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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096422
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】月経困難症治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/569 20060101AFI20240705BHJP
   A61P 5/24 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/569
A61P5/24
A61P15/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076914
(22)【出願日】2024-05-10
(62)【分割の表示】P 2022139028の分割
【原出願日】2017-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2016220905
(32)【優先日】2016-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】滝口 和彦
(72)【発明者】
【氏名】笹川 慎一
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は患者の血清エストラジオール濃度を有意に低下させることなく、有効性の高い月経困難症治療薬を提供することである。
【解決手段】
本発明は、ジエノゲストを有効成分として含有する月経困難症治療用組成物であって、好ましくは、1日1mgを2回に分けて経口投与される組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
月経困難症スコアが5点以上の機能性月経困難症をもつ患者のための月経困難症治療用組成物であって、ジエノゲストを有効成分として含有し、ジエノゲストを1日1mgを2回に分けて経口投与され、投与期間中、投与用量の周期的な変動を伴わず、ジエノゲストの一定用量が投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
ジエノゲストを唯一の有効成分として含有する、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
連続して8週間以上の期間に連日投与されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
投与期間中の血清エストラジオール濃度を、投与前と比較して有意に低下させないことを特徴とする、請求項1ないしのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
患者が、投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者である、請求項1ないしのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
月経時に鎮痛剤を1日以上使用する機能性月経困難症をもつ患者のための月経困難症治療用組成物であって、ジエノゲストを有効成分として含有し、ジエノゲストを1日1mgを2回に分けて経口投与され、投与期間中、投与用量の周期的な変動を伴わず、ジエノゲストの一定用量が投与されることを特徴とする組成物。
【請求項7】
ジエノゲストを唯一の有効成分として含有する、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
連続して8週間以上の期間に連日投与されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
投与期間中の血清エストラジオール濃度を、投与前と比較して有意に低下させないことを特徴とする、請求項6ないし8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
患者が、投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者である、請求項6ないし9のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月経困難症を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
月経困難症は、月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状をいい、下腹痛、腰痛、腹部膨満感、嘔気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、いらいら、下痢および憂うつの順に多くみられる(非特許文献1)。
月経困難症は、子宮内膜症や子宮腺筋症などの器質的な病変がある場合(器質性月経困難症)と、骨盤内に疼痛の原因となるような器質的病変のない場合(機能性月経困難症)に分類される。
2000年度厚生科学研究で実施された月経困難症の実態調査によると、20~49歳までの女性のうち33%に月経困難症を認めたが、そのうち医療機関を受診した場合の診断の内訳は、機能性月経困難症が最も多く47.0%と約半数を占めた。器質的な異常としては子宮内膜症が最も多く26.7%で、次いで、子宮筋腫と診断されたものが17.3%であったと報告されている(非特許文献2)。
【0003】
器質的な疾患のない機能性月経困難症は、月経の初日および2日目頃の出血が多いときに強く、痛みの性質はけいれん性、周期性であり、頸管狭小やプロスタグランジン(PG)などの内因性生理活性物質による子宮の過収縮などが原因といわれている。
一方、器質性月経困難症は、月経前4~5日から月経後まで続く持続性鈍痛のことが多いとされる。しかし、機能性でも器質性でも月経痛発生のメカニズムは同一であり、子宮腔内に貯留した月経血を排出するために子宮平滑筋が過収縮を起こすことによるとされている(非特許文献3)。
【0004】
機能性月経困難症の治療には、PG産生を阻害する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛剤や、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(以下、本明細書において「LEP製剤」ともいう)による薬物療法が第一選択とされている(非特許文献1)。
【0005】
LEP製剤は、エストロゲンとプロゲスチンが配合されているが、月経困難症に有効な主たるホルモンはプロゲスチンであるとされ、エストロゲンはプロゲステロン受容体の発現・維持に必要であり、低用量のプロゲスチンでも十分なプロゲステロン作用を発揮するための補助的役割を果たすと説明されている。プロゲスチンはそのプロゲステロン活性により子宮内膜増殖を抑制して内膜を菲薄化させ、さらにシクロオキシゲナーゼ(COX)の発現を抑制することにより月経期のPG産生を抑制するとされている(非特許文献2)。
LEP製剤は重篤な副作用として血栓症があり、喫煙例や肥満例等では血栓症リスクが高率となることが知られている。
日本において、現在は、月経困難症に対する保険適用のあるLEP製剤として、例えば、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(製品名:ヤーズ(登録商標)配合錠)あるいは、ノルエチステロン・エチニルエストラジオール錠(製品名:ルナベル(登録商標)配合錠LDおよびULD)などが用いられている(非特許文献2)。
【0006】
ヤーズ(登録商標)配合錠の添付文書の薬効薬理には、「本剤は、排卵抑制作用及び子宮内膜増殖抑制作用によって、PG類等の過剰産生を抑制することにより子宮収縮運動を抑制し、月経困難症の疼痛などの症状を軽減すると考えられる」と記載されている(非特許文献4)。ルナベル(登録商標)配合錠LDおよびULDの添付文書もほぼ同様の内容が記載されている(非特許文献5)。
