(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096572
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電動車用インバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240709BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000136
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA24
5H770BA02
5H770PA12
5H770PA21
5H770PA24
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA02
5H770QA06
5H770QA28
5H770QA33
(57)【要約】
【課題】従来の電動車用インバータでは、環状を成す樹脂製のブラケットの内側空間に熱がこもり易く、抜熱性の向上を図るための改善が要望されていた。
【解決手段】半導体モジュール2、半導体駆動基板3、及びモータコントローラ基板4の順で下側から三段に積み重ねると共に、半導体駆動基板3とモータコントローラ基板4との間に、両基板3,4の周縁部に沿って環状を成す樹脂製のブラケット5を介装した構造を有し、ブラケット5の内側空間及び外側空間に露出する金属体6を備えた電動車用インバータ1とし、抜熱性の向上を実現した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体モジュール、半導体駆動基板、及びモータコントローラ基板の順で下側から三段に積み重ねると共に、前記半導体駆動基板と前記モータコントローラ基板との間に、両基板の周縁部に沿って環状を成す樹脂製のブラケットを介装した構造を有し、
前記ブラケットの内側空間及び外側空間に露出する金属体を備えたことを特徴とする電動車用インバータ。
【請求項2】
前記金属体が、前記ブラケットの前記内側空間及び前記外側空間に夫々突出する内側突出部及び外側突出部を一体的に有することを特徴とする請求項1に記載の電動車用インバータ。
【請求項3】
前記金属体が、前記モータコントローラ基板を貫通する上段ねじの止着部を有することを特徴とする請求項2に記載の電動車用インバータ。
【請求項4】
前記金属体が、前記半導体駆動基板を通して前記半導体モジュールに止着される下段ねじの貫通部を有することを特徴とする請求項3に記載の電動車用インバータ。
【請求項5】
前記金属体が、前記内側突出部及び前記外側突出部の少なくとも一方に、複数のリブを設けたことを特徴とする請求項2に記載の電動車用インバータ。
【請求項6】
前記金属体が、前記内側突出部を形成し且つ前記ブラケットの厚さに相当する高さを有する支柱部と、前記外側突出部を形成し且つ前記支柱部の下端部から水平に延出する基部とを一体的に有することを特徴とする請求項2に記載の電動車用インバータ。
【請求項7】
前記支柱部が、前記モータコントローラ基板を貫通する前記上段ねじの前記止着部を有すると共に、前記基部が、前記半導体駆動基板を通して前記半導体モジュールに止着される前記下段ねじの前記貫通部を有することを特徴とする請求項6に記載の電動車用インバータ。
【請求項8】
前記半導体モジュールが、冷却液を流通させる冷却層を有し、
前記ブラケットが、前記冷却層の冷却液入口の上位側に相当する位置に、前記内側空間と前記外側空間とを連通させる開口部を有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の電動車用インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車に搭載される電動車用インバータに関し、とくに、積層構造を有する電動車用インバータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電動車用インバータとしては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、下側から順に、冷却体を備えた半導体パワーモジュール、駆動回路基板、制御回路基板、電源回路基板を適宜の隙間を介して積層した構造を有する電力変換装置が記載されている。この電力変換装置は、半導体パワーモジュールと駆動回路基板とを伝熱支持部材で連結すると共に、半導体パワーモジュールと電源回路基板とを別の伝熱支持部材で連結して抜熱を行う構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記したような従来の電力変換装置は、積層方向に貫通するボルト及びボルトを挿通する支柱により各基板等を連結すると共に、積層構造の片側を覆う伝熱支持部材を備えた構造であるため、小型軽量化や耐振性が要求される電動車用インバータには不向きである。