(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096454
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】帯鋸刃の製造方法及び帯鋸刃
(51)【国際特許分類】
B23D 61/12 20060101AFI20240705BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20240705BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240705BHJP
B24C 1/06 20060101ALI20240705BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B23D61/12 B
B23Q11/00 F
B23Q17/00 F
B24C1/06
B24C1/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077853
(22)【出願日】2024-05-13
(62)【分割の表示】P 2020049269の分割
【原出願日】2020-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(71)【出願人】
【識別番号】504279326
【氏名又は名称】株式会社アマダマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】増田 優二
(72)【発明者】
【氏名】辻本 晋
(57)【要約】
【課題】鋸盤の改造をしなくても、表面の情報部から情報が取得できなくなる不具合が生じにくい帯鋸刃を提供する。
【解決手段】帯鋸刃(1P)は、溶接による接合部(M)でループ化された胴部(11)と、胴部(11)の一方の縁部側に形成された刃部(12)と、胴部(11)の少なくとも一方の側面に形成された第1ブラスト部(21)と、第1ブラスト部(21)の一部に形成され、第1ブラスト部(21)とは異なる表面状態の範囲として視認される第2ブラスト部(23)と、第2ブラスト部(23)に付され情報を取得可能な情報部(24)と、を備えている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部の少なくとも一方の側面に形成された第1新生面と、
前記第1新生面の一部に形成され、前記第1新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認される第2新生面と、
前記第2新生面に付され情報を取得可能な情報部と、を備えた鋸刃。
【請求項2】
前記情報は、前記鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする請求項1記載の鋸刃。
【請求項3】
溶接による接合部でループ化された胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部の少なくとも一方の側面に形成された第1新生面と、
前記第1新生面の一部に形成され、前記第1新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認される第2新生面と、
前記第2新生面に付され情報を取得可能な情報部と、を備えた帯鋸刃。
【請求項4】
溶接による接合部でループ化された胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部の少なくとも一方の側面に形成された第1新生面と、
前記第1新生面が形成された側面の前記接合部を含む所定の範囲に形成され他の範囲よりも抉れた研磨部と、
前記研磨部の一部の範囲に形成された第2新生面と、
前記第2新生面に付され情報を取得可能な情報部と、を備えた帯鋸刃。
【請求項5】
前記情報は、前記帯鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の帯鋸刃。
【請求項6】
胴部と前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部とを有する鋸刃素材の前記胴部の少なくとも一方の側面に第1ブラスト処理によって新生面を形成するブラスト部形成ステップと、
形成した前記第1新生面の所望の範囲に第2ブラスト処理によって前記新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認されるブラスト重畳部を形成するブラスト重畳部形成ステップと、
前記ブラスト重畳部に、情報を取得可能な情報部を付す情報部形成ステップと、を含む鋸刃の製造方法。
