(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096626
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】多層盛り溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20240709BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B23K9/095 501G
B23K9/12 350D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000256
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 友也
(57)【要約】
【課題】高電流の多層盛り溶接において、溶接金属再熱部に一様な脆化組織が広く分布することを防止し、偶発的な脆化を抑制することができる多層盛り溶接方法を提供する。
【解決手段】消耗電極式の多層盛り溶接方法であって、第1の層を溶接する第1溶接工程と、第1の層の次層である第2層を、ビード幅方向にウィービングしながら1層1パスで溶接する第2溶接工程とを備え、第2溶接工程は、ウィービングの途中で所定時間、トーチを一時停止させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極式の多層盛り溶接方法であって、
第1の層を溶接する第1溶接工程と、
第1の層の次層である第2の層を、ビード幅方向にウィービングしながら1層1パスで溶接する第2溶接工程と
を備え、
前記第2溶接工程は、
ウィービングの途中で所定時間、トーチを一時停止させる
多層盛り溶接方法。
【請求項2】
前記第2溶接工程は、
ウィービングの途中で前記トーチがビード幅方向両端側に到達した際、前記所定時間、前記トーチを一時停止させる工程である
請求項1に記載の多層盛り溶接方法。
【請求項3】
前記所定時間は0.1秒以上である
請求項2に記載の多層盛り溶接方法。
【請求項4】
前記第2溶接工程は、
母材の厚み方向に複数の凸形状又は凹形状を含む溶融境界線が形成されるように、ウィービングの途中で前記トーチを一時停止させる
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多層盛り溶接方法。
【請求項5】
第2の層の次層である第3の層以降を1層1パスで溶接する場合、ビード幅方向にウィービングしながら、ウィービングの途中で所定時間、前記トーチを一時停止させて溶接する
請求項1に記載の多層盛り溶接方法。
【請求項6】
溶接ワイヤに平均電流300A以上、650A以下の溶接電流を供給し、30kJ/cm以上、65kJ/cm以下の溶接入熱で溶接する
請求項1に記載の多層盛り溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層盛り溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、300A以上の高電流条件でのGMA(Gas Metal Arc)溶接が着目されている(例えば、特許文献1)。高電流溶接では、深い溶込みが得られ、溶接ワイヤの溶着速度が高いことにより、厚板溶接を高能率化することができる。また、特許文献2には、上記高電流条件でのGMA溶接において、溶接電流を周期的に変動させることによって溶接状態を安定化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6581438号公報
【特許文献2】特許第6748556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高電流条件での多層盛り溶接においては、前層の溶接金属が高入熱で再熱を受けることにより、ミクロ組織が変化し、継手が脆化するという技術的な問題がある。
【0005】
脆化の度合いは、溶接ワイヤ及び母材の化学成分や開先の希釈率、再熱を受けるパスと再熱を与えるパス双方の入熱条件など、様々な影響を受けて変化する。通常の多層盛り溶接では、再熱を与えるパスの溶込み形状は下に凸の形状となる(
図4参照)。溶融境界線42aからの距離が同じ位置(破線上)においては、再熱による加熱及びその後の冷却による温度履歴は概ね同等であり、同じ金属組織となる。従って、再熱部においては、溶融境界線42aに沿って同じ金属組織が連続的に広く分布する。
溶接施工条件は、再熱部が著しく脆化しないような条件として検討及び決定されるが、材料の加工精度や取り付け精度、溶接速度や突出し長さ、ウィービング条件などの運棒の精度、次パス溶接時のパス間温度等にはばらつきが生じ、それによって出力電流及び電圧又は入熱条件にもばらつきが生じる。このようなばらつきが生じると、再熱部に想定を超える脆化組織が偶発的に現れる場合がある。このような脆化組織が、上述のように再熱部に連続的に広く分布すると、継手の著しい脆化に繋がる。
