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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000965
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】転造ダイス
(51)【国際特許分類】
   B21H 5/00 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
B21H5/00
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075179
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022099942
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴文
(72)【発明者】
【氏名】桑原 直樹
(57)【要約】
【課題】中空材の転造加工において、転造ダイスを大型化することも転造加工時に特殊な構成の芯金を用いることもなく、被転造素材が周方向及び軸方向に伸長変形することを可及的に抑制し、所望の歯形を有する製品を得ることができる転造ダイスを提供する。
【解決手段】食付き部2の始端側から該食付き部2の転造方向所定位置までは、各加工歯5に、平面視において転造方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜する複数の条溝6が設けられ、この条溝6により複数の分断加工歯5aが形成され、この各分断加工歯5aは、転造方向においてダイス本体1の幅方向に位相差を有するように配設されている転造ダイス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイス本体の転造方向始端側から転造方向終端側に向かって、それぞれに加工歯が設けられた食付き部、仕上げ部及び逃げ部を有し、この加工歯により被転造素材の外周面を塑性変形させ所望の歯形を転造する転造ダイスであって、前記食付き部の始端側から該食付き部の転造方向所定位置までは、前記各加工歯に、平面視において転造方向に対して所定の傾斜角度で傾斜する複数の条溝が設けられ、この条溝により複数の分断加工歯が形成され、この各分断加工歯は、転造方向において前記ダイス本体の幅方向に位相差を有するように配設されていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項2】
請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯は、この分断加工歯が配設されている分断加工歯領域部において、前記被転造素材の転造幅全域が加工されるような位相差を有して配設されていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項3】
請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記条溝は、前記食付き部の始端位置から該食付き部の長さの60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項4】
請求項2記載の転造ダイスにおいて、前記条溝は、前記食付き部の始端位置から該食付き部の長さの60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項5】
請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記条溝は、前記食付き部の始端から所定距離を隔てた位置から該食付き部の長さの60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項6】
請求項2記載の転造ダイスにおいて、前記条溝は、前記食付き部の始端から所定距離を隔てた位置から該食付き部の長さの60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項7】
請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯の歯幅が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝は、前記分断加工歯の歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項8】
請求項2記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯の歯幅が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝は、前記分断加工歯の歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項9】
請求項3記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯の歯幅が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝は、前記分断加工歯の歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項10】
請求項4記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯の歯幅が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝は、前記分断加工歯の歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項11】
請求項5記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯の歯幅が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝は、前記分断加工歯の歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項12】
請求項6記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯の歯幅が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝は、前記分断加工歯の歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項13】
請求項1~12いずれか1項に記載の転造ダイスにおいて、前記傾斜角度は、0.35°~7.10°であることを特徴とする転造ダイス。
【請求項14】
請求項1~12いずれか1項に記載の転造ダイスにおいて、前記条溝は、平面視一直線状に設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項15】
請求項13記載の転造ダイスにおいて、前記条溝は、平面視一直線状に設けられていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項16】
請求項1~12いずれか1項に記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯が設けられる前記分断加工歯領域部の転造方向終端側の所定範囲に漸減部が設けられ、この漸減部は、転造方向終端に向かって前記条溝の溝深さが徐々に浅くなり、且つ前記条溝の溝幅が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項17】
請求項13記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯が設けられる前記分断加工歯領域部の転造方向終端側の所定範囲に漸減部が設けられ、この漸減部は、転造方向終端に向かって前記条溝の溝深さが徐々に浅くなり、且つ前記条溝の溝幅が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項18】
