(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009627
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】非静止衛星通信システム、非衛星通信システムにおける通信遅延を調整する調整装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/185 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
H04B7/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111300
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 一暁
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 力
【テーマコード(参考)】
5K072
【Fターム(参考)】
5K072AA29
5K072BB02
5K072BB22
5K072DD03
5K072DD16
5K072FF17
5K072GG14
5K072HH01
5K072HH02
5K072HH08
(57)【要約】
【課題】非静止衛星通信システムを介する通信においてキューイング遅延以外の遅延の変動を抑える技術を提供する。
【解決手段】非静止衛星通信システムの調整装置は、第1地上局から1つ以上の非静止衛星を介して第2地上局に至る搬送区間を搬送されるパケットについて、前記搬送区間における通信遅延の最大値を判定し、前記パケットの前記非静止衛星通信システムにおける処理時刻に基づき、前記搬送区間の搬送における前記パケットの通信遅延を推定して推定値を求め、前記最大値と前記推定値とに基づき前記パケットに与える遅延量を判定する判定手段と、前記判定手段が判定した前記遅延量の遅延を前記パケットに与える遅延手段と、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非静止衛星通信システムの調整装置であって、
第1地上局から1つ以上の非静止衛星を介して第2地上局に至る搬送区間を搬送されるパケットについて、前記搬送区間における通信遅延の最大値を判定し、前記パケットの前記非静止衛星通信システムにおける処理時刻に基づき、前記搬送区間の搬送における前記パケットの通信遅延を推定して推定値を求め、前記最大値と前記推定値とに基づき前記パケットに与える遅延量を判定する判定手段と、
前記判定手段が判定した前記遅延量の遅延を前記パケットに与える遅延手段と、
を備えている、調整装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記パケットのヘッダに格納されている情報に基づき、前記パケットが第1種別のパケットであるか第2種別のパケットであるかを判定し、前記第1種別のパケットである場合、前記遅延量を判定し、
前記遅延手段は、前記パケットが前記第1種別のパケットであると前記判定手段が判定した場合に、前記遅延量の遅延を前記パケットに与える、請求項1に記載の調整装置。
【請求項3】
前記調整装置は、前記第2地上局に設けられ、
前記処理時刻は、前記第2地上局が前記1つ以上の非静止衛星の内の第1非静止衛星から受信する前記パケット又は前記パケットを含む信号に含まれる、請求項1に記載の調整装置。
【請求項4】
前記調整装置は、前記第2地上局に設けられ、
前記処理時刻は、前記第2地上局が前記1つ以上の非静止衛星の内の第1非静止衛星から前記パケット又は前記パケットを含む信号を受信した時刻に基づく、請求項1に記載の調整装置。
【請求項5】
前記調整装置は、前記第1地上局に設けられ、
前記処理時刻は、前記第1地上局が前記パケットを受信した時刻に基づく、請求項1に記載の調整装置。
【請求項6】
前記調整装置は、前記1つ以上の非静止衛星の内の第1非静止衛星に設けられ、
前記処理時刻は、前記第1非静止衛星が前記パケットを含む信号を受信した時刻に基づく、請求項1に記載の調整装置。
【請求項7】
前記第1非静止衛星は、前記第1地上局から前記パケットを含む信号を受信する非静止衛星、又は、前記第2地上局に前記パケットを含む信号を送信する非静止衛星である、請求項6に記載の調整装置。
【請求項8】
前記調整装置は、前記第2地上局に設けられ、
前記処理時刻は、前記第2地上局が前記1つ以上の非静止衛星の内の第1非静止衛星から受信する前記パケット又は前記パケットを含む信号に含まれ、
