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特開2024-96439L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびこれを用いたL-グルタミン酸の生産方法
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  • 特開-L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびこれを用いたL-グルタミン酸の生産方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096439
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびこれを用いたL-グルタミン酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240705BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240705BHJP
   C12P 13/14 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N15/31
C12P13/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077438
(22)【出願日】2024-05-10
(62)【分割の表示】P 2022548767の分割
【原出願日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0017264
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0105435
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】518431347
【氏名又は名称】デサン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ジュ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ボン・キ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ヒョン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・チュン・ハン
(57)【要約】
【課題】本発明は、コリネバクテリウム属菌株由来の機械感受性イオンチャネル(mechanosensitive ion channel)遺伝子を含み、L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびその製造方法、これを用いたL-グルタミン酸の生産方法に関し、前記コリネバクテリウムグルタミクム変異株は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子が導入されることにより、グルタミン酸の排出を強化させてL-グルタミン酸の生産収率が向上するので、前記変異菌株を用いると、より効果的にL-グルタミン酸を製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)菌株由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子(mechanosensitive ion channel)を含み、L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)変異株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびこれを用いたL-グルタミン酸の生産方法に関し、具体的には、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)菌株に由来する機械感受性イオンチャネル遺伝子が導入されてL-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株およびその製造方法、これを用いたL-グルタミン酸の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-グルタミン酸は、微生物の発酵によって生産される代表的なアミノ酸であり、L-グルタミン酸ナトリウム(monosodium L-glutamate、MSG)は、食べ物の全体的な味に均衡とバランスをとるようにして、肉、魚、ニワトリ、野菜、ソース、スープ、味付けなど食品の選好度を高め、塩を30%まで低減した低塩食品の味を増進させることが可能で、家庭用および加工食品生産のための調味料として幅広く用いられている。
【0003】
L-グルタミン酸の発酵経路を簡単にみると、ブドウ糖は主に当該経路(EMP)を経るが、一部は六炭糖リン酸経路(HMP)を経て2分子のピルビン酸(pyruvic acid)に代謝される。そのうち1分子はCOを固定してオキサロ酢酸(oxaloacetic acid)になり、他の1分子はピルビン酸からアセチルCoA(acetyl CoA)と結合してクエン酸(citric acid)になる。さらに、オキサロ酢酸とクエン酸はクエン酸回路(TCA cycle)に入ってアルファ-ケトグルタル酸(α-ketoglutaric acid)になる。ここで、アルファ-ケトグルタル酸からコハク酸(succinic acid)に酸化される酸化代謝経路が欠如しており、また、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(isocitrate dehydrogenase)とグルタメートデヒドロゲナーゼ(glutamate dehydrogenase)が密接に関与するため、アルファ-ケトグルタル酸の還元的アミノ酸化反応が能率的に進行してL-グルタミン酸が生成される。
【0004】
