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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009659
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】計測機器の防護構造と設置方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20240116BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20240116BHJP
   E21D 21/02 20060101ALI20240116BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
E21D9/093 B
E21D9/00 Z
E21D9/093 F
E21D21/02
G01C15/00 104D
G01C15/00 104A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111346
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510009267
【氏名又は名称】東亞エルメス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】古賀 快尚
(72)【発明者】
【氏名】青木 智幸
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】堀留 知徳
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054GA15
2D054GA17
2D054GA62
2D054GA63
2D054GA64
2D054GA65
2D054GA97
(57)【要約】
【課題】計測機器を発破飛石等から効果的に防護することのできる、計測機器の防護構造と設置方法を提供する。
【解決手段】山岳トンネル10の掘進に伴って定量データの計測を行う計測機器85の防護構造100であり、一次吹付け21の一次吹付け面21aに対して建て込まれている鋼製支保工22と、一次吹付け面21aにおけるセンサー80の設置位置に設けられている箱抜き空間43と、鋼製支保工22と箱抜き空間43を巻き込むようにして施工されている二次吹付け23と、箱抜き空間43から地山の途中まで延設している設置孔90の内部に設置され、地中変位計もしくはロックボルト軸力計であるセンサー80と、箱抜き空間43を覆うように配設されている防護板42とを有し、防護板42が、少なくとも二次吹付け23に対して打ち込まれているアンカー52により取り付けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う計測機器を防護する、計測機器の防護構造であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工されている該一次吹付けの一次吹付け面に対して建て込まれている、H形鋼からなる鋼製支保工と、該一次吹付け面におけるセンサーの設置位置に設けられている、箱抜き空間と、
前記鋼製支保工と前記箱抜き空間を巻き込むようにして施工されている、二次吹付けと、
前記箱抜き空間から地山の途中まで延設している設置孔の内部に設置され、地中変位計もしくはロックボルト軸力計である、前記センサーと、
前記箱抜き空間を覆うように配設されている、防護板とを有し、
前記防護板が、少なくとも前記二次吹付けに対して打ち込まれているアンカーにより取り付けられていることを特徴とする、計測機器の防護構造。
【請求項2】
前記鋼製支保工に金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒のうち、前記センサーの設置位置に前記箱抜き空間が設けられている、支保工ユニットを有することを特徴とする、請求項1に記載の計測機器の防護構造。
【請求項3】
前記防護板が樹脂により形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測機器の防護構造。
【請求項4】
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、センサーを少なくとも備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工を建て込むとともに、前記センサーに含まれる地中変位計もしくはロックボルト軸力計の設置予定位置に箱抜き部材を設置する、A工程と、
前記鋼製支保工と前記箱抜き部材を巻き込むようにして二次吹付けを施工する、B工程と、
