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特開2024-96565インクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システム
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  • 特開-インクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システム 図1
  • 特開-インクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システム 図2
  • 特開-インクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096565
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】インクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システム
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20240709BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20240709BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000122
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 将吾
【テーマコード(参考)】
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2H186FB04
2H186FB15
2H186FB34
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD21
4J039BE01
4J039BE27
4J039EA04
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、高温環境下での保存安定性を向上させたインクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システムを提供することである。
【解決手段】本発明のインクジェットインクは、少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクであって、フェニルホスホン酸の含有量が、15質量ppm以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクであって、
フェニルホスホン酸の含有量が、15質量ppm以下である
ことを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記光重合開始剤が、ビスアシルホスフィンオキシドを含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
インクジェット記録装置内で、50℃以上に加熱されて使用される
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
色材を更に含有し、
前記色材が、粒子の表面に酸性官能基が導入された色材である
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記色材が、銅フタロシアニン又はカーボンブラックを含有し、
前記色材の25℃におけるpH値が、5以下である
ことを特徴とする請求項4に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
マグネシウムイオン又はカルシウムイオンの含有量が、前記インクジェットインクの全質量に対して、5質量ppm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のインクジェットインクを製造するインクジェットインクの製造方法であって、
前記光重合開始剤を洗浄することにより、前記光重合開始剤に含有される前記フェニルホスホン酸を除去する工程を有する
ことを特徴とするインクジェットインクの製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のインクジェットインクを用いるインクジェット記録方法であって、
前記インクジェットインクを50℃以上に加熱した後、インクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に着弾させる工程を有する
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクを用いるインクジェット記録システムであって、
前記インクジェットインクが、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のインクジェットインクであり、
前記インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッド、及び
記録媒体に着弾した前記インクジェットインクに活性光線を照射する手段、を有する
ことを特徴とするインクジェット記録システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システムに関する。より詳しくは、高温環境下での保存安定性を向上させたインクジェットインク等に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、簡易かつ安価に画像を形成できることから、各種印刷分野で用いられている。そして、インクジェット記録方法の一つとして、活性光線硬化性インクジェットインクを用いる方法が知られている。この方法では、活性光線硬化性インクジェットインクの液滴を記録媒体に着弾させた後、紫外線等の活性光線を照射して活性光線硬化性インクジェットインクを硬化させ、画像を形成する。その他のインクジェット記録方法では、記録媒体にインクを吸収させることにより画像を形成するため、記録媒体には、インクの吸収性が求められる。一方、当該方法では、インクの吸収性がない記録媒体でも、高い耐擦過性と密着性を有する画像を形成できるため、近年注目されている。
【0003】
特許文献1では、特定量のエポキシ基含有ポリマーを含む、光重合性化合物と光重合開始剤とを含むインクジェット印刷用インク組成物についての技術が開示されている。当該インク組成物は、保存安定性等に優れるものであったが、当該インク組成物を加熱すると、インク組成物中に異物が生成し、インクジェット装置内のインク流路中に設けられたフィルターや、インクジェットヘッドのノズルに目詰まりが生じることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-213933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高温環境下での保存安定性を向上させたインクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクにおいて、フェニルホスホン酸の含有量を特定量以下とすることにより、高温環境下での保存安定性が向上することを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0007】
1.少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクであって、
フェニルホスホン酸の含有量が、15質量ppm以下である
ことを特徴とするインクジェットインク。
【0008】
2.前記光重合開始剤が、ビスアシルホスフィンオキシドを含有する
ことを特徴とする第1項に記載のインクジェットインク。
【0009】
3.インクジェット記録装置内で、50℃以上に加熱されて使用される
ことを特徴とする第1項に記載のインクジェットインク。
【0010】
4.色材を更に含有し、
前記色材が、粒子の表面に酸性官能基が導入された色材である
ことを特徴とする第1項に記載のインクジェットインク。
【0011】
5.前記色材が、銅フタロシアニン又はカーボンブラックを含有し、
前記色材の25℃におけるpH値が、5以下である
ことを特徴とする第4項に記載のインクジェットインク。
【0012】
6.マグネシウムイオン又はカルシウムイオンの含有量が、前記インクジェットインクの全質量に対して、5質量ppm以下である
ことを特徴とする第1項に記載のインクジェットインク。
【0013】
7.第1項から第6項までのいずれか一項に記載のインクジェットインクを製造するインクジェットインクの製造方法であって、
前記光重合開始剤を洗浄することにより、前記光重合開始剤に含有される前記フェニルホスホン酸を除去する工程を有する
ことを特徴とするインクジェットインクの製造方法。
【0014】
