(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096195
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】微生物検査方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240705BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240705BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20240705BHJP
G01N 15/01 20240101ALI20240705BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/00 A
G01N22/00 V
G01N22/00 Y
G01N15/01
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069702
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2022526660の分割
【原出願日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2020094081
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正二郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
(57)【要約】
【課題】微生物の検査を正確に行うことが可能な微生物検査方法および微生物検査装置を提供すること。
【解決手段】微生物検査方法は、検体と培養液とを混合した試料を、疎水性の封止溶剤により、検体に含まれる微生物を検出するためのセンサの近接領域に封止しS14、センサの出力に基づいて、検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報を算出する。たとえば、分析ユニットは、多数の共振器がマトリクス状に配置されたアレイセンサを駆動しS11、測定開始時に取得される共振器の共振周波数を初期周波数として記憶しS15、この初期周波数と、所定時間ごとに測定される共振器の共振周波数との差分(周波数シフト)を、検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報として算出する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と培養液とを混合した試料を、疎水性の封止溶剤により、前記検体に含まれる微生物を検出するためのセンサの近接領域に封止し、
前記センサの出力に基づいて、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報を算出する、微生物検査方法。
【請求項2】
前記近接領域を含む収容領域に前記封止溶剤を導入した後、前記封止溶剤に挿入具を差し込み、前記挿入具を介して前記試料を導入することにより、前記試料を前記センサの近接領域に封止する、請求項1に記載の微生物検査方法。
【請求項3】
前記センサは、複数のセンサ素子がマトリクス状に隣接配置されたアレイセンサである、請求項1または2に記載の微生物検査方法。
【請求項4】
前記センサ素子は、ギガヘルツ帯で発振する発振器により構成され、
前記発振器の発振周波数の変動を、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報として算出する、請求項1ないし3の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項5】
前記センサの出力に基づいて、前記微生物の増殖の経時的変動を評価するための増殖曲線を表示部に表示させる、請求項1ないし4の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項6】
前記封止溶剤は、ガス溶解性を有し、
酸素を溶解させた前記封止溶剤により、前記試料を前記近接領域に封止する、請求項1ないし5の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項7】
前記封止溶剤は、フッ素系不活性溶剤またはミネラルオイルである、請求項1ないし6の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項8】
前記微生物は、結核菌を含む、請求項1ないし7の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項9】
検体と培養液とを混合した試料をギガヘルツ帯で発振する共振器に適用し、
前記共振器の共振周波数の変動を、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報として算出する、微生物検査方法。
【請求項10】
前記ギガヘルツ帯は、10GHz以上600GHz以下である、請求項9に記載の微生物検査方法。
【請求項11】
前記ギガヘルツ帯は、30GHz以上300GHz以下である、請求項10に記載の微生物検査方法。
【請求項12】
前記共振器を構成する素子がマトリクス状に隣接配置されたアレイセンサに前記試料を適用する、請求項9ないし11の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項13】
疎水性の封止溶剤により、前記試料を、前記共振器の近接領域に封止する、請求項9ないし12の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項14】
前記封止溶剤は、ガス溶解性を有し、
前記封止溶剤には、酸素が溶解されている、請求項13に記載の微生物検査方法。
【請求項15】
前記封止溶剤は、フッ素系不活性溶剤またはミネラルオイルである、請求項13または14に記載の微生物検査方法。
【請求項16】
検査対象の前記微生物は、結核菌、大腸菌および表皮ブドウ球菌の少なくとも1つを含む、請求項9ないし15の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項17】
前記微生物に対する薬剤感受性を評価するための薬剤を含む前記試料について、前記共振器の共振周波数を算出し、
算出した前記共振周波数の経時的な変動を示す増殖曲線を表示部に表示させる、請求項9ないし16の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項18】
前記微生物に対する薬剤感受性を評価するための薬剤を互いに異なる濃度で含む複数の前記試料を準備し、
前記試料ごとに前記共振器の共振周波数の変動を算出し、
算出した前記各試料の前記共振周波数の経時的な変動を表示部に表示させる、請求項9ないし17の何れか一項に記載の微生物検査方法。
【請求項19】
液体を収容する収容部と、
検体と培養液とを混合した試料、および疎水性の封止溶剤を前記収容部に導入する導入部と、
前記収容部に接近して配置されたセンサと、
前記センサの出力に基づいて前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報を算出する分析部と、を備え、
前記分析部は、前記導入部により、前記試料を前記封止溶剤で前記センサの近接領域に封止して、前記増殖度合いを示す情報を算出する処理を実行する、
る微生物検査装置。
【請求項20】
検体と培養液とを混合した試料を収容する収容部と、
前記収容部に接近して配置され、ギガヘルツ帯で発振する共振器と、
前記共振器の共振周波数に基づいて前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報を算出する分析部と、を備える微生物検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の微生物の状況を検査するための微生物検査方法および微生物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医学や農学の分野では、迅速で効率的かつ精度の高い微生物の検査が求められている。たとえば、難培養菌である結核菌では、寒天培地や培養液を用いた薬剤感受性の検査に2ヶ月程度を要する。このため、最適かつ的確な薬剤投与が難しく、種々の投薬を長期間に亘って繰り返す結果となっている。
【0003】
以下の特許文献1には、細胞内に含まれる水分量を、テラヘルツ波を用いて検査する検査方法が記載されている。この検査方法では、細胞の内水量がテラヘルツ波の周波数変動により検出され、その検出結果に基づいて、たとえば、細胞の癌化等が評価される。
【0004】
また、以下の特許文献2には、30~200GHzで発振するクロスカップル発振器と、発振器の周波数の変化を参照して被検査体の性質の変化を検知する検知部とを備えるセンサ回路が記載されている。このセンサ回路では、水分を含む被検査体の変化が、当該水分中のバルク水の変化に置き換えられて検知される。すなわち、水分子がタンパク質に置き換わることによるバルク水の減少が、発振器の周波数の変化として参照され、当該周波数の変化に基づいて、被検査体の性質の変化が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-60609号公報
【特許文献2】特許第特6416398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
結核菌や大腸菌等の微生物は、人や動物の細胞に比べて顕著に小さいため、これら微生物の内水量も、細胞に比べて顕著に少ない。このため、上記特許文献1の検査方法をこれら微生物の検査に用いた場合、テラヘルツ波の周波数変動が極めて小さくなってしまう。
【0007】
また、上記特許文献2には、水分を含む被検査体の性質の変化が検知されることが記載されている。しかし、当該特許文献2には、水分中の微生物を検査対象とすること、およびそのための方法については、特に記載がない。
【0008】
また、微生物の検査においては、温度変化等によって、試料に対流が起こり得る。この場合、試料中の微生物は、センサ付近に留まらず、対流とともに移動する。このため、センサからの出力によって、試料中の微生物の状態を精度良く検査することが困難である。
【0009】
かかる課題に鑑み、本発明は、微生物の検査を正確に行うことが可能な微生物検査方法および微生物検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係る微生物検査方法は、検体と培養液とを混合した試料を、疎水性の封止溶剤により、前記検体に含まれる微生物を検出するためのセンサの近接領域に封止し、前記センサの出力に基づいて、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報を算出する。
【0011】
本態様に係る微生物検査方法によれば、温度変化による対流等の影響を軽減することで、試料をセンサの近接領域に留めておくことができる。よって、試料中の微生物の増殖度合いの検査をより精度よく行うことができる。
【0012】
この場合、封止溶剤による試料の封止は、前記近接領域を含む収容領域に前記試料を導入した後、前記封止溶剤を前記収容領域に添加することにより行われてもよく、あるいは、記近接領域を含む収容領域に前記封止溶剤を導入した後、前記試料を前記収容領域に添加することにより行われてもよい。
【0013】
後者の場合、微生物検査方法は、たとえば、前記近接領域を含む収容領域に前記封止溶剤を導入した後、前記封止溶剤に挿入具を差し込み、前記挿入具を介して前記試料を導入することにより、前記試料を前記センサの近接領域に封止するよう調整され得る。
【0014】
本態様に係る微生物検査方法において、前記センサは、複数のセンサ素子がマトリクス状に隣接配置されたアレイセンサとされ得る。これにより、素子の位置ごとに微生物の増殖度合いを検査できる。また、アレイセンサの全検出範囲における微生物の増殖度合いの分布を検査することもできる。
【0015】
この場合、前記センサ素子は、ギガヘルツ帯で発振する発振器により構成され、前記発振器の発振周波数の変動を、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報として算出するよう調整され得る。これにより、発振器の発信周波数の変動により微生物の増殖度合いを正確に把握できる。
【0016】
本態様に係る微生物検査方法は、前記センサの出力に基づいて、前記微生物の増殖の経時的変動を評価するための増殖曲線を表示部に表示させる工程を含み得る。これにより、検査者は、表示された増殖曲線を参照することにより、微生物の増殖度合いを直感的に把握できる。
【0017】