前記箱抜き部材を介して地山の途中まで削孔して設置孔を施工し、該設置孔の内部に前記センサーを設置し、前記箱抜き部材を取り外して箱抜き空間を形成し、該箱抜き空間を覆うように防護板を配設し、少なくとも前記二次吹付けに対してアンカーを打ち込んで該防護板を取り付ける、C工程とを有することを特徴とする、計測機器の設置方法。
【請求項5】
前記A工程では、前記鋼製支保工に対して金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒のうち、前記センサーの設置予定位置に前記箱抜き部材が取り付けられている、支保工ユニットを建て込むことを特徴とする、請求項4に記載の計測機器の設置方法。
【請求項6】
前記C工程では、前記アンカーが全ネジボルトであり、該アンカーを少なくとも前記二次吹付けに対して着脱自在に固定することを特徴とする、請求項4又は5に記載の計測機器の設置方法。
【請求項7】
前記C工程では、前記防護板が、前記山岳トンネルの周方向に縦長の平面視矩形の形状を有し、かつ、その周縁に沿って複数のアンカー孔が開設されている形態を使用し、該アンカー孔に前記アンカーを挿通して打ち込むことを特徴とする、請求項6に記載の計測機器の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測機器の防護構造と設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、地山状況や設計の内容に応じて、設計・施工に反映させることを主な目的としたB計測を実施する。このB計測は、使用している支保部材や施工方法の妥当性を判断するとともに、それ以奥のトンネルの設計・施工の合理的かつ経済的な実施を目的としている。
このB計測には、地中変位計測や鋼製支保工応力計測、吹付けコンクリート応力計測、ロックボルト軸力計測等が含まれ、いずれも特殊なセンサーを設置して定量データ(計測データ)を取得し、現在の地山の性状を評価したり、さらには掘進に伴う将来的な地山の性状を評価している。
例えば、特許文献1には、トンネルの沈下に加えて水平内空変位を精度よく特定することにより、切羽前方の地山状況の高精度な予測を可能とする、地山状況予測方法が提案されている。
具体的には、少なくとも半円形部を含む断面形状のトンネルのトンネルアーチ部において、トンネルの軸方向に間隔を置いて複数の傾斜計を設置し、各傾斜計の計測データを取得し、隣接する傾斜計のそれぞれの計測データから傾斜角の変化量を算定し、算定結果に基づいて切羽前方の地山状況を予測する方法において、水平方向のスプリングラインと鉛直方向のセンターラインの交点を中心として、スプリングラインから角度55度乃至65度の範囲に傾斜計を設置するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-61080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、山岳トンネルの施工において、センサーにより計測された計測データを回収する方法としては、センサーから有線ケーブルを介してデータロガーやPC(パーソナルコンピュータ)にて回収する有線回収方法が主流である。
しかしながら、トンネル内における有線ケーブルの設置や発破飛石等から防護するための養生、電源の確保等に手間がかかること、切羽の近傍における配線作業には危険が伴うことが課題として存在する。
また、昨今は、上記するデータロガーから通信ケーブル(最大通信距離が例えば1.2km)で坑外の詰所などにあるPCにデータを常時転送し、PCからLANを通じて作業所事務所から常にデータを参照できるシステムを組むことが標準的になっており、坑内に直接LANケーブルを引いたり、WiFi(登録商標)アクセスポイントを設ける現場も存在することから、通信ケーブルの維持管理(損傷対策)が課題となっている。
【0005】
上記する有線によるデータ回収方法では、設置施工時に計測場所の近傍に作業員や管理者がアクセスする必要がある。トンネル内においては様々な車輌や工事関係者が往来することから、施工の妨げにならない時間帯や計測場所を選定する必要がある。
すなわち、切羽の近傍を計測場所とした際に切羽における肌落ち等の懸念があることから、切羽面からある程度離れた場所を計測場所とすることが安全上は望ましい。
一方で、この切羽面からある程度離れた場所での地山計測に関しては、当該地山に近接した場所での計測がその断面位置および前方の地山の性状評価に好適であることに鑑みると、性状評価精度の低下に繋がり得る。
【0006】
本発明は、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることができ、計測機器を発破飛石等から効果的に防護することのできる、計測機器の防護構造と設置方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による計測機器の防護構造の一態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う計測機器を防護する、計測機器の防護構造であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工されている該一次吹付けの一次吹付け面に対して建て込まれている、H形鋼からなる鋼製支保工と、該一次吹付け面におけるセンサーの設置位置に設けられている、箱抜き空間と、
