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特開2024-966バランスばねスタッドホルダーデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000966
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】バランスばねスタッドホルダーデバイス
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/34 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
G04B17/34
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023079818
(22)【出願日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】22180223.4
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・メルテナ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック・エルフェ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バランスばねスタッドの正確なポジショニングを可能にするようなバランスばねスタッドホルダーを提供する。
【解決手段】バランスばねスタッドホルダー2には、バランスブリッジの突出部の側壁を押すように意図されている3つの接触領域18、20、22を形成するクランプ部12がある。第1の接触領域18は、クランプ部12の第1の部分24を介して第2の接触領域20に接続され、第2の部分26を介して第2の接触領域20に接続される。第1の部分24は、第1の接触領域18の第1の中央点に対して、第2の接触領域20の第2の中央点30において第1の剛性を有し、第1の剛性は、第2の部分26が第1の接触領域18の第1の中央点に対して第3の接触領域22の第3の中央点32において有する第2の剛性の3倍よりも大きい。第1の剛性は、好ましいことに第2の剛性の7倍であり、好ましくは第2の剛性の12倍である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器の機械式ムーブメントのバランスブリッジに取り付けられるように意図されたバランスばねスタッドホルダー(2、42、52、72)であって、
前記バランスばねスタッドホルダーには、バランスばねスタッドを取り付けるための取り付け部(10)と、前記バランスブリッジの突出部の側壁、又は前記バランスブリッジに取り付けられた部品の側壁をクランプすることができるように設計されているクランプ部(12、12A、12B、12C)があり、
前記クランプ部は、3つの接触領域(18、20、22)を形成し、
前記3つの接触領域(18、20、22)は、前記バランスばねスタッドホルダーが前記バランスブリッジに取り付けられた後に、前記突出部又は部品の側壁を押すように意図されており、
前記3つの接触領域のうちの第1の接触領域(18)は、前記3つの接触領域のうちの第2の接触領域(20)に接続され、
前記第2の接触領域(20)は、前記クランプ部の第1の部分(24、24A、24C)を介して前記第1の接触領域の隣にあり、
前記第1の部分(24、24A、24C)には、前記第1及び第2の接触領域の間に、第1の離間領域(25、25A)があり、
前記第1の接触領域(18)は、前記3つの接触領域のうちの第3の接触領域(22)にも接続され、
前記第3の接触領域(22)は、前記第1の接触領域と前記第3の接触領域の間に第2の離間領域(27、27A、27B)がある前記クランプ部の第2の部分(26、26A、26B、26C)を介して、前記第1の接触領域の隣にもあり、
前記第1及び第2の離間領域は、前記バランスばねスタッドホルダーが前記バランスブリッジに取り付けられた後に、前記突出部又は部品の側壁から後退しているように設けられ、
前記クランプ部全体が延在している一般平面において、前記第1の部分は、前記第1の接触領域(18)の第1の中央点(28)に対して、前記第2の接触領域(20)の第2の中央点(30)において第1の剛性を有し、
前記第1の剛性は、前記第2の部分が前記第1の接触領域の前記第1の中央点に対して前記第3の接触領域(22)の第3の中央点(32)において有する第2の剛性の3倍よりも大きい
ことを特徴とするバランスばねスタッドホルダー。
【請求項2】
前記第1の剛性は、前記第2の剛性の7倍よりも大きい
ことを特徴とする請求項1記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項3】
