IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社テクノソルバの特許一覧

<>
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図1
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図2
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図3
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図4
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図5
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図6
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図7
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図8
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図9
  • 特開-展開構造物およびヒンジ構造 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000964
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】展開構造物およびヒンジ構造
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/04 20060101AFI20231226BHJP
   F16C 11/10 20060101ALI20231226BHJP
   B64G 1/22 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
F16C11/04 F
F16C11/10 C
B64G1/22 100C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068407
(22)【出願日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2022099403
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】512308340
【氏名又は名称】株式会社テクノソルバ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和行
(72)【発明者】
【氏名】中村 信子
【テーマコード(参考)】
3J105
【Fターム(参考)】
3J105AA04
3J105AA05
3J105AB02
3J105AB08
3J105AB24
3J105AC01
3J105AC07
3J105BC02
3J105BC25
3J105DA15
3J105DA22
(57)【要約】
【課題】パネル間の隙間を小さくするにあたり、パネルの外周における設計上の制約が少ないヒンジ構造および展開構造物を提供する。
【解決手段】ヒンジ部130の第一部材132および第二部材134は回転軸138を介して互いに回転可能に接続されている。第一部材132は第一支持部132aを有する。第一部材132は第一構造体111の端縁部110cに対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、第二部材134は第二構造体112の端縁部110cに対して接続されている。第一付勢部材136は第一支持部132aと第一構造体111との間に配置されている。折畳状態から展開状態に遷移すると第一付勢部材136が第一構造体111を第二構造体112に向けて摺動方向に付勢して移動させ、ヒンジ部130の少なくとも一部が第一構造体111の外部から内部に没入する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一構造体と、第二構造体と、前記第一構造体と前記第二構造体とを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させるヒンジ部と、を有し、前記展開状態において前記第一構造体と前記第二構造体とは端縁部同士を対向させて互いに横並びに配置される展開構造物であって、
前記ヒンジ部は、回転軸を介して互いに回転可能に接続された第一部材および第二部材と、付勢部材と、を有し、
前記第一部材は支持部を有するとともに前記第一構造体の前記端縁部に対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、前記第二部材は前記第二構造体の前記端縁部に対して接続されており、
前記付勢部材は前記支持部と前記第一構造体との間に配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記付勢部材が前記第一構造体を前記第二構造体に向けて前記摺動方向に付勢して移動させ、前記ヒンジ部の少なくとも一部が前記第一構造体の外部から内部に没入することを特徴とする展開構造物。
【請求項2】
前記第一構造体および前記第二構造体は、それぞれ主面および側端面を有する板状をなし、
前記展開状態において前記第一構造体と前記第二構造体とは前記端縁部に位置する前記側端面である対向側端面同士を対向させて互いに横並びに配置され、
前記第一部材は前記第一構造体の前記対向側端面に接続され、前記第二部材は前記第二構造体の前記対向側端面に接続されている請求項1に記載の展開構造物。
【請求項3】
前記折畳状態において前記回転軸は前記第一構造体の前記対向側端面よりも外部に突出しており、前記展開状態において前記回転軸は前記第一構造体の前記対向側端面よりも前記第一構造体の内部に没入することを特徴とする請求項2に記載の展開構造物。
【請求項4】
前記第一構造体は、前記第一部材を所定の摺動方向に摺動可能に収容する収容凹部を有し、
前記折畳状態では前記第二部材が前記摺動方向に対して交差して配置され、
前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記第二部材が前記第一部材に対して前記回転軸まわりに回転して前記第二部材と前記第一部材とが直線上に並び、前記第二部材の少なくとも一部および前記回転軸が前記収容凹部の内部に収容される請求項3に記載の展開構造物。
【請求項5】
前記第一構造体は、前記収容凹部に滑らかに連なる摺動面を有し、
前記第二部材が前記摺動面に摺接しながら前記折畳状態から前記展開状態に遷移する請求項4に記載の展開構造物。
【請求項6】
前記第一部材と前記第二部材とが前記折畳状態から前記展開状態に遷移するように前記展開構造物に付勢力を与える支援付勢部材を更に有する請求項5に記載の展開構造物。
【請求項7】
前記第二部材は、第二の回転軸と、前記第二の回転軸を介して互いに回転可能に接続されたリンク部材および軸部材と、を有し、
前記リンク部材は、前記回転軸および前記第二の回転軸を両端とする一または複数の部材であり、
前記軸部材は、第二の支持部を有するとともに前記第二構造体に対して摺動可能に接続され、
前記第二の支持部と前記第二構造体との間に第二の付勢部材が配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記第二の付勢部材が前記第二構造体を前記第一構造体に向けて付勢して移動させ、前記ヒンジ部の一部が前記第二構造体の外部から内部に没入することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の展開構造物。
【請求項8】
複数の前記第一構造体および複数の前記ヒンジ部を有し、
複数の前記第一構造体および前記第二構造体は、それぞれ主面および側端面を有する板状をなし、
前記展開状態において、複数の前記第一構造体および前記第二構造体は、前記第二構造体の異なる前記側端面に対して複数の前記第一構造体の前記側端面をそれぞれ対向させて互いに横並びに配置され、
複数の前記第一構造体の前記側端面と、前記第二構造体の前記側端面と、がそれぞれ前記ヒンジ部によって接続されており、
前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると、複数の前記第一構造体と前記第二構造体とが前記付勢部材および前記第二の付勢部材により互いに向けて付勢されて移動し、複数の前記ヒンジ部におけるそれぞれ少なくとも一部が複数の前記第一構造体の外部から内部に没入する請求項7に記載の展開構造物。
【請求項9】
第一ブラケットと、第二ブラケットと、前記第一ブラケットと前記第二ブラケットとを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させるヒンジ部と、を有し、
前記ヒンジ部は、回転軸を介して互いに回転可能に接続された第一部材および第二部材と、付勢部材と、を有し、
前記第一部材は支持部を有するとともに前記第一ブラケットに対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、前記第二部材は前記第二ブラケットに対して接続されており、
前記付勢部材は前記支持部と前記第一ブラケットとの間に配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記付勢部材が前記第一ブラケットを前記第二ブラケットに向けて前記摺動方向に付勢して移動させ、前記ヒンジ部の少なくとも一部が前記第一ブラケットの外部から内部に没入することを特徴とするヒンジ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、展開動作により折畳状態から展開状態に遷移する展開構造物、およびかかる展開構造物に備わるヒンジ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
略平面部分を有する物品は、略平面部分に切れ目がなく凹凸部のないことが一般的に望ましい。一方で、物品の収納空間は限られていることがある。当該略平面部分を含む物品は、当該物品を人によって持ち運ぶ、または輸送機によって移動させる際には所定の方向から見た面積が小さくなるよう折り畳んでおき、使用時には大きく展開して使用することができるような展開構造物として提供されている。略平面部分を有し、展開構造物として提供される物品の例として、ゲーム機器または携帯電話等の電子機器および宇宙機に搭載される太陽電池パドルまたは展開アンテナ等が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、展開構造物の例として太陽電池パドルが開示されている。この太陽電池パドルでは、複数枚の板状の太陽電池板(1)が互いに展開ヒンジ(4)で連結されている。また、太陽電池パドルの収納時には2つの太陽電池板の面が平行となるよう折り畳まれている。具体的には、特許文献1の図1~3に示されるように複数のヒンジ(4)を交互に山折および谷折していくことで太陽電池パドルがアコーディオン型(W字型)に折り畳まれる。または、特許文献1の図4~6に示されるように両端に隣接する太陽電池板(1a、1b)が同じ方向に折り畳まれることで、太陽電池パドル(1)が渦巻状に折り畳まれ、複数枚(同図では三枚)の太陽電池板(1)を厚みのある一枚分の包絡体積とすることができる。この折畳状態から、それぞれの太陽電池板(1)の側端面に固定された複数の展開ヒンジ(4)が順番に回動することで、太陽電池板(1)が平面上に並ぶ展開状態に遷移する。
【0004】
特許文献2には、展開構造物の例として折畳み式携帯端末が開示されている。この折畳み式携帯端末においては表示モジュール(11,12)を収容した2つの筐体(3,5)が、筐体側面に取り付けられたヒンジ部(6)で連結されており、2つの筐体が対向するように折畳み式携帯端末を折り畳むことができる。また、特許文献2の図13に示すように、表示モジュール(11,12)と筐体(3,5)との間には板バネ(27)が配置される。展開状態において、板バネによって2枚の表示モジュール同士が外側から内向きに付勢されることで、2枚の表示モジュールが当接する。
特許文献3については後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-147298号公報
【特許文献2】特開2011-119830号公報
【特許文献3】特開平7-187089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、平面を分割したパネルをヒンジで連結することで、略平面部分を折畳み可能にすることが一般的である。特許文献1の展開構造物では、展開状態において太陽電池板(1)の間に回転軸等の展開ヒンジ(4)が配置されることで太陽電池板(1)間に隙間が生じ、略平面部分の連続性が損なわれる。