【0006】
本開示の目的は、高電流の多層盛り溶接において、溶接金属再熱部に一様な脆化組織が広く分布することを防止し、偶発的な脆化を抑制することができる多層盛り溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る多層盛り溶接方法は、消耗電極式の多層盛り溶接方法であって、第1の層を溶接する第1溶接工程と、第1の層の次層である第2の層を、ビード幅方向にウィービングしながら1層1パスで溶接する第2溶接工程とを備え、前記第2溶接工程は、ウィービングの途中で所定時間、トーチを一時停止させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高電流の多層盛り溶接において、溶接金属再熱部に一様な脆化組織が広く分布することを防止し、偶発的な脆化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る消耗電極式のアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。
【
図2】埋もれアークの溶接条件を示す模式図である。
【
図3】本実施形態に係る多層盛り溶接方法を示す概念図である。
【
図4】比較例に係る多層盛り溶接方法を示す概念図である。
【
図5】本実施形態に係る多層盛り溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係る多層盛り溶接方法を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0011】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。本実施形態に係る溶接方法は、GMA溶接、具体的には埋もれアーク溶接を用いた厚板の多層盛り溶接であって、特殊なウィービングにより溶込み形状を工夫することで、前パスの再熱部組織及びその分布を複雑化し、一様な脆化組織が広く分布するのを防止し、偶発的に発生し得る脆化を抑制することができる多層盛り溶接方法を実現する方法である。
【0012】
<アーク溶接装置>
図1は、本実施形態に係る消耗電極式のアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。本実施形態に係るアーク溶接装置は、GMA(Gas Metal Arc)を行う溶接半自動溶接機であり、溶接電源1、トーチ2及びワイヤ送給装置3を備える。
【0013】
トーチ2は、銅合金等の導電性材料からなり、母材4の被溶接部へ溶接ワイヤ5を案内すると共に、アークの発生に必要な溶接電流Iwを供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤ5に接触し、溶接電流Iwを溶接ワイヤ5に供給する。また、トーチ2は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、被溶接部へシールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、例えば炭酸ガス、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。
【0014】
溶接ワイヤ5は、例えばソリッドワイヤであり、その直径は0.9mm以上1.6mm以下であり、消耗電極として機能する。溶接ワイヤ5は、例えば、螺旋状に巻かれた状態でペールパックに収容されたパックワイヤ、あるいはワイヤリールに巻回されたリールワイヤである。
【0015】
ワイヤ送給装置3は、溶接ワイヤ5をトーチ2へ送給する送給ローラと、当該送給ローラを回転させるモータとを有する。ワイヤ送給装置3は、送給ローラを回転させることによって、ワイヤリールから溶接ワイヤ5を引き出し、引き出された溶接ワイヤ5をトーチ2へ供給する。なお、かかる溶接ワイヤ5の送給方式は一例であり、特に限定されるものでは無い。
【0016】
溶接電源1は、給電ケーブルを介して、トーチ2のコンタクトチップ及び母材4に接続され、溶接電流Iwを供給する電源部11と、溶接ワイヤ5の送給速度を制御する送給速度制御部12とを備える。なお、電源部11及び送給速度制御部12を別体で構成しても良い。電源部11は、PWM制御された直流電流を出力する電源回路11a、制御回路11b、電圧検出部11c、電流検出部11dを備える。
【0017】
電圧検出部11cは、溶接電圧Vwを検出し、検出した電圧値を示す電圧値信号Vdを制御回路11bへ出力するセンサである。
【0018】
電流検出部11dは、例えば、溶接電源1からトーチ2を介して溶接ワイヤ5へ供給され、アークを流れる溶接電流Iwを検出し、検出した電流値を示す電流値信号Idを制御回路11bへ出力するセンサである。
【0019】