8.第1項から第6項までのいずれか一項に記載のインクジェットインクを用いるインクジェット記録方法であって、
前記インクジェットインクを50℃以上に加熱した後、インクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に着弾させる工程を有する
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【0015】
9.少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクを用いるインクジェット記録システムであって、
前記インクジェットインクが、第1項から第6項までのいずれか一項に記載のインクジェットインクであり、
前記インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッド、及び
記録媒体に着弾した前記インクジェットインクに活性光線を照射する手段、を有する
ことを特徴とするインクジェット記録システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、高温環境下での保存安定性を向上させたインクジェットインク、インクジェットインクの製造方法、インクジェット記録方法及びインクジェット記録システムを提供することができる。
【0017】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0018】
前述のとおり、特許文献1に記載のインクジェット印刷用インク組成物は、室温環境下では保存安定性に優れている。ただし、高温環境下では、インク中に異物が生成し、インクジェット装置内のインク流路中に設けられたフィルターや、インクジェットヘッドのノズルに目詰まりが生じることがわかった。そして、この異物について分析したところ、フェニルホスホン酸の重合体であることがわかった。おそらく、インクを加熱することにより、フェニルホスホン酸の重合反応が進行しやすくなり、異物が生成したと考えられる。
【0019】
ここで、フェニルホスホン酸(以下、「PPA」ともいう。)の混入経路については、ビスアシルホスフィンオキシドに由来する(供給源)と推測している。ビスアシルホスフィンオキシド(以下、「BAPO」ともいう。)の合成方法の一例としては、フェニルホスホン酸ジクロリド(PhPCl)を原料とする方法が知られている。当該方法において副生成物として生成し残留したフェニルホスフィンが、その後の工程で酸化され、PPAが生成されると考えられる。BAPOには、微量のPPAが含有されることが確認されており、インクの調製時に、BAPOと共に混入すると考えられる。
【0020】
本発明においては、BAPOにおけるPPAの含有量を特定量以下とした後、他の材料と混合してインクを調製することにより、インクにおけるPPAの含有量を特定量以下とすることができると考えられる。そして、PPAの含有量を特定量以下とすることにより、PPAの重合体の分子量をより小さくすることができ、異物の生成を抑制できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ライン記録方式のインクジェット記録装置の構成を示す図(側面図)
図2】ライン記録方式のインクジェット記録装置の構成を示す図(上面図)
図3】シリアル記録方式のインクジェット記録装置の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のインクジェットインクは、少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクであって、フェニルホスホン酸の含有量が、15質量ppm以下であることを特徴とする。
この特徴は、下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0023】
本発明の実施形態としては、本発明の効果が顕著である観点から、光重合開始剤が、ビスアシルホスフィンオキシドを含有することが好ましい。
【0024】
本発明の実施形態としては、本発明の効果が顕著である観点から、インクジェット記録装置内で、50℃以上に加熱されて使用されることが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態としては、色材を更に含有し、保存安定性(色材分散性)の観点から、色材が、粒子の表面に酸性官能基が導入された色材であることが好ましい。
【0026】
本発明の実施形態としては、保存安定性(色材分散性)の観点から、色材が、銅フタロシアニン又はカーボンブラックを含有し、色材の25℃におけるpH値が、5以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の実施形態としては、保存安定性(ろ過性)の観点から、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンの含有量が、インクジェットインクの全質量に対して、5質量ppm以下であることが好ましい。
【0028】
本発明のインクジェットインクの製造方法は、本発明のインクジェットインクを製造するインクジェットインクの製造方法であって、前記光重合開始剤を洗浄することにより、前記光重合開始剤に含有される前記フェニルホスホン酸を除去する工程を有することを特徴とする。
【0029】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェットインクを用いるインクジェット記録方法であって、前記インクジェットインクを50℃以上に加熱した後、インクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に着弾させる工程を有することを特徴とする。
【0030】
本発明のインクジェット記録システムは、少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクを用いるインクジェット記録システムであって、前記インクジェットインクが、本発明のインクジェットインクであり、前記インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッド、及び記録媒体に着弾した前記インクジェットインクに活性光線を照射する手段、を有することを特徴とする。
【0031】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0032】
なお、説明は、以下の順序で行う。
1.インクジェットインクの概要
2.インクジェットインクの構成
3.インクジェットインクの物性
4.インクジェットインクの製造方法
5.インクジェット記録方法
6.インクジェット記録システム
【0033】
1.インクジェットインクの概要
本発明のインクジェットインクは、少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクであって、フェニルホスホン酸の含有量が、15質量ppm以下であることを特徴とする。
【0034】
本発明のインクジェットインク(以下、単に、「インク」ともいう。)は、活性光線の照射により硬化する、活性光線硬化性インクである。本発明のインクは、活性光線の照射により硬化するが、更に加熱して記録物の堅牢性を向上させてもよい。
【0035】
従来、ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)は、光重合開始剤として、活性光線硬化性インクに使用されてきた。しかし、インクを加熱することにより、不純物として含まれるフェニルホスホン酸(PPA)が重合すること、また、その重合体が、インク中の異物の主な成分であることについては、知られていなかった。そのため、インクにおけるPPAの含有量を低減する方法についても、検討されてこなかった。
【0036】
本発明のインクは、前述のとおり、不純物としてのPPAの含有量が特定量以下、具体的には15質量ppm以下であることにより、高温環境下での保存安定性を向上できる、すなわち、異物の生成を抑制できると考えられる。なお、PPAの含有量は、少ないほど好ましい。
【0037】
吐出性の観点から、本発明では、インクを50℃以上に加熱した後、インクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に着弾させることが好ましい。このとき、インクの一部はインクジェット装置内で一定期間滞留するため、装置内で加熱を行う際には加熱温度での長期保存安定性が必要となる。一方で、インクジェットヘッドのノズル径は10~数十μmと非常に微細であるため、インク中に微細な異物が存在すると異物がノズルに目詰まりしたり、ノズル出口付近に付着して液滴の正常吐出を妨げたりすることがある。そのため、通常インクジェット装置内のインク流路にはこのような異物を除去するためにフィルターが設けられている。装置外部から多量に異物が混入したり、装置内でインク中に異物が多量に生成したりすると、このフィルターが目詰まりするという問題がおきやすい。
