(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096477
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】第VII因子と二重特異性抗-第IX因子及び第X因子抗体の組合せ
(51)【国際特許分類】
A61K 38/36 20060101AFI20240705BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240705BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240705BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K38/36
A61K39/395 N
A61P7/04
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079488
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2020569057の分割
【原出願日】2019-06-14
(31)【優先権主張番号】1855239
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】506129544
【氏名又は名称】ラボラトワール・フランセ・デュ・フラクシオンマン・エ・デ・ビョテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE FRANCAIS DU FRACTIONNEMENT ET DES BIOTECHNOLOGIES
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック・プランティエ
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、血友病A患者、更に詳細には、抗第VIII因子を有する患者の更に良好な管理を可能にする医薬品組合せを提供することである。
【解決手段】本発明は、同時又は別個投与のための、トランスジェニック第VII因子並びに第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体を含む組合せに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.トランスジェニック第VII因子、及び
b.第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体
を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記トランスジェニック第VII因子が、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳腺の上皮細胞による産生に由来するヒト第VII因子である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記トランスジェニック哺乳動物がウサギである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗体がエミシズマブである、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
患者において凝固障害の予防又は処置における使用のための、
a.トランスジェニック第VII因子、並びに
b.第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体
を含む組合せ物。
【請求項6】
血友病Aの処置における、請求項5に記載の組合せ物。
【請求項7】
第VIII因子阻害物質による血友病Aの処置における、請求項5又は6に記載の組合せ物。
【請求項8】
前記組合せ物が、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物の形態である、請求項5から7のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項9】
前記第VIIa因子及び前記抗体が、患者への同時投与に適した形態である、請求項5から8のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項10】
前記第VIIa因子及び前記抗体が、患者への個別投与に適した形態である、請求項5から8のいずれか一項に記載の組合せ物。
【請求項11】
- トランスジェニック第VII因子を含有する容器、並びに
- 第IX因子及び第X因子に対する抗体を含有する別の容器
を含むキット。
【請求項12】
患者において凝固障害を処置する方法であって、前記患者にトランスジェニック第VII因子並びに第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体を同時又は逐次投与することを含む方法。
【請求項13】
患者における凝固障害、好ましくは、第VIII因子阻害物質による血友病Aの処置のための、トランスジェニック第VII因子と第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体の組合せの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、タイプA血友病を有し、第VIII因子阻害物質抗体が発現している患者において、血友病A等の凝固障害の処置に有用である医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
凝固は、1つは内因性の経路でもう1つは外因性の経路であり、最終的には共通の経路につながる2つの経路を含む。両方の機構を組み合わせることで、血圧に抵抗する固形で柔軟性のある血餅の形成が確実になる。トロンビンの作用を介して、フィブリノーゲンは、フィブリンの形成をもたらす化学修飾を受ける。フィブリンは血塊の形成には不可欠である。
【0003】
内因性の経路は血流に存在する因子を含み、凝固過程は血管それ自体内で始まる。外因性の経路は通常は血流に存在せず、血管損傷中に放出される組織因子を含む。
【0004】
第VII因子は、外因性の凝固経路に関与する糖タンパク質である。凝固カスケードを開始するためには、FVIIはFVIIaに活性化されなければならない。活性化された後は、FVIIaは、2つのリン脂質と会合している組織因子(TF)タンパク質と複合体化し、これは血管損傷中に放出される。FVIIaは、単独(組織因子と複合体化していない)では低いタンパク質分解活性を示す。次に、FVIIa-TF複合体は、カルシウムイオンの存在下で第X因子を第Xa因子に変換する。この複合体は第IX因子の第IXa因子への活性化にも作用し、それによって内因性の経路を触媒する。第IXa因子及び第Xa因子は、さらには、活性化された第VII因子を活性化する。
【0005】
第IX因子及び第X因子は内因性の凝固経路に関与している。活性化第IX因子は、第X因子が第Xa因子に活性化されることを可能にする。
【0006】
第Xa因子は活性化第V因子と複合体化し、プロトロンビナーゼはプロトロンビンをトロンビンに変換する。次に、トロンビンはフィブリノーゲンに作用して、これをフィブリンに変換し、FVIII及びFVがそれぞれFVIIIa及びFVaに活性化されることも可能にする。プロトロンビンは、その一部では、血漿中に天然に存在するカルシウムの存在下で、第XIII因子をフィブリン血栓の硬化の原因であるFXIIIaに活性化するのを可能にする。
【0007】
にもかかわらず、凝固因子が欠けている場合、凝固カスケードは中断される又は欠損しており、次に我々は異常な凝固について語る。
【0008】
活性化された第VII因子は、第VIII因子又は第IX因子が存在しなくても、出血を生じる組織損傷後に放出される組織因子の存在下で局所的に作用する。これが、第VII因子が、好ましくは活性化型で、出血として症状が見つかるある特定の血液凝固障害の処置に有用である理由である。
【0009】
したがって、第VII因子は、第VIII因子(タイプA血友病)の又は第IX因子(タイプB血友病)の欠損を示す血友病患者、並びに他の凝固因子欠損、例えば、FVIIの遺伝的欠損を示す患者を処置する際に使用される。FVIIは脳卒中処置にも推奨される。
【0010】
一部の血友病患者は、一般に濃縮された形態で、血友病処置として投与される第VIII因子を阻害する抗体を発現する。これは、血友病処置の現在最もよくある合併症である。
【0011】
FIX又はFIXa及びFX又はFXaを標的にする、エミシズマブ等の二重特異性抗体は、抗第VIII因子抗体を有する血友病A患者を処置するために使用される。これらの抗体は、FIXaによるFXの活性化を、これら2つの分子を1つに結び付けることによって促進することにより機能的にFVIIIに取って代わる。これらの抗体は持続性の効果を有する。
【0012】
細胞培養由来の組換えFVIIa(BHK細胞で産生されるNovoseven(登録商標)等の)とエミシズマブ(ACE910又はHemlibra(登録商標)等の)との組合せが試験されてきた(R. HARTMANNら、OR36|Synergistic Effects of a Procoagulant Bispecific Antibody and FEIBA or Factor VIIA on Thrombin Generation (Haemophilia (2017)、23 (Suppl. 2)、11~27頁))。この組合せは、凝固障害の処置に対する相加効果を示すだけであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,784,950号
