(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009628
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】クロマトグラフィー品質管理装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20240116BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
G01N30/86 G
G01N30/86 P
G01N30/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111304
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽
(57)【要約】
【課題】クロマトグラフィーにおける精度の高いリニアリティを評価することを課題とする。
【解決手段】クロマトグラフィー品質管理装置1は、クロマトグラフで測定された測定データMDを取得し、測定データMDを記憶装置16に保存する測定データ取得部21と、記憶装置16から測定データMDを読み出し、測定データMDから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、因子分解により得られた成分データCDを記憶装置16に保存するクロマトグラム因子分解部22と、記憶装置16から成分データCDを読み出し、成分データCDを表示装置15に出力する成分データ出力部23とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフで測定された測定データを取得し、前記測定データを記憶装置に保存する測定データ取得部と、
前記記憶装置から前記測定データを読み出し、前記測定データから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、前記因子分解により得られた成分データを前記記憶装置に保存するクロマトグラム因子分解部と、
前記記憶装置から前記成分データを読み出し、前記成分データを表示装置に出力する成分データ出力部と、
を備える、クロマトグラフィー品質管理装置。
【請求項2】
前記因子分解として、SVD、NMF、または、ICAが用いられる、請求項1に記載のクロマトグラフィー品質管理装置。
【請求項3】
前記成分データ出力部は、前記成分データのうち、第1主成分データおよび第2主成分データを前記表示装置に出力する、請求項1または請求項2に記載のクロマトグラフィー品質管理装置。
【請求項4】
前記成分データ出力部は、さらに、第3主成分データを前記表示装置に出力する、請求項3に記載のクロマトグラフィー品質管理装置。
【請求項5】
前記成分データ出力部は、第1主成分データを一方の軸、第2主成分以下のデータを多方の軸として、前記成分データを前記表示装置に出力する、請求項1または請求項2に記載のクロマトグラフィー品質管理装置。
【請求項6】
前記成分データ出力部は、前記成分データの偶関数強度または奇関数強度を前記表示装置に出力する、請求項1または請求項2に記載のクロマトグラフィー品質管理装置。
【請求項7】
前記成分データ出力部は、前記成分データの偶関数強度および奇関数強度の比または差を前記表示装置に出力する、請求項1または請求項2に記載のクロマトグラフィー品質管理装置。
【請求項8】
クロマトグラフで測定された測定データを取得し、前記測定データを記憶装置に保存する工程と、
前記記憶装置から前記測定データを読み出し、前記測定データから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、前記因子分解により得られた成分データを前記記憶装置に保存する工程と、
前記記憶装置から前記成分データを読み出し、前記成分データを表示装置に出力する工程と、
を備える、クロマトグラフィー品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィーの品質を管理する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィーの品質指標としてリニアリティが用いられる。リニアリティは、分析対象物の濃度に対して測定値が直線関係となるようなクロマトグラフィーの能力を示す。下記非特許文献1においては、リニアリティを分析バリデーションの1つの指標として用いている。特許文献1においては、検量線を用いることにより、リニアリティを評価する方法が開示されている。
【0003】
また、クロマトグラフにより得られた測定データに対して、ピーク分離、不純物検出などの分析処理が行われる。下記特許文献1においては、リニアリティが充分にあるクロマトグラフィーにおいて、ピュリティの確認を行う方法が開示されている。つまり、同一物質由来のクロマトグラムは、強度が異なる場合であってもスペクトルが相似形状となることを利用して、不純物がないことの確認を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大河原正光,標準化教育プログラム「個別技術分野編-化学分野」,2008年12月23日,日本ダイオネクス(株),インターネット<https://www.jsa.or.jp/datas/media/10000/md_2507.pdf>