本発明における、「高温環境下での保存安定性」とは、インクを高温環境下で長期保管(例えば、50℃で2週間保管)する際の安定性のことを指し、「安定性」とは、異物(PPAの重合体)の生成を抑制する性能(ろ過性)、及び色材を分散させる性能(色材分散性)のことをいう。
【0038】
2.インクジェットインクの構成
本発明のインクは、少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有し、更に色材を含有することが好ましい。重合禁止剤等のその他の添加剤を含有してもよい。
また、本発明のインクは、不純物として無機イオンを含有する場合があるが、その含有量は少ないほど好ましい。
【0039】
(1)光重合開始剤
本発明のインクは、光重合開始剤を含有する。これにより、インクに活性光線を照射することで、活性光線硬化性化合物の架橋反応又は重合反応が開始され、インクが硬化する。
【0040】
上記活性光線硬化性化合物がラジカル重合性化合物である場合、光重合開始剤は、ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
【0041】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、アシルホスフィンオキシド化合物、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、α-アミノアルキルフェノン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0042】
中でも、350nm以上の波長領域においても吸収をもつために、LEDによる活性化が可能であり、色材を含む組成物においても高い硬化性を持つアシルホスフィンオキシド化合物、特にビスアシルフォスフィンオキシド(BAPO)であることが好ましい。また、特に、表面硬化性の観点から、ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)に加えて、チオキサントン化合物を併用することが好ましい。
【0043】
(1.1)ビスアシルホスフィンオキシド化合物
ビスアシルホスフィンオキシド化合物としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(化合物(1)が代表的であるが、その他にもビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-4-メチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジイソプロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2-メチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジエチルフェニルホスフィンオキシド、 ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,3,5,6-テトラメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)(1,4,4トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4ジペントキシフェニルホスフィンオキシドが挙げられる。
例として、化合物(1)の構造式を下記に示す。
【0044】
【化1】
【0045】
前述のとおり、PPAの含有量が、15質量ppm以下であることにより、異物の生成を抑制できると考えられる。なお、PPAの含有量は、少ないほど好ましい。
【0046】
インクにおけるPPAの混入経路としては、主に、光重合開始剤であると考えられる。前述のとおり、光重合開始剤を合成する過程でPPAが生成される可能性が高く、光重合開始剤の不純物として、インクに混入すると考えられる。そのため、光重合開始剤におけるPPAの含有量を特定量以下とした後、他の材料と混合してインクを調製することにより、インクにおけるPPAの含有量を、15質量ppm以下とすることができると考えられる。
【0047】
光重合開始剤におけるPPAの含有量は、特に限定されないが、HPLC(high performance liquid chromatography:高速液体クロマトグラフィー)、又は、含有量が特に少量の場合は、LC-MASS(liquid chromatography-mass spectrometry:液体クロマトグラフィー-質量分析法)によって測定できる。
【0048】
光重合開始剤におけるPPAの含有量を低減する方法としては、純度の高い光重合開始剤を用いる他に、塩基での洗浄が挙げられる。
光重合開始剤がBAPOである場合の、塩基での洗浄の一例を示す。なお、塩基は、炭酸水素ナトリウムに制限されない。
【0049】
50gのビスアシルホスフィンオキシドを、200mLのトルエンにとり、よく撹拌混合する。その後、混合液に、40mLの水を加え、相を分離させる。有機相を、30mLの10%炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄、次いで30mLの水で更に洗浄する。そして、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、溶媒を完全に蒸発させる。
これを1回の洗浄とし、洗浄を繰り返すことにより、PPAの含有量を更に低減できる。
【0050】
(1.2)併用できる光重合開始剤
併用できる光重合開始剤としては、大きく、分子内結合開裂型と、分子内水素引き抜き型に分けられる。
分子内結合開裂型の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチルなどのモノアシルフォスフィンオキシド、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンなどのアセトフェノン系が挙げられる。また、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン系、ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル等が挙げられる。
【0051】
分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系が挙げられる。また、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントンなどのチオキサントン系、ミヒラーケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノンなどのアミノベンゾフェノン系が挙げられる。さらに、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が挙げられる。
これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0052】
光重合開始剤の合計の含有量は、インクの全質量に対して、0.01~10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0053】
(2)活性光線硬化性化合物
本発明において、「活性光線硬化性化合物」とは、活性光線により架橋又は重合して硬化する重合性化合物のことをいう。活性光線としては、例えば、紫外線、γ線、エックス線等が挙げられる。中でも、紫外線であることが好ましい。活性光線硬化性化合物としては、ラジカル重合性化合物、及びカチオン重合性化合物が挙げられ、ラジカル重合性化合物であることが好ましい。
【0054】
本発明において、「ラジカル重合性化合物」とは、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物のことをいう。ラジカル重合性化合物としては、エチレン性不飽和結合を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー、又はこれらの混合物が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0055】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸エステル化合物、不飽和カルボン酸ウレタン化合物、不飽和カルボン酸アミド化合物及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0056】
中でも、不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレート化合物であることがより好ましい。(メタ)アクリレート化合物としては、後述するモノマーだけでなく、オリゴマー、モノマーとオリゴマーの混合物、変性物、重合性官能基を有するオリゴマー等であってもよい。
【0057】
なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタクリレート」との総称であり、それらの一方又は両方を意味する。例えば、「イソアミル(メタ)アクレリート」は、「イソアミルアクリレート」及び「イソアミルメタクリレート」の一方又は両方を意味する。
