(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096426
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
C08J5/24
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076998
(22)【出願日】2024-05-10
(62)【分割の表示】P 2020080872の分割
【原出願日】2020-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】堀川 美希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴也
(57)【要約】
【課題】
オートクレーブ成形装置を用いなくても、ボイドが少ない繊維強化複合材料を作製することができるプリプレグの成形方法を提供する。
【解決手段】
繊維強化基材と、ビスマレイミド樹脂を含む樹脂組成物と、から成るプリプレグを、前記樹脂組成物の粘度が100[Pa・s]を示す温度以上であって、前記樹脂組成物が最低粘度を示す温度以下の温度(T1)で30分間以上保持する第1加熱工程を経た後、前記ビスマレイミド樹脂の硬化温度以上の温度で保持してプリプレグを成形する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化基材と、ビスマレイミド樹脂を含む樹脂組成物と、から成るプリプレグを硬化させる工程を有する複合材料の製造方法であって、
第1温度(T1)で前記プリプレグを30分間以上保持し、前記樹脂組成物を繊維に含浸させる第1加熱工程と、
第1温度(T1)より高い第3温度(T3)で保持し、樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、
を有する複合材料の製造方法であり、
第1温度(T1)が下記式(1)を満たすことを特徴とする複合材料の製造方法。
Tb≦T1≦Ta ・・・(1)
Ta:樹脂組成物が最低粘度を示す温度
Tb:樹脂組成物の粘度が100[Pa・s]を示す温度
【請求項2】
前記第1加熱工程と前記硬化工程との間に、第2温度(T2)で前記プリプレグを30分間以上保持する第2加熱工程を更に有する複合材料の製造方法であり、第2温度(T2)が、下記式(2)を満たす請求項1に記載の複合材料の製造方法。
T2=Tc±20[℃] ・・・(2)
Tc:熱重量・質量分析装置(TG-MS)で10[℃/分]の昇温速度で測定された前記プリプレグのトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)において、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度
【請求項3】
第1温度(T1)<第2温度(T2)<第3温度(T3)である請求項2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
成形時の圧力が0.5[MPa]以下である請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記繊維強化基材が炭素繊維である請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、以下の(a)乃至(b)成分
(a)成分:ビスマレイミド化合物、
(b)成分:アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物、
を必須成分として含有する請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の製造方法に関する。詳しくは、繊維強化基材と、ビスマレイミド樹脂を含む樹脂組成物と、から成るプリプレグを、多段階で加熱し硬化させる工程を有する複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、その比強度、比弾性が優れているため、航空・宇宙用品等に広く利用されている。繊維強化複合材料の製造方法としては、繊維強化基材と未硬化状態の熱硬化性樹脂とが予め一体化されて成るプリプレグを硬化させる工程を有する複合材料の製造方法が広く用いられている。
【0003】
複合材料を製造する方法としては、オートクレーブ成形法がある。特許文献1には、ビスマレイミド系樹脂組成物を含むプリプレグを用いて、オートクレーブ成形法によって繊維強化複合材料を作製したことが開示されている。オートクレーブ成形法は、成形型にプリプレグを積層し、バギングフィルム内に内包し、空気や揮発物を真空除去しながら、オートクレーブ内で加熱及び加圧してプリプレグを熱硬化させる成形方法である。オートクレーブ内の圧力は、一般的に0.6~1.0(MPa)である。
【0004】
オートクレーブ成形法は、信頼性の高い繊維強化複合材料が得られるが、加圧能力が高いオートクレーブ成形装置は大型且つ高価格であり、多額の設備投資を要するため、オートクレーブ成形法の適用は限定されている。
【0005】
そのため、オートクレーブ成形装置を用いることなく、あるいは加圧能力が低いオートクレーブ成形装置を用いて、プリプレグを硬化させ、信頼性が高い繊維強化複合材料を作製する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、オートクレーブ成形装置を用いることなく、あるいは加圧能力が低いオートクレーブ成形装置を用いて、プリプレグを硬化させ、信頼性が高い繊維強化複合材料を作製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、プリプレグの成形時に所定の温度で段階的に加熱することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載のものである。
【0010】
〔1〕 繊維強化基材と、ビスマレイミド樹脂を含む樹脂組成物と、から成るプリプレグを硬化させる工程を有する複合材料の製造方法であって、
第1温度(T1)で前記プリプレグを30分間以上保持し、前記樹脂組成物を繊維に含浸させる第1加熱工程と、
第1温度(T1)より高い第3温度(T3)で保持し、樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、
を有する複合材料の製造方法であり、
第1温度(T1)が下記式(1)を満たすことを特徴とする複合材料の製造方法。
Tb≦T1≦Ta ・・・(1)
Ta:樹脂組成物が最低粘度を示す温度
Tb:樹脂組成物の粘度が100[Pa・s]を示す温度
【0011】
