(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096494
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】CD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240705BHJP
【FI】
C12N5/0783
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024080226
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2022133779の分割
【原出願日】2018-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2017008995
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実現拠点ネットワークプログラムiPS細胞研究中核拠点事業、「再生医療用iPS細胞ストック開発拠点」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願、平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的がん医療実用化研究事業、「iPS細胞に由来するキメラ抗原受容体(CAR)発現再生T細胞の非臨床試験」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願』
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】河合 洋平
(57)【要約】
【課題】細胞免疫療法に適した本来の獲得免疫系リンパ球の特性を有する細胞傷害性T細胞を効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】CD4CD8両陽性T細胞を、IL-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培養してCD8α+β+細胞傷害性T細胞へと誘導する工程(A)を含むCD8α+β+細胞傷害性T
細胞の製造方法であって、
前記工程(A)により得られたCD8α+β+細胞傷害性T細胞を、IL-7およびIL-15を含み、かつ、IL-21、IL-18、IL-12およびTL1Aからなる群から選択される一種以上を含む培地
で培養する工程(B)を含む、CD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD4CD8両陽性T細胞を、IL-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培養してCD8α+
β+細胞傷害性T細胞へと誘導する工程(A)を含むCD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法であって、
前記工程(A)により得られたCD8α+β+細胞傷害性T細胞を、IL-7およびIL-15を含み、かつ、IL-21、IL-18、IL-12およびTL1Aからなる群から選択される一種以上を含む培地
で培養する工程(B)を含む、CD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法。
【請求項2】
前記工程(B)が、IL-7、IL-15、IL-21およびIL-18を含む培地で培養する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記T細胞受容体活性化剤が抗CD3抗体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(B)の培養がフィーダー細胞を用いずに行われる、請求項2に記載の製造方
法。
【請求項5】
前記CD4CD8両陽性T細胞が、多能性幹細胞から誘導されたものである、請求項1に記載
の製造方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記多能性幹細胞からCD4CD8両陽性T細胞への誘導が下記工程(a)および(b)を含
む、請求項5に記載の製造方法:
(a)多能性幹細胞をビタミンC類が添加された培地を用いて培養し、造血前駆細胞を誘
導する工程、および
(b)工程(a)で得られた造血前駆細胞を、ビタミンC類、FLT3LおよびIL-7が含まれる培地で培養し、CD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法に関し、好ましくは、多能性幹細
胞からのCD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍や慢性難治性感染症の制圧には疾患関連抗原に特異的な細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T lymphocyte; CTL)を用いた細胞免疫療法が極めて有効な可能性がある。従来in
vitroの培養系で抗原特異的CTLを製造することが試みられてきたが、in vitroの培養系
で不可避である細胞疲弊のため十分な数の抗原特異的なCTLを調製することが困難であり
、そのため治療効果も限定されていた。しかしながら近年登場した人工多能性幹細胞(iPSC)技術は細胞ソースの問題を抜本的に解決する道を示しつつある。つまり少数のしかも疲弊した疾患抗原特異的CTLから無限に増殖できるiPSCを作製し、in vitroで無限にCTLを再生する戦略が可能となりつつある。
【0003】
例えば、特許文献1では、多能性幹細胞から造血前駆細胞を誘導する工程、造血前駆細胞からCD4CD8両陽性細胞を誘導する工程、およびCD4CD8両陽性細胞からCD8陽性T細胞を誘導する工程を含むT細胞の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、ビタミンC類を添加した培地を利用して多能性幹細胞からCD4CD8両陽性T細胞を誘導し、それを副腎皮質ホルモン剤を含む培地で培養してCD8陽性T細胞を製造する方法が開示されている。
しかし、これらの方法では多能性幹細胞から細胞傷害性T細胞を製造するには十分とは
いえない。
【0004】
また、特許文献3および非特許文献1では、ヒト末梢血CTLからiPSCを誘導し、そのiPSCから造血前駆細胞を製造し、そしてIL(インターロイキン)-2、IL-7及びIL-15を含む培地中でNotch ligandであるDLL-1を発現するOP9/DLL1細胞と共培養することでCTLまで最終分化させることに成功したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2011/096482
【特許文献2】WO/2016/076415
【特許文献3】WO/2013/176197
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cell Stem Cell. 2013 Jan 3;12(1):114-26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3および非特許文献1で開示された再分化CTLはオリジナルCTLの抗原特異性を保持しながら高い細胞傷害活性、サイトカイン産生、増殖能等のCTL機能の全てを備える
ものであったが、一方で通常のCTLでは認められないNK細胞様の特性も併せ持つことが明
らかとなった。すなわち、オリジナルCTLを含め通常のCTLは獲得免疫系リンパ球に属するのに対し、再分化CTLはNK細胞が属する自然免疫系リンパ球の特性を持っていたのである
。この再分化CTLで認められた自然免疫系リンパ球の特性の中で臨床応用において特に影
響が大きいと思われるものは、(1)抗原非特異的にターゲットを傷害するナチュラルキラー(NK)活性、(2)NK活性を惹起する各種活性化分子(NKp46等)の恒常的発現、(3
)通常の獲得免疫系CTLに比べ相対的に低い増殖性と生存能、(4)抗原レセプターの補
助分子であるCD8が通常のCD8αβヘテロダイマーではなくCD8ααホモダイマーであるた
め起きる抗原認識能の低下である。(1)、(2)についてはエスケープバリアントに対する有効性が期待できる一方、予期できない移植片対宿主病(graft versus host disease; GVHD)のリスクが伴う。(3)の低い増殖性、生存能については不十分なin vivo persistencyが細胞免疫療法の成績を悪化させることが過去の報告で既に示されている。そして(4)のCD8αβの発現欠如もCTLの抗原認識能低下に直結するため修正されなければならない。
このような自然免疫系リンパ球の特性は必ずしも細胞免疫療法に適していないため、本発明は細胞免疫療法に適した本来の獲得免疫系リンパ球の特性を有するCTLを効率よく製
造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、CD4CD8両陽性T細
胞を培養する際に、IL-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培養する工程を行うこ
