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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009635
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】回転陽極X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/10 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
H01J35/10 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111312
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊抱 広之
(57)【要約】
【課題】 軸受け隙間から液体金属の漏れを防止できる回転陽極X線管を提供する。
【解決手段】 回転陽極X線管は、真空外囲器と、真空外囲器内に収納された陰極及び回転陽極構体と、を備え、回転陽極構体は、固定軸と、固定軸の外周側に設けた回転軸と、回転軸と一体に回転すると共に陰極から照射された電子ビームを受けてX線を発生するターゲットと、を有し、固定軸と回転軸との間には、液体潤滑材を充填した軸受け隙間が設けてあり、液体潤滑材には磁性を有する磁性微粒子が分散されていると共に軸受け隙間の端部に磁界が付与されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空外囲器と、前記真空外囲器内に収納された陰極及び回転陽極構体と、を備え、
前記回転陽極構体は、固定軸と、前記固定軸の外周側に設けた回転軸と、前記回転軸と一体に回転すると共に前記陰極から照射された電子ビームを受けてX線を発生するターゲットと、を有し、
前記固定軸と前記回転軸との間には、液体潤滑材を充填した軸受け隙間が設けてあり、
前記液体潤滑材には磁性を有する磁性微粒子が分散されていると共に前記軸受け隙間の端部に磁界が付与されている、回転陽極X線管。
【請求項2】
前記磁界は、固定軸側及び回転軸側の少なくとも一方に設けた磁石により前記軸受け隙間を横断する磁束である請求項1に記載の回転陽極X線管。
【請求項3】
前記磁石は、前記軸受け隙間を挟んで設けた一対の永久磁石であり、互いに反対の磁極を対向して設けている請求項2に記載の回転陽極X線管。
【請求項4】
前記磁石は、固定軸側又は回転軸側に並んで設けた永久磁石であり、互いに反対の磁極を対向して配置している請求項2に記載の回転陽極X線管。
【請求項5】
前記磁性微粒子は、酸化鉄の粒子にアルミニウム又はシリカを被覆してなる請求項1~4のいずれか一項に記載の回転陽極X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転陽極X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
回転陽極X線管は、真空外囲器内の真空中に固定軸と回転軸を有し、回転軸に陽極が固定され、ステータコイルにより回転軸が固定軸に対して回転することで、陽極で発生する熱を分散している。回転軸と固定軸の隙間(軸受け隙間)には、液体金属が充填されており、この液体金属は回転陽極の回転時に動圧すべり軸受の潤滑材となる。そして、この動圧すべり軸受に発生する動圧効果により回転陽極は支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-212949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体金属を潤滑材として用いる回転陽極X線管は、軸受の表面張力により保持されていると考えられているが、回転動作中や外部からの衝撃などにより液体金属が軸受け隙間から漏れ出るおそれがあった。
液体金属が漏れ出た場合、動圧効果が減少もしくは消失し回転軸と固定軸が直接接触することで回転が停止するという不都合や、液体金属がX線管内部の電位差が生じている部分にいくことで放電が発生するという不都合がある。
【0005】