前記第1の剛性は、前記第2の剛性の12倍よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項4】
前記一般平面において、前記第1の部分は剛体であり、前記第2の部分は弾性体である
ことを特徴とする請求項1に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項5】
前記第3の接触領域の前記第3の中央点(32)は、前記クランプ部全体が延在している一般平面において、前記第1及び第2の接触領域に接する幾何学的円(17)の中心(15)を中心として前記第1及び第2の中央点の間に形成される第1の角度(α)を二等分する直線(34)上に実質的にあり、又は前記第1及び第2の接触領域が前記幾何学的円と同じ半径及び同じ中心を有する円の弧を形成するように加工される場合に、前記第1及び第2の接触領域内に部分的にある
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項6】
前記第1の角度(α)は、実質的に90°であり、
前記第3の中央点(32)は、前記幾何学的円の中心(15)を中心として前記第1の中央点との間で形成される第2の角度(β)が実質的に135°である
ことを特徴とする請求項5に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項7】
前記第1の角度と前記第2の角度はそれぞれ、120°である
ことを特徴とする請求項5に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項8】
前記クランプ部(12B)は、前記バランスばねスタッドホルダーが前記バランスブリッジに取り付けられた後に、前記突出部又は部品の前記側壁を押すように意図されている第4の接触領域(56)を形成し、
前記第4の接触領域は、前記第2の接触領域(20)の隣にあり、前記クランプ部の第3の部分(54)を介して前記第2の接触領域に接続され、
前記第3の部分(54)には、前記第2及び第4の接触領域の間に第3の離間領域(55)があり、
前記第3の部分は、前記第2の接触領域の前記第2の中央点(30)に対して、前記第4の接触領域の第4の中央点(58)において、前記第1の部分の前記第1の剛性の3分の1未満である第3の剛性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項9】
前記第1の剛性は、前記第2の剛性の7倍よりも大きく、前記第3の剛性の7倍よりも大きい
ことを特徴とする請求項8に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項10】
前記第3及び第4の接触領域(22、56)は、前記クランプ部全体が延在している一般平面において、前記第1及び第2の接触領域に接する幾何学的円(17)の中心(15)を中心として前記第1の接点の第1の中央点及び前記第2の接点の第2の中央点の間に形成される第1の角度(α)を二等分する、又は前記第1及び第2の接触領域が前記幾何学的円と同じ半径と同じ中心を有する円の弧を形成するように加工される場合にはその円と部分的に一致する、直線(34)に対して軸対称性を有する
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項11】
前記クランプ部の前記第2の部分(26B)と前記第3の部分(54)どうしは、前記直線(34)に対して軸対称性を有する
ことを特徴とする請求項10に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項12】
前記第1及び第2の接触領域(18、20)は、平坦である
ことを特徴とする請求項1に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【請求項13】
前記第1及び第2の接触領域(18、20)は、平坦である
ことを特徴とする請求項5に記載のバランスばねスタッドホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器用ムーブメントに搭載される、正確にはバランスブリッジ上に配置される、バランスばねスタッドホルダーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