L-グルタミン酸の生産に際して、通常、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)やコリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌株およびその変異株を用いて発酵により生産する。微生物の培養によるL-グルタミン酸の生産量を増加させるためには、L-グルタミン酸の生合成に関与する遺伝子の発現を調節する方法が利用されてきた。主に、当該遺伝子のコピー数を増加させたり、遺伝子のプロモーターを変形させて生合成経路上の酵素活性を調節することができる。具体的には、pyc遺伝子やfasRのような特定遺伝子の増幅(米国登録特許第6,852,516号)や、gdh、gltA、icd、pdhおよびargG遺伝子のプロモーター(promoter)部位を操作して(米国登録特許第6,962,805号)L-グルタミン酸の生産量を増加させた。このように、グルタミン酸の生合成経路に関与する遺伝子については大部分すでに知られていて、グルタミン酸の生産量を高められる新たな遺伝子を発掘し、これを反映した新たなグルタミン酸生産菌株を開発することが要求されている。
【0005】
そこで、本発明者らは、L-グルタミン酸の排出を助ける新たな遺伝子を発掘し、その遺伝子をL-グルタミン酸生産菌株に導入して変異株を作製することにより、変異株のL-グルタミン酸の生産能が向上したことを確認して、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国登録特許第6,852,516号
【特許文献2】米国登録特許第6,962,805号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コリネバクテリウム属菌株由来の機械感受性イオンチャネル(mechanosensitive ion channel)遺伝子を含み、L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、コリネバクテリウム属菌株由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子を導入するステップを含む、前記コリネバクテリウムグルタミクム変異株の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、i)前記コリネバクテリウムグルタミクム変異株をL-グルタミン酸生産培地で培養するステップと、ii)前記変異株または変異株が培養された培養液からL-グルタミン酸を回収するステップとを含むL-グルタミン酸の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、コリネバクテリウム属菌株由来の機械感受性イオンチャネル(mechanosensitive ion channel)遺伝子を含み、L-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)変異株を提供する。
【0011】
本発明者らは、L-グルタミン酸の生産能を向上させることができる新たなコリネバクテリウムグルタミクム変異株を開発すべく努力した結果、L-グルタミン酸を生産するコリネバクテリウムグルタミクム菌株にコリネバクテリウム属菌株(Corynebacterium species)に由来する機械感受性イオンチャネル関連遺伝子を導入することにより、L-グルタミン酸の排出を助けて変異株のL-グルタミン酸の生産性が著しく向上することを確認した。
【0012】
本発明において、「コリネバクテリウム属菌株」は、コリネバクテリウムグルタミクム菌株に導入しようとする機械感受性イオンチャネル遺伝子由来の菌株で、すべてのコリネバクテリウム属微生物を含むことができる。具体的には、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウムクルディラクティス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウムデゼルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウムカルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウムスラナリーエ(Corynebacterium suranareeae)、コリネバクテリウムルブリカンティス(Corynebacterium lubricantis)、コリネバクテリウムドオサネンス(Corynebacterium doosanense)、コリネバクテリウムエフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウムウテレクイ(Corynebacterium uterequi)、コリネバクテリウムスタチオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウムパケンセ(Corynebacterium pacaense)、コリネバクテリウムシングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウムヒュミレデュセンス(Corynebacterium humireducens)、コリネバクテリウムマリヌム(Corynebacterium marinum)、コリネバクテリウムハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウムスフェニスコルム(Corynebacterium spheniscorum)、コリネバクテリウムフレイブルゲンス(Corynebacterium freiburgense)、コリネバクテリウムストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウムカニス(Corynebacterium canis)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウムレナレ(Corynebacterium renale)、コリネバクテリウムポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウムイミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウムカスピウム(Corynebacterium caspium)、コリネバクテリウムテスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)、コリネバクテリウムシュードペラルギ(Corynebacaterium pseudopelargi)、またはコリネバクテリウムフラベセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよい。
