(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096188
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法および車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240705BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20240705BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20240705BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20240705BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60W10/00 120
B60W10/04
B60W10/184
B60W30/02
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069021
(22)【出願日】2024-04-22
(62)【分割の表示】P 2020164411の分割
【原出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 圭介
(72)【発明者】
【氏名】篠原 尚希
(57)【要約】
【課題】 車両停車の際のピッチング変動を抑制することができる車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供する。
【解決手段】 本発明の一実施形態における車両制御装置、車両制御方法および車両制御システムは、車両の速度に関する物理量と、車両を減速させるために必要な要求制動力に関する物理量をと取得し、要求制動力に関する物理量に基づいて車両を減速させるときに、摩擦制動力が発生している状態で、駆動装置による駆動力を発生させることとした。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の停車直前のときに、前記車両に摩擦制動力が作用している状態で、前記車両に駆動力を付与する制御指令を出力する、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記車両に対するクリープ力と前記駆動力の合計が、前記摩擦制動力を超えないように前記駆動力を前記車両に付与するように前記制御指令を出力する、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記車両の停車後、所定時間を経過するまで前記駆動力の最大値を保持するように前記制御指令を出力する、
車両制御装置。
【請求項4】
車両に搭載された車両制御装置が実行する車両制御方法であって、
前記車両の停車直前のときに、前記車両に摩擦制動力が作用している状態で、前記車両に駆動力を付与する制御指令を出力する、
車両制御方法。
【請求項5】
車両に摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、
前記車両に駆動力を発生させる駆動装置と、
前記車両の停車直前のときに、前記車両に前記摩擦制動力が作用している状態で、前記車両に前記駆動力を付与する制御指令を出力する制御装置と、
を備える車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法および車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両が減速状態から車速ゼロに移行する際の車両前後方向加速度を所定許容値以下とするトルク減少開始車速を、回生制動中の回生制動力と、モータ制駆動力の最終目標値と、回生制動力を減少させる所定の減少勾配と、に基づいて設定する車両の前後振動制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、車両速度の低下に合わせて回生制動力を低下させているため、該回生制動力の減少勾配の推定に基づく制御上の誤差によっては、車両停車の際にピッチング変動が生じるおそれがあった。