前記鋼製支保工と前記箱抜き空間を巻き込むようにして施工されている、二次吹付けと、
前記箱抜き空間から地山の途中まで延設している設置孔の内部に設置され、地中変位計もしくはロックボルト軸力計である、前記センサーと、
前記箱抜き空間を覆うように配設されている、防護板とを有し、
前記防護板が、少なくとも前記二次吹付けに対して打ち込まれているアンカーにより取り付けられていることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、一次吹付け面におけるセンサーの設置位置に設けられている、箱抜き空間から地山の途中まで延設している設置孔の内部に、地中変位計もしくはロックボルト軸力計であるセンサーが設置され、箱抜き空間を覆うように配設されている防護板が、少なくとも二次吹付けに対して打ち込まれているアンカーにより取り付けられていることにより、アンカーを介して防護板を二次吹付けに対して確実かつ安定的に取り付けることができる。
その上で、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることができ、計測機器を発破飛石等から効果的に防護することができる。
例えば、防護板に予め取り付けられているアンカーを埋設するようにして二次吹付けのコンクリートが充填される場合、アンカー周辺へのコンクリートの充填性(回り込み性)によってはアンカーをコンクリート内に確実に埋設することができない。これに対して、充填後の二次吹付けに対してアンカーが打ち込まれている本態様によれば、コンクリートの充填性に影響されることなく、アンカーによる二次吹付けに対する防護板の確実な固定を実現できる。
ここで、「少なくとも二次吹付けに対して打ち込まれている」とは、アンカーが二次吹付けにのみ打ち込まれている形態の他に、二次吹付けを貫通してその背面の一次吹付けまでアンカーが到達している形態を含んでいる。
【0009】
また、「計測機器」には、地中変位計やロックボルト軸力計といったセンサーと、センサーにより取得された計測データを送信する通信器とを備える形態や、センサーと、センサーにより取得された計測データを送信する通信器、及び、計測データを蓄積するデータロガーが一体とされたユニット体と、を備える形態等が含まれる。
【0010】
また、通信器は例えば、LPWA無線通信モジュールと、計測データを坑口側にある他の通信器に送信する通信アンテナを備えている。通信器がLPWA無線通信モジュールを備え、坑口側に配設されている他の通信器に対して計測データ(定量データ)を送信することにより、山岳トンネルにおける長距離無線通信を低消費電力で実現することができる。このことにより、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることが可能になる。
ここで、LPWA(Low Power Wide Area)は、広域データ通信と低消費電力を可能にした無線通信方式(例えば、920MHz帯のISM(Industrial Scientific and Medical Band)を使用した通信方式)のことである。尚、本明細書において「長距離通信」とは、例えば100m以上の距離において計測データを無線通信することを意味する。
【0011】
坑口側に配設されている他の通信器で受信した計測データは、例えばネットワークを介して、作業所事務所のPCやサーバ装置、施工関係者(施工管理者、施工会社の本支店担当者、施工業者等)の備えるユーザ端末(スマートフォンやタブレット、パーソナルコンピュータ等)に送信される。LPWA無線通信を適用することにより、トンネルに設置される坑口側の他の通信器の数を低減することができ、山岳トンネルの長さによっては、例えば一台の他の通信器のみで、センサーにて計測された計測データをネットワークを介してサーバ装置等に送信することが可能になる。
【0012】
サーバ装置に送信された計測データは、サーバ装置を介して複数の施工関係者の備えるユーザ端末に送信されることにより、複数のユーザ端末が同時かつリアルタイムに計測データを共有することができる。
また、サーバ装置とユーザ端末の少なくとも一方が、計測データに基づいて地山性状、及び/又は、地山性状に応じた地山評価(地山の硬軟の程度、地山の安定性/不安定性、支保パターンの適否等)を判定することにより、例えば複数のユーザ端末が現状の地山性状や、地山の硬軟の程度等に応じた当初計画の支保パターンの適否等を速やかに特定することができる。