【請求項7】
前記ブラスト重畳部形成ステップと前記情報部形成ステップとの間を除く期間に、前記胴部の少なくとも前記一方の側面に防錆油を塗布する油塗布ステップを含むことを特徴とする請求項6記載の鋸刃の製造方法。
【請求項8】
胴部と前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部とを有する鋸刃素材の前記胴部の少なくとも一方の側面に第1ブラスト処理によって新生面を形成するブラスト部形成ステップと、
形成した前記新生面の所望の範囲に第2ブラスト処理によって前記新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認されるブラスト重畳部を形成するブラスト重畳部形成ステップと、
前記ブラスト重畳部に、情報を取得可能な情報部を付す情報部形成ステップと、
前記ブラスト重畳部形成ステップよりも前、又は前記情報部形成ステップの後に実行する、前記鋸刃素材をループ化して帯鋸刃状にするループ化ステップと、を含む帯鋸刃の製造方法。
【請求項9】
前記ブラスト重畳部形成ステップと前記情報部形成ステップとの間を除く期間に、前記胴部の少なくとも前記一方の側面に防錆油を塗布する油塗布ステップを含むことを特徴とする請求項8記載の帯鋸刃の製造方法。
【請求項10】
胴部と前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部とを有する鋸刃素材の端部同士を溶接してループ状にするループ化ステップと、
前記胴部の側面にブラスト処理によって第1新生面を形成する第1ブラスト部形成ステップと、
前記第1新生面を形成した側面の、前記ループ化ステップで溶接した接合部を含む所定の範囲を研磨して、他の範囲よりも抉れた研磨部を形成する研磨ステップと、
前記研磨部の一部の範囲にブラスト処理によって第2新生面を形成する第2ブラスト部形成ステップと、
前記第2新生面に、情報を取得可能な情報部を付す情報部形成ステップと、を含む帯鋸刃の製造方法。
【請求項11】
前記第2ブラスト部形成ステップよりも前、又は前記情報部形成ステップの後に前記胴部の前記側面に防錆油を塗布する油塗布ステップを含むことを特徴とする請求項10記載の帯鋸刃の製造方法。
【請求項12】
前記情報部形成ステップは、前記情報部をインクの印字によって付すことを特徴とする請求項6又は請求項7記載の鋸刃の製造方法。
【請求項13】
前記情報部形成ステップは、前記情報部をインクの印字によって付すことを特徴とする請求項8~11のいずれか1項に記載の帯鋸刃の製造方法。
【請求項14】
前記情報は、前記鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする請求項6,7,12のいずれか1項に記載の鋸刃の製造方法。
【請求項15】
前記情報は、前記帯鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする請求項8~11,13のいずれか1項に記載の帯鋸刃の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴部の表面に情報を視覚的に取得できる情報部を有する鋸刃及び帯鋸刃、並びに、鋸刃の製造方法及び帯鋸刃の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、胴部の表面にマークが付された帯鋸刃及びその帯鋸刃を使用する鋸盤が記載されている。このマークは、例えば帯鋸刃を識別する情報を、視覚的に取得できる情報部として機能する。
特許文献1に記載された鋸盤は、胴部の表面にマークが付された帯鋸刃の走行を案内する鋸刃ガイドを有する。この鋸刃ガイドは、胴部の表面に近接配置されて走行を案内する一方、マークとの接触を回避する凹部を有する。
これにより、帯鋸刃は、走行時にマークが鋸刃ガイドと擦れて削られることはなく、マークから経時的に情報が取得できなくなる不具合が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明を活用するためには、加工現場で稼働する多数の鋸盤に取り付けられている凹部を有していない鋸刃ガイドを、凹部を有する鋸刃ガイドに置き換える改造が必要になる。しかしながら、この改造は、費用及び工数の観点で、使用者の負担が大きい。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、鋸盤の改造をしなくても、表面の情報部から情報が取得できなくなる不具合が生じにくい鋸刃及び帯鋸刃、並びに、鋸刃の製造方法及び帯鋸刃の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、次の構成及び手順を有する。
