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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096200
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ジルコニア組成物及び仮焼体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20240705BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C04B35/486
C01G25/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069968
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2022132226の分割
【原出願日】2017-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2016183129
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 承央
(57)【要約】
【課題】仮焼体作製時に焼成炉内の温度ムラの影響を受けにくいジルコニア組成物を提供すること。また、焼成時間を短縮しながらも、焼結体の透光性を維持できるジルコニア組成物及び仮焼体を提供すること。
【解決手段】組成物は、55%以上が単斜晶であるジルコニア粉末と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有する。ジルコニア粒子及び安定化剤の粒子の平均粒径が0.06μm~0.17μmである。安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
55%以上が単斜晶であるジルコニア粉末と、
ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有し、
ジルコニア粒子及び前記安定化剤の粒子の平均粒径が0.06μm~0.17μmであり、
前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない、組成物。
【請求項2】
BET比表面積が7.5m/g~25m/gである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ジルコニアの80%以上が単斜晶である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記安定化剤はイットリアである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ジルコニアとイットリアの合計molに対して、イットリアを3mol%~7.5mol%含有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
X線回折パターンにおいてイットリアのピークが存在する、請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
以下の数1に基づいて算出したfが1%以上である、請求項4~6のいずれか一項に記載の組成物:
ただし、I(111)は、CuKα線によるX線回折パターンにおけるイットリアの(111)面のピーク強度を示し、
(111)及びI(11-1)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
【数1】
【請求項8】
前記fが15%以下である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物におけるイットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であり、 前記fが2%以上である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物におけるイットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であり、
前記fが3%以上である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物におけるイットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であり、
前記fが4%以上である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項12】
700℃以上で焼成されたものではない、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
55%以上が単斜晶であるジルコニアと、
ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有し、
前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されておらず、
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物のプレス成形体を800℃~1200℃で焼成して作製された、仮焼体。
【請求項14】
密度が2.7g/cm~4.0g/cmである、請求項13に記載の仮焼体。
【請求項15】
曲げ強度が15MPa~70MPaである、請求項13又は14に記載の仮焼体。
【請求項16】
ジルコニアの80%以上が単斜晶である、請求項13~15のいずれか一項に記載の仮焼体。
【請求項17】
前記安定化剤はイットリアであり、
X線回折パターンにおいてイットリアのピークが存在する、請求項13~16のいずれか一項に記載の仮焼体。
【請求項18】
以下の数2に基づいて算出したfが1%以上である、請求項17に記載の仮焼体:
ただし、I(111)は、CuKα線によるX線回折パターンにおけるイットリアの(111)面のピーク強度を示し、
(111)及びI(11-1)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
【数2】
【請求項19】
前記fが15%以下である、請求項18に記載の仮焼体。
【請求項20】
前記組成物におけるイットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であり、 前記fが2%以上である、請求項18又は19に記載の仮焼体。
【請求項21】
前記組成物におけるイットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であり、
前記fが3%以上である、請求項18又は19に記載の仮焼体。
【請求項22】
前記組成物におけるイットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であり、
前記fが4%以上である、請求項18又は19に記載の仮焼体。
【請求項23】
前記仮焼体を1550℃で30分間焼成して作製された第1の焼結体の第1の透光性と、
前記仮焼体を1550℃で120分間焼成して作製された第2の焼結体の第2の透光性と、を比較したとき、
前記第1の透光性は前記第2の透光性の85%以上である、請求項13~22のいずれか一項に記載の仮焼体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本開示は、日本国特許出願:特願2016-183129号(2016年9月20日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ジルコニア(酸化ジルコニウム(IV);ZrO)を主として含有する組成物に関する。また、本開示は、ジルコニアの仮焼体に関する。
【背景技術】
【0003】
ジルコニアは、複数の結晶系間で相転移が生じる化合物である。そこで、イットリア(酸化イットリウム;Y)等の安定化剤をジルコニアに固溶させて相転移を抑制した部分安定化ジルコニア(PSZ;Partially-Stabilized Zirconia)及び完全安定化ジルコニアが種々の分野において利用されている。例えば、特許文献1には、歯科材料に使用するための部分安定化ジルコニア焼結体が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の透光性ジルコニア焼結体は、ジルコニア粉末のプレス成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結することによって作製される。当該ジルコニア粉末は、4.0mol%を超え6.5mol%以下のイットリアと、0.1wt%未満のアルミナを含有し、BET比表面積が8~15m/gであり、平均粒径が0.40~0.50μmであり、結晶中に含まれる正方晶及び立方晶の合計割合が80%以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2015/098765A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジルコニア粒子(粉末)を焼結させたジルコニア焼結体は通常高強度であるため、ジルコニア焼結体を所望の形状に直接機械加工することは容易ではない。そこで、ジルコニア焼結体の成形は、ジルコニア粉末のプレス成形体(CIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を施した成形体も含む)を焼結に至らない温度で焼成(以下「仮焼」という)してブロック化した仮焼体において行われることがある。この場合、ジルコニア仮焼体のブロック体を切削加工等によって所望の形状に成形し、成形した仮焼体を焼結温度以上で焼成することによって目的とする形状を有するジルコニア焼結体を作製する。
【0007】
ジルコニア粉末のプレス成形体は、焼成すると、焼成温度に依存して収縮する。例えば、プレス成形体は、仮焼体までに約1%収縮し、焼結体までに約20%収縮する。そこで、仮焼体の成形は、これらの収縮率を考慮して、最終目的物となる焼結体の寸法よりも大きく成形される。例えば、成形した仮焼体の大きさは、粉末のプレス成形体から焼結体になるまでの収縮率から、プレス成形体から仮焼体になるまでの収縮率を控除することによって算出された係数に基づいて決定される。
【0008】
そこで、1つの焼成炉で複数のプレス成形体を焼成して複数の仮焼体(ブロック体)を作製する場合に、複数の製品間で、プレス成形体から仮焼体になるまでの収縮率が、仮焼体作製時に焼成炉内に生じる温度差(温度ムラ)によって影響を受けにくいジルコニア組成物が望まれている。
【0009】
また、特許文献1に記載のジルコニア焼結体の製造方法においては、最高温度での保持時間が2時間となっている。このような長時間の焼成は、生産効率を低下させると共に、エネルギーコストを増大させる。また、例えば、ジルコニア焼結体で歯科用補綴物を作製する場合には、患者は、診察当日に補綴物で治療を受けることができず、補綴物で治療を受けるためには別の日に再度通院しなければならない。一方で、特許文献1に記載のようなジルコニア粉末においては、最高温度での保持時間を短縮すると、白濁して焼結体の透光性が低下してしまう。
【0010】
そこで、焼成時間を短縮しながらも、焼結体の透光性を維持できるジルコニア組成物及び仮焼体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1視点によれば、55%以上が単斜晶であるジルコニア粉末と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有する組成物が提供される。ジルコニア粒子及び安定化剤の粒子の平均粒径が0.06μm~0.17μmである。安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない。
