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特開2024-96577音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用保持具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096577
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用保持具
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20240709BHJP
   G01N 29/28 20060101ALI20240709BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/28
H04R17/00 330Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000144
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 明子
(72)【発明者】
【氏名】山本 紀子
(72)【発明者】
【氏名】奈良 康平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 脩平
(72)【発明者】
【氏名】小野 富男
(72)【発明者】
【氏名】中井 豊
(72)【発明者】
【氏名】熊田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】上野 裕史
【テーマコード(参考)】
2G047
5D019
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA03
2G047BA05
2G047BC07
2G047CA01
2G047GA05
2G047GB27
2G047GB29
2G047GE01
2G047GE03
5D019AA21
5D019FF04
(57)【要約】
【課題】検査時に接触媒質を被検査体と密着させ、接触媒質を容易に移動させることが可能であると共に、接触媒質を容易に交換可能にした音波検査装置を提供する。
【解決手段】実施形態の音波検査装置1は、音波機能面を有する音波探触子2と、音波探触子2の音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む接触媒質8と、第2の面と接するように接触媒質8と積層され、ポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9とを備える接触部材10と、接触部材10を保持して音波探触子2に取り付ける保持具11であって、複数の開口を有するシート部材9の少なくとも一部が無荷重時又は荷重時に最表面に位置するように、複数の開口を有するシート部材9の一部が固定された保持具11と、音波探触子2に荷重を印加する荷重機構18とを具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面を有する音波探触子と、
前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む接触媒質と、前記第2の面と接するように前記接触媒質と積層され、ポリマーを含む複数の開口を有するシート部材とを備える接触部材と、
前記接触部材を保持して前記音波探触子に取り付ける保持具であって、前記複数の開口を有するシート部材の少なくとも一部が無荷重時又は荷重時に最表面に位置するように、前記複数の開口を有するシート部材の一部が固定された保持具と、
前記音波探触子に荷重を印加する荷重機構と
を具備する音波検査装置。
【請求項2】
前記保持具は、前記音波探触子を挿入する開口部と、前記接触部材を格納もしくは保持する部位とを有し、前記開口部から前記音波探触子と被試験体との間で音波を送受信するように、前記音波探触子の前記音波機能面が前記接触媒質と密着し、かつ前記音波探触子が前記開口部内を移動可能なように構成されている、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項3】
前記保持具は、前記音波探触子が移動可能なように挿入される第1開口部を有する押さえ部材と、前記第1開口部と連通するように設けられ、前記接触媒質が格納される第2開口部を有するベース部材と備える、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項4】
前記複数の開口を有するシート部材は、前記ベース部材の下端面に接着固定されている、請求項3に記載の音波検査装置。
【請求項5】
前記複数の開口を有するシート部材は、前記第2開口部の下端部に内側に向けて設けられた突出部上に接着固定されている、請求項3に記載の音波検査装置。
【請求項6】
前記複数の開口を有するシート部材は、前記ベース部材と前記複数の開口を有するシート部材との間の外周側に設けられた空間に配置された接着シートにより接着固定されている、請求項3に記載の音波検査装置。
【請求項7】
前記接触媒質及び前記複数の開口を有するシート部材は、前記ベース部材と前記押さえ部材との間に挟み込まれて固定されている、請求項3に記載の音波検査装置。
【請求項8】
前記保持具は、前記押さえ部材に設けられ、その先端部を前記音波探触子の外面に押し付けて脱着可能に固定する複数のプランジャを備える、請求項3に記載の音波検査装置。
【請求項9】
前記保持具は、前記音波探触子が移動可能なように挿入されると共に、前記接触媒質が格納される開口部を有する側壁部と、前記側壁部に設けられ、その先端部を前記音波探触子の外面に押し付けて脱着可能に固定する複数のプランジャとを備え、
前記複数の開口を有するシート部材は、前記側壁部の下端面に接着固定されている、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の音波検査装置を用いた音波検査方法であって、
前記音波検査装置を被検査体上に配置する工程と、