本発明の目的の一つは、車両停車の際のピッチング変動を抑制することができる車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態における車両制御装置、車両制御方法および車両制御システムは、車両の速度に関する物理量と、車両を停車させるために必要な要求制動力に関する物理量とを取得し、要求制動力に関する物理量に基づいて車両の停車直前のときに、摩擦制動力が発生している状態で、駆動装置による駆動力を発生させることとした。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両停車の際のピッチング変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1における電動車両の制御システムの構成図である。
【
図2】実施形態1における車両制御装置の駆動トルク算出処理を表す制御ブロック図である。
【
図3】実施形態1における運転者要求トルク算出処理の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図4】実施形態1における勾配抵抗算出部の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図5】実施形態1における停車判定部の動作を表す図である。
【
図6】実施形態1における停車時情報保持部に備えられた忘却ゲインマップである。
【
図7】実施形態1における勾配抵抗算出部に備えられた勾配補正トルクマップである。
【
図8】実施形態1における勾配抵抗&制動力要求相当分トルク算出部の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図9】実施形態1における制御ゲイン算出部及び加算トルク算出部の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図10】実施形態1における加速度可変型制御ゲインマップである。
【
図11】実施形態1における速度可変型制御ゲインマップである。
【
図12】実施形態1におけるゲイン保持時間調整部の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図13】実施形態1におけるゲイン保持時間調整部における作用を表すタイムチャートである。
【
図14】実施形態1における制御ゲインレートリミット部の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図15】車両速度が低下している際のゲイン特性を表すタイムチャートである。
【
図16】実施形態1における運転者要求トルク算出処理を実施した場合の車両速度の変化を表すタイムチャートである。
【
図17】実際の車両に本制御を適用した場合と、適用しない場合との実験結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1における電動車両の制御システムの構成図である。
電動車両1は、前輪2FL、2FRと後輪2RL、2RRと、各輪に設けられ車輪に摩擦制動力を発生させる摩擦ブレーキ3FL、3FR、3RL、3RR(以下、各輪の摩擦ブレーキを総称して摩擦ブレーキ3とも記載する。)を有する。
電動車両1は、後輪2RL、2RRにトルクを出力するリアモータ(後輪用電動モータ)7を有する。尚、後輪2RL、2RRを総称して駆動輪2とも記載する。リアモータ7および後輪2RL、2RR間の動力伝達は、減速機8、ディファレンシャル10およびリア車軸6RL、6RRを介して行われる。
各車輪2FL、2FR、2RL、2RRは、車輪速を検出する車輪速センサ11FL、11FR、11RL、11RRを有する。リアモータ7は、モータ回転数を検出する後輪用レゾルバ13を有する。また、電動車両1は、車両の加速度を検出する加速度センサ5を有する。
摩擦ブレーキ3は、各輪と一体に回転するブレーキロータに対し、各輪の回転軸方向にブレーキパッドを押し付けて摩擦力により制動力を発生させる。実施形態1の摩擦ブレーキ3は、ブレーキ液圧により作動するホイルシリンダによってブレーキパッドを押し付ける構成について説明するが、電動モータにより駆動するボールねじ機構等を介してブレーキパッドを押し付ける構成としても良く、特に限定しない。
電動車両1は、低電圧バッテリ14および高電圧バッテリ15を有する。低電圧バッテリ14は、例えば鉛蓄電池である。高電圧バッテリ15は、例えばリチウムイオン電池またはニッケル水素電池である。高電圧バッテリ15は、DC-DCコンバータ16により昇圧された電力により充電される。
【0009】
電動車両1は、車両制御装置17、ブレーキ制御装置18、リアモータ制御装置20およびバッテリ制御装置19を有する。各制御装置17、18、20は、CANバス21を介してお互いに情報を共有する。
