(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096469
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ニロチニブ錠剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20240705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240705BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P35/00
A61K9/20
A61K47/38
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078700
(22)【出願日】2024-05-14
(62)【分割の表示】P 2020123968の分割
【原出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菊地 優作
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、ニロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤であって、ニロチニブを高含量とした服薬しやすい錠剤を提供することである。好ましくは、pH3.0緩衝液中の溶出性をコントロール可能な医薬錠剤を提供することである。
【解決手段】ニロチニブ塩酸塩を有効成分として、これに賦形剤、崩壊剤、結合剤を錠剤内部に含む医薬錠剤。当該医薬錠剤はニロチニブ含量が50質量%以上の錠剤とする事である。また、崩壊剤、結合剤及び賦形剤を好適化することで、pH3.0緩衝液中での錠剤の崩壊性をコントロールすることを可能とし、溶出性を抑制的にコントロールすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニロチニブ塩酸塩、賦形剤及び崩壊剤を含有する医薬錠剤であって、該医薬錠剤の素錠質量におけるニロチニブ含有率が50質量%以上である、医薬錠剤。
【請求項2】
賦形剤の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において35質量%より少ない、請求項1に記載の医薬錠剤。
【請求項3】
崩壊剤の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において4質量%以上で10質量%より少ない、請求項1または2に記載の医薬錠剤。
【請求項4】
賦形剤が結晶セルロースを含み、結晶セルロースの含有率が該医薬錠剤の素錠質量において10質量%より多く35質量%より少ない、請求項1~3の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【請求項5】
結晶セルロースと崩壊剤を併せた総質量の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において15質量%より多く45質量%より少ない、請求項4に記載の医薬錠剤。
【請求項6】
カルメロースナトリウムを含む、請求項1~5の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【請求項7】
崩壊剤とカルメロースナトリウムを併せた総質量の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において5質量%より多く12質量%より少ない、請求項6に記載の医薬錠剤。
【請求項8】
崩壊剤とカルメロースナトリウムの含有量比が、[崩壊剤]/[カルメロースナトリウム]=1~5である、請求項6または7に記載の医薬錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニロチニブ塩酸塩を有効成分として含有する医薬錠剤であって、有効成分含量を高めた服薬しやすい錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニロチニブは、化学名を4-メチル-3-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]-N-[5-(4-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドとする、一般式(1)で示される構造を有する化合物である。
【化1】
【0003】
ニロチニブは、Bcr-Ablチロシンキナーゼに対する高い選択制と強い阻害活性を有するチロシンキナーゼ阻害剤(Tyrosine Kinase Inhibitor:TKI)であり、ATPと競合的に拮抗し、Bcr-Ablチロシンキナーゼを阻害することによって、Bcr-Abl発現細胞のアポトーシス誘導に基づいて抗腫瘍効果を示すと考えられている。タシグナ(登録商標)カプセルの商標名で市販されており、慢性期又は移行期の慢性骨髄性白血病の治療剤として用いられている(非特許文献1)。特許文献1に、ニロチニブ塩酸塩を含む顆粒を用いた医薬カプセル製剤を記載しており、該顆粒の内相中にポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(オキシエチレン単位およびオキシプロピレン単位の数がそれぞれ150および30)、ラクトース一水和物、ポリビニルピロリドンを含み、該顆粒の外相中にラクトース一水和物、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウムを含むカプセル剤が記載されている。
一般的に、カプセル製剤は嚥下困難な傾向にある剤型であると言われている。このためニロチニブも嚥下性に優れた錠剤の開発が望まれる。更に、錠剤は、既存のニロチニブのカプセル製剤と同等の溶出性を示すことが求められる。既存のカプセル製剤と同等な溶出プロファイルを有するニロチニブ錠剤を取得するためには、特に、pH3.0緩衝液中において崩壊性を遅延させて、溶出を抑制する必要がある。特許文献2では、カプセル製剤と同等の溶出プロファイルを有するニロチニブ錠剤を調製するにあたり、ヒドロキシプロピルセルロースE50を含むコーティング材で被覆したフィルムコーティング錠剤とすることで、崩壊を4~15分遅延させた錠剤を調製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-504942号公報