請求項14記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯が設けられる前記分断加工歯領域部の転造方向終端側の所定範囲に漸減部が設けられ、この漸減部は、転造方向終端に向かって前記条溝の溝深さが徐々に浅くなり、且つ前記条溝の溝幅が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項19】
請求項15記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯が設けられる前記分断加工歯領域部の転造方向終端側の所定範囲に漸減部が設けられ、この漸減部は、転造方向終端に向かって前記条溝の溝深さが徐々に浅くなり、且つ前記条溝の溝幅が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造ダイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製のスプライン、セレーション、歯車、ねじ、リードスクリュー、ウォームなどの製造においては、略円筒形状の被転造素材を転造歯型(加工歯)が形成された転造ダイスで挟み込み、圧力をかけながら被転造素材の外周面を塑性変形して所望の歯形を形成する転造加工が広く用いられている。
【0003】
この転造加工は、切削加工と比較した場合、量産性に優れ大量生産に最適であること、加工硬化により被転造品表面の硬度が高くなり、また強度が高まること、転造ダイスの加工歯と被転造素材とのバニシング効果により被転造品表面の加工面粗さが良好となること等のメリットがある。
【0004】
また、スプラインやセレーションはドライブシャフトやステアリングシャフトなどの自動車部品にも多く使用されており、近年の自動車の軽量化の要求に伴い上記スプラインなどの製品(被転造品)は中実品だけではなく、略円筒形状の中心軸に沿った円形断面の穴を有する中空品の要求も高まっている。
【0005】
ところで、被転造素材を中空材としてこの中空材の外周面に転造加工を行うと、この被転造素材が周方向及び軸方向に伸長変形して所望の歯形を有する製品を得ることができず、また、転造負荷が大きすぎる場合は被転造素材が割れることもある。
【0006】
このように被転造素材(中空材)が周方向及び軸方向に伸長変形することをできるだけ防ぐため、略円筒形状の中心軸に沿った穴に棒状の芯金(心棒、マンドレルなどと言うこともある。)を挿入した状態で転造加工を行う手段もとられてきたが、単に芯金を用いただけでは、所望の歯形を有する製品を得ることが困難であるという問題があった。
【0007】
また、食付き部、仕上げ部及び逃げ部が形成されている一般的な転造平ダイス、若しくは転造欠円ダイス(略円筒状の外周の一部が切欠されたような形状の転造ダイス)の食付き部は、この食付き部での転造加工が進むほど(転造方向終端側ほど)、被転造素材への加工歯の押し込み量(加工量)が増えるように形成されており、例えば、転造平ダイスにおいては、食付き部の加工歯は、この加工歯の歯先線(加工歯の歯先を結ぶ仮想線)が転造方向始端側から転造方向終端側に向かうほど被転造素材に近づく傾斜をなすように設けられている。
【0008】
この食付き部の加工歯の歯先線の傾斜度合を緩やかにして、被転造素材に対して少しずつ転造負荷をかけることで、被転造素材(中空材)が周方向及び軸方向に伸長変形することを防ぐ試みがされてきたが、所望の歯形を有する製品を得ることが困難であるという問題は解決されず、さらに、食付き部の長さを長くする必要があり、よって転造ダイスを大型化しなければならないという問題があった。
【0009】
このため、上記のような中空品を製造する場合、一般的には、略円筒形状の中実材に対してスプラインなどの所望の歯形を形成する転造加工を行い、その後に略円筒形状の中心軸に沿って円形断面の穴加工を行い中空の製品とする製造方法がとられるが、この方法では穴加工工程が増えるため製造コストが高まるという問題があった。
【0010】
そこで、これまで、特許文献1,2に示すような、中空材の転造加工方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2014-054644号公報
【特許文献2】特開2002-143970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1には、2つの端部開口に連通する貫通孔を備えた中空材の貫通孔に複数の硬球からなる硬球群を収容し、2つの端部開口から治具を挿入し、2つの治具にて硬球群を加圧しながら中空材の位置決めをおこない、中空材の外周面に転造ダイスの歯形加工面を押し付けて中空材の外周面を転造し、転造後に貫通孔から硬球群を取り出して中空転造加工品を製造する、中空材の転造加工方法が開示されている。
【0013】
しかしながら、この方法は、芯金として円形断面の棒状のもの(所謂、丸棒)では無く複数の硬球からなる硬球群を使用する方法であって、中空材の貫通孔に複数の硬球からなる硬球群を収容する工程と、硬球群を加圧しながら中空材の位置決めをおこなう工程と、転造後に貫通孔から硬球群を取り出す工程が必要となるため加工時間がかかり過ぎてしまうという問題があり、量産性に優れ大量生産に最適な転造加工の利点を生かすことができない。
【0014】
また、上記特許文献2には、外周面に各凹部及び各凸部が互いに平行に軸方向に延在するとともに周方向に連続して設けられた凹凸部を有する内径マンドレルを円筒状の被加工体の中心軸孔に挿入し、内径マンドレルと共に被加工体を回転させながら被加工体の外周面に転造ダイスの歯形加工面を圧接して、該外周面に歯形を転造成形するものであり、内径マンドレルの外周面に設けられた各凸部を被加工体の内周面に圧接させながら転造成形するため、被加工体の内周面における周方向への材料流動を各凸部で規制することができ、被加工体が周方向に伸びる周長拡大を抑えることができる、中空歯車の製造方法が開示されている。
【0015】
しかしながら、この方法は、内径マンドレル(芯金)の外周面に設けられた各凸部を被加工体の内周面に圧接させながら転造成形するため、被加工体の内周面が変形してしまい被加工体の内径の寸法規格を満足できないことがあるばかりか、内径マンドレル(芯金)から被加工体を取り外すことに時間がかかり、さらには取り外すことさえできないことがある。
【0016】
本発明は、このような現状に鑑みなされたもので、中空材の転造加工において、転造ダイスを大型化することも転造加工時に特殊な構成の芯金を用いることもなく、被転造素材が周方向及び軸方向に伸長変形することを可及的に抑制し、所望の歯形を有する製品を得ることができる転造ダイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0018】
ダイス本体1の転造方向始端側から転造方向終端側に向かって、それぞれに加工歯5が設けられた食付き部2、仕上げ部3及び逃げ部4を有し、この加工歯5により被転造素材Wの外周面を塑性変形させ所望の歯形を転造する転造ダイスであって、前記食付き部2の始端側から該食付き部2の転造方向所定位置までは、前記各加工歯5に、平面視において転造方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜する複数の条溝6が設けられ、この条溝6により複数の分断加工歯5aが形成され、この各分断加工歯5aは、転造方向において前記ダイス本体1の幅方向に位相差を有するように配設されていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0019】
また、請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aは、この分断加工歯5aが配設されている分断加工歯領域部7において、前記被転造素材Wの転造幅全域が加工されるような位相差を有して配設されていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0020】
