(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096208
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】セラミド合成促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20240705BHJP
A23L 33/16 20160101ALI20240705BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240705BHJP
A61K 33/42 20060101ALI20240705BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240705BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20240705BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240705BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20240705BHJP
【FI】
A61K33/00
A23L33/16
A61P17/00
A61K33/42
A61K8/19
A61K8/24
A61Q19/00
C12N15/12 ZNA
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070707
(22)【出願日】2024-04-24
(62)【分割の表示】P 2022571685の分割
【原出願日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2020217526
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598086316
【氏名又は名称】株式会社エー・アイ・システムプロダクト
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】岡島 眞裕
(72)【発明者】
【氏名】池田 満雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 博之
(57)【要約】
【課題】本発明は、新規なセラミド合成促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水を含むセラミド合成促進剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水を含むセラミド合成促進剤。
【請求項2】
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが400~800mass ppm含まれる、請求項1に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項3】
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、請求項1又は2に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項4】
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、請求項1~3の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項5】
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、請求項1~4の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項6】
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、請求項1~5の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項7】
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、請求項1~6の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項8】
前記セラミド合成促進剤が、セラミド合成遺伝子発現促進剤を含む、請求項1~7の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項9】
前記セラミド合成遺伝子発現促進剤が、ELOVL4遺伝子発現促進剤、ELOVL7遺伝子発現促進剤、CerS3遺伝子発現促進剤、及びSPTLC2遺伝子発現促進剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子発現促進剤を含む、請求項1~8の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する医薬品。
【請求項11】
請求項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項12】
請求項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する化粧料。
【請求項13】
請求項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する飲食品組成物。
【請求項14】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水の、セラミド合成促進のための使用。
【請求項15】
セラミド合成を促進する方法であって、
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド合成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のセラミドは、表皮角化細胞において、アミノ酸の一種L-セリンとパルミチン酸とを出発原料としてスフィンゴシン骨格が作られ、その後種々の酵素反応を経て生合成される。セラミドの代謝は、加齢、紫外線曝露、乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症、乾癬等によって、健全な状態が損なわれる。その結果、各層中のセラミド量が減少し、例えば、皮膚の保湿機能及びバリア機能の低下が引き起こされる。また近年、セラミドのω-水酸基にリノール酸が結合した構造を有し、脂肪酸の鎖長がC28以上であるアシルセラミドが、非常に疎水性が高く、皮膚バリア機能に必須であることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
このように、セラミド、特にアシルセラミドの産生を促進することにより、皮膚バリア機能の改善又は正常化が促進されることが期待される。
【0004】
最近、皮膚外用剤、飲食物等に使用し得るセラミド、特にアシルセラミドの産生を促進する物質に関する研究開発が活発に進められているが、十分であるとはいえず、安全で効果的なセラミド合成促進作用を有する成分の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】YAKUGAKU ZASSHI 137(10) 1201-1208 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規なセラミド合成促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが新規なセラミド合成促進剤を開発すべく鋭意検討した結果、特定の製造方法により製造されたアルカリイオン水に、セラミド合成に関与する遺伝子の発現促進作用があり、このアルカリイオン水を用いることでセラミド合成が促進されることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水を含むセラミド合成促進剤。
項2.
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが2~800mass ppm含まれる、上記項1に記載のセラミド合成促進剤。
項3.
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、上記項1又は2に記載のセラミド合成促進剤。
項4.
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、上記項1~3の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項5.
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、上記項1~4の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項6.
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、上記項1~5の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項7.
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、上記項1~6の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項8.
前記セラミド合成促進剤が、セラミド合成遺伝子発現促進剤を含む、上記項1~7の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項9.
前記セラミド合成遺伝子発現促進剤が、ELOVL4遺伝子発現促進剤、ELOVL7遺伝子発現促進剤、CerS3遺伝子発現促進剤、及びSPTLC2遺伝子発現促進剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子発現促進剤を含む、上記項1~8の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項10.
前記セラミド合成促進剤が、ELOVL4遺伝子発現促進剤を含む、上記項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項11.
前記セラミド合成促進剤が、ELOVL7遺伝子発現促進剤を含む、上記項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項12.
前記セラミド合成促進剤が、CerS3遺伝子発現促進剤を含む、上記項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項13.
前記セラミド合成促進剤が、SPTLC2遺伝子発現促進剤を含む、上記項1~9の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤。
項14.
上記項1~13の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する医薬品。
項15.
上記項1~13の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する皮膚外用剤。
項16.
上記項1~13の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する化粧料。
項17.
上記項1~13の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤を含有する飲食品組成物。
項18.
上記項1~13の何れか一項に記載のセラミド合成促進用飲食品組成物。
【0009】
項19.
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水の、セラミド合成促進のための使用。
項20.
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが2~800mass ppm含まれる、上記項19に記載の使用。
項21.
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、上記項19又は20に記載の使用。
項22.
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、上記項19~21の何れか一項に記載の使用。
項23.
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、上記項19~22の何れか一項に記載の使用。
項24.
