(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096547
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電磁緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 15/03 20060101AFI20240709BHJP
F16F 9/00 20060101ALI20240709BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20240709BHJP
F16F 9/50 20060101ALI20240709BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240709BHJP
B62K 25/04 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F16F15/03 G
F16F9/00 Z
F16F9/32 N
F16F9/32 J
F16F9/50
F16F15/02 A
B62K25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000031
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 陽亮
(72)【発明者】
【氏名】藤川 暢介
【テーマコード(参考)】
3D014
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DD02
3D014DE21
3J048AA06
3J048AC08
3J048AD02
3J048AD14
3J048BE09
3J048CB21
3J048EA16
3J048EA22
3J069AA46
3J069AA54
3J069CC10
3J069CC15
3J069CC18
3J069EE01
3J069EE63
(57)【要約】
【課題】 電磁気による力を利用して減衰力の一部又は全部を発生する能動的な緩衝器を、より簡易な構成で実現することを目的とする。
【解決手段】 流体を収容する筒状のシリンダ130と、シリンダ内を軸方向に移動可能である棒状又は筒状の可動部材100と、を備え、可動部材の外周面に3条ネジ溝Vが設けられ、3条ネジ溝には、可動部材との間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイル103、105、107が巻き回された第1の構成、又は、シリンダの内周面に3条ネジ溝が設けられ、3条ネジ溝には、シリンダとの間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイルが巻き回された第2の構成、を有し、可動部材を可動子MS1とし、シリンダを固定子MS2とするリニア誘導モータ構造が形成されると共に、可動部材に生じる軸方向の荷重を減衰力とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容する筒状のシリンダと、
前記シリンダ内を軸方向に移動可能である棒状又は筒状の可動部材と、
を備え、
前記可動部材の外周面に3条ネジ溝が設けられ、前記3条ネジ溝には、前記可動部材との間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイルが巻き回された第1の構成、
又は、
前記シリンダの内周面に3条ネジ溝が設けられ、前記3条ネジ溝には、前記シリンダとの間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイルが巻き回された第2の構成、
を有し、
これによって、前記可動部材を可動子とし、前記シリンダを固定子とするリニア誘導モータ構造が形成されると共に、
前記可動部材に生じる前記軸方向の荷重を減衰力とする、
電磁緩衝器。
【請求項2】
前記第1の構成の場合は、前記シリンダの、少なくとも前記3条ネジ溝に対向し得る部分は導体で構成され、前記可動部材の、少なくとも前記3条ネジ溝が形成されている部分は磁性体で構成され、
前記第2の構成の場合は、前記シリンダの、少なくとも前記3条ネジ溝が形成されている部分は磁性体で構成され、前記可動部材の、少なくとも前記3条ネジ溝に対向し得る部分は導体で構成される、
請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項3】
前記3条ネジ溝の表面は絶縁層により被覆されている、請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項4】
前記可動部材には、前記流体の流路を構成するオリフィスが形成されている、請求項1乃至3の何れか1項に記載の電磁緩衝器。
【請求項5】
前記シリンダはアウターチューブであり、前記可動部材はインナーチューブである、請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項6】
前記シリンダはインナーチューブであり、前記可動部材は、ピストンと結合されたピストンロッドである、請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項7】
前記シリンダは、インナーチューブの内側に配置されるスリーブであり、前記可動部材は、ピストンと結合されたピストンロッドである、請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項8】
前記3条のコイルはスター型に結線されている、請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項9】
電磁緩衝器は、車両におけるステアリングダンパ、又は、鞍乗り型車両におけるフロントフォークである、請求項1に記載の電磁緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁緩衝器等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シャフトモータ構造を利用した制振用アクチュエータが記載されている。
【0003】
