(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096330
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】抗MET抗体とその利用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240705BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240705BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240705BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240705BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240705BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240705BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240705BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C07K16/28
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K48/00
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P13/12
A61P3/10
A61P1/16
A61P1/04
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074907
(22)【出願日】2024-05-02
(62)【分割の表示】P 2022093880の分割
【原出願日】2017-06-23
(31)【優先権主張番号】1611123.9
(32)【優先日】2016-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】518460576
【氏名又は名称】アゴマブ セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】パオロ ミキエリ
(57)【要約】
【課題】本発明は、アゴニスト性抗MET抗体と、疾患の治療的処置におけるその利用に関する。
【解決手段】この抗体は、ヒトとマウスの肝細胞増殖因子(HGF)受容体(METとしても知られる)に大きな親和性で結合するとともに、ヒトMETとマウスMET両方のアゴニストであり、HGFが結合する効果と似た分子効果と細胞効果を生じさせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、
H-CDR1は、配列番号2として示されるアミノ酸配列を含み、
H-CDR2は、配列番号4として示されるアミノ酸配列を含み、
H-CDR3は、配列番号6として示されるアミノ酸配列を含み、
L-CDR1は、配列番号79として示されるアミノ酸配列を含み、
L-CDR2は、配列番号81として示されるアミノ酸配列を含み、そして
L-CDR3は、配列番号83として示されるアミノ酸配列を含む、抗体または抗原結合フラグメントであって、前記抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトMETタンパク質(hMET)と高親和性で結合し、かつマウスMETタンパク質(mMET)と高親和性で結合し、そしてhMETアゴニストおよびmMETアゴニストである、前記抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項2】
前記重鎖可変ドメインが、配列番号155のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、95%、97%、もしくは99%同一の配列を含むか、またはそれらからなり、そして前記軽鎖可変ドメインが、配列番号156のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、95%、97%、もしくは99%同一の配列を含むか、またはそれらからなる、請求項1に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項3】
全長モノクローナル抗体またはF(ab')2フラグメントである、請求項1または2に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項4】
IgGクラスの免疫グロブリンである請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントの親和性バリアントまたはヒト生殖細胞バリアント。
【請求項6】
以下の条件:
・ヒトIgGのヒンジ領域を含み、
・ヒトIgGのCH2ドメインを含み、
・ヒトIgGのCH3ドメインを含み;
・ヒトIgGに対して少なくとも90%、95%、97%、又は99%一致する配列を有し;
・VHドメイン又は1又は複数のCDRが、ラクダ科の動物由来であり、
・VLドメイン又は1又は複数のCDRが、ラクダ科の動物由来であり、
・VHドメイン又は1又は複数のCDRが、ラクダ科の動物のラマ由来であり、
・VLドメイン又は1又は複数のCDRが、ラクダ科の動物のラマ由来である
の1又は複数に適合する、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項7】
ヒトIgGがIgG1である、請求項6に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項8】
前記CH2ドメインが、1つ以上の抗体エフェクタ機能を低減または実質的に欠くように改変されている、請求項6に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項9】
前記CH3ドメインが、1つまたは複数の抗体エフェクタ機能を低減または実質的に欠くように改変されている、請求項6に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項10】
完全にヒト由来の抗体または抗原結合フラグメントにグラフトされた配列番号2のH-CDR1、配列番号配列番号4のH-CDR2、配列番号配列番号6のH-CDR3、配列番号配列番号79のL-CDR1、配列番号配列番号81のL-CDR2、および配列番号配列番号83のL-CDR3を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項11】
前記重鎖が、配列番号199のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、又はそれらと少なくとも90%、95%、97%もしくは99%同一な配列を含み、そして前記軽鎖が、配列番号 200のアミノ酸配列を含むか、またはからなり、又はそれらと少なくとも90%、95%、97%もしくは99%同一な配列からなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項13】
宿主細胞または無細胞発現系における抗体またはその抗原結合フラグメントの発現を可能にする調節配列に作動可能に連結した、請求項12に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項14】
請求項13記載の発現ベクターを含む宿主細胞または無細胞発現系。
【請求項15】
請求項13に記載の宿主細胞または無細胞発現系を、抗体または抗原結合フラグメントの発現を可能にする条件下で培養し、発現した抗体または抗原結合フラグメントを回収することを含む、組換え抗体またはその抗原結合フラグメントの製造方法。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントと、少なくとも1種の薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項17】
治療に使用する医薬の製造における、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体もしくは抗原結合フラグメント、または請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
ヒト患者で肝障害を治療または予防するための、
ヒト患者で腎損傷を治療または予防するための、
ヒト患者で炎症性腸疾患を治療または予防するための
ヒト患者で糖尿病を治療または予防するための、ヒト患者で非アルコール性脂肪性肝炎を治療または予防するための
ヒト患者で傷の治癒を促進するための医薬組成物であって、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、前記医薬組成物。
【請求項19】
前記肝障害が、急性肝障害又は慢性肝障害であり;
前記腎損傷が、急性腎損傷であり;
前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎であり;
前記糖尿病が、I型またはII型の糖尿病であり;あるいは
前記傷の治療を促進することが糖尿病を患う患者において行われる、請求項18に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトとマウスの肝細胞増殖因子(HGF)受容体(METとしても知られる)に大きな親和性で結合する抗体と抗原結合フラグメントに関する。この抗体と抗原結合フラグメントは、ヒトMETとマウスMET両方のアゴニストであり、HGFが結合する効果と似た分子効果と細胞効果を生じさせる。本発明はさらに、METのアゴニストである抗体と抗原結合フラグメントの治療への利用に関する。
【背景技術】
【0002】
HGFは間葉起源の多機能サイトカインであり、特徴的な一連の生体機能(細胞増殖、運動性、分化、生存が含まれる)を媒介する。HGF受容体(METとしても知られる)は多彩な組織で発現しており、その組織に含まれるのは、あらゆる表皮、内皮、筋肉細胞、神経細胞、骨芽細胞、造血細胞、免疫系のさまざまな成分である。
【0003】
HGFとMETのシグナル伝達は胚発生において重要な役割を演じていて、前駆細胞の移動をガイドし、細胞の生死を決めている。成人では、HGF/METシグナル伝達は通常は休止状態だが、傷の治癒と組織再生のときに復活する。いくつかのがんと腫瘍はHGF/METシグナル伝達を横取りして宿主生物の中で自らの生存と増殖を促進する。そのためHGF-MET軸の抑制が抗がん治療の標的として注目されているが、成功は限られている。
【0004】
組み換えHGFは、組織の治癒と再生において果たす役割が理由で、多数の病気(変性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝疾患、移植関連障害が含まれる)の治療薬としても研究されてきた。しかし組み換えHGFは薬理学的特性が不十分である。すなわち、生物活性になるためにはタンパク質分解による活性化を必要とし;一旦活性化されると生体内の半減期が極めて短く;工業的生産は複雑で高価である。
【0005】
HGFのやり方を模倣してMETを活性化するさまざまなアゴニスト性抗MET抗体が代替物として提案されてきた。
【0006】
HGF活性を少なくとも部分的に模倣する以下の抗体が報告されている:(i)3D6マウス抗ヒトMET抗体(アメリカ合衆国特許第6,099,841号);(ii)5D5マウス抗ヒトMET抗体(アメリカ合衆国特許第5,686,292号);(iii)NO-23マウス抗ヒトMET抗体 (アメリカ合衆国特許第7,556,804 B2号);(iv)B7ヒトナイーブ抗ヒトMET抗体(アメリカ合衆国特許出願公開第2014/0193431 A1号);(v)DO-24マウス抗ヒトMET抗体 (Prat他、Mol Cell Biol. 第11巻、5954~5962ページ、1991年;Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年);(vi)DN-30マウス抗ヒトMET抗体 (Prat他、Mol Cell Biol. 第11巻、5954~5962ページ、1991年;Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年)。
【発明の概要】
【0007】
例えば背景技術の項に記載した現在作製されているアゴニスト性抗MET抗体は、アンタゴニスト性分子を同定することを目的としたプロセスからの副産物として得られることがしばしばあり、明示的に治療を目的としたアゴニスト性分子となるように設計されてはいない。さらに、先行技術の抗MET抗体の最も明らかな限界は、マウス系で作製されてきたことである(ヒトナイーブファージライブラリを用いて同定されたB7は除く)。その結果、これらの抗体がマウスMETと交差反応性を示す可能性は小さい。自己抗原に対する小さな交差反応性が原則として可能であるとしても、その相互作用の親和性は通常は非常に小さい。
【0008】
交差反応性の欠如は、がんのマウスモデルでは(ヒト異種移植片を使用しているため)問題にならないが、ヒトMETとマウスMETの間の抗体の交差反応性は、再生医学または非腫瘍性ヒト疾患の前臨床マウスモデルにとって1つの重要な条件であり、マウスの組織または細胞に対して抗体が機能する必要がある。
【0009】
アゴニスト性抗MET抗体を前臨床モデルで評価するには、その抗体がマウスMETと交差反応する必要があるだけでなく、マウスMETに、ヒトMETへの親和性と同じか同様の親和性で結合することと、その抗体がマウス系で、ヒト系で誘起する効果と同じか同様の効果を誘導することも望ましい。さもないと、前臨床モデルで実施した実験からヒトでの状況が予測されることはない。実施例に示したように、先行技術のどの抗METアゴニスト性抗体もマウスMETに対する親和性を示さないため、確かに先行技術のどの抗体も、マウス系とヒト系の両方で同じか同等の結合とアゴニスト効果を示すことはない。
【0010】
本出願により、ヒトMETとマウスMETの両方に大きな親和性で結合するように設計して作製した抗METアゴニスト性抗体が提供される。この抗体は、(i)ヒトとマウスのMET生物系でアゴニスト活性を示す。すなわちMETシグナル伝達を誘導し、しかもいくつかはHGFと同等かそれ以上の効力でMETシグナル伝達を誘導する;(ii)HGFが誘導する生物活性を全方位的に引き出しているため、組み換えHGFの有効な代替物となる;(iii)先行技術技術の抗体と直接比較してマウスMETへの結合が優れている;(iv)1 pMという小さな濃度で生物学的に重要なアゴニスト活性を示す;(v)マウスで数日間という血漿半減期を示し、治療用抗体としては非常に少ない1μg/kgの用量ですでに薬理学的飽和濃度に到達する;(vi)急性腎障害のマウスモデルで腎臓機能と腎臓の健全性を維持する;(vii)急性肝障害のマウスモデルで肝不全を予防し、肝細胞の損傷に拮抗する;(viii)慢性肝障害のマウスモデルで抗線維化活性、抗炎症活性、再生促進活性を示す;(ix)潰瘍性大腸炎のマウスモデルと炎症性腸疾患のマウスモデルで体重減少を阻止し、腸の出血を減らし、大腸の健全さを維持し、炎症を抑制し、表皮再生を促進する;(x)I型糖尿病のマウスモデルでインスリンとは独立にグルコースの取り込みを促進する;(xi)II型糖尿病のマウスモデルでインスリン抵抗性に打ち克つ;(xii)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデルで脂肪肝を改善し、線維症を抑制し、肝機能を回復させる;(xiii)糖尿病性潰瘍のマウスモデルで傷の治癒を加速させる;(xiv)ラット(Rattus norvegicus)METおよびカニクイザル(Macaca fascicularis)METと交差反応するため、ヒトで初めて臨床試験をする前に必要な毒学的研究と薬理学的研究をこれら2種類の脊椎動物で実施することが可能になる;(xv)ヒトとマウスとラットとカニクイザルの間で保存されているエピトープを認識するため、さまざまな動物モデルでの有用性がより大きくなる。
【0011】
したがって第1の側面では、本発明により、ヒトMETタンパク質(hMET)に大きな親和性で結合するとともにマウスMETタンパク質(mMET)に大きな親和性で結合する抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETアゴニストかつmMETアゴニストである。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)と少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでいて、そのVHドメインとVLドメインは、Fabフラグメントとして試験するとき、hMETに対して1×10-3/秒~1×10-2/秒の範囲、場合によっては1×10-3/秒~6×10-3/秒の範囲のオフレート(Biacoreによって測定されるkoff)を示すとともに、mMETに対して1×10-3/秒~1×10-2/秒の範囲、場合によっては1×10-3/秒~6×10-3/秒の範囲のオフレートを示す。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETとmMETに対して同等な親和性を有する。
【0012】
いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETのリン酸化を誘導するとともに、mMETのリン酸化を誘導する。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETのリン酸化を3.0 nM未満、場合によっては2.0 nM未満の(ホスホ-MET ELISAによって測定される)EC50で誘導するとともに、mMETのリン酸化を3.0 nM未満、場合によっては2.0 nM未満の(ホスホ-MET ELISAによって測定される)EC50で誘導する。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETとmMETのリン酸化を同等に誘導する。
【0013】
いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETに対する大きなリン酸化効力を示すとともに、mMETに対する大きなリン酸化効力を示す。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETのリン酸化を1 nM未満のEC50および/または少なくとも80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導するとともに、mMETのリン酸化を1 nM未満のEC50および/または少なくとも80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導する。いくつかの代わりの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETに対する小さなリン酸化効力を示すとともに、mMETに対する小さなリン酸化効力を示す。そのようないくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETのリン酸化を1 nM~5 nMのEC50および/または少なくとも60~80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導するとともに、mMETのリン酸化を1 nM~5 nMのEC50および/または少なくとも60~80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導する。
【0014】
いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト細胞と接触したときHGF様細胞応答を誘導するとともに、マウス細胞と接触したときHGF様細胞応答を誘導する。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト細胞と接触したときとマウス細胞と接触したとき、HGF様細胞応答を全面的に誘導する。いくつかの実施態様では、HGF様細胞応答の全面的な誘導の測定は、
(i)細胞散乱アッセイにおいて、この抗体またはその抗原結合フラグメントが、0.1~1.0 nMの濃度で、HGFが誘導する最大の散乱に匹敵する細胞散乱を誘導すること;
(ii)抗アポトーシス細胞アッセイにおいて、この抗体またはその抗原結合フラグメントが、HGFの値の1.1倍未満のEC50および/またはHGFで観察される値の90%超の(非アポトーシス対照細胞の全ATP含量に対する%として測定される)Emaxを示すこと;
(iii)分岐形態形成アッセイにおいて、この抗体で処理した細胞が、同じ(ゼロでない)濃度のHGFによって誘導されるスフェロイド当たりの分岐の数の90%超を示すこと
のうちの1つ、または任意の2つ、またはすべてとして可能である。
【0015】
いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト細胞と接触したときとマウス細胞と接触したとき、HGF様細胞応答を部分的に誘導する。いくつかの実施態様では、HGF様細胞応答の部分的な誘導の測定は、
(i)細胞散乱アッセイにおいて、この抗体またはその抗原結合フラグメントが、1 nM以下の濃度で、0.1 nMの相同なHGFによって誘導される細胞散乱の少なくとも25%の細胞散乱を誘導すること;および/または
(ii)抗アポトーシス細胞アッセイにおいて、この抗体またはその抗原結合フラグメントが、HGFの値の7.0倍以下のEC50および/またはHGFで観察される値の少なくとも50%のEmax細胞生存率を示すこと、および/または;
(iii)分岐形態形成アッセイにおいて、この抗体で処理した細胞が、同じ(ゼロでない)濃度のHGFによって誘導されるスフェロイド当たりの分岐の数の少なくとも25%を示すこと
として可能である。
【0016】
いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、HGF競合体である。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETへの結合を5 nM以下のIC50および/または少なくとも50%のImaxでhHGFと競合するとともに、mMETへの結合を5 nM以下のIC50および/または少なくとも50%のImaxでmHGFと競合する。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETおよびmMETと同等に競合する。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、全面的なHGF競合体である。いくつかのそのような実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETへの結合を2 nM未満のIC50および/または90%超のImaxでhHGFと競合するとともに、mMETへの結合を2 nM未満のIC50および/または90%超のImaxでmHGFと競合する。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、部分的なHGF競合体である。いくつかのそのような実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、hMETへの結合を2 nM~5 nMのIC50および/または50%~90%のImaxでhHGFと競合するとともに、mMETへの結合を2 nM~5 nMのIC50および/または50%~90%のImaxでmHGFと競合する。
【0017】
本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、サル(例えばカニクイザル(Macaca cynomologus))起源のMETと交差反応性を示すとともに、ラット(Rattus norvegicus)起源のMETと交差反応性を示すことができる。
【0018】
本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基123~223からのエピトープに結合することができる(本文書全体を通じ、ヒトMETの番号付けではGenBank配列# X54559を参照する)。ヒトMETのアミノ酸残基224~311であるヒトMETのエピトープに結合できる本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントも提供される。ヒトMETのアミノ酸残基314~372であるヒトMETのエピトープに結合できる本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントも提供される。ヒトMETのアミノ酸残基546~562であるヒトMETのエピトープに結合できる本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントも提供される。
【0019】
アミノ酸残基Ile367を含むヒトMETのエピトープに結合できる本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントも提供される。ヒトMETのアミノ酸残基Asp372を含むヒトMETのエピトープに結合できる本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントも提供される。いくつかの実施態様では、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基Ile367とAsp372を含むヒトMETのエピトープに結合する。
【0020】
ヒトMETのアミノ酸残基Thr555を含むヒトMETのエピトープに結合できる本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントも提供される。
【0021】
本発明によりさらに、H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中の
H-CDR1は、配列番号2、9、16、23、30、37、44、51、58、65、72から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号4、11、18、25、32、39、46、53、60、67、74から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号6、13、20、27、34、41、48、55、62、69、76から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号79、86、93、100、107、114、121、128、135、142、149から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号81、88、95、102、109、116、123、130、137、144、151から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号83、90、97、104、111、118、125、132、139、146、153から選択されたアミノ酸配列を含んでいる抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0022】
[71G2]一実施態様では、本発明により、H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中の
H-CDR1は、配列番号44として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号46として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号48として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号121として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号123として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号125として示すアミノ酸配列を含んでいる抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0023】
[71G2]いくつかのそのような実施態様では、抗体またはフラグメントの重鎖可変ドメインは、配列番号167のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号168のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含んでいる。
【0024】
[71D6]別の一実施態様では、本発明により、H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中の
H-CDR1は、配列番号30として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号32として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号34として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号107として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号109として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号111として示すアミノ酸配列を含んでいる抗体または抗原結合フラグメントが提供される。
【0025】
[71D6]いくつかのそのような実施態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖可変ドメインは、配列番号163のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号164のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含んでいる。
【0026】
[71G3]さらに別の一実施態様では、本発明により、H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中の
H-CDR1は、配列番号9として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号11として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号13として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号86として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号88として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号90として示すアミノ酸配列を含んでいる抗体または抗原結合フラグメントが提供される。
【0027】
[71G3]いくつかのそのような実施態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖可変ドメインは、配列番号157のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号158のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含んでいる。
【0028】
さらに別の実施態様では、本発明により、H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中のH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3は、表3に示したFAbのための一群のCDR(CDR1、CDR2、CDR3)から選択され、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3は、表4に示した同じFabのための対応するCDR(CDR1、CDR2、CDR3)である抗体または抗原結合フラグメントが提供される。
【0029】
いくつかの実施態様では、抗体または抗原結合フラグメントの重鎖可変ドメインは、表5からのVHアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含み、軽鎖可変ドメインは、表5からの対応するVLアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含んでいる。
【0030】
しかしVHドメインのアミノ酸配列が、所定のVHドメインアミノ酸配列(例えば配列番号x)と100%未満の配列一致を示す実施態様は、配列番号xのVHのHCDR1、HCDR2、HCDR3と同じ重鎖CDRを含む一方で、フレームワーク領域にアミノ酸配列の変化があってもよい。例えばフレームワーク領域の1個以上のアミノ酸が、ヒト生殖系列によってコードされるヒトVHドメイン内の同等な位置にあるアミノ酸で置換されていてもよい。同様に、VLドメインのアミノ酸配列が、所定のVLドメインのアミノ酸配列(例えば配列番号y)と100%未満の配列一致を示す実施態様は、配列番号yのVLのLCDR1、LCDR2、LCDR3と一致する軽鎖CDRを含む一方で、フレームワーク領域内のアミノ酸配列は変化していてもよい。例えばフレームワーク領域の1個以上のアミノ酸が、ヒト生殖系列によってコードされるヒトVLドメイン内の同等な位置にあるアミノ酸で置換されていてもよい。
【0031】
本発明により、上記抗体のVHドメインとVLドメインのヒト化/生殖系列化バリアントに加え、本明細書に規定した親和性バリアントと、保存的アミノ酸置換を含有するバリアントを含む抗体と抗原結合フラグメントも提供される。上記のラマ由来のFabのVHドメインとVLドメイン、またはそのヒト生殖系列化バリアントを含有していて、ヒト抗体(特にヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4)の定常ドメインに融合したキメラ抗体が特に提供される。上記抗体の重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメイン、またはその生殖系列化バリアント、またはその親和性バリアント、またはその保存されたバリアントは、従来の4本鎖抗体または他の抗原結合タンパク質(例えばFab、Fab'、F(ab')2、二重特異性Fab、Fvフラグメント、二量体抗体、線形抗体、一本鎖抗体分子、一本鎖可変フラグメント(scFv)、多重特異性抗体)の中に含めることができる。重鎖可変ドメイン、またはその生殖系列化バリアント、またはその親和性バリアント、またはその保存されたバリアントは、単一ドメイン抗体として利用することもできる。
