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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096528
(43)【公開日】2024-07-16
(54)【発明の名称】異常燃焼事象を軽減する方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240708BHJP
   C10L 1/182 20060101ALI20240708BHJP
   C10L 1/16 20060101ALI20240708BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 159/20 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 129/40 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20240708BHJP
   C10M 133/56 20060101ALN20240708BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240708BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240708BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240708BHJP
【FI】
C10M169/04
C10L1/182
C10L1/16
C10M137/10 A
C10M159/24
C10M159/22
C10M159/20
C10M129/10
C10M129/54
C10M129/40
C10M135/10
C10M133/16
C10M133/56
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】42
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023222360
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】63/478,271
(32)【優先日】2023-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/475,174
(32)【優先日】2023-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェイディー リッチー
(72)【発明者】
【氏名】マリア シー キャペリ
【テーマコード(参考)】
4H013
4H104
【Fターム(参考)】
4H013CB02
4H013CD02
4H104BB05C
4H104BB17C
4H104BB24C
4H104BE11C
4H104BF03C
4H104BG06C
4H104BH07C
4H104DB05C
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104EB13
4H104EB15
4H104FA02
4H104LA20
4H104PA42
4H104PA44
(57)【要約】
【課題】異常燃焼事象(ノッキング/ヘビーノッキング/過早点火/異常燃焼事象等)の発生を低減するための潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、内燃エンジンの作動時に異常燃焼事象を低減するための方法であって、(i)基油、(ii)少なくとも800ppmのMg及び500ppm未満のCaを好ましくは提供する清浄剤、並びに(iii)0.12質量%よりも多くのリンを提供する少なくとも1つのリン含有化合物を好ましくは含む異常燃焼事象抑制剤化合物を含む/混合することから得られる潤滑油組成物を使用するステップを含み、1)潤滑油組成物は、SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、2)潤滑油組成物が88オクタン価基準燃料と共に使用される場合、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、1反復当たり175,000サイクルの少なくとも1反復を完了する、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)前記内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)前記内燃エンジンにて前記燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)前記潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)任意選択で、1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤(任意選択で、マグネシウム含有化合物、カルシウム含有化合物から選択される)、
(iii)前記潤滑油組成物に少なくとも1200ppmのリンを提供するリン含有化合物を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記潤滑油が1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤を含むか、前記燃料が1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤を含むか、又は両方である、
方法。
【請求項2】
前記1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤は、1つ若しくは複数のe燃料、1つ若しくは複数のコブレンド燃料、1つ若しくは複数の燃料添加剤、又はそれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤は、前記潤滑油組成物中に存在し、マグネシウム含有化合物及び/又はカルシウム含有化合物の1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤は、前記燃料中に存在し、水素、エタノール、テトラリン、ジ-イソブチレン、ジメチルフラン、メチルフラン、ジメチルフラン及びメチルフランの組合せ、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、並びにエタノール、イソブタノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの組合せの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油組成物中の異常燃焼事象抑制剤は、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、及びモリブデン含有化合物の1つ又は複数を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)前記内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)前記内燃エンジンにて前記燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)前記潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも800ppmのMg、又は少なくとも1200ppmのMg、及び任意選択で、500ppm未満のCaを提供する清浄剤、並びに
(iii)前記潤滑油組成物の質量に基づき0.12質量%よりも多くのリンを提供する少なくとも1つのリン含有化合物を含む異常燃焼事象抑制剤化合物
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 0W-X、SAE 5W-X、又はSAE 10W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記潤滑油組成物が88のオクタン価を有する燃料と共に使用される場合、前記組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、1反復当たり175,000サイクルの少なくとも1反復を完了する、
方法。
【請求項7】
内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)前記内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)前記内燃エンジンにて前記燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)前記潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppmのMg又は少なくとも1500ppmのMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記燃料はコブレンド燃料を含み、好ましくは前記コブレンド燃料は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-プロパノール、プレノール、ジメチルフラン、メチルフラン、シクロペンタノン、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの1つ又は複数とブレンドされた炭化水素燃料又は水素燃料を含む、
方法。
【請求項8】
内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)前記内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)前記内燃エンジンにて前記燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)前記潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppmのMg又は少なくとも1500ppmのMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、並びに任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記内燃エンジンは、火花点火式内燃エンジンであり、
4)前記燃料は、前記内燃エンジンの最低燃料オクタン価よりも少なくとも1(例えば少なくとも2、例えば少なくとも3、例えば少なくとも4、例えば少なくとも5)低いオクタン価であるオクタン価を有する、
方法。
【請求項9】
内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)前記内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)前記内燃エンジンにて前記燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)前記潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物を含む清浄剤であり、少なくとも800ppm mg又は少なくとも1500ppmのMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されているか又は存在しない(例えば500ppm以下である))清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(例えば1つ又は複数のリン化合物、例えば前記潤滑油組成物の質量に基づき0.12質量%よりも多くの(例えば0.24質量%よりも多くの)リンを提供する1つ又は複数のリン化合物)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記燃料は、水素燃料、e燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、
方法。
【請求項10】
前記燃料は、石油燃料、e燃料、水素燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記燃料は、石油燃料及び少なくとも10質量%の燃料ブレンド製品(前記石油燃料及び前記燃料ブレンド製品の質量に基づく)を含むコブレンド燃料であり、前記燃料は、84以上のオクタン価又は40以上のセタン価を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記燃料は、好ましくは40~60のセタン価を有するディーゼル燃料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記清浄剤は、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されている(例えば500ppm以下である)か又は存在しない)Mg化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記潤滑組成物は、少なくとも1200ppmのリンを含み、前記リンの少なくとも80%は、金属アルキルチオホスフェートに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記潤滑油組成物は、88オクタン価基準燃料を使用したシーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、平均で2回未満のピーク圧力事象及び3回未満のLSPI事象を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記燃料は、84以上のオクタン価を有する石油燃料を含み、前記燃料には、テトラエチル鉛が存在しない、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記潤滑油組成物は、80%以上のリン保持率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記燃料は水素燃料を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記燃料は水素燃料を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項20】
前記清浄剤は、第1族及び第2族金属の油溶性中性及び過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリシレート、ナフテネート、及び他の油溶性カルボネートの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記清浄剤は、カルボン酸マグネシウム、スルホン酸マグネシウム、又はマグネシウムフェネート清浄剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
ポリイソブチレンコハク酸イミド及び/又はポリイソブチレンコハク酸を含む分散剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記異常燃焼事象抑制剤化合物は、金属ジヒドロカルビルチオホスフェートを含み、前記ヒドロカルビル基は、アルキル及び/又はアリールであってもよく(前記ヒドロカルビル基は同じであってもよく又は異なっていてもよい)、好ましくは、前記アルキル基は、1つ又は複数のC6~C12アルキル基(前記アルキル基は同じであってもよく又は異なっていてもよい)を含み、前記アリール基は、1つ又は複数のC6~C22アリール基(前記アリール基は同じであってもよい)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記異常燃焼事象抑制剤化合物は、ジアルキルチオリン酸亜鉛、ジアリールチオリン酸亜鉛、及び/又はアルキルアリール-ジチオリン酸亜鉛を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記潤滑油組成物は、1つ若しくは複数の摩擦調整剤、抗酸化剤、流動点降下剤、消泡剤、粘度調整剤、清浄剤、分散剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、極圧添加剤、抗乳化剤、及び/又はシール適合剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記潤滑油組成物中には、
A)前記基油は、前記潤滑組成物の質量に基づき50~99質量%で存在し、
B)前記ACE抑制剤化合物は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.1~10質量%で存在し、
C)前記清浄剤は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.1~20質量%で存在し、
D)1つ又は複数の摩擦調整剤は、任意選択で、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
E)1つ又は複数の抗酸化剤は、任意選択で、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
F)任意選択で、1つ又は複数の流動点降下剤は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
G)任意選択で、1つ又は複数の消泡剤は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.001~5質量%で存在し、
H)任意選択で、1つ又は複数の粘度調整剤は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.001~10質量%で存在し、
I)任意選択で、1つ又は複数の分散剤は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.01~20質量%で存在し、
J)任意選択で、1つ又は複数の抑制剤及び/又は防錆剤は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
K)任意選択で、成分B)のもの以外の1つ又は複数の耐摩耗剤は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.001~5質量%で存在する、
請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記燃料は水素燃料であり、前記水素燃料は圧縮ガスとして供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記水素燃料は、水素及び圧縮天然ガスを含む圧縮ガスとして供給される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記エンジンは、8以上の圧縮比及び1.0未満の空気燃料比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記エンジンは、自動車内燃ディーゼルエンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記エンジンは、火花点火式ターボ過給エンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、少なくとも11:1の圧縮比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記高圧縮火花点火式エンジンは、スーパー過給エンジン又はターボ過給エンジンである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記燃料は、93以上のオクタン価を有する石油燃料であり、前記エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、前記エンジンは、少なくとも14:1の圧縮比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記エンジンは、水素エンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記燃料は、87オクタン価燃料であり、1700rpm及び少なくとも45g/秒の質量空気流量で作動する93オクタン価燃料定格のエンジンにおける加重平均点火進角は、前記潤滑油が800質量%以下のリンを含むことを除き同じ条件下で作動させた前記エンジンの加重平均点火進角よりも少なくとも23%高い、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記燃料は、93オクタン価燃料であり、1700rpm及び少なくとも47g/秒の質量空気流量で作動する93オクタン価燃料定格のエンジンにおける加重平均点火進角は、前記潤滑油が800質量%以下のリンを含むことを除き同じ条件下で作動する前記エンジンの加重平均点火進角よりも少なくとも17%高い、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
前記ACE抑制剤化合物は、前記潤滑組成物の総質量に基づき0.12~10質量%で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
前記清浄剤は、少なくとも800ppm、又は少なくとも1200ppm、又は少なくとも1500ppmのMgを前記潤滑油組成物に提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
前記清浄剤は、0~500ppmのCa及び/又はNaを前記潤滑油組成物に提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項41】
前記潤滑油組成物は、500ppm以下のCa、及び1500ppm以上、又は1700ppm以上、又は1740ppm以上のPを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
潤滑油組成物であって、前記潤滑油組成物の質量に基づき、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも500ppmのMg、又は少なくとも1500ppmのMg、及び500ppm未満のCaを前記潤滑油組成物に任意選択で提供する清浄剤、並びに
(iii)1200ppmよりも多くのリン、又は1800ppmよりも多くのリンを前記潤滑油組成物に提供する少なくとも1つのリン含有化合物を含む異常燃焼事象抑制剤化合物
を含む潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油燃料、コブレンド燃料(co-blended fuel)、又は代替e燃料(e-fuel)が使用されるエンジン系における異常燃焼事象の優れた抑制を示す、リン、ホウ素、モリブデン、又はケイ素含有化合物等の潤滑油成分を潤滑剤組成物中の添加剤として使用してエンジンを潤滑する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、異常燃焼事象(「ACE」)特徴(つまり、バックファイア、スーパーノックキング及びヘビーノッキングタイプ事象を含む種々のタイプのノッキング、並びに過早点火(低速過早点火を含む)タイプ事象)の改善を呈する内燃エンジン(火花点火、圧縮点火、又は火花補助圧縮点火を使用するガソリンエンジン又はディーゼルエンジン等)に使用するための自動車潤滑油組成物に関する。本発明は、(火花点火式)内燃エンジン(直噴ターボ過給火花点火式内燃エンジン等)又は圧縮点火式エンジン(ディーゼルエンジン等)に使用するための、クランクケース潤滑剤と呼ばれることが多い自動車クランクケース潤滑油組成物に;並びにそのようなエンジンの使用時の異常燃焼事象を低減するための、及び/又はとりわけ一部のエンジンにおけるより高い圧縮比の使用を容易にすることにより潤滑油組成物で潤滑されるエンジンの性能を向上させるための、及び過早点火が一般的な懸念事項である水素内燃エンジンの使用を容易にするための、そのような潤滑油組成物における添加剤の使用に更に関する。
本発明は、リン、ホウ素、モリブデン、又はケイ素含有化合物等の潤滑油成分を、コブレンド燃料又は代替e燃料を含む系における潤滑剤組成物中の添加剤として使用することにより、異常燃焼事象特徴の改善(つまり、低速過早点火事象の低減及び/又はノッキング、ヘビーノッキングタイプ事象の低減)を呈する、内燃エンジンに使用するための自動車潤滑油組成物に更に関する。
【0003】
内燃エンジンの異常燃焼の種々の形態に関しては、ノッキング、極度ノッキング(extreme knock)(スーパーノッキング、メガノッキング、又はヘビーノッキングとも呼ばれる)、表面点火、及び過早点火(火花点火前に生じる点火)を含む幾つかの用語が存在する。極度ノッキングは、従来のノッキングと同じ様式で生じるが、ノッキング振幅が大きく、典型的には、従来のノッキング制御方法を使用して軽減することができる。過早点火は、典型的には、高速で又は高負荷下の低速で生じ、水素内燃エンジンの注目すべき特徴である。
過早点火は、点火プラグによる所望の点火の前に、例えば点火プラグが着火する前に空気/燃料混合物が点火する異常燃焼事象の一形態である。過早点火には多くの種類があり、1つの種類の過早点火に対処するために使用される方法は、必ずしも別の種類に対処できるとは限らない。同様に、多くの要因が複合的に過早点火に対して影響を及ぼすため、過早点火は複雑な問題である。歴史的に、過早点火は、エンジンの作動による熱が燃焼室の一部を加熱し(つまり、ピストン及びシリンダー壁等、燃焼室内にホットスポットを発生させ)、接触時に空気-燃料混合物のポケットを点火させる可能性があるため、一般に火花点火式内燃エンジンの高速作動中に問題となっている。これは、ホットスポット過早点火として知られている(国際公開第2017/011633号パンフレット、段落0003を参照)。
火花点火式エンジンの最近の傾向は、エンジンの特定の領域に成分を直接噴射して、「ブースター」効果を達成することである。更に、直噴火花点火式エンジンは、ターボチャージャー又はスーパーチャージャーを使用して比出力を増加させることにより、より高い出力密度を提供し、過給圧を増加させ、より低いエンジン速度でより高いトルクを発生させることによりエンジンの速度低下を可能にする、より小型のエンジンが嗜好される傾向にある。しかしながら、より低いエンジン速度でより高いトルクを発生させると、空気/燃料混合物のランダム過早点火、つまり低速早期点火として知られる現象が引き起こされることが見出されている。低速過早点火では、初期燃焼は比較的ゆっくりで正常燃焼と同様であり、続いて燃焼速度が急激に増加する。低速過早点火は、一部の他のタイプの異常燃焼とは異なり、典型的には暴走現象ではない。低速で作動する直噴火花点火式エンジンの問題としての低速過早点火(「LSPI」)は、あまり理解されていない。国際公開第2017/011633号パンフレットには、「[より]最近には、過給式(つまり直噴式)内燃エンジンでは、低速及び中~高負荷において断続的な異常燃焼が観察されている。例えば、少なくとも10barのブレーキ平均有効圧力(BMEP)の負荷下で3,000rpm以下でエンジンを作動させると、低速過早点火(LSPI)がランダムに及び確率論的に生じる可能性がある。低速エンジン作動時には、圧縮ストローク時間が最も長くなる。幾つかの発表された研究は、ターボチャージャーの使用、エンジン設計、エンジンコーティング、ピストン形状、燃料選択、及び/又はエンジン油添加剤が、LSPI事象の増加に寄与する可能性があることを示している。1つの理論では、ピストン隙間(ピストンリングパックとシリンダーライナーとの間の空間)からエンジン燃焼室に進入するエンジン油滴の自発点火が、LSPI事象の1つの原因である可能性があることが示唆されている」と開示されている。(国際公開第2017/011633号パンフレット、段落[0005]~[0006]を参照)。代替的には、LSPIは、圧縮ストロークが最も長い場合にそのようなエンジンに伴う高圧下において空気/燃料混合物及びエンジン油滴が圧縮されるため、燃焼室内で生じると理論付けされている。
【0004】
当技術分野では、潤滑油中の種々の成分が、LSPI等の過早点火等の異常燃焼の増加又は減少に様々な影響を及ぼし、LSPIに影響を及ぼす他の成分に影響を及ぼすことはより困難であることも認識されている。(例えば、Boese,D.及びRitchie,A.、「Controlling Low-Speed Pre-Ignition in Modern Automotive Equipment:Defining Approaches to and Methods for Analyzing Data in New Studies of Lubricant and Fuel-Related Effects(Part 1)」SAE Technical Paper 2016-01-0715、2016年、doi:10.4271/2016-01-0715(http://papers.sae.org/2016-01-0715);Boese,D.、Ritchie,A.、及びYoung,A.、「Controlling Low-Speed Pre-Ignition in Modern Automotive Equipment: Defining Approaches to and Methods for Analyzing Data in New Studies of Lubricant and Fuel-Related Effects(Part 2)」、SAE Technical Paper 2016-01-0716、2016年、doi:10.4271/2016-01-0716(http://papers.sae.org/2016-01-0716);Ritchie,A.、Boese,D.、及びYoung,A.、「Controlling Low-Speed Pre-Ignition in Modern Automotive Equipment:Identification of Key Additive Component Types and other Lubricant Composition Effects on Low-Speed-Pre-Ignition(Part 3)」.SAE Technical Paper 2016-01-0717、2016年、doi:10.4271/2016-01-0717(http://papers.sae.org/2016-01-0717)を参照)。例えば、例えばカルシウム清浄剤に由来するカルシウムが潤滑剤中に存在すると、典型的には、直噴火花点火式内燃エンジンにおいて低速過早点火事象が促進される(欧州特許第3 366 755号明細書の2頁20~30行目及び欧州特許第2940110号明細書を参照)。したがって、潤滑油配合物のカルシウム含有量の低減は、低速過早点火事象の低減に結び付く可能性があると考えられてきた。しかしながら、清浄剤は、多くの場合、基本的なエンジン油性能を維持するために必要な添加剤であるとみなされ、カルシウムベース清浄剤は特に有用である。したがって、低速過早点火事象を低減する潤滑油配合物を提供する最近の取組みは、カルシウム清浄剤を代替的清浄剤に置き換えることに主眼を置いている。しかしながら、適切な清浄剤活性及び適正な全塩基価(TBN)を提供することが可能な代替的清浄剤の開発は困難であり得る。
【0005】
ターボ過給エンジン、ガソリン直噴エンジン等の現代的内燃エンジンにおける異常燃焼事象(つまり、低速過早点火、ノッキング、ヘビーノッキングタイプ事象)の発生を制御するか又は発生に影響を及ぼすために、多くの異なる潤滑剤添加剤化学が提案されている。
例えば、米国特許第11,214,756号明細書には、ホウ素含有無灰分散剤(つまり、生産又は合成時に組み込まれる可能性のある偶発的な量を除き、金属を含まない分散剤)を含む潤滑剤を用いてエンジンを作動させることにより、直噴エンジンにおける低速過早点火事象を低減、抑制、又は排除さえするための方法が開示されている。
米国特許第11,034,910号明細書には、特定の無灰抗酸化剤(フェノール系化合物、アリールアミン化合物、並びに硫化オレフィン、特に2,6-ヒンダードフェノール及びジアリールアミン化合物)を含む潤滑剤組成物を油留めに供給することにより、火花点火式直噴内燃エンジンにおける低速過早点火事象を低減するための方法が開示されている。
米国特許第11,142,719号明細書には、火花点火式直噴内燃エンジンにおける低速過早点火事象を低減するための及び/又は酸化性能を向上させるための方法であって、エンジンのクランクケースを、少なくともマグネシウム及びカルシウムをカチオンとして含む油溶性塩基性有機酸塩を含む清浄剤添加剤であり、カルシウム対マグネシウムの質量比は1:1~1:3であり、有機酸はアルキル-置換ヒドロキシ安息香酸又はスルホン酸である、清浄剤添加剤を含む潤滑油組成物で潤滑するステップを含む方法が開示されている。
【0006】
米国特許第11,034,912号明細書には、クランクケースを、潤滑油組成物で潤滑することにより直噴過給火花点火式内燃エンジンにおける低速過早点火の発生を防止又は低減するための方法であって、潤滑油組成物は、約1.2質量%以下の総硫酸灰分含有量、約0.05~約0.08質量%のリン含量を前記組成物に提供する亜鉛-リン化合物、少なくとも約0.3質量%のマグネシウム硫酸灰分を前記組成物に提供する量のマグネシウム清浄剤、及びある量のカルシウム清浄剤、又は約0.3~約0.4質量%のカルシウム硫酸灰分若しくはカルシウム及びナトリウム硫酸灰分を前記組成物に提供するカルシウム及びナトリウム清浄剤を有し、清浄剤から前記組成物に提供される硫酸灰分の総量は1.0質量%以下であり、金属清浄剤により前記潤滑油組成物に導入される金属の総量の少なくとも40質量%はマグネシウムであり、前記亜鉛リン化合物は、第二級アルコール又は第一級及び第二級アルコールから誘導されるジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛である、方法が開示されている。
米国特許第10,604,720号明細書には、エンジンの燃焼室に少容積%の潤滑油をガソリンと共に導入することにより、潤滑油で潤滑された高圧縮火花点火式エンジンにおけるエンジンノッキング又は過早点火を防止又は低減するための方法が開示されている。この潤滑油は、(i)総炭素の少なくとも15%がメチル基の形態である少なくとも80質量%の1つの分岐鎖状エステルを含む潤滑油ベースストック、及び(ii)少なくとも1つの無灰リン酸アミン耐摩耗添加剤を含む。この開示の潤滑油は、乗用車エンジン油(PVEO)製品に有用であると記載されている。
【0007】