【0013】
本発明において、「機械感受性イオンチャネル」は、バクテリアだけでなく、真核生物の細胞膜に存在するチャネルで、浸透恒常性(osmotic homeostasis)に関与する。このような機械感受性イオンチャネルを暗号化する遺伝子は、コリネバクテリウム属菌株由来のものであってもよいし、好ましくは、コリネバクテリウムデゼルティ(Corynebacterium deserti)由来のものである配列番号1の塩基配列、コリネバクテリウムクルディラクティス(Corynebacterium crudilactis)由来のものである配列番号2、またはコリネバクテリウムカルナエ(Corynebacterium callunae)由来のものである配列番号3の塩基配列であってもよい。この時、配列番号1~3の塩基配列と相同性が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である塩基配列を含むことができる。前記「相同性が%以上」は、2つの最適に配列された配列と比較領域を比較することにより確認され、比較領域でのポリヌクレオチド配列の一部は、2つの配列の最適配列に対する参照配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわち、ギャップ)を含むことができる。また、機械感受性イオンチャネルを暗号化する遺伝子は、自然的にまたは非自然的に(例えば、遺伝子組換え、放射能、化学的処理など)発生した変異があり得、このような変異により遺伝子の機能が弱化または強化される。
【0014】
本発明の一具体例によれば、前記機械感受性イオンチャネル遺伝子は、配列番号1~5の塩基配列のいずれか1つに暗号化されたものであってもよい。
【0015】
前記配列番号1の塩基配列は、コリネバクテリウムデゼルティ由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子であってもよく、配列番号2の塩基配列は、コリネバクテリウムクルディラクティス由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子であってもよいし、配列番号3~5の塩基配列は、コリネバクテリウムカルナエ由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子であってもよい。ここで、配列番号4および5の塩基配列は、コリネバクテリウムカルナエ由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子のアミノ酸配列のうち107番目のアミノ酸がロイシン(LEU)からアラニン(ALA)またはバリン(VAL)に置換されたものを暗号化するものであってもよい。
【0016】
本発明者らは、コリネバクテリウムグルタミクムのグルタミン酸の排出に関与する機械感受性イオンチャネル遺伝子と相同性が70%以上(コリネバクテリウムデゼルティ74%、コリネバクテリウムクルディラクティス72%、コリネバクテリウムカルナエ70%)である塩基配列により同一のグルタミン酸の排出の役割を行うと推定しており、他のグルタミン酸生産用菌株に比べて、本発明における機械感受性イオンチャネル遺伝子が含まれた変異株のグルタミン酸の生産性が著しく向上したことを確認した。
【0017】
本発明において、「生産能が向上した」菌株は、親菌株に比べて、L-グルタミン酸の生産性が増加したものを意味する。前記親菌株は、変異の対象になる野生型または変異株を意味し、直接変異の対象になるか、組換えられたベクターなどで形質転換される対象を含む。本発明において、親菌株は、野生型コリネバクテリウムグルタミクム菌株または野生型から変異された菌株であってもよい。好ましくは、コリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株であってもよい。
【0018】
本発明の一具体例によるL-グルタミン酸の生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミクム変異株は、親菌株に比べて、L-グルタミン酸の生産量が5%以上、具体的には5~20%増加して、菌株培養液1lあたり36~50gのL-グルタミン酸を生産することができ、好ましくは38~45gのL-グルタミン酸を生産することができる。
【0019】
本発明の他の態様は、コリネバクテリウム属菌株由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子を導入するステップを含む、前記コリネバクテリウムグルタミクム変異株の製造方法を提供する。
【0020】
前記ステップは、機械感受性イオンチャネル遺伝子を暗号化するポリヌクレオチドを含むベクターを親菌株に形質転換させる過程である。
【0021】
本発明において、「ベクター」は、宿主細胞に塩基のクローニングおよび/または転移のための任意の媒介物をいう。ベクターは、他のDNA断片が結合して、結合した断片の複製をもたらす複製単位(replicon)であってもよい。前記「複製単位」とは、生体内でDNA複製の自己ユニットとして機能する、すなわち、自らの調節によって複製可能な、任意の遺伝的単位(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)をいう。本発明において、ベクターは、宿主のうち複製可能なものであれば特に限定されず、当業界にて知られた任意のベクターを用いることができる。前記組換えベクターの作製に使用されたベクターは、天然状態または組換えられた状態のプラスミド、コスミド、ウイルスおよびバクテリオファージであってもよい。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、λEMBL3、λEMBL4、λFIXII、λDASHII、λZAPII、λgt10、λgt11、Charon4A、およびCharon21Aなどを使用することができ、プラスミドベクターとして、pDZベクター、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系およびpET系などを使用することができる。使用可能なベクターは特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターを使用することができるが、これに限定されない。