1) 胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部の少なくとも一方の側面に形成された第1新生面と、
前記第1新生面の一部に形成され、前記第1新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認される第2新生面と、
前記第2新生面に付され情報を取得可能な情報部と、を備えた鋸刃である。
2) 前記情報は、前記鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする1)に記載の鋸刃である。
3) 溶接による接合部でループ化された胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部の少なくとも一方の側面に形成された第1新生面と、
前記第1新生面の一部に形成され、前記第1新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認される第2新生面と、
前記第2新生面に付され情報を取得可能な情報部と、を備えた帯鋸刃である。4) 溶接による接合部でループ化された胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部の少なくとも一方の側面に形成された第1新生面と、
前記第1新生面が形成された側面の前記接合部を含む所定の範囲に形成され他の範囲よりも抉れた研磨部と、
前記研磨部の一部の範囲に形成された第2新生面と、
前記第2新生面に付され情報を取得可能な情報部と、を備えた帯鋸刃である。5) 前記情報は、前記帯鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする3)又は4)に記載の帯鋸刃である。
6) 胴部と前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部とを有する鋸刃素材の前記胴部の少なくとも一方の側面に第1ブラスト処理によって新生面を形成するブラスト部形成ステップと、
形成した前記第1新生面の所望の範囲に第2ブラスト処理によって前記新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認されるブラスト重畳部を形成するブラスト重畳部形成ステップと、
前記ブラスト重畳部に、情報を取得可能な情報部を付す情報部形成ステップと、を含む鋸刃の製造方法である。
7) 前記ブラスト重畳部形成ステップと前記情報部形成ステップとの間を除く期間に、前記胴部の少なくとも前記一方の側面に防錆油を塗布する油塗布ステップを含むことを特徴とする6)に記載の鋸刃の製造方法である。
8) 胴部と前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部とを有する鋸刃素材の前記胴部の少なくとも一方の側面に第1ブラスト処理によって新生面を形成するブラスト部形成ステップと、
形成した前記新生面の所望の範囲に第2ブラスト処理によって前記新生面とは光の反射具合や光沢感が異なる表面状態の範囲として視認されるブラスト重畳部を形成するブラスト重畳部形成ステップと、
前記ブラスト重畳部に、情報を取得可能な情報部を付す情報部形成ステップと、
前記ブラスト重畳部形成ステップよりも前、又は前記情報部形成ステップの後に実行する、前記鋸刃素材をループ化して帯鋸刃状にするループ化ステップと、を含む帯鋸刃の製造方法である。
9) 前記ブラスト重畳部形成ステップと前記情報部形成ステップとの間を除く期間に、前記胴部の少なくとも前記一方の側面に防錆油を塗布する油塗布ステップを含むことを特徴とする8)に記載の帯鋸刃の製造方法である。
10) 胴部と前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部とを有する鋸刃素材の端部同士を溶接してループ状にするループ化ステップと、
前記胴部の側面にブラスト処理によって第1新生面を形成する第1ブラスト部形成ステップと、
前記第1新生面を形成した側面の、前記ループ化ステップで溶接した接合部を含む所定の範囲を研磨して、他の範囲よりも抉れた研磨部を形成する研磨ステップと、
前記研磨部の一部の範囲にブラスト処理によって第2新生面を形成する第2ブラスト部形成ステップと、
前記第2新生面に、情報を取得可能な情報部を付す情報部形成ステップと、を含む帯鋸刃の製造方法である。
11) 前記第2ブラスト部形成ステップよりも前、又は前記情報部形成ステップの後に前記胴部の前記側面に防錆油を塗布する油塗布ステップを含むことを特徴とする10)に記載の帯鋸刃の製造方法である。
