実施形態は、質量分析及び関連する機器に焦点を当てている。その目的のため、実施形態は、そのような機器に限定されず、むしろ、溶媒又は他の比較的軽い化学種及び/又は元素から生じる特性信号の相対的優位性によって分析が複雑になり得る分析機器システムのために企図される。例示的な実施例では、液体試料の噴霧化及びイオン化を含む分析技術は、イオン蒸気中の溶媒組成の選択的減衰から恩恵を得ることができる。同様に、本開示の実施形態は、液体試料からイオンの噴霧化プルームを生成するエレクトロスプレーイオナイザに焦点を当てているが、非熱的プラズマイオナイザ(例えば、ICPネブライザ源)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(matrix assisted laser desorption ionization、MALDI)、及び/又は脱離エレクトロスプレーイオン化(desorption electrospray ionization、DESI)技術を含むがこれらに限定されない追加及び/又は代替のイオン化形態が企図される。
【0026】
元素組成及び/又は化学構造のためなどの、質量分析計を使用する試料の化学分析は、イオン伝達セクションを介して検出器に導かれるイオン流を生成することを含む。例えば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)は、試料を非熱的プラズマ中で少なくとも部分的に解離させて、電界によって影響され得るイオン化された化学種を生成する。イオンと検出器の静電要素との間の相互作用により、組成分析に使用できる異なるタイプの検出可能信号が生成される。質量分析計(MS)機器では、元素組成、分子構造、及び試料の他の特性(例えば、酸化状態など)に関する詳細な情報が生成され得る。
【0027】
MS機器用のエレクトロスプレーイオン源は、最大約1010イオン/秒のイオン電流を生成する。溶媒中に懸濁された試料については、試料に与えられた電荷の大部分が、より重い化学種ではなく、溶媒及び/又は溶媒クラスタイオンによって運ばれ得る。その結果、MS機器を通るより重い化学種の透過率の低減をもたらし得る空間電荷効果に少なくとも部分的に基づいて、比較的重い化学種の特定及び/又は定量化に関する課題が生じる可能性がある。同様に、質量分析計の相対的に高圧力のセクションにおいてクラスタ化/デクラスタ化プロセスが生じる状況などでは、相対的に小さいm/zを有するイオンのクラスタが、質量スペクトルのノイズに寄与する可能性がある。MS機器が比較的高いイオン電流で動作するときに遭遇する別の予想される課題は、ソースの下流のトラップデバイスが空間電荷容量で制限され得るという事実に由来する。トラップデバイスの例には、分析用イオントラップ、及び他のトラップデバイス、例えばイオンの予備分離に使用されるものなどが含まれる。相対的に軽いイオンの電流を選択的に減衰させながら、全体的なイオン電流を減少させる技術が、所与のMS機器に対するトラップ時間を増加させることができ、これは、典型的には、分析のより高い選択性及びスループットにつながる。
【0028】
当該技術分野で知られているいくつかの手法を使用して、様々な荷電種によって運ばれる高電流の影響を低減させることができる。いくつかの技術が、高周波(radio frequency、RF)イオンガイドを用いて、少なくとも部分的に、高強度RF電界を印加することにより、又はイオンを不均衡DC電位に曝露させることを介して、比較的軽いイオンの軌跡を不安定化させる。不都合なことに、このような手法は、かなりのイオン濾過が生じた後の比較的低い圧力でのみ適用可能である。更に、RFデバイス内で失われたイオンは、活性光学表面上に着地する可能性があり、その結果、内部活性表面の汚染、構成要素の機能を損なう帯電効果、及びMS機器全体の性能劣化につながる。
【0029】
微分移動度に基づいてイオン流からイオンを選択的に除去する手法として、例えば電界非対称イオン移動度分光法(field asymmetric ion mobility spectroscopy、FAIMS)に基づく、RF分離デバイスを、MS機器のソース領域において使用することができる。そのような手法の成功は、それらの複雑さによって限定され、典型的には、標的イオンの著しい損失を含む。少なくともこれらの理由から、分析対象の比較的大きいm/zを有する化学種の流束に対して無視できる程度の影響で又は影響なく、比較的小さいm/zを有する化学種を選択的に除去し、全体的なイオン電流を低減させるために、イオンのインソース事前分離の必要性が残っている。RF技術とは対照的に、本開示の実施形態は、大気圧で有効であることができ、分析機器のより低圧のセクションに拡張することができる。
【0030】
その目的のため、本開示の実施形態は、インソースイオン分離器を含む。イオン分離器は、質量分析及び関連する分析技術の当業者により理解されるように、分析機器のソースセクションを分析機器のセンサセクションに流体的に連結する、分析機器の1つ以上の構成要素を含むことができる。分析対象のより重い化学種を優先して、軽い元素、溶媒などのシグネチャを減衰させるために、イオン分離器は、内部体積を画定するガス導管と、内部体積に露出された活性表面を画定する電子回路と、を含むことができる。活性表面は、通電されると、電界(例えば、静電界)を発するように構成できる。このように、活性表面は、比較的軽いイオンのコレクタとして機能して、イオン源から検出器まで導かれる同伴流から、溶媒及び他の軽い化学種を選択的に除去するように構成できる。