【0022】
本発明において、「形質転換」は、遺伝子を宿主細胞内に導入して宿主細胞内で発現させるようにすることであり、形質転換された遺伝子は、宿主細胞内で発現できれば、宿主細胞の染色体内挿入または染色体外に位置しているものであれ、制限なく含まれる。本発明において、形質転換方法の一例としては、電気穿孔方法(van der Rest et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,52,541-545,1999)などであってもよい。
【0023】
本発明の他の態様は、i)前記コリネバクテリウムグルタミクム変異株をL-グルタミン酸生産培地で培養するステップと、ii)前記変異株または変異株が培養された培養液からL-グルタミン酸を回収するステップとを含むL-グルタミン酸の生産方法を提供する。
【0024】
前記培養は、当業界にて知られた適切な培地と培養条件によって行われ、通常の技術者であれば培地および培養条件を容易に調整して使用可能である。具体的には、前記培地は、液体培地であってもよいが、これに限定されるものではない。培養方法は、例えば、バッチ培養(batch culture)、連続培養(continuous culture)、流加培養(fed-batch culture)、またはこれらの組み合わせ培養を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明の一具体例によれば、前記培地は、適切な方式で特定菌株の要件を満たさなければならず、通常の技術者によって適宜変形可能である。コリネバクテリア属菌株に対する培養培地は、公知の文献(Manual of Methods for General Bacteriology.American Society for Bacteriology.Washington D.C.,USA,1981)を参照することができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明の一具体例によれば、培地に多様な炭素源、窒素源および微量元素成分を含むことができる。使用可能な炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースのような糖および炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などのようなオイルおよび脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は個別的にまたは混合物として使用できるが、これに限定されるものではない。使用可能な窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆麦および尿素または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も個別的にまたは混合物として使用できるが、これに限定されるものではない。使用可能なリンの供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム-含有塩が含まれてもよいし、これに限定されるものではない。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有することができ、これに限定されるものではない。その他、アミノ酸およびビタミンのような必須成長物質が含まれてもよい。さらに、培養培地に適切な前駆体が使用できる。前記培地または個別成分は、培養過程で培養液に適切な方式によってバッチまたは連続で添加できるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明の一具体例によれば、培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸および硫酸のような化合物を微生物培養液に適切な方式で添加して培養液のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制することができる。追加的に、培養液の好気状態を維持するために、培養液内に酸素または酸素-含有気体(例、空気)を注入することができる。培養液の温度は、通常20℃~45℃、例えば、25℃~40℃であってもよい。培養期間は、有用物質が所望の生産量で得られるまで継続してもよいし、例えば、10~160時間であってもよい。
【0028】
本発明の一具体例によれば、前記培養された変異菌株および培養培地からL-グルタミン酸を回収するステップは、培養方法により当該分野にて公知の適した方法を用いて培地から生産されたL-グルタミン酸を収集または回収することができる。例えば、遠心分離、濾過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈殿、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えば、アンモニウムスルフェート沈殿)、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性およびサイズ排除)などの方法を用いることができるが、これに限定されない。
【0029】
本発明の一具体例によれば、グルタミン酸を回収するステップは、培養物を低速遠心分離してバイオマスを除去して得られた上澄液をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することができる。
【0030】
本発明の一具体例によれば、前記L-グルタミン酸を回収するステップは、L-グルタミン酸を精製する工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一具体例によるコリネバクテリウムグルタミクム変異株は、コリネバクテリウム属菌株由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子が導入されることにより、グルタミン酸の排出を強化させてL-グルタミン酸の生産収率が向上するので、前記変異菌株を用いると、より効果的にL-グルタミン酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】コリネバクテリウムデゼルティ(Corynebacterium deserti)菌株由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子を含むpKmscS1ベクターの構造を示す図である。
