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特開2024-96623導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096623
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/04 20060101AFI20240709BHJP
   H01P 1/12 20060101ALI20240709BHJP
   H01P 3/123 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01P1/04
H01P1/12
H01P3/123
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000246
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武元 佑紗
(72)【発明者】
【氏名】待鳥 誠範
【テーマコード(参考)】
5J011
【Fターム(参考)】
5J011DA05
(57)【要約】
【課題】標準導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑える。
【解決手段】標準導波管とギャップ導波管との導波管接続構造100が、上面10aに相互連結された第1下溝と第2下溝とを含む下溝14が設けられ、第2下溝の両側に複数の金属ピン15が周期的に配列されたベースブロック10と、下面20cに導波路形成溝21が設けられ、ベースブロックの第1下溝に導波路形成溝が対向するよう配置されて標準導波管を形成する固定ブロック20と、第2下溝と複数の金属ピンの上を離間して覆う下面30cを有し、ギャップ導波管を形成する可動ブロック30とを備える。固定ブロックの第3端面20aと可動ブロックの第5端面30aとは、間隔を開けて平行に対向して配置され、固定ブロックの第3端面には、ベースブロックの上面から上部において導波路の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝22が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導波管(120)と第2導波管(130)との導波管接続構造(100)であって、
上面(10a)に第1端面(10b)から該第1端面に対向する第2端面(10c)に至る下溝(14)が設けられ、前記下溝は、溝長手方向に互いに連結された第1下溝(14a)と第2下溝(14b)とを含んで成り、前記上面にて前記第2下溝を挟んで前記第2下溝の両側に複数の金属ピン(15)が周期的に配列されたベースブロック(10)と、
下面(20c)に第3端面(20a)から該第3端面に対向する第4端面(20b)に至る導波路形成溝(21)が設けられ、前記ベースブロックの前記第1下溝に前記導波路形成溝が対向するよう前記上面上に配置されて第1導波路(121)を有する前記第1導波管を形成する固定ブロック(20)と、
前記固定ブロックの前記第3端面に対向する第5端面(30a)と、前記ベースブロックの前記複数の金属ピンの上面から離間して前記複数の金属ピンと前記第2下溝の上を覆う下面(30c)とを有し、前記第2下溝上に第2導波路(131)を有する前記第2導波管を形成する可動ブロック(30)と、を備え、
前記固定ブロックの前記第3端面と前記可動ブロックの第5端面(30a)とは、所定の間隔(G)を開けて平行に対向して配置され、
前記固定ブロックの前記第3端面には、前記ベースブロックの前記上面から上部において前記第1導波路の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝(22)が形成されている、導波管接続構造。
【請求項2】
前記チョーク溝の内周側の側壁面には前記導波路形成溝の底壁面と側壁面とで形成される端部開口の角部(21c)に対応して前記チョーク溝内に突き出た溝内突部(23)が形成されている、請求項1に記載の導波管接続構造。
【請求項3】
前記チョーク溝は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する深さ(D)を有する、請求項2に記載の導波管接続構造。
【請求項4】
前記導波路形成溝の端部開口と前記チョーク溝との間隔(t1)は、前記第1導波路の開口の中心を中心とし長軸方向が前記開口の長辺に平行でありかつ前記チョーク溝の平面視形状を規定する楕円(e1,e2)の少なくとも短軸方向において、前記漏出防止対象周波数に対応する前記管内波長の1/4に設定されている、請求項3に記載の導波管接続構造。
【請求項5】
前記固定ブロックの前記第3端面において、前記第1導波路の開口を基準に前記チョーク溝の外側に、同一幅の複数の溝(22-1,...,22-5)が同一間隔で並行に配置されている、請求項1に記載の導波管接続構造。
【請求項6】
第1導波管(120)と第2導波管(130)と第3導波管(140)との導波管接続構造(100)であって、
上面(10a)に第1端面(10b)から該第1端面に対向する第2端面(10c)に至る下溝(14)が設けられ、前記下溝は、溝長手方向に順に連結された第1下溝(14a)と第2下溝(14b)と第3下溝(14c)とを含んで成り、前記上面にて前記第2下溝を挟んで前記第2下溝の両側に複数の金属ピン(15)が周期的に配列されたベースブロック(10)と、
下面(20c)に第3端面(20a)から該第3端面に対向する第4端面(20b)に至る第1導波路形成溝(21)が設けられ、前記ベースブロックの前記第1下溝に前記第1導波路形成溝が対向するよう前記上面上に配置されて第1導波路(121)を有する前記第1導波管を形成する第1固定ブロック(20)と、
前記ベースブロックの前記複数の金属ピンの上面から離間して前記複数の金属ピンと前記第2下溝の上を覆う下面(30c)を有し、前記第2下溝上に第2導波路(131)を有する前記第2導波管を形成する可動ブロック(30)と、
下面(40c)に第7端面(40a)から該第7端面に対向する第8端面(40b)に至る第2導波路形成溝(41)が設けられ、前記ベースブロックの前記第3下溝に前記第2導波路形成溝が対向するよう前記上面上に配置されて第3導波路(141)を有する前記第3導波管を形成する第2固定ブロック(40)と、を備え、
前記可動ブロックは、前記第1固定ブロックの前記第3端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向して配置される第5端面(30a)と、前記第2固定ブロックの前記第7端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向して配置される第6端面(30b)とを有し、
前記第1固定ブロックの前記第3端面及び前記第2固定ブロックの前記第7端面の少なくとも一方には、前記ベースブロックの前記上面から上部において前記第1導波路又は前記第3導波路の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝(22)が形成されている前記導波管接続構造と、
前記可動ブロックをスライド移動させる駆動装置(60)と、
を備え、
前記可動ブロックの下面(30c)には、前記複数の金属ピンの列間を移動可能なサイズの突起部(31)が設けられ、
前記駆動装置は、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路を基準に前記複数の金属ピンより外側の格納領域に位置するオフ状態と、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路内に位置するオン状態との間で切り替え可能なように、前記可動ブロックをスライド移動させる、導波管スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
今後更なる増大が予想されるモバイルトラフィックに対応するため、数十Gbps級の伝送速度を実現することが可能なミリ波・テラヘルツ波帯を無線通信に利用することが強く求められており、例えばIEEE802.15.3dでは、252~325GHzの使用が検討されている。