【0012】
本開示の第2視点によれば、55%以上が単斜晶であるジルコニアと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有する仮焼体が提供される。安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない。仮焼体は、第1視点に係る組成物のプレス成形体を800℃~1200℃で焼成して作製されたものである。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、焼成炉内の温度ムラによって生じ得る組成物から仮焼体への収縮率のばらつきを抑えることができる。これにより、製品の歩留まりを高めることができると共に、製品の生産効率を高めることができる。また、焼結体をより高精度に成形することができる。
【0014】
本開示によれば、焼結体の製造時間を短縮しながらも、透光性の高いジルコニア焼結体を作製することができる。これにより、製品の生産効率を高めることができると共に、エネルギーコストを低減させることができる。ジルコニア焼結体を歯科用補綴物に適用する場合には、患者に対する時間的負担を低減することができる。
【0015】
本開示の組成物は、上述の収縮率のばらつき抑制及び製造時間短縮のうち少なくとも1つの利点を有すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例5-2において作製した仮焼体のX線回折パターン。
図2】実施例6-2において作製した仮焼体のX線回折パターン。
図3】比較例4-2において作製した仮焼体のX線回折パターン。
図4】焼成温度に対する収縮率の変化を示すグラフ。
図5】焼成温度に対する透光性の変化を示すグラフ。
図6】実施例3-2の顆粒の電子顕微鏡写真。
図7】実施例3-2の構成粒子の電子顕微鏡写真。
図8】比較例1の顆粒の電子顕微鏡写真。
図9】比較例1の構成粒子の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、BET比表面積が7.5m/g~25m/gである。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ジルコニアの80%以上が単斜晶である。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、平均粒径が0.10μm~0.14μmである。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、平均粒径が0.13μm未満である。
【0022】
上記第1視点の好ましい形態によれば、安定化剤はイットリアである。
【0023】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、イットリアを3mol%~7.5mol%含有する。
【0024】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物のX線回折パターンにおいてイットリアのピークが存在する。
【0025】
上記第1視点の好ましい形態によれば、以下の数1に基づいて算出したfが1%以上である。
【0026】
上記第1視点の好ましい形態によれば、fが15%以下である。
【0027】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物におけるイットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満である。fが2%以上である。
【0028】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物におけるイットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満である。fが3%以上である。
【0029】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物におけるイットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下である。fが4%以上である。
【0030】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物は、700℃以上で焼成されたものではない。
【0031】
上記第2視点の好ましい形態によれば、仮焼体の密度が2.7g/cm~3.6g/cmである。
【0032】
上記第2視点の好ましい形態によれば、仮焼体の曲げ強度が15MPa~70MPaである。
【0033】
上記第2視点の好ましい形態によれば、ジルコニアの80%以上が単斜晶である。
【0034】
上記第2視点の好ましい形態によれば、安定化剤はイットリアである。仮焼体のX線回折パターンにおいてイットリアのピークが存在する。
【0035】
上記第2視点の好ましい形態によれば、以下の数1に基づいて算出したfが1%以上である。
【0036】
上記第2視点の好ましい形態によれば、fが15%以下である。
【0037】
上記第2視点の好ましい形態によれば、組成物におけるイットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満である。fが2%以上である。
【0038】
上記第2視点の好ましい形態によれば、組成物におけるイットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満である。fが3%以上である。
【0039】
上記第2視点の好ましい形態によれば、組成物におけるイットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下である。fが4%以上である。
【0040】
上記第2及び第3視点の好ましい形態によれば、仮焼体を1550℃で30分間焼成して作製された第1の焼結体の第1の透光性と、仮焼体を1550℃で120分間焼成して作製された第2の焼結体の第2の透光性と、を比較したとき、第1の透光性は第2の透光性の85%以上である。
【0041】
第1実施形態として本開示の組成物について説明する。組成物は、ジルコニア焼結体及び仮焼体の前駆体(中間製品)となり得るものである。
【0042】
組成物は、ジルコニア粉末と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有する。安定化剤は、部分安定化ジルコニアを形成可能なものであると好ましい。安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア、酸化セリウム(CeO)、酸化スカンジウム(Sc)等の酸化物が挙げられる。組成物、仮焼体及び焼結体中の安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。
【0043】
組成物において、安定化剤は、ジルコニアの結晶のうち少なくとも一部が単斜晶であるように存在していると好ましい。安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていないと好ましい。安定化剤の一部がジルコニアに固溶されていないことは、例えば、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)パターンによって確認することができる。組成物のXRDパターンにおいて、安定化剤に由来するピークが確認された場合には、組成物中においてジルコニアに固溶されていない安定化剤が存在していることになる。安定化剤の全量が固溶された場合には、基本的に、XRDパターンにおいて安定化剤に由来するピークは確認されない。ただし、安定化剤の結晶状態等の条件によっては、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合であっても、安定化剤がジルコニアに固溶されていないこともあり得る。ジルコニアの主たる結晶系が正方晶及び/又は立方晶であり、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合には、安定化剤の大部分、基本的に全部、はジルコニアに固溶しているものと考えられる。
【0044】
本開示の組成物においては、安定化剤の全部がジルコニアに固溶されていなくてもよい。
【0045】
なお、本開示において、安定化剤が固溶するとは、例えば、安定化剤に含まれる元素(原子)がジルコニアに固溶することをいう。
【0046】
本開示の組成物から作製した焼結体の強度及び透光性の観点から、安定化剤はイットリアであると好ましい。イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、3mol%以上であると好ましく、3.5mol%以上であるとより好ましく、4mol%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が3mol%以上であると焼結体の透光性を高めることができる。また、イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、7.5mol%以下であると好ましく、7mol%以下であるとより好ましく、6.5mol%以下であるとより好ましく、6mol%以下であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が7.5mol%以下であると焼結体の強度低下を抑制することができる。
【0047】
組成物においてジルコニアに固溶されていないイットリア(以下において「未固溶イットリア」という)の存在率fは、以下の数1に基づいて算出することができる。未固溶イットリアの存在率fは、0%より大きいと好ましく、1%以上であるとより好ましく、2%以上であるとより好ましく、3%以上であるとさらに好ましい。未固溶イットリアの存在率fの上限は、組成物におけるイットリアの含有率に依存する。イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計molに対して7.5mol%以下であるとき、fは15%以下とすることができる。例えば、イットリアの含有率が3.5mol%~4.5mol%であるとき、fは7%以下とすることができる。イットリアの含有率が5mol%~6mol%であるとき、fは10%以下とすることができる。イットリアの含有率が5.5mol%~6.5mol%であるとき、fは11%以下とすることができる。
【0048】
組成物において、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fが2%以上であると好ましく、3%以上であるとより好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fが3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であるとき、fが4%以上であると好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとより好ましく、8%以上であるとさらに好ましい。
【0049】
【数1】
【0050】
数1において、I(111)は、CuKα線によるXRDパターンにおける2θ=29°付近のイットリアの(111)面のピーク強度を示す。I(111)及びI(11-1)は、ジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示す。I(111)は、ジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示す。I(111)は、ジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