ヤーズ(登録商標)配合錠のインタビューフォームには、「血清エストラジオール濃度を指標とした排卵抑制効果」として、ベースライン及び第4周期の卵胞期における血清エストラジオール濃度が開示されている。第4周期の血清エストラジオール濃度は低下しており、卵胞成熟抑制を示す閾値であるとされる30pg/mLを上回る患者は機能性月経困難症患者32例及び器質性月経困難症患者19例中数例しか認められなかったことが示されている(非特許文献6)。
一方で、血清エストラジオール濃度の過度な低下は、情緒不安定やめまい、脂質代謝異常等のほか、骨密度の低下などの副作用も引き起こす可能性があることが知られている。
【0007】
ルナベル(登録商標)配合錠LDおよびULDのインタビューフォームには、「排卵抑制作用」として、血清中エストラジオール濃度の推移が開示されている。LDでは、投与周期の血清中エストラジオール濃度は低下しており、投与期間中変動がないが、ULDでは、LDよりやや高めに推移している(非特許文献7)。
【0008】
プロゲスチン製剤の一種であるレボノルゲストレル放出子宮内システム(製品名:ミレーナ(登録商標)52mg)は、月経困難症の効能をもつ。本剤は、子宮内で長期に放出されるレボノルゲストレルが子宮内膜を委縮させるため本システム適用中の妊娠は高度に抑制される。さらに、内膜の委縮により月経量が減少するため、過多月経や月経痛を緩和する効果が認められる。作用は子宮内膜に対する局所的なものであり全身的な副作用がないこと、排卵を抑制しないので低エストロゲン状態をきたさないこと、一度の挿入で5年間効果が持続するなどから、LEP製剤の禁忌症例や内服コンプライアンスの低い症例に対して有用とされている(非特許文献8)。
【0009】
また、黄体ホルモン作用を示すジドロゲステロンが、排卵を抑制することなく機能性月経困難症に対して有効であったとするスタディが存在する。これら2報の研究では、ジドロゲステロンは月経周期の5日目から25日目まで投与されている(非特許文献9、10)。
【0010】
ジエノゲストは、器質性月経困難症の原因疾患として典型的な子宮内膜症をもつ患者の月経困難症に対して治療効果を発揮することが知られている(非特許文献8、11)。
子宮内膜症に関しては、ジエノゲスト錠1mgの申請資料概要書で、子宮内膜症に対する後期第II相試験において、ジエノゲスト(1mg/日、2mg/日、4mg/日)の各用量で1日2回投与したときの、投与8週~投与終了時(24週間)の血清エストラジオール濃度の平均値(中央値)が、1mg/日群、2mg/日群、4mg/日群で、それぞれ84.5pg/mL(72.5pg/mL)、37.4pg/mL(29.9pg/mL)、26.2pg/mL(21.1pg/mL)であり、用量反応関係が認められたことが開示されている(非特許文献12)。
ジエノゲストは、日本において、「ディナゲスト(登録商標)錠1mg」として、「子宮内膜症」の効能・効果で販売されている。用法・用量は「通常、成人にはジエノゲストとして1日2mgを2回に分け、月経周期2~5日目より経口投与する」とされている。
子宮内膜症に対する作用機序は、添付文書によれば、「本剤はプロゲステロン受容体に対する選択的なアゴニスト作用を示し、卵巣機能抑制及び子宮内膜細胞の増殖抑制により子宮内膜症に対する有効性を示すと考えられる」とされている(非特許文献13)。
【0011】
ジエノゲストの排卵抑制効果については、ジエノゲストの排卵抑制の最小用量を決めることを目的として、子宮内膜症など器質的疾患のない健康な女性33例にジエノゲスト(0.5mg/日、1mg/日、1.5mg/日、2.0mg/日)の各用量を1日1回21日間投与したところ、ジエノゲスト0.5mg/日は、被験者の2/3で排卵を抑制し、1~2mg/日では全ての被験者で排卵を抑制したとされている。この試験の中で、コントロール期間(投薬前)は4例の月経困難症があったが、治療期間は月経困難症の発生がゼロになったことが開示されている(非特許文献14)。
また別のスタディでは、ジエノゲストの排卵抑制効果を調べるため、健常女性102例にジエノゲスト(0.5mg/日、1mg/日、2mg/日、3mg/日)の各用量を1日1回72日間投与したところ、投与期間中に排卵があった女性は、0.5mg/日群では21例中3例、1mg/日群では23例中1例、2mg/日群では20例中0例、3mg/日群では23例中0例であったとされる。また、最大血清エストラジオール濃度は、0.5mg/日群と1mg/日群では投与前の値と同程度であり、2mg/日群と3mg/日群では、穏やかに低下したこと、子宮内膜の厚さは、全ての用量で減少したことが開示されている(非特許文献15)。しかし、月経困難症についての言及はなかった。
【0012】
ジエノゲストを機能性月経困難症に適用することについて、一般財団法人日本医薬情報センターの臨床試験情報のウェブページにおいて、機能性月経困難症患者を対象とし、プラセボを対照としたランダム化二重盲検並行群間比較試験により、ジエノゲストの2、1、および0.5mg/日の有効性および安全性を検討する試験を、2015年8月3日~2016年11月30日の期間に実施することが開示されている(非特許文献16)が、その結果は不明である。
また、吉草酸エストラジオールとジエノゲストの配合剤が、エチニルエストラジオールとレボノルゲストレルの配合剤と同様に、機能性月経困難症に対して有効であったことが開示されている。ここで使用された製剤は、吉草酸エストラジオール3mgを2日間、吉草酸エストラジオール2mgとジエノゲスト2mgの配合剤を5日間、吉草酸エストラジオール2mgとジエノゲスト3mgの配合剤を17日間、吉草酸エストラジオール1mgを2日間、プラセボを2日間、の28日間を1周期として繰り返し服用する製剤である(非特許文献17)。
【0013】
月経困難症治療に関連した特許出願として、エストロゲン及び/又はプロゲスチンを含む連続ホルモン処理のための月経困難症などの治療用製剤において、最初の21~28日に投与される第1組成物での医薬用量よりも、それ以降の期間に投与される第2組成物での医薬用量を増加させることが提案されているが、何ら具体的なデータは開示されていない(特許文献1)。
【0014】
以上のように、これまで、ジエノゲストの単剤について、子宮内膜症をもつ患者における月経困難症の治療効果は知られているが、月経困難症を対象とした試験が試みられたことはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2007-512291号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2014-日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会 113~114頁
【非特許文献2】Pharma Medica Vol.32 No.6 (2014), pp.45~48
【非特許文献3】産科と婦人科 2011年11号 1315~1319頁
【非特許文献4】ヤーズ(登録商標)配合錠 添付文書 2016年5月改訂(第7版)
【非特許文献5】ルナベル(登録商標)配合錠 添付文書 2016年10月改訂(第13版)
【非特許文献6】ヤーズ(登録商標)配合錠 インタビューフォーム 2016年9月改訂(改訂第9版)18頁
【非特許文献7】ルナベル(登録商標)配合錠インタビューフォーム 2016年6月改訂(第14版)14頁
【非特許文献8】産科と婦人科 2013年8号 993~997頁
【非特許文献9】Bulletin de la Societe Royale Belge de Gynecologie et d'Obstetrique, (1967) Vol. 37, No. 4, pp. 273-276.
【非特許文献10】JAMA, (1965 Jun 14) Vol. 192, pp. 1003-5.