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/029508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常の分析バリデーションでは、ピークの面積値が大きく変動しなければ、多少のリニアリティの劣化は大きな問題とならない。しかし、中分子医薬品などのピュリティの確認において、類縁不純物が含まれるか否かを判別する場合、0.05%オーダの不純物を検出する必要がある。さらに、一般に類縁化合物はその光学・質量分析スペクトルともに主成分との類似度が高いため、極めて小さいスペクトル変動を捉える必要がある。そのような極めて小さいスペクトル変動に見合ったリニアリティを検量線から求めることは、試料調合の点から困難を伴う。
【0007】
また、一般にリニアリティを確認するために、カフェインなどの標準試料が用いられる。しかし、分光器によって分光された光を検出する検出器においては、正規の経路外から検出器に入射する光(迷光)によってリニアリティが劣化する場合がある。このように、波長依存性があるリニアリティ劣化も存在するため、標準試料ではなく実際の測定データを用いてリニアリティを確認する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、クロマトグラフィーにおける精度の高いリニアリティを評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面に従うクロマトグラフィー品質管理装置は、クロマトグラフで測定された測定データを取得し、測定データを記憶装置に保存する測定データ取得部と、記憶装置から測定データを読み出し、測定データから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、因子分解により得られた成分データを記憶装置に保存するクロマトグラム因子分解部と、記憶装置から成分データを読み出し、成分データを表示装置に出力する成分データ出力部とを備える。
【0010】
本発明の他の局面に従うクロマトグラフィー品質管理方法は、クロマトグラフで測定された測定データを取得し、測定データを記憶装置に保存する工程と、記憶装置から測定データを読み出し、測定データから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、因子分解により得られた成分データを記憶装置に保存する工程と、記憶装置から成分データを読み出し、成分データを表示装置に出力する工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クロマトグラフィーにおける精度の高いリニアリティを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態に係るクロマトグラフィー品質管理装置の構成図である。
【
図2】本実施の形態に係るクロマトグラフィー品質管理装置の機能ブロック図である。
【
図3】測定データを因子分解することにより得られた成分データを示す図である。
【
図4】リニアリティ劣化が生じている場合において、測定データを因子分解することにより得られた成分データを示す図である。
【
図5】不純物が含まれる測定データを因子分解することにより得られた成分データを示す図である。
【
図6】リニアリティ劣化が生じている場合において、不純物が含まれる測定データを因子分解することにより得られた成分データを示す図である。
【
図7】実施の形態に係るクロマトグラフィー品質管理方法を示すフローチャートである。
【
図8】測定データを因子分解することにより得られた成分データを別の表示態様で示す図である。
【
図9】リニアリティ劣化が生じている場合において、測定データを因子分解することにより得られた成分データを別の表示態様で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係るクロマトグラフィー品質管理装置および方法について説明する。
【0014】
(1)クロマトグラフィー品質管理装置の構成
図1は、実施の形態に係るクロマトグラフィー品質管理装置1の構成図である。本実施の形態のクロマトグラフィー品質管理装置1は、液体クロマトグラフまたはガスクロマトグラフなどのクロマトグラフにおいて得られた試料の測定データMDを取得する。クロマトグラフィー品質管理装置1は、測定データMDを分析することにより、クロマトグラフィーの品質を確認する。
【0015】
本実施の形態のクロマトグラフィー品質管理装置1は、例えば、パーソナルコンピュータにより構成される。クロマトグラフィー品質管理装置1は、
