(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009652
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】温度調整システム、温度調整方法および体感温度推定方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/80 20180101AFI20240116BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20240116BHJP
F24F 11/30 20180101ALI20240116BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20240116BHJP
F24F 120/14 20180101ALN20240116BHJP
F24F 130/00 20180101ALN20240116BHJP
【FI】
F24F11/80
F24F11/64
F24F11/30
F24F110:10
F24F120:14
F24F130:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111339
(22)【出願日】2022-07-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年7月20日に一般社団法人日本建築学会から発行された「2021年度大会(東海)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集2021」のDVDに収録 (2)令和3年7月20日に一般社団法人日本建築学会から発行された「2021年度大会(東海)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集2021」のDVDに収録
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (3)令和3年8月上旬に一般社団法人日本建築学会から発行された「2021年度大会(東海)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集2021」の冊子に収録 (4)令和3年8月上旬に一般社団法人日本建築学会から発行された「2021年度大会(東海)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集2021」の冊子に収録
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (5)令和3年8月31日に一般社団法人日本建築学会のWebサイトにおいて「2021年度大会(東海)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集2021」を公開 (6)令和3年8月31日に一般社団法人日本建築学会のWebサイトにおいて「2021年度大会(東海)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集2021」を公開 (7)令和3年8月31日に一般社団法人日本建築学会のWebサイトにおいてオンデマンド発表動画を公開 (8)令和3年8月31日に一般社団法人日本建築学会のWebサイトにおいてオンデマンド発表動画を公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (9)令和3年7月15日に公益社団法人空気調和・衛生工学会から発行された「令和3年度空気調和・衛生工学会大会(福島)大会学術講演論文集」の冊子に収録 (10)令和3年7月15日に公益社団法人空気調和・衛生工学会から発行された「令和3年度空気調和・衛生工学会大会(福島)大会学術講演論文集」の冊子に収録
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (11)令和3年9月1日に公益社団法人空気調和・衛生工学会から発行された「令和3年度空気調和・衛生工学会大会(福島)大会学術講演論文集」のDVDに収録 (12)令和3年9月1日に公益社団法人空気調和・衛生工学会から発行された「令和3年度空気調和・衛生工学会大会(福島)大会学術講演論文集」のDVDに収録
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (13)令和3年9月8日に公益社団法人空気調和・衛生工学会のWebサイトにおいてオンデマンド配信を公開 (14)令和3年9月8日に公益社団法人空気調和・衛生工学会のWebサイトにおいてオンデマンド配信を公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (15)令和4年2月14日に学校法人明治大学が開催した「2021年度 建築環境設備分野研究室 修士論文審査会」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】七里 彰俊
(72)【発明者】
【氏名】村田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】樋山 恭助
(72)【発明者】
【氏名】沢潟 裕一
(72)【発明者】
【氏名】平木 貴之
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA02
3L260CA01
3L260CA12
3L260CA23
3L260CA25
3L260CA26
3L260CA27
3L260EA02
3L260EA03
3L260EA08
3L260HA01
(57)【要約】
【課題】執務者にとって快適な環境を作り出すことができる温度調整システム、温度調整方法および体感温度推定方法を提供する。