そこで、従来の電動車用インバータでは、環状を成す樹脂製のブラケットを用いて基板同士の間を連結することにより、全体の剛性を高めるようにしているが、このブラケットの内側空間に熱がこもり易いことから、抜熱性の向上を図るための改善が要望されていた。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、抜熱性に優れた電動車用インバータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる電動車用インバータは、半導体モジュール、半導体駆動基板、及びモータコントローラ基板の順で下側から三段に積み重ねると共に、半導体駆動基板とモータコントローラ基板との間に、両基板の周縁部に沿って環状を成す樹脂製のブラケットを介装した構造を有する。そして、電動車用インバータは、ブラケットの内側空間及び外側空間に露出する金属体を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係わる電動車用インバータは、ブラケットの内側空間及び外側空間に露出する金属体を備え、これにより、ブラケットの内外を熱伝導率の高い金属体で繋ぐ構造にして、ブラケットの内側空間から外側空間への熱の移動を容易にし、ブラケットの内側空間の温度を下げる。このようにして、上記電動車用インバータは、抜熱性の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係わる電動車用インバータの第1実施形態を示す分解斜視図である。
【
図3】拡大図付きの電動車用インバータの平面図である。
【
図4】電動車用インバータの要部の垂直断面図である。
【
図6】
図5中のA-A線矢視に基づく断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、図面に基づいて、電動車用インバータの第1実施形態を説明する。以下の説明に用いる図面では、理解し易くする都合上、構成部位を簡素化しており、構成部位の数や大きさ、及び形状等を限定するものではない。
【0010】
図1及び
図2に示す電動車用インバータ1は、半導体モジュール2、半導体駆動基板3、及びモータコントローラ基板4の順で下側から三段に積み重ねた構造を有する。そして、電動車用インバータ1は、半導体駆動基板3とモータコントローラ基板4との間に、両基板3,4の周縁部に沿って環状を成す樹脂製のブラケット5が介装してある。
【0011】
半導体モジュール2は、中央領域に回路部2Cを設けた基板層2Aと、冷却液を流通させる冷却層2Bとを上下に重ねた構造である。半導体駆動基板3及びモータコントローラ基板4は、夫々の中央領域に回路部3C,4Cを有する。図示例のブラケット5は、矩形環状を成し、半導体駆動基板3の回路部3Cを囲繞するように配置してある。
【0012】
上記の電動車用インバータ1は、
図3に示すように、ブラケット5の内側空間及び外側空間に露出する金属体6を備えている。この金属体6は、ブラケット5の内側空間及び外側空間に夫々突出する内側突出部6A及び外側突出部6Bを一体的に有している。図示例の電動車用インバータ1では、矩形環状を成すブラケット5の四隅に金属体6が夫々配置してある。金属体6は、その材料が限定されるものではないが、高い熱伝導率を有する金属であることが好ましい。
【0013】
金属体6は、
図4~
図6に示すように、内側突出部6Aを形成し且つブラケット5の厚さに相当する高さを有する支柱部16と、外側突出部6Bを形成し且つ支柱部16の下端部から水平に延出する基部26とを一体的に有している。図示例の支柱部16は、円柱状を成しており、基部26は、支柱部16の直径に相当する幅寸法を有すると共に、その先端が平面視で半円状を成している。
【0014】
また、上記の金属体6は、内側突出部6A及び外側突出部6Bの少なくとも一方に、複数のリブ36が設けてあり、この実施形態では、内側突出部6A及び外側突出部6Bの両方にリブ36が設けてある。すなわち、金属体6は、支柱部16及び基部26の外周面に、複数のリブ36が所定間隔で形成してある。支柱部16におけるリブ36は、同支柱部16の軸線方向に沿って形成してあり、基部26におけるリブ36は、その厚さ方向(
図6で上下方向)に沿って形成してある。
【0015】
さらに、金属体6は、支柱部16に、モータコントローラ基板4を貫通する上段ねじB1の止着部16Aを有すると共に、基部26に、半導体駆動基板3を通して半導体モジュール2に止着される下段ねじB2の貫通部26Aを有する。具体的には、止着部16Aは、上方向に開放されためねじ穴であり、貫通部26Aは、上下に開放された貫通穴である。
【0016】
上記構成を備えた金属体6は、モールド成形によって、樹脂製のブラケット5に一体化される。これにより、金属体6は、ブラケット5の内側空間に、支柱部16の一部が内側突出部6Aとして露出し、ブラケット5の外側空間に、基部26の先端部分が外側突出部6Bとして露出した状態になる。
