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特開2024-96413モーフィングされた正弦波位相シフト構造を有する眼用レンズ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096413
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】モーフィングされた正弦波位相シフト構造を有する眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240705BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20240705BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20240705BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61F2/16
G02C7/04
G02B5/18
G02C7/06
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076653
(22)【出願日】2024-05-09
(62)【分割の表示】P 2023042775の分割
【原出願日】2018-07-24
(31)【優先権主張番号】62/536,044
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム アンドリュー マックスウェル
(72)【発明者】
【氏名】シン ホン
(72)【発明者】
【氏名】シン ウェイ
(57)【要約】
【課題】IOLがインジェクタに引っ掛かる、又はIOLが破損する場合に対処すべく、インジェクタの設計を改善すること。
【解決手段】眼用レンズは、前面、後面、及び光軸を備える光学素子を含む。前面及び後面のうちの少なくとも一方は、ベース曲率と、複数のモーフィングされた正弦波位相シフト構造とを含む表面プロファイルを有する。ベース曲率は、眼用レンズのベース屈折力に対応してもよく、モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、中間視距離又は近視距離において眼用レンズの焦点深度を拡張させるように構成されてもよい。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面、後面、及び光軸を備える光学素子品を備える眼用レンズであって、
前記前面及び前記後面のうちの少なくとも一方は、
ベース曲率と、
表面プロファイルの一部に沿って前記ベース曲率を修正するモーフィングされた正弦波位相シフト構造であって、前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造が複数のモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを備え、前記複数のモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンのそれぞれが単一の正弦波の周期を備える、モーフィングされた正弦波位相シフト構造と、
を含む表面プロファイルを有し、
前記表面プロファイルは、
optic(r)=Zbase(r)+ZMSPS(r)
として定義され、
式中、Zbase(r)は非球面である前記ベース曲率を定義し、ZMSPS(r)は前記複数のモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを定義し、
【数1】
式中、rは光軸からの半径方向距離(単位はmm)を示し、R及びRi+1は各ゾーンの半径方向における開始位置及び終了位置(単位はmm)であり、Mは各ゾーンのステップ高さ(単位はμm)であり、T は各ゾーンの半径方向における開始位置から各ゾーンのピークの半径方向距離に対応する臨界点であり、iは光軸から連続的なゾーン番号(0、1、2、3、…)を示す、眼用レンズ。
【請求項2】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、前記ベース曲率の修正されていない部分と比べて、前記眼用レンズの焦点深度を拡張するように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、30~55cmの範囲の中間視距離又は近視距離をもたらす前記眼用レンズの焦点深度を拡張するように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、33~50cmの範囲の中間視距離又は近視距離をもたらす前記眼用レンズの焦点深度を拡張するように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、少なくとも7つのモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを含む、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