【0058】
(メタ)アクリレート化合物としては、単官能モノマー、二官能モノマー、三官能以上の多官能モノマー等が挙げられる。
単官能モノマーとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
二官能モノマーとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
三官能以上の多官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等の三官能以上の多官能モノマー等が挙げられる。
これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0061】
(メタ)アクリレート化合物は、感光性等の観点から、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はグリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0062】
(メタ)アクリレート化合物は、変性物であってもよい。変性物としては、例えば、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどのエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのカプロラクトン変性(メタ)アクリレート化合物、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのカプロラクタム変性(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0063】
中でも、感光性の観点から、エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。また、エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物は、高温環境下でインクの他の成分に対して溶解しやすく、かつ硬化収縮が少ない。そのため、記録物のカールが起こりにくい。
【0064】
エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、「4EO変性ヘキサンジオールジアクリレートCD561(分子量358)」、「3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートSR454(分子量429)」、「6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートSR499(分子量560)」、「4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートSR494(分子量528)」(以上、Sartomer社製)、「ポリエチレングリコールジアクリレートNKエステルA-400(分子量508)」、「ポリエチレングリコールジアクリレートNKエステルA-600(分子量742)」、「ポリエチレングリコールジメタクリレートNKエステル9G(分子量536)」、「ポリエチレングリコールジメタクリレートNKエステル14G(分子量770)」(以上、新中村化学社製)、「テトラエチレングリコールジアクリレートV#335HP(分子量302)」(大阪有機化学社製)、「3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレートPhotomer(登録商標)4072(分子量471、ClogP4.90)」(Cognis社製)、「1,10-デカンジオールジメタクリレートNKエステルDOD-N(分子量310、ClogP5.75)」、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレートNKエステルA-DCP(分子量304、ClogP4.69)」、「トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートNKエステルDCP(分子量332、ClogP5.12)」(以上、新中村化学社製)等が挙げられる。
これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0065】
(メタ)アクリレート化合物は、重合性オリゴマーであってもよい。重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、直鎖(メタ)アクリルオリゴマー等が挙げられる。
【0066】
ビニルエーテル化合物としては、モノビニルエーテル化合物、ジビニルエーテル化合物、トリビニルエーテル化合物等が挙げられる。
モノビニルエーテル化合物としては、例えば、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル-o-プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0067】
ジビニルエーテル化合物及びトリビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等が挙げられる。
これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0068】
中でも、硬化性、密着性等の観点から、ジビニルエーテル化合物又はトリビニルエーテル化合物であることが好ましい。
【0069】
活性光線硬化性化合物の含有量は、インクの全質量に対して、30~95質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましく、70~90質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0070】
(3)色材
本発明のインクは、色材を含有することにより、有色インクとすることができる。
色材は、特に制限されないが、発色性や耐光性の観点から色材が銅フタロシアニン又はカーボンブラックを含有することが好ましい。また、色材の分散性の観点から、25℃におけるpHが5以下であることにより本発明の効果を顕著に得られる。
【0071】
色材として、銅フタロシアニン又はカーボンブラックを用いる場合、分散性の観点から、表面処理を行うことが好ましい。具体的には、粒子の表面に、インクの溶媒や顔料分散剤との親和性が高い酸性官能基等を導入し、インクの溶媒や顔料分散剤との親和性を高めることが好ましい。一方、PPAの重合反応は、酸が触媒として機能することにより、更に進行すると考えられるため、インクにおけるPPAの含有量が多い場合は、PPAの重合反応がより進行してしまう。しかし、本発明では、PPAの含有量が極めて少ないため、異物の生成を抑制できる。
【0072】
その他の色材としては、染料、及び顔料が挙げられる。インクにおける分散性に優れ、かつ耐候性に優れる観点から、顔料であることが好ましい。顔料としては、特に限定されず、従来公知の下記の有機顔料及び無機顔料が挙げられる。
【0073】
赤又はマゼンタ顔料の例としては、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36等が挙げられる。
【0074】
青又はシアン顔料の例としては、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60等が挙げられる。
緑顔料の例としては、Pigment Green 7、26、36、50が挙げられる。
【0075】
黄顔料の例としては、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、120、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193等が挙げられる。
黒顔料の例としては、Pigment Black 7、28、26等が挙げられる。
【0076】
インクへの顔料の分散は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等により行うことができる。
【0077】
顔料の平均粒子径は、0.08~0.5μmの範囲内であることが好ましい。また、最大粒子径は、0.3~10μmの範囲内であることが好ましく、0.3~3μmの範囲内であることがより好ましい。
【0078】
顔料の分散は、顔料、分散剤及び分散溶媒の種類、分散条件、ろ過条件等によって調整される。
【0079】
本発明のインクは、分散性の観点から、分散剤を含有してもよい。また、インクは、必要に応じて分散助剤を含有してもよい。分散助剤は、顔料に応じて選択されればよい。
分散剤及び分散助剤の合計の含有量は、顔料の全質量に対して、1~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0080】
分散剤としては、特に制限されず、例えば、ヒドロキシ基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