【特許文献2】米国特許第5,997,864号
【特許文献3】欧州特許第0200421号
【特許文献4】欧州特許出願第0527063号
【特許文献5】米国特許第6,268,487号
【特許文献6】米国特許第7,695,936号
【特許文献7】国際特許出願第2005/035756号
【特許文献8】国際特許出願第2006/109592号
【特許文献9】国際特許出願第2012/067176号
【特許文献10】国際特許出願第2018047813号
【特許文献11】欧州特許出願第1688488号
【特許文献12】国際特許出願第2010/149907号
【特許文献13】国際特許出願第2017/188356号
【特許文献14】国際特許出願第2018/047813号
【特許文献15】欧州特許出願第12305882号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】R. HARTMANNら、OR36|Synergistic Effects of a Procoagulant Bispecific Antibody and FEIBA or Factor VIIA on Thrombin Generation (Haemophilia (2017)、23 (Suppl. 2)、11~27頁)
【非特許文献2】Perssonら、J. Biol. Chem. 272: 19919~19924頁、1997年
【非特許文献3】Persson、FEBS letts、413:359~363頁、1997年
【非特許文献4】Hermentinら、Glycobiology、第6巻、2号、1996年
【非特許文献5】Quら、Blood、11、2211~2219頁、2008年
【非特許文献6】Ridgwayら、Protein Eng、9、617~21頁、1996年
【非特許文献7】Wangら、Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals、International Journal of Pharmaceutics、第203巻、1~60頁、2000年
【非特許文献8】Oldenburgら、NEJM、2017年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、血友病A患者、更に詳細には、抗第VIII因子を有する患者の更に良好な管理を可能にする医薬品組合せが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、トランスジェニック第VII因子を第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体と組み合わせることを提唱する。
【0017】
本発明に従えば、遺伝子組換えにより得られる第VII因子と第IX因子及び第X因子に対する抗体の本発明の組合せにより、凝固障害の処置において、及び特に抗FVIII阻害物質を持つ血友病Aの患者及びFVII欠損の患者の処置に相乗効果が誘発される。
【0018】
したがって、本発明の一態様は、
a.トランスジェニック第VII因子、並びに
b.多特異性抗体、好ましくは、例えば、エミシズマブ等の、第IX因子及び第X因子に対する二重特異性抗体
を含む医薬組成物である。
【0019】
好ましくは、第VII因子は活性化第VII因子(FVIIa)の形態である。
【0020】
特定の実施形態では、第IX因子は活性化第IX因子(FIXa)の形態であり及び/又は第X因子は活性化第X因子(FXa)の形態である。
【0021】
好ましくは、前記トランスジェニック第VII因子は、非ヒトトランスジェニック哺乳動物、例えば、ヒト第VII因子についてトランスジェニックなウサギの乳腺の上皮細胞による産生由来のヒト第VII因子である。
【0022】
本発明は、
a.トランスジェニック第VII因子、並びに
b.血友病A、更に詳細には第VIII因子阻害物質(FVIII)を有する血友病A等の凝固障害の予防又は処置において使用するための、第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体
を含む組合せ物も提供する。
【0023】
好ましくは、組合せ物は、トランスジェニック第VII因子と前記抗体の両方を含む医薬組成物の形態である。
【0024】
或いは、トランスジェニック第VII因子と抗体は、患者への同時又は別個(例えば、逐次)投与に適している別個の組成物の形態である。
【0025】
本発明の別の目的は、
- トランスジェニック第VII因子を含有する容器;並びに
- 第IX因子及び第X因子に対する抗体を含有する別の容器
を含むキットにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】TF/PLを用いた誘導後の血友病A血漿のバッチ1に対するSevenfact(商標)+Hemlibra(登録商標)組合せの相乗的血栓形成効果の評価。(A)ETPに対する相乗的血栓形成効果の評価、(B)トロンビン産生ピークに対する相乗的血栓形成効果の評価、(C)速度に対する相乗的血栓形成効果の評価。
【
図2】TF/PLを用いた誘導後の血友病A血漿のバッチ2に対するSevenfact(商標)+Hemlibra(登録商標)組合せの相乗的血栓形成効果の評価。(A)ETPに対する相乗的血栓形成効果の評価、(B)トロンビン産生ピークに対する相乗的血栓形成効果の評価、(C)速度に対する相乗的血栓形成効果の評価。
【発明を実施するための形態】
【0027】
全般的な定義
凝固現象は、ある特定の補因子の存在下で、タンパク質切断によりその「活性化」型に変換される、前酵素の形態で存在する凝固因子を含む酵素反応のカスケードからなる。不活性前駆体の形態で存在するそれぞれの因子の活性化型は、文字aにより名付けられる。したがって、FVIIaは、インビボでは、種々のプロテアーゼ(FIXa、FXa、FVIIa)により酵素前駆体が切断されてジスルフィド架橋により結合された2つの鎖になることから生じる。
【0028】
用語「処置」又は「処置する」とは、一般的に、疾患若しくは障害、又は少なくとも症状の改善、予防、又は回復、例えば、疾患の進行を遅くする又は症状を安定化することを示す。疾患若しくは障害、又は少なくとも症状の発症の遅延も含まれる。
【0029】
用語「予防」又は「予防する」とは、特定の疾患又は障害を発症する又は得るリスクの低減を示す。
【0030】
本発明では、「患者」又は「対象」とは、任意の哺乳動物、更に詳細には、子供を含む、男性であれ女性であれ、任意の年齢のヒトを意味する。
【0031】
用語「医薬組成物」とは、活性成分の生物活性を可能にし、組成物が投与される対象に対して毒性のあるいかなる追加の成分も含有しない製剤のことである。
【0032】
トランスジェニック第VII因子
用語「第VII因子」又は「FVII」は、別の種(例えば、ウシ、ブタ、イヌ、マウス)由来の野生型ヒト第VII因子(米国特許第4,784,950号に記載されている)又はFVIIの配列1~406を含むポリペプチドを含む。この用語は、いかなる形態又は程度のグリコシル化又は他の翻訳後修飾で存在していてもよい第VII因子の天然の対立遺伝子変異も含む。したがって、用語「第VII因子」は、野生型の活性と比べて同じ又はもっと良い生物活性を有するFVII変異体も含み、これらの変異体は特に、1つ又は複数のアミノ酸の挿入、欠失又は置換が野生型FVIIとは異なるポリペプチドを含む。
【0033】
本記載において別段示されなければ、用語「第VII因子」とは、非切断FVII(酵素前駆体)又は活性化第VII因子(FVIIa)のことである。
【0034】
したがって、FVIIaは、単一のジスルフィド架橋(Cys135~Cys262)により繋がれたおおよそ20kDaの分子量の152アミノ酸の軽鎖とおおよそ30kDaの分子量の254アミノ酸の重鎖で構成されている。
【0035】
「組換え第VII因子」とは、遺伝子操作に由来し任意の微生物、植物又はトランスジェニック植物における対応する遺伝子の発現から生じる任意の第VII因子を意味する。微生物とは、任意の細菌系、真菌系、ウイルス系又は細胞系を意味する。組換え第VII因子は、植物又は哺乳動物細胞、例えば、動物又はヒト細胞等の培養真核細胞から産生することもできる。
【0036】
「トランスジェニック第VII因子」とは、第VII因子についてトランスジェニックな動物から得られる任意の組換え第VII因子を意味する。
【0037】
「トランスジェニック動物」とは、そのゲノムに目的のタンパク質(ここでは、第VII因子)の発現を可能にすることが意図されている改変がある任意の非ヒト動物を意味する。ゲノム改変は、遺伝子の変更、修飾又は挿入から生じてもよい。この改変は、従来法で使用される変更若しくは変異誘発剤に起因してもよく又は定方向突然変異誘発によっても行われてよい。ゲノム改変は、その野生型又は突然変異型の遺伝子又は複数の遺伝子の挿入又は置換から生じてもよい。トランスジェニック動物は、非限定的に、ウサギ、ヤギ、ウシ、ラクダ、ハムスター、マウス、ラット、ウマ、メスブタ、ヒトコブラクダ、ヒツジ又はラマから選択してよい。特定の実施形態では、α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼを発現しない動物を選択することができる。
【0038】