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、上記項19~23の何れか一項に記載の使用。
項25.
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、上記項19~24の何れか一項に記載の使用。
【0010】
項26.
セラミド合成を促進する方法であって、
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水を使用する方法。
項27.
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが2~800mass ppm含まれる、上記項26に記載の方法。
項28.
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、上記項26又は27に記載の方法。
項29.
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、上記項26~28の何れか一項に記載の方法。
項30.
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、上記項26~29の何れか一項に記載の方法。
項31.
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、上記項26~30の何れか一項に記載の方法。
項32.
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、上記項26~31の何れか一項に記載の方法。
【0011】
項33.
セラミド合成促進剤の製造方法であって、
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解する工程を備える、セラミド合成促進剤の製造方法。
項34.
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが2~800mass ppm含まれる、上記項33に記載のセラミド合成促進剤の製造方法。
項35.
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、上記項33又は34に記載のセラミド合成促進剤の製造方法。
項36.
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、上記項33~35の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤の製造方法。
項37.
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、上記項33~36の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤の製造方法。
項38.
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、上記項33~37の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤の製造方法。
項39.
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、上記項33~38の何れか一項に記載のセラミド合成促進剤の製造方法。
【0012】
なお、現時点で、上記セラミド合成促進剤、遺伝子発現促進剤、医薬品、皮膚外用剤、化粧料及び飲食品組成物は、物の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって、それぞれの物の発明を記載している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水を含むセラミド合成促進剤を提供することができる。ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水は、セラミド、特にアシルセラミドの合成に関与するELOVL4遺伝子発現促進効果、ELOVL7遺伝子発現促進効果、CerS3遺伝子発現促進効果、及びSPTLC2遺伝子発現促進効果を有していることから、セラミドの合成を促進することができる。よって、本発明のセラミド合成促進剤は、セラミドの減少によって誘発される皮膚障害の予防又は治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、アルカリイオン水を製造する装置を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、ヒトのELOVL4の遺伝子配列(配列番号1)を示す図である。
【
図3】
図3は、ヒトのELOVL7の遺伝子配列(配列番号2)を示す図である。
【
図4】
図4は、ヒトのCerS3の遺伝子配列(配列番号3)を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、ヒトのSPTLC2の遺伝子配列(配列番号4)を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、ヒトのSPTLC2の遺伝子配列(配列番号4)を示す図であり、
図5Aの続きを示している。
【
図6】
図6は、アルカリイオン水のELOVL4mRNA発現量を示す図である。
【
図7】
図7は、アルカリイオン水のELOVL7mRNA発現量を示す図である。
【
図8】
図8は、アルカリイオン水のCerS3mRNA発現量を示す図である。
【
図9】
図9は、アルカリイオン水のSPTLC2mRNA発現量を示す図である。
【
図10】
図10は、ELOVL4及びCerS3のタンパク質の発現変動をウエスタンブロット法により評価した結果を示す図である。
【
図11】
図11は、薄層クロマトグラフィにより評価した結果を示す図である。
【
図12】
図12は、