また、請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記条溝6は、前記食付き部2の始端位置から該食付き部2の長さL2の60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0021】
また、請求項2記載の転造ダイスにおいて、前記条溝6は、前記食付き部2の始端位置から該食付き部2の長さL2の60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0022】
また、請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記条溝6は、前記食付き部2の始端から所定距離を隔てた位置から該食付き部2の長さL2の60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0023】
また、請求項2記載の転造ダイスにおいて、前記条溝6は、前記食付き部2の始端から所定距離を隔てた位置から該食付き部2の長さL2の60%~95%の位置まで設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0024】
また、請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aの歯幅W1が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝6は、前記分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0025】
また、請求項2記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aの歯幅W1が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝6は、前記分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0026】
また、請求項3記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aの歯幅W1が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝6は、前記分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0027】
また、請求項4記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aの歯幅W1が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝6は、前記分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0028】
また、請求項5記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aの歯幅W1が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝6は、前記分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0029】
また、請求項6記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aの歯幅W1が3.3mm以下となるように構成され、且つ、前記条溝6は、前記分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0030】
また、請求項1~12いずれか1項に記載の転造ダイスにおいて、前記傾斜角度αは、0.35°~7.10°であることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0031】
また、請求項1~12いずれか1項に記載の転造ダイスにおいて、前記条溝6は、平面視一直線状に設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0032】
また、請求項13記載の転造ダイスにおいて、前記条溝6は、平面視一直線状に設けられていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0033】
また、請求項1~12いずれか1項に記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aが設けられる前記分断加工歯領域部7の転造方向終端側の所定範囲に漸減部7bが設けられ、この漸減部7bは、転造方向終端に向かって前記条溝6の溝深さDが徐々に浅くなり、且つ前記条溝6の溝幅W2が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0034】
また、請求項13記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aが設けられる前記分断加工歯領域部7の転造方向終端側の所定範囲に漸減部7bが設けられ、この漸減部7bは、転造方向終端に向かって前記条溝6の溝深さDが徐々に浅くなり、且つ前記条溝6の溝幅W2が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0035】
また、請求項14記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aが設けられる前記分断加工歯領域部7の転造方向終端側の所定範囲に漸減部7bが設けられ、この漸減部7bは、転造方向終端に向かって前記条溝6の溝深さDが徐々に浅くなり、且つ前記条溝6の溝幅W2が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【0036】
また、請求項15記載の転造ダイスにおいて、前記分断加工歯5aが設けられる前記分断加工歯領域部7の転造方向終端側の所定範囲に漸減部7bが設けられ、この漸減部7bは、転造方向終端に向かって前記条溝6の溝深さDが徐々に浅くなり、且つ前記条溝6の溝幅W2が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とする転造ダイスに係るものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明は上述のように構成したから、中空材の転造加工において、転造ダイスを大型化することも転造加工時に特殊な構成の芯金を用いることもなく、被転造素材が周方向及び軸方向に伸長変形することを可及的に抑制し、所望の歯形を有する製品を得ることができる転造ダイスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施例を示す説明平面図及び説明正面図である。
図2】本実施例の食付き部の分断加工歯領域部を示す説明平面図である。
図3】本実施例の条溝及び分断加工歯を示す説明側面図である。
図4】本実施例の食付き部を示す説明正面図及び説明側面図である。
図5】本実施例の食付き部の漸減部を示す説明平面図である。
図6】本実施例の被転造素材の1溝目を加工する加工歯(分断加工歯)を示す説明図である。
図7】実験1におけるオーバーピン径の測定結果を示すグラフである。
図8】実験1における歯底円直径の測定結果を示すグラフである。
図9】実験1における累積ピッチ誤差の測定結果を示すグラフである。
図10】実験1における歯溝の振れの測定結果を示すグラフである。
図11】本実施例の別例(条溝の深さが浅いタイプ)の条溝及び分断加工歯を示す説明側面図(a)及び説明平面図(b)である。
図12】本実施例(転造平ダイス)を用いた転造加工の概略説明図である。