本態様に係る微生物検査方法において、前記封止溶剤は、ガス溶解性を有し、酸素を溶解させた前記封止溶剤により、前記試料を前記近接領域に封止するよう調整され得る。これにより、微生物が結核菌のような好気性の微生物である場合に、封止溶剤によって封止された試料中の微生物に封止溶剤から酸素を供給できる。
【0018】
なお、前記封止溶剤として、フッ素系不活性溶剤またはミネラルオイルを用いることができる。
【0019】
また、検査対象の前記微生物は、結核菌を含み得る。結核菌は運動能を持たないが、培養液の対流により容易に共振器の近接領域から外れ得る。よって、結核菌の検査においては培養液の対流を防ぐために、封止溶剤により試料をセンサの近接領域に封止することが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様に係る微生物検査方法は、検体と培養液とを混合した試料をギガヘルツ帯で発振する共振器に適用し、前記共振器の共振周波数の変動を、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報として算出する。
【0021】
検体と培養液とを混合した試料中には、微生物の生体分子に結合していないバルク水と、微生物の生体分子に結合している結合水とが含まれる。ここで、バルク水と結合水は、それぞれの誘電損失が互いに相違する。一方、試料中において微生物の増殖が進むと、水分子の結合対象である生体分子が増える。このため、微生物の増殖に伴い、微生物周囲のバルク水が生体分子に結合して結合水となり、これにより、微生物周囲の水に対するバルク水の比率が減少する。したがって、微生物が増殖すると、微生物周囲の水の誘電損失が変化する。ここで、バルク水の誘電損失は、ギガヘルツの周波数帯において生じる。したがって、上記のように、ギガヘルツ帯で発振する共振器に試料を適用することにより、微生物の増殖に伴って、共振器の共振周波数が変動する。この変動を算出することにより、試料中の微生物の増殖度合いを把握できる。
【0022】
よって、本態様に係る微生物検査方法によれば、ギガヘルツ帯で発振する共振器に試料を適用して、その共振周波数の変動を算出することにより、試料中の微生物の増殖度合いを検査できる。また、微生物の周囲には、十分な量の水(バルク水、結合水)が存在するため、共振器の共振周波数の変動と微生物の増殖度合いとを正確に対応させ得る。さらに、共振器の共振周波数の変動によって微生物の増殖度合いが数値化されるため、試料における微生物の増殖度合いを、迅速に見極めることができる。よって、正確かつ迅速に、微生物の検査を行うことができる。
【0023】
ここで、上記ギガヘルツ帯は、10GHz以上600GHz以下であることが好ましい。共振器の共振周波数を10GHz以上に設定することにより、試料中に存在するイオンが共振周波数の変動に影響することを抑制できる。また、共振器の共振周波数を600GHz以下に設定することにより、微生物の増殖によるバルク水の減少幅を大きくでき、微生物の増殖に伴う共振周波数の変動幅を大きくできる。
【0024】
また、上記ギガヘルツ帯は、30GHz以上300GHz以下であることがさらに好ましい。共振器の共振周波数を30GHz以上に設定することにより、試料中に存在するイオンの影響をほぼ無くすことができる。また、また、共振器の共振周波数を300GHz以下に設定することにより、所定の共振周波数で共振器を正確に発振させ易くなる。
【0025】
本態様に係る微生物検査方法は、前記共振器を構成する素子がマトリクス状に隣接配置されたアレイセンサに前記試料を適用するように調整され得る。これにより、素子の位置ごとに微生物の増殖度合いを検査できる。また、アレイセンサの全検出範囲における共振周波数の変動の分布を検査することもできる。
【0026】
本態様に係る微生物検査方法は、疎水性の封止溶剤により、前記試料を、前記共振器の近接領域に封止するよう調整され得る。これにより、温度変化による対流等の影響を軽減することで、試料の少なくとも一部を共振器の近接領域に留めておくことができる。よって、試料中の微生物の増殖度合いに応じた共振周波数の変動をより正確に算出でき、微生物の検査をより精度よく行うことができる。
【0027】
ここで、前記封止溶剤は、ガス溶解性を有し、前記封止溶剤には、酸素が溶解されているよう調整され得る。上記のように、検査対象の微生物が、結核菌のような好気性の微生物である場合、封止溶剤に酸素を溶解させておくことにより、封止溶剤により封止されている試料に封止溶剤から酸素を供給できる。
【0028】
この場合も、前記封止溶剤として、たとえば、フッ素系不活性溶剤またはミネラルオイルを用いることができる。
【0029】
また、検査対象の前記微生物は、結核菌、大腸菌および表皮ブドウ球菌の少なくとも1つを含み得る。結核菌は運動能を持たないが、培養液の対流により容易に共振器の近接領域から外れ得る。よって、検査対象の微生物が結核菌である場合は、封止溶剤を用いて試料を共振器の近接領域に封止することが好ましい。これに対し、大腸菌は、自ら運動能を持ち培養液中を移動するため、増殖に伴い、試料中に略均等に分布し得る。よって、検査対象の微生物が大腸菌である場合は、必ずしも封止溶剤を用いずとも、共振周波数の変動により増殖度合いを検査できる。このように、検査においては、検査対象の微生物が培養液中を移動する性質によって、封止溶剤を添加するか否かが選択されてもよい。
【0030】
また、本態様に係る微生物検査方法は、前記微生物に対する薬剤感受性を評価するための薬剤を含む前記試料について、前記共振器の共振周波数を算出し、算出した前記共振周波数の経時的な変動を示す増殖曲線を表示部に表示させてもよい。
【0031】
あるいは、本態様に係る微生物検査方法は、前記微生物に対する薬剤感受性を評価するための薬剤を互いに異なる濃度で含む複数の前記試料を準備し、前記試料ごとに前記共振器の共振周波数の変動を算出し、算出した前記各試料の前記共振周波数の経時的な変動を表示部に表示させてもよい。
【0032】
これにより、検査者は、表示された増殖曲線を参照することにより、当該薬剤に対する微生物の薬剤感受性を評価できる。たとえば、検査者は、表示された増殖曲線を参照することにより、作用機序の異なる抗微生物薬の濃度依存的作用あるいは時間依存的作用を定量的に評価することができる。濃度依存的作用とは、薬効が薬剤の濃度に依存する作用のことであり、時間依存的作用とは、所定時間が経過した後に薬効が発現する作用のことである。
【0033】
本発明の第3の態様は、微生物検査装置に関する。この態様に係る微生物検査装置は、液体を収容する収容部と、検体と培養液とを混合した試料、および疎水性の封止溶剤を前記収容部に導入する導入部と、前記収容部に接近して配置されたセンサと、前記センサの出力に基づいて前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報を算出する分析部と、を備える。前記分析部は、前記導入部により、前記試料を前記封止溶剤で前記センサの近接領域に封止して、前記増殖度合いを示す情報を算出する処理を実行する。
【0034】
本態様に係る微生物検査装置によれば、上記第1の態様に係る微生物検査方法と同様、封止溶剤で試料をセンサの近接領域に封止することにより、温度変化による対流等の影響を軽減することで、試料をセンサの近接領域に留めておくことができる。よって、試料中の微生物の増殖度合いの検査をより精度よく行うことができる。
【0035】
本発明の第4の態様は、微生物検査装置に関する。この態様に係る微生物検査装置は、検体と培養液とを混合した試料を収容する収容部と、前記収容部に接近して配置され、ギガヘルツ帯で発振する共振器と、前記共振器の共振周波数に基づいて前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報を算出する分析部と、を備える。
【0036】
本態様に係る微生物検査装置によれば、上記第2の態様に係る微生物検査方法と同様、ギガヘルツ帯で発振する共振器に試料を適用することにより、試料における微生物の増殖度合いを示す情報を、正確かつ迅速に算出することができる。
【0037】
上記各態様において、「近接領域」とは、センサで、検査対象を検知することが可能な領域を意味し、「封止溶剤」とは、試料を封止するための溶剤を意味し、「封止する」とは、近接領域に試料を封止溶剤にて閉じ込めることを意味する。
【発明の効果】
【0038】
以上のとおり、本発明によれば、微生物の検査を正確に行うことが可能な微生物検査方法および微生物検査装置を提供することができる。
【0039】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態により何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る、微生物検査装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る、センサ回路の構成を示す図である。
【
図3】
図3(a)は、実施形態1に係る、アレイセンサの構成を示す平面図である。
図3(b)は、実施形態1に係る、アレイセンサ上の1素子の部分を拡大して示す一部平面図である。
【
図4】
図4(a)は、実施形態1に係る、アレイセンサの1素子の近接領域に試料が適用された状態を模式的に示す斜視図である。
図4(b)は、実施形態1に係る、近接領域に適用された試料の誘電率が変化する前後における素子の共振周波数の変化を模式的に示す図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、それぞれ、実施形態1に係る、バルク水および結合水の分子結合の状態を模式的に示す図である。
【
図6】
図6(a)は、実施形態1に係る、バルク水の誘電損失を示すグラフである。
図6(b)は、実施形態1に係る、微生物周囲の生体水の誘電損失を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)~(d)は、それぞれ、実施形態1に係る、試料に対する封止溶剤の添加工程を示す図である。
図7(e)は、実施形態1に係る、封止溶剤によって封止された試料の状態を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る、微生物検査方法の工程を示すフローチャートである。
【
図9】
図9(a)は、実施形態1に係る、各素子における共振周波数の変動を各素子の位置にマッピングした表示画像の構成例を示す図である。
図9(b)は、実施形態1に係る、微生物の増殖が見られる素子領域と、微生物の増殖が見られない素子領域とにおいて共振周波数の変動を算出した場合の算出結果の傾向を示すグラフである。
【
図10】
図10(a)~(c)は、実施例1に係る、BCGの薬剤感受性の実験結果を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)は、実施例2に係る、NBRC3301(大腸菌コントロール)に対する濃度依存的薬剤による感受性の実験結果を示すグラフである。
図11(b)、(c)は、それぞれ、実施例2に係る、実験で測定された各素子の周波数シフトを色により表示した表示画像を示す図である。
【
図12】
図12(a)は、実施例3に係る、NBRC12993(表皮ブドウ球菌コントロール)に対する時間依存的薬剤による感受性の実験結果を示すグラフである。
図12(b)、(c)は、それぞれ、実施例3に係る、実験で測定された各素子の周波数シフトを色により表示した表示画像を示す図である。
【
図13】
図13(a)は、実施例4に係る、封止溶剤に対する酸素または窒素の溶解の実験に用いた構成を模式的に示す図である。
図13(b)は、実施例4に係る、封止溶剤に対する酸素または窒素の溶解の実験結果を示すグラフである。
【
図14】
図14(a)~(d)は、それぞれ、実施形態2に係る、封止溶剤により試料を封止する封止工程を示す図である。
図14(e)は、実施形態2に係る、封止溶剤によって封止された試料の状態を模式的に示す断面図である。
【
図15】
図15は、実施形態2に係る、微生物検査方法の工程を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、実施形態3に係る、微生物検査装置の構成を示す図である。
【
図17】
図17(a)~(d)は、それぞれ、実施形態4に係る、試料に対する封止溶剤の添加工程を示す図である。
【
図18】
図18(a)は、実施例6に係る、解析対象素子の周波数シフトの実験結果を示すグラフである。
図18(b)は、実施例6に係る、各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
【
図19】
図19(a)は、実施例5に係る、解析対象素子の周波数シフトの実験結果を示すグラフである。
図19(b)は、実施例5に係る、各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
【
図20】
図20(a)は、実施例7に係る、解析対象素子の周波数シフトの実験結果を示すグラフである。
図20(b)は、実施例7に係る、各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