上記〔1〕に記載の発明は、繊維強化基材とビスマレイミド系樹脂組成物とから成るプリプレグの成形方法であって、当該ビスマレイミド系樹脂組成物の硬化温度T3の温度に加熱する前に、当該ビスマレイミド系樹脂組成物の粘度が低い状態で所定時間加熱する第1加熱工程を含むことを特徴とする。この第1加熱工程により、繊維強化基材内にビスマレイミド系樹脂組成物を十分に含浸させることができる。そのため、得られる繊維強化複合材料において、ビスマレイミド系樹脂組成物の未含浸に起因するボイドの生成が抑制される。
【0012】
〔2〕 前記第1加熱工程と前記硬化工程との間に、第2温度(T2)で前記プリプレグを30分間以上保持する第2加熱工程を更に有する複合材料の製造方法であり、第2温度(T2)が、下記式(2)を満たすことを特徴とする〔1〕に記載の複合材料の製造方法。
T2=Tc±20[℃] ・・・(2)
Tc:熱重量・質量分析装置(TG-MS)で10[℃/分]の昇温速度で測定された前記プリプレグのトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)において、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度
【0013】
上記〔2〕に記載の発明は、ビスマレイミド系樹脂組成物から生じる揮発物を真空除去する第2加熱工程を更に含む。この第2加熱工程により、主としてビスマレイミド系樹脂組成物から生じる揮発性成分を十分に真空除去することができる。そのため、得られる繊維強化複合材料において、ビスマレイミド系樹脂組成物の揮発性成分に起因するボイドの生成が抑制される。
【0014】
〔3〕 第1温度(T1)<第2温度(T2)<第3温度(T3)である〔2〕に記載のプリプレグの成形方法。
【0015】
上記〔3〕に記載の発明は、第1温度(T1)<第2温度(T2)<第3温度(T3)であり、役割が異なる3つの温度帯を経てプリプレグが成形される。
【0016】
〔4〕 成形時の圧力が0.5[MPa]以下である〔1〕に記載のプリプレグの成形方法。
【0017】
上記〔4〕に記載の発明は、無加圧下、又は低加圧下で成形するプリプレグの成形方法である。
【0018】
〔5〕 前記繊維強化基材が炭素繊維である〔1〕に記載のプリプレグの成形方法。
【0019】
〔6〕 前記樹脂組成物が、以下の(a)乃至(b)成分
(a)成分:ビスマレイミド化合物、
(b)成分:アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物、
を必須成分として含有する〔1〕に記載のプリプレグの成形方法。
【0020】
上記〔5〕及び〔6〕に記載の発明は、繊維強化基材又は樹脂組成物が所定の物質に限定されたプリプレグの成形方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプリプレグを硬化させる工程を有する複合材料の製造方法は、硬化開始温度よりも低い所定の温度帯において所定時間加熱することにより、無加圧、又は低加圧下であっても、高品質の繊維強化複合材料を製造することができる。そのため、オートクレーブ成形装置を用いずに、高品質の繊維強化複合材料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の複合材料の製造方法の詳細について説明する。
本発明の複合材料の製造方法は、所定のプリプレグが所定の条件で成形される。
本発明の製造方法が適用されるプリプレグは、繊維強化基材と、未硬化状態のビスマレイミド樹脂を含んで成るビスマレイミド系樹脂組成物と、から成り、当該ビスマレイミド系樹脂組成物の一部又は全部が繊維強化基材内に含浸していることによって、予め一体化されているプリプレグである。
【0023】
(1) 第1加熱工程
本発明のプリプレグ成形法においては、プリプレグを温度(T1)で30分間以上保持する第1加熱工程を有する。温度(T1)は、ビスマレイミド系樹脂化合物の硬化温度T3よりも低い温度である。第1加熱工程は、プリプレグを構成するビスマレイミド系樹脂組成物の流動性が高い状態で、繊維強化基材内に含浸させて、繊維強化基材内の空隙とビスマレイミド系樹脂組成物とを真空加熱下で置換して、プリプレグから空隙を除去する工程である。
【0024】
第1加熱工程においてプリプレグを保持する温度(T1)は、含浸を促進させる温度であり、下記式(1)を満たす温度である。
Tb≦T1≦Ta ・・・・(1)
Ta:樹脂組成物が最低粘度を示す温度
Tb:樹脂組成物の粘度が100[Pa・s]を示す温度
【0025】
温度(T1)は、Td以上の温度であることが好ましく、Te以上の温度であることがより好ましい。
Td:樹脂組成物の粘度が50[Pa・s]を示す温度(ただし、Td≦Ta)
Te:樹脂組成物の粘度が15[Pa・s]を示す温度(ただし、Te≦Ta)
【0026】
ここで、温度(T1)で30分間以上保持するとは、TbからTaに一定の昇温スピードで徐々に加熱することを意味するのではなく、TbからTaの範囲内であって且つ一定の温度(T1)を30分間以上維持することを意味する。一定の温度(T1)を30分間以上維持するとは、温度(T1)の±10℃の範囲でプリプレグを保持することを意味する。
【0027】
ビスマレイミド系樹脂組成物の粘度が低い温度付近で所定時間の加熱を行うことにより、高圧で加圧することなく、ビスマレイミド系樹脂組成物を繊維強化基材内に十分に含浸させることができる。加熱温度がTaより高い温度であると、樹脂組成物の含浸不足に起因して、得られる繊維強化複合材料にボイドが生じ易い。
【0028】
T1の具体的な温度は、ビスマレイミド系樹脂組成物の組成によって変動するが、一般的には60~130[℃]であり、80~110[℃]であることが好ましい。
【0029】
本発明において、ビスマレイミド系樹脂組成物の粘度により規定される温度Ta、Tb、Td、Teは、レオメーターを用いて測定される温度-粘度曲線から得られる温度をいう。
【0030】
第1加熱工程においてプリプレグを温度(T1)で保持する時間は、30分間以上であり、45分間以上であることが好ましく、60分間以上であることがより好ましい。保持時間の上限は、特に限定されないが、生産性を考慮すれば12時間以下であることが好ましく、6時間以下であることがより好ましい。
【0031】
(2) 第2加熱工程
本発明のプリプレグ成形法においては、前述の第1加熱工程の後であって、ビスマレイミド系樹脂組成物の硬化前に、プリプレグを温度(T2)で30分間以上保持する第2加熱工程を有することが好ましい。第2加熱工程は、プリプレグに残存する水分やビスマレイミド系樹脂組成物の化学反応に起因して生じる揮発性成分を真空加熱下で除去する工程である。
【0032】
第2加熱工程においてプリプレグを保持する温度(T2)は、揮発分を除去する温度であり、下記式(2)を満たす温度である。
