(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096360
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】N-アシルアミン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 303/32 20060101AFI20240705BHJP
C07C 309/15 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C07C303/32
C07C309/15
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075460
(22)【出願日】2024-05-07
(62)【分割の表示】P 2019158379の分割
【原出願日】2019-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】508067736
【氏名又は名称】マイクロ波化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 達弥
(72)【発明者】
【氏名】古武 佑香
(72)【発明者】
【氏名】森川 真妃
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅皓
(57)【要約】
【課題】触媒等の原料以外の成分を用いることなく、容易に、着色が抑制されたN-アシルアミン類を製造する方法を提供すること。
【解決手段】アミノ酸類にマイクロ波を照射しながら、前記アミノ酸類に、前記アミノ酸類の物質量よりも小さい物質量の脂肪酸を接触させることにより前記アミノ酸類をアシル化する工程を含むN-アシルアミノ酸類の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸類にマイクロ波を照射しながら、前記アミノ酸類に、前記アミノ酸類の物質量よりも小さい物質量の脂肪酸を接触させることにより前記アミノ酸類をアシル化する工程を含む、N-アシルアミノ酸類の製造方法。
【請求項2】
前記工程が、前記アミノ酸類および前記脂肪酸を含み、前記アミノ酸類の物質量が前記脂肪酸の物質量よりも大きい混合物にマイクロ波を照射することにより、前記アミノ酸類をアシル化する工程である請求項1に記載のN-アシルアミノ酸類の製造方法。
【請求項3】
前記アミノ酸類がアミノ酸、下記式(1)で表されるタウリン化合物またはそれらの塩である請求項1または2に記載のN-アシルアミノ酸類の製造方法。
【化1】
〔式中、R
1は、水素原子または炭素原子数1~6のアルキル基であり、
R
2は、水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であり、
R
3は、水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基である。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アシルアミン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-アシル-N-メチルタウリン塩等のN-アシルアミン類は、シャンプー等の身体洗浄用の各種洗浄剤、化粧品等の原料として広く使用されている。
N-アシルアミン類の製造方法としては種々の方法が知られており、たとえば、アミノ酸と脂肪酸との脱水反応によりN-アシルアミノ酸を製造する方法、N-メチルタウリンのアルカリ金属塩と脂肪酸との脱水反応によりN-アシル-N-メチルタウリン塩を製造する方法が知られている(特許文献1、2など)。しかしながら、これらの方法においては、生成物が着色するなどの問題が認識されている。
【0003】
この問題の解決策として、前記脱水反応を触媒の存在下で行う方法(特許文献3)、前記脱水反応を、所定の条件下で窒素ガスを吹き込みながら行う方法(特許文献4)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、N-アシルアミン類を、特に化粧品または身体洗浄用の洗浄剤(シャンプー等)の原料として用いる上では触媒等の成分が残存していないことが望ましく、また煩雑な操作を要することなくN-アシルアミン類を製造できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1337782号明細書
【特許文献2】米国特許第2880219号明細書
【特許文献3】特開2002-234868号公報