【非特許文献11】Pharma Medica Vol.32 No.6 (2014), pp.35~38
【非特許文献12】ジエノゲスト申請資料概要 後期第II相試験 792~860頁
【非特許文献13】ディナゲスト錠1mg添付文書 2013年5月改訂(第5版)
【非特許文献14】Clin Drug Invest 1999 18(4) p.271-278
【非特許文献15】J Clin Pharmacol 2012; 52: p.1704-1713
【非特許文献16】一般財団法人日本医薬情報センター 臨床試験情報 JapicCTI-152977
【非特許文献17】International J Gynecol. Obs. 125(2014) p.270-274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
近年、機能性月経困難症に対しては、鎮痛剤(NSAIDsなど)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)による薬物療法が第一選択とされている。しかし、これらの薬剤で十分な疼痛緩和を含む月経困難症治療効果が得られない場合がある。また、鎮痛剤は消化器症状など、LEP製剤は血栓症など副作用の懸念があり、患者によってはこれらの薬剤を投薬できない場合がある。
プロゲスチン製剤の一種であるレボノルゲストレル放出子宮内システムも月経困難症に使用しうるが、子宮内に装着を続ける製剤であって、医師による着脱が必要であり、簡単に投薬中断やスケジュール変更ができないというデメリットがある。黄体ホルモン作用を示すジドロゲステロンは排卵を抑制しないため、排卵抑制する製剤と比較すれば月経困難症に対する効果は弱い可能性がある。
また、重症例の月経困難症の場合、極めて強い下腹痛、腰痛などが2日、又は3日以上も続き、その間鎮痛剤を飲み続けることが多い。特に疼痛がひどい場合や鎮痛剤投与ができない場合など1日以上寝込む場合もある。このような重症例の月経困難症の患者は、仕事、学業のみならず、日常の生活にも支障をきたすこととなるため、患者にとってきわめて深刻な問題である。
【0018】
本発明の課題は、ホルモン製剤として月経困難症治療のスタンダードとされているLEP製剤と比較しても有効性が高く、血栓症など重大な副作用のリスクが小さい、投薬が簡便であり、連日投与できる月経困難症治療薬を提供することである。特に、月経困難症に伴う疼痛の程度が中等度または重度の患者に対しても、また器質的疾患がない機能性月経困難症の患者に対しても改善効果の高い治療薬を提供することである。
本発明の別の課題のひとつは、患者の血清エストラジオール濃度に有意な影響を与えず身体への負担が軽減される、有効性の高い月経困難症治療薬を提供することである。すなわち、患者によっては血清エストラジオール濃度の低下に伴い、骨量の低下、ほてりなどの更年期症状、不眠、気分の落ち込み、鬱のような症状などがみられることがあるため、血清エストラジオール濃度は必要以上に低下させないことが望ましい。
また、特に投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者への第1選択肢となる治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、月経困難症に対する治療薬としてジエノゲストの可能性を検討し、機能性月経困難症患者を対象とした臨床試験を実施した。その結果、ジエノゲストは、月経困難症の効能をもつLEP製剤(製品名:ヤーズ(登録商標))と比較しても、優れた有効性を発揮することを見出した。すなわち、投与8週時の月経困難症スコア変化量を評価したところ、ジエノゲスト0.5mg/日、1mg/日又は2mg/日の8週間連日投与は、プラセボ投与に比して、統計学的な差をもって、月経困難症スコアを低下させたことが分かった。投与12週時の月経困難症スコア変化量の評価では、ジエノゲスト1mg/日又は2mg/日の12週間連日投与は、ヤーズ(登録商標)投与と比較しても、統計学的な差をもって、月経困難症スコアを低下させたことが分かった。
【0020】
投与12週時における月経困難症スコア完全消失率の評価では、プラセボに比し、ヤーズ(登録商標)投与の完全消失率に明確な差は認められなかったが、ジエノゲスト1mg/日または2mg/日投与の完全消失率は、ヤーズ(登録商標)投与と比較しても、いずれも高値であり、統計学的な差が認められた。
また、ジエノゲスト1日1mgを2回に分けて投与すれば、患者の血清エストラジオール濃度に有意な影響を与えることなく、ジエノゲスト1日2mg投与したときに匹敵する優れた機能性月経困難症の治療効果が得られることが示唆された。
しかも、本発明の組成物投与前の黄体期における血清エストラジオール濃度が比較的低め(例えば、150pg/mL以下)の機能性月経困難症患者における集計においても、ジエノゲスト1mg/日投与期間中の平均血清エストラジオール濃度の平均値及び中央値は、プラセボ投与と比較してほぼ同程度であり、血清エストラジオール濃度を有意に低下させることなく月経困難症を効果的に治療しうることが示唆された。
【0021】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
〔1〕 ジエノゲストを有効成分として含有する、月経困難症をもつ患者のための月経困難症治療用組成物。
〔2〕 ジエノゲストを唯一の有効成分として含有する、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕 連続して8週間以上の期間に連日投与されることを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕 ジエノゲストが1日1mgを2回に分けて経口投与される、前記〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔5〕 投与期間中、投与用量の周期的な変動を伴わず、ジエノゲストの一定用量が投与されることを特徴とする、前記〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の組成物。
〔6〕 投与期間中の血清エストラジオール濃度を、投与前と比較して有意に低下させないことを特徴とする、前記〔1〕ないし〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔7〕 患者が、投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者である、前記〔1〕ないし〔6〕のいずれかに記載の組成物。
〔8〕 患者が、子宮内膜症、子宮筋腫、または、子宮腺筋症のいずれにも罹患していない患者である、前記〔1〕ないし〔7〕のいずれかに記載の組成物。
〔9〕 患者が、組成物投与前の黄体期における血清エストラジオール濃度が150pg/mL以下の患者である、前記〔1〕ないし〔8〕のいずれかに記載の組成物。
〔10〕 患者が、組成物投与前の、月経困難症に起因すると考えられる最も重い疼痛(下腹痛・腰痛)の程度が中等度または重度の患者である、前記〔1〕ないし〔9〕のいずれかに記載の組成物。
〔11〕 患者が、組成物投与前の、月経困難症に起因すると考えられる最も重い疼痛(下腹痛・腰痛)の程度が中等度または重度の患者であり、かつ、その疼痛時に鎮痛剤の使用を必要とする患者である、前記〔1〕ないし〔10〕のいずれかに記載の組成物。