【0051】
上記数1は、I(111)の代わりに他のピークを代入することによって、イットリア以外の安定化剤の未固溶存在率の算出にも適用することができる。
【0052】
組成物におけるジルコニアの主たる結晶系は単斜晶系であると好ましい。組成物において、ジルコニア中の単斜晶系の割合fは、単斜晶系、正方晶系及び立方晶系の総量に対して20%以上であると好ましく、30%以上であると好ましく、40%以上であると好ましく、50%以上であると好ましく、55%以上であると好ましく、60%以上であると好ましく、70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとより好ましく、85%以上であるとより好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとさらに好ましい。単斜晶系の割合fは、CuKα線によるXRDピークに基づいて以下の数2から算出することができる。数2における各記号の意味は数1と同じである。組成物における主たる結晶系は、収縮温度の高温化及び焼結時間の短縮化に寄与している可能性がある。
【0053】
本開示の組成物においては、正方晶及び立方晶のピークが実質的に検出されなくてもよい。すなわち、単斜晶系の割合fが100%とすることができる。
【0054】
【数2】
【0055】
組成物のプレス成形体を800℃以上1000℃以下で焼成して仮焼体を作製した場合、プレス成形体から仮焼体への収縮率は、プレス成形体の一方向の寸法に対して1%以下であると好ましい。また、組成物のプレス成形体を1000℃より高く1200℃以下で焼成して仮焼体を作製した場合、プレス成形体から仮焼体への収縮率は、プレス成形体の一方向の寸法に対して5%以下であると好ましい。ただし、ここでいうプレス成形体は、ジルコニア粉末を300kg/cmの圧力でプレス成形した成型体に対して、1700kg/cmでさらにCIP処理を施したものである。
【0056】
組成物は、粉末の形態を有することができる。粉末は顆粒の集合体であってもよい。顆粒は、一次粒子及び/又は一次粒子が凝集した二次粒子が凝集したものである。
【0057】
顆粒は粒子の集合体(凝集体)である。組成物が顆粒の形態を採る場合に、粒子と顆粒との区別をつけるために、以下においては「粒子」及び「顆粒を構成する粒子」という表現を用いている。本開示の組成物は顆粒形態を有していなくてもよい。組成物が顆粒の形態を採らない場合には、「顆粒を構成する粒子」とは粉末における粒子のことを指す。「顆粒を構成する粒子」には、ジルコニア粒子及び安定化剤粒子が含まれる。
【0058】
本開示にいう「一次粒子」とは、最小単位の球状体の粒子のことをいう。例えば、一次粒子は、電子顕微鏡において、粒子同士結合しておらず、分離可能な状態に見える球状体のことをいう。本開示にいう「二次粒子」とは、電子顕微鏡において一次粒子のように見える粒子が凝集した状態の粒子のことをいう。二次粒子には、一次粒子が解砕可能に付着した凝集体、及び一次粒子同士が分離不可能に融着して1つの粒子となって見える凝集体も含まれる。二次粒子は、電子顕微鏡画像において、多くの場合、球状体になっておらず、いびつな形状を有している。
【0059】
顆粒を構成する粒子は、一次粒子が主体であると好ましい。例えば、電子顕微鏡画像の目視確認において、一次粒子の数は、二次粒子の数よりも多いと好ましい。例えば、電子顕微鏡画像の目視確認において、一次粒子(二次粒子を構成する一次粒子を含む)のうち、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の一次粒子が、二次粒子を構成しない粒子であると好ましい。二次粒子は通常不規則的な形状になるため、二次粒子が多くなると、後述の顆粒の円形度が低くなってしまう。
【0060】
顆粒を構成する粒子の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定方法により測定したとき、0.06μm以上であると好ましく、0.08μm以上であるとより好ましく、0.10μm以上であるとより好ましく、0.11μm以上であるとさらに好ましい。
0.06μm未満であると、焼結が困難であったり、焼結できたとしても焼結体が白濁したりしてしまう。また、当該平均粒径は、0.17μm以下であると好ましく、0.15μm以下であるとより好ましく、0.14μm以下であるとより好ましく、0.13μm以下であるとさらに好ましい。0.17μmを超えると、後述の変速温度が高くなって、焼成炉内の温度ムラの影響を受けやすくなってしまう。また、焼結のための焼成時間を短縮すると焼結体の透光性が低下してしまう。ここでいう平均粒径とは、一次粒子と二次粒子とを区別することなく測定される粒径である。
【0061】
粒子ないし顆粒が焼成工程を経ずに作成されている場合、粒子ないし顆粒から作製される焼結体の透光性をより高めるためには、顆粒を構成する粒子の平均粒径は、0.13μm未満であるとより好ましく、0.125μm以下であるとより好ましく、0.12μm以下であるとより好ましく、0.115μm以下であるとさらに好ましい。
【0062】
顆粒を構成する粒子のBET比表面積は、JISZ8830(2013)に準拠して測定したとき、7.0m/g以上であると好ましく、7.5m/g以上であるとより好ましく、8m/g以上であるとさらに好ましい。7.0m/g未満であると、焼結が困難であったり、焼結できたとしても焼結体が白濁したりしてしまう。また、当該BET比表面積は、30m/g以下であると好ましく、25m/g以下であるとより好ましく、20m/g以下であるとさらに好ましい。30m/gを超えると、後述の変速温度が高くなって、焼成炉内の温度ムラの影響を受けやすくなってしまう。また、焼結のための焼成時間を短縮すると焼結体の透光性が低下してしまう。ここでいうBET比表面積とは、一次粒子と二次粒子とを区別することなく測定される比表面積である。
【0063】
ジルコニア組成物におけるジルコニアのうち、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上のジルコニアが顆粒の形態を採ることができる。
【0064】
本開示のジルコニア組成物が顆粒の形態を採らない場合には、粉末を構成するジルコニア粒子が上述の平均粒径及びBET比表面積を有すればよい。
【0065】
ジルコニア組成物における顆粒の平均粒径は、10μm以上であると好ましく、12μm以上であるとより好ましく、14μm以上であるとさらに好ましい。顆粒の平均粒径が10μm未満であると、顆粒を金型に入れたときに空気を巻き込み、成形時に脱気が不十分となり、均一で緻密な成形体を作製できないおそれがある。また、成形時に隙間から顆粒が噴出し、所定の必要量を満たさない成形体を作製するおそれがある。顆粒の平均粒径は、200μm以下であると好ましく、190μm以下であるとより好ましく、180μm以下であるとより好ましく、150μm以下であるとより好ましく、100μm以下であるとさらに好ましい。顆粒の平均粒径が200μmを超えると、顆粒の内部に空洞が形成されやすくなってしまう。また、顆粒を金型へ入れたときに間隙が生じやすくなってしまう。これらの現象により、成形時に脱気が不十分となり、緻密な成形体を作製できないおそれがある。また、成形時に収縮が大きくなり、所望の大きさを有する成形体を作製できないおそれがある。ジルコニア組成物におけるジルコニアのうち、50%以上が顆粒を構成していると好ましい。顆粒の平均粒径は、顆粒が破壊されないような方法で測定すると好ましい。例えば、顆粒の平均粒径は、振動式・ロータップ式粒度分布測定方法、又は、音波振動篩い分け式粒度分布測定方法によって(例えば、株式会社セイシン企業製ロボットシフターを用いて)測定することができる。
【0066】
顆粒の球形度は高いと好ましい。顆粒の球形度を高めることによって、組成の異なるジルコニア粉末を積層したときに、層間の界面における混合を引き起こすことができる。また、ジルコニア粉末を型に充填して成形体を作製する場合に、平均粒径が同じであるとしても球形度が高いほうが充填密度を高めることができる。充填密度を高めることによって、焼結体の強度及び透光性を高めることができる。また、型が角部を有する場合であっても、角部への顆粒の充填性を高めることができる。
【0067】
顆粒の球形度は、例えば、投影像に基づく円形度、安息角、軽装かさ密度、重装かさ密度等で表すことができる。
【0068】
ジルコニア組成物における顆粒の投影像に基づく平均円形度は、0.81以上であると好ましく、0.85以上であるとより好ましく、0.90以上であるとより好ましく、0.95以上であるとさらに好ましい。円形度は、投影像における顆粒の周囲長に対する顆粒の面積と等しい円の周囲長の比として算出することができる。すなわち、円形度は以下の式から算出することができる。平均円形度は、1万個以上の顆粒の円形度の平均値とすると好ましい。
円形度=(顆粒の面積と等しい円の周囲長(円周))/顆粒の周囲長
【0069】
ジルコニア組成物の安息角は、35°以下であると好ましく、32°以下であるとより好ましく、28°以下であるとより好ましく、26°以下であるとより好ましく、24°以下であるとさらに好ましい。安息角は、JISR9301-2-2に準拠して測定することができる。
【0070】
ジルコニア組成物の軽装かさ密度は、1.0g/cm以上であると好ましく、1.1g/cm以上であるとより好ましく、1.2g/cm以上であるとより好ましく、1.3g/cm以上であるとさらに好ましい。軽装かさ密度は、JISR9301-2-3に準拠して測定することができる。
【0071】
ジルコニア組成物の重装かさ密度は、1.3g/cm以上であると好ましく、1.4g/cm以上であるとより好ましく、1.5g/cm以上であるとさらに好ましい。
重装かさ密度は、JISR9301-2-3に準拠して測定することができる。
【0072】
組成物は、ジルコニア及びイットリア以外の添加物を含有してもよい。添加物としては、例えば、顔料(着色剤及び蛍光剤含む)、バインダ、分散剤、消泡剤、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、シリカ(SiO)等が挙げられる。
【0073】
着色剤等の添加物としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErの群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物を挙げることができる。蛍光剤としては、例えば、YSiO:Ce、YSiO:Tb、(Y,Gd,Eu)BO、Y:Eu、YAG:Ce、ZnGa:Zn、BaMgAl1017:Eu等を挙げることができる。
【0074】
バインダとしては、有機バインダを使用することができる。例えば、アクリル系、アクリル酸系、パラフィン系、脂肪酸系、ポリビニルアルコール系を使用することができる。
【0075】
本開示の組成物は、乾燥した状態であってもよいし、液体を含む状態又は液体に含まれる状態であってもよい。例えば、組成物は、パウダー状、ペースト状、スラリー状等の形態を採ることができる。また、組成物は、所定の形状を有する成形体(以下「第1の成形体」という)であってもよい。
【0076】
第1の成形体の密度は、2.75g/cm以上であると好ましく、2.80g/cm以上であるとより好ましく、2.85g/cm以上であるとより好ましく、2.90g/cm以上であるとより好ましく、3.00g/cm以上であるとさらに好ましい。密度は、例えば、(第1の成形体の質量)/(第1の成形体の体積)として算出することができる。
【0077】