【0032】
さらに別の側面では、本発明により、本発明の抗体または抗原結合フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチドも提供され、宿主細胞または無細胞発現系の中でのその抗体または抗原結合フラグメントの発現を可能にする調節配列に機能可能に連結されたそのポリヌクレオチドを含む発現ベクターも提供され、その発現ベクターを含有する宿主細胞または無細胞発現系も提供される。本発明によりさらに、組み換え抗体またはその抗原結合フラグメントを作製する方法として、その抗体または抗原結合フラグメントの発現を可能にする条件下で宿主細胞または無細胞発現系を培養し、発現した抗体または抗原結合フラグメントを回収することを含む方法が提供される。
【0033】
さらに別の1つの側面では、本発明により、本発明の抗体または抗原結合フラグメントと、医薬として許容可能な少なくとも1つの基剤または賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0034】
さらに別の1つの側面では、本発明により、治療に用いるための、本発明の抗体または抗原結合フラグメント、または本発明の医薬組成物が提供される。
【0035】
さらに別の1つの側面では、本発明により、ヒト患者で肝障害(場合によって急性肝障害または慢性肝障害)を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に治療に有効な量のMETアゴニスト抗体を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、そのMETアゴニスト抗体は、本発明の抗体または抗原結合フラグメントである。
【0036】
さらに別の1つの側面では、本発明により、ヒト患者で腎障害(場合によって急性腎障害または慢性腎障害)を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に治療に有効な量のMETアゴニスト抗体を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、そのMETアゴニスト抗体は、本発明の抗体または抗原結合フラグメントである。
【0037】
さらに別の1つの側面では、本発明により、ヒト患者で炎症性腸疾患(場合によっては潰瘍性大腸炎)を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に治療に有効な量のMETアゴニスト抗体を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、そのMETアゴニスト抗体は、本発明の抗体または抗原結合フラグメントである。
【0038】
さらに別の1つの側面では、本発明により、ヒト患者で糖尿病(場合によってI型糖尿病またはII型糖尿病)を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に治療に有効な量のMETアゴニスト抗体を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、そのMETアゴニスト抗体は、本発明の抗体または抗原結合フラグメントである。
【0039】
さらに別の1つの側面では、本発明により、ヒト患者で非アルコール性脂肪性肝炎を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に治療に有効な量のMETアゴニスト抗体を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、そのMETアゴニスト抗体は、本発明の抗体または抗原結合フラグメントである。
【0040】
さらに別の1つの側面では、本発明により、ヒト患者(場合によっては糖尿病を有する患者)で傷の治癒を治療または促進する方法として、それを必要とする患者に治療に有効な量のMETアゴニスト抗体を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、そのMETアゴニスト抗体は、本発明の抗体または抗原結合フラグメントである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】ヒトMET-Fcで免疫化したラマの免疫応答をELISAによって調べた。ヒトMET ECD(hMET)組み換えタンパク質またはマウスMET ECD(mMET)組み換えタンパク質を固相の中に固定化し、免疫化の前(PRE)または後(POST)にラマからの血清の段階希釈液に曝露した。マウス抗ラマIgG1とHRP標識ロバ抗マウス抗体を用いて結合を明らかにした。OD、光学密度;AU、任意単位。
【
図2】mAbの結合にとって重要なMETのドメインを同定するために用いるヒトMET欠失変異体の模式図。ECD、細胞外ドメイン;aa、アミノ酸;L.ペプチド、リーダーペプチド;SEMA、セマフォリン相同ドメイン;PSIまたはP、プレキシン-セマフォリン-インテグリン相同ドメイン;IPT、免疫グロブリン-転写因子-プレキシン相同ドメイン。右側に、ヒトMETの対応する残基をUniProtKB # P08581に従って示してある。
【
図3】抗MET抗体によって認識されるエピトープを細かくマッピングするために用いるラマ-ヒトキメラMETタンパク質の模式図。ラマMETとヒトMETの細胞外部分は、それぞれ931個と932個のアミノ酸(aa)からなる(ラマMETは、リーダーペプチドがアミノ酸2個分短いが、アミノ酸163の後に挿入が1個ある)。受容体内部ドメインは両方とも、リーダーペプチドと、セマフォリン相同ドメイン(SEMA)と、プレキシン-セマフォリン-インテグリン相同ドメイン(PSIまたはP)と、4つの免疫グロブリン-転写因子-プレキシン相同ドメイン(IPT)を含んでいる。キメラCH1~CH5は、N末端のラマ部分の後にC末端のヒト部分を有する。キメラCH6~CH7は、N末端のヒト部分の後にC末端のラマ部分を有する。
【
図4】ヒト細胞とマウス細胞におけるヒト/マウス同等抗MET抗体のアゴニスト活性をウエスタンブロッティングによって測定。A549ヒト肺癌細胞とMLP29マウス肝臓前駆細胞を血清飢餓状態にした後、増加していく濃度のmAbまたは組み換えヒトHGF(hHGF;A549)またはマウスHGF(mHGF;MLP29)で刺激した。抗ホスホ-MET抗体(チロシン1234~1235)を用いてMET自己リン酸化をウエスタンブロッティングによって調べた。抗全ヒトMET抗体(A549)または抗全ヒトMET抗体(MLP29)も用いて同じ細胞ライセートをウエスタンブロッティングによって分析した。
【
図5】LOCヒト腎臓表皮細胞とMLP29マウス肝臓前駆細胞を用いてヒト/マウス同等抗MET抗体の生物活性を分岐形態形成アッセイによって測定。細胞スフェロイドをコラーゲン層の中に播種した後、増加していく濃度のmAbまたは組み換えヒトHGF(LOC)またはマウスHGF(MLP29)に曝露した。分岐形態形成の経時変化を顕微鏡で観察し、5日後にコロニーを撮影した。
【
図6】先行技術の抗体との比較:ヒト-マウス交差反応性。ヒトMET ECDとマウスMET ECDを固相の中に固定化し、溶液中の増加していく濃度の抗体(すべてがマウスIgG/λ形式)に曝露した。HRP標識抗マウスFc抗体を用いたELISAによって結合を明らかにした。
【
図7】先行技術の抗体との比較:MET自己リン酸化。A549ヒト肺癌細胞とMLP29マウス肝臓前駆細胞で血清増殖因子を48時間欠乏させた後、増加していく濃度の抗体で刺激した。15分間刺激した後、細胞を溶解させ、捕獲用の抗MET抗体と証明用の抗ホスホ-チロシン抗体を用いてホスホ-METレベルをELISAによって求めた。
【
図8】先行技術の抗体との比較:分岐形態形成。LOCヒト腎臓表皮細胞スフェロイドをコラーゲン層の中に播種した後、増加していく濃度のmAbとともにインキュベートした。分岐形態形成の経時変化を顕微鏡によって追跡し、5日後にコロニーを撮影した。
【
図9】先行技術の抗体との比較:分岐形態形成。MLP29マウス肝臓前駆細胞スフェロイドをコラーゲン層の中に播種した後、増加していく濃度のmAbとともにインキュベートした。分岐形態形成の経時変化を顕微鏡によって追跡し、5日後にコロニーを撮影した。
【
図10】ヒト/マウス同等抗MET抗体の血漿安定性。1 mg/kgまたは10 mg/kgのボーラスを1回だけ腹腔内に注射し、注射してから3時間後、6時間後、12時間後、24時間後に血液サンプルを尾の静脈から採取した。血液サンプルを処理し、血漿中の抗体の濃度をELISAによって求めた。(A)注射した抗体のピークと谷のレベル。(B)抗体血漿半減期は、対数変換した抗体濃度の直線フィッティングによって計算した。
【
図11】急性肝不全モデル:肝機能マーカーの血漿濃度。CCl
4溶液を皮下注射することによって急性肝障害をBALB/cマウスで誘導した。中毒させた直後、マウスをランダムに4つの群に分け、71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)いずれかのボーラスを1回だけ注射した。抗体は、5 mg/kgの用量で腹腔内注射によって投与した。各群は3つのグループのマウスを含んでおり、それらのグループのマウスを中毒後の異なる時点(12時間、24時間、48時間)で安楽死させた。血液サンプルを注射後の異なる時点(0時間、12時間、24時間、48時間)で採取した。剖検のとき、分析のために血液と肝臓を回収した。肝マーカーであるアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、ビリルビン(BIL)の血漿レベルを標準的な臨床生化学法によって求めた。
【
図12】急性肝不全モデル:肝切片の組織学的検査。
図11の説明に記載したようにしてBALB/cマウスで急性肝障害を誘導した。剖検のとき、組織学的分析のために肝臓を取り出してパラフィンの中に包埋した。切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、顕微鏡で調べた。各処理群について代表的な画像を示す。倍率:100倍。
【
図13】慢性肝障害モデル:肝機能マーカーの血漿濃度。数週間にわたってCCl
4に慢性的に曝露することによってBALB/cマウスで肝臓の損傷と線維症を誘導した。最初にCCl
4を注射した直後、マウスをランダムに4つの群に分け、それぞれの群を71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で1週間に3回腹腔内注射することによって投与した。追加の5番目の対照群にはCCl
4も抗体も与えず、健康な対照として利用した。慢性CCl
4中毒の6週間後にマウスを安楽死させた。剖検のとき、分析のために血液と肝臓を回収した。肝マーカーであるアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血漿レベルを標準的な臨床生化学法によって求めた。
【
図14】慢性肝障害モデル:ピクロシリウスレッドで染色した肝切片の組織学的検査。
図13の説明に記載したようにしてCCl
4に慢性的に曝露することによってBALB/cマウスで肝臓の損傷と線維症を誘導した。剖検のとき、免疫組織化学的分析のために肝臓を取り出してパラフィンの中に包埋した。切片をピクロシリウスレッドで染色した。各処理群について代表的な画像を示す。倍率:100倍。
【
図15】慢性肝障害モデル:抗α平滑筋アクチン(α-SMA)抗体で染色した肝切片の組織学的検査。
図13の説明に記載したようにしてCCl
4に慢性的に曝露することによってBALB/cマウスで肝臓の損傷と線維症を誘導した。剖検のとき、免疫組織化学的分析のために肝臓を取り出してパラフィンの中に包埋した。切片を抗α平滑筋アクチン(α-SMA)抗体で染色した。各処理群について代表的な画像を示す。倍率:100倍。
【
図16】急性腎障害モデル:腎機能マーカーの血漿レベル。HgCl
2のボーラスを1回だけ腹腔内注射することによってBALB/cマウスで急性腎不全を誘導した。HgCl
2で中毒させた直後、マウスをランダムに4つの群に分け、71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、24時間ごとに5 mg/kgの用量で腹腔内注射することによって投与した。HgCl
2を注射してから72時間後にマウスを安楽死させた。剖検のとき、分析のために血液と腎臓を回収した。血中尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CRE)の血漿レベルを標準的な生化学の方法によって求めた。
【
図17】急性腎障害モデル:腎切片の組織学的分析。
図16の説明に記載したようにしてHgCl
2を注射することによってBALB/cマウスで急性腎不全を誘導した。剖検のとき、組織学的分析のために腎臓を取り出してパラフィンの中に包埋した。腎切片をヘマトキシリンとエオシンで染色した。各処理群について代表的な画像を示す。倍率:400倍。
【
図18】潰瘍性大腸炎モデル:体重、疾患活動性指数(DAI)、大腸の長さ。飲料水にデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を10日間添加することによってBALB/cマウスで潰瘍性大腸炎を誘導した。10日目、DSS処理を中断し、マウスを通常の水に戻した。1日目からマウスをランダムに7つの群に分け、71G3、71D6、71G2(用量が1 mg/kgまたは5 mg/kg)、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。追加の8番目の対照群にはDSSも抗体も与えず、健康な対照として用いた。12日目に、すなわちDSSの投与を中断してから2日後に、マウスを安楽死させた。剖検のときに大腸を回収し、洗浄し、定規を用いてその長さを測定した。測定の後、組織学的分析のため大腸をパラフィンの中に包埋して処理した。この実験全体を通じ、マウスの体重を定期的にモニタし、潰瘍性大腸炎の臨床症状を便潜血、直腸出血、便のコンシステンシーを調べることによって評価した。各パラメータに0(無症状)から3(症状の最大の出現)のスコアを与えた。個々のパラメータに関するスコアを合計して0~9の範囲のDAIを得た。(A)体重の経時変化(時刻0に対する%)。(B)DAIの経時変化。(C)剖検時の大腸の長さ。見やすくするため、1 mg/kgの群と5mg/kgの群のデータを別々のグラフで示してある。
【
図19】潰瘍性大腸炎モデル:大腸切片の組織学的分析。
図18の説明に記載したようにしてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)に曝露することによってBALB/cマウスで潰瘍性大腸炎を誘導した。剖検のときに大腸を回収し、測定し、次いで組織学的分析のためパラフィンの中に包埋して処理した。大腸切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、顕微鏡で調べ、撮影した。実験群、抗体の用量、倍率は、各画像の近くに示してある。画像分析については本文を参照されたい。
【
図20】炎症性腸疾患モデル:体重と大腸の長さ。エタノールに溶かした2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を直腸内に注射することによってC57BLKS/Jマウスで大腸の損傷と炎症を誘導した。TNBSを投与した直後、マウスをランダムに4つの群に分け、71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。追加の5番目の対照群にはTNBSも抗体も与えず、健康な対照として用いた。TNBSを投与してから5日後にマウスを安楽死させた。剖検のときに大腸を回収し、測定した。測定の後、組織学的分析のため大腸をパラフィンの中に包埋して処理した。この実験全体を通じ、マウスの体重を毎日測定した。(A)体重の経時変化(時刻0に対する%)。(B)剖検時の大腸の長さ。
【
図21】炎症性腸疾患モデル:大腸切片の組織学的分析。
図20の説明に記載したようにして2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を直腸内に注射することによってBALB/cマウスで大腸の損傷と炎症を誘導した。剖検のときに大腸を回収し、測定した。測定の後、組織学的分析のため大腸をパラフィンの中に包埋して処理した。大腸切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、顕微鏡で調べ、撮影した。画像分析については本文を参照されたい。
【
図22】I型糖尿病モデル:糖尿病マウスにおけるグルコース取り込みの促進とインスリンとの協働。ストレプトゾトシン(STZ)を腹腔内注射することによってBALB/cマウスで膵臓β細胞の変性を誘導した。STZで処理したマウスは、処理していないマウスと比べて平均基礎血糖値が2倍であった。STZで処理したマウスをランダムに4つの群に分け、それぞれの群を71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。追加の5番目の対照群にはSTZも抗体も与えず、健康な対照として用いた。空腹条件で血糖値を5週間にわたってモニタした。5週間が経過したとき、グルコース負荷試験(GTT)とインスリン負荷試験(ITT)を実施した。(A)空腹条件での基礎血糖値の分析結果の経時変化。(B)GTT:空腹のマウスにグルコースを経口投与した後、血糖値の経時変化をモニタする。(C)ITT:少し空腹にしたマウスにインスリンを腹腔内注射した後、血糖値の経時変化をモニタする。
【
図23】I型糖尿病モデル:培養した細胞におけるグルコース取り込みの促進とインスリンとの協働。C2C12マウスの筋芽細胞が筋細胞に分化するのを誘導した後、ヒト/マウス同等抗MET抗体(71G3、71D6、71G2)とともにインキュベートした。24時間後、抗体で処理した細胞を3つの群に分類し、蛍光性グルコース類似体である2-(N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾル-4-イル)アミノ)-2-デオキシグルコース(2-NBDG)の存在下で、0 nM、100 nM、1000 nMいずれかのヒト組み換えインスリンを用いて1時間にわたって急性の刺激を与えた。2-NBDGの取り込みをフローサイトメトリーによって調べた。(A)ヒト/マウス同等抗MET抗体またはインスリンによる2-NBDGの取り込みの誘導。(B)インスリンの不在下または存在下での71G3による2-NBDGの取り込みの誘導。(C)インスリンの不在下または存在下での71D6による2-NBDGの取り込みの誘導。(D)インスリンの不在下または存在下での71G2による2-NBDGの取り込みの誘導。
【
図24】II型糖尿病モデル:db/dbマウスにおける血糖値の正常化とインスリン抵抗性の克服。雌のdb/dbマウス(レプチン受容体遺伝子leprに点変異を有するC57BLKS/Jバリアント)が8週齢になったときランダムに4つの群に分け、それぞれの群を71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって週に2回投与した。空腹条件で血糖値を10日ごとに7週間にわたってモニタした。処理が終わったとき、すなわちマウスが15週齢になったとき、年齢を一致させた野生型C57BLKS/Jマウスを対照として用いてグルコース負荷試験(GTT)とインスリン負荷試験(ITT)を実施した。(A)血糖値の経時変化。(B)GTT:空腹のマウスにグルコースを経口投与した後、血糖値の経時変化をモニタする。(C)ITT:少し空腹にしたマウスにインスリンを腹腔内注射した後、血糖値の経時変化をモニタする。
【
図25】非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデル:組織学によって調べた脂肪肝の改善。8週齢の雌のdb/dbマウスをランダムに4つの群に分け、それぞれの群を71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって週に2回投与した。8週間の処理が終わった後、マウスを安楽死させ、剖検を実施した。肝機能マーカーを分析するため血液を回収した。組織学的分析のため肝臓を取り出し、パラフィンの中に包埋して処理した。肝切片をヘマトキシリンとエオシンで染色した。脂肪細胞の細胞質は中身がなくて白色に見える。なぜなら脂質は試料のアルコール処理中に洗い流されるからである。各処理群の代表的な画像を示す。倍率:200倍。
【
図26】非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデル:ピクロシリウスレッドによって調べた線維症の抑制。
図25の説明に記載したようにして8週齢の雌のdb/dbマウスをランダム化して処理した。剖検のとき、組織学的検査のため肝臓を処理した。肝切片をピクロシリウスレッドで染色して線維症を目立たせた。各処理群の代表的な画像を示す。倍率:200倍。
【
図27】非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデル:肝機能マーカーの正常化。
図25の説明に記載したようにして8週齢の雌のdb/dbマウスを、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけのいずれかで処理した。7週間処理した後、肝機能マーカーを分析するため血液を回収した。(A)アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)の血漿レベル。(B)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血漿レベル。
【
図28】糖尿病性潰瘍のマウスモデル:傷の治癒の加速。8週齢の雌のdb/dbマウスに麻酔をかけた後、皮膚生検用の0.8 cm幅の円形パンチ刃で切り込みを入れ、脇腹右後方部に丸い傷を作った。表皮層全体を除去した。手術の翌日、マウスをランダムに4つの群に分け、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、5 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって2日ごとに送達した。傷の直径をキャリパーで毎日測定した。(A)傷の面積の経時変化。(B)1日ごとの傷修復の%を平均することによって求めた平均表皮再形成率。
【
図29】ELISAによって調べたラット(Rattus norvegicus)とカニクイザル(Macaca fascicularis)の交差反応性。あらゆる種の交差反応性を調べるため、SEMA結合体(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)とPSI結合体(76H10、71G3)の両方を代表する限定された抗体集団を選択した。先行技術の5D5抗体を対照として用いた。ヒト、マウス、ラット、サルのMET ECDを固相の中に固定化し、溶液中の増加していく濃度の(ヒトIgG/λ形式の)mAbに曝露した。HRP標識抗ヒトFc抗体を用いて結合を明らかにした。
【
図30】ヒト(H. sapiens)、マウス(M. musculus)、ラット(R. norvegicus)、カニクイザル(M. fascicularis)、ラマ(L. glama)からのMET ECDドメインの間のアミノ酸配列のアラインメント。(A)SEMA結合抗体(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)(ヒトMET配列である配列番号239;マウスMET配列である配列番号240;ラットMET配列である配列番号241;カニクイザルMET配列である配列番号242;ラマMET配列である配列番号243)によって認識される領域に関する配列アラインメント。表12に示したヒト-ラマキメラアプローチによって同定されたアミノ酸に下線を引いてある。この領域内に、ヒトMETとマウスMETの間で保存されているがラマMETでは保存されていない5個の残基が存在する(Ala327、Ser336、Phe343、Ile367、Asp372)。これらのアミノ酸を黒い長方形と大きくなっていく数字1~5で示してある。これらのうちで4個の残基がラットMETとカニクイザルMETでも保存されている(Ala327、Ser336、Ile367、Asp372)。SEMA結合抗体への結合にとって非常に重要なアミノ酸を「S」(SEMAの意味)で示してある。(5D5/オナルツズマブへの結合にとって非常に重要なアミノ酸は「O」(オナルツズマブの意味)で示してある。(B)PSI結合抗体である76H10と71G3(ヒトMET配列である配列番号244;マウスMET配列である配列番号245;ラットMET配列である配列番号246;カニクイザルMET配列である配列番号247;ラマMET配列である配列番号248)によって認識される領域に関する配列アラインメント。表12に示したヒト-ラマキメラアプローチによって同定されたアミノ酸に下線を引いてある。この領域内に、ヒトMETとマウスMETの間で保存されているがラマMETでは保存されていない3個の残基が存在する(Arg547、Ser553、Thr555)。これらのアミノ酸を黒い長方形と大きくなっていく数字6~8で示してある。これらのうちで2個の残基はラットMETとカニクイザルMETでも保存されている(Ser553、Thr555)。PSI結合抗体への結合にとって非常に重要なアミノ酸アミノ酸を「P」(PSIの意味)で示してある。
【
図31】エピトープの細かいマッピングに用いるMET変異体の模式図。ヒトMET ECDを鋳型として用い、
図30に番号1~8で示したカギとなる残基を異なる組み合わせで変異させ、変異体A~Lを作製した。これら変異体のそれぞれは、示されている残基がラマである以外は全面的にヒトである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本明細書では、「免疫グロブリン」という用語に、関係する何らかの特異的免疫反応性を有するかどうかに関係なく、2本の重鎖と2本の軽鎖の組み合わせを有するポリペプチドが含まれる。「抗体」は、興味のある抗原(例えばMET)に対する既知の大きな特異的免疫反応活性を有するそのような構造体を意味する。本明細書では、「MET抗体」または「抗MET抗体」という用語は、METタンパク質に対して免疫学的特異性を示す抗体を意味する。抗体と免疫グロブリンは軽鎖と重鎖を含んでいるが、それらの間の鎖間共有結合は、ある場合とない場合がある。免疫グロブリンの基本的な構造は比較的よく理解されている。
【0043】
「免疫グロブリン」という一般的な用語には、生化学で識別できる明確な5つのクラスが含まれる。抗体の5つのクラスすべてが本発明の範囲に含まれるが、以下の議論は、一般に免疫グロブリン分子のIgGクラスに向けられる。IgGという免疫グロブリンは、分子量が約23,000ダルトンの同じ2本のポリペプチド軽鎖と、分子量が約53,000~70,000の同じ2本の重鎖を含んでいる。これら4本の鎖がジスルフィド結合によって接合されて「Y」配置になっており、その中で軽鎖は、「Y」の開口部から始まって可変領域へと続く重鎖を囲んでいる。
【0044】
抗体の軽鎖はカッパまたはラムダ(κ、λ)として分類される。重鎖の各クラスはカッパ軽鎖またはラムダ軽鎖に結合することができる。一般に、軽鎖と重鎖は互いに共有結合し、2本の重鎖の「尾」部は、共有ジスルフィド結合によって互いに結合するか、免疫グロブリンがB細胞または遺伝子操作された宿主細胞によって産生されるときには非共有結合によって互いに結合する。重鎖では、アミノ酸配列は、Y配置のフォーク状端部にあるN末端から始まり、それぞれの鎖の底部にあるC末端で終わっている。当業者は、重鎖がガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、イプシロン(γ、μ、α、δ、ε)に分類され、それらの間にはサブクラス(例えばγ1~γ4)があることを理解しているであろう。この鎖の性質により、抗体の「クラス」がそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD、IgEに決まる。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1などは特徴がよくわかっており、機能を特殊化していることが知られている。これらのクラスとアイソタイプそれぞれの改変バージョンは、当業者が本開示を参照すると容易に識別できるため、本発明の範囲に含まれる。
【0045】
上述のように、抗体の可変領域によって抗体は抗原上のエピトープを認識して特異的に結合することが可能になる。すなわち抗体のVLドメインとVHドメインが合わさって、三次元抗原結合部位を規定する可変領域を形成する。この四次抗体構造は、Yの各アームの端部に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖とVL鎖それぞれの3つの相補性決定領域(CDR)によって規定される。
【0046】
本明細書では、「METタンパク質」または「MET抗原」または「MET」という用語は交換可能に使用され、野生型では肝細胞増殖因子(HGF)に結合する受容体チロシンキナーゼを意味する。「ヒトMET受容体」または「ヒトMET」または「hMET」という用語は交換可能に使用され、ヒトMET(GenBank登録番号:X54559)を意味し、その中には、ヒト宿主の中、および/またはヒト培養細胞系の表面で自然に発現する天然状態のヒトMETタンパク質と、組み換え形態およびそのフラグメントと、自然に生じる変異形態も含まれる。「マウスMETタンパク質」または「マウスMET受容体」または「マウスMET」または「mMET」という用語は交換可能に用いられ、マウスMET(GenBank登録番号:NM_008591)を意味し、その中には、マウス宿主の中、および/またはマウス培養細胞系の表面で自然に発現する天然状態のマウスMETタンパク質と、組み換え形態およびそのフラグメントと、自然に生じる変異形態も含まれる。
【0047】
本明細書では、「結合部位」という用語は、ポリペプチド内で、興味ある標的抗原(例えばhMET)への選択的な結合にとって非常に重要な領域を含んでいる。結合ドメインは、少なくとも1つの結合部位を含んでいる。結合ドメインの例に、抗体可変ドメインが含まれる。本発明の抗体分子は、単一の結合部位または複数(例えば2つ、3つ、4つ)の結合部位を含むことができる。
【0048】
本明細書では、指定されたタンパク質(例えばMET抗体またはその抗原結合フラグメント)「に由来する」という表現は、ポリペプチドの出所を意味する。一実施態様では、特定の出発ポリペプチドに由来するポリペプチドまたはアミノ酸配列は、CDR配列、またはそれに関係する配列である。一実施態様では、特定の出発ポリペプチドに由来するアミノ酸配列は連続していない。例えば一実施態様では、1個、または2個、または3個、または4個、または5個、または6個のCDRが出発抗体に由来する。一実施態様では、特定の出発ポリペプチドまたはアミノ酸配列に由来するポリペプチドまたはアミノ酸配列は、出発配列またはその一部と実質的に一致するアミノ酸配列を有する。一部が実質的に一致する場合のその部分は、少なくとも3~5個のアミノ酸、または少なくとも5~10個のアミノ酸、または少なくとも10~20個のアミノ酸、または少なくとも20~30個のアミノ酸、または少なくとも30~50個のアミノ酸からなるか、出発配列に起源を持つことを当業者が別のやり方で同定できる部分である。一実施態様では、出発抗体に由来するその1つ以上のCDR配列を改変し、MET結合活性を維持しているバリアントCDR配列(例えば親和性バリアント)を生み出す。
【0049】
「ラクダ科由来の」- いくつかの好ましい実施態様では、本発明のMET抗体分子は、ラクダ科の動物をMET由来の抗原で能動免疫化することによって生じるラクダ科の通常の抗体に由来するフレームワークアミノ酸配列および/またはCDRアミノ酸配列を含んでいる。しかしラクダ科由来のアミノ酸配列を含むMET抗体を操作し、ヒトアミノ酸配列(例えばヒト抗体)または他の非ラクダ科哺乳動物種に由来するフレームワーク領域および/または定常領域の配列を含むようにすることができる。例えばヒトまたは非ヒト霊長類のフレームワーク領域、および/または重鎖部分、および/またはヒンジ部分を対象となるMET抗体に含めることができる。一実施態様では、1個以上の非ラクダ科アミノ酸が、「ラクダ科由来の」MET抗体のフレームワーク領域に存在していてもよく、例えばラクダ科フレームワーク領域のアミノ酸配列は、対応するヒトまたは非ヒト霊長類のアミノ酸残基が存在する1つ以上のアミノ酸変異を含むことができる。さらに、ラクダ科由来のVHドメインとVLドメイン、またはそのヒト化バリアントをヒト抗体の定常ドメインに連結し、本明細書の別の箇所に詳しく記載したキメラ分子を作製することができる。
【0050】
本明細書では、「保存的アミノ酸置換」は、そのアミノ酸残基が、似た側鎖を有するアミノ酸で置換される置換である。似た側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは先行技術で明確にされており、その中に含まれるのは、塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、帯電していない極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)である。したがって免疫グロブリンポリペプチドの中の重要でないアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置き換えることができる。別の一実施態様では、アミノ酸列を、構造的に似ているが側鎖ファミリーのメンバーの順番および/または組成が異なるアミノ酸列で置き換えることができる。
【0051】