語句「第VIIa因子の生物活性」とは、FVIIaが、例えば、活性化血小板の表面でトロンビンを産生する能力を意味する。第VII因子の活性は様々なやり方で評価することができる。FVIIaの生物活性は、例えば、米国特許第5,997,864号に記載されているように、例えば、FVII及びトロンボプラスチンが欠損している血漿を使用することによってFVII組成物が血液凝固を促進する能力を測定することにより定量化することができる。この検査では、生物活性は対照試料と比べて評価され、1ユニット/mLの第VII因子活性を含有するプールされた標準ヒト血清と比べて「FVIIユニット」に変換される。或いは、第VII因子の生物活性は、(i)脂質膜に取り囲まれた組織因子(TF)及び第X因子を含む系において第VIIa因子が第Xa因子を生成する能力を測定する(Perssonら、J. Biol. Chem. 272: 19919~19924頁、1997年);(ii)水性系における第X因子の加水分解を測定する;(iii)表面プラズモン共鳴を用いてTFへのFVIIaの物理的結合を測定する(Persson、FEBS letts、413:359~363頁、1997年);(iv)合成基質の加水分解を測定する又は(v)TFから独立したインビトロ系においてトロンビンの産生を測定することにより定量化することができる。
【0039】
好ましい実施形態では、本明細書に記載されるFVIIは、そのペプチド配列が天然のヒトFVIIの配列、すなわち、FVIIに関係のある障害のないヒトに存在する配列が可能であるポリペプチドである。そのような技法は欧州特許第0200421号の文献に記載されている。
【0040】
有利には、本発明で使用されるFVII配列は配列番号1である。
【0041】
「相乗作用」又は「相乗効果」とは、好ましくは、別々に生じる生成物のそれぞれの効果の合計の2倍よりも大きな2つの生成物の組合せの効果を意味する。本発明に従えば、少なくとも1つのトロンビン産生パラメータに関して、トランスジェニックFVIIaを第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体と組み合わせて使用することにより、トランスジェニックFVIIa単独で得られる効果と第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体単独で得られる効果の合計の2倍よりも大きな効果を得ることが可能な場合には相乗効果が得られる。このトロンビン産生パラメータは、ピーク高、速度又は内因性トロンビン活性(ETP; endogenous thrombin potential)から選択される。
【0042】
特定の実施形態では、FVIIaは、105nM未満又はこれに等しい、好ましくは100nM未満の濃度で投与される。
【0043】
特定の実施形態では、第IX因子及び第X因子に対する多特異性抗体は、600nM未満、好ましくは550nM未満、好ましくは500nM未満、好ましくは450nM未満、好ましくは400nM未満、好ましくは350nM未満、好ましくは325nM未満の濃度で投与される。
【0044】
特定の実施形態では、第VII因子はトランスジェニック動物の乳から得られる。
【0045】
トランスジェニック動物の乳中に組換えタンパク質を産生する方法は、以下の工程を含んでよい:目的のタンパク質(ここでは、例えば、ヒトFVII)をコードし、乳中に天然に分泌されるタンパク質のプロモーターの制御下にあるこの遺伝子を含む合成DNA分子は、非ヒト哺乳動物の胚中に組み込まれる。次に、胚は同じ種のメス哺乳動物に移植される。胚から生じる哺乳動物が十分に成長した後、哺乳動物の乳汁分泌が誘導され、次に乳は収集される。乳はトランスジェニック動物により分泌される目的のFVIIを含有する。
【0046】
ヒト以外のメス哺乳動物の乳中のタンパク質製剤の一例は、欧州特許出願第0527063号に与えられており、その教えは、本発明の第VII因子の産生のために再現することができる。
【0047】
乳腺による第VII因子の分泌は、第VII因子がトランスジェニック動物の乳中に分泌されることを可能にするが、組織依存的な第VII因子発現の制御を含む。そのような制御法は当業者には周知である。発現は、特定の組織に向けてタンパク質を発現することを可能にする配列を介して制御される。これらは特にWAP、ベータカゼイン及びベータラクトグロブリンプロモーター配列並びにシグナルペプチド配列であり、リストは限定的ではない。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明に従った第VII因子は、トランスジェニックウサギの乳で産生される。
【0049】
特定の有利な様式で、ウサギ乳腺での発現は、当業者には周知であるベータカゼインプロモーターの制御下で行われる。特に、ベータカゼインプロモーターを含有するプラスミドは、ベータカゼイン遺伝子プロモーターを含有する配列の導入により作成され、このプラスミドは、このプロモーターの制御下に置かれた外来遺伝子を受け取ることができるように作成されている。ヒトFVIIをコードする遺伝子が組み込まれベータカゼインプロモーターの制御下に置かれる。このプロモーター及び目的のタンパク質をコードする配列を含有するプラスミドは、制限酵素により消化されてベータカゼインプロモーター及びヒトFVII配列を含有するDNA断片を放出する。精製後、断片はマイクロインジェクションにより野生型ウサギ胚のオス前核中に導入される。次に、胚は、野生型メスのホルモン的に調製された(hormonally-prepared)輸卵管中に移される前に培養される。これらのメスが出産すると、子孫はトランスジェニック動物であることを確定するためにPCRにより評価される。トランス遺伝子のコピー数及びその完全性は、得られた若いトランスジェニックウサギから抽出されるDNAからサザン技法により明らかにされる。メストランスジェニック子孫の乳に発現されるヒトFVIIの濃度は、免疫酵素的(immunoenzymatic)試験を介して評価される。
【0050】
特定の実施形態では、本発明において有用である第VII因子は、以下の工程:
(a)第VII因子をコードする遺伝子を含むDNA配列を非ヒト哺乳動物胚中に挿入する工程であって、前記遺伝子はベータカゼインプロモーターの転写制御下にある工程、
(b)工程a)で得られた胚を、それが成獣非ヒト哺乳動物に成長するように、非ヒト哺乳動物メスの輸卵管中へ移す工程、
(c)メス型の工程b)で得られた成獣非ヒト哺乳動物において又はそのゲノムに前記遺伝子及び前記プロモーターが存在するこの非ヒト哺乳動物のメス子孫において乳汁分泌を誘導する工程、
(d)前記非ヒト哺乳動物から乳を収集する工程、並びに
(e)収集した乳に存在するFVIIを精製する工程
を含む方法により得られる。
【0051】
ここで有用なFVIIは実質的に均一な等電点を有する。
【0052】
「等電点」又は「pl」とは、第VII因子又は第VIIa因子分子の正味の電気素量がゼロであるpH、すなわち、分子が電気的に中性(両性イオンの形態)であるpHを意味する。本発明に従った第VII因子の等電点は、等電点電気泳動(「IEF」)等の当業者には周知である技法を実行することにより測定することができる。この電気泳動法はその等電点に基づいてタンパク質を分離する。電気泳動法は、タンパク質がその特定の等電点と同等であるpHに到達するまで、pH勾配でタンパク質が、均一な電流により誘導されて移動することからなり、その時点でタンパク質は、その正味荷電がゼロになるため移動を停止する。IEFゲルは、所与のタンパク質の等電点を決定するために使用される。
【0053】
「実質的に均一な」とは、組成物の第VII因子分子の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%が、1.2未満又はこれに等しいpH単位差に含まれる等電点を有することを意味する。本発明の別の実施形態では、組成物のトランスジェニック第VII因子分子の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは60%が、1未満の、好ましくは0.5未満のpH単位差に含まれる等電点を有する。本発明の別の実施形態では、組成物の第VII因子分子の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは60%が、0.4のpH単位差に含まれる等電点を有する。
【0054】
「N-グリカン型」とは、本発明の第VII因子の2つのN-グリコシル化部位に存在するN-グリカン型のすべてを意味する。N-グリカン型は、その全電荷が1に等しい場合はモノ電荷(monocharged)と呼ばれる。本発明では、「電荷」とは、リン酸基、硫酸基、又はシアル酸分子を意味する。したがって、N-グリカン型は、それが1つのリン酸基又は1つの硫酸基又は1つのシアル酸分子のみを含有する場合、モノ電荷と呼ばれる。用語「モノ電荷」とは対照的に、用語「二電荷(bicharged)」とは、N-グリカン型が担持する全電荷が2に等しい、すなわち、N-グリカン型がリン酸基、硫酸基及び/又はシアル酸分子から選択される2つの電荷を有することを意味する。言い換えると、二電荷N-グリカン型は1つのシアル酸分子及び1つのリン酸基、又は1つのシアル酸分子及び1つの硫酸基、又は2つのシアル酸基、又は2つのリン酸基、又は2つの硫酸基、又はリン酸基及び硫酸基を有する。用語「三電荷(tricharged)」とは、N-グリカン型が担持する全電荷が3に等しい、すなわち、N-グリカン型がリン酸基、硫酸基及び/又はシアル酸分子から選択される3つの電荷を有することを意味する。言い換えると、三電荷N-グリカン型は1つのシアル酸分子、1つのリン酸基及び1つの硫酸基、又は2つのシアル酸分子及び1つのリン酸基、又は2つのシアル酸基及び1つの硫酸基、又は1つのシアル酸分子及び2つのリン酸基、又は1つのシアル酸分子及び2つの硫酸基、又は1つのリン酸基及び2つの硫酸基、又は1つの硫酸基及び2つのリン酸基、又は3つのシアル酸分子、又は3つのリン酸基、又は3つの硫酸基を有する。用語「中性の」とは、N-グリカン型がいかなる電荷も含有しないことを意味する。