【0003】
例えば、WR-3帯域(220~325GHz)の電磁波を伝搬させる伝搬経路としては、内寸が0.864mm×0.432mmの方形導波管が用いられる。このような方形導波管を用いた各種装置では、入出力の導波管の間に、少なくとも1つの導波路を備えた可動部を配置し、これをスライドさせて電磁波の伝搬経路を切り替えるようになっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に開示された従来のスライド式導波管スイッチにおいては、入出力の導波管と可動部との間に、機械的な摩耗を抑制するための隙間がそれぞれ設けられており、入出力の導波管の開口と可動部の導波路の開口には、これらの隙間からの電磁波の漏洩を低減するための長方形のチョーク溝が設けられている。
【0005】
また、特許文献2に開示された従来のスライド式導波管スイッチにおいては、入出力の導波管の間に設けられる可動部に、導波路の両側に金属ピンが周期的に配置されたいわゆるギャップ導波管(Gap Waveguide)が採用され、可動部での機械的な摩耗を抑制する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6185455号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0381793号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された従来のスライド式導波管スイッチでは、広帯域のチョーク溝が設けられていても、可動部の導波路の位置が所定の停止位置からずれると、このずれに起因した意図しない反射点が生じてしまう。その結果、わずかな導波路の位置ずれによって反射特性及び透過特性が敏感に変化し、例えば透過特性に落ち込みが発生するなど、広帯域性が著しく損なわれ得るという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された従来のスライド式導波管スイッチでは、可動部にギャップ導波管が用いられているものの、可動部の導波路が所定の停止位置からずれ得るという、特許文献1と同様の問題を抱えている上に、入出力の導波管とギャップ導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることに関して考慮されていなかった。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、標準的な入出力の導波管と可動部のギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができ、かつ広帯域性に優れた導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る導波管接続構造は、第1導波管(120)と第2導波管(130)との導波管接続構造(100)であって、上面(10a)に第1端面(10b)から該第1端面に対向する第2端面(10c)に至る下溝(14)が設けられ、前記下溝は、溝長手方向に互いに連結された第1下溝(14a)と第2下溝(14b)とを含んで成り、前記上面にて前記第2下溝を挟んで前記第2下溝の両側に複数の金属ピン(15)が周期的に配列されたベースブロック(10)と、下面(20c)に第3端面(20a)から該第3端面に対向する第4端面(20b)に至る導波路形成溝(21)が設けられ、前記ベースブロックの前記第1下溝に前記導波路形成溝が対向するよう前記上面上に配置されて第1導波路(121)を有する前記第1導波管を形成する固定ブロック(20)と、前記固定ブロックの前記第3端面に対向する第5端面(30a)と、前記ベースブロックの前記複数の金属ピンの上面から離間して前記複数の金属ピンと前記第2下溝の上を覆う下面(30c)とを有し、前記第2下溝上に第2導波路(131)を有する前記第2導波管を形成する可動ブロック(30)と、を備え、前記固定ブロックの前記第3端面と前記可動ブロックの第5端面(30a)とは、所定の間隔(G)を開けて平行に対向して配置され、前記固定ブロックの前記第3端面には、前記ベースブロックの前記上面から上部において前記第1導波路の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝(22)が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る導波管接続構造は、方形導波管などの標準的な第1導波管と導波路の両側に金属ピンが周期的に配置された第2導波管(ギャップ導波管という)との接続構造において、固定ブロックの第3端面には、ベースブロックの上面から上部において第1導波路の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝が形成されている。この構成により、標準的な導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0012】
また、本発明に係る導波管接続構造において、前記チョーク溝の内周側の側壁面には前記導波路形成溝の底壁面と側壁面とで形成される端部開口の角部(21c)に対応して前記チョーク溝内に突き出た溝内突部(23)が形成されている構成が好ましい。
【0013】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、第1導波路とチョーク溝の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、標準的な導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0014】
また、本発明に係る導波管接続構造において、前記チョーク溝は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する深さ(D)を有する構成が好ましい。
【0015】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、チョーク溝の底壁面に向かう漏出防止対象周波数に対応する電磁波と底壁面から反射する電磁波が打ち消し合うことにより、標準的な導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0016】
また、本発明に係る導波管接続構造において、前記導波路形成溝の端部開口と前記チョーク溝との間隔(t1)は、前記第1導波路の開口の中心を中心とし長軸方向が前記開口の長辺に平行でありかつ前記チョーク溝の平面視形状を規定する楕円(e1,e2)の少なくとも短軸方向において、前記漏出防止対象周波数に対応する前記管内波長の1/4に設定されている構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、第1導波路の開口からチョーク溝に向かう漏出防止対象周波数に対応する電磁波とチョーク溝の側壁面から反射する電磁波が打ち消し合うことにより、標準的な導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0018】
また、本発明に係る導波管接続構造において、前記固定ブロックの前記第3端面において、前記第1導波路の開口を基準に前記チョーク溝の外側に、同一幅の複数の溝(22-1,...,22-5)が同一間隔で並行に配置されている構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、漏出電磁波の打ち消し効果が多重的に効いて、標準的な導波管とギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0020】
上述の構成の全て又はいくつかを適宜に備えた本発明に係る導波管接続構造は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/20程度までの隙間に対して、標準的な方形導波管の動作周波数範囲全体(比帯域40%)にわたり、電磁波の漏出を-15dB以下に抑えることができる。
【0021】