前記判定手段は、前記処理時刻と、前記第2地上局が前記第1非静止衛星から前記パケット又は前記パケットを含む信号を受信した時刻と、の差に基づき前記推定値を求める、請求項1に記載の調整装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記1つ以上の非静止衛星の時刻と位置との関係を示す軌道情報と、前記第1地上局の位置と、前記第2地上局の位置と、前記処理時刻と、に基づき前記推定値を求める、請求項1から7のいずれか1項に記載の調整装置。
【請求項10】
前記判定手段は、前記1つ以上の非静止衛星の時刻と位置との関係を示す軌道情報と、前記第1地上局の位置と、前記第2地上局の位置と、に基づき前記最大値を判定する、請求項1から7のいずれか1項に記載の調整装置。
【請求項11】
前記判定手段は、前記1つ以上の非静止衛星の時刻と位置との関係を示す軌道情報と、前記第1地上局の位置と、前記第2地上局の位置と、に基づき前記搬送区間の最大距離を判定し、当該最大距離に基づき前記最大値を判定する、請求項10に記載の調整装置。
【請求項12】
前記判定手段は、前記1つ以上の非静止衛星の時刻と位置との関係を示す軌道情報と、前記第1地上局の位置と、前記第2地上局の位置と、に基づき前記処理時刻を含む所定期間を判定し、前記所定期間における前記搬送区間の最大距離を判定し、当該最大距離に基づき前記最大値を判定する、請求項10に記載の調整装置。
【請求項13】
1つ以上のプロセッサを有する装置の前記1つ以上のプロセッサで実行されると、前記装置を請求項1から7のいずれか1項に記載の調整装置として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項14】
第1地上局と第2地上局を含む複数の地上局と、複数の非静止衛星と、を備えた非静止衛星通信システムであって、
前記第1地上局は、前記複数の非静止衛星の内の前記第1地上局と通信する第1非静止衛星を介して前記第2地上局に搬送するパケットを受信した場合、前記第1地上局から前記第1非静止衛星までの第1搬送区間における通信遅延が第1所定値となる様に、前記パケットに遅延を与え、
前記第2地上局は、前記複数の非静止衛星の内の前記第2地上局と通信する第2非静止衛星から前記パケットを受信した場合、前記第2非静止衛星から前記第2地上局までの第2搬送区間における通信遅延が第2所定値となる様に、前記パケットに遅延を与える、
非静止衛星通信システム。
【請求項15】
前記第1地上局は、前記第1地上局から見た前記第1非静止衛星への第1方向に基づき、前記第1搬送区間の搬送における前記パケットの通信遅延を推定して第1推定値を求め、前記第1所定値と前記第1推定値との差に基づく遅延量を前記パケットに与え、
前記第2地上局は、前記第2地上局から見た前記第2非静止衛星への第2方向に基づき、前記第2搬送区間の搬送における前記パケットの通信遅延を推定して第2推定値を求め、前記第2所定値と前記第2推定値との差に基づく遅延量を前記パケットに与える、請求項14に記載の非静止衛星通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非静止衛星通信システムを介する通信における通信遅延の調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2は、非静止衛星である低軌道(LEO)衛星を用いた非静止衛星通信システムを開示している。静止軌道(GEO)衛星とは異なり、非静止衛星は、地表からは移動して見える。
【0003】
また、非特許文献1は、BBR(Bottleneck Bandwidth and Round-trip propagation time)と呼ばれる輻輳制御アルゴリズムを開示している。BBRとは、通信装置間で送受信されるパケットを転送する転送装置におけるキューイング遅延の増加がラウンドリップ遅延(RTT)の増加として通信装置で観測されることに着目し、RTTに応じてウィンドウサイズを調整する輻輳制御アルゴリズムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-507992号公報
【特許文献2】特表2019-532598号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cardwell,et.al.,"BBR:Congestion-based congestion control:Measuring bottleneck bandwidth and round-trip propagation time",ACM Queue,14(5),pp. 20-53,2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、非静止衛星通信システムにおける通信例を示している。なお、以下の説明において、"非静止衛星"を単に"衛星"とも表記する。地上局80及び81は、衛星90及び91と通信する。