【0055】
本発明に従った第VII因子のN-グリカン型の電荷は、当業者に周知である方法を実行することにより、特に、陰イオン交換樹脂を蛍光による検出と連結させた超高性能液体クロマトグラフィー(AEX-UPLC/FD)により測定することができる。この方法では、異なるNグリカン型をその見掛けの電荷に従って分離することが可能になる(特に、Hermentinら、Glycobiology、第6巻、2号、1996年参照)。陰イオン交換クロマトグラフィーという文脈では、正電荷樹脂は固定相として使用される。これらの正電荷樹脂は一般に、架橋ポリマー又はゲルで構成されており、この上に正電荷基が接ぎ木されている。本発明の有利な実施形態では、アミノプロピルタイプの弱陰イオン交換カラムが使用される。
【0056】
本発明に従った第VII因子組成物の場合、組成物の第VII因子のすべてのN-グリカン型のうち、N-グリカン型の少なくとも50%、N-グリカン型の少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%はモノ電荷であると思われる。好ましい実施形態では、モノ電荷N-グリカン型を有する第VII因子分子は、組成物の第VII因子の50%~95%、好ましくは組成物の第VII因子の50%~90%、好ましくは組成物の第VII因子の50%~80%、好ましくは組成物の第VII因子の50%~75%、好ましくは組成物の第VII因子の50%~70%、好ましくは組成物の第VII因子の50%~65%、好ましくは組成物の第VII因子の50%~60%に相当する。
【0057】
本発明に従った組合せの第VII因子組成物の実質的に均一な等電点は、その組合せを構成するFVII分子のグリコシル化特性及びγカルボキシル化特性の組合せから生じる。
【0058】
ここで有用なトランスジェニック第VII因子は、翻訳後修飾の特徴を有する。特に、これらの特徴は、FVII組成物中Galα1,3Galの量がゼロ若しくは極めて低い、又はまだ免疫原性にならないほど低い2つのN-グリコシル化部位等のグリコシル化修飾である。これとは対照的に、ここに記載されるFVIIは血漿FVIIではない、すなわち、このFVIIはヒト又は動物血漿由来の精製物ではない。更に詳細には、ここで有用なトランスジェニックFVIIは、翻訳後修飾、並びに限定されたグリカン単位を有する2つのO-グリコシル化、γカルボキシル化、及び特定のジスルフィド架橋を有する。
【0059】
ここで有用なFVIIaは、いくつかの翻訳後修飾を含むことができ:最初の9つ又は10のN-終端グルタミン酸はγカルボキシル化されており、Asp63は部分的にヒドロキシル化されており、Ser52及びSer60はO-グリコシル化されており、それぞれグルコース(キシロース)0~2及びフコース単位を担い、Asn145及びAsn322は主にモノシアル酸付加(monosialylated)二分岐複合構造物(biantennary complex structures)によりN-グリコシル化されている。
【0060】
有利には、ここで有用なトランスジェニック第VII因子分子の少なくとも80%は、9つのグルタミン酸残基にγカルボキシル化を有する。別の実施形態では、前記分子の少なくとも85%は9つのグルタミン酸残基にγカルボキシル化を有する。別の実施形態では、前記分子の85%~100%、好ましくは90%~100%、好ましくは95%~100%は、9つのグルタミン酸残基にγカルボキシル化を有する。有利には、組成物の第VII因子分子のグルタミン酸残基35(Glu35)でのγカルボキシル化の程度は20%未満である。別の実施形態では、残基Glu35でのγカルボキシル化の程度は15%未満、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満である。
【0061】
Galα1,3Galユニットは、α1,3で連結された2つのガラクトースで構成されている構造物である。このユニットはN連結構造物のオリゴ糖アンテナ(oligosaccharide antennas)の末端に位置している。このユニットはその免疫原性で知られている。したがって、構造物Galα1,3Galの数がゼロである又は現在利用可能な分析装置により実行される測定により得られる背景ノイズと区別することができないほど少ないFVII又はFVIIaを産生するのが好ましい。この語句は、Galα1,3Galの量が血漿FVIIのGalα1,3Galの量に近いすべてのトランスジェニックFVIIを等しく示す。有利には、ここに記載されるFVII組成物のGalα1,3Galの量はヒトには免疫原性ではない。更に、ここで有用なFVIIは好ましくは、ヒトFVIIと同様に、145位及び322位に2つのN-グリコシル化部位、並びに52位及び60位に2つのO-グリコシル化部位を含む。N-グリコシル化部位では、オリゴ糖鎖がアスパラギンに連結されている(N連結)。O-グリコシル化部位では、オリゴ糖鎖がセリンに連結されている。これらのアミノ酸に連結されているユニットは組成物のタンパク質ごとに異なる。しかし、全組成物では、それぞれのグリカンユニットの量又はそれぞれの糖の量さえ定量化することができる。
【0062】
本出願に与えられる異なるグリカンの百分率は、O-グリコシル化を考慮に入れない。
【0063】
好ましくは、FVII組成物は、組成物のFVIIのすべてのグリカンユニットのうち、少なくとも40%はモノシアル酸付加二分岐グリカン型であることを特徴とする。別の実施形態では、モノシアル酸付加二分岐型は少なくとも50%に存在している。別の実施形態では、モノシアル酸付加二分岐型は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%に存在している。
【0064】
有利には、FVIIのモノシアル酸付加二分岐グリカン型が優勢である。FVII組成物は、第VII因子シアル酸の少なくとも一部がα2-6結合を含むことを特徴とする。
【0065】
有利には、FVIIシアル酸の少なくとも65%はα2,6結合を含む。非常に有利には、FVIIのシアル酸の少なくとも70%、80%でも、特に、少なくとも90%がα2,6結合を含む。
【0066】
特に好ましいやり方では、すべてのシアル酸がα2,6結合を含む、すなわち、すべてのシアル酸がα2,6結合によりガラクトースに結合されている。ここに記載されるFVII組成物は、α2-3結合を有するシアル酸も含むことができる。
【0067】
本発明の実施形態に従えば、FVIIシアル酸の65%~100%はα2,6結合を含む。更に好ましくは、FVIIシアル酸の70%又は80%~100%はα2,6結合を含む。
【0068】
有利には、FVIIのモノシアル酸付加二分岐グリカン型のうち、優勢なグリカン型はフコシル化されていない。
【0069】
好ましくは、これらの非フコシル化(nonfucosylated)モノシアル酸付加二分岐グリカン型は、組成物のFVIIに20%を超える量で存在している。有利には、この量は25%よりも大きい、又は40%よりも大きい。特に有利な様式では、FVII組成物のフコシル化の程度は20%~50%に含まれる。一実施形態では、この程度は20%未満が可能である。
【0070】
特定の実施形態では、組成物の第VII因子のNグリカン型の少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15%、好ましくは、少なくとも20%、好ましくは、少なくとも25%は、高マンノース/ハイブリッドである。
【0071】
好ましくは、ここに記載されるグリコシル化プロファイルは、FVIIについて改善された生物活性及び安定性を獲得する。実質的に均一な等電点を有する第VII因子組成物は、最適pHでの、好ましくは、FVIIの沈殿を妨げることにより医薬組成物の最適pHである6.0±0.2での処方工程を促進する。実際、分子の等電点では、これらの因子は凝集し沈殿する傾向があることが知られている。本発明の組成物で使用される第VII因子分子は6.6~7.0に含まれる等電点を有する。これにより、特に第VII因子組成物が等電点よりも低いpHで、特にpH 6.0で処方される場合は、第VII因子組成物の安定性はもっと良くなる。第VII因子組成物の安定性が改善されると、可溶性及び不溶性沈澱並びに凝集現象の原因である静電相互作用を防ぎ、並びに原材料の消失、したがって、収量の低下が有効成分の量の喪失、それゆえに、活性の損失をもたらす可能性を防ぐ。
【0072】
好ましい実施形態では、トランスジェニックFVIIはウサギによりその乳中で産生され、組成物のそれぞれの第VII因子分子が2つのN-グリコシル化部位を有する場合は、組成物を得ることが可能になる。好ましくは、組成物のすべてのFVII分子が有するGalα1,3Galグリカンユニットの量は4%未満、又はゼロでもある。したがって、有利には、ウサギが産生するトランスジェニックFVIIはGalα1,3Galユニットがない。
【0073】