【0031】
図1は、本開示のいくつかの実施形態による、例示的な質量分析計(MS)システム100を図示する概略図である。例示的なMSシステム100は、溶媒、並びに他の比較的軽い化学種及び/又は元素のシグネチャを減衰させるように本開示に従って構成された分析機器の一例である。例示的なMSシステム100は、試料入力ポート105、試料処理モジュール110、及び内部構成要素115を含む。内部構成要素は、イオン源120、ガス導管125、活性表面130、イオン伝達導管135、検出器モジュール140、及び1つ以上の電磁要素145を含む。
【0032】
例示的なMSシステム100の内部構成要素115は、異なる動作圧力に対応する1つ以上のセクションに分割することができる。例えば、例示的なMSシステム100は、ソースセクション150、中間セクション155、及び検出器セクション160を含む。中間セクション155は、第1の真空導管165を介して第1の真空システムに流体的に連結され、検出器セクション160は、第2の真空導管170を介して第2の真空システムに流体的に連結されている。セクション150、155、及び160の間の圧力差の誘導を介して、イオン流がガス導管125を通り、活性表面130を通過して、イオン伝達導管135及び検出器モジュール140に向かって導かれ得る。例示的なMSシステム100の内部構成要素115が、ソースセクション150から検出器セクション160への一般的な流れ方向に整列した(例えば、イオン源120から検出器モジュール140へのイオン流に整列した)平面に沿った断面で示されている。
【0033】
イオン源120は、エレクトロスプレー源として示されており、それを用いて、溶媒(例えば、極性溶媒、又は非極性溶媒など)中に懸濁された微量物質などの液体試料を、基準電極に対しておよそ約1kV~約10kVの電圧に維持されたノズルを介する導入により噴霧化及びイオン化することができる。圧力駆動流と静電加速とが組み合わされた作用により、液体試料はノズルを通って流れ、ソースセクション150に入り、それにより、液体は加速及びイオン化され、ガス導管125の方向にイオン流121が生成される。ガス流及び/又は圧力駆動流における飛沫同伴により、ソースセクション150からのイオン流121が、ガス導管125及びイオン伝達導管135を介して、中間セクション155に向かって引き込まれ得る。このようにして、活性表面130は、図2A図2Dを参照してより詳細に説明するように、イオン流121の極性とは反対極性の電界を生成するために使用できる。
【0034】
図2Aは、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器200を図示する概略図である。例示的なイオン分離器200は、図1の例示的なMSシステム100の内部構成要素115などの、分析機器の内部構成要素の一例である。このように、例示的なイオン分離器200は、ガス導管125、イオン伝達導管135、及び電子回路205を含む。電子回路は、活性表面130を画定することができ、(例えば、電気バイアスを活性表面130に印加することにより)活性表面130に通電するように構成することができ、活性表面130に電気的に連結される。ガス導管125は、内部体積210を画定することができる。内部体積210は、イオン伝達導管135に流体的に連結することができる。内部体積210は、例示的なMSシステム100のソースセクション150に流体的に連結され得る。このように、ソースセクション150内で生成されたイオン流121は、内部体積210を通りガス導管125を介して下流セクション155~160に導かれて、活性表面130に露出され得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、ガス導管125及びイオン伝達導管135などの内部構成要素115の少なくとも一部分は、ガス導管125及びイオン伝達導管135を通るイオンの平均流れ方向に実質的に整列した流れ軸Aを中心として回転対称である又は別様に対称である。このように、図3A図4Cを参照してより詳細に説明するように、活性表面130を内部体積210に露出されたガス導管125の一方の面に配置することにより、活性表面から発する電界(例えば、静電界)にイオンが曝露されることが可能になる。断面で示すように、活性表面は、ガス導管125の内側表面の中及び/又は上にインサート、フィルム、パターン形成層などとして配置され得る導電性材料(例えば、金属又は導電性非金属)であり得る又はそれを含み得る。図2Aの例示的なイオン分離器200では、活性表面は、インサートとしてガス導管125に組み込まれた導電性材料を含み、活性表面は、イオンが検出器モジュール140に向かって流れるガス導管125の一部として機能する。活性表面130は、インサートとして示されているが、同様に、ガス導管125内の凹部内に設置され、ガス導管125内に形成された貫通孔を介して電子回路205の他の構成要素(例えば、電圧源など)に電気的に連結される導電性インレイから形成することができる。