図1においては2つの衛星90及び91のみを示しているが、非静止衛星通信システムにおいては、多数の衛星が使用され、地表の任意の点において、常に、1つ又は複数の衛星が見える様に衛星は配置される。非静止衛星は、地表からは移動して見えるため、地上局80及び81が通信する衛星は、時間と共に切り替えられる。
【0007】
図1によると、地上局80が送信した信号は、衛星90及び衛星91を介して地上局81が受信している。ここで、地上局80と衛星90との区間(以下、上り区間)の通信遅延D1は、地上局80と衛星90との距離が時間共に変化することに応じて変化する。また、地上局80と通信する衛星が衛星90から他の衛星に切り替えられた際にも、上り区間の通信遅延D1は変化する。衛星91と地上局81との区間(以下、下り区間)の通信遅延D2についても同様である。
【0008】
非静止衛星通信システムの多数の衛星は、複数の軌道上を周回している。ここで、衛星90と衛星91とが同じ軌道上を周回している場合、衛星90と衛星91との区間(以下、宇宙区間)の通信遅延D3は一定である。しかしながら、衛星90と衛星91とが異なる軌道上を周回している場合、衛星90と衛星91との距離は時間と共に変化し、よって、宇宙区間の通信遅延D3は時間と共に変化する。なお、
図1では、宇宙区間において通信に関与する衛星は2つであるが、地上局80と地上局81との位置関係に応じて、通信に関与する衛星は1つ又は3つ以上となり得る。纏めると、非静止衛星通信システムにおいて、送信側の地上局80から受信側の地上局81に至る区間(以下、システム区間と表記する)の距離は時間共に変動し、よって、システム区間における通信遅延は時間と共に変動する。
【0009】
BBRは、キューイング遅延以外の遅延(例えば、距離に基づく遅延等)が一定であることを前提に、RTTの増加をキューイング遅延の増加と見做して行う輻輳制御である。しかしながら、非静止衛星通信システムにおいては、システム区間の距離が変動するため、BBRを適用すると、システム区間の距離の変動によるRTTの増加をキューイング遅延の増加と見做して制御してしまうため、精度良く輻輳制御を行うことができなくなる。
【0010】
本開示は、非静止衛星通信システムを介する通信においてキューイング遅延以外の遅延の変動を抑える技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様によると、非静止衛星通信システムの調整装置は、第1地上局から1つ以上の非静止衛星を介して第2地上局に至る搬送区間を搬送されるパケットについて、前記搬送区間における通信遅延の最大値を判定し、前記パケットの前記非静止衛星通信システムにおける処理時刻に基づき、前記搬送区間の搬送における前記パケットの通信遅延を推定して推定値を求め、前記最大値と前記推定値とに基づき前記パケットに与える遅延量を判定する判定手段と、前記判定手段が判定した前記遅延量の遅延を前記パケットに与える遅延手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本開示によると、非静止衛星通信システムを介する通信においてキューイング遅延以外の遅延の変動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】非静止衛星通信システムにおける通信例を示す図。
【
図2】一実施形態による、非静止衛星通信システムのシステム構成図。
【
図4】非静止衛星通信システムにおける、通信距離の変動による通信遅延の変動例を示す図。
【
図5】一実施形態による、非静止衛星通信システムのシステム構成図。
【
図6】一実施形態による、非静止衛星通信システムのシステム構成図。
【
図7】一実施形態による、非静止衛星通信システムのシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
<第一実施形態>
図2は、本実施形態による非静止衛星通信システムのシステム構成図である。
図2において、衛星システム3は、複数の非静止衛星を含む。地上局1は、衛星システム3に無線信号を送信する。地上局2は、衛星システム3から無線信号を受信する。なお、以下の説明においては、地上局1を送信側とし、地上局2を受信側とするが、地上局1は受信側にもなり、地上局2は送信側にもなる。また、非静止衛星通信システムは、地上局1及び地上局2とは異なる複数の地上局を含み得るが、各地上局の構成は同様である。