例えば、同文献の[0011]には、「リニアアクチュエータが、永久磁石を保持するロッドと、この永久磁石に対向するコイルを保持するコイルホルダを有する点」が記載されている。[0012]には、「コイルに流れる電流に応じてロッドを軸方向に駆動する推力(電磁力)が発生する点」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によって、下記の課題が明らかとなった。
すなわち、特許文献1では、ロッドの軸方向に多数の永久磁石を配設し、それらの永久磁石に対向するようにコイルを配置する必要があるため、構成が複雑である。よって、装置が大型化するのは否めない。また、巻線を均等かつ細密に巻き回してコイルを作成する必要があり、コスト高となるのも否めない。
【0006】
本発明は、電磁気による力を利用して減衰力の一部又は全部を発生する能動的な緩衝器としての電磁緩衝器を、より簡易な構成で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、三相交流信が印加される3本の各巻線を3条ネジ溝に巻き回すことで、簡易な構成にてリニア誘導モータ構造を用いた能動緩衝器を実現でき、これによって上記課題を解決できるとの知見を得た。
本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
以下、本開示について説明する。
【0008】
本開示の1つの態様によれば、流体を収容する筒状のシリンダ(130)と、シリンダ(130)内を軸方向に移動可能である棒状又は筒状の可動部材(100)と、を備え、可動部材(100)の外周面に3条ネジ溝(V)が設けられ、3条ネジ溝(V)には、可動部材(100)との間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイル(103、105、107)が巻き回された第1の構成、又は、シリンダ(130)の内周面に3条ネジ溝(V)が設けられ、3条ネジ溝(V)には、シリンダ(130)との間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイルが巻き回された第2の構成、を有し、これによって、可動部材(100)を可動子(MS1)とし、シリンダ(130)を固定子(MS2)とするリニア誘導モータ構造が形成されると共に、可動部材(100)に生じる軸方向の荷重を減衰力とする、電磁緩衝器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構成が簡素化された、能動的な緩衝器としての電磁緩衝器を提供することができる。また、電磁緩衝器の低価格化も実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】3条ネジ溝の構造例、及び3条ネジ溝に巻き回され、3相交流が印加される3条のコイルの配置例、構造例ならびに表記例を示す図である。
【
図2】3条のコイルの結線例、リニア誘導モータ構造の例、及び可動子としての棒状又は筒状の可動部材の構造例を示す図である。
【
図5】電磁緩衝器の構成の、さらに他の例を示す図である。
【
図6】電磁緩衝器の構成の、さらに他の例を示す図である。
【
図7】電磁緩衝器の構成の、さらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。添付図に示した形態は本発明の一例であり、本発明は当該形態に限定されない。
【0012】
<実施例1>
図1を参照する。
図1は、3条ネジ溝の構造例、及び3条ネジ溝に巻き回され、3相交流が印加される3条のコイルの配置例、構造例ならびに表記例を示す図である。なお、
図1では、説明の便宜状、各部の様子を模式的に示しており、必ずしも、現実の具体的な構成とは一致しない。
【0013】
図1のA-1では、筒状体、あるいは棒状体である可動部材100が設けられ、その外周面に3条ネジ溝が形成され、その3条ネジ溝に3条のコイル103、105、107が巻き回されている。
【0014】
なお、
図1のA-1において、可動部材100が軸方向に沿って可動であることを、双方向の矢印で示している。
【0015】
また、3条のコイル103、105、107には、3相交流が印加される。3相交流は電圧の位相を120度ずつずらした3組の交流である。
図1のA-1では、3相を、U相、V相、W相と表記している。
【0016】
また、以下の説明では、「コイル全体」に着目する場合には「コイル」という表現を使用し、コイルを構成する「巻線」に着目する場合には「巻線」という表現を使用する。よって、「3条のコイル103、105、107」は、「3条の巻線103、105、107」と言い換えることができる。
【0017】
筒状体、あるいは棒状体である可動部材100は、好ましくは、磁性体で構成される。これにより、磁気回路が形成されたときに、可動部材100がヨークとして機能し、磁界が大気中に放出されることが抑制され、強い磁界を生じさせることが可能となる。
【0018】
なお、磁性体としては、セラミック、金属、希土類元素の材料を使用できる。具体的には、フェライト、鉄、コバルト、ニッケル、ネオジウム等の磁性体材料を使用できる。但し、一例であり、これらに限定されるものではない。
【0019】
また、可動部材100は、好ましい例では、シリンダの内部において、シリンダの軸方向に可動に配置される。なお、シリンダは、
図1では不図示であり、
図2のA-2では、符号130を付して示されている。
【0020】
シリンダは、誘導電流としての渦電流を発生させる部材であるため、導体で構成される。シリンダの材料としては、例えば、アルミニュウム、アルミニュウム合金、銅、銅合金等の良導電性の金属材料を使用できる。但し、一例であり、これらに限定されるものではない。
【0021】
3条ネジ溝の構造例が、
図1のA-2、A-3に示される。3条ネジ溝には「V」の符号が付されている。また、
図1のA-2、A-3においては、説明の便宜上、3条のコイル103、105、107のうちの何れか1つを破線の直線にて示し、これを「Q」と表記している。
【0022】
ここで、ネジが1回転したときに、ネジが軸方向に進む距離を「リードL」とし、ネジの隣接する山と山の間の距離、あるいは谷と谷の間の距離を「ピッチP」とするとき、
図1のA-2に示すように、3条ネジ溝では、リードLはピッチPの3倍となる。
【0023】
3相交流は、U、V、Wの各相の交流信号が120度の位相差をもち、3条ネジ溝は、各ネジ溝Vが120の位相差をもって形成されている。よって、両者は、120度の位相差を有する点で共通しており、互いに整合している。