分割されたうえで折り畳まれるパネルの例としては、携帯電話またはゲーム機器等の電子機器の画面、合成開口レーダのアンテナ、または太陽電池パドルの太陽電池板等があげられる。パネル間に隙間が生じると、電子機器の画面において表示される画像は分断され、合成開口レーダのアンテナにおいてはマイクロ波を受信できない部位が生じ、太陽電池パドルにおいては発電できない部位が生じる。このため、略平面部分は展開状態において極力隙間のない状態で提供されることが好ましい。
【0007】
特許文献2の携帯端末においては、展開状態で板バネの付勢力によりパネルである表示モジュール(11,12)同士を隙間なく当接させることができる。しかしながら、表示モジュール(11,12)の外周に板バネを支持するための筐体(3,5)を配置することが必要となるため、表示モジュールの外周における設計が制限される。例えば、二枚の表示モジュールに加えてさらに一枚の表示モジュールを連結させて三枚のパネルからなる構造とする場合、筐体があるために二枚の表示モジュールにおいて新たな表示モジュールを連結できる辺が制限される。また、特許文献2の携帯端末においては小型化またはデザインのために筐体を取り外すことはできない。三枚以上のパネルが直線的に連結するよう合成開口レーダおよび太陽電池パドルが設計されることは一般的であり、当該三枚以上のパネルすべてが互いに隙間なく連結されることが好ましい。しかし特許文献2のようにパネル(表示モジュール(11,12))を連結する方法では、板バネの付勢力によって二枚のパネルを隙間なく連結することはできても、三枚目のパネルを直線的にかつ隙間なく連結することは難しい。横並びの二枚のパネルに更に第三のパネルを連結しようとした場合、第一のパネルの一方側の側端面には第二のパネルが連結され、かつ、他方側の側端面には筐体が設けられているため、ここに第三のパネルを隙間なく連結することはできないからである。また、電子機器はデザインの観点からベゼルを小さくすることが要されることがあり、合成開口レーダ、太陽電池パドル、電子機器等の物品においては小型化が要されることが多い。このため、表示モジュールを取り囲む筐体などの小型化を阻む設計上の制約を受けない展開構造物またはヒンジ構造が強く望まれている。
【0008】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、パネル間の隙間を小さくするにあたり、パネルの外周における設計上の制約が少ないヒンジ構造、およびそのように平面を展開する展開構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、第一構造体と、第二構造体と、前記第一構造体と前記第二構造体とを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させるヒンジ部と、を有し、前記展開状態において前記第一構造体と前記第二構造体とは端縁部同士を対向させて互いに横並びに配置される展開構造物であって、前記ヒンジ部は、回転軸を介して互いに回転可能に接続された第一部材および第二部材と、付勢部材と、を有し、前記第一部材は支持部を有するとともに前記第一構造体の前記端縁部に対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、前記第二部材は前記第二構造体の前記端縁部に対して接続されており、前記付勢部材は前記支持部と前記第一構造体との間に配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記付勢部材が前記第一構造体を前記第二構造体に向けて前記摺動方向に付勢して移動させ、前記ヒンジ部の少なくとも一部が前記第一構造体の外部から内部に没入することを特徴とする展開構造物が提供される。
【0010】
本発明によれば、第一ブラケットと、第二ブラケットと、前記第一ブラケットと前記第二ブラケットとを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させるヒンジ部と、を有し、前記ヒンジ部は、回転軸を介して互いに回転可能に接続された第一部材および第二部材と、付勢部材と、を有し、前記第一部材は支持部を有するとともに前記第一ブラケットに対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、前記第二部材は前記第二ブラケットに対して接続されており、前記付勢部材は前記支持部と前記第一ブラケットとの間に配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記付勢部材が前記第一ブラケットを前記第二ブラケットに向けて前記摺動方向に付勢して移動させ、前記ヒンジ部の少なくとも一部が前記第一ブラケットの外部から内部に没入することを特徴とするヒンジ構造が提供される。
【0011】
上記発明の展開構造物が折畳状態から展開状態に遷移すると、第一構造体が第二構造体に互いに近づく方向に摺動し、第一構造体と第二構造体との間に配置されるヒンジ部の少なくとも一部が第一構造体の内部に没入する。これにより第一構造体と第二構造体との間に生じる隙間を小さくすることができる。また、第一構造体と第二構造体とは展開状態において互いに近接する端縁部にてヒンジ部を介して接続されている。これにより、第一構造体および第二構造体の外周にヒンジ部が突出せず、展開構造物の周囲における設計上の制約を減らすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の展開構造物およびヒンジ構造によればパネル間の隙間を小さくしつつ、構造体(第一構造体または第二構造体)の外周への設計上の制約を最小限とできる。例えば、構造体にさらに一枚のパネルを直線的に接続することができる他、展開構造物を用いた物品を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は第一実施形態にかかる折畳状態における展開構造物の斜視図である。(b)は(a)におけるヒンジ構造の幅中心で切断した断面図である。
図2】(a)は第一実施形態にかかる展開動作中の展開構造物の斜視図である。(b)は(a)におけるヒンジ構造の幅中心で切断した断面図である。
図3】(a)は第一実施形態にかかる展開状態における展開構造物の斜視図である。(b)は(a)におけるヒンジ構造の幅中心で切断した断面図である。
図4】(a)は第二実施形態にかかる折畳状態における展開構造物の斜視図である。(b)は(a)におけるヒンジ構造の幅中心で切断した断面図である。
図5】(a)は第二実施形態にかかる展開動作中の展開構造物の斜視図である。(b)は(a)におけるヒンジ構造の幅中心で切断した断面図である。
図6】(a)は第二実施形態にかかる展開状態における展開構造物の斜視図である。(b)は(a)におけるヒンジ構造の幅中心で切断した断面図である。
図7】(a)は第三実施形態にかかる折畳状態における展開構造物の斜視図である。(b)は(a)の領域Xの拡大図である。
図8】(a)は第三実施形態にかかる展開動作中の展開構造物の斜視図である。(b)は(a)の領域Xの拡大図である。
図9】第三実施形態にかかる展開状態における展開構造物の斜視図である。
図10】(a)は変形例にかかる折畳状態における展開構造物の模式図であり、(b)は変形例にかかる展開状態における展開構造物の展開状態における模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
また、以下の説明では展開構造物100を太陽電池パドルとして説明するが、本発明はこれに限定されない。上述したように、折畳み式携帯電話またはゲーム機器等の電子機器、その他の物品にも本発明を適用することができる。
【0015】
<第一実施形態>
図1(a)、図1(b)、図2(a)、図2(b)、図3(a)および図3(b)は本発明の第一実施形態の展開構造物100の展開シーケンスの原理を説明する模式図である。具体的には、図1(a)および図1(b)は本実施形態の展開構造物100の折畳状態の説明図である。図2(a)および図2(b)は展開動作中の展開構造物100の説明図である。図3(a)および図3(b)は展開構造物100の展開状態の説明図である。図1(a)、図2(a)、図2(b)および図3(a)において、第一パネル111aおよび第二パネル112aは図示を省略している。
本実施形態では、第一構造体111、第一部材132および第一付勢部材136においてリンク部材134a側を「前端側」と記し、その反対側、具体的には第一支持部132a側を「後端側」と記す。例えば図1(b)において構造体110、第一部材132および第一付勢部材136の前端側とは図面上の左側であり、後端側とは図面上の右側である。図3(b)において第一構造体111、第一部材132および第一付勢部材136の前端側は図面上の左側であり、後端側は図面上の右側であるが、第二構造体112の前端側は図面上の右側であり、後端側は図面上の左側である。また、第一構造体111および第二構造体112において、折畳状態で第一構造体111と第二構造体112とが向かい合った場合の互いに対向する側を「内方側」、その反対側を「外方側」と記す。例えば図1(b)において、第一構造体111にとって内方側とは図面上の上側であり、外方側は図面上の下側である。また、第二構造体112にとって内方側とは図面上の下側であり、外方側とは図面上の上側である。
本実施形態で幅方向とは、展開構造物100を前後端方向に見たときにパネルの主面が延在する方向であり、図1(b)における紙面奥行き方向である。また、展開構造物100を前後端方向に見たとき幅方向と直交する方向を厚み方向と呼ぶ。すなわち、図1(b)に示す折畳状態において、第一構造体111と第二構造体112とは厚み方向に隣接している。ヒンジ構造10における幅方向および厚み方向も同様であり、折畳状態で第一ブラケット111bと第二ブラケット112bとが対向する方向を厚み方向と呼び、前後端方向および厚み方向に対して共に直交する方向を幅方向と呼ぶ。
【0016】
はじめに、本実施形態の概要を説明する。
本実施形態の展開構造物100は、第一構造体111、第二構造体112およびヒンジ部130を有する。ヒンジ部130は、第一構造体111と第二構造体112とを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させる。展開状態において第一構造体111と第二構造体112とは端縁部110c同士を対向させて互いに横並びに配置されている。ヒンジ部130は第一部材132、第二部材134および第一付勢部材136を有する。第一部材132および第二部材134は回転軸138を介して互いに回転可能に接続されている。第一部材132は、第一支持部132aを有する。第一部材132は第一構造体111の端縁部110cに対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、第二部材134は第二構造体112の端縁部110cに対して接続されている。具体的には、第一部材132は当該第一部材132の延在方向に摺動する。第一付勢部材136は第一支持部132aと第一構造体111との間に配置されている。折畳状態から展開状態に遷移すると第一付勢部材136が第一構造体111を第二構造体112に向けて摺動方向に付勢して移動させ、ヒンジ部130の少なくとも一部が第一構造体111の外部から内部に没入する。
【0017】
ヒンジ構造10は、第一パネル111aおよび第二パネル112aとともに用いられて展開構造物100を構成する。本実施形態のヒンジ構造10は、第一ブラケット111bと、第二ブラケット112bと、ヒンジ部130とを有する。ヒンジ部130は第一ブラケット111bと第二ブラケット112bとを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させる。ヒンジ部130は第一部材132と、第二部材134と、第一付勢部材136を有する。第一部材132および第二部材134は回転軸138を介して互いに回転可能に接続されている。第一部材132は第一支持部132aを有する。第一部材132は第一ブラケット111bに対して所定の摺動方向に摺動可能に接続されている。具体的には、第一部材132は当該第一部材132の延在方向に摺動する。第二部材134は第二ブラケット112bに対して接続されている。第一付勢部材136は第一支持部132aと第一ブラケット111bとの間に配置されている。折畳状態から展開状態に遷移すると第一付勢部材136が第一ブラケット111bを第二ブラケット112bに向けて摺動方向に付勢して移動させ、ヒンジ部130の少なくとも一部が第一ブラケット111bの外部から内部に没入する。
【0018】
次に本実施形態の展開構造物100およびヒンジ構造10について詳細に説明する。