一般に、プレス成形体から焼結体までの収縮速度は、焼成温度に対して一定ではなく、ある温度までは収縮速度は低いが、当該温度で収縮速度が高くなる。この収縮速度が変化する温度を本書では「変速温度」と表記する。本開示の組成物によれば、変速温度を1050℃以上、好ましくは1100℃以上とすることができる。変速温度は、後述の実施例のように、最高焼成温度に対する収縮率のプロットを作成することによって決定することができる。
【0078】
1つのロットとして、1つの焼成炉で複数のプレス成形体を同時に焼成して、複数の仮焼体(ブロック体)を作製する場合、複数のプレス成形体間において、仮焼体までの収縮率のばらつきが小さいと好ましい。収縮率のばらつきが大きいと、その仮焼体を成形加工する際に、当該ロットに対して、同じ係数を適用して成型加工体の寸法を決定すると、目的とする寸法を有しない焼結体が得られてしまうからである。歯科用補綴物等の高度の寸法精度が要求される製品の場合には特に問題となる。したがって、1つのロットにおいて収縮率が許容範囲から外れたブロック体は製品として使用することができず、歩留まりが低下してしまう。
【0079】
本開示の組成物によれば、仮焼体ブロックを製造するための焼成温度(例えば、約1000℃)に対して、1つのロットにおける収縮率のばらつきを小さくすることができる。
通常、仮焼体を作製するための最高焼成温度(以下「仮焼温度」という)は、変速温度と近い。通常、仮焼温度において焼成炉内には20℃~50℃くらいの温度差(温度ムラ)が生じる。このため、変速温度が仮焼温度付近であると、組成物のロットは、この温度ムラの影響を強く受けることになる。すなわち、1つのロットにおいて、温度に低い箇所にあった仮焼体と温度の高い箇所にあった仮焼体とでは収縮率が大きく異なってしまうことになる。収縮率が許容範囲から外れた仮焼体は製品とすることができないので、歩留まりが低下してしまう。一方、本開示の組成物によれば、変速温度が高いので、変速温度と仮焼温度との差を小さくすることができる。このため、1つのロットにおいて、温度の低い箇所にあった仮焼体と温度の高い箇所にあった仮焼体との収縮率の差を小さくすることができる。これにより、収縮率が許容範囲から外れる仮焼体を少なくして、歩留まりを高めることができる。また、一度に焼成可能な製品数を増やすことができ、生産効率を高めることができる。さらに、本開示の組成物及び仮焼体によれば、1つのロット内のどのブロック体であっても高い寸法精度で最終製品(焼結体)を作製することができる。本開示の組成物及び仮焼体は、特に高度の寸法精度が要求される製品(例えば歯科用製品)の作製に有用である。
【0080】
本開示の組成物及び仮焼体はさらなる利点を有する。本開示の組成物及び仮焼体によれば、作製されるジルコニア焼結体の透光性及び強度を低下させることなく、焼結体を作製するための焼成時間を短縮することができる。特に、焼結体を作製するための最高焼成温度(以下「焼結温度」という)における保持時間を短縮することができる(短時間焼結)。これにより、生産効率を高めると共に、製造コストを低減させることができる。また、本開示の組成物及び仮焼体を歯科用製品に適用する場合に、治療に使用する歯科用製品の寸法を決定してから、当該歯科用製品で治療可能とするまでの時間を短縮することができ、患者の時間的負担を軽減することができる。
【0081】
第1実施形態に係る組成物は、上述の変速温度及び短時間焼結に関する利点のうち、すくなくとも一方の利点を有すればよい。第1実施形態に係る組成物は、変速温度及び短時間焼結に関する両利点を有すると好ましい。
【0082】
第2実施形態として本開示の組成物の製造方法について説明する。
【0083】
まず、ジルコニアと安定化剤とを所定の割合で混合して混合物を作製する(混合工程)。例えば、安定化剤がイットリアである場合、混合比率は、イットリアの上記含有率と同様とすることができる。混合は乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。組成物を上述の平均粒径及び/又はBET比表面積となるまで粉砕することができる(第1の粉砕工程)。混合工程と第1の粉砕工程とは同一の工程で行うことができる。粉砕は、例えば、水等の溶媒に組成物を分散させた後(分散工程)、ボールミルを用いて行うことができる。後述の焼成工程以降の工程を行わない場合には、変速温度の高温化及び/又は短時間焼結のため、組成物の平均粒径が、例えば、0.10μm~0.14μmとなるように、組成物を粉砕する。平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定方法によって測定することができる。混合工程及び/又は第1の粉砕工程後、スプレードライヤ等で混合物を噴霧乾燥で乾燥させて、組成物を上述のような顆粒形態に成形することができる(第1の乾燥工程)。これにより、本開示の組成物を作製することができる。
【0084】
後述の焼成工程以降の工程を行わない場合には、第1の粉砕工程において、組成物の平均粒径は0.13μm未満とすると好ましく、0.125μm以下とするとより好ましく、0.12μm以下とするとより好ましく、0.115μm以下にするとさらに好ましい。組成物の平均粒径を0.13μm未満とすることにより、焼結体の透光性を高めることができる。
【0085】
後述の焼成工程以降の工程を行わない場合には、後述の仮焼体及び焼結体を作製する工程の前に組成物を700℃以上で焼成する工程を含まないと好ましい。これにより、製造工程を簡略化すると共に、焼結前における安定化剤の固溶を抑制することができる。
【0086】
ジルコニアと安定化剤とは別個に準備すると好ましい。例えば、ジルコニアと安定化剤とは、同時に(同じ工程で)析出させるのではなく、ジルコニアの準備工程(例えば製造工程)と安定化剤の準備工程(例えば製造工程)とは、それぞれ独立した別個の工程であると好ましい。これにより、後述の仮焼体の製造工程において安定化剤がジルコニアに固溶することを抑制することができる。
【0087】
以下の工程は、組成物の利用目的に応じて任意に実施することができる。例えば、上述の工程のいずれかの工程後、混合物及び/又は組成物を焼成することができる(焼成(か焼)工程)。焼成条件は、上述のように、焼成後冷却したときのジルコニアの主たる結晶系が正方晶及び立方晶とならないような条件であると好ましい。また、焼成条件は、少なくとも一部の安定化剤がジルコニアに固溶しないような条件であると好ましい。例えば、焼成温度は700℃以上であると好ましく、800℃以上であるとより好ましい。また、焼成温度は、1100℃以下であると好ましく、1000℃以下であるとより好ましく、980℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましい。焼成は大気下で行うことができる。焼成工程を行うことにより、安定化剤の一部をジルコニアに固溶させたり、焼結工程において安定化剤を固溶させやすくしたり、焼結体の性状を改善したりすることができると考えられる。
【0088】
上述の工程のいずれかの工程後、組成物を水等の溶媒に分散させてスラリーを作製して、バインダ、顔料等の添加物を組成物に添加することができる(添加工程)。組成物を上述の平均粒径及び/又はBET比表面積となるまで粉砕することができる(第2の粉砕工程)。添加工程と第2の粉砕工程とは同一の工程で行うことができる。第2の粉砕工程は、第1の粉砕工程と同様にして行うことができる。添加工程及び/又は第2の粉砕工程後、スプレードライヤ等で混合物を噴霧乾燥で乾燥させて、組成物を上述のような顆粒形態に成形することができる(第2の乾燥工程)。
【0089】
組成物は成形して第1の成形体とすることができる(第1の成形工程)。成形方法は特定の方法に限定されず、目的に応じて適宜好適な方法を選択することができる。例えば、組成物は、プレス成形、射出成形、光造形法等によって成形することができる。また、多段階的な成形を行ってもよい。例えば、組成物をプレス成形した後に、さらにCIP処理を施したものでもよい。
【0090】
上述の添加物は、各工程において適宜添加することができる。
【0091】
第2実施形態に係る組成物の製造方法によれば、第1実施形態に係る組成物を作製することができる。すなわち、第2実施形態に係る組成物の製造方法によれば、上述の変速温度が高く、及び/又は焼結のための焼成時間を短縮できる組成物を作製することができる。
【0092】
イットアリアが固溶したジルコニア粉末は、一般的には、共沈法及び加水分解法から作製されている。共沈法及び加水分解法においては、オキシ塩化ジルコニウム及び塩化イットリウムから水和ジルコニアとイットリアの混合物が同じ工程で作製され、この混合物を800℃~900℃で焼成することによってイットリア(イットリウム)が固溶した安定化ジルコニア粉末が作製されている。このイットリア固溶ジルコニアは主として正方晶及び/又は立方晶である。これにより得られるジルコニア粉末の粒径は、数十nmレベルの大きさである。このジルコニア粉末をジルコニア焼結体の原料にするためには、焼成物を所定の粒径まで粉砕した後、造粒して組成物が作製される。
【0093】
このような共沈法又は加水分解法から作製した組成物では、仮焼体作製温度領域における収縮率の温度依存性が高くなってしまう。また、短い焼成時間では焼結体の十分な透光性を得ることができない。
【0094】
本開示の製造方法においては、ジルコニア(単斜晶)を作製した後に、別途安定化剤(イットリア)を混合し、基本的には焼結工程において安定化剤をジルコニアに固溶させる。これにより、仮焼体作製温度領域における収縮率の温度依存性を低くすることができる。また、短時間焼結でも透光性の高い焼結体を得ることができる。
【0095】
また、本開示の製造方法において、焼成工程、第2の粉砕工程及び第2の乾燥工程を行わない場合には、大幅な時間短縮により、組成物の製造コストを削減することができる。
また、第2の粉砕工程及び第2の乾燥工程を行っていた設備及び時間を第1の粉砕工程及び第1の乾燥工程に転用することによって、時間当たりの製造量を倍増させることができる。さらに、第2の粉砕工程及び第2の乾燥工程の省略によって組成物にゴミ等の不純物が混入する機会を削減することができる。
【0096】
第3実施形態として、本開示のジルコニア仮焼体について説明する。仮焼体は、ジルコニア焼結体の前駆体(中間製品)となり得るものである。本開示において、仮焼体とは、例えば、ジルコニア粒子(粉末)が完全には焼結していない状態でブロック化したものをいうことができる。特に、本開示の仮焼体は、本開示の組成物から作製されたものをいう。仮焼体の密度は2.7g/cm以上であると好ましい。また、仮焼体の密度は4.0g/cm以下であると好ましく、3.8g/cm以下であるとより好ましく、3.6g/cm以下であるとさらに好ましい。この密度範囲にあると成形加工を容易に行うことができる。
【0097】
仮焼体におけるジルコニア及び安定化剤の含有比率は、仮焼体作製前の組成物における含有比率と同様である。本開示の仮焼体から作製した焼結体の強度及び透光性の観点から、安定化剤はイットリアであると好ましい。
【0098】
仮焼体における安定化剤の未固溶割合は、仮焼体作製時の焼成温度に依存するが、仮焼体作製前の組成物における未固溶割合以下であると考えられる。仮焼体において未固溶イットリアの存在率fは、上記数1に基づいて算出することができる。仮焼体における未固溶イットリアの存在率fは、上述の組成物のfと同様とすることができる。
【0099】
仮焼体において、未固溶イットリアの存在率fは、0%より大きいと好ましく、1%以上であるとより好ましく、2%以上であるとより好ましく、3%以上であるとさらに好ましい。未固溶イットリアの存在率fの上限は、仮焼体におけるイットリアの含有率に依存する。イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計molに対して7.5mol%以下であるとき、fは15%以下とすることができる。例えば、イットリアの含有率が3.5mol%~4.5mol%であるとき、fは7%以下とすることができる。イットリアの含有率が5mol%~6mol%であるとき、fは10%以下とすることができる。イットリアの含有率が5.5mol%~6.5mol%であるとき、fは11%以下とすることができる。