前記音波探触子に対して荷重を加え、前記複数の開口を有するシート部材を介して前記接触媒質を被検査体に押し付けて接触させる工程と、
前記接触媒質を前被検査体に押し付けた状態で、前記音波探触子により前記被検査体の音波による非破壊検査を行う工程と、
前記接触部材に対する荷重を取り除き、前記複数の開口を有するシート部材を前記被検査体に接触させつつ、前記音波検査装置を前記被検査体上を移動させる工程と
を具備する音波検査方法。
【請求項11】
エラストマーを含む接触媒質とポリマーを含む複数の開口を有するシート部材とを備える接触部材を保持して音波探触子に取り付ける保持具であって、
前記音波探触子を挿入する開口部と、前記複数の開口を有するシート部材の少なくとも一部が無荷重時又は荷重時に最表面に位置するように、前記接触部材を格納もしくは保持する部位とを具備し、前記複数の開口を有するシート部材の一部が固定されている、音波検査装置用保持具。
【請求項12】
前記音波探触子が移動可能なように挿入される第1開口部を有する押さえ部材と、前記第1開口部と連通するように設けられ、前記接触媒質が格納される第2開口部を有するベース部材と具備する、請求項11に記載の音波検査装置用保持具。
【請求項13】
前記複数の開口を有するシート部材は、前記ベース部材の下端面に接着固定されている、請求項12に記載の音波検査装置用保持具。
【請求項14】
前記複数の開口を有するシート部材は、前記第2開口部の下端部に内側に向けて設けられた突出部上に接着固定されている、請求項11に記載の音波検査装置用保持具。
【請求項15】
前記押さえ部材に設けられ、その先端部を前記音波探触子の外面に押し付けて脱着可能に固定する複数のプランジャを具備する、請求項11に記載の音波検査装置用保持具。
【請求項16】
前記音波探触子が移動可能なように挿入されると共に、前記接触媒質が格納される開口部を有する側壁部と、前記側壁部に設けられ、その先端部を前記音波探触子の外面に押し付けて脱着可能に固定する複数のプランジャとを具備し、
前記複数の開口を有するシート部材が前記側壁部の下端面に接着固定されている、請求項11に記載の音波検査装置用保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波や弾性波等の音波の伝播を用いた音波検査装置は、様々な部材、装置、インフラ等の点検に用いられている。また、超音波検査装置は医療診断等にも利用されている。そのような検査装置に用いられる超音波探触子やAE(Acoustic Emission)センサ等に代表される音波受信機、音波送信機、音波送受信機等の音波検査用探触子を被検査体に設置する場合、音波検査用探触子と被検査体との間で音波の伝播を効率よく行うために、探触子の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面と被検査体との間に、グリセリン、ワセリン、オイル等の液体状又は粘性体状の接触媒質を介在させている。これは探触子を構成する材料や被検査体を構成する材料との間に、それら材料とは大きく音響インピーダンスが異なる空気が介在すると、音はそこで反射してしまい、伝搬が極めて難しくなるためである。
【0003】
上述した接触媒質は、探触子から被検査体、又は被検査体から探触子に超音波等の音波を効率よく伝達し、試験精度を高める上で重要である。しかし、液体状又は粘性体状の接触媒質を塗布したり、除去したりする工程は煩雑である。このため、検査の時間や工数を増加させる要因となっている。また、検査対象の被検査体によっては、接触媒質で汚染される場合もあり、その場合は検査自体を実施することができない。
【0004】
固体の接触媒質も提案されているが、超音波の伝播は液体状の接触媒質を用いた場合と比較して大きく劣る。音波検査用接触媒質の設置面と被検査体との間に空気が介在するのを避けるために、粘着性のある固体の接触媒質も提案されている。しかしながら、従来の粘着性のある固体の接触媒質を用いた場合、音波検査用接触媒質の設置面が被検査体に密着し、音波検査用接触媒質を滑らせることができない。そのため、設置位置を微小距離で動かす場合であっても、一度接触媒質と共に探触子を、被検査体から剥がす必要があり、検査工程が煩雑になる。さらに、固体の接触媒質の探触子に対する保持形態によっては、接触媒質の交換に手間を要する等の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-053956号公報
【特許文献2】特開2021-067603号公報
【特許文献3】特開2022-141589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、検査時に接触媒質を被検査体と密着させたときに音波をよく伝播させることができ、接触媒質を容易に移動させることが可能であると共に、接触媒質を容易に交換可能にした音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用保持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の音波検査装置は、音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面を有する音波探触子と、前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む接触媒質と、前記第2の面と接するように前記接触媒質と積層され、ポリマーを含む複数の開口を有するシート部材とを備える接触部材と、前記接触部材を保持して前記音波探触子に取り付ける保持具であって、前記複数の開口を有するシート部材の少なくとも一部が無荷重時又は荷重時に最表面に位置するように、前記複数の開口を有するシート部材の一部が固定された保持具と、前記音波探触子に荷重を印加する荷重機構とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態の音波検査装置を示す断面図である。
図2図1に示す音波検査装置を用いた被検査体の検査工程を示す図である
図3図1に示す音波検査装置における無荷重時の接触媒質及び複数の開口を有するシート部材の状態を示す図である