本発明の実施形態は、軸受け隙間から液体金属の漏れを防止できる回転陽極X線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1実施形態は、真空外囲器と、真空外囲器内に収納された陰極及び回転陽極構体と、を備え、回転陽極構体は、固定軸と、固定軸の外周側に設けた回転軸と、回転軸と一体に回転すると共に陰極から照射された電子ビームを受けてX線を発生するターゲットと、を有し、固定軸と回転軸との間には、液体潤滑材を充填した軸受け隙間が設けてあり、液体潤滑材には磁性を有する磁性微粒子が分散されていると共に軸受け隙間の端部に磁界が付与されている回転陽極X線管である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態に係る回転陽極X線管の断面図である。
図2図2は、図1に示す回転陽極X線管において、回転軸側に設けた磁石の平面図である。
図3図3は、第2実施形態に係る回転陽極X線管であって、軸受け隙間に対する磁石の配置を示す断面図である。
図4図4は、第3実施形態に係る回転陽極X線管の断面図である。
図5図5は、第4実施形態に係る回転陽極X線管であって、軸受け隙間の端部を示す断面図である。
図6図6は、第5実施形態に係る回転陽極X線管の断面図である。
図7図7は、第1実施形態の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、一実施形態に係る回転陽極X線管及び回転陽極X線管の製造方法について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
(第1実施形態)
まず、図1及び図2を参照して、第1実施形態について説明する。
図1に示すように、第1実施形態に係る回転陽極X線管1は、真空外囲器3と、真空外囲器3内に収納された回転陽極構体5及び陰極7とを備えている。真空外囲器3の外側にはステータコイル9が設けられている。
【0010】
回転陽極構体5は、ターゲット13と、固定軸15と、回転軸17と、固定軸15と回転軸17との間に形成したすべり軸受19とを備えている。
ターゲット13は、円盤状に形成され且つ回転軸17の外周面に固定されている。ターゲット13は、固定軸15及び回転軸17と同軸的に設けられている。
ターゲット13は、ターゲット本体13aと、ターゲット本体13aの外面の一部に設けられたターゲット層13bとを有している。ターゲット13は、回転軸17と共に回転可能であり、ターゲット層13bに電子が入射されることによりX線を放出する。
【0011】
固定軸15は、円柱状に形成され、管軸線aの一端側に位置する一端側部15aと、管軸方向の他端側に位置する他端側部15bとを具備し、固定軸15の一端側部15aと他端側部15bとは、それぞれ固定部材(図示せず)を介して真空外囲器3に固定されている。
固定軸15は、内部に冷媒通路16が設けてあり、冷媒通路16に導入された冷却媒体を介して放熱されている。
固定軸15は、その外周に設けた回転軸17を回転可能に支持している。
固定軸15は、Fe(鉄)合金やMo(モリブデン)合金等の金属で形成されている。
【0012】
回転軸17は、固定軸15の外周に固定軸15と同軸的に配置してある。回転軸17は、円筒状の本体17aと、本体17aの一端側に設けた円環状の一端側蓋部17bと、他端側に設けた円環状の他端側蓋部17cとを備えている。回転軸17は、Fe合金やMo合金等の金属で形成されている。
本体17aの外周面において、ステータコイル9に対向した位置には、駆動ローター31が設けてある。駆動ローター31は筒状であり、本体17aの外周面に固定されている。駆動ローター31は、例えばCu(銅)で形成されている。
【0013】
すべり軸受19は、軸受け隙間21と、軸受け隙間21に充填された液体潤滑材MLとで構成されている。
軸受け隙間21の隙間寸法は、固定軸15の長手方向における一端部21aと、他端部21bとが、中間部21cよりも狭小に形成されている。
【0014】
液体潤滑材MLには、磁性を有する磁性微粒子が分散されている。磁性微粒子は、例えば、酸化鉄の粒子にアルミニウム又はシリカを被覆して形成されている。
液体金属LMは、GaIn(ガリウム・インジウム)合金又はGaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金等の材料を利用することができる。
【0015】
本実施形態では、軸受け隙間21の一端部21aと他端部21bとには、それぞれ磁界が付与されている。
磁界は、一端部21aと他端部21bに、それぞれ配置された永久磁石23a、23bにより付与されている。