図11における各濃度のGlcCer領域の発色強度増加率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセラミド合成促進剤は、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水(以下、単に「アルカリイオン水」ということもある。)を含むことを特徴とする。ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水は、セラミド合成に関与する遺伝子の発現を促進する作用を有し、セラミドの合成を促進することができるので、本発明のセラミド合成促進剤は、セラミドの減少によって誘発される皮膚障害の予防又は治療に有効である。
【0016】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水には、ケイ素及びリンが含まれる。具体的には、前記アルカリイオン水中に、ケイ素(Si)が0.4~400mass ppm(mg/L)程度、好ましくは0.8~390mass ppm程度、より好ましくは1.0~380mass ppm程度、及びリン(P)が2~800mass ppm程度、好ましくは4~780mass ppm程度、より好ましくは10~770mass ppm程度含まれる。なお、元素分析は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法(日立ハイテクサイエンス株式会社製 SPECTRO ACROSII)により行った。
【0017】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水は、リン及びケイ素以外の他の元素を含んでもよく、例えば、カルシウム(Ca)を0.0001~900mass ppb程度、好ましくは0.001~800mass ppm程度、より好ましくは0.01~700mass ppm程度、カリウム(K)を0.0005~3000mass ppm程度、好ましくは1~2900mass ppm程度、より好ましくは5~2800mass ppm程度、マグネシウム(Mg)を0.0001~300mass ppb程度、好ましくは0.001~250mass ppm程度、より好ましくは0.01~200mass ppm程度、ナトリウム(Na)を34~8000mass ppm程度、好ましくは40~7900mass ppm程度、より好ましくは50~7800mass ppm程度等含んでいてもよい。また、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水中には、塩素(Cl)が含まれていてもよく、例えば、塩素(Cl)を1.5~450mg/kg程度、好ましくは1.5~440mg/kg程度、より好ましくは1.5~430mg/kg程度含まれていてもよい。
【0018】
前記アルカリイオン水に含まれるケイ素は、ケイ酸イオン、例えば、H3SiO4
-、H5Si2O7
-、H5Si3O9
-等の状態で存在することができる。
【0019】
前記アルカリイオン水に含まれるリンは、リン酸イオン、例えば、H2PO4
-、H3P2O7
-、H4P3O10
-等の状態で存在することができる。
【0020】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水のpHは、通常、10~12.5程度である。表面張力は、通常、70mN/m以下であり、好ましくは50~69mN/m、より好ましくは55~68mN/m程度である。さらに、前記アルカリイオン水には、物理的に電子が過剰に含まれている。
【0021】
本発明で使用するアルカリイオン水は、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得ることができる。ケイ素及びリンを含有するミネラル塩としては、例えば、海水から得られるケイ素及びリンを含有する電解質を用いることができる。海水は、特に限定なく使用することができ、例えば、日本の海水を用いることができる。ケイ素及びリンを含有するミネラル塩は、使用する水の量の0.001~3質量%程度添加すればよい。
【0022】
前記アルカリイオン水の製造方法は、上記の工程に加えて、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を脱酸素処理して溶存酸素濃度を1ppm以下にする脱酸素工程、及び前記陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩との混合液に1kg/cm2~12kg/cm2の圧力をかける安定化工程を備えることが好ましい。ここで、陰極側のアルカリ水と混合されるケイ素及びリンを含有するミネラル塩は、前記電気分解工程で使用するケイ素及びリンを含有するミネラル塩と同じものを使用することができ、例えば、日本の海水から採取されたものを用いることができる。
【0023】
以下、アルカリイオン水の製造方法について説明する。
第1工程は、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程である。
【0024】
原料となる水としては、純水、イオン交換水等を用いることができる。水には、支持電解質として海水から得られるケイ素及びリンを含有するミネラル塩等を溶解させる。水として、脱酸素処理を行って水中の溶存酸素の濃度を1ppm以下に低下させたものを使用することが好ましい。脱酸素処理として、物理的処理方法と化学的処理方法とがあり、従来、化学的処理方法単独か、あるいは物理的処理方法と化学的処理方法とを併用する方法が採られている。物理的処理方法としては、加熱脱気装置、膜脱気装置等による脱気処理が挙げられる。化学的処理方法としては、脱酸素剤として、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、糖類(グリコース等)を添加する方法等が挙げられる。脱酸素処理として、例えば、水に前記酸素除去剤を添加することができる。
【0025】
電気分解は、電解槽等の密閉空間で行われることが好ましい。電解槽内は、窒素、二酸化炭素等の不活性雰囲気であることが好ましい。また、水として、予め脱酸素処理を行って溶存酸素濃度を1ppm以下に低下させたものを用いる代わりに、又は、予め脱酸素処理した水を使用することに加えて、電気分解を電解槽中で行う際に、電解槽中に脱酸素剤を投入することも可能である。電気分解で印加される電気エネルギーは1000W~3000Wであることが好ましい。