眼内レンズを備える、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
コンタクトレンズを備える、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項8】
【数2】
式中、rは光軸からの半径方向距離(単位なmm)を示し、cは表面のベース曲率を示し、kは円錐定数を示し、a、a、a、a及びa10はそれぞれ2次、4次、6次、8次、10次の係数である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項9】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、4つから9つのモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを備える、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項10】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造の形状は、非対称な正弦波の形状である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項11】
前記複数のモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンのそれぞれは、隣り合ったモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンのステップ高さとは異なるステップ高さを備える、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項12】
前面、後面、及び光軸を備える光学素子品を備える眼用レンズであって、
前記前面及び前記後面のうちの少なくとも一方は、ベース曲率と、モーフィングされた正弦波位相シフト構造とを有する表面プロファイルを有し、
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、非対称な正弦波の形状であり、複数のゾーンを有し、各ゾーンは、単一の正弦波の周期を備え、
前記表面プロファイルは、
optic(r)=Zbase(r)+ZMSPS(r)
として定義され、
式中、Zbase(r)は非球面である前記ベース曲率を定義し、ZMSPS(r)は複数の前記モーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを定義し、
【数3】
式中、rは光軸からの半径方向距離(単位はmm)を示し、R及びRi+1は各ゾーンの半径方向における開始位置及び終了位置(単位はmm)であり、Mは各ゾーンのステップ高さ(単位はμm)であり、T は各ゾーンの半径方向における開始位置から各ゾーンのピークの半径方向距離に対応する臨界点であり、iは光軸から連続的なゾーン番号(0、1、2、3、…)を示す、眼用レンズ。
【請求項13】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、30~55cmの範囲の中間視距離又は近視距離をもたらす前記眼用レンズの焦点深度の拡張を提供するように構成されている、請求項12に記載の眼用レンズ。
【請求項14】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、33~50cmの範囲の中間視距離又は近視距離をもたらす前記眼用レンズの焦点深度の拡張を提供するように構成されている、請求項12に記載の眼用レンズ。
【請求項15】
複数の前記ゾーンが隣り合うゾーンのステップ高さとは異なるステップ高さを備える、請求項12に記載の眼用レンズ。
【請求項16】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、少なくとも7つのゾーンを含む、請求項12に記載の眼用レンズ。
【請求項17】
眼内レンズを備える、請求項12に記載の眼用レンズ。
【請求項18】
コンタクトレンズを備える、請求項12に記載の眼用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に眼用レンズに関し、より詳細には、中間視力及び近方視力のための擬似遠近調節を増加させるための拡張焦点深度を有する眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術は最も一般的な眼科手術の1つであり、白内障の水晶体を人工眼内レンズ(IOL)に置換する必要がある。典型的には、単焦点眼内レンズ(固定焦点距離を有する)を水晶体嚢に配置して、最良の遠方視力を提供する。単焦点IOLが埋め込まれた患者は遠方視力が良好であるが、中間視力及び近方視力の質は、日常生活の活動をサポートするには不十分であることがよくある。具体的には、コンピュータ、モバイルデバイス、及び他の技術的進歩に関連する日々のタスクゆえに、患者にとって良好で連続的な近くでの視野がますます重要になっている。