本明細書では、「重鎖部分」という用語に、免疫グロブリン重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列が含まれる。重鎖部分を含むポリペプチドは、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば上部ヒンジ領域、および/または中央部ヒンジ領域、および/または下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはこれらのバリアントまたはフラグメントのうちの少なくとも1つを含んでいる。一実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、免疫グロブリン重鎖のFc部分(例えばヒンジ部分、CH2ドメイン、CH3ドメイン)を含むことができる。別の一実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、定常ドメインの少なくとも一部(例えばCH2ドメインの全体または一部)が欠けていてもよい。いくつかの実施態様では、定常ドメインの少なくとも1つ、好ましくはすべてが、ヒト免疫グロブリン重鎖に由来する。例えば好ましい一実施態様では、重鎖部分は、ヒトヒンジドメインの全体を含んでいる。別の好ましい実施態様では、重鎖部分は、ヒトFc部分(例えばヒト免疫グロブリンからのヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメインの配列)の全体を含んでいる。いくつかの実施態様では、重鎖部分を構成する定常ドメインは、異なる免疫グロブリン分子からのものである。例えばあるポリペプチドの重鎖部分は、IgG1分子に由来するCH2ドメインと、IgG3分子またはIgG4分子に由来するヒンジ領域を含むことができる。別の実施態様では、定常ドメインは、異なる免疫グロブリン分子の部分を含むキメラドメインである。例えばヒンジは、IgG1分子からの第1の部分と、IgG3分子またはIgG4分子からの第2の部分を含むことができる。上述のように、当業者は、重鎖部分の定常ドメインを改変してアミノ酸配列を天然の(野生型)免疫グロブリン分子から変化させてもよいことを理解しているであろう。すなわち本明細書に開示した本発明のポリペプチドは、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、CH3)および/または軽鎖定常領域ドメイン(CL)の1つ以上に変化または改変を含むことができる。改変の例に含まれるのは、1つ以上のドメインにおける1個以上のアミノ酸の付加、欠失、置換である。
【0052】
本明細書では、「キメラ」タンパク質は、第1のアミノ酸配列を、自然界では自然に結合されることのない第2のアミノ酸配列に結合された状態で含んでいる。これらアミノ酸配列は通常の状態では別々のタンパク質として存在していて、それらが合体して融合ポリペプチドになることができる。あるいはこれらアミノ酸配列は通常の状態で同じタンパク質の中に存在していてもよいが、融合ポリペプチドの中では新たな配置にすることができる。キメラタンパク質は、例えば化学合成によって作り出すこと、または複数のペプチド領域が互いに望む関係でコードされているポリヌクレオチドを作製して翻訳することによって作り出すことができる。キメラMET抗体の例に含まれるのは、ラクダ科由来のVHドメインとVLドメイン、またはそのヒト化バリアントを含んでいて、ヒト抗体(例えばヒトのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4)の定常ドメイン、またはマウス抗体(例えばマウスのIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3)の定常ドメインに融合された融合タンパク質である。
【0053】
本明細書では、「可変領域」と「可変ドメイン」は交換可能に使用され、同等な意味を持つことが想定されている。「可変」という用語は、可変ドメインVHとVLのいくつかの部分の配列が抗体間で広範囲に異なっていて、対応する標的抗原への個々の抗体の結合と特異性にそのことを利用するという事実を意味する。しかし可変性は、抗体の可変ドメインの全体に均一に分布しているわけではない。可変性は、VLドメインとVHドメインそれぞれの中にあって抗原結合部位を形成する「超可変ループ」と呼ばれる3つの区画に集中している。Vラムダ軽鎖ドメインの第1、第2、第3の超可変ループを本明細書ではL1(λ)、L2(λ)、L3(λ)と呼び、VLドメイン内の残基24~33(9個、または10個、または11個のアミノ酸残基からなるL1(λ))、49~53(3個の残基からなるL2(λ))、90~96(5個の残基からなるL3(λ))を含むと定義することができる(Morea他、Methods 第20巻、267~279ページ、2000年)。Vカッパ軽鎖ドメインの第1、第2、第3の超可変ループを本明細書ではL1(κ)、L2(κ)、L3(κ)と呼び、VLドメイン内の残基25~33(6個、または7個、または8個、または11個、または12個、または13個のアミノ酸残基からなるL1(κ))、49~53(3個の残基からなるL2(κ))、90~97(6個の残基からなるL3(κ))を含むと定義することができる(Morea他、Methods 第20巻、267~279ページ、2000年)。VHドメインの第1、第2、第3の超可変ループを本明細書ではH1、H2、H3と呼び、VHドメイン内の残基25~33(7個、または8個、または9個の残基からなるH1)、52~56(3個または4個の残基からなるH2)、91~105(長さが非常に変化するH3)を含むと定義することができる(Morea他、Methods 第20巻、267~279ページ、2000年)。
【0054】
特に断わらない限り、L1、L2、L3という用語は、それぞれ、VLドメインの第1、第2、第3の超可変ループを意味し、VカッパアイソタイプとVラムダアイソタイプの両方から得られる超可変ループを包含する。H1、H2、H3という用語は、それぞれ、VHドメインの第1、第2、第3の超可変ループを意味し、既知の任意の重鎖アイソタイプ(γ、ε、δ、α、μが含まれる)から得られる超可変ループを包含する。
【0055】
超可変ループL1、L2、L3、H1、H2、H3は、それぞれ、下に定義する「相補性決定領域」すなわち「CDR」の部分を含んでいる。「超可変ループ」と「相補性決定領域」という用語は、厳密には同義語ではない。というのも超可変ループ(HV)は構造に基づいて決まるのに対し、相補性決定領域(CDR)は配列可変性に基づいて決まり(Kabat他、『Sequences of Proteins of Immunological Interest』、第5版、公衆衛生局、国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州、1991年)、いくつかのVHドメインとVLドメインではHVとCDRの制限が異なる可能性があるからである。
【0056】
VLドメインとVHドメインのCDRは、典型的には以下のアミノ酸を含むと定義される:軽鎖可変ドメインの残基24~34(CDRL1)、50~56(CDRL2)、89~97(CDRL3)と、重鎖可変ドメインの残基31~35または31~35b(CDRH1)、50~65(CDRH2)、95~102(CDRH3);(Kabat他、『Sequences of Proteins of Immunological Interest』、第5版、公衆衛生局、国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州、1991年)。したがってHVを対応するCDRの中に含めることができ、本明細書でVHドメインとVLドメインの「超可変ループ」に言及するときには、特に断わらない限り、対応するCDRも包含し、逆も同様であると解釈すべきである。
【0057】
可変ドメインのより高度に保存された部分は、下に定義するように、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然状態の重鎖と軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、βシート配置を主に採用していて3つの超可変ループによって接続された4つのFR(それぞれFR1、FR2、FR3、FR4)を含んでいる。それぞれの鎖の中の超可変ループはFRによって他の鎖からの超可変ループと互いに近接して保持されて、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している。抗体の構造分析から、配列と、相補性決定領域によって形成される結合部位の形との間の関係が明らかになった(Chothia他、J. Mol. Biol. 第227巻、799~817ページ、1992年;Tramontano他、J. Mol. Biol、第215巻、175~182ページ、1990年)。6つのループのうちの5つは、配列の変動性が大きいにもかかわらず、採用している主鎖配置のレパートリーが非常に少なく、その配置は「標準的(canonical)構造」と呼ばれている。これらの配置は、第1にループの長さによって、第2にループ内とフレームワーク領域内の所定の位置にあるカギとなる残基の存在によって決まり、それらの残基が、充填度や、水素結合や、通常ではない主鎖配置を取る能力を通じて配置を決定している。
【0058】
本明細書では、「CDR」すなわち「相補性決定領域」という用語は、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチド両方の可変領域の中に見いだされる不連続な抗原結合部位を意味する。これらの特別な領域は、Kabat他、J. Biol. Chem. 第252巻、6609~6616ページ、1977年、Kabat他、『Sequences of Proteins of Immunological Interest』、第5版、公衆衛生局、国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州、1991年と、Chothia他、J. Mol. Biol. 第196巻、901~917ページ、1987年、MacCallum他、J. Mol. Biol. 第262巻、732~745ページ、1996年に記載されている。これら文献の中の定義には、互いに比較したとき、アミノ酸残基の重複または部分集合が含まれる。上に引用した文献のそれぞれによって定義されるCDRを包含するアミノ酸残基を比較のために示す。「CDR」という用語は、配列比較に基づいてKabatが定義したCDRであることが好ましい。
【0059】
【0060】
本明細書では、「フレームワーク領域」すなわち「FR領域」という用語に、可変領域の一部だが(例えばCDRに関するKabatの定義を用いると)CDRの一部ではないアミノ酸残基が含まれる。したがって可変領域フレームワークは長さがアミノ酸約100~120個だが、CDRの外のアミノ酸だけを含んでいる。重鎖可変ドメインの具体例に関してと、Kabatらによって定義されるCDRに関しては、フレームワーク領域1は、アミノ酸1~30を包含する可変領域のドメインに対応し、フレームワーク領域2は、アミノ酸36~49を包含する可変領域のドメインに対応し、フレームワーク領域3は、アミノ酸66~94を包含する可変領域のドメインに対応し、フレームワーク領域4は、可変領域のアミノ酸103から可変領域の端部までのドメインに対応する。軽鎖のフレームワーク領域は同様にそれぞれの軽鎖可変領域CDRによって隔てられている。同様に、ChothiaらまたはMacCallumらによるCDRの定義を用いると、フレームワーク領域の境界は、上記のようにそれぞれのCDR末端部によって隔てられている。好ましい実施態様では、CDRはKabatによって定義される。
【0061】
天然の抗体では、各モノマー抗体の表面に存在する6つのCDRは、特別な位置にある短くて不連続なアミノ酸配列であり、この抗体が水性環境で三次元配置を取るときに抗原結合部位を形成する。重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインの残部は、分子間のアミノ酸配列の変動性がより小さく、フレームワーク領域と呼ばれる。フレームワーク領域は主にβシート配置を採用しており、CDRは、βシート構造を接続するループを形成し、さらにいくつかの場合にはβシート構造の一部を形成する。したがってこれらフレームワーク領域は足場を形成し、鎖間非共有相互作用によって6つのCDRを正しい向きで位置決めする。位置が決まったCDRによって形成される抗原結合部位は、免疫反応性抗原の表面のエピトープとは相補的な表面を規定する。この相補的な表面が、免疫反応性抗原エピトープに抗体が非共有結合するのを促進する。CDRの位置は、当業者が容易に特定することができる。
【0062】
本明細書では、「ヒンジ領域」という用語に、重鎖分子でCH1ドメインをCH2ドメインに接続している部分が含まれる。このヒンジ領域は約25個の残基を含んでいて可撓性があるため、2つのN末端抗体結合領域は独立に動くことができる。ヒンジ領域は3つの異なるドメインに分けること、すなわち上部ヒンジ、中央部ヒンジ、下部ヒンジに分けることができる。(Roux他、J. Immunol. 第161巻、4083~4090ページ、1998年)。「全面的ヒト」ヒンジ領域を含むMET抗体は、下記の表2に示したヒンジ領域配列の1つを含有することができる。
【0063】
【0064】
本明細書では、「CH2ドメイン」という用語には、通常の番号付けスキームを用いると、重鎖分子のうちで抗体のほぼ残基244から残基360まで広がる部分が含まれる(Kabat番号付けシステムでは残基244~360;EU番号付けシステムでは残基231~340;Kabat他、『Sequences of Proteins of Immunological Interest』、第5版、公衆衛生局、国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州(1991年))。CH2ドメインは他のドメインと近接したペアにならないという点が独自である。そうではなく、2本のN結合分岐炭化水素鎖が、完全な天然状態のIgG分子の2つのCH2ドメインの間に挿入されている。CH3ドメインがIgG分子のCH2ドメインからC末端まで延びていて、約108個の残基を含んでいることも文献に明確に記載されている。
【0065】
本明細書では、「フラグメント」という用語は、抗体または抗体鎖のうちで、完全または完備な抗体または抗体鎖と比べて少ない数のアミノ酸残基を含む箇所または部分を意味する。「抗原結合フラグメント」という用語は、抗原に結合するか、抗原への結合(すなわちhMETとmMETへの特異的な結合)に関して完全な抗体(すなわち出所となった完全な抗体)と競合する免疫グロブリンまたは抗体のポリペプチドフラグメントを意味する。本明細書では、抗体分子の「フラグメント」という用語に含まれるのは、抗体の抗原結合フラグメント(例えば抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、一本鎖抗体(scFv)、F(ab')2フラグメント、Fabフラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、単一ドメイン抗体フラグメント(DAb))である。フラグメントは、例えば完全または完備な抗体または抗体鎖の化学的処理または酵素処理によって得ること、または組み換え手段によって得ることができる。
【0066】
本明細書では、「価」という用語は、ペプチド内で標的結合部位になる可能性のある部位の数を意味する。それぞれの標的結合部位は、1つの標的分子に、または標的分子上の特定の部位に、特異的に結合する。ポリペプチドが2つ以上の標的結合部位含んでいる場合には、各標的結合部位は、同じ分子または異なる分子に特異的に結合することができる(例えば異なるリガンドまたは異なる抗原に結合すること、または同じ抗原上の異なるエピトープに結合することができる)。対象となる結合分子は、hMETに対して特異的な少なくとも1つの結合部位を有する。
【0067】
本明細書では、「特異性」という用語は、所与の標的(例えばhMET、mMET)に結合する(例えば、所与の標的と免疫反応する)能力を意味する。ポリペプチドは単特異性のものが可能であり、1つの標的に特異的に結合する1つ以上の結合部位を含むことができる。あるいはポリペプチドは多特異性のものが可能であり、同じか異なる複数の標的に特異的に結合する2つ以上の結合部位を含むことができる。一実施態様では、本発明の抗体は2つ以上の標的に対する特異性がある。例えば一実施態様では、本発明の多特異性結合分子は、hMETと第2の標的分子に結合する。この文脈では、第2の標的分子は、hMETまたはmMET以外の分子である。
【0068】
「エピトープ」という用語は、抗原(ヒトMET)のうちで抗体と接触する部分を意味する。エピトープは、直線的であること、すなわち単一のアミノ酸配列への結合に関与すること、または立体構造的(conformational)であること、すなわち抗原の必ずしも連続ではない可能性があるさまざまな領域にある2つ以上のアミノ酸配列への結合に関与することが可能である。本明細書に提示した抗体は、ヒトMETタンパク質の細胞外ドメイン内にある異なった(重複した、または重複していない)エピトープに結合することができる。
【0069】
本明細書では、ポリペプチドに関する「合成」という用語に、自然には生じないアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。例えば、天然ポリペプチドの改変形態である(例えば付加、置換、欠失といった変異を含む)非天然のポリペプチドや、(天然であっても天然でなくてもよい)第1のアミノ酸配列を、アミノ酸が直線状に並ぶようにして、自然には連結していない(天然であっても天然でなくてもよい)第2のアミノ酸配列に連結された状態で含む非天然のポリペプチドが含まれる。
【0070】
本明細書では、「操作された」という用語に、核酸分子またはポリペプチド分子を合成手段によって(例えば、組み換え技術によって、インビトロペプチド合成によって、酵素によって、ペプチドの化学的カップリングによって、これらの技術の何らかの組み合わせによって)操作することが含まれる。本発明の抗体は操作されていることが好ましく、その中には、ヒト化抗体および/またはキメラ抗体、1つ以上の特性(例えば抗原への結合、安定性/半減期、エフェクタ機能)が操作された抗体が含まれる。
【0071】
本明細書では、「改変された抗体」という用語に、自然には生じない改変をされた合成形態の抗体(例えば少なくとも2つの重鎖部分を含むが、2つの完備した重鎖ではない抗体(例えばドメイン欠失抗体やミニボディ));2つ以上の異なる抗原に、または単一の抗原上の異なるエピトープに結合する多特異性(例えば二重特異性、三重特異性などの)形態の抗体;scFv分子に接合された重鎖分子などが含まれる。scFv分子は本分野で知られており、例えばアメリカ合衆国特許第5,892,019号に記載されている。それに加え、「改変された抗体」という用語には、多価形態の抗体(例えば3価、4価などで、同じ抗体の3つ以上のコピーに結合する抗体)が含まれる。別の一実施態様では、本発明の改変された抗体は、CH2ドメインを欠いた少なくとも1つの重鎖部分を含むとともに、受容体リガンドペアの1つのメンバーの結合部分を含有するポリペプチドの結合ドメインを含む融合タンパク質である。
【0072】
「改変された抗体」という用語は、本明細書では、本発明のMET抗体のアミノ酸配列バリアントも意味することができる。当業者は、発明のMET抗体を改変して、出所となるMET抗体と比べてアミノ酸配列が変化したバリアントMET抗体を作製できることを理解するであろう。例えば「重要でない」アミノ酸残基の位置での保存的な置換または変化へとつながるヌクレオチドまたはアミノ酸の置換を(例えばCDRおよび/またはフレームワーク残基に)実現することができる。アミノ酸置換には、1個以上のアミノ酸を天然または非天然のアミノ酸で置き換えることが含まれる。
【0073】
本明細書では、「ヒト化置換」という用語は、本発明のMET抗体(例えばラクダ科由来のMET抗体)のVHドメインまたはVLドメインの特定の位置に存在するアミノ酸残基が、参照するヒトのVHドメインまたはVLドメインの同等な位置にあるアミノ酸残基で置き換えられるアミノ酸置換を意味する。参照するヒトのVHドメインまたはVLドメインとして、ヒト生殖系列によってコードされるVHドメインまたはVLドメインが可能である。ヒト化置換は、本明細書に規定したMET抗体のフレームワーク領域および/またはCDRで実施することができる。
【0074】
本明細書では、「ヒト化バリアント」という用語は、参照MET抗体と比べたときに1個以上の「ヒト化置換」を含有するバリアント抗体を意味し、このバリアント抗体では、参照抗体の一部(例えばVHドメインおよび/またはVLドメイン、またはそのドメインのうちで少なくとも1つのCDRを含有する部分)が、非ヒト種に由来するアミノ酸配列を持っていて、「ヒト化置換」は、非ヒト種に由来するアミノ酸配列の中で起こっている。
【0075】
本明細書では、「生殖系列化バリアント」という用語は、特に、「ヒト化置換」の結果として本発明のMET抗体(例えばラクダ科由来のMET抗体)のVHドメインまたはVLドメインの特定の位置に存在する1個以上のアミノ酸残基が、ヒト生殖系列によってコードされるヒトのVHドメインまたはVLドメインの同等な位置にあるアミノ酸残基で置き換えられた「ヒト化バリアント」を意味する。所与の任意の「生殖系列化バリアント」について、置換によって生殖系列化バリアントになる置換アミノ酸残基は、単一のヒト生殖系列によってコードされるVHドメインまたはVLドメインだけから取ること、または主としてそのVHドメインまたはVLドメインから取ることが典型的である。「ヒト化バリアント」と「生殖系列化バリアント」という用語は、本明細書では交換可能に用いられることがしばしばある。1つ以上の「ヒト化置換」をラクダ科由来(例えばラマ由来)のVHドメインまたはVLドメインに導入すると、ラクダ科(例えばラマ)由来のVHドメインまたはVLドメインの「ヒト化バリアント」が産生される。置換で導入されるアミノ酸が、主として単一のヒト生殖系列によってコードされるVHドメイン配列またはVLドメイン配列に由来するか、そのVHドメイン配列またはVLドメイン配列だけに由来する場合には、ラクダ科(例えばラマ)由来のVHドメインまたはVLドメインの「ヒト生殖系列化バリアント」になることができる。
【0076】
本明細書では、「親和性バリアント」という用語は、本発明の参照MET抗体と比べてアミノ酸配列が1箇所以上変化しているバリアント抗体を意味し、その親和性バリアントは、参照抗体と比べてhMETおよび/またはmMETに対して変化した親和性を示す。親和性バリアントは、参照MET抗体と比べてhMETおよび/またはmMETに対する改善された親和性を示すことが好ましい。改善は、hMETおよび/またはmMETに対するより小さなKDとして、またはhMETおよび/またはmMETに対するより遅いオフレートとして現われる可能性がある。親和性バリアントは、典型的には、参照MET抗体と比べてCDRでアミノ酸配列が1箇所以上変化している。そのような置換によってCDR内の所与の位置に存在する元のアミノ酸を異なるアミノ酸残基に置き換えることができる。その異なるアミノ酸残基は、天然のアミノ酸残基でも、非天然のアミノ酸残基でもよい。アミノ酸置換は、保存的でも非保存的でもよい。
【0077】
本明細書では、「ヒトとの相同性が大きい」抗体は、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでいて、その2つのドメインを合わせると、最もよく一致するヒト生殖系列のVH配列およびVL配列とアミノ酸配列が少なくとも90%一致する抗体を意味する。ヒトとの相同性が大きい抗体は、天然状態の非ヒト抗体のVHドメインとVLドメインでヒト生殖系列配列と十分に大きな%配列一致を示すものが含まれた抗体を含むことができ、その例には、ラクダ科の通常の抗体のVHドメインとVLドメインを含む抗体のほか、そのような抗体の操作された(特にヒト化または生殖系列化された)バリアントと、「全面的ヒト」抗体が含まれる。
【0078】
一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3、FR4において、1つ以上のヒトVHドメインのアミノ酸配列の配列一致または配列相同性が80%以上である可能性がある。別の実施態様では、本発明のポリペプチドのVHドメインと、最もよく一致するヒト生殖系列のVH配列との間のアミノ酸配列の一致または相同性は、85%以上、または90%以上、または95%以上、または97%以上、または99%以上、それどころか100%になる可能性がある。
【0079】
一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3、FR4において、最もよく一致するヒトVH配列と比べて1個以上(例えば1~10個)のアミノ酸配列ミスマッチを含有する可能性がある。別の一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVLドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3、FR4で、1つ以上のヒトVLドメインとの配列一致または配列相同性が80%以上である可能性がある。別の実施態様では、本発明のポリペプチドのVLドメインと、最もよく一致するヒト生殖系列のVL配列との間のアミノ酸配列の一致または相同性は、85%以上、または90%以上、または95%以上、または97%以上、または99%以上、それどころか100%になる可能性がある。
【0080】
一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVLドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3、FR4において、最もよく一致するヒトVL配列と比べて1個以上(例えば1~10個)のアミノ酸配列ミスマッチを含有する可能性がある。ヒトとの相同性が大きい抗体と、ヒト生殖系列のVHおよびVLとの間の配列一致率を分析する前に、標準的折り畳みを求めることができる。そうすることで、H1とH1、またはL1とL2(とL3)に関して同じ組み合わせの標準的折り畳みを持つヒト生殖系列区画のファミリーを同定することが可能になる。その後、興味ある抗体の可変領域との配列相同率が最も大きいヒト生殖系列ファミリーのメンバーを選択して配列相同性を点数化する。最もよく一致するヒト生殖系列を求める手続きと、%配列一致/相同性を求める手続きは、当業者に周知である。
【0081】
ヒトとの相同性が大きい抗体は、ヒトまたはヒト様の標準的折り畳み構造を有する超可変ループまたはCDRを含むことができる。一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメインまたはVLドメインの少なくとも1つの超可変ループまたはCDRは、非ヒト抗体(例えばラクダ科の1つの種からの通常の抗体)のVHドメインまたはVLドメインから得ること、またはそのようなVHドメインまたはVLドメインに由来することが可能であり、それでも予想される標準的折り畳み構造または実際の標準的折り畳み構造を、ヒト抗体で生じる標準的折り畳み構造と実質的に同じにすることができる。一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメイン内のH1とH2の両方とも、予想される標準的折り畳み構造または実際の標準的折り畳み構造が、ヒト抗体で生じる標準的折り畳み構造と実質的に同じになる。
【0082】
ヒトとの相同性が大きい抗体は、超可変ループH1とH2が、少なくとも1つのヒト生殖系列VHドメインで生じることが知られている標準的構造の組み合わせと同じ標準的折り畳み構造の組み合わせを形成するVHドメインを含むことができる。H1とH2における標準的折り畳み構造のいくつかの組み合わせだけが、ヒト生殖系列によってコードされるVHドメインで実際に起こることが観察されている。一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメイン内のH1とH2は、非ヒト種(例えばラクダ科の1つの種)のVHドメインから得ることができ、それでも予想される標準的折り畳み構造または実際の標準的折り畳み構造の組み合わせは、ヒト生殖系列または体細胞変異VHドメインで起こることが知られている標準的折り畳み構造の組み合わせと同じになる。非限定的な実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメイン内のH1とH2は、非ヒト種(例えばラクダ科の1つの種)のVHドメインから得ることができて、標準的折り畳みの組み合わせは、1-1、1-2、1-3、1-6、1-4、2-1、3-1、3-5のうちの1つになる。ヒトとの相同性が大きい抗体は、ヒトVHとの配列一致/大きな配列相同性を示すとともに、ヒトVHとの構造相同性を示す超可変ループを含有するVHドメインを含有することができる。
【0083】
ヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメイン内のH1とH2に存在する標準的折り畳みとその組み合わせが、全体的な一次アミノ酸配列の一致に関してヒトとの相同性が大きい抗体のVHドメインと最もよく一致するヒトVH生殖系列配列にとって「正しい」ことが有利である可能性がある。例えば配列がヒト生殖系列VH3ドメインと最もよく一致する場合には、H1とH2にとって、ヒトVH3ドメインにも自然に生じる標準的折り畳みの組み合わせを形成することが有利である可能性がある。それは、非ヒト種に由来していてヒトとの相同性が大きい抗体(例えばラクダ科の通常の抗体に由来するVHドメインとVLドメインを含有する抗体、特にヒト化されたラクダ科のVHドメインとVLドメインを含有する抗体)の場合に特に重要である可能性がある。
【0084】
したがって一実施態様では、ヒトとの相同性が大きいMET抗体のVHドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3、FR4において、ヒトVHドメインとの配列一致または配列相同性が80%以上、または85%以上、または90%以上、または95%以上、または97%以上、または99%以上、それどころか100%になる可能性があることに加え、同じ抗体内のH1とH2は、非ヒトVHドメインから得られる(例えばラクダ科の1つの種(ラマが好ましい)に由来する)が、予想される標準的折り畳み構造または実際の標準的折り畳み構造が、同じヒトVHドメイン内に生じることが知られている標準的折り畳みの組み合わせと同じになる。
【0085】
別の実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVLドメイン内のL1とL2は、それぞれが非ヒト種のVLドメイン(例えばラクダ科に由来するVLドメイン)から得られ、それぞれの予想される標準的折り畳み構造または実際の標準的折り畳み構造が、ヒト抗体で生じる標準的折り畳み構造と実質的に同じになる。ヒトとの相同性が大きい抗体のVLドメイン内のL1とL2は、予想される標準的折り畳み構造または実際の標準的折り畳み構造の組み合わせを、ヒト生殖系列VLドメインで生じることが知られている標準的折り畳み構造の組み合わせと同じにすることができる。非限定的な実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体(例えばラクダ科由来のVLドメインを含有する抗体、またはそのヒト化バリアント)のVラムダドメイン内のL1とL2は、(Williams他、J. Mol. Biol. 第264巻、220~232ページ、1996年に定義されていて、http://www.bioc.uzh.ch/antibody/Sequences/Germlines/VBase_hVL.htmlに示されている)11-7、13-7(A、B、C)、14-7(A、B)、12-11、14-11、12-12という標準的折り畳みの組み合わせの1つを形成することができる。非限定的な実施態様では、Vカッパドメイン内のL1とL2は、(Tomlinson他、EMBO J. 第14巻、4628~4638ページ、1995年に定義されていて、http://www.bioc.uzh.ch/antibody/Sequences/Germlines/VBase_hVK.htmlに示されている)2-1、3-1、4-1、6-1という標準的折り畳みの組み合わせの1つを形成することができる。さらに別の一実施態様では、ヒトとの相同性が大きい抗体のVLドメイン内の3つのL1、L2、L3のすべてが実質的にヒト構造を示すことができる。ヒトとの相同性が大きい抗体のVLドメインは、ヒトVLとの配列一致/配列相同性を示すことと、VLドメイン内の超可変ループがヒトVLと構造相同性を示すことの両方を実現することが好ましい。
【0086】
一実施態様では、ヒトとの相同性が大きいMET抗体のVLドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3、FR4において、ヒトVLドメインと配列一致が80%以上、または85%以上、または90%以上、または95%以上、または97%以上、または99%まで、それどころか100%になることに加え、超可変領域L1と超可変領域L2は、予想される標準的折り畳み構造または実際の標準的折り畳み構造の組み合わせを、同じヒトVLドメイン内で自然に起こることが知られている標準的折り畳みの組み合わせと同じにすることができる。
【0087】
もちろん、ヒトVHとの配列一致/配列相同性が大きく、ヒトVHの超可変ループとの構造相同性を示すVHドメインを、ヒトVLとの配列一致/配列相同性が大きく、ヒトVLの超可変ループとの構造相同性を示すVLドメインと組み合わせることで、VH/VLペア(例えばラクダ科由来のVH/VLペア)を含有していてヒトをコードするVH/VLペアと配列相同性および構造相同性が最大の、ヒトとの相同性が大きい抗体を提供することが考えられる。
【0088】
ラクダ科由来(例えばラマ由来)のCDR、VHドメイン、VLドメインでヒト様標準的折り畳みの存在を評価するための手続きは、WO 2010/001251とWO 2011/080350に記載されている(その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。
【0089】
本明細書では、「親和性」または「結合親和性」という用語は、本分野における抗体結合の文脈での通常の意味に基づいて理解されるべきであり、抗原と、抗体上またはその抗原結合フラグメント上の結合部位との間の結合の強さおよび/または安定性を反映している。
【0090】
本明細書に提示した抗MET抗体は、ヒトMET(hMET)に大きな親和性で結合することと、マウスMET(mMET)に大きな親和性で結合することを特徴とする。hMETとmMETに対する結合親和性は、当業者に知られている標準的な技術を利用して評価することができる。