〔12〕 患者が、組成物投与前の月経困難症スコアが3点以上の患者である、前記〔1〕ないし〔11〕のいずれかに記載の組成物。
〔13〕 患者が、組成物投与前の月経困難症スコアが5点または6点の患者である、前記〔12〕に記載の組成物。
〔14〕 月経困難症が機能性月経困難症である、前記〔1〕ないし〔13〕のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鎮痛剤やLEP製剤で十分な疼痛緩和が得られない機能性月経困難症に対する治療の選択肢を提供することが可能となる。ジエノゲストは経口投与可能であって簡便に投薬でき、LEP製剤と比較して血栓症などの重大な副作用のリスクが小さい。
LEP製剤は、一般に休薬期間(又はプラセボ投与期間)があり、その休薬期間に月経困難症の症状が起こる場合があるが、ジエノゲストは、原則、休薬期間を置かず連日投与するため、そのような心配がない。また、鎮痛剤は服用しすぎると消化器症状、浮腫、全身血流障害、腎障害などが懸念されるが、ジエノゲストはそのようなリスクは比較的低い。
また、本発明によれば、月経困難症に伴う疼痛の程度が中等度または重度の患者や、さらにその疼痛時に鎮痛剤の使用を必要とする患者に対して高い治療効果を発揮する可能性がある。また、組成物投与前の月経困難症スコアが3点以上の患者、特に5点または6点の患者に対して効果的である。
また、ジエノゲスト1日1mgを2回に分けて投与する場合には、患者の血清エストラジオール濃度に影響を与えず身体への負担が軽減されており、骨量の低下、ほてりなどの更年期症状、不眠、気分の落ち込み、鬱のような症状などの副作用が起こりにくいという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】投与終了時(投与12週時)の月経困難症スコア完全消失率
図2】重症例の機能性月経困難症患者における月経困難症スコア完全消失率
図3】各群における平均血清エストラジオール濃度の中央値
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.ジエノゲスト
本発明は、ジエノゲストを有効成分として含有する、月経困難症治療用組成物に関する。
本発明の有効成分であるジエノゲスト(17-Hydroxy-3-oxo-19-nor-17α-pregna-4,9-diene-21-nitrile)は、下記式(1)に示される構造を有する化合物である。
【0025】
【化1】
【0026】
本発明の組成物の有効成分であるジエノゲストは、子宮内膜症の効能・効果で、製品名「ディナゲスト錠(登録商標)1mg」、「ディナゲスト(登録商標)OD錠1mg」として日本において販売されている。
本発明の治療対象とする疾患は、月経困難症、特に、機能性月経困難症である。
本明細書において、ジエノゲストを有効成分として含有する本発明に係る月経困難症治療用組成物を「本発明の組成物」という場合がある。
【0027】
2.月経困難症、機能性月経困難症
月経困難症は、月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状をいう。下腹痛、腰痛、腹部膨満感、嘔気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、いらいら、下痢および憂うつの順に多くみられる。症状がひどい場合には、その下腹痛、腰痛などの疼痛が2日さらには3日以上も続き、寝込む場合もあって、仕事、学業のみならず日常生活にも支障をきたす場合もある。
月経困難症は、機能性月経困難症と器質性月経困難症とに分類される。
機能性月経困難症(原発性月経困難症ともいう)は、骨盤内に疼痛の原因となるような器質的病変のない月経困難症である。初経後2~3年より始まり、10歳代後半から20歳代前半の分娩経験のない女性に多い。月経の初日および2日目頃の出血が多いときに強く、痛みの性質は痙攣性、周期性である。その主な原因は、黄体期後期の血中プロゲステロン濃度の低下に伴う子宮内膜由来のプロスタグランジンによって生じる子宮平滑筋の過収縮と、それに伴う虚血、低酸素状態および末梢神経の刺激と考えられている。
一方、器質性月経困難症(続発性月経困難症ともいう)は、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、頸管狭小あるいはミュラー管異常による月経流出路の閉鎖などの器質的病変に起因する月経困難症である。月経前4~5日から月経後まで続く持続性鈍痛のことが多いとされる。
【0028】
3.対象患者
本発明の対象とする疾患は月経困難症であり、治療対象とする患者は月経困難症をもつ患者である。
本発明の態様のひとつでは、本発明の対象とする疾患は機能性月経困難症であり、対象とする患者は機能性月経困難症をもつ患者である。
【0029】
本発明の別の態様のひとつでは、本発明の対象とする患者は、好ましくは、投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者である。すなわち、治療薬を投与している期間中の血清エストラジオール濃度が、投与開始前の血清エストラジオール濃度と比較して有意に低下しないことが望ましい患者である。
本明細書の実施例において、ジエノゲスト1mg/日投与群の投与期間中の平均血清エストラジオール濃度の平均値及び中央値は、プラセボ投与群とほぼ同程度であったことから、ジエノゲスト1mg/日投与は、被験者の投与前の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが予測される。したがって、このような「投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者」に対しては、ジエノゲストの1日投与量を1mg以下とすることが望ましい。より好ましくは、ジエノゲストの1日投与量1mgを1日2回に分けて投与することが望ましい。
【0030】
ここで、「投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者」の態様の一つとしては、子宮内膜症、子宮筋腫、または、子宮腺筋症のいずれにも罹患していない患者である。これらの疾患はエストロゲンの影響を受ける疾患であることが知られており、例えば、子宮内膜症では、血中のエストロゲン濃度を30~50pg/mLに保つことが治療上望ましいとする考え方(セラピューティックウィンドウ仮説)も存在する。
【0031】
「投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者」の別の態様のひとつとしては、血清エストラジオール濃度が比較的低めの患者であり、具体的には、本発明の組成物投与前の黄体期における血清エストラジオール濃度(好ましくは、複数回測定値の平均値または中央値)が150pg/mL以下の患者である。より好ましくは、組成物投与前の黄体期における血清エストラジオール濃度が120pg/mL以下、さらに好ましくは、100pg/mL以下の患者である。本発明において、「黄体期」とは、排卵期の後から月経までの期間をいう。より好ましくは月経開始予定日から10日前~5日前の期間であり、さらに好ましくは、月経開始予定日から8日前~6日前の期間をいう。
【0032】
「エストラジオール」は、卵胞ホルモンであるエストロゲンの一種である。エストロゲンは、子宮内膜の増殖、子宮筋肥大増殖、乳腺発育、骨の発育など様々な役割を果たしており、特にエストラジオールは生理活性が高く、エストロゲンの中でも最も大きな役割を果たしている。