【
図21】
図21(a)~(c)は、それぞれ、実施例6、実施例5および実施例7に係る、測定試料の顕微鏡写真を示す図である。
【0041】
ただし、図面はもっぱら説明のためのものであって、この発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0042】
<実施形態1>
図1は、本実施形態に係る、微生物検査装置1の構成を示す図である。
【0043】
微生物検査装置1は、アレイセンサ10と、制御ユニット30と、分析ユニット40と、容器60と、を備える。アレイセンサ10には、共振器を構成する素子がマトリクス状に隣接配置されている。制御ユニット30は、分析ユニット40からの指令に応じて、アレイセンサ10を制御する。分析ユニット40は、制御ユニット30から入力される各素子の共振周波数に応じて、微生物の増殖度合いを分析し、分析結果をモニタ(表示部)41に表示する。分析ユニット40は、たとえば、パーソナルコンピュータにより構成される。この場合、パーソナルコンピュータには、微生物の増殖度合いを分析するためのアプリケーションプログラムがインストールされる。
【0044】
アレイセンサ10は、たとえば、CMOSにより構成され、基板12上に実装される。基板12には、アレイセンサ10のドライバ等を含む回路部11がさらに実装される。回路部11と制御ユニット30は、互いに通信可能に信号ケーブル20で接続される。制御ユニット30と分析ユニット40は、信号ケーブル50で接続される。
【0045】
容器60は、無底筒状の部材からなっており、内部に液体を収容するための収容部61を有する。アレイセンサ10は、表面を防水用の保護膜でシールされた状態で、容器60の下面に装着される。収容部61に収容された液体が漏れないように、容器60の下面にアレイセンサ10が保護膜を介して水密に装着される。容器60は、有底であってもよい。この場合、容器60の底部の厚みは、アレイセンサ10による収容部61のセンシングが可能なように薄く設定される。この構成では、容器60の下面にアレイセンサ10が直接装着可能であり、アレイセンサ10の表面をシールする保護膜は、省略され得る。収容部61は、アレイセンサ10を内包するサイズであればよい。また、容器60は、収容部61に液体を収容した場合に、液体が漏れ出さない構成であれば、上記以外の構成であってもよい。
【0046】
図2は、アレイセンサ10のセンサ回路100の構成を示す図である。
【0047】
センサ回路100は、共振器110と、差動回路120と、電流源130と、分周回路140と、を備える。
【0048】
共振器110は、ループ状のインダクタ111と、キャパシタ112とを備える。インダクタ111のインダクタンスとキャパシタ112のキャパシタンスによって、共振器110の共振周波数が決まる。共振器110は、ギガヘルツ帯に含まれる所定の共振周波数で共振する。なお、共振器110の構成は、
図2の構成に限られない。たとえば、インダクタ111のループ回数は1回でなくてもよく、インダクタ111が複数回ループしていてもよい。また、キャパシタ112は、インダクタ111の互いに近接する両端部により構成されてもよく、図示しない配線の寄生容量等により構成されてもよい。
【0049】
差動回路120は、2つのトランジスタ121がクロスカップルされて構成されている。差動回路120の構成は、これに限られるものではなく、他の構成が用いられてもよい。電流源130は、回路部11からの制御信号に従って、共振器110および差動回路120からなる発振器150にイネーブル信号を供給する。これにより、共振器110および発振器150が、ギガヘルツ帯に含まれる上記所定の共振周波数で発振する。共振器110の共振周波数が変動すると、変動後の共振周波数で発振器150が発信して信号を出力する。
【0050】
分周回路140は、共振器110の共振信号を数百分の1程度に分周し、分周後の信号を出力する。すなわち、分周回路140は、ギガヘルツ帯の共振信号を、メガヘルツ帯の共振信号に分周して出力する。分周後の信号は、
図1の制御ユニット30を介して、分析ユニット40に供給される。分析ユニット40は、入力された信号の周波数に分周比を乗じることにより、共振器110の共振周波数を算出する。
【0051】
なお、分周回路140は、必ずしも、共振器110ごとに配置されなくてもよい。たとえば、各共振器110の信号を時分割で個別に処理する場合、1つの分周回路140により時分割で各共振器110の信号を処理してもよい。また、分周回路140は、制御ユニット30側に配置されてもよい。
【0052】
図3(a)は、アレイセンサ10の構成を示す平面図である。
図3(b)は、アレイセンサ10上の1素子の部分を拡大して示す一部平面図である。
【0053】
図3(a)に示すように、アレイセンサ10には、
図2の共振器110を構成する素子がマトリクス状に隣接配置されている。インダクタ111の大きさ(径)は、ギガヘルツ帯で共振可能な大きさに設定される。たとえば、共振器110が64GHzで共振する場合、
図3(b)において、インダクタ111の縦横の幅D1、D2は、それぞれ、45μmおよび51μm程度に設定される。この場合、共振器110と差動回路120からなる発振器150の全長D3は、110μm程度になる。
【0054】
アレイセンサ10には、たとえば、62行および24列に1488個の共振器110が並ぶように配置される。この場合、
図3(a)に示すように、アレイセンサ10の縦横の寸法は、それぞれ、3mm程度となる。ただし、
図3(a)、(b)に示した各部の寸法およびアレイセンサ10における共振器110の配置数は一例であって、これに制限されるものではない。
【0055】
図3(a)に示したアレイセンサ10を用いることにより、マトリクス状に並ぶ多数の共振器110に試料を適用することができる。
【0056】
図4(a)は、アレイセンサ10の1素子の近接領域に試料200が適用された状態を模式的に示す斜視図である。
図4(b)は、近接領域に適用された試料200の誘電率が変化する前後における素子の共振周波数の変化を模式的に示す図である。
【0057】
図4(a)に示すように、共振器110の上面は、防水のための保護膜13で被覆される。したがって、保護膜13のキャパシタンスが、共振器110の共振周波数を決定するための寄生容量として加味される。さらに、この保護膜13の上に試料200が適用された場合は、共振器110に近接する領域(近接領域)の試料200のキャパシタンスが、共振器110の共振周波数を決定するための寄生容量としてさらに加味される。したがって、試料200が適用された場合の共振器110の共振周波数は、保護膜13および試料200のキャパシタンスを加味して決定される周波数となる。
【0058】
ここで、試料200の誘電率が変化すると、共振器110(インダクタ111)にかかる試料200からの寄生容量が変化する。このため、
図4(b)に示すように、試料200の誘電率の変化に伴い、共振器110の共振周波数が、Δfだけシフトすることになる。
【0059】
本実施形態では、試料200中において、微生物の周囲の水の誘電率が、微生物の増殖に応じて変化することを利用して、微生物の増殖が検査される。具体的には、検体と培養液とを混合した試料200をアレイセンサ10に適用した後、各素子における共振周波数の変動(周波数シフトΔf)を時系列で取得し、取得した変動量に基づいて、微生物の増殖の度合いを検査する。以下、この検査方法について説明する。
【0060】
まず、微生物の周囲に存在する水の種類とその誘電損失について説明する。
【0061】
図5(a)、(b)は、それぞれ、バルク水および結合水の分子結合の状態を模式的に示す図である。
【0062】
検体と培養液とを混合した試料200には、バルク水と結合水とが含まれる。このうち、バルク水は、
図5(a)に示すように、水分子が四面体型に分子間結合して形成され、サブピコ秒からピコ秒程度の寿命を有する。バルク水は、生体分子に結合していないため、試料200中を自由に移動する。一方、結合水は、
図5(b)に示すように、水分子が生体分子に結合したものであり、ナノ秒からマイクロ秒程度の寿命を有する。
【0063】
微生物の周囲に存在するバルク水は、微生物に結合して結合水となり、その後、結合水としての寿命が終了すると、微生物から離れて、再びバルク水へと転換する。ここで、バルク水と結合水とでは、誘電損失が互いに相違する。したがって、微生物周囲の水に対するバルク水の比率が変化すると、微生物周囲の水の誘電率が変化し、これに応じて、共振器110の共振周波数が変化する。
【0064】
図6(a)は、バルク水の誘電損失を示すグラフである。
図6(b)は、微生物周囲の生体水の誘電損失を示すグラフである。
図6(a)、(b)の横軸は、対数軸である。
【0065】
図6(a)に示すように、バルク水の誘電損失は、主として、1~800GHzの範囲のギガヘルツ帯において生じる。したがって、共振器110の共振周波数をギガヘルツ帯に含まれる周波数に設定することにより、バルク水の誘電損失の変化に基づく水の誘電率の変化を検出できる。
図6(a)において、τdは、自由水緩和による誘電損失の波形を示し、τfは、分子間伸縮振動による誘電損失の波形を示している。なお、分子間伸縮振動の周波数帯域より大きい周波数帯域にも、他のパラメータによる誘電損失が存在するが、これについては、図示が省略されている。
【0066】
図6(b)に示すように、微生物周囲の水(生体水)には、バルク水の他に、上述の結合水やイオン等による誘電損失の周波数帯域が存在する。ここで、微生物の増殖が進むと、水分子の結合対象である生体分子が増える。このため、微生物の増殖に伴い、微生物周囲のバルク水が生体分子に結合して結合水となり、これにより、微生物周囲の水に対するバルク水の比率が減少する。したがって、微生物が増殖すると、
図6(b)の破線の矢印で示すように、バルク水の誘電損失が減少し、微生物周囲の水の誘電損失が変化する。
【0067】
ここで、バルク水の誘電損失は、
図6(a)、(b)に示すように、ギガヘルツの周波数帯において生じる。したがって、上記のように、ギガヘルツ帯で発振する共振器に試料を適用することにより、微生物の増殖に伴って、共振器110の共振周波数が変動する。この変動を算出することにより、試料200中の微生物の増殖度合いを把握できる。
【0068】
なお、
図6(b)に示すように、バルク水の誘電損失の帯域の一部に、イオンの誘電損失の帯域が重なっている。このため、共振器110の共振周波数をイオンの誘電損失が重なる周波数帯域に設定すると、共振器110の共振周波数が、試料200中に含まれるイオンの影響を受けてしまい、共振周波数の変動を、微生物の増殖に伴うバルク水の減少に、正確に対応させにくくなる。したがって、微生物の増殖を共振周波数の変動に正確に対応させるためには、共振器110の共振周波数を、イオンの影響を受けにくい10GHz以上の波長帯に設定することが好ましく、また、イオンの影響を殆ど受けない30GHz以上の波長帯に設定することがさらに好ましい。
【0069】
また、
図6(b)に示すように、ギガヘルツの周波数帯であっても、周波数が1テラヘルツに近づくに伴い、バルク水の減少による誘電損失の下げ幅が徐々に小さくなる。このため、共振器110の共振周波数が1テラヘルツに近づくと、微生物の増殖に伴うバルク水の減少が、共振周波数の変動に効率的に反映されにくくなる。したがって、微生物の増殖を共振周波数の変動に効率的に反映させて、微生物の増殖を適正に検査するためには、共振器110の共振周波数を600GHz以下に設定することが好ましい。
【0070】
さらに、共振器110の共振周波数が300GHzを超えると、インダクタ111を顕著に小型化する必要があり、回路的にも、所定の共振周波数で共振器110を共振させることが難しくなる。このため、所定の共振周波数で共振器110を適正に共振させて、微生物の増殖を正確に検査するためには、共振器110の共振周波数を300GHz以下に設定することがさらに好ましい。
【0071】
たとえば、共振器110の共振周波数は、64GHzに設定される。これにより、微生物の増殖に伴うバルク水の減少を、共振器110の共振周波数の変動に正確かつ効率的に反映させることができる。
【0072】
次に、試料200をアレイセンサ10の近接領域に封止する工程について説明する。
【0073】
ギガヘルツ帯で共振器110が共振される場合、共振器110の共振周波数に影響し得る試料200の範囲は、共振器110に近接した底部分の範囲に制限される。換言すると、アレイセンサ10上方の近接領域が、微生物の増殖に伴う周波数シフトの検出領域となる。したがって、検査においては、この検出領域に試料200を留めておくことが好ましい。たとえば、結核菌等のような動き回る性質のない微生物では、温度変化等に基づく試料200の対流等によって、微生物が試料200の上部に浮遊して、アレイセンサ10の近接領域から離れてしまうことが起こり得る。こうなると、微生物の増殖を正確に検査することが困難になる。
【0074】
