IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 服部株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096128
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】難燃成分及び難燃加工剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/06 20060101AFI20240705BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20240705BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20240705BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240705BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C09K21/06
D06M13/148
C08L67/00
C08L77/00
C08K5/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2024061105
(22)【出願日】2024-03-18
(62)【分割の表示】P 2021182875の分割
【原出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】592240910
【氏名又は名称】服部株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深井 大
(72)【発明者】
【氏名】濤 立晃
(57)【要約】
【課題】ハロゲン系化合物又はリン系化合物を含有しない、新たな難燃成分を含有する難燃加工剤に関する。
【解決手段】多価アルコールである難燃成分。多価アルコールのTc1:[吸熱を伴う状態変化が発生する温度]は、Tm1:[(S)対象材料の融点温度]とTd1:[(S)対象材料の熱分解温度]との間の関係、
Tm1 ≦ Tc1 ≦ Td1
Tm1:(S)対象材料の融点温度
Tc1:(B)多価アルコールの
吸熱を伴う状態変化が発生する温度
Td1:(S)対象材料の熱分解温度を満たす、(P)難燃成分を含む対象材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃成分が、多価アルコール、下記(1)構造式:
R- (OH)x (1)
において、上記構造式の一部である置換基Rが、炭化水素を有する(B)多価アルコールより選択される少なく とも1種を含む、難燃成分。
【請求項2】
ポリエステル系樹脂及び/もしくはポリアミド系樹脂の熱可塑性樹脂である(S)対象材料に請求項1に記載の難燃成分を含む(P)難燃成分を含む対象材料。
【請求項3】
請求項1に記載の難燃成分と、請求項2に記載の(S)対象材料との間に、以下の式を満たす請求項1に記載の難燃成分を含む(P)難燃成分を含む対象材料。
Tm1 ≦ Tc1 ≦ Td1
Tm1:請求項2に記載の(S)対象材料の融点温度
Tc1:請求項1に記載の多価カルボン酸が、
吸熱を伴う状態変化が発生する温度
Td1:請求項2に記載の(S)対象材料の熱分解温度
【請求項4】
請求項1及び3に記載の難燃成分よりなる請求項2に記載の(S)対象材料を難燃化する難燃加工剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価アルコールから少なくとも1種選ばれ、(S)対象材料の融点温度Tm1:[(S)対象材料の融点温度]とTd1:[(S)対象材料の熱分解温度]の間に、難燃成分がTc1:[吸熱を伴う状態変化が発生する温度]を持つ難燃成分及び難燃加工剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から(S)対象材料、例えばポリエステル系樹脂に難燃性能を付与する難燃成分として、臭素原子や塩素原子等のハロゲン系化合物を含有するハロゲン系難燃加工剤が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、ハロゲン系難燃加工剤では、加熱時に有害なハロゲン系ガスが発生し、
環境や人体に有害な影響を及ぼす等の問題がある。
【0003】
また、ハロゲン系難燃加工剤に代わる難燃加工剤として、難燃成分にリンを含有するリン系難燃加工剤が使用されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、リン系難燃加工剤では(S)対象材料の機械特性を著しく低下させること、さらに排液による環境負荷が大きい等の問題がある。
【0004】
更に、水和金属系化合物を含有する難燃加工剤が使用されている(例えば、特許文献3参照)。
しかし、水和金属系化合物を含有する難燃加工剤では(S)対象材料の機械特性を著しく低下させること、さらに加工法に制限がある等の問題がある。
【先行技術文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57-137377号公報
【特許文献2】特開2019-025673号公報
【特許文献3】WO2013/154200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱可塑性樹脂の燃焼サイクルに基づき燃焼することが知られている。
燃焼サイクルとは、
A)可燃性ガスの燃焼:可燃性ガス、酸素補給
B)燃焼による輻射熱の発生:材料表面の温度上昇
C)材料中への熱伝導:材料の温度上昇
D)材料の熱分解:可燃性ガスの発生
E)難燃性ガスの材料表面への拡散:材料中の拡散
F)可燃性ガスの燃焼場への拡散:気相中の拡散
A)→B)→C)→D)→E)→F)→A)のサイクルにより
燃焼が継続することである。(参考:日本難燃剤協会、“難燃剤とは”、[online]、日本難燃剤協会、[令和3年6月18日検索]、インターネット<URL:https://www.frcj.jp/flame-retardants/>)
【0007】