車両制御装置17は、後輪用レゾルバ13、アクセル操作量を検出するアクセルペダルセンサ22、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ23、ギヤ位置センサ24等の各種センサから情報を取得し、車両の統合制御を行う。車両制御装置17は、ドライバのアクセル操作やブレーキ操作等に応じた要求トルクに対し、要求配分トルクに応じてリアモータ7が出力すべき運転者要求トルクを出力する。
ブレーキ制御装置18は、加速度センサ5と、車輪速センサ11等の各種センサから情報を取得するとともに運転者要求トルクに基づいて、摩擦ブレーキ3に発生させる摩擦ブレーキトルクを算出し、各輪に必要なブレーキ液圧を発生させ、油圧配管18aを通して摩擦ブレーキ3に出力する。
【0010】
バッテリ制御装置19は、高電圧バッテリ15の充放電状態および高電圧バッテリ15を構成する単電池セルを監視する。バッテリ制御装置19は、高電圧バッテリ15の充放電状態等に基づいて、バッテリ要求トルク制限値を算出する。バッテリ要求トルク制限値は、リアモータ7において許容する最大トルクである。例えば高電圧バッテリ15の充電量が低下しているときには、通常よりもバッテリ要求トルク制限値を小さな値に設定する。
リアモータ制御装置20は、リア要求トルクに基づいてリアモータ7に供給する電力を制御する。
【0011】
図2は、実施形態1における車両制御装置17の駆動トルク算出処理を表す制御ブロック図である。
運転者要求トルク算出処理部101では、車両速度とアクセル操作量と車両の加速度に基づいて運転者要求トルクを算出する。運転者がアクセルペダルを離しており、かつ車速が所定車速以上の場合はエンジンブレーキ力を模擬した負トルクであるコーストトルクを出力し、車速が低車速領域の場合は正トルクであるクリープトルクを出力する。本処理部における算出の詳細については後述する。尚、車両速度は、車輪速センサ11や後輪用レゾルバ13からのリアモータ7の取得した回転数情報から、推定した車両速度を算定するが、他のセンサから算出してもよい。
スリップ制御トルク算出処理部103では、車両速度とスリップ制御目標車輪速度と運転者要求トルクから加速時における駆動トルク制限値もしくは減速時における制動トルク制限値を算出し、回生協調ブレーキ受け入れ以後トルクが上記制限値の範囲内となるように制限したスリップ制御トルクを算出する。
トルク制限処理部104では、バッテリ要求トルク制限値等の各種トルク制限値によってスリップ制御トルクを制限し、指令トルクとして制限後駆動トルクを出力する。尚、制限後駆動トルクとは、車両の加速側と減速側の両方のトルクを含む。
【0012】
図3は、実施形態1における運転者要求トルク算出処理の詳細を表す制御ブロック図である。
運転者要求トルク算出部201では、アクセル操作量と車両速度に基づいて運転者が要求しているトルクを算出する。この算出内容については周知の技術構成を適宜採用すればよく特に限定しない。
勾配抵抗算出部202では、車両速度と加速度センサ5の値である加速度とに基づいて、路面の勾配によって車両に作用する抵抗を算出する。具体的には、車両速度から算出される推定加速度と加速度センサ5から検出される実加速度との偏差から勾配推定を行う。下り坂の勾配によりトルク加算時に車両減速度が過度に低下することを回避するためである。
勾配抵抗&制動力要求相当分トルク算出部203では、制動力要求値に相当するトルクに変換する。具体的には制動力要求相当トルク値から勾配抵抗相当分のトルクとクリープトルクを減算し、ブレーキ制動力を上回る駆動力を発生するトルクが印加されることを回避する。
制御ゲイン算出部204では、車両速度に応じたゲインと、減速度に応じたゲインの両方を算出する。具体的には、減速度に応じてピークゲインを変化させ、車両速度によって停車に合わせてゲインを増減させるためである。
加算トルク算出部205では、制動力要求相当分トルク値に対して制御ゲインを乗算してピッチング方向の振動抑制が可能な加算トルクを算出する。
加算部206では、運転者要求トルク算出部から出力された値に加算トルク算出部205から出力された加算トルクを加算する。
【0013】
図4は、実施形態1における勾配抵抗算出部202の詳細を表す制御ブロック図である。勾配抵抗算出部202は、停車時情報保持部2021と、実勾配推定部2022と、勾配推定補正部2023と、勾配補正トルクマップ2024と、を有する。
停車時情報保持部2021は、停車判定部a1と、加速度センサ値保存部a2と、走行距離推定部a3と、忘却ゲインマップa4と、掛け合わせ部a5と、偏差算出部a6と、を有する。停車時情報保存部2021は、勾配路において低速で走行し、再停車する場合に、実勾配推定部2022では勾配推定に十分な時間がなく、性能が低下するおそれがあることから、前回停車時の加速度センサ値情報を用いて勾配推定精度を向上させることを目的に構成される。