【0036】
電子回路205は、図示するように、活性表面130に電気的に連結され、活性表面130に電気バイアスを印加するように構成されている。このようにして、電気バイアスの振幅は、イオン混合物の質量対電荷特性(M/Z)に少なくとも部分的に基づいて、内部体積210内を流れるイオンに印加される分離力を決定することができる。例示的な実施例では、イオン流121は、比較的軽い溶媒イオンと比較的重い標的イオンとの混合物を含むことができる。イオン分離の一部として、電気バイアスは、図3A図5Bを参照してより詳細に説明されるように、通電された活性表面から発する電界に曝露されているガス導管を通って流れるイオンに印加される力が、より軽いイオンを方向転換させるには十分に強いが、比較的重いイオンに及ぼす影響が実質的に小さくなるように(例えば、無視できるように又は方向転換させないように)印加され得る。その目的のため、電子回路205は、活性表面130に通電して、約10V~約2000Vの振幅であって、その部分範囲、端数、及び内挿を含む振幅の電圧にするように構成され得る。図4A図5Bを参照してより詳細に説明するように、透過率によって測定された又は質量スペクトルで測定されたイオンの分離は、印加電圧の振幅が本開示の例示的なイオン分離器の性能に及ぼす影響を反映する。電界の強度が、特定のサブセット(例えば、所与のM/Z比未満)ではなく、流れ中の全てのイオンを引きつけて分離されなくなる点に至るまで振幅を増加させることにより、分離効率は改善する。いくつかの実施形態では、イオン流121がガス導管125に向かって加速されるように、イオン源120は活性表面130に対してバイアスされている。例えば、エレクトロスプレーイオン源120は、接地に対して約1kVで、又は活性表面130に印加される約600Vに等しい振幅のバイアスに対して約1.6kVでバイアスされることができる。更に、ガス導管125は接地又は浮遊させることができ、活性表面130はバイアスさせることができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、印加電圧は、固定値を使用するのではなく、試料の組成に少なくとも部分的に基づいて構成される。例えば、電子回路205は、活性表面130に入射するイオン流束によって活性表面130から引き出される電流を測定するように構成できる。印加電圧の関数としての電流の分布に少なくとも部分的に基づいて、印加電圧の振幅を決定することができる。例示的な実施例では、電子回路205は、(例えば、イオン流121の予想される電荷とは反対の極性で)印加電圧の振幅を徐々に増加させ、電圧の関数として電流のデータを生成するように構成できる。より低い印加電圧において、より軽いイオンが収集されることになるので、電流データは、恐らく、(ガス導管125を通るイオンの安定した流れについて)2つ以上の平坦部を含む可能性があり、より低い電圧における平坦部がより軽いイオンに対応し、より高い電圧における平坦部がより重いイオンに対応する。このようにして、より軽いイオンが収集される電圧を選択的に特定できる。
【0038】
イオン伝達導管135は、流れ軸Aに沿った長さ215により特徴付けられる。長さ215は、約0.1mm~約10cmであり得る。したがって、イオン伝達導管135は、活性表面130から発する電界に曝露された後にイオンが流れることができる、図2Bに示すようなオリフィスとして又はイオン伝達管として構成できる。有利には、例示的なイオン分離器200の流れ特性は、イオン伝達導管135とガス導管125との間のガスコンダクタンスの相対的な差に少なくとも部分的に基づいて、ガス導管125内でのイオン分離を促進するように構成できる。
【0039】
ガス導管125のコンダクタンスがイオン伝達導管135のコンダクタンスよりも高い例示的な例では、実質的に一貫した体積流量に対してガス導管125内のイオンの線速度はイオン伝達導管135内よりも低い可能性があり、イオンを分離するために、より低い電界強度を使用することが可能になり、分析機器の機能及び/又は精度を損なう可能性があるコロナ放電又は他の電気的及び/若しくは化学的現象が形成される可能性が低減される。その目的のため、円形導管の場合は、ガス導管125の直径、イオン伝達導管135の直径、並びにイオン伝達導管135の長さ215及びガス導管125の長さ217は、ソースセクション150におけるイオン分離を容易にするように構成できる。例えば、ガス導管125は、約1mm~約20mmの直径であって、その部分範囲、端数、及び内挿を含む直径によって特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、ガス導管125は、約2mm~約10mmの直径を有する。同様に、ガス導管125は、軸Aに実質的に整列する方向に、約1mm~約50mmの長さであって、その部分範囲、端数、及び内挿を含む長さにより特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、ガス導管125は、約5mm~約40mmの長さを有する。