【0091】
一実施態様では、所定のVH/VLペアを含むFabクローンの結合親和性は、表面プラズモン共鳴を利用して(例えばBiacore(商標)システムを用いて)評価することができる。本発明の抗体と抗原結合フラグメントのVH/VLペアを含むFabクローンは、典型的には、hMETに対して1×10-3/秒~1×10-2/秒の範囲、場合によっては1×10-3/秒~6×10-3/秒の範囲のオフレートを示す(Biacore(商標)によって測定)。この範囲内のオフレートは、Fabとそれに対応する2価のmAbがhMETに対して大きな親和性で結合することの1つの指標と見なすことができる。同様に、本発明の抗体と抗原結合フラグメントのVH/VLペアを含むFabクローンは、添付の実施例に記載したように、mMETに対して1×10-3/秒~1×10-2/秒の範囲、場合によっては1×10-3/秒~6×10-3/秒の範囲のオフレートを示す(Biacore(商標)によって測定)。この範囲内のオフレートは、Fabとそれに対応する2価のmAbがmMETに対して大きな親和性で結合することの1つの指標と見なすことができる。したがってヒトMETとマウスMETの両方に関して上記の範囲内に入るオフレートを示すFabは、hMETに対して大きな親和性で結合するとともに、mMETに対して大きな親和性で結合する。すなわちこのFabは、hMETとmMETの間で交差反応性である。(個別に)ヒトMETとマウスMETに対して上記の範囲内に入るオフレートを示す2つのFabを含む2価のmAbも、ヒトMETとマウスMETに対して大きな親和性で結合すると考えられる。
【0092】
結合親和性は、特定の抗体に関する解離定数、すなわちKDとして表わすこともできる。KD値が小さいほど、抗体とそれに対応する標的抗原の間の結合相互作用が強い。KDは、例えばSPR測定によって求まるKonとKoffを組み合わせることによって求めることができる。典型的には、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、mAbとして測定するとき、mMETとhMETに関するKDが0.1ナノモル/lである。
【0093】
ヒトMETとマウスMETに対する結合親和性は、添付の実施例に記載したように、細胞に基づく系を利用して評価することもできる。実施例では、例えばELISAまたはフローサイトメトリーを利用し、METを発現する哺乳動物細胞系へのmAbの結合を調べている。hMETまたはmMETに関する大きな親和性は、例えば実施例3に記載したようにELISAでのEC50が0.5 nM以下であることによって示される。
【0094】
上にまとめたように、本発明は、少なくとも一部が、hMETとmMETに大きな親和性で結合する抗体とその抗原結合フラグメントに関する。本発明のMET抗体と抗体フラグメントの特性と性質をこれからさらに詳しく説明する。
【0095】
親和性が大きくてhMETおよびmMETと交差反応する本明細書に記載した抗体と抗原結合フラグメントは、METアゴニストである。本明細書では、METアゴニストは、MET受容体に結合するときMETシグナル伝達を(部分的に、または全面的に)誘導する。本発明のMETアゴニスト抗体とMETアゴニスト抗原結合フラグメントは、hMETとmMETのアゴニストである。本明細書に記載した抗体がhMETまたはmMETに結合するときのアゴニスト活性は、相同なHGF-MET結合(すなわちhMETへのヒトHGFの結合、mMETへのマウスHGFの結合)のときに誘導される分子応答と細胞応答を(少なくとも部分的に)模倣した分子応答および/または細胞応答によって示すことができる。そのような応答を模倣する抗体を本明細書では「抗METアゴニスト」、「アゴニスト抗体」(+その文法的なバリエーション)とも呼ぶ。同様に、そのような応答を部分的に模倣する抗体を本明細書では「部分的METアゴニスト」または「部分的アゴニスト」と呼び、そのような応答を全面的に模倣する抗体を本明細書では「全面的METアゴニスト」または「全面的アゴニスト」と呼ぶ。本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、ヒト系とマウス系の両方でMETシグナル伝達を誘導することを強調しておく。すなわち本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、hMETとmMETのアゴニストである。したがって以下の議論は、本発明の抗体と抗原結合フラグメントがhMETに結合することで誘導される応答と、本発明の抗体と抗原結合フラグメントがmMETに結合することで誘導される応答の両方に当てはまる。
【0096】
本発明の抗体と抗原結合フラグメントによるMET活性化作用は、分子応答(例えばMET受容体のリン酸化)および/または細胞応答(例えば細胞散乱アッセイおよび/または抗アポトーシスアッセイおよび/または分岐形態形成アッセイで検出可能な細胞応答)によって示すことができる。これら分子応答と細胞応答をさらに詳しく記述すると以下のようになる:
(i)MET受容体のリン酸化。この文脈では、METアゴニスト抗体またはMETアゴニスト抗原結合フラグメントは、受容体-リガンドの結合の不在下でこの抗体または抗原結合フラグメントの結合によってMETの自己リン酸化が起こる場合に、METをリン酸化する。すなわちこの抗体または抗原結合フラグメントは、hHGFの不在下でヒトhMETに結合してhMETをリン酸化し、この抗体または抗原結合フラグメントは、mHGFの不在下でmMETに結合してmMETをリン酸化する。METのリン酸化は、本分野で知られているアッセイ(例えば(実施例6とBasilico他、J Clin Invest. 第124巻、3172~3186ページ、2014年に記載されている)ウエスタンブロッティングやホスホ-MET ELISA)によって明らかにすることができる。本明細書に記載した抗体と抗原結合フラグメントは、hMETに対して「大きなリン酸化効力」または「小さなリン酸化効力」を示すとともに、mMETに対して「大きなリン酸化効力」または「小さなリン酸化効力」を示す可能性がある。この文脈では、抗体または抗原結合フラグメントは、この抗体またはフラグメントが、mMETに対して、HGFに対するのと同様のEC50(<1 nM)および/または少なくとも80%の(HGFによって誘導される最大活性化に対する割合としての)EMAXという効力を示し、hMETに対して、HGFに対するのと同様のEC50(<1 nM)および/または少なくとも80%の(HGFによって誘導される最大活性化に対する割合としての)EMAXという効力を示す場合に、「大きなリン酸化効力」を示している。抗体または抗原結合フラグメントは、この抗体またはフラグメントが、mMETに対して1 nM~5 nMのEC50および/または60~80%の(HGFによって誘導される最大活性化に対する割合としての)EMAXという効力を示し、hMETに対して1 nM~5 nMのEC50および/または60~80%の(HGFによって誘導される最大活性化に対する割合としての)EMAXという効力を示す場合に、「小さなリン酸化効力」を示している。
(ii)HGF様細胞応答の誘導。MET活性化作用は、本明細書の実施例に記載した細胞散乱アッセイ、および/または抗アポトーシスアッセイ、および/または分岐形態形成アッセイといったアッセイを利用して測定することができる。この文脈では、本発明によるMETアゴニスト抗体またはMETアゴニスト抗原結合フラグメントは、細胞アッセイにおいて、例えば相同なHGFに曝露した後に観察される応答と(少なくとも部分的に)似た応答を誘導する。例えばMETアゴニストであることは、対照抗体(例えばIgG1)に曝露した細胞と比べてこの抗体に応答した細胞散乱の増加が見られること;および/または、薬によって誘導されるアポトーシスからの保護効力が、32 nM未満のEC50および/または処理していない細胞と比べて20%超大きなEMAX細胞生存率であること;および/または、この抗体または抗原結合フラグメントに曝露した細胞スフェロイド調製物の中のスフェロイド当たりの分岐の数が増加することによって示すことができる。
【0097】
本明細書に記載した抗体と抗原結合フラグメントは、利用するアッセイに応じ、ヒト細胞と接触したときにHGF様細胞応答を「全面的に誘導する」か「部分的に誘導する」ことができ、マウス細胞と接触したときにHGF様細胞応答を「全面的に誘導する」か「部分的に誘導する」ことができる。
【0098】
この文脈で、抗体またはフラグメントによるHGF様細胞応答の「全面的な誘導」は、以下のようにして測定することができる:
細胞散乱アッセイにおいて、抗体または抗原結合フラグメントが、濃度0.1~1 nMで、0.1 nMの相同なHGFと少なくとも同等な細胞散乱の増加を誘導する;および/または
抗アポトーシスアッセイにおいて、抗体または抗原結合フラグメントが、HGFの値の1.1倍以下のEC50および/またはHGFで観察される値の90%超のEMAX細胞生存率を示す;および/または
分岐形態形成アッセイにおいて、抗体または抗原結合フラグメントで処理した細胞が、同じ(ゼロではない)濃度のHGFによって誘導されるスフェロイド当たりの分岐の数の90%超を示す。
【0099】
この文脈で、抗体または抗原結合フラグメントが上記のHGF様細胞応答を「全面的に誘導」しない場合には、HGF様細胞応答の「部分的誘導」を以下のようにして測定することができる:
細胞散乱アッセイにおいて、抗体または抗原結合フラグメントが、1 nM以下の濃度で、0.1 nMの相同なHGFによって誘導される値の少なくとも25%のレベルの細胞散乱を誘導する;
抗アポトーシスアッセイにおいて、抗体または抗原結合フラグメントが、HGFの値の7.0倍以下のEC50および/またはHGFで観察される値の少なくとも50%のEMAX細胞生存率を示す;
分岐形態形成アッセイにおいて、抗体または抗原結合フラグメントで処理した細胞が、同じ(ゼロではない)濃度のHGFによって誘導されるスフェロイド当たりの分岐の数の少なくとも25%を示す。
【0100】
すでに記載したように、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、hMETアゴニストかつmMETアゴニストである。したがってこの抗体が(部分的または全面的に)HGF様細胞応答を誘導する実施態様では、HGF様細胞応答は、この抗体または抗原結合フラグメントをヒト細胞と接触させるときに(部分的または全面的に)誘導され、この抗体または抗原結合フラグメントをマウス細胞と接触させるときに(部分的または全面的に)誘導される。
【0101】
結合領域マッピング(実施例4)は、本発明の抗MET抗体が、METのPSIドメイン内またはMETのSEMAドメイン内のMETのエピトープを認識することを明らかにする。したがっていくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、MET(ヒトMETが好ましい)のPSIドメイン内のエピトープを認識する。いくつかの代わりの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、MET(ヒトMETが好ましい)のSEMAドメイン内のエピトープを認識する。
【0102】
いくつかの実施態様では、SEMAドメイン内のエピトープを認識する抗体または抗原結合フラグメントは、SEMAβ-プロペラの1つの羽根の表面に位置するエピトープを認識する。いくつかの実施態様では、エピトープは、SEMAβ-プロペラの羽根4または羽根5の表面に位置する。そのようないくつかの実施態様では、エピトープは、ヒトMETのアミノ酸314~372の間に位置する。いくつかの実施態様では、エピトープは、SEMAβ-プロペラの羽根1~4または羽根1~3の表面に位置する。いくつかの実施態様では、エピトープは、ヒトMETのアミノ酸27~313の間、またはヒトMETのアミノ酸27~225の間に位置する。
【0103】
いくつかの実施態様では、METのPSIドメイン内のエピトープを認識する抗体または抗原結合フラグメントは、MET(ヒトMETが好ましい)のアミノ酸516~545の間に位置するエピトープを認識する。いくつかの実施態様では、METのPSIドメイン内のエピトープを認識する抗体または抗原結合フラグメントは、MET(ヒトMETが好ましい)のアミノ酸546~562の間に位置するエピトープを認識する。
【0104】
いくつかの側面では、本明細書に記載した抗体は、METの細胞外ドメイン内にあってヒトMETとマウスMETの間で保存されている1個以上のアミノ酸残基を含むエピトープを認識する。好ましい実施態様では、本明細書に記載した抗体は、METの細胞外ドメイン内にあってヒトMETとマウスMET とラットMETとサル(例えばカニクイザル)METの間で保存されている1個以上のアミノ酸残基を含むエピトープを認識する。
【0105】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、ヒトMETのアミノ酸残基123~残基223の領域に位置するヒトMETのエピトープを認識する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、ヒトMETのアミノ酸残基224~311の領域に位置するヒトMETのエピトープを認識する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、ヒトMETのアミノ酸残基314~372の領域に位置するヒトMETのエピトープを認識する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、ヒトMETのアミノ酸残基546~562の領域に位置するヒトMETのエピトープを認識する。
【0106】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、アミノ酸残基Ile367を含むヒトMETのエピトープを認識する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基Asp372を含むヒトMETのエピトープを認識する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、アミノ酸残基Ile367とAsp372を含むヒトMETのエピトープを認識する。
【0107】
そのようないくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基314~372の領域に位置していてアミノ酸残基Ile367を含むヒトMETのエピトープを認識する。そのようないくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基314~372の領域に位置していてアミノ酸残基Asp371を含むヒトMETのエピトープを認識する。そのようないくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基314~372の領域に位置していてアミノ酸残基Ile367とAsp372を含むヒトMETのエピトープを認識する。
【0108】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基Thr555を含むヒトMETのエピトープに結合する。
【0109】
そのようないくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、ヒトMETのアミノ酸残基546~562の領域に位置していてアミノ酸残基Thr555を含むヒトMETのエピトープを認識する。
【0110】
抗体または抗原結合フラグメントは、多数のアミノ酸残基でできたエピトープを認識することができる。このエピトープは、直線状でも、立体的でも、その組み合わせでもよい。エピトープがあるアミノ酸領域の中に存在することが特定される場合には、そのエピトープは、その領域内にあって抗体またはフラグメントが接触する1個以上のアミノ酸で形成されていてもよい。したがって本発明のいくつかの実施態様では、抗体またはそのフラグメントは、特定の領域内の複数の(連続した、または不連続な)アミノ酸残基(例えばアミノ酸314~372、または546~562)からなるエピトープを認識できることがわかるであろう。ただし、認識されるエピトープに特定のアミノ酸残基(例えばIle367、Asp372、Thr555)が含まれていることが条件である。抗体のエピトープの一部として認識される残基を明らかにする方法は当業者に知られており、例えば実施例4と実施例26に記載されている方法が含まれる。
【0111】
本発明の抗MET抗体と抗原結合フラグメントは、HGFによって認識される結合ドメインと重複しているエピトープか、その結合ドメインの近くのエピトープと結合するため、相同なMETへの結合をHGFと(少なくとも部分的に)競合することができる(すなわちhMETへの結合をヒトHGFと競合し、mMETへの結合をマウスHGFと競合する)。すなわちこの抗体または抗原結合フラグメントは、結合アッセイ(例えば実施例5に記載したELISA)において、相同なMETにHGFが結合するのを直接または間接に阻止する。したがっていくつかの実施態様では、本発明のMET抗体と抗原結合フラグメントは、相同METへの結合に関してマウスHGFおよびヒトHGFと競合する。HGFとこのように競合する抗体または抗原結合フラグメントを本明細書では「HGF競合体」とも呼ぶ。抗体または抗原結合フラグメントがMETへの結合に関してHGFと競合するかどうかを明らかにするアッセイは当業者に周知である。例えば競合ELISAでは、HGF競合体は、5 nM以下のIC50および/または少なくとも50%のImax(飽和時の最大競合率)を示す。本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、mMETへの結合に関してマウスHGFと競合するとともに、hMETへの結合に関してヒトHGFと競合する。
【0112】
本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、相同なMETへの結合に関してHGFと「全面的に競合する」か「部分的に競合する」可能性がある。この文脈では、「全面的な競合体」として、競合アッセイ(例えばELISA)においてIC50が2 nM未満および/またはImaxが少なくとも90%である抗体または抗原結合フラグメントが可能である。いくつかの実施態様では、「全面的な競合体」は、1 nM未満のIC50および/または90%超のImaxを示す。「部分的な競合体」として、競合アッセイ(例えばELISA)において2~5 nMのIC50および/または50~90%のImaxを示す抗体または抗原結合フラグメントが可能である。記載されている値は、相同なMETへの結合に関するマウスHGFとの競合とヒトHGFとの競合に当てはまる。
【0113】
すでに説明したように、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、ヒトMETとマウスMETの両方を認識する能力があるという理由で有利である。本明細書に記載した抗体またはその抗原結合フラグメントは、mMETに結合するときとhMETに結合するときに同等な特性を示す場合に特に有利である。この同等性により、ヒトの文脈で同じか似た特性を示すであろうという期待のもとにこの抗体を前臨臨床マウスモデルで分析することができる。
【0114】
したがっていくつかの実施態様では、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、hMETとmMETに対して同等な結合親和性を示す。この文脈では、「同等な結合親和性」は、hMETに対する抗体または抗原結合フラグメントの親和性が、mMETに対する抗体の親和性の0.5~1.5倍であることを意味する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、hMETに対する親和性が、mMETに対する親和性の0.8~1.2倍である。
【0115】
明確にすることと例示することを目的として記しておくと、mMETとhMETに対して同等な親和性を持つ抗体または抗原結合フラグメントは、Fabフラグメントとして測定するとき、hMETに対するオフレートが、mMETに対するオフレートの0.5~1.5倍になる可能性がある。例えばmMETとhMETに対して同等の親和性を持っていてhMETに対して2.6×10-3/秒のオフレートを示す抗体は、hMETに対して1.3~3.9×10-3/秒のオフレートを示すと考えられる。さらなる例示として、mMETとhMETに対して同等の親和性を持つ抗体または抗原結合フラグメントは、(例えばELISAまたはフローサイトメトリーによって求まる)hMETに関するEC50が、mMETに関するこの抗体またはフラグメントのEC50の0.5~1.5倍になる可能性がある。例えばmMETとhMETに対して同等の親和性を持っていてmMETに関して0.1ナノモル/lのEC50を示す抗体は、hMETに関して0.05~0.15ナノモル/lのEC50を示すと考えられる。
【0116】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、mMETとhMETの同等なアゴニストである。この文脈では、「同等性」は、hMETへの結合時に誘導されるMET活性化作用のレベルが、mMETへの結合時に誘導されるシグナル伝達のレベルの0.5~1.5倍であるという意味に取る。いくつかの実施態様では、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、hMETへの結合時に、mMETへの結合時に誘導されるシグナル伝達のレベルの0.8~1.2倍のMETシグナル伝達を誘導する。
【0117】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、本明細書に記載した少なくとも1つのMET活性化作用アッセイによって測定するとき、mMETとhMETの同等なアゴニストである。例えば本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、METのリン酸化を同等に誘導する、および/または薬によって誘導されるアポトーシスに対して同等な保護効果を示す、および/または分岐形態形成アッセイにおいて同等なレベルの分岐を誘導する。いくつかの実施態様では、この抗体または抗原結合フラグメントは、記載したすべてのアッセイで測定するときに同等なMET活性化作用を示す。
【0118】
明確にするため記しておくと、本発明の抗体によるMETの同等なリン酸化は、hMETに関するその抗体のEC50が、mMETに関するEC50の0.5~1.5倍になることとして測定できよう。例えばmMETに関するEC50が2.9 nMである場合、その抗体は、hMETに関するEC50が1.45~4.35 nMの範囲だと、hMETのリン酸化を同等に誘導すると考えられる。同様に、抗アポトーシスアッセイで示される同等なMET活性化作用は、ヒト細胞ではマウス細胞におけるEmaxの0.5~1.5倍のEmaxになることとして検出できる。例えばマウス細胞におけるEmaxが37.5%である場合、その抗体は、ヒト細胞に関するEmaxが18.75~56.25%の範囲だと、同等なhMETアゴニストであると考えられる。分岐形態形成アッセイで示される同等なMET活性化作用は、ヒト細胞スフェロイドをこの抗体に曝露した後に観察される分岐の数が、マウス細胞スフェロイドを同じ(ゼロでない)濃度のこの抗体に曝露した後に観察される分岐の数の0.5~1.5倍であることとして検出できる。例えば0.5 nMの抗体に曝露した後にマウス細胞が示す分岐の数が14である場合には、0.5 nMの抗体に曝露した後にヒト細胞が示す分岐の数が7~21の範囲だと、その抗体は同等なhMETアゴニストであると考えられる。
【0119】
同様に、hMETとmMETの活性化作用が同等であることは、細胞散乱が同等であることによって示すことができる。そのようなアッセイの結果の性質は、0.5~1.5という因子の適用が適切でないことを示している。細胞散乱アッセイでは、hMETとmMETの活性化作用が同等であることは、抗体に曝露したヒト細胞に関する細胞散乱スコアが、同じ(ゼロでない)濃度の抗体に曝露したマウス細胞の細胞散乱スコア±1であることによって示すことができる。例えば0.33 nMの抗体に曝露したマウス細胞の細胞散乱スコアが2を示している場合には、この抗体は、0.33 nMの同じ抗体に曝露したヒト細胞の細胞散乱スコアが1~3を示す場合にHGFの同等なアゴニストであると考えられる。
【0120】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、mMETとhMETに対してHGFと同等に競合する。この文脈では、「HGFとの同等な競合」を、hMETに対して抗体または抗原結合フラグメントがヒトHGFと競合するレベルが、mMETに対してその抗体または抗原結合フラグメントがマウスHGFと競合するレベルの0.5~1.5倍であることの意味に取る。いくつかの実施態様では、hMETに対して本発明の抗体と抗原結合フラグメントがヒトHGFと競合するレベルは、mMETに対してその抗体と抗原結合フラグメントがマウスHGFと競合するレベルの0.8~1.2倍である。
【0121】
例示として、抗体がヒトHGFおよびマウスHGFと同等に競合することは、ヒトHGF-hMETの結合と競合する抗体に関するIC50が、マウスHGF-mMETの結合と競合する抗体に関するIC50の0.5~1.5倍であることとして検出することができよう。例えばmHGF-mMETの結合に関するIC50が0.34 nMである場合、抗体は、hHGF-hMETの結合に関するIC50が0.17~0.51 nMの範囲だと、hHGFおよびmHGFと同等に競合する。
【0122】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体と抗原結合フラグメントは、ラットMETおよび/またはカニクイザルMETと交差反応する。ラットMETとカニクイザルMETの一方または両方との交差反応性には、毒性研究をラットおよび/またはカニクイザルモデル系で実施できるという利点がある。この点に関し、抗体がカニクイザルMETまたはラットMETと交差反応性を示すかどうかは、添付の実施例25に記載したようなELISAによって明らかにすることができる。
【0123】
本明細書に記載した抗体またはその抗原結合フラグメントは、ラクダ科の1つの種のVHドメインまたはVLドメインから得られた少なくとも1つの超可変ループまたは相補性決定領域を含むことができる。特にこの抗体または抗原結合フラグメントは、異系交配したラクダ科(例えばラマ)をヒトMET抗原で能動免疫化することによって得られるVHドメインおよび/またはVLドメイン、またはそのCDRを含むことができる。
【0124】
「ラクダ科の1つの種のVHドメインまたはVLドメインから得られた超可変ループまたは相補性決定領域」とは、超可変ループ(HV)またはCDRが、ラクダ科免疫グロブリン遺伝子によってコードされる超可変ループまたはCDRのアミノ酸配列と同じか実質的に同じアミノ酸配列を持つことを意味する。この文脈における「免疫グロブリン遺伝子」には、生殖系列遺伝子、再配列した免疫グロブリン遺伝子が含まれるほか、体細胞変異した遺伝子も含まれる。したがってラクダ科の1つの種のVHドメインまたはVLドメインから得られるHVまたはCDRのアミノ酸配列は、成熟したラクダ科の通常の抗体に存在するHVまたはCDRのアミノ酸配列と同じである可能性がある。この文脈における「から得られる」という表現は、MET抗体のHVまたはCDRが、元々はラクダ科免疫グロブリン遺伝子によってコードされていたアミノ酸配列(またはそのマイナーなバリアント)を実現しているという意味の構造的な関係を意味する。しかしこれは、MET抗体の調製に用いる作製プロセスに関する特別な関係を必ずしも意味しない。
【0125】
ラクダ科由来のMET抗体は、ラクダ科の任意の種に由来するものが可能であり、その中には特に、ラマ、ヒトコブラクダ、アルパカ、ビクーナ、グアナコ、ラクダが含まれる。
【0126】
ラクダ科由来のVHドメインとVLドメインまたはそのCDRを含むMET抗体は、典型的には組み換え発現されたポリペプチドであり、キメラポリペプチドが可能である。「キメラポリペプチド」という用語は人工(非天然)ポリペプチドを意味し、人工的でない場合には連続していない2つ以上のペプチドフラグメントを並置することによって作製される。この定義に含まれるのは、2つ以上の種(例えばラクダとヒト)によってコードされるペプチドフラグメントを並置することによって作製される「種」キメラポリペプチドである。
【0127】
ラクダ科由来のCDRは、下記の表3と表4に示したCDR配列の1つを含むことができる。
【0128】
一実施態様では、VHドメイン全体および/またはVLドメイン全体をラクダ科の1つの種から得ることができる。特別な実施態様では、ラクダ科由来のVHドメインは、配列番号:155、157、159、161、163、165、167、169、171、173、175として示したアミノ酸配列のいずれかを含むことができるのに対し、ラクダ科由来のVLドメインは、配列番号:156、158、160、162、164、166、168、170、172、174、176のいずれかを含むことができる。次に、ラクダ科由来のVHドメインおよび/またはラクダ科由来のVLドメインに対してタンパク質の操作を実施し、1個以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失をこのラクダ科のアミノ酸配列に導入することができる。操作によるこれらの変化には、ラクダ科に対するアミノ酸置換が含まれることが好ましい。このような変化には、ラクダ科がコードするVHドメインまたはVLドメインの1個以上のアミノ酸残基が、ヒトがコードする相同なVHドメインまたはVLドメインの同等な残基によって置き換えられた「ヒト化」または「生殖系列化」が含まれる。
【0129】
ヒトMET抗原を用いたラクダ科(例えばラマ)の能動免疫化によって得られる単離されたラクダ科のVHドメインとVLドメインは、本発明に従ってMET抗体を操作するための基礎として用いることができる。ラクダ科の完全なVHドメインとVLドメインから出発して、出発ラクダ科配列から離れる1個以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失を導入することが可能である。いくつかの実施態様では、そのような置換、挿入、欠失は、VHドメインおよび/またはVLドメインのフレームワーク領域に存在していてもよい。一次アミノ酸配列をそのように変化させることの目的として、不利になると考えられる特性(例えばヒト宿主での免疫原性(いわゆるヒト化))を減らすこと、または潜在的な産物異種性および/または不安定性(例えばグリコシル化、脱アミド化、異性体化など)の部位を減らすこと、または分子の他のいくつかの有利な特性(例えば可溶性、安定性、生体利用性など)を増強することが挙げられる。別の実施態様では、一次アミノ酸配列の変化は、能動免疫化によって得られたラクダ科のVHドメインおよび/またはVLドメインの超可変ループ(またはCDR)の1つ以上に導入することができる。そのような変化は、抗原結合の親和性および/または特異性を増強するため、または不利になると考えられる特性(例えばヒト宿主での免疫原性(いわゆるヒト化))を減らすため、または潜在的な産物異種性および/または不安定性(例えばグリコシル化、脱アミド化、異性体化など)の部位を減らすため、または分子の他のいくつかの有利な特性(例えば可溶性、安定性、生体利用性など)を増強するために導入することができる。
【0130】
そこで一実施態様では、本発明により、ラクダ科由来のVHドメインまたはVLドメインと比べてVHドメインまたはVLドメインの少なくとも1つのフレームワーク領域またはCDR領域に少なくとも1個のアミノ酸置換を含有するバリアントMET抗体が提供される。ラクダ科由来のVHドメインまたはVLドメインの非限定的な例に含まれるのは、配列番号:155、157、159、161、163、165、167、169、171、173、175として示したアミノ酸配列を含むラクダ科VHドメインと、配列番号:156、158、160、162、164、166、168、170、172、174、176を含むラクダ科VLドメインである。
【0131】
いくつかの実施態様では、ラクダ科由来のVHドメインおよびVLドメイン(またはその操作されたバリアント)と、非ラクダ科抗体からの1つ以上の定常ドメイン(例えばヒトをコードしている定常ドメイン(またはその操作されたバリアント))を含む「キメラ」抗体分子が提供される。そのような実施態様では、VHドメインとVLドメインの両方がラクダ科の同じ種から得られることが好ましく、例えばVHとVLの両方とも(操作してアミノ酸配列に変化を導入する前の)ラマからのものが可能である。そのような実施態様では、VHドメインとVLドメインの両方が、単一の動物、特にヒトMET抗原で能動免疫化された単一の動物に由来することが可能である。
【0132】
本発明は、いくつかの実施態様では、キメララクダ科/ヒト抗体と、特に、VHドメインとVLドメインが全面的にラクダ科(例えばラマまたはアルパカ)配列であって残部が全面的にヒト配列であるキメラ抗体を包含する。MET抗体に含めることができるのは、ラクダ科由来のVHドメインとVLドメインまたはそのCDRの「ヒト化」バリアントまたは「生殖系列」バリアントを含む抗体と、ヒトMET抗原を用いたラクダ科の能動免疫化によって得られるラクダ科のVHドメインおよびVLドメインと比較してVHドメインとVLドメインのフレームワーク領域に1個以上のアミノ酸置換を含むラクダ科/ヒトキメラ抗体である。このような「ヒト化」では、出発時のラクダ科のVHドメインまたはVLドメインにミスマッチのあるアミノ酸残基を、ヒト生殖系列をコードするVHドメインまたはVLドメインに見られる同等な残基で置き換えることにより、ヒト生殖系列のVHドメインまたはVLドメインとの%配列一致が増大する。
【0133】
本発明は、いくつかの実施態様では、キメララクダ科/マウス抗体と、特に、VHドメインとVLドメインが全面的にラクダ科(例えばラマまたはアルパカ)配列で残部が全面的にマウス配列であるキメラ抗体を包含する。
【0134】
本発明のMET抗体と抗原結合フラグメントとして、ラクダ科の抗体(例えばヒトMETタンパク質を用いた能動免疫化によって生成するラクダ科のMET抗体)に由来するCDR(または超可変ループ)、または別のやり方でラクダ科の遺伝子によってコードされているCDR(または超可変ループ)がヒトのVHとVLのフレームワークにグラフトされていて、残部も全面的にヒト起源であるCDR-グラフト抗体も可能である。このようなCDR-グラフトMET抗体は、下記の表3と表4に示したアミノ酸配列を有するCDRを含有することができる。