電源回路11aは、商用交流を交直変換するAC-DCコンバータ、交直変換された直流をスイッチングにより所要の交流に変換するインバータ回路、変換された交流を整流する整流回路等を備える。制御回路11bは、設定された溶接条件、検出された溶接電流Iw及び溶接電圧Vwに基づいて、電源回路11aのインバータ回路をPWM制御する。母材4及び溶接ワイヤ5間には、所用の溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。
【0020】
トーチ2側に設けられた手元操作スイッチが操作された場合、トーチ2は溶接電源1へ出力指示信号を出力する。出力指示信号は、図示しない制御通信線を介して溶接電源1に入力され、制御回路11bは、当該出力指示信号をトリガにして、電源回路11aに溶接電圧Vw及び溶接電流Iwの出力を開始させる。
【0021】
<埋もれアーク溶接>
本実施形態の多層盛り溶接方法は、GMA溶接、具体的には埋もれアーク溶接を用いて行う。
【0022】
図2は、埋もれアークの溶接条件を示す模式図である。溶接ワイヤ5に大電流を供給すると、母材4に凹状の溶融部分が形成され、溶接ワイヤ5の先端部が溶融部分によって囲まれた空間に進入する。以下、凹状の溶融部分によって囲まれる空間を埋もれ空間と呼び、埋もれ空間に進入した溶接ワイヤ5と、母材4又は溶融部分との間に発生するアークを、適宜、埋もれアークと呼ぶ。
【0023】
図2に示すグラフの横軸は溶接電流Iw、縦軸は溶接電圧Vwを示している。埋もれアーク溶接を実現する溶接条件は、溶接電流Iwの平均電流が300A以上、650A以下である。溶接電流Iwが300A未満になると、アーク圧力が弱くなり、溶融金属を押し下げることができず、埋もれアーク溶接を維持することができなくなる。650Aを超えると、入熱量が過大になり、再熱部の温度履歴を複雑化しても、再熱部の脆化を防止することができない。
【0024】
溶接電圧Vw(アーク電圧)は、溶接条件等によって変化する上限電圧が存在する。上限電圧は、埋もれアークを維持できる上限の電圧であり、その電圧を超えると、埋もれアーク溶接でなく、通常の直流溶接となる臨界電圧である。上限電圧は、溶接電流Iwの増加関数であり、溶接電流Iwが大きくなる程、高くなる。この上限電圧よりも約4V低い電圧が下限電圧である。下限電圧より低い電圧では、溶接ワイヤ5の先端位置の下降に伴い、溶接ワイヤ5と溶融池との短絡が頻発し、溶接が不安定化する。
【0025】
なお、上限電圧及び下限電圧は、溶接ワイヤ5の種類、ワイヤ径、溶接電流Iw、ワイヤ突出し長さ、開先形状、溶接速度、溶接電源二次側の負荷状態等の様々な影響を受けて変化するが、溶接電流Iwと溶接電圧Vwの関係は概ね
図2に示した通りである。
【0026】
高電流の埋もれアーク溶接を安定化させる溶接条件は以下の通りである。埋もれアーク溶接においては、10Hz以上1000Hz以下の周波数、好ましくは50Hz以上300Hz以下の周波数、より好ましくは80Hz以上200Hz以下の周波数で溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを振動させるとよい。電流振幅は、50A以上、好ましくは100A以上500A以下、より好ましくは200A以上400A以下に設定するとよい。安定した高電流溶接が可能となる。
【0027】
一般的なGMA溶接は、高電流条件では安定しにくく、スパッタも多いため、低電流条件で溶接される場合が多く、再熱部の脆化が問題とならない場合が多い。一方、埋もれアーク溶接は、上記の通り、高電流での安定化制御が確立されており、300A以上の高電流溶接が可能である。しかし、埋もれアーク溶接においては、高電流溶接による再熱部の脆化が問題となる。本実施形態に係る多層盛り溶接方法は、この埋もれアーク溶接における再熱部の脆化を防ぐ方法として有効に働く。
【0028】
溶接入熱は、30kJ/cm以上、65kJ/cm以下である。溶接入熱が30kJ/cmを下回ると、入熱が小さいために、再熱部の脆化は大きな問題にならない。溶接入熱が65kJ/cmを上回ると、入熱量が過大になり、再熱部の温度履歴を複雑化しても、再熱部の脆化を防止することができない。
【0029】
<厚板の多層盛り溶接方法>
以下、埋もれアークによって、9~30mmの厚板である母材4を多層盛り溶接する方法を説明する。特に、本実施形態に係る多層盛り溶接方法が効果を発する溶接パスは、厚板の多層溶接において、2層目(2パス目)以降、かつ1層を1パスで施工する溶接パスである。当該パスは、再熱部の温度履歴が単調化し、同じ金属組織が一様に広く分布しやすくなる溶接パスである。
なお、1層を2パス以上で施工する場合は、温度履歴が異なる溶接パスの繰り返しによって再熱部を複雑化することができるため、本実施形態に係る溶接方法が大きな効果を発することはない。
【0030】
図3は、本実施形態に係る多層盛り溶接方法を示す概念図、
図4は、比較例に係る多層盛り溶接方法を示す概念図である。
図3及び