【0040】
対照的に、イオン伝達導管135は、約0.1mm~約10mmの直径であって、その部分範囲、端数、及び内挿を含む直径により特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、イオン伝達導管135は、約0.3mm~約2mmの直径を有する。イオン伝達導管135は、軸Aに実質的に整列する方向に、約1mm~約300mmの長さであって、その部分範囲、端数、及び内挿を含む長さにより特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、イオン伝達導管135は、約30mm~約200mmの長さを有する。ガス導管125及びイオン伝達導管135の寸法は、ガス導管125を通るガスコンダクタンスがイオン伝達導管135を通るガスコンダクタンスよりも大きくなり得るという制約を介して関連付けられ得る。有利には、ガス導管125の比較的高いガスコンダクタンスにより、イオン分離器を通るイオンの所与の体積流量に対して比較的低い線速度が可能になる。その目的のために、より狭いガス導管125を有する本開示の実施形態は、より狭いイオン伝達導管135も含むことができる。逆に、より広いガス導管125を有する本開示の実施形態は、より広いイオン伝達導管135を含むこともできる。
【0041】
その目的のために、本開示のイオン分離器(例えば、例示的なイオン分離器200)は、約1m/s~約50m/sの、ガス導管125を通るガス速度であって、その部分範囲、端数、及び内挿を含むガス速度、を生成するように構成することができる。ガス速度は、内部体積210内のイオンの平均滞留時間に相関する可能性があり、これは、その結果、上述した印加電圧の振幅を介して、分離効率に相関する可能性がある。このようにして、より高いガス速度は、(ガス放電の形成及び化学反応のリスクの増加を伴う)より速いイオン分離を促進するための電圧の増加という代償を払って、スループットを改善し、測定の待ち時間を低減させることができる。同様に、より低いガス速度はスループットを損ない、測定の待ち時間を増加させる可能性がある。
【0042】
図2Bは、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器220を図示する概略図である。いくつかの実施形態では、ガス導管125内のイオン分離において、ガス導管125と活性表面130との間にギャップが導入される。その目的のために、例示的なイオン分離器220は、活性表面130とガス導管125との間に配置された1つ以上のスタンドオフ225を含み、ガス導管125は更に、内部体積210と活性表面130とを流体的に連結するアパーチャ230を画定する。図3B図3Cを参照してより詳細に説明されるように、このようにして活性表面130を内部体積210からオフセットすることは、イオン流121の一部分をイオンの同伴流から除去することによりイオン分離を少なくとも部分的に改善することができ、イオン分離器220自体を除去する代わりに、活性表面130の迅速かつ単純な交換による保守を容易にすることにより、例示的なイオン分離器220の性能を改善することもできる。
【0043】
いくつかの実施形態では、活性表面は、スタンドオフ225を介してガス導管に機械的に連結される導電性シリンダ(例えば、金属シリンダ、金属被覆プラスチックシリンダ、メッシュシリンダなど)によって画定される。スタンドオフは、電気的に絶縁されていることができ、絶縁セラミック、ポリマー、及び/若しくはエラストマー材料とすることができる、又はそれらを含むことができる。いくつかの実施形態では、スタンドオフ225は、内部体積210がアパーチャ230を介してソースセクション150に流体的に連結されることを可能にする。いくつかの実施形態では、スタンドオフ225は、活性表面130をソースセクション150から流体的に分離し、ガス導管125を介して省き、それにより、単一の流路が維持され、分析に悪影響を及ぼし得る、ガス導管125を通ってイオン伝達導管135に入るバイパス流の可能性が低減される。本開示のイオン分離器は、(例えば、図2Bに示すオリフィスを介する)ある範囲のガス速度に対して構成され得るという点で、(例えば、ガス導管125の入口を通る代わりに)アパーチャを介する内部体積210内へのバイパス流の発達は、例えば、アパーチャ230を通るイオン流を逆流させることにより、イオン分離器220の分離効率を損なう可能性がある。
【0044】