T2=Tc±20[℃] ・・・(2)
Tc:熱重量・質量分析装置(TG-MS)で10[℃/分]の昇温速度で測定された前記プリプレグのトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)において、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度。
なお、トータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)とは、イオン源で生成した全てのイオンの総和を縦軸に、時間を横軸に表したチャートである。
【0033】
即ち、第2加熱工程においてプリプレグを保持する温度(T2)は、(Tc-20)~(Tc+20)[℃]の範囲である。温度(T2)は、(Tc-10)~(Tc+20)[℃]の範囲であることが好ましく、Tc~(Tc+20)[℃]の範囲であることがより好ましい。
この温度で30分間以上加熱することにより、高圧で加圧することなく、主としてビスマレイミド系樹脂組成物に由来する揮発性成分をプリプレグから十分に除去することができる。加熱温度が(Tc-20)[℃]以上であれば、揮発性成分が特に十分に除去される。加熱温度が(Tc+20)[℃]以下であれば、揮発性成分が除去される前に、ビスマレイミド系樹脂組成物の部分的な硬化反応による増粘が生じ難いため、揮発性成分が特に十分に除去される。その結果、プリプレグから生じる揮発性成分に起因して、得られる繊維強化複合材料にボイドが生じることを特に抑制できる。
【0034】
ここで、温度(T2)で30分間以上保持するとは、(Tc-20)から(Tc+20)に一定の昇温スピードで徐々に加熱することを意味するのではなく、(Tc-20)から(Tc+20)の範囲内であって且つ一定の温度(T2)を30分間以上維持することを意味する。一定の温度(T2)を30分間以上維持するとは、温度(T2)の±10℃の範囲でプリプレグを保持することを意味する。
【0035】
T2の具体的な温度は、ビスマレイミド系樹脂組成物に含まれる揮発性成分によって変動するが、一般的には110~160[℃]であり、130~150[℃]であることが好ましい。
【0036】
第2加熱工程においてプリプレグを温度(T2)で保持する時間は、30分間以上であり、45分間以上であることが好ましく、60分間以上であることがより好ましい。保持時間の上限は、特に限定されないが、生産性を考慮すれば12時間以下であることが好ましく、6時間以下であることがより好ましい。
【0037】
(3) 硬化工程
本発明のプリプレグ成形法においては、前述の第1加熱工程及び/又は第2加熱工程の後、所定の温度以上に加熱してビスマレイミド系樹脂組成物を硬化させる硬化工程を有する。
【0038】
硬化工程における加熱温度T3は、ビスマレイミド系樹脂組成物の組成によって変動するが、一般的には160~205[℃]であり、170~195[℃]であることが好ましく、175~190[℃]であることがより好ましい。
【0039】
本発明のプリプレグの成形方法においては、プリプレグを段階的に加熱するが、温度(T1)<温度(T2)<温度(T3)であり、各温度T1とT2、T2とT3は、それぞれ10[℃]以上の差を有していることが好ましい。また、T1とT3は20[℃]以上の差を有していることが好ましく、T1とT3は50[℃]以上の差を有していることがより好ましい。十分に差がある温度でそれぞれ加熱することにより、含浸不足に起因するボイド、及び揮発性成分に起因するボイドの形成をそれぞれ大きく抑制できる。
【0040】
(4) プリプレグ
本発明の複合材料の製造方法が適用されるプリプレグは、繊維強化基材と、未硬化状態のビスマレイミド樹脂を含んで成るビスマレイミド系樹脂組成物と、から成る。
【0041】
(4-1) ビスマレイミド系樹脂組成物
ビスマレイミド樹脂組成物としては、公知のビスマレイミド化合物と、必要により添加する熱可塑性樹脂やフィラー、顔料等の各種添加剤と、を含んで成る。
ビスマレイミド樹脂組成物に配合されるビスマレイミド化合物(以下、BMIともいう)としては、従来公知のビスマレイミド化合物を用いることができる。例えば、下記化学式(1)で表されるビスマレイミド化合物が挙げられる。
【0042】
【0043】
[化学式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、-H、-CH3、-C2H5、-C3H7、-F、-Cl、-Br及び-Iからなる群から選ばれる基を表す。Xについては後述する。]
【0044】
本発明においては、ビスマレイミド化合物は、芳香族ビスマレイミドを含むことが好ましく、脂肪族ビスマレイミドを含んでいてもよい。本発明において、プリプレグに含まれるビスマレイミド化合物全体に対する芳香族ビスマレイミドの量が70質量%以上であることが好ましい。
【0045】
(4-1-1) 芳香族ビスマレイミド化合物
ビスマレイミド化合物が芳香環構造を含む(以下、「芳香族ビスマレイミド化合物」ともいう)場合、化学式(1)中のXは、以下の化学式(2)~(8)に記載する構造であることが好ましい。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
[化学式(5)中、R5は、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。]
【0051】
【0052】
[化学式(6)中、R5は、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。また、R6~R9は、それぞれ独立に、-H、-CH3、-C2H5、-C3H7、-F、-Cl、-Br及び-Iからなる群から選ばれる基を表す。]
【0053】
【0054】
[化学式(7)中、R5は、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。]
【0055】
【0056】
[化学式(8)中、R10~R11は、それぞれ独立に、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。化学式(8)中、nは0~0.5である。]。
【0057】
このような芳香族ビスマレイミド化合物としては、N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-p-フェニレンビスマレイミド、N,N’-m-トルイレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ビフェニレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-(3,3’-ジメチルビフェニレン)ビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ベンゾフェノンビスマレイミド等を挙げることができる。