FVIIは当業者には公知である技法により乳から精製することができる。例えば、米国特許第6,268,487号に記載される、乳から目的のタンパク質を精製する方法は、a)乳を、十分な空隙率の膜を通してタンジェンシャルフィルトレーション(tangential filtration)にかけて残余物と通過物(permeate)を形成させ、通過物は外来性タンパク質を含有する工程、b)外来性タンパク質に取って代わって溶出物を得るように通過物をクロマトグラフィー捕捉装置にかける工程、c)溶出物を残余物と組み合わせる工程、d)FVIIが脂質とカゼインミセルから分離されるまで工程a)からc)までを繰り返し、FVIIを回収する工程からなる工程を含むことができる。
【0074】
有利には、本発明のFVIIは活性化型である。一実施形態では、FVIIは、第Xa因子、第VIIa因子、第lIa因子、第IXa因子又は第XIIa因子によりインビトロで活性化することができる。FVIIは典型的には、その精製過程中に、特に、正電荷クロマトグラフィーカラム中を通すことにより活性化することもできる。
【0075】
多特異性抗体
「多特異性抗体」とは、少なくとも2つの異なる抗原、又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的な少なくとも2つの結合部位を有する任意の抗体を意味する。用語「特異的な」とは、抗体が、実質的に別の抗原と交差反応をせずに抗原を認識し結合する能力を有することを意味する。有利には、抗体は、それぞれの抗原に対して少なくとも10-6M、好ましくは、少なくとも10-7M、更に好ましくは、少なくとも10-8M、10-9M、又は10-10Mの親和定数kDを有する。
【0076】
したがって、本発明で有用な抗体は、活性化又は非活性化型で凝固第IX因子と凝固第X因子の両方に特異的に結合する能力を有する。
【0077】
本発明で使用される抗体は、凝固第IX因子と凝固第X因子の両方に特異的に結合する能力を有するが、第VIII因子(FVIII)の代替物として働く能力を優先的に有しており、これはこの抗体がFIXaによるFXの活性化を促進することを意味する。
【0078】
そのような多特異性、好ましくは、二重特異性抗体は、当業者には公知である種々の方法により、例えば、化学的コンジュゲーションにより、又は2つの異なるモノクローナル抗体を生み出す2つのハイブリドーマ間での融合から生じるクアドローマを使用することにより、又は遺伝子組換えによっても得ることが可能である。
【0079】
したがって、そのような抗体をコードするポリヌクレオチドは、発現ベクター中に挿入し、当業者に周知である技法により適応される宿主細胞又は生物において発現させることが可能である。
【0080】
ここで有用である抗体は、2つ又はそれよりも多い抗体由来の一本鎖Fv断片(scFv)から構築され、適切なペプチドリンカーにより会合される非常に簡単なフォーマットが可能である。
【0081】
「Fv」とは、抗原を認識し結合する特性を保つ最も小さな抗体断片を意味する。「Fv」断片は、重鎖(H)が帯びる可変領域(VH)及び軽鎖(L)が帯びる隣接する可変領域(VL)からなるダイマー(VH+VLダイマー)である。
【0082】
或いは、Fvは、完全長抗体が可能であり、この完全長抗体は好ましくはFc領域を含有する。いくつかのフォーマットが実現可能である。例えば、第1のフォーマットでは、抗体AのsvFv断片は抗体Bの重鎖の末端(一般的にはN終端)に融合される。得られる抗体は、抗体BのVH、CH1、CH2及びCH3ドメイン並びに抗体AのVH及びVLドメインを含有する単一タイプの重鎖、並びに抗体BのVL及びCLドメインを含有する単一タイプの軽鎖を有する(Quら、Blood、11、2211~2219頁、2008年)。第2のフォーマットでは、抗体Aの重鎖及び軽鎖は抗体Bの重鎖及び軽鎖と会合している。必要に応じて、突然変異、例えば、「ノブインツーホール(knobs into holes)」(Ridgwayら、Protein Eng、9、617~21頁、1996年; 米国特許第7,695,936号)を導入すればミスマッチを防ぐことができる。
【0083】
そうではないと指示されなければ、本記載では、用語「第IX因子」とは、不活性化第IX因子又は活性化第IX因子(FIXa)のことである。
【0084】
そうではないと指示されなければ、本記載では、用語「第X因子」とは、不活性化第X因子又は活性化第X因子(FXa)のことである。
【0085】
(i)FIX及び/又はFIXa、並びに(ii)FX及び/又はFXaを認識する抗体は、特に、国際特許出願第2005/035756号、国際特許出願第2006/109592号、国際特許出願第2012/067176号に記載される方法に従って得ることができる。
【0086】
好ましい実施形態では、前記抗体はエミシズマブである。この抗体の産生は、例えば、国際特許出願第2018047813号又は欧州特許出願第1688488号に記載されている。
【0087】
医薬組成物及び投与量
第VII因子及び抗体は、別々の医薬組成物の形態で、又は同じ医薬組成物内に組み合わせて処方することができる。
【0088】
個別投与の場合、FVIIと抗体は、異なる経路又は同じ経路を経ての投与に適している様式で処方することができる。
【0089】
したがって、例えば、FVIIは、静脈内に、皮下に又は筋肉内に投与することができる。
【0090】
抗体も、例えば、静脈内に、皮下に又は筋肉内に投与することができる。
【0091】
第VII因子組成物は、例えば、国際特許出願第2010/149907号に記載される組成物が可能である。
【0092】
したがって、実施形態の一例では、組成物は、
- 第VII因子、好ましくは、第VIIa因子の形態で;
- アルギニン、できる限り塩酸塩の形態で;
- イソロイシン;
- リジン;
- グリシン;
- クエン酸三ナトリウム又は塩化カルシウム;
- 及び、必要な場合には、ポリソルベート80又はポリソルベート20
を含む。
【0093】
更に詳細には、組成物は、
- 第VII因子、好ましくは、第VIIa因子の形態で;
- 10~40g/Lのアルギニン、できる限り塩酸塩の形態で;
- 4.2~6.6g/Lのイソロイシン;
- 0.6~1.8g/Lのリジン;
- 0.6~1.8g/Lのグリシン;
- 0~0.2g/Lのクエン酸三ナトリウム又は1~2g/Lの塩化カルシウム;
- 及び、必要な場合には、0~0.5g/Lのポリソルベート80
を含むことができる。
【0094】
FVII組成物は、任意選択的には、ここに記載される少なくとも1つの多特異性抗体も含むが、液体形態又は、典型的には乾燥によって得られる固体形態で保存することができる。上で開示される組成物は、乾燥前の、又は注射用製剤の形態の再構成後の液体形態の組成物に関連して決定される。
【0095】
乾燥は高ステージ(high-stage)水除去のための方法である。これは、できる限り多くの水を除去するのを目的とする脱水である。この現象は天然又は強制的でも可能である。この乾燥は、凍結乾燥、噴霧乾燥及び噴霧凍結乾燥を用いて行うことができる。
【0096】
ここに記載される医薬用の組成物の固体形態を得るための好ましい方法は、凍結乾燥である。
【0097】
凍結乾燥法は当業者には周知であり、例えば、[Wangら、Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals、International Journal of Pharmaceutics、203巻、1~60頁、2000年]を参照されたい。
【0098】
組成物の湿度又は水分含量を低減するための他の適切な方法を想定することができる。好ましくは、湿度は、3質量%未満又はこれに等しい、好ましくは、2.5%未満又はこれに等しい、好ましくは、2%未満又はこれに等しい、好ましくは、1.5%未満又はこれに等しい。
【0099】
好ましくは、凍結乾燥形態での固体組成物は、治療用の製剤を得るために注射用水(WFI)に溶解することができる。
【0100】
注射可能製剤は、実践者により評価される量で非経口的に(静脈内に、皮下に、筋肉内に)投与することができる。適切な任意の経路及び任意の手段による、液体形態(乾燥前)又は固体形態の投与は排除されない。
【0101】
本発明で有用なFVII投与量は、製剤の種類、投与方法、患者年齢及び体重、患者症状、疾患の重症度等に応じて、適切なやり方で決定することができる。
【0102】
本発明に従って投与するFVII用量は、270μg/kg~2.70g/kgの間で選択することができる。好ましくは、投与されるFVIIの用量は270μg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は225μg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は180μg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は135μg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は90μg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は45μg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は9μg/kg未満であり、好ましくは、用量は5.4μg/kg未満であり、好ましくは、用量は2.7μg/kg未満である。
【0103】
エミシズマブ抗体等の多特異性抗体組成物は、例えば、国際特許出願第2017/188356号及び国際特許出願第2018/047813号に記載される組成物に類似している。
【0104】
したがって、実施形態の一例では、組成物は液体組成物である。
【0105】
実施形態の一例では、組成物は、