【特許文献4】特開2005-8603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術における上述の問題に鑑み、本発明は、触媒等の原料以外の成分を用いることなく、簡便な操作により、着色が抑制されたN-アシルアミン類を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究したところ、マイクロ波により所望の成分を選択的かつ均一に活性化させることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の[1]~[3]に関する。
【0008】
[1]
アミノ酸類にマイクロ波を照射しながら、前記アミノ酸類に、前記アミノ酸類の物質量よりも小さい物質量の脂肪酸を接触させることにより前記アミノ酸類をアシル化する工程を含む、N-アシルアミノ酸類の製造方法。
【0009】
[2]
前記工程が、前記アミノ酸類および前記脂肪酸を含み、前記アミノ酸類の物質量が前記脂肪酸の物質量よりも大きい混合物にマイクロ波を照射することにより、前記アミノ酸類をアシル化する工程である、前記[1]のN-アシルアミノ酸類の製造方法。
【0010】
[3]
前記アミノ酸類がアミノ酸、下記式(1)で表されるタウリン化合物またはそれらの塩である前記[1]または[2]のN-アシルアミノ酸類の製造方法。
【0011】
【0012】
〔式中、R1は、水素原子または炭素原子数1~6のアルキル基であり、
R2は、水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であり、
R3は、水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基である。〕
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、触媒等の原料以外の成分を用いることなく、従って残留成分の除去、脱色などの後処理を要さず、容易に着色が抑制されたN-アシルアミン類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、N-メチルタウリンナトリウム水溶液のマイクロ波吸収特性(誘電損率ε”-周波数曲線)を示す。
【
図2】
図2は、ラウリン酸のマイクロ波吸収特性(誘電損率ε”-周波数曲線)を示す。
【
図3】
図3は、水のマイクロ波吸収特性(誘電損率ε”-周波数曲線)を示す。
【
図4】
図4は、N-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウム水溶液のマイクロ波吸収特性(誘電損率ε”-周波数曲線)を示す。
【
図5】
図5は、実施例1および比較例1で合成されたN-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウムの色調定量結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に係るN-アシルアミノ酸類の製造方法は、アミノ酸類にマイクロ波を照射しながら、前記アミノ酸類に、前記アミノ酸類の物質量よりも小さい物質量の脂肪酸を接触させることにより前記アミノ酸類をアシル化する工程を含むことを特徴としている。
【0016】
前記工程の態様としては、たとえば、
(態様1):前記アミノ酸類および前記脂肪酸を含み、前記アミノ酸類の物質量が前記脂肪酸の物質量よりも大きい混合物にマイクロ波を照射することにより前記アミノ酸類をアシル化する工程、および
(態様2):前記アミノ酸類にマイクロ波を照射しながら、前記アミノ酸類に、前記アミノ酸類の物質量よりも小さい物質量の前記脂肪酸を添加することにより前記アミノ酸類をアシル化する工程
が挙げられる。
【0017】
以下、前記態様1を中心に本発明の製造方法を説明する。
(アミノ酸類)
前記アミノ酸類の例としては、アミノ酸、アミノ酸誘導体、およびそれらの塩が挙げられる。
【0018】
前記アミノ酸は、1分子中に1または2以上のアミノ基、および1または2以上のカルボキシル基を有し、好ましくはアミノ基およびカルボキシル基を1つずつ有する化合物である。
【0019】
前記アミノ基が有するアミノ基は、NH2、NHRまたはNRR’(Rは、炭素原子数1~6のアルキル基、好ましくはメチル基を表し、R’は、炭素原子数1~6のアルキル基、好ましくはメチル基を表す。)で表されるアミノ基であり、少なくとも1つのアミノ基は、NH2またはNHRで表されるアミノ基である。
【0020】
前記アミノ酸としては、たとえば、グリシン、アラニン、β-アラニン、アミノ酪酸、アミノ吉草酸、N-メチルグリシン、N-メチルアラニン、N-メチル-β-アラニンが挙げられる。