【0100】
仮焼体において、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fが2%以上であると好ましく、3%以上であるとより好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fが3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であるとき、fが4%以上であると好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとより好ましく、8%以上であるとさらに好ましい。
【0101】
仮焼体におけるジルコニアの結晶系は、仮焼体作製時の焼成温度に依存するが、単斜晶の含有割合は、仮焼体作製前の組成物における単斜晶の含有割合以下であると考えられる。ジルコニア中の単斜晶系の割合fは、単斜晶系、正方晶系及び立方晶系の総量に対して60%以上であると好ましく、70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとより好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとさらに好ましい。
【0102】
JISR1601に準拠して測定した仮焼体の曲げ強度は、機械的加工を可能にする強度を確保するために、15MPa以上であると好ましい。また、仮焼体の曲げ強度は、機械的加工を容易にするために、70MPa以下であると好ましく、60MPa以下であるとより好ましい。
【0103】
曲げ強度は、ISO6872に準拠して測定することもできる。
【0104】
ただし、JISR1601又はISO6872の規定とは試験片の大きさを変えて、試験片の大きさは5mm×10mm×50mmとする。試験片の面及びC面は、600番のサンドペーパーで長手方向に面仕上げする。試験片は、最も広い面が鉛直方向(荷重方向)を向くように配置する。曲げ試験測定において、スパンは30mm、クロスヘッドスピードは0.5mm/分とする。
【0105】
仮焼体は、上述の添加物を含有することができる。
【0106】
仮焼体は、所定の形状を有する成形体(以下「第2の成形体」という)であってもよい。例えば、仮焼体は、ディスク(円板)形状、直方体形状、歯科製品形状(例えば歯冠形状)を有することができる。仮焼したジルコニアディスクをCAD/CAM(Computer-Aided Design/Computer-Aided Manufacturing)システムで加工した歯科用製品(例えば歯冠形状の補綴物)も仮焼体に含まれる。
【0107】
第3実施形態に係る仮焼体は、組成物からの収縮率変動が小さく作製されている。これにより、第3実施形態に係る仮焼体によれば、仮焼体から焼結体への収縮率を同等にすることができ、寸法精度の高い焼結体を製造することができる。
【0108】
第3実施形態に係る仮焼体によれば、上述のように、短時間の焼成でも透光性の高い焼結体を作製することができる。したがって、第3実施形態に係る仮焼体は、上述の短時間焼結に関する利点を有する。
【0109】
本開示の仮焼体を1550℃で30分間焼成して作製した焼結体を第1の焼結体とする。本開示の仮焼体を1550℃で120分間焼成して作製した焼結体を第2の焼結体とする。第1の焼結体と第2の焼結体の透光性(後述参照)を比較したとき、第1の焼結体の透光性は、第2の焼結体の透光性の85%以上であると好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとより好ましく、実質的に同等であるとさらに好ましい。
【0110】
第3実施形態に係る仮焼体は、上述の寸法精度及び短時間焼結に関する利点のうちの少なくとも1つを有し、好ましくは両利点を有する。
【0111】
次に、第4実施形態として、本開示の仮焼体の製造方法について説明する。
【0112】
本開示の仮焼体は、上記第1の成形工程で作製した第1の成形体を、ジルコニア粒子が焼結に至らない温度で焼成(即ち仮焼)して作製することができる(仮焼工程)。焼成温度は、ブロック化を確実にするため、例えば、800℃以上であると好ましく、900℃以上であるとより好ましく、950℃以上であるとさらに好ましい。また、焼成温度は、寸法精度を高めるため、例えば、1200℃以下であると好ましく、1150℃以下であるとより好ましく、1100℃以下であるとさらに好ましい。
【0113】
このような焼成温度であれば、安定化剤の固溶は進行しないと考えられる。
【0114】
仮焼体は成形して第2の成形体を作製することができる(第2の成形工程)。成形方法は特定の方法に限定されず、目的に応じて適宜好適な方法を選択することができる。例えば、仮焼体でもあるジルコニアディスクをCAD/CAMシステムで歯科用製品(例えば歯冠形状の補綴物)の形状に切削加工して第2の成形体を作製することができる。
【0115】
第4実施形態に係る仮焼体の製造方法によれば、第3実施形態に係る仮焼体を作製することができる。第4実施形態によれば、収縮率変動の小さい仮焼体を作製することができ、及び/又は短時間焼結可能な仮焼体を作製することができる。
【0116】
第5実施形態として、本開示の焼結体について説明する。本開示において、焼結体とは、例えば、ジルコニア粒子(粉末)が焼結状態に至ったものということができる。特に、本開示の焼結体は、本開示の組成物及び/又は仮焼体から作製されたものをいう。焼結体の相対密度は99.5%以上であると好ましい。相対密度は、理論密度に対する、アルキメデス法で測定した実測密度の割合として算出することができる。
【0117】
本開示のジルコニア焼結体には、成形したジルコニア粒子を常圧下ないし非加圧下において焼結させた焼結体のみならず、HIP(Hot Isostatic Pressing;熱間静水等方圧プレス)処理等の高温加圧処理によって緻密化させた焼結体も含まれる。
【0118】
焼結体におけるジルコニア及び安定化剤の含有比率は、焼結体作製前の組成物及び/又は仮焼体における含有比率と同様である。焼結体におけるジルコニアの結晶系については、単斜晶系の割合fは、10%以下であると好ましく、5%以下であるとより好ましく、実質的には含有されていない(0%)とさらに好ましい。単斜晶系以外の結晶系は、正方晶及び/又は立方晶である。
【0119】
焼結体における安定化剤の固溶割合については、含有されている安定化剤の95%以上がジルコニアに固溶されていると好ましく、実質的には全安定化剤が固溶されているとより好ましい。未固溶イットリアの存在率fは、5%以下であると好ましく、1%以下であるとより好ましく、実質的にはすべて固溶されている(0%)とさらに好ましい。
【0120】
焼結体の透光性は、12以上であると好ましく、14以上であるとより好ましく、15以上であるとより好ましく、16以上であるとさらに好ましい。ここでいう透光性とは、L表色系(JISZ8781)における明度(色空間)のL値について、厚さ1.2mmの試料の背景を白色にして測定したL値を第1のL値とし、第1のL値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL値を第2のL値とし、第1のL値から第2のL値を控除した値である。試料の作製方法については、まず、焼結体の厚さが1.2mmとなるように、顆粒(組成物)をプレス成形、続くCIP成形にて、例えば直径19mmの円板状の成形体を作製することができる。次に、成形体を所定の焼成条件で焼成して、試料となる厚さ1.2mmの焼結体を作製することができる。L値の測定については、試料の表面に接触液を塗布した後、色差計(例えば、CE100、解析ソフトクリスタルアイ(オリンパス社製))を用いて、黒色背景及び白色背景のL値を測定することができる。接触液としては、例えば、測定波長589nm(ナトリウムD線)で測定した屈折率nDが1.60のものを使用することができる。
【0121】
焼結体は、上述の添加物を含有することができる。
【0122】
焼結体は、所定の形状を有する成形体(以下「第3の成形体」という)であってもよい。例えば、焼結体は、ディスク(円板)形状、直方体形状、歯科製品形状(例えば歯冠形状)を有することができる。
【0123】
次に、第6実施形態として、本開示の焼結体の製造方法について説明する。
【0124】
本開示の焼結体は、本開示の組成物(第1の成形体含む)及び/又は仮焼体(第2の成形体含む)を、ジルコニア粒子が焼結に至る温度で焼成して作製することができる(焼結工程)。焼成温度は、例えば、1400℃以上であると好ましく、1450℃以上であるとより好ましい。また、焼成温度は、例えば、1650℃以下であると好ましく、1600℃以下であるとより好ましい。昇温速度及び降温速度は300℃/分以下であると好ましい。
【0125】
焼結工程において、焼結可能温度(例えば、最高焼成温度)における保持時間は、120分未満であると好ましく、90分以下であるとより好ましく、75分以下であるとより好ましく、60分以下であるとより好ましく、45分以下であるとより好ましく、30分以下であるとさらに好ましい。当該保持時間は1分以上であると好ましく、5分以上であるとより好ましく、10分以上であるとより好ましい。本開示の製造方法によれば、このような焼成時間であっても、作製される焼結体の透光性の低下を抑制することができる。
また、焼成時間を短縮することにより、生産効率を高めると共に、エネルギーコストを低減させることができる。
【0126】
焼結工程において、焼結可能温度(例えば、最高焼成温度)における保持時間は、例えば、25分以下、20分以下又は15分以下とすることもできる。
【0127】
焼結工程における昇温速度及び降温速度は、焼結工程に要する時間が短くなるように設定すると好ましい。例えば、昇温速度は、焼成炉の性能に応じて最短時間で最高焼成温度に到達するように設定することができる。最高温度までの昇温速度は、例えば、10℃/分以上、50℃/分以上、100℃/分以上、120℃/分以上、150℃/分以上、又は200℃/分以上とすることができる。降温速度は、焼結体にクラック等の欠陥が生じないような速度を設定すると好ましい。例えば、加熱終了後、焼結体を室温で放冷することができる。
【0128】
本開示の製造方法においては、安定化剤(例えばイットリア)は、焼結工程においてジルコニアに固溶されると考えられる。
【0129】
焼結体は成形して第3の成形体を作製することができる(第3の成形工程)。成形方法は特定の方法に限定されず、目的に応じて適宜好適な方法を選択することができる。例えば、焼結体でもあるジルコニアブロックをCAD/CAMシステムで歯科用製品(例えば歯冠形状の補綴物)の形状に切削加工して第3の成形体を作製することができる。
【0130】
第7実施形態として、本開示の歯科用製品について説明する。本開示の歯科用製品は、第5実施形態に係るジルコニア焼結体を備える。ジルコニア焼結体は、例えば、歯冠形状を有することができる。歯科用製品は、ジルコニア焼結体上に積層された陶材をさらに含むことができる。陶材は、例えばガラス材料等のセラミックスとすることができる。歯科用製品としては、例えば、補綴物(例えば、セラミックフレーム、フルカントゥアークラウン)、歯列矯正用製品(例えば、歯列矯正用ブラケット)、歯科インプラント用製品(例えば、歯科インプラント用アバットメント)が挙げられる。
【0131】
次に、第8実施形態として、本開示の歯科用製品の製造方法について説明する。歯科用製品は、所定の形状を有する本開示の組成物(第1の成形体含む)及び/又は仮焼体(第2の成形体含む)を焼結させて作製することができる。また、歯科用製品は、本開示の焼結体を切削加工して作製することができる(第3の成形体含む)。
