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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009619
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】楽器
(51)【国際特許分類】
   G10D 3/02 20060101AFI20240116BHJP
   G10D 1/00 20200101ALI20240116BHJP
   G10D 13/10 20200101ALN20240116BHJP
   G10D 9/10 20200101ALN20240116BHJP
【FI】
G10D3/02
G10D1/00
G10D13/10 180
G10D9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111287
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】522277892
【氏名又は名称】金原 勝利
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金原 勝利
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002AA00
5D002CC09
(57)【要約】
【課題】空洞が形成されたボディを有する楽器であって、残響音の増幅効果や音色の調整効果を得られる楽器。
【解決手段】発音体と、表板部と、前記表板部に対向する裏板部と、前記表板部と前記裏板部とを接続する側面板部と、を有し、前記表板部、前記裏板部および前記側面板部に囲まれる空洞を形成し、前記発音体の少なくとも一端が固定されるボディと、一方の端部が前記表板部に接触し、他方の端部が前記裏板部に接触し、自然長より圧縮された状態で前記空洞内に配置される圧縮コイルばねと、を有する楽器。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発音体と、
表板部と、前記表板部に対向する裏板部と、前記表板部と前記裏板部とを接続する側面板部と、を有し、前記表板部、前記裏板部および前記側面板部に囲まれる空洞を形成し、前記発音体の少なくとも一端が固定されるボディと、
一方の端部が前記表板部に接触し、他方の端部が前記裏板部に接触し、自然長より圧縮された状態で前記空洞内に配置される圧縮コイルばねと、を有する楽器。
【請求項2】
一方の端部が前記表板部に接続し、他方の端部が前記裏板部に接続し、自然長より引き伸ばされた状態で前記空洞内に配置される引張コイルばねをさらに有する請求項1に記載の楽器。
【請求項3】
前記発音体は線密度の異なる複数の弦を有し、
前記複数の弦に対して接触し、前記複数の弦の振動の端部を形成するブリッジが、前記表板部の表面側に設けられており、
前記引張コイルばねを少なくとも3本有し、前記少なくとも3本の前記引張コイルばねは、それぞれの一方の端部が、前記表板部に垂直な方向から見て前記ブリッジを直径とする基準円の内部において、前記表板部の裏面側に接続する請求項1に記載の楽器。
【請求項4】
前記少なくとも3本の前記引張コイルばねは、前記表板部に接続する一方の端部から、前記裏板部に接続する他方の端部に向けて互いの距離が大きくなるように放射状に配置される請求項3に記載の楽器。
【請求項5】
前記発音体は線密度の異なる複数の弦を有し、
前記複数の弦に対して接触し、前記複数の弦の振動の端部を形成するブリッジが、前記表板部の表面側に設けられており、
前記圧縮コイルばねは、前記複数の弦のうち最も線密度の低い低密度弦より、前記複数の弦のうち最も線密度の高い高密度弦の近くに配置される請求項1に記載の楽器。
【請求項6】
前記発音体は線密度の異なる複数の弦を有し、
前記複数の弦に対して接触し、前記複数の弦の振動の端部を形成するブリッジが、前記表板部の表面側に設けられており、
前記圧縮コイルばねを少なくとも2本有し、前記少なくとも2本の前記圧縮コイルばねのうちの一つは、前記表板部に垂直な方向から見て、前記複数の弦のうち最も線密度の高い高密度弦およびその延長線より、前記ボディの中心線から遠い位置であって、前記中心線より前記高密度弦またはその前記延長線に近い位置に配置されており、前記少なくとも2本の前記圧縮コイルばねのうち他の一つは、前記表板部に垂直な方向から見て、前記複数の弦のうち最も線密度の低い低密度弦およびその延長線より、前記ボディの前記中心線から遠い位置であって、前記中心線より前記低密度弦またはその前記延長線に近い位置に配置されている請求項1に記載の楽器。
【請求項7】