また、本発明に係る導波管スイッチは、第1導波管(120)と第2導波管(130)と第3導波管(140)との導波管接続構造(100)であって、上面(10a)に第1端面(10b)から該第1端面に対向する第2端面(10c)に至る下溝(14)が設けられ、前記下溝は、溝長手方向に順に連結された第1下溝(14a)と第2下溝(14b)と第3下溝(14c)とを含んで成り、前記上面にて前記第2下溝を挟んで前記第2下溝の両側に複数の金属ピン(15)が周期的に配列されたベースブロック(10)と、下面(20c)に第3端面(20a)から該第3端面に対向する第4端面(20b)に至る第1導波路形成溝(21)が設けられ、前記ベースブロックの前記第1下溝に前記第1導波路形成溝が対向するよう前記上面上に配置されて第1導波路(121)を有する前記第1導波管を形成する第1固定ブロック(20)と、前記ベースブロックの前記複数の金属ピンの上面から離間して前記複数の金属ピンと前記第2下溝の上を覆う下面(30c)を有し、前記第2下溝上に第2導波路(131)を有する前記第2導波管を形成する可動ブロック(30)と、下面(40c)に第7端面(40a)から該第7端面に対向する第8端面(40b)に至る第2導波路形成溝(41)が設けられ、前記ベースブロックの前記第3下溝に前記第2導波路形成溝が対向するよう前記上面上に配置されて第3導波路(141)を有する前記第3導波管を形成する第2固定ブロック(40)と、を備え、前記可動ブロックは、前記第1固定ブロックの前記第3端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向して配置される第5端面(30a)と、前記第2固定ブロックの前記第7端面に対して所定の間隔(G)を開けて平行に対向して配置される第6端面(30b)とを有し、前記第1固定ブロックの前記第3端面及び前記第2固定ブロックの前記第7端面の少なくとも一方には、前記ベースブロックの前記上面から上部において前記第1導波路又は前記第3導波路の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝(22)が形成されている前記導波管接続構造と、前記可動ブロックをスライド移動させる駆動装置(60)と、を備え、前記可動ブロックの下面(30c)には、前記複数の金属ピンの列間を移動可能なサイズの突起部(31)が設けられ、前記駆動装置は、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路を基準に前記複数の金属ピンより外側の格納領域に位置するオフ状態と、前記可動ブロックの前記突起部が前記第2導波路内に位置するオン状態との間で切り替え可能なように、前記可動ブロックをスライド移動させることを特徴とする。
【0022】
上述のように、本発明に係る導波管スイッチは、標準的な入出力導波管に相当する第1導波管及び第3導波管と、ギャップ導波管本体を構成するベースブロックとを所定の位置関係に固定し、突起部が設けられた可動ブロックだけをスライド可能としている。この構成により、周期的に並んだ金属ピンの隙間よりも薄い突起部を金属ピンが設けられていない格納領域とギャップ導波管の導波路とのいずれかに配置することが可能であるため、電磁波の透過及び遮断を切り替えるSPST(Single-Pole Single-Throw)スイッチとして機能することができる。
【0023】
このように、本発明に係る導波管スイッチは、第1導波路と第3導波路を接続するギャップ導波管の導波路の位置が固定されているため、従来のスライド式導波管スイッチで見られたような、導波路同士のずれに起因した意図しない反射点が生じない。これにより、本発明に係る導波管スイッチは、広帯域性に優れた導波管スイッチとして機能することができる。
【0024】
また、本発明に係る導波管スイッチは、上述した本発明の導波管接続構造を導波管スイッチの可動部に用いることで、入出力ポート間で導波管接続箇所の隙間からの意図しない電磁波の漏出を抑えることができ、広帯域にてスイッチの透過損失を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、標準的な入出力の導波管と可動部のギャップ導波管との接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができかつ広帯域性に優れた導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る導波管スイッチ及び導波管接続構造を斜め上方から見た分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る導波管スイッチ及び導波管接続構造を斜め下方から見た分解斜視図である(駆動装置は省略)。
図3図1及び図2のベースブロックの平面図である。
図4】本発明の実施形態に係るチョーク溝の構成の一例を示す部分拡大図である。
図5】本発明の実施形態に係る導波管スイッチのON状態の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は右側面図であり、(c)は平面図である。
図6】本発明の実施形態に係る導波管スイッチのOFF状態の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は右側面図であり、(c)は平面図である。
図7】(a)は直方体形状の金属ピンがベースブロックに無限周期配列されたシミュレーションモデルを示しており、(b)はこのシミュレーションモデルにおける直方体形状の金属ピンの1つ当たりのサイズを示している。
図8図7(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルにおいて、金属ピンの側面に垂直に電磁波を照射した際の分散特性を示すグラフである。
図9】本発明の実施形態に係る導波管スイッチの反射特性及び透過特性のシミュレーション結果を示すグラフであって、(a)はON状態の反射特性及び透過特性を示しており、(b)はOFF状態の反射特性及び透過特性を示している。
図10】(a)は導波管接続構造の比較例を示す斜視図であり、(b)は(a)の導波管接続構造の隙間における電界の面内分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11】本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝のシミュレーションモデルの一例を示す図である。
図12】本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造において通過・反射電力特性をシミュレーションした結果を示し、(a)は反射損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(c)は導波管接続構造の隙間からの電磁波の漏出のシミュレーション結果を示すグラフである。
図13】本発明の第2の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝の構成の一例を示す図である。
図14】本発明の第2の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝のシミュレーションモデルの一例を示す図である。
図15】本発明の第2の実施形態に係る導波管接続構造において溝数を変えて通過・反射電力特性をシミュレーションした結果を示し、(a)は反射損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(c)は導波管接続構造の隙間からの電磁波の漏出のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の導波管スイッチ及び導波管接続構造の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造100を用いた導波管スイッチ1の分解斜視図である。なお、図2では、駆動装置60の図示を省略している。