展開構造物100は、人が持ち運ぶ状態あるいは輸送機で輸送されるときにおいては所定の方向から見た当該展開構造物100の面積が小さい状態をとる。また、使用するときには当該展開構造物100の少なくとも一部が展開動作をすることによって所定の方向から見た当該展開構造物100の面積が持ち運び状態または輸送状態より大きくなるように展開構造物100は展開する。本実施形態の展開構造物100は二つの構造体110(第一構造体111、第二構造体112)と構造体110同士を連結させるヒンジ部130を備える。展開動作前の所定の方向から見た面積が小さい状態を折畳状態といい、展開動作後に上記所定の方向から見た面積が折畳状態よりも大きい状態を展開状態という。ただし、後述するように展開構造物100は三つ以上の構造体110を二つ以上のヒンジ部130で連結したものでもよい。
なお、展開構造物100が折畳状態にあるときの各部材の状態および部材同士の相対的な位置関係を、当該部材の折畳状態または当該部材同士の折畳状態と呼称する。同様に、展開構造物100が展開状態にあるときの各部材の状態および部材同士の相対的な位置関係を、当該部材の展開状態または当該部材同士の展開状態と呼称する。例えば、第一部材132と第二部材134とが折畳状態であるとは、図1(b)のように第一部材132とリンク部材134a(第二部材134)とが回転軸138を中心になす角度が略90度であることをいう。また第一部材132と第二部材134が展開状態であるとは、図3(b)のように第一部材132とリンク部材134a(第二部材134)とが回転軸138を中心になす角度が略180度であることをいう。
【0019】
構造体110はヒンジ部130によって回動する物体である。展開構造物100は構造体110として第一構造体111と第二構造体112とを備える。第一構造体111は第一パネル111aおよび第一ブラケット111bを備え、第二構造体112は第二パネル112aおよび第二ブラケット112bを備える。すなわち、構造体110は、ヒンジ構造10の一部(第一ブラケット111bおよび第二ブラケット112b)と、ヒンジ構造10以外の部材(第一パネル111aおよび第二パネル112a)とで構成されている。
第一ブラケット111bおよび第二ブラケット112bは、構造体110(第一構造体111および第二構造体112)における第一部材132または第二部材134が接続する部品または部位である。第一パネル111aおよび第二パネル112aは平面を有する板状の部材である。展開構造物100が太陽電池パドルである場合、第一パネル111aおよび第二パネル112aはハニカムパネル等で構成された基板に太陽電池セルを積層した太陽電池パネルである。展開構造物100がアンテナ反射器または光学反射器などの送信または受信用のリフレクター、あるいは光シールドまたは熱シールドなどのシールドである場合、第一パネル111aおよび第二パネル112aは反射板である。
第一ブラケット111bおよび第二ブラケット112bは第一パネル111aまたは第二パネル112aの側端面110bに埋込まれるか、または連結される等して固定される。第一ブラケット111bと第一パネル111a、および第二ブラケット112bと第二パネル112aはそれぞれ別部材であってもよい。または、第一ブラケット111bと第一パネル111a、および第二ブラケット112bと第二パネル112aとを一体の一つの部材として第一構造体111および第二構造体112を構成してもよい。
ヒンジ構造10はヒンジ部130、第一ブラケット111bおよび第二ブラケット112bを備え、第一パネル111aおよび第二パネル112aを回動可能に連結している。本実施形態における展開構造物100は、第一パネル111aおよび第二パネル112aをヒンジ構造10で連結させたものである。
第一ブラケット111bと第二ブラケット112bとがヒンジ部130により回動し、第一構造体111と第二構造体112と、が互いの相対位置を変化させることで、展開構造物100は折畳状態から展開状態に遷移する。
【0020】
ヒンジ部130は第一構造体111と第二構造体112とを回転可能に接続する部品である。すなわち、第一構造体111と第二構造体112とはヒンジ部130によって分離せずにつながった状態になっている。ヒンジ部130は第一部材132、第二部材134および第一付勢部材136を備える。第一部材132および第二部材134は回転軸138を中心として互いに回動可能となる部材であり、それぞれ一の部材または複数の部材の組み合わせにより構成されている。第一部材132は第一構造体111と接続され、第二部材134は第二構造体112と接続されている。第一部材132は第一構造体111の端縁部110cに挿通されており、第一部材132は第一構造体111の内部を第一部材132の延在方向に摺動する。ここで端縁部110cとは、構造体110の側端面110bの近傍の主面110aまたは当該側端面110bをいう。
ここで主面110aとは、展開状態の展開構造物100において略平面を構成する構造体110の面であり、側端面110bとは、構造体110の表裏の主面110aの周縁同士を繋ぐ端面である。側端面110bは物理的な面であることを要さない。例えば、構造体110を構成する第一パネル111aがハニカムパネル等の中空体である場合、側端面110bは表裏の主面110aの周縁同士を繋ぐ仮想面でもよい。なお、主面110aおよび側端面110bなどの「面」とは幾何学的に完全な面であることを要さず、局所的な凹凸または欠損を含んでもよい。第一パネル111aに第一ブラケット111bが埋込まれており、かつ第一ブラケット111bの一部が第一パネル111aの端面より突出している場合、第一パネル111aの端面より突出した第一ブラケット111bの一部は、第一パネル111aの端面とともに第一構造体111の側端面110bを構成する。
【0021】
第一部材132は支持部(第一支持部132a)を有する。後述する第二実施形態において展開構造物100は支持部として第一支持部132aと第二支持部134dを有するが、本実施形態において展開構造物100は第一支持部132aのみを有する。第一支持部132aは第一付勢部材136に当接して第一付勢部材136の付勢力を第一部材132の全体に与えるための部位である。本実施形態において第一支持部132aは第一部材132の軸部分(第一軸部132b)の端部をフランジ状に形成した部位である。第一部材132は第一軸部132bを有する長尺物である。第一部材132の延在方向とは、第一部材132の長尺方向をいう。
付勢部材は、展開状態において第一構造体111または第二構造体112を前端側に付勢する部材である。後述する第二実施形態における展開構造物100は付勢部材として第一付勢部材136と第二付勢部材137とを有する。本実施形態にかかる展開構造物100は第一付勢部材136のみを備えている。本実施形態では、第一付勢部材136はコイルばねである。コイルばねの内部には第一部材132が挿通されている。第一付勢部材136は、一本のコイルばねで構成されてもよく、または複数本のコイルばねを直列的または並列的に並べて構成されてもよい。折畳状態における第一付勢部材136は第一構造体111と第一支持部132aとの間にあらかじめ圧縮された状態で配置されている。このため、第一付勢部材136は第一構造体111および第一支持部132aに対して第一部材132の延在方向における外向きの付勢力を与えている。
第一部材132は第一支持部132aとは反対側の他端に第一軸受け部132cを有する。第一軸受け部132cは回転軸138によって第二部材134と組み合わされている。
【0022】
なお、本発明は本実施形態の態様に限定されず、種々の変形や改良等の態様も含む。例えば、第一支持部132aは、本実施形態に示すように第一部材132の端部に形成されてもよく、第一部材132の長さ方向の中途部に形成されてもよい。また、本実施形態では第一付勢部材136としてコイルばねが用いられている態様を例示したが、第一付勢部材136として皿ばね等のその他の弾性材が用いられてもよく、弾性力に限らず駆動力を与える機構によるものが用いられてもよい。例えば、第一構造体111に固定されて第一部材132を牽引する機構などが第一付勢部材136として例示される。この場合、第一支持部132aは第一部材132のうち当該機構が連結される部位である。当該機構としては、具体的にはワイヤおよびこのワイヤの牽引手段を備えるワイヤ牽引機構が挙げられる。ワイヤ牽引機構の一例は、ワイヤの一端を第一支持部132aまたは第一構造体111の一方に連結し、他方に牽引手段を設置するとよい。この牽引手段によりワイヤの他端を牽引することで、第一部材132を第一構造体111に対して相対的に後端側に移動させる。具体的な牽引手段としては、予め伸張されたばねの収縮力でワイヤの他端を牽引するものや、モーターの回転力によりワイヤの他端を巻き取るものなどを挙げることができる。
本実施形態では第一部材132の軸方向に見たときに、第一付勢部材136の押圧面を包含する形状および寸法を、第一構造体111および第一支持部132aは有している。すなわち、第一付勢部材136としてコイルばねを用いる場合、コイルばねの一方側(図1(b)における右側)の端面の全面がフランジ状の第一支持部132aに接している。第一支持部132aはコイルばねの当該端面の全面が接する程度に大きく形成されている。また、コイルばねの反対側(同図の左側)の端面の全面が、第一構造体111において第一部材132が挿通される挿通孔111gの周囲を形成する一部に接する。また、このようにコイルばねの当該端面の全面が第一構造体111における当該一部に接する程度に、当該挿通孔111gは小さく形成されている。このことにより、第一付勢部材136の付勢力を第一支持部132aおよび第一構造体111に効率的に与えることができる。
【0023】
本実施形態では、第二部材134はリンク部材134aを有している。リンク部材134aは回転軸138および第二回転軸134bを両端とする一または複数の部材である。リンク部材134aは第二構造体112の突出部である第二構造体軸受け部112dに対して第二回転軸134bによって回動可能に連結されている。本実施形態ではリンク部材134aおよび第二回転軸134bをあわせて第二部材134と呼称する。
本実施形態に代えて、第二部材134は、回動可能な構造を有しない剛体であってもよい。例えば、後述するように第一構造体111と第二構造体112との展開角度が略90度である状態を折畳状態とする場合、このように第二部材134が構成されてもよい。具体的には、第二部材134は第二支援付勢部材139を有しないでリンク部材134aと第二ブラケット112bとが一体的に剛体として形成されてもよい。換言すると、図1(b)において第二ブラケット112bは第一ブラケット111bに対して起立するように配置され、第二パネル112aは図中の上下方向に延在してもよい。
【0024】
図1(a)および図1(b)に示すように、折畳状態において第一構造体111の主面110aは第二構造体112の主面110aと厚み方向に重なり、略平行となるように配置されている。具体的には、第一構造体111の主面110aに対して外方側を向く法線ベクトルN1と第二構造体112の主面110aに対して外方側を向く法線ベクトルN2と、の為す角が略180度である。ここで法線ベクトルN1と法線ベクトルN2とがなす角の補角を展開角度とする。同図において展開角度は0度である。折畳状態での展開角度は0度に限られず、例えば120度以下とすることができる。また、折畳状態での展開角度は90度以下とすることが好ましい。より好ましくは、折畳状態での展開角度は75度以下である。本実施形態に代えて、折畳状態での展開角度を90度以上180度未満とすることができる。換言すると、折畳状態において、第二パネル112aは第一パネル111aに対して起立状態にあるか、当該起立状態よりも開いた状態であってもよい。第二パネル112aが第一パネル111aに対して起立状態であるとは、例えば折畳状態における展開角度が略90度の状態をいう。折畳状態における展開角度が90度よりやや小さい場合または90度よりやや大きい場合について、第二パネル112aが第一パネル111aに対して起立状態であると言ってもよい。第二パネル112aが第一パネル111aに対して起立した状態または当該起立した状態よりも開いた状態から展開構造物100の展開が開始されてもよい。
展開状態では、展開角度が折畳状態よりも大きい。図3(a)および図3(b)に示す展開状態では、第一構造体111と第二構造体112とが側端面110b同士を隣接させて横並びに配置され、展開角度が180度である状態を図示している。ただし、本発明における展開状態はこれに限られず、展開角度が折畳状態よりも大きければ足る。展開状態における代表的な展開角度は、150度以上210度以下である。
【0025】