【0058】
加熱硬化後の繊維強化複合材料の耐熱性の観点からは、N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’-m-トルイレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ベンゾフェノンビスマレイミドが好ましく、N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’-m-トルイレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミドが特に好ましい。これらの芳香族ビスマレイミド化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0059】
ビスマレイミド系樹脂組成物における芳香族ビスマレイミド化合物の含有量は、本樹脂組成物の全質量に対して20~80質量%であることが好ましく、30~65質量%であることがより好ましく、35~60質量%であることが特に好ましい。芳香族ビスマレイミドの含有量をこの範囲とすると、樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整しやすく、成形時のボイドを抑制しやすくなる。また、耐熱性と耐衝撃性を両立した繊維強化複合材料を得やすくなる。芳香族ビスマレイミド化合物の含有量が20質量%未満である場合、本樹脂組成物を用いて最終的に得られる繊維強化複合材料の耐熱性が低くなる傾向がある。芳香族ビスマレイミド化合物の含有量が80質量%を超える場合、本樹脂組成物を用いて最終的に得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性が低下しやすい。
【0060】
(4-1-2) 脂肪族ビスマレイミド化合物
ビスマレイミド化合物が芳香環構造を含まない(以下、「脂肪族ビスマレイミド化合物」ともいう)場合、化学式(1)中のXは、以下の化学式(9)~(11)に記載する構造であることが好ましい。
【0061】
【0062】
[化学式(9)中、nは10以下の整数であり、1、2、3、4、6が好ましい。]
【0063】
【0064】
【0065】
このような脂肪族ビスマレイミド化合物としては、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ヘキサメチレンジアミンビスマレイミド、N,N’-1,2-エチレンビスマレイミド、N,N’-1,3-プロピレンビスマレイミド、N,N’-1,4-テトラメチレンビスマレイミドを挙げることができる。1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ヘキサメチレンジアミンビスマレイミドは特に好ましい。脂肪族ビスマレイミド化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用してもよい。
【0066】
樹脂組成物における脂肪族ビスマレイミド化合物の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して3~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることが好ましく、7~15質量%であることが特に好ましい。脂肪族ビスマレイミド化合物の配合量が3質量%未満である場合、本樹脂組成物を用いて最終的に得られる繊維強化複合材料の靭性が乏しく、耐衝撃性が低下しやすい。脂肪族ビスマレイミド化合物の含有量が30質量%を超える場合、最終的に得られる繊維強化複合材料の耐熱性が低下し易い傾向がある。
【0067】
(4-1-4) アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物
ビスマレイミド系樹脂組成物には、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物が含まれていても良い。アルケニルフェノールエーテル化合物は、フェノール系化合物とアルケニルハライドとの反応により得られる。また、本樹脂組成物に配合されるアルケニルフェノールエーテル化合物は、アルケニルフェノールエーテル化合物をクライゼン転移することにより得られる(特開昭52-994号公報)。本発明においては、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物には、その転移構造体が含まれていてもよい。
【0068】
アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物としては、アリルフェノール、メタリルフェノール又はそれらのエーテルが好ましい。より好ましくは、アルケニルフェノール化合物又はアルケニルフェノールエーテル化合物は以下の化学式(12)~(16)の化合物である。
【0069】
【0070】
[化学式(12)中、R12、R13、R14はそれぞれ独立して水素又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R12、R13、R14の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。]
【0071】
【0072】
[化学式(13)中、R15は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-である。R16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して水素又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R16、R17、R18、R19の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。]
化学式(13)のうち、以下の化学式(14)の化合物は特に好ましい。
【0073】
【0074】
[化学式(14)中、R15は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-を表す。]
【0075】
【0076】
[化学式(15)中、R20、R21は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-である。R22、R23、R24、R25、R26、R27は、それぞれ独立して水素、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R22、R23、R24、R25、R26、R27の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。Pは0~10の整数である。]