そして、現状の地山性状が当初計画段階における地山性状よりも不良(例えば軟らかい)の場合は速やかに支保パターンの見直しを行うことが可能になり、地山性状の急変に対しても高い施工安全性を保証する施工管理を実現することができる。
【0013】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様は、
前記鋼製支保工に金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒のうち、前記センサーの設置位置に前記箱抜き空間が設けられている、支保工ユニットを有することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、鋼製支保工と金網や支持棒が一体とされ、金網もしくは支持棒のうち、センサーの設置位置に箱抜き空間が設けられている支保工ユニットを有することにより、効率的な防護構造の形成を実現できる。
【0015】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様は、
前記防護板が樹脂により形成されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、防護板が樹脂により形成されていることから、計測機器に含まれる通信器から坑口側にある他の通信器に対して計測データを送信する際の送信性の阻害の恐れが無くなる。
例えば、防護板が金属製である場合は、送信性の阻害が危惧される。ここで、「通信機」とは、無線通信機のことである。
さらに、防護板が、例えば厚さが6mmや10mm程度のポリカーボネート板である場合は、本発明者等によって行われた、大ハンマで強打する室内試験の際にポリカーボネート板が割れないことが確認されており、上記する通信阻害防止性に加えて、耐衝撃性にも優れた防護板となる。
【0017】
また、本発明による計測機器の設置方法の一態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、センサーを少なくとも備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工を建て込むとともに、前記センサーに含まれる地中変位計もしくはロックボルト軸力計の設置予定位置に箱抜き部材を設置する、A工程と、
前記鋼製支保工と前記箱抜き部材を巻き込むようにして二次吹付けを施工する、B工程と、
前記箱抜き部材を介して地山の途中まで削孔して設置孔を施工し、該設置孔の内部に前記センサーを設置し、前記箱抜き部材を取り外して箱抜き空間を形成し、該箱抜き空間を覆うように防護板を配設し、少なくとも前記二次吹付けに対してアンカーを打ち込んで該防護板を取り付ける、C工程とを有することを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、一次吹付けの一次吹付け面に対して、鋼製支保工を建て込むとともに、地中変位計やロックボルト軸力計といったセンサーの設置予定位置に箱抜き部材を設置し、鋼製支保工と箱抜き部材を巻き込むようにして二次吹付けを施工し、箱抜き部材を介して地山の途中まで施工した設置孔の内部にセンサーを設置し、箱抜き部材を取り外して形成した箱抜き空間を覆うように防護板を配設し、少なくとも二次吹付けに対してアンカーを打ち込んで防護板を取り付けることにより、計測機器が防護板にて効果的に防護された防護構造を山岳トンネル内に効率的に施工することができる。さらに、アンカーを介して、防護板を二次吹付けに対して確実かつ安定的に取り付けることができる。
【0019】
また、本発明による計測機器の設置方法の他の態様において、
前記A工程では、前記鋼製支保工に対して金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒のうち、前記センサーの設置予定位置に前記箱抜き部材が取り付けられている、支保工ユニットを建て込むことを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、鋼製支保工に取り付けられている金網もしくは支持棒のうち、センサーの設置予定位置に箱抜き部材が取り付けられている支保工ユニットを建て込むことにより、効率的な計測機器の設置方法を実現できる。
【0021】
また、本発明による計測機器の設置方法の他の態様において、
前記C工程では、前記アンカーが全ネジボルトであり、該アンカーを少なくとも前記二次吹付けに対して着脱自在に固定することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、全ネジボルトであるアンカーを、少なくとも二次吹付けに対して着脱自在に固定することにより、二次吹付けへのアンカーの打ち込みを可能にしながら、全ネジボルトの頭部に螺合されるナットにより防護板を固定することができる。
ここで、上記する全ネジボルトは、その先端を尖らす加工が施されて、打ち込みアンカーとして使用可能な形態が好ましい。