つぎに、本実施形態にかかる展開構造物100の折畳状態から展開状態へ遷移する展開動作を説明する。図1(a)および図1(b)に示す折畳状態の展開構造物100において、第一付勢部材136は第一支持部132aおよび第一構造体111に対して第一部材132の延在方向における外向きに付勢している。展開構造物100はこの折畳状態から、ヒンジ部130によって第二構造体112が第一構造体111に対して相対的に回動することで展開していく。具体的には、回転軸138を中心に第一部材132とリンク部材134aとが相対的に回動し、第二回転軸134bを中心にリンク部材134aと第二構造体112とが相対的に回動することで、展開構造物100は展開する。
【0026】
図2(a)および図2(b)は展開構造物100の展開動作中の一例を示し、展開角度が略60度となるまで展開された状態を示している。本実施形態において、回転軸138を中心に第一部材132とリンク部材134aとが回動した角度と、第二回転軸134bを中心にリンク部材134aと第二構造体112とが回動した角度と、の合計が展開構造物100の展開角度となる。すなわち、展開角度が60度である図2(a)および図2(b)では、第一部材132とリンク部材134a、およびリンク部材134aと第二構造体112が折畳状態からそれぞれ30度ずつ回動している。
本実施形態では、展開角度が所定の角度になるために第一部材132とリンク部材134a、およびリンク部材134aと第二構造体112が均等に回動しているが、これに限られない。本発明においては第一部材132とリンク部材134aの回動、およびリンク部材134aと第二構造体112の回動が同期されていなくてもよい。たとえば所定の展開角度になるまで第一部材132とリンク部材134aとは回動せず、リンク部材134aと第二構造体112のみが回動し、その後に第一部材132とリンク部材134aとの回動が開始するなどしてもよい。
【0027】
図3(a)および図3(b)は、第一構造体111と第二構造体112とが横並びに配置され、展開角度が180度となった展開状態の一例を示している。展開構造物100が展開状態になると、第一付勢部材136が第一部材132(特に第一支持部132a)を第一構造体111に対して相対的に後端側へ付勢することで、第一構造体111の内部において第一部材132が後端側へ摺動する。言い換えると、第一付勢部材136は、第一構造体111における第一ブラケット111bを第一部材132およびリンク部材134aに対して前端側へ付勢する。第一部材132が第一構造体111に対して後端側へ摺動することによって、ヒンジ部130の一部が第一構造体111の内部に没入する。これにより、図3(b)に示すように第一パネル111aと第二パネル112aとは、それぞれの端面同士を隙間なく当接させて平面状に展開する。なお、本実施形態に代えて第一パネル111aの端面と第二パネル112aの端面との間には小さな隙間が生じていてもよい。
なお、第一部材132が第一構造体111の内部における摺動を開始するのは、展開構造物100が展開状態に完全に遷移した後でもよく、展開構造物100の展開動作中でもよい。
第一構造体111の内部には、第一ブラケット111bの後端側に隣接して空洞部110jが設けられている。空洞部110jの深さ方向は、第一部材132の摺動方向すなわち第一ブラケット111bの前後端方向である。本実施形態では、空洞部110jにおける第一部材132の延在方向の長さが、第一部材132が折畳状態から展開状態まで遷移する間の摺動距離以上の長さである。具体的には、空洞部110jにおける第一部材132の延在方向の長さはリンク部材134aの長軸方向の長さ以上の長さである。これにより、後端側へ摺動する第一部材132が第一パネル111aの内部構造と干渉することで第一部材132の摺動が阻害されることが防止される。
【0028】
ここで、特許文献1に記載の太陽電池パドルにおいては、展開状態において太陽電池板(1)同士の間に展開ヒンジ(4)が配置されることで太陽電池板(1)の間に隙間が生じ、連続的な平面が得られない。
本実施形態の展開構造物100が折畳状態から展開状態に遷移すると、第一部材132が第一構造体111内部を後端側へ移動し、第一構造体111と第二構造体112との間に配置されたヒンジ部130の一部が第一構造体111内部に没入する。結果、第一構造体111と第二構造体112とが互いに近づく。これにより、第一構造体111と第二構造体112との間に生じる隙間を小さくすることができ、第一構造体111および第二構造体112が形成する平面の連続性を改善することができる。
また、特許文献2に記載された展開構造物(折畳み式携帯端末(1))は、展開構造物の外周に筐体(3,5)を設ける必要があり、展開構造物の外周の設計が制限される。本実施形態では、展開状態で近接する端縁部110cで構造体110同士を接続する。本実施形態の展開構造物100では、第一支持部132aは第一構造体111の内部に配置されており、第一構造体111の側端面110bより外部に突出しない。すなわち、ヒンジ部130は第一構造体111の内部、第二構造体112の内部および第一構造体111と第二構造体112との間にのみ配置され、展開状態における展開構造物100の外周にヒンジ部130が突出しない。このため展開構造物100の外周において設計上の制約を受けず、展開構造物100を小型化できる他、展開動作するさらに他の構造体110または装飾物等を展開構造物100の外周に設けることができる。これにより、第三実施形態で説明するように三枚以上のパネルを隙間なく直線的に連結することができる。
【0029】
第一構造体111および第二構造体112はそれぞれ主面110aおよび側端面110bを有する板状をなす。ここで板状とは幅寸法および奥行寸法に対して厚み寸法が小さいことを言う。第一構造体111および第二構造体112は中実構造である必要はなく中空構造でもよい。例えば第一構造体111および第二構造体112は第一構造体111または第二構造体112の外形を構成する枠のみからなるものでもよい。展開状態において第一構造体111と第二構造体112と、は端縁部に位置する側端面である対向側端面110d同士を対向させて互いに横並びに配置されている。対向側端面110dとは、展開状態において横並びに配置されている第一構造体111および第二構造体112が有する四方の側端面のうち、第一構造体111と第二構造体112とが対向している側の側端面110bのことである。ここで横並びとは、第一構造体111と第二構造体112とが側端面110b同士を近づけて並んで配置されていることである。本実施形態では展開状態で第一パネル111aと第二パネル112aとが互いに鏡面対称に配置されて対向側端面110d同士が平行に配置されるが、これに限られない。そして、第一部材132は第一構造体111の対向側端面110dに接続され、第二部材134は第二構造体112の対向側端面110dに接続されている。
【0030】
ここで特許文献3には、展開構造物100の例として人工衛星に搭載される二次元展開構造物が開示されている。この二次元展開構造物では複数の正方形平面体パネル(6)が時計回りに配置され、ねじりコイルばね(8)が組み込まれたヒンジ(3)が正方形平面体パネル(6)の表面あるいは裏面に取り付けられることによって互いに連結されている。時計回りに並ぶ複数のヒンジ(3)が交互に山折りまたは谷折りしていることで二次元展開構造物は折り畳まれ、1枚分の包絡体積を取ることができる。この折畳状態からねじりコイルばね(8)の付勢力によりヒンジ(8)が回動することで、正方形平面体パネル(6)が平面上に並ぶ展開状態に遷移する。
特許文献3の二次元展開構造物においては正方形平面体パネル(6)同士の隙間を比較的小さくすることができるが、展開状態の正方形平面体パネル(6)の表面あるいは裏面にヒンジ(3)の回転軸(7)を含む部品が突出し、平面の連続性が損なわれる。パネル表面に突出部が生じると、例えばパネルが太陽電池パネルであった場合、太陽電池パドル上に突出部による影が生じ、電力産生効率が低下する。このため、本実施形態の展開構造物100のように展開状態において略平面部分は主面110aから突出する突出部がないまたは小さい状態で提供されることが好ましい。
これに対し本実施形態の展開構造物100では、第一部材132および第二部材134がそれぞれ第一構造体111または第二構造体112の側端面110bに対して接続されている。このため、第一部材132および第二部材134が第一構造体111または第二構造体112の主面110aで接続する場合に比べてヒンジ部130の一部が第一構造体111または第二構造体112の主面110aより外部に突出することが防止される。これにより、本実施形態の展開構造物100においては展開状態で突出部の小さいまたは突出部のない平面を得ることができる。
【0031】
図1(a)および図1(b)に図示する折畳状態において回転軸138は第一構造体111の対向側端面110dよりも外部に突出している。すなわち、回転軸138は第一構造体111の側端面110bから第一構造体111の外部に突出しており、回転軸138の軸中心は対向側端面110dよりも第一構造体111の外部にある。展開状態において回転軸138は対向側端面110dよりも第一構造体111の内部に没入する。ここで回転軸138が対向側端面110dよりも第一構造体111の内部に没入するとは、少なくとも回転軸138の軸中心が第一構造体111の包絡体積内に入ることをいう。例えば、回転軸138の軸中心が第一ブラケット111bの端面より後端側にあるとき、回転軸138は対向側端面110dよりも第一構造体111の内部に没入しているとする。
対向側端面110dよりも第一構造体111の外部に配置されていた回転軸138が第一構造体111の内部に収容されることで、第一構造体111と第二構造体112が近づき、構造体110同士の隙間をより小さくすることができる。
【0032】
第一構造体111は収容凹部111cを有する。収容凹部111cは第一部材132を所定の摺動方向に摺動可能に収容する。具体的には、収容凹部111cは第一ブラケット111bに形成されており、対向側端面110dに開口部111hを有している。収容凹部111cの深さ方向は、第一部材132の摺動方向すなわち第一ブラケット111bの前後端方向である。折畳状態では、リンク部材134aが第一部材132の摺動方向に対して交差して配置されている。すなわち、リンク部材134aは摺動方向に対して0度より大きく180度より小さい角度で配置されている。第一部材132の摺動方向は、第一部材132における第一軸部132bの延在方向である。折畳状態から展開状態に遷移するとリンク部材134aが第一部材132に対して回転軸138まわりに回転して第二部材134(リンク部材134a)と第一部材132とが直線上に並ぶ。
第一部材132が第一構造体111の内部を摺動することで、第二部材134(リンク部材134a)の少なくとも一部および回転軸138が収容凹部111cの内部に収容される。
摺動とは、他の部材に少なくとも一部を接触させながら位置を変化させることをいう。第一部材132はその一部を第一構造体111(第一ブラケット111b)の内部に接触させながら後端側へ移動する。本実施形態において、延在方向から見た第一部材132の第一軸受け部132cの形状および寸法と、延在方向から見た収容凹部111cの開口部111hの形状および寸法とは略同一である。なお、ここでいう収容凹部111cの開口部111hとは、収容凹部111cの前端側の開口領域のうち、後述する仮想辺111e(図1(b)参照)から外方側(同図における下側)の領域をいう。収容凹部111cの開口部111hには、摺動面110eによりR面取りされた空間領域(図1(b)における引込空間111i)が連設されている。すなわち、開口部111hの内方側(同図における上側)に引込空間111iが連接されている。また、第一部材132の延在方向から見た第一軸部132bの形状および寸法と当該延在方向から見た第一ブラケット111bの挿通孔111gの形状および寸法とは略同一である。これにより、第一部材132が摺動するとき、第一軸受け部132cは第一構造体111の収容凹部111cを画成する周面の一部である第一部材摺接面111dと接触し、第一軸部132bは第一構造体111における挿通孔111gを画成する周壁面に接触する。このように、第一部材132は摺動するときに第一軸部132bおよび第一軸受け部132cの二箇所において第一構造体111と接している。このため、第一部材132は第一構造体111の内部を横ずれすることなく所望の摺動方向(前後端方向)に摺動することができる。また、本実施形態では第一軸部132bは収容凹部111cの第一部材摺接面111dには接触しないで離間しているため、第一部材132が摺動するときにおいて第一構造体111に対する第一部材132の摩擦が抑制される。このように、第一部材132が第一構造体111の内部を摺動するとき、第一部材132のすべてが第一構造体111に接している必要はない。
【0033】
第一部材132とリンク部材134aとが直線上に並ぶことで、ヒンジ部130は厚み寸法が小さくなり、展開状態で第一構造体111の厚み寸法内にヒンジ部130を収容することが容易となる。これにより、ヒンジ部130が第一構造体111の主面110aから突出することを抑制できる。