【0026】
第2工程は、前記第1工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程である。
【0027】
電気分解で得られた陰極側のアルカリ水は、電解槽から取り出され、混合槽に供給されることが好ましい。混合槽には、海水から得られるケイ素及びリンを含有するミネラル塩を供給する手段と、アルカリ水に電気を供給する電子供給手段とが設けられていることが好ましい。
【0028】
ケイ素を含有する原材料(又はケイ素を含有するミネラル塩)としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩;ケイ酸カルシウム等のケイ酸アルカリ土類金属塩;ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。混合液に含まれるケイ素の含有量は、混合液全量を100質量%としたときに、0.005~5質量%程度とすることが好ましく、0.01~1質量%とすることがより好ましい。
【0029】
リンを含有する原材料(又はリンを含有するミネラル塩)としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩;リン酸カルシウム等のリン酸アルカリ土類金属塩;リン酸マグネシウム等が挙げられる。混合液に含まれるリンの含有量は、混合液全量を100質量%としたときに、0.005~5質量%程度とすることが好ましく、0.01~1質量%とすることがより好ましい。
【0030】
アルカリ水に添加されるケイ素を含有するミネラル塩とリンを含有するミネラル塩との質量比は、1:0.5~1.5であることが好ましい。
【0031】
電子供給手段として、例えば、陰極端子が挙げられる。電気分解で得られた陰極側のアルカリ水に、陰極端子を接触させることにより、電子を供給することができる。陰極電子から電子が放電されて、アルカリ水に多くの電子が供給される。
【0032】
陰極端子には、直流電流が印加されることが好ましい。陰極端子に印加される直流電流の電圧は、例えば、10~1000Vであり、50~300Vであることが好ましく、100~300Vであることがさらに好ましい。混合液に電子が供給されることにより、製造されたアルカリイオン水は、セラミド合成遺伝子の発現作用を効果的に発揮できると考えられる。
【0033】
混合槽には、電圧が100~300Vの直流電流を印加し、陰極電子から放出される電気量は1000~3000Wであることが好ましい。
【0034】
混合槽には、1kg/cm2~12kg/cm2(98~1177kPa)の圧力をかけることが好ましく、2kg/cm2~6kg/cm2(196~588kPa)がより好ましい。圧力をかけることで、アルカリイオン水の安定性が向上する。
【0035】
混合槽内は、窒素、二酸化炭素等の不活性雰囲気であることが好ましい。また、混合槽中に脱酸素剤を投入することも可能である。混合槽は、周囲の温度によって影響を受けないように、断熱手段によって周囲の温度から断熱するとともに、温度調整手段によって、混合槽の内部が-5℃~25℃の範囲に調整することが好ましい。混合液の温度は0℃~10℃とすることが好ましい。
【0036】
混合槽は、外気雰囲気と隔離した隔離槽内に配置することが好ましく、隔離槽内には、窒素又は二酸化炭素を充填することが好ましい。これにより、アルカリイオン水の変質を防止することができるので、長期にわたり性能を維持することができる。
【0037】
アルカリイオン水を、上記混合槽内で24~36時間安定化させることにより、最終生成物であるアルカリイオン水が得られる。得られたアルカリイオン水は、アルカリイオン水出口から直接に取り出すことができる。あるいは、アルカリイオン水にアルコールを混合して、混合アルカリイオン水出口から取り出すこともできる。アルコールとしては、水との相溶性の大きなアルコールを用いることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0038】
以下、アルカリイオン水を製造する際に使用することができる製造装置について説明する。
アルカリイオン水を製造する装置を説明する模式図を
図1に示す。アルカリイオン水製造装置101は、電解槽1と混合槽11とを備えており、電解槽1と混合槽11とはアルカリ水導出管9で連結されている。電解槽1には、導水管2が接続されており、この導水管2によって原料水(ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液)が供給される。電解槽1は、隔膜3によって区画された陽極室4及び陰極室5を有している。陽極室4には陽極6が設けられ、陰極室5には陰極7が設けられている。両電極に電解電流を通電して、陽極室4に接続された酸性水排出管8より酸性水を取り出し、陰極室5に接続されたアルカリ水導出管9よりアルカリ水を取り出す。アルカリ水は、アルカリ水導出管9を通る間に、冷媒を循環した冷却管を設けた冷却装置10によって冷却して混合槽11に導入する。
【0039】
混合槽11は、前記アルカリ水導出管9、原料液貯槽12、及び出口管16と接続されている。混合槽11には、原料液貯槽12から流入量調整装置13を介して原料液を供給する。原料液の供給量は、通電した電気量等によって調整する。原料液としては、日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩が用いられる。混合槽11内には、攪拌装置14を設け、アルカリイオン水と原料液とが均一に混合されるようにする。
【0040】
混合槽11の中には陰極端子100を配置する。陰極端子100には、200Vの直流電流が印加されている。陰極端子100から放出される電気量は1000W~3000Wであることが好ましい。
【0041】
混合槽11は、周囲の温度によって影響を受けないように、断熱手段15によって断熱され、温度調整手段(図示せず)によって内部の温度を15℃~25℃程度に調整する。混合槽11の温度は、0℃~10℃程度にすることが好ましい。
【0042】
混合槽11から導出するアルカリイオン水のpHは、出口管16に設けられたpH測定手段17によって測定する。混合槽11から取り出すアルカリイオン水のpHは、10~12.5程度であることが好ましい。