今日まで難燃成分にハロゲン系化合物、リン系化合物及び、水和金属系難燃加工剤を含有する難燃加工剤が使用されてきたのは難燃成分にハロゲン系化合物、リン系化合物及び、水和金属系化合物を含有する難燃加工剤が高い難燃性能を有する為である。
【0008】
難燃成分にハロゲン系化合物を含有する難燃加工剤は、燃焼サイクルにおいて
A)可燃性ガスの燃焼:可燃性ガス、酸素の補給
を妨げることで高い難燃性能が発現する。
【0009】
難燃成分にリン系化合物を含有する難燃加工剤及び水和金属を含有する水和金属系難燃剤は、燃焼サイクルにおいて
C)材料中への熱伝導:材料の温度上昇
を妨げることで難燃性能を有する。
【0010】
しかしながら、上述のように難燃成分にハロゲン系化合物及び、リン系化合物、水和金属系化合物を含有する難燃加工剤は、環境負荷の観点から使用できない場面があるなど、使用に制約があるという課題に対し、本発明者等は、(S)対象材料の燃焼サイクルに着目し、ハロゲン系化合物、リン系化合物及び、水和金属系化合物を含有しない、新たな難燃成分を含有する難燃加工剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、先行技術の燃焼サイクルへのアプローチを参考にし、燃焼サイクル内の有機材料の温度上昇に関わる、
B)燃焼による輻射熱の発生:材料表面の温度上昇
C)材料中への熱伝導:材料の温度上昇
を妨げることが出来る難燃成分に関する開発を行った。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特許請求項1を満たす多価カルボン酸を少なくとも1種の難燃成分を、特許請求項2に記載の(S)対象材料であるポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂の熱可塑性樹脂に難燃性能を付与することが可能となる。難燃性能を付与された(S)対象材料は、加熱時に発生する有害物質の低減、使用による環境負荷低減及び使用可能な環境の拡大を可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「~」とはその前後に記載された数値をそれぞれ下限値及び、上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<難燃成分>
請求項1に記載の多価アルコールは難燃成分である。
上記難燃成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
<多価アルコール>
請求項1に記載の多価アルコールは、1分子中に4個のヒドロキシル基を含む多価アルコールであることが好ましい、(1)構造式:
R- (OH)x (1)
で表される難燃成分である。
R基の置換基は、アルキル基、アリール基、アラアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基などが挙げられる。好ましくはアリール基であり。さらに好ましくは、アルキル基である。これらに、カルボキシル基を含んでも良い。
【0016】
多価アルコールの具体例としては、1,3-アダマンタンジオール、2-(ヒドロキシメチル)-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、1,3,5-シクロヘキサントリオール、1,3,5-アダマンタントリオール、ロイコキニザリン、D-(-)-キナ酸、キシリトール、エリトリトール等が挙げられる。また、上に挙げた難燃成分の中でもエリトリトールでは特に高い効果が確認されている。
【0017】
<(S)対象材料>
請求項2に記載の(S)対象材料は、ポリエステル樹脂及び/もしくはポリアミド系樹脂の熱可塑性樹脂からなる群より選択される樹脂である。
上記熱可塑性樹脂は、単独で用いても良く、混合して用いても良い。
【0018】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレート〔例えば、エチレングリコールの一部を1,4-シクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコール等で置換したポリエチレンテレフタレートである、いわゆる商品名PET-G(イーストマンケミカルカンパニー製)〕、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート-イソフタレート共重合体等が挙げられる。
【0019】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロンMXD6(メタキシリレンジアミンとアジピン酸の重縮合体)及びこれらの共重合体が挙げられる。
【0020】
<難燃成分の特性>
請求項3で、請求項1に記載の多価アルコールと、請求項2に記載の(S)対象材料との間に、下記関係が成り立つ必要があるとしている。
Tm1 ≦ Tc1 ≦ Td1
Tm1:(S)対象材料の融点温度
Tc1:多価アルコールの吸熱を伴う状態変化が発生する温度
Td1:(S)対象材料の熱分解温度
【0021】
具体的な例を挙げるならば、請求項2に記載の(S)対象材料がポリエチレンテレフタレートである場合、Tm1:[(S)対象材料の融点温度]とTd1:[(S)対象材料の熱分解温度]は一般的に、
Tm1:[(S)対象材料の融点温度]=220℃
Td1:[(S)対象材料の熱分解温度]=350℃
である。
その為、難燃成分である多価アルコールのTc1:[吸熱を伴う状態変化が発生する温度]が下記を満たす温度である必要がある。
220℃ ≦ Tc1 ≦ 350℃
【0022】
<難燃加工剤>
請求項4で記載の難燃加工剤とは、請求項1、及び請求項1の中から請求項3に記載の難燃成分が少なくとも1種を含む、請求項2に記載の(S)対象材料に難燃性能を付与する難燃加工剤である。
【0023】
本発明の実施形態によれば、難燃加工剤には難燃成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲内で上記成分以外の任意の成分と混合できる。このような成分としては、特に限定されないが、例えば、水、水性溶剤、有機溶剤、pH調整剤、界面活性剤(アニオン界面活性剤、ノ二オン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等)、防腐剤、消泡剤、及び変色防止剤等が挙げられる。なお、これらの成分の含有量については、特に限定されず、性能面や加工安定性を考慮しつつ、製造や貯蔵に関して不具合が生じない範囲内で適切に決定することが可能である。