前記圧縮コイルばねに対して、接触・離間するように操作可能に設けられ、接触時において前記圧縮コイルばねの振動を停止または抑制する止音部を、さらに有する請求項1に記載の楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞が形成されたボディを有する楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気による音の増幅を行うエレクトリック・ギターなどの電気楽器が普及しているが、電気による音の増幅を行わないでも、楽器本来の響きをそのまま生かすアコースティックギターのような楽器も、根強い人気がある。アコースティックギターのような生楽器は、電気による音の増幅をしないで演奏音を生じさせるボディを有するため、色々な場所で手軽に演奏することができ、自然な音色を様々なシチュエーションで楽しむことができる。
【0003】
一方、楽器において、発音体の振動に対して直接的に電気による音の増幅を行わず、発音体とそれに付随するボディ等の共鳴部分により生じた自然の音を生かして演奏を行う場合、電子楽器のように音質を自由に調整することは難しい。しかしながら、生楽器等においても、残響音を増幅させるなどにより、より良い響きを生じさせようという発案がなされている。
【0004】
その一つとして、重りを取り付けた振動用傾斜アームを、楽器取付部を介して楽器の面状部分に取り付ける技術が提案されている(特許文献1等参照)。しかしながら、従来の共鳴補助具などは、共鳴補助具への振動の伝搬が十分に効率的とは言えず、残響音の増幅効果や音色の調整効果という点では、課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6573350号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、空洞が形成されたボディを有する楽器であって、残響音の増幅効果や音色の調整効果を得られる楽器に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る楽器は、
発音体と、
表板部と、前記表板部に対向する裏板部と、前記表板部と前記裏板部とを接続する側面板部と、を有し、前記表板部、前記裏板部および前記側面板部に囲まれる空洞を形成し、前記発音体の少なくとも一端が固定されるボディと、
一方の端部が前記表板部に接触し、他方の端部が前記裏板部に接触し、自然長より圧縮された状態で前記空洞内に配置される圧縮コイルばねと、を有する。
【0008】
本発明に係る楽器は、圧縮コイルばねを表板部と裏板部との間に縮めて配置することにより、発音体の振動が圧縮コイルばねに効果的に伝わり、残響音の増幅効果や音色の調整効果が得られる。また、圧縮コイルばねが表板部と裏板部とを押すことにより、表板部と裏板部とに適度が張りを持たせることができ、これにより楽器から生じる音の響きを増幅し向上させることができる。また、圧縮コイルばねは、低音(長周期)側の音を強めやすい傾向にあり、低音側の音の響きを効果的に向上させることができる。
【0009】
また、たとえば、本発明に係る楽器は、一方の端部が前記表板部に接続し、他方の端部が前記裏板部に接続し、自然長より引き伸ばされた状態で前記空洞内に配置される引張コイルばねをさらに有してもよい。
【0010】
引張コイルばねを、表板部と裏板部との間に伸ばして配置することでも、発音体の振動が引張コイルばねに効果的に伝わり、残響音の増幅効果や音色の調整効果が得られる。また、圧縮コイルばねだけでは、表板部と裏板部とを空洞の外側に向かって押す力が強くなりすぎる問題があるが、引張コイルばねを合わせて使うことで、表板部と裏板部に作用するばねの力が打ち消し合うため、ボディを補強することなく、複数のばねを配置することができる。
【0011】
また、たとえば、前記発音体は線密度の異なる複数の弦を有してもよく、
前記複数の弦に対して接触し、前記複数の弦の振動の端部を形成するブリッジが、前記表板部の表面側に設けられていてもよく、
前記引張コイルばねを少なくとも3本有し、前記少なくとも3本の前記引張コイルばねは、それぞれの一方の端部が、前記表板部に垂直な方向から見て前記ブリッジを直径とする基準円の内部において、前記表板部の裏面側に接続してもよい。
【0012】
楽器の発音体が弦を有し、ブリッジが発音体の表面側に設けられるギターなどの弦楽器である場合、ブリッジの近くに引張コイルばねの一方の端部を配置することにより、ばねおよびボディが、より効果的に振動することができる。なお、圧縮コイルばねや引張コイルばねの本数は、楽器の大きさなどに応じて増減させてもよく、たとえばウクレレのような小型の楽器では、圧縮コイルばねおよび引張コイルばねの本数を1本または2本程度とすることができる。
【0013】
また、たとえば、前記少なくとも3本の前記引張コイルばねは、前記表板部に接続する一方の端部から、前記裏板部に接続する他方の端部に向けて互いの距離が大きくなるように放射状に配置されていてもよい。
【0014】
このように前記引張コイルばねを放射状に配置することにより、ばね並びにばねが接続する表板部および裏板部を効果的に振動させ、残響音の増幅効果や音色の調整効果が得られる。