【0043】
混合槽11に接続された出口管16は、アルカリイオン水出口管18、及び混合アルカリイオン水出口管21に分枝している。アルカリイオン水出口管18からは混合槽11内のアルカリイオン水が直接取り出される。アルカリイオン水は、アルコールと混合されて混合アルカリイオン水とすることも可能である。この場合、アルコール貯槽19からアルコールが注入されるアルコール混合槽20においてアルカリイオン水とアルコールとを混合し、混合アルカリイオン水出口管21から混合アルカリイオン水として取り出してもよい。アルカリイオン水と混合するアルコールは、水との相溶性の大きなアルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0044】
上述したアルカリイオン水製造装置101は、隔離室22に収容されることにより外気と隔離される。隔離室22は、窒素で置換されているか、又は二酸化炭素、酸素除去剤等を充填した通気装置によって外気雰囲気と結合されている。隔離室22内にアルカリイオン水製造装置101を設けることによって、アルカリイオン水の変質を防止することができ、長期にわたり性能を維持することができる。
【0045】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水は、市販品を使用することができる。市販品として、商品名S-100及びS-100G(いずれも株式会社エー・アイ・システムプロダクト製)が挙げられる。
【0046】
上述した製造方法により得られたアルカリイオン水は、優れたセラミド合成遺伝子発現促進作用を有し、セラミド合成遺伝子発現促進剤として利用することができる。
【0047】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水は、セラミド合成、特にアシルセラミド合成に関する遺伝子発現促進作用を発揮する。具体的には、表皮に多く存在するC28以上の脂肪酸の合成に必須であるELOVL(極長鎖脂肪酸伸長酵素)4遺伝子の発現を促進する作用(ELOVL4遺伝子発現促進作用)、C16、C18、及びC20脂肪酸を合成するステップで中心的な役割を担うELOVL7遺伝子の発現を促進する作用(ELOVL7遺伝子発現促進作用)、及び長鎖塩基にアシルCoAを結合させてセラミドを合成する酵素であるセラミド合成酵素のうち、超長鎖アシルCoAに活性を示すCerS3遺伝子の発現を促進する作用(CerS3遺伝子発現促進作用)を発揮する。また、表皮角化細胞においてセラミドの合成に関与する酵素であるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)のサブユニットであるSPTLC2遺伝子の発現を促進する作用(SPTLC2遺伝子発現促進作用)を発揮する。よって、ケイ素及びリンを含有するアルカリイオン水は、ELOVL4遺伝子発現促進剤、ELOVL7遺伝子発現促進剤、CerS3遺伝子発現促進剤、及びSPTLC2遺伝子発現促進剤として利用することができる。
【0048】
本発明のセラミド合成促進剤は、単独でも使用することができるが、添加剤を含むことができる。添加剤として、例えば、塩化ナトリウム、各種ビタミン剤、ブドウ糖等が挙げられる。本発明のセラミド合成促進剤は、医薬品、医薬部外品、飲食品、化粧料等の種々の組成物に配合することにより、セラミドの合成促進作用を有する組成物を得ることができる。
【0049】
本発明のセラミド合成促進剤を含有する飲食品の形態は、特に限定されない。具体的な飲食品の形態として、例えば、一般食品、一般飲料、サプリメント、健康食品、機能性表示食品、特定健康食品等の保険機能食品及び特定用途食品、清涼飲料水、茶飲料、ドリンク剤、ワイン等のアルコール飲料、菓子、米飯類、パン類、麺類、総菜類、調味料等が挙げられる。
【0050】
本発明のセラミド合成促進剤を含有する医薬品又は医薬部外品の形態は、特に限定されない。具体的な形態として、例えば、内用剤、外用剤等が挙げられ、皮膚外用剤として用いることが好ましい。
【0051】
本発明のセラミド合成促進剤を含有する化粧料又は医薬部外品の形態は、特に限定されない。具体的な剤形として、例えば、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、液剤等が挙げられる。
【0052】
本発明のセラミド合成促進剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重、用法、用量等を考慮して決定することができる。用法としては、塗布、経口投与、血管注射(点滴)等が挙げられる。
【0053】
例えば、塗布の場合、ケイ素化合物及びリン化合物を0.001~1.5質量%含むアルカリイオン水を皮膚に塗布することができる。本発明のセラミド合成遺伝子発現促進剤を経口投与する場合の投与量は、ケイ素化合物及びリン化合物を0.001~1.5質量%含むアルカリイオン水を100~200mL/日程度が好ましい。本発明のセラミド合成遺伝子発現促進剤を血管注射する場合の投与量は、ケイ素化合物及びリン化合物を0.001~1.5質量%含むアルカリイオン水を100~500mL/日程度が好ましい。
【0054】
本発明のセラミド合成促進剤を含む医薬品等の組成物は、セラミド合成遺伝子の発現を促進することにより、セラミド合成を促進する効果が高いことから、皮膚炎の予防又は治療、皮膚損傷部位の改善等に有効である。本発明のセラミド合成促進剤を含有する医薬品又は医薬部外品は、例えば、アトピー性皮膚炎、ニキビ、火傷、創傷、壊疽(えそ:gangrene)、褥瘡(じょくそう:bedsore)、疥癬(かいせん)、膿皮症、帯状疱疹、頭皮湿疹、表皮膿腫、単純ヘルペス、水痘、皮膚悪性腫瘍、水虫等の予防又は治療剤として用いることができる。本発明のセラミド合成促進剤を含有する化粧料は、皮膚保湿剤、皮膚乾燥防止剤、肌荒れ防止剤、日焼け修復剤、美白剤等として用いることができる。
【0055】
なお、本発明には、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水の、セラミド合成促進のための使用が含まれる。