【解決手段】室内の温度を調整する温度調整システム1であって、床表面温度を検出する床表面温度センサ2と、室内の体感温度を推定する体感温度推定装置4と、推定した前記体感温度に基づいて室温の調整を行う室温調整装置としての空気調和機6とを備え、体感温度推定装置4は、前記床表面温度に基づいて前記体感温度を推定する。天井空気温度を検出する天井空気温度センサ3を備え、体感温度推定装置4は、前記床表面温度と前記天井空気温度とに基づいて前記体感温度を推定してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の温度を調整する温度調整システムであって、
床表面温度を検出する床表面温度センサと、
室内の体感温度を推定する体感温度推定装置と、
推定した前記体感温度に基づいて室温の調整を行う室温調整装置と、を備え、
前記体感温度推定装置は、前記床表面温度に基づいて前記体感温度を推定する、
ことを特徴とする温度調整システム。
【請求項2】
天井空気温度を検出する天井空気温度センサを備え、
前記体感温度推定装置は、前記床表面温度と前記天井空気温度とに基づいて前記体感温度を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の温度調整システム。
【請求項3】
前記体感温度推定装置は、前記室内のインテリアゾーンでの推定を行う場合に、以下の式(1)を用いて推定を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の温度調整システム。
OT_predicted_interior
=a1×T_surface_floor+a2×T_air_ceiling+b1 ・・(1)
OT_predicted_interior:体感温度インテリア予測値
a1 ,a2 ,b1:係数
T_surface_floor:床表面温度
T_air_ceiling :天井空気温度
【請求項4】
前記体感温度推定装置は、前記室内のペリメータゾーンでの推定を行う場合に、以下の式(2)を用いて推定を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の温度調整システム。
OT_predicted_perimeter
=OT_predicted_interior+error_OT_predicted_perimeter
=(a1×T_surface_floor+a2×T_air_ceiling+b1)
+{a3×(T_surface_floor_perimeter-T_surface_floor_interior)
+a4×(T_air_ceiling_perimeter-T_air_ceiling_interior)+b2} ・・(2)
OT_predicted_perimeter:体感温度ペリメータ予測値
a1 ,a2 ,a3 ,a4 ,b1 ,b2:係数
error_OT_predicted_perimeter:体感温度ペリメータの実測値と推定値の誤差
T_surface_floor_interior :床表面温度インテリア
T_air_ceiling_interior :天井空気温度インテリア
T_surface_floor_perimeter :床表面温度ペリメータ
T_air_ceiling_perimeter :天井空気温度ペリメータ
【請求項5】
前記床表面温度センサは、赤外線によって前記室内の人を検知する人検知センサであり、検知範囲内を複数の分割領域に分割して当該分割領域ごとに温度の測定が可能であり、
前記体感温度推定装置は、前記検知範囲内の中で人が存在する第1範囲を除いた第2範囲に含まれる前記分割領域の測定値の平均値に基づいて前記体感温度を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の温度調整システム。
【請求項6】
前記天井空気温度センサは、前記室温調整装置に吸い込まれる還気の温度を検出する還気温度センサである、
ことを特徴とする請求項2に記載の温度調整システム。
【請求項7】
室内の温度を調整する温度調整方法であって、
床表面温度を検出する温度検出ステップと、
室内の体感温度を推定する体感温度推定ステップと、
推定した前記体感温度に基づいて室温の調整を行う室温調整ステップと、を有し、
前記体感温度推定ステップでは、前記床表面温度に基づいて前記体感温度を推定する、
ことを特徴とする温度調整方法。
【請求項8】
室内での体感温度を推定する体感温度推定方法であって、
床表面温度を検出する温度検出ステップと、
室内の体感温度を推定する体感温度推定ステップと、を有し、
前記体感温度推定ステップでは、前記床表面温度に基づいて前記体感温度を推定する、
ことを特徴とする体感温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度調整システム、温度調整方法および体感温度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な空調制御では、部屋の壁や空気調和機の本体内部に温湿度センサが設置され、当該温湿度センサを代表点として温度を計測して運転制御を行っている。その為、例えば窓際など日射の影響を受ける場所の温度を把握することができておらず、代表点の温度に基づいて空調制御を行うことで室内の空間温度に偏在が発生し、執務者の体感に差が生じる結果となっている。
(1)これに対して、環境センサを設置することで室内の空間温度を直接計測することが提案されている。例えば、調査したい位置に市販の環境センサを設置し、当該環境センサによって温湿度を計測する、というものである。
(2)また、レーザ光線を利用して室内の空間温度を推定する技術が知られている(特許文献1参照)。この技術では、予め計測された温度と煙霧体の密度との関係を求めておき、煙霧体に照射されて反射されたレーザ光線の撮像データを得て、撮像データからレーザ光線の強度を推定する。そして、推定した強度から当該レーザ光線が反射された煙霧体の密度を推定し、予め計測された温度と煙霧体の密度との関係および推定した煙霧体の密度に基づいて、前記空間の温度分布を推定する。