図2Cは、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器240を図示する概略図である。分離効率を改善する手法として、本開示の実施形態は、複数の活性表面130、及び/又はガス導管125の内部体積210に流体的に連結された複数のアパーチャ230を含む、例示的なイオン分離器240などの、イオン分離器を含む。例示的なイオン分離器240は、第1の活性表面130-1及び第2の活性表面130を含み、これらは、それぞれ、第1のアパーチャ230-1及び第2のアパーチャ230-2を介して内部体積210に流体的に連結されている。例示的なイオン分離器240はまた、第1の電子回路215-1及び第2の電子回路215-2を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、ガス導管125を通して流れる同伴イオンの流れプロファイルにおいて異なる構成イオンを異なる場所で分離するための手法として、それぞれの活性表面130は、異なる振幅及び/又は異なる極性に個別にバイアスされ得る。例示的な実施例では、イオン源120は、ガス導管125に対して非ゼロの角度で方向付けられ得る(例えば、流れ軸Aに整列されていない)。その目的のため、(例えば、M/Z比によって決定されるような)イオンの分布は、内部体積210にわたって不均一であり得る(例えば、比較的軽いイオンが、第1のアパーチャ230-1に近いほど高い割合で存在し、比較的重いイオンが、第2のアパーチャ230-2に近いほど高い割合で存在する)。このようにして、第2の活性表面130-2に比較的小さいバイアスを印加することにより、ここでも内部体積210から比較的重いイオンを除去することなく、第2のアパーチャ230-2により近い、より軽いイオンを分離することができる。
【0046】
対照的に、単一の活性表面130を、ガス導管125を取り囲むように又は少なくとも部分的に取り囲むように配置することができ、その結果、アパーチャ230は、それぞれ、通電されたときに単一の電圧にバイアスされる単一の活性表面130に流体的に連結される。そのような場合、アパーチャ230に近接する活性表面130の領域は、互いに流体的に分離され得る。代わりに、アパーチャ230に近接する活性表面130の領域は、ガス導管125とスタンドオフ225によって画定される活性表面130との間の限界領域を介して互いに流体的に連結され得る。場合によっては、2つのアパーチャ230が、ガス導管125の実質的に対向する側部に形成される。このようにして、第1の電子回路215-1及び第2の電子回路215-2は、電界を内部体積210にわたって平行に整列させて拡張する手法として、反対極性のバイアスを印加するように構成できる。
【0047】
図2Dは、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器250を図示する概略図である。図2A図2Cの例示的なイオン分離器200、220、及び240とは対照的に、例示的なイオン分離器250は、内部体積210内に配置された導電性要素255によって画定される活性表面130を含む。導電性要素255は、固体、膜、及び/又はパターン形成層としての導電性材料(例えば、金属、複合材料、導電性炭素など)であり得る、又はそれを含み得る。いくつかの実施形態では、導電性要素255は、流れ軸Aに実質的に整列させることができ、スタンドオフ225を介して電圧源に電気的に連結させることができる。例示的な例として、1つ以上のスタンドオフ225は、プレナム又は他の空洞を含むことができ、それを通して、電気接点が電圧源と導電性要素255とを連結することができる。例示的なイオン分離器250では、導電性要素255がガス導管125から少なくとも部分的にオフセットされるように、スタンドオフ225を内部体積210内に配置することができる。その目的のために、スタンドオフ225は、イオンがガス導管125を通過してイオン伝達導管135内に入ることを可能にするように、環状であり得る、又は少なくとも部分的に窓が開けられ得る。
【0048】
図3Aは、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器200を図示する概略図である。図3Aの簡略図は、活性表面130から発する電界の影響下での、比較的重いイオン305及び比較的軽いイオン310の2つのイオン流路を示す。図示するように、軽いイオン310を重いイオン305から分離するのに好適な強度を有する電界の影響下で、重いイオン305は、軽いイオン310よりも相対的に小さい程度で活性表面130に向かって偏向され、軽いイオン310は活性表面130に衝突し、電子と再結合し、吸着することができる、かつ/又は検出器モジュール140によって検出されない中性物質として流れに入ることができる。
【0049】
図3Bは、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器220を図示する概略図である。図3Aを参照して説明したように、図3Bの簡略図は、活性表面130から発する電界の影響下での、比較的重いイオン305及び比較的軽いイオン310の2つのイオン流路を示す。図示するように、軽いイオン310を重いイオン305から分離するのに好適な強度を有する電界の影響下で、重いイオン305は、軽いイオン310よりも相対的に小さい程度で活性表面130に向かって偏向され、軽いイオン310は活性表面130に衝突し、電子と再結合し、吸着することができる、かつ/又は検出器モジュール140によって検出されない中性物質として流れに入ることができる。例示的なイオン分離器200とは対照的に、軽いイオン310は、アパーチャ230を通過して内部体積210から出て、イオン伝達導管135に入る流れに同伴することは、もはやない。
【0050】