【0029】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、ベースブロック10と、第1固定ブロック20と、可動ブロック30と、第2固定ブロック40と、駆動装置60と、を備える。ベースブロック10と、第1固定ブロック20と、可動ブロック30と、第2固定ブロック40は、例えば、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。これらの金属材料のうち、アルミニウムは、加工がしやすくコストが安い上に表面粗さを小さくできるため、特に好ましい。
【0030】
導波管スイッチ1は、第1導波路121と第3導波路141との間の電磁波の透過と遮断とを切り替えるためのSPSTスイッチである。例えば、第1導波路121及び第3導波路141は、内寸が0.864mm×0.432mmであり、WR-3帯域(220~325GHz)を透過帯域とするWR-3導波管を構成する。
【0031】
<ベースブロック>
ベースブロック10はY軸方向上方から見た平面視で矩形の板状又は直方体状に形成され、その上面10aの一端側には第1固定ブロック20が固定され、他端側には第2固定ブロック40が固定されている。第1固定ブロック20と第2固定ブロック40の間に、可動ブロック30がスライド自在に配置される。
【0032】
図3は、ベースブロック10の平面図である。ベースブロック10は、上面10aに各々平面視で矩形の第1エリア11、第2エリア12、及び第3エリア13がこの順で連接して設けられている。また、上面10aには、第1エリア11、第2エリア12、及び第3エリア13に対して、それらの略中央で順に交差する下溝14が形成されている。具体的には、上面10aにて、対向する第1端面10b及び第2端面10cに直交する向きに第1端面10bから第2端面10cに至る下溝14が設けられ、下溝14は、溝長手方向(Z軸方向)に順に連結された第1下溝14aと第2下溝14bと第3下溝14cとを含んで成り、上面10aの第2エリア12において第2下溝14bを挟んで第2下溝14bの両側に複数の金属ピン15が周期的に配列されている。下溝14は、浅い溝であるが、上面10aと面一でもよい。第1エリア11において第1下溝14aの両側は平坦な面になっており、第3エリア13において第3下溝14cの両側は平坦な面になっている。
【0033】
本実施形態では、第2下溝14bの両側にそれぞれ、複数の金属ピン15が等ピッチpで3行3列に配列されているが、列数及び行数はこれに限定されない。金属ピン15間のピッチpは、第2下溝14bの両側で等しい。なお、第2エリア12の第2下溝14bには、金属ピン15は設けられていない。第2エリア12において複数の金属ピン15の外側には、複数の金属ピン15と凸部16との間に、平坦な格納エリア17が設けられている。
【0034】
複数の金属ピン15は、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。複数の金属ピン15は、例えば、半田付けや導電性の接着剤による接着により、ベースブロック10の上面10aの第2エリア12上に取り付けられていてもよい。あるいは、複数の金属ピン15は、ベースブロック10の一部として一体形成されたものであってもよい。金属ピン15の形状は、任意の柱形状であってよく、例えば、直方体形状、円柱形状、又は、六角柱などの多角柱形状のいずれかであってよい。
【0035】
ベースブロック10の第1エリア11は、第1固定ブロック20とともに第1導波路121を有する第1導波管120を形成する(図5(b)、(c)も参照)。ベースブロック10の第2エリア12は、可動ブロック30とともにギャップ導波路131を有するギャップ導波管130を形成する。ベースブロック10の第2エリア12は、ギャップ導波管本体12aともいう。ベースブロック10の第3エリア13は、第2固定ブロック40とともに第3導波路141を有する第3導波管140を形成する。
【0036】
<第1固定ブロック>
図1及び図2に示すように、第1固定ブロック20は、対向する第3端面20a及び第4端面20bと下面20cとを有して直方体状に形成されている。下面20cには、第3端面20a及び第4端面20bに直交する向きで第3端面20aから第4端面20bに至る導波路形成溝21が設けられている。導波路形成溝21は、第3端面20aでの端部開口が幅wa、深さwbの溝である。第1固定ブロック20は、ベースブロック10の第1エリア11における第1下溝14aに対して導波路形成溝21が対向するように、ベースブロック10の上面10aの第1エリア11に配置されて第1導波路121を有する第1導波管120を形成する(図5(b)、(c)も参照)。第1導波路121は、導波路内部が金属壁で囲まれた断面矩形形状の標準的な矩形導波管である。
【0037】
図4に示すように、第1固定ブロックの第3端面20aには、ベースブロック10の上面10aから上部において第1導波路121の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝22が形成されている。チョーク溝22の内周側の側壁面22aには、導波路形成溝21の底壁面21bと側壁面21aとで形成される端部開口の角部21cに対応してチョーク溝22内に角度θ(端部開口の長辺に対する角度)で突き出た幅w3の溝内突部23が形成されている。チョーク溝22は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する深さDを有している。
【0038】
導波路形成溝21の端部開口とチョーク溝22との間隔は、後で図11を参照して説明するように、チョーク溝22の平面視形状を規定する内周楕円e1及び外周楕円e2の少なくとも短軸方向において、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する間隔t1に設定されている。
【0039】
<第2固定ブロック>
図1及び図2に示すように、第2固定ブロック40は、第1固定ブロック20と同様に、対向する第7端面40a及び第8端面40bと下面40cとを有して直方体状に形成されている。下面40cには、第7端面40a及び第8端面40bに直交する向きで第7端面40aから第8端面40bに至る導波路形成溝41が設けられている。第2固定ブロック40は、ベースブロック10の第3エリア13における第3下溝14cに対して導波路形成溝41が対向するように、ベースブロック10の上面10aの第3エリア13に配置されて第3導波路141を有する第3導波管140を形成する(図5(b)、(c)も参照)。第3導波路141は第1導波路121と断面形状、断面サイズが同一である。第3導波路141は、第1導波路121の中心を通過する線上に形成されている。第3導波路141は、導波路内部が金属壁で囲まれた断面矩形形状の標準的な矩形導波管である。
【0040】
第2固定ブロック40の第7端面40aにも、第1固定ブロック20と同一のチョーク構造(すなわち、チョーク溝と溝内突部)が設けられているが、チョーク構造を設けない構成であってもよい。
【0041】
<可動ブロック>
図1及び図2に示すように、可動ブロック30は、対向する第5端面30a及び第6端面30bと下面30cとを有して直方体状に形成されている。具体的には、可動ブロック30は、第1固定ブロック20の第3端面20aに対して所定の隙間Gを開けて平行に対向して配置される第5端面30aと、第2固定ブロック40の第7端面40aに対して所定の隙間Gを開けて平行に対向して配置される第6端面30bと、ベースブロック10の第2エリア12の複数の金属ピン15の上面15aから離間して複数の金属ピン15と第2下溝14bの上を覆う下面30cとを有し、第2下溝14b上に第2導波路131を有する第2導波管を形成する(図5も併せて参照)。可動ブロック30は、ベースブロック10の第2エリア12と、第1固定ブロック20の第3端面20aと、第2固定ブロック40の第7端面40aに対して、平行にスライド移動可能に構成されている。
【0042】
可動ブロック30の下面30cには、複数の金属ピン15の列間を第2導波路131の長手方向に直交する方向に移動可能なサイズの突起部31が設けられている。具体的には、可動ブロック30は、電磁波の伝搬方向(Z軸方向)に隣り合う金属ピン15間の隙間よりも小さい厚さの突起部31を下面30cに有する。ここで、「突起部31の厚さ」とは、導波管スイッチ1における電磁波の伝搬方向(Z軸方向)の厚さを指す。突起部31は、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。突起部31は、例えば、半田付けや導電性の接着剤による接着により、下面30cに配置されていてもよい。あるいは、突起部31は、可動ブロック30の一部として一体形成されることにより、下面30cに配置されていてもよい。