米国特許第10,214,703号明細書には、50質量%よりも多くの潤滑粘度の基油、並びに225mg KOH/gよりも高いTBNを有する過塩基性カルシウム含有清浄剤、及び20:100~約100:0のモル比の第二級アルコール対第一級アルコールから誘導され、リン1モル当たり10個よりも多くの炭素原子の平均総炭素含有量を有する1つ又は複数のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む添加剤組成物を含む潤滑油組成物を使用して、過早点火(低速過早点火)を低減するための方法が開示されている。こうした潤滑油組成物は、質量で900ppmよりも多く2400ppm未満であるカルシウムを提供する量の過塩基性カルシウム含有清浄剤、及び少なくとも0.01質量%のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含み、両方とも量は潤滑油組成物の総質量に基づく。
【0008】
2019年9月、米国エネルギー省は、Co-Optimaプロジェクトの一環として、「Top Ten Blendstocks for Turocharged gasoline Engines, Bio-blendstocks with the Potential to Deliver the Highest Engine Efficiency」と題する研究を発表した(Gaspar,Danielら、2019年.Top Ten Blendstocks For Turbocharged Gasoline Engines:Bioblendstocks With Potential to Deliver the for Highest Engine Efficiency.PNNL-28713、Pacific Northwest National Laboratory、Technical Report.米国エネルギー省、ワシントンDC.2018年.https://doi.org/10.2172/1567705「Gasparら」)。この研究では、バイオマスから誘導することができるブレンドストックが考察されており、小型過給火花点火式車両に適したブレンドストックが特定されている。Gasparらによると、過給火花点火式エンジン効率を最大化するには、リサーチオクタン価がより高く、オクタン感受性がより高く、気化熱の増加を示すと共に、低粒子状物質指数(PMI<2では、メリット関数スコア減少に結び付かない)を有する燃料が必要とされる。一部の特性(気化熱、PMI)は線形的にブレンドされるが、自発点火特性はベース燃料並びにブレンドストックに応じた複雑な様式でブレンドされる。したがって、所与のブレンドレベルで一部のブレンドストックの相対的メリット関数効果を増加させる(線形ブレンドで予想されるものと比較して)オクタン及びオクタン感受性の相乗的ブレンドが望ましい。
Gasparらは、メリット関数の増加が最も高い上位10個のバイオマスベースブレンドストックのセット(ジ-イソブチレン、フラン混合物、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、フーゼルアルコールブレンド、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノール)を特定し、応用及び使用に対する実際的な障壁が最も少ない6つのバイオマスベースブレンドストックのセット(ジ-イソブチレン、エタノール、フーゼルアルコールブレンド、イソブタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノール)も特定した。
【0009】
しかしながら、バイオマスベースブレンドストック(上位10個及び上位6個を含む)は、燃焼エンジン、特に過給直噴エンジンにおける異常燃焼事象(過早点火及びノッキング等)を増加させる。したがって、バイオマスベースブレンドストック及び燃料の使用に関する異常燃焼事象を低減又は排除する手段に対する必要性が存在する。
加えて、米国特許出願公開第2008/0277203号明細書には、エンジンの作動中のエンジン潤滑剤組成物のリン保持率を増加させるための方法であって、リン保持率は触媒被毒の低減に十分である、方法が記載されている。
更に、2018年9月、サウスウェスト研究所は「Development of a Standardized Test to Evaluate the Effect of Gasoline Engine Oil on the Occurrence of Low Speed Pre-Ignition - The Sequence IX Test」と題する研究を発表した(Mounce,Felt、SAE Technical Paper 2018-01-1808、2018年、doi:10.4271/2018-01-1808)。
【0010】
他の興味深い参考文献としては、以下のものが挙げられる:米国特許第10,519,394号明細書;米国特許第10,584,300号明細書;米国特許第10,669,505号明細書;米国特許第11,155,764号明細書;米国特許第10,604,720号明細書;国際公開第2018/036285号パンフレット;Leachら、SAE Int.J.Fuels Lubr./15巻、1号、2022年、SAE 04-15-01-001;Costanzoら、SAE Int.J.Advances&Curr.Prac.in Mobility、1巻、1号、2019年、SAE 2019-01-0038;Chapmanら、SAE Int.J.Engines/9巻、1号(2016年4月)、SAE 215-01-1869;John Farrell、John Holladay、及びRobert Wagner.「Fuel Blendstocks with the Potential to Optimize Future Gasoline Engine Performance: Identification of Five Chemical Families for Detailed Evaluation.」Technical Report.米国エネルギー省、ワシントンDC.2018年.DOE/GO-102018-4970、https://dx.doi.org/10.2172/1434413;及びW.A.Givensら、Lube Formulation Effects on Transfer of Elements to Exhaust After-treatment System Components、SAE Technical Paper series、2003-01-3109。
【0011】
本発明者らは、本明細書において、高レベルの異常燃焼事象抑制剤(例えば、B、P、Si、及び/又はMo含有化合物、例えばリン含有化合物)及び任意選択で少量又はゼロ量の異常燃焼事象促進剤(Ca及び/又はNa含有化合物等)を含有及び有する潤滑剤の使用が、重要なエンジン設計を規制する異常燃焼事象(例えば、従来のノッキング事象、低速過早点火を含む過早点火事象等)の傾向を著しく低減することができ、圧縮比及び燃料オクタン価要件のようなパラメーターを使用することができ、並びに既知の異常燃焼事象促進剤[エタノール、及び/又はテトラリン、及び/又はジ-イソブチレン等]を含む、e燃料(水素等)を含む燃料の使用を可能にすることを示す。これにより、そのような潤滑剤の利益を、現行のエンジン設計及び/又は燃料の制限を超えて拡張することができる。
【0012】
今や本発明者らは、驚くべきことに、高レベルのリン等の異常燃焼事象抑制剤及び低レベルのカルシウムを、内燃エンジン等における潤滑剤組成物に使用すると、コブレンド燃料及び/又はe燃料においてノッキング事象の低減をもたらすことができることを見出した。
今や本発明者らは、驚くべきことに、高レベルのリン等の異常燃焼事象抑制剤及び低レベルのカルシウムを、内燃エンジン等における潤滑剤組成物に使用すると、エンジンがそれで稼動するように設計されたものよりも低いオクタン価燃料、ACE促進剤(エタノール)を含む燃料、並びにコブレンド燃料及び/又はe燃料におけるノッキング事象の低減をもたらすことができることも見出した。
更に、今や本発明者らは、驚くべきことに、高レベルのリン及び低レベルのカルシウムを内燃エンジン等における潤滑剤組成物に使用することにより、0.8質量%のリンを含む同じ組成物と比較してより高い圧縮比をガソリン内燃エンジン(ターボ過給ガソリン直噴(GDI)エンジン等)に提供することができることを見出した。
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、高レベルのリン及び低レベルのカルシウムを、内燃エンジン等における潤滑剤組成物に使用すると、90未満又は89未満等の低オクタン価ガソリン燃料においてノッキング事象の低減をもたらすことができることも見出した。
今や本発明者らは、驚くべきことに、高レベルのリン等の異常燃焼事象抑制剤及び低レベルのカルシウムを、内燃水素エンジン等における潤滑剤組成物に使用すると、バックファイア、ノッキング、及びスーパーノッキング等の異常燃焼事象の低減をもたらすことができることも見出した。
本出願の請求項に係る発明は、内燃エンジン、特に(直噴)火花点火式内燃エンジン、並びに/又は水素エンジン、特に異常燃焼事象促進剤(エタノール)を含む燃料及び/若しくはコブレンド燃料及び/若しくはe燃料と組み合わせて使用されるもの等において、異常燃焼事象(ノッキング/ヘビーノッキング/過早点火/異常燃焼事象等)の発生を低減するための潤滑油組成物を提供するという目的の技術的課題を解決する。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、異常燃焼事象を著しく低減又は排除して、内燃エンジン出力密度を増加させ、e燃料、コブレンド燃料、異常燃焼事象促進剤(例えばエタノール)を含む燃料、及び/又は低オクタン価/セタン価燃料等のより広範囲な燃料を使用する機会を提供する、低レベルの異常燃焼事象促進化合物(Ca及び/又はNaを含有する化合物等)及び高レベルの異常燃焼事象抑制化合物(P、B、Mo、及び/又はSiを含む化合物)が配合された潤滑剤を使用して、内燃エンジンの作動時に異常燃焼事象を低減するための方法に関する。
本明細書に記載の潤滑油組成物は、石油燃料、e燃料、水素燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せでの内燃エンジンの作動に使用される。
【0015】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)任意選択で1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤(任意選択で、マグネシウム含有化合物、カルシウム含有化合物から選択される)、
(iii)潤滑油組成物に少なくとも1200ppmのリンを提供するリン含有化合物を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)潤滑油が1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤を含むか、燃料が1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤を含むか、又は両方である、
方法に更に関する。
【0016】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも800ppmのMg(例えば、少なくとも1200ppmのMg)及び好ましくは500ppm未満のCaを提供する清浄剤、及び
(iii)0.12質量%よりも多くのリンを提供する少なくとも1つのリン含有化合物を含む異常燃焼事象抑制剤化合物
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 0W-X、SAE 5W-X、又はSAE 10W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記潤滑油組成物が88のオクタン価を有する燃料と共に使用される場合、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、1反復当たり175,000サイクルの少なくとも1反復を完了する、
方法に更に関する。
【0017】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤、
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料はコブレンド燃料を含み、好ましくはコブレンド燃料は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-プロパノール、プレノール、ジメチルフラン、メチルフラン、シクロペンタノン、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの1つ又は複数とブレンドされた炭化水素燃料又は水素燃料を含む、
方法に更に関する。
【0018】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)内燃エンジンは、火花点火式内燃エンジンであり、
4)燃料は、内燃エンジンの最低燃料オクタン価よりも少なくとも1(例えば少なくとも2、例えば少なくとも3、例えば少なくとも4、例えば少なくとも5)低いオクタン価であるオクタン価を有する、
方法に更に関する。
【0019】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物を含有する清浄剤であり、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されているか又は存在しない(例えば500ppm以下である))清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(例えば1つ又は複数のリン化合物、例えば潤滑油組成物の質量に基づき、0.12質量%よりも多くの(例えば0.24質量%よりも多くの)リンを提供する1つ又は複数のリン化合物)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料は、水素燃料、e燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、
方法に更に関する。
【0020】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物の使用であって、
前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、前記潤滑油組成物は、内燃エンジンにおいて、コブレンド燃料と共に異常燃焼事象を起こすことなく使用され、好ましくはコブレンド燃料は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-プロパノール、プレノール、ジメチルフラン、メチルフラン、シクロペンタノン、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの1つ又は複数とブレンドされた炭化水素燃料又は水素燃料を含む、使用に更に関する。
【0021】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物の使用であって、
前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、前記潤滑油組成物は、異常燃焼事象が起こらない内燃エンジンの最低燃料オクタン価よりも少なくとも1(例えば少なくとも2、例えば少なくとも3、例えば少なくとも4、例えば少なくとも5)低いオクタン価であるオクタン価を有する燃料と共に火花点火式内燃エンジンにおいて使用される、使用に更に関する。
【0022】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(少なくとも1200ppmのPを提供するP含有化合物等)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物の使用であって、
前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、前記潤滑油組成物は、88オクタン価石油燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)を含む燃料と共に使用される場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了する、使用に更に関する。
【0023】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物から本質的になる清浄剤であり、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供し、好ましくは500ppm未満のCa及び/又はNaを含む清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(潤滑油組成物の質量に基づき、例えば0.24質量%よりも多くのリンを提供する1つ又は複数のリン化合物等の、1つ又は複数のリン化合物等)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物の使用であって、
前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、前記潤滑油組成物は、88オクタン価石油燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)を含む燃料と共に使用される場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了する、使用に更に関する。
【0024】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも800ppm(例えば、少なくとも1500ppm)のMg及び10~500ppmのCaを提供する清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(潤滑油組成物の質量に基づき、0.20質量%よりも多くのリンを提供する1つ又は複数のリン化合物等の、1つ又は複数のリン化合物等)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物の使用であって、
前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、前記潤滑油組成物は、88オクタン価石油燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)を含む燃料と共に使用される場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了する、使用に更に関する。
好ましくは、リンの少なくとも80%は、金属アルキルチオホスフェートに由来する。
【0025】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物を含む清浄剤であり、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されているか又は存在しない(例えば500ppm以下である))清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(例えば1つ又は複数のリン化合物、例えば潤滑油組成物の質量に基づき0.12質量%よりも多くの(例えば0.24質量%よりも多くの)リンを提供する1つ又は複数のリン化合物)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物の使用であって、
前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、前記潤滑油組成物は、内燃エンジンにおいて、好ましくは40~60のセタン価を有するディーゼル燃料と組み合わされる、使用に更に関する。
【0026】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物を含む清浄剤であり、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されているか又は存在しない(例えば500ppm以下である))清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(例えば1つ又は複数のリン化合物、例えば潤滑油組成物の質量に基づき0.12質量%よりも多くの(例えば0.24質量%よりも多くの)リンを提供する1つ又は複数のリン化合物)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物の使用であって、
前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、前記潤滑油組成物は、内燃エンジンにおいて、水素燃料、e燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せと組み合わされる、使用に更に関する。
【0027】
本発明は、異常燃焼事象を低減するための方法であって、本明細書に記載の潤滑油組成物で内燃エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含み、好ましくは内燃エンジンではコブレンド燃料が使用される、方法に更に関する。
本発明は、異常燃焼事象を低減するための方法であって、本明細書に記載の潤滑油組成物で内燃エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含み、好ましくは内燃エンジンでは水素燃料が使用される、方法に更に関する。
本発明は、異常燃焼事象を低減するための方法であって、本明細書に記載の潤滑油組成物で内燃エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含み、好ましくは内燃エンジンではe燃料が使用される、方法に更に関する。
本発明は、異常燃焼事象を低減するためにコブレンド燃料と共に使用するための、本明細書に記載の潤滑油組成物を含む組成物であって、前記コブレンド燃料は、石油燃料及び少なくとも10質量%の燃料ブレンド製品(石油燃料及び燃料ブレンド製品の質量に基づき)を含み、84以上のオクタン価又は40以上のセタン価を有する、組成物に関する。
本明細書に記載の潤滑油組成物は、任意のオクタン価燃料において「オクタン価リフト」を提供するように作用し、したがって、中でも、より低いオクタン価燃料(例えば、88オクタン価燃料)を、より高いオクタン価燃料(93オクタン価燃料等)用に設計されたエンジンにおいて使用可能なものにし、より高いオクタン価燃料(93オクタン価燃料等)を、更により高いオクタン価燃料(98オクタン価燃料等)のように機能させ、したがってエンジン設計の新たな道を切り開く。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例2のシーケンスIX試験の結果のグラフである。
図2】有用な燃料ブレンド製品の図である。
図3】1700rpm、53g/秒の質量空気流量での、実施例3の加重平均点火進角データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
本明細書及び本発明の全ての請求項の目的では、CHEMICAL AND ENGINEERING NEWS、63巻(5号)、27頁(1985年)に示されている、新しい付番スキームの元素周期表が使用される。つまり、アルカリ金属は第1族金属(例えば、Li、Na、K等)であり、アルカリ土類金属は第2族金属(例えば、Mg、Ca、Ba等)である。
「含む(comprising)」という用語又はあらゆる同族語は、記載の特徴、ステップ、又は整数、又は成分の存在を指定するが、1つ又は複数の他の特徴、ステップ、整数、成分、又はそれらの群の存在又は追加を排除しない。「からなる(consists of)」若しくは「から本質的になる(consists essentially of)」という表現又は同族語は、「含む(comprises)」又は同族語内に包含され得る。「から本質的になる」は、それが適用される組成物の特質に実質的に影響を及ぼさない物質が含まれることを許容する。
「LOC」という用語は、潤滑油組成物を意味し、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑油組成物」とも呼ばれる。
「多量」という用語は、組成物の質量に基づき、組成物の50質量%よりも多いこと、例えば組成物の60質量%よりも多いこと、例えば組成物の70質量%よりも多いこと、例えば組成物の80~99.009質量%であること、例えば組成物の80~99.9質量%、80~99.009質量%であることを意味する。
「少量」という用語は、組成物の質量に基づき、組成物の50質量%以下であること、例えば組成物の40質量%以下であること、例えば組成物の30質量%以下であること、例えば20~0.001質量%であること、例えば20~0.1質量%であることを意味する。
「質量%」という用語は、別様の指示がない限り、グラム単位で測定された組成物の質量に基づく、成分の質量パーセントを意味し、代替的には質量(weight)パーセント(「質量(weight)%」、「質量(wt)%」、又は「質量(w)/質量(w)%」)とも呼ばれる。
「活性成分」(「a.i.」又は「A.I.」とも呼ばれる)という用語は、希釈剤でも溶媒でもない添加物質を指す。
【0030】
本明細書で使用される「油溶性」及び「油分散性」という用語又は同族用語は、化合物又は添加剤が、油中にあらゆる割合で可溶性、溶解性、混和性であるか、又は懸濁可能であることを必ずしも示すものではない。しかしながら、こうした用語は、化合物又は添加剤が、例えば、油が使用される環境において意図されている効果を発揮するのに十分な程度に油に可溶性であるか又は安定的に分散可能であることを意味する。更に、必要に応じて、他の添加剤を更に組み込むことにより、より高レベルの特定の添加剤の組込みを可能にすることもできる。
「基」及び「ラジカル」という用語は、本明細書では同義的に使用される。
「炭化水素」という用語は、水素原子及び炭素原子の化合物を意味する。「ヘテロ原子」は、炭素又は水素以外の原子である。「炭化水素」、特に「精製炭化水素」が参照される場合、炭化水素には、少量(例えば、ヘテロ原子が炭化水素化合物の炭化水素特性を実質的に変更させない量)の1つ又は複数のヘテロ原子又はヘテロ原子含有基(例えばハロ、特にクロロ及びフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)も含まれていてもよい。
【0031】
「ヒドロカルビル」という用語は、水素原子及び炭素原子を含むラジカルを意味する。好ましくは、この基は、別様の指定がない限り、水素原子及び炭素原子から本質的になり、より好ましくはのみからなる。好ましくは、ヒドロカルビル基は脂肪族ヒドロカルビル基を含む。「ヒドロカルビル」という用語は、本明細書で規定される「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」、及び「アリール」を含む。ヒドロカルビル基は、ヒドロカルビル基の本質的にヒドロカルビル的な性質に影響を及ぼさない限り、炭素及び水素以外の1つ又は複数の原子/基を含んでいてもよい。当業者であれば、そのような原子/基(例えば、ハロ、特にクロロ及びフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)を認知しているだろう。
「アルキル」という用語は、炭素及び水素のラジカル(例えばC1~C30、例えばC1~C12基)を意味する。化合物中のアルキル基は、典型的には、炭素原子を介して化合物に直接結合している。別様の指定がない限り、アルキル基は、直鎖状(つまり、非分岐鎖状)であってもよく又は分岐鎖状であってもよく、環状、非環状、又は部分的に環状/非環状であってもよい。好ましくは、アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状の非環状アルキル基を含む。アルキル基の代表的な例としては、これらに限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ジメチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、及びトリアコンチルが挙げられる。
【0032】
「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの二重結合を有する炭素及び水素のラジカル(例えばC2~C30ラジカル、例えばC2~C12ラジカル)を意味する。化合物中のアルケニル基は、典型的には、炭素原子を介して化合物に直接結合している。別様の指定がない限り、アルケニル基は、直鎖状(つまり、非分岐鎖状)であってもよく又は分岐鎖状であってもよく、環状、非環状、又は部分的に環状/非環状であってもよい。
「アルキレン」又は「アルケン」という用語は、直鎖状であってもよく又は分岐鎖状であってもよいC1~C20、好ましくはC1~C10の二価飽和脂肪族ラジカルを意味する。アルキレンの代表的な例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1-メチルエチレン、1-エチルエチレン、1-エチル-2-メチルエチレン、1,1-ジメチルエチレン、及び1-エチルプロピレンが挙げられる。
【0033】
「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素間三重結合を含むC2~C30(C2~C12等)ラジカルを意味する。
「アリール」という用語は、シクロペンタジエン、フェニル、ナフチル、及びアントラセニル等の、少なくとも1つの芳香環を含む基を意味する。アリール基は、典型的には、1つ又は複数のヒドロカルビル基、ヘテロ原子、又はヘテロ原子含有基(ハロ、ヒドロキシル、アルコキシ、及びアミノ基等)により置換されていてもよいC5~C40(例えばC5~C18、例えばC6~C14)アリール基である。好ましいアリール基としては、フェニル基及びナフチル基並びにそれらの置換誘導体、特にフェニル及びフェニルのアルキル置換誘導体が挙げられる。
【0034】
「置換された」という用語は、水素原子が、炭化水素基、ヘテロ原子、又はヘテロ原子含有基で置き換えられていることを意味する。アルキル置換誘導体は、水素原子がアルキル基で置き換えられていることを意味する。「アルキル置換フェニル」は、水素原子が、アルキル基、例えばC1~C20アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ジメチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、及び/又はトリアコンチルにより置き換えられているフェニル基である。
「ハロゲン」又は「ハロ」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨード等の、第17族原子又は第17族原子のラジカルを意味する。
添加剤に関して「無灰」という用語は、組成物が金属を含まないことを意味する。
添加剤に関して「灰分含有」という用語は、組成物が金属を含むことを意味する。
添加剤に関する「有効量」という用語は、添加剤が所望の技術的効果をもたらすような、潤滑油組成物中のそのような添加剤の量を意味する。
添加剤に関する「有効少量」という用語は、添加剤が所望の技術的効果をもたらすような、潤滑油組成物の50質量%未満のそのような添加剤の量を意味する。
「ppm」という用語は、別様の指示がない限り、潤滑油組成物の総質量に基づく質量百分率を意味する。
潤滑油組成物の又は添加剤成分の「金属含有量」という用語、例えば、マグネシウム含有量、モリブデン含有量、又は総金属含有量(つまり、全ての個々の金属含有量の合計)は、ASTM D5185により測定される。
【0035】
リン、ホウ素、カルシウム、亜鉛、モリブデン、ケイ素、ナトリウム、及びマグネシウムの含有量は、ASTM D5185により測定される。
添加剤成分に関して又は潤滑油組成物(つまり、未使用潤滑油組成物)の、「TBN」とも呼ばれる「全塩基価」という用語は、ASTM D2896により測定される全塩基価を意味する。
「TAN」とも呼ばれる「全酸価」という用語は、ASTM D664により測定される全酸価を意味する。
「凝着摩耗」という用語は、DD13スカッフィング試験とも呼ばれるASTM D8074-19により決定される。
「気泡容積」という用語は、ASTM D892、オプションA)により決定される。
「硫黄含有量」は、ASTM D2622により測定される。
硫酸灰分含有量(「SASH」)は、ASTM D874により測定される。
動粘度(KV100、KV40)は、ASTM D445-19aに準じて決定され、別様の指定がない限り、cStの単位で報告される。
粘度指数は、ASTM D2270に従って決定される。
高温腐食ベンチ試験(HTCBT)は、ASTM D6594に従って決定される。
【0036】
「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸」という用語は、脂肪族C7~C29、好ましくはC9~C27、最も好ましくはC11~C23ヒドロカルビル鎖を有するモノカルボン酸を意味する。そのような化合物は、本明細書では、脂肪族(C7~C29)、より好ましくは(C9~C27)、最も好ましくは(C11~C23)ヒドロカルビルモノカルボン酸又はヒドロカルビル脂肪酸(式中、Cx~Cyは、脂肪酸の脂肪族ヒドロカルビル鎖の炭素原子の総数を指し、カルボキシル炭素原子の存在のため脂肪酸自体は、合計でCx+1~Cy+1個の炭素原子を含む)と呼ばれる場合がある。好ましくは、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸は、カルボキシル炭素原子を含めて、偶数個の炭素原子を有する。脂肪酸の脂肪族ヒドロカルビル鎖は、飽和であってもよく又は不飽和であってもよい(つまり、少なくとも1つの炭素間二重結合を含む)。好ましくは、脂肪族ヒドロカルビル鎖は不飽和であり、少なくとも1つの炭素間二重結合を含み、そのような脂肪酸は、天然供給源から(例えば、動物油又は植物油に由来する)及び/又は対応する飽和脂肪酸の還元により得ることができる。対応する脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルの脂肪族ヒドロカルビル鎖の一部は不飽和であり(つまり、少なくとも1つの炭素間二重結合を含む)、硫黄等の他の作用剤と反応して、対応する官能化された、例えば硫化された脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルを形成することが可能であることが理解されるだろう。