【0017】
また、電動車用インバータ1は、先述した半導体モジュール2の冷却層2Bを有しており、
図1及び
図2に示すように、ブラケット5が、冷却層2Bの冷却液入口7の上位側に相当する位置に、内側空間と外側空間とを連通させる開口部8を有している。図示例の開口部8は、ブラケット5の下辺を一定幅に切り欠いた形態である。
【0018】
上記の電動車用インバータ1は、各金属体6の上段ねじB1により、モータコントローラ基板4とブラケット5とを連結し、各金属体6の下段ねじB2により、ブラケット5、半導体駆動基板3、及び半導体モジュール2を連結する。このようにして、電動車用インバータ1は、半導体モジュール2、半導体駆動基板3及びブラケット5、並びにモータコントローラ基板4を互いに連結する。なお、電動車用インバータ1の大きさ等により、上段ねじB1及び下段ねじB2の他に別のねじ類を追加することもあり得る。
【0019】
上記構成を備えた電動車用インバータ1は、ブラケット5の内側空間及び外側空間に露出する金属体6を備え、これにより、ブラケット5の内外を熱伝導率の高い金属体6で繋ぐ構造にして、ブラケット5の内側空間から外側空間への熱の移動を容易にし、ブラケット5の内側空間の温度を下げることとなり、抜熱性の向上を実現する。
【0020】
また、上記の電動車用インバータ1は、ブラケット5の内側空間及び外側空間に夫々突出する内側突出部6A及び外側突出部6Bを一体的に有する金属体6を用いることにより、内外の空間に対する金属体6の露出面積を大きく確保し、放熱性をさらに高めることができる。
【0021】
さらに、上記の電動車用インバータ1は、モータコントローラ基板4を貫通する上段ねじB1の止着部16Aを有する金属体6を採用したことで、金属体6が、半導体駆動基板3とモータコントローラ基板4とを互いに固定する役割を持つこととなり、部品点数を増やすことなくブラケット5の内側空間の熱を下げることができる。
【0022】
さらに、上記の電動車用インバータ1は、半導体駆動基板3を通して半導体モジュール2に止着される下段ねじB2の貫通部26Aを有する金属体6を採用したことで、金属体6が、半導体駆動基板3及びブラケット5と半導体モジュール2とを互いに固定する役割を持つこととなり、部品点数を増やすことなくブラケット5の内側空間の熱を下げることができる。しかも、上記の電動車用インバータ1は、金属体6を伝わった熱が、外側突出部6Bから放出されるだけでなく、下段ねじB2を介して冷却層2Bを有する半導体モジュール2にも伝わるので、これらの作用が相俟ってブラケット5の内側空間の熱をさらに下げることができる。
【0023】
さらに、上記の電動車用インバータ1は、金属体6の内側突出部6A及び外側突出部6Bの少なくとも一方に複数のリブ36を設けたことにより、ブラケット5の内側空間及び外側空間における金属体6の露出面積を拡大し、内側空間の冷却効果のさらなる向上を実現する。また、金属体6は、
図7に示す如くリブの無い構造でも抜熱の効果を得ることができるが、上記実施形態のように全周にリブ36を設ければ、冷却効果の向上の他、ブラケット5のモールド成形の際に、金属体6に対する樹脂の食い付きを良好にし得る。
【0024】
さらに、上記の電動車用インバータ1は、支柱部16と基部26を有する金属体6を採用したことで、小型軽量化することが可能であると共に、モータコントローラ基板4と半導体駆動基板3との間に支柱部16が介在することとなり、全体的な剛性のさらなる向上に貢献することができる。
【0025】
さらに、上記の電動車用インバータ1は、金属体6の支柱部16及び基部26が、上段ねじB1の止着部16A及び下段ねじB2の貫通部26Aを有するので、金属体6自体が連結部品として機能し、部品点数の削減や作業性の向上などを実現し得る。
【0026】
さらに、上記の電動車用インバータ1は、ブラケット5が、半導体モジュール2の冷却液入口7の上位側に相当する位置に開口部8を有するので、ブラケット5の内外の通気性が確保され、とくに、半導体駆動基板3の上部で温度差が生じ易くなって半導体駆動基板3の熱が開口部8側に流れ、円滑に抜熱を行うことができる。また、上記の電動車用インバータ1は、発熱量の多いコネクタやコンデンサ等の電子部品を開口部8に向けて配置することで、開口部8側への熱の流れが発生し易くなる。
【0027】
本発明に係わる電動車用インバータは、その構成が上記各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 電動車用インバータ
2 半導体モジュール
2A 基板層
2B 冷却層
3 半導体駆動基板
4 モータコントローラ基板
5 ブラケット
6 金属体
6A 内側突出部
6B 外側突出部
7 冷却液入口
8 開口部
16 支柱部
16A 止着部
26 基部
26A 貫通部
36 リブ
B1 上段ねじ
B2 下段ねじ