フランス特許文献FR2368070によって、バランスばねスタッドホルダーデバイスが知られている。このバランスばねスタッドホルダーデバイスは、バランスブリッジにある肩部(突出する円筒状部分)に、又はバランスのために設けられた耐衝撃性ベアリングの支持体に、摩擦によって取り付けられる。このバランスばねスタッドホルダーは、特定の弾性を有する2つの対称的なアームがある環状の割れたリングを備え、これによって、バランスブリッジ上へのバランスばねスタッドホルダーの摩擦取り付けを可能にする。割れたリングの内側の円は、バランスばねスタッドホルダーを受けるように意図された突出体又は耐衝撃性ベアリングの支持体の環状部分の直径よりもわずかに小さい直径を有するように設計されており、これによって、2つの弾性アームが、組み付け中に少し離れて、特定の量のクランプを与え、所要の摩擦を得る。したがって、内側の円は、取り付けられる部品よりも小さい直径を有し、このために、組み付け中にバランスばねスタッドホルダーは、前記円の中心と、弾性アームの間の隙間の中央部を通過する軸に沿って、前記中央部からこの隙間とは反対の方向への小さな運動を行う。一般的には、この文献に示されているように、バランスばねスタッドが取り付けられるバランスばねスタッドホルダーの部分は、割れたリングの隙間とは反対側の前記軸上に位置する。したがって、バランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジに取り付けられた後に、バランスばねスタッドの軸と割れたリングの内側円の中心の間の距離が変わる。実際に、この距離は大きくなり、このことは、バランスばねをバランスブリッジに取り付ける点の精度に問題を発生させてしまう。なお、この問題は、割れたリングの中心に対してバランスばねスタッドが取り付けられる部品の角位置がいずれであっても発生する。なぜなら、あらゆる場合において、バランスばねが取り付けられるこの部品は、バランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジに摩擦取り付けされているときに、隙間と直径方向に反対側の割れたリングの部分が、この隙間の中心を通過する前記軸に沿って、並進運動を行うからである。
【0003】
スイス特許文献CH604226は、バランスブリッジの1つの部分にバヨネット取り付けされ、この部分にバランスばねスタッドホルダーを形成するリングの摩擦によって所定の角位置に保持されるように構成しているバランスばねスタッドホルダーを開示している。特に、関心事のバランスブリッジの部分は、バランスブリッジのプレートに形成された穴内に収容されこのプレートの上方に突出する部品である。この部品は、バランスのベアリングを受けるように構成している。リングには、バランスばねスタッドホルダーを回転させてバヨネットシステムを閉じた後に、このリングによって前記部品の側壁を3点クランプする内側平坦部があり、これによって、リングの摩擦による角度的ポジショニングを維持する。クランプの際の回転中に、リングにおける平坦な部分は、このリングの初期中心に対して動き、このことによって、フランス特許文献FR2368070において先に強調した問題と同じ問題が発生する。なぜなら、バランスばねスタッドが取り付けられた領域が、バランスの回転軸を定める収容された部品の中心軸を中心とするバランスばねスタッドホルダーの回転中に、バランスばねスタッドホルダーの平面内において小さく動いて、バヨネットシステムを閉じてクランプを可能とするためである。
【0004】
また、欧州特許文献EP1798609も、この文献の図2に示されているように、バランスブリッジの突出部があるバヨネットシステムを形成するバランスばねスタッドホルダーを開示している。このバランスばねスタッドホルダーは、バヨネットシステムを形成する3つの突起によって区別され、これらの3つの突起は、突出部を包囲するリングの内側に位置する。これらの3つの突起は、第1のステップにおいて、バランスばねスタッドホルダーを突出部のまわりにて正しいレベルで自由に取り付け、そして、突出部に形成された3つの対応する横方向溝におけるバランスばねスタッドホルダーの回転によって挿入されることによって、バヨネットシステムを閉じることを可能にすることによって、バヨネットシステムに寄与する。バランスばねスタッドホルダーが突出部に対してクリアランスがあることを防ぐために、しっかりとした摩擦が発生するようにする。しかし、中央突起と、間に隙間がある2つの端の突起との間のバランスばねスタッドホルダーの2つの部分の弾性については何ら教示されていない。実際に、これらの2つの部品の弾性は小さくてもよく、発生する摩擦は小さくてもよい。なぜなら、摩擦はクリアランスを防ぐためだけに役立ち、バヨネットシステムによって得られるバランスばねスタッドホルダーの軸方向保持のためには役立たず、また、バランスばねスタッドホルダーの角度的ポジショニングのためにも役立たないからである。これは、この角度的ポジショニングが、スワンネック式の戻りばねとマイクロメトリックねじによって達成されるからである。なお、欧州特許文献EP1798609において与えられている教示内容からは、突出部品を包囲するバランスばねスタッドホルダーの2つの部分のうちの1つが他の部分とは異なる弾性を有すると考えたり結論付けたりすることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術のバランスばねスタッドホルダーの短所がないようなバランスばねスタッドホルダーを提供することを目的とする。