(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096627
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、インクジェット記録方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
B41J2/01 209
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000257
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山谷 自広
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EC07
2C056EC71
2C056FA13
2C056FD01
(57)【要約】
【課題】インク吐出部の繋ぎ目における画質の低下を抑制する。
【解決手段】インクジェット記録装置は、第1方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有する位置関係で複数のインク吐出部が配列されているラインヘッドと、ラインヘッドに対して第2方向に相対移動する記録媒体に、ラインヘッドの各ノズルからインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、第1方向に延びるライン画像を記録させる記録制御を行う記録制御手段と、を備え、記録制御手段は、記録制御においては、重複領域の少なくとも一部に設定された切替領域のうち、第1方向について所定の切替位置の一方側では、重複領域にノズルを有する2つのインク吐出部のうち一方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、切替位置の他方側では、他方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、2以上の基準数のライン画像ごとに切替位置を変更する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向について互いに異なる位置に設けられた複数のノズルを各々有する複数のインク吐出部が、前記第1方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有する位置関係で配列されているラインヘッドと、
前記ラインヘッドに対して前記第1方向に直交する第2方向に相対移動する記録媒体に、前記ラインヘッドの各ノズルから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、前記第1方向に延びるライン画像を記録させる記録制御を行う記録制御手段と、
を備え、
前記記録制御手段は、
前記記録制御を複数回行うことにより前記記録媒体に画像を形成させ、
前記記録制御においては、前記重複領域の少なくとも一部に設定された切替領域のうち、前記第1方向について所定の切替位置の一方側では、前記重複領域にノズルを有する2つの前記インク吐出部のうち一方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、前記切替位置の他方側では、他方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、
2以上の基準数の前記ライン画像ごとに前記切替位置を変更する、
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録制御手段は、
前記基準数の前記ライン画像ごとに、前記第1方向について前記切替領域の一端側から他端側に向かって前記他端を超えない範囲内で前記切替位置を繰り返し変更する第1の変更制御と、
前記基準数の前記ライン画像ごとに、前記第1方向について前記他端側から前記一端側に向かって前記一端を超えない範囲内で前記切替位置を繰り返し変更する第2の変更制御と、
を交互に行う、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記記録制御手段は、
前記第1の変更制御及び前記第2の変更制御において、一定の変更幅で前記切替位置を変更し、
前記第1の変更制御において前記切替位置が前記他端に一致した場合には、前記変更幅とは異なる所定の距離だけ前記他端から前記一端側に折り返した位置を次回の前記切替位置とする、
請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録制御手段は、
前記第1の変更制御において次回の前記切替位置が前記他端を超える場合には、前記他端から超える分だけ前記他端から前記一端側に折り返した位置を次回の前記切替位置とし、
前記第2の変更制御において次回の前記切替位置が前記一端を超える場合には、前記一端から超える分だけ前記一端から前記他端側に折り返した位置を次回の前記切替位置とする、
請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録制御手段は、
前記基準数の前記ライン画像ごとに、前記第1方向について前記切替領域の一端側から他端側に向かって前記他端を超えない範囲内で前記切替位置を繰り返し変更する第1の変更制御を行い、
次回の前記切替位置が前記他端を超える場合には、前記切替位置を前記一端又は当該一端の近傍に戻して再度前記第1の変更制御を行う、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録制御手段は、
前記第1の変更制御において、一定の変更幅で前記切替位置を変更し、
前記第1の変更制御において前記切替位置が前記他端に一致した場合には、前記変更幅とは異なる所定の距離だけ前記一端から前記他端側にずらした位置を次回の前記切替位置とする、
請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録制御手段は、前記第1の変更制御において次回の前記切替位置が前記他端を超える場合には、前記他端から超える分だけ前記一端から前記他端側にずらした位置を次回の前記切替位置とする、
請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記記録制御手段は、前記第1方向について一定の変更幅で前記切替位置を変更し、