図1に示すように、CPU(Central Processing Unit)11、RAM(Random Access Memory)12、ROM(Read Only Memory)13、操作部14、ディスプレイ15、記憶装置16、通信インタフェース(I/F)17、デバイスインタフェース(I/F)18を備える。
【0016】
CPU11は、クロマトグラフィー品質管理装置1の全体制御を行う。RAM12は、CPU11がプログラムを実行するときにワークエリアとして使用される。ROM13には、各種データ、プログラムなどが記憶される。操作部14は、ユーザによる入力操作を受け付ける。操作部14は、キーボードおよびマウスなどを含む。ディスプレイ15は、クロマトグラフィーの品質を確認するための情報を表示する。記憶装置16は、ハードディスクなどの記憶媒体である。記憶装置16には、プログラムP1、測定データMDおよび成分データCDが記憶される。プログラムP1は、クロマトグラムを取得する処理、クロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、成分データCDを取得する処理、成分データCDをディスプレイ15に表示する処理などを実行する。通信インタフェース17は、他のコンピュータとの間で有線または無線による通信を行うインタフェースである。デバイスインタフェース18は、CD、DVD、半導体メモリなどの記憶媒体19にアクセスするインタフェースである。
【0017】
(2)クロマトグラフィー品質管理装置の機能構成
図2は、クロマトグラフィー品質管理装置1の機能構成を示すブロック図である。
図2において、制御部20は、CPU11がRAM12をワークエリアとして使用しつつ、プログラムP1を実行することにより実現される機能部である。制御部20は、測定データ取得部21、クロマトグラム因子分解部22および成分データ出力部23を備える。つまり、測定データ取得部21、クロマトグラム因子分解部22および成分データ出力部23は、プログラムP1の実行により実現される機能部である。言い換えると、各機能部21~23は、CPU11が備える機能部である。
【0018】
測定データ取得部21は、クロマトグラフにおいて測定された測定データMDを取得する。測定データ取得部21は、例えば、通信インタフェース17を介して他のコンピュータや分析装置などから測定データMDを入力する。あるいは、測定データ取得部21は、デバイスインタフェース18を介して、記憶媒体19に保存された測定データMDを入力する。測定データ取得部21は、取得した測定データMDを記憶装置16に保存する。
【0019】
クロマトグラム因子分解部22は、記憶装置16から測定データMDを読み出し、測定データMDから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、因子分解により得られた成分データCDを記憶装置16に保存する。
【0020】
成分データ出力部23は、記憶装置16から成分データCDを読み出し、成分データCDをディスプレイ15に出力する。成分データ出力部23は、成分データCDをクロマトグラフィーの品質を確認することが可能な態様で表示する。ディスプレイ15は、本発明における表示装置の例である。
【0021】
プログラムP1は、記憶装置16に保存されている場合を例として説明する。他の実施の形態として、プログラムP1は、記憶媒体19に保存されて提供されてもよい。CPU11は、デバイスインタフェース18を介して記憶媒体19にアクセスし、記憶媒体19に保存されたプログラムP1を、記憶装置16またはROM13に保存するようにしてもよい。あるいは、CPU11は、デバイスインタフェース18を介して記憶媒体19にアクセスし、記憶媒体19に保存されたプログラムP1を実行するようにしてもよい。あるいは、CPU11は、通信インタフェース17を介してネットワーク上のサーバからプログラムP1をダウンロードし、ダウンロードしたプログラムP1を、記憶装置16またはROM13に保存するようにしてもよい。
【0022】
(3)測定データ
本実施の形態において、測定データ取得部21が取得する測定データMDは、クロマトグラフが備える多次元検出器によって取得された多次元のデータである。ここでは、測定データMDは、保持時間方向、スペクトル方向(周波数方向)および強度の要素を有する3次元データである場合を例に説明する。この場合、測定データMDは、例えば保持時間方向を行、スペクトル方向を列とし、強度を要素として持つ行列データとして表される。例えば、測定データMDは、PDA検出器(フォトダイオードアレイ検出器)を備える液体クロマトグラフにおいて取得されたデータである。
【0023】
クロマトグラム因子分解部22は、測定データ取得部21が取得した測定データMDを因子分解することで、測定データMDの次元圧縮を行う。ここでは、保持時間方向、スペクトル方向および強度の要素を有する測定データMDをスペクトル方向に次元圧縮する場合を例に説明する。スペクトル方向に圧縮された各次元のデータを、成分データCDと呼ぶ。