一方の永久磁石23aは一端側蓋部17bの外周に設けてあり、他方の永久磁石23bは、固定軸15の一端側部15aの内部に設けている。他方の永久磁石23bは、固定軸15の一端側部15aに埋め込まれていても良い。
【0016】
一方の永久磁石23aは、図2に示すように、円環状を成しており、内周側をN極とし、外周側をS極としている。他方の永久磁石23bは、一方の永久磁石23aと同様に、円環状を成しているが、一方の永久磁石23aの内周側に配置されるので、一方の永久磁石23aよりも小さい寸法の円環状である。
一方の永久磁石23aの内周側はN極であり、一方の永久磁石23aの内周側で軸受け隙間21を挟んで対向する他方の永久磁石23bの外周側はS極としてある。
【0017】
図1に示すように、陰極7は、ターゲット13のターゲット層13bに間隔を置いて対向配置されている。陰極7は、真空外囲器3の内壁に取付けられている。陰極7は、ターゲット層13bに照射する電子を放出する電子放出源としてのフィラメント7aを有している。
【0018】
真空外囲器3は、円筒状に形成されている。真空外囲器3は、ガラス及び金属で形成されている。
【0019】
次に、第1実施形態に係る回転陽極X線管の作用効果について、説明する。
図1に示すように、回転陽極X線管1の動作状態では、ステータコイル9は回転軸17(特に駆動ローター31)に与える磁界を発生し、固定軸15の回りを回転軸17が回転する。これにより、ターゲット13は回転する。また、陰極7に相対的に負の電圧が印加され、ターゲット13に相対的に正の電圧が印加される。
これにより、陰極7及びターゲット13間に電位差が生じる。このため、フィラメント7aは、電子を放出すると、この電子は、加速され、ターゲット層13bに衝突する。これにより、ターゲット層13bは、電子と衝突するときにX線を放出し、放出されたX線は真空外囲器3を透過して放出される。
X線放射時に、電子衝撃によりターゲット13では高熱を発生する。
【0020】
電子衝撃によりターゲット13に発生する熱は、すべり軸受19の液体金属LMを介して、固定軸15に伝導し、固定軸15からその冷媒通路16の冷却冷媒に熱を逃がして冷却する。
一方、滑り軸受け19の軸受け隙間21では、その一端部21aと他端部21bとでは隙間寸法を狭小にしていると共に、永久磁石23a、23bにより磁界を印加している。
このように、軸受け隙間21に磁界を印加することで、軸受け隙間21の各端部21a、21bに充填されている液体潤滑材MLでは、分散されている磁性微粒子(図示せず)が磁界(磁力線)の作用を受けて引き付けられて、各端部21a、21bの軸受け隙間内に留まることから、堰となって液体潤滑材MLが隙間内に保持され、液体金属漏れを防止できる。
一方の永久磁石23aは、回転軸17の外側に配置しているので、回転軸17に埋め込む場合に比較して設置が容易にできる。
一方の永久磁石23a及び他方の永久磁石23bは共に、円環状の磁石で内周側と外周側とに磁極を形成しているから、簡易な構成にできる。
【0021】
以下に他の実施形態について説明するが、以下の説明において、上述した第1実施形態と同一の作用効果を奏する部分には、同一の符号を付して、その部分の詳細な説明を省略する。
【0022】
(第2実施形態)
図3に、第2実施形態を示す。この第2実施形態では、第1実施形態の円環状の一方の永久磁石23a、23bに替えて、棒状の永久磁石24a、24bを用いている。図3では、軸受け隙間21の一端部21aの断面を示しており、棒状の一方の永久磁石24aと他方の永久磁石24bは、軸受け隙間21を挟んだ内周側と外周側とに円形状に棒状の一方の永久磁石24aと他方の永久磁石24bを並べている。棒状の一方の永久磁石24aと他方の永久磁石24bは、内周側と外周側とで互いに反対の磁極を対向して配置している。
また、外周側の一方の永久磁石24aは回転軸17の一端側蓋部17bに埋め込んでいることが第1実施形態と異なっている。
尚、この第2実施形態において、軸受け隙間21の他端部21bについては示していないが、一方の永久磁石24aは、第1実施形態と同様に回転軸17の外周に配置しても良いし、一端部21aと同様に回転軸17内に埋め込まれていても良い。
【0023】
図3に示すように、この第2実施形態では、磁石により作用する磁力線Kは広がりを持っているので、周方向で対向する一方及び他方の永久磁石24a、24bは、周方向に間隔をあけて配置した場合でも、軸受け隙間21の周方向全体に連続して磁力を作用させることができる。