図4図1に示す音波検査装置における荷重時の接触媒質及び複数の開口を有するシート部材の状態を示す図である
図5】第1の実施形態の音波検査装置の変形例を示す断面図である。
図6】第2の実施形態の音波検査装置の第1の例を示す断面図である。
図7】第2の実施形態の音波検査装置の第2の例を示す断面図である。
図8図7に示す音波検査装置の上面図である。
図9】第1又は第2の実施形態の音波検査装置の変形例を示す断面図である。
図10図9に示す音波検査装置の分解図である。
図11】第1又は第2の実施形態の音波検査装置の変形例を示す断面図である。
図12】第1又は第2の実施形態の音波検査装置の変形例を示す断面図である。
図13】第1又は第2の実施形態の音波検査装置の変形例を示す断面図である。
図14】第1又は第2の実施形態の音波検査装置の変形例を示す分解図である。
図15】複数の開口を有するシート部材の第1の例(メッシュシート)を示す平面図である。
図16】複数の開口を有するシート部材の第2の例を示す平面図である。
図17】複数の開口を有するシート部材の第3の例を示す平面図である。
図18】複数の開口を有するシート部材の第4の例を示す平面図である。
図19】複数の開口を有するシート部材の第5の例を示す平面図である。
図20】複数の開口を有するシート部材の第6の例を示す平面図である。
図21】複数の開口を有するシート部材の第7の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用保持具について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下方向を示す用語は、被検査体の検査面を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0010】
ここに記載される音波とは、気体、液体、固体を問わず、弾性体を伝播するあらゆる弾性振動波の総称であり、可聴周波数域の音波に限らず、可聴周波数域より高い周波数を有する超音波、及び可聴周波数域より低い周波数を有する低周波音等も含まれる。音波の周波数は特に限定されるものではなく、高周波から低周波まで含まれるものである。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の音波検査装置1を示し、図2は音波検査装置1を被検査体X上に配置した検査状態を示している。図1に示す音波検査装置1は、斜角型の音波探触子2を備えている。音波検査装置1は、例えばパルス反射式の音波探触子2を有し、被検査体内の傷等の検査対象物から戻ってくる音波(反射波)を計測することで探傷等の非破壊検査、もしくは膜厚測定等を行うものである。あるいは、音波探触子2は検査対象物が発生する応力波のような音波を計測することで探傷等の非破壊検査を行うものであってもよい。音波探触子2は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有するものであり、具体例としては超音波送受信機(超音波トランスデューサ)や音波受信機が挙げられる。超音波送受信機の代表例としては、超音波プローブが挙げられる。また、音波受信機の代表例としては、AEセンサが挙げられる。音波探触子2は音波送信機であってもよい。
【0012】
実施形態の音波検査装置1において、音波探触子2は音波の送受信面、受信面、送信面等を有する。ここでは、音波探触子の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する面を音波機能面と称する。このような音波機能面を音波探触子2は、例えば超音波送受信機としての超音波探触子である。超音波探触子2は、超音波探傷用の振動子(圧電体)と、振動子の上下両面に設けられた電極とを有する超音波送受信素子3を備えている。斜角型の超音波送受信素子3は、所定の角度を有するシュー4に配置されており、この状態でケース5に収容されている。超音波送受信素子3は、必要に応じて受波板上に配置される。シュー4の裏側には吸音材6が設けられている。超音波送受信素子3の図示しない電極は、ケース5に設けられたコネクタ7と電気的に接続されている。振動子、超音波送受信素子3、シュー4、受波板等には、公知の超音波探触子に用いられる構成材料や構造等を適用することができ、特に限定されるものではない。
【0013】
また、音波探触子2がAEセンサ等の音波受信機である場合、AE受信用の振動子(圧電体)を有する音波受信素子が用いられる以外は、超音波探触子2と同様な構成が適用される。その場合、AE受信用の振動子、音波受信素子、受波板等には、公知のAEセンサに用いられる構成材料や構造等を適用することができる。
【0014】
実施形態の音波検査装置1において、音波探触子2が音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する超音波探触子である場合、高分子材料からなるシュー4もしくは遅延材と呼ばれる中間部材を有してもよい。図1に示すように、斜角型の超音波探触子2では振動子がシュー4を構成する材料上に設置される。シュー材料としては、アクリル、ポリスチレン、ポリエーテルイミド等が用いられる。垂直型の超音波探触子の場合は、後述するように遅延材と呼ばれる中間部材上に設置される。高分子材料からなるシューもしくは遅延材と呼ばれる中間部材は、例えば超音波探触子2の音波機能面と接している。さらに、中間部材の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する外周面には、音波伝播部として機能するエラストマーを含む接触媒質8とポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9とを備える接触部材10が設けられている。
【0015】
接触媒質8と複数の開口を有するシート部材9とを備える接触部材10は、保持具11に保持されており、その状態で音波探触子2に取り付けられている。接触部材10の一部は保持具11に固定されている。保持具11には、複数の開口を有するシート部材9の一部が接着シート12により接着固定されている。音波検査装置1は、被検査体X上に接触部材10が被検査体Xと接するように配置される。音波検査装置1は、例えばパルス反射方式を有し、被検査体Xからの音波を計測することにより、被検査体X内の傷等の非破壊検査を行う。接触部材10は、エラストマーを含む接触媒質8と、接触媒質8が被検査体と接触するための接触面に設けられたポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9とを備えている。