【0037】
「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」という用語は、対応する脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸のモノカルボン酸官能基をエステル基に変換することにより得ることができるエステルを意味する。好適には、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸のモノカルボン酸官能基は、ヒドロカルビルエステル、好ましくはアルキルエステル等のC1~C30脂肪族ヒドロカルビルエステル、好ましくはC1~C6アルキルエステル、特にメチルエステルに変換される。代替的に又は加えて、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸のモノカルボン酸官能基は、天然グリセロールエステルの形態であってもよい。したがって、「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」という用語は、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸グリセロールエステル及び脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸C1~C30脂肪族ヒドロカルビルエステル(例えば、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸アルキルエステル、より好ましくは脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸C1~C6アルキルエステル、特に脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸メチルエステル)を包含する。好適には、「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」という用語は、脂肪族(C7~C29)ヒドロカルビル、より好ましくは脂肪族(C9~C27)ヒドロカルビル、最も好ましくは脂肪族(C11~C23)ヒドロカルビル脂肪酸グリセロールエステル及び脂肪族(C7~C29)ヒドロカルビル、より好ましくは脂肪族(C9~C27)ヒドロカルビル、最も好ましくは脂肪族(C11~C23)ヒドロカルビル脂肪酸C1~C30脂肪族ヒドロカルビルエステルを包含する。好適には、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルの硫化等の官能化を可能にするために、脂肪酸エステルの脂肪族ヒドロカルビル鎖の一部は不飽和であり、少なくとも1つの炭素間二重結合を含む。
【0038】
「硫化脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」という用語は、本明細書で規定の脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルを硫化することにより得られる化合物を意味する。
本明細書に記載の潤滑油組成物及びそれらに対する特許請求の範囲内に含まれる成分に関する「非存在」という用語は、特定の成分が、潤滑油組成物の質量に基づき0質量%で存在するか、又は潤滑油組成物に存在する場合でも、この成分は、潤滑油組成物特性に影響を及ぼさないレベル、例えば、10ppm未満、又は1ppm未満、又は0.001ppm未満で存在することを意味する。
別様の指示がない限り、報告されている全てのパーセンテージは、活性成分基準での質量%であり、つまりキャリア油又は希釈油には関わりがない。
また、使用される種々の成分、必須成分並びに最適成分及び慣用成分は、配合、保管、又は使用の条件下で反応する可能性があること、及び本発明は、あらゆるそのような反応の結果として得ることが可能であるか又は得られる産物も提供することが理解されるだろう。
更に、本明細書に示されているあらゆる上限量及び下限量、範囲及び比限界値は、独立して組み合わせることができることが理解される。
また、本発明の各態様の好ましい特徴は、本発明のあらゆる他の態様の好ましい特徴であるとみなされることも理解されるだろう。したがって、本発明の一態様の好ましい特徴及びより好ましい特徴は、本発明の同じ態様又は異なる態様の他の好ましい特徴及び/又はより好ましい特徴と独立して組み合わせることができる。
【0039】
詳細な説明
これから、本発明の各々の及び全ての態様に関する本発明の特徴を、必要に応じて、以下で更に詳細に説明するものとする。
本発明の潤滑油組成物は、油性キャリア(基油等)及び/又は他の添加剤と混合する前後で化学的に同じままであってもよく同じままでなくてもよい成分を含む。本発明は、混合前、又は混合後、又は混合前及び混合後の両方の成分を含む組成物を包含する。
更に、本明細書に示されているあらゆる上限量及び下限量、範囲及び比限界値は、独立して組み合わせることができることが理解される。
本明細書及び本発明の全ての請求項の目的では、異常燃焼事象(「ACE」)は、火花点火式内燃エンジン(SIエンジン)における燃焼が、点火プラグから伝播する火炎前面の外側で生じる事象であるか、或いは圧縮点火式内燃エンジン(「CIエンジン」)の場合は、燃焼が、ピストン圧縮サイクルの外側で又は不適切な位置若しくは時点で生じる事象であると規定される。(火花補助圧縮点火式エンジンは、上記で規定の異常燃焼事象のいずれか又は両方を示す可能性がある。)自発点火及び過早点火は両方とも異常燃焼事象である。自発点火(デトネーションとも呼ばれる)は、点火プラグ又は圧縮(圧縮ピストン等による)により正常燃焼が開始された後で生じる、燃焼室内の燃料/空気混合物の自然燃焼である。過早点火は、SIエンジンの点火プラグ着火又はCIエンジンの正常圧縮点火に先立つ空気/燃料混合物の点火であると規定される。低速過早点火(LSPI)は、低エンジン速度及び比較的高いエンジン負荷下で生じる特定のタイプの過早点火である。
【0040】
火花点火式内燃エンジンにおけるノッキング(ノック、デトネーション、スパークノック、ピンギング(pinging)、又はピンキング(pinking)とも呼ばれる)は、典型的には、シリンダー内の空気/燃料混合物の一部の燃焼が、点火プラグにより点火される火炎前面の伝播に起因しないが、空気/燃料混合物の1つ又は複数のポケットが正常燃焼前面のエンベロープの外側で爆発する場合に生じる。燃料-空気投入物は、点火プラグによってのみ、ピストンストロークの正確な地点で点火されるように意図されている。ノッキングは、燃焼プロセスのピークがエンジンストロークサイクル(4ストロークサイクル等)の最適な瞬間にもはや生じない場合に生じる。自発点火による衝撃波は、特徴的な金属的「ピンギング」又は「ノッキング」音を発生させる可能性がある。エンジンノッキングの影響は、エンジンにとって軽微なものから完全に破壊的なものまで多岐にわたる。ノッキングは過早点火と混同されるべきではなく、それらは2つの別個の事象である。しかしながら、過早点火の後にノッキングが続く可能性がある。
異常燃焼事象(自発点火等)は、これらに限定されないが、エンジン設計(形状、サイズ、ジオメトリー、プラグ位置)、点火プラグ性能/タイミング、圧縮比、エンジンタイミング、空気/燃料混合物温度、シリンダー圧力、燃料オクタン価、潤滑剤組成物、及び燃料添加剤組成物等を含む、複数の要因により影響を受ける。
【0041】
ガソリンオクタン価(オクタン価)は、自然点火、つまりノッキングに抵抗する能力と相関する。オクタン価は、リサーチオクタン価及びモーターオクタン価を足して2で割った値((RON+MON)/2)であると規定される。リサーチオクタン価はASTM D2699-21により決定される。モーターオクタン価はASTM D2700-21により決定される。エンジンは、特定のオクタン価以上のオクタン価を有する燃料で稼動するように設計されている。こうしたエンジンは、特定のオクタン価要件を下回る燃料オクタン価に遭遇すると、異常燃焼事象、特にノッキングを発生させ易いだろう。例えば、93オクタン価燃料で稼動するように設計されたエンジンは、88オクタン価燃料で稼動させると、異常燃焼事象に遭遇することになる。内燃エンジンでは伝統的により高いオクタン価が好まれており、今日公道で使用されているほとんどのエンジンは、より低いオクタン価(87未満等)をうまく扱えない。低オクタン価燃料(例えば低オクタン価石油燃料、例えば低オクタン価ガソリン燃料)は、90以下、例えば89以下、例えば88以下、例えば75~90、例えば84~89、例えば85~88、例えば90、89、88、87、86、85、84、83、82、81、80、79、78、7、75、又は75のオクタン価(ASTM D2700-21により決定される)を有する燃料である。
【0042】
ディーゼルガソリンセタン価(セタン価)は、ASTM D613により決定される、ディーゼル燃料の燃焼速度及び点火に必要な圧縮の指標である。低セタン価燃料(例えば低セタン価石油燃料、例えば低セタン価ディーゼル燃料)は、60以下、例えば55以下、例えば50以下、例えば40~60、例えば45~55、例えば40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、又は60のセタン価(ASTM D613により決定される)を有する燃料である。
「Haltermann88オクタン価基準燃料」は、テキサス州ヒューストンのHaltermann Solutions社から入手可能な、88のオクタン価を有する、Haltermann HF-02021 EPA Tier3 EEE排出ガス認証燃料レギュラーオクタン価である。
「Haltermann93オクタン価基準燃料」は、テキサス州ヒューストンのHaltermann Solutions社から入手可能な、93のオクタン価を有する、Haltermann HF-00003 EEE潤滑剤認証ガソリンである。
エンジンの最低燃料オクタン価は、エンジン製造元が公開している、エンジンに使用することができる最小推奨オクタン価燃料であり、典型的には、ほとんどの乗用車で85~88オクタン価である。
リン保持率は、ASTM D8111-17、IIIHB試験に示されている通りに決定される。
【0043】
潤滑油組成物
本発明は、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑油組成物」、又は「LOC」とも呼ばれる潤滑油組成物に関する。
本発明は、下記の成分セクションBに記載の、1つ又は複数の異常燃焼事象ACE抑制剤化合物(ACE抑制剤リン含有化合物、例えば金属アルキルチオホスフェート、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)を含む潤滑油組成物であって、
a)88のオクタン価を有するガソリン燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)と共に使用される場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了し、
b)粘度記述子SAE 10W-X、5W-X、又はSAE 0W-X(好ましくは、SAE 5W-X又はSAE 0W-X)により識別され、Xは、8、12、16、20、30、40、又は50(好ましくは、8、12、16、又は20)であり、
c)潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のP、Mo、B、及びSi(例えば、0.12(例えば、0.13、0.14、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン)を含む、
潤滑油組成物に関する。
【0044】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)第1族又は第2族金属含有清浄剤、
(iii)分散剤(PIBSA-PAM等)、並びに
(iv)(ii)及び(iii)以外の1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤化合物(下記の成分セクションBに記載)、例えばACE抑制剤リン含有化合物、例えば金属アルキルチオホスフェート(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)
を含むか又は混合することから得られ、
a)88のオクタン価を有するガソリン燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)と共に使用した場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば、少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了し、
b)粘度記述子SAE 10W-X、5W-X、又はSAE 0W-X(例えば、5W-X又はSAE 0W-X)により識別され、Xは、8、12、16、20、30、40、又は50(例えば、8、12、16、又は20)であり、
c)潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のP、Mo、B、及びSi(好ましくは、0.12(例えば、0.13、0.14、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン)を含む、
潤滑油組成物に関する。
【0045】
本発明は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも800ppm、例えば少なくとも1500ppmのMg、及び500ppm未満のCa、例えば10~500ppmのCaを提供する清浄剤、
(iii)分散剤(PIBSA-PAM等)、並びに
(iv)(ii)及び(iii)以外の異常燃焼事象ACE抑制剤化合物(下記の成分セクションBに記載)、例えばACE抑制剤リン含有化合物、例えば金属アルキルチオホスフェート(例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛)、
(v)摩擦調整剤(例えば有機FM、例えば有機エステル、例えば脂肪酸エステル)
を含むか又は混合することから得られ、
a)88のオクタン価を有するガソリン燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)と組み合わせた場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば、少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了し、
b)粘度記述子SAE 10W-X、5W-X、又はSAE 0W-X(例えば、5W-X又はSAE 0W-X)により識別され、Xは、8、12、16、20、30、40、又は50(例えば、8、12、16、又は20)であり、
c)潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のP、Mo、B、及びSi(好ましくは、0.12(例えば、0.13、0.14、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン)を含む、
潤滑油組成物に関する。
【0046】
本発明は、
(i)潤滑組成物の質量に基づき、1~99質量%(代替的に30~95質量%、代替的に50~90質量%、代替的に60~95質量%、代替的に70~90質量%)の1つ又は複数の基油、
(ii)組成物の質量に基づき0.10~20質量%(特に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数の清浄剤、
(iii)任意選択で、組成物の質量に基づき0.10~20質量%(特に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数の分散剤(PIBSA-PAM等)、及び
(iv)組成物の質量に基づき0.10~20質量%(特に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数のACE抑制剤化合物((ii)及び(iii)以外)、例えばリン含有化合物、例えば金属アルキルチオホスフェート(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)、
(v)任意選択で、0.2~0.6質量%の摩擦調整剤(例えば有機摩擦調整剤、例えば有機エステル、例えば脂肪酸エステル)
を含むか又は混合することから得られ、
a)88のオクタン価を有するガソリン燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)と組み合わせた場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば、少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了し、
b)粘度記述子SAE 10W-X、5W-X、又はSAE 0W-X(例えば、5W-X又はSAE 0W-X)により識別され、Xは、8、12、16、20、30、40、又は50(例えば、8、12、16、又は20)であり、
c)潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のP、Mo、B、及びSi(好ましくは、0.12(例えば、0.13、0.14、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン)(好ましくは、ACE抑制剤化合物がPを含む場合、Pの少なくとも80%は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等の金属アルキルチオホスフェートから提供される)を含む、
潤滑油組成物に関する。
【0047】
本発明は、
(i)潤滑組成物の質量に基づき、1~99質量%(代替的に30~95質量%、代替的に50~90質量%、代替的に60~95質量%、代替的に70~85質量%)の1つ又は複数の基油、
(ii)組成物の質量に基づき、0.10~20質量%(特に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数の清浄剤、
(iii)組成物の質量に基づき0.10~20質量%(特に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数の分散剤(PIBSA-PAM等)、及び
(iv)組成物の質量に基づき0.10~20質量%(特に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数のリン含有化合物、例えば金属アルキルチオホスフェート(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)、
(v)任意選択で、0.2~0.6質量%の摩擦調整剤(例えば有機摩擦調整剤、例えば有機エステル、例えば脂肪酸エステル)
を含むか又は混合することから得られ、
a)88のオクタン価を有するガソリン燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)と組み合わせた場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば、少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了し、
b)粘度記述子SAE 10W-X、5W-X、又はSAE 0W-X(例えば、5W-X又はSAE 0W-X)により識別され、Xは、8、12、16、20、30、40、又は50(例えば、8、12、16、又は20)であり、
c)潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.12(例えば、0.13、0.14、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリンを含み、好ましくは、Pの少なくとも80%は、金属アルキルチオホスフェート(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)から提供される、
潤滑油組成物に関する。
【0048】
代替的には、LOCを、88(代替的に75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、又は87)のオクタン価を有するガソリン燃料と組み合わせた場合、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了する。
【0049】
また、本発明は、
E)任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき、0.01~5質量%(特に0.01~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の抗酸化剤(抗酸化剤のブレンド等)、
F)任意選択で、潤滑油組成物の総質量に基づき、0.01~5質量%(特に0.01~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の流動点降下剤(流動点降下剤のブレンド等)、
G)任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき、0.001~5質量%(特に0.01~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の消泡剤(消泡剤のブレンド等)、
H)任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき、0.001~6質量%(特に0.01~5質量%、代替的に0.1~4質量%、代替的に0.1~2質量%、代替的に0.1~1質量%)の1つ若しくは複数の粘度調整剤(粘度調整剤のブレンド等)、
I)任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき、0.01~20質量%(特に0.1~12質量%、代替的に0.1~8質量%)の1つ若しくは複数の分散剤(分散剤のブレンド等)、
J)任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき、0.01~5質量%(特に0.1~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の抑制剤及び/若しくは防錆剤(抑制剤及び/若しくは防錆剤のブレンド等)、並びに/又は
K)任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき、0.001~5質量%(特に0.1~3質量%、代替的に0.~1.5質量%)のACE抑制剤化合物以外の1つ若しくは複数の耐摩耗剤(耐摩耗剤のブレンド等)
を更に含む上記に記載の潤滑油組成物であって、
潤滑剤は、
a)88のオクタン価を有するガソリン燃料(Haltermann88オクタン価基準燃料)と組み合わせた場合、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了し、
b)粘度記述子SAE 10W-X、5W-X、又はSAE 0W-X(例えば、5W-X又はSAE 0W-X)により識別され、Xは、8、12、16、20、30、40、又は50(例えば、8、12、16、又は20)であり、
c)潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のP、B、Si、及びMo(例えば0.12(例えば、0.13、0.14、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン)を含み、好ましくは、ACE抑制剤化合物がPを含む場合、リンの少なくとも80%(例えば90%、例えば95%)は、金属アルキルチオホスフェート(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)から提供される、
潤滑油組成物に関する。
【0050】
代替的には、LOCを、88(代替的に75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、又は87)のオクタン価を有するガソリン燃料と組み合わせた場合、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了する。
【0051】
本発明及びその請求項の目的では、成分B)ACE抑制剤化合物は、たとえそれらが同様の特性を示す可能性があるとしても、質量パーセンテージを決定するために、上記の要素C、D、E、F G、H、I、J、及び/又はKには追加されない。例えば、要素B)は、摩耗に肯定的な影響を及ぼす可能性があるが、耐摩耗剤の質量パーセントを決定するためには要素K)には追加されない。
【0052】
実施形態では、要素D、E、F G、H、I、J、及びKの全ては、本明細書に記載の基油、清浄剤、及び1つ又は複数のACE抑制剤化合物に加えて存在する。
実施形態では、要素D、E、F G、H、I、及びJの全ては、本明細書に記載の基油、清浄剤、及び1つ又は複数のACE抑制剤化合物に加えて存在する。
実施形態では、要素I、F、及びGは、本明細書に記載の基油、清浄剤、及び1つ又は複数のACE抑制剤化合物に加えて存在する。
実施形態では、金属アルキルチオホスフェート(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)が潤滑油組成物又は濃縮物中に存在する場合、アルキル基は、独立して、C1~C20(例えば、C2~C12、例えば、C3~C10、例えばC4~C8)の直鎖状、分枝鎖状、又は環状アルキル基、例えば直鎖状又は分枝鎖状C1~C20(例えばC2~C12、例えばC3~C10、例えばC4~C8)アルキル基、例えば直鎖状又は分枝鎖状C3~C8アルキル基の1つ又は複数である。アルキル基は、同じあってもよく又は異なっていてもよい。アルキル基は、第一級、第二級、及び/又は第三級、例えば第一級及び第二級アルキル基の組合せであってもよい。
【0053】
実施形態では、LOC又は濃縮物中のACE抑制剤化合物は、特にエンジン作動条件下で低い揮発性を示す。
実施形態では、LOC又は濃縮物中のリン含有化合物(例えば金属アルキルチオホスフェート、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)は、特にエンジン作動条件下で低い揮発性を示す。
【0054】
好適には、潤滑剤組成物は、ASTM D8111-17、IIIHBにより測定して、75%以上、例えば80%以上、例えば81%以上、例えば82%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば93%以上、例えば95%以上、代替的に80~100%、例えば81~99%、例えば85~98%、例えば90~98%、例えば94~98%のリン保持率を有してもよい。リン保持率は、リン含有量に直接関係しないため、LOC中のリン質量%の関数ではない。内燃エンジンでのリン保持率は、LOCの揮発性/蒸発、リン供給源の揮発性、エンジン温度、油消費率、油漏れ、及び密閉完全性等により影響を受ける多因子パラメーターである。
【0055】
「高リン含有潤滑油組成物」又は「高P LOC」という用語は、潤滑油組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.09(例えば0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.24、0.25、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリンを有する、本明細書に記載の潤滑油組成物を意味する。典型的には、高P LOCは、潤滑油組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、又は4.0)~10(例えば、9、8、7、6、又は5)質量%のPを有する。
【0056】
好適には、潤滑剤組成物は、
1)ASTM D8111-17、IIIHBにより測定して、82%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば93%以上、例えば95%以上のリン保持率、
2)SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-XのSAE粘度であり、Xは、8、12、16、20、又は30である、SAE粘度(例えば、SAE 5W-X又はSAE 0W-Xであり、Xは、8、12、16、又は20である)、及び
3)LOCの質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する、0.12(例えば、0.15、0.17、0.2、0.24、0.25、0.3、0.35、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン含有量
を有してもよい。
【0057】
好適には、潤滑剤組成物は、ASTM D2896により測定して、1~30mg KOH/g、例えば4~15mg KOH/g、例えば5~15mg KOH/g、例えば5~12mg KOH/g、例えば7~11mg KOH/g、例えば8~10mg KOH/gの全塩基価(TBN)を有してもよい。
典型的には、潤滑組成物は、低レベルの硫黄を含んでいてもよい。好ましくは、潤滑組成物は、ASTM D2622により測定して、潤滑組成物の総質量に基づき、硫黄の原子として表して、最大で0.4質量%、より好ましくは最大で0.3質量%、最も好ましくは最大で0.2質量%、例えば0.1~0.4質量%の硫黄を含む。
典型的には、潤滑組成物は、ASTM D874により測定して、潤滑組成物の総質量に基づき、低レベルの硫酸灰分、例えば1.0質量%以下、好ましくは0.8質量%以下、代替的に0.0001~0.5質量%の硫酸灰分を含んでいてもよい。
実施形態では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、1500ppm以下のカルシウム、例えば1000ppm以下、例えば500ppm以下、例えば200ppm以下のカルシウム、例えば1~1500ppmのカルシウム、例えば10~1000ppmのカルシウム、例えば10~500ppmのカルシウム、例えば20~500ppm未満、例えば50~400ppmのカルシウムを有する。0ppmのカルシウムが好ましいが、非カルシウムベース清浄剤の生産プロセスには固有の金属夾雑物が存在する可能性があることが認識されている。
【0058】
実施形態では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、1500ppm以下のナトリウム、例えば1000ppm以下、例えば500ppm以下、例えば200ppm以下のナトリウム、例えば1~1500ppmのナトリウム、例えば10~1000ppmのナトリウム、例えば10~400ppmのナトリウムを有する。0ppmのナトリウムが好ましいが、非ナトリウムベース清浄剤の生産プロセスには固有の金属夾雑物が存在する可能性があることが認識されている。
実施形態では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、1500ppm以下のカルシウム及びナトリウム、1000ppm以下、例えば500ppm以下、例えば1~250ppm、例えば10~250ppmのカルシウム及びナトリウムを含む。
一般に、潤滑組成物の100℃における動粘度(「KV100」)は、ASTM D445-19aに従って決定して、2~30cSt、例えば3~20cSt、例えば3.5~17cSt、例えば3.8~13cStの範囲である。代替的には、潤滑組成物の100℃における動粘度(「KV100」)は、2~10cSt、例えば3~9cSt、例えば3.3~7cStの範囲である。
実施形態では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、TAN/TBNクロスオーバーにおいて、2~10cSt(例えば、3~9cSt、例えば、3.3~7cSt)のKV100(ASTM D445-19a)を有する。TAN/TBNクロスオーバーは、クランクケース内の潤滑剤の全酸価(TAN、ASTM D664により決定される)が、全塩基価(TBN、ASTM D2896により決定される)よりも低くなる地点であると規定される。
【0059】
実施形態では、潤滑油組成物にはテトラエチル鉛が存在しない。代替的には、テトラエチル鉛は、10ppm以下、例えば5ppm以下、例えば1ppm以下、例えば0ppmで存在する。代替的には、テトラエチル鉛が潤滑油組成物中に存在する場合、テトラエチル鉛は、潤滑油組成物特性に影響を及ぼさないレベルで存在する。
実施形態では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、2015年版のGeneral Motors社製dexos1(商標)ターボチャージャーコーキング試験(国際公開第2017/192217号パンフレットに記載、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。段落[0005]、[0165]~[0166]を参照)を使用して測定して、9.0%未満(例えば8.0%未満、例えば7.0%未満、例えば5.0%)のTCO(ターボクーラント外部)温度増加を有する。
実施形態では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、Haltermann88オクタン価基準燃料を使用したシーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、平均で2未満のピーク圧力事象及び3未満のLSPI事象を示す。
実施形態では、潤滑油組成物は、Haltermann88オクタン価基準燃料を使用したシーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、平均で2回未満の、1回未満の、好ましくは0回のピーク圧力事象を示す。
【0060】