とにより、NK活性を示さず、CD8αβの発現を長期間維持したCTL、つまり通常の獲得免疫系CTLにより近いCTLの作製に成功した。このような知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
[1]CD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法であって、
CD4CD8両陽性T細胞を、IL(Interleukin)-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培
養してCD8α+β+細胞傷害性T細胞へと誘導する工程を含む方法。
[2]前記T細胞受容体活性化剤は抗CD3抗体である、[1]に記載の方法。
[3]前記培地はさらにIL-21およびFlt3L(Flt3 Ligand)を含む、[1]または[2]に
記載の方法。
[4]下記工程(a)および(b)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
(a)CD4CD8両陽性T細胞をIL-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培養する工程、および
(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-7を含み、T細胞受容体活性化剤を含まない培地
で培養する工程。
[5]前記培養(b)はフィブロネクチンフラグメント及び/又はNotchリガンドを含む
培養器を使用して行われる、[4]に記載の方法。
[6]フィブロネクチンフラグメントがレトロネクチンであり、NotchリガンドがDelta-like 4 (DLL4)である、[5]に記載の方法。
[7]さらに下記工程(c)を含む、[5]または[6]に記載の方法。
(c)工程(b)で得られた細胞を、フィブロネクチンフラグメント及びNotchリガンド
のいずれも含まない培養器を使用して、IL-7、IL-21およびFlt3Lを含む培地で培養する工程。
[8]下記工程(a1)、(b1)および(c1)を含む、[7]に記載の方法。
(a1)CD4CD8両陽性T細胞を、IL-7、Flt3L、IL-21および抗CD3抗体を含む培地で培養する工程、
(b1)工程(a1)で得られた細胞を、IL-7、Flt3LおよびIL-21を含み、抗CD3抗体を
含まない培地で、フィブロネクチンフラグメントを含む培養器を用いて培養する工程、および
(c1)工程(b1)で得られた細胞を、IL-7、IL-21およびFlt3Lを含む培地で、フィブロネクチンフラグメント及びNotchリガンドのいずれも含まない培養器を用いて培養する
工程。
[9]下記工程(a2)、(b2)および(c2)を含む、[7]に記載の方法。
(a2)CD4CD8両陽性T細胞を、IL-7、Flt3Lおよび抗CD3抗体を含む培地で培養する工程
、
(b2)工程(a2)で得られた細胞を、IL-7、およびFlt3Lを含み、抗CD3抗体を含まない培地で、フィブロネクチンフラグメントおよびNotchリガンドを含む培養器を用いて培
養する工程、
(c2)工程(b2)で得られた細胞を、IL-7、IL-21およびFlt3Lを含む培地で、フィブロネクチンフラグメント及びNotchリガンドのいずれも含まない培養器を用いて培養する
工程。
[10]前記培養はフィーダー細胞を用いずに行われる、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]さらに、得られたCD8α+β+細胞傷害性T細胞の選別工程を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]前記選別工程はCD8β陽性、CD5陽性、CD336陰性およびCD1a 陰性の1つ以上を指標にして行われる、[11]に記載の方法。
[13]さらに、CD8α+β+細胞傷害性T細胞をIL-7、IL-15およびIL-21を含む培地で拡大培養する工程を含む、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]さらに、CD8α+β+細胞傷害性T細胞をIL-7およびIL-15、並びにIL-21、IL-18
、IL-12およびTL1Aの一種以上を含む培地で拡大培養する工程を含む、[1]~[12]
のいずれかに記載の方法。
[15]前記CD4CD8両陽性T細胞は多能性幹細胞から誘導されたものである、[1]~[
14]のいずれかに記載の方法。
[16]前記多能性幹細胞は人工多能性幹(iPS)細胞である、[15]に記載の方法。
[17]多能性幹細胞からCD4CD8両陽性T細胞への誘導が下記工程(a)および(b)を
含む、[15]または[16]に記載の方法。
(a)多能性幹細胞をビタミンC類を添加した培地で培養し、造血前駆細胞を誘導する工
程、および
(b)工程(a)で得られた造血前駆細胞を、ビタミンC類、FLT3LおよびIL-7を含む培地で培養し、CD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程。
[18]多能性幹細胞からのCD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法であって、
(a)多能性幹細胞をビタミンC類を添加した培地で培養し、造血前駆細胞を誘導する工
程、
(b)工程(a)で得られた造血前駆細胞を、ビタミンC類、FLT3LおよびIL-7を含む培地で培養し、CD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程、および
(c)工程(b)で得られたCD4CD8両陽性T細胞を、IL-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培養してCD8α+β+細胞傷害性T細胞へと誘導する工程を含む方法。
[19]工程(c)の培地におけるIL-7の濃度は、工程(b)の培地におけるIL-7の濃度よりも高い、[18]に記載の方法。
[20]製造されるCD8α+β+細胞傷害性T細胞はナチュラルキラー(NK)活性を示さない、[1]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21][1]~[20]のいずれかに記載の方法で得られたCD8α+β+細胞傷害性T細胞培養物。
[22][1]~[20]のいずれかに記載の方法で得られたCD8α+β+細胞傷害性T細胞を含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、NK活性を示さず、長期間培養してもCD8αβの発現を維持した通常の
獲得免疫系CTLにより近いCTLを作製することができる。本発明の方法で得られるCTLは従
来のものより高い抗原特異的細胞傷害活性、サイトカイン産生、増殖能を示す。さらに、本発明の方法で得られるCTLは自然免疫系から獲得免疫系リンパ球への分化シフトのみな
らず、細胞疲弊がないナイーブ/メモリー細胞への成熟とその形質維持という優れた性質
を有し、in vitroで100兆倍以上の拡大培養が可能という、特筆すべき増殖能力を示す
。したがって、本発明は細胞の確保に難がある現状の細胞免疫療法に対し多大な貢献をするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の方法で作製した改良型(Modified)iPSC-CTL、iPS細胞の元になったT細胞クローン(Original CTL clone)および従来法で作製したiPSC-CTL(conventional iPSC-CTL)のフローサイトメトリーの結果を示す。上図は、CD8αとCD8βで展開した図を示し、下図は、TCRとHLA-tetramerの染色強度で展開した図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)と従来型iPSC-CTL(conventional CD8b- CTL)をCFSEで染色し特異抗原ペプチドを提示したK562/HLA A-24で刺激したときの増殖能(上図:縦軸は細胞数、横軸はCFSE蛍光強度)、並びにIFNγおよび IL-2の二種のサイトカイン産生を調べた結果(下図)を示す図。
【
図3】
図3は、本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)と従来型iPSC-CTL(conventional CD8b- CTL)を特異抗原ペプチドをパルスしたK562/HLA A-24と共培養したときの抗原ペプチド量と細胞傷害活性の関係を示す図。
【
図4】
図4は、本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)と従来型iPSC-CTL(conventional CD8b- CTL)、元のT細胞クローンを、CD28、CD27、CCR7でFACS解析した結果(左)およびCD45RAとCD45ROの組み合わせでFACS解析した結果(右)を示す。
【
図5】
図5は、本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)と従来型iPSC-CTL(conventional CD8b- CTL)の増殖を解析した結果を示す(拡大培養開始時をDay 0として示す)。
【
図6】