そこで、本実施形態では、検査の際に試料200に封止溶剤が添加され、試料200の一部が、封止溶剤によってアレイセンサ10の近接領域に封止される。
【0075】
図7(a)~(d)は、それぞれ、試料200に対する封止溶剤300の添加工程を示す図である。
図7(e)は、封止溶剤300によって封止された試料200の状態を模式的に示す断面図である。
【0076】
まず、
図7(a)に示すように、容器60に試料200が導入される。容器60の底面には、保護膜13(
図4(a)参照)で上面が被覆された状態で、アレイセンサ10が配置されている。
【0077】
次に、
図7(b)に示すように、水より比重が高く、且つ、疎水性の封止溶剤300が試料200に添加される。封止溶剤300は、分子間力および表面張力が小さく、且つ、ガス溶解性を有することが好ましい。検査対象の微生物が好気性である場合、予め封止溶剤300に酸素が溶解される。封止溶剤300として、たとえば、フッ素系不活性溶媒を用いることができる。たとえば、パーフルオロ化合物(PFC)を、封止溶剤300として用い得る。この他、シリコンオイル等を封止溶剤300として用い得る。
【0078】
その後、封止溶剤300は、
図7(c)に示すように、自重で試料200の下方に垂下し、さらに、
図7(d)に示すように、その一部が分離して、容器60の底面を覆う。これにより、
図7(e)に示すように、試料200の一部が封止溶剤300によりアレイセンサ10上方の近接領域に封止され、試料200中の微生物201がアレイセンサ10の近接領域に滞留される。このとき、封止溶剤300の自重による圧力により、試料200とともに微生物201が、アレイセンサ10(保護膜13)の上面に押しつけられる。また、試料200中の微生物が好気性の場合、封止溶剤300に溶解されたガス(酸素)が試料200へと溶出し、試料200中の微生物201に酸素が供給される。これにより、アレイセンサ10の各共振器110の周波数シフトにより、微生物の増殖を正確に検査することができる。
【0079】
なお、大腸菌等の試料200中を動き回る性質の微生物が検査対象である場合は、必ずしも、封止溶剤300の添加が行われなくてもよい。すなわち、微生物が試料200中を動き回る場合、微生物は、増殖に伴い、試料中に略均等に分布し得るため、封止溶剤300を用いずとも、アレイセンサ10の近接領域において、増殖に伴う微生物の密度の変化が生じ得る。よって、この場合は、封止溶剤300を用いることなく、共振周波数の変動により増殖度合いを検査できる。
【0080】
図8は、微生物検査方法の工程を示すフローチャートである。
【0081】
まず、検査者は、
図7(a)に示した容器60が空である状態において、分析ユニット40に対し、検査開始の入力を行う。これにより、分析ユニット40から制御ユニット30に検査開始の指令が出力され、アレイセンサ10が起動される(S11)。
【0082】
次に、分析ユニット40は、アレイセンサ10の初期設定処理を実行する(S12)。この処理において、分析ユニット40は、アレイセンサ10上の各素子(共振器110)の特性を取得する。すなわち、アレイセンサ10の各素子は、それぞれ、共振周波数と、その変化傾向に、固有のばらつきを含み得る。また、周囲の温度や湿度等の影響により、素子ごとに、共振周波数と、その変化傾向に、ばらつきが生じ得る。このようなばらつきを補正するため、分析ユニット40は、素子ごとに、共振周波数とその変化傾向を取得し、各素子の測定動作が一様となるように、素子ごとに補正係数を設定する。
【0083】
具体的には、分析ユニット40は、容器60が空の状態のまま、所定回数、各素子の共振周波数を測定し、さらに、検査者に超純水を容器60に導入させて、所定回数、各素子の共振周波数を測定する。そして、分析ユニット40は、容器60が空のときの共振周波数と、容器60に超純水が導入されたときの共振周波数とを、素子ごとに比較して、周波数シフトを算出する際の補正係数を、素子ごとに設定する。
【0084】
その後、分析ユニット40は、表示画面等を通じて、検査者に、容器60に対する試料の導入を促す。これに応じて、検査者は、容器60から超純水を廃棄し、前処理済みの検体と、検査対象の微生物に適する培養液とを混合して調製された試料を、容器60に導入する(S13)。
【0085】
こうして、容器60に試料が導入されると、分析ユニット40は、さらに、容器60に封止溶剤300を添加することを、検査者に促す。これに応じて、検査者は、封止溶剤300を容器60に添加する(S14)。これにより、
図7(a)~
図7(d)に示したように、封止溶剤300によって、アレイセンサ10の近接領域に試料200が封止される。なお、上記のように、検査対象が封止不要の微生物である場合は、
図8の破線で示すように、ステップS14の工程が省略されてもよい。
【0086】
その後、分析ユニット40は、試料200に対する周波数シフトの測定を実行する。具体的には、分析ユニット40は、測定開始時における各素子の共振周波数を初期周波数として記憶する(S15)。次いで、分析ユニット40は、所定時間ごと(たとえば、1分ごと)に、各素子の共振周波数を取得し、取得した共振周波数と、ステップS15で記憶した共振周波数との差分を素子ごとに算出する。そして、分析ユニット40は、算出した差分を、各素子における周波数シフトとして記憶する(S16)。ここで、周波数シフトは、たとえば、ステップS16で取得した共振周波数を、ステップS15で記憶した初期周波数から減算することにより算出される。
【0087】
分析ユニット40は、測定が終了するまで(S17)、所定時間ごとにステップS16の処理を繰り返して、各素子の周波数シフトを蓄積する。その後、検査者から測定終了の入力を受け付けると(S17:YES)、分析ユニット40は、アレイセンサ10を停止させ(S18)、ステップS16で蓄積されたデータの解析処理を実行する(S19)。なお、測定の終了は、測定開始から所定の設定時間(たとえば、数十時間)が経過したことにより、なされてもよい。
【0088】
ステップS19の解析処理において、分析ユニット40は、たとえば、
図9(a)に示すような表示画像70をモニタ41に表示させる。表示画像70は、各素子について算出された周波数シフトの大きさに応じた表示色を、各素子の位置にマッピングした画像である。表示画像70において、セル71は、素子(インダクタ111)の位置を示している。たとえば、周波数シフトが最大値から最小値へと移行するに伴い、表示色が赤色から黄色を経て青色へと変化するように、各セル71に表示色が割り当てられる。
図9(a)では、便宜上、ハッチングの濃さにより周波数シフトが表現されている。ここでは、黒に近いほど、周波数シフトが大きくなる。
【0089】
分析ユニット40は、たとえば、最終回のステップS16の処理で取得された各素子の周波数シフトに基づいて、表示画像70を生成し、モニタ41に表示させる。検査者は、表示画像70を参照することにより、アレイセンサ10上における微生物の増殖状況と、微生物の増殖が進んだ領域を確認できる。なお、分析ユニット40は、検査者からの操作に応じて、表示画像70を生成するタイミングを変更可能であってもよい。これにより、検査者は、各タイミングにおける微生物の増殖状況を確認できる。
【0090】
さらに、表示画像70において、検査者が、所定のセル領域を指定すると、分析ユニット40は、そのセル領域における周波数シフトの経時変化を示すグラフをモニタ41に表示させる。たとえば、
図9(a)の表示画像70において、検査者が、領域72を指定すると、分析ユニット40は、この領域72に含まれる4つのセルに対応する素子の周波数シフトを、測定タイミングごとに平均化し、平均化した周波数シフトを、各測定タイミングにプロットしたグラフをモニタ41に表示させる。
【0091】
これにより、たとえば、
図9(b)に示すようなグラフ(増殖曲線)が、モニタ41に表示される。L1は、たとえば、
図9(a)の領域72が指定された場合のグラフである。他方、
図9(a)の領域73が指定された場合、たとえば、
図9(b)のグラフL2がモニタ41に表示される。また、試料200に時間依存性の薬剤が添加された場合、微生物の増殖領域の周波数シフトの経時的変化は、たとえば、
図9(b)のようなグラフL3となる。検査者は、これらのグラフを参照することにより、アレイセンサ10上の各領域における微生物の増殖度合いを把握できる。
【0092】
図8の検査方法を微生物の薬剤感受性検査に用いる場合、検査者は、ステップS13において、検体および培養液とともに薬剤を混合して試料200を調製し、調製した試料200を容器60も導入する。その他の工程は、上記と同様である。
【0093】
当該薬剤に対して微生物が感受性を持つ場合、微生物は、試料200中での増殖が抑制される。このため、各素子における周波数シフトは低く抑えられ、
図9(a)の表示画像70では、各セル71の表示色が、低い周波数シフトの表示色に設定される。また、表示画像70において何れのセル領域が指定されても、
図9(b)のグラフは、ゼロ付近の周波数に収束するようになる。
【0094】
他方、当該薬剤に対して微生物が耐性を持つ場合、微生物は、試料200中で増殖を進める。このため、
図9(a)の表示画像70と同様、所定の素子領域において周波数シフトが高くなる。また、検査者により当該素子領域が指定されると、
図9(b)のグラフL1と同様のグラフが表示される。
【0095】
こうして、検査者は、評価対象の薬剤に対して微生物が感受性または耐性を有するか否かを適正に評価することができる。アレイセンサ10により、経時的に細菌増殖を評価することが可能である。これにより、濃度依存性または時間依存性に増殖抑制作用を持つ薬剤に対する、微生物の感受性を精密に評価することが可能である。前者の代表的薬剤としてアミノグリコシド系、ニューキノロン系が、後者の代表的薬剤としてペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系が知られている。
【0096】
なお、
図8の検査方法では、分析ユニット40が主導的に各工程を実行したが、検査者が主導的に各工程を実行してもよい。たとえば、ステップS11、S16の工程が、検査者によるスイッチ操作により行われてもよく、また、ステップS13、S14の工程が、分析ユニット40から促されることなく、検査者が主導的に行い、これら工程の完了後に、その旨を、分析ユニット40に入力してもよい。あるいは、ステップS11~S19の一連の工程が、検査者のマニュアル操作なく、自動化されてもよい。
【0097】
<実施例1>
発明者らは、難培養菌であるBCG(ウシ結核菌)を含む検体をコントロールとして用いて、上記検査方法によるBCGの増殖および薬剤感受性の検証実験を行った。
【0098】
この実験では、BCGと培養液(MGIT PANTA)とが混合されたBCG懸濁液200μLと、未使用の培養液(MGIT PANTA)400μLとを混合してコントロール試料を調製した。また、調製したコントロール試料196μLに、25mg/mLの濃度のSM(スプレプトマイシン)4μLを混合して、薬剤感受性評価用のSM試料を調製した。さらに、上記のように調製したコントロール試料199.8mLに、50mg/mLの濃度のRFP(リファンピシン)0.2μLを混合して、薬剤感受性評価用のRFP試料を調製した。
【0099】
こうして調製した、コントロール試料200μL、SM試料200μLおよびRFP試料200μLを、それぞれ、異なる容器60に導入し、さらに、各容器60に封止溶剤300を添加して、試料ごとに、周波数シフトの測定を行った。ここでは、封止溶剤300として、酸素が溶解されたパーフルオロ化合物(PFC)を用いた。PFCに純酸素を5L/minで1分間吹き込んでPFCを酸素化し、その直後に、FPCを容器60に添加して密封した。
【0100】
測定時には、容器60をインキュベータに収容し、さらに、ペルチェ素子により容器60内の試料の温度を一定に保った。インキュベータの庫内温度は37℃に設定し、ペルチェ素子の温度は38℃に設定した。インキュベータ内の湿度は、100%に設定した。
【0101】
解析処理は、アレイセンサ10上の1488の素子のうち、初期周波数が64~65GHzの範囲内に含まれる素子について行った。各素子の周波数シフトは、1分ごとに繰り返し測定および算出した。測定は、測定開始から12時間が経過するまで、継続して行った。
【0102】
図10(a)~(c)は、BCGの薬剤感受性の実験結果を示すグラフである。
図10(a)は、薬剤が添加されていないコントロール試料に対する測定結果を示すグラフであり、
図10(b)、(c)は、それぞれ、SMおよびRFPが添加されたSM試料およびRFP試料に対する測定結果を示すグラフである。これらのグラフは、分析ユニット40のモニタ41に表示され得る。
【0103】
図10(a)は、倍率500倍の顕微鏡観察で菌塊が確認された20素子を解析対象の素子とした場合の測定結果である。
図10(b)、(c)は、初期周波数が64~65GHzの範囲内に含まれる20の素子を解析対象の素子とした場合の測定結果である。
【0104】