12) 前記情報部形成ステップは、前記情報部をインクの印字によって付すことを特徴とする6)又は7)に記載の鋸刃の製造方法である。
13) 前記情報部形成ステップは、前記情報部をインクの印字によって付すことを特徴とする8)~11)のいずれか一つに記載の帯鋸刃の製造方法である。14) 前記情報は、前記鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする6),7),12)のいずれか一つに記載の鋸刃の製造方法である。
15) 前記情報は、前記帯鋸刃を識別するための識別情報であり、
前記情報部は、前記識別情報を視覚的に取得できることを特徴とする8)~11),13)のいずれか一つに記載の帯鋸刃の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鋸盤の改造をしなくても表面の情報部から情報が取得できなくなる不具合が生じにくい、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例1である帯鋸刃1Pの素材である鋸刃素材1のコイル材1Cを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、鋸刃素材1を示す部分平面図である。
【
図3】
図3は、鋸刃素材1にショットブラスト形成部21を形成した状態を示す部分平面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示されるショットブラスト形成部21を形成した鋸刃素材1に防錆油22を塗布した状態を示す部分平面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示される防錆油22を塗布した鋸刃素材1にショットブラスト重畳部23を形成した状態を示す部分平面図である。
【
図6】
図6は、
図5におけるS6-S6位置での断面図である。
【
図7】
図7は、
図5に示されるショットブラスト重畳部23に情報部であるマーク24を付した帯鋸刃1Pを示す部分平面図である。
【
図8】
図8は、
図7におけるS8-S8位置での断面図である。
【
図9】
図9は、実施例2の帯鋸刃1P1を示す部分断面図である。
【
図10】
図10は、実施例3の帯鋸刃1P2を示す部分断面図である。
【
図11】
図11(a)~(f)は、実施例4の帯鋸刃1P3を製造する方法における中間段階のループ基材1Rの製造までを示す手順図である。
【
図12】
図12は、
図11(f)に示されるループ基材1RのS12-S12位置での断面図である。
【
図13】
図13は、ループ基材1Rに情報部であるマーク261を付した実施例5の帯鋸刃1R1を示す断面図である。
【
図14】
図14は、ループ基材1Rに情報部であるマーク261,262を付した実施例6の帯鋸刃1R2を示す断面図である。
【
図15】マーク261を示す帯鋸刃1R1の部分平面図である。
【
図16】帯鋸刃1R1に防錆油22を塗布した状態を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例を、実施例1~5の帯鋸刃1P,1P1,1P2,1R1,1R2により説明する。
(実施例1)
実施例1の帯鋸刃は帯鋸刃1Pであり、
図1~
図8を参照して説明する以下の製造方法例によって製造できる。
帯鋸刃1Pは、例えば、
図1に示されるような鋸刃素材1のコイル材1Cから製造する。
図2は
図1に示される鋸刃素材1におけるC部の拡大図である。
図2に示されるように、鋸刃素材1は、高速度鋼などで形成された帯状部材である胴部11と胴部11の一方の縁部側に形成された刃部12とを有する。
【0010】
まず、
図3に示されるように、鋸刃素材1の両側面を1回目のショットブラスト処理である第1ブラスト処理によって粗面化して第1ブラスト部のショットブラスト部21を形成する。この第1ブラスト処理をブラスト部形成ステップと称する。
図3において、ショットブラスト部21は点描で示されている。
ショットブラスト部21には、多数の凹部21a(
図6参照)が形成されている。これによりショットブラスト部21は、例えば算術平均粗さRaが4μm程度の粗面となっている。ショットブラスト部21を形成することで、鋸刃素材1の機械物性が向上する。例えば疲労強度が高くなる。
【0011】
次に、
図4に示されるように、胴部11の両側面に防錆油22を塗布する。ショットブラスト部21は新生面化されて錆が生じ易いので、防錆油22を塗布して錆の発生を防止する。
【0012】
次に、