【0016】
地上局1の無線装置10は、図示しない送信側通信装置からの送信パケットを受信し、当該送信パケットに基づく無線信号を衛星システム3に送信する。無線信号は、送信パケットを搬送する信号、つまり、送信パケットを含む信号である。送信側通信装置は、無線装置10に、直接、送信パケットを送信するものであっても、データネットワークを介して無線装置10に送信パケットを送信するものであっても良い。
【0017】
衛星システム3は、地上局1から受信した無線信号を地上局2の無線装置20に送信する。なお、衛星システム3は、無線信号が搬送する送信パケットの宛先に基づき無線信号を送信する地上局を判定し得る。或いは、衛星システム3は、無線装置10が無線信号のヘッダに格納する地上局2の識別子に基づき無線信号を送信する地上局が地上局2であると判定し得る。この場合、無線装置10は、送信パケットの宛先に基づき当該送信パケットを送信する地上局を判定し、判定した地上局の識別子を無線信号のヘッダに格納する。衛星システム3は、必要に応じて非静止衛星間で無線信号の中継を行う。無線装置20は、受信した無線信号を復調して得た送信パケットを調整装置5に送信する。
【0018】
図3は、調整装置5の構成図である。遅延量判定部51は、まず、地上局1から地上局2に至るシステム区間の距離による通信遅延の最大値Dmaxを判定する。上述した様に、システム区間の距離は時間と共に変動し、距離による通信遅延も時間と共に変動する。
図4は、システム区間の距離変動による通信遅延の時間変化の例を示している。
図4に示す様に、通信遅延は、最小値Dminと最大値Dmaxとの間で変動する。通信遅延の最大値Dmaxは、衛星システム3における各非静止衛星の軌道情報と、地上局1の位置(例えば、緯度、経度、高度)と、地上局2の位置と、に基づき判定することができる。なお、非静止衛星の軌道情報は、当該非静止衛星の時刻と位置との関係を示す情報を含む。軌道情報及び地上局2の位置については、調整装置5において既知である。したがって、以下では、地上局1の位置の判定方法について説明する。
【0019】
遅延量判定部51は、例えば、地上局1の位置を無線装置10から取得する。この場合、無線装置10は、地上局1の位置を示す位置情報を送信パケットのヘッダ又は無線信号のヘッダに含める。なお、無線装置10から地上局1の位置(緯度、経度、高度)そのものを直接的に示す情報を取得するのではなく、無線装置10の識別子を取得する構成とすることもできる。この場合、各地上局について、地上局の識別子と、当該地上局の位置を示す位置情報との関係を示すデータベースを調整装置5に設ける。或いは、調整装置5が当該データベースにアクセスできる様に調整装置5を構成する。遅延量判定部51は、無線装置10から取得する地上局1の識別子に基づきデータベースを参照して地上局1の位置を判定することができる。なお、遅延量判定部51は、無線信号のヘッダに含まれている情報については無線装置20から取得する。
【0020】
なお、本実施形態における最大値Dmaxは、送信側の地上局と受信側の地上局とが決まれば時刻に拘わらず一定の値である。したがって、例えば、他の地上局の識別子と、当該他の地上局との最大値Dmaxとの関係を示すデータベースを調整装置5の内部又は外部に設け、当該データベースを参照することで最大値Dmaxを判定する構成とすることもできる。
【0021】
遅延量判定部51は、さらに、受信した送信パケットがシステム区間で伝送された距離を判定し、当該距離に基づく通信遅延Dactを推定又は判定する。このため、無線装置10は、送信パケットのヘッダ又は無線信号のヘッダに、地上局1での送信パケットの処理期間内における所定時刻(以下、処理時刻)を含める。処理時刻は、例えば、無線装置10における送信パケットの受信時刻や、送信パケットに対応する無線信号の送信時刻であり得る。また、処理時刻は、当該受信時刻から当該送信時刻の間における所定の時刻であり得る。遅延量判定部51は、処理時刻と、軌道情報と、地上局1の位置と、地上局2の位置と、に基づき、送信パケットがシステム区間を搬送された際の、システム区間の距離を判定し、判定した距離に基づき通信遅延Dactを判定する。
【0022】
遅延量判定部51は、送信パケットについて求めた最大値Dmaxから通信遅延Dactを減じた期間Daddを求め、期間Daddを遅延部50に通知する。遅延部50は、期間Daddだけ送信パケットをバッファした後、送信パケットを受信側通信装置、又は、データネットワークに送信する。
【0023】