【0016】
音波検査装置1は、音波探触子2に接触部材10を保持する保持具11を装着することにより用いられる。図1に示す音波検査装置1において、保持具11は接触部材10を囲うように設けられた側壁部(ベース部材)13と、側壁部13の上方を覆うように設けられ、開口部14を有する覆部15と、開口部14の周囲に開口部14と同形状に上方に延伸する押さえ部16とを有している。開口部14は、側壁部13の内部から押さえ部16の内部に設けられている。側壁部13の下部には接着シート12が配置されており、接着シート12により複数の開口を有するシート部材9の一部が保持具11に接着固定されている。音波探触子2は保持具11に形成された開口部14内に移動可能に挿入されている。
【0017】
音波探触子2は押さえ部16及び開口部12内に挿入しただけの状態で使用してもよいし、図5に示すように、保持具11をプランジャ17のような機構を用いて音波探触子2に固定して一体化するようにして使用してもよい。図5に示す保持具11は、接触部材10を囲うように設けられた側壁部13を有し、側壁部13にプランジャ17が設けられている。プランジャ17は保持具11の側壁部13(もしくは押さえ部16)に設けられた貫通穴内に配置及び固定されており、内部のバネ等により先端のボールやピンを音波探触子2に押し付けることにより、音波探触子2の上下動や脱着を可能な状態で固定するものである。
【0018】
図1に示す保持具11は、音波探触子を挿入する開口部14を有する。さらに、保持具11において、底部にエラストマーを含む接触媒質8を格納する空間があり、底部に接着シート12を介して複数の開口を有するシート部材9が設置されている。図5に示す音波検査装置1は、様々な大きさの斜角型の音波探触子2に適用可能な接触部材10及び保持具11を適用した例である。保持具11の周辺部に音波探触子2を保持する機構を備えており、大きさや形状の異なる音波探触子2に、接触部材10を保持した保持具11を装着することを可能な構成を有している。
【0019】
音波探触子2の音波機能面には、エラストマーを含む接触媒質8が密着しているが、図3に示すように、当初の状態(無荷重状態)では試験体Xに接する面に保持具11に固定されたポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9が位置している。複数の開口を有するシート部材9は、音波検査装置1の最表面に位置している。ここで言う最表面とは、被検査体Xとの接触面を意味しており、音波検査装置1の音波探触子2とは逆側の最外面である。複数の開口を有するシート部材9は保持具11に一部が固定されているため、接触部材10及び保持具11と一体化された音波探触子2を被検査体Xの上を容易に滑らせることができる。
【0020】
音波検査を行うときには、荷重印加装置18により音波探触子2に荷重Pが印加される。すると、音波探触子2の音波機能面に接しているエラストマーを含む接触媒質8に荷重Pが印加される。図4に示すように、エラストマーを含む接触媒質8は、保持具11に一部が固定されたポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9に押し付けられる。複数の開口を有するシート部材9は一部が保持具11に固定されているため、エラストマーを含む接触媒質8は複数の開口を有するシート部材9の網目内に充填されて被検査体Xに向けてはみ出し、接触部材10との間に存在した空気が追い出されて接触媒質8が被検査体Xに対して直に接触する。これによって、超音波等の音波を音波探触子2から被検査体Xに伝搬させることができる。
【0021】
荷重印加装置18としては、機械式、油圧式、空気圧式、電磁式等のアクチュエータが用いられる。荷重印加装置18は音波探触子2上に設置されており、音波探触子2に直接荷重を印加し、これにより音波探触子2を介して接触部材10に荷重を印加するように構成されている。音波探触子2及び接触部材10に対する荷重印加機構18は、接触部材10に対して荷重を印加した状態と、荷重を取り除いた状態との間で切り替えることが可能であればよく、具体的な荷重の印加方式や印加部材の形状等は特に限定されるものではない。荷重印加装置18で印加した荷重を取り除くと、エラストマーを含む接触媒質8は荷重による変形が緩和されるため、主に複数の開口を有するシート部材9が被検査体Xとの界面に存在するように変化する。従って、接触部材10及び保持具11と一体化された音波探触子2は、被検査体Xの上を再び容易に滑らせることができる。
【0022】
上述したように、エラストマーを含む接触媒質8とポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9とを備える接触部材10の一部を保持具11に固定することによって、荷重の印加時に接触部材10と被検査体Xとの間で音波を効率よく伝播させることができ、かつ荷重を取り除いたとき接触部材10及び保持具11と一体化した音波探触子2を、被検査体X上を移動させることができる。これらによって、音波検査装置1による非破壊検査と音波検査装置1の移動性とを両立させることができる。ここで、保持具11は3Dプリンタ等で作製される樹脂部材や金属部材等でもよいし、木材、樹脂、金属、ガラス、又はそれらの複合材を加工した部材等、様々な材料を用いることができる。
【0023】
接触媒質8を構成するエラストマーの摩擦力を測定すると、他の材料と比較して圧倒的に大きい。このような大きな摩擦力の起源は、エラストマーが変形して接触面積が極めて大きくなるために観測される現象と推測される。金属のような硬質材料同士を接触させようとしても、接触面の極一部である粗さ、具体的には表面の微小突起の先端のみが接触するに留まる。しかし、エラストマーのように弾性率が低い材料の場合、同じ荷重でも接触面積が多くなるため、接触面積に応じて吸着力が増すことになる。また、エラストマーの粘弾性は、接触した吸着界面を引き剥がす力を増す方向に作用するためで、これも摩擦係数を大きくする要因となる。このように、エラストマーは被検査体Xとの実質的な(微視的な)接触面積が大きいため、超音波をよく通すことができる。ただし、超音波を通しやすいものほど、摩擦力が大きく剥がしづらくなってしまう。