特に、本発明は、バランスばねスタッドホルダーの一般平面におけるバランスばねスタッドの非常に正確なポジショニング、特に、バランスばねの回転軸に対する非常に正確で予め決められた半径方向のポジショニング、を可能にするようなバランスばねスタッドホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このために、本発明は、計時器の機械式ムーブメントのバランスブリッジに取り付けられるように意図されたバランスばねスタッドホルダーに関し、前記バランスばねスタッドホルダーには、バランスばねスタッドを取り付けるための取り付け部と、前記バランスブリッジの突出部の側壁、又は前記バランスブリッジに取り付けられた部品の側壁をクランプすることができるように設計されているクランプ部がある。前記クランプ部は、3つの接触領域を形成し、前記3つの接触領域は、前記バランスばねスタッドホルダーが前記バランスブリッジに取り付けられた後に、前記突出部又は部品の側壁を押すように意図されており、前記3つの接触領域のうちの第1の接触領域は、前記3つの接触領域のうちの第2の接触領域に接続され、前記第2の接触領域は、前記クランプ部の第1の部分を介して前記第1の接触領域の隣にあり、前記第1の部分には、前記第1及び第2の接触領域の間に、第1の離間領域があり、前記第1の接触領域は、前記3つの接触領域のうちの第3の接触領域にも接続され、前記第3の接触領域は、前記第1の接触領域と前記第3の接触領域の間に第2の離間領域がある前記クランプ部の第2の部分を介して、前記第1の接触領域の隣にもある。前記第1及び第2の離間領域は、前記バランスばねスタッドホルダーが前記バランスブリッジに取り付けられた後に、前記突出部又は部品の側壁から後退しているように設けられる。前記クランプ部全体が延在している一般平面において、前記第1の部分は、前記第1の接触領域の第1の中央点に対して、前記第2の接触領域の第2の中央点において第1の剛性を有し、前記第1の剛性は、前記第2の部分が前記第1の接触領域の前記第1の中央点に対して前記第3の接触領域の第3の中央点において有する第2の剛性の3倍よりも大きい。
【0007】
好ましい変異形態において、前記第1の剛性は、前記第2の剛性の7倍よりも大きい。好ましい変異形態において、前記第1の剛性は、前記第2の剛性の12倍よりも大きい。
【0008】
主な実施形態において、前記一般平面において、前記第1の部分は、剛体であり、前記第2の部分は、弾性体である。
【0009】
前記第1の部分と前記第2の部分の剛性を明確に特徴づけるために、本発明の目的は、上において、検討している3つの変異形態におけるこれらの第1の部分と第2の部分の剛性の相対値によって特徴づけられている。このように、用語「剛性」と「弾性」の明確さに関連する潜在的な問題が解決される。しかし、主な実施形態において、前記一般平面において、第1の部分は剛性を有し(ほとんど変形しない)、第2の部分は弾性/フレキシブル性を有する、といえる。なぜなら、バランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジに取り付けられたときに、第1の部分の剛性が高いほど、すなわち、実質的に変形しないほど、本発明によって設けられるバランスばねスタッドホルダーのセンタリングが精密になり、したがって、バランスばねスタッドの半径方向位置が精密になるからである。
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。なお、この説明は例として与えられるものであって、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、本発明の第1の実施形態の第1の変異形態に係るバランスばねスタッドホルダーを上から見た図であり、図1Bは、このバランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジの円筒状部分に取り付けられている様子を上から見た図である。
図2図2Aは、本発明の第1の実施形態の第2の変異形態に係るバランスばねスタッドホルダーを上から見た図であり、図2Bは、このバランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジの円筒状部分に取り付けられている様子を上から見た図である。
図3図3Aは、本発明の第2の実施形態に係るバランスばねスタッドホルダーを上から見た図であり、図3Bは、このバランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジの円筒状部分に取り付けられている様子を上から見た図である。