以上の構成により、システム区間の距離の時間変動に拘わらず、システム区間の距離による遅延と、遅延部50が与える遅延との和(以下、システム遅延と表記する。)は、最大値Dmaxで略一定となる。したがって、非静止衛星通信システムを介する通信においてキューイング遅延以外の遅延の変動を抑えることができる。また、システム遅延が略一定になることで、RTTの変動は、キューイング遅延の変動に応じたものとなり、RTTに基づく輻輳制御の精度の劣化を防ぐことができる。
【0024】
<第一実施形態の変形形態>
上記説明において、遅延量判定部51は、地上局1における処理時刻と、軌道情報と、地上局1の位置と、地上局2の位置と、に基づき通信遅延Dactを判定していた。しかしながら、地上局1における処理時刻と、調整装置5における送信パケットの受信時刻との差を通信遅延Dactとすることもできる。なお、衛星システム3の非静止衛星においてもパケットのキューイングを行う場合、この様にして求めた通信遅延Dactは、システム区間の距離に基づく遅延に加えて、衛星システム3におけるキューイング遅延を含むことになる。したがって、衛星システム3におけるキューイング遅延量が大きく変化し、かつ、衛星システム3におけるキューイング遅延を輻輳制御において反映させる場合には、この様にして通信遅延Dactを求めることは好ましくない。しかしながら、衛星システム3におけるキューイング遅延の変化量が小さい場合や、衛星システム3におけるキューイング遅延を輻輳制御において反映させる必要が無い場合には、処理時刻と受信時刻との差を通信遅延Dactとすることができる。
【0025】
また、上記説明において、遅延量判定部51は、地上局1から処理時刻を取得していた。しかしながら、遅延量判定部51が送信パケットを受信した時刻を処理時刻として通信遅延Dactを判定することができる。なお、この場合、無線装置1は、送信パケットのヘッダ又は無線信号のヘッダに処理時刻は含める必要はない。なお、遅延量判定部51での送信パケットの受信時刻は、衛星システム3におけるキューイング遅延の影響を受けるため、当該受信時刻を処理時刻として求めた通信遅延Dactの精度は、地上局1から取得した処理時刻に基づく通信遅延Dactの精度より低くなる。なお、本開示は、遅延量判定部51が送信パケットを受信した時刻を処理時刻とすることに限定されず、無線装置20が無線信号を受信してから遅延量判定部51が送信パケットを受信するまでの任意の時刻を処理時刻とすることもできる。
【0026】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について、第一実施形態との相違点を中心に説明する。
図5は、本実施形態による非静止衛星通信システムのシステム構成図である。本実施形態では、遅延を送信側の地上局1において与える。調整装置5は、送信側通信装置からの送信パケットを受信し、当該送信パケットに期間Daddの遅延を与えた後に、無線装置10に送信する。無線装置10は、当該送信パケットに基づく無線信号を衛星システム3に送信する。本実施形態において、受信側の無線装置20は、受信した無線信号を復調して得た送信パケットを受信側通信装置又はデータネットワークに送信する。
【0027】
調整装置5の構成図も
図3と同様である。以下では、本実施形態における遅延量判定部51の動作について説明する。第一実施形態と同様に、遅延量判定部51は、軌道情報と、地上局1の位置と、地上局2の位置と、に基づき最大値Dmaxを判定する。地上局2の位置を判定するため、遅延量判定部51は、送信パケットの宛先アドレスを無線装置10に通知し、無線装置10から地上局2の識別子を取得する。なお、送信パケットの宛先アドレスに基づき遅延量判定部51が当該送信パケットを受信する地上局2の識別子を判定できる様に構成することもできる。調整装置5は、各地上局について、地上局の識別子と、当該地上局の位置を示す位置情報との関係を示すデータベースを有する、或いは、当該データベースにアクセス可能なように構成される。遅延量判定部51は、地上局2の識別子に基づきデータベースを参照して地上局2の位置を判定する。また、第一実施形態と同様に、他の地上局について、他の地上局の識別子と、当該他の地上局との最大値Dmaxとの関係を示すデータベースを調整装置5の内部又は外部に設け、当該データベースを参照することで最大値Dmaxを判定する構成であっても良い。
【0028】