【0024】
そこで、図1に示す接触部材10及び保持具11においては、エラストマーを含む接触媒質8の表面に、ポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9を設けている。複数の開口を有するシート部材9は、エラストマーを含む接触媒質8より弾性率が大きい材料により構成されている。複数の開口を有するシート部材9は、保持具11に一部が固定されている。このような接触媒質8と複数の開口を有するシート部材9とを備える接触部材10を保持した保持具11を用いることによって、荷重が印加されていない状態では弾性率が大きい複数の開口を有するシート部材9の表面の凹凸部の凸部が被検査体Xに接触し、エラストマーを含む接触媒質8が被検査体Xに接触していないため、小さい摩擦力で移動させることができる。荷重が印加された状態では、エラストマーを含む接触媒質8が変形し、複数の開口を有するシート部材9の凸部間に突出して、接触媒質8が被検査体Xに接触した状態となるため、音波を効率的に伝播させることができる。
【0025】
ポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9において、シート部材9がメッシュシートである場合、凸部すなわちメッシュを構成する糸の直径は、10μm以上500μm以下であることが好ましい。シート部材9がシートに複数の開口を形成した場合、開口と開口との間の距離は10μm以上500μm以下であることが好ましい。これは荷重を印加したときの音の伝搬性能と、荷重未印加時の被検査体Xとの摩擦係数を測定して見出した知見である。この範囲を逸脱した複数の開口を有するシート部材9を用いると、音波伝搬性能が低くなったり、被検査体X上での滑りが悪くなったりする傾向がある。凸部間の幅、すなわちメッシュシートの目開きや複数の開口を形成したシートの開口の長径は、10μm以上2000μm以下であることが好ましい。凸部間の幅、すなわちシートの目開きや複数の開口を形成したシートの開口の長径は、どちらの場合もその最小幅が2000μmを超えると、荷重が印加されていない状態においては、凸部のみを被検査体Xに接触させることによる摩擦力の低減効果を十分に得ることができないおそれがある。凸部間の幅、すなわちメッシュの目開きの最小幅やシートの開口の長径が10μm未満であると、荷重を印加した状態において接触媒質8を被検査体Xに十分に接触させることができないおそれがある。
【0026】
さらに、エラストマーを含む接触媒質8とポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9とから構成される接触部材10において、凹凸部の被検査体Xに接する部分を凸部と定義したときに、凹凸構造を有する表面を法線方向から見た場合に、凹部の総面積(平面に投影した面積)が凸部の総面積(平面に投影した面積)より大きいことが好ましい。これによって、接触媒質8と被検査体Xとの間の音波の伝播効率を高めることができる。凸部の最小幅、凹部の最小幅、凸部の総面積と凹部の総面積との比等は、接触媒質8に用いる材料のヤング率や音響インピーダンスに応じて適宜選択することが好ましい。
【0027】
エラストマーを含む接触媒質8の厚さは10μm以上10mm以下が好ましい。接触媒質8を構成する材料の音響インピーダンスやヤング率により適した厚さは異なるが、特に0.2mm以上2mm以下程度の厚さのときに、音波の伝播性能が高く、かつ被検査体X上の潤滑性も高めることができる。接触媒質8の構成材料に含まれるエラストマーには、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとがあるが、実施形態の接触媒質8にはどちらも使用することができる。熱可塑性エラストマーとは、例えば弾性率の温度依存性が異なる2種類以上のポリマーの共重合体である。実施形態で用いられるエラストマーは、所定の粘弾性を有し、対象物に貼り付くことができるため、水や油類等の他の接触媒質と比べて周囲を汚染することがなく、また固体であるため、取り除きも容易であり、再利用も可能である。接触媒質を押し付けることで、空気層を排除するために、用いるエラストマーの弾性定数(ヤング率)は0.1MPa以上0.1GPa以下であることが好ましい。材料の塑性が開始する応力である降伏応力は大きいことが好ましく、2MPa以上が好ましく、さらに20MPa以上であることがより好ましい。引張り強度も大きほうが好ましく、2MPa以上が好ましい。
【0028】
接触媒質8を主として構成する熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(SBC、TPS)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE、TPC)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱硬化性エラストマーとしては、ジエン系ゴムに分類されるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、非ジエン系ゴムに分類されるイソブチレン・イソプレンゴム(IIR)のようなブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、その他のゴムとして、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、多硫化ゴム(T)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)等が挙げられる。耐熱性、耐摩耗性、耐油性、耐薬品性等、それぞれの材料により特徴を有することから、検査対象によって適宜選択することが好ましい。用途によっては、複数のエラストマーを混合して用いてもよい。音波の透過を妨げない大きさ、すなわち概ね直径200μm以下の添加物を混合してもよい。