- 第IX因子と第X因子に対して二重特異性である抗体、
- ポロクサマー188又はポリソルベート20等の界面活性剤、
- ヒスチジン-アスパラギン酸バッファー、
- アルギニン
を含む。
【0106】
更に詳細には、組成物は、
- 第IX因子と第X因子に対して二重特異性である20mg/mL~180mg/mLの抗体、
- 0.2mg/mL~1mg/mLのポロクサマー188、
- 10mM~40mMのヒスチジン-アスパラギン酸バッファー、
- 100mM~300mMのアルギニン
を、4.5~6.5に含まれるpHで含むことができる。
【0107】
本発明で有用な、エミシズマブ抗体等の多特異性抗体組成物の投与量は、製剤の種類、投与方法、患者の年齢及び体重、患者の症状、疾患の重症度等に応じて適切に決定することができる。抗体用量は、例えば、0.3~5mg/kg、好ましくは、開始期間中は週1回最大3mg/kgが可能であり、この期間は4週間続くことが可能であり、例えば、続いて、維持量は、好ましくは、もっと低く、例えば、週1回1.5mg/kgである。好ましくは、投与される抗体の用量は5mg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は3mg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は1.5mg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は1mg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は0.5mg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は0.1mg/体重kg未満であり、好ましくは、用量は0.05mg/体重kg未満である。
【0108】
本発明で有用な抗体組成物は、任意の適切な経路を経て、例えば、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、脳脊髄内に、経皮的に、皮下に、関節内に、舌下に、滑膜内に、経口的に又は吸入により患者に投与することができる。好ましくは、静脈内経路又は皮下経路が好まれる。
【0109】
特定の実施形態に従えば、第VII因子と抗体は患者に同時に投与される。
【0110】
別の特定の実施形態に従えば、第VII因子と抗体は患者に別々に、好ましくは、順次に投与される。
【0111】
治療徴候
ここに記載される組合せは、凝固障害、特に、第VIII因子欠損を示す血友病(タイプA血友病、好ましくは、後天性タイプA血友病)を予防する又は処置する。
【0112】
好ましくは、患者は、抗第VIII因子を有するタイプA血友病の患者である。
【0113】
ここに記載される組合せは、凝固障害、特に、第VII因子欠損症を予防する又は処置する。
【0114】
ここに記載される組合せは、凝固カスケードの外因性経路を活性化するFVIIの急速な効果と凝固カスケードの内因性経路を活性化するここに記載される多特異性抗体の長期の効果を組み合わせる。この組合せにより、もっと良好な患者管理を提供することが可能になる。
【実施例0115】
(実施例1)トランスジェニックFVIIの精製及び抽出
本実施例で実行される第VII因子精製及び抽出法は、欧州特許出願第12305882号に記載される方法である。この方法の工程は下に記載されている。
【0116】
トランスジェニックウサギ乳はトランスジェニックウサギ系統から得られる。トランスジェニックウサギ由来の凍結乳は解凍され、トランスジェニックウサギ乳のプールの形態で濃縮される。
【0117】
次に、このようにして得られたトランスジェニックウサギ乳のプールは、脂質及び不溶性化合物を取り除くため、空隙率0.2μmのデプスフィルターを使用して透明化工程に供される。このようにして透明化された乳は次に、25℃±2℃で少なくとも2時間、洗剤溶媒、例えば、ポリソルベート80又はトリ-n-ブチルホスフェートによるウイルス不活化工程に供される。そのような処理によりウイルス、特に、非エンベロープウイルスは効果的に不活化される。次に、透明化されウイルス不活化された乳は、第VII因子/第VIIa因子に特異的であるアフィニティーリガンドを使用するアフィニティークロマトグラフィー工程に供される。次に、このクロマトグラフィー工程から得られる第VII因子溶出物は限外濾過及び処方工程に供され、したがって、純度95%の中間第VII因子濃縮物を得ることが可能になる。
【0118】
次に中間第VII因子濃縮物は、空隙率0.1μm~0.2μmのフィルターを使用する濾過工程、続いて、空隙率20nm、次に15nmのフィルターを通すナノ濾過工程に供される。このようにして得られ第VII因子を含有する生成物は、次に、Q Sepharose XLゲルクロマトグラフィー、次に、CHT-Iクロマトグラフィー、続いて、Superdex 200 SECクロマトグラフィーの工程に供される。このようにして得られる第VII因子濃縮物は、次に、安定化工程、次に、空隙率0.2μmのフィルターを通す濾過に供される。
【0119】
したがって、記載される方法により、おおよそ99.9995%の純度の第VII因子濃縮物を得ることが可能になる。
【0120】
(実施例2) Novoseven(登録商標)、Sevenfact(登録商標)及びHemlibra(登録商標)の血栓形成潜在力の比較
当業者であれば、以下のプロトコールを実施することによりNovoseven(登録商標)、Sevenfact(登録商標)及びHemlibra(登録商標)(エミシズマブとも呼ばれる)の血栓形成潜在力を測定することができる。
【0121】
試薬:
●トロンビンキャリブレーター(Stago社)
● 5pM PPP試薬(Stago社)
● PPP試薬LOW(Stago社)
● CK-Prest(Stago社)
● Fluoバッファー(Stago社)
● Fluo基質(Stago社)
● FVIII欠損血漿(Siemens社)
● Sevenfact(登録商標)/ウサギで産生されたトランスジェニック第VII因子 1mg/ml(LFB社)
● PNP(Cryopep社)
● Novoseven(登録商標)(NovoNordisk社)
● Hemlibra(登録商標)/Emicizumab(Roche/Genentech/Chugai社)
【0122】
方法:
トロンビン産生試験は、組織因子とリン脂質の混合物(TF/PL)を用いて、又はセファリンを使用することにより凝固をエクスビボで活性化する、次に、産生されるトロンビンの濃度を経時的に測定することからなる。
【0123】
・ TF/PLを用いた凝固の誘導後Novoseven(登録商標)の血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、0.5pMの組織因子(TF)及び4μMのリン脂質(PL)を含有する20μLのPPP試薬(Stago社)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0124】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0125】
FVIIaの治療用量は270μg/kgであり、この用量は、100%の回収率を考慮すると血漿中の6μg/mLのFVIIaに相当する。次に、トロンビン産生試験は、0.5pM TF/2μM PL(凝固誘導因子)の存在下、0μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、3μg/mL、4μg/mL、5μg/mL、及び6μg/mLのNovoseven(登録商標)用量で行う。
【0126】
・ セファリンを用いた凝固の誘導後Novoseven(登録商標)の血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、20μLのセファリン(5mLの蒸留H2Oで再構成されたCK-Prest)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0127】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0128】
トロンビン産生試験は、20μLのセファリン(凝固誘導因子)の存在下、0μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、3μg/mL、4μg/mL、5μg/mL、及び6μg/mLのNovoseven(登録商標)用量で行う。
【0129】
・ TF/PLを用いた凝固の誘導後Sevenfact(登録商標)の血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、0.5pMの組織因子(TF)及び4μMのリン脂質(PL)を含有する20μLのPPP試薬(Stago社)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0130】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0131】
次に、トロンビン産生試験は、0.5pM TF/2μM PL(凝固誘導因子)の存在下、0μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、3μg/mL、4μg/mL、5μg/mL、及び6μg/mLのSevenfact(登録商標)用量で行う。
【0132】