図5に示されるように、所望の範囲ARa以外の範囲をショットブラスト処理が施されないようマスキングし、範囲ARaに対し2回目のショットブラスト処理である第2ブラスト処理を行う。
この第2ブラスト処理をブラスト重畳部形成ステップと称する。ブラスト重畳部形成ステップにより、範囲ARaに第2ブラスト部のショットブラスト重畳部23が形成される。
図5においてショットブラスト重畳部23は、ショットブラスト部21よりも密な点描で示されている。範囲ARaは、後述するマーク24を付する範囲を包含するように設定する。例えば、範囲ARaは、鋸刃素材1をループ状にして端部同士を溶接し、帯鋸刃としたときの接合部分近傍を除く部分に設定する。
【0013】
図6は、
図5におけるS6-S6位置での断面図である。すなわち、
図6は、胴部11の一方の側面の範囲ARaにショットブラスト重畳部23が形成された鋸刃素材1の断面を示している。
【0014】
ショットブラスト重畳部23は、2回目のショットブラスト処理によって防錆油22及び表面に付着していたゴミが除去された状態になっている。
ショットブラスト重畳部23は、ショットブラスト部21に対し、例えば、算術平均粗さRaが同等で凹部21aよりも密に凹部23aが形成された新生面の粗面となっている。
ショットブラスト重畳部23は、ショットブラスト部21に対し、凹んだ部分の密度が異なるために光の反射具合や光沢感が異なり、異なる表面状態の範囲として視認される。
【0015】
胴部11の側面に施すショットブラスト処理の種類や程度は、限定されない。例えば、2回目のショットブラスト処理は、範囲ARaにおいて、側面の表面に付着している防錆油22及びゴミを除去し、表面の凹凸状態をより密な状態にするものであればよい。
【0016】
図5及び
図6に示されるように、胴部11の一方の側面の範囲ARaにショットブラスト重畳部23を形成したら、
図7に示されるように、範囲ARaにマーク24を印字する。具体的には、ショットブラスト重畳部23内の所望の位置に、印字装置によってインクを所定のマーク24の形状で付着させる。このマーク24の付着処理を、情報部形成ステップと称する。
鋸刃素材1は、マーク24が付され、端部同士を、ループ化ステップである溶接接合でループ化し帯鋸刃1Pとされる。 また、鋸刃素材1にマーク24を付して帯鋸刃1Pとした後、範囲ARaに防錆油22を塗布しておく。防錆油22の塗布である油塗布ステップは、ショットブラスト重畳部23を形成した時点からマークを付する時点までの間の期間を除く期間に実施する。
【0017】
マーク24は、例えば、製造する帯鋸刃の種類、物性、材質、用途などを識別するための識別情報などの情報を、視覚的に直接或いは間接的に取得可能な情報部である。詳しくは、マーク24は、文字、記号、絵柄、1次元或いは2次元のコードなどである。
【0018】
図8は、
図7におけるS8-S8位置での断面図である。
図8に示されるように、ショットブラスト重畳部23が形成された範囲ARaの表面には、油及びゴミが付着していない。
そのため、印字装置の印字動作によって、インク24aは、マーク24に対応した部分の凹部23a内に良好に入り込み高い密着度で保持される。
【0019】
すなわち、帯鋸刃1Pは、複数回のショットブラストが施されて油及びゴミが除去され凹凸が他部位よりも密となったショットブラスト重畳部23に、情報部であるマーク24が高密着度で印字されている。
そのため、帯鋸刃1Pは帯鋸盤に用いられて走行を繰り返しても、油分或いはゴミが付着した状態で印字された場合と比べてマーク24は消えにくくなっている。また、1回のショットブラスト部21に印字された場合と比べてマーク24は消えにくくなっている。
【0020】
また、情報部であるマーク24が付されている範囲ARaは、ショットブラスト処理が複数回実行されているショットブラスト重畳部23であるため、1回実行された部分であるショットブラスト部21よりも、表面及び厚さ方向における表面近傍部位がより硬化している。
そのため、帯鋸刃1Pは、帯鋸盤にセットされ走行しているときに、胴部11の側面に鋸刃ガイドが接触しても、ショットブラスト重畳部23は特に削れにくくなっている。
これにより、ショットブラスト重畳部23に付された情報部であるマーク24は、より消えにくく、マーク24から経時的に情報が取得できなくなる不具合が生じにくい。
実施例1は、ループ化していない単なる帯状の鋸刃1Nであってもよい(
図7,
図8参照)。
【0021】
(実施例2)
図9は、実施例2の帯鋸刃1P1の断面図である。
図9に示されるように、帯鋸刃1P1は、実施例1の帯鋸刃1Pに対し、ショットブラスト重畳部23を、胴部11の両側面それぞれにショットブラスト重畳部231,232として形成し、マーク24を一方のショットブラスト重畳部231のみにマーク241として付したものである。