図13】本実施例の別例(転造欠円ダイスに適用した場合)を用いた転造加工の概略説明図(a)及び要部展開平面図(b)である。
図14】本実施例を用いた場合の被転造素材の1溝目の加工状態を示す説明図である。
図15】本実施例を用いた場合の被転造素材の1溝目の加工状態を示す説明図である。
図16】従来例を用いた場合の被転造素材の1溝目の加工状態を示す説明図である。
図17】実験3におけるオーバーピン径の測定結果を示すグラフである。
図18】実験3における歯底円直径の測定結果を示すグラフである。
図19】実験3における歯形誤差の測定結果を示すグラフである。
図20】実験3における歯筋誤差の測定結果を示すグラフである。
図21】実験3における累積ピッチ誤差の測定結果を示すグラフである。
図22】実験3における歯溝の振れの測定結果を示すグラフである。
図23】本実施例の別例(分断加工歯領域部が食付き部始端から所定距離を隔てて設けられたタイプ)を示す説明平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0040】
本発明は、食付き部2の始端側から該食付き部2の転造方向所定位置までは、各加工歯5に、平面視において転造方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜する複数の条溝6が設けられ、この条溝6により加工歯5が分断されることにより複数の分断加工歯5aが形成され、この各分断加工歯5aは、転造方向においてダイス本体1の幅方向に位相差を有するように(転造方向に隣接する分断加工歯5aは、転造方向に沿った状態でなく歯筋方向にずれた状態で)配設されているから、食付き部2の分断加工歯領域部7において、被転造素材Wは断続的に加工され、さらに、加工歯5よりも押し込み面積が小さい分断加工歯5aの歯先に加工負荷が集中することとなり、肉厚の薄い中空材の被転造素材Wを転造加工する場合でも、被転造素材Wの円周方向及び軸方向への伸長変形を可及的に抑制することができる。
【0041】
すなわち、従来のこの種の転造ダイスでは、図16に示すように、ダイス本体21の歯筋方向に延設された加工歯25の歯先全面が被転造素材Wの歯溝を押し込む形となるため、被転造素材Wが肉厚の薄い中空材の場合、中実材を加工するようなダイスの歯溝に肉が盛り上ってくる作用が良好に行われず、よって、芯金を使用しない場合は、径方向に潰れてしまい、また、芯金を使用した場合でも、被転造素材Wの軸方向及び円周方向に変形してしまい所定の歯形まで塑性加工することができなかったが、本発明は、例えば、図14図15に示すように、被転造素材Wに対する分断加工歯5aの押し込み位置が、転造加工の進展に伴い順次、歯筋方向に移動しながら断続的な加工が行われ、さらに、被転造素材Wを押し込む面積が小さくなり、加工負荷が各分断加工歯5aの歯先に集中し、被転造素材Wの肉の盛り上がりを改善し、所望の形状に形成することが可能となる。それにより、被転造素材Wが肉厚の薄い中空材の場合でも、周方向及び軸方向への伸長変形を抑制することができるものとなる。
【実施例0042】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0043】
本実施例は、ダイス本体1の転造方向始端側から転造方向終端側に向かって、それぞれに加工歯5が設けられた食付き部2、仕上げ部3及び逃げ部4を有し、この加工歯5により被転造素材Wの外周面を塑性変形させ所望の歯形を転造する転造ダイスに係るものであり、具体的には、本実施例は、本発明の転造ダイスを、スプライン、セレーション及び歯車等を転造する転造平ダイスに適用したものである。
【0044】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。
【0045】
本実施例において、ダイス本体1は、図1に示すように、平面視長方形状に形成され、底面8は、基準面となるような平坦面に形成され、また、この底面8の反対側に位置する上面には、被転造素材Wに歯形を形成する多数の加工歯5が設けられており、この加工歯5の歯先線(加工歯5の歯先を結ぶ仮想線)を図1の説明正面図において実線で示している(図1の下側の図)。
【0046】
また、本実施例のダイス本体1は、被転造素材Wの滑り防止(被転造素材Wの加工歯5に対する位置ずれ防止)を目的として、加工歯5が設けられるダイス上面の転造方向始端側から転造方向終端側に向かって所定範囲にショットブラスト処理が施されている(本実施例では図中符号L2で示す食付き部2の長さ(全長)の約2/3の範囲(図中符号SBで示す範囲)にショットブラスト処理が施されている。)。なお、図中符号L1は、食付き部2、仕上げ部3及び逃げ部4の各転造方向範囲(長さ)の和を示す。
【0047】
また、本実施例は、通常のスプライン(被転造素材Wの軸方向に平行に歯形が形成されるスプライン)加工用の転造平ダイスであり、ダイス本体1において、食付き部2、仕上げ部3及び逃げ部4のそれぞれの加工歯5は、正面視山型(略台形状)に形成され、ダイス本体1の幅方向、具体的には、転造方向に対して直交する方向に向かって直線的に延設された直線加工歯に構成され、転造方向に向かって所定間隔で並設されている。なお、加工歯5の延設方向を転造方向に直交する方向に対して傾斜する方向とすることで、ヘリカルスプライン、はすば歯車(ヘリカルギヤ)等を加工するための転造ダイスに適用することができる。
【0048】
具体的には、食付き部2の加工歯5は、転造方向始端側から転造方向終端側に向かって徐々に歯丈が高くなり、被転造素材Wの外周部を徐々に押し込み、歯形を盛り上げ形成するように構成され、また、仕上げ部3の加工歯5は、一定の歯丈(食付き部2の終端の加工歯5と略同じ歯丈)に設定され、食付き部2で形成された歯形を製品寸法に仕上げるように構成され、また、逃げ部4の加工歯5は、転造方向終端側に向かって下り傾斜する傾斜面に設けられ、転造方向終端側に行くにつれ、徐々に先端面の位置が低くなるように構成されている。
【0049】
また、本実施例の食付き部2は、図1に示すように、始端位置から転造方向所定位置までは、各加工歯5が複数の条溝6によりダイス本体1の幅方向に分断された複数の分断加工歯5aが設けられた分断加工歯領域部7に構成されている。なお、図中符号Xは、前記分断加工歯領域部7の転造方向範囲(長さ)を示す。
【0050】
この分断加工歯領域部7においては、図2に示すように、分断加工歯5aは、ダイス本体1の幅方向においては直線的に配設され、また、転造方向においてはダイス本体1の幅方向に位相差を有して配設されている。具体的には、分断加工歯領域部7内の分断加工歯5aは、分断加工歯領域部7において被転造素材Wの転造幅全域若しくは転造幅略全域が加工されるような位相差を有して配設されている。
【0051】
ここで、転造幅とは、被転造素材Wにして転造加工によって歯形が形成される軸方向の範囲を指す。
【0052】
また、本実施例の分断加工歯領域部7は、食付き部2の始端位置から該食付き部2の長さL2の60%~95%の位置まで設けられている。
【0053】
この分断加工歯領域部7、言い換えると、分断加工歯5aを食付き部2の始端から設けることで、所定長さの食付き部2において分断加工歯領域部7の範囲を広く設定することができ、これにより、分断加工歯5aによる転造加工が多く行われることになり、本発明の効果、すなわち、被転造素材Wの円周方向及び軸方向への伸長変形の抑制効果がより良好に発揮されるものとなる。
【0054】
なお、分断加工歯領域部7については、食付き部2の始端から始まる構成でなく、図23に示すように、食付き部2の始端より適宜な距離を隔てた位置から始まる構成としても良い。この場合、分断加工歯領域部7が設けられる位置(分断加工歯領域部7が始まる位置、言い換えると、条溝6の始端位置)は、被転造素材Wの0.5~2回転分の距離を隔てた位置とすることが好ましい。
【0055】