それに応じて、中間視距離/近視距離において、拡張された且つ連続的な機能的視野を提供するために、IOL並びにコンタクトレンズが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、一般に、十分な遠方視力を提供し、中間視距離から近視距離の範囲における焦点深度を拡大させる、多焦点眼用レンズ(例えば、IOL、ハード及びソフトコンタクトレンズなど)に関する。特定の実施形態では、眼用レンズは、前面、後面、及び光軸を備える光学素子を含む。前面及び後面のうちの少なくとも一方は、ベース曲率と、モーフィングされた正弦波位相シフト(MSPS)構造とを含む表面プロファイルを備える。ベース曲率は、眼用レンズのベース屈折力に対応してもよく、モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、中間視距離又は近視距離において眼用レンズの焦点深度を拡張させるように構成されてもよく、モーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを備えてもよい。
【0004】
特定の変形例では、モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、30~55cm又は33~50cmの範囲の中間視距離又は近視距離で焦点深度を拡張するように構成されている。
【0005】
レンズの表面プロファイルは次のように定義できる。
optic=Zbase+ZMSPS
式中、Zbaseはベース曲率の表面プロファイルを定義し、ZMSPSは複数のモーフィングされた正弦波位相シフト構造を定義する。
【0006】
更に、Zbaseは次のように定義できる。
【数1】
式中、rは光軸からの半径方向距離を示し、cは表面のベース曲率を示し、kは円錐定数を示し、a、a、及びaはそれぞれ2次、4次、6次の係数である。
【0007】
加えて、ZMPSSは次のように定義できる。
【数2】
式中、rは光軸からの半径方向距離を示し、R及びRi+1は各ゾーンの開始位置及び終了位置であり、Mは各ゾーンのステップ高さであり、T は各ゾーン内の臨界点であり、iはゾーン番号を示す。
【0008】
ある特定の実施形態では、本開示は、1つ以上の技術的利点を提供し得る。例えば、本開示の実施形態は、ベース単焦点非球面曲率をモーフィング正弦波位相シフト構造と組み合わせて、典型的な単焦点レンズと同様の遠方視力及び安全性プロファイルを維持しながら、近距離及び/又は中間距離において、拡張された機能的視野を提供する。モーフィングされた正弦波位相シフト構造を使用することにより、従来のEDF設計に見られる不連続な回折構造、及び小さな開口又はピンホールの影響を排除できる。それに応じて、実施形態により、患者は、従来のEDF又は単焦点設計よりも優れた視距離を、より少ない視覚妨害、低減された光の損失、及び、より高い効率と共に享受することが可能になり得る。
【0009】
本開示及びその利点をより完全に理解するために、ここで添付の図面と併せて以下の説明を参照し、図面では、同様の参照符号は同様のフィーチャを示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】特定の実施形態による、モーフィングされた正弦波位相シフト構造を有する拡張焦点深度IOLの例示的な実施形態を示す。
図1B】特定の実施形態による、モーフィングされた正弦波位相シフト構造を有する拡張焦点深度IOLの例示的な実施形態を示す。
図2】ベース単焦点光学素子の例示的な表面サグプロットを示す。
図3】光学素子上の複数のモーフィングされた正弦波位相シット構造から生じる追加された表面サグの例を示す。
図4A-B】特定の実施形態による、光学素子の特性を示す。
図5A-B】特定の実施形態による、光学素子の特性を示す。
図6A-B】特定の実施形態による、光学素子の特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
当業者は、以下に記載される図面が例示のみを目的としており、本開示の範囲を限定することは意図していないことを理解するであろう。
【0012】
本開示は、一般に、十分な遠方視力を提供し、中間視距離から近視距離の範囲における焦点深度を拡大させる、眼用レンズ(例えば、IOL及びコンタクトレンズ)に関する。より具体的には、本開示の実施形態は、(1)遠距離での患者の低次及び/又は高次収差を部分的に又は完全に補正するための単焦点非球面レンズと、(2)レンズの前面及び/又は後面に追加されて、中近視距離の範囲において焦点深度を拡張させる、モーフィングされた正弦波位相シフト(MSPS)構造と、を有するIOL又はコンタクトレンズなどの眼用レンズを提供する。そのようなMSPS強化レンズ設計は、単焦点レンズと同様の遠方視力及び安全性プロファイルを維持しながら、中間視距離/近視距離(例えば、50cmから33cm)において、拡張された且つ連続的な機能的視野を提供してもよい。
【0013】