【0024】
この点に着目し、本実施例では、3相交流が印加される3条のコイル103、105、107の各々を、3条ネジ溝Vの各々に巻き回している。
【0025】
ここで、3条ネジ溝Vは、3条のコイル103、105、107の各々を、120度の位相差を高精度に保ちつつ、可動部材100の軸方向に沿って延在させるガイド溝として機能する。これにより、3条のコイル103、105、107は、ガイド溝としての3条ネジ溝Vにガイドされて、可動部材100の軸方向に高精度に延在することとなる。
【0026】
よって、各コイル103、105、107に3相交流を印加すると、可動部材100の軸方向に、正確な位相変化をもつ変動磁界を発生させることができる。
【0027】
この変動磁界の近傍に、例えば
図2のA-2に示されるように、導体で構成されるシリンダ130が存在する場合、そのシリンダ130には、誘導電流としての渦電流が流れ、この渦電流に起因して生じる磁界が可動部材100に戻されることになり、これによって磁気回路が形成される。
【0028】
磁気回路が構成されると、可動部材100には、電流の向きと磁界の向きに基づいて、フレミングの左手の法則に従って、可動部材100を軸方向に直線状に移動させようとする推進力、言い換えれば荷重が発生する。これによって、リニア誘導モータ構造が形成される。
【0029】
本発明では、この推進力の荷重を減衰力として利用してアクティブダンパ、言い換えれば、能動的な緩衝器を構成する。なお、「能動的な緩衝器」は、「能動緩衝器」と表記される場合がある。
アクティブダンパは、電磁気力を利用する電磁緩衝器であり、受動的な減衰力とは別に、所望の減衰力の全部又は一部を能動的に発生させることができる。
【0030】
また、能動的に発生させる減衰力と、受動的な減衰力とを併用することも可能である。この点については後述する。
【0031】
次に、コイル103、105、107と、可動部材100との電気的絶縁を確保する構成について説明する。
【0032】
図1のA-3では、3条ネジ溝Vの表面は、絶縁層、言い換えれば絶縁膜108により被覆されている。すなわち、3条ネジ溝Vの表面には絶縁層108が形成されている。
【0033】
この絶縁層108としては、例えば酸化膜を使用することができる。絶縁層108は、例えば電着塗装によって、可動部材100の、3条ネジ溝Vが形成されている領域の全域にわたって、均一の厚みdで形成してもよい。
【0034】
ここで、電着塗装は、塗装槽に被塗物を浸し、これを陽極、または陰極として直流電圧を印加し、電流を流すことで塗膜を密着形成する被膜形成方法である。但し、一例であり、絶縁層の形成方法はこれに限定されるものではない。
【0035】
均一の厚みdの酸化膜等を3条ネジ溝Vの表面に形成することで、3条のコイル103、105、107と、コイルが巻き回される部材、すなわち可動部材100等と、の間の電気的絶縁を確実に確保することが可能である。
【0036】
また、酸化膜等の絶縁膜の膜厚が均一であることから、3条のコイルの各々と可動部材100との間に形成される寄生容量、言い換えれば3相交流の伝送路における寄生容量が一律となり、分布定数のばらつきが抑制される。よって、120度の位相差をもつ3相交流信号の波形変動、言い換えれば、位相差の乱れが抑制され、正確で安定した変動磁界を生じさせることができる。
【0037】
また、厚みdを適切に設定する、すなわち、酸化膜等を、ある程度の厚みをもって形成することで、寄生容量の電極間の距離を増大させることができ、よって、寄生容量の容量値を所望レベル以下に低減することもできる。また、酸化膜等の誘電率を選択することによっても、寄生容量の容量値を低減することができる。
【0038】
また、各コイルの巻線103、105、107が3条ネジ溝Vの中に収容されて、各巻線間の絶縁が確保されるのであれば、各巻線は絶縁性材料にて被覆されなくてもよい。これにより、3条の巻線を高密度に巻き回すことができる。
【0039】
但し、各巻線間の絶縁性を確保することが困難である場合等には、3条のコイルの巻線として、例えば、樹脂等の絶縁膜で被覆された巻線を使用してもよい。また、巻線を被覆することで、各巻線と可動部材100との間の電気的絶縁性も向上する。
【0040】
図1のA-4では、絶縁膜等で被覆された巻線103、105、107を、部材100の外周面に形成された3条ネジ溝Vに巻き回している。
【0041】
但し、3相交流用のコイルを、例えば
図1のA-4のように正確に描くと、図が複雑化するため、
図1のA-5のように、例えば3本の巻線103、105、107を、便宜上、共通の1本の巻線に集約し、この1本に集約された巻線、あるいは、この1本に集約された巻線で構成される1条のコイルに「符号300」を付す。
【0042】
図1のA-6には、
図3、
図4、
図5、
図6、
図7にて使用される、リニア誘導モータの可動子MS1の構成例が記載されている。
図1のA-6の例では、磁性体からなる筒状体、あるいは棒状体200である可動部材100の外周面に3条ネジ溝が形成され、3条のコイルが巻き回されている。
【0043】
すなわち、
図1のA-6では、あたかも、1条の巻線300が1条ネジ溝に巻き回されているかのように描かれている。実際は、例えば
図1のA-4に示すように、3条の巻線の各々が3条ネジ溝の各々に巻き回されている。
図3、
図4、
図5、
図6、
図7では、
図1のA-6の表記が使用される。
【0044】
次に、
図2を参照する。
図2は、3条のコイルの結線例、リニア誘導モータ構造の例、及び可動子としての棒状又は筒状の可動部材の構造例を示す図である。
【0045】
図2のA-1の左側に示されるように、3相交流を3条のコイル103、105、107の各々に印加するために、3相交流駆動部400が設けられている。3相交流駆動部400の出力端子R、S、Tは、3相交流のU、V、Wの各相に対応する。
【0046】
なお、巻線103、105、107が巻き回された部材100において、3相交流が印加される側の端部を「入力側の端部」と称し、入力側の端部とは反対側の端部を「出力側の端部」と称する。
【0047】
図2のA-1の右側に示されるように、出力側の端部においては、U、V、Wの各相の巻線がスター型、言い換えればY型に結線される。すなわち、U、V、Wの各相の巻線が、例えば円柱状の可動部材100の軸方向に少し引き出され、その引き出された部分が、結線用の配線Ja、Jb、Jcを介して所定の直流電位、例えば接地電位に接続される。接地される共通接続点をG1とする。