分散剤の市販品の例としては、「Solsperse(登録商標)シリーズ」(Avecia社製)、「PBシリーズ」(味の素ファインテクノ社製)等が挙げられる。
【0081】
本発明のインクは、必要に応じて、顔料を分散させるための分散溶媒を含有してもよい。分散溶媒としてインクに溶剤を含有させてもよいが、記録物における溶剤の残留を抑制する観点から、上記活性光線硬化性化合物のうち、粘度の低いモノマーを分散溶媒として用いることが好ましい。
【0082】
色材の含有量は、インクの全質量に対して、0.1~20質量%の範囲内であることが好ましく、0.4~10質量%の範囲内であることがより好ましい。0.1質量%以上であることにより、記録物における画像の発色が良好であり、20質量%以下であることにより、インクの吐出性が良好である。
【0083】
色材(顔料)の25℃におけるpH値は、JIS K 5101-17-2(常温抽出法)に準拠して、測定できる。
詳しくは、ガラス容器に、水を用いて、測定する顔料の10質量%懸濁液を調製する。そして、ガラス容器に栓をして、1分間激しく振とうし、5分間静置した後に栓を取り外し、ガラス電極pHメーターで、懸濁液のpH値を、0.1の単位で測定する。繰り返して2回測定し、その平均値をpH値とする。
【0084】
分散性の観点から、pH値は、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。
【0085】
前述のとおり、色材を表面処理することにより、インクの溶媒や顔料分散剤との親和性(濡れ性)を高めることができる。なお、「表面処理」とは、具体的には、物理的処理又は化学的処理によって、色材粒子の表面に、インクの溶媒や顔料分散剤との親和性が高い酸性官能基等を導入すること、又はこのような酸性官能基を導入した顔料成分の類縁体を分散助剤として用いることをいう。
【0086】
導入される酸性官能基としては、カルボキシ基、スルホ基等であることが好ましい。
導入する方法は、特に制限されない。例えば、カルボキシ基を導入する方法としては、工業的には湿潤処理が適しており、次亜塩素酸等の強力な酸化剤を用いて酸化する方法が挙げられる。また、スルホ基を導入する方法としては、硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸発煙硫酸等を混合する方法が挙げられる。
【0087】
以下、粒子の表面に酸性官能基が導入された銅フタロシアニン及びカーボンブラックについて説明する。
【0088】
(3.1)銅フタロシアニン
分散性の観点から、銅フタロシアニンは、粒子の表面に酸性官能基を導入する、又は酸性官能基を導入した銅フタロシアニンを分散助剤として添加することが好ましい。本発明に係る色材が、このような銅フタロシアニンを含有することにより、本発明の効果を顕著に得られる。
【0089】
銅フタロシアニンは、スルホ基が導入された、すなわち、スルホン化物であることが好ましい。スルホ基が導入されることにより、インクの溶媒や顔料分散剤との親和性を高めることができる。
【0090】
銅フタロシアニンとしては、銅フタロシアニン骨格を有する化合物であれば、特に制限されない。例えば、銅フタロシアニン骨格にアルキル基や、ハロゲン原子等の公知の置換基を有していてもよい。ただし、スルホ基導入の容易性の観点から、置換基を有さない構造であることが好ましい。
【0091】
銅フタロシアニンのスルホン化物は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、「クロモファイン(登録商標)ブルー6332JC 15:4」(大日精化工業株式会社製)、「Fastogen(登録商標)Blue 5486」(DIC株式会社製)、「ソルスパース(登録商標)12000」(日本ルーブリゾール社製)、「VALIFAST (登録商標)BLUE1605」(オリヱント化学工業社製)の脱ナトリウム物等が挙げられる。
【0092】
(3.2)カーボンブラック
分散性の観点から、カーボンブラックは、粒子の表面に酸性官能基が導入されることが好ましい。本発明に係る色材が、このようなカーボンブラックを含有することにより、本発明の効果を顕著に得られる。
【0093】
なお、本発明において、「酸性カーボンブラック」とは、粒子の表面に、酸性官能基が導入されたカーボンブラックのことをいう。酸性官能基は、特に制限されないが、スルホ基、又はカルボキシ基であることが好ましい。
また、酸性カーボンブラック程の顕著な効果は得られないが、中性カーボンブラックであってもよい。
【0094】
酸性カーボンブラックは、酸性を示す、すなわち、前述の方法で測定されるpH値が、7.0未満であれば、特に制限されない。例えば、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0095】
酸性カーボンブラックの製造方法の一例としては、特開平11-349849号公報に記載される方法が挙げられる。
詳しくは、まず、カーボンブラック原料を水素含有キャリア流に気化させ、次いで冷却したローラーの下におき、数多くの小さなフレーム中で燃焼させる。その後、生じたカーボンブラックの一部を、ローラー上で分離し、その他はプロセスガスと共に排出し、フィルター中で分離する方法である。
【0096】
酸性カーボンブラックの平均一次粒子径は、20~60nmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であることにより、十分な遮光性を有し、かつ保存安定性に優れる。なお、平均一次粒子径は、電子顕微鏡観察による算術平均径の値である。
【0097】
酸性カーボンブラックは、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、「Raven(登録商標)1080(平均一次粒子径:28nm、pH値:2.4)」、「Raven1(登録商標)100(平均一次粒子径:32nm、pH値:2.9)」(以上、コロンビアケミカルズ社製)、「MA-8(平均一次粒子径:24nm、pH値:3.0)」、「MA77(平均一次粒子径:23nm、pH値:2.5)」、「MA100(平均一次粒子径:24nm、pH値:3.5)」(以上、三菱ケミカル社製)、「スペシャルブラック250(平均一次粒子径:56nm、pH値:3.0)」、「スペシャルブラック350(平均一次粒子径:31nm、pH値:3.0)」、「スペシャルブラック550(平均一次粒子径:25nm、pH値:4.0)」、「NEROX(登録商標)305(平均一次粒子径:28nm程度、pH値:約2.8)」(以上、オリオン・エンジニアドカーボンズ社製)等が挙げられる。
【0098】
(4)その他の添加剤
本発明のインクは、必要に応じて、重合開始剤助剤、重合禁止剤、スリップ剤(界面活性剤)、重合促進剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、増粘剤等を含有してもよい。
【0099】
重合開始剤助剤としては、第3級アミン化合物が挙げられ、中でも、芳香族第3級アミン化合物であることが好ましい。
芳香族第3級アミン化合物としては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン等が挙げられる。中でも、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、又はN,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステルであることが好ましい。
これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0100】
重合禁止剤としては、例えば、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、及び、シクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。
【0101】
保存性の観点から、塩基性化合物を含有してもよい。塩基性化合物としては、特に制限されないが、例えば、塩基性アルカリ金属化合物、塩基性アルカリ土類金属化合物、アミンなどの塩基性有機化合物等が挙げられる。
【0102】
また、上記活性光線硬化性化合物の他に、その他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、インクの硬化膜の物性を調整する観点から、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類等が挙げられる。
【0103】
(5)不純物としての無機イオン
本発明のインクは、他の材料と一緒に無機イオンが混入される場合がある。この無機イオンは、インクにおいて不純物であり、異物の生成に寄与すると考えられるため、その含有量は少ないほど好ましく、5質量ppm以下であることが好ましい。
【0104】