・ セファリンを用いた凝固の誘導後Sevenfact(登録商標)の血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、20μLのセファリン(5mLの蒸留H2Oで再構成されたCK-Prest)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0133】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0134】
トロンビン産生試験は、20μLのセファリンの存在下、0μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、3μg/mL、4μg/mL、5μg/mL、及び6μg/mLのSevenfact(登録商標)用量で行う。
【0135】
・ TF/PLを用いた凝固の誘導後Hemlibra(登録商標)の血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、0.5pMの組織因子(TF)及び4μMのリン脂質(PL)を含有する20μLのPPP試薬(Stago社)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0136】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0137】
FVIIIの機能を模倣する二重特異性抗体であるHemlibra(登録商標)(Roche/Genentech/Chugai社、USA)は、最大濃度50μg/mLで使用され、これは処置中の患者で検出される濃度である(Oldenburgら、NEJM、2017年)。次に、トロンビン産生試験は、0.5pM TF/4μM PL(凝固誘導因子)の存在下、0μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、30μg/mL、40μg/mL及び50μg/mLのHemlibra(登録商標)用量で行う。
【0138】
・ セファリンを用いた凝固の誘導後Hemlibra(登録商標)の血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、20μLのセファリン(5mLの蒸留H2Oで再構成されたCK-Prest)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0139】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0140】
次に、トロンビン産生試験は、20μLのセファリンの存在下、0μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、30μg/mL、40μg/mL及び50μg/mLのHemlibra(登録商標)用量で行う。
【0141】
これらの試験のすべてでは、蛍光の出現は、Fluoroskan Ascent蛍光光度計(ThermoLabsystems社)上、励起波長390nm及び発光波長460nmで測定する。次に、トロンビノグラム(Thrombinograms)(蛍光強度を経時的に示す曲線)は、Thrombinoscope(商標)ソフトウェアを使用することにより分析し、このソフトウェアは比較計算により蛍光値をトロンビンのnMに変換する。
【0142】
トロンビンが産生され、異なる医薬品の効力を評価するキーとなる変数:内因性トロンビン活性(ETP)、ピーク高、潜時及び速度は記録され比較される。
【0143】
(実施例3): Novoseven(登録商標)とHemlibra(登録商標)又はSevenFact(登録商標)とHemlibra(登録商標)の相乗的血栓形成潜在力の評価
当業者であれば、以下のプロトコールを実施することによりNovoseven(登録商標)/Hemlibra(登録商標)及びSevenfact(登録商標)/Hemlibra(登録商標)の組合せの血栓形成潜在力を測定することができる。
【0144】
試薬:
試薬、装置及びFVIII欠損血漿での実験プロトコールは実施例2に記載されるものと同一である。
【0145】
方法:
・ TF/PLを用いた凝固の誘導後Novoseven(登録商標)+Hemlibra(登録商標)組合せの血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、0.5pMの組織因子(TF)及び4μMのリン脂質(PL)を含有する20μLのPPP試薬(Stago社)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0146】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0147】
トロンビン産生試験は、0.5pM TF/4μM PL(凝固誘導因子)の存在下、いくつかのNovoseven(登録商標)/Hemlibra(登録商標)組合せにおいて行う。最大量の製品を含有する組成物は、最大限で、6μg/mLのNovoseven(登録商標)及び50μg/mLのHemlibra(登録商標)からなる。
【0148】
製品の組合せの存在下で得られる血栓形成潜在力は、単一製品の潜在力と比較される。製品組合せの相乗効果を検討するため、トロンビン検出が飽和しないようにより低い用量を評価する。
【0149】
試験される組成物は、
【0150】
【0151】
を含有する。
【0152】
・ セファリンを用いた凝固の誘導後Novoseven(登録商標)+Hemlibra(登録商標)組合せの血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、20μLのセファリン(5mLの蒸留H2Oで再構成されたCK-Prest)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0153】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0154】
トロンビン産生試験は、20μLのセファリンの存在下、いくつかのNovoseven(登録商標)/Hemlibra(登録商標)組合せにおいて行う。最大量の製品を含有する組成物は、最大限で、6μg/mLのNovoseven(登録商標)及び50μg/mLのHemlibra(登録商標)からなる。
【0155】
製品の組合せの存在下で得られる血栓形成潜在力は、単一製品の潜在力と比較される。製品組合せの相乗効果を検討するため、トロンビン検出が飽和しないようにより低い用量を評価する。
【0156】
試験される組成物は:
【0157】
【0158】
を含有する。
【0159】
・ TF/PLを用いた凝固の誘導後Sevenfact(登録商標)+Hemlibra(登録商標)組合せの血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、0.5pMの組織因子(TF)及び4μMのリン脂質(PL)を含有する20μLのPPP試薬(Stago社)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0160】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0161】
トロンビン産生試験は、0.5pM TF/4μM PL(凝固誘導因子)の存在下、いくつかのSevenfact(登録商標)/Hemlibra(登録商標)組合せにおいて行う。最大量の製品を含有する組成物は、最大限で、6μg/mLのSevenfact(登録商標)及び50μg/mLのHemlibra(登録商標)からなる。
【0162】
製品の組合せの存在下で得られる血栓形成潜在力は、単一製品の潜在力と比較される。製品組合せの相乗効果を検討するため、トロンビン検出が飽和しないようにより低い用量を評価する。
【0163】
試験される組成物は:
【0164】
【0165】
を含有する。
【0166】
・ セファリンを用いた凝固の誘導後Sevenfact(登録商標)+Hemlibra(登録商標)組合せの血栓形成潜在力を測定する:
トロンビン産生試験は、20μLのセファリン(5mLの蒸留H2Oで再構成されたCK-Prest)の存在下、血友病A血漿を模倣するFVIII欠損血漿プール80μL中で実施する。
【0167】
反応は20μLのFlucaキット(基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生の測定開始になる。
【0168】
トロンビン産生試験は、20μLのセファリンの存在下、いくつかのSevenfact(登録商標)/Hemlibra(登録商標)組合せにおいて行う。最大量の製品を含有する組成物は、最大限で、6μg/mLのSevenfact(登録商標)及び50μg/mLのHemlibra(登録商標)からなる。
【0169】
製品の組合せの存在下で得られる血栓形成潜在力は、単一製品の潜在力と比較される。製品組合せの相乗効果を検討するため、トロンビン検出が飽和しないようにより低い用量を評価する。
【0170】
試験される組成物は:
【0171】
【0172】
を含有する。
【0173】
これらの試験のすべてでは、蛍光の出現は、Fluoroskan Ascent蛍光光度計(ThermoLabsystems社)上、励起波長390nm及び発光波長460nmで測定する。次に、トロンビノグラム(蛍光強度を経時的に示す曲線)は、Thrombinoscope(商標)ソフトウェアを使用することにより分析し、このソフトウェアは比較計算により蛍光値をトロンビンのnMに変換する。
【0174】