【0048】
好ましい例では、その共通接続点G1を各相の巻線の中心位置に設ける。これにより、結線用の各配線Ja、Jb、Jcの長さが同じとなり、インピーダンスが揃う。このことは、例えば、インピーダンス不整合によって生じる反射波の抑制に貢献する。この点は、3相交流の波形の乱れを防止するのに役立つ。
【0049】
スター型結線を用いることで、結線用の配線が簡素化される。また、結線用の配線部分におけるインピーダンスの不整合を低減することができる。但し、スター型結線に限定されるものではなく、デルタ型結線を使用することもできる。
【0050】
次に、
図2のA-2~A-4の例について説明する。
図2のA-2~A-4では、電磁緩衝器の要部構成の具体例が示されている。
【0051】
まず、
図2のA-2について説明する。
図2のA-2では、棒状、または筒状の可動部材100は、筒状、具体的には円筒状のシリンダ130内に収容されている。
【0052】
シリンダには流体が収容されている。流体は、オイル等の液体であってよく、空気等の気体であってもよい。
【0053】
可動部材100は全体として棒状である。具体的には円柱状である。但し、その棒状の可動部材100の、電磁気による相互作用に関係する箇所では、その径が他の部分の径よりも大きい、拡径された部分が設けられている。
【0054】
図2のA-2では、その拡径された部分が、磁性体で構成されるヨークとして機能し得る部分であり、図中、符号122が付されて示されている。この拡径された部分は、リニア誘導モータ構造における芯の部分に相当する。以下、「リニア誘導モータ構造(又は、リニア誘導モータ)の芯部、あるいは単に芯部、もしくは拡径部等」と称される場合がある。
【0055】
図2のA-2では、この芯部122に3条のコイル300が巻き回されている。そして出力端において、3条の各コイルは結線プレート121によって相互に結線され、その共通接続点G1は接地電位に接続されている。すなわち、3条の各コイルはスター型に結線されている。なお、結線プレート121は、
図2のA-1における配線Ja~Jcに相当する部材である。
【0056】
図2のA-2では、上記の芯部122は棒状のロッド120に、一体的に取り付けられている。ロッド122は、例えばピストンロッドである。ピストンを備える具体的な構成については、
図6、
図7にて説明する。
【0057】
図2のA-2では、ロッド122と、3条のコイルが巻き回された芯部122と、によって、全体として棒状である可動部材100が形成されている。この可動部材100は、全体として広義のロッドということができる。言い換えれば、「可動部材100は、ロッドである」と称することができる。
【0058】
可動部材100は、上述のとおり、棒状又は筒状の部材であり、かつ、軸方向に沿って可動である。この可動部材100は、リニア誘導モータ構造における可動子MS1として機能し得る。一方、シリンダ130は、リニア誘導モータ構造における固定子MS2として機能し得る。
【0059】
次に、
図2のA-3の例について説明する。
図2のA-3においても、可動部材100が、リニア誘導モータ構造における可動子MS1として機能し、シリンダ130が固定子MS2として機能し、この点では
図2のA-2と共通する。
【0060】
但し、
図2のA-3では、3条ネジ溝V、及び3条のコイル103、105、107がシリンダ130の内周面に設けられる。この点で、
図2のA-2とは異なる。
【0061】
図2のA-3では、シリンダ130の領域133において、内周面に3条ネジ溝Vが設けられ、その3条ネジ溝Vに3条のコイル103、105、107が巻き回されている。
【0062】
一方、ロッド120には、リニア誘導モータ構造の芯部124が一体的に取り付けられている。芯部124は、シリンダ130のコイルが巻き回されている箇所に対向するように設けられる。
【0063】
ロッド120と芯部124は一体化されているため、全体で、広義のロッド、すなわち一本のロッドとみなすことができ、これが可動部材100を構成する。
【0064】
芯部124は円柱形状を有し、その外周面には溝やコイルは設けられない。この芯部124は導体で構成されている。3条のコイル103、105、107に磁界が発生すると、芯部124の外周面には、誘導電流としての渦電流が生じ、この渦電流による磁界がシリンダ130に戻され、これによって磁気回路が構成される。電磁気の相互作用によって芯部124には、軸方向の推進力が生じ、この推進力による荷重を、減衰力として利用する。
【0065】
電磁気の相互作用によって、可動子MS1として機能する可動部材100に推進力が発生する点では、
図2のA-2、A-3は共通し、電磁気的な構造としては、両者は等価である。
【0066】
但し、シリンダ130の内周面に3条ネジ溝Vを形成するのに比べて、ロッドとしての芯部122の外周面に3条ネジ溝Vを形成する方が、製造的に容易であり、このことは、低コスト化にも資する。よって、製造が容易であるという観点からは、
図2のA-2の例が好ましい。
【0067】
次に、
図2のA-4の例について説明する。この例では、シリンダがアウターチューブ21で構成され、可動部材は、筒状のインナーチューブ23で構成される。インナーチューブ23の領域213において、その外周面に3条ネジ溝Vが設けられ、その3条ネジ溝Vに3条のコイル103、105、107が巻き回されている。なお、この構造は、例えば、2輪車等のフロントフォーク等で利用され得る。
【0068】
インナーチューブ23は、中央のロッド205に沿って移動可能である。よって、インナーチューブ23が、可動部材100として機能する。
【0069】
図2のA-4においても、上記の例と同様の電磁気的な相互作用が生じる。この結果として、インナーチューブ23がリニア誘導モータ構造の可動子MS1として機能し、アウターチューブ21がリニア誘導モータ構造の固定子MS2として機能する。
【0070】
図2のA-4では、既存のインナーチューブ及びアウターチューブを、リニア誘導モータにおける可動子及び固定子としても活用するため、特別な部材が不要であり、製造が容易であり、低コスト化も可能である。
【0071】
なお、インナーチューブの内側に、