【特許文献2】特表2014-533283号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】タシグナ(登録商標)カプセル25mg、同150mg、同200mgの医薬品インタビューフォーム(2017年12月改訂(第18版))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ニロチニブ塩酸塩、賦形剤及び崩壊剤を含有する医薬錠剤であって、ニロチニブ含量を高めた錠剤を提供することである。特に、該医薬錠剤の素錠質量におけるニロチニブ含量が50質量%以上の医薬錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、以下の[1]~[8]を要旨とする。
[1] ニロチニブ塩酸塩、賦形剤及び崩壊剤を含有する医薬錠剤であって、該医薬錠剤の素錠質量におけるニロチニブ含有率が50質量%以上である、医薬錠剤。
[2] 賦形剤の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において35質量%より少ない、前記[1]に記載の医薬錠剤。
[3] 崩壊剤の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において4質量%以上で10質量%より少ない、前記[1]または[2]に記載の医薬錠剤。
[4] 賦形剤が結晶セルロースを含み、結晶セルロースの含有率が該医薬錠剤の素錠質量において10質量%より多く35質量%より少ない、前記[1]~[3]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
[5] 結晶セルロースと崩壊剤を併せた総質量の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において15質量%より多く45質量%より少ない、前記[4]に記載の医薬錠剤。
[6] カルメロースナトリウムを含む、前記[1]~[5]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
[7] 崩壊剤とカルメロースナトリウムを併せた総質量の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において5質量%より多く12質量%より少ない、前記[6]に記載の医薬錠剤。
[8] 崩壊剤とカルメロースナトリウムの含有量比が、[崩壊剤]/[カルメロースナトリウム]=1~5である、前記[6]または[7]に記載の医薬錠剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ニロチニブを50質量%以上で含有する医薬錠剤を調製することができ、これにより錠剤が小型化でき、服薬しやすい医薬錠剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の、ニロチニブ塩酸塩、賦形剤及び崩壊剤を含有する医薬錠剤について、以下に説明する。
【0010】
本発明は、有効成分としてニロチニブ塩酸塩を用いる。ニロチニブは4-メチル-3-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]-N-[5-(4-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドであり、その塩酸塩が用いられる。ニロチニブ塩酸塩は医薬品として容認できる品質であることが好ましい。
ニロチニブ塩酸塩は、特許第5798101号において形態A(二水和物)、A’(一水和物)、A’’(無水物)、B(一水和物)、B’(無水物)、C(一水和物)、C’(無水物)、SB、SB’、SC、D、SEが開示されている。また、特許第5486012号において形態T1~T19が開示されており、いずれの形態であっても本願発明に用いることができる。本発明において、使用するニロチニブ塩酸塩は特に限定されるものではないが、形態Aのニロチニブ塩酸塩二水和物、若しくは形態A’、B又はCのニロチニブ塩酸塩一水和物が好ましい。
【0011】
本発明における医薬錠剤は、ニロチニブ(遊離塩基)として50質量%以上で含有する。従来のニロチニブ製剤は嚥下困難なカプセル製剤であった。しかしながら、服薬容易な錠剤とすることに加え、更に有効成分含量を高め、相対的に錠剤を小型化することで、より服薬コンプライアンスを向上させることができる。ニロチニブは50質量%以上で70質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは50質量%以上で60質量%以下である。
【0012】
本発明の医薬錠剤は、賦形剤を含有する。賦形剤としては、結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプン等のでん粉類、乳糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、フルクトース、トレハロース、白糖、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール等の糖類などが挙げられる。結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類を用いることが好ましい。
賦形剤は、本発明に係る医薬錠剤の素錠質量における含有率が35質量%より少ないことが好ましい。賦形剤は、15質量%より多く35質量%より少ないことが好ましく、20質量%より多く35質量%より少ない含有率であることがより好ましい。