【0135】
ラクダ科由来のMET抗体にはバリアントが含まれ、そのバリアントでは、VHドメインおよび/またはVLドメインの超可変ループまたはCDRが、ヒトMETに対して生じた通常のラクダ科抗体から得られるが、その(ラクダ科由来の)超可変ループまたはCDRの少なくとも1つが、ラクダ科がコードする配列と比べて1個以上のアミノ酸の置換、付加、欠失のいずれかを含むように操作されている。そのような変化には、超可変ループ/CDRの「ヒト化」が含まれる。このように操作されたラクダ科由来のHV/CDRはそれでも、ラクダ科がコードするHV/CDRのアミノ酸配列と「実質的に同じ」アミノ酸配列を示すことができる。この文脈での「実質的に同じ」は、ラクダ科がコードするHV/CDR に対してアミノ酸配列の1つ以下、または2つ以下のミスマッチを許容できる。MET抗体の特別な実施態様は、表3と表4に示したCDR配列のヒト化バリアントを含有することができる。
【0136】
ラクダ科(例えばラマ)の通常の抗体は、アメリカ合衆国特許出願公開第12/497,239号(その内容は参照によって本明細書に組み込まれている)で議論されている下記の因子:
1)ラクダ科のVHドメインおよびVLドメインとの大きな%配列相同性;
2)ラクダ科のVHドメインとVLドメインのCDRと、ヒトでの対応物(すなわち、ヒト様標準的折り畳み構造と、標準的折り畳みのヒト様組み合わせ)との間の大きな構造相同性
が理由で、ヒト治療剤として有用な抗体を調製するための有利な出発点を提供する。ラクダ科(例えばラマ)のプラットフォームも、取得できるMET抗体の機能の多様性に関して大きな利点を提供することができる。
【0137】
ラクダ科のVHドメインおよび/またはVLドメインを含むヒト治療用MET抗体の有用性は、天然のラクダ科のVHドメインおよびVLドメインを「ヒト化」してヒト宿主における免疫原性を低下させることによってさらに改善することができる。ヒト化の全体的な目的は、ヒト対象に導入されたときにそのVHドメインとVLドメインが最少の免疫原性を示す一方で、親のVHドメインとVLドメインによって形成される抗原結合部位の特異性と親和性が維持されている分子を作製することである。
【0138】
ヒト化のための1つのアプローチは「生殖系列化」と呼ばれており、ラクダ科のVHドメインまたはVLドメインのアミノ酸配列を変化させてヒトのVHドメインまたはVLドメインの生殖系列配列により近づける操作を含んでいる。
【0139】
ラクダ科VH(またはVL)ドメインとヒトVH(またはVL)ドメインの間の相同性を求めることが、(所与のVHドメインまたはVLドメインで)変えるべきラクダ科のアミノ酸残基の選択と、適切な置換アミノ酸残基の選択の両方に関し、ヒト化プロセスにおける極めて重要な工程である。
【0140】
ラクダ科の通常の抗体を生殖系列化するための1つのアプローチが開発されており、そのアプローチは、多数の新規なラクダ科VH(とVL)ドメイン配列(典型的には、標的抗原に結合することが知られている体細胞変異したVH(またはVL)ドメイン配列)と、ヒト生殖系列のVH(またはVL)ドメイン配列およびヒトVH(またはVL)コンセンサス配列のアラインメントに基づくとともに、アルパカ(lama pacos)に関して入手できる生殖系列配列の情報に基づいている。
【0141】
この手続きはWO 2011/080350(その内容は参照によって本明細書に組み込まれている)に記載されており、それを、(i)ラクダ科由来のVHドメインまたはVLドメインまたはそのCDRにおいて置き換えるための「ラクダ科」アミノ酸残基の選択と、(ii)所与の任意のラクダ科VH(またはVL)ドメインをヒト化するときに置換して入れる「ヒト」アミノ酸残基の選択に適用することができる。このアプローチを利用して、表3と表4に示したアミノ酸配列を有するラクダ科由来のCDRのヒト化バリアントを調製することができ、さらに表5に示した配列を持つラクダ科由来のVHドメインとVLドメインを生殖系列化することもできる。
【0142】
MET抗体は、VHドメインとVLドメインの両方が存在する異なるさまざまな実施態様が可能である。本明細書では、「抗体」という用語は最も広い意味で用いられ、その非限定的な例には、ヒトMETタンパク質とマウスMETタンパク質に対して適切な免疫学的特異性を示すという条件を満たすモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)が含まれる。本明細書では、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわちその集団に含まれる個々の抗体は、自然に起こってわずかな量で存在する可能性のある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原部位に向かう。さらに、抗原上の異なる決定基(エピトープ)に向かう異なる抗体を一般に含んでいる通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基、すなわちエピトープに向かう。
【0143】
「抗体フラグメント」は、完全長抗体の一部を、一般にはその抗原結合ドメインまたは可変ドメインを含んでいる。抗体フラグメントの例に含まれるのは、Fab、Fab'、F(ab')2、二重特異性Fab、Fvフラグメント、二量体抗体、線形抗体、一本鎖抗体分子、一本鎖可変フラグメント(scFv)、複数の抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体である(HolligerとHudson、Nature Biotechnol. 第23巻:1126~1136ページ、2005年を参照されたい(その内容は参照によって本明細書に組み込まれている))。
【0144】
非限定的な実施態様では、本明細書に提示するMET抗体は、CH1ドメインおよび/またはCLドメインを含むことができ、そのアミノ酸配列は、全面的に、または実質的にヒトである。このMET抗体をヒトの治療で用いることを想定している場合には、この抗体の定常領域全体、または少なくともその一部が、全面的に、または実質的にヒトアミノ酸配列を持つのが典型的である。したがって、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CLドメイン(と、存在する場合にはCH4ドメイン)のうちの1つ以上、または任意の組み合わせのアミノ酸配列を、全面的に、または実質的にヒトにすることができる。このような抗体として、任意のヒトアイソタイプ(例えばIgG1)からなる抗体が可能である。
【0145】
CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CLドメイン(と、存在する場合にはCH4ドメイン)のすべてが、全面的に、または実質的にヒトアミノ酸配列を持つことが有利である。ヒト化抗体またはキメラ抗体の定常領域、または抗体フラグメントの定常領域の文脈では、「実質的にヒト」という用語は、ヒト定常領域と少なくとも90%、または少なくとも92%、または少なくとも95%、または少なくとも97%、または少なくとも99%一致するアミノ酸配列を意味する。この文脈における「ヒトアミノ酸配列」という用語は、ヒト免疫グロブリン遺伝子(その中には生殖系列遺伝子、再配置された遺伝子、体細胞変異した遺伝子が含まれる)によってコードされるアミノ酸配列を意味する。このような抗体として、任意のヒトアイソタイプ(ヒトのIgG4とIgG1が特に好ましい)からなる抗体が可能である。
【0146】
1個以上のアミノ酸の付加、欠失、置換によって変化した「ヒト」配列の定常ドメインを含むMET抗体も提供される。ただし、「全面的ヒト」ヒンジ領域の存在が明らかに必要とされる実施態様は除く。
【0147】
本発明のMET抗体内の「全面的ヒト」ヒンジ領域は、抗体の免疫原性を最少にすることと、抗体の安定性を最適化することの両方に関して有利である可能性がある。
【0148】
本明細書に提示したMET抗体として任意のアイソタイプが可能である。ヒトの治療で用いることを想定している抗体は、典型的にはIgA、IgD、IgE、IgG、IgMのタイプであり、しばしばIgGのタイプである。IgGのタイプの場合には、IgG は、4つのサブクラスIgG1、IgG2aまたはIgG2b、IgG3、IgG4の任意のどれかに属することができる。これらサブクラスそれぞれの範囲内で、例えばFcに依存した機能を増強または低下させるため、Fc部分の中に1個以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失を実現することや、それ以外の構造変化を生じさせることが許される。
【0149】
非限定的な実施態様では、重鎖および/または軽鎖の定常領域の中で、特にFc領域の中で、1個以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失を実現することを考える。アミノ酸の置換により、その置換されるアミノ酸を、異なる天然のアミノ酸で置き換えたり、非天然のアミノ酸または改変されたアミノ酸で置き換えたりすることができる。他の構造変化も許され、それは(例えばN結合グリコシル化部位またはO結合グリコシル化部位の付加または欠失による)グリコシル化パターンの変化などである。MET抗体の想定される用途に応じ、例えばエフェクタ機能の調節を目的として、Fc受容体への本発明の抗体の結合特性を改変することが望ましい可能性がある。
【0150】
いくつかの実施態様では、MET抗体は、自然にその抗体アイソタイプに付随する1つ以上の抗体エフェクタ機能を低下させたり実質的に消したりすることを目的として改変された所与の抗体アイソタイプ(例えばヒトIgG1)のFc領域を含むことができる。非限定的な実施態様では、MET抗体は、任意の抗体エフェクタ機能が実質的に欠けている可能性がある。この文脈での「抗体エフェクタ機能」には、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、補体依存性細胞毒性(CDC)、抗体依存性細胞ファゴサイトーシス(ADCP)のうちの1つ以上、またはすべてが含まれる。
【0151】
MET抗体のFc部分のアミノ酸配列は、1つ以上の抗体エフェクタ機能を(その変異を持たない対応する野生型抗体と比べて)低下させる効果を持つ1つ以上の変異(例えばアミノ酸の置換、欠失、挿入)を含むことができる。そのようないくつかの変異が抗体工学の分野で知られている。本明細書に記載したMET抗体に含めるのに適した非限定的な例に含まれるのは、ヒトIgG4またはヒトIgG1のFcドメインにおける変異N297A、N297Q、LALA(L234A、L235A)、AAA(L234A、L235A、G237A)、D265Aである(アミノ酸残基の番号はヒトIgG1でのEU番号付けシステムに従う)。
【0152】
本明細書に開示したMET抗体と「交差競合する」モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、本発明のMET抗体が結合する部位と同じか重複する部位でヒトMETに結合するとともに、本発明のMET抗体が結合する部位と同じか重複する部位でマウスMETに結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントである。競合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば抗体競合アッセイを通じて同定することができる。例えば精製するか部分的に精製したヒトMETのサンプルを固体支持体に結合させることができる。次に本発明の抗体化合物またはその抗原結合フラグメントと、そのような本発明の抗体化合物と競合できると考えられるモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを添加する。それら2つの分子の一方に標識する。標識した化合物と標識していない化合物がMET上の別々の離れた部位に結合する場合には、標識した化合物は、競合すると考えられる化合物が存在するかしないかに関係なく、同じレベルで結合するであろう。しかし相互作用の部位が同じであるか重複している場合には、標識していない化合物が競合するため、標識した化合物が抗原に結合する量は減るであろう。標識していない化合物が過剰に存在する場合には、標識した化合物は、結合するとしてもほんのわずかが結合することになる。本発明の目的では、競合するモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、METへの本発明の抗体化合物の結合を約50%、または約60%、または約70%、または約80%、または約85%、または約90%、または約95%、または約99%減少させるモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントである。このような競合アッセイを実施するための手続きの詳細は本分野で周知であり、例えばHarlowとLane、『Antibodies, A Laboratory Manual』、Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州、1988年、567~569ページ、1988年、ISBN 0-87969-314-2に見いだすことができる。このようなアッセイは、精製した抗体を用いることで定量可能にすることができる。標準曲線は、1つの抗体をその抗体自身に対して滴定することによって、すなわち同じ抗体を標識と競合体の両方に用いることによって確立される。標識した分子がプレートに結合するのを標識していない競合モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントが抑制する能力が滴定される。結果をプロットし、望む程度の結合抑制を実現するのに必要な濃度を比較する。
【0153】
本発明により、本発明のMET抗体をコードするポリヌクレオチド分子も提供され、本発明のMET抗体をコードしていて宿主細胞または無細胞発現系の中で抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする調節配列に機能可能に連結されたヌクレオチド配列を含有する発現ベクターも提供され、この発現ベクターを含有する宿主細胞または無細胞発現系も提供される。
【0154】
本発明のMET抗体をコードするポリヌクレオチド分子には例えば組み換えDNA分子が含まれる。本明細書では、「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド分子」という用語は交換可能に用いられ、一本鎖または二本鎖の任意のDNA分子またはRNA分子を意味する(一本鎖の場合には相補的な配列の分子)。核酸分子の議論では、特定の核酸分子の配列または構造は、配列を5'から3'の方向で示すという通常の約束事に従って記述することができる。本発明のいくつかの実施態様では、核酸またはポリヌクレオチドは「単離されている」。この用語は、核酸分子に適用するとき、出所となる生物の天然のゲノムの中で隣接している配列から分離された核酸分子を意味する。例えば「単離された核酸」は、ベクター(例えばプラスミドまたはウイルスベクター)の中に挿入されたDNA分子、または原核生物または真核生物の細胞または非ヒト宿主生物のゲノムDNAと一体化されたDNA分子を含むことができる。「単離されたポリヌクレオチド」は、RNAに適用する場合には、上記の単離されたDNA分子によってコードされるRNA分子を意味する。あるいはこの用語は、天然の状態(すなわち細胞または組織の中)で関係している可能性のある他の核酸から精製/分離されたRNA分子を意味することができる。単離されたポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)はさらに、生物学的手段または合成手段によって直接作製されて、その作製中に存在する他の化合物から分離された分子を表わすことができる。
【0155】
本発明のMET抗体を組み換え産生させるには、(標準的な分子生物学の技術を利用して)それをコードしている組み換えポリヌクレオチドを調製して複製可能なベクターの中に挿入し、選択した宿主細胞または無細胞発現系の中で発現させることができる。適切な宿主細胞として、原核生物の細胞、酵母の細胞、より高等な真核生物の細胞のいずれか、特に哺乳動物の細胞が可能である。有用な哺乳動物の宿主細胞系の例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1系(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓系(懸濁培地の中で増殖させるためサブクローニングされた293または293細胞、Graham他、J. Gen. Virol. 第36巻:59~74ページ、1977年);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 第77巻:4216ページ、1980年);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol. Reprod. 第23巻:243~252ページ、1980年);マウス骨髄腫細胞SP2/0-AG14(ATCC CRL 1581;ATCC CRL 8287)またはNS0(HPA培養物コレクション第 85110503号):サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather他、Annals N.Y. Acad. Sci. 第383巻:44~68ページ、1982年);MRC5細胞;FS4細胞;ヒトヘパトーマ細胞系(Hep G2);DSM社のPERC-6細胞系である。これら宿主細胞のそれぞれで用いるのに適した発現ベクターも本分野で一般に知られている。
【0156】
「宿主細胞」という用語は、一般に、培養された細胞系を意味することに注意すべきである。本発明の抗原結合ポリペプチドをコードする発現ベクターを導入したヒトの身体全体は、「宿主細胞」の定義から明らかに除外される。
【0157】
重要な1つの側面では、本発明により、本発明のMET抗体を産生する方法として、MET抗体をコードするポリヌクレオチド(例えば発現ベクター)を含有する宿主細胞(または無細胞発現系)を、そのMET抗体の発現を許す条件下で培養し、発現したMET抗体を回収することを含む方法も提供される。この組み換え発現プロセスは、本発明のMET抗体(ヒトの治療で用いることを想定したモノクローナル抗体を含む)の大規模な作製に利用することができる。生体内での治療に用いるのに適した組み換え抗体を大規模に作製するための適切なベクター、細胞系、製造プロセスが一般に本分野で利用可能であり、当業者には周知であろう。
【0158】
本明細書に提示したMET抗体は治療で用いるのに役立ち、特に疾患の治療、特にMET機能を刺激することが有利な病気で用いるのに役立つ。疾患の非限定的な例に含まれるのは、変性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝疾患、移植関連障害、傷の治癒である。この点に関し、本明細書に提示したMET抗体は、上記病気の治療に役立つより広いクラスのMETアゴニスト(例えばHGF)の例である。
【0159】
肝細胞はMETを発現するため、肝細胞の増殖を促進するとともに肝細胞をアポトーシスから保護するHGFの主要な標的である。METのシグナル伝達を誘導する本発明のMET抗体が、肝障害(急性肝障害と慢性肝障害の両方)のマウスモデルにおいて肝細胞を保護することを本明細書に示す(実施例16と17)。本明細書ですでに説明したように本発明の抗体はヒト系とマウス系で同等な特性を示すため、ヒト肝障害の文脈で同様の保護効果を与えることを期待できる。したがって本発明の1つの側面では、ヒト患者で肝障害を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に、METシグナル伝達を誘導するMET抗体を治療に有効な量投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、この方法は、急性肝障害を治療または予防する方法である。いくつかの実施態様では、この方法は、慢性肝障害を治療または予防する方法である。いくつかの実施態様では、抗体は、本明細書に記載した抗体である。
【0160】
腎臓表皮細胞はMETをかなりのレベルで発現するため、HGFによる刺激に対して感受性である。METのシグナル伝達を誘導するMET抗体が、慢性腎障害のマウスモデルにおいて保護を与えることを本明細書に示す(実施例18)。本明細書ですでに説明したように、本発明の抗体はヒト系とマウス系で同等な特性を示すため、ヒト腎障害の文脈で同様の保護効果を与えることを期待できる。したがって本発明の1つの側面では、ヒト患者で腎障害を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に、METシグナル伝達を誘導するMET抗体を治療に有効な量投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、この方法は、急性腎障害を治療または予防する方法である。いくつかの実施態様では、抗体は、本明細書に記載した抗体である。
【0161】
本明細書では、METシグナル伝達を誘導するMET抗体の投与によって炎症性腸疾患(IBD)(例えば潰瘍性大腸炎)のマウスモデルで有効な治療が提供されることも明らかにする(実施例19と20)。したがって本発明の1つの側面では、ヒト患者でIBDを治療または予防する方法として、それを必要とする患者に、METシグナル伝達を誘導するMET抗体を治療に有効な量投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、この方法は、潰瘍性大腸炎を治療または予防する方法である。いくつかの実施態様では、抗体は、本明細書に記載した抗体である。
【0162】
本明細書ではさらに、METシグナル伝達を誘導するMET抗体の投与によって糖尿病(I型糖尿病とII型糖尿病の両方が含まれる)で代謝機能を回復させうることを明らかにする(実施例21と22)。特にI型糖尿病のモデル(実施例21)では、MET抗体がグルコースの取り込みを促進することを示す。さらに、MET抗体をインスリンとともに投与すると、グルコースの取り込みに対して相乗効果が働いた。II型糖尿病のモデル(実施例22)では、MET抗体がグルコースの制御を正常にし、インスリン抵抗性を低下させることを示す。したがって本発明の1つの側面では、ヒト患者で糖尿病を治療または予防する方法として、それを必要とする患者に、METシグナル伝達を誘導するMET抗体を治療に有効な量投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、この方法は、I型糖尿病を治療または予防する方法である。そのようないくつかの実施態様では、この方法は患者にインスリンを投与することをさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、この方法は、II型糖尿病を治療する方法である。いくつかの実施態様では、抗体は、本明細書に記載した抗体である。
【0163】
本明細書ではさらに、METシグナル伝達を誘導するMET抗体の投与によって非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデルで脂肪肝の程度を下げることが可能であることを明らかにする(実施例23)。特にMET抗体は、脂肪細胞の数を減らし、線維症の程度を軽減させることができた。したがって本発明の1つの側面では、ヒト患者でNASHを治療または予防する方法として、それを必要とする患者に、METシグナル伝達を誘導するMET抗体を治療に有効な量投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、抗体は、本明細書に記載した抗体である。
【0164】
本明細書ではさらに、METシグナル伝達を誘導するMET抗体の投与によって傷の治癒を促進できることを明らかにする(実施例24)。さらに、MET抗体は、傷の治癒がうまくいかない糖尿病マウスで傷の治癒を促進することができた。したがって本発明の1つの側面では、ヒト患者で傷の治癒を促進する方法として、それを必要とする患者に、METシグナル伝達を誘導するMET抗体を治療に有効な量投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、ヒト患者は、糖尿病、場合によってはI型糖尿病を有する。いくつかの実施態様では、抗体は、本明細書に記載した抗体である。
【実施例0165】
本発明は、実験に関する以下の非限定的な実施例を参照することによってさらによく理解されよう。
【0166】
実施例1:ラマの免疫化
【0167】
ラマの免疫化と末梢血リンパ球(PBL)の回収のほか、その後のRNAの抽出と抗体フラグメントの増幅を、論文(de Haard 他、J. Bact. 第187巻:4531~4541ページ、2005年)に記載されているようにして実施した。2頭の成体ラマ(Lama glama)の免疫化を、ヒトIgG1のFc部分に融合したヒトMETの細胞外ドメイン(ECD)からなるキメラタンパク質(MET-Fc;R&D Systems社)を筋肉内注射することによって実現した。それぞれのラマは、毎週1回の注射を6週間にわたって受けることで、合計で6回の注射を受けた。各注射は、0.2 mgのタンパク質を含むフロイント不完全アジュバントで構成されており、それを首の2箇所に分けた。
【0168】
免疫化の前後に血液サンプルを10 ml回収して免疫応答を調べた。最後の免疫化の約1週間後に血液を400 ml回収し、Ficoll-Paque法を利用してPBLを取得した。フェノール-グアニジンチオシアネート法(Chomczynski他、Anal. Biochem. 第162巻:156~159ページ、1987年)によって全RNAを抽出し、SuperScriptTM III First-Strand Synthesis Systemキット(Life Technologies社)を用いたランダムなcDNA合成のための鋳型として使用した。論文(de Haard他、J Biol Chem. 第274巻:18218~18230ページ、1999年)に記載されているようにして、ラマIgG1のVH-CH1領域とVL-CLドメイン(κとλ)をコードするcDNAを増幅し、ファージミドベクターpCB3へのサブクローニングを実施した。組み換えファージミドを用いて大腸菌株TG1(Netherland Culture Collection of Bacteria)を形質転換し、4つの異なるFab発現ファージライブラリ(免疫化したラマ1頭につき1つのλライブラリと1つのκライブラリ)を作製した。多様性は108~109の範囲であった。
【0169】
抗原に対する免疫応答をELISAによって調べた。その目的で、タンパク質工学の標準的な技術によってヒトMETのECD(UniProtKB # P08581;アミノ酸1~932)とマウスMETのECD(UniProtKB # P16056.1;アミノ酸1~931)を取得した。ヒトまたはマウスのMET ECD組み換えタンパク質を固相の中に固定化し(96ウエルのプレートに100 ng/ウエル)、免疫化の前(0日目)または後(45日目)にラマからの血清の段階希釈液に曝露した。マウス抗ラマIgG1(Daley他、Clin. Vaccine Immunol. 第12巻、2005年)とHRP標識ロバ抗マウス抗体(Jackson Laboratories社)を用いて結合を明らかにした。
図1に示してあるように、両方のラマがヒトMET ECDに対して免疫応答を示した。ヒトMETの細胞外部分がマウスオルソログと87%の相同性を示すことと整合するように、極めて優れた交差反応性がマウスMET ECDでも観察された。
【0170】
実施例2:ヒトMETとマウスMETの両方に結合するFabの選択とスクリーニング
【0171】
標準的なファージ提示プロトコルに従って上記のライブラリからFab発現ファージを作製した。選択のため、最初にファージを固定化された組み換えヒトMET ECDに吸着させ、洗浄した後、トリプシンを用いて溶離させた。ヒトMET ECD を用いた2サイクルの選択の後、同じようにしてマウスMET ECD を用いてさらに2サイクルを実施した。それと並行して、ファージの選択を、ヒトMET ECDサイクルとマウスMET ECDサイクルを交互に合計で4サイクルというやり方でも実施した。これら2つのアプローチによって選択されたファージをまとめてプールした後、TG1大腸菌を感染させるのに使用した。個々のコロニーを単離した後、IPTG(Fermentas社)を用いてFabの分泌を誘導した。細菌のFab含有末梢血漿分画を回収し、その分画がヒトとマウスのMET ECDに結合する能力を表面プラズモン共鳴(SPR)によって調べた。酢酸ナトリウム緩衝液(GE Healthcare社)の中でアミンカップリングを利用してヒトまたはマウスのMET ECDをCM-5チップに固定化した。Fab含有末梢血漿抽出液をBIACORE 3000装置(GE Healthcare社)に流速30μl/分で装填した。Fabのオフレート(koff)を2分間にわたって測定した。固相中のMET ECDと溶液中の粗抽出液を用いてヒトMETとマウスMETへのFabの結合をELISAによってさらに特徴づけた。FabはMYCフラグを用いて操作されているため、HRP標識抗MYC抗体(ImTec Diagnostics社)を用いて結合を明らかにした。
【0172】
SPRとELISAの両方でヒトMETとマウスMETの両方に結合したFabを選択し、それらのFabに対応するファージをシークエンシングした(LGC Genomics社)。交差反応するFab配列を、VH CDR3配列の長さと内容に基づいて複数のファミリーに分割した。VHファミリーには、IMTG(国際免疫遺伝学情報システム)命名法に基づかない内部数を与えた。結局、8つのVHファミリーに属する11個の異なるヒト/マウス交差反応性Fabを同定することができた。重鎖可変領域のCDR配列とFR配列を表3に示す。軽鎖可変領域のCDR配列とFR配列は表4に示す。重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸全体の配列は表5に示す。重鎖可変領域と軽鎖可変領域のDNA全体の配列は表6に示す。
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表6-4】
【0177】
さまざまなFabファミリーと、それらファミリーがヒトMETとマウスMETに結合する能力を表7に示す。
【0178】
【0179】
実施例3:Fabをキメラ化してmAbに入れる
【0180】
選択されたFabフラグメントのVHドメインとVL(κまたはλ)ドメインをコードするcDNAを操作し、ヒトIgG1またはヒトCL(κまたはλ)のCH1、CH2、CH3をコードするcDNAをそれぞれ含有する2つの別々のpUPE哺乳動物発現ベクター(U-protein Express社)に入れた。ラマ-ヒトキメラ抗体の重鎖と軽鎖の全アミノ酸配列を表8に示す。
【0181】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【0182】
得られたキメララマ-ヒトIgG1分子の(哺乳動物の細胞の一過性トランスフェクションによる)産生と(プロテインAアフィニティクロマトグラフィによる)精製をU-protein Express社に外注した。固相中のhMET ECDまたはmMET ECDと、溶液中の増加していく濃度の抗体(0~20 nM)を用いてMETへのキメラmAbの結合をELISAによって調べた。結合は、HRP標識抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社)を用いて明らかにした。この分析により、すべてのキメララマ-ヒト抗体がヒトMETとマウスMETにピコモルの親和性で結合し、0.06 nM~0.3 nMのEC50を示すことが明らかになった。結合能力(EMAX)は、おそらく固定化された抗原の中でエピトープの露出が部分的だったことが理由で抗体ごとに異なっていたが、ヒト設定とマウス設定で同様であった。EC50とEMAXの値を表9に示す。
【0183】
【0184】
キメラ抗MET抗体が生きた細胞の中の天然状態のヒトMETとマウスMETに結合するかどうかも分析した。その目的で、増加していく濃度の抗体(0~100 nM)をA549ヒト肺癌細胞(アメリカ培養細胞系統保存機関)またはMLP29マウス肝臓前駆細胞(Enzo Medico教授からの寄贈、トリノ大学、Strada Provinciale 142 km 3.95, カンディオーロ、トリノ、イタリア国;Medico他、Mol Biol Cell 第7巻、495~504ページ、1996年)とともにインキュベートした(両方ともMETを生理学的レベルで発現する)。フィコエリトリン標識抗ヒトIgG1抗体(eBioscience社)とCyAn ADP分析装置(Beckman Coulter社)を用いて細胞への抗体の結合をフローサイトメトリーによって分析した。ヒトMETへの結合に関する陽性対照として、市販されているマウス抗ヒトMET抗体(R&D Systems社)とフィコエリトリン標識抗マウスIgG1抗体(eBioscience社)を使用した。マウスMETへの結合に関する陽性対照として、市販されているヤギ抗マウスMET抗体(R&D Systems社)とフィコエリトリン標識抗ヤギIgG1抗体(eBioscience社)を使用した。すべての抗体がヒト細胞とマウス細胞の両方に対して用量に依存した結合を示し、EC50は0.2 nM~2.5 nMであった。ELISAで得られたデータと整合するように、最大の結合(EMAX)は抗体によって異なっていたが、ヒト細胞とマウス細胞で同様であった。これらの結果は、ヒト細胞系とマウス細胞系の両方において、キメララマ-ヒト抗体が、膜に結合したMETを天然状態の配置で認識することを示している。EC50とEMAXの値を表10に示す。
【0185】
【0186】
実施例4:抗体の結合にとって重要な受容体領域
【0187】
ヒトMETとマウスMETの両方に結合する抗体(本明細書では、今後はヒト/マウス同等抗MET抗体と呼ぶ)によって認識される受容体領域をマッピングするため、論文(Basilico他、J Biol. Chem. 第283巻、21267~21227ページ、2008年)に記載されているようにして作製したヒトMETに由来する操作された一群のタンパク質にそれら抗体が結合する能力を測定した。この群に含まれていた(