また、分断加工歯5aが設けられる範囲を食付き部2の長さL2の60%~95%の位置までとする理由は、分断加工歯5aが食付き部2の長さの半分以下の位置までしか無い場合、所望の効果が発揮されず、また、食付き部2の全長に亘って設けられると、言い換えると、仕上げ部3との境界位置まで設けられると、仕上げ部3の加工歯5により転造加工がされた後でも被転造素材Wに形成された歯形の歯筋が整わず、転造加工後の歯面にキズ(条溝6に起因する溝痕)が残ってしまうおそれがあるからである。したがって、分断加工歯5aが設けられる範囲の上限位置は、仕上げ部3との境界位置よりも僅かでも手前(転造方向始端側)に設定すれば良く、食付き部2の長さL2の95%の位置までとすることがより好ましい。
【0056】
また、分断加工歯5aを形成する条溝6(加工歯5を分断する条溝6)は、砥石による研削加工により、図3に示すような、底部側から上方に向かって溝幅が広くなるテーパー溝に形成されている。なお、条溝6の形成は、前記加工に限定されず、例えばレーザー加工等により形成しても良い。
【0057】
また、条溝6の溝幅W2は、後述する分断加工歯5aの歯幅W1に対して溝幅W2が狭すぎる場合、従来品(条溝6がなく分断加工歯5aが形成されていないもの)に近づく形状となるため肉厚の薄い被転造素材Wで変形抑制効果が十分に得られず、また、歯幅W1に対して溝幅W2が広すぎる場合は未加工部ができてしまうことで仕上げ部3での加工負荷が大きくなり過ぎてしまい被転造素材Wが変形してしまうため、この条溝6の溝幅W2は、分断加工歯5aの歯幅W1から設定する必要がある。
【0058】
この点を踏まえ、条溝6の溝幅W2は、本実施例の作用効果を損ねない範囲で適宜設定可能であるが、分断加工歯5aの歯幅W1と同等若しくはそれよりも狭い溝幅の方が好適であり、具体的には、分断加工歯5aの歯幅W1/条溝6の溝幅W2の比率が0.9~1.8となるように設定することが好ましい。
【0059】
なお、分断加工歯5aの歯幅W1/条溝6の溝幅W2の比率が0.9の仕様(後述する実験例2の仕様)は歯幅W1に対して溝幅W2がやや広い仕様となり、この場合、食付き部2の分断加工歯領域部7においては未加工部が僅かに残るが、転造幅略全域が加工されるので、仕上げ部3で加工負荷が大きくなり過ぎることはないため、上記の通り好ましい範囲に含まれるものであり、「分断加工歯5aの歯幅W1と同等(の溝幅)」に含まれるものである。
【0060】
また、本実施例において、条溝6の溝幅W2は、図3に示すように、条溝6の上縁部(最も溝幅が広い部分)におけるダイス本体1の幅方向における溝幅を意味し、また、本実施例において、分断加工歯5aの歯幅W1は、図3に示すように、分断加工歯5aの先端面におけるダイス本体1の幅方向における歯幅を意味する。
【0061】
また、本実施例の条溝6は、転造方向始端側から転造方向後端側に向かって食付き部2の加工歯5の傾斜(加工歯5の歯先線の傾斜)に沿って設けられ、加工歯5の歯先を基準とする条溝6の溝深さDは一定の深さとなるよう設定されている。なお、条溝6の溝深さDは、本実施例の作用効果を損ねない範囲で適宜設定可能であり、加工歯5の歯先を基準として一定の深さに設定されなくても良い。
【0062】
また、本実施例において、条溝6の溝深さDは、加工歯5の歯丈以上の深さに設定され、加工歯5を完全に分断するように構成されているが、本実施例の作用効果を発揮する所定深さであれば、図11に示すように、加工歯5の歯丈よりも浅い深さに設定しても良い。例えば、条溝6の溝深さDは、被転造素材Wの加工性に応じて設定すれば良い。被転造素材Wが転造加工により盛り上がり易い材質(展延性が高い材質)の場合は、条溝6の溝深さDを深く設定(例えば、加工歯5の歯丈以上に設定)すれば良く、盛り上がり難い材質(加工硬化性が大きい材質)の場合は、分断加工歯5aの強度低下による転造加工時の欠損を防ぐため条溝6の溝深さDを浅く設定(加工歯5の歯丈よりも浅く、例えば加工歯5の歯丈の50%の深さに設定)すれば良い。
【0063】
また、本実施例の条溝6は、分断加工歯5aの歯幅W1が3.3mm以下となるように、分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で設けられている(分断加工歯5aの歯幅W1が前記値よりも大きい値(幅広となる値)に設定されると、肉厚の薄い被転造素材Wでの変形抑制効果が十分に得られなくなってしまう。)。
【0064】
なお、本実施例は、前述の通り、通常のスプライン(被転造素材Wの軸方向に平行に歯形が形成されるスプライン。)加工用の転造平ダイスであるため、歯筋方向とダイス本体1の幅方向は一致する。
【0065】
分断加工歯5aの歯幅W1を狭くするほど被転造素材Wの変形抑制効果を得ることができるが、その反面、欠けが生じやすくなり、工具寿命が短くなる問題が生じてしまう。そのため、分断加工歯5aの歯幅W1の設定には、被転造素材Wの変形抑制効果と工具寿命のバランスを考慮する必要がある。
【0066】
具体的には、ダイスの1歯目の転造方向の歯先幅を閾値とし、これよりも歯幅W1を狭くしてしまうと非常に欠けが生じやすくなるため、歯幅W1は、ダイスの1歯目の転造方向の歯先幅以上に設定することが好ましい。
【0067】
この点を踏まえ、本実施例の条溝6は、完全形状(2条の条溝6で区分されている状態)の分断加工歯5aの歯幅W1が0.5mm以上3.3mm以下となるように、分断加工歯5aの歯筋方向に等間隔で並設されている。
【0068】
また、本実施例の条溝6は、転造方向に対してダイス本体1の幅方向、言い換えると、加工歯5の歯筋方向に向かって傾斜して設けられている。具体的には、平面視(歯丈方向視)において転造方向に対して所定の傾斜角度αで斜めに設けられ、さらに、各条溝6は、図2に示すように、転造方向において平面視一直線(直線的且つ連続的)に設けられている。条溝6をこのように設けることで、容易に分断加工歯5aを転造方向においてダイス本体1の幅方向に位相差を有した状態で配設することが可能となる。
【0069】
なお、条溝6は、本実施例のように平面視一直線に設けられることに限定されるものではなく、図11(b)に示す本実施例の別例のように、平面視で一直線に沿って一直線状(直線的且つ断続的)に設けても良い。
【0070】
具体的には、本実施例の条溝6は、平面視において転造方向に対して0.35°~7.10°の角度(傾斜角度α)で斜めに設けられており、本実施例は、分断加工歯5aが歯丈方向に最も深く被転造素材を押し込む量(最大加工量)を0.14mm以内とし、条溝6を前記角度で設けることで、分断加工歯領域部7において被転造素材Wが0.5~2回転する間に、被転造素材Wの転造幅全域若しくは転造幅略全域が加工され、未加工部が形成されないように構成されている(傾斜角度αが大きくなると転造中に被転造素材Wに対して軸方向へ負荷がかかり、被転造素材Wに曲がりが生じるおそれが高くなるため、傾斜角度αは前記の範囲を超えないように設定することが好ましい。)。
【0071】
分断加工歯5aの最大加工量を0.14mm以内に設定しなければならない理由は、実験例1~3(本実施例:分断加工歯5aの最大加工量0.14mm)を含む各種実験の結果によるものであり、最大加工量が0.14mmを超える場合は、被転造素材への加工負荷が大きくなり過ぎてしまい、被転造素材Wが円周方向および軸方向へ伸長変形してしまうためである。
【0072】
例えば、モジュール0.3、スプラインの歯数66、食付き部加工量0.055mm/回転のスプライン加工用ダイスの場合、被転造素材Wが2回転する間に転造幅全域若しくは転造幅略全域が加工されるように条溝6を設定すると分断加工歯5aの最大加工量(2回転目の加工量)は0.1375mmで0.14mm以内となるため本発明の効果が得られる構成となる。これに対して、モジュール1.0、スプラインの歯数27、食付き部加工量0.14mm/回転のスプライン加工用ダイスの場合、被転造素材Wが2回転する間に転造幅全域若しくは転造幅略全域が加工されるように条溝6を設定すると分断加工歯5aの最大加工量(2回転目の加工量)は0.35mmとなり0.14mmを超えてしまうため、被転造素材Wが周方向及び軸方向へ伸長変形してしまい良好な結果が得られない。この場合、最大加工量が0.14mmを超えないようにするためには0.5回転毎に転造幅全域若しくは転造幅略全域が加工されるように条溝6を設定しなければならない。