【0132】
陶材を有する歯科用製品は、例えば、焼結体の上に、陶材を含有するスラリーを塗布する工程、及び陶材を塗布した焼結体を焼成して焼結体上に陶材を焼き付ける工程によって作製することができる。
【0133】
第5~8実施形態によれば、寸法精度の高い焼結体及び歯科用製品を得ることができ、及び/又は透光性の高い焼結体及び歯科用製品を短時間で作製することができる。
【0134】
組成物、仮焼体、焼結体及び積層体についての本書に記載以外の構成及び特性については本願出願時において分析等によって直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないと考えられる。このため、本書に記載以外の構成又は特性について特定する場合には製造方法による特定が有用であると考えらえる。
【0135】
以下に、本開示の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0136】
[実施例1~4及び比較例1~3]
[組成物の作製及びXRD測定]
本開示のジルコニア組成物を作製し、ジルコニアの結晶系及び安定化剤がジルコニアに固溶されていない程度を確認した。結果を表1に示す。
【0137】
安定化剤としてイットリアを用いた。実施例1~3においては、それぞれイットリアの添加率を変更した。実施例4においては、単斜晶の割合を変更した。表1に示すイットリア添加率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対するイットリアの割合である。表1に示す工程は、以下に説明する各工程で得られた組成物であることを示す。未固溶イットリアの存在率を示すfは、上記数1を基に算出した。ジルコニアにおける単斜晶の割合を示すfは上記数2を基に算出した。
【0138】
表1に示す実施例1~3に係る組成物の製造方法について説明する。まず、単斜晶の酸化ジルコニウムとイットリアとを合わせて混合物を作製した(混合工程)。この酸化ジルコニウムとイットリアはそれぞれ独立した工程で作製したものである。次に、この混合物を水に添加してスラリーを作製し、平均粒径0.13μmまでボールミルで湿式粉砕混合した(一次粉砕工程)。この粉砕後の混合物を、表1に示す「一次粉砕」工程の組成物とする。次に、粉砕後のスラリーをスプレードライヤで乾燥させた粉末を950℃で2時間焼成した(焼成工程)。次に、焼成後の粉末を水に添加してスラリーを作製し、平均粒径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕した(二次粉砕工程)。粉砕後のスラリーにバインダを添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、組成物を作製した。この乾燥後の組成物を、表1に示す「二次粉砕」工程の組成物とする。
【0139】
また、比較例として、市販の部分安定化ジルコニア粉末についてもf及びfを算出した。比較例1のジルコニアは、東ソー社製TZ-3YSB-Eである。比較例2のジルコニアは、東ソー社製Zpexである。比較例3のジルコニアは、東ソー社製Zpex Smileである。
【0140】
実施例4に係る組成物は、上記混合工程において、単斜晶の酸化ジルコニウム及びイットリアに加えて、比較例1に係る組成物を添加して、組成物における単斜晶の割合が実施例1~3よりも低下するようにした。
【0141】
比較例1~3における市販品のジルコニア粉末においては、ジルコニアの結晶系は基本的には正方晶及び立方晶であり、単斜晶は多くても約50%であった。また、比較例1~3の粉末においては、イットリアのXRDピークは確認されなかった。したがって、イットリアはすべてジルコニアに固溶されていると考えられる。
【0142】
一方、実施例1~3においては、焼成工程によって一部正方晶及び立方晶化が進行したが、90%以上、より多くは95%以上が単斜晶であった。実施例4においては、正方晶の部分安定化ジルコニアを添加したため、約80%が単斜晶であった。また、実施例1~4においては、いずれもイットリアのXRDピークが観測された。イットリア添加率の低い実施例1では、fは2.5以上6以下であった。また、イットリア添加率の高い実施例2~4においては、fは4以上10以下であった。一次粉砕工程から二次粉砕工程へfが低下しているが、混合工程直後及び焼成工程直後のfと対比すると、これは粉砕によって粒径や粒子の形状が変化したため、イットリアのジルコニアに対する相対的ピークが低下したものと考えられる。ただし固溶によるfの低下の可能性を否定するものではない。
【0143】
【表1】
【0144】
[実施例5~7及び比較例4]
[仮焼体の作製、収縮率の測定、及びXRDパターンの測定]
実施例1-2、3-2及び4並びに比較例2の各組成物を用いて仮焼体ブロックを作製し、各仮焼体の寸法変化のばらつきを測定した。まず、各組成物を300kg/cmの圧力でプレス成形した。次に、プレス成形体に対して1700kg/cmでさらにCIP処理を施して、上述にいう第1の成形体を作製した。第1の成形体を焼成して仮焼体を作製した。第1の成形体の焼成は、1000℃、1050℃、及び1100℃の3つの設定温度でそれぞれ行った。各焼成においては、同一寸法を有する第1の成形体を9つ作製し、電気炉内を上下3段に分け、各段に第1の成形体を3つずつ配置した。作製した各仮焼体について円板の直径を測定した。1回の焼成で作製した9つの仮焼体のうち、最も直径の大きい仮焼体と最も直径の小さい仮焼体の測定直径(最大直径及び最小直径)、及び最大直径と最小直径の差を表2~4に示す。また、9つの仮焼体のうちで、目標直径±0.15mmにあるものを合格と判定した。目標直径は、組成物及び焼成温度に応じて各実施例及び比較例毎に個別に設定した。例えば、実施例5-2においては目標直径を98.20mmに設定した。実施例5~7及び比較例4における合格品の数(合格率)も表2~4に示す。
【0145】
表2は、電気炉の設定温度1000℃としたときの結果を示す。設定温度1000℃に達したときの炉内の最低温度は975℃であり、最高温度は1025℃であった。実施例5-1~7-1においては、比較例4-1よりも最大寸法と最小寸法の差を小さくすることができた。すなわち、焼成炉内に温度ムラが存在しても、同一機会に焼成した仮焼体の収縮率のばらつきを低減することができた。また、実施例5-1~7-1においては、すべの仮焼体の収縮率を許容範囲内に収めることができたが、比較例4-1においては3分の1の仮焼体が許容範囲から外れてしまった。
【0146】
表3は、電気炉の設定温度1050℃としたときの結果を示す。設定温度1050℃に達したときの炉内の最低温度は1040℃であり、最高温度は1060℃であった。設定温度1050℃のときにおいても、実施例5-2及び6-2においては、比較例4-2よりも収縮率のばらつきを低減することができた。また、実施例5-2及び6-2においては、すべの仮焼体の収縮率を許容範囲内に収めることができたが、比較例4-2においては3分の1の仮焼体が許容範囲から外れてしまった。実施例7-2においては、1つの仮焼体が許容範囲から外れてしまったが、比較例4-2よりはよい結果を得ることができた。
【0147】
表4は、電気炉の設定温度1100℃としたときの結果を示す。設定温度1100℃に達したときの炉内の最低温度は1090℃であり、最高温度は1100℃であった。設定温度1100℃のときにおいても、実施例5-3及び6-3においては、比較例4-3よりも収縮率のばらつきを低減することができた。また、実施例5-3及び7-3においては一部許容範囲から外れたものが生じたが、比較例4-3よりも合格率を高めることができている。
【0148】
各仮焼体の密度を測定したところ、平均値は3.1g/cmであった。
【0149】
実施例5-2、実施例6-2及び比較例4-2において作製した仮焼体について、CuKα線を用いてXRDパターンを測定した。図1に、実施例5-2で作製した仮焼体のXRDパターンを示す。図2に、実施例6-2で作製した仮焼体のXRDパターンを示す。
図3に、比較例4-2で作製した仮焼体のXRDパターンを示す。
【0150】
図3を見ると、比較例4-2における仮焼体においては、単斜晶のジルコニアのピークは確認されなかった。また、イットリアのピークも確認されなかった。一方、図1及び図2を見ると、実施例5-2及び6-2における仮焼体においては、単斜晶、正方晶及び立方晶のジルコニアのピークが確認され、単斜晶のピークのほうが高強度であった。また、いずれの仮焼体においても、2θが29.4°付近にイットリアのピーク(図1においてはピーク番号6、図2においてはピーク番号5)も確認され、仮焼体において一部のイットリアはジルコニアに固溶していないと考えられる。
【0151】
【表2】
【0152】
【表3】
【0153】
【表4】
【0154】
[実施例8~11及び比較例5~8]
[焼成温度に対する収縮率変化の測定]
焼成温度が異なる条件で仮焼体を作製し、各仮焼体における収縮率を測定した。実施例8においては、実施例1-1の組成物をそのまま原料として用いた。実施例9においては、実施例1-1の組成物に、イットリアの総含有率が6mol%となるように、イットリアを添加して混合したものを原料として用いた。すなわち、実施例1-1の組成物における未固溶のイットリアを増加させた。実施例10においては、実施例3-1の組成物をそのまま原料として用いた。実施例11においては、実施例3-1の組成物に、イットリアの含有率が4mol%となるように、イットリアを含有しないジルコニアを添加して混合したものを原料として用いた。比較例5においては、比較例1の組成物をそのまま原料として用いた。比較例6においては、比較例2の組成物をそのまま原料として用いた。比較例7においては、比較例1の組成物に、イットリアの総含有率が6mol%となるように、イットリアを添加して混合し、一次粉砕工程を施したものを原料として用いた。比較例8においては、比較例1の組成物に、イットリアの総含有率が6mol%となるように、イットリアを添加し、上述の混合工程から二次粉砕工程まで行った粉末を原料として用いた。
【0155】
まず、実施例1~3と同様にして、第1の成形体を作製した。第1の成形体を950℃~1200℃の範囲で50℃毎に最高焼成温度を変化させて仮焼体を作製し、各仮焼体における収縮率を測定した。各実施例においては、試料は3つずつ作製し、焼成炉内の温度ムラの影響が出ないように、焼成炉内の同じ位置に置いた。第1の成形体の寸法は上述の実施例5~7と同じにした。収縮率は、以下の式より算出し、3つの試料の平均値として求めた。結果を表5に示す。また、表5に示す結果を基にして、焼成温度に対する収縮率をプロットしたグラフを図4に示す。
収縮率(%)={(第1の成形体の直径)-(仮焼体の直径)}/(第1の成形体の直径)×100
【0156】
実施例8~11で作製された仮焼体のXRDパターンを測定したところ、ジルコニアの主たる結晶系は単斜晶であった。また、イットリアのピークが確認された。
【0157】
図4のグラフを見ると、比較例5~8においては、焼成温度1000℃付近から収縮速度が高くなっている。すなわち、変速温度は約1000℃とみることができる。一方、実施例8~11においては、焼成温度1100℃付近から収縮率が高くなっている。すなわち、変速温度は約1100℃とみることができる。このため、比較例4に示すように、比較例に係る組成物は、1000℃~1100℃の範囲においては焼成温度に応じて収縮率が大きく異なる(収縮速度が高い)ため、焼成炉内の温度ムラによって収縮量が異なる仮焼体が作製されてしまう。一方、本開示の組成物によれば、実施例5~7に示すように、1000℃~1100℃の範囲において収縮率はほぼ同じである(収縮速度は低い)。このため、焼成炉内に温度ムラが生じたとしても、収縮量が均一な仮焼体を作製することができる。