前記変更幅は、当該変更幅の整数倍が、前記第1方向についての前記切替領域の長さと一致しないように定められている、
請求項2~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記記録制御手段は、前記画像の形成中に前記基準数を変更する、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記記録制御手段は、次回の前記切替位置の変更において前記切替位置の変更方向が前回の変更時から変化する場合には、前記次回の切替位置の変更に係る前記基準数を、前記切替位置の変更方向が変化しない場合よりも増大させる、
請求項2~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記切替位置は、前記第1方向に所定の切替幅を有しており、
前記記録制御手段は、前記記録制御においては、前記第1方向について前記切替位置の前記切替幅の一方側から他方側にかけて、前記2つのインク吐出部の各々がインクを吐出可能なドットの配分率が漸増又は漸減するように前記2つのインク吐出部により相補的なインク吐出を行わせる、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記記録制御手段は、前記記録制御に係る処理の少なくとも一部を、所定回数の前記記録制御について一括して行い、
前記基準数は、前記所定回数の整数倍である、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記複数のインク吐出部の各々は、温度によってゲル状又は固体状と、液状との間で相変化するインクを各前記ノズルから吐出する、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
第1方向について互いに異なる位置に設けられた複数のノズルを各々有する複数のインク吐出部が、前記第1方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有する位置関係で配列されているラインヘッドを備えたインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、
前記ラインヘッドに対して前記第1方向に直交する第2方向に相対移動する記録媒体に、前記ラインヘッドの各ノズルから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、前記第1方向に延びるライン画像を記録させる記録ステップを含み、
前記記録ステップを複数回行うことにより前記記録媒体に画像を形成させ、
前記記録ステップにおいては、前記重複領域の少なくとも一部に設定された切替領域のうち、前記第1方向について所定の切替位置の一方側では、前記重複領域にノズルを有する2つの前記インク吐出部のうち一方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、前記切替位置の他方側では、他方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、
2以上の基準数の前記ライン画像ごとに前記切替位置を変更する、
インクジェット記録方法。
【請求項15】
第1方向について互いに異なる位置に設けられた複数のノズルを各々有する複数のインク吐出部が、前記第1方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有する位置関係で配列されているラインヘッドを備えたインクジェット記録装置のコンピューターを、
前記ラインヘッドに対して前記第1方向に直交する第2方向に相対移動する記録媒体に、前記ラインヘッドの各ノズルから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、前記第1方向に延びるライン画像を記録させる記録制御を行う記録制御手段として機能させ、
前記記録制御手段は、
前記記録制御を複数回行うことにより前記記録媒体に画像を形成させ、
前記記録制御においては、前記重複領域の少なくとも一部に設定された切替領域のうち、前記第1方向について所定の切替位置の一方側では、前記重複領域にノズルを有する2つの前記インク吐出部のうち一方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、前記切替位置の他方側では、他方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、
2以上の基準数の前記ライン画像ごとに前記切替位置を変更する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のノズルを有するインク吐出部(記録ヘッドやヘッドモジュール等)と、記録媒体とを相対移動させながら、ノズルから記録媒体にインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置がある。近年、インクジェット記録装置では、記録速度の向上等を目的として、上記相対移動の方向と直交する幅方向に複数のインク吐出部を繋げた長尺のラインヘッドが用いられている。このようなラインヘッドとしては、複数のインク吐出部が、幅方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有するように、例えば千鳥状に配列されたものが知られている。
【0003】