【0077】
【0078】
[化学式(16)中、R15は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-を表す。R28、R29は、それぞれ独立して水素、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R28、R29の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。]
【0079】
このようなアルケニルフェノール化合物又はアルケニルフェノールエーテル化合物としては、O,O’-ジアリルビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアリルジフェニル、ビス(4-ヒドロキシ-3-アリルフェニル)メタン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジアリルフェニル)プロパン、2,2’-ジアリルビスフェノールF、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアリルジフェニルエーテル、4,4’-ビス-O-プロペニルフェノキシ-ベンゾフェノン等を挙げることができる。これらの中でも、加熱硬化後の樹脂のガラス転移点が高いため、O,O’-ジアリルビスフェノールA、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジアリルフェニル)プロパン、2,2’-ジアリルビスフェノールF等が好ましい。O,O’-ジアリルビスフェノールAは、本樹脂組成物の粘度を低くするため特に好ましい。本樹脂組成物では、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテルは単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0080】
アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物は、ビスマレイミド化合物の硬化剤として機能する。本樹脂組成物における配合量は、10~70[質量%]であることが好ましく、20~50[質量%]であることがより好ましく、25~40[質量%]であることが特に好ましい。本樹脂組成物は、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物を上記の所定の範囲内で適宜含有することにより、粘度が調整され、良好な成形加工性を得ることができる。また、強化繊維基材内に本樹脂組成物を十分に含浸させて、強化繊維基材と十分に接着させることができる。
【0081】
本樹脂組成物は、芳香族ビスマレイミド化合物及び/又は脂肪族ビスマレイミド化合物の一部又は全部が、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に溶解していても良い。本樹脂組成物は、好ましくは液相成分と固相成分を含有して成り、樹脂組成物中の固相成分の割合が5~50[質量%]であることが好ましく、15~45[質量%]であることがより好ましく、25~40[質量%]であることが特に好ましい。固相成分の割合をこの範囲とすると、樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整しやすく、成形時のボイドを抑制しやすくなる。なお、本発明において固相成分とは、温度80[℃]の樹脂組成物中において固形状で存在する成分をいう。固相成分のうちビスマレイミド化合物は、本樹脂組成物を用いて構成するプリプレグの成形温度以下で樹脂組成物中に溶解する。また、液相成分とは、温度80[℃]の樹脂組成物中において液状で存在する成分をいう。
【0082】
樹脂組成物中の固相成分の割合が50[質量%]を超える場合、樹脂組成物の粘度が著しく高くなる場合がある。その結果、樹脂組成物の製造工程やプリプレグの製造工程において取扱い性が著しく悪化する場合がある。樹脂組成物中の固相成分の割合が5[質量%]未満の場合、ビスマレイミド化合物がアルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に溶解している。そして、この溶解時の加熱によって硬化反応が同時に進行することにより、樹脂組成物が高分子量化して粘度が高くなる場合がある。その結果、樹脂組成物の製造工程やプリプレグの製造工程における取扱い性が著しく悪化する場合がある。
【0083】
(4-1-5) 熱可塑性樹脂
本樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に可溶な熱可塑性樹脂(以下、「可溶性熱可塑性樹脂」ともいう)、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に不溶な熱可塑性樹脂(以下、「不溶性熱可塑性樹脂」ともいう)のいずれも用いることができる。
【0084】
本発明において、「アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に可溶」とは、繊維強化複合材料を成形する温度条件下で、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に一部又は全部が溶解することを意味する。可溶性熱可塑性樹脂は、繊維強化複合材料の成形過程において、樹脂組成物が加熱されることによって該樹脂組成物中に溶解し、該樹脂組成物の粘度を増加させる。これにより成形過程における樹脂組成物のフローを防止することができる。
【0085】
可溶性熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド等を挙げることができる。
【0086】
可溶性熱可塑性樹脂を配合する場合、その含有量は、0.1~15[質量%]であることが好ましく、1~10[質量%]であることがより好ましい。可溶性熱可塑性樹脂の含有量をこの範囲とすると、樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整しやすくなる。可溶性熱可塑性樹脂の含有量が0.1[質量%]未満の場合、樹脂組成物の粘度が十分に上昇せず、樹脂組成物のフローを招くおそれがある。可溶性熱可塑性樹脂の含有量が15[質量%]を超える場合、樹脂組成物の粘度が高くなり、取扱い性が著しく悪化する場合がある。
【0087】