(3)また、熱受容体を赤外線カメラで撮影することで空間の温度分布を求める技術が知られている(特許文献2参照)。この技術では、熱受容体と、熱受容体を撮影する赤外線カメラと、熱受容体に比べて熱放射率の小さいマーカとを用いる。熱受容体は、厚さが1mm以下の面状であり、炭素を含有したシリコンゴムからなり、温度分布を計測すべき空間内に配置される。マーカは、熱受容体の表面の所定位置に貼付され、赤外線カメラの焦点合わせに用いられる。焦点合わせにより決定された焦点で撮影された熱受容体の画像に基づいて、空間の温度分布を求める。
(4)また、音を利用して空間温度を推定する技術も知られている。この技術では、気温による音の速度を利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-045614号公報
【特許文献2】特開2011-158433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来における空間温度の計測方法は、準備が煩雑であったり、空間温度を計測するための条件が多かったりと、執務を行う室内空間の温度を調整するために適していなかった。その為、これらの方法を室内の温度調整に利用することが難しく、その結果、執務者にとって快適な環境を依然として作り出すことができなかった。
例えば、環境センサによる第1の方法では、環境センサを適切な位置に設置することが難しいという問題があった。例えば、環境センサが設置できる平面の位置は、什器のレイアウトに影響を受ける場合が少なくない。また、什器に設置できない場合、天井面や壁面への設置となってしまい、執務者の高さ位置(例えば「1.1m」)の温度を計測することが難しい。また、環境センサが付近のPC等の什器の発熱を感知してしまい、正しい温度が計測できないという問題もある。また、環境センサは安価であるが、定期的に較正が必要であり客先に提案することが難しいという問題もあった。
また、レーザ光線による第2の方法では、執務者がいない時間帯でしかレーザ光線を使用できず、執務者がいる時間帯には利用できないという問題があった。
また、赤外線カメラによる第3の方法では、撮影対象であるシリコンゴムを空間内の各所に配置する必要があり、作業の手間などを考えると室内の温度調整に用いることが現実的ではない。
また、音による第4の方法では、音を発生させる必要があり、執務者がいる時間帯には利用できないという問題があった。また、事務室程度の広さでは狭すぎて正確な音速を検知することが難しいという問題があった。
さらに、室内の温度を計測するだけでは熱放射の影響を加味することができず、計測した温度に基づいて温度調整することが、執務者にとって快適な環境を形成することに必ずしも繋がらないという問題がある。
このような観点から、本発明は、執務者にとって快適な環境を作り出すことができる温度調整システム、温度調整方法および体感温度推定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者は、室内にいる執務者の体感温度の推定に、当該室内の床表面温度を利用できるか検討を行った。検討の結果、検知する場所によって傾向が多少異なるものの、床表面温度と体感温度とにはかなり高い相関があることが確認された。そこで、発明者は、傾向が異なる領域ごとに体感温度を推定するロジックを用意し、検知する場所に対応したロジックを用いて、床表面温度に基づいて体感温度を推定することを発明した。また、床表面温度だけではなく天井付近の天井空気温度を利用して体感温度の推定を行うことで、より精度の高い推定を行える(つまり、推定結果が体感温度により近い温度になる)ことが確認された。
ここで、体感温度は、人間がそのときの条件下で感じる暑さや寒さの度合いであって、同じ室温であっても周囲の物体からの放射の影響などによって、執務者が感じる暑さ(または寒さ)の度合いが異なる場合がある。体感温度は、例えば作用温度(OT:Operative Temperature)などで表すことができる。作用温度は、室温と平均放射温度(MRT:Mean Radiant Temperature)とで表される温熱環境指標である。
また、天井空気温度は、室内にある熱源から発せられる熱量を吸収した後の空気の温度である。一般的なオフィスでは、空気調和機(室温調整装置)で調和された空気が天井に設けられた吹出口から床に向かって吹き出される。この空気は、人間やPCから発せられる熱量を吸収して温度が上昇し、天井方向に移動して吸込口を介して空気調和機に送られる。その為、天井空気温度を用いることで、室内で吸収された熱量(室内の熱源の影響)を加味して体感温度の推定を行うことが可能である。吸込口が天井に設けられている場合、天井空気温度に代えて空気調和機の還気温度を用いてもよい。
【0006】
本発明に係る温度調整システムは、室内の温度を調整する温度調整システムである。この温度調整システムは、床表面温度を検出する床表面温度センサと、室内の体感温度を推定する体感温度推定装置と、推定した前記体感温度に基づいて室温の調整を行う室温調整装置とを備える。前記体感温度推定装置は、前記床表面温度に基づいて前記体感温度を推定する。
天井空気温度を検出する天井空気温度センサを備え、前記体感温度推定装置は、前記床表面温度と前記天井空気温度とに基づいて前記体感温度を推定してもよい。
本発明に係る温度調整システムによれば、執務者の体感温度を推定することが可能であり、その推定した体感温度に基づいて温度調整を行うので、執務者にとって快適な環境を作り出すことができる。
また、市販の環境センサを調査したい位置に設置して温湿度を計測する必要がないので、什器のレイアウトに影響を与えることもない。また、レーザ光線や音などを用いることがないので、執務者がいる時間帯でも計測することが可能である。