図4図4Aは、本発明の第3の実施形態に係るバランスばねスタッドホルダーを上から見た図であり、図4Bは、このバランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジの円筒状部分に取り付けられている様子を上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1A、1B及び2A、2Bを参照しながら、本発明に係るバランスばねスタッドホルダーの第1の実施形態の2つの変異形態について説明する。
【0013】
図1Aは、第1の変異形態に係るバランスばねスタッドホルダー2について、バランスブリッジに取り付ける前のものを示しており、図1Bは、バランスブリッジ4に取り付けられた後におけるバランスばねスタッドホルダー2を示している。バランスブリッジ4は、伝統的な形態で、バランスばねを備える機械式計時器用ムーブメント内に設けられ、このバランスばねのバランスがベアリング内で回転する(これらの要素は図示していない)。このベアリングは、バランスブリッジの突出部6の中心又はこのバランスブリッジに取り付けられた部品の中心に設けられ、バランスばねの外端は、バランスばねスタッド9によって保持され、このバランスばねスタッド9は、既知の形態で、特に横方向ねじによって、バランスばねスタッドホルダーの取り付け部10にある開口8内にて取り付けられる。なお、この開口の代わりに、特に溝を用いることができ、当業者であれば、バランスばねスタッドをバランスばねスタッドホルダーに取り付けるために様々な変異形態を企図することができる。
【0014】
バランスばねスタッドホルダーには、クランプ部12があり、このクランプ部12は、突出部6の側壁16、又は1つの変異形態においてこのバランスブリッジに取り付けられた部品の側壁、をクランプすることができるように設計されている。この突出部又は部品には、円筒状又はわずかに傾斜した円錐台状の部分があり、その円筒状又は円錐台状の形の外面は、側壁16を形成し、中心軸14は、バランスの回転軸を形成する。前記部品は、特に、関心事のバランスばねスタッドホルダー、又はバランスばねのために設けられたベアリングの支持体、を備えるレギュレーターアセンブリーの部品である。バランスばねスタッドホルダー2が円錐台の部分に取り付けられているときに、この部分の環状の断面は、バランスブリッジ4のプレート5から離れるに従って大きくなる。「取り付けられる」という表現は、必ずしも、前記部品が、バランスばねのために設けられた空間に対して、バランスブリッジのプレートの上にあることを意味するものではない。なぜなら、いくつかの実施形態において、バランスばねスタッドホルダーを、バランスばね側にて、バランスブリッジのプレートの下に配置することができるためである。
【0015】
クランプ部12は、3つの接触領域18、20及び22を形成し、これらの接触領域18、20及び22は、バランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジに取り付けられた後に、突出部6又は部品の側壁16を押すように意図されている。3つの接触領域のうちの第1の接触領域18は、第1の接触領域18の隣にある3つの接触領域のうちの第2の接触領域20に、クランプ部12の第1の部分24を介して接続される。この第1の部分24には、第1の接触領域18と第2の接触領域20の間に第1の離間領域25がある。また、第1の接触領域18は、同様に第1の接触領域18の隣にある3つの接触領域のうちの第3の接触領域22にも、クランプ部12の第2の部分26を介して接続される。この第2の部分26には、第1の接触領域18と第3の接触領域22の間に第2の離間領域27がある。バランスばねスタッドホルダー2がバランスブリッジ4に取り付けられた後に、第1及び第2の離間領域25及び27は、突出部又は部品の側壁16から後退しているように設けられる。
【0016】
一般的な変異形態において、第1の接触領域18と第2の接触領域20はそれぞれ、クランプ部12全体が延在している一般平面において、第1の接触領域の第1の中央点28及び第2の接触領域の第2の中央点30において幾何学的円17に接する。この一般的な変異形態において、第1及び第2の接触領域の各範囲はそれぞれ、第1及び第2の中央点を形成する第1及び第2の接点において第1及び第2の接触領域に接する幾何学的円17に対する第1及び第2の接点によって決まる。
【0017】
図示している様々な実施形態において、前記3つの接触領域は平坦である。好ましくは、少なくとも第1及び第2の接触領域18、20は、平坦であり、クランプ部全体が延在している一般平面において、幾何学的円17の中心15を中心とする、第1及び第2の中央点28、30を通過する2つの半径が直交する。他の変異形態も可能である。特定の変異形態において、第1及び第2の接触領域は、幾何学的円17と同じ半径及び同じ中心を有する円の弧を描くように凹状である。別の特定の変異形態において、これらの接触領域は、例えば前記幾何学的円の半径と同じ半径を有する円の弧に対して、わずかに凸状である。