実勾配推定部2022は、車両速度を微分して算出された車両の推定加減速度を算出する加減速度推定部a7から出力された値と、加速度センサ5から出力された値との偏差を算出する加減速度減算部a8と、に基づいて現在の勾配である実勾配推定値を推定する。
【0014】
図5は、実施形態1における停車判定部の動作を表す図である。停車判定部a1では、車両速度が既定値以下、かつ既定値以下になった後、規定時間後に停車判断をする機能を有する。ここで、規定時間待機するのは、停車直後の加速度センサ値が振動的な場合があるからである。加速度センサ値保存部a2は、停車判定部a1が停車と判定後、加速度センサ5の値を保持する機能を有する。走行距離推定部a3では、制御サイクル時間と車両速度とから走行距離を算出する。
【0015】
図6は、実施形態1における停車時情報保持部に備えられた忘却ゲインマップである。このマップは、走行距離に応じて保存された加速度センサ値を徐々に忘却させるためのゲインであり、既定値x1(m)に到達したときに完全に忘却させる。掛け合わせ部a5では、保存された加速度センサ値に走行距離に応じた忘却ゲインを乗算し、加速度センサ値を算出する。偏差算出部a6では、実勾配推定部2022で算出された実勾配推定値と、停車時情報値保持部2021で保持された勾配との偏差を演算する。
勾配推定補正部2023では、偏差算出部a6から出力された値を実勾配推定値に加算して補正する。
図7は、実施形態1における勾配抵抗算出部に備えられた勾配補正トルクマップである。上り勾配(+)であれば勾配補正トルクとしてプラス側に補正された値が勾配補正トルクとして出力され、下り勾配(―)であれば勾配補正トルクとしてマイナス側に補正された値が勾配補正トルクとして出力される。
【0016】
図8は、実施形態1における勾配抵抗&制動力要求相当分トルク算出部の詳細を表す制御ブロック図である。勾配抵抗&制動力要求相当分トルク算出部203は、制動力トルク変換部2031と、加算部2032と、セレクト部2033と、減算部2034と、を有する。制動力トルク変換部2031は、ブレーキ操作により発生する制動力に相当するトルクを算出する。加算部2032は、制動力に相当するトルクに勾配補正トルクを加算する。セレクト部2033では、制動力要求相当分のトルクがプラス側(加速側)とならないように0で制限する。減算部2034では、クリープトルク分を減算し、クリープトルクと加算トルクの合計が制動力を上回らないように、下り坂の慣性でトルク加算時に車両減速度が過度に低下しないようにする。これにより、車両1が意に反して加速することを回避する。
【0017】
図9は、実施形態1における制御ゲイン算出部204及び加算トルク算出部205の詳細を表す制御ブロック図である。制御ゲイン算出部204は、加速度推定値算出部2041と、推定速度算出部2042と、制御ゲインマップ(加速度可変型)2043と、制御ゲインマップ(速度可変型)2044と、掛け合わせ部2045と、ゲイン保持時間調整部2046と、乗算部2047と、制御ゲインレートリミット部2048と、を有する。また、加算トルク算出部205は、乗算部2051と、セレクト部2052と、を有する。
加速度推定値算出部2041は、車両速度の微分値から車両加速度の推定値を算出する。
図10は加速度可変型制御ゲインマップ、
図11は速度可変型制御ゲインマップである。加速度可変型制御ゲインマップ2043では、絶対値として規定値x2(G)以上の減速度が生じる場合には、徐々にゲインを小さくし、絶対値として規定値x2(G)よりも小さな減速度の場合には100%にゲイン設定するため、急制動時にトルクが加算されることを回避する。尚、急制動時には、ピッチング方向の振動を抑制することよりも制動力を確保することが望ましいことは言うまでもない。また、速度可変型制御ゲインマップ2044では、車両速度の増加に応じて抑制的に作用するためのゲインであり、車両速度がx3(km/m)に到達すると完全に0が設定されるため、主に停車直前に作用する。掛け合わせ部2045では、これら両ゲインを掛け合わせることで、急減速時以外であって車両停止直前から効果的に作用させる。
【0018】
図12は、ゲイン保持時間調整部2046の詳細を表す制御ブロック図、