このようなラインヘッドを用いる場合、重複領域においては、当該重複領域にノズルを有する2つのインク吐出部(相対移動方向について上流側及び下流側のインク吐出部)による相補的なインク吐出が行われる。また、従来、重複領域における相補的なインク吐出のパターンを工夫することで、複数のインク吐出部の繋ぎ目における濃度の不連続を抑制する技術が提案されている。例えば特許文献1には、重複領域において上流側及び下流側の各インク吐出部のノズルによりそれぞれインクを吐出させる割合である分担率を幅方向について相補的に漸減又は漸増させることにより、濃度むらを抑制する技術が開示されている。また、特許文献1では、このような分担率が得られるように、上流側及び下流側の各インク吐出部による吐出ドットと非吐出ドットとを相補的に分布させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、重複領域においては、上流側のインク吐出部から吐出されたインクの着弾タイミングと、下流側のインク吐出部から吐出されたインクの着弾タイミングとの間に時間差が生じる。よって、上流側及び下流側の各インク吐出部から吐出されたインクの境界部分では、着弾タイミングが異なるインクが一部重なるように着弾する。着弾タイミングが異なるインクが重なると、インクと前処理剤との反応状態や、記録媒体への湿潤状態等が互いに異なることとなるため、同一タイミングで着弾した場合とはインクの表面形状が異なってくる。重複領域以外の通常領域においては、1つのインク吐出部から吐出されたインクがほぼ同一のタイミングで着弾するので、重複領域における上記の境界部分では、通常領域との間でインクの表面状態に差が生じやすい。よって、特許文献1のように、吐出ドットと非吐出ドットとを相補的に分布させる方法では、上記の境界部分が多く生じるため、通常領域との間でインクの表面状態の差が大きくなりやすい。このため、複数のインク吐出部の繋ぎ目において光沢ムラや質感の差異などが生じての画質が低下しやすいという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、インク吐出部の繋ぎ目における画質の低下を抑制することができるインクジェット記録装置、インクジェット記録方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のインクジェット記録装置の発明は、
第1方向について互いに異なる位置に設けられた複数のノズルを各々有する複数のインク吐出部が、前記第1方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有する位置関係で配列されているラインヘッドと、
前記ラインヘッドに対して前記第1方向に直交する第2方向に相対移動する記録媒体に、前記ラインヘッドの各ノズルから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、前記第1方向に延びるライン画像を記録させる記録制御を行う記録制御手段と、
を備え、
前記記録制御手段は、
前記記録制御を複数回行うことにより前記記録媒体に画像を形成させ、
前記記録制御においては、前記重複領域の少なくとも一部に設定された切替領域のうち、前記第1方向について所定の切替位置の一方側では、前記重複領域にノズルを有する2つの前記インク吐出部のうち一方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、前記切替位置の他方側では、他方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、
2以上の基準数の前記ライン画像ごとに前記切替位置を変更する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、
前記基準数の前記ライン画像ごとに、前記第1方向について前記切替領域の一端側から他端側に向かって前記他端を超えない範囲内で前記切替位置を繰り返し変更する第1の変更制御と、
前記基準数の前記ライン画像ごとに、前記第1方向について前記他端側から前記一端側に向かって前記一端を超えない範囲内で前記切替位置を繰り返し変更する第2の変更制御と、
を交互に行う。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、
前記第1の変更制御及び前記第2の変更制御において、一定の変更幅で前記切替位置を変更し、
前記第1の変更制御において前記切替位置が前記他端に一致した場合には、前記変更幅とは異なる所定の距離だけ前記他端から前記一端側に折り返した位置を次回の前記切替位置とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、
前記第1の変更制御において次回の前記切替位置が前記他端を超える場合には、前記他端から超える分だけ前記他端から前記一端側に折り返した位置を次回の前記切替位置とし、
前記第2の変更制御において次回の前記切替位置が前記一端を超える場合には、前記一端から超える分だけ前記一端から前記他端側に折り返した位置を次回の前記切替位置とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、
前記基準数の前記ライン画像ごとに、前記第1方向について前記切替領域の一端側から他端側に向かって前記他端を超えない範囲内で前記切替位置を繰り返し変更する第1の変更制御を行い、
次回の前記切替位置が前記他端を超える場合には、前記切替位置を前記一端又は当該一端の近傍に戻して再度前記第1の変更制御を行う。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、
前記第1の変更制御において、一定の変更幅で前記切替位置を変更し、
前記第1の変更制御において前記切替位置が前記他端に一致した場合には、前記変更幅とは異なる所定の距離だけ前記一端から前記他端側にずらした位置を次回の前記切替位置とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、前記第1の変更制御において次回の前記切替位置が前記他端を超える場合には、前記他端から超える分だけ前記一端から前記他端側にずらした位置を次回の前記切替位置とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項2~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、前記第1方向について一定の変更幅で前記切替位置を変更し、
前記変更幅は、当該変更幅の整数倍が、前記第1方向についての前記切替領域の長さと一致しないように定められている。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、前記画像の形成中に前記基準数を変更する。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項2~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、次回の前記切替位置の変更において前記切替位置の変更方向が前回の変更時から変化する場合には、前記次回の切替位置の変更に係る前記基準数を、前記切替位置の変更方向が変化しない場合よりも増大させる。