【0007】
前記体感温度推定装置は、前記室内のインテリアゾーンでの推定を行う場合に、以下の式(1)を用いて推定を行うのがよい。
OT_predicted_interior
=a1×T_surface_floor+a2×T_air_ceiling+b1 ・・(1)
OT_predicted_interior:体感温度インテリア予測値
a1 ,a2 ,b1:係数
T_surface_floor:床表面温度
T_air_ceiling :天井空気温度
このようにすると、インテリアゾーンでの体感温度の推定を精度よく行うことができる。
【0008】
また、前記体感温度推定装置は、前記室内のペリメータゾーンでの推定を行う場合に、以下の式(2)を用いて推定を行うのがよい。
OT_predicted_perimeter
=OT_predicted_interior+error_OT_predicted_perimeter
=(a1×T_surface_floor+a2×T_air_ceiling+b1)
+{a3×(T_surface_floor_perimeter-T_surface_floor_interior)
+a4×(T_air_ceiling_perimeter-T_air_ceiling_interior)+b2} ・・(2)
OT_predicted_perimeter:体感温度ペリメータ予測値
a1 ,a2 ,a3 ,a4 ,b1 ,b2:係数
error_OT_predicted_perimeter:体感温度ペリメータの実測値と推定値の誤差
T_surface_floor_interior :床表面温度インテリア
T_air_ceiling_interior :天井空気温度インテリア
T_surface_floor_perimeter :床表面温度ペリメータ
T_air_ceiling_perimeter :天井空気温度ペリメータ
このようにすると、ペリメータゾーンでの体感温度の推定を精度よく行うことができる。
【0009】
前記床表面温度センサは、赤外線によって前記室内の人を検知する人検知センサであってもよい。この人検知センサは、例えば検知範囲内を複数の分割領域に分割して当該分割領域ごとに温度の測定が可能である。その場合、前記体感温度推定装置は、前記検知範囲内の中で人が存在する第1範囲を除いた第2範囲に含まれる前記分割領域の測定値の平均値に基づいて前記体感温度を推定するのがよい。
このようにすると、一般的なオフィスに設けられる人検知センサを用いて体感温度の推定が可能であるので、新たにセンサを設置する必要がない(既設の設備を利用できる)。人検知センサが室内空間全体に設置されている場合、空間全体を同時に計測できる利点もある。また、人検知センサを天井に設置できるため、什器のレイアウトに影響を与えることもない。
前記天井空気温度センサは、前記室温調整装置に吸い込まれる還気の温度を検出する還気温度センサであってもよい。
このようにすると、室温調整装置に設けられる還気温度センサを用いて体感温度の推定が可能であるので、新たにセンサを設置する必要がない(既設の設備を利用できる)。
【0010】
本発明に係る温度調整方法は、室内の温度を調整する方法である。この温度調整方法は、床表面温度を検出する温度検出ステップと、室内の体感温度を推定する体感温度推定ステップと、推定した前記体感温度に基づいて室温の調整を行う室温調整ステップとを有する。前記体感温度推定ステップでは、前記床表面温度に基づいて前記体感温度を推定する。
また、本発明に係る体感温度推定方法は、室内での体感温度を推定する方法である。この体感温度推定方法は、床表面温度を検出する温度検出ステップと、室内の体感温度を推定する体感温度推定ステップとを有する。前記体感温度推定ステップでは、前記床表面温度に基づいて前記体感温度を推定する。
本発明に係る温度調整方法および体感温度推定方法によれば、執務者の体感温度を推定することが可能であり、その推定した体感温度に基づいて温度調整を行う(または行える)ので、執務者にとって快適な環境を作り出すことができる。
また、市販の環境センサを調査したい位置に設置して温湿度を計測する必要がないので、什器のレイアウトに影響を与えることもない。また、レーザ光線や音などを用いることがないので、執務者がいる時間帯でも計測することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、執務者にとって快適な環境を作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る温度調整システムの全体構成図である。
【
図2】人検知センサを説明するための図であり、(a)は人検知センサの検出イメージであり、(b)は人検知センサの検出範囲を上方から見た図である。
【
図3】インテリアゾーンの推定式を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を示す図である。
【
図4】インテリアゾーンの推定式を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を示す図である。
【
図5】ペリメータゾーンでの体感温度の推定方法を説明するための図である。
【
図6】ペリメータゾーンの推定式を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を示す図である。
【
図7】ペリメータゾーンの推定式を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を示す図である。
【
図8】使用する推定式を判定するためのフローチャートの一例である。
【
図9】本発明の実施形態に係る温度調整方法のフローチャートの例示である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0014】