図2)のは、MET ECD全体(デコイMET);IPTドメイン3と4が欠けたMET ECD(SEMA-PSI-IPT 1-2);IPTドメイン1~4が欠けたMET ECD(SEMA-PSI);単離されたSEMAドメイン(SEMA);IPTドメイン3と4を含有するフラグメント(IPT 3-4)である。操作されたMETタンパク質を固相の中に固定化し、増加していく濃度のキメラ抗体(0~50 nM)を含む溶液に曝露した。HRP標識抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社)を用いて結合を明らかにした。表11に示したように、この分析により、7つのmAbがSEMAドメイン内のエピトープを認識する一方で、他の4つはPSIドメイン内のエピトープを認識することが明らかになった。
【0188】
【0189】
抗体の結合にとって重要なMETの領域をより細かくマッピングするため、われわれの抗体とラマMET(これら免疫グロブリンを生成させるのに用いた生物)の間の交差反応性の不在を調べた。その目的で、MET ECD全体に広がる一連のラマ-ヒトキメラMETタンパク質とヒト-ラマキメラMETタンパク質を論文(Basilico他、J Clin Invest. 第124巻、3172~3186ページ、2014年)に記載されているようにして作製した。キメラ(
図3)を固相の中に固定化した後、増加していく濃度のmAb(0~20 nM)を含む溶液に曝露した。HRP標識抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社)を用いて結合を明らかにした。この分析により、5つのSEMA結合mAb(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)が、ヒトMETのアミノ酸314~372に位置するエピトープを認識することが明らかになった。これは、7枚の羽根を持つSEMAのβプロペラの羽根4~5に対応する領域である(Stamos他、EMBO J. 第23巻、2325~2335ページ、2004年)。他の2つのSEMA結合mAb(74C8、72F8)は、それぞれ123~223と224~311に位置するエピトープを認識する。これらは、SEMAのβプロペラの羽根1~3と1~4に対応する。PSI結合mAb(76H10、71G3、76G7、71G12)は、2つのPSIキメラのどれとも有意な結合を示さないように見えた。表11に示した結果を考慮すると、これらの抗体は、おそらくヒトMETのアミノ酸546~562に位置するエピトープを認識する。これらの結果を表12にまとめておく。
【0190】
【0191】
実施例5:HGF競合アッセイ
【0192】
上記の分析は、ヒト/マウス同等抗MET抗体のいくつかによって認識されるエピトープが、METに結合するときにHGFが関与するエピトープと重複する可能性のあることを示唆している(Stamos他、EMBO J. 第23巻、2325~2335ページ、2004年;Merchant他、Proc Natl Acad Sci USA第110巻、E2987~E 2996ページ、2013年;Basilico他、J Clin Invest. 第124巻、3172~3186ページ、2014年)。この線に沿って調べるため、mAbとHGFの間の競合をELISAによって調べた。NHS-LC-ビオチン(Thermo Scientific社)を用いてヒトとマウスの組み換えHGF(R&D Systems社)のN末端をビオチニル化した。ヒトまたはマウスのMET-Fcタンパク質(R&D Systems社)を固相の中に固定化した後、増加していく濃度の抗体(0~120 nM)の存在下で、ヒトまたはマウスの0.3 nMのビオチニル化HGFに曝露した。HRP標識ストレプトアビジン(Sigma-Aldrich社)を用いてMETへのHGFの結合を明らかにした。表13に示したように、この分析により、ヒト/マウス同等抗MET抗体を2つのグループ、すなわち全面的HGF競合体(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)と部分的HGF競合体(76H10、71G3、76G7、71G12、74C8、72F8)に分類することができた。
【0193】
【0194】
一般に、SEMA結合体はPSI結合体よりも効果的にHGFと置き換わった。特にSEMAのβプロペラの羽根4と5の中にあるエピトープを認識する抗体が、最も強力なHGF競合体(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)であった。この観察結果は、SEMAの羽根5がHGFのα鎖に対する親和性が大きい結合部位を含有するという考え方(Merchant他、Proc Natl Acad Sci USA第110巻、E2987~E2996ページ、2013年)と整合している。PSIドメインがHGFに直接関与することは示されていないが、「ヒンジ」として機能してSEMAドメインとIPT領域の間のHGFの位置を調節していることが示唆されている(Basilico他、J Clin Invest. 第124巻、3172~3186ページ、2014年)。したがってPSI(76H10、71G3、76G7、71G12)がmAbに結合することで、リガンドとの直接的な競合によってではなく、このプロセスに介入することにより、または立体障害により、HGFがMETに結合することを妨げている可能性が大きい。最後に、METの活性化において中心的な役割を果たすがHGF-METの結合強度には部分的にしか寄与しないHGFのβ鎖の低親和性結合にとって、SEMAのβプロペラの羽根1~3が重要であることがわかっている(Stamos他、EMBO J. 第 23巻、2325~2335ページ、2004年)。これにより、METのその領域(74C8、72F8)に結合するmAbがなぜHGFの部分的競合体であるかを説明できよう。
【0195】
実施例6:MET活性化アッセイ
【0196】
受容体チロシンキナーゼに向かう免疫グロブリンは2価の性質を持つため、受容体アゴニスト活性を示して天然のリガンドの効果を模倣する可能性がある。この線に沿って調べるため、ヒト/マウス同等抗MET抗体がMET自己リン酸化を促進する能力を受容体活性化アッセイで調べた。A549ヒト肺癌細胞とMLP29マウス肝臓前駆細胞で血清増殖因子を48時間欠乏させた後、増加していく濃度(0~5 nM)の抗体または組み換えHGF(A549細胞、組み換えヒトHGF、R&D Systems社;MLP29細胞、組み換えマウスHGF、R&D Systems社)で刺激した。細胞を15分間刺激した後、氷冷リン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、次いで論文(Longati他、Oncogene第9巻、49~57ページ、1994年)に記載されているようにして溶解させた。タンパク質ライセートを電気泳動によって分離した後、ヒトであるかマウスであるかには関係なくリン酸化形態のMET(チロシン1234~1235)に対して特異的な抗体(Cell Signaling Technology社)を用いてウエスタンブロッティングによって分析した。同じライセートを、抗全ヒトMET抗体(Invitrogen社)または抗全マウスMET抗体(R&D Systems社)も用いてウエスタンブロッティングによって分析した。この分析により、すべてのヒト/マウス同等抗MET抗体がMETアゴニスト活性を示すことが明らかになった。
図4に示したように、いくつかの抗体(71G3、71D6、71C3、71D4、71A3、71G2、74C8)が、MET自己リン酸化をHGFと同じ程度まで促進した。他のいくつか(76H10、76G7、71G12、72F8)は効力がそれよりも弱く、それは、抗体の濃度がより小さいときに特に明らかであった。MET活性化活性とHGF競合活性の間に明確な相関は観察されなかった。
【0197】
より定量的なデータを得るため、抗体のアゴニスト活性をホスホ-MET ELISAによっても特徴づけた。その目的で、A549細胞とMLP29細胞を上記のようにして血清飢餓状態にした後、増加していく濃度(0~25 nM)のmAbで刺激した。組み換えヒト(A549)HGFまたは組み換えマウス(MLP29)HGFを対照として使用した。細胞を溶解させ、ホスホ-METレベルを論文(Basilico他、J Clin Invest. 第124巻、3172~3186ページ、2014年)に記載されているようにしてELISAによって求めた。簡単に述べると、96ウエルのプレートをマウス抗ヒトMET抗体またはラット抗マウスMET抗体(両方ともR&D Systems社)で覆った後、細胞ライセートとともにインキュベートした。洗浄後、捕獲されたタンパク質をビオチン標識抗ホスホ-チロシン抗体(Thermo Fishe社)とともにインキュベートし、HRP標識ストレプトアビジン(Sigma-Aldrich社)を用いて結合を明らかにした。
【0198】
この分析の結果は、ウエスタンブロッティングによって得られたデータと整合している。表14に示したように、71G3、71D6、71C3、71D4、71A3、71G2、74C8は、METを強力に活性化したが、76H10、76G7、71G12、72F8は、はるかに小さな効果しか引き起こさなかった。いずれにせよ、すべての抗体がヒト細胞とマウス細胞で同等な効果を示した。
【0199】
【0200】
実施例7:散乱アッセイ
【0201】
ヒト/マウス同等抗MET抗体のアゴニスト活性を生物活性に翻訳できるかどうかを評価するため、ヒト表皮細胞とマウス表皮細胞の両方を用いて散乱アッセイを実施した。その目的で、HPAF-IIヒト膵臓癌細胞(アメリカ培養細胞系統保存機関)とMLP29マウス肝臓前駆細胞を、増加していく濃度の組み換えHGF(ヒトまたはマウス;両方ともR&D Systems社)で刺激し、24時間後に細胞散乱を論文(Basilico他、J Clin Invest. 第124巻、3172~3186ページ、2014年)に記載されているようにして顕微鏡で調べた。この予備的分析により、HGFによって誘導される細胞の散乱は、両方の細胞系で約0.1 nMで飽和に到達するまで線形であることが明らかになった。これらのHGF標準曲線に基づき、0(HGFが存在しておらず細胞の散乱がまったくない)から4(0.1 nMのHGFが存在していて細胞の散乱が最大)までのスコアシステムを作成した。HPAF-II細胞とMLP29細胞を、増加していく濃度のヒト/マウス同等抗MET抗体で刺激し、24時間後に上記のスコアシステムを用いて細胞の散乱を求めた。表15に示したように、この分析により、調べたすべてのmAbがヒト細胞系とマウス細胞系の両方で細胞の散乱を促進し、両方の種で実質的に重複する結果になることが明らかになった。71D6と71G2は、HGFとまったく同じ活性を示し;71G3と71A3は、HGFよりも効力がほんのわずかに小さく;71C3 と74C8は、HGFと同じ活性になるには実質的により大きな濃度を必要とし;71D4、76G7、71G12、72F8はこのアッセイで飽和に到達しなかった。
【0202】
【0203】
実施例8:薬によって誘導されるアポトーシスからの保護
【0204】
いくつかの実験的証拠は、HGFがMET発現細胞に対して強力なタンパク質抗アポトーシス効果を示すことを示唆している(Nakamura他、J Gastroenterol Hepatol. 第26巻 増刊号1、188~202ページ、2011年による概説)。ヒト/マウス同等抗MET抗体の潜在的な抗アポトーシス活性を調べるため、細胞に基づく薬誘導生存アッセイを実施した。MCF10Aヒト乳房表皮細胞(アメリカ培養細胞系統保存機関)とMLP29マウス肝臓前駆細胞を、増加していく濃度のスタウロスポリン(Sigma Aldrich社)とともにインキュベートした。48時間後、Cell Titer Gloキット(Promega社)を用いてVictor X4多標識プレート読み取り装置(Perkin Elmer社)で全ATP濃度を測定することによって細胞生存率を求めた。この予備的分析から、約50%の細胞死を誘導する薬の濃度は、MCF10A細胞では60 nMであり、MLP29細胞では100 nMであることが明らかになった。次に、MCF10A細胞とMLP29細胞を、増加していく濃度(0~32 nM)の抗MET mAbまたは組み換えHGF(ヒトまたはマウス;両方ともR&D Systems社)の存在下にて、上で求めた濃度の薬とともにインキュベートした。48時間後、上に記載したようにして細胞生存率を求めた。表16に示したこの分析の結果は、ヒト/マウス同等抗体が、スタウロスポリンによって誘導される細胞死からヒト細胞とマウス細胞を同程度に保護することを示唆している。ヒト細胞系またはマウス細胞系において、いくつかのmAb(71G3、71D6、71G2)がHGFと同等かそれよりも大きな保護活性を示したが、他の分子(76H10、71C3、71D4、71A3、76G7、71G12、74C8、72F8)は部分的保護しか示さなかった。
【0205】
【0206】
実施例9:分岐形態形成アッセイ
【0207】
背景技術の項で議論したように、HGFは多機能サイトカインであり、独立したさまざまな生物活性(細胞増殖、運動性、侵入、分化、生存が含まれる)の調和ある調節を促進する。これらの活性すべてをよりよく総括するための細胞に基づくアッセイは、胚発生の間の管状器官と腺の形成を再現する分岐形態形成アッセイである(RosarioとBirchmeier、Trends Cell Biol. 第13巻、328~335ページ、2003年による概説)。このアッセイでは、表皮細胞のスフェロイドを3Dコラーゲンマトリックスの内部に播種し、HGFによって刺激して細管を発生させると、それが最終的に分岐した構造を形成する。分岐したこれらの細管は、極性を持った細胞によって囲まれた管腔になるという点で表皮腺(例えば乳腺)の中空構造に似ている。このアッセイは、インビトロで実施できる最も完備したHGFアッセイである。
【0208】
ヒト/マウス同等抗MET抗体がこのアッセイにおいてアゴニスト活性を示すかどうかを調べるため、論文(Hultberg他、Cancer Res. 第75巻、3373~3383ページ、2015年)に記載されているようにしてLOCヒト腎臓表皮細胞(Michieli他、Nat Biotechnol. 第20巻、488~495ページ、2002年)とMLP29マウス肝臓前駆細胞をコラーゲン層の中に播種した後、増加していく濃度のmAbまたは組み換えHGF(ヒトまたはマウス;両方ともR&D Systems社)に曝露した。分岐形態形成の経時変化を顕微鏡によって追跡し、5日後にコロニーを撮影した。代表的な画像を
図5に示す。分岐形態形成活性の定量結果は、各スフェロイドについて分岐の数を数えることによって取得した。表17に示してあるように、調べたすべての抗体が、分岐した細管の形成を用量に依存して誘導した。しかしMET自己リン酸化アッセイおよび細胞散乱アッセイで得られたデータと整合するように、71D6、71A3、71G2が最も強力なアゴニスト活性を示し、組み換えHGFと同様、またはそれ以上であった。
【0209】
【0210】
実施例10:ヒト-マウス同等アゴニスト性抗MET抗体はMET活性を変化させる広い機会を提供する
【0211】
下記の生化学的アッセイと生物学的アッセイに基づき、抗体の機能を比較することを目的とした包括的な分析を実施した。実施したアッセイで測定したさまざまなmAbの性能を表18にまとめてある。この表の分析から、ヒト-マウス同等アゴニスト抗MET抗体が広い範囲の生化学活性と生物活性を示すことがわかるため、特注方式でMET活性を変化させる広い機会が提供される。トランスレーショナルの用途が選択されるか、臨床の用途が選択されるかに応じ、抗体の選択を、全面的または部分的にHGFと競合することが同定された抗体や、METの活性化を強力に、または穏やかに誘導することが同定された抗体や、細胞の侵入を強く、または弱く促進することが同定された抗体や、アポトーシスに激しく、または穏やかに拮抗することが同定された抗体の中から行なうことができる。この見通しから、アゴニスト抗体は、HGFのオンであるかオフであるかという性質と比べてより段階的な応答を誘導することが可能であるため、HGFよりもはるかに多能かつ柔軟である。
【0212】
薬理学的観点からすると、METの下流で生物活性を選択的に誘導できることは極めて有用である可能性がある。例えば腫瘍学の分野におけるいくつかの応用では、HGFの栄養特性を侵襲促進活性から分離するリガンドの利益を得る(Michieli他、Nat Biotechnol. 第20巻、488~495ページ、2002年)。肝臓学の分野における別の応用は、理想的には、細胞の侵入を促進することなく肝細胞をアポトーシスから保護する因子を必要とする(Takahara他、Hepatology、第47巻、2010~2025ページ、2008年)。筋ジストロフィーの分野におけるさらに別の応用では、筋芽細胞から筋細胞への分化には、HGFによって誘導される増殖の遮断が必要とされる一方で、分化に関連したアポトーシスからの保護が必要とされる(Cassano他、PLoS One第3巻、e3223ページ、2008年)。これらの応用すべてと他の同様のケースにおいて、内在性HGFに置き換わる一方で穏やかなMET活性化を誘導する部分的アゴニストmAbを使用することで、HGFのいくつかの生物活性を増強しつつ、他の生物活性を低下させることを想像できよう。
【0213】
逆に、再生医学の分野におけるさまざまな応用では、不可逆的な細胞損傷または細胞変性を阻止するため、強力な生存促進シグナルと迅速な組織修復が必要とされる。例えばこの状況は、突然の肝不全、急性腎障害、深刻な膵臓炎のケースに見いだされる(Nakamura他、J Gastroenterol Hepatol. 第26巻、増刊号1、188~202ページ、2011年による概説)。これらの応用すべてと他の同様のケースでは、できるだけ強力に組織の治癒と再生を推進する全面的アゴニストmAbを用いるほうが好まれると考えられる。HGFとの競合はこの場合には実際に役割を果たさない。なぜなら全面的アゴニストmAbは、HGFよりも強力とは言えなくともHGFと同様に強力であり、内在性リガンドが見いだされる生理学的レベルよりも高い薬理学的濃度対数に到達できるからである。
【0214】
HGFの標準的でなくて特徴がよくわかっていない機能が関係するさらに別の病的状態、例えば免疫系(炎症性疾患、自己免疫疾患、移植関連合併症)、造血系(幹細胞動員、造血)、神経系(神経成長、神経変性)に関連する病的状態では、HGF/MET経路の役割がまだほとんど研究されていない。いくつかの実験的証拠は、組み換えHGFまたはHGF遺伝子療法が前臨床モデルにおいてこれらの疾患を改善することを示唆しているが(Nakamura他、J Gastroenterol Hepatol. 第26巻、増刊号1、188~202ページ、2011年による概説)、HGFのすべての機能が利益をもたらすのか、それともHGFの一部の機能だけが利益をもたらすのかを判断する十分な情報をわれわれは持っていない。治療におけるこれらの用途についても、METアゴニスト性抗体の非常に多様な集団を用いてMET活性を細かく調整できることが、(発明の概要の項で議論したような、組み換えHGFを薬として使用することに内在する多数の薬理学的問題を除いても)HGFと比較して有利である可能性がある。
【0215】
結論として、同定されたすべてのヒト-マウス同等抗MET抗体が治療の用途で有用である可能性があり、それは、HGFと全面的に競合するか部分的に競合するかには関係がなく、MET受容体を全面的に活性化するか部分的に活性化するかには関係がないことを指摘する。
【0216】
【0217】
実施例11:定常領域の交換によってヒト/マウス同等抗体の生化学的特徴と生物学的特徴は変化しない
【0218】
本発明の目的は、ヒト系とマウス系で同様によく機能するアゴニスト性抗MET抗体を作製して同定することであるため、ヒトの重鎖定常領域と軽鎖定常領域をマウスの対応する定常領域と交換することが、代表的な抗体の集団の主な生化学活性と生物活性に影響を及ぼすかどうかを調べることを試みた。その目的で、ヒト/マウス同等抗体の集団から3つの代表的分子を選択した(71G3、HGFの部分的競合体かつ生物学的アッセイにおける部分的アゴニスト; 71G6と71G2、全面的競合体かつ生物学的アッセイにおける全面的アゴニスト)。 71G3、71D6、71G2のVH領域とVL領域をマウスIgG1/λ抗体フレームに結合させた。マウス免疫グロブリンのあらゆる変異体の配列をImMunoGeneTics情報システム(www.imgt.org)などの公開データベースで入手できる。望む可変領域との融合は、遺伝子工学の標準的な手続きによって実現できる。作製したラマ-マウスキメラ抗体の重鎖と軽鎖の全アミノ酸配列を表19に示す。
【0219】
【0220】
組み換え免疫グロブリンの産生と精製は、よく確立されたプロトコルに従い、それぞれ哺乳動物の細胞での一過性トランスフェクションとアフィニティクロマトグラフィによって実現できる。その後、マウス形式の71G3、71D6、71G2の生化学活性と生物活性をヒト形式の同じ抗体の活性と比較した。
【0221】
これらの抗体が精製したヒトまたはマウスのMET ECDに結合する能力をELISAによって評価し、これらの抗体がヒト細胞上またはマウス細胞上の天然状態のMETを認識する能力をFACSによって評価し、これらの抗体がヒトとマウスの表皮細胞の散乱を誘導する能力を評価し、これらの抗体がコラーゲンの中で分岐形態形成を促進する能力を評価した。表20にまとめたこの分析の結果から、ヒト定常領域をマウス定常領域と交換しても、分析したどの性質にも実質的な影響がないことが明らかになる。
【0222】
【0223】
実施例12:先行技術の抗体との比較:ヒト-マウス交差反応性
【0224】
背景技術の項で詳細に論じたように、少数の他の研究が、HGF活性を少なくとも部分的に模倣するアゴニスト性抗MET抗体をすでに記載している。本明細書の執筆時点でそうした研究に含まれるのは、(i)3D6マウス抗ヒトMET抗体(アメリカ合衆国特許第6,099,841号);(ii)5D5マウス抗ヒトMET抗体(アメリカ合衆国特許第5,686,292号);(iii)NO-23マウス抗ヒトMET抗体 (アメリカ合衆国特許第7,556,804 B2号);(iv)B7ヒトナイーブ抗ヒトMET抗体(アメリカ合衆国特許出願公開第2014/0193431 A1号);(v)DO-24マウス抗ヒトMET抗体 (Prat他、Mol Cell Biol. 第11巻、5954~5962ページ、1991年;Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年);(vi)DN-30マウス抗ヒトMET抗体 (Prat他、Mol Cell Biol. 第11巻、5954~5962ページ、1991年;Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年)である。
【0225】
先行技術のすべてのアゴニスト性抗MET抗体を以下のようにして取得した。3D6ハイブリドーマは、アメリカ培養細胞系統保存機関(カタログ番号ATCC-HB-12093)から購入した。3D6抗体は、アフィニティクロマトグラフィの標準的なプロトコルによってハイブリドーマならし培地から精製した。
【0226】
5D5抗体(アンタゴニスト性抗MET抗体オナルツズマブ(Merchant他、Proc Natl Acad Sci USA 第110巻、E2987~E2996ページ、2013年)の2価前駆体)の可変領域をコードするcDNAは、アメリカ合衆国特許第7,476,724 B2号に公開されているVH配列とVL配列に基づいて合成した。得られたcDNAフラグメントは、タンパク質工学の標準的なプロトコルによってマウス定常IgG1/λドメインと融合させ、2価モノクローナル抗体として産生させた。
【0227】
NO-23抗体は、Maria Prat教授(ノヴァーラ大学、イタリア国;NO-23の発明者;アメリカ合衆国特許第7,556,804 B2号)から取得した。NO-23抗体は、対応するハイブリドーマをイタリアのジェノヴァにあるAdvanced Biotechnology Center(ABC)の国際寄託機関Interlab Cell Line Collection(ICLC)に請求して取得することもできる(クローン番号ICLC 03001)。
【0228】
B7抗体の可変領域をコードするcDNAは、アメリカ合衆国特許出願公開第2014/0193431 A1号に公開されているVH配列とVL配列に基づいて合成した。得られたcDNAフラグメントは、上記のようにしてマウス定常IgG1/λドメインと融合させ、2価モノクローナル抗体として産生させた。
【0229】
DO-24抗体とDN-30抗体は、Maria Prat教授(ノヴァーラ大学、イタリア国;DO-24とDN-30を最初に同定して特徴づけた人物;Prat他、Mol Cell Biol. 第11巻、5954~5962ページ、1991年;Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年)から取得した。DO-24抗体は、現在は中断されているが、Upstate Biotechnology社から何年にもわたって市販されていた。 DN-30抗体は、対応するハイブリドーマをイタリアのジェノヴァにあるAdvanced Biotechnology Center(ABC)の国際寄託機関Interlab Cell Line Collection(ICLC)に請求して取得することもできる(クローン番号ICLC PD 05006)。
【0230】
ヒト疾患の動物モデルの大半はマウスを宿主として用いているため、マウス抗原との交差反応性は、その生物活性を前臨床システムで検証する必要がある抗体にとって必須の前提条件である。先行技術のすべての抗体がマウスで産生されたため(ヒトナイーブファージライブラリを用いて同定されたB7を除く)、これらの分子がマウスMETと交差反応性を示す可能性は小さい。自己抗原とのわずかな交差反応性が原理的に可能であるとしても、そうした相互作用の親和性は通常は非常に小さい。
【0231】
アメリカ合衆国特許第6,099,841号に詳述されているように、3D6抗体はマウスMETに結合しないため、発明者は、フェレットとミンクを用いてその抗体が生体内活性を持つことを証明せねばならなかった。これら動物モデルはヒトの疾患をモデル化したり前臨床医学で使用したりするための理想的なシステムではないことが明らかに確立している。さらに、発明者は、ヒト系とフェレット系またはミンク系との間の抗体親和性と活性の違いに関する定量的データをまったく提示していない。
【0232】
5D5抗体とその誘導体はマウスMETに結合しないことが明らかに示された(Merchant他、Proc Natl Acad Sci USA第110巻、E2987~E2996ページ、2013年)。他の前臨床種との交差反応性に関して利用できる情報はない。
【0233】
同様に、アメリカ合衆国特許出願公開第2014/0193431 A1号も、B7抗体とマウスMETまたは他の種のMETの交差反応性に関する情報を提示していない。
【0234】
アメリカ合衆国特許第7,556,804 B2号は、NO-23抗体がマウスMET、ラットMET、イヌMETと交差反応すると主張しているが、この言明を支持する定量的な実験的証拠は提示されていない。発明者は、単一飽和用量のNO-23を用いてマウス細胞、ラット細胞、ヒト細胞、イヌ細胞いずれかのライセートからMETを免疫沈降させた後、免疫沈降したタンパク質を放射性32P-ATPとともにインキュベートしている。放射性標識をした後、取り込まれた32P-ATPをオートラジオグラフィによって可視化する。この方法は極めて高感度であり、まったく定量可能ではない。そのためゲル上のバンドがどの程度の交差反応性に相当するかを判断することは不可能である。
【0235】
同様に、DO-24含有マトリゲルペレットはマウスの腹腔内に移植されると血管のリクルートを促進するという理由で、DO-24抗体はマウスMETと交差反応することが示唆されている(Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年)。しかしこれはまた炎症の増加に起因する可能性もあり、DO-24がマウスMETと相互作用することの直接的な証拠は提示されていない。別の研究では、単一飽和用量のDO-24(20 nM)がラット心筋細胞系H9c2とマウス心筋細胞系HL-5でMETの自己リン酸化を引き起こすことが示されている(Pietronave他、Am J Physiol Heart Circ Physiol. 第298巻、H1155~H1165ページ、2010年;
図1)。同じ実験において、はるかに低用量の組み換えHGF(0.5 nM)が同程度のMETリン酸化を引き起こすことが示されている。著者自身が考察の項で認めているように、これらの結果は、DO-24がこれらの齧歯類細胞株においてHGFより劇的に効力が小さいことを示唆している。同じ著者は、DO-24がヒト細胞モデルにおいてHGF活性に匹敵する全面的アゴニスト性mAbであると主張している(Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年)ため、DO-24がヒト細胞とマウス細胞で同じ有効性または効力を誘導することはないと結論すべきである。さらに、Pietronaveらによる実験は定量的でないため、DO-24とマウスMETまたはラットMETの間に生じる交差反応性の程度に関する情報を引き出すのに役立たず、交差反応性の測定には、われわれが実施した研究(下記参照)のような直接比較式の用量-応答研究が必要になると考えられることに注意すべきである。第3の研究では、DO-24抗体とDN-30抗体の混合物を用いてマウス間葉系幹細胞ライセートからMETを免疫沈降させる(Forte他、Stem Cells. 第24巻、23~33ページ、2006年)。DN-30の存在とアッセイの種類(細胞ライセートからの免疫沈降)の両方が、DO-24が天然状態のマウスMETと相互作用する能力についての正確な情報を得ることを妨げている。結論として、DO-24抗体がヒト細胞とマウス細胞で同等な生物学的応答を引き出すという実験的証拠はまったく存在していない。
【0236】
最後に、DN-30抗体は、マウスMETと相互作用しないことが明らかに示された(Prat他、J Cell Sci. 第111巻、237~247ページ、1998年と;Petrelli他の補足材料、Proc Natl Acad Sci USA第103巻、5090~9095ページ、2006年)。
【0237】
先行技術のアゴニスト性抗MET抗体がマウスMETと交差反応するかどうかとその程度を直接調べるため、そしてその抗体をわれわれのヒト/マウス同等抗MET抗体と比較するため、ELISAアッセイを実施した。先行技術のすべての抗体は、マウスIgG/λ形式で得られるか、マウスIgG/λ形式で設計されていたため、マウスIgG/λ形式の71G3、71D6、71G2を使用した。ヒトまたはマウスのMET ECDを固相の中に固定化し(96ウエルのプレートに100 ng/ウエル)、溶液中の増加していく濃度の抗体(0~40 nM)に曝露した。HRP標識抗マウスFc抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社)を用いて結合を明らかにした。表21に示すように、この分析により、先行技術の抗体は0.059 nM(B7)~4.935 nM(3D6)の範囲のK
DでヒトMETに結合したが、それらはどれも、40 nMという高い濃度でさえ、マウスMETに対する親和性をまったく示さなかった。試験した抗体のうちで71G3、71D6、71G2だけがヒトMETとマウスMETの両方に結合し、しかも識別不能な親和性と能力で結合した。すべての抗体の結合プロファイル全体を
図6に示す。
【0238】
【0239】
実施例13:先行技術の抗体との比較:MET自己リン酸化
【0240】
先行技術の抗体のアゴニスト活性をヒト/マウス同等抗MET抗体のアゴニスト活性と比較するため、ヒト細胞とマウス細胞の両方を用いてMETの自己リン酸化実験を実施した。A549ヒト肺癌細胞とMLP29マウス肝臓前駆細胞で血清増殖因子を48時間欠乏させた後、増加していく濃度の抗体(0~25 nM)で刺激した。細胞を15分間刺激した後、氷冷リン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、次いで論文(Longati他、Oncogene第9巻、49~57ページ、1994年)に記載されているようにして溶解させた。捕獲用の抗MET抗体(R&D Systems社)と証明用の抗ホスホチロシン(R&D Systems社)を用い、論文(Basilico他、J Clin Invest. 第124巻、3172~3186ページ、2014年)に記載されているようにしてELISAによってホスホ-METのレベルを求めた。
【0241】
この分析から、先行技術の抗体と本明細書に記載したヒト/マウス同等抗MET抗体の間に大きな違いが2つあることが明らかになった。第1に、結合実験で得られた結果と整合するように、71G3、71D6、71G2だけがヒト細胞とマウス細胞の両方でMET自己リン酸化を促進することができた。先行技術の抗体(DO-24とNO-23が含まれる)は、ヒト細胞でだけMET活性化を誘導した。われわれが分析した系ではマウス細胞に対する活性を検出できなかった。第2に、先行技術のどの抗体も71G3、71D6、71G2と比べて常に低いアゴニスト活性を示した。先行技術でアゴニスト性が最大のmAbは5D5とB7であり、それらは71G3、71D6、71G2よりもわずかに低い活性を示した。先行技術でアゴニスト性が最低のmAbは3D6であった。 他の分子は中間の活性を示した。この分析結果を
図7に示す。
【0242】
実施例14:先行技術の抗体との比較:分岐形態形成
【0243】
先行技術の抗体の生物活性をヒト/マウス同等抗MET抗体の生物活性と比較するため、分岐形態形成アッセイを実施した。このアッセイは、HGFのすべての重要な生物活性(細胞の増殖、散乱、分化、生存が含まれる)を総括する。LOCヒト腎臓表皮細胞とMLP29マウス肝臓前駆細胞を上記のようにコラーゲン層の中に播種した後、増加していく濃度のmAbまたは組み換えHGF(ヒトまたはマウス、両方ともR&D Systems社)とともにインキュベートした。分枝形態形成の経時変化を顕微鏡によって追跡し、5日後にコロニーを撮影した。分岐形態形成活性の定量化は、各スフェロイドから生じる分岐した細管の数を数えることによって実現し、表22に示してある。スフェロイドの代表的な画像を
図8(LOC細胞)と
図9(MLP29細胞)に示す。
【0244】
【0245】