また、本発明には、セラミド合成を促進する方法であって、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水を使用する方法が含まれる。
また、本発明には、セラミド合成促進剤の製造方法であって、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解する工程を備える、セラミド合成促進剤の製造方法が含まれる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
上述したアルカリイオン水製造装置101を用いて、以下のようにアルカリイオン水を製造した。
原料水として、イオン交換水を準備した。イオン交換水は、イオン交換樹脂(サムソン社製)を用いて、水道水から不純物を除去することにより製造した。イオン交換水に日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩を1質量%添加した水溶液を、導水管2を通じて電解槽1に導入し、陽極6及び陰極7に電気を流した。電気分解の条件は、電圧200V、電気エネルギー2500Wとした。イオン交換水が電気分解され、陽極室4では酸性水が生成し、陰極室5ではアルカリ水が生成した。陽極室4で生成された酸性水は、酸性水排出管8から排出された。陰極室5で生成されたアルカリ水はアルカリ水導出管9に導出され、アルカリ水導出管9を通るアルカリ水は冷却装置10により冷却されて、混合槽11に導入された。
【0058】
混合槽11において、冷却されたアルカリ水と、原料液貯槽12から供給された日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩とが、攪拌装置14によって混合された。原料液貯槽12内の日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩は、混合槽11内の混合液中の日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩の含有量が、0.3質量%となるように流入量調整装置13で調整して供給した。混合液を、圧力294kPa、温度4±3℃で24時間保存した。保存中、混合液には、陰極端子100から電子が放出された。
その後、アルカリイオン水は、出口管16から導出され、pH測定手段17によりアルカリイオン水のpHを測定した後、アルカリイオン水出口管18から取り出された。
【0059】
アルカリイオン水出口管から取り出された実施例1のアルカリイオン水を、ICP発光分光法(製造会社:日立ハイテクサイエンス株式会社、製品名:SPECTRO ARCOSII)を用いて、元素分析した。
その結果、ケイ素が100mass ppm、及びリンが760mass ppm含まれていることがわかった。なお、さらに、詳細には、ナトリウムが7500mass ppm、カリウムが2700mass ppm、カルシウムが0.2mass ppm、マグネシウムが0.1mass ppm以下含まれていることがわかった。
【0060】
また、上記ICP発光分光法では、塩素等のガスを検出できないことから、別途、電解水出口管から取り出された実施例1のアルカリイオン水(試料1)を、一般財団法人日本食品分析センターにて、下記の燃焼-電量滴定法を用いて測定した。
燃焼-電量滴定法としては、日東精工アナリテック株式会社製、塩素・硫黄分析装置TSX-10型を用いて、上記試料1約10mgを燃焼させ、電量適定により塩化物イオンの濃度を算出した。この測定により有機塩素、無機塩素を問わず試料中の塩素量が求められる。有機塩素量は、トータル塩素量から無機塩素量を差し引いた値を用いた。無機塩素量は、試料5gを熱水抽出し、抽出液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフ法により測定して求めた。
その結果、実施例1のアルカリイオン水中に、塩素が410mg/kg含まれていることがわかった。
【0061】
<pHの測定>
実施例1で得られたアルカリイオン水のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製、HORIBA F-74SPを用いて測定したところ、pHの値は12であった。
【0062】
<表面張力の測定>
実施例1で得られたアルカリイオン水の表面張力を、Wilhelmy法を用いて測定した。
その結果、実施例1で得られたアルカリイオン水の表面張力は、約65.41mN/m(20℃)であった。同様の方法で、精製水の表面張力を測定したところ、約72.96mN/m(20℃)であったことから、本発明で用いるケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含有するアルカリイオン水の表面張力は、精製水の表面張力に比べて、約7.55mN/m低かった。
【0063】
(実施例2)
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩の原料を日本の海水から沖縄県の海水に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、アルカリイオン水を製造した。
得られたアルカリイオン水について、実施例1と同様に、ICP発光分光法を用いで元素分析を行った結果、ケイ素が370mass ppm、及びリンが450mass ppm含まれていることが分かった。なお、さらに、詳細には、ナトリウムが6900mass ppm、カリウムが1mass ppm以下、カルシウムが0.9mass ppm、マグネシウムが0.3mass ppm以下含まれていることがわかった。
さらに、実施例2で得られたアルカリイオン水に含まれる塩素を、実施例1と同様に、一般財団法人日本食品分析センターにて、燃焼-電量滴定法を用いて測定した結果、実施例2のアルカリイオン水中に塩素が410mg/kg含まれることがわかった。
【0064】
(試験例1)
実施例1で製造したアルカリイオン水について、セラミド合成に関連する酵素の遺伝子の発現への影響を調べた。なお、実際の肌の上では、アルカリイオン水が角化細胞に到達するまでに肌の皮脂又は汗により中和され、又は角層にて捕集されるため、試験例1では実施例1のアルカリイオン水を20倍に希釈し、この濃度を基準(100%)としたアルカリイオン水で評価を行った。試験例2及び3においても同様である。