図2のA-2と同様のロッド構造を設けて、そのロッド構造を可動子MS1として使用し、インナーチューブを固定子MS2として使用することもできる。また、インナーチューブの内側にスリーブを設けて、そのスリーブを固定子MS2として使用してもよい。この点については後述する。
【0072】
図2のA-2~A-4の例は、構造が簡素化されており、実現が容易である。
また、3条のコイルが、3条ネジ溝にガイドされて120度の位相差を正確に保って巻き回されるため、正確な3相交流を3条の各コイルに印加することができる。
また、電気的接続のための配線の数を低減でき、また、その配線の引き回しも容易化される。
また、誘導起電力によって渦電流を生じさせて磁界を生じさせる構成であるため、磁石が不要であり、磁石のレイアウトの課題が解消され、小型化も可能である。
また、構造は簡素化されているが、例えば、3相交流の電流を増大させたり、あるいは受動的な減衰力と併用したりすることによって、多様な減衰力を発生させることが可能である。
【0073】
<実施例2>
以下、電磁緩衝器の具体的な構造例について説明する。
図3を参照する。
図3は、電磁緩衝器の構成の一例を示す図である。
【0074】
図3は、先に説明した
図2のA-2に対応する構成例を示す。
図3において、
図2のA-2と共通する部分には同じ符号を付している。また、
図3では、2輪車等の鞍乗り型車両1におけるステアリングダンパ17としての構成例が示される。
【0075】
図3において、導体であるシリンダ131内に、先に
図1のA-6にて説明した、3条のコイルが巻き回された構造体が収容されている。
【0076】
この構造体は、磁性体からなる筒状体、あるいは棒状体である可動部材100の構成要素である、リニア誘導モータ構造の芯部122の外周面に3条ネジ溝が形成され、3条のコイル103、105、107が電気的絶縁を保った状態で巻き回された構造を有する。先に説明したように、コイルが巻き回されている箇所では、3条のコイルを1条のコイルに集約し、符号300を付して示している。
【0077】
シリンダ131の内部は、オイル等の液体、あるいは空気等の気体が収容されている。シリンダ131の底部にはシール部材51が設けられている。但し、流体が空気である場合は、このシール部材51は不要な場合がある。
【0078】
また、
図3の例では、3条の各コイルが、結線プレート121によってスター型に結線され、共通接続点G1は接地電位に接続されている。
【0079】
また、
図3の例では、可動部材100は、ロッド120と、このロッド120に一体的に取り付けられたリニア誘導モータ構造の芯部122と、によって構成される。可動部材100は、全体として一本の、広義のロッドを構成する。
【0080】
可動部材100の移動に際しては、流体の移動が必要となるが、芯部122と、シリンダ130との間の隙間が存在し、この隙間を経由して流体の移動が確保される。なお、芯部122に、流路となる少なくとも1つの貫通孔を設けたり、あるいはシリンダを2重構造として、外側のシリンダを利用して流体の流路を形成したりして、流体の移動を容易化してもよい。このような変形、応用は、適宜、なし得る。
【0081】
ロッド120は、例えば中空の構造であり、ロッド120内に、3条のコイル103、105、107の各々に3相交流を印加する配線54が収容され得る。
【0082】
配線54は、3条の各コイル103、105、107に対応する3本の導体線54a、54b、54cで構成される。各導体線54a、54b、54cとしては、例えばワイヤーハーネスを使用してもよい。各導体線54a、54b、54cは、3相交流駆動部400により駆動される。
【0083】
先に説明したように、可動部材100は、リニア誘導モータ構造の可動子MS1として機能し、導体からなる筒状のシリンダ131は、リニア誘導モータ構造の固定子MS2として機能する。
【0084】
上述のとおり、
図3の構成は、2輪車等におけるステアリングダンパとして利用することができる。但し、これは一例であり、この使用例に限定されるものではない。
【0085】
ステアリングは、ハンドル12を含む操舵装置であり、この操舵装置に発生する振動や不安定な運動を減衰するために、制振装置としてのステアリングダンパ17が設けられる。
【0086】
ステアリングダンパを実現するために、
図3では、操舵角センサ360と、緩衝制御部380と、3相交流駆動部400とが設けられている。なお、操舵角センサの代わりに、慣性センサ(IMU)等を用いてもよい。
【0087】
例えば、2輪車の走行中に、例えば路面の形状等に起因してハンドル12が、左あるいは右に急に振れ、この結果として、
図3の左下の黒塗りの矢印で示されるように、ロッド190に振動する圧力が生じたとする。
【0088】
このとき、操舵角センサ360が操舵角の変動を検出し、ストロークセンサ362が振動の行程を検出する。緩衝制御部380は、検出された各情報に基づいて、緩衝に必要な荷重を生じさせるための駆動電流の大きさ等を算出する。
【0089】
そして、3相交流駆動部400が、配線54を介して、コイルが巻き回された可動部材100に3相交流を印加する。これにより、可動部材100に減衰力としての荷重が生じる。
図3では、この荷重を白抜きの矢印で示している。
【0090】
緩衝制御部380は、各種センサの検出信号に基づいて、3相交流の大きさを適宜、調整することができる。
【0091】
3相交流の電流の大きさ、言い換えれば電流振幅、あるいは、電圧の大きさ、言い換えれば電圧振幅が調整されることで、誘起される磁界の強さが変化する。これにより、発生する軸方向の荷重の大きさを可変に制御することができる。
【0092】
また、緩衝制御部380は、3層交流の位相関係を調整することで、変動磁界の進行方向を切り替えて、発生する荷重の方向を変化させることができる。
【0093】
すなわち、3相交流の波形は、三角関数を用いた式により表現できるが、その式には、各振動数ωと時間tとの積、すなわちωtの項が含まれる。この項の符号を、例えば負にする、すなわち「-ωt」とすれば、3相交流の波形は進行波となる。逆に、「+ωt」とすれば、3相交流の波形は後退波となる。
【0094】
進行波と後退波を切り替えることで、変動する磁界の軸方向に沿う変化の方向を制御可能である。これにより、発生する反力としての荷重の方向を制御することができる。
【0095】