また、回転軸138に加えてリンク部材134aの少なくとも一部も第一構造体111の内部に収容することで、第一構造体111と第二構造体112との間に生じる隙間をさらに小さくすることができる。本実施形態の展開状態においては第一構造体111の内部にリンク部材134aのすべておよび第二回転軸134bが収容されている。これによって図3(a)および図3(b)においては第一構造体111と第二構造体112との対向側端面110dは互いに接しており、第一構造体111と第二構造体112との間に生じる隙間は限りなく小さくなっている。
【0034】
図3(a)および図3(b)に示す展開状態で、第一パネル111aと第二パネル112aとは端面同士の間に隙間なく当接している。これにより、後端側へのリンク部材134aの移動は停止する。すなわち、展開構造物100の展開動作は第一構造体111と第二構造体112とが側端面110b同士で当接することにより終了する。このため第一パネル111aと第二パネル112aとは展開状態で隙間なく隣接する。このとき、第一部材132の第一支持部132aは第一構造体111(第一ブラケット111b)における空洞部110jを画成する後端側の壁面まで到達していない。換言すると、第一支持部132aは当該壁面に対して前端側に離間した位置にある。さらに言い換えると、折畳状態から第一部材132が後退可能な長さ(折畳状態における第一支持部132aと、空洞部110jを画成する後端側の壁面と、の距離)は、展開動作中に第一付勢部材136の付勢力によって第一部材132が後端側に実際に移動する長さよりも大きい。ただし本実施形態に代えて、第一部材132の第一軸受け部132cが第一構造体111における空洞部110jを画成する後端側の壁面に当接することにより展開動作が終了するようにしてもよい。
【0035】
本実施形態では、展開状態においてリンク部材134aが第一部材摺接面111dおよび収容凹部111cにおける外方側(図3(b)における下側)の面の両方に接している。すなわち、第一部材摺接面111dと収容凹部111cの外方側の面とに挟まれるリンク部材134aの一部の厚み方向の寸法と、収容凹部111cの厚み方向の寸法と、が略同一である。このため第一部材132に対するリンク部材134aの回動が収容凹部111cによって係止され、展開状態では第一部材132とリンク部材134aとの回動が停止する。これにより、リンク部材134aと第一部材132との展開状態を維持するための展開維持手段を不要としつつも、リンク部材134aと第一部材132との展開を維持することができる。ここで第一部材摺接面111dとは、収容凹部111cにおける第一部材132(第一軸受け部132c)が摺接する内方側(図3(b)における上側)の面である。
【0036】
図1(b)に示すように第一構造体111は収容凹部111cに滑らかに連なる摺動面110eを有する。摺動面110eとは、第一構造体111における収容凹部111cの前端側の一部である開口部111hの仮想辺111eをR面取りした面である。摺動面110eは、第一部材摺接面111dとの間に段を有さずに連続的に形成された面である。ここでいう仮想辺111eとは、仮に仮想辺111eでR面取りしなかった場合に収容凹部111cの開口部111hを構成する四辺形の一辺のうち内方側に位置する辺である。
リンク部材134aは摺動面110eに摺接しながら折畳状態から展開状態に遷移する。具体的には、以下のように展開状態へ遷移する。折畳状態において第一付勢部材136は第一構造体111および第一支持部132aに対して両者が互いに離れる方向に外向きの付勢力を与えている。第一構造体111に対する第一付勢部材136の付勢力によって、第一構造体111において第一構造体111とリンク部材134aとが接する領域であって第一部材132より内方側の領域(後述する押辺111f)で第一構造体111がリンク部材134aを前端側に押す。また、第一付勢部材136の付勢力によって第一部材132は第一構造体111に対して後端側へ摺動する。第一部材132が後端側へ摺動すると、リンク部材134aのうちの回転軸138側の端部が後端側へ牽引される。これにより、リンク部材134aは第一部材132に対して回転軸138を中心として折畳状態から展開状態へ遷移する方向(図1(b)においては反時計回りの方向)へ回動する。
なお、保持解放機構(図示せず)を作動させて第一パネル111aと第二パネル112aとの拘束を解除すると、第一付勢部材136の外向きの付勢力によって第一部材132とリンク部材134aとは自動的に回動を開始する。また、リンク部材134aが第一部材132に対して回動を開始すると、リンク部材134aは摺動面110eに摺接しながら引込空間111iに引き込まれ、さらにリンク部材134aにおける回転軸138側の一端部は収容凹部111cへ没入し始める。すなわち、リンク部材134aが第一構造体111内部に収容されながらリンク部材134aが回動する。
【0037】
折畳状態または折畳状態から展開状態へ遷移する過程において、リンク部材134aを前端側に押す第一構造体111の領域は面でもよく、実質的に線でもよい。本実施形態では実質的に線状に形成された押辺111fにより第一構造体111(第一ブラケット111b)はリンク部材134aを前端側に押し出す。押辺111fは、第一構造体111(第一ブラケット111b)における前端側の面を構成する辺のうち内方側の辺であり、湾曲した摺動面110eが前端側で終端する稜線である。このように、リンク部材134aを押す第一構造体111の領域(押辺111fまたは押辺111fを含む領域)は第一構造体111の最内方側に位置する。このようにリンク部材134aのうち回転軸138から内方側へ離れた領域でリンク部材134aを前端側に押すことで、リンク部材134aに大きなモーメントを与え、第一部材132に対するリンク部材134aの回動をより容易に開始させることができる。また、リンク部材134aを押す第一構造体111の領域は、第一構造体111の厚み方向における寸法が小さいことが好ましい。例えば、リンク部材134aを押す第一構造体111の領域における当該厚み方向の寸法を押辺111fと仮想辺111eとの厚み方向の距離の半分未満とすることが好ましい。
本実施形態においては、リンク部材134aと第一構造体111(第一ブラケット111b)とが第一部材132より内方側で接する面が実質的に押辺111fのみとなっている。これにより、第一構造体111は回転軸138から最も離間した位置でリンク部材134aを前端側に押し出すため、第一構造体111からリンク部材134aに対してさらに大きなモーメントを与えることができる。第一構造体111(第一ブラケット111b)がリンク部材134aを押辺111fのみで押すために、仮想辺111eをR面取りするときの半径を仮想辺111eと押辺111fとの距離と等しくするかまたはそれ以上の長さにしてもよい。
【0038】
展開構造物100が更に展開すると、リンク部材134aの中間部および第二回転軸134b側の一部が、引込空間111iを通って収容凹部111cに徐々に引き込まれていく。リンク部材134aが収容凹部111cに没入しながら第一部材132に対して回動することで、折畳状態から展開状態に遷移するときに展開構造物100が通過する体積が小さくなる。これにより、展開動作中に展開構造物100と他の部品とが干渉することを防ぐことができる。
【0039】
また、リンク部材134aが摺動面110eに摺接しながら収容凹部111cに没入することで、第一部材132に対するリンク部材134aの回動を制御することができる。具体的には、図2(b)に図示するようにリンク部材134aが第一部材132に対して回動すると、回転軸138が第一ブラケット111bの包絡体積内に入り、リンク部材134aと摺動面110eとが接する。リンク部材134aが第一構造体111における摺動面110eで接することによって、展開状態から折畳状態に向かって逆向きに遷移する方向(図2(b)における時計回りの方向)へのリンク部材134aの回動は第一構造体111によって規制される。これにより展開動作中におけるリンク部材134aの回動は、展開状態へ遷移する方向のみに限定される。また、回転軸138が第一ブラケット111bの包絡体積内に入ると、リンク部材134aの回動(特に図2(b)における反時計回りの方向の回動)が収容凹部111cの外方側の面によって規制される。このため、展開動作中においてはリンク部材134aの過剰な回動が防止され、展開状態においてはリンク部材134aが第一部材132に対して直線状に展開した状態が維持される。
【0040】
ここで、仮に第一構造体111が収容凹部111cに摺動面110eを有していなかった場合、折畳状態から展開を開始してもリンク部材134aを収容凹部111cに直ちに引き込むことができず、リンク部材134aが後端側に摺動するのはリンク部材134aと第一部材132とが展開状態で直線上に並んだ時点でようやく開始される。そして直線上に並んだリンク部材134aおよび第一部材132は第一付勢部材136の付勢力により収容凹部111c内で急激に摺動することとなる。このため展開動作の終了時に第一構造体111と第二構造体112の側端面110b同士が受ける衝撃力は大きいものとなる。これに比べて本実施形態のように第一構造体111が摺動面110eを有する場合、リンク部材134aは回動しながら少しずつ後端側へ摺動するため、展開終了時に発生する衝撃力を小さくすることができる。
【0041】
本実施形態において、リンク部材134aの幅寸法は第一軸受け部132cの幅寸法よりも小さくなっている。また、摺動面110eの幅寸法はリンク部材134aの幅寸法以上であり、第一軸受け部132cの幅寸法よりも小さくなっている。これにより、第一軸受け部132cが収容凹部111cより内方側にずれることが規制され、第一部材132は第一パネル111aと平行に摺動することができる。
【0042】
本実施形態の展開構造物100は第一付勢部材136に加えて支援付勢部材135を有する。支援付勢部材135は第一部材132と第二部材134とが折畳状態から展開状態に遷移するように展開構造物100に付勢力を与える。支援付勢部材135は第一付勢部材136とは異なる部材である。ここで展開構造物100に付勢力を与えるとは、展開構造物100の一部に付勢力を与えることをいう。
支援付勢部材135が展開構造物100に対して付勢力を与える位置および向きは、第一部材132と第二部材134とが折畳状態から展開状態に遷移するものであるかぎり特に限定されない。具体的な支援付勢部材135としては、回転軸138と同軸で配置されてリンク部材134aと第一軸受け部132cとを展開方向(図1(b)における反時計回り)に付勢する捩りばねを例示することができる。このような支援付勢部材135は回転軸138の内部または回転軸138の周囲に設けられてもよく、第一部材132とリンク部材134aとの間に配置されてもよい。
支援付勢部材135の他の例としては、第一付勢部材136の変形例として上述したワイヤ牽引機構と同種の機構を挙げることができる。ワイヤ牽引機構を支援付勢部材135として用いる場合、第一パネル111aまたは第二パネル112aの一方にワイヤの一端を連結し、他方に牽引手段を設置するとよい。そしてこのワイヤを牽引手段で牽引することで第一パネル111aと第二パネル112aとが互いに離れる方向に両者が付勢される。例えば第一パネル111aの後端側が系(例えば宇宙機本体またはブーム・ヨーク)に固定されている場合、第二パネル112aの後端側にワイヤを連結し、このワイヤを展開方向(図1(b)における上方)に牽引することで第一部材132とリンク部材134a(第二部材134)とが展開状態に遷移する。
支援付勢部材135によってリンク部材134a(第二部材134)と第一部材132とが折畳状態から展開状態に遷移するように展開構造物100に付勢力が与えられることで、第一付勢部材136による第一部材132とリンク部材134aとの自動的な回動が補助される。これにより、第一部材132とリンク部材134aの自動的な回動を確実に行うことができる。
【0043】
本実施形態では展開構造物100は第二支援付勢部材139を更に有する。本実施形態における第二支援付勢部材139は第二構造体112とリンク部材134aと、を折畳状態から展開状態に遷移するように展開構造物100に付勢力を与え、第二構造体112とリンク部材134aとの回動を補助する。具体的な第二支援付勢部材139としては、第二回転軸134bと同軸で配置されて第二構造体軸受け部112dをリンク部材134aに対して展開方向(図1(b)における反時計回り)に付勢する捩りばねを例示することができる。このような第二支援付勢部材139は第二回転軸134bの内部または第二回転軸134bの周囲に設けられてもよく、軸部材134cとリンク部材134aとの間に配置されてもよい。
【0044】
展開構造物100が折畳状態から展開状態に遷移するために、第一部材132とリンク部材134aとが回転軸138まわりに回転し、第二構造体112とリンク部材134aとが第二回転軸134bまわりに回動する。