【0021】
前記アミノ酸誘導体は、前記アミノ酸が有する1または2以上のカルボキシル基が、スルホ基(SO3H)およびリン酸基(H2PO4)からなる群から選択される基で置き換えられた化合物である。
【0022】
前記アミノ酸誘導体としては、たとえば、下記式(1)で表されるタウリン化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
〔式中、R1は、水素原子または炭素原子数1~6のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。
R2は、水素原子または炭素原子数1~20(好ましくは1~8、より好ましくは1~4)の炭化水素基であり、好ましくは水素原子である。
R3は、水素原子または炭素原子数1~20(好ましくは1~8、より好ましくは1~4)の炭化水素基であり、好ましくは水素原子である。〕
【0025】
上記式(1)で表されるタウリン化合物としては、好ましくはN-メチルタウリンが挙げられる。
【0026】
前記アミノ酸、または前記アミノ酸誘導体の塩としては、たとえばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0027】
前記アミノ酸類としては、好ましくはN-メチルタウリンナトリウム、N-メチルアラニン、N-メチルグリシンが挙げられ、より好ましくはN-メチルタウリンナトリウムが挙げられる。
【0028】
図1に、後述する実施例において測定した、前記アミノ酸類の一種であるN-メチルタウリンナトリウムの水溶液の50℃における誘電損率ε”-周波数曲線を示す。
図1に示す測定範囲の周波数において、N-メチルタウリンナトリウムは、誘電損率ε”が大きくマイクロ波吸収能が高い。
【0029】
アミノ酸類の分子は、カルボキシル基およびアミノ基を有することから、双性イオンを形成する。一般に、マイクロ波のエネルギーは、その吸収対象の分子に応じて、導電損失、誘電損失、磁性損失のいずれかにより熱へ変換される。したがって、導電体であるアミノ酸の多くは、非常に高いマイクロ波の吸収能力をもつ。そのため、アミノ酸類およびその塩は、脂肪酸よりも大きな誘電損率ε”を有している。
【0030】
(脂肪酸)
前記脂肪酸の炭素原子数は、通常6~22、好ましくは8~20、より好ましくは10~18である。
【0031】
前記脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれかであってもよく、直鎖状であっても分岐鎖を有していてもよい。
前記脂肪酸は、1種単独の脂肪酸であってもよく、複数種の脂肪酸の混合物でもよい。脂肪酸の混合物は、天然より得られたものでもよく、人工的に調合されたものでもよい。前記混合物の例としては、ヤシ油脂肪酸(すなわち、ヤシ油の加水分解により得られる、複数種の脂肪酸の混合物)が挙げられる。
【0032】
前記脂肪酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられ、これらの中でもラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸が好ましく、ラウリン酸がより好ましい。
前記脂肪酸としては、ラウリン酸およびヤシ油脂肪酸が好ましい。
【0033】
図2に、後述する実施例において測定した、前記脂肪酸の一種であるラウリン酸の50℃における誘電損率ε”-周波数曲線を示す。
図2に示す測定範囲の周波数において、ラウリン酸は、誘電損率ε”が小さくマイクロ波吸収能が極めて低い。
【0034】
誘電特性には分子の極性が影響することが知られている。脂肪酸分子の極性は、分子中のCOOHの部分に大きく依存しており、炭素鎖長が変化しても、極性はほぼ変わらず、そのため誘電損率はほぼ変わらない。この点については、たとえば、Dielectric properties of some edible and medicinal oils at microwave frequency/Thomas Mathew,AD Vyas,Deepti Tripathi/Canadian Journal of Pure and Applied Sciences,Vol. 3,No. 3,pp. 953-957,2009に、種々の油脂(トリグリセリド)の誘電率および誘電損率が、構成脂肪酸が変わってもほぼ変化していないことが示されていることなどからも確認できる。
以上のとおり、前記脂肪酸のマイクロ波吸収能は極めて小さい。
【0035】
(混合物)