好ましくは、本発明の潤滑組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別されるマルチグレード油であり、この場合、Xは、8、12、16、20、30、40、及び50のいずれか1つを表す。様々な粘度グレードの特質は、SAE J300分類に見出すことができる。潤滑組成物は、好ましくは、SAE 5W-X又はSAE 0W-Xの形態であり、Xは、8、12、16、20、30、40、及び50のいずれかを表す。好ましくは、Xは、8、12、16、又は20である。代替的には、本発明の潤滑組成物は、粘度記述子SAE 5W-X又はSAE 0W-Xにより識別されるマルチグレード油であり、Xは、8、12、16、又は20を表す。(以前は自動車技術会として知られていたSAEインターナショナルにより刊行された標準SAE J300を参照。)
三元触媒は、典型的には、ロジウムを含む第1の触媒床に続いて白金又はパラジウムを含む第2の触媒床を提供することにより、排気ガス汚染物質をH2O、N2、及びCO2に変換する。実施形態では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、ASTM D8111-17、IIIHBにより測定して、好ましくは、75%以上、例えば80%以上、例えば81%以上、例えば82%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば93%以上、例えば95%以上、代替的に80~100%、例えば81~99%、例えば85%~98%、例えば90~98%、例えば94~98%の高リン保持率を有する油を使用することにより、三元触媒コンバーター疲労の低減を提供する。
【0061】
本発明の潤滑組成物は、潤滑剤を添加することにより、機械的エンジン部品、特に内燃エンジン、例えば、火花点火式、圧縮点火式(例えば、圧縮点火式2ストローク又は4ストロークレシプロエンジン)、及び/又は火花補助圧縮点火式内燃エンジンの潤滑に使用することができる。典型的には、本発明の潤滑組成物は、乗用車モーター油又は大型ディーゼルエンジン潤滑油等のクランクケース潤滑剤である。
特に、本発明の潤滑組成物は、好適には、大型ディーゼルエンジン等の圧縮点火式内燃エンジンのクランクケースの潤滑に使用される。
特に、本発明の潤滑組成物は、好適には、火花点火式ターボ過給内燃エンジンのクランクケースの潤滑に使用される。
本開示の潤滑油は、特に高圧縮火花点火式内燃エンジンに有用であり、高圧縮火花点火式内燃エンジンに使用される場合、エンジンノッキング及び過早点火問題を防止又は最小限に抑えることになる。本開示の潤滑油組成物は、高圧縮火花点火式エンジン、特にe燃料及び/又はコブレンド燃料が使用されるエンジンの潤滑に有用である。
【0062】
実施形態では、本明細書に記載の本発明の潤滑油組成物は、92以下、例えば90以下、例えば88以下、例えば87以下、例えば87のオクタン価を有するガソリンと組み合わせて使用すると、加重平均点火進角(下記の実施例セクションに示されているように決定される)の少なくとも20%以上の増加、例えば23%以上の増加、例えば45%以上の増加、例えば58%以上の増加、例えば76%以上の増加、例えば100%以上の増加、例えば104%以上の増加、例えば105%以上の増加、例えば111%以上の増加を、特に、45g/秒以上、例えば46g/秒以上、例えば47g/秒以上、例えば48g/秒以上、例えば50g/秒以上、例えば51g/秒以上、例えば52g/秒以上、例えば53g/秒以上の質量空気流量において、潤滑油が1200ppm未満(例えば、1100ppm以下、1000ppm以下、900ppm以下、800ppm以下)のリンを含む(並びに好ましくは、500ppmよりも多くのCa及びNa、及び/又は1200ppm未満のMg、例えば800ppmのMg未満も有する)ことを除き同じ条件下で作動させた同じエンジンの加重平均点火進角と比較して、提供する。
【0063】
実施形態では、本明細書に記載の本発明の潤滑油組成物は、約87のオクタン価を有するガソリンと組み合わせて使用すると、潤滑油が1200ppm未満(例えば、1100ppm以下、1000ppm以下、900ppm以下、800ppm以下、750ppm以下)のリンを含み(並びに好ましくは、500ppmよりも多くのCa及びNa、及び/又は1200ppm未満のMg、例えば800ppmのMg未満も有する)ことを除き同じ条件下で作動させた同じエンジンの加重平均点火進角と比較して、加重平均点火進角(下記の例セクションに示すように決定される)の、43g/s以上の質量空気流量で少なくとも20%以上の増加、例えば45g/秒以上の質量空気流量で23%以上の増加、例えば46g/秒で45%以上の増加、例えば47g/秒以上の質量空気流量で58%以上の増加、例えば48g/秒以上の質量空気流量で76%以上の増加、例えば50g/秒以上の質量空気流量で100%以上の増加、例えば51g/秒以上の質量空気流量で104%以上の増加、例えば52g/秒以上の質量空気流量で104%以上の増加、例えば53g/秒以上の質量空気流量で111%以上の増加を提供する。
【0064】
実施形態では、本明細書に記載の本発明の潤滑油組成物は、90以上、例えば91以上、92以上、93以上のオクタン価を有するガソリンと組み合わせて使用すると、潤滑油が1200ppm未満(例えば、1100ppm以下、1000ppm以下、900ppm以下、800ppm以下、750ppm以下)のリンを含む(並びに好ましくは500ppmよりも多くのCa及びNa、並びに/又は1200ppm未満のMg、例えば800ppm未満のMgも有する)ことを除き同じ条件下で作動させた同じエンジンの加重平均点火進角と比較して、特に、例えば47g/秒以上、例えば48g/秒以上、例えば50g/秒、例えば51g/秒以上、例えば52g/秒以上、例えば53g/秒以上の質量空気流量において、加重平均点火進角(以下の実施例セクションに示されているように決定される)の少なくとも17%以上の増加、例えば27%以上の増加、例えば44%以上の増加、例えば47%以上の増加、例えば54%以上の増加、例えば54%以上の増加を提供する。
【0065】
実施形態では、本明細書に記載の本発明の潤滑油組成物は、約93のオクタン価を有するガソリンと組み合わせて使用すると、潤滑油が1200ppm未満(例えば、1100ppm以下、1000ppm以下、900ppm以下、800ppm以下、750ppm以下)のリンを含む(並びに好ましくは500ppmよりも多くのCa及びNa、並びに/又は1200ppm未満のMg、例えば800ppm未満のMgも有する)ことを除き同じ条件下で作動させた同じエンジンの加重平均点火進角と比較して、加重平均点火進角(以下の実施例セクションに示されているように決定される)の、47g/秒以上の質量空気流量で少なくとも17%以上の増加、例えば48g/秒以上の質量空気流量で少なくとも27%以上の増加、例えば50g/秒以上の質量空気流量で少なくとも44%以上の増加、例えば51g/秒以上の質量空気流量で少なくとも47%以上の増加、例えば52g/秒以上の質量空気流量で少なくとも54%以上の増加、例えば53g/秒以上の質量空気流量で少なくとも54%以上の増加を提供する。
【0066】
実施形態では、本明細書に記載の本発明の潤滑油組成物は、1700rpm及び少なくとも45g/秒の質量空気流量で作動する93オクタン価燃料定格のエンジンで87オクタン価燃料と共に使用すると、潤滑油組成物が、1200ppm未満のリン、例えば1150ppm以下、1100ppm以下、1000ppm以下、900ppm以下、850ppm以下、800ppm以下、例えば750ppm以下のリン(並びに好ましくは500ppmよりも多くのCa及びNa、並びに/又は1200ppm未満のMg、例えば、800ppm未満のMgも有する)ことを除いて同じ条件下で作動させた同じエンジンの加重平均点火進角よりも、少なくとも23%高い加重平均点火進角を提供する。
【0067】
実施形態では、本明細書に記載の本発明の潤滑油組成物は、1700rpm及び少なくとも45g/秒の質量空気流量で作動する93オクタン価燃料定格のエンジンで93オクタン価燃料と共に使用すると、潤滑油組成物が、1200ppm未満のリン、例えば1150ppm以下、1100ppm以下、1000ppm以下、900ppm以下、850ppm以下、800ppm以下、例えば750ppm以下のリン(並びに好ましくは500ppmよりも多くのCa及びNa、並びに/又は1200ppm未満のMg、例えば800ppm未満のMgも有する)ことを除いて同じ条件下で作動させた同じエンジンの加重平均点火進角よりも、少なくとも17%高い加重平均点火進角を提供する。
【0068】
濃縮物
添加剤パッケージとも呼ばれる濃縮物は、50質量%未満(例えば、40%未満、例えば30質量%未満、例えば25%未満、例えば20%未満)の基油を有する組成物であり、典型的には次いで、それに、更なる基油を更にブレンドして潤滑油製品が形成される。
本発明は、
(i)組成物の質量に基づき、1~50質量%未満(代替的に5~45質量%、代替的に7~40質量%、代替的に10~35質量%、代替的に10~25質量%)の1つ又は複数の基油、
(ii)組成物の質量に基づき、0.10~40質量%(特に0.10~20質量%、代替的に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数の清浄剤、
(iii)組成物の質量に基づき、0.10~40質量%(特に0.10~20質量%、代替的に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数の分散剤(PIBSA-PAM等)、及び
(iv)組成物の質量に基づき0.10~40質量%(特に0.10~20質量%、代替的に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ又は複数のACE抑制剤化合物((ii)及び(iii)以外)、例えばリン含有化合物、例えば金属アルキルチオホスフェート(例えばZDDP)、
(v)任意選択で、組成物の質量に基づき0.10~20質量%(特に0.15~10質量%、代替的に0.2~5質量%)の1つ又は複数の摩擦調整剤(例えば有機FM、例えば有機エステル、例えば脂肪酸エステル)、
(vi)任意選択の追加成分、抗酸化剤、流動点降下剤、消泡剤、粘度調整剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、極圧添加剤、抗乳化剤、シール適合剤(seal compatibility agent)、添加剤希釈基油等;
を含むか又は混合することから得られる濃縮物組成物であって、
前記濃縮物組成物は、潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、又は5.0)質量%以上のP、Mo、B、及びSi、好ましくは、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、又は5.0)質量%以上のリンを含み、好ましくは、Pの少なくとも80%は、金属アルキルチオホスフェート(例えばZDDP)から提供される、濃縮物組成物に関する。
【0069】
本発明は、
(A)濃縮物組成物の質量に基づき1~50質量%未満(代替的に5~45質量%、代替的に7~40質量%、代替的に10~35質量%、代替的に10~25質量%)の1つ若しくは複数の基油、
(B)濃縮物組成物の質量に基づき0.10~40質量%(特に0.10~20質量%、代替的に0.15~10質量%、代替的に0.20質量%~5質量%、代替的に0.25~2質量%)の1つ若しくは複数のACE抑制剤化合物、好ましくはリン含有化合物、例えば金属アルキルチオホスフェート(例えばZDDP)、
C)濃縮物組成物の総質量に基づき、40質量%から(特に0.10~20質量%、代替的に0.5~8質量%)の1つ若しくは複数の清浄剤(清浄剤のブレンド等)、
D)任意選択で、濃縮物組成物の総質量に基づき0.01~10質量%(特に代替的に0.01~5質量%、代替的に0.1~4質量%、代替的に0.25~3質量%)の1つ若しくは複数の摩擦調整剤(摩擦調整剤のブレンド等)、
E)任意選択で、濃縮物組成物の総質量に基づき0.01~5質量%(特に0.01~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の抗酸化剤(抗酸化剤のブレンド等)、
F)任意選択で、濃縮物組成物の総質量に基づき0.01~5質量%(特に0.01~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の流動点降下剤(流動点降下剤のブレンド等)、
G)任意選択で、濃縮物組成物の総質量に基づき0.001~5質量%(特に0.01~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の消泡剤(消泡剤のブレンド等)、
H)任意選択で、濃縮物組成物の総質量に基づき0.001~6質量%(特に0.01~5質量%、代替的に0.1~4質量%、代替的に0.1~2質量%、代替的に0.1~1質量%)の1つ若しくは複数の粘度調整剤(粘度調整剤のブレンド等)、
I)任意選択で、濃縮物組成物の総質量に基づき、0.01~20質量%(特に0.1~12質量%、代替的に0.1~8質量%)の1つ若しくは複数の分散剤(分散剤のブレンド等)、
J)任意選択で、濃縮物組成物の総質量に基づき0.01~5質量%(特に0.1~3質量%、代替的に0.1~1.5質量%)の1つ若しくは複数の抑制剤及び/若しくは防錆剤(抑制剤及び/若しくは防錆剤のブレンド等)、並びに/又は
K)任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき0.001~5質量%(特に0.1~3質量%、代替的に0.~1.5質量%)の、ACE抑制剤化合物以外の1つ又は複数の耐摩耗剤(耐摩耗剤のブレンド等)
を含むか又は混合することから得られる濃縮物組成物であって、
濃縮物組成物は、潤滑組成物の質量に基づき、ACE抑制剤化合物に由来する0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のP、B、Si、及びMo(好ましくは、濃縮物組成物は、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリンを含み)、好ましくは、リンの少なくとも80%(例えば90%、例えば95%)は、金属アルキルチオホスフェート(例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛)から提供される、濃縮物組成物にも関する。
【0070】
燃焼中にエンジンに存在する潤滑剤/燃料組合せ
本明細書の潤滑剤は、再生可能資源、石油資源、又はその両方に由来するかに関わらず、炭化水素燃料及び/又は水素燃料が使用される内燃エンジンで使用することができる。
燃料又は燃料製品は、本明細書では、直接又は任意の更なる処理後のいずれかで燃料として使用するのに好適な製品であると規定される。石油燃料としては、ガソリン及びディーゼル燃料等、原油から精製される物質が挙げられる。水素燃料としては、圧縮水素、及び水素と、他の燃料、例えば天然ガス、例えば液化天然ガスとの組合せが挙げられる。
【0071】
e燃料又は再生可能燃料は、再生可能エネルギー(電気、太陽光、風力、地熱、水力等)又は他のエネルギー入力(例えば、石油由来のエネルギー等)を使用して又は使用せずに、バイオマス、二酸化炭素、水、及び水素等の再生可能資源から導出された燃料である。エタノール及び水素は、e燃料の例である。
【0072】
再生可能資源に由来する燃料の生成は、従来の化石燃料を補完及び/又は置換するために関心が高まっている分野である。現在、再生可能資源(生物資源等)から生成される多くの燃料は、エタノール等の酸素化燃料であり、ガソリン駆動エンジンの燃料プールを補完することが意図されている。再生可能資源(生物資源等)に基づくディーゼル燃料も、生成される量が増加している。再生可能資源(生物資源等)に由来する燃料、潤滑剤、及び他の製品は、環境から捕捉された炭素、水素、及び/又はエネルギーに部分的に基づく。そのような燃料、潤滑剤、及び他の製品は、再生可能と呼ばれることがある。
【0073】
本発明は、本明細書に記載の潤滑油組成物及び炭化水素燃料を含む組成物であって、燃料は、石油及び/又はe燃料(生物資源に由来するもの等(「バイオ燃料」)に由来してもよい、組成物にも関する。実施形態では、燃料は、1~50質量%の再生可能燃料及び石油由来燃料の総質量に基づき、0.1~100質量%の再生可能燃料、代替的に1~75質量%の再生可能燃料、代替的に5~50質量%の再生可能燃料を含む。
【0074】
再生可能燃料成分は、植物油(パーム油、菜種油、大豆油、ジャトロファ油等)、微生物油(藻類油等)、動物性脂肪(調理用油、動物性脂肪、及び/又は魚脂肪等)、及び/又はバイオガスから生産することができる。再生可能燃料は、現代的な生物学的プロセスから形成される生物学的資源から生産されるバイオ燃料を指す。一実施形態では、再生可能燃料成分は、水素化処理プロセスにより生産される。水素化処理は、分子状水素が他の成分と反応するか、又は成分が分子状水素及び固体触媒の存在下で分子変換を起こす種々の反応を含む。反応としては、これらに限定されないが、水素化、水素化脱酸素、水素化脱硫、水素化脱窒、水素化脱金属化、水素化分解、及び異性化が挙げられる。再生可能燃料成分は、使用目的に応じて、所望の特性を成分に提供する様々な蒸留範囲を有してもよい。
【0075】
燃料ブレンド製品は、本明細書では、直接又は任意の更なる処理後のいずれかで燃料にブレンドするのに好適な製品であると規定される。燃料ブレンド製品の例としては、1つ又は複数のバイオ燃料/再生可能燃料、ジ-イソブチレン、図2に示されているフラン混合物、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、図2に示されているフーゼルアルコールブレンド、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノール、好ましくは、ジ-イソブチレン、エタノール、フーゼルアルコールブレンド、イソブタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノールが挙げられる。有用な燃料アルコールブレンドは、エタノール、イソブタノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノールの組合せを含む。有用なフランブレンドは、ジメチルフラン及びメチルフランを含む。
【0076】
燃料又は燃料ブレンド製品に対する参照は、燃料製品又は燃料ブレンド製品の少なくとも1つの定義を満たす製品に対応する。燃料製品又は燃料ブレンド製品は、この定義を満たすために燃料製品又は燃料ブレンド製品として使用される必要はないことに留意されたい。むしろ、この定義は、燃料製品又は燃料ブレンド製品として好適な製品を特定するものである。例えば、エタノールは、ガソリン用の燃料ブレンド製品としての使用による等、燃料製品又は燃料ブレンド製品としての使用に好適である。エタノールは、生成物の抽出を容易にする等、他の目的にも好適である。本明細書の定義によると、そのようなエタノールは、たとえ異なる目的に使用される場合でも、燃料又は燃料ブレンド製品であるとみなされる。
コブレンド燃料は、非石油ベース資源、つまり、バイオマス、二酸化炭素、水、水素、及びメタン等の再生可能資源に由来する1つ又は複数の燃料ブレンド製品(図2に示されているもの等)と混合されている、天然ガス、ガソリン、又はディーゼル燃料等の石油燃料である。
更に又は代替的に、e燃料は、燃料ブレンド製品としても使用することができる。有用なe燃料としては、再生可能エネルギー(電気、太陽光、風力、地熱、水力等)又は他のエネルギー入力(例えば、石油由来のエネルギー等)を使用して又は使用せずに、バイオマス、二酸化炭素、水、及び水素等の再生可能資源から導出されたエタノール又は他のe燃料が挙げられる。
【0077】
特に有用なコブレンド燃料は、圧縮天然ガス及び圧縮水素の組合せである。
コブレンド燃料は、1つ又は複数の石油燃料、並びに石油燃料、燃料ブレンド製品、及びe燃料の質量に基づき1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の1つ又は複数のe燃料及び/又は燃料ブレンド製品を含んでいてもよい。
実施形態では、コブレンド燃料は、1つ又は複数の石油燃料、並びに石油燃料、燃料ブレンド製品、及びe燃料の質量に基づき1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の2つ以上のe燃料及び/又は燃料ブレンド製品を含む。
実施形態では、コブレンド燃料は、1つ又は複数の石油燃料、並びに石油燃料、燃料ブレンド製品、及びe燃料の質量に基づき1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれよりも多くのe燃料及び/又は燃料ブレンド製品を含む。
【0078】
実施形態では、コブレンド燃料は、石油燃料及び燃料ブレンド製品の質量に基づき、
1)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の1つ又は複数の石油燃料、
2)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の、ジ-イソブチレン、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノール、ジメチルフラン、メチルフラン、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ又は複数の燃料ブレンド製品(好ましい燃料ブレンド製品の例としては、ジ-イソブチレン、メタノール、エタノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エタノールのフーゼルアルコールブレンド、イソブタノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノール、並びにジメチルフラン及びメチルフランのフランブレンドが挙げられる)
を含む。
【0079】
実施形態では、コブレンド燃料は、石油燃料及び燃料ブレンド製品の質量に基づき、
1)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の1つ又は複数の石油燃料、
2)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の1つ又は複数のe燃料、
3)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の、ジ-イソブチレン、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノール、ジメチルフラン、メチルフラン、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ又は複数の燃料ブレンド製品を含む(好ましい燃料ブレンド製品の例としては、ジ-イソブチレン、メタノール、エタノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エタノールのフーゼルアルコールブレンド、イソブタノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノール、並びにジメチルフラン及びメチルフランのフランブレンドが挙げられる)。本明細書及びその請求項の目的では、e燃料及び燃料ブレンド製品が上記の段落等での組成物の説明において別々に項目化されている場合、及びe燃料及び燃料ブレンド製品(エタノール等)の両方として特徴付けることができる成分が存在する場合、その成分は、石油燃料、燃料ブレンド製品、及びe燃料の質量に基づき20質量%以上存在する場合にはe燃料とみなされるものとし、石油燃料、燃料ブレンド製品、及びe燃料の質量に基づき20質量%未満で存在する場合には燃料ブレンド製品とみなされるものとする。
【0080】
実施形態では、コブレンド燃料は、石油燃料、燃料ブレンド製品、及びe燃料の質量に基づき、
1)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば98)質量%以上の1つ又は複数の石油燃料、
2)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば98)質量%以上の第1のe燃料又は燃料ブレンド製品(エタノール等)、及び
3)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば98)質量%以上の第2のe燃料又は燃料ブレンド製品
を含む。
【0081】
実施形態では、本明細書の潤滑剤との組合せに有用な石油燃料(単独で又はコブレンド燃料中で)は、84以上、85以上、例えば88以上、例えば90以上、例えば91以上、例えば92以上、例えば93以上のオクタン価を有するガソリン燃料であり、オクタン価は、ASTM D2700-21に従って決定される。代替的に、実施形態では、本明細書の潤滑剤との組合せに有用な石油燃料(単独で又はコブレンド燃料中で)は、90以下、例えば89以下、例えば88以下、例えば87以下、例えば86以下のオクタン価を有するガソリン燃料であり、オクタン価は、ASTM D2700-21に従って決定される。
【0082】
実施形態では、本明細書の潤滑剤との組合せに有用な石油燃料(単独で又はコブレンド燃料中で)は、40以上、例えば48以上、例えば50以上、例えば40~60、例えば45~55、例えば50~55のセタン価を有するディーゼル燃料であり、セタン価は、ASTM D613に従って決定される。代替的に、実施形態では、本明細書の潤滑剤との組合せに有用な石油燃料(単独で又はコブレンド燃料中で)は、60以下、例えば55以下、例えば50以下、例えば45以下のセタン価を有するディーゼル燃料であり、セタン価は、ASTM D613に従って決定される。
実施形態では、火花点火式内燃エンジン等の内燃エンジン用の燃料は、最大で100%の水素を含んでいてもよい。
【0083】
ACEを低減するための方法
本発明は、自動車内燃エンジンをエンジンの作動中に潤滑するための方法であって、
(i)本明細書に記載の潤滑組成物を自動車内燃エンジンのクランクケースに供給するステップ、
(ii)石油燃料、コブレンド燃料、及び/又はe燃料等の炭化水素燃料を自動車内燃エンジンに供給するステップ、
(iii)ディーゼルエンジン又は乗用車エンジン(例えば火花点火式燃焼エンジン、例えば火花点火式過給直接ガソリン噴射燃焼エンジン)等の火花点火式又は圧縮点火式の2ストローク又は4ストロークレシプロエンジン等の自動車内燃エンジンで燃料を燃焼させるステップ
を含む方法にも関する。
【0084】
本発明は、自動車内燃エンジンを内燃エンジンの作動中に潤滑するための方法であって、
(i)本明細書に記載の潤滑組成物を自動車内燃エンジンのクランクケース自動車クランクケースに供給するステップ、
(ii)炭化水素燃料(石油燃料及び/又は上記に記載の任意選択の燃料ブレンド製品を有するe燃料)を自動車内燃エンジンに供給するステップ、及び
(iii)自動車内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含む方法に関する。
実施形態では、燃料は、1つ又は複数の燃料ブレンド製品を含む。
実施形態では、エンジンは、8:1以上の圧縮比及び1.0:1未満の空気:燃料比を有する。
実施形態では、エンジンは、自動車内燃ディーゼルエンジン又は火花点火式ターボ過給エンジンである。
実施形態では、エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、少なくとも11:1の圧縮比を有する。
実施形態では、燃料は、93以上のオクタン価を有する石油燃料であり、エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、エンジンは、少なくとも14:1の圧縮比を有する。
実施形態では、高圧縮火花点火式エンジンは、スーパー過給エンジン又はターボ過給エンジンである。
【0085】
本明細書に示されているように、本明細書に記載の潤滑油配合物は、特に高圧縮火花点火式エンジンに有用であり、高圧縮火花点火式エンジンに使用される場合、エンジンノッキング及び過早点火問題を防止又は最小限に抑えることになる。高圧縮火花点火式エンジンとしては、例えば、スーパー過給エンジン及びターボ過給エンジン、特にコブレンド燃料を使用するものが挙げられる。高圧縮火花点火式エンジンは、少なくとも約11、好ましくは少なくとも約13、より好ましくは少なくとも約15の圧縮比を有する。
【0086】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも800ppmのMg(例えば、少なくとも1200ppmのMg)及び好ましくは500ppm未満のCaを提供する清浄剤、及び
(iii)0.12質量%よりも多くのリンを提供する少なくとも1つのリン含有化合物を含む異常燃焼事象抑制剤化合物
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 0W-X、SAE 5W-X、又はSAE 10W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記潤滑油組成物が88のオクタン価を有する燃料と共に使用される場合、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、1反復当たり175,000サイクルの少なくとも1反復を完了する、
方法に更に関する。
【0087】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料はコブレンド燃料を含み、好ましくはコブレンド燃料は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-プロパノール、プレノール、ジメチルフラン、メチルフラン、シクロペンタノン、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの1つ又は複数とブレンドされた炭化水素燃料又は水素燃料を含む、
方法に関する。
【0088】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)内燃エンジンは、火花点火式内燃エンジンであり、
4)燃料は、内燃エンジンの最低燃料オクタン価よりも少なくとも1(例えば少なくとも2、例えば少なくとも3、例えば少なくとも4、例えば少なくとも5)低いオクタン価であるオクタン価を有する、
方法に関する。
【0089】
本発明は、内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物を含む清浄剤であり、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されているか又は存在しない(例えば500ppm以下である))清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(例えば1つ又は複数のリン化合物、例えば潤滑油組成物の質量に基づき0.12質量%よりも多くの(例えば0.24質量%よりも多くの)リンを提供する1つ又は複数のリン化合物)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料は、水素燃料、e燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、
方法に関する。
【0090】
本発明は、内燃エンジンを潤滑し、エンジンの作動中の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)本明細書に記載の潤滑組成物を内燃エンジンのクランクケースに供給するステップ、
(ii)石油燃料、コブレンド燃料、及び/又はe燃料等の炭化水素燃料を内燃エンジンに供給するステップ、並びに
(iii)ディーゼルエンジン又は乗用車エンジン(例えば火花点火式燃焼エンジン、例えば火花点火式過給直接ガソリン噴射燃焼エンジン)等の火花点火式又は圧縮点火式の2ストローク又は4ストロークレシプロエンジン等の内燃エンジンで燃料を燃焼させるステップ
を含む方法にも関する。
【0091】
本発明は、内燃エンジンを潤滑し、エンジンの作動中の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)本明細書に記載の潤滑組成物を内燃エンジンのクランクケースに供給するステップ、
(ii)内燃エンジンにコブレンド燃料を供給するステップ、及び
(iii)ディーゼルエンジン又は乗用車エンジン(例えば火花点火式燃焼エンジン、例えば火花点火式過給直接ガソリン噴射燃焼エンジン)等の火花点火式又は圧縮点火式の2ストローク又は4ストロークレシプロエンジン等の内燃エンジンで燃料を燃焼させるステップ
を含み、
コブレンド燃料は、石油燃料及び燃料ブレンド製品の質量に基づき、
1)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の1つ又は複数の石油燃料、
2)1(例えば5、例えば10、例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の、ジ-イソブチレン、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノール、ジメチルフラン、及びメチルフランからなる群から選択される1つ又は複数の燃料ブレンド製品を含む(好ましい燃料ブレンド製品の例としては、ジ-イソブチレン、メタノール、エタノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エタノールのフーゼルアルコールブレンド、イソブタノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノール、並びにジメチルフラン及びメチルフランのフランブレンドが挙げられる)、
方法にも関する。
【0092】
本明細書に記載の潤滑剤は、内燃エンジンにおいてコブレンド燃料等の燃料と組み合わせると、異常燃焼事象を低減することができる。ACE抑制剤に由来するPが、潤滑油組成物の質量に基づき0.08質量%で存在することを除いて同じである配合物と比較して、下記に記載のシーケンスIX試験により測定して、例えば、LSPIの50%(例えば75%、例えば90%)以上の低減を得ることができる。
本明細書に記載の潤滑剤は、内燃エンジンにおいてコブレンド燃料等の燃料と組み合わせると、異常燃焼事象を、下記に記載のシーケンスIX試験により測定して、例えば3回以下、例えば2回以下、例えば1.75回以下、例えば1.5回以下、例えば1回以下、例えばゼロ回の平均LSPI事象に低減することができる。
本明細書に記載の潤滑剤は、内燃エンジンにおいてコブレンド燃料等の燃料と組み合わせると、例えばゼロ回のノッキング事象を示す等、異常燃焼事象を低減することができる。
【0093】