<実施形態に係る温度調整システムの構成について>
図1を参照して、実施形態に係る温度調整システム1の構成について説明する。
図1は、温度調整システム1の全体構成図である。
温度調整システム1は、室内の温度を調整するシステムである。温度調整システム1では、床表面温度、または、床表面温度および天井空気温度から室内での体感温度を推定し、推定した体感温度に基づいて室温の調整を行う。温度調整システム1における室の用途や形状は特に限定されず、様々な室の温度調整に温度調整システム1を適用できる。
図1に示すように、本実施形態では、室の壁に窓が形成されており、自然光が窓から室内に入射する場合を想定する。その為、
図1に示す室内には、外界の熱(例えば、窓からの自然光)の影響を受けにくい「インテリアゾーン」と、外界の熱の影響を受けやすい「ペリメータゾーン」とが存在する。
【0015】
図1に示す温度調整システム1は、床表面温度センサ2と、天井空気温度センサ3と、体感温度推定装置4と、空調制御用のコントローラ5と、空気調和機6とを備える。空気調和機6は、空気の温度、湿度、清浄度などを調整する装置である。空気調和機6は、「室温調整装置」の一例であり、室温調整装置は、少なくとも温度を調整する機能を有する。空気調和機6によって調和された空気は、空気吹出口6Aを通じて室内に送り出され、室内の空気の一部は、空気吸込口6Bを通じて吸い込まれて空気調和機6に送られる。
床表面温度センサ2、天井空気温度センサ3、空気吹出口6Aおよび空気吸込口6Bは、室温を調整する対象の室内に設置され、空気調和機6、体感温度推定装置4およびコントローラ5の設置場所は特に限定されない。本実施形態では、床表面温度センサ2、天井空気温度センサ3、空気調和機6、空気吹出口6Aおよび空気吸込口6Bが天井(表面または内部)に設置され、体感温度推定装置4およびコントローラ5が室外(例えば、ビルの制御室)に設置される。
【0016】
空気吹出口6Aは、室内に設定される各々のエリアに設置される。エリアは、温度調整を行う最小単位の範囲であり、各エリアには少なくとも一つ以上の床表面温度センサ2が設置される。空気吸込口6Bは、全てのエリアに設置されなくてもよいが、各エリアに設置されるのが望ましい。エリアには、当該エリアが「インテリアゾーン」および「ペリメータゾーン」の何れであるかを示す情報(エリア区分情報)が対応付けられている。この対応付けは、温度調整の前段階で行われ、対応付けに関する情報は体感温度推定装置4に格納される。なお、人間がエリアの区分判定を行ってもよいし、室の形状などに基づいて体感温度推定装置4が自動でエリアの区分判定を行ってもよい。
【0017】
図1に示す床表面温度センサ2は、室内の床表面の温度を検出する検出手段である。床表面温度センサ2は、床表面の温度を検出可能であれば種類を限定しない。床表面温度センサ2は、例えば赤外線センサであり、測定範囲内に存在する物体の表面温度を感知することができる。なお、室内に什器が設置されている場合、床表面温度センサ2が検出する情報の一部に什器の表面の温度に関する情報が含まれていてもよい。また、床表面温度センサ2は、室内に人間がいる場合に、当該人間を除いて温度を検出することができるのがよい。床表面温度センサ2による検出結果は、体感温度推定装置4に送信され、室内での体感温度を推定するために使用される。本実施形態では、床表面温度センサ2として人検知センサ2Aを用いることにする(つまり、人検知センサ2Aによって室内の床表面温度を検出する)。人検知センサ2Aは、床表面温度センサ2の一例である。
【0018】
図2を参照して、人検知センサ2Aの構成を説明する。
図2は、人検知センサ2Aを説明するための図であり、(a)は人検知センサ2Aの検出イメージであり、(b)は人検知センサ2Aの検出範囲を上方から見た図である。なお、
図2に示す人検知センサ2Aの構成はあくまで例示である。
図2に示す人検知センサ2Aは、室内にいる人間を検知する検知手段である。人検知センサ2Aは、例えば赤外線によって人間を検知する赤外線センサである。
図2に示すように、人検知センサ2Aは、複数(例えば四つ)のセンサ部21と、センサ部21を保持する筐体22とを備える。各々のセンサ部21の位置および方向は、それぞれが異なる領域を検出範囲とするように調整されている。一つのセンサ部21の検出範囲は、例えば「1,800×1,800mm」であり、人検知センサ2Aの検出範囲は、全体で「3,600×3,600mm」である。
【0019】
センサ部21の内部には、例えば複数の素子が整列されて配置されている(サーモパイルアレイ)。各々のセンサ部21は、検知範囲内をいくつかのメッシュ(「分割領域」と称する場合がある)に分割して表面温度を測定し、人の在/不在を判定している。各素子の検出範囲(一つのメッシュのサイズ)は、例えば「450×450mm」である。センサ部21の各素子は、例えば物体の表面温度を分単位で測定し、センサ部21は、各素子で測定したメッシュごとの表面温度を出力可能である。人検知センサ2Aは、検出した床表面温度を体感温度推定装置4に送信する。このように、各素子で測定したデータをすべて扱うことも可能であるが、データ量が多く処理負荷が高くなり、通信パフォーマンスの低下などを招く恐れがある。その為、体感温度推定装置4における処理までを考えた場合、各素子で測定したデータのすべてを扱うことが実用的ではない場合がある。その場合には、人検知センサ2Aとしての本来仕様であるオフィスモジュールを基本としたサイズでの平均値出力を扱うのがよい。つまり、人検知センサ2Aは、例えば各素子の測定結果に対して統計的な処理を行った統計値(例えば検出範囲(ここでは「3,600×3,600mm」)の平均値)を体感温度推定装置4に送信してもよい。本実施形態では、人検知センサ2Aの検知範囲(ここでは「3,600×3,600mm」)の中で人が存在する第1範囲(