【0073】
具体的には、歯先円直径φ21,モジュール0.3,歯数66のスプラインの場合では、ダイス本体1の全長Lは410mm、食付き部2の長さL2は289mmとなり、条溝6のピッチPを0.782mmとし、被転造素材Wが2回転で転造幅全域若しくは転造幅略全域を加工させる場合は、傾斜角度αは0.35°(MIN)、条溝6のピッチPを6.967mmとし、被転造素材Wが1回転で転造幅全域若しくは転造幅略全域を加工させる場合は、傾斜角度αは5.88°(MAX)となる。
【0074】
また、歯先円直径φ17.4,モジュール0.47,歯数36のスプラインの場合では、ダイス本体1の全長Lは410mm、食付き部2のL2は304mmとなり、条溝6のピッチPを1.347mmとし、被転造素材Wが2回転で転造幅全域若しくは転造幅略全域を加工させる場合は、傾斜角度αは0.73°(MIN)、条溝6のピッチPを6.967mmとし、被転造素材Wが1回転で転造幅全域若しくは転造幅略全域を加工させる場合は、傾斜角度αは7.10°(MAX)となる。
【0075】
また、歯先円直径φ27.5,モジュール1.0,歯数27の場合では、傾斜角度αは1.79°~4.13°となる(後述する実験例1~4参照)。
【0076】
また、本実施例の分断加工歯領域部7の転造方向終端側においては、漸減部7bが設けられている。
【0077】
具体的には、漸減部7bは、分断加工歯領域部7の終端の6歯~12歯の加工歯5を含む範囲に設定され、この漸減部7bの各加工歯5に設けられる条溝6は、分断加工歯領域部7のうち漸減部7bより転造方向始端側の始端側分断加工歯領域部7aに設けられた条溝6よりも浅い溝深さ、且つ、狭い溝幅に設定され、さらに、漸減部7bの終端に近い加工歯5に設けられる条溝6ほど、浅い溝深さ且つ狭い溝幅に設定されている。
【0078】
また、この漸減部7bにおける条溝6の溝深さは、始端側分断加工歯領域部7aと漸減部7bとの境界から漸減部7bの終端に向かって曲線的に浅くなっても良いし、例えば、以下のように設定される漸減角度g(図4参照)の勾配に沿って徐々に直線的に浅くなっても良い。
【0079】
漸減角度g=arctan(始端側分断加工歯領域部7aと漸減部7bとの境界での条溝6
の溝深さD/漸減部7bの転造方向の長さ)
【0080】
この漸減部7bを設けることで、始端側分断加工歯領域部7aと、食付き部2のうち分断加工歯領域部7より転造方向終端側での、条溝6の有無による加工歯5の形状の変化を穏やかにし、それにより加工負荷の急激な変化を抑え、被転造素材の伸長変形を抑えることができる。
【0081】
なお、本実施例の食付き部2は、図1に図示するように歯先線の勾配が一定に、すなわち、食付き部2における加工量(被転造素材Wの1回転あたりの加工量)が一定に設定されているが、食付き部2に関しては、食付き部2の始端側の所定範囲を食付き1段目、残りの食付き部2を食付き2段目として、食付き1段目の歯先線の勾配を大きくし、食付き2段目の歯先線の勾配を小さくして、食付き1段目では加工量が多く、食付き2段目では加工量が少なくなるように構成しても良い。
【0082】
また、本実施例は、前記のとおり、本発明の転造ダイスを図12に示すような転造平ダイスに適用した場合であるが、本発明の転造ダイスは、図13に示すような転造欠円ダイスにも適用可能である。
【0083】
転造欠円ダイスは、その回転方向が転造方向であり、その外周面に形成された転造歯型は、転造方向始端側から順に、転造欠円ダイスの回転軸から加工歯5の歯先までの距離が夫々異なる食付き部2、仕上げ部3及び逃げ部4が連続して設けられるものである。なお、転造欠円ダイスの場合、条溝6は転造欠円ダイスの回転軸周りにリード角αで螺旋状に設けられ、このリード角αは、転造平ダイスにおける傾斜角度αに相当するものである(図13(b)参照)。
【0084】
このように条溝6を転造欠円ダイスの回転軸周りに螺旋状に設けることで、この条溝6は、転造欠円ダイスの条溝6が形成されている食付き部2の平面視において転造方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜し、且つ、転造方向において平面視一直線状(わずかに湾曲している略直線状態)となるように設けられるものである。言い換えると、この条溝6は、図13(b)に示すように、転造欠円ダイスの外周面を平面に展開した展開状態において、転造平ダイス同様、転造方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜し、且つ、転造方向において平面視一直線となるように設けられるものである。したがって、転造欠円ダイスにおいて、条溝6を転造欠円ダイスの回転軸周りに螺旋状に設けることで、以下に説明する転造平ダイスに適用した場合の作用効果と同等の作用効果を奏する。なお、転造欠円ダイスは略円筒形状であることに由来し、平面視した場合、視認範囲の左右方向(転造方向)端部側に位置する条溝6がわずかに湾曲しているように見えるが、本実施例では、このわずかに湾曲しているように見える状態も「平面視一直線状」に含むこととする。
【0085】
本実施例は上述のように構成したから、食付き部2の分断加工歯領域部7において、分断加工歯5aが被転造素材Wに対して押し込み位置をダイス本体1の幅方向に移動しながら断続的に加工を行うこととなり、さらに、被転造素材Wを押し込む面積が加工歯5で被転造素材Wを押し込む場合に比べて小さくなり、加工負荷が各分断加工歯5aの歯先に集中することにより、被転造素材Wへ分断加工歯5が食付き易くなり、被転造素材Wが肉厚の薄い中空材の場合でも、周方向及び軸方向への伸長変形を抑制することができるものとなる。
【0086】
中空材に対するスプラインの転造加工においては、被転造素材Wの肉厚に対するスプラインの歯丈の割合が大きいほど、周方向及び軸方向への伸長変形が大きなって所望の歯形を形成することが困難となり、また、被転造素材Wの外径(被転造素材Wの直径)に対する内径(被転造素材Wの中空部の直径)の割合が大きいほど、すなわち、被転造素材Wの肉厚が薄いほど、周方向及び軸方向への伸長変形が大きなって所望の歯形を形成することが困難となる。
【0087】
具体的には、本出願人のこれまでの実績では、モジュール0.3~1.1のスプラインを想定した場合、芯金無しで良好に(伸長変形を伴わずに)中空材の被転造素材Wを加工できるのは、被転造素材Wの肉厚に対するスプラインの歯丈の割合が17%以下、且つ、被転造素材Wの外径(被転造素材Wの直径)に対する内径(被転造素材Wの中空部の直径)の割合が47%以下の場合に限られており、また、芯金を用いても、被転造素材Wの肉厚に対するスプラインの歯丈の割合が20%以下、且つ、被転造素材Wの外径(被転造素材Wの直径)に対する内径(被転造素材Wの中空部の直径)の割合が55%以下の場合でしか良好に加工できなかったが、本実施例を用いることで、被転造素材Wの肉厚に対するスプラインの歯丈の割合が20%以下、且つ、被転造素材Wの外径(被転造素材Wの直径)に対する内径(被転造素材Wの中空部の直径)の割合が55%以下の条件を満たすものまでは、芯金無しで良好に加工することができ、また、芯金を用いることで、被転造素材Wの肉厚に対するスプラインの歯丈の割合が30%以下、且つ、被転造素材Wの外径(被転造素材Wの直径)に対する内径(被転造素材Wの中空部の直径)の割合が70%以下の条件を満たすものまで良好に加工することができるようになる。
【0088】
以下は、上述した本実施例の効果を裏付ける実験(評価実験)である。
【0089】
<実験1>
表1,2に示すような、従来の一般的な転造平ダイス(以下、「従来例1」、「従来例2」という。)と、本実施例において分断加工歯5aの歯幅等の構成が異なる実験例1~4の転造平ダイスとの計6つの転造平ダイスを用いて、中空材の被転造素材Wに対して一般的な芯金を使用したスプライン転造加工を行い、被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無について評価した。