詳しくは、帯鋸刃1P1は、胴部11の一方の面の範囲ARaにショットブラスト重畳部231が形成され、他方の面の範囲ARbにショットブラスト重畳部232が形成されている。実施例2は、ループ化していない単なる帯状の鋸刃1N1であってもよい(
図9参照)。
【0022】
実施例1の帯鋸刃1Pは、ショットブラスト重畳部23を一方の面のみに形成している。
そのため、ショットブラストによって生じる残留応力が、ショットブラスト重畳部23を形成していない側よりも、ショットブラスト重畳部23を形成した側の方が大きくなっている。従って、厳密には、帯鋸刃1Pとして、範囲ARaにおいて厚さ方向の残留応力がアンバランスな状態になっている。
これに対し、実施例2の帯鋸刃1P1は、胴部11の両方の面に、概ね対称的にショットブラスト重畳部231,232を形成している。そのため、範囲ARa,範囲ARbにおいて、残留応力は厚さ方向で高度にバランスがとれた状態になっている。
そのため、帯鋸刃1P1は、鋸盤での累積走行時間が長時間になっても、偏った残留応力に起因する歪が生じにくく長寿命となる。
【0023】
(実施例3)
図10は、実施例3の帯鋸刃1P2の断面図である。
図10に示されるように、帯鋸刃1P2は、実施例2の帯鋸刃1P1に対し、情報部であるマーク24を、胴部11の両面のショットブラスト重畳部231,232にそれぞれマーク241,242として付したものである。
詳しくは、ショットブラスト重畳部231にはショットブラスト処理により多数の凹部231aが形成され、マーク241に対応した凹部231aにインク241aが保持されている。
また、ショットブラスト重畳部232にはショットブラスト処理により多数の凹部232aが形成され、マーク242に対応した凹部232aにインク242aが保持されている。
これにより、帯鋸刃1P2は、走行方向が異なる帯鋸盤に用いられても、マーク241及び242のいずれかを容易に視認できるので、取り扱いの利便性が高い。実施例3は、ループ化していない単なる帯状の鋸刃1N2であってもよい(
図10参照)。
【0024】
(実施例4)
実施例1~3の帯鋸刃1P,1P1,1P2は、鋸刃素材1を溶接によってループ状にした場合の、接合部の近傍ではない側面にマーク24,241,242が付されている。これに対し、実施例4の帯鋸刃1R1は、接合部を含む接合部近傍の側面に情報部であるマーク261を有する。
【0025】
帯鋸刃1R1の製造方法の例を、
図11~
図13を参照して説明する。
図11は、帯鋸刃1R1の製造方法における中間段階のループ基材1Rの製造までを示す手順図である。
図12は、ループ基材1Rの接合部Mとその近傍の断面図である。
図13は、ループ基材1Rに情報部であるマーク261を付して帯鋸刃1R1とした状態を示す断面図である。
【0026】
図11(a)に示されるように、帯鋸刃1R1は、例えば鋸刃素材1のコイル材1Cから製造する。鋸刃素材1は、高速度鋼などで形成された帯状部材である胴部11と、胴部11の一方の縁部に形成された刃部12とを有する。
まず、コイル材1Cから引き出した状態の鋸刃素材1〔
図11(a)参照〕、又はコイル材1Cから引き出して所定の長さに切断した鋸刃素材1の表面に対し、
図11(b),(c)示されるように、ショットブラスト処理を施し防錆油を塗布する。コイル材1Cから引き出した状態の鋸刃素材1は所定の長さで切断する。
次いで、所定の長さで切断した鋸刃素材1に対し、切断端部に生じたばりを除去するなどの溶接前処理をする。そして、
図11(d)に示されるように、鋸刃素材1の端部同士を突き合わせた接合部Mにて溶接し、ループ状の胴部11及び刃部12を有する帯鋸刃状のループ基材1Rとする。
【0027】
図11(e)は、ループ基材1Rの接合部M及びその近傍を示す平面図である。
図11(e)に示されるように、ループ基材1Rの側面には、ショットブラスト処理によってショットブラスト部21が形成され、防錆油22が塗布されている。
次いで、ループ基材1Rにおける接合部Mを長手方向の概ね中央位置とした所定の範囲ARcに対し、突き合わせ溶接で生じた突出部位などを除去して表面を平滑化すべく研磨処理を施す。この研磨処理を研磨ステップと称し、研磨処理が施された範囲が研磨部25とされる。
図11(e)において、研磨部25が形成された範囲は、傾斜していない横線ハッチングが付された長手方向の範囲ARcで示されている。
研磨処理の方法は限定されるものではなく、例えばベルト研磨とされる。
【0028】
次いで、
図11(f)に示されるように、研磨部25以外の範囲にショットブラスト処理が施されないよう覆うマスキングをして、少なくとも範囲ARcに含まれる範囲AReに対し、研磨部25として1回目となるショットブラスト処理を行う。