本明細書に記載の潤滑剤は、内燃エンジンにおいて、90(例えば87、例えば85、例えば83)以下のオクタン価を有する、コブレンド燃料等の燃料と組み合わせると、異常燃焼事象を、下記に記載のシーケンスIX試験により測定して、例えば3回以下、例えば2回以下、例えば1.75回以下、例えば1.5回以下、例えば1回以下、例えばゼロ回の平均LSPI事象に低減することができる。
本明細書に記載の潤滑剤は、内燃エンジンにおいて、90(例えば87、例えば85、例えば83)以下のオクタン価を有する、コブレンド燃料等の燃料と組み合わせると、ACE抑制剤に由来するPが潤滑油組成物の質量に基づき0.08質量%で存在することを除いて同じである配合物と比較して、ノッキング事象を低減又は排除することができる。
本明細書に記載の潤滑剤は、内燃エンジンにおいて、84(例えば85、例えば87、例えば88、例えば89、例えば90、例えば91、例えば92、例えば93、例えば94、例えば95)以上のオクタン価を有する、コブレンド燃料等の燃料と組み合わせると、下記に記載のシーケンスIX試験により測定して、少数回又はゼロ回の異常燃焼事象、例えば3回以下、例えば2回以下、例えば1.75回以下、例えば1.5回以下、例えば1回以下、例えばゼロ回の平均LSPI事象を示すことができる。
【0094】
本明細書に記載の潤滑剤は、内燃エンジンにおいて、コブレンド燃料等の燃料と組み合わせると、下記に記載のシーケンスIX試験により測定して、少数回又はゼロ回の異常燃焼事象、例えば3回以下、例えば2回以下、例えば1回以下、例えば0.5回以下、例えば0.05回以下、例えばゼロ回のピーク圧力事象を示すことができる。
実施形態では、本明細書の潤滑剤との組合せに有用な、コブレンド燃料(任意選択で、石油燃料及び燃料ブレンド製品の質量に基づき、少なくとも10(例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の1つ又は複数の燃料ブレンド製品(ジ-イソブチレン、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、3-メチル-1-ブタノール、ジメチルフラン、及びメチルフランからなる群から選択されるもの等)は、84以上、85以上、例えば88以上、例えば90以上、例えば91以上、例えば92以上、例えば93以上のオクタン価を有してもよく、オクタン価は、ASTM D2700-21に従って決定される。
実施形態では、本明細書の潤滑剤との組合せに有用なコブレンド燃料は、40以上、例えば48以上、例えば50以上、例えば40~60、例えば45~55、例えば50~55のセタン価を有してもよく、セタン価は、ASTM D613に従って決定される。
水素燃焼内燃エンジンにより駆動される車両は、乗用車、小型トラック、大量輸送車両、並びに中型及び大型トラック輸送等に応用される。本明細書に記載の潤滑剤組成物は、水素内燃エンジンに使用することができる。
【0095】
本発明は、内燃エンジンをエンジンの作動中に潤滑するための方法であって、
(i)本明細書に記載の潤滑組成物を水素燃焼内燃エンジンのクランクケースに供給するステップ、
(ii)水素燃焼内燃エンジンに水素燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含む方法にも関する。
【0096】
実施形態では、水素燃料は、10(例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)質量%以上の水素を含んでいてもよい。代替的には、水素燃料は、100質量%の水素を含んでもよい。
実施形態では、水素燃料は、炭化水素燃料(任意選択でエアロゾル化形態の、石油燃料又は上記に記載の炭化水素e燃料等)と組み合わされており、10(例えば15、例えば20、例えば25、例えば30、例えば40、例えば50、例えば60、例えば70、例えば75、例えば80、例えば90、例えば95、例えば99)容積%~99.9容積%の水素を含んでいてもよく、残部は炭化水素燃料(石油燃料及び/又はe燃料)である。代替的には、水素燃料は、0.1~99.9容積%(例えば、1~75容積%、例えば5~50容積%)の水素、並びに99~1容積%(例えば99~25容積%、例えば95~50容積%)の石油燃料及び/又は炭化水素e燃料を含んでいてもよい。
【0097】
実施形態では、水素燃料は、0.1~99.9容積%(例えば1~75容積%、例えば5~50容積%)の水素及び99.9~0.1容積%(例えば99~25容積%、例えば95~50容積%)の圧縮天然ガスの容積で、圧縮天然ガスと組み合わせてもよい。
実施形態では、水素燃料は、水素が0.1~20容積%(例えば1~15容積%、例えば2~12容積%、例えば4~10容積%)で存在し、圧縮天然ガスが80~99.9容積%(例えば99~85容積%、例えば98~88容積%)で存在する水素圧縮天然ガスであってもよい。
代替的には、LOCを、88(代替的に75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、又は87)のオクタン価を有するガソリン燃料と組み合わせると、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、少なくとも1回(例えば少なくとも2回、例えば少なくとも3回、例えば少なくとも4回、例えば4回)の、1反復当たり175,000サイクルの反復を完了する。
【0098】
成分
A. 基油
本明細書で有用な基油(「ベースストック」又は「潤滑粘度の油」とも呼ばれる)は、単一の油であってもよく又は油のブレンドであってもよく、典型的には、潤滑剤とも呼ばれる潤滑組成物の大きな液体成分であり、それに対して、例えば最終潤滑剤組成物、濃縮物、又は他の潤滑組成物等の潤滑組成物を生産するために添加剤及び任意選択で追加の油がブレンドされる。
基油は、植物油、動物油、鉱物油、合成潤滑油、及びそれらの混合物から選択することができる。基油は、粘度が、軽質留分鉱物油から、ガスエンジン油、鉱物潤滑油、自動車油、及び大型ディーゼル油等の重質潤滑油まで多岐にわたり得る。一般に、基油の100℃における動粘度(「KV100」)は、ASTM D445-19aに従って決定して、1~30、例えば2~25cSt、例えば5~20cSt、特に、1.0cSt~10cSt、1.5cSt~3.3cSt、2.7cSt~8.1cSt、3.0cSt~7.2cSt、又は2.5cSt~6.5cStの範囲である。一般に、基油の150℃及び1.0×106-1剪断速度での高温高剪断粘度(HTHS)は、0.5~20cP、例えば1~10cP、例えば2~5cPの範囲である(ASTM D4683-20に従って決定される)。
【0099】
典型的には、潤滑油ベースストックを使用して濃縮物を製作する場合、潤滑油ベースストックは、有利には、濃縮物の質量に基づき、5質量%~80質量%、10質量%~70質量%、又は5質量%~50質量%の活性成分を含む濃縮物をもたらす濃縮物形成量で存在してもよい。
基油として有用な一般的な油としては、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、液体石油、並びにパラフィン系、ナフテン系、及びパラフィン系-ナフテン系混合タイプの水素化精製及び/又は溶媒処理鉱物潤滑油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する油も有用な基油である。ベースストックは、これらに限定されないが、蒸留、溶媒精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化、及び再精製を含む、様々な異なるプロセスを使用して製造することができる。
基油として本明細書で有用な合成潤滑油としては、ポリアルファオレフィン又はPAO又はグループIV基油と呼ばれる、単独重合及び共重合オレフィン等の炭化水素油が挙げられる(API EOLCS 1509定義による(米国石油協会出版物1509、セクションE.1.3、第19版、2021年1月、www.API.org)を参照)。基油として有用なPAOの例としては、ポリ(エチレン)、エチレン及びプロピレンのコポリマー、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)、C8~C20アルケンのホモポリマー又はコポリマー、C8及び/又はC10及び/又はC12アルケンのホモポリマー又はコポリマー、C8/C10コポリマー、C8/C10/C12コポリマー、並びにC10/C12コポリマー、並びにそれらの誘導体、類似体、及び同族体が挙げられる。
【0100】
別の実施形態では、基油は、100℃で10以上の動粘度(ASTM D445により測定される)を有し、好ましくは、ASTM D2270により決定して、100以上、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、より好ましくは130以上、より好ましくは140以上の粘度指数(「VI」)を有し、及び/又は-5℃以下(ASTM D97により測定される)、より好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下の流動点を有する、6~14個の炭素原子、より好ましくは8~12個の炭素原子、より好ましくは10個の炭素原子を有する直鎖状オレフィンのオリゴマーを含むポリアルファオレフィンを含む。
【0101】
別の実施形態では、本発明で有用なポリアルファオレフィンオリゴマーは、C20~C1500パラフィン、好ましくはC40~C1000パラフィン、好ましくはC50~C750パラフィン、好ましくはC50~C500パラフィンを含む。PAOオリゴマーは、一実施形態では、C5~C14アルファ-オレフィン、及び別の実施形態ではC6~C12アルファ-オレフィン、及び別の実施形態ではC8~C12アルファ-オレフィンの二量体、三量体、四量体、五量体等である。好適なオレフィンとしては、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、及び1-ドデセンが挙げられる。一実施形態では、オレフィンは1-デセンであり、PAOは、1-デセンの二量体、三量体、四量体、及び五量体(及びより高次体)の混合物である。有用なPAOは、例えば、米国特許第5,171,908号明細書及び第5,783,531号明細書、並びにSynthetic Lubricants and High-Performance Functional Fluids 1~52頁(Leslie R.Rudnick&Ronald L.Shubkin編 Marcel Dekker,Inc.1999年)により詳細に記載されている。
本発明において有用なPAOは、典型的には、一実施形態では100~21,000g/mol、別の実施形態では200~10,000g/mol、更に別の実施形態では200~7,000g/mol、更に別の実施形態では200~2,000g/mol、更に別の実施形態では200~500g/molの数平均分子量を有する。望ましいPAOは、SpectraSyn(商標)Hi-Vis、SpectraSyn(商標)Low-Vis、SpectraSyn(商標)plus、SpectraSyn(商標)Elite PAO(ExxonMobil Chemical Company社、テキサス州ヒューストン)及びIneos Oligomers USA LLC社のDurasyn PAOとして市販されている。
【0102】
基油として有用な合成潤滑油としては、単独重合及び共重合の、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド;並びにそれらの誘導体、類似体、及び同族体等の炭化水素油も挙げられる。
基油として有用な合成潤滑油の別の好適な種類は、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)と反応させた、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸(sebasic acid)、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)のエステルを含む。こうしたエステルの特定の例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより形成される複合エステルが挙げられる。
【0103】
本明細書にて合成油として有用なエステルとしては、C5~C12モノカルボン酸及びポリオールから製作されるもの、並びにポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、及びトリペンタエリトリトールも挙げられる。
【0104】
望ましいエステル基油は、Esterex(商標)エステル(ExxonMobil Chemical Company社、テキサス州ヒューストン)として市販されている。
ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-、又はポリアリールオキシシリコーン油及びシリケート油等のケイ素ベース油は、本明細書で有用な別の有用な種類の合成潤滑剤を構成する。そのような油としては、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、及びポリ(メチルフェニル)-シロキサンが挙げられる。
本明細書で有用な他の合成潤滑油としては、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デシルホスホン酸のジエチルエステル)、及びポリマー性テトラヒドロフランが挙げられる。
【0105】
未精製油、精製油、及び再精製油を、本発明の潤滑組成物に使用することができる。未精製油は、更なる精製処理を行わずに天然供給源又は合成供給源から直接得られる油である。例えば、レトルト操作から直接得られるシェールオイル、蒸留から直接得られる石油、又はエステル化プロセスから直接得られ、更なる処理を行わずに使用されるエステル油は、未精製油とみなされる。精製油は、1つ又は複数の特性を向上させるために1つ又は複数の精製ステップで更に処理されていることを除いて、未精製油と同様である。蒸留、溶媒抽出、酸又は塩基抽出、濾過、及びパーコレーション等の多くのそのような精製技法が当業者により使用されている。再精製油は、以前に役務に使用されていた以前の精製油に精製プロセスが適用される、精製油を得るために使用されるプロセスと同様のプロセスにより得られる油である。そのような再精製油は、再生油又は再処理油とも呼ばれ、多くの場合、廃添加剤及び油分解産物を除去するために追加処理される。再精製基油は、好ましくは、製造、夾雑、又は以前の使用により導入された物質を実質的に含まない。
有用な基油の他の例は、ガス液化(GTL)基油であり、つまり基油は、フィッシャー-トロプシュ触媒を使用して、H2及びCOを含む合成ガス(「synガス」)から製作される炭化水素に由来する油である。こうした炭化水素は、基油として有用なものにするためには、典型的には更なる処理が必要である。例えば、こうした炭化水素を、当技術分野で公知の方法により、水素異性化してもよく、水素化分解及び水素異性化してもよく、脱ろうしてもよく、又は水素異性化及び脱ろうしてもよい。有用なGTL基油及びそれらのブレンドの更なる情報は、米国特許第10,913,916号明細書(第4欄62行目~第5欄60行目)及び第10,781,397号明細書(第14欄54行目~第15欄5行目、及び第16欄44行目~第17欄55行目)を参照されたい。
特に、再生可能資源に由来する油、つまり生物資源等の環境から捕捉された炭素及びエネルギーに部分的に基づく油は、本明細書において有用である。
【0106】
種々の基油は、多くの場合、API EOLCS 1509定義(米国石油協会出版物1509、セクションE.1.3、第19版、2021年1月、www.API.orgを参照)に従ってグループI、II、III、IV、又はVに分類される。一般的に言えば、グループIベースストックは、約80~120の粘度指数を有し、約0.03%よりも多くの硫黄及び/又は約90%未満の飽和物を含む。グループIIベースストックは、約80~120の粘度指数を有し、約0.03%以下の硫黄及び約90%以上の飽和物を含む。グループIIIベースストックは、約120よりも高い粘度指数を有し、約0.03%以下の硫黄及び約90%よりも多くの飽和物を含む。グループIVベースストックとしては、ポリアルファオレフィン(PAO)が挙げられる。グループVベースストックとしては、グループI~IVに含まれないベースストックが挙げられる。(粘度指数はASTM D2270により測定され、飽和物はASTM D2007により測定され、硫黄はASTM D2622、ASTM D4294、ASTM D4927、及びASTM D3120により測定される)。
【0107】
本開示で有用な配合潤滑組成物に使用するための基油は、本明細書に記載の様々な油のいずれか1つ、2つ、3つ、又はそれよりも多い。望ましい実施形態では、本開示で有用な配合潤滑組成物に使用するための基油は、APIグループI、グループII、グループIII(グループIII+を含む)、グループIV、及びグループVの油として記載されているもの並びにそれらの混合物、好ましくはAPIグループII、グループIII、グループIV、及びグループVの油並びにそれらの混合物、より好ましくは、それらの優れた揮発性、安定性、粘度、及び清浄性特徴のため、グループIII、グループIII+、IV、及びグループVの基油である。ブレンドして配合潤滑油製品にするための添加剤を希釈するために使用される量等の、少量のグループIベースストックは許容することができるが、典型的には最低限に、例えば「受領時」基準の使用される添加剤の希釈剤/キャリア油としての使用にのみ関連する量に抑えられる。グループIIストックに関しては、グループIIベースストックは、そのストックに関連してより高品質の範囲にあること、つまり100~120の範囲の粘度指数を有するグループIIストックであることがより有用である。
【0108】
本明細書で有用な基油は、合成油、天然油、又は再精製油(火花点火式エンジン及び圧縮点火式エンジンのクランクケース潤滑油として典型的に使用されるもの等)のいずれかから選択することができる。必要に応じて、合成基油及び/又は天然基油及び/又は再精製基油の混合物を使用してもよい。必要に応じて、グループI、II、III、IV、及び/又はVベースストックの多峰混合物(二峰混合物又は三峰混合物等)を使用してもよい。
本明細書で使用される基油又は基油ブレンドは、従来は、100℃で約2~約40cSt、代替的に3~30cSt、代替的に4~20cSt、代替的に5~10cStの100℃動粘度(KV100、ASTM D445-19aに従って測定され、センチストーク(cSt)又はそれに相当するmm2/秒の単位で報告される)を有し、代替的に、基油又は基油ブレンドは、2~20cSt、2.5~2cSt、好ましくは約2.5cSt~約9cStの100℃動粘度を有してもよい。
基油又は基油ブレンドは、ASTM D2007により決定して、好ましくは、少なくとも65質量%、より好ましくは少なくとも75質量%、例えば少なくとも85質量%、例えば90質量%よりも多くの飽和含有量を有する。
好ましくは、基油又は基油ブレンドは、ASTM D2622により測定して、潤滑組成物の総質量に基づき、1質量%未満、好ましくは0.6質量%未満、最も好ましくは0.4質量%未満、例えば0.3質量%未満の硫黄含有量を有することになる。
【0109】
実施形態では、基油又は基油ブレンドの揮発性は、Noack試験(ASTM D5800、手順B)により測定して、潤滑組成物の総質量に基づき、30質量%以下、例えば25質量%以下、例えば20質量%以下、例えば16質量%以下、例えば12質量%以下、例えば10質量%以下である。
実施形態では、基油の粘度指数(VI)は、少なくとも95、好ましくは少なくとも110、より好ましくは少なくとも120、更により好ましくは少なくとも125、最も好ましくは約130~240、特に約105~140である(ASTM D2270により決定される)。
基油は、潤滑剤を構成する少量の後述する1つ又は複数の添加剤成分と組み合わせて多量にて提供してもよい。この調製は、添加剤を油に直接添加することにより、又は1つ若しくは複数の添加剤をそれらの濃縮物の形態で添加し、添加剤を分散若しくは溶解させることにより達成することができる。添加剤は、他の添加剤の添加前、添加と同時に、又は添加後のいずれかで、当業者に公知の任意の方法により油に添加することができる。
基油は、添加剤濃縮物を構成する少量の後述する1つ又は複数の添加剤成分と組み合わせて少量にて提供してもよい。この調製は、添加剤を油に直接添加することにより、又は1つ若しくは複数の添加剤をそれらの溶液、スラリー、若しくは懸濁物の形態で添加し、添加剤を油に分散若しくは溶解させることにより達成することができる。添加剤は、他の添加剤の添加前、添加と同時に、又は添加後のいずれかで、当業者に公知の任意の方法により油に添加することができる。
【0110】
基油は、典型的には、本開示のエンジン油潤滑剤組成物の主成分を構成し、典型的には、組成物の総質量に基づき、約50~約99質量パーセント、好ましくは約70~約95質量パーセント、より好ましくは約80~約95質量パーセントの範囲の量で存在する。
典型的には、1つ又は複数の基油は、潤滑組成物の総質量に基づき、32質量%以上、代替的に55質量%以上、代替的に60質量%以上、代替的に65質量%以上の量で潤滑組成物中に存在する。典型的には、1つ又は複数の基油は、98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更により好ましくは90質量%以下の量で潤滑組成物中に存在する。代替的には、1つ又は複数の基油は、潤滑組成物の質量に基づき、1~99質量%、代替的に50~97質量%、代替的に60~95質量%、代替的に70~95質量%で潤滑組成物中に存在する。
上記に記載の基油及びそれらのブレンドは、濃縮物の製作にも、並びにそれらからの潤滑剤の製作にも有用である。
【0111】
濃縮物は、使用前の添加剤取扱い、並びに潤滑剤への添加剤の溶解又は分散を容易にする便利な手段である。1つよりも多くのタイプの添加剤(「添加剤成分」と呼ばれることもある)を含む潤滑剤を調製する場合、各添加剤は、各々濃縮物の形態で別々に組み込むことができる。しかしながら、多くの場合では、後述するような1つ又は複数の共添加剤を単一の濃縮物中に含む、いわゆる添加剤「パッケージ」(「アドパック」とも呼ばれる)を提供するのが好都合である。
【0112】
B. 異常燃焼事象抑制剤成分
ケイ素、ナトリウム、リン、ホウ素、モリブデン、及びカルシウムの質量%は、ASTM 5185により決定される。
異常燃焼事象ACE抑制剤化合物は、潤滑油組成物の質量に基づき、少なくとも0.9(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%の、P、Si、Mo、及びBの1つ又は複数(好ましくは少なくとも0.9質量%のリン)を潤滑油組成物に提供する、清浄剤でも分散剤でもない化合物であると規定される。潤滑油組成物中の異常燃焼事象ACE抑制剤化合物の質量%を決定する目的では、ACE抑制剤化合物は、清浄剤及び分散剤を含まないものとする。潤滑油組成物中の異常燃焼事象ACE抑制剤化合物によりLOCに提供されるP、Si、Mo、及びBの質量%を決定する目的では、たとえ清浄剤及び分散剤中のSi、Mo、B、又はP(任意のホウ酸化清浄剤若しくは分散剤により提供されるホウ素、又はフェネート清浄剤により寄与されるリン等)が潤滑油組成物中のB、Si、P、及びMoの総量に寄与する場合であっても、ACE抑制剤化合物は、清浄剤及び分散剤を含まないものとする。好ましい実施形態では、異常燃焼事象ACE抑制剤化合物は、潤滑油組成物の質量に基づき0.9(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.1740、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のPを潤滑油組成物に、並びにSi、Mo、及びBの1つ又は複数を提供し、任意選択で0.21質量%以上のSi、Mo、及びBをLOCに提供する。
【0113】
異常燃焼事象ACE抑制剤化合物としては、金属アルキルチオホスフェート、金属アリールチオホスフェート、及び金属アルキルアリールチオホスフェート(例えば、金属ジアリールジチオホスフェート、例えば金属ジアルキルジチオホスフェート、例えばジアリールジチオリン酸亜鉛、及びジアルキルジチオリン酸亜鉛等)が挙げられる。
ACE抑制剤リン含有化合物は、潤滑油組成物の質量に基づき、少なくとも0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.24、0.3、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリンを潤滑油組成物に提供する1つ又は複数のリン含有化合物であると規定される。ACE抑制剤リン含有化合物は、ACE抑制のためにリンを提供することに加えて、耐磨耗及び抗酸化効果を提供するように機能するZDDP等、1つよりも多くの機能を有する化合物であってもよい。
【0114】
潤滑油組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.24、0.3、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン、ホウ素、モリブデン、及びケイ素を含んでいてもよい。
代替的には、潤滑組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、又は4.0)~10(例えば、9、8、7、6、又は5)質量%のリン、ホウ素、モリブデン、及びケイ素を含んでいてもよい。
代替的には、潤滑組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリンを含む(好ましくは、リンは、金属アルキルチオホスフェート(ZDDP等)に由来する)。
代替的には、潤滑組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、又は4.0)~10(例えば、9、8、7、6、又は5)質量%のリンを含んでいてもよい。
【0115】
代替的には、潤滑組成物は、0.09(例えば、0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリンを含み、1500ppm未満、例えば1000ppm未満、例えば500質量%未満(例えば300質量%未満)のCa及びNaを含む。
代替的には、潤滑組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛に由来する0.09(0.10、0.12、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリンを含み、1500ppm未満、例えば1000ppm未満、例えば500質量%未満(例えば300質量%未満)のCa及びNaを含む。
代替的には、潤滑組成物は、0.12(例えば、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン、ホウ素、モリブデン、及びケイ素を含み、1500ppm未満、例えば1000ppm未満、例えば500質量%未満(例えば300質量%未満)のCaを含む。
代替的には、潤滑組成物は、0.12(例えば、0.15、0.17、0.2、0.4、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0)質量%以上のリン(好ましくは金属アルキルチオホスフェート、例えばZDDPに由来する)を含み、500ppm未満(例えば300ppm未満)質量%のCaを含む。
【0116】
好適なACE抑制剤化合物の非限定的な例としては、ジチオホスフェートの金属(例えば、Pb、Sb、Mo、及びZn等)塩(ジチオリン酸亜鉛等)、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩、ジシクロペンタジエン及びチオリン酸の反応産物、並びにそれらの組合せが挙げられる。
実施形態では、ACE抑制剤化合物は、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩であるか又はそれを含み、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩の金属は、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、又は銅等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属(亜鉛等)であってもよく、ヒドロカルビル基はアルキル基又はアリール基である。実施形態では、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩のヒドロカルビル基は、約3~約22個の炭素原子、約4~約18個の炭素原子、約4~約12個の炭素原子、又は約3~約8個の炭素原子を有する同じ又は異なる直鎖状、環状、及び/又は分枝鎖状アルキル基を含む。更なる実施形態では、アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状である。実施形態では、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は、1つ又は複数のジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物である。代替的には、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩のヒドロカルビル基は、約3~約22個の炭素原子、約4~約18個の炭素原子、約5~約12個の炭素原子、又は約6~約12個の炭素原子を有する同じ又は異なる置換又は非置換の環状(例えばアリール)基を含む。代替的には、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩のヒドロカルビル基は、上記に記載の同じ若しくは異なる置換若しくは非置換の環状(例えばアリール)基、並びに/又は同じ若しくは異なる直鎖状、環状、及び/若しくは分岐鎖状アルキル基を含む。
【0117】
また、有用なACE抑制剤化合物としては、置換又は非置換チオリン酸が挙げられ、それらの塩としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛、及び/又はアルキルアリールジチオリン酸亜鉛から選択されるジチオリン酸亜鉛化合物等の亜鉛含有化合物が挙げられる。
【0118】
金属アルキルチオホスフェート及びより詳細には金属成分が亜鉛である金属ジアルキルジチオホスフェート又はジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)は、有用なACE抑制剤化合物であり得る。ZDDPは、第一級アルコール、第二級アルコール、又はそれらの混合物から誘導することができる。ZDDP化合物は、一般に、式Zn[SP(S)(OR1)(OR2)]2のものであり、式中、R1及びR2は、C1~C18アルキル基、例えばC2~C12アルキル基、例えばC3~C8アルキル基、代替的にC8~C18基、例えばメチル エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、ウンデシル、ドデシル、及びそれらの異性体、例えばイソプロピル、イソブチル、イソアミル、イソヘキシル、イソヘプチル、イソオクチル、イソノニル、イソデシル、イソウンデシル、イソドデシル、メチル-プロピル、メチル-ブチル、メチル-ペンチル、及びエチル-ヘキシル(例えば、2-メチル-プロピル、2-メチル-ブチル、4-メチル-ペンチル、2-エチル-ヘキシル)である。こうしたアルキル基は、直鎖状であってもよく又は分枝鎖状であってもよく、同じであってもよく又は異なっていてもよい。アルキル基を提供するZDDP生産プロセスで使用されるアルコールは、直鎖状又は分枝鎖状のC2~C20(例えばC3~C12)アルコール、例えばプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、及びオクタノール、例えば直鎖状C2~C20(例えばC3~C12)アルコール(例えば、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール)、例えば分岐鎖状C2~C20(C3~C12)アルコール、例えば第二級ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール(例えば、4-メチル-2-ペンタノール、イソ-オクタノール、イソプロパノール、2-エチルヘキサノール、イソ-ヘキサノール、イソ-ブタノール、2-エチルヘキサノール、2-メチル-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-プロパノール)、及びアルキル化フェノール等であってもよい。第二級アルコール、第二級アルコールの混合物、又は第一級アルコール及び第二級アルコールの混合物、例えばC2~C18第二級アルコールの又は第一級アルコール及び第二級アルコールの混合物を使用することができる。実施形態では、アルコールは、C6~8アルコールを含むかもしくはC6~8アルコールであるか、又はヘキサノール、メチル-ペンタノール、オクタノール、及び/若しくはイソオクタノール等の少なくとも1つのC6~8アルコールを含むアルコールの混合物である。実施形態では、アルコールは、C8アルコールを含むか若しくはC8アルコールであるか、又はオクタノール及び/若しくはイソオクタノール等の少なくとも1つのC8アルコールを含むアルコールの混合物である。有用なジチオリン酸亜鉛としては、The Lubrizol Corporation社から商品名「LZ 677A」、「LZ 1095」、及び「LZ 1371」で市販されているもの、Chevron Oronite社から商品名「OLOA 262」で市販されているもの、及びAfton Chemical社から商品名「HiTEC(商標)7169」で市販されているもの等の第二級ジチオリン酸亜鉛が挙げられる。
【0119】
本発明による潤滑組成物は、清浄剤、摩擦調整剤、抗酸化剤、流動点降下剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、極圧添加剤、抗乳化剤、シール適合剤、添加剤希釈基油等の1つ又は複数の添加剤を更に含んでいてもよい。そのような添加剤の特定の例は、例えば、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、第14巻、477~526頁に記載されており、幾つかは下記で更に詳細に考察されている。
【0120】
C. 清浄剤