図1A図1Bは、特定の実施形態による、中間視力から近方視力に対して拡張焦点深度を有するIOL100の例示的な実施形態を示す。IOL100は、光軸108の周りに配置された前面104及び後面106を有する光学素子102を含む。光学素子102は、両側が凸状(双凸形)であって、挿入前に折り畳むことができる柔らかいプラスチックで作られていてもよく、それによりレンズの光学素子の直径よりも小さな切開部を通して配置することが可能である。IOL100は、患者の眼の水晶体嚢内にIOL100を配置及び安定化させるように概ね動作可能な複数のハプティック110を更に含んでもよい。特定の構造を有するハプティック110が図1に示されているが、本開示は、水晶体嚢、毛様体溝、又は眼内の他の任意の好適な位置内でIOL100を安定化させるための任意の好適な形状及び構造を有するハプティック110を企図している。
【0014】
光学素子102の前面104(又は、他の実施形態では、後面106)は、IOL100のベース屈折力に対応するベース曲率を有してもよい。IOL100のベース屈折力は、典型的には患者の遠方視力に対応する。しかし、これは必須ではない。例えば、両眼に対して全体的な両眼視力を改善するために、非優位眼が、患者の対応する遠方屈折力よりもわずかに小さいベース屈折力を持つIOLを有する場合がある。特定の実施形態では、ベース曲率は非球面であってもよい。図面は、光学素子102の前面104が特定の表面プロファイル、フィーチャ、及び特徴を有するものとして示しているが、本開示は、プロファイル、フィーチャ、及び特徴が光学素子102の後面106に追加的又は代替的に配置されてもよいことを企図していることに留意されたい。更に、開示された例は主に非球面単焦点ベースレンズについて議論しているが、本明細書に記載されたMSPS構造は他のベースレンズプロファイルと組み合わせてもよい。それに応じて、本開示は、非球面単焦点光学素子に限定されず、当業者によって企図されるであろう他の変形例を含む。
【0015】
ベース曲率に加えて、光学素子102の前面104(又は、他の実施形態では、後面106)は、複数の領域を含んでもよい。例えば、前面104は、光軸108から第1の半径方向境界まで延び得るMSPS領域112と、第1の半径方向境界から第2の半径方向境界(例えば、光学素子102の端)まで延び得る屈折領域114とを含んでもよい。光学素子102の前面104は、2つの領域(MSPS領域112及び屈折領域114)を有するものとして図示及び説明されているが、本開示は、光学素子102の前面104又は後面106が任意の好適な数の領域を有する表面プロファイルを含んでもよいことを企図している。単なる一例として、前面104は、代替的に、回折領域によって分離された2つの屈折領域を有する表面プロファイルを含むことができる。
【0016】
MSPS領域112は、複数のMSPSフィーチャ118(ゾーンとしても知られる)を有するモーフィングされた正弦波位相シフト(MSPS)構造116を備えてもよい。以下で詳細に説明するように、MSPS構造116を単焦点非球面光学素子102のベース曲率に追加して、偽水晶体患者に、中距離から近距離(例えば、2D~3D、1.5D~2.5D、1.5D~3.0D)において満足できる遠方視力及び連続的な視力矯正範囲をもたらし得るIOLを形成してもよい。
【0017】
MSPS強化光学素子102の表面は、数学的に説明することができる。特に、光学素子102は、患者のより低い及び/又はより高い遠方における収差を補正するベース非球面単焦点レンズを備えてもよく、特定のサグプロファイルを有してもよい。サグは、光軸から半径方向距離rにおける頂点からの、光学面の変位のz成分の指標である。光学素子102のベースレンズ(Zbase)の前面及び後面のサグプロファイルは、式(1)に従って記述できる。
【数3】
式中、
rは光軸からの半径方向距離を示し、
cは表面のベース曲率を示し、
kは円錐定数を示し、
は2次の変形定数であり、
は4次の変形定数であり、
は6次の変形定数であり、
は8次の変形定数であり、
10は10次の変形定数である。
【0018】
図2は、式(1)に基づく表面サグプロットである。前面及び後面の曲率は、ベースレンズが患者の眼の焦点ぼけを補正するように最適化され得る。その上、円錐定数(k)及び高次係数(例えば、a、a、a、aなど)を調節して、光学素子102の設計のために球面収差の異なるレベルを生成できる。このような球面収差は、個々の患者又は平均的な患者集団の角膜球面収差と組み合わされると、患者に最適な遠方視力矯正を提供できる。
【0019】
中近距離でベースレンズの焦点深度を拡大するために、複数のMSPSゾーン116を備えるMSPS構造116を、光学素子102の前面104又は後面106のいずれかに追加してもよい。MSPS構造(Zadd)によって追加された前面又は後面のサグプロファイルは、式(2)に従って記述できる。
【数4】
式中、
rは光軸からの半径方向距離を示し、
及びRi+1は、各ゾーンの半径方向の始点及び終点であり、
は各ゾーンのステップ高さであり、
は、各ゾーン内の臨界点であり、
iはゾーン番号i=0、1、2、3などを示す。
【0020】
図3は、式(2)に基づいて追加された表面サグの例をプロットしている。図3の左側の曲線で分かるように、第1の正弦波位相シフトゾーン310(i=0)は、RからRに及ぶ。Mは、ゾーン310のステップ高さであり、T は、Rからゾーン310のピーク(点Mにおいて)までの半径方向距離に対応する臨界点である。第2の正弦波位相シフトゾーン320(i=1)は、RからRに及ぶ。Mは、ゾーン320のステップ高さであり、T は、Rからゾーン320のピーク(点Mにおいて)までの半径方向距離に対応する臨界点である。このパターンは、追加のゾーンに対して同様の方法で続く。