【0158】
比較例5~8の組成物におけるジルコニアの結晶系は正方晶及び立方晶であり、単斜晶は実質的には検出することができていない。比較例5及び6においては、組成物中に未固溶のイットリアは存在していない。比較例7及び8においては、組成物中に未固溶のイットリアが存在するように、イットリアを添加した。一方、実施例8~11の組成物においては、ジルコニアの結晶系は主として単斜晶であり、未固溶のイットリアが存在する。これより、単斜晶を主とする組成物から仮焼体を作製すると、変速温度を高めることができると考えられる。
【0159】
【表5】
【0160】
[実施例12及び比較例9]
[焼成時間に対する透光性の測定]
本開示の組成物(仮焼体)を用いて焼結体を作製し、最高温度における保持時間と透光性との関係を調べた。実施例12においては実施例3-2の組成物を用いた。まず、厚さ1.2mmの焼結体が得られるように成形体を作製し、成形体を1000℃で2時間焼成して仮焼体を作製した。次に、最高温度を1550℃に設定して、120分間試料(仮焼体)を焼成して焼結体を作製した。そして、その焼結体の透光性を測定した。次に、同じ方法で作製した試料について、最高焼成温度1450℃、1500℃、1550℃及び1600℃で最高温度での保持時間を30分として焼結体を作製し、各焼結体について透光性を測定した。昇温速度も降温速度も30分焼成と120分焼成で同じである。最高温度で120分間焼成した焼結体の透光性に対する、最高温度で30分間焼成した焼結体の透光性の変化を変化率として算出した。比較例として、比較例3の組成物を用いて同じ試験を実施した。表6に、結果を示す。表6に示す変化率を基に作成したグラフを図5に示す。
【0161】
透光性は、色差計CE100、解析ソフトクリスタルアイ(オリンパス社製)を用いて測定した、L表色系(JISZ8781)における明度(色空間)のL値を用いて算出した。試料の背景を白色にして測定したL値を第1のL値とし、第1のL値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL値を第2のL値とし、第1のL値から第2のL値を控除した値を透光性を示す数値とした。試料の測定面には、屈折率nDが1.60の接触液を塗布した。
【0162】
通常、焼成温度を高めると焼結体の透光性を高めることができる。しかしながら、比較例9においては、最高温度での保持時間が30分の焼成では、焼成温度を高めても透明性を高めることができず、120分焼成における透光性の約80%であった。一方、実施例12においては、30分焼成においても120分焼成と同等の透光性を確保することができた。最高焼成温度1450℃においても120分焼成の85%以上とすることができ、最高焼成温度1500℃以上においては120℃焼成の95%以上、ほぼ100%とすることができた。これより、本開示の組成物によれば、焼成時間を短縮することができる。
これにより、焼結体の生産効率を高めることができると共に、エネルギーコストを低減させることができる。また、本開示の組成物及び仮焼体を用いて歯科用補綴物を作製する場合には、患者に対する時間的負担を軽減させることができる。
【0163】
比較例9で用いた組成物の結晶系は正方晶及び立方晶であり、単斜晶は実質的には検出することができていない。イットリアはすべてジルコニアに固溶されていると考えられる。比較例9で用いた比較例3の組成物は顆粒状態となっており、平均粒径を測定することはできなかったが、比較例10から推察すると0.7μm以上であると考えられる。一方、実施例12で用いた実施例3-2の組成物においては、ジルコニアの結晶系は主として単斜晶であり、未固溶のイットリアが存在する。平均粒径は0.13μmであった。これらの差異の少なくともいずれかが短時間焼結の可否に影響しているものと考えられる。
【0164】
実施例12において作製した焼結体のXRDパターンにおいて、ジルコニアの単斜晶ピークは検出されなかった。また、イットリアのピークも検出されなかった。これより、焼結のための焼成によって、イットリアがジルコニアに固溶すると共に、ジルコニアは単斜晶から立方晶へ相転移したものと考えられる。
【0165】
【表6】
【0166】
[実施例13~14及び比較例10~12]
[未固溶イットリア及び粒径による影響について]
比較例1の組成物に未固溶のイットリアが存在すると共に、粒径を小さくした場合の挙動について試験した。実施例13及び14の組成物は、実施例3-1及び3-2と同じである。比較例10の組成物は、比較例1と同じであるが、顆粒を解砕する程度に一次粉砕工程を行った。比較例11の組成物は、比較例1の組成物に、イットリアの含有率が6mol%となるようにイットリアを添加したのち、実施例3と組成物と同程度の粒径になるまで、上述の一次粉砕工程を行ったものである。比較例12の組成物は、比較例11の組成物に、さらに、上述の焼成工程及び二次粉砕工程を行ったものである。表7及び表8に、結果を示す。BET比表面積はJISZ8830(2013)に準拠して測定した。平均粒径は、顆粒にする前の状態の粉末について、レーザー回折/散乱式粒度分布測定方法を用いて測定した。「1100℃収縮率」及び「1150℃収縮率」は、上述の実施例8~11と同様にして測定した。「透光性可否」は、実施例12と同様にして、最高焼成温度1550℃で30分間保持して仮焼体から焼結体を作製し、その焼結体の透光性が高いか否かを目視で判定した。A判定は、最高温度保持時間2時間の焼結体と同等の透光性を有していることを示し、B判定は、最高温度保持時間2時間の焼結体よりも低い透光性を有していることを示す。
【0167】
比較例10、すなわち比較例1の組成物の平均粒径は0.67μmと本開示の組成物よりも大きな粒径を有する。また、仮焼時における収縮率は、比較例5に示すように高くなってしまっている。比較例11においては、比較例1の組成物に未固溶のイットリアが存在していることになる。また、比較例11の組成物の平均粒径は実施例13及び14と同程度になった。しかしながら、収縮率はいずれも高く、焼成炉の温度ムラの影響を受けやすい組成物となっている。また、短時間の焼成による焼結では十分な透光性を得ることはできなかった。比較例12においては、別途添加したイットリアは、焼成工程によってジルコニアに固溶してしまったものと考えられる。また、焼成工程によって単斜晶から正方晶及び立方晶への相転移が進行した。しかしながら、比較例11は、比較例12と同様の結果となってしまった。
【0168】
実施例13及び14の組成物のBET比表面積は9m/g~10m/gであった。
平均粒径は、0.11μm~0.13μmであった。実施例13及び14の収縮率は、実施例8~11に示すように、低い値となっている。また、短時間の焼成による焼結でも十分な透光性を得ることができた。これより、組成物におけるジルコニアの主たる結晶系は単斜晶である必要があると考えられる。また、fもある程度高いほうが好ましい可能性がある。
【0169】
【表7】
【0170】
【表8】
【0171】
[実施例15~21及び比較例13~16]
[粒径及びBET比表面積による影響について]
平均粒径が異なる組成物を作製し、各組成物について上述の各試験を行った。組成物のイットリア含有率は6mol%とした。実施例15~21及び比較例15~16の組成物は加水分解法により作製した。比較例13の組成物は水熱合成法により作製した。比較例14の組成物はプラズマ溶融法により作製した。実施例15~21及び比較例15~16の組成物の平均粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定方法を用いて測定した。比較例13及び14の組成物の平均粒径は、各粒子が真球であると仮定してBET比表面積から算出した。実施例15~21及び比較例13~16の組成物のBET比表面積はJISZ8830(2013)に準拠して測定した。表8に結果を示す。「焼結可否」とは、1550℃の焼成で焼結可能か否かを試験した結果である。A判定は焼結可能であることを示し、B判定は、生成物が白濁していることを示し、C判定は、焼結できなかったことを示す。「収縮試験合格率」は、実施例5~7で示した合格率と同じであり、1100℃で仮焼体を作製したときの合格率である。「透光性変化率」は、実施例12で示した変化率を同じであり、最高焼成温度1550℃で焼結体を作製したときの変化率である。
【0172】
平均粒径0.08μm~0.15μm、BET比表面積7m/g~28m/gの実施例15~21においてはいずれも良好な結果が得られた。特に、実施例16~20において良好な結果が得られた。一方、比較例13及び14においては、平均粒径が小さすぎたために、十分に焼結できなかったと考えられる。これより、平均粒径は0.05μmよりも大きいと好ましく、0.08μm以上であるとより好ましく、0.10μm以上であるとさらに好ましいと考えられる。BET比表面積は、30m/g以下であると好ましく、20m/g以下であるとより好ましいと考えられる。また、比較例15及び16においては、収縮試験合格率及び透光性変化率がともに低くなってしまった。特に、実施例21、比較例15及び比較例16と比較すると、平均粒径が大きくなるにつれて(BET比表面積が小さくなるにつれて)、収縮試験合格率及び透光性変化率が低下した。これより、変速温度及び短時間焼結については平均粒径及び/又はBET比表面積が影響している可能性がある。平均粒径は0.18μmよりも小さいと好ましく、0.15μm以下であるとより好ましく、0.14μm以下であるとさらに好ましいと考えられる。BET比表面積は、6.5m/g以上であると好ましく、7m/g以上であるとより好ましく、8m/g以上であるとさらに好ましいと考えられる。
【0173】
【表9】
【0174】
[実施例22]
[電子顕微鏡による観察]
実施例3-2及び比較例1の顆粒について電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、その形状を観察した。また、顆粒を構成する粒子の形状についても観察した。図6に、実施例3-2の顆粒の電子顕微鏡写真を示す。図7に、実施例3-2の構成粒子の電子顕微鏡写真を示す。図8に、比較例1の顆粒の電子顕微鏡写真を示す。図9に、比較例1の構成粒子の電子顕微鏡写真を示す。
【0175】
図6に示す顆粒においては、顆粒の形状は球形(真球)状に見え、球形度(円形度)が高いことが分かる。図7に示す、顆粒を構成する粒子においては、多くの粒子が分離可能に見える一次粒子であり、一次粒子が凝集した二次粒子は少なかった。すなわち、図6に示す顆粒は、主として、一次粒子で構成されている。一方、図8に示す顆粒においては、顆粒の形状は非球形(不定形)であり、球形度(円形度)が低いことが分かる。図9に示す、顆粒を構成する粒子は、一次粒子が分離不可能に凝集した二次粒子(複数の一次粒子が溶融結合して形成された二次粒子)となっている。すなわち、図8に示す顆粒は、主として、いびつな二次粒子で構成されている。このため、比較例1の平均粒径が大きくなっていると考えられる。例えば、上述の比較例10より、(顆粒解砕時に、顆粒を構成する粒子が細かく粉砕されてしまった可能性があるが)比較例1の顆粒は少なくとも約0.7μm以上の構成粒子から形成されていると考えられる。また、比較例1においてはいびつな二次粒子で顆粒が構成されているため、顆粒の球形度に差が生じたものと考えられる。
【0176】
[実施例23]
[仮焼体の曲げ強度の測定]
実施例3-2の組成物を1100℃で焼成して仮焼体を作製し、上述のJISR1601に準拠した条件で曲げ強度を測定したところ、35MPaであった。
【0177】
[実施例24~25]
[イットリア添加率による影響について]
実施例13においては実施例3-1の組成物を用いて試験を行ったが、実施例24~25においては、イットリア添加率が異なる実施例1-1及び2-1の組成物についても実施例13と同様の試験を行った。表10に結果を示す。各測定値の測定方法及び評価基準は実施例13と同じである。