とりわけ顔料は、製法上のコンタミや表面処理の影響などから、無機イオンを含有する場合が多く、インクへの無機イオンの供給源となり得る。ただし、無機イオンは、顔料製造時に、洗浄処理によりある程度低減させることができる。また、印刷用紙の填料として用いられる各種無機物は、紙粉として印刷現場で浮遊しており、印刷装置内のインクに混入するケースがある。この場合も、やはりインクへの無機イオンの供給源となり得る。
【0105】
顔料中の無機イオンに関しては、下記の方法で水洗を行うことにより低減させることができる。
顔料を10gとり、ジメチルアセトアミド100mL中にディスパー等を用いて分散させたのち水中に注ぎ、フィルターでろ過する。この後、さらに、ISO 3696の2級相当の純水で十分に洗浄を行い、水分を十分に乾燥させる。
【0106】
無機イオンのうち、金属イオンが、異物の生成に大きく寄与すると考えられる。中でも、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンが、インクに混入しやすく、かつ異物の生成にも大きく寄与すると考えられる。
【0107】
そのため、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンの含有量が、インクの全質量に対して、5質量ppm以下であることが好ましい。また、マグネシウムイオンの含有量及びカルシウムイオンの含有量が、共に、5質量ppm以下であることが好ましい。
【0108】
なお、インクにおけるマグネシウムイオン又はカルシウムイオンの含有量は、例えば、色材におけるマグネシウムイオン又はカルシウムイオンの含有量から算出することができる。色材におけるマグネシウムイオン又はカルシウムイオン含有量は、特に限定されないが、ICP-AES(inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy:ICP発光分光分析法)、ICP-MS(inductively coupled plasma mass spectrometry:ICP質量分析法)、WDX(波長分散型蛍光X線分析)などの方法によって測定できる。
【0109】
3.インクジェットインクの物性
吐出性の観点から、インクの粘度は、一定以下であることが好ましい。吐出性を上げるために、インクを加熱することが好ましく、具体的には、50℃におけるインクの粘度が、3~20mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0110】
50℃におけるインクの粘度はレオメーターを用いて測定することができる。具体的にはストレス制御型レオメーター「MCRシリーズ」(Anton Paar社製)を用い、コーンプレート(直径75mm、コーン角1.0)にて50℃、剪断速度1000(1/s)で粘度を測定する。
【0111】
4.インクジェットインクの製造方法
本発明のインクジェットインクの製造方法は、上記インクジェットインクを製造するインクジェットインクの製造方法であって、光重合開始剤を洗浄することにより、光重合開始剤に含有されるフェニルホスホン酸を除去する工程を有することを特徴とする。
【0112】
前述のとおり、光重合開始剤を合成する過程でPPAが生成される可能性が高く、光重合開始剤の不純物として、PPAがインクに混入すると考えられる。光重合開始剤におけるPPAの含有量を低減する方法としては、上記の塩基での洗浄が挙げられる。
【0113】
本発明のインクは、上記の塩基での洗浄を実施しPPAの含有量を低減した光重合開始剤、活性光線硬化性化合物、色材、及び必要に応じてその他の添加剤を、加熱下で混合することにより製造できる。また、加熱及び混合工程により得られたインクを、所定のフィルターで濾過する工程を有することが好ましい。
なお、色材は、前述のとおり、洗浄処理により無機イオンをある程度低減させることが好ましい。
【0114】
5.インクジェット記録方法
本発明のインクジェット記録方法は、上記インクジェットインクを用いるインクジェット記録方法であって、インクジェットインクを50℃以上に加熱した後、インクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に着弾させる工程を有することを特徴とする。
【0115】
詳しくは、本発明のインクジェット記録方法は、[1]インクを50℃以上に加熱した後、インクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に着弾させる工程(吐出工程)、及び[2]記録媒体に着弾させたインクに活性光線を照射して、インクを硬化させる工程(硬化工程)を有する。
【0116】
記録媒体は、インクジェット法で記録できる媒体であればよい。例えば、アート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙及びキャスト紙を含む塗工紙、並びに非塗工紙を含む吸収性の媒体が挙げられる。また、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート等を含むプラスチックで構成される非吸収性の媒体(プラスチック基材)、並びに金属類、ガラス等の非吸収性の無機媒体が挙げられる。中でも、活性光線により劣化しにくい観点から、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、又はアクリル樹脂であることが好ましい。
【0117】
吐出性の観点から、吐出時のインクの粘度は、3~20mPa・sの範囲内であることが好ましい。一方、インクの硬化性を上げるためには多官能の活性光線硬化性化合物を用いることが好ましいが、多官能の活性光線硬化性化合物は一般に常温での粘度が高いことが多く、インクの粘度が高くなりやすい。この問題の解決方法として、本発明では、温度により粘度が変化するインクとし、吐出時にインクを加熱する。
【0118】
従来インクでは、インクを50℃以上に加熱して長期保存すると、インク中に異物が生成し、インクジェットヘッドのノズルに目詰まりが生じていた。しかし、本発明のインクを用いることにより、インクを50℃以上に加熱して長期保存しても、インクジェット装置内のインク流路中に設けられたフィルターや、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりを抑制できる。
【0119】
[1]吐出工程においては、まず、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドに収納されたインクを、50℃以上に加熱する。そして、加熱されたインクを、インクジェットヘッドのノズルを通して、記録媒体に向けて液滴として吐出(射出)する。このとき、インクの加熱温度は、50~90℃の範囲内であることが好ましい。
【0120】
[2]硬化工程においては、記録媒体に着弾させたインクに活性光線を照射する。照射される活性光線は、活性光線硬化性化合物の種類によって適宜選択すればよく、紫外線等を使用することができる。
【0121】
6.インクジェット記録システム
本発明のインクジェット記録システムは、少なくとも、活性光線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有するインクジェットインクを用いるインクジェット記録システムであって、インクジェットインクが、上記インクジェットインクであり、インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッド、及び記録媒体に着弾させたインクジェットインクに活性光線を照射する手段、を有することを特徴とする。
【0122】
以下、本発明のインクジェット記録システムにおいて使用できるインクジェット記録装置について説明する。
活性光線硬化性インクジェット記録方法に使用できるインクジェット記録装置には、ライン記録方式(シングルパス記録方式)の装置と、シリアル記録方式の装置がある。これらは、求められる記録物(画像)の解像度や記録速度に応じて選択される。ただし、高速記録の観点からは、ライン記録方式(シングルパス記録方式)の装置を使用することが好ましい。
【0123】
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式又はコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等の電気-機械変換方式であってもよいし、サーマルインクジェット型、バブルジェット(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型等の電気-熱変換方式であってもよい。
【0124】
(1)ライン記録方式
(1.1)インクジェット記録装置
ライン記録方式のインクジェット記録装置の要部の構成の一例を、図1及び図2に示す。図1には、インクジェット記録装置10の側面図を示す。また、図2には、インクジェット記録装置10の上面図を示す。
【0125】
図1及び図2に示すように、インクジェット記録装置10は、図1及び図2に矢印13で示す記録媒体の搬送方向に並ぶ、複数のインクジェットヘッド14を収容する、ヘッドキャリッジ16を有する。そして、記録媒体12の全幅を覆い、且つ、ヘッドキャリッジ16よりも記録媒体の搬送方向の下流側に配置された活性光線照射部18と、記録媒体12の裏面側に配置された温度制御部19とを有する。