【0021】
光学素子102のトータルのサグ(Zoptic)は、ベース表面サグZbaseと、ZMPSSによって記述されたモーフィングされた正弦波位相シフト構造116との組み合わせであり、以下の式(3)に従って記述できる。
optic=Zbase+ZMSPS 式(3)
【0022】
それに応じて、MSPS構造を非球面単焦点ベースレンズに追加することにより、様々な改善された光学設計を開発することができる。一例では、モーフィングされたMSPS116は、以下の表1に示すように7つのMSPSゾーン(i=0~6)を備える。
【0023】
【表1】
【0024】
表1のパラメータによるMSPS構造116を含む光学素子102は、2Dと3Dとの間の拡張焦点深度をもたらすことができる。3.4mmの入射瞳(EP)及び表1のパラメータに対する、光路遅延(opd、ミリメートル単位での半径方向距離の関数として)、及びスルーフォーカス変調伝達関数(MTF、ターゲット輻輳(TV(D))の関数として)の曲線が図4A及び図4Bにプロットされている。
【0025】
別の例では、MSPS構造116は、以下の表2に示すように7つのMSPSゾーン(i=0~6)を備える。
【0026】
【表2】
【0027】
表2のパラメータによるMSPS構造116を含む光学素子102は、2Dと3Dとの間の拡張焦点深度をもたらすことができる。3.4mmの入射瞳(EP)及び表2のパラメータに対する、光路遅延(opd)、及びスルーフォーカス変調伝達関数(MTF)の曲線が図5A及び図5Bにプロットされている。
【0028】
別の例では、MSPS構造116は、以下の表3に示すように7つのMSPSゾーン(i=0~6)を備える。
【0029】
【表3】
【0030】
表3のパラメータによるMSPS構造116を含む光学素子102は、1.5Dと2.5Dとの間の拡張焦点深度をもたらすことができる。3.4mmの入射瞳(EP)及び表2のパラメータに対する、光路遅延(opd)、及びスルーフォーカス変調伝達関数(MTF)の曲線が図6A及び図6Bにプロットされている。
【0031】
それに応じて、本開示の実施形態は、ベース単焦点非球面曲率をMSPS構造と組み合わせて、典型的な単焦点IOLと同様の遠方視力及び安全性プロファイルを維持しながら、近距離及び/又は中間距離において拡張された機能的視野を提供する。特定の変形例では、遠方視力を維持しながら、33cmから50cmの間の近距離において、拡張された且つ連続的な機能的視野が提供される。
【0032】
本明細書で説明するように、ベース非球面単焦点レンズをMSPS構造と組み合わせることにより、多数の長所及び利点が得られる場合がある。例えば、遠方でのベースレンズの画質は、遠方視力(例えば、視力又はコントラスト感度)が患者にとって依然として満足できる範囲で、良好に制御された形で低下し始める場合がある。その上、遠方の画質が低下するにつれて、中間/近くの焦点ぼけ位置の範囲(例えば、2~3D又は1.5~2.5D)での画質が増加し始める場合があり、それにより患者が中間距離/近距離において、はるかに広い焦点範囲にてターゲットを解像できるようになる。
【0033】
それに応じて、以前の拡張焦点深度(EDF)設計は典型的には、焦点深度を遠距離から中間距離に拡張するが、本明細書で説明するMSPS強化設計は、中間視距離及び近視距離(例えば、2Dから3D)に焦点深度を拡張できる。また、2つの異なるポイント(近距離及び遠距離)で視力が補正される以前の単焦点設計と比較して、本明細書で説明するMSPS強化設計は、中間視距離又は近視距離に焦点深度を連続的に拡張する(例えば、2Dから3D)。その結果、本開示は、従来のEDF又は単焦点レンズ設計によって対処されていない患者のニーズ及び利益に対処している。
【0034】
その上、本明細書に記載されるMSPS技術は、従来のEDF IOL設計で使用される不連続回折構造に依存しない。(典型的には視覚妨害を引き起こす)不連続な回折構造を排除することにより、開示されたレンズ設計は、従来の回折レンズと比較して改善された光学性能を提供できる。同様に、本明細書中に記載されるMSPS技術は、焦点深度を拡大するための小さな開口又はピンホール効果を必要としない。従って、本明細書で企図される改善されたMSPS強化レンズ設計は、そのような既存の設計と比較して、光の損失を回避し効率を改善することにより、光学性能を更に改善することができる。加えて、本明細書にて開示された改善されたレンズの前面又は後面のいずれかに追加の球面収差を追加して、様々な瞳孔サイズにおいて光学的遠方視力を実現することができ、それにより、MSPS強化レンズのカスタマイズのための追加の柔軟性がもたらされる。
【0035】