【0015】
また、たとえば、前記発音体は線密度の異なる複数の弦を有し、
前記複数の弦に対して接触し、前記複数の弦の振動の端部を形成するブリッジが、前記表板部の表面側に設けられていてもよく、
前記圧縮コイルばねは、前記複数の弦のうち最も線密度の低い低密度弦より、前記複数の弦のうち最も線密度の高い高密度弦の近くに配置されてもよい。
【0016】
圧縮コイルばねは、低音(長周期)側の音を強めやすい傾向にあるため、線密度の高い高密度弦の近くに配置することにより、低音側の音の響きを効果的に向上させることができる。
【0017】
また、たとえば、前記発音体は線密度の異なる複数の弦を有してもよく、
前記複数の弦に対して接触し、前記複数の弦の振動の端部を形成するブリッジが、前記表板部の表面側に設けられていてもよく、
前記圧縮コイルばねを少なくとも2本有し、前記少なくとも2本の前記圧縮コイルばねのうちの一つは、前記表板部に垂直な方向から見て、前記複数の弦のうち最も線密度の高い高密度弦およびその延長線より、前記ボディの中心線から遠い位置であって、前記中心線より前記高密度弦またはその前記延長線に近い位置に配置されており、前記少なくとも2本の前記圧縮コイルばねのうち他の一つは、前記表板部に垂直な方向から見て、前記複数の弦のうち最も線密度の低い低密度弦およびその延長線より、前記ボディの前記中心線から遠い位置であって、前記中心線より前記低密度弦またはその前記延長線に近い位置に配置されていてもよい。
【0018】
2本の圧縮コイルばねを中心線の両側に配置することにより、ばねからボディに作用する力を均質化し、過度な力がボディに対して局所的に作用する問題を防止することができる。また、ブリッジの両側に圧縮コイルばねを配置することで、ばね並びにばねが接続する表板部および裏板部を効果的に振動させ、残響音の増幅効果や音色の調整効果が得られる。
【0019】
また、たとえば、楽器は、前記圧縮コイルばねに対して、接触・離間するように操作可能に設けられ、接触時において前記圧縮コイルばねの振動を停止または抑制する止音部を、さらに有してもよい。
【0020】
このような止音部を有するギターは、曲調や他の楽器とのバランスに応じて止音部を操作し、楽器が生じる音の響きを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る楽器の外観図である。
図2図2は、図1に示す楽器のボディ内に配置される圧縮コイルばねおよび引張コイルばねの配置を示す概念図である。
図3図3は、図1に示す楽器の断面図である。
図4図4は、図1に示す楽器に使用される圧縮コイルばねおよび引張コイルばねを示す概念図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る楽器の外観図である。
図6図6は、図5に示す楽器のボディ内に配置される圧縮コイルばね、引張コイルばねおよび付加引張コイルばねの配置を示す概念図である。
図7図7は、図5に示す楽器の表板部の内面側に配置される付加引張コイルばねの配置を示す概念図である。
図8図8は、図5に示す楽器の断面図である。
図9図9は、本発明の第2実施形態に係る楽器のボディ内に配置される圧縮コイルばねおよび引張コイルばねの配置を示す概念図である。
図10図10は、変形例に係る楽器のボディ内に配置される引張コイルばねおよび止音部を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る楽器としてのギター10を示す外観図である。実施形態では、楽器としてギター10を例に説明を行うが、発明が適用される楽器は、ウクレレ、ヴァイオリン、リュート、マンドリンなど、ギター10以外の弦楽器であってもよく、打楽器や管楽器など、弦楽器以外の他の楽器であってもよい。
【0023】
ギター10は、ヘッド51、発音体としての複数の弦20、ネック53、ボディ30等を有する。また、ギター10は、ボディ30内に形成される空洞37内に配置される圧縮コイルばね(第1圧縮コイルばね61および第2圧縮コイルばね66)および引張コイルばね(第1引張コイルばね71、第2引張コイルばね72、第3引張コイルばね73、第4引張コイルばね74、第5引張コイルばね75)を有する。
【0024】
ギター10は、ボディ30の空洞37内に圧縮コイルばねおよび引張コイルばねが配置されていることを除き、一般的なギターとの多くの共通点を有する。たとえば、ギター10は、発音体として、線密度の異なる複数の弦20を有する。複数の弦20は、線密度の低い順に、1弦21、2弦22、3弦23、4弦24、5弦25、6弦26からなる6本の弦で構成される。なお、本明細書において線密度とは、各弦21~26の単位長さ当りの質量を意味する。
【0025】