血清エストラジオール濃度は、通常、卵胞期、排卵期、黄体期などの周期に伴い変動する。女性における黄体期における血清エストラジオール濃度の基準値は諸説あるが、一般的に45~300pg/mlなどといわれている。投与前の血清エストラジオール濃度が比較的低めの場合、薬剤投与によりさらにエストラジオール濃度を低下させると、血清エストラジオール低値に伴う副作用のリスクが高まるため、過度の血清エストラジオール濃度の低下は避けることが望ましい。
血清エストラジオール濃度が低下すると、人によっては、ほてりや発汗、疲労感などの更年期様症状、卵巣機能低下、骨量の減少など副作用がみられる場合があるため、疾患治療との関係で必要がなければ、投薬前の血清中エストラジオール濃度が維持されることが好ましい。
【0033】
卵巣機能低下症などに罹患することで血清内エストラジオール濃度は低くなり、また特別な疾患はなくても過度なストレスにさらされてホルモンバランスが乱れた場合、栄養不足、更年期など加齢によっても血清エストラジオール濃度が低い傾向にあるが、その場合、月経困難症治療によってさらに血清エストラジオール濃度を低くすることは避けることが望ましい。また、骨粗鬆症に罹患している患者など骨密度の低い患者も同様である。
【0034】
このような患者は、特に、血清エストラジオール濃度を低下させる傾向があるLEP製剤は適用しにくい。
一方、本発明のジエノゲストを有効成分とする月経困難症治療用組成物は、投与期間中に血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが示唆されているため、このような「投与期間中に血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者」に対して第一選択肢として投与することが可能な医薬組成物である。
【0035】
本発明において、「投与期間中の血清エストラジオール濃度を有意に低下させないことが望ましい患者」の別の態様のひとつとしては、ストレスや加齢等によるホルモンバランスの乱れ、もしくは卵巣機能低下症などに罹患して血清内エストラジオール濃度が低い患者、又は骨粗鬆症に罹患している患者など骨密度の低い患者などである。
【0036】
本発明のまた別の好ましい態様のひとつでは、本発明の対象とする患者は、脂質代謝異常のある患者である。エストロゲン(エストラジオールを含む)は女性の脂質代謝に影響を及ぼし、エストロゲンの欠乏により脂質代謝が変動することが知られている。従って、脂質代謝異常(例えば、高トリグリセリド血症など)のある患者は、過度の血清エストラジオール濃度の低下は避けることが望ましい。本明細書の実施例に記載の臨床試験において、プラセボ投与と比較して、ジエノゲスト投与が血中トリグリセリドに影響を与えるとはいえなかったため、本発明の組成物は脂質代謝異常を増悪させないことが期待できる。
【0037】
本発明のまた別の好ましい態様のひとつでは、本発明の対象とする患者は、組成物投与前の月経困難症スコア(下記4.で後述)が3点以上の月経困難症の患者である。本明細書の実施例において、組成物投与前の月経困難症スコアが3点以上の機能性月経困難症患者を対象とした試験で、ジエノゲスト1mg/日群および2mg/日群は、月経困難症スコア変化量および月経困難症スコア完全消失率の評価において、参照薬投与群と比較して、統計学的な差をもって高い治療効果を発揮することが示された。このようにジエノゲストは組成物投与前の月経困難症スコアが3点以上の機能性月経困難症の患者に対して高い治療効果を発揮することが示されたことから、組成物投与前の月経困難症スコアが3点以上の月経困難症に対して優れた治療効果を発揮することが示唆された。
【0038】
本発明のまた別の好ましい態様のひとつでは、本発明の対象とする患者は、組成物投与前の月経困難症スコアが5点または6点の月経困難症の患者である。本発明の実施例において、組成物投与前の月経困難症スコアが5点または6点の重症例の機能性月経困難症患者において、ジエノゲスト1mg/日、又は2mg/日を連日投与したときの投与12週時の月経困難症スコア完全消失率は、それぞれ、60.0%、59.1%であって、ヤーズ(登録商標)投与の19.0%と比較して有意に高値を示した。このようにジエノゲストは組成物投与前の月経困難症スコアが5点または6点の重症例の機能性月経困難症の患者に対しても高い治療効果を発揮することが示されたことから、組成物投与前の月経困難症スコアが5点または6点の重症例の月経困難症に対しても優れた治療効果を発揮することが示唆された。
【0039】
本発明のまた別の好ましい態様のひとつでは、本発明の対象とする患者は、組成物投与前の、月経困難症に起因すると考えられる最も重い疼痛(下腹痛・腰痛)の程度が中等度もしくは重度の患者であり、又は月経困難症に伴う疼痛の程度が中等度もしくは重度であって、かつその疼痛時に鎮痛剤の使用を必要とする患者である。
これらの態様における「疼痛」「疼痛の程度」は、実施例1(表1)に示す月経困難症スコアにおける記載を参照できる。すなわち、疼痛の程度が「中等度」とは、横になって休憩したくなるほど仕事(学業・家事)への支障をきたすことをいい、「重度」とは、1日以上寝込み、仕事(学業・家事)ができないことをいう。また、ここでの「鎮痛剤」は疼痛緩和を目的として服用する薬剤をいい、特に限定されないが、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム等のNSAIDs等が挙げられる。
本明細書の実施例において、本発明の組成物は、組成物投与前の月経困難症スコアが5点または6点の患者に対して優れた治療効果を発揮したが、これらの患者は少なくとも疼痛の程度は中等度以上の患者である。このことから、月経困難症に伴う疼痛の程度が中等度または重度の患者に対して高い治療効果を発揮することが示唆された。また、月経困難症に伴う疼痛の程度が中等度または重度であって、かつかつその疼痛時に鎮痛剤の使用を必要とする患者に対しても高い治療効果を発揮することが示唆された。
【0040】
本発明のまた別の好ましい態様のひとつでは、本発明の対象とする患者は、LEP製剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)による治療に奏功しなかった月経困難症の患者である。前記のとおり、ジエノゲストは、LEP製剤のヤーズ(登録商標)と比較して、機能性月経困難症の治療効果が高かったことから、LEP製剤で十分な治療効果が得られなかった患者に対しても治療効果を発揮することが予想される。本発明において「LEP製剤」とは低用量の卵胞ホルモン様物質と黄体ホルモン様物質を含有する医薬を意味し、特に限定されないが、例えば、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(製品名:ヤーズ(登録商標)配合錠)あるいは、ノルエチステロン・エチニルエストラジオール錠(製品名:ルナベル(登録商標)配合錠LDおよびULD)などが挙げられる。
【0041】