図2】コリネバクテリウムカルナエ(Corynebacterium callunae)菌株に由来して107番目のアミノ酸残基がロイシン(LEU)からアラニン(ALA)に置換された機械感受性イオンチャネル遺伝子を含むpKmscS3-L107Aベクターの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は本発明の理解を助けるために例示的に提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明によって制限されるものではない。
【実施例0034】
実施例1.コリネバクテリウムグルタミクム変異株の製造
1-1.コリネバクテリウムデゼルティ(C.deserti)由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子が導入されたベクターの製造
機械感受性イオンチャネル遺伝子mscS1を導入するために、コリネバクテリウムデゼルティ(C.deserti GIMN1.010)から染色体DNAを分離、精製した後、鋳型として用いて、下記表1のプライマー3および4を用いてPCR(95℃で30秒、58℃で30秒、72℃で2分、30回繰り返し)で増幅した。
【0035】
増幅された遺伝子を挿入しようとするベクターの位置を認識する下記表1のプライマー1および2、プライマー5および6を用いてPCR(95℃で30秒、58℃で30秒、72℃で2分、30回繰り返し)で増幅した。PCR産物は電気泳動でそれぞれ約1,500bp、1,600bp、1,500bpのバンドを確認した。
【0036】
精製されたそれぞれのPCR産物(mscS1遺伝子およびベクター)はさらにクロスオーバー重合酵素連鎖反応(crossover polymerase chain reaction、PCR)のための鋳型として用いて、下記表1のプライマー1および6を用いてクロスオーバーPCR手法(Bacteriol.,179:6228-6237,1997)でもう一度増幅させた。以後、4.6kbのPCR産物は精製した後、BamHI制限酵素(Takara、日本)で切断し、同一の制限酵素で切断したpK19mobSacBベクター(Gene,145:69-73,1994)にクローニングしてmscS1遺伝子導入用pKmscS1ベクターを製造した(図1)。
【0037】
【表1】
【0038】
1-2.コリネバクテリウムクルディラクティス(C.crudilactis)由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子が導入されたベクターの製造
前記1-1のコリネバクテリウムデゼルティの代わりにコリネバクテリウムクルディラクティス(C.crudilactis strain JZ16)を用い、下記表2のプライマーを用いたことを除けば、同様に製造してmscS2遺伝子導入用pKmscS2ベクターを製造した。
【0039】
【表2】
【0040】
1-3.コリネバクテリウムカルナエ(C.callunae)由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子が導入されたベクターの製造
前記1-1のコリネバクテリウムデゼルティの代わりにコリネバクテリウムカルナエ(C.callunae DSM 20147)を用い、下記表3のプライマーを用いたことを除けば、同様に製造してmscS3遺伝子導入用pKmscS3ベクターを製造した。
【0041】
【表3】
【0042】
1-4.コリネバクテリウムカルナエ(C.callunae)由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子のアミノ酸残基変異が導入されたベクターの製造
機械感受性イオンチャネル遺伝子mscS3の107番目のアミノ酸残基を置換して導入するために、コリネバクテリウムカルナエ(C.callunae DSM 20147)から染色体DNAを分離、精製した後、鋳型として用いて、下記表4のプライマー1および2、プライマー3および4を用いてPCR(95℃で30秒、58℃で30秒、72℃で2分、30回繰り返し)で増幅した。
【0043】
精製されたそれぞれのPCR産物(mscS3遺伝子およびベクター)はさらにクロスオーバー重合酵素連鎖反応(crossover polymerase chain reaction、PCR)のための鋳型として用いて、下記表4のプライマー1および4を用いてクロスオーバーPCR手法(Bacteriol.,179:6228-6237,1997)でもう一度増幅させた。以後、718bpのPCR産物は精製した後、BamHI制限酵素(Takara、日本)で切断し、同一の制限酵素で切断したpK19mobSacBベクター(Gene,145:69-73,1994)にクローニングしてmscS3遺伝子の107番目のロイシン残基をアラニンに置換する変異導入用pKmscS3-L107Aベクターを製造した(図2)。
【0044】
【表4】
【0045】
1-5.コリネバクテリウムカルナエ(C.callunae)由来の機械感受性イオンチャネル遺伝子のアミノ酸残基変異が導入されたベクターの製造
前記1-4のプライマーの代わりに下記表5のプライマーを用いたことを除けば、同様に製造してmscS3遺伝子の107番目のロイシン残基をバリンに置換する変異導入用pKmscS3-L107Vベクターを製造した。
【0046】
【表5】
【0047】
1-6.コリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株の形質転換および変異株の製造
コリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株の形質転換のための方法としてvan der Restなどの方法に基づいて修飾したエレクトロコンピテントセル(electrocompetent cell)の製造法を使用した。