図10(a)に示すように、薬剤を添加しなかったコントロール試料については、解析対象に設定した20の素子のうち、半数程度の素子において、時間の経過とともに周波数シフトが急峻に増加し、300~600MHz程度の周波数シフトへと収束した。また、これら20の素子のうち、残り半数程度の素子においては、時間の経過とともに周波数シフトが緩やかに増加し、100~200MHz程度の周波数シフトへと収束した。
【0105】
この測定結果から、薬剤を添加しなかったコントロール試料においては、素子の位置によって、周波数シフトの増加に差異が生じることが確認できた。そして、この差異は、BCGの増殖が菌の塊に応じて局在的に生じることと符合した。このことから、試料において局在的に生じるBCGの増殖が、各素子の周波数シフトに適正に反映されることが確認できた。
【0106】
次に、
図10(b)に示すように、コントロール試料にSMを添加したSM試料については、何れの素子においても、一様に、周波数シフトは時間経過に伴う急峻な増加傾向を認めなかった。このことから、SM試料においては、薬剤SMによってBCGの増殖が抑制され、このことが、各素子の周波数シフトに適正に反映されることが確認できた。
【0107】
また、
図10(c)に示すように、コントロール試料にRFPを添加したRFP試料については、SM試料と同様に何れの素子においても、一様に、周波数シフトは時間経過に伴う急峻な増加傾向を認めなかった。このことから、RFP試料においては、薬剤RFPによってBCGの増殖が抑制され、このことが、各素子の周波数シフトに適正に反映されることが確認できた。
【0108】
このように、実施例1の実験結果から、上記実施形態の検査方法により、BCGの増殖と、SMおよびRFPに対するBCGの薬剤感受性を、各素子の周波数シフトに基づいて確認できることが検証できた。しかも、これらの確認を、
図10(a)~(c)に示すように、僅か10時間程度で迅速に行うことができ、特に、BCGの薬剤感受性試験に要する時間を、従来の寒天培地や培養液を用いた薬剤感受性の検査に比べて、顕著に短縮化できることが確認できた。このように、実施例1の実験結果により、上記実施形態の検査方法の顕著な有効性を確認できた。
【0109】
<実施例2>
発明者らは、大腸菌のコントロールであるNBRC3301を用いて、上記検査方法による大腸菌の増殖および薬剤感受性の検証実験を行った。
【0110】
この実験では、濃度依存性薬剤であるストレプトマイシン(アミノグリコシド系)を使用した。NBRC3301のコントロール試料196μLに、25mg/mLの濃度のSM(スプレプトマイシン)4μLを混合して、SMの濃度が500μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(SM_500μg/mL)を調製した。また、コントロール試料に対するSMの添加量を調整して、SMの濃度が250μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(SM_250μg/mL)と、SMの濃度が125μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(SM_125μg/mL)を調製した。さらに、死菌の周波数シフトを検証するために、コントロール試料200μLに98℃、30minの加熱処理を行った試料を調製した。また、同様に死菌の周波数シフトを検証するために、コントロール試料200μLにリン酸緩衝4%ホルムアルデヒド液を添加して10min室温処理した後、超純水で置換した試料(4%_FA)を調製した。
【0111】
こうして調製した各試料を、それぞれ、異なる容器60に導入して、試料ごとに、周波数シフトの測定を行った。ここでは、各容器60に、封止溶剤300を添加しなかった。測定時のインキュベータおよびペルチェ素子の温度設定は、上記実施例1と同様とした。解析処理は、アレイセンサ10上の1488の素子の全ての周波数シフトを10秒ごとに測定し、測定した周波数シフトの平均値を5分ごとに算出して、各測定タイミングの周波数シフトとして抽出した。測定は、測定開始から60分が経過するまで、継続して行った。
【0112】
図11(a)は、NBRC3301の薬剤感受性の実験結果を示すグラフである。このグラフは、分析ユニット40のモニタ41に表示され得る。また、
図11(b)は、SMを添加しなかったコントロール試料を60分経過時点で測定したときの各素子の周波数シフトを色により示す表示画像であり、
図11(c)は、SMの濃度が500μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(SM_500μg/mL)を60分経過時点で測定したときの各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
図11(b)、(c)では、便宜上、カラーの画像がグレースケールで示されている。ここでは、周波数シフトの最大値である20MHzが青色に設定され、周波数シフトの最小値である-20MHzが赤色に設定されている。
【0113】
図11(a)に示すように、SMを添加しなかったコントロール試料については、時間の経過とともに周波数シフトが大きく増加した。これに対し、SMを添加した3つの試料については、コントロール試料に比べて、周波数シフトの増加が抑制され、SMの濃度が高まるほど、周波数シフトの増加が大きく抑制された。これにより、大腸菌に対するSMの薬剤感受性が、薬剤濃度依存的に各素子の周波数シフトに反映されることが確認できた。このことは、
図11(b)、(c)の表示画像を比較することによっても確認できた。すなわち、
図11(b)に示すコントロール試料の表示画像では、周波数シフトが大きい素子が略均等に分散し、
図11(c)に示すSM_500μg/mL試料の表示画像では、全ての素子の周波数シフトが一様に低く抑制された。
【0114】
また、
図11(a)の測定結果から、加熱処理またはホルムアルデヒド処理された死菌については、全ての素子において周波数シフトが略生じておらず、大腸菌に増殖が生じなかったことが各素子の周波数シフトに反映されることが確認できた。よって、この測定結果からも、上記検査方法により、各素子の周波数シフトによって微生物の増殖を確認できることが検証できた。
【0115】
以上のように、実施例2の実験結果から、上記実施形態の検査方法により、大腸菌の増殖と、SMに対する大腸菌の薬剤感受性を、各素子の周波数シフトに基づいて確認できることが検証できた。
【0116】
<実施例3>
発明者らは、表皮ブドウ球菌のコントロールであるNBRC12993を用いて、上記検査方法による表皮ブドウ球菌の増殖および薬剤感受性の検証実験を行った。
【0117】
この実験では、時間依存性薬剤であるピペラシリン(ペニシリン系)を使用した。すなわち、この薬剤は、有効薬剤濃度が一定時間維持されることで増殖抑制作用を示す。NBRC12993のコントロール試料に、PIPC(ピペラシリン)を混合して、PIPMの濃度が10.0μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(PIPC_10.0μg/mL)を調製した。また、死菌の周波数シフトを検証するために、コントロール試料200μLに98℃、30minの加熱処理を行った試料を調製した。
【0118】
こうして調製した各試料を、それぞれ、異なる容器60に導入して、試料ごとに、周波数シフトの測定を行った。ここでは、各容器60に、封止溶剤300を添加しなかった。測定時のインキュベータおよびペルチェ素子の温度設定は、上記実施例1と同様とした。解析処理は、アレイセンサ10上の1488の素子の全ての周波数シフトを10秒ごとに測定し、測定した周波数シフトの平均値を5分ごとに算出して、各測定タイミングの周波数シフトとして抽出した。この他、実施例3では、表示画像上において表皮ブドウ球菌の増殖が見られる領域を指定して、この増殖領域における周波数シフトの平均値を、5分ごとに算出した。測定は、測定開始から240分が経過するまで、継続して行った。
【0119】
図12(a)は、NBRC12993の薬剤感受性の実験結果を示すグラフである。
図12(a)において、「コントロール(増殖領域)」のグラフは、表示画像上において表皮ブドウ球菌の増殖が見られる領域を指定して算出された周波数シフトの変化を示し、「コントロール(全領域)」のグラフは、全ての素子の周波数シフトを平均化して算出された周波数シフトの変化を示している。これらのグラフは、分析ユニット40のモニタ41に表示され得る。
【0120】
また、
図12(b)は、PIPCを添加しなかったコントロール試料を240分経過時点で測定したときの各素子の周波数シフトを色により示す表示画像であり、
図12(c)は、PIPCを添加した薬剤感受性評価用の試料(PIPC_10.0μg/mL)を240分経過時点で測定したときの各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
図12(b)、(c)では、便宜上、カラーの画像がグレースケールで示されている。実施例2と同様、
図12(b)、(c)では、周波数シフト20MHz以上が青色に設定され、周波数シフト-20MHz以下が赤色に設定されている。
【0121】
図12(a)に示すように、PIPCを添加しなかったコントロール試料については、増殖領域を指定して周波数シフトを算出した場合に、時間の経過とともに周波数シフトが大きく増加した。これに対し、PIPCを添加した試料については、加熱処理が行われた場合よりも、さらに、周波数シフトの増加が抑制された。これにより、表皮ブドウ球菌に対するPIPCの薬剤感受性が、各素子の周波数シフトに反映されることが確認できた。このことは、
図12(b)、(c)の表示画像を比較することによっても確認できた。すなわち、
図12(b)に示すコントロール試料の表示画像では、周波数シフトが大きい素子が連鎖的に広がり、
図12(c)に示すPIPC_10.0μg/mL試料の表示画像では、全ての素子の周波数シフトが一様に低く抑制された。
【0122】
また、
図12(a)の測定結果から、加熱処理された死菌については、全ての素子において周波数シフトが略発生しておらず、表皮ブドウ球菌において増殖が生じなかったことが各素子の周波数シフトに反映されることが確認できた。よって、この測定結果からも、上記検査方法により、各素子の周波数シフトによって微生物の増殖を確認できることが検証できた。
【0123】
また、
図12(b)の測定結果から、表皮ブドウ球菌では、封止溶剤300を用いなくても、アレイセンサ10の近接領域において、表皮ブドウ球菌が連鎖状に広がって増殖されることが確認できた。このため、
図12(a)に示すように、全ての素子の周波数シフトを平均化して周波数シフトを算出すると、死菌(加熱処理)の場合との差異が僅かとなり、表皮ブドウ球菌の増殖を周波数シフトにより正確に判定できないことが確認できた。したがって、表皮ブドウ球菌に上記実施形態の検査方法を適用する場合は、増殖が見られる素子領域を指定して、表皮ブドウ球菌の増殖を評価する必要があると言える。
【0124】
以上のように、実施例3の実験結果から、上記実施形態の検査方法により、表皮ブドウ球菌の増殖と、PIPCに対する表皮ブドウ球菌の薬剤感受性を、各素子の周波数シフトに基づいて確認できることが検証できた。
【0125】
また、
図12(a)において、PIPCを添加した試料については、測定開始から120分程度が経過するまでは、周波数シフトが増加し、120分程度が経過した後に、周波数シフトが減少傾向を示した。これにより、表皮ブドウ球菌に対するPIPCの時間依存的作用が確認できた。
【0126】
<実施例4>
発明者らは、上記実施例1において封止溶剤300として用いたパーフルオロ化合物(PFC)に、酸素および窒素を溶解させる実験を行った。
【0127】
図13(a)は、封止溶剤300に対する酸素または窒素の溶解の実験に用いた構成を模式的に示す図である。
図13(b)は、実施例4に係る、封止溶剤300に対する酸素または窒素の溶解の実験結果を示すグラフである。
【0128】
図13(a)に示すように、封止溶剤300であるPFCに、純酸素または純窒素を吹き込んで、PFCに溶解させた。ここでは、
図13(b)の実線矢印のタイミングで、1L/minの流速で2分間、純酸素をPFCに吹き込み、
図13(b)の破線矢印のタイミングで2L/minの流速で5分間、純窒素をPFCに吹き込んだ。PFC中の酸素濃度は、所定の測定器を用いて測定した。
【0129】
図13(b)に示すように、PFCに純酸素を吹き込むことにより、FPC中の純酸素の濃度を高めることができ、PFCに純窒素を吹き込むことにより、FPC中の純酸素の濃度を0付近に低下させることができた。また、PFCに純酸素を吹き込むと、PFC中の酸素濃度が30分程度維持され、その後、PFC中の酸素濃度が次第に低下した。このことから、
図8のステップS14においてFPC(封止溶剤300)を添加し、試料200をFPCで封止すると、FPC中の酸素が試料に溶出して、試料に酸素を供給できることが確認できた。