また、3層交流の周波数と、緩衝器のストローク速度との関係が、誘導モータにおけるすべり率に相当し、すべり率を調整することによっても、発生する荷重を制御することができる。すべり率の調整は、例えば、コイルが巻き回されている可動部材100の構造設計や、3相交流の周波数の調整等によって実現可能である。
【0096】
また、3相交流駆動部400としては、例えば、誘導モータ用の駆動回路、又は、ブラシレスDCモータ用の駆動回路、もしくは、その駆動回路を適宜、変形、応用した駆動回路を用いることができる。
【0097】
また、本実施例のリニア誘導モータ構造を利用した電磁減衰器が、必要な減衰力、言い換えれば反力の全部を発生させるのではなく、その一部を発生させてもよい。この場合、不足する荷重については、例えば、オイルダンパ、金属バネ、エアバネ等を用いて発生させてもよい。
【0098】
また、
図3の例では、センサの検出信号に基づいて荷重を発生させているが、これに限定されるものではない。例えば、本実施例の電磁緩衝器によって荷重を常に発生させておき、この荷重を、金属バネやエアバネによる反力の補助として用いることができる。これにより、金属バネ等の反力を、能動的に発生させる荷重により調整することができる。
【0099】
<実施例3>
次に、
図4を参照する。
図4は、電磁緩衝器の構成の他の例を示す図である。
【0100】
図4は、先に説明した
図2のA-3に対応する構成例を示す。
図4において、
図2のA-3、及び
図3と共通する部分には同じ符号を付している。また、
図4では、ステアリングダンパとしての構成例が示される。
【0101】
図4では、3条ネジ溝、及び3条のコイルを、固定子MS2として機能するシリンダ133の内周面に設けている。少なくとも3条のコイルが巻き回される部分は、磁性体にて構成するのが好ましい。
【0102】
一方、可動部材100の構成要素であるロッド120には、リニア誘導モータ構造の芯部124が一体的に取り付けられている。芯部124は、シリンダ130のコイルが巻き回されている箇所に対向するように設けられる。少なくとも芯部124は、導体で構成するのが好ましい。
【0103】
ロッド120と芯部124は一体化されているため、全体で、広義のロッド、すなわち一本のロッドとみなすことができ、これが可動部材100を構成する。
【0104】
芯部124は、例えば円柱形状を有し、その外周面には溝やコイルは設けられない。この芯部124は導体で構成されている。3条のコイル103、105、107に磁界が発生すると、芯部124の外周面には、誘導電流としての渦電流が生じ、この渦電流による磁界がシリンダ130に戻され、これによって磁気回路が構成される。電磁気の相互作用によって芯部124には、軸方向の推進力が生じ、この推進力による荷重を、減衰力として利用する。
【0105】
ステアリングダンパとしての構成は、
図3と同様であり、説明は省略する。
【0106】
<実施例4>
図5を参照する。
図5は、電磁緩衝器の構成の、さらに他の例を示す図である。
図5は、先に説明した
図2のA-4に対応する構成例を示す。
図5において、
図2のA-4、及び
図3、
図4と共通する部分には同じ符号を付している。
【0107】
図5の構成は、例えば、2輪車等の鞍乗り型車両1におけるフロントフォーク19に適用可能である。フロントフォーク19では、インナーチューブ23はアウターチューブ21に嵌合している。インナーチューブ23は、アウターチューブ21の内部で軸方向に移動可能である、インナーチューブ23の移動に伴い、フロントフォーク19が伸縮し、これによって、走行に伴って前輪に発生する衝撃が吸収される。
【0108】
アウターチューブ21の内部、及びインナーチューブ23の内部には、例えばオイル等の液体が封入されている。
【0109】
また、
図5では、流体の移動に伴い発生する受動的な減衰力と、電磁緩衝器による能動的な減衰力とを併用して、必要な減衰力を発生させる。すなわち、
図5は、能動的減衰力と受動的減衰力を併用した緩衝器の構成例を示す。この点については後述する。
【0110】
操舵角センサ360、緩衝制御部380、3相交流駆動部400が設けられる点は、先に示した構成例と共通であるため、説明は省略する。
【0111】
図5の例では、シリンダがアウターチューブ21で構成され、筒状の、磁性体で構成されるインナーチューブ23が可動部材となる。なお、図中、インナーチューブ、アウターチューブには、断面図において斜線が施されている。
【0112】
インナーチューブ23の領域213において、その外周面に3条ネジ溝Vが設けられ、その3条ネジ溝Vに3条のコイル103、105、107が巻き回されている。
【0113】
図5においては、
図3、
図4で示したシリンダ130が、アウターチューブ21に相当する。このアウターチューブ21が、リニア誘導モータ構造の固定子MS2として機能する。
【0114】
また、
図5においては、
図3、
図4で示した可動部材100が、インナーチューブ23により構成される。このインナーチューブ23は、中央のロッド205に沿って移動可能であり、インナーチューブ23が、可動部材100として機能する。
【0115】
図2のA-4では、既存のインナーチューブ及びアウターチューブを、リニア誘導モータにおける可動子及び固定子としても活用するため、特別な部材が不要であり、製造が容易であり、低コスト化も可能である。
【0116】
また、インナーチューブ23には、逆止弁61と絞り弁62を備えるオリフィスが設けられる。また、インナーチューブ23には、逆止弁63と絞り弁64からなるオリフィス、ならびに絞り弁65と逆止弁66からなるオリフィスが設けられる。
【0117】
絞り弁62、64、65の絞り量を調整することで、受動的な減衰力、言い換えれば受動的に発生する荷重を調整することができる。
【0118】
図5の例では、可動部材100を構成するインナーチューブ23は、芯部213に発生する推進力の荷重によって能動的な減衰力を発生できると共に、各オリフィスによって受動的な減衰力を発生することもできる。
【0119】
すなわち、可動部材100は、能動的な減衰力と受動的な減衰力の双方を、簡易な構造で発生し得る特別な構造を備える。これにより、簡易な構成を用いて必要な減衰力を確保することができ、また、多様な減衰力を発生させることも可能な、リニア誘導モータ構造を利用した電磁緩衝器が実現される。
【0120】
<実施例5>
図6を参照する。
図6は、電磁緩衝器の構成の、さらに他の例を示す図である。
図6において、前掲の図面と共通する部分には同じ符号を付している。