図3に示す第2実施形態では、周方向で対向する一方及び他方の永久磁石24a、24bは、周方向に約45度の間隔で配置しているが、これに限らず、30度や15度、60度等の任意の間隔で配置しても良い。
この第2実施形では、一方及び他方の永久磁石24a、24bに汎用性の高い棒磁石を用いているので、製造が容易である。また、一方及び他方の永久磁石24a、24bは周方向における配置密度を変えることにより、軸受け隙間21に作用させる磁力の調整が容易にできる。
【0024】
(第3実施形態)
図4を参照して、第3実施の形態について説明する。
この第3実施形態では、軸受け隙間21の一端部21a及び他端部21bには、固定軸15側に、環状の一方の永久磁石23a(図2参照)及び他方の永久磁石23bを並べて配置している。
また、軸受け隙間21の一端部21a及び他端部21bには、凹凸を形成して液体潤滑材LMを保持し易くするためのトラップ27が形成されている。
一方の永久磁石23a及び他方の永久磁石23aは、同じ寸法と形状であるが、内周側と外周側とで磁極が異なっている。即ち、一方の永久磁石23aは外周側がN極であり、内周側がS極で、他方の永久磁石23bは外周側がN極であり、内周側がS極としてある。
【0025】
この第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができると共に、一方及び他方の永久磁石23a、23bは共に固定軸15に設ければ良いので製造が容易である。
また、軸受け隙間21の一端部21a及び他端部21には、トラップ27を設けているので、磁力による作用に相乗して液体潤滑材LMを保持し易い。
【0026】
(第4実施形態)
図5を参照して、第4実施形態について説明する。
この第4実施形態では、軸受け隙間21の一端部21a及び他端部21bには、固定軸15側に、環状(図2参照)の一つの永久磁石25を配置している。この永久磁石25は、環状の一面側にN極を、他面側にS極を配置している。
この第4実施形態によれば、第3実施形態と同様な作用効果を奏すると共に、軸受け隙間21の各一端部21a及び他端部21bでは、永久磁石の数は一つで済むので、更に構成を簡易にできる。
【0027】
(第5実施形態)
図6を参照して第5実施形態について説明する。
この第5実施形態では、第3実施形態が1つの環状の永久磁石25を固定軸15側に配置したのに対して、回転軸17側に2つの環状の永久磁石23a、23bを配置していることが異なっている。
また、第5実施形態では、軸受け隙間21の他端部21b側では、一方の永久磁石23aと他方の永久磁石23bとは、回転軸17の外周側に配置しており、軸受け隙間21の一端部21a側では、一方の永久磁石23aと他方の永久磁石23bとは、回転軸17の一端側蓋部17bに埋め込んで配置している。
【0028】
この第5実施形態によれば、第3実施と同様の作用効果を奏することができる。
更に、軸受け隙間21の他端部21b側では、一方の永久磁石23aと他方の永久磁石23bとは、回転軸17の外周側に配置しているので、回転軸17に埋め込まなくて済むから、設置が容易にできる。
【0029】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、第3~第5実施形態において、第2実施形態と同様に、環状の永久磁石でなく、棒状の永久磁石24a、24bを用いて、周方向に間隔を開けて配置しても良い。
この場合、第3及び第5実施形態では、互いに異なる磁極が対向する一組の永久磁石を周方向に間隔を開けて複数組を配置するものとし、第4実施形態では、固定軸15の一端側と他端側とで異なる磁極となる棒状の永久磁石24aを周方向に間隔を開けて配置する。
図7に示すように、第1実施形態において、一方の永久磁石23aは回転軸17の外周側に設けることに限らず、回転軸17に埋め囲まれていても良く、例えば図7の変形例では、一方の永久磁石23aは一端側蓋部17bに埋め込まれている。
【符号の説明】
【0030】
1…回転陽極X線管、3…真空外囲器、5…回転陽極構体、7…陰極、15…固定軸、17…回転軸、13…ターゲット、19…すべり軸受、21…軸受け隙間、21a…一端部、21b…他端部、23a…一方の永久磁石(円環状の永久磁石)、23b…他方の永久磁石(円環状の永久磁石)、24a…一方の永久磁石(棒状の永久磁石)、24b…他方の永久磁石(棒状の永久磁石)、25…永久磁石(円環状の永久磁石)、a…管軸線、LM…液体金属。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7