【0130】
<実施形態1の効果>
以上、本実施形態によれば、ギガヘルツ帯で発振する共振器110に試料200を適用して、その共振周波数の変動を算出することにより、試料200中の微生物の増殖度合いを迅速かつ正確に検査できる。
【0131】
このとき、共振器110の発振周波数を10GHz以上600GHz以下に設定することにより、
図6(b)を参照して説明したように、試料200中に存在するイオンが共振器110の共振周波数の変動に影響することを抑制でき、且つ、微生物の増殖に伴う共振周波数の変動幅を大きくできる。
【0132】
また、共振器110の発振周波数を30GHz以上300GHz以下に設定することにより、
図6(b)を参照して説明したように、試料200中に存在するイオンの影響をほぼ無くすことができ、且つ、所定の共振周波数で共振器110を正確に発振させ易くなる。
【0133】
また、共振器110を構成する素子がマトリクス状に隣接配置されたアレイセンサ10に試料200を適用することにより、実施例1、3に示したように、素子の位置ごとに微生物の増殖度合いを検査できる。また、
図11(b)、(c)および
図12(b)、(c)に示したように、アレイセンサ10の全検出範囲における各素子の周波数シフトの分布を検査することもできる。
【0134】
また、試料200の一部を、封止溶剤300により、共振器110の近接領域に封止することにより、温度変化による対流等の影響を軽減することで、試料200を共振器110の近接領域に留めておくことができる。よって、上記実施例1に示したように、検査対象の微生物がBCG等であっても、試料200中の微生物の増殖度合いに応じた周波数シフトを正確に算出でき、微生物の検査を精度よく行うことができる。
【0135】
また、試料中の微生物が好気性の場合、酸素を封止溶剤300に溶解させた後、封止溶剤300を試料200に添加することにより、封止溶剤300で封止された試料中の微生物に酸素を供給することができる。
【0136】
また、上記実施例1~3に示したように、検査対象の微生物が結核菌、大腸菌または表皮ブドウ球菌である場合、これらの微生物の増殖を、アレイセンサ10の各素子の周波数シフトにより迅速かつ精度良く、検査することができる。
【0137】
<実施形態2>
上記実施形態1では、封止溶剤300で試料200を封止する場合、試料200が容器60に導入された後、封止溶剤300が試料200に添加された。これに対し、実施形態2では、先に、封止溶剤300が容器60に導入された後、挿入具が封止溶剤300に差し込まれ、その後、挿入具を介して試料200が導入されることにより、試料200がアレイセンサ10の近接領域に封止される。
【0138】
図14(a)~(d)は、それぞれ、実施形態2に係る、試料200の封止工程を示す図である。
図14(e)は、封止溶剤300によって封止された試料200の状態を模式的に示す断面図である。
【0139】
まず、
図14(a)に示すように、容器60に封止溶剤300が導入される。実施形態1と同様、容器60の底面には、保護膜13(
図4(a)参照)で上面が被覆された状態で、アレイセンサ10が配置されている。
【0140】
次に、
図14(b)に示すように、容器60に収容された封止溶剤300に挿入具62が差し込まれる。このとき、挿入具62の出口は、アレイセンサ10の表面付近の近接領域に試料200が導入できるように位置付けられる。この状態で、挿入具62に収容されている試料200が、所定量だけ、挿入具62から押し出される。これにより、
図14(c)に示すように、アレイセンサ10の表面付近の近接領域に、試料200が添加される。
【0141】
その後、試料200の押し出しが終了され、挿入具62が封止溶剤300から引き抜かれる。これにより、
図14(d)に示すように、試料200が、アレイセンサ10の表面付近に維持されたまま、封止溶剤300の下方に位置付けられる。こうして、
図14(e)に示すように、試料200が封止溶剤300によりアレイセンサ10上方の近接領域に封止され、試料200中の微生物201がアレイセンサ10の近接領域に滞留される。
【0142】
このとき、封止溶剤300の自重による圧力により、試料200とともに微生物201が、アレイセンサ10(保護膜13)の上面に押しつけられる。また、試料200中の微生物が好気性の場合、封止溶剤300に溶解されたガス(酸素)が試料200へと溶出し、試料200中の微生物201に酸素が供給される。これにより、アレイセンサ10の各共振器110の周波数シフトにより、微生物の増殖を正確に検査することができる。
【0143】
図15は、微生物検査方法の工程を示すフローチャートである。
【0144】
図15のフローチャートは、
図8のフローチャートのステップS13、S14が、それぞれ、ステップS21、S22に置き換えられている。
図15のフローチャートのその他のステップにおける処理は、
図8の対応するステップの処理と同様である。
【0145】
ステップS12の初期設定処理が終了すると、分析ユニット40は、表示画面を通じて、検査者に、容器60に対する封止溶剤300の導入を促す。これに応じて、検査者は、ステップS12の初期設定処理において容器60に導入された超純水を容器60から廃棄し、封止溶剤300を容器60に導入する(S21)。
【0146】
こうして、容器60に封止溶剤300が導入されると、分析ユニット40は、さらに、容器60に前処理済みの検体と、検査対象の微生物に適する培養液とを混合して調製された試料200を添加することを、表示画面等を通じて検査者に促す。これに応じて、検査者は、
図14(b)、(c)に示したように、ピペット等の挿入具62を封止溶剤300に差し込んで試料200を導入し、アレイセンサ10の表面付近に試料200を添加する(S22)。これにより、
図14(e)に示したように、封止溶剤300によって、アレイセンサ10の近接領域に試料200が封止される。
【0147】
その後、分析ユニット40は、上記実施形態1と同様、ステップS15以降の処理を実行する。これにより、分析ユニット40は、所定時間ごとにアレイセンサ10の各素子における周波数シフトを測定して、随時、記憶媒体に記憶する(S15~S17)。そして、測定が終了すると(S17:YES)、分析ユニット40は、アレイセンサ10を停止させ(S18)、測定の間に蓄積されたデータの解析処理を実行する(S19)。この解析処理により、たとえば、
図9(a)、(b)に示した画像が表示部41に表示される。
【0148】
なお、微生物の薬剤感受性を検査する場合は、ステップS22で添加される試料200に、検査対象の薬剤が混合される。
【0149】
実施形態2においても、上記実施形態1と同様、試料200中の微生物の増殖度合いを迅速かつ正確に検査できる。
【0150】
また、実施形態2では、
図14(a)~(d)に示したように、容器60に封止溶剤300を導入した後、挿入具62により試料200が添加されるため、アレイセンサ10の近接領域に適量の試料200をピンポイントで添加できる。このため、試料200の添加量を抑制でき、且つ、試料200の封止領域をアレイセンサ10の近接領域に制限できる。よって、採取された検体が少量である場合も、迅速かつ正確に、検体中の微生物の増殖度合いを検査できる。
【0151】
<実施形態3>
実施形態3では、
図8および
図15の処理を自動化する場合の構成例が示される。
【0152】
図16は、
図8および
図15の処理を自動化する場合の微生物検査装置1の構成を示すブロック図である。
【0153】
図16に示すように、微生物検査装置1は、アレイセンサ10、分析ユニット40および容器60の他、導入部80と、封止溶剤貯留部91と、酸素供給部92と、を備えている。
【0154】
上記実施形態1と同様、アレイセンサ10は、容器60の下面に装着されている。容器60の内部は、液体を収容するための収容部61となっている。便宜上、
図16では、保護膜13の図示が省略されている。
【0155】
分析ユニット40は、表示部41の他、入力部42と、分析部43と、記憶部44とを備える。入力部42は、操作ボタンや、キーボード、マウス等の入力手段を備える。入力部42がタッチパネルであってもよい。
【0156】
分析部43は、CPU(CentralProcessing Unit)等の演算処理回路を備え、記憶部44に記憶されたプログラムに従って各部を制御する。記憶部44は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)やハードディスク等の記憶媒体を備え、分析部43による制御のためのプログラムや、上述の周波数シフト等のデータを記憶する。また、記憶部44は、分析部43の処理におけるワークエリアとしても用いられる。
【0157】
導入部80は、液体を吸引および吐出するためのノズル81を備える。また、導入部80は、試料200を収容した試料容器S1の設置位置と、封止溶剤300を貯留した封止溶剤貯留部91の配置位置と、容器60の配置位置とに、ノズル81を移送させる移送機構82と、各位置においてノズル81を昇降させる昇降機構83とを備える。
【0158】
封止溶剤貯留部91は、収容部61に導入される量より多い所定量の封止溶剤300を貯留する。封止溶剤貯留部91は、多量の封止溶剤300を収容するタンク(図示せず)に接続され、所定量が満たされるように、タンクから封止溶剤300が供給される。
【0159】
酸素供給部92は、配管により封止溶剤貯留部91に接続され、封止溶剤貯留部91に貯留されている封止溶剤300に酸素を供給する。上記のように、封止溶剤300に酸素が供給されると、封止溶剤300に酸素が溶解し、封止溶剤300の酸素濃度が高められる。酸素供給部92は、図示しない酸素ボンベに接続されている。
【0160】
測定に際して、検査者は、入力部42を介して、測定開始の指示を入力する。このとき、同時に、検査者は、封止溶剤300を用いるか否かの入力を行う。あるいは、検査者が検査対象の微生物の種類を入力することにより、分析部43が、封止溶剤300を用いるか否かを決定してもよい。この場合、たとえば、微生物の種類と封止溶剤300の利用の要否とを対応付けた情報が、記憶部44に予め記憶される。分析部43は、この情報に基づいて、封止溶剤300を用いるか否かを決定する。
【0161】
上記入力がなされたことに応じて、分析部43は、
図8または
図15のステップS11、S12の処理を実行する。その後、分析部43は、試料200を収容した試料容器S1を装置内の設置部P1に設置することを検査者に促す表示を表示部41に出力させる。これに応じて、検査者は、設置部P1に試料容器S1を設置する。試料容器S1の設置は、たとえば、設置部P1に配置されたセンサにより検知される。あるいは、入力部42を介して、試料容器S1を設置したことを示す入力を検査者が行うようにしてもよい。
【0162】
こうして、試料容器S1が設置されると、分析部43は、導入部80を制御して、試料200および封止溶剤300を、容器60の収容部61に導入する。封止溶剤300を用いることなく測定が行われる場合、分析部43は、試料200のみが容器60に導入されるように、導入部80を制御する。
【0163】
図8のフローチャートに従って測定が行われる場合、分析部43は、まず、ノズル81を試料容器S1に降下させて所定量の試料200を吸引し、吸引した試料200を、容器60の収容部61に吐出させる(S13)。次に、分析部43は、ノズル81を封止溶剤貯留部91に降下させて所定量の封止溶剤300を吸引し、吸引した封止溶剤300を、容器60の収容部61に吐出させる(S14)。これにより、
図7(a)~(e)に示したように、封止溶剤300が沈下して、試料200が、封止溶剤300により、アレイセンサ10の近接領域に封止される。
【0164】
図15のフローチャートに従って測定が行われる場合、分析部43は、まず、ノズル81を封止溶剤貯留部91に降下させて所定量の封止溶剤300を吸引し、吸引した封止溶剤300を、容器60の収容部61に吐出させる(S21)。次に、分析部43は、ノズル81を試料容器S1に降下させて所定量の試料200を吸引し、吸引した試料200を、容器60内のアレイセンサ10に接近した位置に吐出させる(S22)。
【0165】
ここでは、ノズル81を
図14(b)の挿入具62として用いて、試料200の挿入が行われる。具体的には、容器60の収容部61にノズル81を降下させて、ノズル81を封止溶剤300に差し込む。このとき、ノズル81の先端が、アレイセンサ10の表面に近接する位置に到達するまで、ノズル81が降下される。この状態で、ノズル81に吸引された試料200がノズル81から吐出され、その後、ノズル81が、収容部61から引き抜かれる。これにより、
図14(a)~(e)に示したように、試料200が、封止溶剤300により、アレイセンサ10の近接領域に封止される。
【0166】
その後、分析部43は、
図8または