また、全ネジボルトの頭部にダブルナットを設けておくことにより、打ち込みの際に防護板を固定するナットの潰れを防止できることから好ましい。
【0023】
また、本発明による計測機器の設置方法の他の態様において、
前記C工程では、前記防護板が、前記山岳トンネルの周方向に縦長の平面視矩形の形状を有し、かつ、その周縁に沿って複数のアンカー孔が開設されている形態を使用し、該アンカー孔に前記アンカーを挿通して打ち込むことを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、防護板の周縁に沿って開設されている複数のアンカー孔にそれぞれアンカーを挿通して打ち込むことにより、アンカーの打ち込みによる防護板の破損を防止しながら、複数のアンカーを介して防護板を確実かつ安定的に二次吹付けに固定することができる。
ここで、アンカー孔にアンカーを挿通して打ち込んだ後、アンカーの頭部にナットを螺合することにより、ナットがアンカー孔の周囲に係合して防護板の下面が支持される。
また、ナットを緩めて防護板を取り外すことにより、箱抜き空間にある通信器やデータロガーの盛り替えを容易に行うことができる。箱抜き空間から通信器やデータロガーが取り外された後、箱抜き空間を塞ぐようにして型枠を設置し、箱抜き空間にモルタル等を充填して後仕舞い処理が行われるのがよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の計測機器の防護構造と設置方法によれば、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることができ、少なくとも二次吹付けに対して確実かつ安定的に取り付けられている防護板により、計測機器を発破飛石等から効果的に防護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を、地山計測システムの一例とともに示す平面図である。
図2図1のII部の拡大図であって、実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を示す縦断面図であり、かつ、図4Dに続いて実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図3図2のIII方向矢視図であって、実施形態に係る計測機器の防護構造を山岳トンネルの坑内側から見た平面図である。
図4A】実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図4B図4Aに続いて、実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図4C図4Bに続いて、実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図4D図4Cに続いて、実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図5】地山計測システムの一例の全体ブロック図である。
図6】箱抜き空間43からユニット体が回収された後の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係る計測機器の防護構造と設置方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[実施形態に係る計測機器の防護構造と設置方法]
図1乃至図6を参照して、実施形態に係る計測機器の防護構造及び設置方法の一例と、地山計測システムの一例について説明する。
ここで、図1は、実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を、地山計測システムの一例とともに示す平面図であり、図2は、図1のII部の拡大図であって、実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を示す縦断面図であり、図3は、図2のIII方向矢視図であって、実施形態に係る計測機器の防護構造を山岳トンネルの坑内側から見た平面図である。また、図4A乃至図4D図2は順に、実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。さらに、図5は、地山計測システムの一例の全体ブロック図である。
【0029】
図示する地山計測システム200が適用されるトンネルは、山岳トンネルである。山岳トンネル10は、切羽11に対してドリルジャンボ等の掘削機にて装薬孔を削孔し、爆薬を装薬して爆破することにより造成される。尚、山岳トンネルは、自由断面掘削機やブレーカを使用した機械掘削(図示せず)により造成される場合もある。
【0030】