本発明のまた別の好ましい態様のひとつでは、本発明の対象とする患者は、血栓症のリスクのある患者である。血栓症のリスクのある患者とは、例えば、血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患など血栓性疾患に罹患している患者またはその既往歴のある患者、35歳以上の喫煙者、血管病変を伴う糖尿病患者、血栓性素因のある患者、高血圧のある患者、血液凝固系の検査項目に異常のある患者などが挙げられる。血液凝固系の検査項目は、例えば、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロテインS活性、D-ダイマー、アンチトロンビンIII、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)などが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書の実施例に記載の臨床試験において、ジエノゲスト投与群では、血液凝固系の検査項目の検査値異常はわずかであったため、本発明の組成物は、患者の血栓症リスクをさらに増悪させないことが期待できる。
【0042】
4.本発明で用いられた評価方法
<月経困難症スコア>
月経困難症の評価の指標のひとつとして、「月経困難症スコア」が知られている(産科と婦人科2008年9号p.1165-1181)。「月経困難症スコア」とは、月経困難症の重症度を数値化したものであって、より具体的には、月経困難症に起因すると考えられる疼痛(下腹痛・腰痛)の程度、及び、その疼痛時における鎮痛剤の使用状況をそれぞれ0点~3点の4段階でスコア化し、合計して得られる数値である。数値が高いほど重度の月経困難症であり、6点が最も重度であることを意味する。具体的な評価基準は、例えば、本明細書の実施例1の表1に示されるとおりである。ここで、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0043】
<月経困難症スコア変化量>
本発明において、「月経困難症スコア変化量」とは、一定の投薬期間後の月経困難症スコアから、投薬前の月経困難症スコアを減算して得られた数値である。月経困難症スコア変化量が正の数値の場合には、月経困難症の症状が一定の投薬期間中に悪化したことを表し、負の数値の場合には、一定の投薬期間中に月経困難症スコアが低下し、月経困難症の症状が軽減又は消失したことを表す。
【0044】
本明細書の実施例において、ジエノゲスト1mg/日、又は2mg/日の12週間投与は、機能性月経困難症患者の月経困難症スコアを、プラセボ群や参照薬(ヤーズ(登録商標))群と比較しても統計学的な差をもって低下させ、機能性月経困難症に対して優れた治療効果を発揮することが見出された。本発明の組成物を12週間連日投与したとき、投与前と投与12週時の月経困難症スコアの変化量は、-2以下であることが好ましく、より好ましくは、-3以下である。
【0045】
<月経困難症スコア完全消失率>
また、本発明において、「月経困難症スコア完全消失」とは、投与終了時に月経困難症スコアが0になることをいう。「月経困難症スコア完全消失率」とは、特定の被験者群に対する月経困難症スコアが0になった被験者の割合をいう。
【0046】
<血清エストラジオール濃度の測定、比較>
血清エストラジオールの測定には、市販の様々な測定試薬や測定キット等を利用できる。
また、本発明において、投与前と投与期間中の被験者の血清エストラジオール濃度を比較するときは、複数回の測定値の平均値、又は中央値を用いることが望ましい。本発明の実施例では、飛び値の影響を避けるために中央値を用いて表示し、評価している。
【0047】
5.本発明の組成物
本発明の組成物は、有効成分としてジエノゲストを含有するが、その他にも本発明の効果を阻害しない限り、製薬学上許容される添加剤等を含有することができる。
添加剤としては、例えば、基剤、担体、溶剤、希釈剤、溶解助剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、等張化剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色剤、香料、及びキレート剤等などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の組成物が添加剤を含有する場合には、剤形に応じた慣用の方法に従って添加剤を用いることにより、本発明の組成物を製造することができる。
【0048】
本発明の組成物は、経口的又は非経口的(例、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腟内等への投与及び直接的な病巣への投与等)に、安全に投与することができる。この場合、経口投与が簡便であり望ましい。
本発明の組成物は、任意の剤形、例えば、錠剤、口腔内崩壊錠、カプセル剤、フィルム剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、注射剤、懸濁剤、乳剤等であることができるが、これらに限定されない。好ましくは、錠剤又は口腔内崩壊錠である。
【0049】
また、本発明の有効成分であるジエノゲストは、製剤上の必要に応じて、溶媒和物のような他の化合物との付加物として製剤中に配合してもよいし、プロドラッグとして製剤中に配合してもよい。
【0050】
本発明の組成物は、経口投与する場合のジエノゲストの1日当たりの投薬量は、成人女性では、ジエノゲスト0.5mg~2mg/日が好ましく、より好ましくは1mg/日である。経口投与する場合の1日あたりの好ましい投与回数は1日1回または1日2回であり、より好ましくは、1日2回である。1日投与量を2回に分けて投与する場合は、1日投与量を均等に2分して投与することが好ましい。例えば、ジエノゲスト1mg/日を1日2回に分けて投与する場合は、1回投与量0.5mgを1日2回投与することが好ましい。また、好ましくは、ジエノゲストは、毎日一定の時刻に投与されることが好ましい。
投薬開始時期は、月経開始2~5日目から投薬開始されることが好ましい。
【0051】
本発明の組成物の投薬期間は、特に限定されないが、好ましくは、少なくとも8週間、より好ましくは、少なくとも12週間投与されることが望ましく、その際、周期的な投与用量の変動を行うことなく、一定用量のジエノゲストが投与されることが望ましい。本明細書の実施例に記載の試験から、本発明の組成物は8週間程度の投与により機能性月経困難症に対して十分な治療効果を発揮することが分かった。
また、本発明の組成物の投薬期間に制限はなく、数年にわたり投薬されてもよい。「ディナゲスト(登録商標)錠1mg」は、子宮内膜症の効能について投与期間の制限は設けられておらず、数年間投与されている例もあるため、比較的安全性は高い。
【0052】
本発明の組成物は、投薬期間中、連日投与することが望ましい。少なくとも8週間、より好ましくは12週間の一定用量のジエノゲストの連日投与が好ましい。LEP製剤は、一般に休薬期間を設けており、休薬期間に子宮から消退出血があるため、月経困難症の疼痛が生じる可能性があるが、本発明の組成物は連日投与するため、その懸念はない。
【0053】
本発明の組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、他の薬剤と併用して用いることができる。併用しうる他の薬剤は、特に限定されないが、例えば、GnRHアナログ(酢酸ゴセレリン、酢酸ブセレリン、酢酸リュープロレリン、酢酸ナファレリン等)、テストステロン誘導体(ダナゾール等)、黄体ホルモン様物質や卵胞ホルモン様物質を主成分とするホルモン剤(エストラジオール、結合型エストロゲン、経口避妊薬など)、卵胞ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、鎮痛剤(アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェナナトリウム等のNSAIDs等)、貧血治療剤(鉄剤等)、止血剤(トラネキサム酸、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物等)、漢方薬(キュウ帰膠艾湯等)などが挙げられる。