不溶性熱可塑性樹脂は、必要に応じて本樹脂組成物に配合される。本発明において「アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に不溶な熱可塑性樹脂」とは、少なくとも繊維強化複合材料を成形する温度条件下で、アルケニルフェノール化合物及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物に溶解しない熱可塑性樹脂をいう。不溶性熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂を挙げることができる。
【0088】
不溶性熱可塑性樹脂を配合する場合、その含有量は、0.1~40[質量%]であることが好ましく、1~20[質量%]であることがより好ましい。不溶性熱可塑性樹脂の配合をこの範囲とすると、樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整しやすく、成形時のボイドを抑制しやすくなると共に、耐衝撃性に優れた繊維強化複合材料を得やすくなる。不溶性熱可塑性樹脂の含有量が0.1[質量%]未満の場合、樹脂組成物の粘度が十分に上昇せず、樹脂組成物のフローを招くおそれがある。不溶性熱可塑性樹脂の含有量が20[質量%]を超える場合、樹脂組成物の粘度が高くなり取扱い性が著しく悪化する場合がある。不溶性熱可塑性樹脂の粒子径は、特に限定されないが、0.1~100[μm]であることが好ましく、1~50[μm]であることがより好ましい。
【0089】
(4-1-6) その他の成分
本樹脂組成物には、耐熱性、成形加工性及び靱性を損なわない限り、他の成分を含有させることができる。他の成分として、重合防止剤、導電性粒子、導電性フィラー、無機フィラー、ゴム状成分、靭性付与剤、安定剤や離型剤、着色剤、増粘剤等が例示される。増粘剤の添加により、樹脂組成物の粘度を調整することができる。
【0090】
(4-2) 繊維強化基材
本プリプレグにおいて、強化繊維基材を構成する強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などを挙げることができる。これらの強化繊維の中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましく、比強度、比弾性率が良好で軽量かつ高強度の繊維強化複合材料が得られる炭素繊維がより好ましく、炭素繊維の中でも、引張強度に優れるポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
【0091】
強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、引張弾性率は、170~600[GPa]であることが好ましく、220~450[GPa]であることが特に好ましい。また、引張強度は3920[MPa](400kgf/mm2)以上であることが好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、繊維強化複合材料の機械的性質を向上できる。
【0092】
強化繊維基材の形状は限定されないが、シート状物であることが加工性の点から好ましい。強化繊維シートとしては、例えば、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシート状物や、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙などを挙げることができる。強化繊維シートの厚さは、0.01~3[mm]が好ましく、0.1~1.5[mm]がより好ましい。また、強化繊維シートの目付は、70~400[g/m2]が好ましく、100~300[g/m2]がより好ましい。
【0093】
本プリプレグ中の樹脂組成物の含有量は、強化繊維基材と樹脂組成物の合計質量に対して20~60[質量%]が好ましく、30~50[質量%]がより好ましい。本樹脂組成物の含有量が20[質量%]未満である場合、このプリプレグを用いて作製される繊維強化複合材料の内部にボイド等が発生する場合がある。本樹脂組成物の含有量が60[質量%]を超える場合、強化繊維の含有量が不足し、得られる繊維強化複合材料の強度が低下し易い。
【0094】
(5) 繊維強化複合材料
本発明の成形方法によって作製される繊維強化複合材料は、ボイド率が1[%]以下であることが好ましく、0.1[%]以下であることがより好ましい。
本発明におけるボイド率は、繊維強化複合材料の断面写真の画像解析によって測定される値を意味する。
【0095】
繊維強化複合材料のボイドは、層間部分に集中して発生する。そのため、層間せん断強度を測定することによって、繊維強化複合材料に生じたボイドの発生状態を確認できる。
本発明の成形方法によって作製される繊維強化複合材料は、同じ組成のプリプレグをオートクレーブ法によって成形した場合と比較して遜色ない層間せん断強度が得られる。その低下率(ILSS低下率)は、同一のプリプレグをオートクレーブ法によって成形して得られた繊維強化複合材料に対して28[%]以下であることが好ましく、15[%]以下であることがより好ましく、7[%]以下であることがより好ましく、5[%]以下であることが特に好ましい。
【実施例0096】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではない。
【0097】
プリプレグの原材料として、以下のものを用いた。
【0098】
[芳香族ビスマレイミド化合物]
・BMI1100-H:BMI-1100H(商品名)(N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、 大和化成工業(株)社製)
・TDAB:Compimide TDAB(商品名)(2,4-ビスマレイミドトルエン、 Evonik Industries AG社製)
[脂肪族ビスマレイミド化合物]
・BMI-TMH:BMI-TMH(商品名)(1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、 大和化成工業(株)社製)
[共反応物質]
・DABPA:DABPA(商品名)(2,2’-ジアリルビスフェノールA、 大和化成工業(株)社製)
【0099】
[可溶性熱可塑性樹脂]
・Ultem1000-1000(商品名)粉砕物(ポリエーテルイミド、 SABICイノベーティブプラスチック社製、 平均粒子径15[μm])
【0100】
[不溶性熱可塑性樹脂]
・AURUM PD450M(商品名)(ポリイミド、三井化学(株)製)
・P84(商品名)(ポリイミド、HP Polymers社製)
【0101】
[炭素繊維]