【0043】
突起部31は、例えば、直方体形状を成しており、導波管スイッチ1における電磁波の伝搬方向(Z軸方向)に垂直な面の幅w4及び高さh4と、電磁波の伝搬方向(z軸方向)の厚さt4は、導波管スイッチ1において不要な共振モードが発生しない値に適宜設定可能である。
【0044】
次に、導波路の両側に金属ピン15が設けられたギャップ導波管における電磁波の伝搬特性分布のシミュレーション結果について説明する。図7(a)は、直方体形状の金属ピン15がベースブロック10に無限周期配列されたシミュレーションモデルを示している。図7(b)は、図7(a)のシミュレーションモデルにおける直方体形状の金属ピン15の1つ当たりのサイズを示している。
【0045】
可動ブロック30の下面30cと金属ピン15の上面15aとのギャップ幅g、金属ピン15のピッチp、金属ピン15の高さh、金属ピン15の幅wは、例えば以下のような値である。
・ギャップ幅g=λ/20=0.06245mm
・金属ピンのピッチp=λ/3=0.4163mm
・金属ピンの高さh=λ/4=0.3123mm
・金属ピンの幅w=λ/6=0.2082mm
ここで、λは、理想とする伝搬阻止帯域の中心周波数に対応する自由空間波長であり、例えば中心周波数を240GHzとするとき、λ=1.249mmである。
【0046】
図8は、図7(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルにおいて、上記の金属ピン15に関するパラメータを用いて、金属ピン15の側面に垂直に電磁波を照射した際の分散特性を示している。このシミュレーション結果は、146~366GHzの伝搬阻止帯域においては、いかなる伝搬モードも発生せず、電磁波の伝搬が遮断されることを示している。WR-3帯域はこの伝搬阻止帯域内に収まっているため、上記の金属ピン15に関するパラメータを用いれば、WR-3導波管として機能するギャップ導波管を構成できることが分かる。
【0047】
本実施形態では、ベースブロック10と可動ブロック30とにより、ギャップ導波管(第2導波管)130が構成される。ギャップ導波管130は、複数の金属ピン15と、ベースブロック10の第2エリア12の第2下溝14bと、可動ブロック30の下面30cとで囲まれて形成されたギャップ導波路(第2導波路)131を有する。複数の金属ピン15が周期的に配置された領域では、電磁波の伝搬が阻止され、電磁界エネルギーが閉じ込められる一方、複数の金属ピン15が配置されていないギャップ導波路131においては、電磁波が伝搬できるようになっている。
【0048】
ギャップ導波路131の断面形状及び断面サイズは、第1導波路121と第3導波路141の断面形状及び断面サイズと同一である。ギャップ導波路131は、第1導波路121と第3導波路141の中心を通過する線上に形成されている。すなわち、ベースブロック10の第2エリア12の第2下溝14bの底面と、可動ブロック30の下面30cとの距離は、第1導波路121及び第3導波路141の長方形の開口の短辺方向の幅に等しい。また、複数の金属ピン15が設けられていない第2エリア12の第2下溝14bの幅は、第1導波路121及び第3導波路141の長方形の開口の長辺方向の幅に等しい。例えば、第1導波路121及び第3導波路141は、内寸が0.864mm×0.432mmであり、WR-3帯域(220~325GHz)を透過帯域とするWR-3導波管を構成する。
【0049】
本実施形態におけるギャップ導波管130は、標準的な金属導波管の導波路の側面部が導体壁ではなく、周期的に配置された複数の金属ピン15に置き換わった構造を有している。金属ピン15の上面15aは、ギャップ導波路131上部と同様に空気ギャップを挟んで可動ブロック30の下面30cと対向しているため、ベースブロック10と可動ブロック30との金属接触はない。
【0050】
すなわち、本実施形態の導波管スイッチ1は、ベースブロック10と可動ブロック30との金属接触を必要としないという特徴を有する。このため、通常の入出力導波管である第1導波管120及び第3導波管140と、ギャップ導波管130を所定の位置関係に固定して、機械的摩耗なく可動ブロック30だけをスライドすることが可能となる。
【0051】
加えて、ギャップ導波路131の電磁波の伝搬方向(Z軸方向)に沿った管壁に相当する部分は、複数の金属ピン15が周期的に並んだ構造であるから、隣り合う金属ピン15間の隙間よりも薄い構造物である突起部31を、その隙間を通して挿抜することが可能である。
【0052】
<駆動装置>
次に、可動ブロック30をスライド移動させる駆動装置60について説明する。
【0053】
図5(a)~(c)は、ベースブロック10の第2エリア12において金属ピン15が設けられていない格納エリア17と可動ブロック30の下面30cとに挟まれた格納領域58に、可動ブロック30の突起部31が配置された状態を示している。図5(a)は第2固定ブロック40を取り外して見た正面図であり、図5(b)は右側面図であり、図5(c)は平面図である。図5(a)~(c)に示す状態は、導波管スイッチ1が、第1導波路121と第3導波路141との間の電磁波の透過を可能にする接続状態(以下、「ON状態」又は「オン状態」とも呼ぶ)である。
【0054】
図6(a)~(c)は、ギャップ導波路131の位置に突起部31が配置されて、第1導波路121又は第3導波路141から入力された電磁波が突起部31で反射される状態を示している。図6(a)は第2固定ブロック40を取り外して見た正面図であり、図6(b)は右側面図であり、図6(c)は平面図である。すなわち、図6(a)~(c)に示す状態は、導波管スイッチ1が、第1導波路121と第3導波路141との間の電磁波の伝搬の遮断を可能にする非接続状態(以下、「OFF状態」又は「オフ状態」とも呼ぶ)である。
【0055】
図1に示す駆動装置60は、可動ブロック30の突起部31が第2導波路131を基準に複数の金属ピン15より外側の格納領域58に位置するOFF状態と、可動ブロック30の突起部31が第2導波路131内に位置するON状態との間で切り替え可能なように、可動ブロック30をスライド移動させるようになっている。
【0056】
可動ブロック30は、駆動装置60によってベースブロック10に対してスライド移動可能に支持されている。駆動装置60の構造は任意であるが、可動ブロック30の位置と移動距離をセンサやエンコーダ等で検出して、ON状態及びOFF状態を実現する位置に可動ブロック30を選択的に移動できるように構成されていればよい。このようにして、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、第1導波路121と第3導波路141との間の電磁波の透過と遮断とを切り替えるためのSPSTスイッチとして機能する。
【0057】
<導波管接続構造>
次に、導波管スイッチ1に用いられる導波管接続構造100について説明する。
【0058】
導波管接続構造100は、第1導波管120とギャップ導波管130とを接続する構造、あるいは第3導波管140とギャップ導波管130とを接続する構造である。以下では、簡単のため、第1導波管120とギャップ導波管130とを接続する構造について説明するが、第3導波管140とギャップ導波管130とを接続する構造についても同様である。
【0059】
図1~6に示すように、本発明の実施形態に係る導波管接続構造100は、ベースブロック10とともに標準的な第1導波管120を形成する第1固定ブロック20の第3端面20aと、ベースブロック10とともにギャップ導波管130を形成する可動ブロック30の第5端面30aとが、所定の隙間Gを開けて平行に対向する構造である。
【0060】
ベースブロック10とともに第1導波管120を構成する第1固定ブロック20の第3端面20aには、導波路形成溝21の長方形の端部開口の周囲を囲む位置に、第3端面20aと第5端面30aの隙間Gからの電磁波漏出を防止するためのチョーク溝22が設けられている。