【0018】
図1A及び1Bの第1の変異形態において、第1の部分24は、第1の離間領域25において、幅L1の矩形断面を有し幾何学的円17の中心15からの平均半径がR1である第1の環状アームを形成する。第1の離間領域25は、第1の角距離φにわたって延在している。第2の部分26は、第2の離間領域27において、幅L2の矩形断面を有し幾何学的円17の中心15からの平均半径がR2である第2の環状アームを形成する。第2の離間領域27は、第2の角距離θにわたって延在している。
【0019】
本発明によると、クランプ部12全体が延在している一般平面において、第1の部分24は、第1の接触領域18の第1の中央点28に対して、第2の接触領域20の第2の中央点30において第1の剛性K1を有し、第1の剛性K1は、第1の接触領域の第1の中央点28に対して第3の接触領域22の第3の中央点32において第2の部分26が有する第2の剛性K2の3倍よりも大きい。すなわち、K1>3・K2である。なお、当該剛性は、曲げ剛性であり、第1の部分の弾性定数と第2の部分の弾性定数はそれぞれ、その曲げ剛性の逆数によって定められる。
【0020】
1つの好ましい変異形態において、第1の剛性K1は、第2の剛性K2の7倍よりも大きい。すなわち、K1>7・K2である。
【0021】
好ましい変異形態において、第1の剛性K1は、第2の剛性K2の12倍よりも大きい。すなわち、K1>12・K2である。
【0022】
図1A、1Bに示している例において、幅L2=0.55・L1、第1の角度φ=68°、第2の角度θ=110°である。物理学の法則によると、曲げ剛性Kは、関心事の部分(ここでは環状アーム)の幅Lの三乗に応じて変化する。すなわち、K~L3である。また、その長さの三乗に応じて変化する。すなわち、K~(R・ψ)3である。ここで、Rは、環状アームの平均半径、ψは、この環状アームの角距離である。2つの離間領域25及び27に位置する2つの環状アームのみを一次近似として考えると、K1=K2・(1.5)3・(1.8)3が得られ、すなわち、おおよそK1=20・K2である。したがって、第1の剛性K1は、第2の剛性K2よりも約20倍と大きい。したがって、この例において、第2の部分26、具体的には第2の離間領域27、の弾性は、第1の部分24、具体的には第1の離間領域25、の弾性の約20倍と大きい。
【0023】
第1の実施形態の2つの変異形態において、第3の接触領域22の第3の中央点32は、クランプ部12全体が延在している一般平面において、第1及び第2の接触領域18及び20に接する幾何学的円17の中心15を中心として第1及び第2の中央点28及び30の間に形成される第1の角度αを二等分する直線34上に実質的にある。なお、副詞「実質的に」は、特に、その状況が、バランスブリッジ4にバランスばねスタッド2を取り付ける前又は後のものであることがあることを意味している。第1の変異形態において、第1の角度αは、実質的に90°であり、次に、第3の中央点32は、幾何学的円17の中心15を中心とする第1の中央点28に対する第2の角度βを有し、この第2の角度βは、実質的に135°である。
【0024】
本発明に係るバランスばねスタッドホルダー2の性質のおかげで、バランスばねの振動軸と一致する突出部の中心軸14に対する、開口8、したがって、バランスばねスタッド9、の極めて正確な半径方向のポジショニングを確実にしつつ、バランスブリッジの突出部6にバランスばねスタッドホルダーを取り付けることができる。また、バランスの回転軸14に垂直なバランスばねスタッドホルダーの一般平面における正確なポジショニングが、好ましいことに60~120°、好ましくは90°、の角度オフセットされている2つの接触領域18及び20を用いて得られる。なぜなら、2つの接触領域18、20を接続する第1の部分24における剛性が、2つの接触領域18、22を接続する第2の部分26に対して大きいからである。この第2の部分26は、2つの部分24、26の離間の間に、本質的に接触領域22のみが、接触領域18に対するバランスばねスタッドホルダーの一般平面内における運動を行うために十分な弾性を有する。したがって、第1の剛体部分24と第2の弾性部分26について、以下のことがいえる。なお、バランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジに取り付けられる前には、接触領域22は、2つの接触領域18及び20に接する幾何学的円17の内側にある。したがって、バランスばねスタッドの取り付け部10がクランプ部12の第1の剛体部分に堅く接続されていることを前提として、取り付けの間に、実質的に第2の弾性部分のみが弾性変形をし、そして、バランスばねスタッドホルダーが突出部6上に角度的にポジショニングされた後には、バランスばねスタッド9の正確な半径方向のポジショニングと、バランスばねスタッドホルダーの一般平面における正確なポジショニングを提供するのは、第1及び第2の接触領域18及び20である。なぜなら、バランスばねスタッドホルダー及び突出部の加工の許容誤差、用いることができる機械加工技術に対して当業者が可能な限り小さくする許容誤差の範囲内で、接触領域18及び20に接する幾何学的円17の半径が関心事の一般平面における突出部6の半径に等しくなるようにされることを考えると、第1の部分24が剛体であるために、バランスばねスタッドホルダーをバランスブリッジに取り付けた後に、幾何学的円17の中心15が突出部6の中心軸14上にあるためである。