また、ギター10は、サウンドホール32dが形成される表板部32と、表板部32に対向する裏板部34と、表板部32の外周部と裏板部34の外周部を接続する側面板部36とを有する。ボディ30は、表板部32、裏板部34および側面板部36とに囲まれる空洞37を形成している。発音体である複数の弦20の一端は、ストリングピン54等を介して、ボディ30の表板部32に固定される。
【0026】
図1に示すように、ギター10では、ボディ30からネック53が延びており、ネック53の先端にヘッド51が接続している。複数の弦20の他端は、ペグ52を介して、ヘッド51に固定されている。これにより、発音体である複数の弦20は、ペグ52を操作することにより、ヘッド51から、ネック53および表板部32上に形成されるサウンドホール32dの上を通って、ボディ30の表板部32のストリングピン54まで、所定のテンションで張られる。
【0027】
また、ボディ30における表板部32の表面側32aには、ストリングピン54に対してネック53側に隣接して、ブリッジ40が設けられている。ブリッジ40は、発音体である複数の弦20に接触し、複数の弦20とブリッジ40との接触位置に、複数の弦20の振動の端部を形成する。
【0028】
ボディ30の材質としては、特に限定されず、たとえば、スプルース、シダー、ローズウッドなどの木材が挙げられるが、樹脂など、木材以外の材料を使用していてもよい。たとえば、表板部32、裏板部34および側面板部36などの一部または全体を、金属やFRPなどを用いて構成することで、響きを改善または調整してもよい。ペグ52、ストリングピン54、ブリッジ40などとしては、金属、樹脂、木材、牛骨等を使用することができるが、特に限定されない。また、複数の弦20を構成する1弦21~6弦26は、ナイロンなどの樹脂や金属の弦や、ナイロンフロスを銅線で巻いた巻き弦または金属の巻き弦などで構成されるが、複数の弦20の材質もこれらのみには限定されない。
【0029】
図1において点線で示されるように、ボディ30が形成する空洞37内には、圧縮コイルばね61、66と、引張コイルばね71、72、73、74、75が配置されている。図2は、図1に示すボディ30のうち表板部32の図示を省略し、ボディ30における裏板部34と圧縮コイルばね61、66および引張コイルばね71、72、73、74、75の配置関係を示す概念図である。
【0030】
図2に示すように、ボディ30が形成する空洞37には、圧縮コイルばねが2つ、引張コイルばねが5つ配置されている。2つの圧縮コイルばねは、第1圧縮コイルばね61と第2圧縮コイルばね66とからなる。5つの引張コイルばねは、第1引張コイルばね71と、第2引張コイルばね72と、第3引張コイルばね73と、第4引張コイルばね74と、第5引張コイルばね75とからなる。
【0031】
図3は、図1に示すギター10におけるボディ30の内部の状態を示す断面図である。図2および図3に示すように、第2圧縮コイルばね66は、一方の端部66aが表板部32に接触し、他方の端部66bが裏板部34に接触し、自然長より圧縮された状態で、空洞37内に配置されている。また、図2に示す第1圧縮コイルばね61についても、第2圧縮コイルばね66と同様に、一方の端部61aが表板部32に接触し、他方の端部61bが裏板部34に接触し、自然長より圧縮された状態で、空洞37内に配置されている。
【0032】
図2および図3に示すように、第1圧縮コイルばね61と第2圧縮コイルばね66とは、表板部32の内面側32bと、裏板部34の内面側34bとの間に挟まれ、表板部32と裏板部34が、第1圧縮コイルばね61と第2圧縮コイルばね66とを圧縮する力により、空洞37内の所定位置に保持される。表板部32および裏板部34の内面側32b、34bには、第1圧縮コイルばね61および第2圧縮コイルばね66が所定位置からずれることを防止する突起や凹部などが形成されていてもよい。
【0033】
図1および図2から理解できるように、第1圧縮コイルばね61は、複数の弦20のうち最も線密度の低い1弦21より、複数の弦20のうち最も線密度の高い6弦26の近くに配置されている。ここで、圧縮コイルばね61、66は、1~3弦21~23で生じる高音側の音より、4~6弦で生じる低音側の音を強めやすい傾向にあるため、仮にギター10が、圧縮コイルばねを1つだけ有する場合には、第1圧縮コイルばね61のように6弦26の近くに配置することが好ましい(図5参照)。
【0034】
また、図1に示すように、ギター10が圧縮コイルばねを少なくとも2本有する場合には、第1圧縮コイルばね61と第2圧縮コイルばね66のように、ボディ30における複数の弦20に平行な方向の中心線38の両側に、分散して配置されることも好ましい。すなわち、少なくとも2本の圧縮コイルばね61、66のうちの一つである第1圧縮コイルばね61は、表板部32に垂直な方向から見て、複数の弦20のうち最も線密度の高い高密度弦である6弦26およびその延長線26aより、ボディ30の中心線38から遠い位置であって、中心線38より6弦26またはその延長線26aに近い位置に配置される。
【0035】