仮に第二回転軸134bまわりの回転力が回転軸138まわりの回転力に比べて十分小さい場合、第二構造体112とリンク部材134aとの回動が第一構造体111によって係止されて展開構造物100が正常に展開しない可能性がある。具体的には、第二回転軸134bまわりの回転力が回転軸138まわりの回転力に比べて無視できる程度に小さい場合には、第二構造体112とリンク部材134aが回動を開始する前に、第一部材132およびリンク部材134aが展開状態となり、第一構造体111の側端面110bと第二構造体112の主面110aとが当接しうる。この状態においてリンク部材134aに対して展開状態に遷移する向きに回動する第二構造体112は、第一構造体111によって係止され、展開構造物100の展開状態への遷移が阻害される。
第二構造体112のリンク部材134aに対する回動が第一構造体111により規制されないで展開構造物100が正常に展開するためには、第一構造体111が第二構造体112に接するまで第一構造体111が摺動したタイミングで、第二構造体112とリンク部材134aとの角度が所定の角度以上となるまで第二構造体112とリンク部材134aとが展開していることが好ましい。そのため、かかるタイミングより前に第二構造体112とリンク部材134aとの角度が上記所定の角度以上となる程度に第二回転軸134bまわりの回転力が大きくなるように第二支援付勢部材139の付勢力を設定するとよい。
ここで所定の角度とは、第一付勢部材136によって第一構造体111が摺動し、第一構造体111が第二構造体112に接するときの第二構造体112の展開角度の閾値である。当該閾値以上の展開角度であれば、第一付勢部材136の付勢力により、第二構造体軸受け部112dが第一構造体111の内部に引き込まれるように第一構造体111側へ牽引されることで第二構造体112が展開状態に向かって遷移する。逆に当該閾値未満の展開角度であれば、第一付勢部材136の付勢力により第一構造体111が第二構造体112の主面110aを付勢することで第二構造体112が折畳状態に向かって遷移する。当該所定の角度とは、第二構造体112が展開状態に向かって遷移するか、折畳状態に向かって遷移するかの境界となる角度である。上記所定の角度は種々の要因により変動する。例えば、上記所定の角度は135度である。
また、第二回転軸134bまわりの回転力と回転軸138まわりの回転力とはどちらが大きくても小さくてもよい。例えば支援付勢部材135および第二支援付勢部材139がそれぞれ上述したように第一部材132とリンク部材134aとの回動、およびリンク部材134aと第二構造体112との回動を支援するものである場合、第二支援付勢部材139が与える第二回転軸134bまわりの回転力は、第一付勢部材136が回転軸138まわりに与える回転力と支援付勢部材135が回転軸138まわりに与える回転力との合計より大きくても小さくてもよい。また、第二支援付勢部材139が第二回転軸134bまわりに与える回転力は支援付勢部材135が回転軸138まわりに与える回転力より大きくてもよい。これにより、第一構造体111が展開および摺動して第二構造体112に接するときに、第二構造体112を上記所定の角度以上の展開角度とすることが容易になる。
【0045】
支援付勢部材135を、上述のように第一パネル111aと第二パネル112aとが互いに離れる方向にワイヤによって付勢する機構とした場合、第二支援付勢部材139を不要とできる。第一パネル111aと第二パネル112aとが互いに離れる方向に両者が付勢されると、第一部材132とリンク部材134aとが回動するとともに、第二構造体112とリンク部材134aとの回動もまた行われるからである。
本実施形態では、第一付勢部材136がリンク部材134aに与える回転軸138まわりの回転力は、支援付勢部材135により回転軸138まわりに与える回転力より大きい。これにより、リンク部材134aは摺動面110eから離れることなく、摺動面110eを摺接しながら回動することができる。
【0046】
展開構造物100はリンク部材134aと第二構造体112とが展開した状態を維持するための展開維持手段(図示せず)を有することができる。また、本実施形態における収容凹部111cによって第一部材132とリンク部材134aとの回動を規制する方法に代えて、または当該方法に加えて、第一部材132とリンク部材134aの展開した状態を維持する展開維持手段(図示せず)を展開構造物100は備えてもよい。
例えば、第一構造体111またはリンク部材134a、あるいはリンク部材134aまたは第二構造体112に、互いの回動角度の上限を規制するための係止部を設けてもよい。これにより、第一部材132とリンク部材134a、またはリンク部材134aと第二構造体112が180度以上に回動することを防止することができる。
また、展開状態から折畳状態へ遷移を防止するために、第一部材132とリンク部材134a、またはリンク部材134aと第二構造体112が初期状態(折畳状態)から所定以上の回転角度に達することにより両者が係止されるラッチ構造が展開構造物100に供えられてもよい。これにより、第一部材132およびリンク部材134a、またはリンク部材134aおよび第二構造体112の折畳方向への逆回動が規制される。他にも、支援付勢部材135または第二支援付勢部材139が捩りばねである場合、二つの部材が一直線になってもなお、支援付勢部材135または第二支援付勢部材139に弾性復元力の一部が残存しているようにしてもよい。すなわち、展開状態になってもなお、第一部材132とリンク部材134a、またはリンク部材134aと軸部材134cが180度以上に回動する回転力を有するように折畳状態における捩り量が予め設定されるとよい。
また、展開状態において第一構造体111と第二構造体112とが当接してもなお第一付勢部材136に弾性復元力の一部が残存しているようにしてもよい。すなわち、図3(b)に示す展開状態においても、第一付勢部材136は第一支持部132aを第一構造体111に対して後端側に付勢するように、初期状態における第一付勢部材136の圧縮長さを設定するとよい。これによって展開状態において第一構造体111と第二構造体112との側端面110b同士が、第一付勢部材136に残存する付勢力により互いに押し付けられた状態となるため、展開構造物100は展開状態が良好に維持される。
【0047】
<第二実施形態>
図4(a)、図4(b)、図5(a)、図5(b)、図6(a)および図6(b)は第二実施形態の展開構造物100の展開シークエンスを説明するための模式図である。図4(a)および図4(b)は折畳状態における第二実施形態の展開構造物100の説明図である。図5(a)および図5(b)は展開動作中の第二実施形態の展開構造物100の説明図である。図6(a)および図6(b)は展開状態における第二実施形態の展開構造物100の説明図である。図4(a)、図5(a)、図5(b)および図6(a)において、第一パネル111aおよび第二パネル112aは図示を省略している。
第一実施形態と同様に構造体110、第一部材132、軸部材134c、第一付勢部材136および第二付勢部材137においてリンク部材134a側を「前端側」、第一支持部132aまたは第二支持部134d側を「後端側」と記す。また、第一構造体111および第二構造体112において、折畳状態で第一構造体111と第二構造体112が向かい合った場合の互いに対する方向を「内方側」、その反対方向を「外方側」と記す。
【0048】
本実施形態は第一構造体111が第二構造体112に向けて付勢されるだけでなく、第二構造体112もまた第一構造体111に向けて付勢される点で第一実施形態と異なる。
本実施形態の折畳状態におけるヒンジ構造10は、リンク部材134aの延在方向の中心を通りリンク部材134aの軸部と直交する面において鏡面対称である。すなわち、第一構造体、第一部材132および第一付勢部材136と、第二構造体112、軸部材134cおよび第二付勢部材137とは鏡面対称の構造である。ただし、ヒンジ構造10は鏡面対称であることに限定されず、第一構造体、第一部材132および第一付勢部材136と、第二構造体112、軸部材134cおよび第二付勢部材137とは形状および寸法が互いに異なっていてもよい。
【0049】
第一構造体111と第二構造体112とは、ヒンジ部130によって接続されている。第一部材132は第一構造体111の端縁部110cに挿通されており、第一部材132は第一構造体111の内部を第一部材132の延在方向に摺動する。第一部材132は支持部(第一支持部132a)を有する。
【0050】
第二部材134は第二回転軸134b、リンク部材134aおよび軸部材134cを有する。リンク部材134aと軸部材134cとは第二の回転軸(第二回転軸134b)を介して互いに回転可能に接続されている。リンク部材134aは両端部に回転軸138および第二回転軸134bを有する一または複数の部材である。軸部材134cは第二の支持部(第二支持部134d)を有する。軸部材134cは第二構造体112に対して摺動可能に接続されている。すなわち、軸部材134cは第二構造体112の端縁部110cに挿通されて、第二構造体112の内部を軸部材134cの延在方向に摺動する。軸部材134cは長尺物であり、軸部材134cの延在方向は軸部材134cの長尺方向である。
第二の付勢部材(第二付勢部材137)は第二支持部134dと第二構造体112との間に配置されている。第二付勢部材137は第二構造体112と第二支持部134dに対して第二付勢部材137の延在方向において外向きの付勢力を与えている。第二支持部134dは第二付勢部材137の付勢力を軸部材134cに与えるための軸部材134cの部位である。本実施形態において、第二支持部134dは軸部材134cの端部をフランジ状に形成した部位である。
軸部材134cは第二支持部134dとは反対の他端を軸受け部として第二回転軸134bによってリンク部材134aと組み合わされている。リンク部材134aと軸部材134cとは第二回転軸134bを中心として回動する。
【0051】
なお、本発明は本実施形態の態様に限定されず、第一実施形態で例示したように種々の変形や改良等の態様も含む。例えば第二支持部134dは、本実施形態に示すように軸部材134cの端部に形成されてもよく、軸部材134cの長さ方向の中途部に形成されてもよい。また、第二付勢部材137はコイルばね等の弾性材でもよい他、第二構造体112と軸部材134cとの間に駆動力を与える機構でもよい。かかる機構としては、例えば、支援付勢部材135の変形例として上述したワイヤ牽引機構を挙げることができる。この場合、第二支持部134dは軸部材134cのうち当該機構が連結される部位である。具体的には、ワイヤの一端を第二支持部134dまたは第二構造体112の一方に連結し、他方に牽引手段を設置してワイヤの他端を牽引することで軸部材134cと第二構造体112との位置関係が相対的に変化して展開状態に遷移することが支援される。
第二構造体112(第二ブラケット112b)の後端側には、軸部材134cを前後端方向に貫通させるための挿通孔が形成されている。本実施形態では軸部材134cの軸方向に見たときに、第二付勢部材137における両端の押圧面をそれぞれ包含する形状および寸法を、第二構造体112および第二支持部134dは有している。このことにより、第二付勢部材137の付勢力が第二支持部134dおよび第二構造体112に効率的に与えられる。
【0052】
折畳状態から展開状態に遷移すると、第一付勢部材136は第一構造体111を第二構造体112に向けて付勢して移動させ、第二付勢部材137は第二構造体112を第一構造体111に向けて付勢して移動させる。これにより、図5(a)、図5(b)、図6(a)および図6(b)に示すようにヒンジ部130の一部が第一構造体111の外部から内部に没入するとともに、ヒンジ部130の他の一部が第二構造体112の外部から内部に没入する。
【0053】
本実施形態では、第二構造体112は対向側端面110dに開口する第二収容凹部112cを有する。第二収容凹部112cは、軸部材134cを当該軸部材134cの摺動方向に摺動可能に収容する凹部である。
図4(b)に示すように、第二構造体112は第二収容凹部112cに滑らかに連なる摺動面110eを有する。
【0054】
つぎに、本実施形態が折畳状態から展開状態に遷移する展開動作を説明する。
図4(a)は折畳状態の展開構造物100を図示している。第一構造体111の主面110aと第二構造体112の主面110aとは厚み方向に重なった状態で互いに対向している。図4(a)における展開構造物100の展開角度は0度である。回転軸138および第二回転軸134bはそれぞれ第一構造体111または第二構造体112の対向側端面110dよりも外部に突出している。折畳状態では、リンク部材134aが軸部材134cの摺動方向に対して交差して配置されている。