本発明の製造方法においては、アミノ酸類にマイクロ波を照射しながら、前記アミノ酸類に、前記アミノ酸類の物質量よりも小さい物質量の前記脂肪酸を接触させる。たとえば、前記アミノ酸類および前記脂肪酸を含み、前記アミノ酸類の物質量が前記脂肪酸の物質量よりも大きい混合物にマイクロ波を照射する。
【0036】
前記アミノ酸類および前記脂肪酸の割合は、モル比(アミノ酸類:脂肪酸)で、たとえば1を超えて10以下:1、好ましくは1を超えて5以下:1、より好ましくは1.0を超えて1.1以下:1.0である。
【0037】
本発明によるN-アシルアミン類の製造においては、前記脂肪酸と前記アミノ酸類の物質量の比率は、該N-アシルアミン類の着色には影響を及ぼさない。すなわち、前記脂肪酸の物質量が前記アミノ酸類の物質量以上であっても、アミノ酸類をアシル化させて製造されたN-アシルアミン類には着色の問題は生じない。しかしながら、脂肪酸の物質量がアミノ酸類の物質量以上であるとN-アシルアミン類には未反応の脂肪酸が残存してしまう。N-アシルアミン類が汎用されるシャンプー等の水系ベースのトイレタリーや、クレンジング乳液のような水中油型の化粧料等の製品へ利用する上では、残存脂肪酸は非水溶性であるがゆえに、製剤化の直後乃至、製剤化後の時間経過とともに結晶として析出し、最終製剤の外観を悪化させるだけではなく、乳化破壊などの製品品質にも大きく影響を及ぼす。すなわち、前記脂肪酸の物質量が前記アミノ酸類の物質量以上であった場合、残存する脂肪酸を除去する工程が必須となる。脂肪酸の除去には、高温高真空による蒸留除去が汎用されるが、該操作時の加熱によりN-アシルアミン類の着色や分解などの可能性を含む。
【0038】
一方、前記脂肪酸の物質量が前記アミノ酸類の物質量よりも小さい(すなわち、前記アミノ酸類の物質量が前記脂肪酸の物質量よりも大きい)場合、本発明の製造方法によれば、N-アシルアミン類の着色を抑制できると共に、上述した未反応の脂肪酸の残存を回避できる。すなわち、N-アシルアミン類を化粧料等の製品に利用する上で、残存する脂肪酸を除去する工程が不要となる。なお、本発明の方法により製造されたN-アシルアミン類には未反応のアミノ酸類が残存するが、これらのアミノ酸は水溶性であるため、N-アシルアミン類を前述のトイレタリーや化粧料等の製品に利用する上では必ずしも残存するアミノ酸類を除去しなくてもよい。したがって、本発明の方法によりN-アシルアミン類を製造することにより、脱色、脂肪酸除去などの工程を設けることなく、少ない工程数で、N-アシルアミン類を用いた化粧料等の製品を製造することができる。
【0039】
前記混合物は、前記アミノ酸類および前記脂肪酸を前記の割合で混合することにより調製される。
本発明の製造方法によれば、前記混合物に触媒等の成分を配合することなく、着色が抑制されたN-アシルアミノ酸類を製造することができる。前記混合物には、通常、原料である前記アミノ酸類および前記脂肪酸以外の成分、たとえば触媒等は添加されない。
【0040】
(アシル化工程)
従来、N-アシルアミノ酸類の製造方法として、アミノ酸類を、前記アミノ酸類および脂肪酸を含む混合物を活性化させてアシル化させる工程(以下「アシル化工程」とも記載する。)を含む、N-アシルアミノ酸類の製造方法が知られている。本発明の製造方法は、このアシル化工程を、アミノ酸類にマイクロ波を照射しながら前記アミノ酸類に脂肪酸を接触させることにより、たとえばアミノ酸類および脂肪酸を含み、前記アミノ酸類の物質量が前記脂肪酸の物質量よりも大きい混合物にマイクロ波を照射することにより実施することを特徴としている。
【0041】
照射されるマイクロ波の周波数は、たとえば300MHz~20GHzの範囲内の周波数であってもよく、あるいは434MHz、915MHz、2.45GHz、5.8GHz、10GHz、または24GHzであってもよい。
【0042】
前記アシル化工程が実施される温度(以下「反応温度」とも記載する。)は、たとえば、反応系の温度を測定しつつ、測定された温度に基づいてマイクロ波の出力を調整することにより反応を制御することができる。
【0043】
ここで、反応温度とは、混合物全体としての温度である。上述のように、実際にはアミノ酸類と脂肪酸とは著しくマイクロ波の吸収能が異なることから、成分毎にその活性化状態は異なり、温度も異なる。しかしながら、成分毎に温度測定は困難であることから混合物全体としての温度をもって制御することとなる。
【0044】
なお、反応温度は、N-アシルアミノ酸類の分解温度未満の範囲内でアミノ酸類および脂肪酸の種類によって適宜設定されるが、たとえば、実用的な反応速度を確保するとともにN-アシルアミノ酸類の着色を抑制する観点から、たとえば200~250℃、好ましくは210~230℃である。反応温度は、熱電対等により侵襲的に測定されてもよく、赤外線等により非侵襲的に測定されてもよい。