例えば、所与の組合せについてのトロンビン産生試験から計算されるパラメータの少なくとも1つが、構成成分単独を用いて得られ実験のバックグランドノイズから推定されるこれらのパラメータのそれぞれの合計よりも大きい場合、相乗効果が検討される。
【0175】
(実施例4)血友病A血漿中のSevenfact(商標)、Hemlibra(登録商標)及びこの2つの組合せの潜在力の比較
試薬:
● トロンビンキャリブレーター(Stago社)
● 1pM TF PRP試薬(Stago社)
● 4μM PL MP試薬(Stago社)
● Fluoバッファー(Stago社)
● Fluo基質(Stago社)
● Sevenfact(商標):ウサギで産生されたトランスジェニック第VII因子 1mg/ml(LFB社)
● Hemlibra(登録商標):Emicizumab(Roche/Genentech/Chugai社)
● 血友病A血漿(Cryopep社)
● Owren Koller(Stago社)
【0176】
方法:
トロンビン産生試験は、例えば、組織因子とリン脂質の混合物(TF/PL)を用いて、凝固をエクスビボで活性化する、次に、産生されるトロンビンの濃度を経時的に測定することからなる。トロンビン産生試験は、0.5pMの組織因子及び4μMのリン脂質を含有する20μLのPRP及びMP試薬の混合物(Stago社)の存在下、80μLの血友病A血漿(Cryopep社)を用いて実施する。
【0177】
反応は20μLのFlucaキット(Fluo基質+CaCl2)の添加により開始し、この添加がトロンビン産生(TG)の測定開始になる。
【0178】
蛍光は、励起波長390nm及び発光波長460nmでFluoroskan Ascent装置(ThermoLabsystems社)を使用する蛍光定量により測定する。トロンビノグラムは、蛍光強度をトロンビンのモル濃度(nM)に変換する比較計算を使用するThrombinoscope(商標)ソフトウェアを用いて分析する。
【0179】
この2つの分子の血栓形成潜在力を測定するため、いくつかの血友病A血漿が調べられる。FVIIaの最高治療用量は270μg/kgであり、これは血漿中6μg/mLのFVIIa(又は120nM)に相当する。この用量の使用は、トロンビン産生についての最大潜在力と見なすことができる。患者で得られた血流中の製品濃度に基づいて、20及び100nM含まれるSevenfact(商標)濃度も調べられる。FVIIIの機能を模倣する二重特異性抗体である、Hemlibra(登録商標)(Roche/Genentech/Chugai社)は最大濃度120μg/mLで使用される。処置中の患者で実際に検出される濃度は50μg/mL(又は300nM)である(Oldenburgら、NEJM、2017年)。したがって、Hemlibra(登録商標)は、ここではおおよそ300nM(50μg/mL)で使用される。Hemlibra(登録商標)及びSevenfact(商標)血栓形成潜在力を測定するために調べる変数は、
- 内在性トロンビン活性(ETP):産生されるトロンビンの全量を表す曲線下の面積、
- ピーク高:測定されるトロンビンの最大濃度、及び
- トロンビン産生速度:トロンビン形成速度
である。
【0180】
2- 結果
2.1- 血友病A血漿に対するSevenfact(商標)又はHemlibra(登録商標)の効果
2.1.1- 血友病A血漿のバッチ1での評価
このマトリックスでは、使用される濃度とは無関係に、この2つの化合物から発する極めて低いトロンビン産生シグナルを得る。実際、観察されるトロンビン産生は、Hemlibra(登録商標)及びSevenfact(商標)については濃度20及び40nMでほぼゼロである。100nMのSevenfact(商標)を用いると、極めて低いトロンビン産生ピークが観察される(Table 1(表5))。
【0181】
【0182】
このように、個別に使用されるそれぞれの分子は、トロンビンの極めて低い産生を誘導するだけである。
【0183】
2.1.2- 血友病A血漿のバッチ2での評価
血友病A血漿の第2のバッチを試験した。そこでは再び、Hemlibra(登録商標)及びSevenfact(商標)を使用してトロンビンの極めて低い産生が観察され、最大トロンビン産生ピークはSevenfact(商標)の100nMの濃度であった(Table 2(表6))。
【0184】
【0185】
このマトリックスでは、別々に使用されたSevenfact(商標)及びHemlibra(登録商標)は血栓形成潜在力が低い。
【0186】
(実施例5) Sevenfact(商標)+Hemlibra(登録商標)の相乗的組合せの評価
1- プロトコール
試薬、装置及び血友病A血漿での実験プロトコールは実施例2に記載されるものと同一である。
【0187】
2- 結果
実施例2に見られたように、個別に使用されたSevenfact(商標)及びHemlibra(登録商標)は、血友病A血漿において低いトロンビン産生を誘導する。ここではSevenfact(商標)とHemlibra(登録商標)組合せの相乗効果を調べる。Hemlibra(登録商標)濃度300nMの存在下で3つの濃度(20nM、40nM及び100nM)のSevenfact(商標)を調べる。Sevenfact(商標)+Hemlibra(登録商標)組合せの効果が、トロンビン産生試験のパラメータ(ETP、ピークトロンビン産生及び速度)の少なくとも1つについて別々に取るSevenfact(商標)及びHemlibra(登録商標)の効果の合計の少なくとも2倍である場合には、相乗効果が考慮される。
【0188】
2.1- TF/PLでの凝固誘導後の血友病A血漿に対するSevenfact(商標)及びHemlibra(登録商標)の効果
2.1.1- 血友病A血漿のバッチ1での評価
結果はTable 3(表7)及び
図1に示されている。極めて低いSevenfact(商標)濃度20nMでは、Sevenfact(商標)+Hemlibra(登録商標)組合せのETP(
図1A)、トロンビンピーク(
図1B)及び速度(
図1C)についての比は、それぞれ2.14、2.95及び4.19である。このように、試験した最も低い濃度でも、相乗的血栓形成効果が観察される。
【0189】
濃度40nMでは、試験したすべてのパラメータについて、比は2よりも大きい。ETPについて得られた比は2.75であり(
図1A)、トロンビンピークについて得られた比は3.96であり(
図1B)、速度について得られた比は6.21の値に達する(
図1C)。言い換えると、トロンビン形成速度はSevenfact(商標)とHemlibra(登録商標)を組み合わせて使用される場合は6倍である。
【0190】
相乗効果は、Sevenfact(商標)濃度100nMで最大である。濃度100nMでは、試験したすべてのパラメータについて、比は2よりも大きい。ETPについて得られた比は4.00であり(
図1A)、トロンビンピークについて得られた比は4.81であり(
図1B)、これは、産生されたトロンビンの最大濃度がHemlibra(登録商標)とSevenfact(商標)を組み合わせて使用される場合はほぼ5倍であることを意味する。対応する速度比は9.58であり(
図1C)、これは、トロンビンがSevenfact(商標)とHemlibra(登録商標)を組み合わせて使用される場合はほぼ10倍産生されることを意味する。
【0191】
【0192】
【0193】
結論として、試験されたすべてのSevenfact(商標)濃度では、組み合わせて使用されるSevenfact(商標)とHemlibra(登録商標)はトロンビン産生に対して相乗効果がある。
【0194】
2.1.2- 血友病A血漿のバッチ2での評価
結果はTable 4(表8)及び
図2に示されている。極めて低いSevenfact(商標)濃度20nMでは、Sevenfact(商標)+Hemlibra(登録商標)組合せのETPパラメータについては比2.21が得られ(
図2A)、トロンビンピークについては比2.34が得られ(
図2B)、速度パラメータについては比2.9が得られる(
図2C)。このように、試験した最も低いSevenfact(商標)濃度でも、相乗的血栓形成効果が観察される。
【0195】
濃度40nMでは、ETPに対応する比は2.29であり(
図2A)、トロンビンピークに対応する比は2.79であり(
図2B)、速度に対応する比は3.68であり(
図2C)、これは、Sevenfact(商標)をHemlibra(登録商標)と組み合わせて使用すればトロンビンはおおよそ4倍の速さで形成することができることを意味する。
【0196】
相乗効果は、Sevenfact(商標)濃度100nMで最大である。濃度100nMでは、トロンビン産生ピークに対応する比は3.41であり(
図2B)、速度に対応する比は5.63であり(
図2C)、これは、トロンビンがSevenfact(商標)をHemlibra(登録商標)と組み合わせて使用した場合、ほぼ6倍速く産生され、達成されるトロンビン濃度はほぼ4倍であることを意味する。
【0197】
【0198】
【0199】
結論として、試験されたすべてのSevenfact(商標)濃度では、組み合わせて使用されるSevenfact(商標)とHemlibra(登録商標)はトロンビン産生に対して相乗効果がある。
a.非ヒト哺乳動物に由来するトランスジェニック第VII因子、及び
b.第IX因子及び第X因子に対する二重特異性抗体
を含む医薬組成物。
前記トランスジェニック第VII因子が、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の乳腺の上皮細胞による産生に由来するヒト第VII因子である、請求項1に記載の医薬組成物。