【0017】
請求項11に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記切替位置は、前記第1方向に所定の切替幅を有しており、
前記記録制御手段は、前記記録制御においては、前記第1方向について前記切替位置の前記切替幅の一方側から他方側にかけて、前記2つのインク吐出部の各々がインクを吐出可能なドットの配分率が漸増又は漸減するように前記2つのインク吐出部により相補的なインク吐出を行わせる。
【0018】
請求項12に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記記録制御手段は、前記記録制御に係る処理の少なくとも一部を、所定回数の前記記録制御について一括して行い、
前記基準数は、前記所定回数の整数倍である。
【0019】
請求項13に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記複数のインク吐出部の各々は、温度によってゲル状又は固体状と、液状との間で相変化するインクを各前記ノズルから吐出する。
【0020】
また、上記目的を達成するため、請求項14に記載のインクジェット記録方法の発明は、
第1方向について互いに異なる位置に設けられた複数のノズルを各々有する複数のインク吐出部が、前記第1方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有する位置関係で配列されているラインヘッドを備えたインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法であって、
前記ラインヘッドに対して前記第1方向に直交する第2方向に相対移動する記録媒体に、前記ラインヘッドの各ノズルから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、前記第1方向に延びるライン画像を記録させる記録ステップを含み、
前記記録ステップを複数回行うことにより前記記録媒体に画像を形成させ、
前記記録ステップにおいては、前記重複領域の少なくとも一部に設定された切替領域のうち、前記第1方向について所定の切替位置の一方側では、前記重複領域にノズルを有する2つの前記インク吐出部のうち一方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、前記切替位置の他方側では、他方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、
2以上の基準数の前記ライン画像ごとに前記切替位置を変更する。
【0021】
また、上記目的を達成するため、請求項15に記載のプログラムの発明は、
第1方向について互いに異なる位置に設けられた複数のノズルを各々有する複数のインク吐出部が、前記第1方向についてのノズルの配置範囲が一部重複する重複領域を有する位置関係で配列されているラインヘッドを備えたインクジェット記録装置のコンピューターを、
前記ラインヘッドに対して前記第1方向に直交する第2方向に相対移動する記録媒体に、前記ラインヘッドの各ノズルから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、前記第1方向に延びるライン画像を記録させる記録制御を行う記録制御手段として機能させ、
前記記録制御手段は、
前記記録制御を複数回行うことにより前記記録媒体に画像を形成させ、
前記記録制御においては、前記重複領域の少なくとも一部に設定された切替領域のうち、前記第1方向について所定の切替位置の一方側では、前記重複領域にノズルを有する2つの前記インク吐出部のうち一方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、前記切替位置の他方側では、他方のインク吐出部のノズルからインクを吐出させ、
2以上の基準数の前記ライン画像ごとに前記切替位置を変更する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インク吐出部の繋ぎ目における画質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す図である
【
図2】ラインヘッドを搬送ベルト側から見た場合の概略図である。
【
図3】インクジェット記録装置の主要な機能構成を示すブロック図である。
【
図4】重複領域における相補的なインク吐出動作を説明する図である。
【
図5】上流側HM及び下流側HMから一部重なる位置に吐出されたインクの形状を示す図である。
【
図6】上流側から一部重なる位置に吐出されたインクの形状を示す図である。
【
図7】切替位置を1ラインごとにランダムに変更した比較例を示す図である。
【
図8】切替位置の変更パターン(1)を説明する図である。
【
図9】切替位置の変更パターン(2)を説明する図である。
【
図10】切替位置の変更パターン(1a)を説明する図である。
【
図11】切替位置の変更パターン(2a)を説明する図である。
【
図12】切替位置の変更パターン(1b)を説明する図である。
【
図13】切替位置の変更パターン(1b)の他の例を説明する図である。
【
図14】切替位置の変更パターン(2b)を説明する図である。
【
図15】切替位置の変更パターン(1c)を説明する図である。
【
図16】切替位置の変更パターン(2c)を説明する図である。
【
図17】実施形態における上流側HM及び下流側HMへのドットの配分率の切り替え態様を示す図である。
【
図18】変形例における上流側及び下流側HMへのドットの配分率の切り替え態様を示す図である。
【
図19】変形例におけるドットの配分率の他の切り替え態様を示す図である。
【
図20】変形例におけるドットの配分率の他の切り替え態様を示す図である。
【
図21】変形例におけるドットの配分率の他の切り替え態様を示す図である。
【
図22】画像記録処理の制御手順を示すフローチャートである。
【