【0090】
なお、表1に記載の各符号については、L:ダイス本体1の長さ、L2:食付き部2の長さ、X:分断加工歯領域部7の転造方向範囲(長さ)、X/L2:食付き部2の長さL2(食付き部長さL2)に対する分断加工歯領域部7の範囲X(分断加工歯領域部7の転造方向範囲における長さ)の割合である(図1参照)。
【0091】
また、表2に記載の符号については、W1:分断加工歯5aの歯幅、W2:条溝6の溝幅、P:条溝6のピッチ、α:条溝6の傾斜角度、β:条溝6の溝角度、D:条溝6の溝深さ、W3:食付き部2における分断加工歯領域部7の1歯目の転造方向歯先幅、W1/W3:分断加工歯5aの歯幅比率、DP:ダイスのスプラインピッチ(転造方向におけるスプラインの加工歯のピッチ)、W1/W2:分断加工歯5aの歯幅と条溝6の溝幅の比率である(図2,3参照)。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
具体的には、肉厚が異なる中空材の被転造素材W(肉厚4mm~8mm)に対して、芯金を使用して以下の条件でスプライン転造加工を行い、それぞれのオーバーピン径、歯底円直径、歯形誤差、歯筋誤差、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れを測定し、この測定結果より被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。
【0095】
<加工条件等>
・スプライン仕様:歯先円直径φ27.5×Z27×m1.0×PA37.5°
歯丈:1.2mm
ここで、Zはスプラインの歯数、mはモジュール、PAは圧力角を指す記号である。
・被転造素材の材質:炭素鋼(S45C)
・素材径:26.46mm
・加工量:従来例1及び実験例1~3:0.14mm/回転,
従来例2及び実験例4:0.09mm/回転
・食付き部2の1歯目の歯丈h:従来例1及び実験例1~3:0.6964mm,
従来例2及び実験例4:0.6464mm
・転造ダイスの材質:ダイス鋼(SKD11)
・被転造素材1回転あたりに進む転造方向の距離:83.1mm
(=転造方向におけるスプラインの加工歯のピッチDP3.0777mm×Z27)
・加工条件:転造幅中央位置でオーバーピン径規格中央値狙い
<使用した芯金>
・材質:炭素鋼鋼材(焼入れ)
・芯金寸法及び内径寸法:下表3参照
【0096】
【表3】
【0097】
また、実験例1~4について、さらに説明すると、被転造素材Wの溝数を下ダイスの1歯目を基準(1溝目)とし、実験例1~3ではダイスの食付き部長さL2を449mm、食付き部2の歯数を146歯で設計した場合、図6に示すように、下側のダイスでは、1歯目、28歯目、55歯目、82歯目、109歯目及び136歯目の加工歯5が被転造素材Wの1溝目を加工する歯となり、また、上側のダイスでは、被転造素材W半回転で下ダイス1歯目が加工した溝と同じ溝を加工するため、14歯目、41歯目、68歯目、95歯目及び122歯目の加工歯5が被転造素材Wの1溝目を加工する歯となる。実験例4ではダイスの食付き部長さL2を754mm、食付き部2の歯数を245歯で設計した場合、図6に示すように、下側のダイスでは、1歯目、28歯目、55歯目、82歯目、109歯目、136歯目、163歯目、190歯目、217歯目及び244歯目の加工歯5が被転造素材Wの1溝目を加工する歯となり、また、上側のダイスでは、被転造素材W半回転で下ダイス1歯目が加工した溝と同じ溝を加工するため、14歯目、41歯目、68歯目、95歯目、122歯目、149歯目、176歯目、203歯目及び230歯目の加工歯5が被転造素材Wの1溝目を加工する歯となる。その上で、実験例1~4では、被転造素材W半回転(0.5回転)毎に転造幅全域若しくは転造幅略全域を加工するように条溝6の位相(ダイス本体1の幅方向へのずれ量)を設定した。
【0098】
表4に各測定項目の規格を示す。また、表5に評価結果を示す。なお、評価結果においては、評価項目であるオーバーピン径、歯底円直径、歯形誤差、歯筋誤差、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れの全ての項目が表4に示す規格内の場合を○、評価項目の一つでも規格外が発生した場合を×とした。評価を行っていないものについては、-とした。
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
表5に示すように、従来例1においては、肉厚が8mm,7mm,6mmの被転造素材Wに対しては周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状が得られたが、肉厚が5mm以下の被転造素材Wでは周方向及び軸方向の伸長変形が生じることが確認された。これに対して、実験例1~4(本実施例)においては、全てのダイスにおいて、肉厚5mmの被転造素材Wに対しても周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状が得られることが確認され、さらに、従来例1や実験例1~3と比較して食付き部長さL2を長く設定した従来例2においても、肉厚4mmの被転造素材Wに対しては周方向及び軸方向の伸長変形が生じることが確認されたが、食付き部長さL2を従来例2と同じ長さに設定した実験例4(本実施例)においては、肉厚4mmの被転造素材Wに対しても周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状が得られることが確認された。
【0102】
また、表6及び図7~10は、従来例1及び実験例1~4における肉厚5mmの被転造素材Wをスプライン転造加工した際の詳細結果である。
【0103】
【表6】
【0104】
表6に示すように、従来例1においては、周方向及び軸方向の伸長変形が生じたことにより、オーバーピン径、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れの3項目で規格外が発生した。これに対して、本実施例(実験例1~4)においては、全ての項目で規格外の発生は無く、周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状が得られた。
【0105】
なお、実験例1のダイス仕様をベースとして条溝6の溝深さDを浅い深さに変更して0.10mmに設定し、上記実験と同条件でのスプライン転造加工及び評価についても実施した。条溝6の溝深さDが0.95mm(実験例1)の場合と同様に全ての評価項目で規格外の発生は無く、周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状が得られた。
【0106】
実験例1でのスプライン転造加工においては、食付き部2の分断加工歯領域部7において、被転造素材Wが0.5回転する毎に被転造素材W上の同じ歯溝にして、転造幅方向(被転造素材Wの軸方向)の異なる位置に分断加工歯5aが接触する。加工量が0.14mm/回転であるため、0.07mm(0.14mm×0.5)以上の深さで溝深さDが設けられていれば、転造加工中に条溝6が被転造素材Wに接触することはないためである。
【0107】
<実験2>
実験2では、実験1で用いた従来例1及び実験例1~4を用い、肉厚が異なる中空材の被転造素材W(肉厚6mm~8mm)に対して、芯金を使用せず、実験1と同条件でスプライン転造加工を行い、それぞれのオーバーピン径、歯底円直径、歯形誤差、歯筋誤差、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れを測定し、この測定結果より被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。
【0108】