図13は、ゲイン保持時間調整部2046における作用を表すタイムチャートである。ゲイン保持時間調整部2046は、停車判断部b1と、ブレーキON判断部b2と、乗算部b3と、所定時間経過判断部b4と、を有する。停車判断部b1は、車両速度が停車判断の既定値になったか否かを判断し、停車と判断しているときは1を出力し、それ以外は0を出力する。ブレーキON判断部b2は、ブレーキが踏み込またON状態と判断したときには1を出力し、それ以外は0を出力する。乗算部b3は、ブレーキがON状態でかつ停車したと判断された場合に1を出力し、それ以外は0を出力する。所定時間経過判断部b4では、乗算部b3から1が出力され、予め設定された所定時間が経過するまで1を出力し、所定時間経過後に0を出力することで、停車後にすぐにゲインが低下しないよう、最大値を保持させる。
【0019】
図14は、制御ゲインレートリミット部2048の詳細を表す制御ブロック図である。制御ゲインレートリミット部2048は、偏差演算部c1と、ゲイン増加の最小レート出力部c2と、セレクト部c3と、ゲイン減少の最小レートを出力する出力部c4と、セレクト部c5と、加算部c6と、前回値保持部c7と、を有する。偏差演算部c1では、乗算部2047で乗算されたゲインと、制限されたゲインとの偏差を算出する。セレクト部c3では、ゲイン増加の最小レート出力部c2から出力された値と偏差とを比較し、小さい方を出力する。すなわち、ゲインが増加する際に最小レート以上にゲインが変化することを回避し、なめらかに変化させる。セレクト部c5では、ゲイン減少の最小レート出力部c4から出力された値とセレクト部c3から出力された値のうち大きい方を出力する。すなわち、ゲインが減少する際に最小レート以上にゲインが変化することを回避し、なめらかに変化させる。
【0020】
図15は、車両速度が低下している際のゲイン特性を表すタイムチャートである。制御ゲインマップ(速度可変型)2045から出力されるゲインを2045ゲインと記載し、2045ゲインにゲイン保持時間調整部2046から出力された値を乗算した値を2047ゲインと記載し、2047ゲインに制御ゲインレートリミット部を作用させたゲインを2048ゲインと記載する。
2045ゲインのように車速に応じたゲインを設定すると、車両をなめらかに停車可能であるものの、車両停止後も継続してゲインが発生してしまう。よって、車両停車中も摩擦ブレーキ3のトルクより低いトルクをリアモータ7から出力し続けてしまい、余分な電力消費が生じる。次に、2047ゲインの場合、なめらかに停車できるとともに、2045ゲインと比較した場合は、余分な電力消費を低減できる。しかしながら、急激なゲイン変動により、車両停止後に車両姿勢の急変や、ドライブシャフトのねじれ共振などが要因となって、振動や運転者への違和感が発生するおそれがある。これに対し、2048ゲインを採用した場合、ゲインの変動を制限することになるため、他のゲインに比べてなめらかにゲインが変動する。これにより、車両姿勢の急変やドライブシャフトのねじれ共振等を回避することができ、振動や運転者への違和感を抑制できる。
【0021】
加算トルク算出部205(
図9参照)は、乗算部2051とセレクト部2052とを有する。乗算部2051では、制動力要求相当トルク値に制御ゲインレートリミット部2048から出力されたゲインを乗算して制限された制御ゲインを出力する。セレクト部2052では、制動力要求相当トルク値と制限された制動力要求相当トルク値とを比較し、小さい方を最終的な加算トルクとして出力する。
【0022】
図16は、実施形態1における運転者要求トルク算出処理を実施した場合の車両速度の変化を表すタイムチャート、
図17は、実際の車両に本制御を適用した場合と、適用しない場合との実験結果を表す図である。
図16中のトルクの欄の点線は要求制動力に釣り合うトルクを表し、一点鎖線は運転者要求トルク算出処理を実施しない制御無しの場合のトルクを表し、実線は加算後トルクを表す。
【0023】
すなわち、運転者がブレーキペダルを踏み込んだ状態で車両停止に至ると、運転者のブレーキペダルの踏み込み状態に基づいて運転者要求トルクとしての要求制動力が算出される。よって、車両停止に必要な制動力以上の制動力が摩擦ブレーキ3によって付与され続ける。そうすると、停車直前に摩擦ブレーキ3の摩擦係数が動摩擦係数から静止摩擦係数に急激に切り替わることで、車両速度が急激に落ち込みやすく、加速度の急変を招きやすい(
図17の「制御無し」の加速度の欄:四角枠内参照)。
【0024】
そこで、車両停車に合わせたタイミングにおいてピークゲインを増減させ、摩擦ブレーキ3の制動力は変更することなく、リアモータ3からの出力トルクを加算し、摩擦ブレーキ3が後輪2RR,RLの回転を阻害するトルク以下の範囲で、駆動側トルクを付与することとした。これにより、摩擦ブレーキ3の制動力は確保したまま、車両に作用する加速度変化を抑制することができる(
図17の「制御あり」の加速度の欄:四角枠内参照)。