また、少なくとも2本の圧縮コイルばね61、66のうちの他の一つである第2圧縮コイルばね66は、表板部32に垂直な方向から見て、複数の弦20のうち最も線密度の低い低密度弦である第1弦21およびその延長線21aより、ボディ30の中心線38から遠い位置であって、中心線38より第1弦21またはその延長線21aに近い位置に配置される。2本の圧縮コイルばね61、66を、中心線38の両側に配置することにより、圧縮コイルばね61、66からボディ30に作用する力を均質化し、過度な力がボディ30に対して局所的に作用する問題を防止することができる。また、ギター10は、ブリッジ40の両側に圧縮コイルばね61、66を配置することで、圧縮コイルばね61、66並びに圧縮コイルばね61、66の両端部が接続する表板部32および裏板部34を、複数の弦20により生じる振動に対して、効果的に共振および振動させ、残響音の増幅効果や音色の調整効果を得ることができる。
【0036】
図4は、第1圧縮コイルばね61の外観図である。第1圧縮コイルばね61は、たとえば長さ75~200mm程度、外径5~20mm程度、線径0.5~2mm程度とすることができるが、第1圧縮コイルばね61のサイズは特に限定されず、ボディ30のサイズや強度に応じて適宜調整される。また、第1圧縮コイルばね61は、たとえば自然長に対して5~30%程度圧縮された状態でボディ30の空洞37内に配置することができるが、第1圧縮コイルばね61の圧縮率は特に限定されない。第2圧縮コイルばね66のサイズおよび圧縮率についても、第1圧縮コイルばね61と同様である。
【0037】
図2および図3に示すように、第1引張コイルばね71は、一方の端部71aが表板部32に接続し、他方の端部71bが裏板部34に接続し、自然長より引き伸ばされた状態で空洞37内に配置される。図3に示すように、第1引張コイルばね71の一方の端部71aは、表板部32の内面側32bに形成される力木32cに取り付けられるフック90を介して、表板部32に接続している。
【0038】
また、第1引張コイルばね71の他方の端部71bは、裏板部34の内面側34bに形成される力木34cに取り付けられるフック90を介して、裏板部34に接続している。また、第1引張コイルばね71以外の引張コイルばねである第2~第5引張コイルばね72~75についても、第1引張コイルばね71と同様に、一方の端部72a~75aが表板部32に接続し、他方の端部72b~75bが裏板部34に接続し、自然長より引き伸ばされた状態で空洞37内に配置される。
【0039】
図2および図3に示すように、ギター10は、引張コイルばね71~75を少なくとも3本(実施形態では5本)有し、少なくとも3本の引張コイルばね71~75は、それぞれの一方の端部71a~75aが、表板部32におけるブリッジ40の裏側に設置されるフック90を介して表板部32に接続している。すなわち、図1に示すように、引張コイルばね71~75は、それぞれの一方の端部71a~75aが、表板部32に垂直な方向から見てブリッジ40を直径とする基準円42の内部において、表板部32の内面側32b(図3参照)に接続する。
【0040】
引張コイルばね71~75の一方の端部71a~75aが、ブリッジ40が設けられる周辺の表板部32に接続することにより、引張コイルばね71~75および表板部32を、複数の弦20により生じる振動に対して、効果的に共振および振動させ、残響音などを効果的に強めることができる。なお、引張コイルばね71~75の一方の端部71a~75aは、必ずしも図3に示すように一つのフック90にまとめて係合している必要はなく、複数のフックに分かれて係合していてもよい。
【0041】
また、図1図3に示すように、少なくとも3本の引張コイルばね71~75は、表板部32に接続する一方の端部71a~75aから、裏板部34に接続する他方の端部71b~75bに向けて互いの距離が大きくなるように放射状に配置されていてもよい。引張コイルばね71~75を放射状に配置することにより、引張コイルばね71~75並びに引張コイルばね71~75が接続する表板部32および裏板部34を効果的に共振および振動させ、残響音の増幅効果や音色の調整効果を得ることができる。
【0042】
図4(a)は、第1引張コイルばね71の外観図であり、図4(b)は、第2引張コイルばね72の外観図であり、図4(c)は第4引張コイルばね74の外観図である。図4(a)~図4(c)に示すように、第1引張コイルばね71、第2引張コイルばね72および第4引張コイルばね74は、互いに自然長が異なる。図1図3に示すギター10は、互いに自然長の異なる複数のばねにより、引張コイルばね71~75を構成することにより、引張コイルばね71~75が引き伸ばされることによって生じる力の大きさを適切に調整したり、引張コイルばね71~75の固有振動数を適切に調整したりすることができる。
【0043】