【0048】
まず、2%ブドウ糖が添加された2YT培地(トリプトン16g/l、酵母抽出物10g/l、塩化ナトリウム5g/l)100mlでコリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株を1次培養し、ブドウ糖を除いた同一の培地に1mg/mlの濃度のイソニコチン酸ヒドラジン(isonicotinic acid hydrazine)および2.5%グリシン(glycine)を添加した。その後、OD610値が0.3となるように種培養液を接種した後、18℃、180rpmで12~16時間培養してOD610値が1.2~1.4となるようにした。氷で30分間放置した後、4℃、4000rpmで15分間遠心分離した。その後、上澄液を捨てて沈殿したコリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株を10%グリセロール溶液で4回洗浄し、最終的に10%グリセロール溶液0.5mlに再懸濁してコンピテントセル(competent cell)を用意した。電気穿孔(Electroporation)は、バイオ・ラッド(Bio-Rad)社の電気穿孔機(electroporator)を用いた。電気穿孔キュベット(0.2mm)に用意されたコンピテントセルと製造されたそれぞれのpKmscS1、pKmscS2、pKmscS3、pKmscS3-L107A、pKmscS3-L107Vベクターを添加した後、2.5kV、200Ωおよび12.5μFの条件で電気衝撃を加えた。電気衝撃が終わってすぐに再生(regeneration)培地(Brain Heart infusion 18.5g/lおよびソルビトール0.5M含有)1mlを添加し、46℃で6分間熱処理した。その後、室温で冷やした後、15mlのキャップチューブに移して、30℃で2時間培養し、選別培地(トリプトン5g/l、NaCl5g/l、酵母抽出物2.5g/l、Brain Heart infusion powder18.5g/l、寒天15g/l、ソルビトール91g/lおよびカナマイシン(kanamycine)20μg/l含有)に塗抹した。30℃で72時間培養して生成されたコロニーはBHI培地で静止期まで培養して2次組換えを誘導し、10-5~10-7まで希釈して抗生剤のない平板(10%sucrose含有)に塗抹して、カナマイシン耐性度がなく10%スクロースが含まれた培地から成長性のある菌株を選別した。得られたコロニーを前記表1~3の各プライマー7および8を用いてmscS1、mscS2、mscS3遺伝子がそれぞれ導入されたコリネバクテリウムグルタミクム変異株(IS1、IS2、IS3)を確認し、前記表4および5の各プライマー5および6を用いてmscS3-L107A、mscS3-L107V遺伝子がそれぞれ導入されたコリネバクテリウムグルタミクム変異株(IS3-A、IS3-V)を確認した。
【0049】
実験例1.変異株のL-グルタミン酸の生産性の比較
実施例1で製造されたmscS1、mscS2、mscS3遺伝子導入変異株(IS1、IS2、IS3)と、親菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株に対して、L-グルタミン酸の生産性を比較した。
【0050】
下記表6のような組成を有する活性平板培地(pH7.5)に変異株と親菌株をそれぞれ塗抹して、30℃で24時間培養した。以後、100mLのフラスコに下記表7のような組成を有するフラスコ培地(pH7.6)10mLを入れて、これに平板培地で培養された菌株をそれぞれ1ループ(loop)接種して、30℃、200rpmで48時間培養した。培養が完了した後、培養液中でL-グルタミン酸の量を測定し、その結果は下記表8の通りである。
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
前記表8に示すように、コリネバクテリウムグルタミクム変異株IS1、IS2、IS3は、コリネバクテリウムデゼルティ(C.deserti)由来のmscS1、コリネバクテリウムクルディラクティス(C.crudilactis)由来のmscS2、コリネバクテリウムカルナエ(C.callunae)由来のmscS3遺伝子が、それぞれ導入されていない親菌株コリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株に比べて、L-グルタミン酸の生産性がそれぞれ約8%、7%、9%ずつ増加したことが確認された。
【0055】
実験例2.アミノ酸残基の置換の有無による変異株のL-グルタミン酸の生産性の比較
実施例1で製造されたmscS3、mscS3-L107A、mscS3-L107V遺伝子導入変異株(IS3、IS3-A、IS3-V)と、親菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株に対して、L-グルタミン酸の生産性を比較した。
【0056】
実験例1と同様の方法で菌株を培養してL-グルタミン酸の量を測定し、その結果は下記表9の通りである。
【0057】
【表9】
【0058】
前記表9に示すように、コリネバクテリウムグルタミクム変異株IS3、IS3-A、IS3-Vは、親菌株コリネバクテリウムグルタミクムKCTC 11558BP菌株に比べて、L-グルタミン酸の生産性がそれぞれ約9%、12%、4%ずつ増加したことが確認された。
【0059】
特に、107番目のアミノ酸残基がロイシンからアラニンに置換された場合(IS3-A)には、アミノ酸残基が置換されていない場合(IS3)、ロイシンからバリンに置換された場合(IS3-V)に比べて、L-グルタミン酸の生産性が増加したことが分かり、コリネバクテリウムカルナエ(C.callunae)由来のmscS3遺伝子の107番目のアミノ酸残基がグルタミン酸の生産能に関与する重要な位置であることが分かった。
これまで本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は上述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれたものと解釈されなければならない。
図1
図2
【配列表】
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