図4左図は、初層41が溶接された状態を示している。初層41は、1層目の溶接で形成されたビードである。母材4には開先4aが形成されており、初層41は1層1パスで溶接されている。ここでは、初層41を第1の層として取り扱う場合の例を示す。
図3右図は、本実施形態に係る多層盛り溶接方法を用いて、第1の層とした初層41の次層である第2層(第2の層)42を溶接した状態を示している。
図4右図は、本実施形態に係る多層盛り溶接方法を用いずに第2層42を溶接した状態を示している。
【0031】
第2層42を溶接する際、溶接作業者は、ビード幅方向のウィービングを行いながら1層1パスで溶接を行う。特に、本実施形態に係る多層盛り溶接方法においては、ウィービングの途中、トーチ2がビード幅方向両端側に到達した際、所定時間、例えば0.1秒以上、トーチ2を一時停止させながら、第2層42を1層1パス溶接する。より好ましくは、トーチ2がビード幅方向両端側に到達した際、所定時間、例えば0.2秒以上、トーチ2を一時停止させながら、第2層42を1層1パス溶接する。
【0032】
このようにウィービングの途中でトーチ2を一時停止させて溶接を行うと、
図3右図に示すように、単純な下方凸でない形状の溶融境界線42aを得ることができる。例えば、ビード幅方向中央部は上方凸、ビード幅方向両端部は下方凸の溶融境界線42aを得ることができる。ウィービングの途中でトーチ2を一時停止させない、通常の溶接で第2層42を1層1パス溶接した場合、
図4右図に示すように、溶融境界線42aは、単純な下方凸形状となる。
【0033】
ドットでハッチングされた領域は、第2層42の溶接により溶融した金属部分を示している。母材4の厚み方向、両矢印で示す範囲は、第2層42の溶接により、再熱の影響を受ける1層目のビード部分である。
【0034】
上記した通り、通常の多層盛り溶接では、
図4に示す通り、再熱を与えるパスの溶込み形状は下方凸の形状となる。点線で示す部分は再熱部の末端41aである。破線Lで示す部分は、溶融境界線42aからの距離が同じ位置を示しており、破線L上では再熱による加熱及びその後の冷却による温度履歴が概ね同等となり、同じ金属組織となる。従って、再熱部においては、溶融境界線42aに沿って同じ金属組織が連続的に広く分布する。このように脆化組織が連続的に広く分布すると、継手が著しく脆化するおそれがある。
【0035】
本実施形態に係る多層盛り溶接では、
図3に示すように、溶融境界線42aの形状が複雑化し、再熱部の温度履歴は位置によって複雑に変化するため、同じ金属組織が連続的に広く分布することが抑制される。
【0036】
図5は、本実施形態に係る多層盛り溶接方法の手順を示すフローチャートである。まず、溶接作業者は、溶接により接合されるべき一対の母材4をアーク溶接装置に配置し、溶接条件等の各種設定を行う。具体的には、板状の第1母材及び第2母材を用意し、被溶接部である端面を突き合わせて、所定の溶接作業位置に配する。なお、必要に応じて、第1母材及び第2母材にY形、レ形等の任意形状の開先4aを設けても良い。第1及び第2母材は、例えば軟鋼、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼等の鋼板であり、厚みは9mm以上30mm以下である。そして、上記した埋もれアーク溶接を実現する電圧、電流、周波数、電流振幅等を設定する。
【0037】
まず、溶接作業者は、初層41を1層1パスで溶接する(ステップS11)。初層41の溶接方法は特に限定されるものでは無い。
【0038】
次いで、溶接作業者は、第2層42を、ビード幅方向にウィービングしながら1層1パスで溶接する(ステップS12)。ステップS12においては、埋もれアーク溶接条件で溶接する。この際、溶接作業者は、ウィービングの途中、トーチ2がビード幅方向両端側に到達した際、所定時間、例えば0.1秒以上、トーチ2を一時停止させながら、溶接を行う。
【0039】
次いで、溶接作業者は、第2層42以降の次層、例えば第3層(第3の層)を1層1パスで溶接するか否かを判定する(ステップS13)。1層1パスで溶接すると判定した場合(ステップS13:YES)、溶接作業者は、ステップS12と同様の方法で、ビード幅方向にウィービングしながらかつ、ビード幅方向両端側に到達した際、所定時間、トーチ2を一時停止させながら、1層1パスで溶接する(ステップS14)。ステップS14においては、埋もれアーク溶接条件で溶接する。
【0040】
1層複数パスで溶接すると判定した場合(ステップS13:NO)、溶接作業者は、任意の方法で、次層を1層複数パスで溶接する(ステップS15)。溶接作業者は、ウィービング無しで溶接してもよいし、ウィービングしながら溶接してもよいし、ステップS12と同様の方法で溶接してもよい。
【0041】
ステップS14又はステップS15の溶接工程を終えた溶接作業者は、最終層の溶接を終えたか否かを判定する(ステップS16)。最終層の溶接を終えていないと判定した場合(ステップS16:NO)、溶接作業者は、ステップS13に戻り、次層の溶接工程を続ける。最終層の溶接を終えたと判定した場合(ステップS16:YES)、多層盛り溶接を終える。