図6は、本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)をPHA + PBMCあるいは無フィーダー下(IL-21添加または非添加)に刺激しサイトカイン(IFNγ)の産生と細胞傷害性分子(Granzyme B)の発現量を定量した結果を示す。
【
図7】
図7は、本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)のサイトカイン(IFNγ)産生と細胞傷害活性を測定した結果を示す。
【
図8】
図8は、本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)とオリジナルのCTLをサイトカインの産生と細胞傷害性分子の発現量を定量した結果を示す。
【
図9】
図9は、IL-7, IL-21添加のCD8α
+β
+CTLの産生量及び表面マーカーに対する効果の解析結果を示す。
【
図10】
図10は、作製されたiPSC-CTLおよびPrimary CTLのサイトカイン産生プロファイル解析結果を示す。
【
図11】
図11は、従来法で成熟させたiPSC-CTLからCD8β/CD5両陽性細胞をソートし、PHA on-feeder拡大培養2週間を行った後のFACS解析の結果を示す。
【
図12】
図12は、拡大培養後の従来法iPSC-CTLをCD8β+CD5bright細胞とCD8β+CD5- 細胞に分けてfeeder-free条件で二回目の拡大培養を行った後の増殖能の解析を示す。
【
図13】
図13は、改良型iPSC-CTLからCD8β/CD5両陽性細胞をソートし、PHA on-feeder拡大培養を4回繰り返した後のFACS解析の結果を示す。
【
図14】
図14は、フィーダー有り無しで拡大培養した改良型iPSC-CTLとナイーブCTLの増殖を解析した結果を示す。
【
図15】
図15は、各サイトカイン含有培地で2週間拡大培養したときの改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)と親CTLクローン(H25-4)の増殖を解析した結果を示す(拡大培養開始時に対する増加率として示す)。
【
図16】
図16は、各サイトカイン含有培地で2週間拡大培養したときの改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)の細胞傷害活性とサイトカイン産生と増殖率を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、CD8α+β+細胞傷害性T細胞の製造方法であって、
CD4CD8両陽性T細胞を、IL-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培養してCD8α+β
+細胞傷害性T細胞へと誘導する工程を含む方法を提供する。
【0013】
本発明において、CD8α+β+細胞傷害性T細胞とは、T細胞のうち、表面抗原のCD8αおよびCD8βの両方が陽性である細胞(CD4は陰性)を意味し、細胞傷害活性を有するT細胞
を意味する。
細胞傷害性T細胞(CTL)は、その細胞表面上に存在するT細胞受容体(TCR)を介して、抗原提示細胞のクラス1主要組織適合抗原(MHCクラス1、HLAクラス1)と共に提示された、ウィルスや腫瘍等由来の抗原ペプチドを認識し、異物である該抗原ペプチドを提示する細胞に対して、特異的に細胞傷害活性を発揮する。細胞傷害活性は例えばグランザイムやパーフォリンなどの分泌又は産生を指標として確認することができる。
【0014】
一方、CD4CD8両陽性T細胞は、T細胞のうち、表面抗原のCD4およびCD8が共に陽性である細胞(CD8+CD4+)を意味する。CD4CD8両陽性T細胞は、誘導によってCD4陽性細胞(CD8-CD4+)またはCD8陽性細胞(CD8+CD4-)へと分化させることができる。本発明においては、CD4CD8両陽性T細胞からCD8α+β+細胞傷害性T細胞を誘導する。
【0015】
CD4CD8両陽性T細胞の由来は特に制限されないが、多能性幹細胞から分化誘導して得ら
れるCD4CD8両陽性T細胞であることが好ましい。
【0016】
多能性幹細胞
本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、CD4CD8両陽性T細胞に誘導される任意
の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄
幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、製造工程において胚、卵子等の破壊をしないで入手可能であるという観点から、iPS細胞であり
、より好ましくはヒトiPS細胞である。
【0017】
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、体細胞へ初期化因子を導入することによ
って製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝
子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et
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【0018】
体細胞には、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含され、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。
本発明では、CTLを製造する目的に使用するため、T細胞受容体(T cell receptor: TCR)の遺伝子再編成が行われたリンパ球(T細胞)を体細胞として用いてiPS細胞を製造することが好ましい。リンパ球を体細胞として用いる場合、初期化の工程に先立ち当該リンパ球をIL-2の存在下にて抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって刺激して活性化することが好ましい。かかる刺激は、例えば、培地中に、IL-2、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を添加して前
記リンパ球を一定期間培養することによって行うことができる。また、これらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ
上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。さらに、ヒトT細胞が認識する抗原ペプチドをフィーダー細胞とともに培地中に添加することによって刺激を与えてもよい。
【0019】
本発明において製造されるCD8α+β+細胞傷害性T細胞は、所望の抗原特異性を有することが好ましい。従って、iPS細胞の元となるリンパ球は、所望の抗原特異性を有するこ
とが望ましく、当該リンパ球は、所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製により特異的に単離されてもよい。例えば、所望の抗原を結合させたMHC(主要組織
適合遺伝子複合体)を4量体化させたもの(いわゆる「MHCテトラマー」)を用いて、ヒ
トの組織より所望の抗原特異性を有するリンパ球を精製する方法も採用することができる。
【0020】
体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。本発明の方法によって製造されたCD8α+β+細胞傷害性T細胞を細胞免疫療法に使用する場合、患者とヒト白血球型抗原(HLA)の型を適合させ易いという観点から、iPS細胞の元となる体細胞は、CD8α+β+細胞傷害性T細胞の投与対象から単離されることが好ましい。
【0021】
多能性幹細胞からCD4CD8両陽性T細胞を得る方法は特に限定されず、公知の方法を使用
してもよいが、例えば、下記の工程(a)、(b)を含む方法が挙げられる。
(a)多能性幹細胞を、ビタミンC類を添加した培地中で培養し、造血前駆細胞を誘導す
る工程、および
(b)工程(a)で得られた造血前駆細胞を、ビタミンC類、FLT3LおよびIL-7を含む培地中で培養し、CD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程。
以下、これらの工程を具体的に説明する。ただし、本発明において、多能性幹細胞からCD4CD8両陽性T細胞を誘導する方法は以下には限定されない。
【0022】
多能性幹細胞から造血前駆細胞を誘導する工程
本明細書において、造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells(HPC))とは、
リンパ球、好酸球、好中球、好塩基球、赤血球、巨核球等の血球系細胞に分化可能な細胞であり、造血前駆細胞は、例えば、表面抗原であるCD34および/またはCD43が陽性である
ことによって認識できる。
【0023】
造血前駆細胞は、例えば、ビタミンC類を添加した培地中で多能性幹細胞を培養する工
程を含む方法によって製造することができる。
【0024】
本発明において、ビタミンC類とは、L-アスコルビン酸およびその誘導体を意味し、L-