上記で開示した及びその他の、種々のフィーチャ及び機能、若しくはそれらの代替例は、所望により組み合わせて、多くの他の異なるシステム又は適用形態とすることができることが理解されよう。例えば、上述の実施形態は、眼用レンズがIOLであることに関するが、当業者は、本明細書に記載のMSPSのフィーチャ及び技術がソフト又はハードコンタクトレンズにも適用可能であることを理解するであろう。現在は予期されていない又は予想されていない、本開示における種々の代替例、修正例、変形例、又は改善例が、当業者によって引き続き実現されてもよく、この代替例、変形例、及び改善例もまた、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されることも理解されよう。
また、本開示は以下の発明を含む。
第1の態様は、
前面、後面、及び光軸を備える光学素子品を備える眼用レンズであって、
前記前面及び前記後面のうちの少なくとも一方は、
ベース曲率と、
複数のモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを備えるモーフィングされた正弦波位相シフト構造と、
を含む表面プロファイルを有し、
前記表面プロファイルは、
optic=Zbase+ZMSPS
として定義され、
式中、Zbaseは前記ベース曲率の前記表面プロファイルを定義し、ZMSPSは複数の前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造を定義し、
【数5】
であって、
rは前記光軸からの半径方向距離を示し、
cは前記表面のベース曲率を示し、
kは円錐定数を示し、
、a、a、a、及びa10は、それぞれ2次、4次、6次、8次、及び10次の係数であり、
【数6】
であって、
rは前記光軸からの半径方向距離を示し、
及びRi+1は、前記ゾーンの各々の半径方向の始点及び終点であり、
はゾーンの各々のステップ高さであり、
Tiは、前記ゾーンの各々の中の臨界点であり、
iはゾーン番号を示す、眼用レンズである。
第2の態様は、
前記ベース曲率は、前記眼用レンズのベース屈折力に対応する、第1の態様における眼用レンズである。
第3の態様は、
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、中間視距離又は近視距離において前記眼用レンズの焦点深度を拡張するように構成されている、第1の態様における眼用レンズである。
第4の態様は、
モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、30~55cmの範囲の中間視距離又は近視距離において焦点深度を拡張するように構成されている、第3の態様における眼用レンズである。
第5の態様は、
モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、33~50cmの範囲の中間視距離又は近視距離において焦点深度を拡張するように構成されている、第3の態様における眼用レンズである。
第6の態様は、
モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、少なくとも7つのモーフィングされた正弦波位相シフトゾーンを含む、第3の態様における眼用レンズである。
第7の態様は、
眼内レンズを備える、第1の態様における眼用レンズである。
第8の態様は、
コンタクトレンズを備える、第1の態様における眼用レンズである。
図1A
図1B
図2
図3
図4A-B】
図5A-B】
図6A-B】
【手続補正書】
【提出日】2024-05-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼用レンズにおいて、
前記眼用レンズは、前面と、後面と、光軸とを備え、
前記前面及び前記後面の内の少なくとも1つは、モーフィングされた正弦波位相シフト構造を備える表面プロファイルを有し、
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は非対称な正弦波であり、各ゾーンが単一の正弦波の周期を備える複数のゾーンを備える、眼用レンズ。
【請求項2】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、30cm~55cmの範囲の中間視距離又は近視距離を提供するように前記眼用レンズの焦点深度を拡張するように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は、33cm~50cmの範囲の中間視距離又は近視距離を提供するように前記眼用レンズの焦点深度を拡張するように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記複数のゾーンの各々は、隣接するゾーンのステップ高さとは異なるステップ高さをさらに備えている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
前記モーフィングされた正弦波位相シフト構造は少なくとも7つのゾーンを備える、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
前記眼用レンズは眼内レンズを備える、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
前記眼用レンズはコンタクトレンズを備える、請求項1に記載の眼用レンズ。