賦形剤は、結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類を用いることが好ましく、結晶セルロースを用いることがより好ましい。結晶セルロースは、医薬錠剤の素錠質量において10質量%より多く35質量%より少ない含有率で用いることが好ましく、15質量%より多く35質量%より少ないことがより好ましく、20質量%より多く35質量%より少ない含有率であることが特に好ましい。
賦形剤は、前記でん粉類、前記糖類、を含まないものが好ましい。より好ましくは、前記セルロース類のみであり、結晶セルロース及び/又は粉末セルロースからなる賦形剤である。
【0013】
本発明において崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、部分アルファ―化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。崩壊剤は、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウムを用いることが好ましい。これらはスーパー崩壊剤とも称され、少量の適用で機能することから、添加剤使用量を減量して小型化錠剤を達成することができる。崩壊剤は、本発明に係る医薬錠剤の素錠質量における含有率が4質量%以上で10質量%より少ないことが好ましい。4質量%以上で8質量%以下の含有率であることがより好ましい。
【0014】
結晶セルロースは、本発明において錠剤の崩壊性を補助する機能を有する。このため、結晶セルロースと崩壊剤を組み合わせて使用することで、崩壊剤を減量することができるため好ましい。これらを併せた総質量を制御することが好ましい。結晶セルロースと崩壊剤を併せた総質量の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において15質量%より多く45質量%より少ないものとすることが好ましく、25質量%より多く40質量%より少ないものとすることがより好ましい。
【0015】
本発明の医薬錠剤は、カルメロースナトリウムを適用することが好ましい。本発明においてカルメロースナトリウムは結合剤として機能し、当該錠剤の崩壊速度を制御することができる。ニロチニブの錠剤調製において、既存のニロチニブのカプセル製剤と同等の溶出性とするために、該錠剤は溶出性を抑制的に制御されることが好ましい。錠剤化するにあたり該カプセル製剤と同等な溶出性とするために、例えば、pH3.0緩衝液中における溶出性を抑制することが求められる。カルメロースナトリウムを用いることにより、当該医薬錠剤の崩壊性を調整でき、溶出性を制御することができる。
カルメロースナトリウムは、本発明に係る医薬錠剤の素錠質量における含有率が1質量%より多く10質量%より少ないことが好ましい。2質量%より多く8質量%より少ない含有率であることがより好ましく、2質量%より多く6質量%より少ないことが特に好ましい。
カルメロースナトリウムは、1%水溶液にした時の粘度が10mPa・sより大きく1000mPa・sより小さいものを用いることが好ましく、50mPa・sより大きく500mPa・sより小さいものを用いることがより好ましい。粘度は、1%水溶液を調製し減圧脱泡したものを試料溶液として、試料溶液を均一に攪拌し液温が25℃になったことを確認したのち、B型粘度計により60rpmで測定した値である。
【0016】
カルメロースナトリウムは崩壊性を調整するために用いることから、崩壊剤と併せた総質量を考慮して当該医薬錠剤の処方を設計することが好ましい。カルメロースナトリウムと崩壊剤を併せた総質量の含有率が、該医薬錠剤の素錠質量において5質量%より多く15質量%より少ないものとすることが好ましく、5質量%より多く12質量%より少ないものとすることがより好ましい。
また、崩壊性を制御するために、カルメロースナトリウムと崩壊剤の含有比率を考慮することで、適切な溶出性を付与することができる。すなわち、カルメロースナトリウム含有比率を高くするとpH3.0緩衝液中における溶出性を抑制することができ、崩壊剤含有率を高くすると溶出性を高めることができる。
本発明において、崩壊剤とカルメロースナトリウムの含有量比は[崩壊剤]/[カルメロースナトリウム]=0.5~5とすることが好ましい。この範囲とすることにより、pH3.0緩衝液中における溶出性を抑制することができる。より好ましくは[崩壊剤]/[カルメロースナトリウム]=1~5である。これにより、試験溶液が900mLのpH3.0緩衝液での溶出率が試験開始から30分で40%以下、60分で50%以下、120分で60%以下の溶出率とすることができる。
【0017】
本発明の医薬錠剤は、結合剤としてカルメロースナトリウムのみを用いても良く、その他の結合剤と混合して用いても良い。その他の結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0018】
本発明の医薬錠剤は、錠剤調製に用いられるその他添加剤を含んでいても良い。例えば、可溶化剤、分散剤、滑沢剤、流動化剤、隠蔽剤、着色剤が挙げられる。これらの添加剤は、医薬品製剤用途で許容される純度であれば特に制限されることなく用いることができる。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬錠剤を調製する際に、任意に使用される。
【0019】
可溶化剤や分散剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0020】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム、カルナウバロウ等が挙げられる。
【0021】
流動化剤としては、コロイド状二酸化ケイ素、含水二酸化ケイ素、タルク等があげられる。
【0022】
隠蔽剤や着色剤としては、酸化チタン、黄酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、タルク、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられる。
【0023】
崩壊剤、結合剤、可溶化剤、分散剤、滑沢剤、流動化剤、賦形剤、隠蔽剤や着色剤等の他の添加剤は、これらを1種以上含有する他の添加剤組成物として、これを予め混合して調製される造粒物として用いても良い。他の添加剤をプレミックスして一体化した造粒物とすることで、錠剤製造操作を行う上で取り扱いやすい物性となる利点がある。