アスコルビン酸誘導体とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなるものを意味する。L-アスコルビン酸の誘導体として、リン酸ビタミンC、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、テトラヘキシルデカン酸アスコビル、ステアリン酸
アスコビルおよびアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸が例示される。好ましくは、リン酸ビタミンCであり、例えば、リン酸-Lアスコルビン酸Naまたはリン酸-L-アスコルビン酸Mgなどのリン酸-Lアスコルビン酸塩が挙げられる。
【0025】
造血前駆細胞誘導工程に用いる培地は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へビタミンC類を添加して調製することができる。基礎培地には、例
えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。
基礎培地は、例えば、血清、インスリン、トランスフェリン、セリン、チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含むIMDM培地である。
【0026】
造血前駆細胞誘導工程に用いる培地には、BMP4 (Bone morphogenetic protein 4)、VEGF (vascular endothelial growth factor)、SCF (Stem cell factor)およびFLT3L (Flt3 Ligand)からなる群より選択されるサイトカインが添加されていてもよい。より好ましく
は、VEGF、SCFおよびFLT3Lを添加された培地が使用される。
【0027】
ビタミンC類は、例えば、5ng/mlから100μg/mlに相当する量で培地に添加される。
VEGFは、例えば、10 ng/mlから100 ng/mlに相当する量で培地に添加される。
SCFは、例えば、10 ng/mlから100 ng/mlに相当する量で培地に添加される。
FLT3Lは、例えば、1 ng/mlから100 ng/mlに相当する量で培地に添加される。
【0028】
造血前駆細胞誘導工程において、多能性幹細胞は、接着培養または浮遊培養で培養され、接着培養の場合、コーティング剤をコーティングした培養容器を用いて行ってもよく、また他の細胞と共培養してもよい。共培養する他の細胞として、C3H10T1/2(Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830, 2010)、異種由来のストローマ細胞(Niwa A et al. J
Cell Physiol. 2009 Nov;221(2):367-77.)が例示される。コーティング剤としては、マトリゲル(Niwa A, et al. PLoS One.6(7):e22261, 2011)が例示される。浮遊培養では
、Chadwick et al. Blood 2003, 102: 906-15、Vijayaragavan et al. Cell Stem Cell 2009, 4: 248-62、およびSaeki et al. Stem Cells 2009, 27: 59-67に記載の方法が例示
される。
【0029】
造血前駆細胞は、多能性幹細胞を培養することで得られるネット様構造物(ES-sac又
はiPS-sacとも称する)から調製することもできる。ここで、「ネット様構造物」とは、多能性幹細胞由来の立体的な嚢状(内部に空間を伴うもの)構造体で、内皮細胞集団などで形成され、内部に造血前駆細胞を含む構造体である。
【0030】
造血前駆細胞誘導工程の温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度であり、約37~約39℃程度が好ましい。培養期間は、例えば、6日間以上である。低酸
素条件で培養してもよく、低酸素条件とは、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%また
はそれら以下の酸素濃度が例示される。
【0031】
造血前駆細胞誘導工程の培養は、上記の条件を適宜組み合わせて行うことができる。組み合わせとして、(i)多能性幹細胞をビタミンC類を添加した基礎培地中で、C3H10T1/2
上において低酸素条件下にて培養する工程、および(ii)VEGF、SCFおよびFLT3Lを(i)
の培地へさらに添加し、通常の酸素条件下で培養する工程が例示される。当該工程(i)
を行う期間は6日間以上であり、当該工程(ii)を行う期間は6日間以上である。
【0032】
造血前駆細胞からCD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程
CD4CD8両陽性T細胞は、例えば、ビタミンC類を添加した培地中で造血前駆細胞を培養する工程によって誘導することができる。
【0033】
CD4CD8両陽性T細胞の誘導に用いる培地は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用
いられる培地を基礎培地へビタミンC類を添加して調製することができる。基礎培地には
、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's
Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。
CD4CD8両陽性T細胞の誘導に用いる好ましい基礎培地は、血清、トランスフェリン、セ
リン、およびL-グルタミンを含むαMEM培地である。当該基礎培地へ添加するビタミンC類の種類と濃度は、上述した造血前駆細胞の誘導の場合と同様である。
【0034】
本発明のCD4CD8両陽性T細胞の誘導に用いる培地は、FLT3LおよびIL-7からなる群より選択されるサイトカインをさらに含むことが好ましい。
CD4CD8両陽性T細胞の誘導に用いる培地中におけるIL-7の濃度は、例えば、0.01 ng/ml
から100 ng/mlであり、好ましくは、0.1 ng/mlから10 ng/mlである。
CD4CD8両陽性T細胞の誘導に用いる培地中におけるFLT3Lの濃度は、例えば、1 ng/mlか
ら100 ng/mlである。
【0035】
CD4CD8両陽性T細胞の製造において、造血前駆細胞を接着培養または浮遊培養してもよ
く、接着培養の場合、培養容器をコーティングして用いてもよく、またフィーダー細胞等と共培養してもよい。共培養するフィーダー細胞として、骨髄間質細胞株OP9細胞(理研BioResource Centerより入手可能)が例示される。当該OP9細胞は、好ましくは、Dll1を恒常的に発現するOP-DL1細胞であってもよい(Holmes R1 and Zuniga-Pflucker JC. Cold Spring Harb Protoc. 2009(2))。フィーダー細胞としてOP9細胞を用いる場合、別途用意
したDll1またはDll1とFc等の融合タンパク質を適宜培地に添加することによっても行い得る。Dll1には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_005618、マウスの場
合、NM_007865に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子にコードされるタンパク質
、ならびにこれらと高い配列同一性(例えば90%以上)を有し、同等の機能を有する天然に存在する変異体が包含される。CD4CD8両陽性T細胞を製造する際にフィーダー細胞を
用いる場合、当該フィーダー細胞を適宜交換して培養を行うことが好ましい。フィーダー細胞の交換は、予め播種したフィーダー細胞上へ培養中の対象細胞を移すことによって行い得る。
【0036】
CD4CD8両陽性T細胞を誘導するために造血前駆細胞を培養する際の培養温度条件は、特
に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD4CD8両陽性T細胞の数などをモニターしながら、
適宜決定することが可能である。造血前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、10日間以上である。
【0037】
CD4CD8両陽性T細胞からCD8α
+
β
+
細胞傷害性T細胞を誘導する工程
本発明において、CD8α+β+細胞傷害性T細胞は、CD4CD8両陽性T細胞をIL-7およびT細胞受容体活性化剤を含む培地で培養することによって製造することができる。この工程は接着培養が好ましく、フィーダー細胞を使用せずに培養することが好ましく、CD4CD8両陽性T細胞を、フィブロネクチンフラグメント及び/又はNotchリガンドでコートされた培養器に直接接着させて培養することが好ましい。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の誘導に用いる培地中におけるIL-7の濃度は、前記「造
血前駆細胞からCD4CD8両陽性T細胞を誘導する工程」で使用される培地におけるIL-7の濃