【0054】
本発明において、「他の薬剤との併用」とは、ジエノゲストを有効成分とする組成物と他の薬剤とを同時に投与する態様と、別々に投与する態様が含まれる。同時に投与される場合、配合剤とすることも2剤とすることもできる。別々に投与される場合、ジエノゲストを有効成分とする組成物を他の薬剤より先の投与することも後に投与することもできる。
【0055】
本発明の別の態様として、ジエノゲストを含有する組成物が、GnRHアナログ、テストステロン誘導体、黄体ホルモン様物質及び/又は卵胞ホルモン様物質を主成分とするホルモン剤、卵胞ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤からなる群から選ばれる薬剤との併用投与ではない態様も好ましい。
また、本発明の組成物が、卵胞ホルモン様物質を含有しない態様も好ましい。本発明において、卵胞ホルモン様物質とは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と同様の作用をもつ物質をいい、例えば、エストロゲン、エストラジオール、エチニルエストラジオール、吉草酸エストラジオールなどが挙げられる。
また、別の好ましい態様として、本発明の組成物が、月経困難症に対する唯一の有効成分としてジエノゲストを含有する態様も望ましい。
【実施例0056】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0057】
(実施例1)機能性月経困難症患者におけるジエノゲストの有効性及び安全性を検討する臨床試験
(1-1)試験の設計
機能性月経困難症患者におけるジエノゲストの有効性及び安全性を検討することを目的とした臨床試験(多施設共同ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験)が実施された。
目標被験者数は225例であり、被験者は5群にランダムに割りつけられた(1群46~49例)。各群の用量は下記のとおりである。V群は参照薬投与群として非盲検で行われた。
【0058】
I群:プラセボ
II群:ジエノゲスト0.5mg/日(DNG0.5mg/日とも表記する)
III群:ジエノゲスト1mg/日 (DNG1mg/日とも表記する)
IV群:ジエノゲスト2mg/日 (DNG2mg/日とも表記する)
V群:ドロスピレノン3mg・エチニルエストラジオール0.020mg/日およびプラセボ(参照薬)
【0059】
用法は、I~IV群は1日2回にわけて12週間連日経口投与とした。すなわち、I~IV群のジエノゲスト1回投与量は、I群は0mg、II群は0.25mg、III群は0.5mg、IV群は1mgであり、これらの1回投与量を1日2回投与した。投与開始日は月経周期2~5日目とした。
V群は、1錠中にドロスピレノン3mg及びエチニルエストラジオール ベータデクスとしてエチニルエストラジオール0.020mgを含有する淡赤色錠剤24錠とプラセボ(白色錠剤)4錠からなる28錠の製剤のヤーズ(登録商標)配合錠が用いられた。V群は1日1回の12週間経口投与とし、毎日一定の時刻に服用した。投与開始日は原則月経周期1日目とし、淡赤色錠剤から開始された。
【0060】
被験者の選択基準は、(1)本治験への参加を文書により同意した患者、(2)同意取得日の年齢が満20歳以上の患者、(3)同意取得日から治験薬投与開始の約1週間前までの経腟超音波断層法検査および内診により機能性月経困難症と診断された患者、(4)月経周期日数が38日以内の患者、(5)同意取得日から治験薬投与開始の約1週間前までの月経周期において、機能性月経困難症に起因すると考えられる疼痛(下腹痛または腰痛)が、月経困難症スコア(下記参照)で疼痛の程度および鎮痛剤の使用状況の各スコアの合計が3点以上の患者とした。
被験者の除外基準は、(1)子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症または器質性月経困難症の既往を有する患者、(2)月経時以外に下腹痛・腰痛を示す合併症を有する患者、(3)同意取得日において重度および中等度の貧血(ヘモグロビン値10.0g/dL未満)を有する患者、(4)診断のつかない異常性器出血、子宮内膜ポリープ、子宮奇形または子宮内膜増殖症を有する患者、(5)血栓症、塞栓症、脳血管障害もしくは冠動脈疾患またはその既往歴を有する患者、血栓症素因を有する患者、等とされ、その他、医師が試験への参加を不適当と判断した患者は除外された。
【0061】
評価指標のひとつとして月経困難症スコアを用いた。表1に示すように、機能性月経困難症に起因すると考えられる最も重い疼痛(下腹痛・腰痛)の程度およびその疼痛時における鎮痛剤の使用状況をそれぞれ4段階でスコア化して合計し、月経困難症スコアとした。
標準的な評価時点は、1)投与開始時月経の開始予定日の約7日前(投与前)、2)投与開始日を1日目とし、投与開始日から29日目(4週時)、3)投与開始日を1日目とし、投与開始日から57日目(8週時)、4)投与開始日を1日目とし、投与開始日から85日目(12週時)または投与中止時とした。
月経困難症スコアにおける調査期間とは、前記1)~3)各評価時点の前日までの約28日間を調査期間とした。4)投与12週時の調査期間は、前回の評価時点から投与終了日または投与中止時までの期間とした。
【0062】
【表1】
【0063】
(1-2)月経困難症スコアの推移
各I~V群における1)投与前、2)4週時、3)8週時、及び、4)12週時(または投与中止時)の月経困難症スコア(平均値±標準偏差)の推移を評価した。
その結果、投与前における各群の月経困難症スコアの平均値は4.3~4.6の間であり、各群とも同程度の値を示した。
投与8週時における各群の月経困難症スコアの平均値は、I群(プラセボ)で3.3、II群(DNG0.5mg/日)で1.9、III群(DNG1mg/日)で1.5、IV群(DNG2mg/日)で1.0、V群(参照薬)で2.3であり、各群の投与12週時(または投与中止時)の月経困難症スコアの平均値とほぼ同程度の値を示した。
【0064】
(1-3)月経困難症スコア変化量の評価
投与前に得られた月経困難症スコアから治験薬投与12週時(または投与中止時)の月経困難症スコアの変化量を「投与12週時の月経困難症スコア変化量」として評価した。
各群の投与12週時の月経困難症スコア変化量の平均値を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すとおり、投与12週時の月経困難症スコア変化量の平均値は、II~V群で-2以下を示し、III群(DNG1mg/日)及びIV群(DNG2mg/日)では-3以下を示した。