この折畳状態から、回転軸138を中心に第一部材132とリンク部材134aとが回動し、第二回転軸134bを中心にリンク部材134aと軸部材134cとが回動する。これにより第一構造体111および第二構造体112が互いに相対的な位置を変化させ、展開構造物100が展開していく。具体的には、以下のように折畳状態から展開状態に遷移する。
折畳状態において第一付勢部材136は第一支持部132aおよび第一構造体111に対して第一付勢部材136の延在方向における外向きの付勢力を与えており、第二付勢部材137は第二支持部134dおよび第二構造体112に対して第二付勢部材137の延在方向における外向きの付勢力を与えている。第一付勢部材136および第二付勢部材137による付勢力によって、第一構造体111および第二構造体112がそれぞれリンク部材134aを前端側へ押す。一方、第一付勢部材136および第二付勢部材137の付勢力によって第一部材132および軸部材134cは、それぞれ第一構造体111または第二構造体112に対して相対的に後端側へ摺動する。第一部材132および軸部材134cが後端側へ摺動すると、第一部材132および軸部材134cが連結されているリンク部材134aの両端が第一構造体111および第二構造体112に対してそれぞれ後端側へ牽引される。言い換えると、第一構造体111および第二構造体112は第一付勢部材136または第二付勢部材137にそれぞれ付勢され、リンク部材134aに案内されて互いに近づく向きに移動する。これにより、リンク部材134aは第一部材132に対して回転軸138を中心として折畳状態から展開状態へ遷移する方向(図4(b)においては反時計回りの方向)へ回動し、かつ、軸部材134cに対して第二回転軸134bを中心として折畳状態から展開状態へ遷移する方向(図4(b)においては時計回りの方向)へ回動する。
【0055】
第一部材132と第二部材134とが折畳状態から展開状態に遷移するように展開構造物100に付勢力を与える支援付勢部材135は、第一付勢部材136の付勢力による第一部材132とリンク部材134aの自動的な回動を補助する。また、展開構造物100はリンク部材134aと軸部材134cとを折畳状態から展開状態に遷移するように展開構造物100に付勢力を与える第二支援付勢部材139を有する。本実施形態における第二支援付勢部材139は第一実施形態と異なりリンク部材134aと軸部材134cとを折畳状態から展開状態に遷移させる。第二支援付勢部材139は第二付勢部材137の付勢力によるリンク部材134aと軸部材134cとの自動的な回動を補助する。
リンク部材134aと第一部材132とが回転軸138を中心に回動を開始すると、リンク部材134aは第一構造体111の摺動面110eに摺接しながら第一構造体111の内部への没入を開始する。また、リンク部材134aと軸部材134cが第二回転軸134bを中心に回動を開始すると、リンク部材134aは第二構造体112の摺動面110eに摺接しながら第二構造体112の内部への没入を開始する。
【0056】
図5(a)および図5(b)は第二実施形態の展開構造物100の展開動作中を示し、展開角度が略60度となった状態を示している。
図5(a)および図5(b)では、第一付勢部材136および第二付勢部材137が同程度の付勢力を有する付勢部材であることにより、第一部材132とリンク部材134a、およびリンク部材134aと軸部材134cが均等に展開している。これに代えて、第一部材132とリンク部材134a、およびリンク部材134aと軸部材134cは同時に展開しなくてもよい。すなわち、展開構造物100が所定の展開角度を取るために第一部材132とリンク部材134a、およびリンク部材134aと軸部材134cの回動は同期せず独立していてもよい。
【0057】
図6(a)および図6(b)は展開角度が略180度となるまで展開構造物100が展開した状態を示している。
展開構造物100が折畳状態から展開状態まで展開すると、第一付勢部材136および第二付勢部材137によって第一構造体111および第二構造体112は第一部材132および軸部材134cに沿ってそれぞれ前端側へ移動する。第一構造体111および第二構造体112が前端側へ移動することで、第一構造体111および第二構造体112はその内部にヒンジ部130の少なくとも一部を没入させて収容する。望ましくは回転軸138が第一構造体111の対向側端面110dよりも第一構造体111の内部に配置されるようにヒンジ部130の一部が第一構造体111に没入する。または第二回転軸134bが第二構造体112の対向側端面110dよりも第二構造体112の内部に配置されるようにヒンジ部130の一部が第二構造体112に没入する。さらに望ましくは、第一部材132、軸部材134cおよびリンク部材134aが直線上に並び、第一構造体111の収容凹部111cにリンク部材134aの一部および回転軸138が収容される。また、第二構造体112の第二収容凹部112cにリンク部材134aの他の一部および第二回転軸134bが収容される。本実施形態では、第一構造体111の収容凹部111cにリンク部材134aの一部および回転軸138が収容され、第二構造体112の第二収容凹部112cにリンク部材134aの他の一部および第二回転軸134bが収容される。
第一構造体111および第二構造体112が移動を開始するのは、展開構造物100が展開状態に完全に遷移した後でもよく、展開構造物100が展開状態に遷移する途中でもよい。
【0058】
本実施形態では、第二付勢部材137によって第二構造体112もまた第一構造体111側へ付勢されることで、第一付勢部材136が第一構造体111を移動させる長さが第一実施形態に比べて短縮される。これによって、リンク部材134aの軸方向の長さが第一実施形態と第二実施形態とで同じであるならば、第一付勢部材136および第一部材132の長さを第一実施形態よりも短く設計し、第一構造体111に埋込まれるヒンジ部130を小型化できる。
図6(a)および図6(b)で示すように第一構造体111の収容凹部111cにリンク部材134aの一部および回転軸138が収容され、第二構造体112の第二収容凹部112cにリンク部材134aの一部および第二回転軸134bが収容される。これにより、収容凹部111cおよび第二収容凹部112cによって第一部材132とリンク部材134a、およびリンク部材134aと軸部材134cの回動が係止される。このため、展開維持手段を不要としながら第一部材132とリンク部材134a、およびリンク部材134aと軸部材134cの展開状態を維持することができる。
【0059】
<第三実施形態>
図7(a)は第三実施形態の展開構造物100の折畳状態を示す斜視図であり、図7(b)は図7(a)の領域Xの拡大図である。図8(a)は展開動作する第三実施形態の展開構造物100の説明図であり、図8(b)は図8(a)の領域Xの拡大図である。図9は第三実施形態の展開構造物100の展開状態を示す斜視図である。
第二実施形態と同様に構造体110においてヒンジ部130側を前端側と記す。また、第一構造体111および第二構造体112において、折畳状態で第一構造体111と第二構造体112が向かい合った場合の互いに対する方向を「内方側」、その反対方向を「外方側」と記す。
【0060】
本実施形態の展開構造物100は三枚以上の構造体110が連結されている点で第二実施形態と相違する。本実施形態の展開構造物100は三枚のパネル(第一パネル111a、第二パネル112a、第三パネル113)を第二実施形態におけるヒンジ構造10で図8(a)のように直線的に接続したものである。本実施形態では第一パネル111aと第二パネル112a、および第二パネル112aと第三パネル113をそれぞれ二式のヒンジ構造10で接続している。パネル同士を三式以上のヒンジ構造10で接続してもよく、一式のヒンジ構造10で接続してもよい。
以下、説明のため第一パネル111aおよび第三パネル113を第一構造体111、第二パネルを第二構造体112として呼称することがある。
【0061】
展開構造物100は複数の第一構造体111および複数のヒンジ部130を有する。複数の第一構造体111および第二構造体112の形状はそれぞれ主面110aおよび側端面110bを有する板状である。ここで複数の第一構造体111とは、第一パネル111aとブラケット、および第三パネル113とブラケットである。すなわち、第一パネル111aおよび第三パネル113は、第一構造体111における第一パネル111aと対応する。
展開状態において複数の第一構造体111(第一パネル111a、第三パネル113)および第二構造体112(第二パネル112a)は、第二構造体112の異なる側端面110bに対して複数の第一構造体111の側端面110bをそれぞれ対向させて互いに横並びに配置されている。本実施形態では第一パネル111aおよび第三パネル113が第二パネル112aの対向する側端面にそれぞれ接続されている態様を示す。これにより、展開状態の第一パネル111a、第二パネル112aおよび第三パネル113は直線状に並ぶ。ただし本実施形態に代えて、第一パネル111aおよび第三パネル113は第二パネルの隣り合う側端面にそれぞれ接続されていてもよい。複数の第一構造体111(第一パネル111a、第三パネル113)の側端面110bと第二構造体112(第二パネル112a)の側端面110bはそれぞれヒンジ部130によって接続されている。
折畳状態から展開状態に遷移すると、複数の第一構造体111と第二構造体112とが第一付勢部材136および第二付勢部材137により互いに向けて付勢されて移動し、複数のヒンジ部130におけるそれぞれ少なくとも一部が複数の第一構造体111の外部から内部に没入する。
【0062】
本実施形態において、第一パネル111a、第二パネル112aおよび第三パネル113は主面110aおよび側端面110bに板状の部品を備える中空体である。第一パネル111a、第二パネル112aおよび第三パネル113の主面110aの形状は矩形(長方形)のほか、正方形または正六角形でもよい。
第一パネル111a、第二パネル112aおよび第三パネル113は側端面110bに側板110fを有している。側板110fは凹面110gと、長辺において主面110aに接するフランジ面110hとを有する。側板110fには構造体110の剛性を高めるため、主面110aに垂直にリブが設けられている。図8(a)に示すように、ブラケット(第一ブラケット111bおよび第二ブラケット112b)の少なくとも一部が凹面110gに設けられている。具体的には、凹面110gには装着孔(図示せず)が形成されており、第一ブラケット111bは装着孔に差し込まれている。第一ブラケット111bの後端側の一部は側板よりも第一パネルの後端側に埋込まれている。
【0063】
ブラケット(第一ブラケット111bおよび第二ブラケット112b)は、折畳状態において内方側のフランジ面110hに接するよう側板110fに設けられている。すなわち第一ブラケット111bおよび第二ブラケット112bは第一構造体111または第二構造体112の厚み中心よりも折畳状態における内方側に設置されている。これにより、リンク部材134aの長さを短く設計し、構造体110同士を近づける距離を短縮できる。また、構造体110同士を近づけるための付勢部材(第一付勢部材136および第二付勢部材137)を短く設計可能となるため、ヒンジ部130を小型化することができる。
【0064】
図7(a)に示すように、折畳状態において第一パネル111aの裏面と第二パネル112aの裏面、および第二パネル112aの表面と第三パネル113の表面をそれぞれ対向させることで展開構造物100はN字型に折畳まれている。すなわち、第二パネル112aにおいては、対向する両辺(側端面110b)において第一パネル111aおよび第三パネル113がそれぞれヒンジ構造10によって接続されているが、当該第二パネル112aの一辺に設けられた一方のヒンジ構造10が山折、当該一辺に対向する他の一辺に設けられたヒンジ構造10が谷折されている。
第一パネル111aと第二パネル112a、および第二パネル112aと第三パネル113をそれぞれ接続するヒンジ部130の回転軸138および第二回転軸134bは第一構造体111(第一パネル111a、第三パネル113)または第二構造体112(第二パネル112a)の側端面110bよりも側方の外部に突出している。複数のヒンジ部130の第一付勢部材136(図4(a)参照)の付勢力によって第一パネル111aおよび第三パネル113がリンク部材134aに対して回動を開始し、第二付勢部材137(図4(a)参照)の付勢力によって第二パネル112aがリンク部材134aに対して回動を開始する。
【0065】
図8(a)に示すように、複数のヒンジ部130によって第一パネル111aと第二パネル112a、および第二パネル112aと第三パネル113がそれぞれ互いに展開することで展開構造物100は展開する。同図では展開動作中における第一パネル111aと第二パネル112aとの展開角度と、第二パネル112aと第三パネル113との展開角度と、が同じ角度である態様を示しているが、本発明はこれに限らない。第一パネル111aと第二パネル112aとを接続するヒンジ部130、および第二パネル112aと第三パネル113とを接続するヒンジ部130の回動は同期していなくてもよい。