図15のステップS15~S17の処理を実行して、所定時間ごとに、各素子の周波数シフトを算出し、算出した周波数シフトを、記憶部44に記憶させる。そして、測定が終了すると(S17:YES)、分析部43は、アレイセンサ10の動作を停止させ(S18)、記憶部44の記憶された周波数シフトに基づき、検体中の微生物の増殖度合いを解析する。解析の方法は、上記実施形態1と同様である。
【0167】
実施形態3の構成によれば、
図8および
図15の処理が自動化されるため、より簡便に微生物の検査を行うことができる。
【0168】
なお、
図16の構成では、試料200を収容した試料容器S1が検査者により設置部P1に設置されたが、搬送手段によって、試料容器S1が試料200の吸引位置に搬送されてもよい。
【0169】
また、
図16の構成では、外部で調製された試料200を収容する試料容器S1が微生物検査装置1に設置されたが、検体と培養液とを混合して試料を調製する試料調製部が、微生物検査装置1にさらに設けられてもよい。この場合、設置部P1には、検体を収容した検体容器が設置され、ノズル81により検体容器から検体が吸引される。吸引された検体は、試料調製部に吐出され、試薬や培養液と混合される。こうして、試料調製部において、測定用の試料が調製される。その後、試料は、試料調製部からノズルにより吸引されて、容器60に吐出される。
【0170】
また、
図16の構成では、容器60およびアレイセンサ10の組が1つだけ配置されたが、容器60およびアレイセンサ10の組が、複数、微生物検査装置1に配置されてもよい。この場合、たとえば、異なる薬剤を添加した複数の試料200を、それぞれ、異なる容器60に導入することにより、薬剤ごとに、微生物の増殖度合いを並行して測定できる。これにより、各薬剤に対する微生物の薬剤感受性を、より迅速に確認することができる。
【0171】
また、分析ユニット40は、
図1の構成のように、別体のパーソナルコンピュータとして構成されなくてもよく、微生物検査装置1に一体的に装備されていてもよい。この場合、表示部41、入力部42、分析部43および記憶部44は、ユニット化されていなくてもよく、それぞれ、個別に、微生物検査装置1に配置されてもよい。
【0172】
<実施形態4>
上記実施形態1では、疎水性の封止溶剤300として、パーフルオロ化合物(PFC)等のフッ素系不活性溶媒が用いられた。これに対し、本実施形態4では、疎水性の封止溶剤300として、ミネラルオイルが用いられる。ミネラルオイルは、流動パラフィンとも称される。水より比重が低いミネラルオイルが封止溶剤300として用いられる。使用されるミネラルオイルの比重は、たとえば、0.85程度である。水より比重が高いミネラルオイルが用いられてもよい。
【0173】
図17(a)~(d)は、それぞれ、試料200に対する封止溶剤300の添加工程を示す図である。
【0174】
まず、
図17(a)、(b)に示すように、アレイセンサ10の表面付近の近接領域に、試料200が添加される。次に、
図17(c)に示すように、ミネラルオイルからなる封止溶剤300が、容器60に導入される。封止溶剤300は疎水性であるため、試料200に混ざることなく、試料200を覆うように試料200を封止する。その後、
図17(d)に示すように、封止溶剤300の上面に重なるように、水400が容器60に導入される。この場合も、封止溶剤300の疎水性により、水400は、封止溶剤300と混ざることなく、封止溶剤300の上面に堆積する。
【0175】
ミネラルオイルが封止溶剤300である場合の封止溶剤300の添加工程は、上記に限られるものではなく、試料200を封止溶剤300で封止可能な限りにおいて、他の方法であってもよい。また、ミネラルオイルが封止溶剤300に用いられる場合も、
図16と同様の装置により、試料200に対する封止溶剤300の添加および試料の測定、分析を自動で行うことができる。
【0176】
<実施例5>
発明者らは、ミネラルオイルを封止溶剤300として用いて、BCG(ウシ結核菌)の増殖度合いを測定した。測定に用いる試料200は、以下のように調製した。
【0177】
BCGと培養液(MGIT PANTA)とが混合されたBCG懸濁液をミキサーで攪拌した後、常温で15分放置し、上清を新しい培養液で10倍希釈して、ミキサーで再度、攪拌した。その後、BCG懸濁液を常温で15分放置し、上清を回収してミキサーで再度攪拌し、攪拌後のBCG懸濁液をバクテリア用セルカウンターで1000CFU/μLに調整した。これにより、測定に用いる試料200を調製した。
【0178】
こうして調製した試料200を、
図17(a)~(d)の方法で、アレイセンサ10の表面付近の近接領域に、ミネラルオイルからなる封止溶剤300で封止した。その後、試料200においてBCGを培養しながら、アレイセンサ10からの出力を解析し、BCGの増殖度合いを上記実施例1と同様の手法で算出した(実施例5)。
【0179】
また、封止溶剤300として上記実施例1と同様のパーフルオロ化合物(PFC)を用いた場合について、同様の測定および解析を行った(実施例6)。この測定および解析では、
図17(a)~(d)と同様の方法により、試料200を封止溶剤300で封止した。
【0180】
さらに、封止溶剤300を用いない場合について、同様の測定および解析を行った(実施例7)。この測定および解析では、試料200を容器60に導入するのみとした。
【0181】
封止溶剤300(ミネラルオイル/PFC)を用いる各測定(実施例5、6)では、試料200を容器60に5μL導入した。また、封止溶剤を用いない測定(実施例7)では、試料200を容器60に300μL導入した。
【0182】
封止溶剤300としてパーフルオロ化合物(PFC)を用いる場合(実施例6)、上記実施例1と同様、酸素を封止溶剤300に溶解させた。すなわち、PFCに純酸素を5L/minで1分間吹き込んでPFCを酸素化し、その直後に、FPCを容器60に添加して密封した。封止溶剤300としてミネラルオイルを用いる場合(実施例5)、酸素を封止溶剤300に溶解させなかった。
【0183】
各測定では、上記実施例1と同様、倍率500倍の顕微鏡観察で菌塊が確認された20素子を解析対象の素子とした。なお、封止溶剤300としてPFCを用いる測定(実施例6)では、さらに、近接領域外に位置する封止溶剤300が載った20の素子を解析対象の素子に追加した。各測定では、これらの解析対象の素子の周波数シフトを、10分ごとに繰り返し測定および算出した。各測定は、測定開始から168時間(7日間)が経過するまで、継続的に行った。
【0184】
図18(a)は、封止溶剤300としてPFCを用いた実施例6の解析対象素子の周波数シフトを示すグラフである。ここでは、測定開始から48時間が経過するまでの測定結果が示されている。
図18(b)は、封止溶剤300としてPFCを用いた実施例6の168時間(7日間)経過時点における各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
【0185】
図18(b)では、便宜上、カラーの画像がグレースケールで示されている。ここでは、周波数シフトのスケール最大値(ここでは40MHz)が青色に設定され、周波数シフトのスケール最小値(ここでは-30MHz)が赤色に設定されている。
図18(b)の破線で囲まれた20の素子が、上述の近接領域外に位置する封止溶剤300が載った20の素子である。これらの素子の周波数シフトの算出結果は、
図18(a)において、0付近で細かく変動するグラフで示されている。
【0186】
図18(a)に示すように、封止溶剤300としてPFCを用いた場合、封止溶剤300で封止された領域に含まれる20の素子(菌塊が確認された素子)における周波数シフトは、上記実施例1と同様、時間の経過とともに増加した。よって、この測定結果からも、試料200において局在的に生じるBCGの増殖が、各素子の周波数シフトに適正に反映されることが確認できた。
【0187】
また、
図18(b)の測定結果を参照すると、封止溶剤300で試料200が封止された領域が画像中央に楕円状に大きく広がっており、この領域に、周波数シフトが大きい素子が分布した。また、この領域の外側では、周波数シフトが大きい素子は僅かに散在する程度であり、殆どの素子では、周波数シフトが略生じていないか、僅かに生じている程度であった。このことから、PFCを封止溶剤300として用いて試料200を封止することにより、封止領域の素子の出力から、BCGの増殖度合いを効率的かつ精度良く検出できることが確認できた。
【0188】
図19(a)は、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた実施例5の解析対象素子の周波数シフトを示すグラフである。ここでは、測定開始から48時間が経過するまでの測定結果が示されている。
図19(b)は、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた実施例5の168時間(7日間)経過時点における各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
【0189】
図18(b)と同様、
図19(b)においても、便宜上、カラーの画像がグレースケールで示されている。
【0190】
なお、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた場合は、PFCを用いる場合に比べて、試料200が封止される封止領域の面積が広がり、且つ、封止領域の高さ方向の幅(厚み)が小さくなる。このため、
図19(b)の画像では、左下隅および左辺付近の一部の範囲を除く略全ての素子の範囲に試料200の封止領域が広がっており、
図18(b)のような封止領域を示す楕円状の境界は、画像上に見られない状態となっている。
【0191】
図19(a)に示すように、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた場合、封止溶剤300で封止された領域に含まれる20の素子(菌塊が確認された素子)における周波数シフトは、上記実施例1と同様、時間の経過とともに増加した。よって、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた場合も、試料200において局在的に生じるBCGの増殖が、各素子の周波数シフトに適正に反映されることが確認できた。
【0192】
また、
図19(b)の測定結果から、封止溶剤300で試料200が封止された領域において周波数シフトの大きい素子が密集する領域が確認できた。このことから、ミネラルオイルを封止溶剤300として用いて試料200を封止することにより、BCGの増殖度合いを精度良く検出できることが確認できた。
【0193】
なお、
図19(a)の測定結果では、
図18(a)の測定結果に比べて、時間の経過に伴う周波数シフトの変化が、素子間でばらつきにくいことが確認できた。これは、上記のように、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた場合は、PFCを用いた場合に比べて、封止溶剤300による試料200の封止領域の高さ方向の幅(厚み)が小さいため、封止領域においてBCGが素子から離れる方向に流動しにくいことによるものであると考えられる。よって、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いることにより、測定対象の素子から、より安定的な周波数シフトの測定結果を得ることができると考えられる。
【0194】
図20(a)は、封止溶剤300を用いなかった実施例7の解析対象素子の周波数シフトを示すグラフである。ここでは、測定開始から48時間が経過するまでの測定結果が示されている。
図20(b)は、封止溶剤300を用いなかった実施例7の168時間(7日間)経過時点における各素子の周波数シフトを色により示す表示画像である。
【0195】
図20(a)に示すように、封止溶剤300を用いなかった場合、各素子における周波数シフトを安定的に検出することができなかった。よって、解析対象がBCGの場合、封止溶剤300を用いることなく、BCGの増殖度合いを各素子の周波数シフトに反映させることは、困難であることが確認できた。
【0196】
図21(a)~(c)は、それぞれ、封止溶剤300としてPFCを用いた場合(実施例6)、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた場合(実施例5)、および封止溶剤300を用いなかった場合(実施例7)の顕微鏡写真を示す図である。
図21(a)、(b)では、封止溶剤300で試料200が封止された領域が観察されている。
図21(b)の顕微鏡写真は、他の顕微鏡写真に比べて、顕微鏡の倍率が高められている。
【0197】
図21(c)の顕微鏡観察では、破線矢印で模式的に示すように、液体培地中で菌塊が流動するため、全体としての菌の増殖は評価できるものの、個々の菌体の増殖を評価することはできない。これに対し、
図21(a)、(b)に示す顕微鏡観察では、封止溶剤300が用いられるため、菌塊の流動が少ない。このため、長時間に亘って精緻に菌塊の顕微鏡観察が可能である。よって、封止溶剤300を用いることにより、個々の菌体の分裂および増殖を経時的に観察できる。