図2でドットを付した範囲)を除いた第2範囲の床表面温度の平均値を算出し、当該平均値を体感温度推定装置4に送信することにする。
【0020】
図1に示す天井空気温度センサ3は、天井付近の空気の温度(天井空気温度)を検出する検出手段である。天井空気温度センサ3は、天井空気温度を検出可能な位置(例えば天井の近く)に設置される。天井空気温度センサ3は、天井空気温度を検出可能であれば種類を限定しない。天井空気温度センサ3は、例えば温度計である。天井空気温度センサ3によって計測される天井空気温度は、室内にある熱源から発せられる熱量を吸収した後の空気の温度である。天井空気温度センサ3による検出結果は体感温度推定装置4に送信され、室内での体感温度を推定するために使用される。本実施形態では、天井空気温度センサ3として還気温度センサ3Aを用いることにする(つまり、還気温度センサ3Aによって室内の天井空気温度を検出する)。還気温度センサ3Aは、空気調和機6に吸い込まれる還気の温度(還気温度)を検出する検出手段である。還気温度センサ3Aは、例えば空気吸込口6Bや、空気吸込口6Bと空気調和機6とを繋ぐ配管に設置される。還気温度センサ3Aは、天井空気温度センサ3の一例であり、還気温度は、天井空気温度の一例である。
【0021】
図1に示す体感温度推定装置4は、室内の床表面温度に基づいて、または、床表面温度および天井空気温度(本実施形態では還気温度)に基づいて、室内での体感温度を推定する情報処理手段である。体感温度推定装置4は、例えばサーバであり、体感温度を推定するために必定な情報を有すると共に、必要に応じて他の機器や装置から推定に用いる情報を取得する。体感温度推定装置4は、床表面温度センサ2(本実施形態では人検知センサ2A)および天井空気温度センサ3(本実施形態では還気温度センサ3A)に接続されており、床表面温度センサ2や天井空気温度センサ3から計測結果である床表面温度や天井空気温度を取得する。また、体感温度推定装置4は、床表面温度(または、床表面温度および天井空気温度)を体感温度に変換する推定式を有しており、当該推定式を用いて室内空間における執務者の体感温度を推定する。体感温度推定装置4は、「インテリアゾーン」および「ペリメータゾーン」に分けて推定式を有しており、例えば床表面温度を計測したエリア(「検知エリア」と称する)の空間条件に合致する推定式を用いて室内空間における体感温度を推定する。なお、本実施形態では、体感温度として作用温度(OT:Operative Temperature)を用いることにし、例えば執務者が着席した状態での基準位置(例えば、床から「1.1m」の位置)での作用温度を推定する。
【0022】
「インテリアゾーン」における推定式は、以下の式(1)に示す通りであり、「ペリメータゾーン」における推定式は、以下の式(2)に示す通りである。
<インテリアゾーンにおける推定式>
OT_predicted_interior
=a1×T_surface_floor+a2×T_air_ceiling+b1 ・・(1)
(式(1)の主な項目の説明)
OT_predicted_interior:体感温度インテリア予測値
a1 ,a2 ,b1:係数
T_surface_floor:床表面温度
T_air_ceiling :天井空気温度
【0023】
<ペリメータゾーンにおける推定式>
OT_predicted_perimeter
=OT_predicted_interior+error_OT_predicted_perimeter
=(a1×T_surface_floor+a2×T_air_ceiling+b1)
+{a3×(T_surface_floor_perimeter-T_surface_floor_interior)
+a4×(T_air_ceiling_perimeter-T_air_ceiling_interior)+b2}・(2)
(式(2)の主な項目の説明)
OT_predicted_perimeter:体感温度ペリメータ予測値
a3 ,a4 ,b2:係数
error_OT_predicted_perimeter:体感温度ペリメータの実測値と推定値の誤差
T_surface_floor_interior :床表面温度インテリア
T_air_ceiling_interior :天井空気温度インテリア
T_surface_floor_perimeter :床表面温度ペリメータ
T_air_ceiling_perimeter :天井空気温度ペリメータ
【0024】
上記した推定式(1),(2)のロジックの構築には実測値を利用した。
(インテリアゾーンにおける推定概要)
インテリアゾーンでは、床表面温度と体感温度とにかなり高い相関があることが確認されたので、当該相関に基づいて床表面温度から体感温度を推定することができる。
また、インテリアゾーンでは、内部発熱による影響を考慮し、床表面温度と天井空気温度とを用いて体感温度を推定するのがよい。係数「a1,a2,b1」は、測定点のうちインテリアゾーンの全時刻の実測値データを母集団として、実測値と推定値との誤差が最小となる係数「a1,a2,b1」を決定する。例えば、最小二乗法で「a1,a2,b1」を求める。
インテリアゾーンの推定式(1)を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を、実験により検証したので
図3および
図4に示す。
図3および
図4は、インテリアゾーンの推定式を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を示す図である。
図3の横軸は「体感温度の推定値」であり、縦軸は「実測値」である。
図3における斜めの線上が100%の予測精度を表し、実験によるデータが斜めの線上またはそれに近い範囲にあることが分かる。
図4(a)~(c)の横軸は「時間経過」であり、(a)の縦軸は「体感温度の実測値」であり、(b)の縦軸は「体感温度の推定値」であり、(c)の縦軸は「推定値と実測値との誤差(推定値-実測値)」である。