図1に示すように、成分データCDは、第1主成分データ、第2主成分データ、第3主成分データ・・・というように、複数の次元のデータを含む。本実施の形態においては、クロマトグラム因子分解部22は、特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)を利用した因子分解により次元圧縮を行う。因子分解としては、SVD次元圧縮以外の方法が用いられてもよい。例えば、因子分解として、NMF(非負値因子分解:Nonnegative Matrix Factorization)、ICA(独立成分分析:Independent Component Analysis)などを用いることができる。
【0024】
図3は、SVD次元圧縮により縮約された測定データMDを示す図である。つまり、
図3は、測定データMDを因子分解することにより得られた成分データCDを示す図である。
図3において、横軸は保持時間、縦軸は強度を示す。
図3においては、成分データCDのうち、第1~第4主成分データを示した図である。スペクトル成分はベースラインおよびピーク信号の2つであるため、第1主成分データおよび第2主成分データにおいて有意な信号が現れ、第3主成分データおよび第4主成分データは、ノイズだけが含まれる。なお、
図3において第1主成分データは左目盛り、第2~4主成分データは右目盛りを参照する。したがって、第1主成分データと第2~4主成分データとは強度の表示スケールが異なる。
【0025】
図4は、リニアリティ劣化が生じている場合において、測定データMDを因子分解することにより得られた成分データCDを示す図である。リニアリティ劣化が迷光由来または電気回路由来のものである場合、一般にクロマトグラムの強度に相関してリニアリティ劣化度合いが変わる。第1主成分データには主成分のクロマトグラムの波形が強く現れ、第2主成分データ以降のデータ(第n主成分データ)には、クロマトグラム波形の強度に応じたリニアリティ劣化が現れる。
【0026】
本実施の形態においては、因子分解としてSVDを用いているので、
図4に示すように、第2主成分データには、リニアリティ劣化がWの字の歪み波形WR2として現れる。同様に、第3主成分データには、リニアリティ劣化がWの字の歪み波形WR3として現れる。つまり、クロマトグラムに含まれるピーク形状が左右対称である場合(ある時間の前後で対称である場合)、リニアリティ劣化に由来する波形の歪みも、第n主成分データにおいて左右対称(ある時間の前後で対称)に現れる。
【0027】
図5は、リニアリティ劣化は生じていない場合において、不純物を含む測定データMDを因子分解することにより得られた成分データCDを示す図である。
図5においては、リニアリティ劣化が生じていない場合であるので、第2主成分データおよび第3主成分データには、リニアリティ劣化由来の歪み波形が現れていない。この例では因子分解としてSVDを用いているが、
図4で示したようなWの字の歪み波形は現れていない。
【0028】
これに対して、
図5においては、第2主成分データに不純物由来の歪み波形WD2が現れる。同様に、第3主成分データに不純物由来の歪み波形WD3が現れる。歪み波形WD2およびWD3は、不純物ピークに由来する歪みであり、リニアリティ劣化に由来するものではない。したがって、歪み波形WD2およびWD3には、
図4で示した歪み波形WR2およびWR3に見られるような対称性はない。
【0029】
図6は、リニアリティ劣化が生じている場合において、不純物を含む測定データMDを因子分解することにより得られた成分データCDを示す図である。リニアリティ劣化と不純物ピークの両方がある場合は、それぞれに起因する歪み波形の加算が現れる。つまり、
図4で示した対称性のある歪み波形と
図5で示した対称性のない歪み波形が加算された波形が
図6において現れる。したがって、
図6に示すように、部分的に対称性の崩れたW字の歪み波形が、第n主成分データに現れる。
【0030】
(4)クロマトグラフィー品質管理方法
次に、
図7のフローチャートを参照しながら、本実施の形態のクロマトグラフィー品質管理方法について説明する。
図7のフローチャートは、CPU11がプログラムP1を実行することにより実現される処理である。
【0031】
ステップS1において、測定データ取得部21がクロマトグラフで測定された測定データMDを取得する。測定データ取得部21は、測定データMDを記憶装置16に保存する。
【0032】
ステップS2において、クロマトグラム因子分解部22が、記憶装置16から測定データMDを読み出し、測定データMDから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮する。
【0033】
ステップS3において、クロマトグラム因子分解部22が、因子分解により得られた成分データCDを記憶装置16に保存する。