図6の構成も、2輪車等の鞍乗り型車両1におけるフロントフォーク19に適用可能である。
【0121】
図6の構成も、
図5と同様に、筒状のアウターチューブ21、及び、導体からなる筒状のインナーチューブ23を有する。
【0122】
但し、
図6では、インナーチューブ23の内部に、ピストン191、及び、芯部122が取り付けられているピストンロッド192が収容されている。
【0123】
ピストン191に結合されたピストンロッド192が可動部材100を構成する。鞍乗り型車両1の前輪に加わる衝撃は、この可動部材100に生じる減衰力によって緩衝される。
【0124】
ピストンロッド192を構成要素に含む可動部材100によって、リニア誘導モータ構造の可動子MS1が構成される。また、本実施例では、インナーチューブ23が、リニア誘導モータ構造の固定子MS2として機能する。図中、可動部材100、及びインナーチューブ23には、断面図において斜線を施してある。
【0125】
図6の構成によれば、既存のピストンロッド、及びインナーチューブを、リニア誘導モータにおける可動子、及び固定子として利用できる。よって、特別な部材が不要であり、製造が容易であり、低コスト化も可能である。
【0126】
また、ピストン191には、逆止弁73と絞り弁74からなるオリフィス、ならびに、絞り弁75と逆止弁76からなるオリフィスが設けられる。絞り弁74、75の絞り量を調整することで、受動的な減衰力、言い換えれば受動的に発生する荷重を調整することができる。
【0127】
図6においても、可動部材100は、能動的な減衰力と受動的な減衰力の双方を、簡易な構造で発生し得る特別な構造を備える。これにより、簡易な構成を用いて必要な減衰力を確保することができ、また、多様な減衰力を発生させることも可能な、リニア誘導モータ構造を利用した電磁緩衝器が実現される。
【0128】
<実施例6>
図7を参照する。
図7は、電磁緩衝器の構成の、さらに他の例を示す図である。
図7において、
図6と共通する部分には同じ符号を付している。
【0129】
図7の構成も、2輪車等の鞍乗り型車両1におけるフロントフォーク19に適用可能である。ピストン191に結合されたピストンロッド192が可動部材100を構成する。鞍乗り型車両1の前輪に加わる衝撃は、この可動部材100に生じる減衰力によって緩衝される。
【0130】
図7においても、
図6と同様に、アウターチューブ21、インナーチューブ23、ピストンと結合し、かつ芯部122を備えるピストンロッド192が用いられる。基本的な動作は、
図6と同じである。
【0131】
但し、
図7では、インナーチューブ23の内部に、導体からなる筒状のスリーブ25が設けられており、このスリーブ25の内部に、ピストンロッド192が収容されている。
【0132】
スリーブ25は、本来的には、例えば、ピストン191が摺動する際の荷重を調整する機能を有する。本実施例では、このスリーブ25が、リニア誘導モータ構造の固定子MS2として機能する。
【0133】
図7の構成では、既存のピストンロッド、及びスリーブを、リニア誘導モータにおける可動子、及び固定子として利用できる。よって、特別な部材が不要であり、製造が容易であり、低コスト化も可能である。
【0134】
また、スリーブ25の底部には、逆止弁71と絞り弁72とで構成されるオリフィスが設けられている。
【0135】
また、ピストン191には、
図6と同様に、逆止弁73と絞り弁74からなるオリフィス、ならびに、絞り弁75と逆止弁76からなるオリフィスが設けられている。
【0136】
絞り弁72、74、75の絞り量を調整することで、受動的な減衰力、言い換えれば受動的に発生する荷重を調整することができる。
【0137】
図7においても、可動部材100は、能動的な減衰力と受動的な減衰力の双方を、簡易な構造で発生し得る特別な構造を備える。これにより、簡易な構成を用いて必要な減衰力を確保することができ、また、多様な減衰力を発生させることも可能な、リニア誘導モータ構造を利用した電磁緩衝器が実現される。
【0138】
以上説明したように、本発明の一態様によれば、流体を収容する筒状のシリンダ130と、シリンダ130内を軸方向に移動可能である棒状又は筒状の可動部材100と、を備え、可動部材100の外周面に3条ネジ溝Vが設けられ、3条ネジ溝Vには、可動部材100との間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイル103、105、107が巻き回された第1の構成、又は、シリンダ130の内周面に3条ネジ溝Vが設けられ、3条ネジ溝Vには、シリンダ130との間の電気的絶縁を保った状態で、3相交流が印加される3条のコイルが巻き回された第2の構成、を有し、これによって、可動部材100を可動子MS1とし、シリンダ130を固定子MS2とするリニア誘導モータ構造が形成されると共に、可動部材100に生じる軸方向の荷重を減衰力とする、電磁緩衝器が提供される。
【0139】
これにより、構造が簡素化された電磁緩衝器が実現される。
また、3条のコイルが、3条ネジ溝にガイドされて120度の位相差を正確に保って巻き回されるため、正確な3相交流を3条の各コイルに印加することができる。
また、電気的接続のための配線の数を低減でき、また、その配線の引き回しも容易化される。
また、誘導起電力によって渦電流を生じさせて磁界を生じさせる構成であるため、磁石が不要であり、磁石のレイアウトの課題が解消され、小型化も可能である。
また、構造は簡素化されているが、例えば、3相交流の電流を増大させたり、あるいは受動的な減衰力と併用したりすることによって、多様な減衰力を発生させることが可能となる。
【0140】
また、本発明の他の態様では、上記の第1の構成が採用される場合は、シリンダ130の、少なくとも3条ネジ溝Vに対向し得る部分は導体で構成され、可動部材100の、少なくとも3条ネジ溝Vが形成されている部分は磁性体で構成され、第2の構成が採用される場合は、シリンダ130の、少なくとも3条ネジ溝Vが形成されている部分は磁性体で構成され、可動部材100の、少なくとも3条ネジ溝Vに対向し得る部分は導体で構成されてもよい。
【0141】
例えば、第1の構成が採用される場合において、可動部材の、少なくともリニア誘導モータの構成要素として機能する部分を磁性体で構成することで、磁気回路が形成されたときに、可動部材がヨークとして機能し、磁界が大気中に放出されることが抑制され、強い磁界を生じさせることが可能となる。