図4(a)の体感温度の実測値に(b)の推定値が追随して変化しているのが分かり、また、その根拠として(c)に示す誤差が概ね「0~1」の範囲に収まっている。このように、インテリアゾーンにおける推定式(1)を用いた場合における体感温度の推定値と実測値とには相関があることが分かる(つまり、推定式(1)を用いることで、インテリアゾーンにおける体感温度を推定できる)。
【0025】
(ペリメータゾーンにおける推定概要)
ペリメータゾーンにおける体感温度の推定にインテリアゾーンの推定式を利用すると、日射・外気温の影響を受けるために推定値と実測値とに誤差が生まれてしまう。そこで、推定の誤差を最小化するために、ペリメータとインテリアとの誤差「error_OT_predicted_perimeter」を算出する。例えば、ペリメータゾーンの測定点とこれに最も近いインテリアゾーンの測定点との実測値を比較し、床表面温度のペリメータとインテリアとの差(error_T_surface_floor_perimeter=T_surface_floor_perimeter-T_surface_floor_interior)、天井空気温度のペリメータとインテリアとの差(error_T_air_ceiling_perimeter=T_air_ceiling_perimeter-T_air_ceiling_interior)を用いてこの誤差(日射・外気の影響)を把握する。日射・外気温の影響を決定する係数「a3, a4, b2」は、上記で求めた数値から例えば最小二乗法で求める。ここまで説明したペリメータゾーンにおける推定式のイメージを
図5に示す。
図5は、ペリメータゾーンでの体感温度の推定方法を説明するための図である。
【0026】
ペリメータゾーンの推定式(2)を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を、実験により検証したので
図6および
図7に示す。
図6および
図7は、ペリメータゾーンの推定式を用いた場合における体感温度の推定値と実測値との相関を示す図である。
図6の横軸は「体感温度の推定値」であり、縦軸は「実測値」である。
図6における斜めの線上が100%の予測精度を表し、実験によるデータが斜めの線上またはそれに近い範囲にあることが分かる。
図7(a)~(b)の横軸は「時間経過」であり、(a)の縦軸は「ペリメータの推定式による推定値と実測値との誤差」であり、(b)の縦軸は「インテリアの推定式による推定値と実測値との誤差」である。
図7(a)に示すように、ペリメータゾーンにおいてペリメータの推定式により求めた推定値と実測値との誤差は、概ね「-0.5~0.5」の範囲に収まっている。このように、ペリメータゾーンにおいてペリメータの推定式(2)により求めた体感温度の推定値と実測値とには相関があることが分かる(つまり、推定式(2)を用いることで、ペリメータゾーンにおける体感温度を推定できる)。なお、今回の実験では、
図7(b)に示すように、ペリメータゾーンにおいてインテリアの推定式により求めた推定値と実測値との誤差が、ペリメータの推定式の推定値と実測値との誤差と同程度になっている。これは、今回の実験で用いた建物が高性能ガラスや日よけ装置によって日射の影響が殆どなかったことが原因と考えられる。そのため、日射の影響が強く出てしまう建物では、ペリメータゾーンにおいてインテリアの推定式により求めた推定値と実測値との誤差は、ペリメータの推定式により求めた推定値と実測値との誤差に比べて大きくなることが予測される。
【0027】
体感温度推定装置4は、推定した体感温度を空調制御用のコントローラ5に出力する。コントローラ5は、空気調和機6を制御する装置であり、空気調和機6に対して制御信号を送信する。コントローラ5は、例えば体感温度推定装置4によって推定されたエリアごとの体感温度に基づいて空気調和機6を制御する。
空気調和機6は、コントローラ5からの制御信号に基づいて空気を調和し、空気吹出口6Aを通じて調和した空気を室内に送り出す。空気調和機6は、室内の空調をエリア単位で調整可能である。
【0028】
(使用する推定式の判定方法)
図8を参照して、体感温度の推定式の何れを使用するかを決定する方法について説明する。
図8は、使用する推定式を判定するためのフローチャートの一例である。例えば、
図8に示すフローチャートに従ってエリアごとの推定式を設計者が決定し、決定した推定式を人検知センサ2Aの位置情報やエリアの識別情報などに対応付けて体感温度推定装置4に事前に登録する。体感温度推定装置4が自動で推定式の決定を行ってもよい。なお、
図8では、インテリアゾーンにおいて、床表面温度に基づいて室内での体感温度を推定することを想定している。
室内での体感温度を推定するため、検知エリアの空間条件を
図8に示すフローチャートに従って整理する。最初に、検知エリアがインテリアゾーンであるか、またはペリメータゾーンであるかを判定する(ステップS1)。検知エリアがペリメータゾーンである場合は処理をステップS2に進め、検知エリアがインテリアゾーンである場合は処理をステップS7に進める。
【0029】
ステップS1で検知エリアがインテリアゾーンである場合、発生負荷の種類(暖房を必要とするか否か)を判定する(ステップS7)。朝方の暖房立ち上がり時は躯体表面温度の低下が顕著であり、インテリアゾーンにおいても床表面温度が作用温度(体感温度)を大きく下回る可能性が示唆された。よって、その対象とする空間が暖房を必要とするかは重要な分岐条件となる。送風運転の場合は、躯体表面温度と空気温度に大きな乖離が生じない状態であるため、床表面温度をそのまま作用温度(体感温度)と捉えてよいといえる。一方で、暖房運転が必要となる場合は、床表面温度に加え還気温度(天井空気温度)との平均化が推奨される。しかし、これは作用温度(体感温度)の推定にどの程度の精度を求めるかによって還気温度を用いた補正を必要とするかの境界が変わる。そこで、本フローではステップS5として「床表面温度と作用温度(体感温度)との許容誤差が「1℃」以上であるかの判定」を設けている。ここでは、冷房及び暖房時において、床表面温度と作用温度(体感温度)との許容誤差が「1℃」以上であれば、インテリアゾーンの推定式を利用する。逆に「1℃」未満に抑えるということであれば、外気の影響を加味できるペリメータの式を利用する。