図1に示すように、記憶装置16に保存される成分データCDには、複数の次元のデータが含まれる。クロマトグラム因子分解部22は、例えば、第1~第4主成分データなど、設定された次元数の成分データCDを記憶装置16に保存する。成分データCDとして保存する次元数は、ユーザにより設定可能とすればよい。
【0034】
ステップS4において、成分データ出力部23が、記憶装置16から各成分データCDを読み出し、各成分データCDをディスプレイ15に出力する。これにより、ディスプレイ15には、
図3~
図6で示したような成分データCDのグラフが表示される。具体的には、成分データCDに含まれる第1~第n主成分データを、時間軸を合わせて重ねて表示させる。このとき、
図3~
図6で示したように、強度の表示スケールは異なってもよい。例えば、
図3で示すようなグラフがディスプレイ15に表示されることにより、ユーザは、測定データMDを生成したクロマトグラフィーのリニアリティが劣化していないことを確認することができる。例えば、
図4で示すようなグラフがディスプレイ15に表示されることにより、ユーザは、測定データMDを生成したクロマトグラフィーのリニアリティが劣化していることを確認することができる。例えば、
図5で示すようなグラフがディスプレイ15に表示されることにより、ユーザは、測定データMDを生成したクロマトグラフィーのリニアリティが劣化していないこと、および、測定データMDには不純物が含まれていることを確認することができる。例えば、
図6で示すようなグラフがディスプレイ15に表示されることにより、ユーザは、測定データMDを生成したクロマトグラフィーのリニアリティが劣化していること、および、測定データMDには不純物が含まれていることを確認することができる。
【0035】
図3~
図6で示したように、この例では、成分データ出力部23は、成分データCDのうち、第1~第4主成分データをディスプレイ15に表示させたが、表示させる次元数はユーザにより設定可能とすればよい。測定データMDには、主成分とベースラインの2つの信号が含まれるため、少なくとも第1および第2主成分データについては表示させることが好ましい。また、
図4に示したように、リニアリティ劣化については、第3主成分データにおいても確認しやすいので、第1、第2に加えて第3主成分データまで表示させることも有効である。また、
図5に示したように、不純物の有無については、第3主成分データにおいて確認しやすいので、第1、第2に加えて第3主成分データまで表示させることが好ましい。
【0036】
このように、測定データMDを因子分解することにより得られた成分データCDを参照することで、ユーザは、クロマトグラフィーにリニアリティ劣化が生じているか否か、または、測定データMDに不純物が含まれているか否かを確認することができる。本実施の形態のクロマトグラフィー品質管理装置1を用いることにより、分析バリデーションにおいては問題とならないような小さなレベルのリニアリティの劣化を確認することができる。例えば、検量線においては判断することのできない、微小なリニアリティ劣化を確認することができる。
【0037】
また、従来の分析バリデーションのように、標準試料を用いて検量線を作成することでリニアリティを確認する方法とは異なり、本実施の形態のクロマトグラフィー品質管理装置1は、実際の測定データMDを用いて、クロマトグラフィーのリニアリティを確認することができる。したがって、波長依存性のあるリニアリティ劣化についても確認することが可能である。
【0038】
(5)変形例
図8および
図9は、成分データ出力部23がディスプレイ15に表示させる成分データCDの変形例を示す図である。
図8および
図9においては、横軸を第1主成分データの強度、縦軸を第n主成分データの強度として作成したグラフを示す。
図8は、
図3に示す第1~第4主成分データと同じデータを、書き換えた図である。つまり、リニアリティ劣化が生じていない場合において、測定データMDを因子分解することにより得られた成分データCDを示す図である。
図9は、
図4に示す第1~第4主成分データと同じデータを、書き換えた図である。つまり、リニアリティ劣化が生じている場合において、測定データMDを因子分解することにより得られた成分データCDを示す図である。このように、リニアリティ劣化が生じていない場合には、グラフは直線的な形状を示すのに対して、リニアリティ劣化が生じている場合には、グラフは曲線的な形状(弓型の形状)を示す。このような表示態様とすることでも、リニアリティ劣化を視覚的にユーザに提示することが可能である。別の例として、成分データ出力部23は、縦軸を第1主成分データの強度、横軸を第n主成分データの強度として作成したグラフを出力してもよい。
【0039】