図3Cは、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なイオン分離器250を図示する概略図である。図3A図3Bを参照して説明したように、図3Cの簡略図は、活性表面130から発する電界の影響下での、比較的重いイオン305及び比較的軽いイオン310の2つのイオン流路を示す。図示するように、軽いイオン310を重いイオン305から分離するのに好適な強度を有する電界の影響下で、重いイオン305は、軽いイオン310よりも相対的に小さい程度で活性表面130に向かって偏向され、軽いイオン310は活性表面130に衝突し、電子と再結合し、吸着することができる、かつ/又は検出器モジュール140によって検出されない中性物質として流れに入ることができる。例示的なイオン分離器200及び220とは対照的に、導電性要素255は、ガス導管125の長さの大半に沿って内部体積210に露出されている。更に、活性表面130は、内部体積210の実質的に中心に置くことができ、軽いイオン310が移動する距離の範囲は、図2A図3Bのイオン分離器と比較して比較的狭くなっている。このように、活性表面130に通電するとき、比較的小さい振幅を使用することができ、軽いイオン310は吸着し、電子と再結合し、かつ/又はイオン伝達導管135に入る同伴流に再び入る。
【0051】
図2A図3Cの実施形態は、例示的な実施形態であり、対応する各実施例の特徴を含むことができる、省略できる、かつ/又は再現できるものとして意図されている。その目的のため、例示的なイオン分離器は、パターン形成された層としてガス導管125の内側表面上に配置された複数の活性表面130を含むことができる。同様に、導電性要素255は、図2Bの例示的なイオン分離器220内に配置することができる。有利には、本明細書に記載される異なる例示的な実施形態の様々な特徴を組み合わせることにより、内部体積210を、より大きな活性表面130面積に曝露させることに少なくとも部分的に基づいて、重いイオン305からの軽いイオン310の分離効率を更に改善することができ、その結果、比較的低い印加電圧にて、同等の又は改善されたイオン分離を実現することができる。
【0052】
実施例1:水-メタノール溶媒を使用するインソースイオン分離
図1図3Cを参照して上述したようないくつかの実施形態に従って、実験用イオン分離器を準備した。図1を参照してより詳細に説明されるように、実験用イオン分離器は、イオン伝達導管(例えば、サンプリングオリフィス又は毛細管)の前に位置し、イオン伝達導管のコンダクタンスよりもかなり高いコンダクタンスによって特徴付けられるガス導管を含んでいた。このようにして圧力勾配によって生成されたガス流は、内部体積210を通り、活性表面130を通過し、導管内でおよそ10~30m/sの低減された速度を有した。
【0053】
実験は、残りの表面と比較して異なる電位でバイアスされたガス導管125の一部分(例えば、活性表面130)を含んでいた。これは、活性表面130をガス導管125から電気的に絶縁し、活性表面に別個の電圧を印加することにより実現された。代わりに、ガス導管125から電気的に絶縁された活性表面130を画定する外側シリンダに異なる電位が印加され、外側シリンダからの電界侵入が、ガス導管内のアパーチャ(例えば、アパーチャ230)を通して生じた。
【0054】
ガス導管125は、イオン伝達導管135の入口に対して封止されており、その結果、流入するイオン流121は、イオン伝達導管135内での速度と比較して低速ではあるが、入口を通過する。外側シリンダに正電位及び/又は負電位を印加することにより、活性表面に通電した。異なる電圧試行に対して実質的に一貫したエレクトロスプレー条件を維持するために、先端電圧を、活性表面130に印加される電圧と協調して調節することにより、実験を通して、イオン源120と外側シリンダとの間の電圧降下を実質的に一定に維持した。調整は、分圧器を作製し、両方の要素に対して単一の電圧源を使用することにより実現されたが、別個の電圧源を使用することもできる。
【0055】
図4A図4Cは、本開示の実施形態による、実験用イオン分離器を使用して生成された、イオン分離器の性能データの化学種透過率のグラフである。各グラフは、活性表面に印加された電圧の関数としての、試料中の異なるm/zイオンの透過率のプロットを示す。データは、軽いイオン(例えば、図3A図3Cの軽いイオン310)及び重いイオン(例えば、図3A図3Cの重いイオン305)について収集した。各グラフの縦軸は、「イオン透過率」の正規化された値であり、これは、以下の図5A図5Bを参照してより詳細に説明するように、質量スペクトルにおいて収集された所与のM/Zのイオン数の定量化に基づく、バイアスされていない試料に対するイオン濾過の効率を表す。実験データから、100Vよりも大きい電圧振幅では、より小さいm/zを有するイオンの透過率が大幅に減少していることが明らかである。有利なことに、活性表面130への100Vを上回る電圧の印加により、より軽いイオン(例えば、M/Z=59、69、104、113、142など)のスループットが大幅に減少する効果が生じるのに対して、より重いイオン(例えば、M/Z=622、922、1522など)への影響はより小さいことがデータから明らかである。より重いイオンについてのM/Z値の範囲は、とりわけ、生命科学、燃焼科学、ポリマー化学、及び有機金属化学の対象となる分子について意味のある範囲が対象である。