度よりも高い濃度のIL-7を使用することが好ましく、例えば、0.05ng/mlから500 ng/mlであり、好ましくは0.1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、0.5 ng/mlから50 ng/mlで
ある。
【0038】
T細胞受容体活性化剤としては、例えば、PHA(フィトヘマグルチニン)、抗CD3抗体、抗CD28抗体、PMA及びイオノマイシンなどが挙げられる。
例えば、培地中に、抗CD3抗体等を添加してCD4CD8両陽性T細胞を一定期間培養することによってT細胞受容体(TCR)に刺激を与えることができる。なお、抗CD3抗体等は磁性ビ
ーズ等が結合されているものであってもよく、さらに抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。この場合もTCR活性化剤を含む培地での培養に該当する。CD4CD8両陽性T細胞のTCRを刺激するために、培養ディッシュの表面上に結合させるための抗CD3抗体の濃度としては特に制限はないが、例えば、0.1~100μg/mlである。
なお、T細胞受容体活性化剤は「CD4CD8両陽性T細胞からCD8α+β+細胞傷害性T細胞を誘導する工程」の開始時にIL-7とともに培地に含有させ、好ましくは1~2日、培養した後に、IL-7を含有し、T細胞受容体活性化剤を含有しない培地(例えば、T細胞受容体活性化剤濃度が1ng/mL未満~検出限界以下)に交換して培養を継続することが好ましい。この場合、T細胞受容体活性化剤を含有しない培地に交換するタイミングでフィブロネクチンフ
ラグメント及び/又はNotchリガンドでコートされた培養器を用いて培養することが好ま
しい。
そして、その後、フィブロネクチンフラグメント及びNotchリガンドのいずれも含まな
い(これらでコートされていない)培養器を使用して、好ましくはIL-7、IL-21およびFlt3Lを含む培地で、さらに培養を行うことがより好ましい。
【0039】
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の誘導工程に用いる培地は、特に限定されないが、動物
細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へIL-7やTCR活性化剤を添加して調製することが
できる。基礎培地には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地
、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含され
る。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。
好ましい基礎培地は、血清、トランスフェリン、セリン、L-グルタミン、アスコルビン酸
を含むαMEM培地である。
【0040】
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の誘導工程に用いる培地は、さらに、IL-7以外のサイト
カインやビタミンC類を含有することが好ましい。当該サイトカインは、FLT3LおよびIL-21等が例示される。なお、培地はIL-15を含まない(例えば、IL-15濃度が1ng/mL未満~検
出限界以下)ことが好ましい。IL-15を含まない培地を用いることで、IL-15の要求性がより高い自然免疫系リンパ球の成熟を抑制して、獲得免疫系リンパ球の特性を有するCTLへ
と効率よく誘導することができる。また、CD8α+β+細胞傷害性T細胞の誘導工程に用
いる培地はカスパーゼ阻害剤を含んでもよい。カスパーゼ阻害剤としては、Pan Caspase fmk Inhibitor Z-VADなどが挙げられる。
【0041】
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の誘導に用いるビタミンC類の種類と濃度は、上述した造
血前駆細胞の誘導の場合と同様である。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の誘導に用いる培地中におけるFLT3Lの濃度は、例えば、1
ng/mlから100 ng/mlである。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の誘導に用いる培地中におけるIL-21の濃度は、例えば、1
ng/mlから100 ng/mlである。
【0042】
本発明において、NotchリガンドとはNotchシグナル受容体に結合し、Notchシグナルを
活性化できる物質を意味する。Notchシグナル受容体とは、1回膜貫通型タンパク質であ
り、細胞外ドメイン(NECD)、膜貫通ドメイン(TM)および細胞内ドメイン(NICD)からなるNotch受容体がプロセッシングによりTM-NICDへと切断された後の、NECDとTM-NICDか
らなるヘテロ二量体を意味する。このNotchシグナル受容体のリガンドとしては、Delta-likeファミリー(DLL1、DLL3、DLL4)およびJaggedファミリー(JAG1、JAG2)のメンバーが例
示される。Notchシグナル受容体のリガンドは、組み換え体であってもよく、Fcなどとの
融合タンパク質であってもよく、例えばAdipogen社から市販されており容易に利用することができる。本発明において使用されるNotchシグナル受容体のリガンドは、好ましくは
、DLL4またはJAG1である。
【0043】
本発明において、フィブロネクチン(FN)フラグメントは、FN結合ドメイン、細胞接着ドメイン又はヘパリン結合ドメインに含まれるフラグメントから選択される。例えば、III1、III2、III3、III7、III8、III9、III11、III12、III13及びCS-1から選択される少なくとも1つのフラグメントを含めばよく、さらに複数のドメインが繰り返し連結されたフラグメントであってもよい。例えば、VLA-5へのリガンドを含む細胞接着ドメイン、ヘパリン結合ドメイン、VLA-4へのリガンドであるCS-1ドメイン、III1等を含有するフラグメントが本発明に使用されうる。前記フラグメントとしては、例えば、J.Biochem.、第110巻、第284~291頁(1991)に記載されたCH-271、CH-296、H-271、H-296、並びにこれらの誘導体や改変物が例示される。前記のCH-296はレトロネクチン(登録商標)の名称で市販されている。また、III1のC末端側の2/3のポリペプチドがFibronectin Fragment III1-Cの名称で市販されている。
【0044】
FNフラグメントは、適切な固相、例えば、細胞培養器材、ビーズ、メンブレン、スライドガラス等の細胞培養用担体に固定化して使用してもよい。固相へのFNフラグメントの固定化は、例えば、国際公開第00/09168号パンフレットに記載の方法に従って実施することができる。本発明において使用するFNフラグメントの濃度は、特に限定はなく、例えば最終濃度が0.001~500μg/mL、好適には0.01~500μg/mLとなるよう培地に添加する。また、FNフラグメントを固定化して使用する場合は、前記濃度のFNフラグメント溶液を使用して固相への固定化を実施すればよい。FNフラ
グメント存在下での細胞集団の培養は、国際公開第03/080817号パンフレットに詳細に記載されており、これを参照して実施することができる。
Notchリガンドについても同様の濃度及び方法で細胞培養器材に固定化して使用するこ
とができる。
【0045】
本発明において、CD8α+β+細胞傷害性T細胞を誘導するためにCD4CD8両陽性T細胞を
培養する際の温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD8陽性T細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。造血前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、1日間以上である。
【0046】
CD8α
+
β
+
細胞傷害性T細胞の拡大培養工程
上記のようにして得られたCD8α+β+細胞傷害性T細胞を拡大培養することにより、大量のCD8α+β+細胞傷害性T細胞を得ることができる。拡大培養は、例えば、IL-7、IL-15およびIL-21を含む培地を用いて行うことができる。あるいは、IL-7、IL-15に加え、IL-21、IL-18、IL-12およびTL1A(TNF-like ligand 1A:別名Vascular endothelial growth
inhibitor (VEGI) またはTNF superfamily member 15 (TNFSF15))の1つ以上を含む培
地を用いて行うことができる。
なお、CD4CD8両陽性T細胞から得られた細胞群からFACSやアフィニティカラム等にてCD8α+β+細胞傷害性T細胞をさらに選別(ソート)してから上記拡大培養に供することが好ましい。選別は、例えば、CD8β陽性、CD5陽性、CD336陰性、CD1a 陰性の1つ以上を指標にして行うことができる。CD8βはTCR補助レセプターであるため、CD8β陽性のソーテ
ィングにより抗原認識能の高いCTLを選別することが可能となり、しかも異常なNK様細胞
を除去することができる。CD5陽性を指標とした選別によればCD8βを安定的に発現し、なおかつ高い増殖能を持つ細胞を選別することができる。また、CD1aは未熟T細胞マーカー