【0024】
本発明の医薬錠剤はフィルムコーティングされていても良い。フィルムコーティング基剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー等が挙げられる。フィルムコーティング基剤として、本発明の効果を妨げない範囲で医薬錠剤外部にあたるフィルムコート部分にアミノ基修飾高分子添加剤が含まれていてもよい。
また、フィルムコート部分にはコーティング基剤の他、隠蔽剤や着色剤、分散剤等の医薬製剤のコーティング剤に用いられる任意の添加剤が含まれていても良い。コーティング剤に用いる隠蔽剤や着色剤、分散剤は、前述と同義である。
【0025】
本発明における医薬錠剤は、ニロチニブ塩酸塩として53.5~80質量部、結合剤を0.1~20質量部、崩壊剤を1~20質量部、滑沢剤を0.1~7質量部、流動化剤を0~5質量部、賦形剤を10~35質量部で含有する処方が好ましい。前記処方組成物を混合し、造粒して顆粒体を調製し、これを圧縮成型することで医薬錠剤を調製することができる。その後、この医薬錠剤をフィルムコーティングしてもよい。好ましくは、ニロチニブ塩酸塩として53.5~70質量部、結合剤を1~10質量部、崩壊剤を1~10質量部、滑沢剤を1~5質量部、流動化剤を0~3質量部、賦形剤を20~35質量部を含有する処方による医薬錠剤である。
本発明は医薬錠剤の形状は、経口的な服用に適する通常の形状及び大きさであれば特に限定されない。
【0026】
本発明における医薬錠剤の製造方法は、ニロチニブ塩酸塩と、賦形剤、崩壊剤、及びその他の添加剤を混合する工程、次いで、前記工程で得られた混合物を圧縮成型し、錠剤を調製する工程、を含む医薬錠剤の製造方法、である。
【0027】
本発明の医薬錠剤の製造方法において、カルメロースナトリウムは粉末のままニロチニブ塩酸塩及びその他の添加剤と混合してもよく、カルメロースナトリウムを水、エタノール、メタノール等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒等の水性媒体に溶解し、ニロチニブ塩酸塩及びその他の添加剤と混合してもよい。また、ニロチニブ塩酸塩及びその他の添加剤の混合後にカルメロースナトリウムを上記水性媒体に溶解し、スプレー等することで混合物としてもよい。
【0028】
本発明の医薬錠剤の製造方法において、医薬錠剤を圧縮成型する前に、造粒化操作を行い、造粒物を調製することが好ましい。造粒物とは、有効成分と種々の添加剤を含有する混合物同士が付着して成形された一定の粒子径を有する顆粒状物であり、後の工程において圧縮成型能を向上させるために調製する粒状物である。
該造粒物を調製する造粒化操作は、乾式造粒でも湿式造粒でもよい。乾式造粒とは、造粒時に水を添加しない造粒方法であり、湿式造粒とは前記混合物に水、エタノール、メタノール等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒等の水性媒体を適当量添加して、混合操作等の機械的圧力を付加して該混合物同士を付着させ、顆粒状物として造粒する操作である。造粒化操作としては、圧縮造粒法、溶融造粒法、ローラーコンパクター法、転動造粒法、流動層造粒法、攪拌造粒法、押出造粒法等が挙げられる。本発明に係る造粒化操作としては、これらの操作方法から、適宜選択して当該造粒物を調製することができる。
【0029】
本発明の医薬錠剤の製造方法は、前記工程で得られた混合物を圧縮成型し錠剤にする工程を含む。
前述したニロチニブ塩酸塩を有効成分として、これに賦形剤、崩壊剤並びに医薬錠剤調製用の添加剤を含む組成物に、任意に滑沢剤を添加して、打錠成型等により錠剤形に成型することにより、医薬錠剤内部である素錠を調製することができる。錠剤の硬度は約10~200Nとすることが好ましい。より好ましくは50~150Nである。
【0030】
本発明の医薬錠剤の製造方法において、圧縮成型後、素錠をフィルムコーティングする工程を付加してもよい。フィルムコーティングを行う場合、前記医薬錠剤外部であるフィルムコート部分は、水又は水と任意の割合で混合し得る有機溶剤を含む水溶性溶剤に前記コーティング剤に用いられる任意の添加剤を溶解し、錠剤内部である素錠が入ったコーティングパンの中へ注入またはスプレーし、錠剤表面に熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる方法により、フィルムコーティングを行うことができる。乾燥工程は、室温~80℃程度で行うことが好ましい。減圧下で行うことで水性溶剤を揮発させて乾燥しても良い。
【0031】
本発明の医薬錠剤は、pH3.0緩衝液中で錠剤の崩壊が遅延し、ニロチニブの溶出を抑制的に制御できる医薬錠剤であることを特徴とする。すなわち、既知のニロチニブのカプセル製剤と同等の溶出プロファイルを示す医薬錠剤である。本明細書において、溶出性を評価する溶出試験は、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験である。
【0032】
日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験法により、本発明の医薬錠剤から有効成分であるニロチニブ塩酸塩を試験溶液中へ溶出させ、紫外可視吸光度計もしくは液体クロマトグラフィーを用いて試験液へのニロチニブの溶出率を評価することで、本発明の医薬錠剤の特徴であるpH3.0緩衝液中で崩壊が遅延する医薬錠剤であることを確認することができる。
【0033】
本発明の医薬錠剤は、pH3.0緩衝液中で崩壊が遅延する医薬錠剤であることを特徴とする。より具体的には、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験において、試験溶液が900mLのpH3.0緩衝液である時、試験開始から30分で40%以下の溶出率であり、より好ましくは30分で40%以下、且つ60分で50%以下、且つ120分で60%以下の溶出率であることを特徴とする。
【0034】