【0056】
図5A図5Bは、活性表面130に異なる電圧振幅を印加して溶媒注入を使用して生成された質量スペクトルである。図5Aは、インソースイオン分離なしで、水-メタノール溶媒、及び100~1600の様々なM/Z値を有するいくつかのイオンを使用して生成された、質量スペクトルである。したがって、図5Aは、現在技術のイオン源を使用する試料分析から生成されたデータに対応する比較実施例を表す。対照的に、図5Bは、図4Aの標準較正試料と、本開示のいくつかの実施形態によるインソースイオン分離を有する図2A図3Cのイオン分離器と、を使用して生成された質量スペクトルである。説明を簡単にするために、図5A図5Bのスペクトルは、約100~約1000のM/Zについて収集されたデータの範囲に焦点を当てている。これらのデータは、活性表面130への電圧印加により、全体的なイオン電流が減少し、具体的には、イオン伝達導管135に入ったイオン流から軽いイオンが除去されたことを示す。提供された例示的データにおける溶媒は、多くの高流量エレクトロスプレー実験で代表的な水/メタノール溶媒の注入を使用して調製した。全体の総イオン数は、700Vにおいて30分の1以下に減少した(約3×109から約9×107へ)。
【0057】
具体的には、約200未満のM/Z比を有するイオンは、100%の相対的存在量(存在量が最も多いイオンの信号に対して正規化された値である)を有する試料中の最も優勢なイオンである(M/Z=195)ことから大幅に減少した。約700Vの振幅の電圧を印加する実験では、存在量が最も多いイオンはM/Z=371にシフトし、以前のM/Z=約200、約390、約419、約447、及び約547における小さなピークが強調されている。これらのデータは、分析機器の下流セクション155及び160に入る流れから、より軽い(例えば、約200以下のM/Z値を有する)イオンを選択的に除去するための本開示のイオン分離器の有効性を実証する、図4A図4Cで報告される知見を補強する。
【0058】
図6は、本開示のいくつかの実施形態による、インソースイオン分離のための例示的なプロセス600のブロックフロー図である。図1図5Bを参照して説明したように、例示的なプロセス600を構成する1つ以上の動作は、分析機器(例えば、図1の例示的なMSシステム100)の構成要素に動作可能に連結されたコンピュータシステム若しくは他の機械、並びに/又は、特徴評価システム、ネットワークインフラストラクチャ、データベース、コントローラ、リレー、電源システム、及び/又はユーザインターフェースデバイスを含むがこれらに限定されない追加のシステム若しくはサブシステムによって実行及び/又は開始できる。その目的のため、動作は、1つ以上の機械可読媒体において機械実行可能命令として格納することができ、機械実行可能命令は、コンピュータシステムによって実行されると、コンピュータシステムにプロセス600を構成する動作の少なくとも一部分を実施させることができる。プロセス600を構成する動作は、本明細書から省略された動作に先行する、割り込む、かつ/又は続くことができ、これらの動作は、例えば、試料の準備、中間セクション155及び/又は検出器セクション160などで実施される動作であって、図5A図5Bに図示するようなスペクトルデータを生成するために試料を処理する分析方法の少なくとも一部を形成する動作である。その目的のため、いくつかの実施形態では、例示的なプロセス600の動作が省略、反復、順序変更、及び/又は置換され得る。
【0059】
例示的なプロセス600は、動作605において、イオン分離器(例えば、図2A図2Dの例示的なイオン分離器200、220、240、又は260)に通電することを含む。図2A図2Dを参照してより詳細に説明するように、イオン分離器に通電することは、活性表面130に約10V~約5kVの範囲の電圧を印加することを含むことができ、100V程度の低い電圧にて、軽いイオンのスループットの著しい低下が観察された。しかしながら、より高い電圧は、より高い流量の使用を可能にし、分析待ち時間に関して利点をもたらすことを理解されたい。
【0060】
例示的なプロセス600は、動作610において試料を噴霧化することを含む。図1を参照すると、試料を噴霧化することは、試料をエレクトロスプレーノズル(例えば、図1のイオン源120)、又はICP-OESシステムにおけるようなネブライザプラズマ源に通すことを含み得る。エレクトロスプレーノズルの場合、試料を噴霧化することは、イオン源120をガス導管125及び/又は活性表面130に対してバイアスすることにより、イオン流(例えば、図1のイオン流121)をガス導管125に向かって加速することを含み得る。
【0061】
例示的なプロセス600は、動作615において、試料をイオン伝達導管135に流すことを含む。動作615は、分析機器(例えば、図1の例示的なMSシステム100)の2つ以上の流体的に連結されたセクション間に圧力差を生成させることを含み得る。図1の入力セクション150及び中間セクション155に関して、2つのセクションは、イオン分離器を介して流体的に連結され、中間セクション155は、入力セクション150よりも比較的低い圧力に維持され、それにより圧力駆動流が誘起され、それが、イオンを同伴し、イオンを検出器セクション160に向かって運ぶ。