【0061】
(比較例)
図10(a)は、比較例のシミュレーションモデルを示し、チョーク溝が形成されていない標準的な導波管70と、ギャップ導波管80とを、所定の隙間Gを開けて平行に対向させた導波管接続構造を示す斜視図である。導波管70及びギャップ導波管80は、WR-3帯域を透過帯域とするWR-3導波管に相当する。図10(b)は、図10(a)のシミュレーションモデルにおいて、使用周波数を280GHzとし、隙間Gを300μmとした場合の電界の面内分布のシミュレーション結果を示している。
【0062】
図10(b)のシミュレーション結果によれば、チョーク溝を設けていない導波管70から隙間Gに放射される電磁波の280GHzでの波面(等位相線)は、ギャップ導波管80の存在によりギャップ側領域(図中、中央水平に金属ピンや導波管が整列した部分より上側の領域)とピン側領域(図中、中央水平に金属ピンや導波管が整列した部分より下側の領域)とで位相がほぼ180°ずれることが分かった。波面の形状はギャップ側領域の方がピン側領域より扁平な形状を取っており、導波管70から1波長以上離れたところではギャップ側領域及びピン側領域ともにほぼ円形になるが、導波管70付近では楕円に近い形状となっている。
【0063】
図10(b)のシミュレーション結果から、ギャップ導波管80の存在によりギャップ側領域とピン側領域とで位相がほぼ180°ずれ、かつわずかに形状が異なるためギャップ側領域とピン側領域とでチョーク構造を異ならせるのが好ましいと推測される。
【0064】
(導波管接続構造の検討)
比較例のシミュレーション結果を受け、より簡単なチョーク構造を検討するため、ピン側領域を導体壁とし、ギャップ側領域にチョーク構造を設けたモデルを検討する。
【0065】
図11は、ギャップ側領域のみに楕円形チョーク構造を設けたシミュレーションモデルを示す。図11のシミュレーションモデルにおいて、チョーク溝22は、平面視で第1導波路121の長方形の開口の中心Oを中心とし、長軸方向が第1導波路121の長方形の開口の長辺に平行な内周楕円e1と外周楕円e2を境界とする帯状領域に形成されている。チョーク溝22は、第1導波路121の開口を取り囲む部分楕円状であるが、「部分楕円状」とは、チョーク溝22の境界を規定する内周楕円e1と外周楕円e2が楕円全体ではなく、第1固定ブロック20の下面20cまでの範囲に制限された楕円の一部分であることを意味する。よって、チョーク溝22は、第1固定ブロック20の第3端面20aにおいて、一端側が下面20cから始まり他端側が下面20cで終わるように形成される。ベースブロック10の上面10aより下部への電磁波の漏出は、ベースブロック10により抑えられているので、ベースブロック10の上面10aから上部に設けられている部分楕円状のチョーク溝22により電磁波の漏出を効果的に抑制することができる。
【0066】
図4及び図11に示すように、チョーク溝22の側壁面は、第3端面20aに対して垂直である。チョーク溝22の深さDは、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/4に相当する。本実施形態においては、漏出防止対象周波数は、WR-3帯域(220~325GHz)の中心周波数である272.5GHzとする。このとき、管内波長λは、約1.43mmである。ここで、管内波長λの1/4に相当する深さとは、管内波長λの1/4の±20%の範囲の深さを指すものとする。本明細書及び特許請求の範囲において、「管内波長λの1/4」というときは、管内波λの1/4の±20%の範囲をいうものとする。なお、漏出防止対象周波数は、上記の値に限定されるものではなく、第1導波管120及び第2導波管130のサイズに応じたWR-3帯域又はそれ以外の所望の周波数帯域内の任意の周波数であってもよい。
【0067】
チョーク溝22の幅w2は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/4に相当する。ここで、管内波長λの1/4に相当する幅とは、管内波長λの1/4の±20%の範囲の幅を指すものとする。チョーク溝22の幅は、外周楕円e2の短半径と内周楕円e1の短半径との差、及び外周楕円e2の長半径と内周楕円e1の長半径と差に等しい。
【0068】
幾何光学的には、電磁波の等位相面に沿った曲面鏡を電磁波の伝搬経路上に置けば、曲面鏡で反射された電磁波の反射波は、曲面鏡に入射した電磁波の入射波の進行方向を逆向きにたどる。このため、第1導波路121から隙間Gに漏れて第1導波路121に直接入射しない放射波の等位相面に沿った楕円形状の曲面鏡(チョーク溝22)を形成すれば、チョーク溝22での放射波の反射波は、放射波の入射波と逆相になり打ち消し合う。つまり、チョーク溝22により不要な放射波を抑圧できると推測される。
【0069】
第1固定ブロック20の第3端面20aには、第1導波路121とチョーク溝22とを隔てる隔壁部24が設けられ、隔壁部24は、第3端面20aと面一な端面24aを有する。隔壁部24の外周側の側壁面(すなわち、チョーク溝22の内周側の側壁面22a)には、第1導波路121の開口の対角線方向に沿って第1導波路121の開口から離れる方向に延伸する2つの溝内突部23,23が形成されている。2つの溝内突部23,23の延伸方向が内周楕円e1及び外周楕円e2の長軸に対して成す角度θは同じである。溝内突部23の延伸方向に直交する方向の幅w3は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/4に相当する。ここで、管内波長λの1/4に相当する幅とは、管内波長λの1/4の±20%の範囲の幅を指すものとする。
【0070】
また、導波路形成溝21の端部開口とチョーク溝22との間隔t1は、第1導波路121の開口の中心Oを中心とし長軸方向が該開口の長辺に平行でありかつチョーク溝22の平面視形状を規定する楕円(すなわち、内周楕円e1及び外周楕円e2)の少なくとも短軸方向において、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの略1/4に設定されている。管内波長λの1/4に相当する間隔とは、管内波長λの1/4の±20%の範囲の間隔を指すものとする。また、導波路形成溝21の端部開口の短辺部とチョーク溝22との間隔t2は、管内波長λの1/8の大きさである。管内波長λの1/8に相当する間隔とは、管内波長λの1/8の±20%の範囲の間隔を指すものとする。
【0071】
本実施形態の導波管接続構造100におけるチョーク溝22の寸法の一例は下記のとおりである(図4図11参照)。
・チョーク溝22の幅(w2):0.3617mm
・チョーク溝22の深さ(D):0.286mm
・導波路形成溝21の端部開口とチョーク溝22との間隔(t1):0.286mm
・導波路形成溝21の端部開口とチョーク溝22との間隔(t2):0.1415mm
・内周楕円e1の短半径(r1):0.502mm
・内周楕円e1の長半径(r2):0.5735mm
・外周楕円e2の短半径(r3):0.8637mm
・外周楕円e2の長半径(r4):0.9352mm
・溝内突部23の幅(w3):0.312mm
・溝内突部23の延伸方向が内周楕円e1の長軸に対して成す角度(θ):20°
・第3端面20aと第5端面30a間の隙間(G):0.05mm
【0072】
図12は、図11のシミュレーションモデルを用いて、導波管接続構造100における第1導波路121と第2導波路131の間の反射特性S11、透過特性S21、及び電磁波の漏れ率のシミュレーション結果を示している。標準的な第1導波管120とギャップ導波管130間の隙間Gは0.05mm(50μm)設けている。
【0073】
このシミュレーションでは、図10に示すポートP1側のギャップ導波管130から、ポートP2側の第1導波管120に向かって電磁波が入射するとしている。ここで、漏出(Leak)は、下記の式(1)で表される。
【0074】
Leak (dB) = 10log{1-(|S11|+|S21)} ・・・(1)
【0075】