【0029】
ポリマーを含む複数の開口を有する部材9は、荷重を印加していないときには複数の開口を有するシート部材9の凹凸構造の凸部によって、被検査体Xの上を滑らせることができる。これは、複数の開口を有するシート部材9を構成する材料が接触媒質8より硬い材料からなり、かつ凸部の被検査体Xとの接触面積が小さい形状を有するためである。凸部を構成する複数の開口を有するシート部材9は、主にポリマー材料から構成されることが多い。例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレンエチレン共重合、フッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、液晶、ポリ塩化ビニル等の接触媒質8を主として構成するエラストマーより弾性率が大きいポリマーが用いられる。また、各種ポリマーメッシュに金属等をスパッタしたものでもよい。金属、セラミックス、酸化物等の他の材料を含むものを用いてもよい。
【0030】
接触部材10を構成するポリマーを含む複数の開口を有するシート部材9がメッシュシートである場合、いわゆる経糸と緯糸を交互に交差させて作製された平織りに限定されるものではない。経糸と緯糸を2本ずつ抜かす等して交差させて作られた綾織りでもよいし、朱子織りでもよい。また、経糸と緯糸が直交するように編まれていないものでもよく、例えば経糸を20度程度傾けたものでもよい。さらに、メッシュの交点を融着させたものは、複数の開口を有するシート部材9の強度が増すことが多いために望ましい。また、接触媒質8と組み合わせて接触部材10を構成したときに、音波の伝搬性能が高くなることがある。
【0031】
(第2の実施形態)
図6は第2の実施形態の音波検査装置1を示している。図6に示す音波検査装置1は、垂直型の音波探触子2備えている。音波検査装置1は、例えばパルス反射式の音波探触子2を有し、被検査体内の傷等の検査対象物から戻ってくる音波(反射波)を計測することで探傷等の非破壊検査、もしくは膜厚測定等を行うものである。あるいは、音波探触子2は検査対象物が発生する応力波のような音波を計測することで探傷等の非破壊検査を行うものであってもよい。音波探触子2は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有するものであり、具体例としては超音波送受信機(超音波トランスデューサ)や音波受信機が挙げられる。超音波送受信機の代表例としては、超音波プローブが挙げられる。音波受信機の代表例としては、AEセンサが挙げられる。音波探触子2は音波送信機であってもよい。垂直型の音波探触子2において、超音波送受信素子(又は音波受信素子)3は、図7に示すように、遅延材31上に配置されていてもよく、その上にはダンパ20が配置されていてもよい。遅延材19のような中間部材については前述した通りである。
【0032】
図6に示す保持具11は、音波探触子2を挿入する第1開口21と接触部材10の接触媒質8を挿入する第2開口22とを有する段付き開口部23を備えている。第1開口21と第2開口22は連通するように設けられている。保持具11の下方には、エラストマーを含む接触媒質8を格納する空間として第2開口22が設けられており、その上方には音波探触子2を格納する空間として第1開口21が設けられてている。保持具11の第1開口21及び第2開口22が設けられる側壁部13の底部には、接着シート12を介して複数の開口を有するシート部材9接着固定されている。
【0033】
図6では音波探触子2を第1開口21内に挿入しただけの状態で使用している。音波探触子2は、図7及び図8に示すように、保持具11をプランジャ17のような機構を用いて音波探触子2に固定して一体化するようにして使用してもよい。図7及び図8は、円柱状や直方体状等の様々な形、さらには様々な大きさの垂直型の音波探触子2に適用できる接触部材10及び保持具11を適用した例を示している。保持具11の周辺部には音波探触子2を保持する機構を備えており、大きさや形状の異なる音波探触子2に、接触部材10を保持した保持具11を装着することが可能とされている。ここでは音波探触子2を保持する機構としてプランジャ17を用いている。例えば図8に示すような円柱状の音波探触子2を適用する場合、プランジャ17は音波探触子2の外面の3分割した3点に対して押し付けるように配置されている。プランジャ17は、内部に設けられた圧縮バネ17aと、圧縮バネ17aの先端に配置されたボールやピン等の先端部材17bとを有し、圧縮バネ17aにより先端部材17bを音波探触子2に押し付けて固定するものである。プランジャ17の先端部材17bは圧縮バネ17aの伸縮により位置が可変とされているため、音波探触子2を脱着可能に固定することができる。
【0034】
図7及び図8に示す保持具11は、ベース部材24とその上部に設けられた押さえ部材25とを備えている。ベース部材23は、接触部材10を格納する空間を形成する第1開口部26を有している。押さえ部材25は、音波探触子2を格納する空間を形成する第2開口部27を有している。ベース部材23の第1開口部26の内側下端部には、接着シート12が配置される突出部28が設けられている。複数の開口を有するシート部材9は、突出部28上に配置された接着シート12により接着固定されている。複数の開口を有するシート部材9は第1開口部26の内側下端部に設けられた突出部28に固定されているため、突出部28への固定状態を維持しつつ、複数の開口を有するシート部材9の一部が最表面に位置するように、突出部28の厚さに応じて折り曲げられている。接触媒質8は、そのような複数の開口を有するシート部材9と接触するように、変形された状態で複数の開口を有するシート部材9上に配置されている。なお、接触媒質8の変形形状及び複数の開口を有するシート部材9の折り曲げ形状は、当初からそのような形状を有していてもよいし、荷重が加えられた際にそのような形状となるものであってもよい。すなわち、複数の開口を有するシート部材9は無荷重時に最表面に位置していてもよいし、荷重時に最表面に位置するように変形させてもよい。