発破等によりトンネルを所定延長造成した後、図1に示す二点鎖線Vで囲まれた部分の地山が新たに前方に掘進され、その坑壁13に対して新たに鋼製支保工22(鋼製アーチ支保工)と吹付けコンクリートが施工される。坑壁13の表面に例えば5cm乃至15cm程度の厚みのコンクリートによる一次吹付け21を行い、切羽11には鏡吹付け21Aを行った後、H形鋼等による鋼製支保工22を掘進方向において所定間隔にて設置することにより、坑壁防護を図る。その後、鋼製支保工22を巻き込むようにして、例えば5cm乃至20cm程度の厚みのコンクリートによる二次吹付け23(吹付けコンクリートの一例)を行う。
【0031】
一次吹付け21や二次吹付け23の施工は、坑内にコンクリートミキサー車を運び込み、吹付け機にてコンクリートを吹付けることにより行われる。二次吹付け23の施工後、必要に応じて不図示のロックボルトが施工される。このロックボルトは、例えば2m乃至6m程度の棒状鋼材からなり、地山Gの坑内側へ向かう変形に起因する引張力をボルトに負担させ、坑壁13の変形を抑制するものである。
【0032】
地山計測システム200は、山岳トンネル10の掘進に伴って定量データの計測を行うシステムである。地山計測システム200は、山岳トンネル10の坑壁13もしくは坑壁13を支保する鋼製支保工22に設置されている、少なくとも一つのセンサー80と、センサー80により取得された計測データを送信する、第一通信器32(図5参照、通信器の一例)と、第一通信器32よりも坑口12側に配設されて、第一通信器32から無線送信された計測データを受信する、第二通信器61とを有する。
【0033】
図5に示すように、データロガー31と第一通信器32とが一体とされることにより、ユニット体30が形成される。データロガー31は、印加電圧もしくは印加電流の供給、センサー80からの信号のA/D変換、A/D変換後のデジタル値の記憶を実行する。データロガー31では、センサー80による信号がA/D変換を経てデジタル値に変換され、デジタル値に変換されたデータが蓄積され、蓄積されたデータは第一通信器32の備える通信アンテナ33を介して送信されるようになっている。
【0034】
第一通信器32は、LoRa Private規格を有するLPWA(無線通信モジュール)の子機である。一方、通信親機60(基地局)は、通信アンテナ63を備える第二通信器61と、タブレットPC62を内蔵しており、タブレットPC62も地山計測システム200の構成要素となる。タブレットPC62は、WiFiや有線にてLANに繋がっており、タブレットPC62の記憶装置(メモリ)に蓄積されたデータファイルがネットワーク上でファイル共有されることにより、作業所事務所などからリアルタイムにデータを取得することができる。
【0035】
山岳トンネル10の坑内には、重機やセントル台車、鋼製防音扉などの様々な(主に金属製の)障害物があり、電波が減衰する環境下にあるものの、LPWA無線方式による計測データの送受信は、原理上は1km乃至2km程度の長距離通信が可能である。そこで、地山計測システム200では、例えば切羽11の近傍のセンサー80からの距離が数100m以上離れた位置に第二通信器61を設置し、以降、移設することなく、外部のネットワークに接続される最も坑口12側にある第二通信器61に対して計測データを送信するシステムとして構築される。
【0036】
地山計測システム200によれば、センサー80により取得された計測データを、第一通信器32から坑口12側に配設されている第二通信器61に送信することにより、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることを解消できる。
【0037】
図1に示す計測機器の防護構造100は、センサー80が地中変位計である場合の形態である。ここで、センサー80には、地中変位計の他に、ロックボルト軸力計が適用されてもよい。
【0038】
地中変位計80は、二次吹付け23の施工後に、一次吹付け21から地山Gに亘って設置孔90を削孔してその一部が設置され、二次吹付け23の内部に設けられている箱抜き空間43に地中変位計80の他部が設置され、当該他部とともにその近傍に設置されているユニット体30が箱抜き空間43に収容される。
【0039】
ユニット体30は地中変位計80の近傍に配設され、地中変位計80とユニット体30のデータロガー31がデータケーブル39を介して配線されることにより、計測機器85が形成される。
【0040】
地中変位計80とユニット体30を収容する箱抜き空間43の坑内側の開口は、ポリカーボネート板等の防護板42により被覆されている。
【0041】
図2図3に示すように、防護板42の平面視形状は矩形であり、防護板42の周縁に沿って複数(図示例は8つ)のアンカー孔42aが開設されており、各アンカー孔42aを介して、アンカー52が箱抜き空間43の周囲にある二次吹付け23に打ち込まれている。すなわち、防護板42は、8つのアンカー52により、二次吹付け23に固定されている。尚、アンカー52は、二次吹付け23を貫通して一次吹付け21まで到達していてもよい。ここで、「平面視矩形」には、平面視長方形や正方形の他にも、図示例のように、長方形や正方形の隅角部が湾曲状を呈している形状、隅角部が面取りされている形状も含まれる。