また、遅延量判定部51は、送信パケットを受信した時刻を処理時刻とし、処理時刻と、軌道情報と、地上局1の位置と、地上局2の位置と、に基づきシステム区間の距離を判定し、判定した距離に基づき通信遅延Dactを判定する。遅延量判定部51は、送信パケットについて求めた最大値Dmaxから通信遅延Dactを減じた期間Daddを求め、期間Daddを遅延部50に通知する。遅延部50は、期間Daddだけ送信パケットをバッファした後、送信パケットを無線装置10に送信する。
【0029】
なお、本実施形態において、無線装置10が無線信号を衛星システム3に送信する時刻は、調整装置5が送信パケットを受信した時刻より期間Daddだけ後になる。したがって、無線装置10が無線信号を送信する時刻におけるシステム区間の距離と、調整装置5が送信パケットを受信した処理時刻におけるシステム区間の距離は異なることになり、システム遅延は最大値Dmaxから乖離する。しかしながら、システム区間の距離の変動周期は数十分程度と、期間Daddと比較して十分に長いため、システム遅延の最大値Dmaxからの乖離量は小さく、大きな問題とはならない。
【0030】
また、システム遅延を最大値Dmaxにより精度良く近づけるために、期間Daddを変数とし、期間Daddそれぞれの値について通信遅延Dactを判定し、その合計が最大値Dmaxとなる様に期間Daddを求める構成とすることができる。
【0031】
以上の構成により、システム区間の距離の変動に拘わらずシステム遅延は最大値Dmaxで略一定となる。したがって、非静止衛星通信システムを介する通信においてキューイング遅延以外の遅延の変動を抑えることができる。また、システム遅延が略一定になることで、RTTの変動は、キューイング遅延の変動に応じたものとなり、RTTに基づく輻輳制御の精度の劣化を防ぐことができる。
【0032】
<第三実施形態>
続いて、第三実施形態について、第一実施形態及び第二実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態では、宇宙区間の距離変動による遅延変動が無視できる、或いは、宇宙区間の距離変動を無視することを前提としている。
図6は、本実施形態による非静止衛星通信システムの構成図である。本実施形態では、遅延を送信側の地上局1及び受信側の地上局2それぞれにおいて与える。地上局1の調整装置5は、送信側通信装置からの送信パケットを受信し、当該送信パケットに期間Dadd1の遅延を与えた後に、無線装置10に送信する。無線装置10は、当該送信パケットに基づく無線信号を衛星システム3に送信する。無線装置20は、受信した無線信号を復調して得た送信パケットを地上局2の調整装置5に送信する。地上局2の調整装置5は、受信した送信パケットに期間Dadd2の遅延を与えた後に受信側通信装置又はデータネットワークに送信する。
【0033】
地上局1の調整装置5の遅延量判定部51は、上り区間の通信遅延の最大値Dmax1を保持している。また、地上局1の調整装置5の遅延量判定部51は、無線装置10に設けられた指向性アンテナ、例えば、パラボラアンテナの仰角を無線装置10から取得する。パラボラアンテナの仰角は、無線信号を送信する方向の仰角であり、無線装置10が現在通信している非静止衛星を無線装置10から見た方向でもある。したがって、地上局1の調整装置5の遅延量判定部51は、仰角に基づき無線装置10が現在通信している非静止衛星との距離を判定でき、よって、上り区間における通信遅延Dact1を推定することができる。地上局1の調整装置5の遅延量判定部51は、最大値Dmax1から通信遅延Dact1を減じた期間をDadd1とする。
【0034】
地上局2の調整装置5の遅延量判定部51も、下り区間の通信遅延の最大値Dmax2を保持している。また、地上局2の調整装置5の遅延量判定部51は、無線装置20に設けられた指向性アンテナ、例えば、パラボラアンテナの仰角を無線装置20から取得する。パラボラアンテナの仰角は、無線信号を受信する方向の仰角であり、無線装置20が現在通信している非静止衛星を無線装置20から見た方向に対応する。したがって、地上局2の調整装置5の遅延量判定部51は、仰角に基づき無線装置20が現在通信している非静止衛星との距離を判定でき、よって、下り区間における通信遅延Dact2を推定することができる。地上局2の調整装置5の遅延量判定部51は、最大値Dmax2から通信遅延Dact2を減じた期間をDadd2とする。
【0035】
以上の構成により、上り区間及び下り区間における遅延は略一定となり、宇宙区間の遅延の変動を無視すると、システム遅延は略一定となる。したがって、非静止衛星通信システムを介する通信においてキューイング遅延以外の遅延の変動を抑えることができる。また、システム遅延が略一定になることで、RTTの変動は、キューイング遅延の変動に応じたものとなり、RTTに基づく輻輳制御の精度の劣化を防ぐことができる。