【0035】
図9及び図10に示すように、ベース部材24は外周側に複数の開口を有するシート部材9との間に接着シート12を配置する空間が生じるような形状を有していてもよい。図9及び図10では、ベース部材24の下側に複数の開口を有するシート部材9が配置されており、ベース部材24の外周側と複数の開口を有するシート部材9との間に配置された接着シート12によりベース部材24の下側に複数の開口を有するシート部材9の一部が接着固定されている。図9は音波検査装置1の断面図、図10は音波検査装置1の分解図である。
【0036】
図9及び図10に示す音波検査装置1において、ベース部材23は接触部材10を格納する空間を形成する第1開口部26を有しており、押さえ部材25は音波探触子2を挿入する空間を形成する第2開口部27を有している。接触部材10を格納する空間は、音波探触子2の底面積よりも大きい第1開口部26により設けられている。第1開口部26には接触媒質8が格納されている。複数の開口を有するシート部材9は、上記したようにベース部材24の底部に接着シート12で接着されている。第1開口部26に格納された接触媒質8は、複数の開口を有するシート部材9に押し付けられて変形することによって、被検査体Xとの間で音波を伝搬することが可能とされている。この場合、音波探触子2は押さえ部材25に形成された第1開口部26内に格納されているのみで、保持具11に固定はされていない。
【0037】
音波検査装置1における音波探触子2は、図11に示すように、押さえ部材25に設けたプランジャ17で脱着可能に固定するようにしてもよい。押さえ部材25に設けたプランジャ17で音波探触子2を固定することによって、接触部材10及び保持具11を音波探触子2と一体化することによって、音波探触子2を備える音波検査装置1の被検査体X上における移動性を高めることができる。
【0038】
図12に示すように、音波検査装置1の保持具11は図7と同様に、ベース部材23の第1開口部26の内側下端部に設けられた突出部28を有し、突出部28上に配置された接着シート12により複数の開口を有するシート部材を接着固定するようにしてもよい。この場合、図7と同様に、複数の開口を有するシート部材9はその一部が最表面に位置するように、突出部28の厚さに応じて折り曲げられた形状を有していてもよい。複数の開口を有するシート部材9の折り曲げ形状は、当初からそのような形状を有していてもよいし、荷重が加えられた際にそのような形状となるものであってもよい。すなわち、複数の開口を有するシート部材9は無荷重時に最表面に位置していてもよいし、荷重時に最表面に位置するように変形させてもよい。
【0039】
図12に示す音波検査装置1において、接触媒質8と複数の開口を有するシート部材9とを備える接触部材10は、ベース部材24と押さえ部材25との間に格納されている。この際、複数の開口を有するシート部材9はベース部材24の凹凸に合わせて変形させることが好ましい。複数の開口を有するシート部材9が主に熱可塑性樹脂からなる場合には、加熱することによって、例えば周辺部分をベース部材24の最内部の厚み分に接着シート12の厚みを加えた寸法分だけ上側に変形させる。このように変形させた複数の開口を有するシート部材9を、ベース部材24に接着シート12を介して接着する。
【0040】
さらに、音波検査装置1の接触部材10における接触媒質9及び複数の開口を有するシート部材9は、図13に示すように、ベース部材24と押さえ部材25とを備える保持具11で、機械的に固定するようにしてもよい。図13に示す音波検査装置1は、接触媒質9及び複数の開口を有するシート部材9をベース部材24と押さえ部材25とで挟み込み、押さえ部材25側から装着したボルト29のような機械的固定具を用いて、接触媒質9及び複数の開口を有するシート部材9を機械的に固定している。
【0041】
音波探触子2と接触部材10は、図14に示すように、箱状押さえ部材30からなる保持具11の中に格納それている。箱状押さえ部材30の中に配置した複数の開口を有するシート部材9を、接着シート12もしくは接着剤を用いて箱状押さえ部材30に固定する。この際、複数の開口を有するシート部材9は、図12と同様に、その周辺部を箱状押さえ部材30に沿うように変形させてから格納することが好ましい。これによって、真横から保持具11を見た時に、保持具11である箱状押さえ部材3と複数の開口を有するシート部材9とが同一面に位置する、もしくは箱状押さえ部材3より複数の開口を有するシート部材9が下に凸であることが好ましい。
【0042】
第1の実施形態における音波探触子2、接触部材10、保持具11等と第2の実施形態における音波探触子2、接触部材10、保持具11等とは、それぞれ様々に組み合わせて適用することができる。例えば、図1に示す音波検査装置1に垂直型の音波探触子2を適用する等、各種の組み合わせを適用することができる。また、被検査体の表面が平坦でない場合、保持具11は被検査体に沿うように円弧状の断面を有する曲面を備えていてもよい。このような場合、エラストマーを含む接触媒質8、もしくは音波探触子2のシューや保護層や遅延材の形状や厚みを、被検査体に沿うように加工することが好ましい。
【0043】
図15ないし図21に複数の開口を有するシート部材9の例を示す。図15はメッシュシート部材の例であり、図16ないし図21はシートに複数の開口を形成したシート部材の例である。図15に示すメッシュシート部材おいて、32はメッシュ部(経糸又は緯糸)を示し、33は開口部(目開き部)である。シートに複数の開口を形成したシート部材34において、開口35の形状は、図16及び図17に示す丸穴、図18に示す正方形穴(多角形穴)、図19に示す六角形穴(多角形穴)、図20に示す長丸穴、図21に示す長角穴等、いずれの形状であってもよい。図16ないし図21において、符号36はシート部分を示し、符号37は開口35間の最短距離を示している。
【実施例0044】
以下、実施例及びその評価結果について述べる。
【0045】
(実施例1、比較例1)