本発明の医薬錠剤を用いた医薬品の用途は、ニロチニブにより治療効果を奏する疾病であれば特に限定されるものではない。例えば、悪性腫瘍の治療に適用することができる。より具体的には、非小細胞肺癌、膵癌、グリオーマ、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、肝細胞癌、腎癌、頭頸部癌、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、食道癌、を挙げることができる。これらの疾患に限定されるものではないが、適用する好ましい疾患として挙げることができる。
【0035】
本発明の医薬製剤を用いた医薬品の投与量は、患者の性別、年齢、生理的状態、病態等により当然変更されうるが、例えば成人1日当たり、ニロチニブとして10mg~1gの範囲の薬剤を投与する。この投与量に限定されるものではないが、適用する好ましい投与量として挙げることができる。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)1000.6mg、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)550.4mg、カルメロースナトリウム(五徳薬品株式会社製,1%水溶液の粘度390mPa・s)70.4mg、クロスポビドン(BASF社製)70.4mg、コロイド状二酸化ケイ素(日本アエロジル社製)17.6mg、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)15.4mgを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)35.2mgを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約400mgを打錠機にて圧縮成形し、実施例1の錠剤とした。
【0038】
[実施例2]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)1000.6mg、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)532.8mg、カルメロースナトリウム(五徳薬品株式会社製,1%水溶液の粘度390mPa・s)52.8mg、クロスポビドン(BASF社製)105.6mg、コロイド状二酸化ケイ素(日本アエロジル社製)17.6mg、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)15.4mgを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)35.2mgを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約400mgを打錠機にて圧縮成形し、実施例2の錠剤とした。
【0039】
[実施例3]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)1023.3mg、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)544.95mg、カルメロースナトリウム(ダイセルファインケム社製,1%水溶液の粘度734mPa・s)54.0mg、クロスポビドン(BASF社製)108.0mg、コロイド状二酸化ケイ素(日本アエロジル社製)18.0mg、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)15.75mgを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)36.0mgを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約400mgを打錠機にて圧縮成形し、実施例3の錠剤とした。
【0040】
[実施例4]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)1000.6mg、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)437.1mg、カルメロースナトリウム(五徳薬品株式会社製,1%水溶液の粘度390mPa・s)49.5mg、クロスポビドン(BASF社製)99.0mg、コロイド状二酸化ケイ素(日本アエロジル社製)16.5mg、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)14.3mgを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)33.0mgを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約375mgを打錠機にて圧縮成形し、実施例4の錠剤とした。
【0041】
[実施例5]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)1455.4mg、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)538.2mg、カルメロースナトリウム(五徳薬品株式会社製,1%水溶液の粘度390mPa・s)67.2mg、クロスポビドン(BASF社製)134.4.0mg、を混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)44.8mgを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約350mgを打錠機にて圧縮成形し、実施例5の錠剤とした。
【0042】