なので、CD1a陰性を指標とした選別によれば未熟細胞を除去することができる。さらに、CD336は通常のCTLでは発現せず、自然免疫系細胞のみで発現するマーカーなのでCD336陰
性を指標とした選別によれば異常なNK様細胞を除去することができる。
【0047】
本発明においてCD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へIL-7、IL-15およびIL-21などのサイトカインを添加して調製することができる。基礎培地には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、血清、トランスフェリン、
セリン、L-グルタミン、アスコルビン酸を含むαMEM培地である。
【0048】
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地は、抗CD3抗体、ビタミンC類をさらに含有することが好ましい。
本発明においてCD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いるビタミンC類の種類や濃度は上述と同じである。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地中におけるIL-7の濃度は、
例えば、1ng/mlから100ng/mlである。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地中におけるIL-15の濃度は、
例えば、1ng/mlから100ng/mlである。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地中におけるIL-21の濃度は、例えば、1ng/mlから100ng/mlである。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地中におけるIL-12の濃度は、例えば、1ng/mlから100ng/mlである。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地中におけるIL-18の濃度は、例えば、1ng/mlから100ng/mlである。
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程に用いる培地中におけるTL1Aの濃度は、
例えば、1ng/mlから100ng/mlである。
【0049】
抗CD3抗体は、CD3を特異的に認識する抗体であれば特に限定されないが、例えば、OKT3クローンから産生される抗体が挙げられる。抗CD3抗体の培地中における濃度は、例えば
、10ng/mlから10μg/mlである。抗CD3抗体は培地に加える代わりに抗CD3抗体で培養器に
固定化して用いてもよい。抗CD3抗体は拡大培養途中で除去してもよい。
【0050】
CD8α+β+細胞傷害性T細胞の拡大培養工程の温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD8α+β+細胞傷害性T細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。CD8α+β+細胞傷害性T細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、5日以上である。なお、拡大培養工程においては、IL-7およびIL-15は拡大培養工程全般にわたって培地中に存在していることが好ましいが、IL-21、IL-18、IL-12お
よびTL1Aは拡大培養工程の初期(例えば、拡大培養開始から12時間、16時間、24時間ま
たは72時間)に培地中に存在していれば、それ以降は培地中に含まれなくてもよい。
【0051】
かかる培養においては、CD8α+β+細胞傷害性T細胞をフィーダー細胞と共培養して
もよい。フィーダー細胞としては特に制限はないが、細胞接触等を介して、CD8α+β+
細胞傷害性T細胞の成熟、増殖をより促進させるという観点から、末梢血単核球細胞(PBMCC)であることが好ましい。
【0052】
なお、上記拡大培養工程は、多能性幹細胞由来の細胞以外のT細胞、例えば、T細胞クローンや生体から単離されたT細胞などにも適用することができる。したがって、本発明は
、T細胞をIL-7およびIL-15、並びにIL-21、IL-18、IL-12およびTL1Aの一種以上を含む培
地で培養する工程を含む、T細胞の増殖方法を提供する。本発明はまた、IL-7およびIL-15、並びにIL-21、IL-18、IL-12およびTL1Aの一種以上を含むT細胞培養用培地を提供する。ここでいうT細胞は、好ましくは細胞傷害性T細胞、より好ましくはCD8α+β+細胞傷害
性T細胞であるが、上記の通り、多能性幹細胞由来の細胞以外のT細胞に限られず、T細胞
クローンや生体から単離されたT細胞であってもよい。
【0053】
<CD8α+β+細胞傷害性T細胞を含む医薬組成物、細胞免疫療法>
本発明の方法によって製造されるCD8α+β+細胞傷害性T細胞(培養物)は、後述の実施例において示す通り、抗原特異的細胞傷害活性を有する。従って、本発明の方法によって製造したCD8α+β+細胞傷害性T細胞、好ましくはヒトCD8α+β+細胞傷害性T細胞
は、例えば、腫瘍、感染症(例えば、慢性感染症)、自己免疫不全等の疾患の治療又は予防において有用である。
【0054】
従って、本発明は、本発明の方法によって製造したCD8α+β+細胞傷害性T細胞を含む医薬組成物、並びに該CD8α+β+細胞傷害性T細胞を用いた細胞免疫療法を提供する。
【0055】
本発明の細胞免疫療法では、治療対象者へのT細胞(CD8α+β+CTL)の投与は、特に
限定されないが、好ましくは、非経口投与、例えば、静脈内、腹腔内、皮下又は筋肉内投
与することができ、より好ましくは、静脈内投与することができる。あるいは、患部に局所投与することもできる。
【0056】
本発明の医薬組成物は、本発明の方法によって製造したCD8α+β+細胞傷害性T細胞
を、公知の製剤学的方法により製剤化することにより調製することができる。例えば、カプセル剤、液剤、フィルムコーティング剤、懸濁剤、乳剤、注射剤(静脈注射剤、点滴注射剤等)、などとして、主に非経口的に使用することができる。
これら製剤化においては、薬理学上許容される担体又は媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。また、前記疾患の治療又は予防に用いられる公知の医薬組成物や免疫賦活剤等と併用してもよい。
【0057】
本発明の医薬組成物を投与する場合、その投与量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品等)等に応じて、適宜選択される。
【0058】
本発明のCD8α+β+細胞傷害性T細胞を用いた細胞免疫療法は、ヒトより所望の抗原特異性を有するT細胞を単離する工程と、該所望の抗原特異性を有するT細胞からiPS細胞を
誘導する工程と、該iPS細胞をCD4CD8両陽性T細胞に分化させる工程と、該CD4CD8両陽性T
細胞をCD8α+β+細胞傷害性T細胞に分化誘導させる工程と、得られたCD8α+β+細胞
傷害性T細胞をヒトなどの哺乳動物の体内に投与する工程とを含む。
【0059】
細胞免疫療法を実施する場合、拒絶反応が起こらないという観点から、T細胞を単離さ
れる対象は、本発明によって得られたCD8α+β+細胞傷害性T細胞が投与される対象とHLAの型が一致していることが好ましく、本発明によって得られたCD8α+β+細胞傷害性
T細胞が投与される対象と同一の対象であることがより好ましい。投与される細胞は、本発明の方法により製造されたCD8α+β+細胞傷害性T細胞をそのまま投与してもよく、
また、上記の通り、製剤化された医薬組成物の形態で投与してもよい。
【実施例0060】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれら実施例に限定されないものとする。
【0061】
<CD8αβ+ CTLの調製>
細胞
iPS細胞(TKT3v 1-7株)は、Nishimura T, et al., Cell Stem Cell. 12(1):114-126, 2013に記載の方法を用いて、告知後に同意を得て単離されたヒトCD3陽性T細胞より樹立した。
C3H10T1/2細胞およびOP9/DLL1細胞は、理化学研究所・理研 BioResource Center より
入手して用いた。
K562/HLA A-24は東京大学(現、国立感染症研究所)立川博士から供与を受けた。
【0062】
CD4CD8両陽性細胞の誘導(DP細胞誘導工程)
10cm dishにおいてコンフルエントなC3H10T1/2細胞上にTKT3v 1-7株の小塊を播種し(Day0)、EB培地(15%ウシ胎児血清(FBS)、10μg/mL ヒトインスリン、5.5μg/mL ヒ
トトランスフェリン、5ng/mL 亜セレン酸ナトリウム、2mM L-グルタミン、0.45mM α-モノチオグリセロール、および50μg/mL phospho ascorbic acidを添加したIMDM)中で、低酸素条件下(5% O2)にて7日間培養した(Day7)。
【0063】