【0042】
(実施例)
25mm厚板(SN490B)の3層3パス溶接を行う実施例を説明する。
溶接ワイヤ5としてワイヤ径1.4mmのソリッドワイヤ(YGW18)を用い、シールドガスとして炭酸ガスを用いて埋もれアーク溶接を行う。溶接電圧Vwを周期的に変動させる上記した電圧振幅制御を適用する。
母材4の開先角度は35°、ルートギャップは4mmを基本条件とするが、開先角度は±3°程度、ルートギャップは±2mm程度のばらつきが生じ得る。裏当ては板厚9mmの圧延鋼材SN490Bとする。溶接条件は、溶接電流500A、アーク電圧42V、溶接速度21cm/分の、溶接入熱60kJ/cmを基本条件とするが、溶接電流Iwは±50A程度、アーク電圧は±2V程度、溶接速度は±10cm/min程度のばらつきが生じ得る。
【0043】
第1層目ではウィービングは行わない。第2層目及び第3層目はビード幅方向にウィービングを行い、端点で0.2秒の停止時間を設け、
図3に示すような下に凸でない溶込み形状を得る。これにより、諸条件のばらつきに起因する、偶発的な継手の脆化が生じる頻度(例えば、シャルピー吸収エネルギーが27J未満になる頻度や、70J未満になる頻度)を低減することができる。
【0044】
以上の通り、本実施形態に係る多層盛り溶接方法によれば、再熱を与える溶接パスにより前溶接パスにかかる入熱を複雑化することによって、再熱部の組織及びその分布を複雑化し、脆化組織が一様に分布することを防止することで、継手の脆化を抑制することができる。
具体的には、2層目以降を1層1パスで溶接する際、ウィービングを行い、ビードの幅方向両端側で0.1秒以上、一時停止させることにより、簡単な操作で、脆化組織が一様に分布することを防止することができる。
特に埋もれアーク溶接を用いた多層盛り溶接において、2層目以降を1層1パスで溶接する際に、ウィービングを行い、ウィービング途中でトーチ2を一時停止させることにより、高能率で母材4を溶接することができ、かつ偶発的な脆化を抑制することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、第2層目以降を1層1パスで溶接する際、ウィービングを行い、ビードの幅方向両端側で一時停止させる例を説明したが、トーチ2の停止箇所は特に限定されるものでは無い。母材4の厚み方向に複数の凸形状又は凹形状を含む溶融境界線42aが母材4に形成されるように、トーチ2を適宜箇所で一時停止させるとよい。ランダムに、トーチ2を一時停止させてもよい。また、ビードの幅方向一方側で一時停止させ、幅方向他方側で一時停止させないようにしてもよい。
【0046】
また、第2層目以降を1層1パスで溶接する際、ウィービングを行いながら、トーチ2を一時停止させる箇所を異なるようにしてもよい。再熱部の組織及びその分布がより複雑化し、継手の脆化を抑制することができる。
【0047】
更に、初層及び次層を1層1パスで溶接する例を説明したが本発明は、初層及び次層の溶接に限定されるものでは無い。言い換えると、本発明に係る第1の層は初層に限定されるものでは無い。任意の第1の層と、当該第1の層の次層である第2の層とをそれぞれ1層1パスで溶接する場合にも本発明を適用することができる。
【0048】
本開示の課題を解決するための手段を付記する。
(付記1)
消耗電極式の多層盛り溶接方法であって、
第1の層を溶接する第1溶接工程と、
第1の層の次層である第2の層を、ビード幅方向にウィービングしながら1層1パスで溶接する第2溶接工程と
を備え、
前記第2溶接工程は、
ウィービングの途中で所定時間、トーチを一時停止させる
多層盛り溶接方法。
(付記2)
前記第2溶接工程は、
ウィービングの途中で前記トーチがビード幅方向両端側に到達した際、前記所定時間、前記トーチを一時停止させる工程である
付記1に記載の多層盛り溶接方法。
(付記3)
前記所定時間は0.1秒以上である
付記1又は付記2に記載の多層盛り溶接方法。
(付記4)
前記第2溶接工程は、
母材の厚み方向に複数の凸形状又は凹形状を含む溶融境界線が形成されるように、ウィービングの途中で前記トーチを一時停止させる
付記1から付記3のいずれか1つに記載の多層盛り溶接方法。
(付記5)
第2の層の次層である第3の層以降を1層1パスで溶接する場合、ビード幅方向にウィービングしながら、ウィービングの途中で所定時間、前記トーチを一時停止させて溶接する
付記1から付記4のいずれか1つに記載の多層盛り溶接方法。
(付記6)
溶接ワイヤに平均電流300A以上、650A以下の溶接電流を供給し、30kJ/cm以上、65kJ/cm以下の溶接入熱で溶接する
付記1から付記5のいずれか1つに記載の多層盛り溶接方法。
【符号の説明】
【0049】
1:溶接電源、2:トーチ、3:ワイヤ送給装置、4:母材、5:溶接ワイヤ、11:電源部、11a:電源回路、11b:制御回路、11c:電圧検出部、11d:電流検出部、12:送給速度制御部、42a:溶融境界線