これにより、範囲ARcの研磨部25の全体又はその一部に、ショットブラスト部27が形成される。ショットブラスト部27が施された面は新生面となり、付着していた防錆油22及びゴミは除去されている。ショットブラスト部27が形成された範囲AReは、
図11(f)において点描で示されている。
【0029】
図12は、
図11(f)におけるS12-S12位置での断面図である。
研磨部25は、胴部11の両面の概ね対応した範囲にそれぞれ研磨部251,252として形成される。研磨部251,252は、研磨加工によって他の部位に対して抉れた部分となる。研磨部251,252の面形状は、研磨部251,252以外の面に対して凹部となる面であれば限定されない。
【0030】
研磨部251,252には、それぞれショットブラスト部27としてショットブラスト部271,272が形成されて新生面化されている。また、ショットブラスト部271,271は、表面に付着していた油分及びゴミも除去され凹部271a,272aが形成されている。ショットブラスト部271、271は、ショットブラスト部21に対し、算術平均粗さRa及び凹凸の密度が、例えば同等に形成される。
【0031】
図12において、ショットブラスト部271が形成された範囲AReは、研磨部251が形成された範囲ARcと同一又は範囲ARcに包含される範囲である。
ショットブラスト部272が形成された範囲ARfは、研磨部252が形成された範囲ARdと同一又は範囲ARdに包含される範囲である。
【0032】
次いで、
図13に示されるように、多数の凹部271aを含むショットブラスト部271が形成された研磨部251のみに、印字装置によってインク261aを所定のマーク261の形状で付着させる。すなわち、範囲ARcにマーク261を印字する。
【0033】
マーク261は、例えば、製造する帯鋸刃の種類、物性、材質、用途などを識別するための識別情報などの情報を、視覚的に直接或いは間接的に取得できる情報部である。詳しくは、マーク261は、文字、記号、絵柄、1次元或いは2次元コードなどである。
【0034】
研磨部251は、新生面化されると共に油分及びゴミも除去されているため、印字されたインク261aは、マーク261に対応した部分の凹部271a内に良好に入り込み、高い密着度で保持される。
ループ基材1Rは、マーク261が付されて実施例4の帯鋸刃1R1となる。
【0035】
このように、帯鋸刃1R1において、情報部であるマーク261は、油分及びゴミが除去された新生化面であるショットブラスト部271に付されているため、凹部271aとの密着性が高く経時的に消えにくい。
これにより、帯鋸刃1R1は、マーク261から長期にわたり情報を取得できる。
【0036】
研磨部251は、胴部11における他の部位よりも抉れた部分である。そのため、帯鋸刃1R1を鋸盤に装着して走行させた際に、鋸刃ガイドが研磨部251に接触しにくくなっている。仮に、鋸刃ガイドが走行する帯鋸刃1R1の研磨部251に接触したとしても、厚さ方向に力はほとんど付与されない。
そのため、帯鋸刃1R1は、マーク261が、帯鋸刃1R1の走行に伴って経時的に削れることはほとんどなく、マーク261から長期にわたり情報を取得できる。
【0037】
(実施例5)
図14は、実施例5の帯鋸刃1R2の断面図である
図14に示されるように、帯鋸刃1R2は、範囲AReとしてショットブラスト部271が形成された範囲ARcの研磨部251、及び範囲ARfとしてショットブラスト部272が形成された範囲ARdの研磨部252を有する。
そして帯鋸刃1R2は、研磨部251,252に、それぞれ印字装置によってインク261a及び262aが、マーク261及びマーク262の形状で付着している。
すなわち、帯鋸刃1R2は、範囲AReにマーク261が付され、範囲ARfにマーク262が付されている。
これにより、帯鋸刃1R2は、走行方向が異なる帯鋸盤に用いられても、マーク261及び262のいずれかを容易に視認でき、取り扱いの利便性が高い。
【0038】
また、帯鋸刃1R2のマーク261,262は、それぞれ、いずれも胴部11の他の部位よりも抉れた部位となっている研磨部251,252に付されている。
そのため、帯鋸刃1R2は、マーク261,262の両方とも、帯鋸刃1R2の走行に伴い削れることはほとんどなく、マーク261,262から長期にわたり情報を取得できる。
【0039】
図15は、帯鋸刃1R1及び帯鋸刃1R2における接合部Mを含むその近傍の平面図である。
図15に示されるように、研磨部25に形成されたショットブラスト部27に、情報を視覚的に取得できる情報部であるマーク261が付されている。