I~V群の調整済み平均値の差および両側95%信頼区間を用いて統計学的な解析を行ったところ、II群(DNG0.5mg/日)、III群(DNG1mg/日)及びIV群(DNG2mg/日)は、I群(プラセボ)との間で、それぞれ月経困難症スコア変化量の統計学的な差が認められた。すなわち、II群(DNG0.5mg/日)、III群(DNG1mg/日)及びIV群(DNG2mg/日)は、I群(プラセボ)に比して、月経困難症スコアをより低下させたことが示された。また、同様の解析により、III群(DNG1mg/日)及びIV群(DNG2mg/日)は、V群(参照薬)との間で、それぞれ月経困難症スコア変化量の統計学的な差が認められた。すなわち、III群(DNG1mg/日)及びIV群(DNG2mg/日)は、V群(参照薬)に比して、月経困難症スコアをより低下させたことが示された。
【0067】
同様に、投与8週時の月経困難症スコア変化量を評価したところ、各群の月経困難症スコア変化量の平均値は、I群(プラセボ)で-1.3、II群(DNG0.5mg/日)で-2.5、III群(DNG1mg/日)で-3.0、IV群(DNG2mg/日)で-3.3、V群(参照薬)で-2.3であった。II群(DNG0.5mg/日)、III群(DNG1mg/日)及びIV群(DNG2mg/日)は、I群(プラセボ)との間で、それぞれ月経困難症スコア変化量の統計学的な差が認められた。
【0068】
(1-4)月経困難症スコア完全消失率の評価
投与12週時(または投与中止時)に月経困難症スコアが0となった被験者を「月経困難症スコア完全消失例」とし、その割合を評価した。
結果を図1に示す。投与12週時の完全消失率は、I群(プラセボ)で4.3%(2/46例)、II群(DNG0.5mg/日)で26.1%(12/46例)、III群(DNG1mg/日)で55.3%(26/47例)、IV群(DNG2mg/日)59.2%(29/49例)、V群(参照薬)で21.3%(10/47例)であった。両側95%信頼区間を用いた統計学的な解析を行ったところ、I群(プラセボ)に比し、V群(参照薬)の完全消失率に明確な差は認められなかった。また、V群(参照薬)に比し、III群(DNG1mg/日)及びIV群(DNG2mg/日)の完全消失率は、いずれも高値であり、統計学的な差が認められた。ジエノゲストの1mg/日ないし2mg/日の投与は、月経困難症の効能をもつ参照薬のヤーズ(登録商標)と比較して、機能性月経困難症に対して優れた効果を発揮することが示された。
【0069】
(1-5)重症例における月経困難症スコア完全消失率の評価
本試験の被験者の選択基準により、試験に参加した被験者の、治験薬投与前の月経困難症スコアは3点から6点である。投与前の月経困難症スコアが5点または6点の被験者を重症例の機能性月経困難症として、各I~V群の重症例における投与12週時(または投与中止時)の月経困難症スコア完全消失率を評価した。
結果を表3及び図2に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
投与前の月経困難症スコアが5点または6点の重症例において、投与12週時の月経困難症スコア完全消失率は、III群(DNG1mg/日)で60.0%、IV群(DNG2mg/日)で59.1%であり、各群ともV群(参照薬)19.0%と比較して有意に高値を示した(χ2乗検定)。このように、ジエノゲスト1mg/日または2mg/日の投与は、機能性月経困難症の重症例に対しても優れた効果を発揮することが分かった。
ここで、投与前の月経困難症スコアが5点または6点の患者とは少なくとも疼痛の程度は中等度以上の患者であることからみて、ジエノゲストの投与は、月経困難症に伴う疼痛の程度が中等度または重度の患者に対して高い治療効果を発揮することが示唆された。また、月経困難症に伴う疼痛の程度が中等度または重度であり、かつその疼痛時に鎮痛剤の使用を必要とする患者に対しても高い治療効果を発揮することが示唆された。
【0072】
(1-6)血清エストラジオール濃度に対する影響
各群において、被験者の投与期間中の平均エストラジオール濃度(pg/mL)を求め、被験者の血清エストラジオール濃度に対する治験薬の影響を評価した。
投与4週時、8週時、12週時及び投与中止時データとして採用された血清エストラジオール濃度の平均値を被験者ごとに算出し、平均血清エストラジオール濃度とした。
各I~V群において、被験者の平均血清エストラジオール濃度の平均値、標準偏差、及び中央値を求めた。
結果を図3に示す。
【0073】
治験薬投与期間中の平均血清エストラジオール濃度(平均値±標準偏差(中央値))(pg/mL)は、I群(プラセボ)で77.0±35.5(71.8)、II群(DNG0.5mg/日)で121.2±112.1(87.7)、およびIII群(DNG1mg/日)で87.5±70.2(69.3)、IV群(DNG2mg/日)で63.3±86.3(31.0)、V群(参照薬)で42.8±47.7(29.7)であった。平均血清エストラジオール濃度の中央値は、II群(DNG0.5mg/日)及びIII群(DNG1mg/日)では、I群(プラセボ)とほぼ同程度であったが、IV群(DNG2mg/日)およびV群(参照薬)では低値であった。
また、V群(参照薬)の治験薬投与期間中の平均血清エストラジオール濃度の平均値は、I群(プラセボ)に比し低下しており、両側95%信頼区間を用いた統計学的な解析により差が認められた。
【0074】
治験薬の投与前の患者の血清エストラジオール濃度の測定は、標準的には、投与開始時月経の開始予定日の約7日前(黄体期)に行われた。黄体期における血清エストラジオール濃度の基準値は諸説あるが、一般的に45~300pg/ml程度といわれている。
III群(DNG1mg/日)に割りつけられた被験者47例のうち、投与前の血清エストラジオール濃度が100pg/mL以下の患者18例について、投与期間中の平均血清エストラジオール濃度を評価したところ、DNG1mg/日投与期間中の平均血清エストラジオール濃度(平均値±標準偏差(中央値))(pg/mL)は、101.3±85.2(80.5)であった。これらの数値は、前記で示したI群(プラセボ)の平均血清エストラジオール濃度と比較して同程度の数値と考えられた。150pg/mL以下の患者(34例)にまで患者群を広げた平均値±標準偏差(中央値)でも、同様の傾向が見られた。
【0075】
(1-2)~(1-6)の結果、ジエノゲスト1mg/日を1日2回に分けて投与すると、被験者の血清エストラジオール濃度は、プラセボ投与と比較して同程度で推移し、機能性月経困難症に対して優れた有効性を示すことが分かった。また、投与前の血清エストラジオール値が比較的低めの患者群(例えば、月経開始予定日の約7日前における血清エストラジオール濃度が150pg/mL以下)においても、血清エストラジオール濃度はプラセボ投与群と比較して同程度であり、血清エストラジオール濃度を抑えすぎないことから、これら患者群に対して適用することの有効性が明らかになった。
【0076】
(1-7)排卵抑制に対する効果
本発明の組成物の排卵抑制作用を検討するため、投与開始後、次の月経開始予定日の7日前(黄体期)における被験者の血清プロゲステロン濃度を測定し、各群の平均値を得た。
その結果、各群の平均血清プロゲステロン濃度(ng/mL)は、I群(プラセボ)では8.40,II群(DNG0.5mg/日)では2.72,III群(DNG1mg/mL)では0.91,IV群(DNG2mg/mL)では0.66,V群(参照薬)では0.87であった。
排卵があると黄体期の血清プロゲステロン濃度は上昇し、通常、8.5ng/mL~21.9ng/mL程度に上昇するといわれている。II群~IV群のジエノゲスト各投与群およびV群(参照薬)の平均血清プロゲステロン値は低く、排卵が抑制されたことが示唆された。
図1
図2
図3