引張コイルばね71~75の自然長としては、特に限定されないが、長さ50~300mm程度、外径5~20mm程度、線径0.5~2mm程度とすることができるが、特に限定されない。また、引張コイルばね71~75は、たとえば自然長に対して5~40%程度引き伸ばされた状態でボディ30の空洞37内に配置することができるが、引張コイルばね71~75の引き伸ばし率は特に限定されない。
【0044】
図1図3に示すギター10は、圧縮コイルばね61、66を表板部32と裏板部34との間に縮めて配置することにより、発音体である複数の弦20の振動が圧縮コイルばね61、66に効果的に伝わり、残響音の増幅効果や音色の調整効果が得られる。また、圧縮コイルばね61、66が表板部32と裏板部34とを押すことにより、表板部32と裏板部34とに適度が張りを持たせることができ、これによりギター10から生じる音の響きを向上させることができる。また、圧縮コイルばね61、66は、低音(長周期)側の音を強めやすい傾向にあり、低音側の音の響きを効果的に向上させることができる。
【0045】
また、図1図3に示すギターは、引張コイルばね71~75を、表板部32と裏板部34との間に伸ばして配置することでも、、発音体である複数の弦20の振動が引張コイルばね71~75に効果的に伝わり、残響音の増幅効果や音色の調整効果が得られる。また、圧縮コイルばね61、66だけでは、表板部32と裏板部34とを空洞37の外側に向かって押す力が強くなりすぎる問題が生じるおそれがあるが、引張コイルばね71~75を圧縮コイルばね61、66とを合わせて使うことで、表板部32と裏板部34に作用するばねの力が内外方向で打消し合うため、表板部32および裏板部34を外側に向かって押す力が強くなりすぎる問題を防止し、多くのばねを空洞37内に配置させることができる。
【0046】
第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係るギター210を示す外観図である。図5に示すギター210は、圧縮コイルばね261および引張コイルばね271、272の数および配置と、ボディ30の空洞37内に付加引張コイルばね281、282、283、284、285、286、287が設けられている点で、図1に示すギター10とは異なる。ただし、図5に示すギター210は、圧縮コイルばね261、引張コイルばね271、272および付加引張コイルばね281~287以外の部分については、ギター10と同様である。ギター210の説明では、ギター10との相違点を中心に行い、ギター10との共通点については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図5に示すように、ギター210は、圧縮コイルばね261を1つ有する。図6は、ボディ30における表板部32の図示を省略し、ギター210の裏板部34に接続する圧縮コイルばね261、引張コイルばね271、272および付加引張コイルばね281、282の配置関係を示す概念図である。また、図8は、ギター210におけるボディ30の空洞37内を示す断面図である。
【0048】
図6および図8に示すように、圧縮コイルばね261は、図3に示す圧縮コイルばね61と同様に、一方の端部261aが表板部32に接触し、他方の端部261bが裏板部34に接触し、自然長より圧縮された状態で空洞37内に配置されている。また、図5に示すように、圧縮コイルばね261は、図1に示す第1圧縮コイルばね61と同様に、複数の弦20のうち最も線密度の低い1弦21より、最も線密度の高い6弦26の近くに配置される。
【0049】
ただし、圧縮コイルばね261は、サウンドホール32dの近傍に配置される点で、ブリッジ40の近傍に配置される第1圧縮コイルばね61とは配置が異なる。圧縮コイルばね261の配置は特に限定されないが、図5に示すようにサウンドホール32dの近くに配置することにより、必要に応じて圧縮コイルばね261を交換したり、取り外したりするような場合などにおいて、ボディ30に対する着脱が容易である。
【0050】
図5および図6に示すように、ギター210は、引張コイルばねを2つ有し、2つの引張コイルばねは、第1引張コイルばね271と第2引張コイルばね272とで構成される。第1および第2引張コイルばね271、272は、図1に示す引張コイルばね71~73と同様に、一方の端部271a、272aが表板部32に接続し、他方の端部271b、272bが裏板部34に接続し、自然長より引き伸ばされた状態で空洞37内に配置される。
【0051】
図7は、ボディ30における裏板部34の図示を省略し、ギター210の表板部32に接続する第1および第2引張コイルばね271、272および付加引張コイルばね283、284、285、286、287の配置関係を示す概念図である。図7に示すように、第1および第2引張コイルばね271、272の一方の端部271a、272a(図6および図8参照)は、表板部32の内面側32bに備えられる力木32cに対して、フック90を介して接続されている。また、図6に示すように、第1および第2引張コイルばね271、272の他方の端部271b、272bは、裏板部34の内面側34bに備えられる力木34cに対して、フック90を介して接続されている。