【0024】
上記の水性溶剤としては、水に混和する親水性溶剤が好ましい。親水性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等が挙げられる。
【0025】
pH調整剤は、任意の適切なアルカリ又は酸であってよい。アルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム等の炭酸塩、硼酸カリウム、硼酸ナトリウム等の硼酸塩、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム等の硫酸水素塩、ケイ酸カリウム、メタケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等の無機アルカリ金属塩、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等の有機アルカリ金属塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン等の有機アミン類及び、アンモニア等を挙げることができる。好ましくは、有機アミン類及び、アンモニア等である。酸としては、例えば、酢酸、乳酸、プロピオン酸、マレイン酸、ギ酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸、及び塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を挙げることができる。これらのpH調整剤は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
本発明の実施形態に係る難燃加工剤は、任意選択で仕上げ加工剤をさらに含んでもよい。このような仕上げ加工剤としては、特に限定されないが、例えば、地糸切れ防止剤、吸水性、吸湿性、制電性等を与える親水化剤(ポリエチレングリコール誘導体、各種親水性ポリマーを含む処理剤等)、撥水・撥油剤(高級脂肪族系、シリコーン系、フッ素系等)、防かび剤(フェノール系等)、柔軟仕上げ剤(シリコーン系、アニオン系、カチオン系等)、などが挙げられる。
【0027】
<用途>
本発明における難燃成分又は、難燃加工剤は、(S)対象材料に付着、浸透させることで、難燃性能を有する(P)難燃成分を含む対象材料を得ることを目的に使用される。
【0028】
上記用途において、本発明に関わらない難燃成分を1種又は2種以上併用しても良い。
【0029】
上記用途における難燃成分の添加量は、(S)対象材料100質量部に対して1質量部以上が好ましく、更に1質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0030】
<(S)対象材料への難燃成分付着、浸透>
(S)対象材料へ、多価アルコールから選択される1種又は2種以上の難燃成分を、(S)対象材料へ付着、浸透させることで難燃性能を有する(P)難燃成分を含む対象材料が得られる。
【0031】
<難燃成分付着、浸透方法>
本発明の難燃成分を(S)対象材料へ付着、浸透させる方法は特に限定されず、具体的には難燃加工剤を用いたパディング法、吸尽法、スプレー法、等が使用できる。
【0032】
<(S)対象材料の形態>
(S)対象材料の形態は特に限定されず、具体的には繊維材料、自動車部材、装飾用プレート等の成形品が挙げられ、使用目的に応じて形態が決定される。
【0033】
上記(S)対象材料の形態でより良く難燃性を付与できるのは繊維材料であり、その形態は平織物、朱子織物、綾織物等の織物、ベロア等のトリコット、ハイバイ起毛等のダブルラッセル、シンカーパイル等の丸編み、ジャージ等の編物、ニードルパンチ、ステッチポンド、スパンレース等の不織布を挙げることができる。これらの形態のうち、平織物、朱子織物、綾織物等の織物が好適に用いられる。なお、繊維製品の厚さ及び目付けは、特に限定されず素材に応じて適宜選択することができる。
【0034】
(S)対象材料への難燃成分による難燃性付与の前後において各種の公知の処理を行うことができる。例えば、捺染プリント、染色や熱セット、各種の仕上げ加工(柔軟加工、撥水加工、艶出し等)を行うことができる。
【実施例0035】
<難燃加工剤の調製>
実施例1を以下のように調整した。
<難燃加工剤1>
エリトリトール(富士フイルム和光純薬株式会社製):2gを水で希釈して100gの難燃加工剤を得た(pH6.9)。
【実施例0036】
難燃加工剤1を使用して、ポリエステルポンジ(株式化社原田幸製:糸の太さ 経糸×緯糸:75D×75D、糸打ち込み本数 経×緯:90本/inch×80本/inch、目付け:58g/m)に絞り率65%にてパディング加工による処理を行った。次に、パディング加工されたポリエステルポンジを、熱シリンダーを使用して80~100℃にて2分間乾燥することにより、難燃成分が付着された難燃性繊維材料を製造した。なお、付着された難燃成分の量はポリエステルポンジ100質量部に対して1.5質量部であった。
【0037】
<比較例1>
難燃加工剤で処理する前のポリエステルポンジを用意した。
【0038】
<難燃性の評価>
実施例1比較例1の難燃性能は、JISL-1091 D法(45°コイル法)の規格に従って、繊維材料の接炎回数を測定して以下の基準によって評価した。評価がAの場合を合格とし、Bの場合を不合格とした。
【表1】
【0039】
表2を参照すると、実施例1で使用した難燃成分が(S)対象材料に難燃性能を付与していることが判った。
【表2】
【0040】
実施例及び比較例で使用された各成分が本発明の難燃成分であるかを確認するためTm1:[(S)対象材料の融点温度]、Td1:[(S)対象材料の熱分解温度]及び、T c1:[吸熱を伴う状態変化が発生する温度]を比較し、その結果を以下表3にまとめた。
【表3】
【0041】
表3を参照すると、請求項3を実施例で使用した難燃成分が満たしているが判った。