【0025】
バランスばねスタッドホルダー2には、さらに、第2の接触領域20を越えるように第1の部分24を延在させる自由部分36がある。この自由部分36には、いくつかの機能がある。特に、衝撃によってバランスばねスタッドホルダーが横方向に動くことを防ぐための安全機能、特定の道具が第3の接触領域22を中心15から一時的に動かすことができるようにするための取り付け機能、及び美的機能である。
【0026】
図2A及び2Bは、第1の角度αと第2の角度βが等しく、それぞれ120度(120°)である点が第1の変異形態とは本質的に異なる第1の実施形態の第2の変異形態に関する。この場合、第1の角度φ(第1の角距離とも呼ばれる)は、第2の角度θ(第2の角距離とも呼ばれる)と実質的に等しい。接触領域18及び20を接続し第1の離間領域25Aを形成する第1の部分24Aと、接触領域18及び22を接続し第2の離間領域27Aを形成する第2の部分26Aがあるクランプ部12Aを含む、バランスばねスタッドホルダー42の様々な部分については、再び詳細に説明しない。バランスばねスタッドホルダー42が追加の自由部分を含まないことを観察することができる。
【0027】
図2A及び2Bに示している例に基づいて計算すると、以下の結果となる。すなわち、第1の部分24A、具体的には第1の離間領域25A、の第1の剛性K1は、第2の部分26A、具体的には第2の離間領域27A、の第2の剛性K2の約5倍である。したがって、この例において、第2の部分26A、具体的には第2の離間領域27A、の弾性は、第1の部分24A、具体的には第1の離間領域25A、の弾性の約5倍と大きい。なお、この値は、幅L1と幅L2の比が比較的小さく変わるだけで、かなり大きく変わる。一般的には、第1の剛性K1と第2の剛性K2の比は、3よりも大きい。好ましくは、この比は、7よりも大きく、第2の変異形態において容易に得られる。好ましくは、比K1/K2は、12よりも大きくする。
【0028】
図3A及び3Bは、本発明に係るバランスばねスタッドホルダーの第2の実施形態を示している。既に説明した第1の実施形態と同じ又は類似のバランスばねスタッドホルダー52の部品については、再び詳細に説明しない。したがって、これらの同じ又は類似の部品については、第1の実施形態についての説明を参照する必要がある。なお、参照番号に付加された文字「B」は、第1の実施形態における参照番号としてこの参照番号が付された部品と同様な部品であることを示している。
【0029】
バランスばねスタッドホルダー52は、バランスばねスタッド9のための取り付け部10を備え、この取り付け部10は、クランプ部12Bの第1の部分24に固定される。特に、取り付け部10は、剛体であり、第1の部品24に堅く取り付けられる。「堅く取り付けられる」とは、これら2つの部品が、当初に互いに取り付けられた別個の部品でなければならないことを意味するものではなく、取り付け部と第1の部品がバランスばねスタッドホルダーの剛体部品を一緒に形成することを意味し、この剛体部分が、特定の非ゼロの角距離、好ましいことに60~120°、好ましくは実質的に90°、にわたる離間領域が間にある第1及び第2の接触領域18、20を形成する。クランプ部12Bには、さらに、第1の接触領域18を第3の接触領域22に接続する第2の部分26Bがある。また、クランプ部12Bは、バランスばねスタッドホルダー52がバランスブリッジに取り付けられた後にバランスブリッジ(図示せず)の突出部6の側壁16又はこのバランスブリッジに取り付けられた部分の側壁を押すように意図された第4の接触領域56を形成する。この第4の接触領域56は、第2の接触領域20の隣にあり、第2の接触領域と第4の接触領域の間に第3の離間領域55があるクランプ部12Bの第3の部分54を介してこの第2の接触領域20に接続されている。第3の部分54は、第2の接触領域の第2の中央点30に対して、第4の接触領域の第4の中央点58において第3の剛性K3を有し、この第3の剛性K3は、第1の部分24の第1の剛性K1の3分の1未満である。好ましい変異形態において、第1の剛性K1は、第3の剛性K3の7倍よりも大きい。すなわち、K1>7・K2である。したがって、第2の部分と同様に、第3の部分54には弾性がある。
【0030】