【0052】
図5および図8に示すように、第1および第2引張コイルばね271、272は、ブリッジ40を挟み、ボディ30の中心線の両側に、略対称に配置されている。引張コイルばね271、272の配置としては、特に限定されず、図5に示すように、ブリッジ40の両側に略対称に配置してもよく、図1に示す引張コイルばね71~73のように、ブリッジ40の近傍から放射状に配置してもよい。
【0053】
図5および図6に示すように、ギター210は、付加引張コイルばね281、282を有する。付加引張コイルばね281、282は、第1および第2引張コイルばね271、272と同様に引張コイルばねで構成されるが、第1および第2引張コイルばね271、272とは異なり、両端部が裏板部34に接続する。付加引張コイルばね281、282は、自然長より適度に引き伸ばされた状態で空洞37に設置され、付加引張コイルばね281、282には、主に裏板部34を介して複数の弦20の振動が伝わる。
【0054】
図5および図7に示すように、ギター210は、さらに付加引張コイルばね283~287を有する。付加引張コイルばね283~287は、第1および第2引張コイルばね271、272と同様に引張コイルばねで構成されるが、第1および第2引張コイルばね271、272とは異なり、両端部が表板部32に接続する。付加引張コイルばね283~287は、自然長より適度に引き伸ばされた状態で空洞37に設置され、付加引張コイルばね283~287には、主に表板部32を介して複数の弦20の振動が伝わる。
【0055】
図7および図8に示すように、3本の付加引張コイルばね283~285は、ブリッジ40の近傍に、放射状に配置される。また、付加引張コイルばね281、282および付加引張コイルばね286、287は、ボディ30の中心線を挟んで両側に、略対称に配置される。付加引張コイルばね283~285、286、287の形状は、引張コイルばね71~75、271、272と同様である。
【0056】
ギター210は、圧縮コイルばね261や引張コイルばね271、272に加えて、付加引張コイルばね281~287を有していてもよく、このような付加引張コイルばね281~287も、裏板部34や表板部32とともに振動し、残響音を強めたり、音の響きを調整したりする効果を奏する。ただし、ギター210の音の響きを良くするためには、圧縮コイルばね261や引張コイルばね271、272のように、表板部32と裏板部34とを接続するようにばねを設けることが、より好ましい。なお、ギター210は、ギター10との共通点については、ギター10と同様の効果を奏する。
【0057】
第3実施形態
図9は、本発明の第3実施形態に係るギターのボディ330内に配置される第1~第4圧縮コイルばね361~364および第1~第6引張コイルばね371~376の配置を示す概念図である。図9に示すギターは、圧縮コイルばね361~364および引張コイルばね371~376の数、形状および配置が、図1に示すギター10とは異なる。ただし、図9に示すギターは、これら以外の部分については、ギター10と同様である。第3実施形態に係るギターの説明では、ギター10との相違点を中心に行い、ギター10との共通点については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
図9に示す第1~第4圧縮コイルばね361~364は、図2に示す第1および第2圧縮コイルばね61、66と同様に、一方の端部が表板部32(図3参照)に接触し、他方の端部が裏板部34に接触し、自然長より圧縮された状態で、空洞37内に配置されている。図9に示すように、圧縮コイルばね361~364の数を増やすことにより、音の響きを改善させたり、残響音を増幅させたりする効果を、より効果的に得ることができる。また、圧縮コイルばね361~364の数を増やすことにより、引張コイルばね371~376の数が増えたことに対するバランスを確保し、表板部32のブリッジ40が空洞37側に下がる問題(アーチドトップ(又は「アーチトップ」とも言う)のような構造を採用するギターなどでは、いわゆる「トップ落ち」(又は「駒(コマ)落ち」)と呼ばれる)等を防止できる。
【0059】
図9に示す第1~第6引張コイルばね371~376は、図2に示す第1~第5引張コイルばねと同様に、一方の端部が表板部32(図3参照)に接続し、他方の端部が裏板部34に接続し、自然長より引き伸ばされた状態で空洞37内に配置される。引張コイルばね371~376の一方の端部が、ブリッジ40(図1参照)が設けられる周辺の表板部32に接続することにより、引張コイルばね371~376および表板部32を効果的に振動させ、残響音などを効果的に強めることができる。
【0060】