また、別の変形例として、成分データ出力部23は、リニアリティ劣化由来の成分強度や不純物由来の成分強度を抽出してディスプレイ15に表示させてもよい。例えば、クロマトグラムのピークトップを中心とした偶関数成分と奇関数成分を抽出し、それら抽出した信号強度の代表値をディスプレイ15に表示させてもよい。上述したように、成分データCDにおいて、リニアリティ劣化は対称性を有する形状を有し、不純物は対称性のない形状を有している。例えば、クロマトグラムのピーク中心を時間t=0として、クロマトグラムのピーク幅に相関した適当なピーク幅Wを設定する。そして、入力信号i(t)に対して、Σi(t)*cos(t/w)(-π<t/w<π)を偶関数強度の指標とし、Σi(t)*sin(t/w)(-π<t/w<π)を奇関数強度の指標としてディスプレイ15に表示させてもよい。ユーザは、偶関数強度の指標の大きさにより、リニアリティ劣化の有無を確認することができる。また、ユーザは、奇関数強度の指標の大きさにより、不純物の有無を確認することができる。あるいは、成分データ出力部23は、偶関数強度の指標と奇関数強度の指標の比または差をディスプレイ15に表示させてもよい。これによっても、ユーザは、リニアリティ劣化の有無と不純物の有無を把握することが可能である。
【0040】
上記の実施の形態では、測定データMDが、PDA検出器を備える液体クロマトグラフから取得された3次元データである場合を例に説明した。他の例として、測定データMDは、液体クロマトグラフィー質量分析計のスキャンモードで取得された3次元データであってもよい。この場合、測定データMDは、保持時間、マススペクトルおよび強度の3次元データである。
【0041】
(6)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0042】
(第1項)
一態様に係るクロマトグラフィー品質管理装置は、
クロマトグラフで測定された測定データを取得し、前記測定データを記憶装置に保存する測定データ取得部と、
前記記憶装置から前記測定データを読み出し、前記測定データから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、前記因子分解により得られた成分データを前記記憶装置に保存するクロマトグラム因子分解部と、
前記記憶装置から前記成分データを読み出し、前記成分データを表示装置に出力する成分データ出力部と、
を備える。
【0043】
クロマトグラフィーにおける精度の高いリニアリティを評価することができる。
【0044】
(第2項)
第1項に記載のクロマトグラフィー品質管理装置において、
前記因子分解として、SVD、NMF、または、ICAが用いられてもよい。
【0045】
目的に応じて因子分解の方法を選択することができる。
【0046】
(第3項)
第1項または第2項に記載のクロマトグラフィー品質管理装置において、
前記成分データ出力部は、前記成分データのうち、第1主成分データおよび第2主成分データを前記表示装置に出力してもよい。
【0047】
ユーザは、主成分およびベースラインの信号の様子を確認することで、リニアリティの有無や不純物の有無を確認することができる。
【0048】
(第4項)
第3項に記載のクロマトグラフィー品質管理装置において、
前記成分データ出力部は、さらに、第3主成分データを前記表示装置に出力してもよい。
【0049】
ユーザは、リニアリティの有無や不純物の有無を確認することができる。
【0050】
(第5項)
第1項または第2項に記載のクロマトグラフィー品質管理装置において、
前記成分データ出力部は、第1主成分データを一方の軸、第2主成分以下のデータを多方の軸として、前記成分データを前記表示装置に出力してもよい。
【0051】
ユーザは、異なる態様で、リニアリティの有無や不純物の有無を確認することができる。
【0052】
(第6項)
第1項または第2項に記載のクロマトグラフィー品質管理装置において、
前記成分データ出力部は、前記成分データの偶関数強度または奇関数強度を前記表示装置に出力してもよい。
【0053】
ユーザは、リニアリティの有無や不純物の有無を確認することができる。
【0054】
(第7項)
第1項または第2項に記載のクロマトグラフィー品質管理装置において、
前記成分データ出力部は、前記成分データの偶関数強度および奇関数強度の比または差を前記表示装置に出力してもよい。
【0055】
ユーザは、リニアリティの有無や不純物の有無を確認することができる。
【0056】
(第8項)
他の態様に係るクロマトグラフィー品質管理方法は、
クロマトグラフで測定された測定データを取得し、前記測定データを記憶装置に保存する工程と、
前記記憶装置から前記測定データを読み出し、前記測定データから得られるクロマトグラムを因子分解により次元圧縮し、前記因子分解により得られた成分データを前記記憶装置に保存する工程と、
前記記憶装置から前記成分データを読み出し、前記成分データを表示装置に出力する工程と、
を備える。
【0057】
クロマトグラフィーにおける精度の高いリニアリティを評価することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…クロマトグラフィー品質管理装置、11…CPU、12…RAM、13…ROM、14…操作部、15…ディスプレイ、16…記憶装置、21…測定データ取得部、22…クロマトグラム因子分解部、23…成分データ出力部、P1…プログラム、MD…測定データ、CD…成分データ