【0045】
アミノ酸類および脂肪酸を含む混合物を前記反応温度まで昇温させる方法としては、好ましくは、脂肪酸を任意の方法で融解させ、アミノ酸類と融解した脂肪酸とを混合し、得られた混合物にマイクロ波を照射する方法が挙げられる。
【0046】
前記アシル化工程が実施される時間、すなわち、反応系の温度が所望の反応温度まで昇温してから、マイクロ波の照射を終了するまでの時間は、適宜設定され、たとえば0.1~3時間である。
【0047】
前記アミノ酸類は、水溶液として供されても、乾燥粉末として供されてもよく、好ましくは、乾燥粉末、あるいは水分を十分に除かれた形態として供される。
前記アシル化工程が実施される雰囲気は、N-アシルアミノ酸類の着色を抑制する観点から、好ましくは不活性ガス(たとえば、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス)雰囲気であり、好ましくは窒素ガス雰囲気である。不活性ガスは、前記アシル化工程が実施される反応器のヘッドスペースに供給されてもよく、前記混合物内に直接供給されてもよい。
【0048】
前記アシル化工程では、好ましくは、前記混合物は攪拌される。
前記アシル化工程で製造されたN-アシルアミン類は、さらに従来公知の方法等で精製しても良い。
【0049】
本発明の製造方法によって着色が抑制されたN-アシルアミン類を製造できる理由は、以下のように推察される。
上述のとおり、本発明の製造方法で使用される原料の一つである前記アミノ酸類の誘電損率は大きく、もう一つの原料である前記脂肪酸の誘電損率は小さい。一方で、アミノ酸類の活性化温度は、脂肪酸のそれよりも大きい。
【0050】
本発明の製造方法において、原料は、好ましくは、適切に水分が除かれた形態で反応系に供給される。水分を含む混合物の撹拌効率は悪い。
粉末または高粘度状態を経由する反応中間体を、従来の加熱法により昇温する場合には、ヒーター、内部熱媒コイル、スチームジャケットのような加熱源近傍に位置する成分が局所的に加熱されやすい状況が生じることとなる。粉末または高粘度液体の従来法により加熱においては、これらの物質と伝熱面との接触時間が相対的に長くなる。そのため、反応中間体の一部または全部が変質して着色してしまう問題が生じる。
【0051】
しかしながら、マイクロ波照射によれば、従来の加熱法に見られるような伝熱面との接触に依存しない、反応器内部の加熱が可能である。なぜなら、マイクロ波は、マイクロ波吸収性の成分(分子)へ直接エネルギーを伝達し、当該分子の振動の結果、前記成分を加熱することができるからである。そのため、本発明においても、マイクロ波吸収性のアミノ酸類は、反応器内におけるその位置にかかわらずエネルギーを得ることができ、その結果として、選択的(すなわち、原料であるアミノ酸類および脂肪酸のうちアミノ酸類を選択し)かつ均一な加熱が達成される。したがって、マイクロ波照射を用いる場合には、通常加熱に見られるような積極的な撹拌も不要になりうる。
【0052】
本発明における前記アシル化反応において、マイクロ波吸収性の成分は、アミノ酸類およびN―アシルアミノ酸類である。マイクロ波照射により、これら成分の均一、内部加熱を達成することにより、着色を抑制できる。
【0053】
(N-アシルアミン類の用途等)
本発明の製造方法によれば、着色が抑制されたN-アシルアミン類を製造することができる。本発明の製造方法は、原料であるアミノ酸類および脂肪酸以外の成分、たとえば触媒等を添加することなくN-アシルアミン類を製造することができるので、好ましくない残留成分を含まず、かつ着色の殆どないN-アシルアミン類を簡単な工程で製造することができる。このようにして製造されたN-アシルアミン類は、化粧品、シャンプー等のトイレタリー製品に多量に配合される際、それらの最終製品形態において製剤の着色を低減するという観点からも加工性に優れる。また、医薬部外品に配合される際には、残留成分の身体への影響懸念もないことから特に有用である。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例等によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
[原料等のマイクロ波吸収特性]
(アミノ酸類ナトリウム塩の複素誘電率測定)
N-メチルタウリンナトリウムを20質量%の濃度となるように水に溶解させた。得られた水溶液を、液体複素誘電率測定用プローブで、周波数0.2GHzから20GHzの条件における複素誘電率を測定した。測定結果(誘電損率ε”-周波数曲線)を