表1及び表2に示すように、各種接触部材と保持具の組み合わせを用意し、周波数2.0MHzの垂直探触子もしくは斜角探触子で性能を評価した。表1及び表2に示す探触子のシュー材質とは、斜角探触子の場合のシュー、垂直探触子の場合は遅延材の材質である。表1及び表2の記載事項について説明する。保持具とは、エラストマーシートとメッシュシート部材を一体化して、探触子に装着させるためのもので、保持具の有無とは試験に保持具を使用したか否かを示す。保持具構造は図1から図10に示したものを用いた。「メッシュシート部材の固定の有無」とは、メッシュシート部材が保持具に接着剤、接着シート、もしくは治具等による物理的工程等で固定されているか否かを表す。メッシュシート部材は、その材質、メッシュの糸径、糸と糸との間の距離を表す目開きの異なるものを使い、実施形態の効果を確認した。エラストマーは、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(SBC、TPS)の硬さと、厚みの異なるものを用いた。
【0046】
まず、超音波検査装置の移動特性を評価した。最初に、せん断引張試験を実施して、自重のみでそれ以上に荷重をかけない状態で超音波検査装置(超音波探触子)を移動できるかを調べた。超音波探触子にロードセルを接続し、表面粗さRzが18μmのステンレス板の上に載せ、ステンレス板の上を低速移動させて、静摩擦係数を測定した。比較例として、保持具を用いない場合やメッシュシート部材を保持具に固定してない場合も測定を行った。その結果、保持具を用いない場合やメッシュシート部材を保持具に固定してない場合は、メッシュを保持具に固定した場合と比較して、静摩擦係数が大きかった。各種接触部材を格納したり、固定したりした保持具を用いた場合は、静摩擦係数が一様に小さくなり、移動させることが可能であることが分かった。図12図13図14に示した保持具の場合は、メッシュシート部材が被検査体の表面と接するように、保持具の形状に合わせてメッシュシート部材の形状を加工している。これらの場合は、図1図9に示した保持具のように、被検査体の表面に沿うようにメッシュシート部材が設置された場合と比較すると静止摩擦係数が大きかった。結果を表1及び表2に示す。
【0047】
次に、超音波探傷試験を実施した。長さ300mmの炭素鋼ブロックを用意した。超音波を入射する面の表面粗さRzは18μmとし、超音波が跳ね返ってくる面の表面粗さRzは1.6μmとした。電磁アクチュエータで、超音波探触子に18kPaの荷重を印加し、炭素鋼ブロックに押し付けた条件で、探傷試験を行った。その結果を摩擦係数の結果と共に表1に示す。メッシュシートの目開き率が大きいほど、反射波波形の振幅が大きく、良好である傾向が認められた。エラストマーのアスカーC硬度が大きいものを用いると、反射波波形の振幅は小さくなり、超音波探傷が難しくなる。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(実施例2、比較例2)
表3に示すように、各種接触部材と保持具の組み合わせを用意し、周波数3.5MHzの垂直探触子もしくは斜角探触子で性能を評価した。表3に示す探触子のシュー材質とは、斜角探触子の場合のシュー、垂直探触子の場合は遅延材の材質である。表3の記載事項について説明する。保持具とは、エラストマーシートと複数の開口を形成したシートとを一体化し、探触子に装着させるためのもので、保持具の有無とは試験に保持具を使用したか否かを示す。保持具構造は図1から図10に示したものを用いた。「シート部材の固定の有無」とは、ポリマーを含む複数の開口を有するシートが保持具に接着剤、接着シート、もしくは治具等による物理的工程等で固定されているか否かを表す。シート部材は、その材質、開口の形状、凸部幅ないしは開口間距離、凸部間距離もしくは開口径が異なるものを使用し、実施形態の効果を確認した。用いたエラストマーの材質、硬さ、厚みも表3に示す。
【0051】
まず、超音波検査装置の移動特性を評価した。最初に、せん断引張試験を実施して、自重のみでそれ以上に荷重をかけない状態で超音波検査装置(超音波探触子)を移動できるかを調べた。超音波探触子にロードセルを接続し、表面粗さRzが35μmのアルミニウム板の上に載せ、アルミニウム板の上を低速移動させて、静摩擦係数を測定した。比較例として、保持具を用いない場合やシート部材を保持具に固定してない場合も測定を行った。その結果、保持具を用いない場合やシート部材を保持具に固定してない場合は、シート部材を保持具に固定した場合と比較して、静摩擦係数が大きかった。各種接触部材を格納したり、固定したりした保持具を用いた場合は、静摩擦係数が一様に小さくなり、移動させることが可能であることが分かった。結果を表3に測定条件と一緒に示す。
【0052】
次に、超音波探傷試験を実施した。長さ300mmの炭素鋼ブロックを用意した。超音波を入射する面の表面粗さRzは18μmとし、超音波が跳ね返ってくる面の表面粗さRzは1.6μmとした。電磁アクチュエータで、超音波探触子に18kPaの荷重を印加し、炭素鋼ブロックに押し付けた条件で、探傷試験を行った。その結果を摩擦係数の結果と共に表3に示す。シート部材の凸部間距離もしくは開口径が大きいほど、反射波波形の振幅が大きく、良好である傾向が認められた。
【0053】
【表3】
【0054】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…音波検査装置、2…音波探触子、3…超音波送受信素子(音波受信素子)、4…シュー、5…探触子ケース、6…吸音材、7…コネクタ、8…接触媒質、9…複数の開口を有するシート部材、10…接触部材、11…保持具、12…接着シート又は接着剤、13…保持具、14…開口部、15…保持具、16…保持具、17…プランジャ、18…荷重印加装置、19…保持具、20…ダンパ、21…開口部、22…開口部、23…開口部、24…保持具(ベース部材)、25…保持具(押さえ部材)、26…第1開口部、27…第2開口部、28…保持具、29…固定具、30…箱状押さえ部材、31…遅延材、32…メッシュシートのメッシュ部、33…開口部(目開き部)、34…複数の開口を有するシート、35…開口、36…シート部分、37…凸部幅もしくは開口間距離。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図19
図20
図21