【0065】
セラミド合成に関連する酵素のうち、超長鎖脂肪酸伸長酵素4(ELOVL4)、超長鎖脂肪酸伸長酵素7(ELOVL7)、セラミド合成酵素3(CerS3)、及びセラミド合成酵素(SPTLC2)の発現変動を評価した。対象となる遺伝子のプライマー設計はヒトのRT-PCRで報告のある配列(Shirakura et al. : Lipid in Health and Disease, 11,108 (2012).)を参考に、プライマーを設計した。
【0066】
プライマーは、ヒトのELOVL4、ELOVL7、CerS3、及びSPTLC2について、それぞれフォワードプライマーとリバースプライマーを合成した。プライマーは、株式会社ファスマックにPCRプライマーの合成を委託した。
図2には、ヒトのELOVL4の遺伝子配列(配列番号1)を示した。
図3には、ヒトのELOVL7の遺伝子配列(配列番号2)を示した。
図4には、ヒトのCerS3の遺伝子配列(配列番号3)を示した。
図5A及び
図5Bには、ヒトのSPTLC2の遺伝子配列(配列番号4)を示した。表1に、ELOVL4のプライマーのフォワードプライマーの配列(配列番号5)及びリバースプライマーの配列(配列番号6)、ELOVL7のプライマーのフォワードプライマーの配列(配列番号7)及びリバースプライマーの配列(配列番号8)、及びCerS3のプライマーのフォワードプライマーの配列(配列番号9)及びリバースプライマーの配列(配列番号10)、SPTLC2のプライマーのフォワードプライマーの配列(配列番号11)及びリバースプライマーの配列(配列番号12)、β-アクチン(内在性コントロール)のプライマーのフォワードプライマーの配列(配列番号13)及びリバースプライマーの配列(配列番号14)を示した。PCR反応では、フォワードプライマー及びリバースプライマーの相補鎖にプライマーが結合し、両者間でPCR反応によりDNA断片が増幅される。
図2~
図5A及び
図5Bにおいて、各配列中の太字黒枠部分は、プライマーが結合する配列(フォワードプライマーとリバースプライマーの相補鎖)であり、下線部は、PCR反応で増幅する配列を示す。
【0067】
【0068】
<試薬>
・ホルマザン(MTT):同仁化学社製
・細胞培養用マイクロテストプレート:96well平底低蒸発タイプ、FALCON社製
・ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS):Biosera社製
・ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:DMEM):WAKO社製
・TriPure Isolation Reagent(TriPure Reagent):タカラバイオ社製
・Random Primer:タカラバイオ社製
・Reverse Transcriptase:RevatraAce, TOYOBO社製
・THUNDERBIRD(登録商標)SYBR qPCR Mix :TOYOBO社製
<装置>
・Microplate Reader:WALLAC社製のARVO MX1420 MULTIABEL COUNTERを使用した。
・Real Time PCR:Thermo Fisher Scientific社製のStep One Real Time PCR (48well)を使用した。
【0069】
<DNAの調製>
正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:NHEK)は6ウェルプレートに1ウェル当たり1×105細胞の密度で撒き、24時間培養した。その後、各ウェルに10%、20%、又は100%(v/v%)のアルカリイオン水及び10%FBSを含むDMEMを加え、72時間培養を行った。対照として、アルカリイオン水を含まないDMEM(10%FBSを含む)を使用した。72時間培養した後、タカラバイオ社のTriPur Reagentを用い、添付文書に従ってtotal RNAを抽出した。調製したcDNAを用いてReal Time-PCR法にてELOVL4、ELOVL7、CerS3、及びSPTLC2のmRNAを定量した。内在性コントロールとしてβ-アクチンを使用した。データー解析にはComparativeΔΔCt法を用いた。
【0070】
<測定条件>
Real Time-PCRはStep One (Thermo Fisher Scientific)により実施した。また、Real time-PCRはTOYOBO社THUNDERBIRD (登録商標)SYBR qPCR Mixを用いて行った。
【0071】
アルカリイオン水によるELOVL4のmRNA発現の結果を
図6に示し、ELOVL7のmRNA発現の結果を
図7に示し、CerS3のmRNA発現の結果を
図8に示し、及びSPTLC2のmRNA発現の結果を
図9に示す。なお、mRNA発現量は、β-アクチンの発現量を1とした場合の相対値で示した。
【0072】
図6より、アルカリイオン水は、ELOVL4のmRNA発現を促進したことがわかる。
図7より、ELOVL7のmRNAの発現も観測された。
図8より、アルカリイオン水は、CerS3のmRNAの発現を促進したことがわかる。
図9より、アルカリイオン水は、SPTLC2のmRNAの発現を促進したことがわかる。
【0073】
(試験例2)
ELOVL4及びCerS3のタンパク質の発現変動を、特異抗体を用いたウエスタンブロット法により評価した。
詳細には、正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:NHEK)は6ウェルプレートに1ウェル当たり1×10