また、シリンダの、少なくともリニア誘導モータの構成要素として機能する部分を導体で構成することで、磁気回路が形成されたときに、誘導電流としての渦電流を生じさせることができ、電磁気の相互作用によって、高性能なリニア誘導モータを構成することが可能となる。第2の構成が採用される場合も、同様の効果が得られる。
【0142】
また、本発明の他の態様では、3条ネジ溝Vの表面は絶縁層108により被覆されてもよい。
【0143】
これにより、3条のコイルと、そのコイルが巻き回される部材との間の電気的絶縁を確実に確保することができる。各コイル間の絶縁が確保されるのであれば、各コイルを高密度に巻き回すことができる。
また、均一な膜厚の絶縁膜を形成することで、3条のコイルの各々と可動部材100との間に形成される寄生容量、言い換えれば3相交流の伝送路における寄生容量が一律となり、分布定数のばらつきが抑制される。よって、120度の位相差をもつ3相交流信号の波形変動、言い換えれば、位相差の乱れが抑制され、正確で安定した変動磁界を生じさせることができる。
また、絶縁膜の厚みを適切に設定する、すなわち、絶縁層をある程度の厚みをもって形成することで、寄生容量の電極間の距離を増大させることができ、よって、寄生容量の容量値を所望レベル以下に低減することもできる。また、絶縁膜の誘電率を選択することによっても、寄生容量の容量値を低減することができる。
【0144】
また、本発明の他の態様では、可動部材100には、流体の流路を構成するオリフィスが形成されていてもよい。
【0145】
これにより、可動部材は、電磁気の作用によって能動的な減衰力を発生できると共に、オリフィスによって受動的な減衰力を発生することも可能となる。
すなわち、能動的な減衰力と受動的な減衰力の双方を、簡易な構造で発生し得る特別な構造の可動部材を構成することができる。これにより、簡易な構成を用いて必要な減衰力を確保することができ、また、多様な減衰力を発生させることも可能な、リニア誘導モータ構造を利用した電磁緩衝器が実現される。
【0146】
また、本発明の他の態様では、シリンダはアウターチューブ21であり、可動部材はインナーチューブ23であってもよい。
【0147】
これにより、既存のアウターチューブ及びインナーチューブ及びを、例えば、リニア誘導モータにおける固定子及び可動子としても活用できる。よって、特別な部材が不要であり、製造が容易であり、低コスト化も可能である。
【0148】
また、本発明の他の態様では、シリンダはインナーチューブ23であり、可動部材は、ピストンと結合されたピストンロッド192であってもよい。
【0149】
これにより、既存のインナーチューブ及びピストンロッドを、例えば、リニア誘導モータにおける固定子及び可動子としても活用できる。よって、特別な部材が不要であり、製造が容易であり、低コスト化も可能である。
【0150】
また、本発明の他の態様では、シリンダは、インナーチューブ23の内側に配置されるスリーブ25であり、可動部材は、ピストンと結合されたピストンロッド192であってもよい。
【0151】
これにより、既存のスリーブ及びピストンロッドを、例えば、リニア誘導モータにおける固定子及び可動子としても活用できる。よって、特別な部材が不要であり、製造が容易であり、低コスト化も可能である。
【0152】
また、本発明の他の態様では、3条のコイルはスター型に結線されていてもよい。
【0153】
スター型結線を用いることで、結線用の配線が簡素化される。また、結線用の配線部分におけるインピーダンスの不整合を低減することができる。
【0154】
また、本発明の他の態様では、電磁緩衝器は、車両におけるステアリングダンパ、又は、鞍乗り型車両におけるフロントフォークであってもよい。
【0155】
これにより、構成が簡素化され、小型で、かつ低価格の電磁緩衝器を用いて、ステアリングダンパやフロントフォークを実現することができる。
【0156】
なお、上記の説明では、二輪車を例にとり説明したが、本発明の電磁緩衝器は、自動三輪車や四輪車等にも適用可能であり、また、現在開発が進んでいる電気自動車にも適用可能であり、車両の種類は問わない。
【0157】
以上説明したように、本発明によれば、電磁気による力を利用して減衰力の一部又は全部を発生する能動的な緩衝器を、より簡易な構成で実現することができる。
【0158】
発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、各種用途に使用可能な電磁緩衝器として好適である。
【符号の説明】
【0160】
1…車両(2輪車等の鞍乗り型車両)
12…ハンドル
17…ステアリングダンパ(ステアリング緩衝器)
19…フロントフォーク
21…アウターチューブ
23…インナーチューブ
25…インナーチューブの内側に設けられるスリーブ
54(54a、54b、54c)…導体線(3相交流を印加する配線、ワイヤーハーネス等)
61、63、66、71、73、76…逆止弁(オリフィス、オリフィスの構成要素)
62、64、65、72、74、75…絞り弁(オリフィス、オリフィスの構成要素)
100…可動部材(リニア誘導モータの可動子として機能する部材)
103、105、107…3相交流が印加さえる3条のコイル(3条の巻線)
108…絶縁層(絶縁膜、酸化膜等)
120…ロッド(棒状体)
121…結線プレート(スター型結線用の配線等の結線手段)
122、124…リニア誘導モータ構造の芯部(芯部、拡径部)
130…シリンダ
133…シリンダの内周面にコイルが巻き回される領域(シリンダの、リニア誘導モータ構造として機能する領域又は部分)
191…ピストン
192…ピストンロッド
205…中央のロッド(インナーチューブ用のロッド、ロッド)
213…インナーチューブの内周面にコイルが巻き回される領域(インナーチューブの、リニア誘導モータ構造として機能する領域又は部分)
300…巻き回されている3条のコイルが集約されたコイル
360…操舵角センサ
362…ストロークセンサ
380…緩衝制御部(制御部、緩衝器の制御部)
400…3相交流駆動部
MS1…リニア誘導モータ構造(又は、リニア誘導モータ)の可動子
MS2…リニア誘導モータ構造(又は、リニア誘導モータ)の固定子
V…3条ネジ溝(コイルの巻線が巻き回される電気的絶縁が確保された絶縁溝)
Ja~Jc・・・スター型結線(Y型結線)の配線
G1…共通接続点(接地点)