尚、摩擦ブレーキ3側の制動トルクを変更することも考えられるが、この場合、摩擦力を使用する観点から機械的なイナーシャの応答性に限界があり、更にブレーキパッド等の摩擦係数のばらつきの影響によって、制御精度を確保することが困難である。これに対し、摩擦ブレーキ3の制動トルクを確保した状態でリアモータ3からの出力トルクを加算することで、摩擦ブレーキ3の摩擦係数変化などによるトルク変動を抑制することができ、車両停止時におけるピッチング振動を効果的に抑制できる。
【0025】
実施形態1の電動車両の制御装置、制御方法および制御システムにあっては、以下に列挙する作用効果を奏する。
(1)車両1に摩擦制動力を発生させる摩擦ブレーキ3(摩擦制動装置)と、車両1に駆動力を発生させるリアモータ7(駆動装置)と、を有する車両1に備えられ、入力した情報に基づいて演算した結果を出力する車両制御装置17(コントロール部)を備える車両制御装置であって、
車両制御装置17は、
車両1の速度に関する物理量を取得し、
車両1を減速させるために必要な要求制動力に関する物理量を取得し、
要求制動力に関する物理量に基づいて車両1を減速させるときに、摩擦制動力が発生している状態で、リアモータ7による駆動力を発生させるための制御指令を出力する。
よって、摩擦制動力による車両加速度の急変を抑制することができ、車両停車の際のピッチング変動を抑制することができる。
【0026】
(2)車両制御装置17は、速度に関する物理量が所定速度を下回ると、制御指令を出力する。よって、車両停止を除く通常の減速状態で、不要なトルク付与を回避できる。
(3)車両制御装置17は、速度に関する物理量が小さくなるにつれて、かつ車両1の減速度に関する物理量が小さくなるにつれて駆動力が大きくなるように制御指令を出力する。よって、急減速時以外であって車両停止直前に効果的に駆動力を発生させることができる。
(4)車両制御装置17は、車両1が停車したと判断された後、所定時間を経過するまで駆動力の最大値を保持するように制御指令を出力する。よって、停車後に駆動輪に作用するトルクが急変することを防止できる。
(5)車両制御装置17は、駆動力の最大値を保持した後、徐々に駆動力が低下するように制御指令を出力する。よって、車両姿勢の急変やドライブシャフトのねじれ共振等を回避することができ、振動や運転者への違和感を抑制できる。
【0027】
(6)車両制御装置17は、駆動力と車両1に発生するクリープ現象による力の合計が、摩擦制動力を超えないように制御指令を出力する。よって、車両1が意に反して加速することを回避できる。
(7)車両制御装置17は、車両1を減速させるときの下り方向の路面勾配が大きくなるにつれて、駆動力が小さくなるように前記制御指令を出力する。よって、路面の影響により加速側のトルクが生じることを回避できる。
【0028】
(8)車両制御装置17は、車速に関する物理量の微分値と、加速度センサから取得したセンサ値と、の差に基づいて路面勾配を推定する。よって、路面勾配を精度良く推定できる。
(9)車両制御装置17は、車速に関する物理量の微分値と、加速度センサから取得したセンサ値との差と、車両1が路面勾配で停車したときの加速度センサから取得して記憶した値と、に基づいて路面勾配を推定する。すなわち、勾配路において低速で走行し、再停車する場合に、勾配推定に十分な時間がなく、性能が低下するおそれがあることから、前回停車時の加速度センサ値情報を用いることで、勾配推定精度を向上させることができる。
(10)実施形態1では、駆動装置として電動モータであるリアモータ7を備えた。よって、高い制御精度と応答性によって駆動力を制御することができ、効果的に車両停車の際のピッチング変動を抑制することができる。
【0029】
〔他の実施形態〕
以上、本発明を実施するための実施形態を説明したが、本発明の具体的な構成は実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、本実施形態では、後輪駆動の電動車両に適用したが、前輪駆動の電動車両や四輪駆動の電動車両でもよい。また、電動車両に限らず、内燃機関であるエンジンを備えた車両や、エンジンとモータの両方を用いて走行可能なハイブリッド車両であってもよい。すなわち、摩擦ブレーキを用いた車両停止時に、車両が停止可能な範囲で、もしくは駆動輪と路面との間に制動力が働く範囲で、駆動源側からトルクを付与することが可能な構成であればよい。
【0030】
[実施例から把握しうる技術的思想]
以上説明した実施例から把握しうる技術的思想(又は技術的解決策。以下同じ。)について、以下に記載する。
(1) 本技術的思想の車両制御装置は、その1つの態様において、