5細胞の密度で撒き、24時間培養した。その後、各ウェルに10%、20%、又は100%(v/v%)のアルカリイオン水及び10%FBSを含むDMEMを加え、72時間培養を行った。対照として、アルカリイオン水を含まないDMEM(10%FBSを含む)を使用した。72時間培養した後、リン酸緩衝液で洗浄した。その後、細胞溶解液(50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 1% NP-40, 1 mM EDTA, pH 7.4)で細胞を回収し、遠心分離(10,000 rpm, 10分間, 4℃)を行い、上清をタンパク質抽出液とした。タンパク質抽出液は、SDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)にてタンパク質を分離した後、ニトロセルロース膜にタンパク質を転写し、2%スキムミルクを含むリン酸緩衝液にてブロッキングした。CerS3の検出にはウサギ抗CerS3抗体(Cusabio社、2,000倍希釈)を用い、ELOVL4の検出にはウサギ抗ELOVL4抗体(Cusabio社、1,000倍希釈)を用い、β-アクチンの検出にはマウス抗β-アクチン抗体(和光純薬、3,000倍希釈)を用い、ニトロセルロース膜と反応させた。ニトロセルロース膜はリン酸緩衝液で十分に洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(KPL社、5,000倍希釈)、又はペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(ジャクソン社、3,000倍希釈)にて標的タンパク質をペルオキシダーゼで標識した。検出は発光試薬(イムノスターLD、WAKO純薬)を用い、ルミノグラフ(アトー)にて撮影した。
結果を
図10に示す。
【0074】
図10より、アルカリイオン水は、濃度依存的にCerS3タンパク質の発現を促進したことがわかる。
【0075】
(試験例3)
アルカリイオン水が、実際にセラミド(Cer)及びグルコシルセラミド(GlcCer)の合成を促進できるかどうかを、薄層クロマトグラフィ(TLC)により評価した。
詳細には、正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:NHEK)は6ウェルプレートに1ウェル当たり1×10
5細胞の密度で撒き、24時間培養した。その後、各ウェルに10%、20%、又は100%(v/v%)のアルカリイオン水及び10%FBSを含むDMEMを加え、72時間培養を行った。対照として、アルカリイオン水を含まないDMEM(10%FBSを含む)を使用した。48時間培養した細胞をリン酸緩衝液で洗浄した後、細胞中の脂質をクロロホルム:メタノール(1:2,v/v)抽出液で1時間振とうし、上清を回収した。その後、残った残渣にクロロホルム:メタノール:水(1:2:0.5,v/v)抽出液を加え、上清を回収した。抽出した試料に2.5%(w/v)の塩化カリウム水溶液を加え、遠心分離(5分間、900xg、室温)した後、下層を新しいチューブに回収した。上層に残った脂質はクロロホルムを加えて攪拌した後、遠心分離(5分間、900xg、室温)した下層を採取することで回収した。脂質画分は遠心エバポレーターにて乾固し、クロロホルム:メタノール(2:1,v/v)で溶解した後、分析まで-20℃にて保存した。
薄層クロマトグラフィは以下の順番で展開した。(1)クロロホルム:メタノール:水(40:10:1,v/v)で試料を添加したところから2cmのところまで展開した後、薄層板を乾燥させた。(2)クロロホルム:メタノール:水(40:10:1,v/v)で試料を添加したところから5cmのところまで展開した後、薄層板を乾燥させた。(3)クロロホルム:メタノール:酢酸(47:2:0.5,v/v)で薄層板の先端から1.5cmのところまで展開した後、薄層板を乾燥させた。(4)ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(65:35:1,v/v)で薄層板の先端から0.5cmのところまで展開した後、薄層板を乾燥させた。展開した薄層板上の脂質は、3%(w/v)硫酸銅を溶解した8%(v/v)リン酸水溶液で十分にスプレーした後、180℃のホットプレートで加熱することにより検出した。
結果を
図11に示す。なお、
図11中のVLCは、very long chain(一般に、20炭素より長い炭素鎖)を示し、ULCは、ultra long chain(一般に、26炭素以上の炭素鎖)を示す。
【0076】
次に、
図11におけるGlcCer領域及びCer領域の主要なスポットのRf値を表2に示す。
【0077】
【0078】
各領域の発色強度は、撮影装置LumiCube(ルミキューブ)(株式会社リポニクス製)で画像を取得したのち、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いて測定した。
アルカリイオン水0%のとき(アルカリイオン水を加えない培地(DMEM)で培養したとき)のGlcCer領域の発色強度を1とした場合のGlcCer領域の発色強度増加率を表3及び
図12に、アルカリイオン水0%のときのCer領域の発色強度を1とした場合のCer領域の発色強度増加率を表3及び
図13に示す。
【0079】
【0080】
図11から、アルカリイオン水の濃度が高いほうが、GlcCer領域、及びCer領域(特にCer(ULC)領域)のスポットの大きさが大きく、色も濃くなることが確認できた。さらに、表3には、アルカリイオン水の濃度が高いほうが、GlcCer領域及びCer領域の発色強度増加率が高いことが示されている。これらの結果は、アルカリイオン水の濃度が高いほうが合成されたセラミドの量が多いことを示しており、アルカリイオン水が濃度依存的にGlcCer及びCerの合成を促進させ、GlcCer及びCerの細胞内含量を増加させたことがわかる。
【0081】
また、
図11及び表2から、アルカリイオン水の濃度が高いほうが、GlcCer領域、及びCer領域(特にCer(ULC)領域)のスポットのRf値が大きくなる(展開距離が長くなる)ことが確認できた。表3には、アルカリイオン水の濃度が高いほうが、GlcCer領域及びCer領域の発色強度増加率が高いことが示されている。これらの結果は、アルカリイオン水の濃度が高いほうが、炭素鎖長が長い脂肪酸の合成を促進させ、脂肪酸の長さが長くなると脂溶性が高く(疎水性が大きく)なるために、展開距離が延びて、スポットがより上に検出されることを示している。
以上より、アルカリイオン水は、角化細胞で超長鎖脂肪酸から構成されるセラミド(アシルセラミド)の合成を促進することが示唆された。