潤滑組成物は、「清浄剤添加剤」とも呼ばれる1つ又は複数の金属清浄剤(金属清浄剤のブレンド等)を含んでいてもよい。金属清浄剤は、典型的には、堆積物を低減又は除去するための清浄剤及び酸中和剤又は防錆剤の両方として機能し、それにより摩耗及び腐食を低減し、エンジン寿命を延長する。清浄剤は、一般に、長鎖疎水性尾部を有する極性頭部を含み、極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。こうした塩は、実質的に化学量論量の金属を含んでいてもよく、その場合、こうした塩は、通常は正塩又は中性塩であると記述され、典型的には、最大で150mg KOH/gの、例えば0~80(又は5~30)mg KOH/gの全塩基価(ASTM D2896により測定される「TBN」)を有するだろう。過剰な金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることにより、大量の金属塩基を組み込むことができる。そのような清浄剤は、過塩基性と呼ばれることもあり、100mg KOH/g以上(例えば、200mg KOH/g以上)のTBNを有してもよく、典型的には、250mg KOH/g以上、例えば、300mg KOH/g以上、例えば200~800mg KOH/g、225~700mg KOH/g、250~650mg KOH/g、又は300~600mg KOH/g、例えば150~650mg KOH/gのTBNを有するだろう。
【0121】
好適な清浄剤としては、金属、特にアルカリ金属(第1族金属、例えば、Li、Na、K、Rb)又はアルカリ土類金属(第2族金属、例えばBe、Mg、Ca、Sr、Ba)、特にナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウム、例えばCa及び/又はMgの油溶性中性及び過塩基性スルホン酸塩、フェネート(phenate)、硫化フェネート(sulfurized phenate)、チオホスホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、及び他の油溶性カルボン酸塩が挙げられる。更に、清浄剤は、スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリシレート、及びナフテネートのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、若しくはマグネシウム塩、又は第1族及び/若しくは第2族金属の他の油溶性カルボン酸塩の任意の組合せを含むハイブリッド清浄剤を含んでいてもよい。
【0122】
好ましくは、本発明で有用な清浄剤添加剤は、カルシウム及び/又はマグネシウム金属塩を含む。清浄剤は、カルボン酸カルシウム及び/又はカルボン酸マグネシウム(例えば、サリチル酸塩)、スルホン酸塩、又はフェネート清浄剤であってもよい。より好ましくは、清浄剤添加剤は、サリチル酸マグネシウム、サリチル酸カルシウム、スルホン酸マグネシウム、スルホン酸カルシウム、マグネシウムフェネート(magnesium phenate)、カルシウムフェネート(calcium phenate)、及びこうした清浄剤の2つ、3つ、4つ、又はそれよりも多くを含むハイブリッド清浄剤、並びに/又はそれらの組合せから選択される。
また、金属含有清浄剤としては、例えば、米国特許第6,429,178号明細書;第6,429,179号明細書;第6,153,565号明細書;及び第6,281,179号明細書に記載の、フェネート及び/又はスルホネート成分、例えばフェネート/サリシレート、スルホネート/フェネート、スルホネート/サリシレート、スルホネート/フェネート/サリシレートを含む混合界面活性剤系で形成される「ハイブリッド」清浄剤も挙げることができる。例えば、ハイブリッドスルホネート/フェネート清浄剤が使用される場合、ハイブリッド清浄剤は、それぞれ同様の量のフェネート石鹸及びスルホネート石鹸を導入する、個別のフェネート清浄剤及びスルホネート清浄剤の量と等価であるとみなされるだろう。
【0123】
過塩基性金属含有清浄剤は、フェネート、硫黄含有フェネート、スルホネート、サリキサレート、及びサリシレートのナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、又はそれらの混合物であってもよい。過塩基性フェネート及びサリシレートは、典型的には、180~650mg KOH/g、例えば200~450TBN mg KOH/gの全塩基価を有する。過塩基性スルホネートは、典型的には、250~600mg KOH/g、又は300~500mg KOH/gの全塩基価を有する。実施形態では、スルホネート清浄剤は、米国特許出願第2005/065045号明細書(米国特許第7,407,919号として権利付与)の段落[0026]~[0037]に記載のように、主として少なくとも8の金属比を有する直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩清浄剤であってもよい。過塩基性清浄剤は、潤滑組成物に基づき、0質量%~15質量%、又は0.1質量%~10質量%、又は0.2質量%~8質量%、又は0.2質量%~3質量%で存在してもよい。例えば、大型ディーゼルエンジンでは、清浄剤は、潤滑組成物の2質量%~3質量%で存在してもよい。乗用車エンジンの場合、清浄剤は、潤滑組成物の0.2質量%~1質量%で存在してもよい。
【0124】
清浄剤添加剤は、1つ又は複数のスルホン酸マグネシウム清浄剤を含んでもよい。マグネシウム清浄剤は、中性塩であってもよく又は過塩基性塩であってもよい。好適には、マグネシウム清浄剤は、80~650mg KOH/g(ASTM D2896)、例えば200~500mg KOH/g、例えば240~450mg KOH/gのTBNを有する過塩基性スルホン酸マグネシウムである。
代替的には、清浄剤添加剤は、サリチル酸マグネシウムである。好適には、マグネシウム清浄剤は、30~650mg KOH/g(ASTM D2896)、例えば50~500mg KOH/g、例えば200~500mg KOH/g、例えば240~450mg KOH/gの、又は代替的に150mg KOH/g以下、例えば100mg KOH/g以下のTBNを有するサリチル酸マグネシウムである。
代替的には、清浄剤添加剤は、サリチル酸マグネシウム及びスルホン酸マグネシウムの組合せである。
マグネシウム清浄剤は、その潤滑組成物に、200~4000ppmのマグネシウム原子、好適には200~2000ppm、300~1500ppm、又は450~1200ppmのマグネシウム原子を提供する(ASTM D5185)。
【0125】
清浄剤組成物は、1つ又は複数のスルホン酸マグネシウム清浄剤及び1つ又は複数のサリチル酸カルシウム清浄剤の組合せを含んでいてもよい(又はからなっていてもよい)。
1つ又は複数のスルホン酸マグネシウム清浄剤及び1つ又は複数のサリチル酸カルシウム清浄剤の組合せは、その潤滑組成物に、1)200~4000ppmのマグネシウム原子、好適には200~2000ppm、300~1500ppm、又は450~1200ppmのマグネシウム原子(ASTM D5185)、及び2)少なくとも500ppm、好ましくは少なくとも750ppm、より好ましくは少なくとも900ppmの原子状カルシウム、例えば500~4000ppm、好ましくは750~3000ppm、より好ましくは900~2000ppmの原子状カルシウム(ASTM D5185)を提供する。
清浄剤は、1つ又は複数のカルシウム清浄剤、例えばカルボン酸(例えば、サリチル酸)カルシウム、スルホン酸カルシウム、又はカルシウムフェネート清浄剤を含んでいてもよい。
好適には、カルシウム清浄剤は、30~700mg KOH/g(ASTM D2896)、例えば50~650mg KOH/g、例えば200~500mg KOH/g、例えば240~450mg KOH/gの、又は代替的に150mg KOH/g以下、例えば100mg KOH/g以下、又は200mg KOH/g以上、若しくは300mg KOH/g以上、若しくは350mg KOH/g以上のTBNを有する。
【0126】
好適には、カルシウム清浄剤は、30~700mg KOH/g、30~650mg KOH/g(ASTM D2896)、例えば50~650mg KOH/g、例えば200~500mg KOH/g、例えば240~450mg KOH/g、又は代替的に150mg KOH/g以下、例えば100mg KOH/g以下、又は200mg KOH/g以上、若しくは300mg KOH/g以上、若しくは350mg KOH/g以上のTBNを有するサリチル酸カルシウム、スルホン酸カルシウム、又はカルシウムフェネートである。
カルシウム清浄剤は、典型的には、少なくとも500ppm、好ましくは少なくとも750、より好ましくは少なくとも900ppmの原子状カルシウムを潤滑油組成物に提供するのに十分な量で存在する(ASTM D5185)。存在する場合、あらゆるカルシウム清浄剤は、好適には、4000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下の原子状カルシウムを潤滑油組成物に提供するのに十分な量で存在する(ASTM D5185)。存在する場合、あらゆるカルシウム清浄剤は、好適には、500~4000ppm、好ましくは750~3000ppm、より好ましくは900~2000ppmの原子状カルシウムを潤滑油組成物に提供するのに十分な量で存在する(ASTM D5185)。
好適には、本発明の全ての態様による潤滑組成物中の清浄剤に由来する金属の総原子量は、5000ppm以下、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下である(ASTM D5185)。本発明の全ての態様による潤滑油組成物中の清浄剤に由来する金属原子の総量は、好適には、少なくとも500ppm、好ましくは少なくとも800ppm、より好ましくは少なくとも1000ppmである(ASTM D5185)。本発明の全ての態様による潤滑油組成物中の清浄剤に由来する金属原子の総量は、好適には、500~5000ppm、好ましくは500~3000ppm、より好ましくは500~2000ppmである(ASTM D5185)。
【0127】
スルホネート清浄剤は、典型的には、石油の分留から得られるもの又は芳香族炭化水素のアルキル化によるもの等のアルキル置換芳香族炭化水素のスルホン化により得られるスルホン酸から調製することができる。例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニル、又はクロロベンゼン、クロロトルエン、及びクロロナフタレン等のそれらのハロゲン誘導体をアルキル化することにより得られるものが挙げられる。アルキル化は、約3個から70個よりも多くの炭素原子を有するアルキル化剤により触媒の存在下で実施することができる。アルカリルスルホネートは、通常、1アルキル置換芳香族部分当たり約9~約80個以上の炭素原子、好ましくは約16~約60個の炭素原子を含む。油溶性スルホネート又はアルカリルスルホン酸は、金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボネート、カルボキシレート、硫化物、水硫化物、ニトレート、ボレート、及びエーテルで中和することができる。金属化合物の量は、最終産物の所望のTBNを考慮して選択されるが、典型的には、化学量論的に必要な量の約100~220質量%の範囲(好ましくは少なくとも125質量%)である。
【0128】
フェノール及び硫化フェノールの金属塩は、酸化物若しくは水酸化物等の適切な金属化合物との反応により調製されるか、又は中性若しくは過塩基性産物は、当技術分野で周知の方法により得ることができる。硫化フェノールは、フェノールを、硫黄又は硫黄含有化合物、例えば硫化水素、モノハロゲン化硫黄、又はジハロゲン化硫黄と反応させて、一般に、2つ以上のフェノールが硫黄含有架橋により架橋されている化合物の混合物である産物を形成することにより調製することができる。
カルボキシレート清浄剤、例えばサリシレートは、芳香族カルボン酸(C5~100、C9~30、C14~24アルキル置換ヒドロキシ安息香酸等)を、適切な金属化合物、例えば酸化物又は水酸化物と反応させることにより調製することができ、中性又は過塩基性産物は、当技術分野で周知の方法により得ることができる。芳香族カルボン酸の芳香族部分は、窒素及び酸素等のヘテロ原子を含んでいてもよい。好ましくは、この部分は炭素原子のみを含み、より好ましくは、この部分は6個以上の炭素原子を含む。例えば、好ましい部分はベンゼンである。芳香族カルボン酸は、縮合されているか又はアルキレン架橋を介して接続されているかのいずれかの、1つ又は複数のベンゼン環等の1つ又は複数の芳香族部分を含んでいてもよい。
【0129】
油溶性サリチル酸における好ましい置換基は、アルキル置換基である。アルキル置換サリチル酸では、アルキル基は、有利には、5~100個、好ましくは9~30個、特に14~20個の炭素原子を含む。1つよりも多くのアルキル基が存在する場合、アルキル基の全ての平均炭素原子数は、妥当な油溶性を確保するために、少なくとも9であることが好ましい。
実施形態では、潤滑油組成物中の原子状清浄剤金属対原子状モリブデンの比は、3:1未満、例えば2:1未満であってもよい。
更に、清浄剤として使用される金属有機及び無機塩基塩は、潤滑油組成物の硫酸灰分含有量に寄与する可能性があるため、本発明の実施形態では、そのような添加剤の量は最小限に抑えられる。低い硫黄レベルを維持するために、サリシレート清浄剤を使用することができ、本明細書の潤滑組成物は、1つ又は複数のサリシレート清浄剤を含んでいてもよい(前記清浄剤は、潤滑組成物の総質量に基づき、好ましくは、0.05~20.0質量%、より好ましくは1.0~10.0質量%の範囲の、最も好ましくは2.0~5.0質量%の範囲の量で使用される)。
本明細書の潤滑組成物の総硫酸灰分含有量は、ASTM D874により決定して、潤滑組成物の総質量に基づき、典型的には、2.0質量%以下、代替的に1.0質量%以下のレベル、代替的に0.8質量%以下のレベルである。
【0130】
更に、清浄剤の各々は、独立して、ISO3771により測定して10~700mg KOH/g、10~500mg KOH/gの範囲の、代替的に100~650mg KOH/gの範囲、代替的に10~500mg KOH/gの範囲、代替的に30~350mg KOH/gの範囲、代替的に50~300mg KOH/gの範囲のTBN(全塩基価)値を有することが有用である。
典型的には、大型ディーゼルエンジンに使用するために配合された潤滑組成物は、潤滑組成物に基づき、約0.5~約10質量%、代替的に約2.5~約7.5質量%、代替的に約4~約6.5質量%の清浄剤を含む。
【0131】
D. 摩擦調整剤
摩擦調整剤は、任意の潤滑剤又はそのような物質を含む流体により潤滑される表面の摩擦係数を変更することができるあらゆる1つ又は複数の物質である。摩擦低減剤又は潤滑性作用剤又は油性作用剤としても知られている摩擦調整剤、及び基油、配合潤滑組成物、又は機能性流体の能力を変化させて潤滑表面の摩擦係数を調整する他のそのような作用剤を、必要に応じて、本開示の基油又は潤滑組成物と組み合わせて効果的に使用することができる。摩擦係数を下げる摩擦調整剤を、本開示の基油及び潤滑組成物と組み合わせると特に有利である。
例示的な摩擦調整剤としては、例えば、有機金属化合物若しくは物質又はそれらの混合物を挙げることができる。本開示の潤滑油配合物に有用な例示的な有機金属摩擦調整剤としては、例えば、タングステン及び/又はモリブデン化合物、例えば、モリブデンアミン、モリブデンジアミン、有機タングステネート、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、モリブデンアミン錯体、及びカルボン酸モリブデン等、並びにそれらの混合物が挙げられる。有用なモリブデン含有化合物の例としては、便利には、ジチオカルバミン酸モリブデン、例えば国際公開第98/26030号パンフレットに記載の三核モリブデン化合物、モリブデンの硫化物、及びジチオリン酸モリブデンを挙げることができる。
【0132】
他の既知の摩擦調整剤は、油溶性有機モリブデン化合物を含む。そのような有機モリブデン摩擦調整剤は、潤滑油組成物に抗酸化及び耐摩耗特典を提供することもできる。そのような油溶性有機モリブデン化合物の例としては、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、及び硫化物等、並びにそれらの混合物が挙げられる。特に好ましいのは、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、アルキルキサントゲン酸モリブデン、及びアルキルチオキサントゲン酸モリブデンである。
加えて、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。こうした化合物は、塩基性窒素化合物と反応し、ASTM試験D664又はD2896滴定手順により測定して、典型的には6価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及び他のアルカリ金属モリブデート、及び他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo23Cl6、三酸化モリブデン、又は類似の酸性モリブデン化合物が含まれる。
【0133】
本発明の組成物に有用なモリブデン化合物には、式:
Mo(R’’OCS24 及び
Mo(R’’SCS24
の有機モリブデン化合物があり、
式中、R’’は、一般に、1~30個の炭素原子、好ましくは2~12個の炭素原子のアルキル、アリール、アラルキル、及びアルコキシアルキルからなる群から選択され、最も好ましくは2~12個の炭素原子のアルキルである有機基である。特に好ましいものは、モリブデンのジアルキルジチオカルバミン酸塩である。
【0134】
本発明の潤滑組成物に有用な有機モリブデン化合物の別の群は、三核モリブデン化合物、特に式Mo3knzのもの、及びそれらの混合物であり、式中Lは、化合物を油に可溶性又は分散性にするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立して選択される配位子であり、nは1~4であり、kは4~7の範囲であり、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテル等の中性電子供与化合物の群から選択され、zは0~5の範囲であり、非化学量論値を含む。全ての配位子有機基には、少なくとも21個の炭素原子、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が存在するべきである。
本発明の全ての態様に有用な潤滑油組成物は、好ましくは、少なくとも10ppm、少なくとも30ppm、少なくとも40ppm、より好ましくは少なくとも50ppmのモリブデンを含む。好適には、本発明の全ての態様に有用な潤滑油組成物は、1000ppm以下、750ppm以下、又は500ppm以下のモリブデンを含む。本発明の全ての態様に有用な潤滑油組成物は、好ましくは、10~1000ppm、例えば30~750ppm、又は40~500ppmのモリブデン(モリブデン原子として測定される)を含む。
Moを含む有用な摩擦調整剤の更なる情報は、米国特許第10,829,712号明細書(第8欄58行目~第11欄31行目)を参照されたい。
【0135】
本発明の潤滑油組成物には無灰摩擦調整剤が存在してもよく、無灰摩擦調整剤は一般に公知であり、カルボン酸及び無水物をアルカノールと反応させることにより形成されるエステル、並びにアミンベース摩擦調整剤が挙げられる。他の有用な摩擦調整剤としては、一般に、親油性炭化水素鎖に共有結合で結合した極性末端基(例えば、カルボキシル又はヒドロキシル)が挙げられる。カルボン酸及び無水物とアルカノールとのエステルは、米国特許第4,702,850号明細書に記載されている。他の従来の有機摩擦調整剤の例は、M.Belzerの「Journal of Tribology」(1992年)、114巻、675~682頁、並びにM.Belzer及びS.Jahanmirの「Lubrication Science」(1988年)、1巻、3~26頁に記載されている。典型的には、本開示による潤滑剤中の有機無灰摩擦調整剤の総量は、潤滑油組成物の総質量に基づき5質量%を超えず、好ましくは2質量%を超えず、より好ましくは0.5質量%を超えない。
【0136】
本明細書に記載の潤滑組成物に有用な例示的な摩擦調整剤としては、例えば、アルコキシル化脂肪酸エステル、アルカノールアミド、ポリオール脂肪酸エステル、ホウ酸化グリセロール脂肪酸エステル、脂肪族アルコールエーテル、及びそれらの混合物が挙げられる。
例示的なアルコキシル化脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン及び脂肪酸ポリグリコールエステル等が挙げられる。こうしたものとしては、ステアリン酸ポリオキシプロピレン、ステアリン酸ポリオキシブチレン、イソステル酸ポリオキシエチレン、イソステアリン酸ポリオキシプロピレン、及びパルミチン酸ポリオキシエチレン等を挙げることができる。
例示的なアルカノールアミドとしては、例えば、ラウリン酸ジエチルアルカノールアミド及びパルム酸(palmic acid)ジエチルアルカノールアミド等が挙げられる。こうしたものとしては、オレイン酸ジエチルアルカノールアミド、ステアリン酸ジエチルアルカノールアミド、オレイン酸ジエチルアルカノールアミド、ポリエトキシル化ヒドロカルビルアミド、及びポリプロポキシル化ヒドロカルビルアミド等を挙げることができる。
ポリオール脂肪酸エステルの例としては、例えば、モノオレイン酸グリセロール、飽和モノ、ジ、及びトリグリセリドエステル、並びにモノステアリン酸グリセロール等が挙げられる。こうしたものとしては、ポリオールエステル及びヒドロキシル含有ポリオールエステル等を挙げることができる。
【0137】
例示的なホウ酸化グリセロール脂肪酸エステルとしては、例えば、ホウ酸化モノオレイン酸グリセロール、ホウ酸化飽和モノ、ジ、及びトリグリセリドエステル、並びにホウ酸化モノステアリン酸グリセロール等が挙げられる。グリセロールポリオールに加えて、こうしたものとしては、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、及びソルビタン等を挙げることができる。こうしたエステルは、ポリオールモノカルボン酸エステル、ポリオールジカルボン酸エステル、及び場合によってはポリオールトリカルボン酸エステルであってもよい。好ましいものは、モノオレイン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、トリオレイン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、及びトリステアリン酸グリセロール、並びに対応するモノパルミチン酸グリセロール、ジパルミチン酸グリセロール、及びトリパルミチン酸グリセロール、並びにそれぞれのイソステアレート及びリノレアート等であってもよい。本明細書では、特に、基礎となるポリオールとしてグリセロールが使用される、ポリオールのエトキシル化、プロポキシル化、ブトキシル化脂肪酸エステルが有用である。
【0138】
例示的な脂肪族アルコールエーテルとしては、例えば、ステアリルエーテル及びミリスチルエーテル等が挙げられる。C3~C50の炭素数を有するものを含むアルコールを、エトキシル化、プロポキシル化、又はブトキシル化して、対応する脂肪アルキルエーテルを形成することができる。基礎となるアルコール部分は、好ましくは、ステアリル、ミリスチル、C11~C13炭化水素、オレイル、及びイソステリル等であってもよい。
摩擦調整剤の有用な濃度は、0.01質量パーセント~5質量パーセント、又は約0.1質量パーセント~約2.5質量パーセント、又は約0.1質量パーセント~約1.5質量パーセント、又は約0.1質量パーセント~約1質量パーセントの範囲であってもよい。モリブデン含有物質の濃度は、多くの場合、Mo金属濃度の点で記述される。Moの有利な濃度は、25ppm~700ppm以上の範囲であってもよく、多くの場合、好ましい範囲は50~200ppmである。あらゆるタイプの摩擦調整剤を単独で使用してもよく、又は本開示の物質と混合して使用してもよい。多くの場合、2つ以上の摩擦調整剤の混合物、又は摩擦調整剤と代替的表面活性物質との混合物も望ましい。本明細書では、例えば、Mo含有化合物と、モノオレイン酸グリセロール等のポリオール脂肪酸エステルとの組合せが有用である。
【0139】
E. 抗酸化剤
抗酸化剤は、役務中の基油の酸化劣化を遅延させる。そのような劣化は、金属表面への堆積物、スラッジの存在、又は潤滑剤の粘度増加をもたらす可能性がある。幅広く様々な酸化防止剤が潤滑油組成物に有用である。例えば、Lubricants and Related Products、Klamann、Wiley VCH、1984年;米国特許第4,798,684号明細書及び米国特許第5,084,197号明細書を参照されたい。
【0140】
有用な抗酸化剤としては、ヒンダードフェノールが挙げられる。こうしたフェノール系抗酸化剤は、無灰(無金属)フェノール系化合物、又はある特定のフェノール系化合物の中性若しくは塩基性金属塩であってもよい。典型的なフェノール系抗酸化剤化合物は、立体障害ヒドロキシル基を含むヒンダードフェノール系化合物であり、そうしたものとしては、ヒドロキシル基が互いにo位又はp位にあるジヒドロキシアリール化合物の誘導体が挙げられる。典型的なフェノール系抗酸化剤としては、C6+アルキル基で置換されたヒンダードフェノール及びこうしたヒンダードフェノールのアルキレンカップリング誘導体が挙げられる。このタイプのフェノール系物質の例としては、2-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール;2-t-ブチル-4-オクチルフェノール;2-t-ブチル-4-ドデシルフェノール;2,6-ジ-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール;2,6-ジ-t-ブチル-4-ドデシルフェノール;2-メチル-6-t-ブチル-4-ヘプチルフェノール;及び2-メチル-6-t-ブチル-4-ドデシルフェノールが挙げられる。他の有用なヒンダードモノフェノール系抗酸化剤としては、例えば、ヒンダード2,6-ジ-アルキル-フェノール系プロピオン酸エステル誘導体を挙げることができる。ビス-フェノール系抗酸化剤も本明細書で有利に使用することができる。オルトカップリングフェノールの例としては、2,2’-ビス(4-ヘプチル-6-t-ブチル-フェノール);2,2’-ビス(4-オクチル-6-t-ブチル-フェノール);及び2,2’-ビス(4-ドデシル-6-t-ブチル-フェノール)が挙げられる。パラカップリングビスフェノールとしては、例えば、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)及び4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)が挙げられる。
【0141】
また、有効量の1つ又は複数の触媒性抗酸化剤を使用することができる。触媒性抗酸化剤は、有効量のa)1つ若しくは複数の油溶性ポリ金属有機化合物;及び有効量のb)1つ若しくは複数の置換N,N’-ジアリール-o-フェニレンジアミン化合物又はc)1つ若しくは複数のヒンダードフェノール化合物;或いはb)及びc)の両方の組合せを含む。本明細書で有用な触媒性抗酸化剤は、米国特許第8,048,833号明細書に更に詳しく記載されている。
使用することができる非フェノール系酸化防止剤としては、芳香族アミン抗酸化剤を挙げることができ、それらを、そのまま又はフェノール系物質との組合せのいずれかで使用することができる。非フェノール系抗酸化剤の典型的な例としては、式R8910Nの芳香族モノアミン等のアルキル化及び非アルキル化芳香族アミンが挙げられ、式中、R8は、脂肪族基、芳香族基、又は置換芳香族基であり、R9は、芳香族基又は置換芳香族基であり、R10は、H、アルキル、アリール、又はR11S(O)XR12であり、ここでR11は、アルキレン基、アルケニレン基、又はアラルキレン基であり、R12は、アルキル基、又はアルケニル基、アリール基、若しくはアルカリル基であり、xは、0、1、又は2である。脂肪族基R8は、1~約20個の炭素原子を含んでいてもよく、好ましくは、約6~12個の炭素原子を含む。脂肪族基は、典型的には、飽和脂肪族基である。好ましくは、R8及びR9は両方とも芳香族基又は置換芳香族基であり、芳香族基は、ナフチル等の縮合環芳香族基であってもよい。芳香族基R8及びR9は、S等の他の基と一緒になっていてもよい。
【0142】
典型的な芳香族アミン抗酸化剤は、少なくとも約6個の炭素原子のアルキル置換基を有する。脂肪族基の例としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシルが挙げられる。一般に、脂肪族基は、約14個よりも多くの炭素原子を含まないだろう。本組成物に有用なアミン抗酸化剤の一般的なタイプとしては、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、フェノチアジン、イミドジベンジル、及びジフェニルフェニレンジアミンが挙げられる。2つ以上の芳香族アミンの混合物も有用である。ポリマー性アミン抗酸化剤も使用することができる。本開示に有用な芳香族アミン抗酸化剤の特定の例としては、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン;t-オクチルフェニル-アルファ-ナフチルアミン;フェニル-アルファナフチルアミン;及びp-オクチルフェニル-アルファ-ナフチルアミンが挙げられる。
【0143】
硫黄含有抗酸化剤も本発明に有用である。特に、1つ又は複数の油溶性又は油分散性硫黄含有抗酸化剤を、抗酸化添加剤として使用することができる。例えば、硫化アルキルフェノール及びそれらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩も、本明細書に有用な抗酸化剤である。好適には、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総質量に基づき、0.02~0.2、好ましくは0.02~0.15、更により好ましくは0.02~0.1、更により好ましくは0.04~0.1質量%の硫黄を潤滑油組成物に提供する量の1つ又は複数の硫黄含有抗酸化剤を含んでいてもよい。任意選択で、油溶性又は油分散性硫黄含有抗酸化剤は、硫化C4~C25オレフィン、硫化脂肪族(C7~C29)ヒドロカルビル脂肪酸エステル、無灰硫化フェノール系抗酸化剤、硫黄含有有機モリブデン化合物、及びそれらの組合せから選択される。本明細書の抗酸化剤として有用な硫化物質に関する更なる情報は、米国特許第10,731,101号明細書(第15欄55行目~第22欄12行目)を参照されたい。
【0144】
本明細書に有用な抗酸化剤としては、ヒンダードフェノール及びアリールアミンが挙げられる。こうした抗酸化剤は、タイプ毎に個々に又は互いに組み合わせて使用することができる。
典型的な抗酸化剤としては、Irganox(商標)L67、ETHANOX(商標)4702、Lanxess Additin(商標)RC7110;ETHANOX(商標)4782J;Irganox(商標)1135、Irganox(商標)5057、硫化ラード油、及びパーム油脂肪酸メチルエステルが挙げられる。
抗酸化添加剤は、潤滑組成物の質量に基づき、約0.01~5質量パーセント、好ましくは約0.01~3質量パーセント、より好ましくは0.01~1.5質量パーセント、より好ましくは0.01~1質量パーセント未満の量で使用することができる。
本開示による組成物は、抗酸化剤としての二次的効果も有する、様々な表記機能を有する添加剤を含んでいてもよい(例えば、リン含有耐摩耗剤(例えば、金属アルキルチオホスフェート(ZDDP等))は、抗酸化効果も示すことができる)。こうした添加剤は、本明細書の潤滑油組成物又は濃縮物中の抗酸化剤の量を決定する目的では、抗酸化剤には含まれない。
【0145】
F.流動点降下剤
従来の流動点降下剤(潤滑油流動向上剤としても知られている)を、必要に応じて、本開示の組成物に添加することができる。こうした流動点降下剤を本開示の潤滑組成物に添加して、流体が流動することになるか又は流体を注ぐことができる最低温度を下げることができる。好適な流動点降下剤の例としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ハロパラフィンワックス及び芳香族化合物の縮合産物、ビニルカルボキシレートポリマー、並びにジアルキルフマレートのターポリマー、脂肪酸のビニルエステル、並びにアリルビニルエーテルが挙げられる。米国特許第1,815,022号明細書;第2,015,748号明細書;第2,191,498号明細書;第2,387,501号明細書;第2,655,479号明細書;第2,666,746号明細書;第2,721,877号明細書;第2,721,878号明細書;及び第3,250,715号明細書には、有用な流動点降下剤及び/又はその調製が記載されている。そのような添加剤は、潤滑組成物の質量に基づき、約0.01~5質量パーセント、好ましくは約0.01~1.5質量パーセントの量で使用することができる。
【0146】
G. 消泡剤
有利には、消泡剤を、本明細書に記載の潤滑剤組成物に添加することができる。こうした作用剤は、安定気泡の形成を防止又は遅延させる。シリコーン及び有機ポリマーが典型的な消泡剤である。例えば、シリコン油又はポリジメチルシロキサン等のポリシロキサンは、消泡特性を提供する。
消泡剤は市販されており、少量で、例えば5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下、例えば5質量%~0.1ppm、例えば3質量%~0.5ppm、例えば1質量%~10ppmで使用することができる。
例えば、潤滑油組成物は、例えば、ポリジアルキルシロキサン等のポリアルキルシロキサンを含む消泡剤であって、例えば、アルキルはC1~C10アルキル基である消泡剤、例えばシリコーン油としても知られているポリジメチルシロキサン(PDMS)を含んでいてもよい。代替的に、シロキサンは、ポリ(R3)シロキサンであり、R3は、典型的には1~20個の炭素原子を有する、1つ又は複数の同じ又は異なる直鎖状、分岐鎖状、又は環状ヒドロカルビル、例えばアルキル又はアリールである。例えば、潤滑油組成物は、下記式1によるポリマー性シロキサン化合物を含み、式中、R1及びR2は、独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、又はデシル、フェニル、ナフチル、アルキル置換フェニル、又はそれらの異性体(メチル、フェニル等)であり、nは、2~1000、例えば50~450、代替的に40~100である。
【0147】