【0062】
先行する説明では、様々な実施形態について説明した。説明の目的で、実施形態の完全な理解を提供するために、具体的な構成及び詳細について記述してきた。しかしながら、実施形態は、具体的な詳細がなくても実施され得ることが当業者には明らかであろう。更には、説明される実施形態を不明瞭にしないように、周知の特徴が省略又は簡略化されている場合がある。本明細書で説明される例示的な実施形態は、イオン分光測定システム、具体的には質量分析システムを中心としているが、これらは非限定的、例証的な実施形態であることが意図される。本開示の実施形態は、そのような実施形態に限定されず、むしろ、他の態様のなかでも、化学構造、微量元素組成などを決定するために幅広い材料試料を分析できる分析機器システムを対象にすることが意図される。
【0063】
本開示のいくつかの実施形態は、1つ以上のデータプロセッサ及び/又は論理回路を含むシステムを含む。いくつかの実施形態では、システムは、命令を含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体を含み、命令は、1つ以上のデータプロセッサで実行されると、1つ以上のデータプロセッサに、本明細書で開示される1つ以上の方法の一部若しくは全部、及び/又は1つ以上のプロセス若しくはワークフローの一部若しくは全部を実施させる。本開示のいくつかの実施形態は、1つ以上のデータプロセッサ及び/又は論理回路に、本明細書で開示される1つ以上の方法の一部若しくは全部及び/又は1つ以上のプロセスの一部若しくは全部を実施させるように構成された命令を含む非一時的機械可読記憶媒体において有形で具現化されたコンピュータプログラム製品を含む。
【0064】
使用されている用語及び表現は、限定の用語としてではなく説明の用語として使用され、そのような用語及び表現を使用するに際して、示され説明される特徴又はその一部分のいかなる同等物も除外する意図はないが、請求される範囲内で様々な修正が可能であることが理解される。したがって、本開示は、具体的な実施形態及び任意選択の特徴を含むが、本明細書で開示される概念の修正及び変形が、当業者によってなされることが可能であり、そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲内にあると見なされることが理解されるべきである。
【0065】
用語が明示的な定義なしに使用される場合、その用語が荷電粒子顕微鏡システムの分野又は他の関連分野における特別な意味及び/又は特定の意味を有しない限り、その単語の通常の意味が意図されることを理解されたい。「約」又は「実質的に」という用語は、記載された特性からの逸脱を示すために使用され、その逸脱の範囲内では、記載されている構造の対応する機能、特性、又は属性への影響が殆どない又は全くない。寸法パラメータが別の寸法パラメータに「実質的に等しい」と記載されている図示する例では、「実質的に」という用語は、比較されている2つのパラメータが、製造公差又はシステムの動作に固有の信頼区間などの許容限界内で等しくない可能性があることを反映することが意図される。同様に、整列方向又は角度方向などの幾何学的パラメータが、「約」垂直、「実質的に」垂直、又は「実質的に」平行として説明される場合、「約」又は「実質的に」という用語は、整列方向又は角度方向が、許容限度内で、厳密に述べられた条件と異なり得る(例えば、厳密に垂直ではない)ことを反映することが意図される。一実施例では、イオン分離器(例えば、図2Aのイオン分離器200)の構成要素が、流れ軸(例えば、図2Aの流れ軸A)に「実質的に整列」することができ、これは、イオン分離器の性能に及ぼす影響が無視できる又は影響がない、製造及び/又は組立公差から生じる、正確な整列からの偏差を含むことができる。直径、長さ、幅などの寸法値について、「約」という用語は、記述される値から最大で±10%の偏差を説明するものと理解することができる。例えば、「約10mm」の寸法は、9mm~11mmの寸法を説明することができる。
【0066】
本明細書は、例示的な実施形態を提供するものであり、本開示の範囲、適用可能性、又は構成を限定することを意図するものではない。むしろ、例示的な実施形態に続く説明は、当業者に、様々な実施形態を実現することを可能にする説明を提供する。添付の特許請求の範囲に記述されている趣旨及び範囲から逸脱することなく、要素の機能及び構成に様々な変更を加えることができることを理解されたい。実施形態の完全な理解を提供するために、具体的な詳細が本明細書で与えられる。しかしながら、実施形態は、これらの具体的な詳細なしで実施され得ることが理解されるであろう。実施形態を不必要な詳細で不明瞭にしないために、例えば、本開示の具体的なシステム構成要素、システム、プロセス、及び他の要素が、概略図の形態で示され得る、又は図から省略され得る。その他の場合、周知の回路、プロセス、構成要素、構造、及び/又は技術が、不必要な詳細なしに示され得る。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
【外国語明細書】