続いて、20ng/mL VEGF、30ng/mL SCF及び10ng/mL FLT3L(Peprotech社製)を添加し、
常圧酸素条件下にて7日間培養した(Day14)。
【0064】
得られたネット様構造物(iPS-SACともいう)に含まれている造血細胞(CD34+造血前駆細胞)を回収し、OP9/DLL1細胞上に播種した。10ng/mL FLT3Lおよび1ng/mL IL-7を添加したOP9培地(15% FBS、2mM L-グルタミン、100U/ml ペニシリン、50μg/ml phospho ascorbic acid 、100ng/ml ストレプトマイシン、5.5μg/mL ヒトトランスフェリンおよび5ng/mL 亜セレン酸ナトリウムを添加したαMEM)中で、常圧酸素条件下にて23日間培養し
た(Day37)。細胞は、3~4日毎に新たなOP9/DLL1細胞上へ播種した。
【0065】
CD4CD8両陽性細胞からの分化誘導(成熟工程)(プロトコール1)
Day37にて、OP9/DLL1と分化細胞の共培養を維持したまま、20% FBS, PSG (ペニシリン-ストレプトマイシン-L-グルタミン), ITS(インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸 ナ
トリウム), 50μg/ml phospho ascorbic acid, 10μM Pan Caspase fmk Inhibitor Z-VAD
(FMK001, R&D), 10ng/ml IL-7, 20ng/ml IL-21, 10ng/ml Flt3L, 2 μg/ml anti-human CD3 antibody (OKT3)を含むαMEM培地を加えた。
【0066】
Day38にて培地を完全に洗浄後、5μg/ml Retronectin(タカラバイオ株式会社)をコートしたプレートに移して培養を行った。培地はDay 37のものからanti-CD3 antibodyのみ
抜いたものを使用した。なお、Retronectinでコートされた培養器はこれらの溶液を培養
器に入れて4℃で一晩静置することで行い、その後、PBSで洗浄した。
【0067】
Day41にて、Day38の培地組成においてIL-21の濃度を10ng/mlとしたものに培地交換し、Fc-DLL4およびRetronectinがコートされていないプレートに移してさらに培養を継続した。
Day43にて細胞を回収して、FACSにてCD8β+ CD336-CD5+CD1a-細胞をソートした。
【0068】
Feeder-free expansion culture(拡大培養~その1)
PBSで希釈した1μg/ml anti-CD3抗体(OKT3)を96-well flat bottom plateに加えて4
℃で一晩静置してOKT3コートプレートを用意した。上記で得られたCD8β+CD5+CD1a-細胞
を20% FBS, PSG, ITS, 50μg/ml phospho ascorbic acid, 5ng/ml IL-7, 5ng/ml IL-15, 10ng/ml IL-21を含むαMEM培地に懸濁し、OKT3コートプレートに移して16時間培養を行った。
その後、細胞をOKT3をコートしていないウェルに細胞を移し、以後三日に一度ハーフメディウムチェンジを行うことにより培養を継続した。なお、IL-21以外の成分は全てのメ
ディウムチェンジで常時等量入れ、IL-21は初回メディウムチェンジのみ5ng/ml入れた。
拡大培養開始から14~21日目の細胞をCD8α+β+ CTLとして下記の実験に供した(
改良型iPSC-CTL)。
【0069】
比較対照として、従来法プロトコルで分化誘導したCTL(conventional CTL)を用いた。
従来法プロトコルとして、上記DP細胞誘導工程の後、成熟工程を経ずに、直接、拡大培養を行う方法を採用した。
【0070】
Feeder-free expansion culture(拡大培養~その2)
PBSで希釈した1μg/ml anti-CD3抗体(OKT3)を96-well flat bottom plateに加えて4
℃で一晩静置してOKT3コートプレートを用意した。上記で得られたCD8β+CD5+CD1a-細胞
を20% FBS, PSG, ITS, 50μg/ml phospho ascorbic acid, 10μM Pan Caspase fmk Inhibitor Z-VAD (FMK001, R&D), 5ng/ml IL-7, 5ng/ml IL-15, 20ng/ml IL-21, 50ng/ml IL-12,50ng/ml IL-18,50ng/ml TL1Aを含むαMEM培地に懸濁し(2x10^4 cells/200ul/well)、OKT3コートプレートに移して16時間培養を行った。
その後、細胞をOKT3をコートしていないウェルに細胞を移し、以後三日に一度ハーフメディウムチェンジを行うことにより培養を継続した。なお、メディウムチェンジの際には20% FBS, PSG, ITS, 50μg/ml phospho ascorbic acid, 5ng/ml IL-7, 5ng/ml IL-15を含むαMEM培地を用いた。拡大培養開始から14日目の細胞をCD8α+β+ CTLとして下記の実験に供した(改良型iPSC-CTL)。
【0071】
<CD8α
+β
+CTLの評価>
1.CD8αβの発現と抗原結合性解析
本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTL、従来法で作製したconventional CTLおよびiPS細胞の元となったオリジナルCTLについて、フローサイトメーターにてCD8α、CD8βの発現を確認したところ、
図1上に示すように、改良型iPSC-CTLは拡大培養を重ねてもCD8α
βを安定的に発現していることがわかった。さらに、テトラマー法によって上記各細胞のTCRの抗原結合性を定量したところ、
図1下に示すように、本発明の方法で作製した改良
型iPSC-CTLのHLA-tetramerとの結合はオリジナルCTLと同等に高かった。一方、従来法に
より得られたconventional CTLはTCRを同程度発現するにも関わらずCD8βを発現しないためHLA-tetramerへの結合が顕著に弱かった。
【0072】
2.細胞増殖とサイトカイン産生の解析
次に、改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)と従来型iPSC-CTL(conventional CD8b
- CTL)をCFSEで染色し、0 (Unpulsed), 10nM, または100nMの特異抗原ペプチド(Nef138-8)
を提示したK562/HLA A-24で刺激した。
増殖に伴うCFSEの減衰とIFNγ、IL-2の二種のサイトカイン産生を調べた。なお、CFSE
は増殖のたびに蛍光強度が落ちるため増殖アッセイに用いられる試薬である(J Vis Exp.
2010; (44): 2259)(増殖を重ねた細胞ほどCFSEの蛍光が低い)。
結果を
図2に示す。このCFSE assayにおいて改良型iPSC-CTLは従来のものより高い増殖能を示した。またサイトカイン産生能も改良型の方が顕著に高いことが明らかとなった。
【0073】
3.細胞傷害活性の解析
改良型iPSC-CTL(Modified CD8b
+ CTL)と従来型iPSC-CTL(conventional CD8b- CTL)を各濃度の特異抗原ペプチド(Nef138)をパルスしたK562/HLA A-24と共培養し、LDH活性を指標として細胞傷害活性を調べた。結果を
図3に示す。改良型iPSC-CTLではNK活性が消失する一方で抗原特異的な細胞傷害活性は従来型に比べ優れていたため、抗原を十分量提示するターゲット細胞に対して両者は同等の細胞傷害活性を示した。
【0074】
4.細胞形質の解析
改良型iPSC-CTL(Modified CD8b
+ CTL)と従来型iPSC-CTL(conventional CD8b
- CTL)、元のT細胞クローンをFACS解析した。CD28とCD27はnaiveまたはセントラルメモリー細胞のみで発現する補助刺激分子、CCR7は免疫監視に必須のホーミング分子であり、いずれもCTL
機能に直結する機能分子である。
図4に示すように、これらの分子はex vivo培養の過程
でオリジナルCTLから発現が消失したが、改良型iPSC-CTLでのみ発現の回復が認められた
。またナイーブ細胞とメモリー細胞の区別に最もよく使われるCD45RAとCD45ROの組み合わせにおいてiPSC-CTLは改良型、従来型ともにCD45RA
+CD45RO
-のナイーブ細胞の形質を示した。
【0075】
5.拡大培養における増殖能の解析
本発明の方法(拡大培養~その1)で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b
+ CTL)と従来型iPSC
-CTL(conventional CD8b
- CTL)の増殖を解析した。
図5に示すように、基礎培地としてαMEMを用い、さらにサプリメントとしてITSとphosphoアスコルビン酸を加えた
改良型on-feeder拡大培養系において改良型iPSC-CTLは10
20以上の極めて高い増殖能を示
した。
【0076】