【0126】
ヘッドキャリッジ16は、記録媒体12の全幅を覆うように固定配置され、色毎(インク毎)に設けられた複数のインクジェットヘッド14を収容する。そして、直接又は不図示のインク供給手段から、インクジェットヘッド14にインクが供給される。例えば、インクジェット記録装置10に着脱自在に装着された不図示のインクカートリッジ等のインクジェットヘッド14からインクが供給される。
【0127】
インクジェットヘッド14は、色毎に記録媒体12の搬送方向に複数配置される。記録媒体12の搬送方向に配置されるインクジェットヘッド14の数は、インクジェットヘッド14のノズル密度と、記録物(画像)の解像度によって設定される。例えば、液滴量2pL、ノズル密度360dpiのインクジェットヘッド14を用いて、1440dpiの解像度の記録物(画像)を形成する場合には、記録媒体12の搬送方向に対して4つのインクジェットヘッド14をずらして配置すればよい。また、液滴量6pL、ノズル密度360dpiのインクジェットヘッド14を用いて、720×720dpiの解像度の画像を形成する場合には、2つのインクジェットヘッド14をずらして配置すればよい。dpiとは、約2.54cm(1インチ)当たりの液滴(ドット)の数を表す。
【0128】
活性光線照射部18は、記録媒体12の全幅を覆い、且つ、記録媒体12の搬送方向において、ヘッドキャリッジ16の下流側に配置されている。活性光線照射部18は、インクジェットヘッド14から吐出(射出)されて記録媒体12に着弾した液滴に、活性光線を照射する。この活性光線の照射により、インクの液滴が硬化する。
【0129】
活性光線が紫外線である場合、活性光線照射部18(紫外線照射手段)としては、例えば、蛍光管(低圧水銀ランプ、殺菌灯)、冷陰極管、紫外レーザー、数百Pa~1MPaの範囲内の動作圧力を有する低圧、中圧及び高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LED等が挙げられる。硬化性の観点から、照度100mW/cm以上の紫外線を照射する紫外線照射手段、具体的には、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ又はLEDであることが好ましい。中でも、消費電力が少ない観点から、LEDであることがより好ましく、例えば、水冷LED「LED-UV」(Phoseon Technology社製、波長395nm)が挙げられる。
【0130】
温度制御部19は、記録媒体12の裏面側に配置され、記録媒体12を所定の温度に維持する。温度制御部19としては、例えば、各種ヒータ等が挙げられる。
【0131】
(1.2)インクジェット記録方法
以下、ライン記録方式のインクジェット記録装置10を用いたインクジェット記録方法を説明する。
記録媒体12を、インクジェット記録装置10のヘッドキャリッジ16と温度制御部19との間に搬送する。一方で、記録媒体12を、温度制御部19により所定の温度に調整する。次に、ヘッドキャリッジ16のインクジェットヘッド14から高温のインクを吐出(射出)して、記録媒体12上に着弾(付着)させる。そして、活性光線照射部18により、記録媒体12上に着弾したインクの液滴に活性光線を照射して硬化させる。
【0132】
インクジェットヘッド14の各ノズルから吐出される1滴当たりの液滴量は、記録物(画像)の解像度により適宜選択される。高解像度の画像を形成する観点から、1~10pLの範囲内であることが好ましく、0.5~4.0pLの範囲内であることがより好ましい。
【0133】
隣り合うインクの液滴同士が混合するのを抑制する観点から、活性光線の照射は、インクの液滴が記録媒体上に着弾した後、10秒以内、好ましくは0.001~5秒の範囲内、より好ましくは0.01~2秒の範囲内に行う。活性光線の照射は、ヘッドキャリッジ16に収容された全てのインクジェットヘッド14からインクを吐出した後に行われることが好ましい。
【0134】
活性光線の照射条件は、インクの構成などに応じて適宜選択されることが好ましい。例えば、紫外線LEDを有する光源を、記録媒体上のインクの液滴の表面における最高照度が、0.5~10W/cmの範囲内、より好ましくは1~5W/cmの範囲内となるように設置すればよい。なお、活性光線の照射において、インクの膜厚は無視できる範囲である。そのため、記録媒体上のインクの液滴における最高照度の調整は、記録媒体表面での最高照度の調整によって行ってもよい。カールを抑制する観点から、記録媒体上のインクの液滴に照射される積算光量は、100~1000mJ/cmの範囲内であることが好ましい。
【0135】
硬化後の総インク膜厚は、2~25μmの範囲内であることが好ましい。なお、ここでの、「総インク膜厚」とは、記録媒体12に形成された、硬化後のインクの厚さの最大値である。
【0136】
(2)シリアル記録方式
(2.1)シリアル記録方式のインクジェット記録装置
次に、シリアル記録方式のインクジェット記録装置20の要部の構成の一例を、図3に示す。図3に示すインクジェット記録装置20は、記録媒体12の全幅よりも狭い幅であり、且つ、複数のインクジェットヘッド24を収容するヘッドキャリッジ26を有する。さらに、図3に矢印25で示すヘッドキャリッジ26の走査方向に、ヘッドキャリッジ26を可動させるためのガイド部27を有する。ヘッドキャリッジ26の走査方向は、記録媒体12の搬送方向(矢印13)と直交する方向、すなわち記録媒体の幅方向とすることが好ましい。なお、図3に示すインクジェット記録装置20において、上記ヘッドキャリッジ26及びガイド部27以外の構成は、図1及び図2に示すライン記録方式のインクジェット記録装置10と同様の構成とすることができる。
【0137】
シリアル記録方式のインクジェット記録装置20では、ライン記録方式のインクジェット記録装置において記録媒体12の全幅を覆うヘッドキャリッジの代わりに、記録媒体の全幅よりも狭い幅のヘッドキャリッジ26が設けられている。そして、このヘッドキャリッジ26が、ガイド部27に沿って記録媒体12の幅方向に移動し、ヘッドキャリッジ26に収容されたインクジェットヘッド24からインクを吐出(射出)する。ヘッドキャリッジ26が記録媒体12の幅方向に移動しきった後(パス毎に)、記録媒体12を搬送方向に送る。これらの操作以外は、上記のライン記録方式のインクジェット記録装置10とほぼ同様の操作で、記録することができる。
【実施例0138】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
また、下記実施例において、特記しない限り操作は室温(25℃)で行われた。
【0139】
1.インクの調製
(1)色材のpH値の測定
色材(顔料)のpH値は、JIS K 5101-17-2(常温抽出法)に準拠して、測定した。なお、以下において記載するpH値は、特に測定温度について記載しない限り、常温(本発明においては25℃)での測定値である。
詳しくは、ガラス容器に、水を用いて、測定する顔料の10質量%懸濁液を調製した。そして、ガラス容器に栓をして、1分間激しく振とうし、5分間静置した後に栓を取り外し、ガラス電極pHメーターで、懸濁液のpH値を、0.1の単位で測定した。繰り返して2回測定し、その平均値をpH値とした。
【0140】
(2)色材におけるマグネシウムイオン及びカルシウムイオンの含有量の測定
本実施例においては、インクに含有される無機イオンの供給源は、色材であるとして、色材におけるマグネシウムイオン及びカルシウムイオンの含有量を測定した。顔料中の無機イオンの含有量は、試料に硝酸を添加した後、マイクロウエーブ密閉分解を行い、超純水で仕上げ、ICP-AES(ICP発光分光分析装置)「SPS3520」(エスアイアイナノテクノロジー社製)にて定量を行った。そして、インクにおけるマグネシウムイオン及びカルシウムイオンの含有量を算出した。
【0141】
(3)顔料分散液の調製
(3.1)シアン顔料分散液1の調製
下記成分をステンレス鋼製のビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間攪拌して分散剤を溶解させた。
ジプロピレングリコールジアクリレート 70質量部
分散剤「アジスパー(登録商標)PB824」(味の素ファインテクノ株式会社製)
10質量部
【0142】
その後、得られた液体を室温まで冷却した後、下記顔料(顔料分散助剤を含む)を加えて、混合液を得た。
クロモファイン(登録商標)ブルー6332JC 15:4(大日精化工業株式会社製、pH値:3.5)
20質量部
得られた混合液を、200gのジルコニアビーズ(直径:0.5mm)と共にガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて5時間分散処理した。その後、混合液からジルコニアビーズを除去して、シアン顔料分散液1を得た。
【0143】
(3.2)シアン顔料分散液2及び3の調製