・“テナックス”(商品名)IMS 65 E 23 24K 830tex(炭素繊維ストランド、 帝人(株)社製、 引張弾性率:290[GPa])
・“テナックス”(商品名)HTS 40 E 13 6K 400tex(炭素繊維ストランド、 帝人(株)社製、 引張弾性率:240[GPa])
・“テナックス”(商品名)UMS 55 F 23 12K 360tex(炭素繊維ストランド、 帝人(株)社製、 引張弾性率:550[GPa])
【0102】
繊維強化複合材料の物性は以下の方法により測定した。
【0103】
[ボイド率]
BMIプリプレグを[45°/-45°/0°/90°]5sで積層し、表1に示す成形条件で硬化させ、コンポジットを得た。コンポジットの中央部をカットし、デジタルマイクロスコープ VHX-5000(キーエンス社製)にて断面画像を取得した。VHX-5000の自動面積計測機能により、ボイド率を計測した。
【0104】
[層間剪断強度]
ASTM-D2344試験法に準拠して測定した。参考例1と比較して低下した割合を層間剪断強度低下率(ILSS低下率)とした。
[損傷後圧縮強度(CAI)]
ASTM-D7136及びASTM-D7137試験法に準拠して測定した。
【0105】
[温度-粘度曲線]
ティー・エイ・インスツルメント社製レオメーターARES-RDAを用いてビスマレイミド系樹脂組成物の粘度測定を行った。直径40mmのパラレルプレートを用い、パラレルプレート間の樹脂の厚さを0.5mmとし、角速度10ラジアン/秒の条件で昇温速度2℃/分で200℃までの粘度測定を行い、得られた温度-粘度曲線からTa、Tb、Td、Teを読み取った。
Ta:樹脂組成物が最低粘度となる温度
Tb:樹脂組成物の粘度が100[Pa・s]となる温度
Td:樹脂組成物の粘度が50[Pa・s]となる温度(ただし、最低粘度となる温度Taより低い温度)
Te:樹脂組成物の粘度が15[Pa・s]をなる温度(ただし、最低粘度となる温度Taより低い温度)
【0106】
[TG-MS TIC]
NETZSCH社製TG-DSC/DTA STA 449 F1 JupiterにNETZSCH社製質量分析計 QMSを接続した装置を用いてプリプレグの熱重量・質量分析測定を行った。He雰囲気下で昇温速度2℃/分で室温から180℃までの熱重量・質量分析測定を行い、得られたトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)からTcを読み取った。
Tc:熱重量・質量分析装置(TG-MS)で10[℃/分]の昇温速度で測定された前記プリプレグのトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)において、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度。
トータルイオンカレントクロマトグラム(TIC):イオン源で生成した全てのイオンの総和を縦軸に、横軸に時間で表したチャート。
【0107】
プリプレグの製造
[製造例1]
表1の製造例1に示す組成でビスマレイミド系樹脂組成物を調製した。このビスマレイミド系樹脂組成物のTaは123[℃]、Tbは63[℃]、Tdは70[℃]、Teは82[℃]であった。
このビスマレイミド系樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて、片面樹脂フィルムを目付け50[g/m2]で離型フィルム上に塗布し、樹脂シートを得た。次に、樹脂シート2枚の間に、炭素繊維(IMS 65)ストランドを供給して一方向に均一に配列(炭素繊維体積含有率57[体積%]、目付け190[g/m2])させることにより、炭素繊維ストランドをシート状にし、ローラーを用いて100[℃]で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの熱重量・質量分析測定(TG-MS)のトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)における、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度(Tc)は135[℃]であった。
【0108】
[製造例2]
表1の製造例2に示す組成でビスマレイミド系樹脂組成物を調製した。このビスマレイミド系樹脂組成物のTaは125[℃]、Tbは64[℃]、Tdは69[℃]、Teは82[℃]であった。 このビスマレイミド系樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて、片面樹脂フィルムを目付け50[g/m2]で離型フィルム上に塗布し、樹脂シートを得た。次に、樹脂シート2枚の間に、炭素繊維(IMS 65)ストランドを供給して一方向に均一に配列(炭素繊維体積含有率57[体積%]、目付け190[g/m2])させることにより、炭素繊維ストランドをシート状にし、ローラーを用いて100[℃]で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの熱重量・質量分析測定(TG-MS)のトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)における、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度(Tc)は135[℃]であった。
【0109】
[製造例3]
表1の製造例3に示す組成でビスマレイミド系樹脂組成物を調製した。このビスマレイミド系樹脂組成物のTaは150[℃]、Tbは60[℃]、Tdは66[℃]、Teは79[℃]であった。このビスマレイミド系樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて、片面樹脂フィルムを目付け50[g/m2]で離型フィルム上に塗布し、樹脂シートを得た。次に、樹脂シート2枚の間に、炭素繊維(IMS 65)ストランドを供給して一方向に均一に配列(炭素繊維体積含有率57[体積%]、目付け190[g/m2])させることにより、炭素繊維ストランドをシート状にし、ローラーを用いて100[℃]で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの熱重量・質量分析測定(TG-MS)のトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)における、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度(Tc)は135[℃]であった。
【0110】
[製造例4]