図12(a)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz、比帯域約40%)を含む広い周波数範囲にわたって、反射損失S11が-15dB未満に抑えられることが確認できた。また、図12(b)に示すように、挿入損失S21については、WR-3帯域にわたって、-0.25dBよりも高い(0dBに近い)良好な値を示すことが確認できた。さらには図12(c)に示すように、第1導波路121とギャップ導波路131の間からの電磁波の漏出については、WR-3帯域にわたって、-15dB未満に抑えられることが確認できた。
【0076】
なお、ポートP1側を第1導波管120とし、ポートP2側をギャップ導波管130とした場合も、第1導波路121とギャップ導波路131の間の反射損失S11、挿入損失S21、及び漏出の値に変化はなかった。
【0077】
上述のように、本実施形態に係る導波管接続構造100は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/20程度までの所定の隙間Gに対して、WR-3導波管の動作周波数範囲全体(比帯域約40%)にわたり、反射損失S11を-15dB未満に抑え、挿入損失S21の絶対値を0.25dB未満に抑え、電磁波の漏出を-15dB未満に抑えることができる。
【0078】
<スイッチ動作のシミュレーション>
次に、本実施形態に係る導波管接続構造100を用いた導波管スイッチ1について、スイッチ動作のシミュレーション結果を説明する。
【0079】
図9(a)は、図5(a)~(c)に示したON状態の構成における第1導波路121とギャップ導波路131の間の反射特性S11及び透過特性S21のシミュレーション結果を示している。また、図9(b)は、図6(a)~(c)に示したOFF状態の構成における第1導波路121とギャップ導波路131の間の反射特性S11及び透過特性S21のシミュレーション結果を示している。これらのシミュレーションでは、第1導波路121からギャップ導波路131に向かって電磁波が伝搬するとしている。
【0080】
シミュレーション条件は以下のとおりである。なお、金属ピン15に関するサイズは、図7(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルと同一である。また、チョーク溝22に関するサイズは、図11に関して上述したサイズと同じである。
・突起部31の幅(w4):0.4mm
・突起部31の高さ(h4):0.3mm
・突起部31の厚さ(t4):0.1mm
・突起部31の上面31aと格納庫底面17との距離(g4):0.0747mm
・第1導波路121の幅(a):0.864mm
・第1導波路121の高さ(b):0.432mm
・金属ピン15の上面15aと可動ブロック30の下面30cとの距離(g):0.06245mm
・凸部16の上面16aと可動ブロック30の下面30cとの距離(g2):0.06245mm
・格納エリア17のX軸方向の長さ(L):0.6872mm
・格納庫底面17と可動ブロック30の下面30cとの距離(g3):0.3747mm
・第3端面20aと第5端面30aとの隙間(G):0.05mm
【0081】
図9(a)及び(b)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz)において、ON状態で-4dBよりも高い透過特性S21が得られたのに対し、OFF状態では-10dBよりも低い透過特性S21が得られた。一方、ON状態で-12dBよりも低い反射特性S11が得られたのに対し、OFF状態では-1dBよりも高い反射特性S11が得られた。すなわち、図9(a)及び(b)のシミュレーション結果から、本実施形態の導波管スイッチ1が、ON状態とOFF状態とで電磁波の透過及び遮断を切り替えられるSPSTスイッチとして機能することが確認できた。
【0082】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る導波管接続構造100は、方形導波管などの標準的な第1導波管120と導波路の両側に複数の金属ピン15が周期的に配置されたギャップ導波管130との接続構造において、第1固定ブロック20の第3端面20aには、ベースブロック10の上面10aから上部において第1導波路121の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝22が形成されている。この構成により、標準的な第1導波管120とギャップ導波管130との接続箇所の隙間Gからの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0083】
また、本実施形態に係る導波管接続構造100は、チョーク溝22の内周側の側壁面22aには導波路形成溝21の底壁面21bと側壁面21aとで形成される端部開口の角部21cに対応してチョーク溝22内に突き出た溝内突部23が形成されている。この構成により、第1導波路121とチョーク溝22の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、標準的な導波管120とギャップ導波管130との接続箇所の隙間Gからの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0084】
また、本実施形態に係る導波管接続構造100において、チョーク溝22は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/4に相当する深さDを有している。この構成により、チョーク溝22の底壁面22cに向かう漏出防止対象周波数に対応する電磁波と底壁面22cから反射する電磁波が打ち消し合うことにより、標準的な導波管120とギャップ導波管130との接続箇所の隙間Gからの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0085】
また、本実施形態に係る導波管接続構造100において、導波路形成溝21の端部開口とチョーク溝22との間隔t1は、第1導波路121の開口の中心Oを中心とし長軸方向が該開口の長辺に平行でありかつチョーク溝22の平面視形状を規定する楕円e1,e2の短軸方向において、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/4に設定されている。この構成により、第1導波路121の開口からチョーク溝22に向かう漏出防止対象周波数に対応する電磁波とチョーク溝22から反射する電磁波が打ち消し合うことにより、標準的な導波管120とギャップ導波管130との接続箇所の隙間Gからの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0086】
本実施形態に係る導波管接続構造100は、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/20程度までの隙間Gに対して、標準的な方形導波管の動作周波数範囲全体(比帯域40%)にわたり、電磁波の漏出を-15dB以下に抑えることができる。
【0087】
本実施形態に係る導波管スイッチ1は、上述した導波管接続構造100を導波管スイッチ1の可動部に用いることで、入出力ポート間で導波管接続箇所の隙間Gからの意図しない電磁波の漏出を抑えることができ、広帯域にてスイッチの透過損失を低減することができる。
【0088】
本実施形態に係る導波管スイッチ1は、本実施形態に係る導波管接続構造100を導波管スイッチ1の可動部に用いることで、標準的な入出力導波管に相当する第1導波管120及び第3導波管140と、ギャップ導波管本体(すなわち第2エリア12)を構成するベースブロック10とを所定の位置関係に固定し、突起部31が設けられた可動ブロック30だけをスライド可能としている。この構成により、周期的に並んだ金属ピン15の隙間よりも薄い突起部31を金属ピン15が設けられていない格納領域58とギャップ導波管130のギャップ導波路131とのいずれかに配置することが可能であるため、電磁波の透過(ON状態)及び遮断(OFF状態)を切り替えるSPSTスイッチとして機能することができる。
【0089】