図16に示されるように、少なくともマーク261の情報部を有する帯鋸刃1R1及び帯鋸刃1R2は、研磨部25に防錆油221が塗布されて出荷される。
【0040】
以上詳述したように、実施例1~5の帯鋸刃1P,1P1,1P2,1R1,1R2及び実施例1~3の鋸刃1N,1N1,1N2は、胴部11の側面に付された情報部から情報が取得できなくなる不具合が生じにくい。
【0041】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0042】
情報部の例としてインクで形成するマーク24を説明したが,マーク24はインクで形成するものに限定されずレーザマーキングなどの他の方法で付されていてもよい。
胴部11の研磨部25を含む表面の粗面化は、ショットブラスト処理で行うことに限定されない。金属材の表面を粗面化する周知の方法を用いることができる。
【0043】
実施例1~3の帯鋸刃1P,1P1,1P2に形成した情報部であるマーク261は、帯状の帯鋸刃及び鋸刃ではない円盤状の鋸刃にも適用できる。
【0044】
実施例1~3の帯鋸刃1P,1P1,1P2について、鋸刃素材1のループ化は、ショットブラスト重畳部23の形成前又はマーク24,241の形成後に行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 鋸刃素材
1C コイル材
1P,1P1,1P2,1R1,1R2 帯鋸刃
1R ループ基材
11 胴部
12 刃部
21,27,271,272 ショットブラスト部
21a,23a,231a,232a,271a,272a 凹部
22,221 防錆油
23,231,232 ショットブラスト重畳部
24,241,242,261,262 マーク(情報部)
25,251,252 研磨部
24a,261a,262a インク
ARa,ARb,ARc,ARd,ARe,ARf 範囲
M 接合部
【手続補正書】
【提出日】2024-06-04
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、胴部の表面に情報を視覚的に取得できる情報部を有する帯鋸刃の製造方法及び帯鋸刃に関する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、鋸盤の改造をしなくても、表面の情報部から情報が取得できなくなる不具合が生じにくい帯鋸刃の製造方法及び帯鋸刃を提供することにある。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、次の手順及び構成を有する。
1) 鋸刃ガイドを有する帯鋸盤に用いられる帯鋸刃を製造する帯鋸刃の製造方法であって、
一方の縁部側に刃部を有する胴部を、端部同士を突き合わせた接合部で溶接してループ化し、
前記胴部の所定の範囲を研磨して抉り、前記帯鋸盤に装着して走行させた際に他の範囲よりも前記鋸刃ガイドと接触しにくい研磨部とし、
前記研磨部に視覚的に情報を取得可能な情報部を付す帯鋸刃の製造方法である。
2) 鋸刃ガイドを有する帯鋸盤に用いられ、
胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部において抉れた部分として形成されて前記帯鋸盤に装着されて走行した際に他の部位よりも前記鋸刃ガイドに接触しにくい研磨部と、
前記研磨部に形成され、視覚的に情報を取得可能な情報部と、
を備えた帯鋸刃である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋸刃ガイドを有する帯鋸盤に用いられる帯鋸刃を製造する帯鋸刃の製造方法であって、
一方の縁部側に刃部を有する胴部を、端部同士を突き合わせた接合部で溶接してループ化し、
前記胴部の所定の範囲を研磨して抉り、前記帯鋸盤に装着して走行させた際に他の範囲よりも前記鋸刃ガイドと接触しにくい研磨部とし、
前記研磨部に視覚的に情報を取得可能な情報部を付す帯鋸刃の製造方法。
【請求項2】
前記研磨部に前記接合部を含める請求項1記載の帯鋸刃の製造方法。
【請求項3】
前記情報部を付す前に、前記研磨部の表面を粗面化する請求項1又は請求項2記載の帯鋸刃の製造方法。
【請求項4】
鋸刃ガイドを有する帯鋸盤に用いられ、
胴部と、
前記胴部の一方の縁部側に形成された刃部と、
前記胴部において抉れた部分として形成されて前記帯鋸盤に装着されて走行した際に他の部位よりも前記鋸刃ガイドに接触しにくい研磨部と、
前記研磨部に形成され、視覚的に情報を取得可能な情報部と、
を備えた帯鋸刃。
【請求項5】
前記胴部は、溶接による接合部を有し、
前記研磨部は、前記接合部を含んでいる請求項4記載の帯鋸刃。