シアン顔料分散液1の調製において、色材を、「Fastogen(登録商標)Blue 5486」(DIC株式会社製、pH値:7.0)に変更した以外は、同様の方法で、シアン顔料分散液2を調製した。
シアン顔料分散液1の調製において、色材を、「クロモファインブルー6332JC 15:4」の洗浄品(pH値:3.8)に変更した以外は、同様の方法で、シアン顔料分散液3を調製した。なお、色材を洗浄し、無機イオンを除去する方法は、前述の方法を用いた。
【0144】
(3.3)ブラック顔料分散液1の調製
下記成分をステンレス鋼製のビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間攪拌して分散剤を溶解させた。
ジプロピレングリコールジアクリレート 68質量部
分散剤「アジスパー(登録商標)PB824」(味の素ファインテクノ株式会社製)
12質量部
【0145】
その後、得られた液体を室温まで冷却した後、下記顔料を加えて、混合液を得た。
C.I.Pigiment Black 7「MA77」(三菱化学株式会社製、カーボンブラック、pH値:2.5)
20質量部
得られた混合液を、200gのジルコニアビーズ(直径:0.5mm)と共にガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて5時間分散処理した。その後、混合液からジルコニアビーズを除去して、ブラック顔料分散液1を得た。
【0146】
(3.4)ブラック顔料分散液2の調製
ブラック顔料分散液1の調製において、色材を、「MA77」の洗浄品(pH値:2.5)に変更した以外は、同様の方法で、ブラック顔料分散液2を調製した。なお、色材を洗浄し、無機イオンを除去する方法は、前述の方法を用いた。
【0147】
(3.5)マゼンタ顔料分散液1の調製
下記成分をステンレス鋼製のビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間攪拌して分散剤を溶解させた。
ジプロピレングリコールジアクリレート 70質量部
分散剤「アジスパー(登録商標)PB824」(味の素ファインテクノ株式会社製)
10質量部
【0148】
その後、得られた液体を室温まで冷却した後、下記顔料を加えて、混合液を得た。
C.I.Pigiment Red 122(pH値:2.0)
20質量部
得られた混合液を、200gのジルコニアビーズ(直径:0.5mm)と共にガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて5時間分散処理した。その後、混合液からジルコニアビーズを除去して、マゼンタ顔料分散液1を得た。
【0149】
(4)ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)の洗浄
50gのビスアシルホスフィンオキシド(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(前述の化合物(1))を、200mLのトルエンにとり、よく撹拌混合した。その後、混合液に、40mLの水を加え、相を分離させた。有機相を、30mLの10%炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄、次いで30mLの水で更に洗浄した。そして、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、溶媒を完全に蒸発させた後、49.7gの固体を得た。
【0150】
以下、この洗浄工程を1回のみ実施したものを「1回洗浄品」、2回実施したものを「2回洗浄品」とする。また、洗浄工程を実施しなかったものを「未洗浄品」とする。
【0151】
BAPO中のPPA(フェニルホスホン酸)の含有量に関しては下記の方法にて測定した。
試料をメタノールに溶解させ、超音波処理を行い完全溶解させたのち、高速液体クロマトグラフ「LC-20AD」(島津製作所社製)によって定量を行った。カラムは、「InertSustain C18」(GLサイエンス社)を用い、溶離液としては0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液0.1M酢酸アンモニウム緩衝液とメタノールの混合溶液を用いた。また、PPAの含有量が500質量ppm未満の場合には、HPLCでの検出は難しく、LC―MASS質量分析装置「Qexactive」(Thermo Fisher Scientific社製)によって定量を行った。カラムは、「ACQUITY UPLC HSS」(Waters社)を用い、溶離液としては0.1M酢酸アンモニウム緩衝液とメタノールの混合溶液を用いた。
未洗浄品、1回洗浄品及び2回洗浄品について、フェニルホスホン酸(PPA)の含有量を測定したところ、LC―MASS質量分析装置にて、それぞれ、490質量ppm、240質量ppm、20質量ppmであった。
【0152】
(5)インクの調製
(5.1)インク1の調製
下記成分を混合し、70℃に加温して撹拌して、インク1を得た。
上記シアン顔料分散液1 12.0質量部
ジプロピレングリコールジアクリレート 18.0質量部
ポリエチレングリコール#200ジアクリレート 30.0質量部
3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート
31.9質量部
重合禁止剤:「Irgastab(登録商標)UV-10」(チバスペシャリティケミカル社製)
0.1質量部
光開始剤:上記ビスアシルホスフィンオキシド(1回洗浄品)
6.0質量部
光開始剤:「Speedcure(登録商標)ITX」(2-イソプロピルチオキサントン、Lambson社製)
2.0質量部
【0153】
(5.2)インク2~11の調製
インク1の調製において、ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)の洗浄回数及び顔料分散液の種類を、表I及び表IIに記載のとおりに変更した以外は、同様の方法で、インク2~11を調製した。
【0154】
3.評価
各インクについて、下記評価を行った。
【0155】
(1)保存性(ろ過性)
100mLのインクを、50℃で、2週間保管を行った。そして、50℃に加熱した金属容器内に入れ、同じく50℃に加熱した金属製フィルターハウジング内に金属製フィルターをセットしてろ過作業を実施した。金属製フィルターは、「SUS綾畳織3500メッシュ」(真鍋工業社製)を使用した。ろ過は自然ろ過で行った。
【0156】
通液量と通液速度(ろ液の滴下間隔)から、ろ過性を下記の基準にて評価した。なお、「初期」とは、ろ過開始直後1分間の平均滴下間隔とした。B以上(A~B)を実用上問題がないとした。
A:全量ろ過できた。
そして、滴下間隔が、ほぼ変化しなかった。
B:全量ろ過できた。
そして、滴下間隔が、初期の1.2倍未満であった。
C:全量ろ過できた。
そして、滴下間隔が、初期の1.2倍以上、2倍未満であった。
D:通液可能な量が、50mL以上、100mL未満であった。
E:通液可能な量が、50mL未満であった。
【0157】
(2)保存性(分散性)
100mLのインクを、50℃で、2週間保管を行った後、動的光散乱式粒度分布計「ゼータサイザーナノS90」(マルバーン社製)にて、常温で2週間保管を行った常温保管品との顔料の平均粒子径の変化度合いを評価した。B以上(A~B)を実用上問題がないとした。
A:粒子径の変化率が、10%以下である。
B:粒子径の変化率が、10%超、20%以下である。
C:粒子径の変化率が、20%超である。
【0158】
各インクの構成及び評価結果を、表I及び表IIに示す。
なお、表内の構成材料及び不純物の数値は、インクの全質量に対する含有量を示す。「-」は、含有しないことを示す。
また、表内の略称については、下記のとおりである。
DPGDA:ジプロピレングリコールジアクリレート
PEG(200)DA:ポリエチレングリコール#200ジアクリレート
3EO変性TMPTA:3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(前述の化合物(1)
PPA:フェニルホスホン酸
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
実施例と比較例から、本発明のインクは、保存安定性が向上することがわかる。
【0162】
実施例1及び3から、色材の25℃におけるpH値が、5以下であることにより、保存安定性(色材分散性)が向上することがわかる。
【0163】
実施例1及び4から、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの含有量が、それぞれ、インクジェットインクの全質量に対して、5質量ppm以下であることにより、保存安定性(ろ過性)が向上することがわかる。
【符号の説明】
【0164】
10 インクジェット記録装置
12 記録媒体
14 インクジェットヘッド
16 ヘッドキャリッジ
18 活性光線照射部
19 温度制御部
20 インクジェット記録装置
24 インクジェットヘッド
26 ヘッドキャリッジ
27 ガイド部
図1
図2
図3