加えて又は代替的に、潤滑油組成物は、ポリエーテル(例えば、エチレン-プロピレンオキシドコポリマー)、長鎖ヒドロカルビル(例えば、C11~C100アルキル)、又はアリール(例えば、C6~C14アリール)等の有機基で修飾されたシロキサン等の、有機修飾シロキサン(OMS)を含んでいてもよい。例えば、潤滑油組成物は、式1による有機修飾シロキサン化合物を含み、式中、nは、2~2000、例えば50~450(代替的に40~100)であり、R1及びR2は同じであるか又は異なり、任意選択で、R1及びR2の各々は、独立して、ポリエーテル(例えば、エチレン-プロピレンオキシドコポリマー)、長鎖ヒドロカルビル(例えば、C11~C100アルキル)、又はアリール(例えば、C6~C14アリール)から選択される有機基等の有機基である。好ましくは、R1及びR2の一方はCH3である。
【化1】
式1
【0148】
潤滑剤組成物の総質量に基づき、式1によるシロキサンは、約0.1~約30ppm未満のSi、又は約0.1~約25ppmのSi、又は約0.1~約20ppmのSi、又は約0.1~約15ppmのSi、又は約0.1~約10ppmのSiを提供するように組み込まれる。より好ましくは、式1によるシロキサンは、約3~10ppmのSiの範囲にある。
一実施形態では、本明細書で有用なシリコーン消泡剤は、Dow Corning FS-1265(1000センチストーク)、Dow Corning DC-200、及びUnion Carbide UC-L45等が、Dow Corning Corporation社及びUnion Carbide Corporation社から入手可能である。本明細書で有用なシリコーン消泡剤は、ポリジメチルシロキサン、フェニル-メチルポリシロキサン、直鎖状、環状、又は分岐鎖状シロキサン、シリコーンポリマー及びコポリマー、並びに有機シリコーンコポリマーである。また、ミシガン州ファーミントンヒルズのOSI Specialties,Inc.社から入手可能なシロキサンポリエーテルコポリマー消泡剤を代用するか又は含めることができる。1つのそのような物質は、SILWET-L-7220として販売されている。
【0149】
アクリレートポリマー消泡剤も、本明細書で使用することができる。典型的なアクリレート消泡剤としては、PC-1244として知られている、Monsanto Polymer Products Co.社から入手可能なポリアクリレート消泡剤が挙げられる。本明細書で有用な好ましいアクリレートポリマー消泡剤は、Dorf Ketl社から市販されており、Mobilad(商標)C402とも呼ばれるPX(商標)3841(つまり、アルキルアクリレートポリマー)である。
実施形態では、シリコーン消泡剤及びアクリレート消泡剤の組合せを、例えば、約5:1~約1:5のシリコーン消泡剤対アクリレート消泡剤の質量比等で使用することができる。例えば、米国特許出願公開第2021/0189283号A1明細書を参照されたい。
【0150】
H. 粘度調整剤
粘度調整剤(粘度指数向上剤又は粘度向上剤とも呼ばれる)を、本明細書に記載の潤滑組成物に含めることができる。粘度調整剤は、潤滑剤に、高温及び低温稼動能を提供する。こうした添加剤は、高温での剪断安定性及び低温での許容可能な粘度を付与する。好適な粘度調整剤としては、高分子量炭化水素、ポリエステル、並びに粘度調整剤及び分散剤の両方として機能することできる粘度調整分散剤が挙げられる。こうしたポリマーの典型的な分子量は、約10,000~1,500,000g/mol、より典型的には約20,000~1,200,000g/mol、更により典型的には約50,000~1,000,000g/molであってもよい。
好適な粘度調整剤の例は、メタクリレート、ブタジエン、オレフィン、又はアルキル化スチレンの直鎖状又は星形ポリマー及びコポリマーである。ポリイソブチレンは、一般的に使用される粘度調整剤である。別の好適な粘度調整剤は、ポリメタクリレート(例えば、種々の鎖長のアルキルメタクリレートのコポリマー)であり、その一部の配合物は流動点降下剤としての役目も果たす。他の好適な粘度調整剤としては、エチレン及びプロピレンのコポリマー、スチレン及びイソプレンの水素化ブロックコポリマー、並びにポリアクリレート(例えば、種々の鎖長のアクリレートのコポリマー)が挙げられる。特定の例としては、分子量50,000~200,000g/molの、スチレン-イソプレン又はスチレン-ブタジエンベースポリマーが挙げられる。
【0151】
粘度調整剤として有用なコポリマーとしては、Chevron Oronite Company LLC社から商品名「PARATONE(商標)」で市販されているもの(「PARATONE(商標)8921」、PARATONE(商標)68231、及び「PARATONE(商標)8941」等);Afton Chemical Corporation社から商品名「HiTEC(商標)」で市販されているもの(HiTEC(商標)5850B及びHiTEC(商標)5777等);及びThe Lubrizol Corporation社から商品名「Lubrizol(商標)7067C」で市販されているものが挙げられる。本明細書で粘度調整剤として有用な水素化ポリイソプレン星形ポリマーとしては、Infineum International Limited社から、例えば、商品名「SV200(商標)」及び「SV600(商標)」で市販されているものが挙げられる。本明細書で粘度調整剤として有用な水素化ジエン-スチレンブロックコポリマーは、Infineum International Limited社から、例えば商品名「SV50(商標)」で市販されている。
【0152】
本明細書で粘度調整剤として有用なポリマーとしては、Evnoik Industries社から商品名「Viscoplex(商標)」(例えば、Viscoplex(商標)6-954)で入手可能なもの等の直鎖状ポリメタクリレート又はポリアクリレートポリマー等のポリメタクリレート又はポリアクリレートポリマー、又はLubrizol Corporation社から商品名Asteric(商標)(例えば、Lubrizol(商標)87708及びLubrizol87725)で入手可能な星形ポリマーが挙げられる。
本明細書で粘度調整剤として有用なビニル芳香族含有ポリマーは、ビニル芳香族炭化水素モノマー、例えばスチレン系モノマー、例えばスチレンから誘導することができる。本明細書で有用な例示的なビニル芳香族含有コポリマーは、下記の一般式:A-Bにより表すことができ、式中、Aは、主としてビニル芳香族炭化水素モノマー(スチレン等)から誘導されるポリマーブロックであり、Bは、主として共役ジエンモノマー(イソプレン等)から誘導されるポリマーブロックである。
典型的には、粘度調整剤は、配合潤滑剤組成物の総質量に基づき、約0.01~約10質量パーセント、例えば約0.1~約7質量パーセント、例えば0.1~約4質量パーセント、例えば約0.2~約2質量パーセント、例えば約0.2~約1質量パーセント、及び例えば約0.2~約0.5質量パーセントの量で使用することができる。
粘度調整剤は、典型的には、大量の希釈油に濃縮物として添加される。「納品時の」粘度調整剤は、典型的には、ポリメタクリレート若しくはポリアクリレートポリマーの場合は20質量パーセント~75質量パーセントの活性ポリマー、又はオレフィンコポリマー、水素化ポリイソプレン星形ポリマー、又は水素化ジエン-スチレンブロックコポリマーの場合は8質量パーセント~20質量パーセントの活性ポリマーを「納品時の」ポリマー濃縮物中に含む。
【0153】
I. 分散剤
エンジン作動中に、油不溶性酸化副産物が生成される。分散剤は、こうした副産物を溶液中に保持することを支援し、したがって金属表面への副産物の堆積を軽減する。本明細書の潤滑組成物の配合に使用される分散剤は、性質が無灰であってもよく又は灰分形成性であってもよい。好ましくは、分散剤は無灰である。いわゆる無灰分散剤は、燃焼時に灰分を実質的に形成しない有機物質である。例えば、非金属含有分散剤又はホウ酸化無金属分散剤は、無灰とみなされる。対照的に、金属含有清浄剤は燃焼時に灰分を形成する傾向がある。
本明細書に有用な分散剤は、典型的には、比較的高分子量の炭化水素鎖に結合した極性基を含む。極性基は、典型的には、窒素、酸素、又はリンの少なくとも1つの元素を含む。典型的な炭化水素鎖は、50~400個の炭素原子を含む。
【0154】
(ポリ)アルケニルコハク酸誘導体の分散剤
特に有用な種類の分散剤としては、典型的には長鎖ヒドロカルビル置換コハク酸化合物、通常はヒドロカルビル置換無水コハク酸と、ポリヒドロキシ又はポリアミノ化合物との反応により生成される(ポリ)アルケニルコハク酸誘導体が挙げられる。油への溶解性を付与する分子の親油性部分を構成する長鎖ヒドロカルビル基は、多くの場合、ポリイソブチレン基である(典型的には、ポリイソブチレン基等の長鎖ヒドロカルビル基は、400~3000g/mol、例えば450~2500g/molのMnを有する)。このタイプの分散剤の多くの例は、商業的に及び文献にて周知である。そのような分散剤が記載されている米国特許の例としては、米国特許第3,172,892号明細書;第3,215,707号明細書;第3,219,666号明細書;第3,316,177号明細書;第3,341,542号明細書;第3,444,170号明細書;第3,454,607号明細書;第3,541,012号明細書;第3,630,904号明細書;第3,632,511号明細書;第3,787,374号明細書;及び第4,234,435号明細書が挙げられる。他のタイプの分散剤は、米国特許第3,036,003号明細書;第3,200,107号明細書;第3,254,025号明細書;第3,275,554号明細書;第3,438,757号明細書;第3,454,555号明細書;第3,565,804号明細書;第3,413,347号明細書;第3,697,574号明細書;第3,725,277号明細書;第3,725,480号明細書;第3,726,882号明細書;第4,454,059号明細書;第3,329,658号明細書;第3,449,250号明細書;第3,519,565号明細書;第3,666,730号明細書;第3,687,849号明細書;第3,702,300号明細書;第4,100,082;及び第5,705,458号明細書が挙げられる。本明細書で有用な分散剤の更なる説明は、例えば、欧州特許出願第0 471 071号明細書及び欧州特許出願第0 451 380号明細書に見出され、こうした文献は、本目的のために参照される。
【0155】
ヒドロカルビル置換コハク酸及びヒドロカルビル置換無水コハク酸誘導体は有用な分散剤である。特に、炭化水素置換コハク酸又は無水物化合物(典型的には、炭化水素置換基中に少なくとも25個の炭素原子、例えば28~400個の炭素原子を有する)と、少なくとも1当量のポリヒドロキシ又はポリアミノ化合物(アルキレンアミン等)と反応させることにより調製されるコハク酸イミド、コハク酸エステル、またはコハク酸エステルアミドは、本明細書において特に有用である。ヒドロカルビル置換コハク酸及びヒドロカルビル置換無水コハク酸誘導体は、少なくとも400g/mol、例えば少なくとも900g/mol、例えば少なくとも1500g/mol、例えば400~4000g/mol、例えば800~3000、例えば2000~2800g/mol、例えば約2100~2500g/mol、例えば約2200~約2400g/molの数平均分子量を有してもよい。
【0156】
本明細書で特に有用であるコハク酸イミドは、1)ポリイソブチレン無水コハク酸(PIBSA)等のヒドロカルビル置換無水コハク酸と、2)ポリアミン(PAM)との縮合反応により形成される。好適なポリアミンの例としては、ポリアルキレンポリアミン、ヒドロキシ置換ポリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン、及びそれらの組合せが挙げられる。ポリアルキレンポリアミンの例としては、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA、pentaethylenehaxamine)、及び1分子当たり平均で5、6、7、8、又は9個の窒素原子を有する他のポリアミンが挙げられる。1ポリアミン分子当たりの平均窒素原子数が7個よりも大きい混合物は、一般的に、重質ポリアミン又はH-PAMと呼ばれ、Dow Chemical社のHPA(商標)及びHPA-X(商標)、Huntsman Chemical社らのE-100(商標)等の商品名で市販されている場合がある。ヒドロキシ置換ポリアミンの例としては、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン等のN-ヒドロキシアルキル-アルキレンポリアミン、及び/又は例えば米国特許第4,873,009号明細書に記載のタイプのN-ヒドロキシアルキル化アルキレンジアミンが挙げられる。ポリオキシアルキレンポリアミンの例としては、約200~約5000g/molの平均Mnを有するポリオキシエチレン並びに/又はポリオキシプロピレンジアミン及びトリアミン(並びにそれらのコオリゴマー)が挙げられる。このタイプの製品は、Jefafmine(商標)という商品名で市販されている。有用なコハク酸イミドの代表的な例は、米国特許第3,087,936号明細書;第3,172,892号明細書;第3,219,666号明細書;第3,272,746号明細書;第3,322,670号明細書;第3,652,616号明細書;第3,948,800号明細書;及び第6,821,307号明細書;並びにカナダ特許第1,094,044号明細書に示されている。
【0157】
分散剤として有用なコハク酸エステルとしては、ヒドロカルビル置換無水コハク酸とアルコール又はポリオールとの縮合反応により形成されるものが挙げられる。例えば、ヒドロカルビル置換無水コハク酸とペンタエリトリトールとの縮合産物は、有用な分散剤である。
本明細書で有用なコハク酸エステルアミドは、ヒドロカルビル置換無水コハク酸とアルカノールアミンとの縮合反応により形成される。好適なアルカノールアミンとしては、エトキシル化ポリアルキルポリアミン、プロポキシル化ポリアルキルポリアミン、及びポリアルケニルポリアミン、例えばポリエチレンポリアミン、及び/又はプロポキシル化ヘキサメチレンジアミンが挙げられる。代表的な例は、米国特許第4,426,305号明細書に示されている。
ヒドロカルビル架橋アリールオキシアルコールのヒドロカルビル置換無水コハク酸(PIBSA等)エステルも、本明細書での分散剤として有用である。そのような分散剤に関する情報は、米国特許第7,485,603号明細書、特に第2欄65行目~第6欄22行目及び第23欄40行目~第26欄46行目を参照されたい。特に、メチレン架橋ナフチルオキシエタノールのPIBSAエステル(つまり、2-ヒドロキシエチル-1-ナフトールエーテル(又はナフトールのヒドロキシ末端化エチレンオキシドオリゴマーエーテル))は本明細書で有用である。
【0158】
前述の段落で使用されるヒドロカルビル置換無水コハク酸の分子量は、典型的には、350~4000g/mol、例えば400~3000g/mol、例えば450~2800g/mol、例えば800~2500g/molの範囲であるだろう。上記の(ポリ)アルケニルコハク酸誘導体は、硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸、例えばオレイン酸等の種々の試薬と後反応させてもよい。
分散剤は、組成物の0.1質量%~20質量%、例えば、潤滑油組成物の0.2~15質量%、例えば0.25~10質量%、例えば0.3~5質量%、例えば1.0質量%~3.0質量%で潤滑剤中に存在してもよい。
上記の(ポリ)アルケニルコハク酸誘導体は、ホウ酸、ホウ酸エステル、又は高ホウ酸化分散剤等のホウ素化合物と後反応させて、一般に分散剤反応産物1モル当たり約0.1~約5モルのホウ素を有するホウ酸化分散剤を形成することもできる。
本明細書で有用な分散剤としては、モノコハク酸イミド、ビスコハク酸イミド、並びに/又はモノコハク酸イミド及びビスコハク酸イミドの混合に由来する誘導体を含むホウ酸化コハク酸イミドが挙げられ、ヒドロカルビルコハク酸イミドは、約300~約5000g/mol、若しくは約500~約3000g/mol、若しくは約1000~約2000g/molのMnを有するポリイソブチレン等のヒドロカルビレン基又は高末端ビニル基を有することが多いそのようなヒドロカルビレン基の混合物から誘導される。
【0159】
ホウ素含有分散剤は、潤滑組成物の0.01質量%~20質量%、又は0.1質量%~15質量%、又は0.1質量%~10質量%、又は0.5質量%~8質量%、又は1.0質量%~6.5質量%、又は0.5質量%~2.2質量%で存在してもよい。
ホウ素含有分散剤は、15ppm~2000ppm、又は25ppm~1000ppm、又は40ppm~600ppm、又は80ppm~350ppmのホウ素を組成物に送達する量で存在してもよい。
ホウ酸化分散剤は、非ホウ酸化分散剤と組み合わせて使用することができ、非ホウ酸化分散剤と同じ化合物であってもよく又は異なる化合物であってもよい。一実施形態では、潤滑組成物は、1つ又は複数のホウ素含有分散剤及び1つ又は複数の非ホウ酸化分散剤を含んでいてもよく、分散剤の総量は、潤滑組成物の0.01質量%~20質量%、又は0.1質量%~15質量%、又は0.1質量%~10質量%、又は0.5質量%~8質量%、又は1.0質量%~6.5質量%、又は0.5質量%~2.2質量%であってもよく、ホウ酸化分散剤対非ホウ酸化分散剤の比は、1:10~10:1(質量:質量)、又は1:5~3:1、又は1:3~2:1であってもよい。
【0160】
マンニッヒ塩基の分散剤
本明細書で有用なマンニッヒ塩基分散剤は、典型的には、アミン成分、アルキルフェノール等のヒドロキシ芳香族化合物(アルキル置換等の、置換又は非置換)、及びホルムアルデヒド等のアルデヒドの反応から製作される。米国特許第4,767,551号明細書及び第10,899,986号明細書を参照されたい。オレイン酸及びスルホン酸等の加工助剤及び触媒も、反応混合物の一部であってもよい。代表的な例は、米国特許第3,697,574号明細書;第3,703,536号明細書;第3,704,308号明細書;第3,751,365号明細書;第3,756,953号明細書;第3,798,165号明細書;第3,803,039号明細書;第4,231,759号明細書;第9,938,479号明細書;第7,491,248号明細書;及び第10,899,986号明細書、並びに国際公開第01/42399号パンフレットに示されている。
【0161】
ポリメタクリレート又はポリアクリレート誘導体の分散剤
ポリメタクリレート又はポリアクリレート誘導体は、本明細書で有用な別の種類の分散剤である。こうした分散剤は、典型的には、窒素含有モノマー、及びエステル基に5~25個の炭素原子を含むメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルを反応させることにより調製される。代表的な例は、米国特許第2,100,993号明細書及び第6,323,164号明細書に示されている。ポリメタクリレート及びポリアクリレート分散剤は、典型的には、より低分子量である。
本発明の潤滑組成物は、典型的には、組成物の0.1質量%~20質量%、例えば、潤滑油組成物の0.2~15質量%、例えば0.25~10質量%、例えば0.3~5質量%、例えば1.0質量%~3.0質量%の分散剤を含む。代替的には、分散剤は、潤滑組成物の0.1質量%~5質量%、又は0.01質量%~4質量%、又は0.05質量%~2質量%で存在してもよい。
本明細書で有用な分散剤に関する更なる情報は、米国特許第10,829,712号明細書の第13欄36行目~第16欄67行目、及び米国特許第7,485,603号明細書の第2欄65行目~第6欄22行目、第8欄25行目~第14欄53行目、及び第23欄40行目~第26欄46行目を参照されたい。
【0162】
J.腐食防止剤/防錆剤
腐食防止剤は、金属の腐食を低減するために使用することができ、代替的には金属不活化剤又は金属不動態化剤とも呼ばれることが多い。一部の腐食防止剤は、代替的には、抗酸化剤として特徴付けられる場合もある。
好適な腐食防止剤としては、トリアゾール(例えば、ベンゾトリアゾール)、置換チアジアゾール、イミダゾール、チアゾール、テトラゾール、ヒドロキシキノリン、オキサゾリン、イミダゾリン、チオフェン、インドール、インダゾール、キノリン、ベンゾキサジン、ジチオール、オキサゾール、オキサトリアゾール、ピリジン、ピペラジン、トリアジン、及びそれらのいずれか1つ又は複数の誘導体等の、窒素及び/又は硫黄含有複素環式化合物を挙げることができる。特定の腐食防止剤は、以下の構造:
【化2】
により表されるベンゾトリアゾールであり、
式中、R8は、存在しないか(水素)、又は直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和若しくは不飽和であってもよいC1~C20ヒドロカルビル基若しくは置換ヒドロカルビル基である。性質がアルキル若しくは芳香族であり、及び/又はN、O、若しくはS等のヘテロ原子を含む環構造を含んでいてもよい。好適な化合物の例としては、ベンゾトリアゾール、アルキル置換ベンゾトリアゾール(例えば、トリルトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、ヘキシルベンゾトリアゾール、オクチルベンゾトリアゾール等)、アリール置換ベンゾトリアゾール、及びアルキルアリール置換又はアリールアルキル置換ベンゾトリアゾール等、並びにそれらの組合せを挙げることができる。例えば、トリアゾールは、ベンゾトリアゾール、及び/又はアルキル基が1~約20個の炭素原子又は1~約8個の炭素原子を含むアルキルベンゾトリアゾールを含むか又はそれらであってもよい。そのような腐食防止剤の非限定的な例は、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、及び/又はドイツ国ルートヴィヒスハーフェンのBASF社から市販されているIrgamet(商標)39等の、置換されていてもよいベンゾトリアゾールを含むか又はそれらであってもよい。好ましい腐食防止剤は、ベンゾトリアゾール及び/又はトリルトリアゾールを含むか、又はベンゾトリアゾール及び/若しくはトリルトリアゾールであってもよい。
【0163】
加えて又は代替的に、腐食防止剤は、以下の構造:
【化3】
により表される置換チアジアゾールを含んでいてもよく、
式中、R15及びR16は、独立して、水素又は炭化水素基であり、炭化水素基は、環式、脂環式、アラルキル、アリール、及びアルカリルを含む、脂肪族又は芳香族であってもよく、各wは、独立して、1、2、3、4、5、又は6である(好ましくは、2、3、又は4、例えば2である)。こうした置換チアジアゾールは、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)分子から誘導される。DMTDの多くの誘導体が当技術分野に記載されており、そのような化合物はいずれも本開示で使用される流体に含めることができる。例えば、米国特許第2,719,125号明細書;第2,719,126;及び第3,087,937号明細書には、種々の2,5-ビス-(炭化水素ジチオ)-1,3,4-チアジアゾールの調製が記載されている。
【0164】
更に、加えて又は代替的に、腐食防止剤は、R15及びR16がカルボニル基を介して硫化物硫黄原子に結合していてもよいカルボン酸エステル等の、DMTDの1つ又は複数の他の誘導体を含んでもよい。こうしたチオエステル含有DMTD誘導体の調製は、例えば米国特許第2,760,933号明細書に記載されている。DMTDと、少なくとも10個の炭素原子を有するアルファ-ハロゲン化脂肪族カルボン酸との縮合により生成されるDMTD誘導体は、例えば、米国特許第2,836,564号明細書に記載されている。このプロセスにより、R15及びR16がHOOC-CH(R19)-である(R19はヒドロカルビル基である)DMTD誘導体が生成される。こうした末端カルボン酸基のアミド化又はエステル化により更に生成されるDMTD誘導体も有用であり得る。
【0165】
2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾールの調製は、例えば、米国特許第3,663,561号明細書に記載されている。
DMTD誘導体の種類としては、2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール及び2,5-ビス-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールの混合物を挙げることができる。そのような混合物は、商品名HiTEC(登録商標)4313で販売されており、Afton Chemical Company社から市販されている。
2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾールの調製は、例えば、米国特許第3,663,561号明細書に記載されている。
DMTD誘導体の種類としては、2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール及び2,5-ビス-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールの混合物を挙げることができる。そのような混合物は、HiTEC(商標)4313という商品名で販売されている場合があり、Afton Chemical Company社から市販されている。
【0166】
また更に、加えて又は代替的に、腐食防止剤は、構造B(OR463を有する三官能性ボレートを含んでもよく、式中、各R46は同じであってもよく又は異なっていてもよい。ボレートは、典型的には、組成物の非水性媒体と相溶性であることが望ましい場合があるため、各R46は、特に、ヒドロカルビルC1~C8部分を含むか又はそれであってもよい。非水性媒体が潤滑油ベースストックを含むか又はそれである組成物の場合、例えば、ヒドロカルビル部分が、典型的には、各々少なくともC4であれば、より良好な相溶性を達成することができる。したがって、そのような腐食防止剤の非限定的な例としては、これらに限定されないが、トリエチルボレート、トリイソプロピルボレート等のトリプロピルボレート、トリ-tert-ブチルボレート等のトリブチルボレート、トリペンチルボレート、トリヘキシルボレート、トリ-(2-エチルヘキシル)ボレート等のトリオクチルボレート、及びモノヘキシルジブチルボレート等、並びにそれらの組合せが挙げられる。
【0167】
使用される場合、腐食防止剤は、置換チアジアゾール、置換ベンゾトリアゾール、置換トリアゾール、三置換ボレート、又はそれらの組合せを含んでいてもよい。
必要に応じて、腐食防止剤は、任意の有効量で使用することができるが、使用される場合、典型的には、組成物の質量に基づき、約0.001質量%~5.0質量%、例えば0.005質量%~3.0質量%、又は0.01質量%~1.0質量%の量で使用することができる。代替的には、そのような添加剤は、潤滑組成物の質量に基づき、約0.01~5質量パーセント、好ましくは約0.01~1.5質量パーセントの量で使用することができる。
一部の実施形態では、3,4-オキシピリジノン含有組成物は、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、置換チアジアゾール、イミダゾール、チアゾール、テトラゾール、ヒドロキシキノリン、オキサゾリン、イミダゾリン、チオフェン、インドール、インダゾール、キノリン、ベンゾオキサジン、ジチオール、オキサゾール、オキサトリアゾール、ピリジン、ピペラジン、トリアジン、それらの誘導体、それらの組合せ、又はあらゆる腐食防止剤を実質的に含んでいなくてもよい(例えば、0、又は0.001質量%未満、0.0005質量%以下、意図的に非添加、及び/又は全く含まれていない)。
【0168】
K. 耐摩耗剤
本開示による組成物は、耐摩耗剤としての二次的効果も示す、様々な表記機能を有する添加剤を含んでいてもよい(例えば、有機モリブデン摩擦調整剤(ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、アルキルキサントゲン酸モリブデン、及びアルキルチオキサントゲン酸モリブデン)は、耐磨耗効果も示す)。こうした添加剤は、本明細書において潤滑油組成物又は濃縮物中の耐摩耗添加剤の量を決定する目的では、耐摩耗添加剤には含まれない。
【0169】
本発明の潤滑油組成物は、摩擦及び過度の摩耗を低減することができる1つ又は複数の耐摩耗剤を含んでいてもよい。当業者に公知のあらゆる耐摩耗剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な耐摩耗剤の非限定的な例としては、ジチオカルバメートの金属(例えば、Zn、Pb、Sb、及びMo等)塩、脂肪酸の金属(例えば、Zn、Pb、及びSb)塩、ホウ素化合物、及びそれらの組合せが挙げられる。耐摩耗剤の量は、潤滑油組成物の総質量に基づき、約0.01質量%~約5質量%、約0.05質量%~約3質量%、又は約0.1質量%~約1質量%の範囲であってもよい。
【0170】
実施形態では、亜鉛化合物は、式:
【化4】
により表されるジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸亜鉛錯体であってもよく、
式中、各RIは、独立して、1~約10個の炭素原子を有する、直鎖状、環状、又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、nは、0、1、又は2であり、Lは、亜鉛の配位圏を飽和する配位子であり、xは、0、1、2、3、又は4である。ある特定の実施形態では、リガンドLは、水、水酸化物、アンモニア、アミノ、アミド、アルキルチオレート、ハロゲン化物、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0171】
カルバミン酸亜鉛は、典型的には、潤滑組成物の総質量に基づき、約0.4質量パーセント~約1.2質量パーセント、好ましくは約0.5質量パーセント~約1.0質量パーセント、より好ましくは約0.6質量パーセント~約0.8質量パーセントの量で使用されるが、多くの場合、より多くの量又はより少ない量を有利に使用することができる。
また、本明細書で有用な耐摩耗添加剤としては、ホウ素含有化合物、例えばホウ酸エステル、ホウ酸化脂肪族アミン、ホウ酸化エポキシド、アルカリ金属(又は混合アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属)ボレート、及びホウ酸化過塩基性金属塩が挙げられる。
【0172】
他の添加剤
他の任意選択の添加剤としては、抗乳化剤が挙げられる。米国特許第10,829,712号明細書(第20欄34行目~40行目)を参照されたい。本明細書では、典型的には少量の抗乳化成分を使用することができる。好ましい抗乳化成分は欧州特許第330,522号明細書に記載されている。これは、ビスエポキシドと多価アルコールとの反応により得られる付加物とアルキレンオキシドとを反応させることにより得られる。
他の任意選択の添加剤としては、有機ホスフェート、芳香族エステル、芳香族炭化水素、エステル(例えば、フタル酸ブチルベンジル)、及びポリブテニル無水コハク酸等のシール適合剤が挙げられる。そのような添加剤は、約0.001~5質量パーセント、好ましくは約0.01~2質量パーセントの量で使用することができる。
【0173】
潤滑油組成物が、上記で考察されている添加剤の1つ又は複数を含む場合、添加剤は、典型的には、その意図されている機能を発揮するのに十分な量で組成物にブレンドされている。本開示に有用な、特にクランクケース潤滑剤に使用するためのそのような添加剤の典型的な量を下記の表に示す。
添加剤の多くは、ある特定の量の基油又は他の希釈剤と共に1つ又は複数の添加剤を一緒に含む濃縮物として、添加剤製造業者から出荷されることに留意されたい。したがって、下記の表の質量による量、並びに本明細書で言及されている他の量は、活性成分(即ち、成分の非希釈部分)の量を指す。下記に示す質量パーセント(質量%)は、潤滑油組成物の総質量に基づく。
上述の添加剤は、典型的には、市販の物質である。こうした添加剤は独立して添加してもよいが、通常は、潤滑油添加剤の供給業者から得ることができるパッケージに予め混合されている。様々な成分、割合、及び特質を有する添加剤パッケージが入手可能であり、最終組成物の使用を考慮して適切なパッケージを選択することになる。
別の態様では、本明細書に記載の潤滑油組成物は、600~1000ppmの第4族、第5族、第10族、第11族、第12族、又は第13族金属(例えば、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、スズ、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、ニオブ、及びタンタルからなる群から選択される金属等、第10族、第11族、第12族、又は第13族金属)を含む。
【0174】
代替的には、本明細書に記載の潤滑油組成物は、50~5000ppm、代替的に60~4000ppm、代替的に75~3000ppm、代替的に100~2500ppm、代替的に60~2000ppm、代替的に100~1500ppm、代替的に150~600ppmの亜鉛を含む。
代替的に、亜鉛は、亜鉛及びリンの質量に基づき、リンとほぼ同じ量又はリンよりも多い量で存在する。亜鉛は、亜鉛及びリンの質量に基づき、リンよりも1質量%より多く、例えば3質量%より多く、例えば5質量%より多く、例えば7質量%より多く、例えば約10質量%より多く存在してもよい。
【0175】
本発明は、以下のものに更に関する。
1. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも800ppmのMg(例えば、少なくとも1200ppmのMg)及び好ましくは500ppm未満のCaを提供する清浄剤、並びに
(iii)0.12質量%よりも多くのリンを提供する少なくとも1つのリン含有化合物を含む異常燃焼事象抑制剤化合物
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 0W-X、SAE 5W-X、又はSAE 10W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記潤滑油組成物が88のオクタン価を有する燃料と共に使用される場合、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、1反復当たり175,000サイクルの少なくとも1反復を完了する、
方法。
【0176】
2. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料はコブレンド燃料を含み、好ましくはコブレンド燃料は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-プロパノール、プレノール、ジメチルフラン、メチルフラン、シクロペンタノン、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの1つ又は複数とブレンドされた炭化水素燃料又は水素燃料を含む、
方法。
【0177】
3. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、並びに任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)内燃エンジンは、火花点火式内燃エンジンであり、
4)燃料は、内燃エンジンの最低燃料オクタン価よりも少なくとも1(例えば少なくとも2、例えば少なくとも3、例えば少なくとも4、例えば少なくとも5)低いオクタン価であるオクタン価を有する、
方法。
【0178】
4. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物を含む清浄剤であり、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されているか又は存在しない(例えば500ppm以下である))清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(例えば1つ又は複数のリン化合物、例えば潤滑油組成物の質量に基づき0.12質量%よりも多くの(例えば0.24質量%よりも多くの)リンを提供する1つ又は複数のリン化合物)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料は、水素燃料、e燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、
方法。
【0179】
5. 燃料は、石油燃料、e燃料、水素燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、段落1、2、又は3に記載の方法。
6. 燃料は、石油燃料及び少なくとも10質量%の燃料ブレンド製品(石油燃料及び燃料ブレンド製品の質量に基づく)を含むコブレンド燃料であり、前記燃料は、84以上のオクタン価又は40以上のセタン価を有する、段落1、2、3、又は4に記載の方法。
7. 燃料は、好ましくは40~60のセタン価を有するディーゼル燃料を含む、段落1、2、3、又は4に記載の方法。
8. 清浄剤は、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されている(例えば500ppm以下である)か又は存在しない)Mg化合物を含む、段落1、2、3、又は4に記載の方法。
9. 潤滑組成物は、少なくとも1200ppmのリンを含み、リンの少なくとも80%は、金属アルキルチオホスフェートに由来する、段落1、2、3、又は4に記載の方法。
【0180】
10. 潤滑油組成物は、88オクタン価基準燃料を使用したシーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、平均で2回未満のピーク圧力事象及び3回未満のLSPI事象を示す、段落1に記載の方法。
11. 燃料は、84以上のオクタン価を有する石油燃料を含み、燃料には、テトラエチル鉛が存在しない、段落1に記載の方法。
12. 潤滑油組成物は、80%以上のリン保持率を有する、段落1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11に記載の方法。
13. 燃料は水素燃料を含む、段落2又は4に記載の方法。
14. 清浄剤は、第1族及び第2族金属の油溶性中性及び過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリシレート、ナフテネート、及び他の油溶性カルボネートの1つ又は複数を含む、段落1~13のいずれかに記載の方法。
15. 清浄剤は、カルボン酸マグネシウム、スルホン酸マグネシウム、又はマグネシウムフェネート清浄剤を含む、段落1~13のいずれかに記載の方法。
【0181】
16. ポリイソブチレンコハク酸イミド及び/又はポリイソブチレンコハク酸を含む分散剤を更に含む、段落1~15のいずれかに記載の方法。
17. ACE抑制剤化合物は、金属ジヒドロカルビルチオホスフェートを含み、ヒドロカルビル(hydorcarbly)基は、アルキル及び/又はアリールであってもよく(ヒドロカルビル基は同じであってもよく又は異なっていてもよい)、好ましくは、アルキル基は、1つ又は複数のC6~C12アルキル基(アルキル基は同じであってもよく又は異なっていてもよい)を含み、アリール基は、1つ又は複数のC6~C22アリール基(アリール基は同じであってもよい)を含む、段落1~16のいずれかに記載の方法。
18. ACE抑制剤化合物は、ジアルキルチオリン酸亜鉛、ジアリールチオリン酸亜鉛、及び/又はアルキルアリール-ジチオリン酸亜鉛を含む、段落1~16のいずれかに記載の方法。
19. 1つ又は複数の摩擦調整剤、抗酸化剤、流動点降下剤、消泡剤、粘度調整剤、清浄剤、分散剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、極圧添加剤、抗乳化剤、及び/又はシール適合剤を更に含む、段落1~18のいずれかに記載の方法。
【0182】
20. 潤滑油組成物には、
A)基油は、前記潤滑組成物の質量に基づき50~99質量%で存在し、
B)ACE抑制剤化合物は、潤滑組成物の総質量に基づき0.1~10質量%で存在し、
C)清浄剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.1~20質量%で存在し、
D)1つ又は複数の粘度調整剤は、任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
E)1つ又は複数の抗酸化剤は、任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
F)任意選択で、1つ又は複数の流動点降下剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
G)任意選択で、1つ又は複数の消泡剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.001~5質量%で存在し、
H)任意選択で、1つ又は複数の粘度調整剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.001~10質量%で存在し、
I)任意選択で、1つ又は複数の分散剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~20質量%で存在し、
J)任意選択で、1つ又は複数の抑制剤及び/又は防錆剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
K)任意選択で、成分B)のもの以外の1つ又は複数の耐摩耗剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.001~5質量%で存在する、
段落1~19のいずれかに記載の方法。
【0183】
21. 燃料は水素燃料であり、水素燃料は圧縮ガスとして供給される、段落1~20のいずれかに記載の方法。
22. 水素燃料は、水素及び圧縮天然ガスを含む圧縮ガスとして供給される、段落21に記載の方法。
23. エンジンは、8以上の圧縮比及び1.0未満の空気燃料比を有する、段落1~22のいずれかに記載の方法。
24. エンジンは、自動車内燃ディーゼルエンジンである、段落1~23のいずれかに記載の方法。
25. エンジンは、火花点火式ターボ過給エンジンである、段落1~24のいずれかに記載の方法。
26. エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、少なくとも11:1の圧縮比を有する、段落1~25のいずれかに記載の方法。
27. 高圧縮火花点火式エンジンは、スーパー過給エンジン又はターボ過給エンジンである、段落26に記載の方法。
28. 燃料は、93以上のオクタン価を有する石油燃料であり、エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、エンジンは、少なくとも14:1の圧縮比を有する、段落1~27のいずれかに記載の方法。
29. エンジンは、水素エンジンである、段落1~22のいずれかに記載の方法。
【0184】
30. 燃料は、87オクタン価燃料であり、1700rpm及び少なくとも45g/秒の質量空気流量で作動する87オクタン価燃料定格のエンジンにおける加重平均点火進角は、潤滑油が800質量%以下のリンを含むことを除き同じ条件下で作動させた前記エンジンの加重平均点火進角よりも少なくとも23%高い、段落1~22のいずれかに記載の方法。
31. 燃料は、93オクタン価燃料であり、1700rpm及び少なくとも47g/秒の質量空気流量で作動する93オクタン価燃料定格のエンジンにおける加重平均点火進角は、潤滑油が800質量%以下のリンを含むことを除き同じ条件下で作動させた前記エンジンの加重平均点火進角よりも少なくとも17%高い、段落1~22のいずれかに記載の方法。
32. ACE抑制剤化合物は、潤滑組成物の総質量に基づき0.12~10質量%で存在する、段落1~22のいずれかに記載の方法。
【0185】
本発明は、以下のものにも関する。
1A. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)任意選択で、1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤(任意選択で、マグネシウム含有化合物、カルシウム含有化合物から選択される)、
(iii)潤滑油組成物に少なくとも1200ppmのリンを提供するリン含有化合物を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)潤滑油が1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤を含むか、燃料が1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤を含むか、又は両方である、
方法。
【0186】
2A. 1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤は、1つ若しくは複数のe燃料、1つ若しくは複数のコブレンド燃料、1つ若しくは複数の燃料添加剤、又はそれらの任意の組合せを含む、段落1Aに記載の方法。
3A. 1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤は、潤滑油組成物中に存在し、1つ又は複数のマグネシウム含有化合物及び/又はカルシウム含有化合物を含む、段落1Aに記載の方法。
4A. 1つ又は複数の異常燃焼事象促進剤は、燃料中に存在し、水素、エタノール、テトラリン、ジ-イソブチレン、ジメチルフラン、メチルフラン、ジメチルフラン及びメチルフランの組合せ、シクロペンタノン、エタノール、メタノール、プレノール、イソブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、並びにエタノール、イソブタノール、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの組合せの1つ又は複数を含む、段落1Aに記載の方法。
5A. 潤滑油組成物中の異常燃焼事象抑制剤は、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、及びモリブデン含有化合物の1つ又は複数を更に含む、段落1Aに記載の方法。
【0187】
6A. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、潤滑油組成物の質量に基づき、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも800ppmのMg、又は少なくとも1200ppmのMg、及び任意選択で、500ppm未満のCaを提供する清浄剤、及び
(iii)0.12質量%よりも多くのリンを提供する少なくとも1つのリン含有化合物を含む異常燃焼事象抑制剤化合物
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 0W-X、SAE 5W-X、又はSAE 10W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)前記潤滑油組成物が88のオクタン価を有する燃料と共に使用される場合、この組合せは、シーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、1反復当たり175,000サイクルの少なくとも1反復を完了する、
方法。
【0188】
7A. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppmのMg又は少なくとも1500ppmのMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料はコブレンド燃料を含み、好ましくはコブレンド燃料は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-プロパノール、プレノール、ジメチルフラン、メチルフラン、シクロペンタノン、2-メチル-1-ブタノール、エタノールベンゼン、及び3-メチル-1-ブタノールの1つ又は複数とブレンドされた炭化水素燃料又は水素燃料を含む、
方法。
【0189】
8A. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)清浄剤(少なくとも800ppmのMg又は少なくとも1500ppmのMgを提供する清浄剤等)、
(iii)リン含有化合物、並びに任意選択で、B、Si、及び/又はMo含有化合物の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤であり、少なくとも1200ppmのPを提供する1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)内燃エンジンは、火花点火式内燃エンジンであり、
4)燃料は、内燃エンジンの最低燃料オクタン価よりも少なくとも1(例えば少なくとも2、例えば少なくとも3、例えば少なくとも4、例えば少なくとも5)低いオクタン価であるオクタン価を有する、
方法。
【0190】
9A. 内燃エンジンの作動時の異常燃焼事象を低減するための方法であって、
(i)内燃エンジンのクランクケースに潤滑油組成物を供給するステップ、
(ii)内燃エンジンに燃料を供給するステップ、及び
(iii)内燃エンジンにて燃料を燃焼させるステップ
を含み、
1)潤滑油組成物は、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)Mg化合物を含む清浄剤であり、少なくとも800ppm mg又は少なくとも1500ppmのMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されているか又は存在しない(例えば500ppm以下である))清浄剤、
(iii)B、P、Si、及び/又はMo含有化合物(例えば1つ又は複数のリン化合物、例えば潤滑油組成物の質量に基づき0.12質量%よりも多くの(例えば0.24質量%よりも多くの)リンを提供する1つ又は複数のリン化合物)の1つ又は複数を含む1つ又は複数の異常燃焼事象抑制剤
を含むか又は混合することから得られ、
2)前記潤滑油組成物は、粘度記述子SAE 10W-X、SAE 5W-X、又はSAE 0W-Xにより識別され、Xは、8、12、16、20、又は30であり、
3)燃料は、水素燃料、e燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、
方法。
【0191】
10A. 燃料は、石油燃料、e燃料、水素燃料、コブレンド燃料、又はそれらの任意の組合せを含む、段落1Aに記載の方法。
11A. 燃料は、石油燃料及び少なくとも10質量%の燃料ブレンド製品(石油燃料及び燃料ブレンド製品の質量に基づく)を含むコブレンド燃料であり、前記燃料は、84以上のオクタン価又は40以上のセタン価を有する、段落1Aに記載の方法。
12A. 燃料は、好ましくは40~60のセタン価を有するディーゼル燃料を含む、段落1Aに記載の方法。
13A. 清浄剤は、少なくとも800ppm(例えば少なくとも1500ppm)のMgを提供する(好ましくは、Ca及びNa化合物が低減されている(例えば500ppm以下である)か又は存在しない)Mg化合物を含む、段落1Aに記載の方法。
14A. 潤滑組成物は、少なくとも1200ppmのリンを含み、リンの少なくとも80%は、金属アルキルチオホスフェートに由来する、段落1Aに記載の方法。
【0192】
15A. 潤滑油組成物は、88オクタン価基準燃料を使用したシーケンスIX試験、ASTM D829により決定して、平均で2回未満のピーク圧力事象及び3回未満のLSPI事象を示す、段落1Aに記載の方法。
16A. 燃料は、84以上のオクタン価を有する石油燃料を含み、燃料には、テトラエチル鉛が存在しない、段落1Aに記載の方法。
17A. 潤滑油組成物は、80%以上のリン保持率を有する、段落1Aに記載の方法。
18A. 燃料は水素燃料を含む、段落2Aに記載の方法。
19A. 燃料は水素燃料を含む、段落4Aに記載の方法。
【0193】
20A. 清浄剤は、第1族及び第2族金属の油溶性中性及び過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリシレート、ナフテネート、及び他の油溶性カルボネートの1つ又は複数を含む、段落1Aに記載の方法。
21A. 清浄剤は、カルボン酸マグネシウム、スルホン酸マグネシウム、又はマグネシウムフェネート清浄剤を含む、段落1Aに記載の方法。
22A. ポリイソブチレンコハク酸イミド及び/又はポリイソブチレンコハク酸を含む分散剤を更に含む、段落1Aに記載の方法。
23A. 異常燃焼事象抑制剤化合物は、金属ジヒドロカルビルチオホスフェートを含み、ヒドロカルビル(hydorcarbly)基は、アルキル及び/又はアリールであってもよく(ヒドロカルビル基は同じであってもよく又は異なっていてもよい)、好ましくは、アルキル基は、1つ又は複数のC6~C12アルキル基(アルキル基は同じであってもよく又は異なっていてもよい)を含み、アリール基は、1つ又は複数のC6~C22アリール基(アリール基は同じであってもよい)を含む、段落1Aに記載の方法。
24A. 異常燃焼事象抑制剤化合物は、ジアルキルチオリン酸亜鉛、ジアリールチオリン酸亜鉛、及び/又はアルキルアリール-ジチオリン酸亜鉛を含む、段落1Aに記載の方法。
【0194】
25A. 潤滑油組成物は、1つ又は複数の摩擦調整剤、抗酸化剤、流動点降下剤、消泡剤、粘度調整剤、清浄剤、分散剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、極圧添加剤、抗乳化剤、及び/又はシール適合剤を更に含む、段落1Aに記載の方法。
26A. 潤滑油組成物中には、
A)基油は、潤滑組成物の質量に基づき50~99質量%で存在し、
B)ACE抑制剤化合物は、潤滑組成物の総質量に基づき0.1~10質量%で存在し、
C)清浄剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.1~20質量%で存在し、
D)1つ又は複数の粘度調整剤は、任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
E)1つ又は複数の抗酸化剤は、任意選択で、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
F)任意選択で、1つ又は複数の流動点降下剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
G)任意選択で、1つ又は複数の消泡剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.001~5質量%で存在し、
H)任意選択で、1つ又は複数の粘度調整剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.001~10質量%で存在し、
I)任意選択で、1つ又は複数の分散剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~20質量%で存在し、
J)任意選択で、1つ又は複数の抑制剤及び/又は防錆剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.01~5質量%で存在し、
K)任意選択で、成分B)のもの以外の1つ又は複数の耐摩耗剤は、潤滑組成物の総質量に基づき0.001~5質量%で存在する、
段落1Aに記載の方法。
【0195】
27A. 燃料は水素燃料であり、水素燃料は圧縮ガスとして供給される、段落1Aに記載の方法。
28A. 水素燃料は、水素及び圧縮天然ガスを含む圧縮ガスとして供給される、段落27Aに記載の方法。
29A. エンジンは、8以上の圧縮比及び1.0未満の空気燃料比を有する、段落1Aに記載の方法。
30A. エンジンは、自動車内燃ディーゼルエンジンである、段落1Aに記載の方法。
31A. エンジンは、火花点火式ターボ過給エンジンである、段落1Aに記載の方法。
32A. エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、少なくとも11:1の圧縮比を有する、段落1Aに記載の方法。
33A. 高圧縮火花点火式エンジンは、スーパー過給エンジン又はターボ過給エンジンである、段落32に記載の方法。
34A. 燃料は、93以上のオクタン価を有する石油燃料であり、エンジンは、高圧縮火花点火式エンジンであり、エンジンは、少なくとも14:1の圧縮比を有する、段落1Aに記載の方法。
35A. エンジンは、水素エンジンである、段落1Aに記載の方法。
【0196】
36A. 燃料は、87オクタン価燃料であり、1700rpm及び少なくとも45g/秒の質量空気流量で作動する93オクタン価燃料定格のエンジンにおける加重平均点火進角は、潤滑油が800質量%以下のリンを含むことを除き同じ条件下で作動させた前記エンジンの加重平均点火進角よりも少なくとも23%高い、段落1Aに記載の方法。
37A. 燃料は、93オクタン価燃料であり、1700rpm及び少なくとも47g/秒の質量空気流量で作動する93オクタン価燃料定格のエンジンにおける加重平均点火進角は、潤滑油が800質量%以下のリンを含むことを除き同じ条件下で作動させた前記エンジンの加重平均点火進角よりも少なくとも17%高い、段落1Aに記載の方法。
38A. ACE抑制剤化合物は、潤滑組成物の総質量に基づき0.12~10質量%で存在する、段落1Aに記載の方法。
39A. 清浄剤は、少なくとも800ppm、又は少なくとも1200ppm、又は少なくとも1500ppmのMgを潤滑油組成物に提供する、段落1Aに記載の方法。
40A. 清浄剤は、0~500ppmのCa及び/又はNaを潤滑油組成物に提供する、段落1Aに記載の方法。
41A. 潤滑油組成物は、500ppm以下のCa、及び1500ppm以上、又は1700ppm以上、又は1740ppm以上のPを含む、段落1Aに記載の方法。
【0197】
42A. 潤滑油組成物であって、潤滑油組成物の質量に基づき、
(i)50質量%以上の基油、
(ii)少なくとも500ppmのMg、又は少なくとも1500ppmのMg、及び500ppm未満のCaを任意選択で潤滑油組成物に提供する清浄剤、並びに
(iii)1200ppmよりも多くのリン、又は1800ppmよりも多くのリンを潤滑油組成物に提供する少なくとも1つのリン含有化合物を含む異常燃焼事象抑制剤化合物
を含むか又は混合することから得られる潤滑油組成物。
【0198】
以下の非限定的な例は、本開示を説明するために提供されている。
実験
別様の記載がない限り、全ての分子量は、g/molで報告される数平均分子量(Mn)である。
試験手順
全塩基価は、ASTM D2896に従って決定され、mg KOH/gの単位で報告される。
粘度指数は、ASTM D2270に従って測定される。
KV100は、ASTM D445-19aに従って100℃で測定される動粘度である。
【0199】
シーケンスIX試験
シーケンスIX試験、ASTM D8291-19は、シーケンスIXガソリンターボ過給直噴火花点火式エンジンにおける低速過早点火の軽減に関する自動車エンジン油の性能を評価するための標準的試験方法である。93オクタン価ガソリン基準燃料(Haltermann HF-00003 EEE潤滑油認証ガソリン、Haltermann Solutions社、テキサス州ヒューストン)及び88オクタン価ガソリン基準燃料(Haltermann HF-02021 EPA Tier 3 EEE排気ガス認証燃料レギュラーオクタン価、Haltermann Solutions社、テキサス州ヒューストン)を、試験モニタリングセンター(Test Monitoring Center、ペンシルバニア州フリーポート、www.astmtmc.org)から入手した基準油220及び224と共に、シーケンスIX試験に使用した。
【0200】
物質
【化5】
【表1】

【実施例0201】
(実施例1)
潤滑油ブレンド1、油220、及び油224を、上記に記載のシーケンスIX試験に従って、異常燃焼事象(低速過早点火等の)性能について評価した。LSPI事象の平均数(合計で4回の反復での)に基づく合否パラメーターは、98オクタン価燃料では0回の事象、88オクタン価燃料では2回未満のLSPI事象だった。結果を表2に報告する。
【表2】

【0202】
88オクタン価基準燃料と共に使用した油220は過剰なノッキングを示したため、試験を中止して試験エンジンに対する損傷を回避したことに留意されたい。対照的に、潤滑剤1は、1反復当たり175,000サイクルの1反復を正常に完了し、LSPI事象のスコアは2回未満だった。これは、潤滑油ブレンド1が、88オクタン価燃料を使用しつつノッキングを排除し、「オクタン価リフト」を効果的に提供する(つまり、燃料がより高いオクタン価を有するかのように機能させることができる)ことを意味する。潤滑剤1で記録された少数回のLSPI事象は、非常に低いピーク圧力を示し、つまり、LSPIとして割り当てられる最小ピーク圧力を満たすのに十分な程度の大きさに過ぎなかったことも注目に値する。オクタン価のより低い燃料では、通常、ピーク圧力はより高いことに留意されたい。所与のエンジン及びエンジン制御システムでは、潤滑剤1は、エンジンが作動できる燃料品質の範囲を拡大する。オクタン価リフトを効果的に提供し、ACEのリスクがあるため以前はブロックされていた速度/負荷マップの領域を新たに開拓することにより、圧縮比及び他の作動上の利益を増加させる機会を提供する。
【0203】
(実施例2)
様々な燃料混合物を用いたシーケンスIXエンジンにおいてLSPIに抵抗する潤滑油ブレンド1の能力を評価した。93オクタン価基準燃料(Haltermann HF-00003 EEE潤滑油認証ガソリン、Haltermann Solutions社、テキサス州ヒューストン)をベースライン燃料として使用し、LSPI等の異常燃焼事象に影響を及ぼす傾向があることが公知である分子(テトラリン、ジイソブチレン、エタノール)を、ベースライン燃料に添加した。選択された燃料添加剤は、燃焼室により長期間残る重質芳香族である2.5%及び5%のテトラリン、15%及び30%のジイソブチレン、並びに15%及び30%のエタノールだった。これらは全て燃料の点火性を増加させ、過早点火等の異常燃焼事象を促進することが公知である。この研究で使用した潤滑剤は、GF-6技術を代表するシーケンスIXベースライン合格基準油である油224、カルシウム(LSPIを促進する)がより少ない低LSPI事象数の油である油220、並びにホウ素及び油224と比較してより高いレベルのモリブデンの追加のLSPI抑制剤、並びに潤滑油ブレンド1(図1の「NK」)だった。NKは、カルシウム清浄剤を用いずに、代わりにマグネシウム清浄剤を使用して配合されており、2000ppmのリン(これは、上述のように、強力なLSPI抑制剤である)を有する。油224は、約750ppmのリンを有する混合Ca/Mg清浄剤系である。油220は、約800ppmのリンを有する低レベルのCa清浄剤のみを含む。
【0204】
潤滑油及び燃料の組合せを、上記に記載のシーケンスIX試験に従って試験した。結果は図1に示されている。EEEベースライン燃料を用いた場合にLSPI事象が既に約4回のベースライン事象数を有する油224及び試験燃料の全ての組合せを、LSPI活性が非常に高い場合に試験エンジンに対する深刻な又は壊滅的な損傷の可能性を安全に最小限に抑えるように評価することができたわけではないことに留意されたい。潤滑油ブレンド1は、調査対象の全ての燃料でLSPI活性をほとんど又は全く示さないことが示された。対照的に、EEE燃料を用いたシーケンスIX試験において約1回のLSPI事象を示す油である油220は、油をEEE+5%テトラリンで試験したところ、活性の著しい増加を示した。加えて、より高活性の油224は、EEE+30%ジイソブチレンで試験したところ、LSPI活性の著しい増加を示した。この知見は、潤滑油ブレンド1が、燃焼ダイナミクスに効果的に影響を及ぼし、LSPI及び/又はノッキングを低減又は排除することができることを示唆している。
【0205】
(実施例3)
潤滑油ブレンド1(「NK」)を潤滑油として使用すると、93オクタン価燃料用に設計されたエンジンにおいて87オクタン価ガソリンを使用することができるという驚くべき能力を説明するために、潤滑油ブレンド1及び市販のモーター油を、燃料オクタン価に応じて異なるエンジン管理戦略を実行する(例えば、ECUは、93オクタン価燃料の場合、87オクタン価燃料と比較してタイミングを早め、燃料流量を変更することになる)ように構成されたエンジン管理システム(ECU)を有する自動車、例えば、3.5L EcoBoost V6エンジンを有する2022Ford Expeditionで試験した。
【0206】
質量空気流量(MAF)は、全ての条件で容積効率(VE)=1=100%であり、乾燥空気の比ガス定数は287.0528784J/(kg*K)であり、ここでJ=Pa*3であるという仮定に基づき、自動車のセンサーから入手可能な情報(マニホールド絶対圧(MAP)、毎分回転数(RPM)、及び吸気温度(IAT))から計算される。以下の実験の場合:
MAF(g/秒)=VE×0.0291333×(RPM×MAP(Pa))/(IAT(oK)×287.052874)
である。
【0207】
この式は、以下のように決定した。
【数1】
数式中、
rは、質量空気流量(g/秒)であり、
rは、容積流量(cc/秒)であり、
Dは、密度(g/cc)であり、
VEは、容積効率であり、全ての条件で1であることが想定されており、
RPMは、1分当たりの回転数であり、
MAPは、マニホールド絶対圧力(g/秒)であり、
IATは、吸気温度(K)であり、
Rは、乾燥空気の比気体定数(287.0528784J/(kg*K)であり、J=Pa*3)である。
【0208】
空気-燃料混合物の火花及び点火は、上死点の少し手前で生じることが望ましい。火花の発生が早過ぎると、ピストンが上死点に到達する前に空気-燃料ミックスが燃焼することになり、異常燃焼事象(スパークノッキング)が生じ、エンジンを損傷する可能性がある。火花が上死点で発生すると、燃焼が生じる前にピストンがシリンダー内を下方に移動し始めることになり、動力の損失が引き起こされる。
点火進角(上死点に達する前に移動する角度)の数値が高くなると、燃焼プロセスにより多くの時間が与えられ、空気-燃料混合物を完全に/より効率的に燃焼させるための時間がより長くなると考えられる。ドライブサイクルの点火進角を、質量空気流量(MAF)及びエンジン速度(RPM)に対して個々のビンに分割する。
【0209】
点火進角及び点火遅角(上死点に向けて又は上死点以降に移動する角度)を、1ms/1000Hzのサンプリングレートに基づき、自動車センサーから取得し、Excel(商標)ソフトウェアで一緒にして加重平均した。データを最小100計数でセルにフィルタリングした。データのより高い範囲は使用しない(アイドリング又はスロットルを外したことを表すため)。データのより低い範囲は、車両走行状態(最も一貫して再現可能な状態)を表す。
【0210】
様々な質量空気流量(MAF)における、1700rpmでの加重平均点火進角を下記に報告する。実施例3が実施例4の93オクタン価燃料のあらゆる効果を最小限にするように、実施例1~5を番号順に実行した。数値が大きいほど、点火進角が望ましいことを示す。
【表3】


【表4】

【0211】
実施例1を、異なる質量空気流量の実施例4(87オクタン価燃料)と比較すると、質量空気流量が増加すると共にNK潤滑油の利益も増加することを理解することができる。MAFが50~53の場合、加重平均点火進角の100%よりも大きな増加が得られ、異常燃焼事象の著しい減少を示すことに留意されたい。
【0212】
実施例2を、異なる質量空気流量の実施例5(93オクタン価燃料)と比較すると、質量空気流量が増加すると共にNK潤滑油の利益も増加することを理解することができる。MAFが50~53の場合、加重平均点火進角の40%よりも大きな増加が得られ、異常燃焼事象の著しい減少を示すことに留意されたい。
【0213】
あらゆる優先権文書及び/又は試験手順を含む、本明細書に記載の全ての文書は、この本文と矛盾しない範囲で、参照により本明細書に組み込まれる。上述の基本的説明及び特定の実施形態から明らかなように、本発明の形態が例示及び説明されているが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく種々の改変をなすことができる。したがって、本発明は、それらにより限定されることは意図されていない。「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」という用語と同義であるとみなされる。同様に、組成物、要素、又は要素の群に「含む(comprising)」という移行句が先行している場合は常に、組成物、1つ又は複数の要素の記載に先行する、「から本質的になる(consisting essentially of)」、「からなる(consisting of)」、「からなる群から選択される(selected from the group of consisting of)」、又は「である(is)」という移行句を伴う同じ組成物又は要素の群も企図され、その逆も同様であることが理解される。
図1
図2
図3
【外国語明細書】