【0198】
なお、
図21(b)に示すように、封止溶剤300としてミネラルオイルを用いた場合は、ミネラルオイルの屈折率との関係から、顕微鏡写真の解像度がやや低下する。これに対し、封止溶剤300としてPFCを用いた場合は、
図21(a)に示すように、顕微鏡写真の解像度が高く維持される。よって、顕微鏡により菌体の増殖を観察する場合は、封止溶剤300としてPFCを用いるのが好ましいと言える。
【0199】
この他、封止溶剤300を用いる場合は、試料200が封止溶剤300で封止されるため、試料200の乾燥を防ぐことができる。また、封止溶剤300を用いる場合は、試料200と封止溶剤300との間で酸素等のガス交換が行われるため、試料200中の微生物の増殖性を維持することができる。これらのことから、封止溶剤300を用いる場合は、長時間に亘って微生物の増殖度合いを安定的に測定することができる。
【0200】
<変更例>
以上、本発明の実施の形態ついて説明したが、本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0201】
たとえば、検査対象の微生物は、上記実施例1~3に示した微生物に限られるものではなく、他の微生物であってもよい。たとえば、アフリカヌム(M.africanum)、ゴルドネ(M.gordonae)、アビウム(M.avium)、イントラセルラーレ(M.intracellulare)、カンサシ(M.kansasi)、マリウム(M.marinum)、アブセッサス(M.abscessus)、ミルロティ(M. microti)、ウルセランス(M.ulcerance)等の抗酸菌が検査対象であってもよい。上記検査方法は、未知の菌に対する薬剤感受性評価にも利用され得る。
【0202】
また、微生物の薬剤感受性を評価する薬剤も、上記実施例1~3に示した薬剤に限られるものではなく、他の薬剤に対する微生物の薬剤感受性が評価されてもよい。
【0203】
さらに、微生物の薬剤感受性に限らず、食品管理における微生物の増殖評価に、上記実施形態の検査方法が用いられてもよい。本発明は、微生物の増殖を評価する分野において、有効に利用され得る。
【0204】
また、
図8および
図15の検査方法では、測定が終了するまで各素子の周波数シフトが蓄積された後、蓄積された周波数シフトを解析して、微生物の増殖に関する解析結果がモニタ41に表示されたが、測定中にリアルタイムで周波数シフトが解析され、随時、
図9(a)、(b)に示すような解析結果がモニタ41に表示されてもよい。
【0205】
また、測定開始から測定終了まで時系列で各共振器110の共振周波数を分析ユニット40の記憶部に記憶しておき、分析時に、分析ユニット40において、記憶部に記憶されている各タイミングの共振周波数と測定開始時の共振周波数との間の周波数シフトを算出してもよい。
【0206】
また、上記実施形態では、底部にアレイセンサ10が設置された容器60に試料200を導入することにより、試料200がアレイセンサ10(共振器110)に適用されたが、試料200をアレイセンサ10に適用する方法は、これに限られない。たとえば、容器60の収容された試料200にアレイセンサ10を漬けることにより、試料200をアレイセンサ10に適用してもよい。
【0207】
また、
図7(a)~(e)および
図14(a)~(e)に示した封止方法は、共振器110の周波数シフトを検出する方式以外のセンサが用いられる場合も有効である。たとえば、半導体で作製された他の方式のセンサICが用いられてもよい。他の方式のセンサが用いられる場合も、
図7(a)~(e)、
図14(a)~(e)および
図17(a)~(d)に示した封止方法を用いることにより、センサの近接領域に試料を封止でき、試料中の微生物の状況を正確に検査できる。
【0208】
さらに、微生物検査装置1の構成は、
図1および
図16に示した構成に限定される物ではなく、アレイセンサ10上に試料200を封止溶剤300で封止できる構成であれば、他の構成であってもよい。また、封止溶剤300を用いる必要がない微生物を検査対象とする微生物検査装置1では、
図16の封止溶剤貯留部91および酸素供給部92が省略されてもよい。
【0209】
この他、本発明の実施形態は、種々の変更可能である。
【符号の説明】
【0210】
1 … 微生物検査装置
10 … アレイセンサ
40 … 分析ユニット(分析部)
41 … 表示部
43 … 分析部
60 … 容器
61 … 収容部
80 … 導入部
110 … 共振器
150 … 発振器
200 … 試料
300 … 封止溶剤
201 … 微生物
【手続補正書】
【提出日】2024-05-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と培養液とを混合した試料を、ギガヘルツ帯で発振する共振器の近接領域に封止し、
前記共振器の共振周波数の変動を、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報として算出する、微生物検査方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
この場合、封止溶剤による試料の封止は、前記近接領域を含む収容領域に前記試料を導入した後、前記封止溶剤を前記収容領域に添加することにより行われてもよく、あるいは、前記近接領域を含む収容領域に前記封止溶剤を導入した後、前記試料を前記収容領域に添加することにより行われてもよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
この場合、前記センサ素子は、ギガヘルツ帯で発振する発振器により構成され、前記発振器の発振周波数の変動を、前記検体に含まれる微生物の増殖度合いを示す情報として算出するよう調整され得る。これにより、発振器の発振周波数の変動により微生物の増殖度合いを正確に把握できる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
また、上記ギガヘルツ帯は、30GHz以上300GHz以下であることがさらに好ましい。共振器の共振周波数を30GHz以上に設定することにより、試料中に存在するイ
オンの影響をほぼ無くすことができる。また、共振器の共振周波数を300GHz以下に
設定することにより、所定の共振周波数で共振器を正確に発振させ易くなる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
差動回路120は、2つのトランジスタ121がクロスカップルされて構成されている。差動回路120の構成は、これに限られるものではなく、他の構成が用いられてもよい。電流源130は、回路部11からの制御信号に従って、共振器110および差動回路120からなる発振器150にイネーブル信号を供給する。これにより、共振器110および発振器150が、ギガヘルツ帯に含まれる上記所定の共振周波数で発振する。共振器110の共振周波数が変動すると、変動後の共振周波数で発振器150が発振して信号を出力する。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0092
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0092】
図8の検査方法を微生物の薬剤感受性検査に用いる場合、検査者は、ステップS13において、検体および培養液とともに薬剤を混合して試料200を調製し、調製した試料200を容器60
に導入する。その他の工程は、上記と同様である。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0098
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0098】
この実験では、BCGと培養液(MGIT PANTA)とが混合されたBCG懸濁液200μLと、未使用の培養液(MGIT PANTA)400μLとを混合してコントロール試料を調製した。また、調製したコントロール試料196μLに、25mg/mLの濃度のSM(ストレプトマイシン)4μLを混合して、薬剤感受性評価用のSM試料を調製した。さらに、上記のように調製したコントロール試料199.8mLに、50mg/mLの濃度のRFP(リファンピシン)0.2μLを混合して、薬剤感受性評価用のRFP試料を調製した。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0099
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0099】
こうして調製した、コントロール試料200μL、SM試料200μLおよびRFP試料200μLを、それぞれ、異なる容器60に導入し、さらに、各容器60に封止溶剤300を添加して、試料ごとに、周波数シフトの測定を行った。ここでは、封止溶剤300
として、酸素が溶解されたパーフルオロ化合物(PFC)を用いた。PFCに純酸素を5L/minで1分間吹き込んでPFCを酸素化し、その直後に、PFCを容器60に添加して密封した。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0109
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0109】
<実施例2>
発明者らは、大腸菌のコントロール株であるNBRC3301を用いて、上記検査方法による大腸菌の増殖および薬剤感受性の検証実験を行った。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0110
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0110】
この実験では、濃度依存性薬剤であるストレプトマイシン(アミノグリコシド系)を使用した。NBRC3301のコントロール試料196μLに、25mg/mLの濃度のSM(ストレプトマイシン)4μLを混合して、SMの濃度が500μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(SM_500μg/mL)を調製した。また、コントロール試料に対するSMの添加量を調整して、SMの濃度が250μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(SM_250μg/mL)と、SMの濃度が125μg/mLの薬剤感受性評価用の試料(SM_125μg/mL)を調製した。さらに、死菌の周波数シフトを検証するために、コントロール試料200μLに98℃、30minの加熱処理を行った試料を調製した。また、同様に死菌の周波数シフトを検証するために、コントロール試料200μLにリン酸緩衝4%ホルムアルデヒド液を添加して10min室温処理した後、超純水で置換した試料(4%_FA)を調製した。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0116
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0116】
<実施例3>
発明者らは、表皮ブドウ球菌のコントロール株であるNBRC12993を用いて、上記検査方法による表皮ブドウ球菌の増殖および薬剤感受性の検証実験を行った。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0129
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0129】
図13(b)に示すように、PFCに純酸素を吹き込むことにより、
PFC中の純酸素の濃度を高めることができ、PFCに純窒素を吹き込むことにより、
PFC中の純酸素の濃度を0付近に低下させることができた。また、PFCに純酸素を吹き込むと、PFC中の酸素濃度が30分程度維持され、その後、PFC中の酸素濃度が次第に低下した。このことから、
図8のステップS14において
PFC(封止溶剤300)を添加し、試料200を
PFCで封止すると、
PFC中の酸素が試料に溶出して、試料に酸素を供給できることが確認できた。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0182
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0182】
封止溶剤300としてパーフルオロ化合物(PFC)を用いる場合(実施例6)、上記実施例1と同様、酸素を封止溶剤300に溶解させた。すなわち、PFCに純酸素を5L/minで1分間吹き込んでPFCを酸素化し、その直後に、PFCを容器60に添加して密封した。封止溶剤300としてミネラルオイルを用いる場合(実施例5)、酸素を封止溶剤300に溶解させなかった。
【手続補正15】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】