【0042】
アンカー52は全ネジボルトにより形成され、全ネジボルトの一部は防護板42から坑内側に突出している。全ネジボルト52における坑内側へ突出している頭部には座金53を介してナット54が締め付けられている。各全ネジボルト52の頭部に締め付けられているナット54によって防護板42が支持されることで、防護板42が二次吹付け23の坑内側面23aに固定される。
【0043】
防護板42が、複数の全ネジボルト52に螺合されているナット54を介して二次吹付け23に固定されることから、防護板42は二次吹付け23に対して着脱自在に固定される。
【0044】
このように、計測機器85の一部であるユニット体30と地中変位計80の一部は、箱抜き空間43に収容されることで二次吹付け23との間に離間を置いて配設される。そして、箱抜き空間43の坑内側の開口を防護板42が閉塞し、二次吹付け23に対して打ち込まれている複数の全ネジボルト52とナット54によって防護板42が二次吹付け23に対して着脱自在に固定されることにより、計測機器の防護構造100が形成される。
【0045】
防護構造100によれば、ユニット体30の盛替えの際は、複数の全ネジボルト52からナット54を取り外し、防護板42を取り外すことにより、箱抜き空間43からユニット体30を坑内側へ容易に取り出して盛替えに供することができる。
【0046】
また、防護構造100では、箱抜き空間43を覆うように配設されている防護板42が、少なくとも二次吹付け23に対して打ち込まれているアンカー52によって二次吹付け23に固定されていることから、アンカー52を介して防護板42を二次吹付け23に対して確実かつ安定的に取り付けることができる。その上で、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることができ、計測機器85を発破飛石等から効果的に防護することができる。
【0047】
例えば、防護板に予め取り付けられているアンカーを埋設するようにして二次吹付けのコンクリートが充填される場合、アンカー周辺へのコンクリートの充填性(回り込み性)によってはアンカーをコンクリート内に確実に埋設することができない。これに対して、充填後の二次吹付け23に対してアンカー52が打ち込まれている図示例の防護構造100によれば、コンクリートの充填性に影響されることなく、アンカー52による二次吹付け23に対する防護板42の確実な固定を実現できる。
【0048】
図示を省略するが、山岳トンネル10の坑壁13や地山Gの内部に対しては、複数種のセンサーが設置され、このセンサーには、図示例の地中変位計の他に、ロックボルト軸力計、吹付けコンクリート応力計、鋼製支保工応力計、コンクリートひずみ計、及び温度計などが含まれる。吹付けコンクリート応力計と鋼製支保工応力計には、例えば4chの一台のデータロガーが繋がれる。また、ロックボルト軸力計と地中変位計には、それぞれに6chの一台のデータロガーが繋がれる。さらに、多チャンネルのデータロガーを製作し、使用することもできる。このように、センサーの種類に応じてチャンネル数が相違しており、各チャンネル数に対応するように、データロガーを含むユニット体が設置される。
【0049】
次に、図4A乃至図4D図2を順に参照しながら、実施形態に係る計測機器の設置方法の一例について説明する。
【0050】
図1及び図2に示す計測機器の設置構成(計測機器の防護構造100)の形成に当たり、まず、図4Aに示すように、鋼製支保工22の上フランジ22aに対して金網50を不図示の番線等により固定し、金網50に対して箱抜き部材91を番線95によって固定することにより、支保工ユニット70を形成する。この箱抜き部材91は、支保工ユニット70が建て込まれた際に、金網50におけるセンサー80の設置予定位置に固定される。
【0051】
箱抜き部材91は、例えばチップウレタン(硬質ウレタンの一例)や発泡スチロール等により一体に成形されるフォーム材である。ここで、箱抜き部材91が複数の板状体により形成され、複数の板状体が不図示のバンドにより一体とされていてもよい。
【0052】
箱抜き部材91の内部には、塩ビパイプ(VU管)等により形成されるガイド管92が埋設されている。このガイド管92は、支保工ユニット70が建て込まれた際に、設置孔90が削孔されるべき削孔予定位置に位置合わせされている。
【0053】
形成された支保工ユニット70を、金網50の背面が一次吹付け21の一次吹付け面21aに当接するようにX1方向に建て込んでいくことにより、図4Bに示す二次吹付け施工前の状態を形成する。
【0054】
既に建て込まれている鋼製支保工22からトンネルの前方へ金網50が若干突出しており、この金網50の突出部に対して新たに設置された金網50を結束線51で結束することにより、新たに設置された金網50を堅固に固定する。