車両に摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、前記車両に駆動力を発生させる駆動装置と、を有する前記車両に備えられ、入力した情報に基づいて演算した結果を出力するコントロール部を備える車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記車両の速度に関する物理量を取得し、
前記車両を減速させるために必要な要求制動力に関する物理量を取得し、
前記要求制動力に関する物理量に基づいて前記車両を減速させるときに、前記摩擦制動力が発生している状態で、前記駆動装置による駆動力を発生させるための制御指令を出力する。
(2) より好ましい態様では、前記態様において、
前記コントロール部は、
前記速度に関する物理量が所定速度を下回ると、前記制御指令を出力する。
(3) 別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記コントロール部は、
前記速度に関する物理量が小さくなるにつれて、かつ前記車両の減速度に関する物理量が小さくなるにつれて前記駆動力が大きくなるように前記制御指令を出力する。
(4) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記コントロール部は、
前記車両が停車したと判断された後、所定時間を経過するまで前記駆動力の最大値を保持するように前記制御指令を出力する。
(5) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記コントロール部は、
前記駆動力の最大値を保持した後、徐々に前記駆動力が低下するように前記制御指令を出力する。
(6) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記コントロール部は、
前記駆動力と前記車両に発生するクリープ現象による力の合計が、前記摩擦制動力を超えないように前記制御指令を出力する。
(7) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記コントロール部は、
前記車両を減速させるときの下り方向の路面勾配が大きくなるにつれて、前記駆動力が小さくなるように前記制御指令を出力する。
(8) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記コントロール部は、
前記車速に関する物理量の微分値と、加速度センサから取得したセンサ値と、の差に基づいて前記路面勾配を推定する。
(9) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記コントロール部は、
前記車速に関する物理量の微分値と、加速度センサから取得したセンサ値と、の差と、前記車両が前記路面勾配で停車したときの前記加速度センサから取得して記憶した値と、に基づいて前記路面勾配を推定する。
(10) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記駆動装置は電動モータである。
(11)また、他の観点から、本技術的思想の車両制御方法は、その1つの態様において、
車両に摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、前記車両に駆動力を発生させる駆動装置と、を備える前記車両の車両制御方法であって、
前記車両の速度に関する物理量を取得し、
前記車両を減速させるために必要な要求制動力に関する物理量を取得し、
前記要求制動力に関する物理量に基づいて前記車両を減速させるときに、前記摩擦制動力が発生している状態で、前記駆動装置による駆動力を発生させるための制御指令を出力する。
(12) また、他の観点から、本技術的思想の車両制御システムは、その1つの態様において、
車両に摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、
前記車両に駆動力を発生させる駆動装置と、
入力した情報に基づいて演算した結果を出力する制御装置であって、
前記車両の速度に関する物理量を取得し、
前記車両を減速させるために必要な要求制動力に関する物理量を取得し、
前記要求制動力に関する物理量に基づいて前記車両を減速させるときに、前記摩擦制動力が発生している状態で、前記駆動装置による駆動力を発生させるための制御指令を出力する、
制御装置と、
を備える。
【符号の説明】
【0031】
1 電動車両
2RL、2RR 後輪
3 摩擦ブレーキ
5 加速度センサ
7 リアモータ
11 車輪速センサ
13 後輪用レゾルバ
17 車両制御装置
18 ブレーキ制御装置
20 リアモータ制御装置
22 アクセルペダルセンサ
23 ブレーキセンサ