[実施例6]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)113.7g、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)40.3g、カルメロースナトリウム(ダイセルファインケム社製,1%水溶液の粘度168mPa・s)7.0g、クロスポビドン(BASF社製)10.5g、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)1.75gを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)1.75gを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約350mgを打錠機にて圧縮成形し、実施例6の錠剤とした。
【0043】
[実施例7]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)113.7g、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)43.8g、カルメロースナトリウム(ダイセルファインケム社製,1%水溶液の粘度168mPa・s)7.0g、クロスポビドン(BASF社製)7.0g、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)1.75gを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)1.75gを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約350mgを打錠機にて圧縮成形し、実施例7の錠剤とした。
【0044】
[比較例1]
ニロチニブ塩酸塩二水和物(形態A)1023.3mg、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)777.6mg、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)63.0mg、クロスポビドン(BASF社製)126.0mg、コロイド状二酸化ケイ素(日本アエロジル社製)20.7mg、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)18.0mgを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)41.4mgを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約460mgを打錠機にて圧縮成形し、比較例1の錠剤とした。
【0045】
[比較例2]
前掲特許文献2の実施例1(200mg錠剤コア)に基づき、以下の錠剤を調製した。
ニロチニブ塩酸塩一水和物(形態B)992.7mg、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製)808.2mg、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)63.0mg、クロスポビドン(BASF社製)126.0mg、コロイド状二酸化ケイ素(日本アエロジル社製)20.7mg、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)18.0mgを混合した後、圧縮造粒法で造粒を行った。造粒した顆粒を目開き0.5mmの篩を用いて整粒し、ステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム)41.4mgを混和し、打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末約460mgを打錠機にて圧縮成形し、比較例2の錠剤とした。
【0046】
[比較例3]
ニロチニブ塩酸塩一水和物を有効成分とするカプセル製剤(タシグナ(登録商標)カプセル200mg)を用いた。
【0047】
表1-1、1-2に、実施例及び比較例の製剤処方をまとめた。
[表1-1]
【0048】
[表1-2]
*1;ニロチニブ塩酸塩・一水和物を使用。
【0049】
[試験例1]溶出試験
実施例1~実施例7、比較例1~比較例5で得られた錠剤及び比較例6のカプセル剤を、薄めたMcllvaine緩衝液(pH3.0)を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。
溶出試験条件詳細は以下のように設定した。
・溶出試験器 :NTR-6600A、富山産業株式会社製
・試験液量 :900mL
・試験液温 :37±0.5℃
・パドル回転数:50rpm
・分析機器 :紫外可視分光度計(UV-1900、島津製作所製)
・測定波長 :254nm
定量分析用の標準溶液試料として、試験溶液である薄めたMcllvaine緩衝液(pH3.0)を使用してニロチニブ塩酸塩溶液を任意の濃度で調製し、波長254nmでの吸光度を測定、これを試験溶液における標準値とした。溶出試験においては、各経時点の溶液の吸光度を測定することで、各経時点における溶液中のニロチニブ塩酸塩濃度を計算し溶出率を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
表1の結果より、本発明に係る実施例1~7の錠剤は、ニロチニブ含量が50質量%以上の錠剤であり、有効成分を確実に溶出できるものである。特に、既存のニロチニブ製剤(比較例3;カプセル製剤)は、溶出初期が抑制的に溶出制御される特徴を有するが、実施例1~7は何れもその特徴を有している。一方、比較例1及び2は、pH3.0緩衝液中において溶出試験開始から30分後のニロチニブ塩酸塩の溶出率が大きく異なる。実施例1~7の錠剤はpH3.0緩衝液中での崩壊を遅延させることで溶出率を抑制することができる。これに対し、比較例1、2の錠剤は溶出試験開始直後に速やかに崩壊してしまうことで、有効成分が急激に溶出してしまい、溶出曲線の緩やかな立ち上がりを実現できなかった。特に、実施例2、6及び7は、既存製剤である比較例3(カプセル製剤)と同等の溶出性を示し、既存のカプセル製剤と等価の医薬製剤である。本発明に係るニロチニブ錠剤は、既存のカプセル製剤より嚥下しやすい錠剤形であり、且つ特許文献2に示された錠剤(比較例1、2)よりも、ニロチニブ塩酸塩を高含量に含む錠剤であるため、より嚥下しやすく服薬性に優れたニロチニブ製剤を提供することができている。