【0178】
表8に示す実施例13~14及び比較例10~12と比較して明らかなように、実施例24及び25においては、1100℃収縮率及び1150℃収縮率を低い値とすることができた。また、短時間焼成による焼結でも十分な透光性を得ることができた。これより、仮焼体作製時の収縮率及び短時間焼結時の透光性は、イットリア添加率に依存しないものと考えられる。したがって、イットリア添加率は、得られる焼結体の透光性、強度等に応じて所望の値を選択することができる。
【0179】
実施例24及び25においては、BET比表面積による影響は確認されなかった。
【0180】
【表10】
【0181】
[実施例26~35]
[粒径による透光性への影響について]
実施例2-1及び実施例2-2の組成物を基礎として、一次粉砕の時間を調整して、実施例2-1及び実施例2-2とは異なる平均粒径を有する組成物を作製した。実施例26~30の組成物は、平均粒径以外は実施例2-1の組成物と同様である。実施例31~35の組成物は、平均粒径以外は実施例2-2の組成物と同様である。各実施例の組成物を1000℃で焼成して仮焼体を作製し、当該仮焼体を最高焼成温度1550℃で15分間焼成して作製した焼結体及び30分間焼成して作製した焼結体を作製し、各焼結体について実施例12と同様の方法で透光性を測定した。昇温速度は、焼成炉の最高速度150℃/分とした。冷却は、室温における放冷とした。表11に結果を示す。表11に示す測定値は、3回の測定値の平均値である。表11に示す変化率とは、実施例27~30については実施例26における透光性の測定値からの変化率であり、実施例31~35については実施例31における透光性の測定値からの変化率である。
【0182】
最高焼成温度の保持時間15分で作製した焼結体と保持時間30分で作製した焼結体とを比較すると、実施例26~35のいずれにおいても透光性はほとんど変わらなかった。
また、得られた透光性も保持時間2時間で得られる焼結体の透光性と変わらない値であった。これより、本開示の組成物及び仮焼体は、15分という非常に短時間でも焼結可能であることが分かった。
【0183】
実施例2-2の組成物を基礎とする実施例31~35においては、実施例35の焼結体の透光性が若干低下したが、透光性に大きな変化は見られなかった。すなわち、組成物製造工程における上記焼成工程及び二次粉砕工程を経た組成物から作製した焼結体においては、組成物の平均粒径による透光性への依存性は確認されなかった。しかしながら、実施例2-1の組成物を基礎とする実施例26~30においては、平均粒径が0.13μm以上の組成物から作製した焼結体は、平均粒径が0.13μm未満の組成物から作製した焼結体よりも透光性が低下する傾向が観察された。これより、実施例29及び30において作製された焼結体についても、例えば歯科用補綴材に適用するには十分な透光性を有しているが、上記焼成工程及び二次粉砕工程を経ない組成物から焼結体を作製する場合に、焼結体の透光性をより高めたい場合には、組成物の平均粒径を0.13μm未満、好ましくは0.125μm以下、より好ましくは0.120μm以下、さらに好ましくは0.115μm以下にすると好ましいと考えられる。
【0184】
【表11】
【0185】
[実施例36]
[組成物の直接焼結について]
実施例2-1及び2-2の組成物から作製した第1の成形体を、仮焼体を経由せずに、最高温度1550℃でそれぞれ30分焼成して焼結体を作製した。いずれの焼結体も仮焼体を経由して作製した焼結体と同等の透光性を有していた。これより、仮焼体を経由しなくとも、本開示の組成物から直接焼結体を作製可能であることが確認できた。
【0186】
本発明の組成物、仮焼体及び焼結体並びにこれらの製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0187】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0188】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本開示の組成物、仮焼体及び焼結体並びにこれらの製造方法は、補綴物等の歯科用材料、フェルールやスリーブ等の光ファイバ用接続部品、各種工具(例えば、粉砕ボール、研削具)、各種部品(例えば、ネジ、ボルト・ナット)、各種センサ、エレクトロニクス用部品、装飾品(例えば、時計のバンド)等の種々の用途に利用することができる。組成物、仮焼体及び焼結体を歯科用材料に使用する場合、例えば、コーピング、フレームワーク、クラウン、クラウンブリッジ、アバットメント、インプラント、インプラントスクリュー、インプラントフィクスチャー、インプラントブリッジ、インプラントバー、ブラケット、義歯床、インレー、アンレー、オンレー、矯正用ワイヤー、ラミネートベニア等に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-05-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
55%以上が単斜晶であるジルコニア粉末と、
ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有し、
ジルコニア粒子及び前記安定化剤の粒子の平均粒径が0.06μm~0.17μmであり、
前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない、組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0189
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0189】
本開示の組成物、仮焼体及び焼結体並びにこれらの製造方法は、補綴物等の歯科用材料、フェルールやスリーブ等の光ファイバ用接続部品、各種工具(例えば、粉砕ボール、研削具)、各種部品(例えば、ネジ、ボルト・ナット)、各種センサ、エレクトロニクス用部品、装飾品(例えば、時計のバンド)等の種々の用途に利用することができる。組成物、仮焼体及び焼結体を歯科用材料に使用する場合、例えば、コーピング、フレームワーク、クラウン、クラウンブリッジ、アバットメント、インプラント、インプラントスクリュー、インプラントフィクスチャー、インプラントブリッジ、インプラントバー、ブラケット、義歯床、インレー、アンレー、オンレー、矯正用ワイヤー、ラミネートベニア等に使用することができる。

本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕55%以上が単斜晶であるジルコニア粉末と、
ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有し、
ジルコニア粒子及び前記安定化剤の粒子の平均粒径が0.06μm~0.17μmであり、
前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない、組成物。
〔2〕BET比表面積が7.5m /g~25m /gである、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕ジルコニアの80%以上が単斜晶である、〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記安定化剤はイットリアである、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕ジルコニアとイットリアの合計molに対して、イットリアを3mol%~7.5mol%含有する、〔4〕に記載の組成物。
〔6〕X線回折パターンにおいてイットリアのピークが存在する、〔4〕又は〔5〕に記載の組成物。
〔7〕以下の数1に基づいて算出したf が1%以上である、〔4〕~〔6〕のいずれか一項に記載の組成物:
ただし、I (111)は、CuKα線によるX線回折パターンにおけるイットリアの(111)面のピーク強度を示し、
(111)及びI (11-1)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
[数1]
〔8〕前記f が15%以下である、〔7〕に記載の組成物。
〔9〕前記組成物におけるイットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であり、前記f が2%以上である、〔7〕又は〔8〕に記載の組成物。
〔10〕前記組成物におけるイットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であり、前記f が3%以上である、〔7〕又は〔8〕に記載の組成物。
〔11〕前記組成物におけるイットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であり、前記f が4%以上である、〔7〕又は〔8〕に記載の組成物。
〔12〕700℃以上で焼成されたものではない、〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔13〕55%以上が単斜晶であるジルコニアと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有し、前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されておらず、〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の組成物のプレス成形体を800℃~1200℃で焼成して作製された、仮焼体。
〔14〕密度が2.7g/cm ~4.0g/cm である、〔13〕に記載の仮焼体。
〔15〕曲げ強度が15MPa~70MPaである、〔13〕又は〔14〕に記載の仮焼体。
〔16〕ジルコニアの80%以上が単斜晶である、〔13〕~〔15〕のいずれか一項に記載の仮焼体。
〔17〕前記安定化剤はイットリアであり、X線回折パターンにおいてイットリアのピークが存在する、〔13〕~〔16〕のいずれか一項に記載の仮焼体。
〔18〕以下の数2に基づいて算出したf が1%以上である、〔17〕に記載の仮焼体:
ただし、I (111)は、CuKα線によるX線回折パターンにおけるイットリアの(111)面のピーク強度を示し、
(111)及びI (11-1)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示し、
(111)は、前記X線回折パターンにおけるジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
[数2]
〔19〕前記f が15%以下である、〔18〕に記載の仮焼体。
〔20〕前記組成物におけるイットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であり、前記f が2%以上である、〔18〕又は〔19〕に記載の仮焼体。
〔21〕前記組成物におけるイットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であり、前記f が3%以上である、〔18〕又は〔19〕に記載の仮焼体。
〔22〕前記組成物におけるイットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であり、前記f が4%以上である、〔18〕又は〔19〕に記載の仮焼体。
〔23〕前記仮焼体を1550℃で30分間焼成して作製された第1の焼結体の第1の透光性と、前記仮焼体を1550℃で120分間焼成して作製された第2の焼結体の第2の透光性と、を比較したとき、前記第1の透光性は前記第2の透光性の85%以上である、〔13〕~〔22〕のいずれか一項に記載の仮焼体。