また、図9に示すギターでは、略等しい長さの6本の引張コイルばね371~376を、表板部32に接続する一方の端部から、裏板部34に接続する他方の端部に向けて互いの距離が大きくなるように放射状に配置している。また、第1~第3引張コイルばね371~373は、第4~第6引張コイルばね374~376に対して略対称に配置されている。第1~第6引張コイルばね371~376をこのように配置することにより、第1~第6引張コイルばね371~376並びに第1~第6引張コイルばね371~376が接続する表板部32および裏板部34を効果的に振動させ、残響音の増幅効果や音色の調整効果を得ることができる。
【0061】
なお、第3実施形態に係るギターは、ギター10との共通点については、ギター10と同様の効果を奏する。
【0062】
変形例
図10は、変形例に係るギターのボディの空洞37の内部に配置される止音部492および引張コイルばね471a~471bの配置を示す概念図である。なお、図10では、圧縮コイルばねについては図示を省略している。図10に示す止音部492は、略円錐台形状の接触部492a等を有する。
【0063】
止音部492の接触部492aは、演奏者の操作により、図10において矢印493で示される上下方向(表板部と裏板部とを接続する方向)に動作し、引張コイルばね471a~471bに接触・離間可能に設けられる。図10に示すように、接触部492aにおける側面部分には、表面にピアノのダンパーと同様のフェルト492aaが備えられる。接触部492aのフェルト492aaは、図示しない操作ワイヤまたは操作シャフトにより、引張コイルばね471a~471bに押し付けられ(位置P1)、引張コイルばね471a~471bに接触することにより、引張コイルばね471a~471bの振動を停止または抑制することができる。
【0064】
一方、演奏者の操作により、接触部492aが引張コイルばね471a~471bから離間する位置(位置P2)に移動すると、引張コイルばね471a~471bは、上述の実施形態で示したような残響音の増幅効果および音色の調整効果を奏する。接触部492aを支える操作シャフトまたは操作ワイヤは、ボディの側面板部に接続しており、ボディの側面板部から接触部492aを支える構造とすることが、これらの構造によりボディの共振を抑制しないようにする観点から好ましい。
【0065】
演奏者は、止音部492の引張コイルばね471a~471bへの接触・離間を操作することにより、引張コイルばね471a~471bの残響音の増幅効果および音色の調整効果を変更することができる。たとえば、演奏者は、曲調や他の楽器とのバランスに応じて止音部492を操作し、ギターの響きを調整することができる。同様の止音部492は、他の引張コイルばねや圧縮コイルばねにも設けることができる。
【0066】
以上、複数の実施形態を挙げて本発明について説明を行ったが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、多くの他の実施形態や変形例を含むことは言うまでもない。たとえば、実施形態では、電気による音の増幅をしないで演奏音を生じさせる生楽器を例に説明を行ったが、本発明は、電気による音の増幅を行うピックアップや増幅器等を、空洞を形成するボディと併せて有する電気楽器に適用することも可能である。
【0067】
ただし、本発明に係る楽器は、発音体の振動に対して電気による音の増幅を行わず、発音体とそれに付随するボディ等の共鳴部分により生じた自然の音を生かして生演奏を行う場合に特に効果があり、まるで音響の良いコンサートホールで演奏しているかのような、音の改善をもたらすことができる。したがって、本発明は、電気による音の増幅を行わない生演奏を行う楽器に適用することが、より好ましい。
【符号の説明】
【0068】
10、210、310…ギター(楽器)
20…複数の弦
21…1弦
22…2弦
23…3弦
24…4弦
25…5弦
26…6弦
21a、26a…延長線
30…ボディ
32…表板部
32a…表面側
32b、34b…内面側
32c…力木
32d…サウンドホール
34…裏板部
32b、34b…内面側
32c、34c…力木
36…側面板部
37…空洞
38…中心線
40…ブリッジ
42…基準円
51…ヘッド
52…ペグ
53…ネック
54…ストリングピン
61、261…第1圧縮コイルばね
61a、66a、71a、72a、73a、74a、75a、261a、271a、272a…一方の端部
61b、66b、71b、72b、73b、74b、75b、261b、271b、272b…他方の端部
66…第2圧縮コイルばね
71、271…第1引張コイルばね
72、272…第2引張コイルばね
73…第3引張コイルばね
74…第4引張コイルばね
75…第5引張コイルばね
90…フック
281、282、283、284、285、286、287…付加引張コイルばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10