上に示したデータから以下の所見が導かれた。ヒト細胞では、71D6、71G2、5D5がヒトHGFと同等の活性を示した。71G3、3D6、B7、DO-24は、部分的アゴニストとして機能した。NO-23とDN-30は、ごくわずかにアゴニスト活性を示した。マウス細胞では、71G3、71D6、71G2だけが分岐した細管の形成を効果的に誘導した。他の抗体はすべて、ELISAにおいてマウスMETに結合できなかったことと整合するように、分岐形態形成をまったく誘導しなかった。
【0246】
先行技術の抗体は、ヒト/マウス同等抗MET抗体とは異なり、ヒト系とマウス系で異なる生物活性を誘導するというのがわれわれの結論である。
【0247】
実施例15:ヒト/マウス同等抗MET抗体の血漿半減期
【0248】
次に、選択されたヒト/マウス同等抗MET抗体の生体内研究に移った。予備的分析として、マウスでそれら抗体のピークと谷のレベルを求めた。その目的で、アフィニティ精製した(マウスIgG/λ形式の)71G3、71D6、71G2を7週齢の雌のBALB/cマウス(Charles River社)に腹腔内注射した。1 mg/kgまたは10 mg/kgのボーラスを1回だけ注射し、注射してから3時間後、6時間後、12時間後、24時間後に血液サンプルを尾の静脈から採取した。血液サンプルを処理し、血漿中の抗体濃度をELISAによって求めた。標準的な96ウエルのプレートを実施例1に記載したようにしてヒトMET ECD(100 ng/ウエル)で覆った後、増加する希釈度のマウス血漿に曝露して抗MET抗体を捕獲した。PBSで繰り返して洗浄した後、HRP標識ロバ抗マウス抗体(Jackson Laboratories社)を用いて抗MET抗体の存在を明らかにした。結合した抗体を定量するため、精製した71G3、71D6、71G2の標準曲線を同じ条件で確立した。
【0249】
この分析の結果を
図10に示す。血漿中の抗体濃度は、調べたすべての抗体で同様であり、注射したタンパク質の量に正比例していた。24時間後、血漿中の抗体濃度は、1 mg/kgのボーラスに関しては約15 nM、10 mg/kgのボーラスに関しては250 nMであった。最も厳しいアッセイ(分岐形態形成アッセイ)におけるこれら抗体のアゴニスト活性が5 nM以下の濃度で飽和に達したことを考慮すると、腹腔内注射によって得られた抗体の血漿レベルは、生物学的観点から1 mg/kgという少ないボーラスと関係していると十分に結論することができる。
【0250】
さらに、注射した抗体の血漿半減期も計算した。これは、抗体濃度を自然対数(lg)に変換し、そのデータを直線にフィットさせた後、その直線の勾配を計算することによって実現した。この分析から、71G3、71D6、71G2の半減期は非常によく似ていて、1 mg/kgのボーラスに関しては約3日間、10 mg/kgのボーラスに関しては約9日間に対応すると推定された。これは、半減期が齧歯類で2.4分間と報告されている組み換えHGF(Ido他、Hepatol Res. 第30巻、175~181ページ、2004年)と比べて有意に大きい安定性である。血漿の安定性の全データを表23にまとめてある。
【0251】
これらのデータは、HGFの全身投与が必要なあらゆる臨床用途において組み換えHGFをヒト/マウス同等抗MET抗体で置き換えると有利である可能性のあることを示唆している。
【0252】
【0253】
実施例16:生体内活性:急性肝障害からの保護
【0254】
肝細胞はMETを発現しているため、その増殖を促進するとともにそれをアポトーシスから保護するHGFの主要な標的である(Nakamura他、J Gastroenterol Hepatol. 第26巻増刊号1、188~202ページ、2011年による概説)。そこでヒト/マウス同等アゴニスト抗MET抗体が急性肝不全のマウスモデルで保護活性を示すかどうかを調べた。その目的で、単一用量のCCl4(オリーブ油の中の10%溶液を0.2 ml;両方ともSigma-Aldrich社)を7週齢の雌のBALB/cマウス(Charles River社)の皮下区画に注射した。CCl4を注射した直後、マウスをランダムにそれぞれ6匹ずつの4つの群に分け、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)いずれかのボーラスを1回だけ与えた。抗体は、5 mg/kgの用量で腹腔内注射することによって投与した。注射後の異なる時点(0時間、12時間、24時間、48時間)で血液サンプルを採取した。追加の5番目の対照群は、CCl4も抗体も与えていない6匹のマウスを含んでおり、実験終了時に安楽死させた。剖検のとき、分析のために血液と肝臓を回収した。肝マーカーであるアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、ビリルビン(BIL)の血漿レベルを標準的な臨床生化学法によって求めた。標準的なプロトコルを利用した組織学的分析のため、肝臓をパラフィンの中に包埋して処理した。
【0255】
図11に示してあるように、対照マウスにCCl
4を注射することにより、分析した3つの血液パラメータすべてでレベルの急速かつ劇的な上昇が起こり、中毒後12~24時間でピークに達した。対照群では、CCl
4を注射することによってAST、ALT、ビリルビンのレベルがそれぞれ286倍、761倍、13倍上昇した。すべての抗体群において、こうした上昇は有意に少なかった(71G3ではそれぞれ53%、62%、46%;71D6ではそれぞれ37%、34%、48%;71G2ではそれぞれ50%、39%、54%)。肝臓の保護に関して最も強力な抗体は71D6であった。
【0256】
剖検時の肝臓の組織学的検査から、CCl
4が各肝臓モジュールの中心静脈の周囲に顕著な組織損傷を引き起こすことが明らかになった。それは、損傷している肝細胞に典型的な好酸球の染色と大きな細胞質を特徴とする。細胞-細胞相互作用が緩いように見えるため、損傷した血管から赤血球が漏れて浸潤することが可能になった。抗体で処理した群では、中心周辺のこのように損傷した領域はより小さく、損傷の徴候がより少なかった。その証拠は、好酸球の染色がより少なく、細胞質の大きさが正常であり、血液細胞の浸潤がより少ないことである。ヘマトキシリンとエオシンで染色した肝切片の代表的な画像を
図12に示す。
【0257】
これらの結果は、ヒト/マウス同等アゴニスト抗MET抗体を臨床で使用して、典型的には肝臓の異常な生化学的数値、黄疸、凝血障害、脳浮腫、脳症につながる肝臓機能障害の急速な進行を特徴とする肝臓の急性障害を治療できることを示唆している。これらの病的状態の非限定的な例に含まれるのは、パラセタモールの過剰摂取、薬物療法(例えばテトラサイクリン)に対する特異体質反応、薬物乱用(エクスタシー、コカイン)、ウイルス感染症(A型肝炎、B型肝炎、E型肝炎)である。
【0258】
実施例17:生体内活性:慢性肝障害からの保護
【0259】
ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体が慢性肝障害のマウスモデルで治療効果を示すかどうかも調べた。実際、HGFは肝臓内で抗線維化作用を有することが知られている(MatsumotoとNakamura、Ciba Found Symp. 第212巻、198~211ページ;考察211~214ページ、1997年による概説)。その目的で、7週齢の雌のBALB/cマウス(Charles River社)を数週間にわたって慢性的にCCl4に曝露した。1週目、オリーブ油の中にCCl4を5%含む0.1 mlの溶液(両方ともSigma-Aldrich社)をマウスに2回皮下注射した。翌週からは注射の頻度を維持しながら(週に2回)、CCl4の用量を増やした(オリーブ油の中の10%溶液を0.1 ml)。最初の注射の直後にマウスをランダムに7匹ずつの4つの群に分け、それぞれの群を、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で腹腔内注射することによって週に3回投与した。追加の5番目の対照群には、CCl4も抗体も与えず健康な対照として利用した7匹のマウスが含まれていた。マウスを6週間の慢性CCl4中毒の後に安楽死させた。剖検のとき、分析のために血液と肝臓を回収した。肝マーカーであるアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血漿レベルを標準的な臨床生化学的方法によって求めた。標準的なプロトコルを利用した組織学的分析のため、肝臓をパラフィンの中に包埋して処理した。
【0260】
図13に示してあるように、対照マウスを慢性的にCCl
4に曝露すると、ASTとALTの血漿レベルがより高くなることから判断されるように、肝機能が損なわれた。肝マーカーのレベルを急激に、しかし一過性に上昇させる急性モデルとは異なり、慢性CCl
4中毒はASTとALTのレベルのより緩やかな上昇を誘導し、処理なしマウスと比べて約5倍であった。注目すべきことに、抗体で処理するとASTの濃度の上昇を完全に防ぐことができて、実際にASTの濃度を基礎レベル未満に低下させた。ASTで観察されたほど劇的ではなかったが、抗体はALTレベルの急上昇を明確に阻止することもできた。
【0261】
肝切片の染色を、線維性組織の検出を目的としたさまざまな技術(マッソントリクローム染色、ピクロシリウスレッド染色、抗α平滑筋アクチン(α-SMA)抗体染色が含まれる)によって実施した。一般的な組織学的構造を調べるため、ヘマトキシリンとエオシンによる染色も実施した。この分析から、慢性CCl
4処理によって小葉間腔に大量の線維性組織が形成されることが明らかになった。それは特に、ピクロシリウスレッド染色と抗α平滑筋アクチン(α-SMA)抗体染色に対して陽性であることを特徴とする。線維性組織は、門脈三つ組を連結する一種の「リボン」を形成した。その証拠は、肝ユニットが六角形になっていることである。注目すべきことに、CCl
4とアゴニスト性抗MET抗体の両方を与えられたマウスに由来する肝切片は、染色強度の点ではるかに弱い線維症を示し、線維性領域は門脈周辺の空間に限定されているように見えた。ピクロシリウスレッド抗体と抗α-SMA抗体で染色した肝切片の代表的な画像をそれぞれ
図14と
図15に示す。
【0262】
これらのデータは、ヒト/マウス同等アゴニスト抗MET抗体を臨床で用いると、肝実質の進行性の破壊と再生を特徴としていて肝硬変や線維症につながることを特徴とする慢性肝障害に関連する病的状態を治療できる可能性があることを示唆している。アゴニスト性抗MET抗体を用いると、線維症を軽減または予防し、肝臓の構造と機能の回復につなげことができる可能性がある。アゴニスト性抗MET抗体は、慢性肝疾患を悪化させることがしばしばある炎症と免疫反応の抑制にも用いることができる。
【0263】
実施例18:生体内活性:急性腎障害からの保護
【0264】
腎臓表皮細胞はかなりのレベルでMETを発現するため、HGFによる刺激に対して高感受性である(Mizuno他、Front Biosci. 第13巻、7072~7086ページ、2008年による概説)。そこでヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体が急性腎不全のマウスモデルで保護効果を示すかどうかを調べた。その目的で、7週齢の雌のBALB/cマウス(Charles River社)にHgCl2(3 mg/kg)のボーラスを1回だけ腹腔内に注射することによって尿細管の損傷を誘導した。HgCl2で中毒させた直後、マウスをランダムに4つの群に分け、71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、10 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって24時間ごとに投与した。各群は6匹のマウスを含んでおり、HgCl2を注射してから72時間後に安楽死させた。剖検のとき、分析のために血液と腎臓を回収した。標準的な臨床生化学的方法によって血中尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CRE)の血漿レベルを求めた。標準的なプロトコルを用いた組織学的分析のため腎臓を処理した。
【0265】
図16に示してあるように、対照マウスにHgCl
2を注射すると、BUNとCREのレベルが急上昇した。対照群では、BUNとCREはそれぞれ6倍と12倍上昇した。すべての抗体群において、こうした上昇は有意に少なかった(71G3ではそれぞれ52%と54%;71D6ではそれぞれ39%と30%;71G2ではそれぞれ45%と44%)。腎臓保護に関して最も強力な抗体は71D6であった。
【0266】
腎臓の組織学的検査から、HgCl
2が、近位尿細管の肥大、萎縮、壊死を特徴とする尿細管損傷を広範囲に引き起こしたことが明らかになった。糸球体構造は崩壊して周囲の支質から分離しており、糸球体周辺のスペースが実質的に増えていた。抗体で処理した群では、近位尿細管細胞の壊死がより少なく、糸球体の組織学的構造は健全であるように見えた。ヘマトキシリンとエオシンで染色した腎切片の代表的な画像を
図17に示す。
【0267】
ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体を臨床で使用すると、例えば虚血性障害または腎毒性傷害、循環血液量減少性ショック、尿収集系の閉塞、アテローム性動脈硬化症、敗血症、糖尿病、自己免疫疾患、横紋筋融解症によって起こる可能性のある急性腎不全に関連する病的状態を治療できる可能性があることを提案する。アゴニスト性抗MET抗体は、急性腎不全を予防したり回復させたりすること、尿細管表皮細胞をアポトーシスから保護すること、表皮細胞の再生を加速すること、腎機能を回復させることに有用である可能性がある。
【0268】
実施例19:生体内活性:潰瘍性大腸炎のマウスモデルにおける急性大腸損傷からの保護、炎症の低減、再生の促進
【0269】
腸表皮細胞がMETを発現することと、HGFが胃腸管の恒常性維持と再生において中心的な役割を果たしていることは十分に確立されている(Nakamura他、J Gastroenterol Hepatol. 第26巻 増刊号1、188~202ページ、2011年による概説)。そこでヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体が潰瘍性大腸炎のマウスモデルにおいて腸の保護と再生を促進できるかどうかを調べた。その目的で、7日齢の雌のBALB/cマウス(Charles River社)を10日間にわたって飲料水中のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)に曝露した。10日目にDSSを用いた処理を中断し、マウスを通常の水に戻した。1日目からマウスをランダムに7匹ずつの7つの群に分け、71G3、71D6、71G2(用量が1 mg/kgまたは5 mg/kg)、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、腹腔内に注射することによって週に3回投与した。注入。追加の8番目の対照群には、DSSも抗体も与えず健康な対照として利用した7匹のマウスが含まれていた。12日目に、すなわちDSS投与を中断してから2日後に、マウスを安楽死させた。剖検のときに大腸を回収し、洗浄し、定規を用いてその長さを測定した。測定の後、組織学的分析のため大腸をパラフィンに包埋して処理した。
【0270】
この実験全体を通じ、マウスの体重を定期的にモニタし、潰瘍性大腸炎の臨床症状を便潜血、直腸出血、便のコンシステンシーを調べることによって評価した。定量化は、前臨床モデルで用いられている標準的なスコア化法(Kim他、J Vis Exp. 第60巻、pii:3678ページ、2012年)を利用して実現し、各パラメータに0(無症状)から3(症状の最大の出現)のスコアを与えた。個々のパラメータに関するスコアを合計して0~9の範囲の疾患活動性指数(DAI)を得た。
【0271】
図18に示してあるように、PBS群でDSSに曝露すると体重が最大で25%減少し、DAIのスコアが上昇して4以上になり、大腸の長さが最大で40%短くなった。注目すべきことに、分析したすべての抗体がこれらの効果を用量に依存して逆転させ、試験したより少ない用量ですでに有意な活性を示した。71D6が最も強力な抗体であった。71D6は、体重を一時的に減少させた後、PBS群で観察された値に匹敵する正常値に戻した。71D6は、DAIの上昇を阻止し、あらゆる臨床症状を実質的に抑制した。71D6は大腸の短縮を阻止し、短縮は無視できる程度の変動に限定された。
【0272】
大腸切片をヘマトキシリンとエオシンで染色して顕微鏡で調べた。
図19に示してあるように、DSSを投与すると大腸粘膜に重度の損傷が起こった。表皮層は浸食され、リンパ球が浸潤しているように見えた。大腸粘膜には陰窩膿瘍部位が散在しており、組織破壊の主因となる泡状のマクロファージが大量のコロニーを形成していた。内臓周辺のリンパ節が肥大しているように見えた。粘液腺は萎縮していることが特徴的で粘液が顕著に枯渇しており、その代わりに炎症性浸潤物(泡状のマクロファージ、リンパ球、好中球が含まれる)で置き換えられていた。いくつかの潰瘍には顆粒球またはマクロファージの滲出液が侵入して腺の構成要素が完全に消失していた。注目すべきことに、DSSとアゴニスト性抗MET抗体の両方で処理したマウスは、変性と炎症の症状がはるかに軽かった。具体的には、急性炎症の要素であるマクロファージや顆粒球が不在であり、粘膜はほんの少し損傷しているだけで、腺の歪みと密度低下はわずかであるように見え、ムチンの分泌は回復し、びらんや潰瘍はまったく存在していなかった。こうした保護効果はすべての抗体群で用量に依存していたが、効果は1 mg/kgですでに明らかであった。これは、この用量で到達する抗体の濃度が飽和に非常に近いことを示している(実施例15の血漿安定性を参照されたい)。このモデルでも、最も効果的な抗体は71D6であるように見えた。
【0273】
実施例20:生体内活性:潰瘍性大腸炎のマウスモデルにおける急性大腸損傷からの保護、炎症の低減、免疫抑制
【0274】
上記の結果から着想して、アゴニスト性抗MET抗体が炎症性腸疾患のより特殊なマウスモデルで治療効果を示すかどうかも調べた。その目的で、エタノールに溶かした2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を直腸内に注射することにより、7週齢の雌のC57BL/6マウス(Charles River社)で急性大腸損傷を誘導した。TNBS/エタノールの組み合わせは、免疫学的プロセスと浸潤プロセスの両方を通じて大腸直腸の炎症を誘導することが知られている(Jones-HallとGrisham、Pathophysiology 第21巻、267~288ページ、2014年に概説)。50%エタノールに溶かしたTNBSを浣腸により5 mg/マウスの用量で投与した。TNBSを投与した直後、マウスをランダムに6匹ずつ4つの群に分け、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって2日ごとに投与した。追加の5番目の対照群には、TNBSも抗体も与えず健康な対照として利用した6匹のマウスが含まれていた。マウスの体重を毎日モニタした。TNBSを投与してから5日後にマウスを安楽死させた。剖検のときに大腸を回収し、上記のようにして測定した。測定の後、組織学的分析のため大腸をパラフィンに包埋して処理した。
【0275】
図20に示してあるように、TNBSへの曝露によって体重が約15%減少し、大腸の長さが20%超短くなった。これらの効果はDSSによって生じた効果と比べてより穏やかだが、すべての抗体群で観察された効果とは有意に異なっていた。 実際、71G3、71D6、71G2で処理することにより、TNBSによって誘導される体重減少と大腸短縮がほぼ完全に抑制されたため、抗体で処理したマウスを健康な対照マウスと識別することはほぼ不可能であった。
【0276】
大腸切片をヘマトキシリンとエオシンで染色して顕微鏡で調べた。
図21に示してあるように、TNBSを投与することによりリンパ球性大腸炎の典型的な徴候が出現した。それは、内臓周辺のリンパ節の肥大、粘膜下と粘膜におけるリンパ球凝集体の出現、リンパ球浸潤の増加を特徴とする。いくつかの全層潰瘍が見られ、それには間質過剰増殖と、リンパ球と好中球の浸潤が付随していた。これらすべての病理学的プロセスがアゴニスト性抗MET抗体群では強く抑制されていて、抗リンパ球の浸潤が減少し、粘膜の損傷が減少していた。リンパ球が存在している場所でさえ、リンパ球は粘液の枯渇や表皮の損傷とは関連していなかった。
【0277】
これらの結果と前の実施例で報告したデータは、ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体を臨床で用いると、潰瘍性大腸炎、より一般的には炎症性腸疾患に関連する病的状態を治療できる可能性があることを示している。アゴニスト性抗MET抗体を用いた治療によって腸の病変を減らし、表皮細胞の増殖を促進し、炎症性細胞の浸潤を減らすことで疾患の臨床経過を改善できる可能性がある。
【0278】
実施例21:生体内活性:I型糖尿病のマウスモデルにおけるグルコース取り込みの促進と、インスリンとの協働
【0279】
培養したマウス骨格筋細胞の中でHGFがインスリンに依存してグルコースの取り込みを促進することが報告されている(Perdomo他、J Biol Chem. 第283巻、13700~13706ページ、2008年)。そこでわれわれのアゴニスト性抗MET抗体がI型糖尿病のマウスモデルで高血糖値を低下させることができるかどうかを調べた。その目的で、ストレプトゾトシン(STZ;Sigma Aldrich社)を腹腔内に注射することにより、7週齢の雌のBALB/cマウス(Charles River社)で膵臓β細胞の変性を誘導した。STZを毎日40 mg/kgの用量で5日間続けて注射した。最後の注射から1週間後、空腹時の血糖値を標準的なグルコースストリップ(GIMA社)を用いて測定した。そのとき、STZで処理したマウスは、処理なしマウスと比べて2倍高い平均基礎血糖値を示した(240 mg/dl対120 mg/dl)。マウスを基礎血糖値に基づいてランダムにそれぞれ7匹ずつの4つの群に分け、それぞれの群を、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって週2回投与した。追加の5番目の対照群には、STZも抗体も与えず健康な対照として利用した7匹のマウスが含まれていた。空腹時の血糖値を5週間にわたってモニタした。5週目の終わりに、グルコース負荷試験(GTT)とインスリン負荷試験(ITT)を実施した。GTTは、空腹状態の動物にグルコースを強制経口投与した後、異なる時点で血糖値を測定することからなる。ITTは、一部空腹状態の動物に腹腔内注射または静脈内注射によってインスリンを投与した後、異なる時点で血糖値を測定することからなる。
【0280】
図22Aに示してあるように、STZで処理したマウスの基礎血糖値は実験の全期間にわたって上昇し続けた。これは膵臓の慢性的な炎症に起因しており、この炎症によって臓器の損傷が次第に悪化する。逆に、抗体で処理したマウスは血糖値が着実に低下し、処理してから2週間後に最終的にプラトーに到達した。抗体の投与によって血糖値が完全に正常になることはなかったが、最大で25%低下したため、STZで処理したマウスと対照マウスで観察されたレベルのほぼ中間になった。このモデルでは高血糖がβ細胞に由来するインスリンの不在によるものであることを考慮すると、抗体群におけるより低い血糖値がインスリンレベルの上昇に起因するかどうかが問題であるように思われた。しかし血液サンプルでのELISAアッセイから、そうではないことが明らかになった(データは示さず)。GTTにおいて、抗体で処理したマウスは、より低い血糖値から始まったが、正常なグルコース取り込み曲線にはならなかった(
図22B)。それとは対照的に、抗体で処理したマウスは、ITTにおいて、インスリンに対してより迅速な反応を示した(
図22C)。インスリンを注射してから15分後、長期にわたって抗体で処理したマウスの血糖値は時刻ゼロでの値の約30~40%に低下したが、これは、STZで処理したマウスと対照マウスの両方で観察された値よりも有意に低い(
図22D)。これらの結果は、アゴニスト性抗MET抗体がインスリンの不在下でグルコースの取り込みを促進することを示唆している。これらの結果は、アゴニスト性抗MET抗体とインスリンは、両方が存在する場合に、協働してグルコースの取り込みを媒介することも示唆している。
【0281】
細胞に基づくアッセイでマウス骨格筋細胞を用いてこの仮説を調べた。(アメリカ培養細胞系統保存機関から入手した)C2C12マウス筋芽細胞から筋細胞への分化を提供者が勧めているようにして誘導した後、ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体(71G3、71D6、71G2)とともにインキュベートした。24時間後、抗体で処理した細胞を3つの群に分け、蛍光性グルコース類似体2-N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾル-4-イル)アミノ)-2-デオキシグルコース(2-NBDG;Life Technologies社)の存在下で、0 nM、100 nM、1000 nMいずれかのヒト組み換えインスリン(Sigma Aldrich社)を用いて1時間にわたって急性刺激した。2-NBDGの取り込みはフローサイトメトリーによって測定した。
【0282】
図23に示してあるように、71G3、71D6、71G2はグルコース取り込みを用量に依存して促進した。インスリンとアゴニスト性抗MET抗体の組み合わせは協働効果をもたらし、インスリン単独の場合と抗体単独の場合のどちらと比べてもグルコースの取り込みをより促進した。これらのデータは、培養細胞においてHGFとインスリンが協働してグルコース代謝を調節するという発見(Fafalios他、Nat Med. 第17巻、1577~1584ページ、2011年)と整合しているため、アゴニスト性抗MET抗体が、インスリンとは独立なグルコースの取り込みとインスリンに依存したグルコースの取り込みの両方を増強することができるというわれわれの仮説の確認となっている。
【0283】
実施例22:生体内活性:II型糖尿病のマウスモデルにおける血糖値の正常化とインスリン抵抗性の克服
【0284】
ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体がインスリンと協働してグルコースの取り込みを促進するという観察結果から着想して、II型糖尿病のマウスモデルでその抗体を治療に用いる可能性を調べた。II型糖尿病は、高血糖値、高インスリン血症、インスリン抵抗性を特徴とする。特徴が最もよくわかっているII型糖尿病マウスモデルの1つは、レプチン受容体遺伝子leprに点変異を有するC57BLKS/J系統であるdb/dbマウスによって代表される。この変異によって満腹感が失われて制限なく摂食するようになるため、肥満と上記のII型糖尿病の臨床的特徴につながる(Wang他、Curr Diabetes Rev. 第10巻、131~145ページ、2014年による概説)。
【0285】
7週齢の雌のdb/dbマウス(JAX(商標)マウス株BKS.Cg-Dock7m+/+LeprdbJ)をCharles River社から入手した。1週間後、マウスをランダムにそれぞれ5匹ずつの4つの群に分け、それぞれの群を、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって週2回投与した。空腹状態の血糖値を14日ごとに8週間にわたってモニタした。7週間処理した後、すなわちマウスが15週齢のとき、グルコース負荷試験(GTT)とインスリン負荷試験(ITT)を実施した。
【0286】
図24に示してあるように、ランダム化の時点におけるPBS群での平均基礎血糖値は約230 mg/dlであり、これは明らかに糖尿病レベルに対応する。この値は時間経過とともに上昇する傾向があり、実験終了時、すなわち8週間後に、PBS群での平均血糖値は約330 mg/dlであった。それとは対照的に、抗体処理を受けた群では、空腹状態の基礎血糖値は時間経過とともに着実に低下した。実験が終了したとき、71G3群、71D6群、71G2群の平均血糖値は、それぞれ173 mg/dl、138 mg/dl、165 mg/dlであった。
【0287】
7週間処理した後、すなわちマウスが15週齢のとき、グルコースとインスリンによるチャレンジに対するマウスの急性反応を調べた。これらのマウスはSTZで処理したマウス(実施例21参照)とは異なり、インスリン抵抗性であるために高インスリン血症であり、高血糖値を示すことに注意する必要がある。実際、GTTにおいてグルコースでチャレンジしたとき、PBS群のマウスは正常なグルコース取り込みプロファイルを示すことができなかった。すべてのマウスが血糖値の急激な上昇を示し、試験の全期間を通じて上昇した状態が維持された。それとは対照的に、ITTを実施したとき、同じマウスがインスリンに対しては逆説的な反応を示し、血糖値は一時的にわずかに上昇した。この逆説的な反応は、少なくとも前臨床モデルにおけるインスリン抵抗性の顕著な特徴である。
【0288】
抗体群のマウスは、より低い基礎レベルから開始したが、GTTにおいてやはり正常なグルコース取り込みプロファイルを示さなかったため、アゴニスト性抗MET抗体は血糖値の急激な上昇を相殺できないことが示唆される。 しかし注目すべきことに、抗体を用いた処理は、ITTでのインスリンに対する反応を劇的に改善し、PBS群で観察された逆説的効果を逆転させ、ITTプロファイルを非糖尿病マウス(C57BLKS/J;Charles River社)が示すプロファイルにより似たものにする。アゴニスト性抗MET抗体を用いた長期処理はdb/dbマウスにおけるII型糖尿病を改善し、インスリン抵抗性を部分的に克服するとわれわれは結論する。
【0289】
これらの結果と、前の実施例に示した結果に基づき、ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体を臨床で用いて高血糖値に関連する病的状態を治療できる可能性があることを提案する。病的状態に含めることができるのは、I型糖尿病、II型糖尿病や、高血糖値および/またはインスリン抵抗性を特徴とする他の糖尿病様症状(例えばメタボリック症候群)である。
【0290】
実施例23:生体内活性:非アルコール性脂肪性肝炎のマウスモデルにおける脂肪肝の改善
【0291】
肝臓内のMETを標的とした遺伝子欠失によってマウスで深刻な非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が進行することが示されている(Kroy他、J Hepatol. 第61巻、883~890ページ、2014年)。それとは独立な研究(Kosone他、Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 第293巻、G204~G210ページ、2007年)では、HGFがミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTP)とアポリポタンパク質B(ApoB)を活性化して脂肪酸の貯蔵を最少にすることにより、マウスで高脂肪の餌によって誘導される脂肪肝を改善した。
【0292】
高インスリン血症のdb/dbマウスも、NASHのモデルとして、より一般的には脂肪肝疾患のモデルとして広く用いられている。通常の餌だとこのマウスは肝細胞に大量の脂質を蓄積するため、脂肪肝、線維症、慢性肝不全へとつながる。マウスに高脂肪の餌を与えると、この状態はさらに悪化する可能性がある(AnsteeとGoldin、Int J Exp Pathol. 第87巻、1~16ページ、2006年による概説)。
【0293】
上記の観察結果と考察から着想して、ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体が通常の餌で飼育しているdb/dbマウスで中等度の脂肪肝を改善できるかどうかを調べた。 その目的で、上記のようにして雌のdb/dbマウスを取得した。マウスが8週齢のとき、ランダムにそれぞれ6匹のマウスからなる4つの群に分け、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、1 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって週2回投与した。処理してから8週間後、マウスを安楽死させて剖検した。組織学的検査のため肝臓を取り出してパラフィンに包埋し、処理した。肝機能マーカーを分析するため血液を回収した。
【0294】
肝切片をヘマトキシリンとエオシンで染色するかピクロシリウスレッドで染色し、線維症を強調した。
図25に示してあるように、PBS群からの肝臓は顕著な脂肪症を示し、典型的にはそれが中心静脈の周辺に集中していた。肝細胞は劇的に肥大して脂質に満ちているように見えた。脂肪性の肝細胞は正常な肝細胞と混じり合っていて、脂肪症は最大で中心周辺のスペースの60%を占めていた。それとは対照的に、抗体で処理したマウスからの肝臓はそれよりも著しく少ない脂肪細胞を含んでいて、全体的にはまったく正常に見えた。
図26に示してあるように、ピクロシリウスレッド染色によってPBS群における中程度の門脈周囲線維症が証明された。その線維症は門脈三つ組(門脈、肝動脈、胆管)周辺の間質層の肥厚を特徴としており、ときに小葉間腔の中へと広がっていた。注目すべきことに、すべての抗体群からの肝切片で、線維化は、存在するとしても、はるかに少なかった。血漿中の肝機能マーカーであるASTとALTの分析により、これらの観察結果が確認された(
図27参照)。実際、アゴニスト性抗MET抗体で処理したマウスはASTとALTの血漿濃度が例外的に低く、PBS群の約1/2.5、正常なマウスにおけるASTとALTの平均レベルの1/2であった。
【0295】
これらのデータは、ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体を臨床で用いてNASHを治療したり、脂肪肝に関連する他の病的状態を治療したりできる可能性があることを示唆している。アゴニスト性抗MET抗体を用いて肝細胞における脂質の蓄積を抑制することで、肝脂肪症を予防したり逆転させたりし、脂肪酸蓄積とマクロファージ浸潤の間に起こる悪循環を抑制することができる可能性がある。慢性の炎症によって細胞外マトリックスが必ず沈着する。したがってアゴニスト性抗MET抗体を用いて脂肪症関連線維症を軽減することもできる。
【0296】
実施例24:生体内活性:糖尿病マウスにおける傷の治癒
【0297】