図1に示す。N-メチルタウリンナトリウムによるマイクロ波吸収は、測定範囲の周波数において極めて高いことが判明した。また、ブランクである水の誘電損率ε”-周波数曲線を
図3に示す。
【0056】
(脂肪酸の複素誘電率測定)
ラウリン酸を50℃に加熱し融解させ、液体複素誘電率測定用プローブで、0.2GHzから20GHzの条件における複素誘電率を測定した。測定結果(誘電損率ε”-周波数曲線)を
図2に示す。ラウリン酸によるマイクロ波吸収は、測定範囲の周波数において極めて低いことが判明した。
【0057】
(N-アシル-N-メチルタウリンナトリウムの複素誘電率測定)
N-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウムを20質量%の濃度となるように水に溶解させた。得られた水溶液を、液体複素誘電率測定用プローブで、0.2GHzから20GHzの条件における複素誘電率を測定した。測定結果(誘電損率ε”-周波数曲線)を
図4に示す。N-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウムによるマイクロ波吸収は、測定範囲の周波数において極めて高いことが判明した。
【0058】
[実施例1]
(マイクロ波加熱によるN-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウムの合成)
N-メチルタウリンナトリウム粉末22.3g、および60℃に加熱して融解させたラウリン酸25.0gを、100mL容のガラス製三口フラスコへ加えた。フラスコに還流管を接続し、フラスコ内に乾燥窒素ガスを供給しながら、フラスコの内容物に対して、マイクロ波反応装置(μReactorEX、四国計測工業(株)製)を使用して周波数2.45GHzのマイクロ波を照射することにより、内容物を加熱した。フラスコの内部温度が230℃に到達した時点から撹拌を開始し、内部温度を230℃に60分間維持した後、マイクロ波照射を停止した。なお、内部温度は、熱電対で測定し、測定温度に応じてマイクロ波出力を制御することにより、230℃に維持した。
【0059】
得られた反応生成物(目的物を含む混合物)の一部を回収し、10質量%の濃度となるように水に溶解させ、目的物(N-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウム)の含有率を定量した。定量は、蒸発光散乱検出器およびUV検出器を備えた高速液体クロマトグラフィー((株)島津製作所製)により行った。含有率は72.3質量%であった。
【0060】
得られた反応生成物(目的物を含む混合物)の一部を回収し、10質量%の濃度となるように水に溶解させ、L*a*b表色系に基づき水溶液の色調を定量した。定量は、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、V-750)により行った。結果を
図5に示す。
【0061】
[比較例1]
(伝熱によるN-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウムの合成)
N-メチルタウリンナトリウム22.3g、および60℃に加熱して融解させたラウリン酸25.0gを、100mL容のガラス製三口フラスコへ加えた。フラスコに還流管を接続し、フラスコ内に乾燥窒素ガスを供給しながら、アルミブロックヒーターにてフラスコの内部温度が230℃になるまで加熱した。フラスコの内部温度が230℃に到達した時点から撹拌を開始し、内部温度を230℃に60分間維持した後、加熱を停止した。なお、内部温度は、熱電対で測定し、測定温度に応じてヒーターの出力を制御することにより、230℃に維持した。
【0062】
得られた反応生成物(目的物を含む混合物)の一部を回収し、10質量%の濃度となるように水に溶解させ、目的物(N-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウム)の含有率を実施例1と同様に定量した。含有率は77.5質量%であった。
【0063】
得られた反応生成物(目的物を含む混合物)の一部を回収し、10質量%の濃度となるように水に溶解させ、実施例1と同様にL*a*b表色系に基づき水溶液の色調を定量した。結果を
図5に示す。
【0064】
マイクロ波照射により加熱を行った実施例1では、ヒーターにより加熱を行った比較例1と比べて、製造されたN-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウムの色調定量において、L*-a*面、L*-b*面いずれにおいても明度L*の値が高く、着色が抑制されていることがわかった。