【0030】
ステップS1で検知エリアがペリメータゾーンである場合、検知エリアの設備などがペリメータレス化しているか否かを判定する(ステップS2)。ペリメータレス化とは、例えば、検知エリアの窓が、高性能窓システムによる日射熱取得率がLow-E複層ガラスを採用したエアフロー窓であったり、ダブルスキン以上の性能を持つ場合である。ペリメータレスと判定された場合(ステップS2で“Yes”)、インテリアゾーンと同様に推定可能であるとおおよそ判断できるので、処理をステップS7に進める。一方、ペリメータが存在する場合、すなわち、ペリメータレスと判定されなかった場合(ステップS2で“No”)は、処理をステップS3に進める。
ペリメータレスでない場合(ステップS2で“No”)、検知エリアに対する直達日射の有無を判定する(ステップS3)。例えば、直達日射が庇などで遮蔽されているか、方位が直達日射が当たらない北側かなどから直達日射の有無を判定する。直達日射が有ると判定された場合(ステップS3で“有”)、処理をステップS6に進める。一方、直達日射が無いと判定された場合(ステップS3で“無”)、処理をステップS4に進める。
【0031】
直達日射が無いと判定された場合(ステップS3で“無”)、窓の開口面積が「20%」以上であるか否かを判定する(ステップS4)。窓を有する壁において、窓の開口面積が「20%」未満である場合(小窓程度である場合)、処理をステップS7に進める。つまり、検知エリアが直達日射をある程度遮蔽し、且つ窓面積比を抑えるなどして外皮からの放射の影響を軽減することで、放射環境が大きく乱れないので、ペリメータレスに近い状態である。その為、インテリアゾーンと同様に推定可能であるとおおよそ判断できるので、処理をステップS7に進める。一方、窓の開口面積が「20%」以上である場合、処理をステップS5に進める。
ステップS4で窓の開口面積が「20%」以上である場合、体感温度の推定値の許容誤差が「1℃」未満であるか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5で許容誤差が「1℃」未満である場合、ペリメータゾーンの推定式を用いて体感温度を推定する(ステップS6)。ステップS3で直達日射が有ると判定された場合についても同様である。
【0032】
<実施形態に係る温度調整方法について>
図9を参照して、実施形態に係る温度調整システム1による温度調整方法について説明する。
図9は、本発明の実施形態に係る温度調整方法のフローチャートの例示である。
図9に示すフローチャートの処理は、所定の間隔(例えば、人検知センサ2Aの検出周期に合わせて)で繰り返し行われる。
図9に示すフローチャートの処理は、何らかのイベント(例えば、設定温度の変更や執務者の入退出)が発生したときに行われてもよい。以下では、人検知センサ2Aの検出周期に合わせて処理を行う場合を想定する。その為、人検知センサ2Aは、床表面温度を検出し、体感温度推定装置4に対して検出した床表面温度を人検知センサ2Aの位置情報(検知エリアを特定可能な「検知エリア情報」でもよい)に対応付けて送信する。体感温度推定装置4が床表面温度および人検知センサ2Aの位置情報(「検知エリア情報」でもよい)を取得することにより、
図9の処理が開始する。体感温度推定装置4は、還気温度センサ3Aから還気温度についても取得する。
【0033】
最初に、体感温度推定装置4は、人検知センサ2Aの位置情報(または検知エリア情報)を読み込み(ステップS11)、読み込んだ人検知センサ2Aにインテリアおよびペレメータの何れの推定式を用いるかを判定する(ステップS12)。ペリメータの推定式を用いる場合、体感温度推定装置4は、人検知センサ2Aの検出値(床表面温度)および還気温度センサ3Aの検出値(還気温度)を読み込み(ステップS13,S14)、ペリメータの推定式を用いて作用温度を求める(ステップS15)。一方、インテリアの推定式を用いる場合、体感温度推定装置4は、人検知センサ2Aの検出値(床表面温度)を読み込み(ステップS16)、インテリアの推定式を用いて作用温度を求める(ステップS17)。なお、インテリアゾーンの体感温度の推定において、人検知センサ2Aの検出値(床表面温度)および還気温度センサ3Aの検出値(還気温度)の両方を用いて作用温度を求めてもよい(上述した式(1)を参照)。
【0034】
以上のように、温度調整システム1によれば、執務者の体感温度を推定することが可能であり、その推定した体感温度に基づいて温度調整を行うので、執務者にとって快適な環境を作り出すことができる。
また、市販の環境センサを調査したい位置に設置して温湿度を計測する必要がないので、什器のレイアウトに影響を与えることもない。また、レーザ光線や音などを用いることがないので、執務者がいる時間帯でも計測することが可能である。
なお、ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
実施形態では、空間条件を「インテリアゾーン」および「ペリメータゾーン」の二つに分けて推定式を用意していたが、さらなら条件に基づいて細かく推定式を用意してもよい。例えば、季節、天気、時間帯などの条件に基づいて推定式を用意してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 温度調整システム
2 床表面温度センサ
2A 人検知センサ
3 天井空気温度センサ
3A 還気温度センサ
4 体感温度推定装置
5 コントローラ
6 空気調和機(室温調整装置)