糖尿病の臨床で重要な1つの合併症は、潰瘍の形成が増えることと傷の治りが遅いことに代表される。HGFは傷の治癒に関係しているため(Nakamura他、J Gastroenterol Hepatol. 第26巻 増刊号1、188~202ページ、2011年)、ヒト/マウス同等抗MET抗体が糖尿病という条件下で傷の治癒を促進できるかどうかを明らかにすることを試みた。その目的で、上記のようにしてdb/db糖尿病マウスを取得した。8週齢のときマウスに麻酔をかけた後、皮膚生検用の円形パンチ刃(GIMA社)を用いて脇腹右後方部に0.8 cm幅の円形の傷を作った。表皮層全体を除去した。手術の翌日、マウスをランダムに4つの群に分け、精製した71G3、71D6、71G2、ビヒクルだけ(PBS)のいずれかで処理した。抗体は、5 mg/kgの用量で腹腔内に注射することによって2日ごとに送達した。傷の直径をキャリパーで毎日測定した。
【0298】
図28に示してあるように、抗体で処理することによって傷口の閉鎖と再表皮化が有意に加速された。 対照群では実験的に作った傷が1日当たり平均5%の割合で修復されたが、この値は71G3群では8%に、71D6群では12%に、71G2群では11%に増加した。
【0299】
ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体を臨床で用いると、糖尿病に関連した潰瘍と一般に治りが遅い傷を治療できる可能性があることを提案する。糖尿病に関連した傷は、医学的に対処することが必要とされているのに実現していない代表例である。アメリカ合衆国では、糖尿病が非外傷性下肢切断の主因である。アゴニスト性抗MET抗体を用いると、治癒を加速すること、再表皮化を改善すること、高血糖によって誘導される傷の血管新生を促進することができる。
【0300】
実施例25:ラット(Rattus norvegicus)METおよびカニクイザル(Macaca fascicularis)METとの交差反応性
【0301】
ヒト疾患の動物モデルの大半は宿主としてマウスを用いているため、マウス抗原との交差反応性は、前臨床研究での検証が必要な抗体の前提条件である。それを根拠に、ヒト-マウス同等抗MET抗体を同定するという着想を得た。しかしいくつかの前臨床手続きは、身体がより大きい齧歯類または霊長類で実施することが好ましい(例えば臓器移植や、それ以外で複雑な外科的介入を必要とする実験的措置)。さらに、薬力学と薬物動態の研究は、より高等な脊椎動物、典型的にはラットとサルで実施することが好ましい。最後に、そしてこれが最も重要だが、治療用抗体の毒物学的評価を、理想的にはサルで実施し、それが不可能な場合には異なる2種類の齧歯類で実施する。したがってラットおよびサルとの交差反応性も理想的には望ましい。
【0302】
その目的で、われわれのヒト/マウス同等抗MET抗体が、ラット(Rattus norvegicus)とカニクイザル(Macaca fascicularis)を含む他の種からのMETと交差反応するかどうかを調べた。ラットMET ECD((NCBI # NP_113705.1;アミノ酸1~931)とサルMET ECD(NCBI # XP_005550635.2;アミノ酸1~948)をタンパク質工学の標準的な技術によって取得した。ヒトMET ECDとマウスMET ECDを対照として使用した。SEMA結合体(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)とPSI結合体(76H10、71G3)の両方を代表する制限された抗体集団を選択した。先行技術の5D5抗体を対照として使用した。MET ECDタンパク質を固相の中に固定化し(96ウエルのプレートに100 ng/ウエル)、溶液中の増加していく濃度(0~40 nM)の(ヒト定常領域を有する)抗体に曝露した。HRP標識抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社)を用いて結合を明らかにした。
図29に示してあるように、試験したすべてのヒト/マウス同等抗体が、ヒトMET、マウスMET、ラットMET、サルMETに同じような親和性と能力で結合したが、5D5は、ヒトMETとサルMETだけに結合した。少なくともELISAによって判明したように、抗体71D6、71C3、71D4、71A3、71G2、76H10、71G3は、ヒトMET、マウスMET、ラットMET、サルMETに同じような親和性と能力で結合するとわれわれは結論する。
【0303】
実施例26:エピトープの細かいマッピング
【0304】
ヒト/マウス同等アゴニスト性抗MET抗体によって認識されるMETのエピトープを細かくマッピングするため、以下の戦略を採用した。ラマが産生してヒトMETに向かう抗体がマウスMETと交差反応する場合には、この抗体が認識する可能性の大きい1個の残基(または数個の残基)は、ヒト(H. sapiens)とマウス(M. musculus)の間で保存されているが、ヒト(H. sapiens)とマウス(M. musculus)とラマ(L. glama)の間では保存されていない。同じ推論を、ラット(R. norvegicus)とカニクイザル(M. fascicularis)へと拡張することができる。
【0305】
この線に沿って調べるため、ヒトMET(UniProtKB # P08581;アミノ酸1~932)、マウスMET(UniProtKB # P16056.1;アミノ酸1~931)、ラットMET(NCBI # NP_113705.1;アミノ酸1~931)、カニクイザルMET(NCBI # XP_005550635.2;アミノ酸1~948)、ラマMET(GenBank # KF042853.1;アミノ酸1~931)のアミノ酸配列を互いにアラインメントさせて比較した(
図30)。表12を参照して、METの領域のうちで抗体71D6、71C3、71D4、71A3、71G2(ヒトMETのアミノ酸314~372)と抗体76H10、71G3(ヒトMETのアミノ酸546~562)への結合にとって重要な領域に注意を集中させた。ヒトMETの前者の領域(アミノ酸314~372)には、ヒトMETとマウスMETでは保存されているがラマMETでは保存されていない5個の残基が存在する(Ala 327、Ser336、Phe343、Ile367、Asp372)。これらのアミノ酸は、
図30の中に黒い長方形と大きくなっていく数字1~5で示してある。これらのうちの4個の残基はラットMETとカニクイザルMETでも保存されている(Ala327、Ser336、Ile367、Asp372)。ヒトMETの後者の領域(アミノ酸546~562)には、ヒトMETとマウスMETでは保存されているがラマMETでは保存されていない3個の残基が存在する(Arg547、Ser553、Thr555)。これらのアミノ酸は、
図30の中に黒い長方形と大きくなっていく数字6~8で示してある。これらのうちの2個の残基はラットMETとカニクイザルMETでも保存されている(Ser553とThr555)。
【0306】
ヒトMETを鋳型として使用し、これらの残基のそれぞれを異なる組み合わせで変異させることにより、特定の残基がラマであることを除けば全面的にヒトである一連のMET変異体を作製した。変異体の模式図を
図31に示す。次に、選択されたSEMA結合mAb(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)とPSI結合mAb(76H10と71G3)がこれらのMET変異体に対して示す親和性をELISAによって調べた。その目的で、さまざまなMETタンパク質を固相の中に固定化した(96ウエルのプレートに100 ng/ウエル)後、増加していく濃度(0~50 nM)の抗体溶液に曝露した。使用した抗体はヒト定常領域形式であったため、HRP標識抗ヒトFc二次抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社)を用いて結合を明らかにした。野生型ヒトMETを陽性対照として用いた。この分析の結果を表24に示す。
【0307】
【0308】
上に示した結果は、われわれのアゴニスト性抗体への結合にとって重要な残基の明確な描像を提供する。
【0309】
試験したすべてのSEMA結合体(71D6、71C3、71D4、71A3、71G2)は、SEMAβ-プロペラの羽根5の中にあってヒトMETとマウスMETとカニクイザルMETとラットMETでは保存されているがラマMETには存在しない2個の重要なアミノ酸(Ile367とAsp372)を含む同じエピトープに結合するように見える。実際、Ala327、Ser336、Phe343の変異は結合にまったく影響を与えず、Ile367の変異は結合を部分的に弱くしたが、Ile367とAsp372の突然変異はまったく結合できないようにした。ヒトMETのIle367とAsp372の両方が、試験したSEMAに向かう抗体への結合にとって極めて重要であるとわれわれは結論する。これら2個の残基は、
図30に「S」(SEMAの意味)で示してある。
【0310】
試験したPSI結合体(76H10、71G3)も同じエピトープに結合するように見える。しかしSEMAエピトープとは異なり、PSIエピトープは、ヒトMETとマウスMETとカニクイザルMETとラットMETでは保存されているがラマMETでは保存されていない重要なアミノ酸を1個だけ(Thr555)含有する。実際、Arg547またはSer553の変異は結合にまったく影響を及ぼさなかったが、Thrの突然変異555はまったく結合できないようにした。Thr555が、試験したPSIに向かう抗体への結合にとっての極めて重要な決定因子であるとわれわれは結論する。この残基は、
図30に「P」(PSIの意味)で示してある。
【0311】
実施例27:ヒト/マウス同等アゴニスト性抗体の独自性
【0312】
実施例26に示したエピトープの細かいマッピングの結果は、本発明によって提供されるアゴニスト性抗体が、先行技術のどの分子にも共有されていない独自の特徴を有することの分子レベルでの緻密な証明を提供する。この独自性は、以下の分析を実行することによって最もよく理解される。
【0313】
実施例12~14で議論した先行技術の大半の抗体に関しては、それらの抗体がMET上で認識するエピトープの詳細についての入手可能な情報は存在しない。しかし先行技術の分子のどれもマウスMETと交差反応しないため、これらのエピトープがわれわれの抗体によって認識されるエピトープとは異なっているはずであることはわかっている。この多様性の明確な一例は、METとの相互作用に関する詳細な分子情報のアノテーションが付いた先行技術の唯一の抗MET抗体である5D5/オナルツズマブによって提供される。5D5/オナルツズマブは、SEMAに結合する抗体との相互作用にとって重要なアミノ酸の非常に近くに位置するSEMAβ-プロペラの羽根5の中の異なった4個の残基を認識する(Merchant他、Proc Natl Acad Sci USA第110巻、E2987~E2996ページ、2013年)。
図30に「O」(オナルツズマブの意味)で示したこれらの残基は、Gln328、Arg331、Leu337、Asn338に対応する。
【0314】
これら残基のどれも、ヒト(H. sapiens)とマウス(M. musculus)の間で保存されていないのは興味深い。このことは、5D5/オナルツズマブがマウスを宿主として用いて作製されたことと完全に整合しており、なぜマウスMETと交差反応しないのかを説明する(Merchant他、上記文献と、
図6と
図29に示すデータ)。さらに、これらの残基のどれも、ヒト(H. sapiens)とラット(R. norvegicus)の間でも保存されていないが、そのすべてが、ヒト(H. sapiens)とカニクイザル(M. fascicularis)の間では保存されている。このことは、5D5/オナルツズマブがラットMETには結合しないがカニクイザルMETには結合する理由を説明する(
図29)。
【0315】
われわれのヒト/マウス同等アゴニスト性抗体は、ここで議論している5D5/オナルツズマブおよび先行技術の他のあらゆる分子とは異なり、ラマを宿主として用いて作製されるとともに、ヒトMETとマウスMETの両方と交差反応する能力のスクリーニングが明確になされている。ヒト(H. sapiens)とマウス(M. musculus)との間で保存されているがヒト(H. sapiens)とマウス(M. musculus)とラマ(L. glama)の間では保存されていない(
図30に黒い長方形で示した)数少ないアミノ酸の大半は、ラット(R. norvegicus)とカニクイザル(M. fascicularis)でも保存されているため、選択された抗体はラットおよびサルとも交差反応する可能性があると判断される。
【0316】
結論として、免疫化戦略とスクリーニング設計の両方が、本発明の抗体を独自なものにしている。一方では、免疫化に用いる種(ラマ(L. glama))がヒト(H. sapiens)、マウス(M. musculus)、ラット(R. norvegicus)、カニクイザル(M. fascicularis)から十分に離れていることで、ラマMETを他の種からのMETと比較したとき互いのアミノ酸配列の間に十分なミスマッチが存在することが保証される(
図30参照)。これらのミスマッチが極めて重要である。なぜなら免疫化された宿主は、その宿主が「自己」と認識するエピトープに対する抗体を産生することはできないからである。他方では、ヒト/マウス二重スクリーニングのプロトコルにより、これら2つの種の間で保存されているエピトープを認識する抗体が強制的に選択される。この工程も不可欠である。なぜなら2つの種のパンニングがないと、最も代表的な抗体、すなわち親和性がより大きいが必ずしも交差反応しない抗体が単純に選択されると考えられるからである。これら両方の基準(5番目の種と「二重浸漬」プロトコル)を導入することで、新しい独自の特徴を持つ抗体の同定が可能になった。
【0317】
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本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
[1] ヒトMETタンパク質(hMET)に大きな親和性で結合するとともにマウスMETタンパク質(mMET)に大きな親和性で結合し、hMETアゴニストかつmMETアゴニストである、抗体またはその抗原結合フラグメント。
[2] 少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)と、少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでいて、そのVHドメインとVLドメインが、Fabフラグメントとして試験するとき、hMETに対して1×10-3/秒~1×10-2/秒の範囲、場合によっては1×10-3/秒~6×10-3/秒の範囲のオフレート(Biacoreによって測定されるkoff)を示すとともに、mMETに対して1×10-3/秒~1×10-2/秒の範囲、場合によっては1×10-3/秒~6×10-3/秒の範囲のオフレート(Biacoreによって測定されるkoff)を示す、項目1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[3] hMETとmMETに対して同等の親和性を有する、項目1または2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[4] hMETのリン酸化を誘導するとともに、mMETのリン酸化を誘導する、項目1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[5] hMETのリン酸化を3.0 nM未満、場合によっては2.0 nM未満の(ホスホ-MET ELISAによって測定される)EC50で誘導するとともに、mMETのリン酸化を3.0 nM未満、場合によっては2.0 nM未満の(ホスホ-MET ELISAによって測定される)EC50で誘導する、項目4に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[6] hMETのリン酸化とmMETのリン酸化を同等に誘導する、項目4または5に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[7] hMETに対して大きなリン酸化効力を示すとともに、mMETに対して大きなリン酸化効力を示す、項目4~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[8] hMETのリン酸化を1 nM未満のEC50および/または少なくとも80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導するとともに、mMETのリン酸化を1 nM未満のEC50および/または少なくとも80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導する、項目7に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[9] hMETに対して小さなリン酸化効力を示すとともに、mMETに対して小さなリン酸化効力を示す、項目1~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[10] hMETのリン酸化を1 nM~5 nMのEC50および/または60~80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導するとともに、mMETのリン酸化を1 nM~5 nMのEC50および/または60~80%の(ホスホ-MET ELISAにおいてHGCによって誘導される活性化の割合としての)Emaxで誘導する、項目9に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[11] ヒト細胞と接触したときにHGF様細胞応答を誘導するとともに、マウス細胞と接触したときにHGF様細胞応答を誘導する、項目1~10のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[12] ヒト細胞と接触したときとマウス細胞と接触したときにHGF様細胞応答を全面的に誘導する、項目11に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[13] HGF様細胞応答の全面的な誘導が、
(i)細胞散乱アッセイにおいて、濃度が0.1~1.0 nMのとき、HGFが誘導する最大の散乱に匹敵する細胞散乱を誘導すること;および/または
(ii)抗アポトーシス細胞アッセイにおいて、HGFの値の1.1倍未満のEC50および/またはHGFで観察される値の90%超のEmax(非アポトーシス対照細胞の全ATP含量に対する%として測定される)を示すこと、および/または;
(iii)分岐形態形成アッセイにおいて、抗体で処理した細胞が、同じ(ゼロでない)濃度のHGFによって誘導されるスフェロイド当たりの分岐の数の90%超を示すこと
のうちの1つ、または任意の2つ、またはすべてとして測定可能である、項目11または12に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[14] ヒト細胞と接触したときとマウス細胞と接触したときにHGF様細胞応答を部分的に誘導する、項目11に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[15] HGF様細胞応答の部分的な誘導が、
(i)細胞散乱アッセイにおいて、濃度が1 nM以下のとき、0.1 nMの相同なHGFによって誘導される値の少なくとも25%の細胞散乱を誘導すること;および/または
(ii)抗アポトーシス細胞アッセイにおいて、HGFの値の7.0倍以下のEC50および/またはHGFで観察される値の少なくとも50%のEmax細胞生存率を示すこと;および/または
(iii)分岐形態形成アッセイにおいて、抗体で処理した細胞が、同じ(ゼロでない)濃度のHGFによって誘導されるスフェロイド当たりの分岐の数の少なくとも25%を示すこと
として測定可能である、項目14に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[16] HGF競合体である、項目1~15のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[17] 5 nM以下のIC50および/または少なくとも50%のImaxでhMETへの結合をhHGFと競合するとともに、5 nM以下のIC50および/または少なくとも50%のImaxでmMETへの結合をmHGFと競合する、項目16に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[18] hHGFおよびmHGFと同等に競合する、項目16または17に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[19] 全面的なHGF競合体である、項目16~18のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[20] 2 nM未満のIC50および/または90%超のImaxでhHGFと競合するとともに、2 nM未満のIC50および/または90%超のImaxでmHGFと競合する、項目19に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[21] 部分的なHGF競合体である、項目16~18のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[22] 2~5 nMのIC50および/または50%~90%のImaxでhHGFと競合するとともに、2~5 nMのIC50および/または50%~90%のImaxでmHGFと競合する、項目21に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[23] ヒトMETのアミノ酸残基123~残基223、またはヒトMETのアミノ酸残基224~残基311、またはヒトMETのアミノ酸残基314~残基372、またはヒトMETのアミノ酸残基546~残基562の領域内に位置するヒトMETのエピトープを認識する抗体またはその抗原結合フラグメント。
[24] METの細胞外ドメインの中にあってヒトMETとマウスMETで保存されている1個以上のアミノ酸を含むエピトープを認識する抗体またはその抗原結合フラグメント。
[25] ヒトMETのアミノ酸残基Ile367および/またはAsp372を含んでいて、場合によってはヒトMETのアミノ酸残基314~残基372の領域内に位置するヒトMETのエピトープを認識する抗体またはその抗原結合フラグメント。
[26] ヒトMETのアミノ酸残基Thr555を含んでいて、場合によってはヒトMETのアミノ酸残基546~残基562の領域内に位置するヒトMETのエピトープを認識する抗体またはその抗原結合フラグメント。
[27] H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中の
H-CDR1は、配列番号2、9、16、23、30、37、44、51、58、65、72から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号4、11、18、25、32、39、46、53、60、67、74から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号6、13、20、27、34、41、48、55、62、69、76から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号79、86、93、100、107、114、121、128、135、142、149から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号81、88、95、102、109、116、123、130、137、144、151から選択されたアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号83、90、97、104、111、118、125、132、139、146、153から選択されたアミノ酸配列を含んでいる抗体またはその抗原結合フラグメント。
[28] 項目1~22のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントである、項目23~27のいずれか1項に記載の抗体。
[29] [71G2]H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中の
H-CDR1は、配列番号44として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号46として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号48として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号121として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号123として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号125として示すアミノ酸配列を含んでいる抗体またはその抗原結合フラグメント。
[30] [71G2]前記重鎖可変ドメインが、配列番号167のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含むとともに、前記軽鎖可変ドメインが、配列番号168のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含む、項目23に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[31] 項目1~22のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントである、項目29または30に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[32] [71D6]H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、その中の
H-CDR1は、配列番号30として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号32として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号34として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号107として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号109として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号111として示すアミノ酸配列を含んでいる抗体または抗原結合フラグメント。
[33] [71D6]前記重鎖可変ドメインが、配列番号163のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含むとともに、前記軽鎖可変ドメインが、配列番号164のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含む、項目25に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[34] 項目1~22のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントである、項目32または33に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[35] [71G3]H-CDR1、H-CDR2、H-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3を含む軽鎖可変ドメインを含んでいて、
H-CDR1は、配列番号9として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR2は、配列番号11として示すアミノ酸配列を含んでおり;
H-CDR3は、配列番号13として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR1は、配列番号86として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR2は、配列番号88として示すアミノ酸配列を含んでおり;
L-CDR3は、配列番号90として示すアミノ酸配列を含んでいる抗体または抗原結合フラグメント。
[36] [71G3]前記重鎖可変ドメインが、配列番号157のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含むとともに、前記軽鎖可変ドメインが、配列番号158のアミノ酸配列を含むか、その配列と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を含む、項目27に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[37] 項目1~22のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントである、項目35または36に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
[38] 項目1~37のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントの親和性バリアントまたはヒト生殖系列化バリアント。
[39] ヒトIgGのヒンジ領域、場合によってはIgG1のヒンジ領域、および/またはCH2ドメイン、および/またはCH3ドメインを含有する、項目1~38のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
[40] ヒトIgGと、好ましくはIgG1と少なくとも90%、または95%、または97%、または99%一致する配列を持つCH2および/またはCH3ドメインを含み、場合によってはそのCH2および/またはCH3ドメインが改変されて、1つ以上の抗体エフェクタ機能が低下するか実質的に消えている、項目1~39のいずれか1項に記載の抗体。
[41] 前記VHドメインおよび/またはVLドメイン、またはCDRの1つ以上がラクダ科の動物に由来する、項目1~40のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
[42] 前記動物がラマである、項目41に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
[43] 項目1~40のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチド。
[44] 宿主細胞または無細胞発現系の中で前記抗体または抗原結合フラグメントの発現を可能にする調節配列に機能可能に連結された項目43に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[45] 項目44に記載の発現ベクターを含有する宿主細胞または無細胞発現系。
[46] 組み換え抗体またはその抗原結合フラグメントを作製する方法であって、その抗体または抗原結合フラグメントの発現を可能にする条件下で項目45の宿主細胞または無細胞発現系を培養し、発現した抗体または抗原結合フラグメントを回収することを含む方法。
[47] 項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントと、医薬として許容可能な基剤または賦形剤を含む医薬組成物。
[48] 治療で利用するための、項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメント、または項目47に記載の医薬組成物。
[49] ヒト患者で肝障害、場合によっては急性肝障害を治療または予防する方法であって、それを必要とする患者にMETアゴニスト抗体の治療に有効な量を投与することを含む方法。
[50] 前記METアゴニスト抗体が、項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントである、項目49に記載の方法。
[51] ヒト患者で腎損傷、場合によっては急性腎損傷を治療または予防する方法であって、それを必要とする患者にMETアゴニスト抗体の治療に有効な量を投与することを含む方法。
[52] 前記METアゴニスト抗体が、項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントである、項目51に記載の方法。
[53] ヒト患者で炎症性腸疾患、場合によっては潰瘍性大腸炎を治療または予防する方法であって、それを必要とする患者にMETアゴニスト抗体の治療に有効な量を投与することを含む方法。
[54] 前記METアゴニスト抗体が、項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントである、項目53に記載の方法。
[55] ヒト患者で糖尿病、場合によってはI型またはII型の糖尿病を治療または予防する方法であって、それを必要とする患者にMETアゴニスト抗体の治療に有効な量を投与することを含む方法。
[56] 前記METアゴニスト抗体が、項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントである、項目55に記載の方法。
[57] ヒト患者で非アルコール性脂肪性肝炎を治療または予防する方法であって、それを必要とする患者にMETアゴニスト抗体の治療に有効な量を投与することを含む方法。
[58] 前記METアゴニスト抗体が、項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントである、項目57に記載の方法。
[59] ヒト患者、場合によっては糖尿病を持つ患者で傷の治癒を治療または促進する方法であって、それを必要とする患者にMETアゴニスト抗体の治療に有効な量を投与することを含む方法。
[60] 前記METアゴニスト抗体が、項目1~42のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合フラグメントである、項目59に記載の方法。