【0036】
<第四実施形態>
続いて、第四実施形態について、第一実施形態から第三実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態では、衛星システム3内で遅延を与える。
図7は、本実施形態による非静止衛星通信システムの構成図である。無線装置10は、送信側通信装置からの送信パケットを受信して衛星システム3に送信する。衛星システム3は、無線信号に、期間Daddの通信遅延を与えた後、当該無線信号を無線装置20に送信する。無線装置20は、受信した無線信号を復調して得た送信パケットを受信側通信装置又はデータネットワークに送信する。
【0037】
本実施形態において、衛星システム3の各非静止衛星それぞれは、調整装置5を有する。但し、遅延を与えるのは、1つの非静止衛星である。一例として、無線装置20に無線信号を送信する非静止衛星の調整装置5が当該無線信号に遅延を与える。或いは、無線装置10から無線信号を受信した非静止衛星の調整装置5が当該無線信号に遅延を与える構成とすることができる。各非静止衛星は、第一実施形態から第三実施形態で説明したのと同様に、軌道情報と、各地上局の位置を判定するための情報と、を有する。そして、無線信号を受信した時刻を処理時刻としてシステム遅延が最大値Dmaxに近づく様に期間Daddを求める。
【0038】
<第五実施形態>
続いて、第五実施形態について第一実施形態から第四実施形態との相違点を中心に説明する。第一実施形態から第四実施形態においては、総ての送信パケットに対して、システム区間の距離変動による通信遅延を補償する様に遅延を与えていた。本実施形態では、選択的に送信パケットに遅延を与える。例えば、輻輳制御を行うTCPプロトコルについては、送信パケットに遅延を与え、輻輳制御を行わないUDPプロトコルについては、送信パケットに遅延を与えない構成とすることができる。或いは、RTTに基づく輻輳制御を行っているか否かを示すフラグ情報を通信装置が送信パケットのヘッダに格納することを前提に、調整装置5が送信パケットのヘッダのフラグ情報に基づき遅延を与えるか否かを制御する構成とすることもできる。遅延を与える場合の調整装置5の動作は、第一実施形態から第四実施形態で説明したのと同様である。一方、遅延を与えない場合、遅延量判定部51は、期間Daddの算出を行う必要はない。また、送信パケット又は無線信号は、遅延部50をバイパスされる。
【0039】
<第六実施形態>
続いて、第六実施形態について第一実施形態から第五実施形態との相違点を中心に説明する。第一実施形態から第五実施形態においては、システム遅延が最大値Dmaxに近づく様に調整装置5は遅延を与えていた。しかしながら、システム区間の通信距離の変動周期は数十分程度であり、例えば、数十秒程度で終了する通信のパケットに対してはシステム遅延を最大値Dmaxとする遅延を与えなくても、システム遅延を一定にすることができる。このため、本実施形態において、遅延量判定部51は、各通信について、通信期間を判定し、当該通信期間内におけるシステム区間の距離の最大値に基づく通信遅延を最大値Dmaxとする。
【0040】
例えば、遅延量判定51は、TCP等のコネクションを設定するパケットを検出すると、通信の開始を判定する。そして、遅延量判定部51は、TCPパケットのポート番号に基づきアプリケーション(HTTP、FTP)を判定し、判定したアプリケーションに対して予め設定された期間だけ、通信が継続するとして、通信期間を判定することができる。また、予め、通信ができる最大期間が決まっている場合、通信の開始から最大期間後の時刻までを通信期間とすることができる。
【0041】
なお、本開示による調整装置5は、コンピュータを調整装置5として動作させるプログラムにより実現することができる。プログラムは、1つ以上のプロセッサを有する装置の1つ以上のプロセッサで実行されると、当該装置を上記調整装置5として機能させる様に構成される。プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて、又は、ネットワーク経由で配布が可能なものである。
【0042】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【0043】
以上の構成により、非静止衛星通信システムを介する通信においてキューイング遅延以外の遅延の変動を抑えることができる。したがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
50:遅延部、51:遅延量判定部