同図では折畳状態から展開状態に遷移すると同時にヒンジ部130の一部が第一構造体111(第一パネル111aおよび第三パネル113)および第二構造体112(第二パネル112a)の内部に没入する態様を示しているが、第一構造体111あるいは第二構造体112へのヒンジ部130の没入は展開状態に遷移した後に開始されてもよい。
【0066】
図9に示すように、展開状態において第一パネル111a、第二パネル112aおよび第三パネル113は順に横並びに配置されている。展開構造物100が展開すると、第一付勢部材136(図4(a)参照)によってヒンジ部130が第一パネル111aおよび第三パネル113の内部に没入する。同様に第二付勢部材137(図4(a)参照)によってヒンジ部130は第二パネル112aの内部に没入する。本実施形態では、第一パネル111aおよび第三パネル113の内部に回転軸138およびリンク部材134aの一部が没入し、第二パネル112aの内部に第二回転軸134bおよびリンク部材134aの他の一部が没入している。これにより、第一パネル111aと第二パネル112aの側端面110b同士、および第二パネル112aと第三パネル113の側端面110b同士が当接し、第一パネル111aと第二パネル112a、および第二パネル112aと第三パネル113の間の隙間が限りなく小さくなっている。
【0067】
ここで、特許文献1の方法でパネル同士を連結する場合、展開状態においてパネル間に隙間があき、連続的な平面が得られない。また、特許文献3の方法では二枚のパネルは隙間なく連続的な平面として展開できるが、三枚のパネルを連結する場合は表面と裏面にヒンジによる突出部が生じ、連続的な平面を得ることができない。特許文献2の方法でも二枚のパネルは隙間なく展開できるが、筐体(3,5)が外周に必要なため、三枚のパネルを隙間なく展開することはできない。
これに対して本実施形態では、構造体110間に配置されたヒンジ部130の少なくとも一部が構造体110の内部に没入することによって構造体110間の隙間が小さくなるようパネルを展開できる。また、ヒンジ部130が構造体110の対向側端面110dに接続されることで、ヒンジ部130が構造体110の主面110aより外部に突出することを防止でき、三枚のパネルを突出部の少ない平面として展開できる。さらに、構造体110の端縁部110c同士がヒンジ部130によって接続され、ヒンジ部がパネルの外周に突出しないことにより、構造体110の外周に設計上の制約を受けず、三枚のパネルを接続することができる。
【0068】
<変形例>
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
本発明は第一実施形態、第二実施形態および第三実施形態で示した二軸ヒンジ構造に限定されず、図10(a)および図10(b)に示すように第一部材132と第二部材134とが回動可能であるだけの一軸ヒンジ構造の展開構造物100でもよい。図10(a)は変形例にかかる展開構造物100の折畳状態における模式図であり、図10(b)は変形例にかかる展開構造物100の展開状態における模式図である。
【0069】
本実施形態の展開構造物100は第一構造体111と、第二構造体112と、ヒンジ部130とを有し、ヒンジ部130は第一構造体111と第二構造体112とを回転可能に接続し、折畳状態から展開状態に遷移させる。
展開状態において第一構造体111と第二構造体112とは端縁部110c同士を対向させて互いに横並びに配置されている。ヒンジ部130は第一部材132、第二部材134、第一付勢部材136および第二付勢部材137を有し、第一部材132と第二部材134は回転軸138を介して互いに回転可能に接続されている。第一部材132と第二部材134とは、それぞれ第一支持部132aと第二支持部134dとを有する。第一部材132および第二部材134は第一構造体または第二構造体112の端縁部110cにそれぞれ所定の摺動方向に摺動可能に接続されている。第一部材132の摺動方向は第一部材132の延在方向であり、第二部材134の摺動方向は第二部材134の延在方向である。
第一付勢部材136および第二付勢部材137は、それぞれ第一支持部132aと第一構造体111との間、および第二支持部134dと第二構造体112との間に配置されている。
本実施形態では、第一構造体111および第二構造体112の端縁部110cの回転軸138側に凹部110iが設けられている。第一部材132および第二部材134は、それぞれ第一構造体111または第二構造体112における側端面110bではなく、凹部110iの面のうち主面110aと平行な面に挿通されている。
回転軸138を中心に第一構造体111と第二構造体112とが回動することで展開構造物100が展開する。図10(a)においては、第一構造体111に対して第二構造体112が回転軸138を中心に反時計回りに回動することで、展開構造物100は展開する。
【0070】
図10(a)に示す折畳状態において、第一付勢部材136および第二付勢部材137は、第一支持部132aと第一構造体111、および第二支持部134dと第二構造体112を外向きに付勢している。
図10(b)に示すように展開構造物100が折畳状態から展開状態に遷移すると、第一付勢部材136および第二付勢部材137が第一構造体111および第二構造体112を互いに向けて摺動方向に付勢して移動させる。すなわち、第一構造体111および第二構造体112は、それぞれ第一部材132および第二部材134に沿って回転軸138側へ摺動する。第一構造体111および第二構造体112は回転軸138側へ摺動しながら、第一部材132を第一構造体111の内部に、そして第二部材134を第二構造体112の内部にそれぞれ収容する。これにより、第一構造体111と第二構造体112とは互いに近づき、第一構造体111と第二構造体112との間の隙間が小さくなる。
回転軸138は第一構造体111および第二構造体112の端縁部110cに設けた凹部110iの内部に収容される。これにより、回転軸138が構造体110の主面110aより外部に突出することを抑制することができる。
【0071】
本発明の展開構造物100またはヒンジ構造10の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0072】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)第一構造体と、第二構造体と、前記第一構造体と前記第二構造体とを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させるヒンジ部と、を有し、前記展開状態において前記第一構造体と前記第二構造体とは端縁部同士を対向させて互いに横並びに配置される展開構造物であって、前記ヒンジ部は、回転軸を介して互いに回転可能に接続された第一部材および第二部材と、付勢部材と、を有し、前記第一部材は支持部を有するとともに前記第一構造体の前記端縁部に対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、前記第二部材は前記第二構造体の前記端縁部に対して接続されており、前記付勢部材は前記支持部と前記第一構造体との間に配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記付勢部材が前記第一構造体を前記第二構造体に向けて前記摺動方向に付勢して移動させ、前記ヒンジ部の少なくとも一部が前記第一構造体の外部から内部に没入することを特徴とする展開構造物。
(2)前記第一構造体および前記第二構造体は、それぞれ主面および側端面を有する板状をなし、前記展開状態において前記第一構造体と前記第二構造体とは前記端縁部に位置する前記側端面である対向側端面同士を対向させて互いに横並びに配置され、前記第一部材は前記第一構造体の前記対向側端面に接続され、前記第二部材は前記第二構造体の前記対向側端面に接続されている(1)に記載の展開構造物。
(3)前記折畳状態において前記回転軸は前記第一構造体の前記対向側端面よりも外部に突出しており、前記展開状態において前記回転軸は前記第一構造体の前記対向側端面よりも前記第一構造体の内部に没入することを特徴とする(2)に記載の展開構造物。
(4)前記第一構造体は、前記第一部材を所定の摺動方向に摺動可能に収容する収容凹部を有し、前記折畳状態では前記第二部材が前記摺動方向に対して交差して配置され、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記第二部材が前記第一部材に対して前記回転軸まわりに回転して前記第二部材と前記第一部材とが直線上に並び、前記第二部材の少なくとも一部および前記回転軸が前記収容凹部の内部に収容される(3)に記載の展開構造物。
(5)前記第一構造体は、前記収容凹部に滑らかに連なる摺動面を有し、前記第二部材が前記摺動面に摺接しながら前記折畳状態から前記展開状態に遷移する(4)に記載の展開構造物。
(6)前記第一部材と前記第二部材とが前記折畳状態から前記展開状態に遷移するように前記展開構造物に付勢力を与える支援付勢部材を更に有する(5)に記載の展開構造物。
(7)前記第二部材は、第二の回転軸と、前記第二の回転軸を介して互いに回転可能に接続されたリンク部材および軸部材と、を有し、前記リンク部材は、前記回転軸および前記第二の回転軸を両端とする一または複数の部材であり、前記軸部材は、第二の支持部を有するとともに前記第二構造体に対して摺動可能に接続され、前記第二の支持部と前記第二構造体との間に第二の付勢部材が配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記第二の付勢部材が前記第二構造体を前記第一構造体に向けて付勢して移動させ、前記ヒンジ部の一部が前記第二構造体の外部から内部に没入することを特徴とする(1)から(6)のいずれか1項に記載の展開構造物。
(8)複数の前記第一構造体および複数の前記ヒンジ部を有し、複数の前記第一構造体および前記第二構造体は、それぞれ主面および側端面を有する板状をなし、前記展開状態において、複数の前記第一構造体および前記第二構造体は、前記第二構造体の異なる前記側端面に対して複数の前記第一構造体の前記側端面をそれぞれ対向させて互いに横並びに配置され、複数の前記第一構造体の前記側端面と、前記第二構造体の前記側端面と、がそれぞれ前記ヒンジ部によって接続されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると、複数の前記第一構造体と前記第二構造体とが前記付勢部材および前記第二の付勢部材により互いに向けて付勢されて移動し、複数の前記ヒンジ部におけるそれぞれ少なくとも一部が複数の前記第一構造体の外部から内部に没入する(7)に記載の展開構造物。
(9)第一ブラケットと、第二ブラケットと、前記第一ブラケットと前記第二ブラケットとを回転可能に接続して折畳状態から展開状態に遷移させるヒンジ部と、を有し、前記ヒンジ部は、回転軸を介して互いに回転可能に接続された第一部材および第二部材と、付勢部材と、を有し、前記第一部材は支持部を有するとともに前記第一ブラケットに対して所定の摺動方向に摺動可能に接続され、前記第二部材は前記第二ブラケットに対して接続されており、前記付勢部材は前記支持部と前記第一ブラケットとの間に配置されており、前記折畳状態から前記展開状態に遷移すると前記付勢部材が前記第一ブラケットを前記第二ブラケットに向けて前記摺動方向に付勢して移動させ、前記ヒンジ部の少なくとも一部が前記第一ブラケットの外部から内部に没入することを特徴とするヒンジ構造。
【符号の説明】
【0073】
10:ヒンジ構造、100:展開構造物
110:構造体、110a:主面、110b:側端面、110c:端縁部、110d:対向側端面、110e:摺動面、110f:側板、110g:凹面、110h:フランジ面、110i:凹部、110j:空洞部
111:第一構造体、111a:第一パネル、111b:第一ブラケット、111c:収容凹部、111d:第一部材摺接面、111e:仮想辺、111f:押辺、111g:挿通孔、111h:開口部、111i:引込空間
112:第二構造体、112a:第二パネル、112b:第二ブラケット、112c:第二収容凹部、112d:第二構造体軸受け部、113:第三パネル
130:ヒンジ部、138:回転軸
132:第一部材、132a:第一支持部、132b:第一支持部、132c:第一軸受け部
134:第二部材、134a:リンク部材、134b:第二回転軸、134c:軸部材、134d:第二支持部
135:支援付勢部材、139:第二支援付勢部材、136:第一付勢部材、137:第二付勢部材
N1・N2:法線ベクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10