第2の弾性部分と第3の弾性部分の二重構成のおかげで、突出部6上のバランスばねスタッドホルダーの総締め付け力が増大する。第2及び第3の部分26B及び54によって定められる離間領域の幅L2の値を、これら2つの部分の弾性を決めるために選択することができる。第3の接触領域22と同様に、第4の接触領域56は、バランスばねスタッドホルダーがバランスブリッジに取り付けられる前には、第1及び第2の接触領域18及び20にそれらの中央点において接する幾何学的円17の内側に配置される。全クランプ力を決めるために、バランスブリッジに取り付けられていないバランスばねスタッドホルダーのための接触領域22及び56の半径方向距離も選択することができる。
【0031】
図示している変異形態において、第3及び第4の接触領域22、56は、クランプ部12Bの一般平面において、幾何学的円17の中心15を中心として第1の接触領域18と第2の接触領域20の間のオフセットに対応する角度によって形成される第1の角度αを二等分する直線34に対する軸対称性を有する。特に、第2の部分26Bと第3の部分54は、第2の離間領域27Bの角距離θ1が第3の部分54によって定められる第3の離間領域55の角距離θ2に等しくなるように、二等分直線34に対して対称に配置されている。したがって、クランプ部12Bの第2の部分26Bと第3の部分54は、二等分直線34に対して軸対称性を有する。
【0032】
第2及び第3の部分26B及び54の自由端にはそれぞれ、半径方向に延在している2つの部分62及び64があり、これらの2つの部分62及び64は、道具66を用いて、バランスブリッジの突出部6のまわりにバランスばねスタッドホルダー52を取り付けることを容易にするように設けられる。
【0033】
図4A及び4Bは、本発明の第3の実施形態を示している。バランスばねスタッドホルダー72は、他の図に示しているバランスばねスタッドホルダーよりもはるかに複雑な形状となっている。このバランスばねスタッドホルダー72は、いくつかの機能のためにはたらき、このことがその特定の形状の理由となっている。バランスばねスタッドホルダー72には、バランスばねスタッド9を取り付けるために設けられた取り付け部10Cと、開いたリングを全体的に形成するクランプ部12Cがある。前に説明した実施形態と同様に、クランプ部又は開いたリングは、均等に弾性を有さず、又は角度範囲のほぼ全体にわたって弾性を有さないが少なくとも1つの弾性部分の存在によって弾性を有する。クランプ部12Cには、第1及び第2の接触領域18及び20を接続する第1の剛体部分24Cと、第1及び第2の接触領域18及び22を接続する第2の弾性部分26Cがある。第1及び第2の接触領域18及び20はそれぞれ、それらの対応する中央点の間に角度αを形成し、第1及び第3の接触領域はそれぞれ、それらの対応する中央点の間に角度βを形成し、この角度βは、図示している例において、実質的に角度αと等しい。なお、角度α及びβは、120°よりも大きく約150°である値を有する。したがって、この変異形態は、本発明の利点を考えると好ましくない。しかし、第1の剛性部品24Cは、第2の弾性部品26Cの剛性よりもはるかに大きい、特に12倍よりも大きい、高い剛性を有するので、120°よりも大きく150°である角度αのおかげで、バランスばねスタッド9がバランスブリッジ(図示せず)に取り付けられた後に、バランスばねスタッドホルダーの一般平面において、第1の部分24Cに堅く結合された取り付け部10C、したがって、バランスばねスタッド9、の正確なポジショニングが可能になる。
【0034】
第1の部分24Cは、単一の点において最小幅L1Minを有し、第2の部分26Cは、L1Min未満であり実質的にL1Minの3分の2である幅L2を有する環状アームを有し、この環状アームは、60°よりも大きい角度Ωにわたって延在している。したがって、バランスばねスタッドホルダー72がバランスブリッジの突出部6のまわりに取り付けられるときに、実質的に第2の部分26Cのみが弾性変形する。この取り付けは、クランプ部12Cの第1及び第2の部分の間の隙間に挿入して各自由端を離間させることを可能にする道具66を用いて行う。
【符号の説明】
【0035】
2、42、52、72 バランスばねスタッドホルダー
10 取り付け部
12、12A、12B、12C クランプ部
15 幾何学的円の中心
17 幾何学的円
18 第1の接触領域
20 第2の接触領域
22 第3の接触領域
24、24A、24C クランプ部の第1の部分
25、25A 第1の離間領域
26、26A、26B、26C クランプ部の第2の部分
27、27A、27B 第2の離間領域
28 第1の中央点
30 第2の中央点
32 第3の中央点
34 直線
54 第3の部分
55 第3の離間領域
56 第4の接触領域
58 第4の中央点
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】