このように、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、第1導波路121と第3導波路141を接続するギャップ導波管130のギャップ導波路131の位置が固定されているため、従来のスライド式導波管スイッチで見られたような、導波路同士のずれに起因した意図しない反射点が生じない。これにより、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、広帯域性に優れた導波管スイッチとして機能することができる。
【0090】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る導波管スイッチに用いられる導波管接続構造について、図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0091】
図13は、本実施形態に係る導波管接続構造における第1固定ブロック20の第3端面20aに設けられる多重楕円形のチョーク溝22の構成を示す部分斜視図である。チョーク溝22は、固定ブロック20の第3端面20aにおいて、第1導波路121の開口を基準にチョーク溝22-1の外側に、同一幅w2の複数の溝22-2,...,22-5が所定の同一間隔t3で並行に配置されている。各チョーク溝22-1,22-2,22-3,22-4,22-5の深さDは、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/4である。
【0092】
具体的には、チョーク溝22は、第1の実施形態の楕円形のチョーク溝22と同じチョーク溝22-1の外側に4つのチョーク溝22-2,22-3,22-4,22-5が内側から順に設けられた構成である。導波路形成溝21とチョーク溝22-1との間には、隔壁部24-1が設けられ、チョーク溝22-1と22-2との間には、隔壁部24-2が設けられ、チョーク溝22-2と22-3との間には、隔壁部24-3が設けられ、チョーク溝22-3と22-4との間には、隔壁部24-4が設けられ、チョーク溝22-4と22-5との間には、隔壁部24-5が設けられている。隔壁部24-2,24-3,24-4,24-5の厚さは同じである。
【0093】
導波路形成溝21とチョーク溝22-1との間を隔てる隔壁部24-1は、第1の実施形態と同一であり、図4に示すように、内周側の側壁面22aに、導波路形成溝21の角部21cに対応して溝内突部23,23が設けられている。2つの溝内突部23,23の幅w3は、両方とも、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λの1/4である。
【0094】
図14は、シミュレーションモデルを示す図である。本実施形態に係るチョーク溝22は、図4のチョーク溝22の平面視形状を規定する内周楕円e1及び外周楕円e2と同様に、平面視でチョーク溝22-1の境界は、内周楕円e1-1及び外周楕円e2-1により規定され、チョーク溝22-2の境界は、内周楕円e1-2及び外周楕円e2-2により規定され、チョーク溝22-3の境界は、内周楕円e1-3及び外周楕円e2-3により規定され、チョーク溝22-4の境界は、内周楕円e1-4及び外周楕円e2-4により規定され、チョーク溝22-5の境界は、内周楕円e1-5及び外周楕円e2-5により規定される。各内周楕円及び外周楕円の中心は、第1導波路121の長方形の開口の中心Oに一致する。よって、最も内側の内周楕円から最も外側の外周楕円に向かうにつれて、各内周楕円及び外周楕円の楕円率は1に近づいていく。
【0095】
図14に示すシミュレーションモデルにおいて、多重楕円形のチョーク溝22の寸法は次のとおりである(図4も参照)。金属ピン15は、図7で説明したモデルと同様の寸法を有するものとした。
・チョーク溝の幅(w2):0.3617mm
・チョーク溝の間隔(t3):0.12mm
・溝内突部23の幅(w3):0.312mm
・チョーク溝の深さ(D):0.286mm
・第3端面20aと第5端面30a間の隙間(G):0.05mm
【0096】
図15は、図14のシミュレーションモデルを用いて、導波管接続構造100における第1導波路121とギャップ導波路131の間の反射特性S11、透過特性S21、及び漏れ率について、溝数を変えてシミュレーションした結果を示している。多重化することで帯域自体にさほど変化は見られないが、落ち込みがシャープになる傾向が観察された(図15(a)及び(b)参照)。また、漏れ率の計算を行うと標準的な第1導波管120とギャップ導波管130間の隙間Gは50μm設けているにも関わらず、5重構造ではWR-3の全帯域において-50dB未満の漏れ率を達成できることが確認できた(図15(c)参照)。
【0097】
上記の説明では、導波管接続構造100における第1固定ブロック20の第3端面20aに5つのチョーク溝22を含むとしたが、本発明はこれに限定されず、6以上あるいは4以下の楕円チョーク溝を含んでもよい。
【0098】
以上説明したように、本実施形態に係る導波管接続構造100は、第1固定ブロック20の第3端面20aには、ベースブロック10の上面10aから上部において第1導波路121の開口を取り囲む部分楕円状のチョーク溝が多重に形成されている。この構成により、標準的な第1導波管120とギャップ導波管130との接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。これは、チョーク溝22が、図10(b)に示したギャップ側領域(上側領域)において隙間Gへ漏れ出る電磁波の等位相面の変化に沿った構造になっているからである。これにより、本実施形態に係る導波管接続構造100は、第1の実施形態の導波管接続構造よりも更に効果的に、第1の導波管120とギャップ導波管130の接続箇所の隙間Gからの電磁波の漏出を抑えることができる。
【0099】
一般に、導波管スイッチなどの可動部には必ず隙間が必要であるが、機械加工精度の制約から許容される隙間には下限がある。また、可動部を支持している機構の摺動部の摩耗などによって隙間が広がることもある。周波数が高い(波長が短い)ほど、同じ隙間でも波長に対しては広くなるため、電磁波の漏出は増加する。したがって、本発明に係る導波管接続構造100及び導波管スイッチ1は、高い周波数帯の漏出防止に対して特に有用となり、また、可動部に許容される隙間を広く取れるため、機械加工精度が緩和され、経年変化への耐性も高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明は、標準的な入出力の導波管と可動部のギャップ導波管との接続箇所の隙間からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができかつ広帯域性に優れているという効果を有し、導波管接続構造及びこれを用いた導波管スイッチの全体に有用である。
【符号の説明】
【0101】
1 導波管スイッチ
10 ベースブロック
10a 上面
10b 第1端面
10c 第2端面
11 第1エリア
12 第2エリア
13 第3エリア
14 下溝
14a 第1下溝
14b 第2下溝
14c 第3下溝
15 金属ピン
15a 上面
16 凸部
16a 上面
17 格納エリア(格納庫底面)
20 第1固定ブロック(固定ブロック)
20a 第3端面
20b 第4端面
20c,30c,40c 下面
21 導波路形成溝(第1導波路形成溝)
21a 側壁面
21b 底壁面
21c 角部
22,22-1,22-2,22-3,22-4,22-5 チョーク溝
22a 内周側の側壁面
23 溝内突部
24,24-1,24-2,24-3,24-4,24-5 隔壁部
24a 端面
30 可動ブロック
30a 第5端面
30b 第6端面
31 突起部
31a 上面
40 第2固定ブロック
40a 第7端面
40b 第8端面
41 導波路形成溝(第2導波路形成溝)
58 格納領域
60 駆動装置
70 導波管
80 ギャップ導波管
100 導波管接続構造
120 第1導波管
121 第1導波路
130 第2導波管(ギャップ導波管)
131 第2導波路(ギャップ導波路)
140 第3導波管
141 第3導波路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15