表1の製造例4に示す組成でビスマレイミド系樹脂組成物を調製した。このビスマレイミド系樹脂組成物のTaは123[℃]、Tbは63[℃]、Tdは70[℃]、Teは82[℃]であった。このビスマレイミド系樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて、片面樹脂フィルムを目付け50[g/m2]で離型フィルム上に塗布し、樹脂シートを得た。次に、樹脂シート2枚の間に、炭素繊維(HTS 40)ストランドを供給して一方向に均一に配列(炭素繊維体積含有率57[体積%]、目付け190[g/m2])させることにより、炭素繊維ストランドをシート状にし、ローラーを用いて100[℃]で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの熱重量・質量分析測定(TG-MS)のトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)における、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度(Tc)は135[℃]であった。
【0111】
[製造例5]
表1の製造例5に示す組成でビスマレイミド系樹脂組成物を調製した。このビスマレイミド系樹脂組成物のTaは123[℃]、Tbは63[℃]、Tdは70[℃]、Teは82[℃]であった。このビスマレイミド系樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて、片面樹脂フィルムを目付け50[g/m2]で離型フィルム上に塗布し、樹脂シートを得た。次に、樹脂シート2枚の間に、炭素繊維UMS55ストランドを供給して一方向に均一に配列(炭素繊維体積含有率57[体積%]、目付け190[g/m2])させることにより、炭素繊維ストランドをシート状にし、ローラーを用いて100[℃]で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの熱重量・質量分析測定(TG-MS)のトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)における、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度(Tc)は135[℃]であった。
【0112】
[製造例6]
表1の製造例6に示す組成でビスマレイミド系樹脂組成物を調製した。このビスマレイミド系樹脂組成物のTaは123[℃]、Tbは63[℃]、Tdは70[℃]、Teは82[℃]であった。このビスマレイミド系樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて、片面樹脂フィルムを目付け50[g/m2]で離型フィルム上に塗布し、樹脂シートを得た。次に、樹脂シート2枚の間に、炭素繊維(IMS 65)ストランドを供給して一方向に均一に配列(炭素繊維体積含有率65[体積%]、目付け270[g/m2])させることにより、炭素繊維ストランドをシート状にし、ローラーを用いて100[℃]で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの熱重量・質量分析測定(TG-MS)のトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)における、90~180[℃]の範囲内で観測されるピークの内、最大ピークを示すピーク温度(Tc)は135[℃]であった。
【0113】
[参考例1]
製造例1で得たプリプレグを[45°/-45°/0°/90°]5sのように積層し、オートクレーブ内で圧力0.6[MPa]条件下で、温度(T3)180[℃]で硬化させ、繊維強化複合材料を得た。温度(T1)及び温度(T2)による段階的な加熱は行わなかった。この繊維強化複合材料のボイド率は0.04[%]であった。
【0114】
[実施例1、比較例1~3]
製造例1で得たプリプレグを[45°/-45°/0°/90°]5sのように積層し、オートクレーブ内で圧力0.3[MPa]条件下で、表2に示す温度(T1)、時間で保持した後、温度(T3)180[℃]で硬化させ、繊維強化複合材料を得た。温度(T2)による加熱は行わなかった。この繊維強化複合材料のボイド率と参考例1に対するILSS低下率は表2に示す通りであった。第1加熱工程のT1が、式(1):Tb(63[℃])≦ T1(90[℃])≦ Ta(123[℃])を満たす実施例1は、従来の高圧力を用いるオートクレーブ成形法(参考例1)によって成形した繊維強化複合材料とほぼ同等の性能を有していた。
【0115】
[実施例2~6]
製造例1で得たプリプレグを[45°/-45°/0°/90°]5sのように積層し、オートクレーブ内で表3に示す圧力条件下で、温度(T1)90[℃]で60分間保持した後、表3に示す温度(T2)、時間で保持し、温度(T3)180[℃]で硬化させ、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料のボイド率と参考例1に対するILSS低下率は表3に示す通りであった。第1加熱工程と第2加熱工程を有する実施例4~6は、より良好な結果であった。
【0116】
[実施例7、8]
不溶性熱可塑性樹脂の異なるプリプレグを使用した以外は実施例6と同様に操作して、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料のボイド率と参考例1に対するILSS低下率、耐衝撃性(CAI)は表4に示す通りであった。不溶性熱可塑性樹脂を変更しても、良好な結果は維持された。
【0117】
[実施例9、10]
炭素繊維銘柄の異なるプリプレグを使用した以外は実施例6と同様に操作して、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料のボイド率は表5に示す通りであった。糸銘柄を変更しても、良好な結果は維持された。
【0118】
[比較例4、実施例11、12]
製造例6のように繊維体積含有率の高いプリプレグを[45°/-45°/0°/90°]5sのように積層し、オートクレーブ内で圧力0.3[MPa]条件下で表6に示す温度(T1)、温度(T2)で表6に示す時間保持し、温度(T3)180[℃]で硬化させ、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料のボイド率と参考例1に対するILSS低下率は表6に示す通りであった。炭素繊維体積含有率が高くなると、相対的な樹脂の量が減少し、成形時のボイドが増える傾向にある。しかし、第1加熱工程や第2加熱工程を入れることで、炭素繊維体積含有率の高い実施例11、12でも良好な結果であることが確認された。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】