表7に評価結果を示す。なお、評価結果においては、実験1と同様、評価項目であるオーバーピン径、歯底円直径、歯形誤差、歯筋誤差、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れの全ての項目が表4に示す規格内の場合を○、評価項目の一つでも規格外が発生した場合を×とした。
【0109】
【表7】
【0110】
表7に示すように、従来例1では、肉厚が7mm以上ないと周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状を得ることができなかったが、実験例1~4(本実施例)では、肉厚が6mmの被転造素材Wに対しても、芯金を使用せずとも、周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状が得られるという優れた結果が確認された。
【0111】
<実験3>
実験3では、スプライン仕様や被転造素材の材質等の加工条件等を実験1と異なる条件で転造加工を行い、被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。
【0112】
具体的には、表8,9に示すような、本実施例において実験例1~4の転造平ダイスと仕様が異なる実験例5~8の転造平ダイスを用いて、中空材の被転造素材Wに対して芯金を使用せずにスプライン転造加工を行い、オーバーピン径、歯底円直径、歯形誤差、歯筋誤差、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れを測定し、この測定結果より被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した(実験例7,8は、分断加工歯5aの歯幅W1を最小幅(実験例7)、最大幅(実験例8)に設定した場合における被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価である。)。なお、表8,9に記載の各符号の説明については、実験1と同様であるため省略する。
【0113】
【表8】
【0114】
【表9】
【0115】
<加工条件等>
・スプライン仕様:歯先円直径φ17.4×Z36×m0.47×PA45°
歯丈:0.512mm
ここで、Zはスプラインの歯数、mはモジュール、PAは圧力角を指す記号である。
・被転造素材の材質:炭素鋼(S43C)
・素材径:16.91mm
・加工量:実験例5,7,8:0.05mm/回転,実験例6:0.031mm/回転
・食付き部2の1歯目の歯丈h:0.289mm
・転造ダイスの材質:ダイス鋼(SKD11)
・被転造素材1回転あたりに進む転造方向の距離:53.0mm
・加工条件:転造幅中央位置でオーバーピン径規格中央値狙い
・芯金不使用(被転造素材Wの両端を正センタで保持)
なお、実験3では、肉厚が異なる2種類の中空材の被転造素材W(肉厚4.2mmと3.5mm)で周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。
【0116】
表10に各測定項目の規格を示す。また、表11に評価結果を示す。また、図17~22に実験例5,6についての各測定項目の測定結果を示す。なお、評価結果においては、評価項目であるオーバーピン径、歯底円直径、歯形誤差、歯筋誤差、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れの全ての項目が表10に示す規格内の場合を○、評価項目の一つでも規格外が発生した場合を×とした。
【0117】
【表10】
【0118】
【表11】
【0119】
表11に示すように、実験例5~8の全ての実験例において、いずれの肉厚に対しても周方向及び軸方向の伸長変形が抑制された良好な加工形状が得られることが確認された。
【0120】
また、図17~22に示すように、実験例5に対して実験例6の方が全体的に良好な結果が得られた。これは条溝6のピッチPを半分にして分断加工歯5aの歯幅W1を半分に狭くしたことで変形抑制効果が向上したことに起因するものと考える。
【0121】
<実験4>
実験4では、実験3と仕様の異なるスプライン(歯先円直径φ21×Z66×m0.3×PA30°)について、被転造素材Wの素材径を20.42mm(材質:炭素鋼(S45C))とし、中空材の被転造素材Wに対して芯金を使用せずに転造加工を行い、被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。
【0122】
具体的には、表12に示すような分断加工歯5aの歯幅W1を最小幅に設定した場合(実験例9)と、最大幅に設定した場合(実験例10)のオーバーピン径、歯底円直径及びゲージ評価を測定し、この測定結果より被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。なお、実験例9,10の各ダイス本体1の設定条件は表13のとおりである。また、表12,13に記載の各符号の説明については、実験1と同様であるため省略する。
【0123】
【表12】
【0124】
【表13】
【0125】
表14に各測定項目の規格を示す。また、表15に評価結果を示す。なお、評価結果においては、評価項目の全てが規格内の場合を○、評価項目の一つでも規格外が発生した場合を×とした。
【0126】
【表14】
【0127】
【表15】
【0128】
表15に示すように、分断加工歯5aの歯幅W1を最小幅の0.503mmに設定した実験例9及び歯幅W1を最大幅の3.3mmに設定した実験例10において、いずれの肉厚に対しても各評価項目は全て規格内となる結果が得られた。
【0129】
<実験5>
実験5は、分断加工歯領域部7の位置が異なるダイスで中空材の被転造素材Wに対して芯金を使用せずに転造加工を行い、被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。
【0130】
具体的には、表16に示すような分断加工歯領域部7を食付き部2の始端から設けた場合(実験例11)と、分断加工歯領域部7を食付き部2の始端から被転造素材Wの2回転分の距離を隔てた位置から設けた場合(実験例12)のオーバーピン径、歯底円直径、歯形誤差、歯筋誤差、累積ピッチ誤差及び歯溝の振れを測定し、この測定結果より被転造素材Wの周方向及び軸方向の伸長変形の有無を評価した。
【0131】
なお、実験5では、スプライン仕様が歯先円直径φ18×Z22×m0.8×PA40°であるスプラインついて、被転造素材Wの素材径を16.89mm(材質:炭素鋼(S45C))とした。また、実験例11,12の各ダイス本体1の設定条件は表17のとおりである。また、表16,17に記載の各符号の説明については、実験1と同様であるため省略する。
【0132】
【表16】
【0133】
【表17】
【0134】
表18に評価結果を示す。なお、評価結果においては、評価項目の全てが規格内の場合を○、評価項目の一つでも規格外が発生した場合を×とした。
【0135】
【表18】
【0136】
表18に示すように、分断加工歯領域部7を食付き部2の始端から被転造素材Wの2回転分の距離を隔てた位置から設けた場合においても、各肉厚に対して各評価項目は全て規格内となる結果が得られた。
【0137】
なお、本実施例は、上記実験1~実験5において、被転造素材Wを中空材として本発明の優れた効果を確認したものであるが、被転造素材Wを中実材として転造加工した場合においても、被転造素材Wが周方向及び軸方向に伸長変形することを可及的に抑制し、所望の歯形を有する優れた製品を得ることができる。
【0138】
また、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0139】
1 ダイス本体
2 食付き部
3 仕上げ部
4 逃げ部
5 加工歯
5a 分断加工歯
6 条溝
7 分断加工歯領域部
7b 漸減部
D 条溝の溝深さ
L2 食付き部の長さ
W 被転造素材
W1 分断加工歯の歯幅
W2 条溝の溝幅
α 条溝の傾斜角度
図1
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