6.拡大培養におけるIFNγの産生と細胞傷害性分子の発現量の解析
本発明の方法(拡大培養~その1)で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b
+ CTL)をPHA + PBMCあるいは無フィーダー下(IL-21添加または非添加)に刺激しサイトカインIFNγの産生と細胞傷害性分子Granzyme Bの発現量を定量した。
図6に示すように、Feeder-free拡大培養にIL-21を加えるとサイトカインの産生だけでなくGranzyme Bの発現まで亢進させ、on-feeder法なみに機能性を維持することが明らかとなった。
【0077】
7.抗原刺激下でのサイトカイン産生と細胞傷害活性の解析
本発明の方法(拡大培養~その1)で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)をPHA + PBMCで刺激しサイトカイン産生と細胞傷害活性を調べた。
図7に示すように、改良型iPSC-CTLはnaive phenotypeを反映してか刺激を重ねるごとに細胞傷害活性を獲得した
が、一方でIFNγ産生能を失っていった。
【0078】
8.サイトカイン産生と細胞傷害性分子の発現解析
本発明の方法(拡大培養~その1)で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b+ CTL)とオリジナルのCTLをPHA + PBMCで刺激し、
図7のExpansion time:5回経たタイミングで、サイトカインIFNγの産生と細胞傷害性分子Granzyme Bの発現量を定量した。
図8に示す
ように、臨床応用で想定されるon-feederとfeeder-free拡大培養の組み合わせで調製したiPSC-CTLをオリジナルCTLと機能比較したところ、サイトカイン産生能力はやや劣るもの
の細胞傷害活性は両者で同等であることが明らかとなった。
【0079】
9.IL-7, IL-21添加のCD8α
+β
+CTLの産生量及び表面マーカーに対する効果の解析
iPSC-CTL成熟過程におけるIL-15, IL-21添加の効果を検討した。結果を
図9に示す。
図9の上のグラフはDP細胞に対するCD8α
+β
+CTLの作製効率を示しており、IL-15添加によ
りCD8α
+β
+CTLの作製効率が劇的に上がっていることが分かる。
しかしながら、
図9の下の図では、代表的なナイーブCTLのマーカーであり重要なケモ
カインレセプターでもあるCCR7や増殖能に関連していると考えられるCD5の発現がIL-15添加で顕著に減少していることがわかる。さらに、通常のCTLでは発現していないNKマーカ
ーであるCD56やCD336がIL-15添加によって誘導されており、IL-15はCD8α
+β
+CTLの作製
効率を上げるものの、得られる細胞は望ましいCTL本来の特性を持つものでないことが示
唆された。
一方でIL-21添加はCD8α
+β
+CTL作製効率への寄与は認められないものの、NK関連マー
カーを上昇させる副作用が認められないことに加え、CCR7や重要な補助刺激分子であるCD28の発現を亢進させる効果が認められた。
【0080】
10.作製されたiPSC-CTLのサイトカイン産生プロファイル解析
過去の報告から、成熟CTLはnaiveからcentral memory (CM), effector memory (EM)、
分化が最も進んだEMRA細胞まで分化する過程でIL-2とIFNγの産生プロファイルを変化さ
せることが知られている。ナイーブ細胞ほどIL-2産生に傾いており、分化が進むにつれてIFNγを同時に産生する細胞、IFNγのみを産生する細胞が現れる。ここで重要なポイントは、分化が進んだEMやEMRAより分化の浅いナイーブ細胞の方がin vivoでより強い抗腫瘍
効果を示すことがよく知られている点である。
図10で示されるように本発明の方法で作製した改良型iPSC-CTLのIL-2/IFNγプロファイルはnaiveとCMの中間にあたり、分化の浅
い細胞らしく極めて高いIL-2産生能を示した。この結果からiPSC-CTLのnaive/CM様の形質と高い抗腫瘍活性が示唆される。
さらに、上記
図9の結果からIL-15添加がナイーブCTLの作製を妨げていることが示唆されたが、それと合致してIL-15添加でIL-2の産生能力が落ちていることが確認された。そ
の一方で、IL-21添加ではIL-2産生を押し上げる効果が認められた。
以上、
図9,10の結果を総合して、IL-21添加がiPSC-CTL成熟培養において特に有用
であることが示唆された。
【0081】
11.成熟工程の他の態様
CD4CD8両陽性細胞からの分化誘導(成熟工程)(プロトコール2)
上記DP細胞誘導工程の後、Day37にて、OP9/DLL1と分化細胞の共培養を維持したまま、20% FBS, PSG (ペニシリン-ストレプトマイシン-L-グルタミン), ITS(インスリン-トラン
スフェリン-亜セレン酸 ナトリウム), 50μg/ml phospho ascorbic acid, 10μM Pan Caspase fmk Inhibitor Z-VAD (FMK001, R&D), 10ng/ml IL-7, 10ng/ml Flt3L, 2 μg/ml anti-human CD3 antibody (OKT3)を含むαMEM培地を加えた。
【0082】
Day38にて培地を完全に洗浄後、5μg/ml Retronectin(タカラバイオ株式会社)、1μg/ml Fc-DLL4 (Sino Biological Inc.)をコートしたプレートに移して培養を行った。培地はDay 37のものからanti-CD3 antibodyのみ抜いたものを使用した。なお、Fc-DLL4およびRetronectinでコートされた培養器はこれらの溶液を培養器に入れて4℃で一晩静置する
ことで行い、その後、PBSで洗浄した。
【0083】
Day44にて、Day38の培地にさらにIL-21を10ng/ml入れたものに培地交換し、Fc-DLL4お
よびRetronectinがコートされていないプレートに移してさらに培養を継続した。
Day58にて細胞を回収して、FACSにてCD8β+ CD336-CD5+CD1a-細胞をソートした。
【0084】
12.従来法iPSC-CTLと改良型iPSC-CTLのマーカー発現と増殖能の比較
従来法で成熟させたiPSC-CTLからCD8β/CD5両陽性細胞をソートし、次いでPHA on-feeder拡大培養2週間を行った後のFACS結果を
図11に示す。従来型iPSC-CTLではたとえCD8
β/CD5両陽性細胞からスタートしても両分子とも(特にCD5で)発現安定性が低いため、
一回の拡大培養で発現が大きく落ち込んだ。さらにこの初回拡大培養後の細胞をCD8β
+CD5
bright細胞とCD8β
+CD5
-細胞に分けてfeeder-free条件で二回目の拡大培養を行ったところ、CD8b
+CD5
bright細胞がCD8b
+CD5
-細胞より圧倒的に高い増殖能を示すことが明らかと
なった (
図12)。これはCD5が高増殖性CTLの指標になることを示した過去の報告と合致
する(Nature Immunology, 16.1 (2015), 107-117.)。 以上の結果から従来法でもCD5
bright高増殖性iPSC-CTLは生成されるがその効率と安定性は非常に低く、多くの場合増殖能の低いCD
5-細胞が主要に産生されることが示唆された。
【0085】
一方、上記プロトコール2で誘導した改良型iPSC-CTLではCD5の発現が成熟直後から高
く、その発現は拡大培養を4回経験してもprimary CTLと同等に高いレベルで維持された (
図13)。それに合致して改良型iPSC-CTLの連続刺激に対する増殖倍率はトータルでon-feederでは10
20, feeder-freeでも10
15を越え、いずれもprimary naive CTLには劣るもの
の臨床応用に適合する極めて高い増殖能が認められた (
図14)。
【0086】
13.拡大培養における増殖能の解析
本発明の方法(拡大培養~その2)で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b
+ CTL)と親CTLクローン(H25-4)の増殖を解析した。その結果、
図15に示すように、IL-7およびIL-15の基礎サイトカインに加え、IL-21, IL-12, IL-18, TL1Aの一種以上を添加して拡大培養したときに増殖亢進効果を示した。
また、IL-7+IL-15の基礎サイトカインに加え、IL-21, IL-12, IL-18, TL1Aを添加して
拡大培養したときには、親CTLクローンの増殖亢進効果も見られた。
【0087】
14.抗原刺激下でのサイトカイン産生と細胞傷害活性の解析
本発明の方法(拡大培養~その2)で作製した改良型iPSC-CTL(Modified CD8b
+ CTL)をPHA + PBMCで刺激しサイトカイン産生と細胞傷害活性を調べた。その結果、
図16に示すように、IL-7およびIL-15の基礎サイトカインに加え、IL-21, IL-12, IL-18, TL1Aの一種
以上を添加して拡大培養したときには、増殖率だけでなく、サイトカイン産生能および細胞傷害活性も向上することが分かった。