【0055】
ここで、支保工ユニット70を建て込むことの他に、鋼製支保工22を建て込んだ後に、一次吹付け21の一次吹付け面21aにおける地中変位計80の設置予定位置に箱抜き部材91を設置してもよい(以上、A工程)。
【0056】
次に、図4Cに示すように、支保工ユニット70を形成する鋼製支保工22と箱抜き部材91を巻き込むようにして、二次吹付け23を施工する(以上、B工程)。
【0057】
次に、同図4Cに示すように、不図示の削孔機を、ガイド管92を介して削孔予定位置に案内しながら設置孔90を施工する。尚、削孔の位置決めができたら、ガイド管92と箱抜き部材91を取り外す。
【0058】
次に、図4Dに示すように、残りの箱抜き部材91を取り外して設置孔90に連通する箱抜き空間43を形成し、設置孔90と箱抜き空間43に対して、地中変位計80とユニット体30を設置する。
【0059】
ここで、図示を省略するが、金網50に鉄板を固定しておき、データロガー31の背面に固定しておいた磁石を介して鉄板にデータロガー31を固定してもよい。また、地中変位計80とデータロガー31との結線は、防水コネクタを介して実行されるのがよい。
【0060】
次に、図2に示すように、箱抜き空間43の坑内側の開口を防護板42にて閉塞し、防護板42に開設されている複数のアンカー孔42aを介してアンカー52を二次吹付け23に対して打ち込む。ここで、全ネジボルト52の頭部にダブルナットを設けておくことにより、全ネジボルト52の打ち込みの際に防護板42を固定するナットの潰れを防止できることから好ましい。
【0061】
防護板42の各アンカー孔42aから坑内側に突出している各アンカー52の頭部にナット54を螺合して締め付けることにより、防護板42が二次吹付け23に対して固定され、計測機器の防護構造100が形成される(以上、C工程)。
【0062】
上記するC工程と並行して、もしくはC工程の前後に、第一通信器32よりも坑口12側に、第二通信器61を配設する。
【0063】
図示する計測機器の設置方法では、箱抜き部材91において、設置孔90を施工する削孔機を削孔予定位置に案内し、かつ、地中変位計80を設置孔90に案内するためのガイド管92が設けられていることにより、設置孔90を所望する削孔予定位置に施工することができ、さらには、設置孔90に対して地中変位計80をスムーズに設置することができる。
【0064】
また、一次吹付け21の一次吹付け面21aに対して、鋼製支保工22と金網50(もしくは支持棒)と箱抜き部材91が一体とされている、支保工ユニット70を建て込んだ後、支保工ユニット70を巻き込むようにして二次吹付け23を施工することにより、計測機器85が効果的に防護された防護構造100を効率的に施工することができる。
【0065】
さらに、箱抜き空間43の坑内側の開口を防護板42にて閉塞し、防護板42に開設されている複数のアンカー孔42aを介してアンカー52を二次吹付け23に対して打ち込んで防護板42を二次吹付け23に固定することにより、アンカー52の打ち込みによる防護板42の破損を防止しながら、アンカー52による二次吹付け23に対する防護板42の確実な固定を実現できる。
【0066】
所定の計測が終了し、二次吹付け23の内側に不図示の二次覆工を施工するに当たり、ユニット体30を再利用に供するべく、防護板42を取り外して箱抜き空間43からユニット体30が回収される。ユニット体30が回収された箱抜き空間43には、図6に示すようにモルタル45が充填されることにより閉塞され、防護板42が再度取り付けられることにより後仕舞い処理される。
【0067】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0068】
10:山岳トンネル
11:切羽
12:坑口
13:坑壁
21:一次吹付け
21a:一次吹付け面
22:鋼製支保工(H形鋼)
22a:上フランジ
23:二次吹付け(吹付けコンクリート)
23a:坑内側面
30:ユニット体
31:データロガー
32:第一通信器(LPWAの子機、通信器)
33:通信アンテナ
39:データケーブル
41:弾性防護材(硬質スポンジ)
42:防護板
42a:アンカー孔
43:箱抜き空間
44:固定ボルト
45:モルタル
50:金網
51:結束線
52:アンカー(全ネジボルト)
53:座金
54:ナット
60:通信親機
61:第二通信器(LPWAの親機)
62:タブレットPC
63:通信アンテナ
70:支保工ユニット
80:地中変位計(センサー)
85:計測機器
90:設置孔
91:箱抜き部材
92:ガイド管
95:番線
100:計測機器の防護構造(防護構造)
200:地山計測システム
G:地山
G1:掘り込み
B:ボーリング孔
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6