図23】画像記録処理の他の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のインクジェット記録装置、インクジェット記録方法及びプログラムに係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
(インクジェット記録装置の構成)
図1は、本発明の実施形態であるインクジェット記録装置1の概略構成を示す図である。
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、複数のラインヘッド21を有する記録部20などを備える。
【0026】
搬送部10(移動手段)は、
図1のX方向(第1方向)に延びる回転軸を中心に回転する2本の搬送ローラー11、12と、搬送ローラー11、12により内側が支持された輪状の搬送ベルト13とを備える。搬送ベルト13は、図示略の搬送モーターの動作に応じて搬送ローラー11が回転することで、搬送ローラー11、12の回りを周回移動する。搬送部10は、搬送ベルト13の搬送面上に記録媒体Mが載置された状態で搬送ベルト13が周回移動することで、記録媒体Mを搬送ベルト13の移動方向(
図1のY方向(第2方向))に搬送する。言い換えると、搬送部10は、記録部20のラインヘッド21と記録媒体MとをY方向に相対移動させる。Y方向は、X方向に直交する。以下では、X方向を、記録媒体Mの「幅方向」とも記し、Y方向を、記録媒体Mの「搬送方向」とも記す。X方向は「主走査方向」とも呼ばれ、Y方向は「副走査方向」とも呼ばれる。
【0027】
記録媒体Mは、例えば、一定の寸法に裁断された枚葉紙であってもよい。記録媒体Mは、図示略の給紙装置により搬送ベルト13上に供給され、ラインヘッド21からインクが吐出されて画像が記録される。その後、記録媒体Mは、搬送ベルト13から所定の排紙部に排出される。なお、記録媒体Mとしては、ロール紙等の長尺の媒体が用いられてもよい。記録媒体Mとしては、普通紙や塗工紙といった紙のほか、布帛、又はシート状の樹脂等、表面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の媒体を用いることができる。
【0028】
記録部20は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのラインヘッド21を備える。ラインヘッド21は、搬送部10により搬送される記録媒体Mに対して画像データに基づいて適切なタイミングでインクを吐出して画像を記録する。4つのラインヘッド21は、記録媒体Mの搬送方向上流側から、例えばY、M、C、Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。なお、ラインヘッド21の数は、使用する色の数等に応じて変更可能であり、3つ以下又は5つ以上であってもよい。
【0029】
図2は、ラインヘッド21を搬送ベルト13側から見た場合の概略図である。
ラインヘッド21は、インクを吐出する複数のノズルNが各々設けられた複数の記録ヘッド211を有する。各記録ヘッド211においては、複数のノズルNがX方向に配列されてノズル列を構成している。各記録ヘッド211においては、ノズルNからインクを吐出させる図示略の記録素子が、各ノズルNに対応して設けられている。記録素子は、それぞれ、ノズルNに連通しインクを貯留する圧力室(チャネル)と、圧力室の壁面に設けられた圧電素子と、圧電素子に電圧を印加して電界を生じさせるための電極とを有する。
【0030】
ラインヘッド21は、記録ヘッド211を駆動するヘッド駆動制御部213(
図3参照)を備えている。ヘッド駆動制御部213は、記録ヘッド211の各記録素子に対し、画像データに応じてノズルNからインクを吐出させるための駆動波形の電圧信号(駆動信号)を供給する。詳しくは、画像データの画素データ(ドットデータ)がインクの吐出に対応する値である場合には、ヘッド駆動制御部213は、記録素子の電極に、ノズルNからインクを吐出させるための駆動信号を供給する。この駆動信号に応じて圧力室が変形して圧力室内の圧力が変化し、この圧力の変化に応じて、圧力室に連通するノズルNからインクが吐出される。一方、画素データがインクの非吐出に対応する値である場合には、ヘッド駆動制御部213は、記録素子の電極に、ノズルNからインクを吐出させないための駆動信号を供給する。当該駆動信号は、例えば、ノズルNの開口部におけるインクの表面(メニスカス)をインク吐出に適した状態に維持するために、インクの液滴がノズルNから吐出されない範囲でメニスカスを振動させるための信号である。
【0031】
また、Y方向に隣接する2つの記録ヘッド211が組み合わされて、1つのヘッドモジュール(以下、「HM」と略す)212が構成されている。ラインヘッド21においては、複数の(本実施形態では、8個の)HM212が千鳥状に配列されている。HM212の数は8個に限られず、画像の記録幅等に応じて7個未満又は9個以上としてもよい。本実施形態では、HM212が「インク吐出部」に相当する。各HM212においては、2つの記録ヘッド211のノズルNがX方向について交互に配置されるような位置関係で記録ヘッド211が配置されている。よって、HM212が有する複数のノズルNは、X方向について互いに異なる位置に設けられている。本実施形態のHM212は、2つの記録ヘッド211のノズルNからX方向について相補的な位置にインクを吐出することにより、X方向について1200dpi(吐出位置の間隔は約21μm)の記録解像度による画像記録が可能となっている。なお、記録ヘッド211に2つ以上のノズル列が設けられていてもよい。この場合には、HM212に含まれる全てのノズル列の各ノズルNの位置が互いにX方向にずれるように、ノズルN(ノズル列)及び記録ヘッド211の位置が調整される。また、ノズルNのX方向の位置が互いに異なっていれば、ノズル列におけるノズルNの配列方向はX方向に対して傾斜していてもよい。
【0032】
複数のHM212は、X方向についてのノズルNの配置範囲が一部重複する重複領域Roを有する位置関係で千鳥状に配列されている。これにより、ラインヘッド21では、8つのHM212のノズルNからインクを吐出可能な範囲がX方向に連続的に繋がっている。また、ラインヘッド21に含まれるノズルNのX方向についての配置範囲は、記録媒体Mの幅方向についての画像記録可能幅をカバーしている。ラインヘッド21は、画像の記録時には位置が固定されて用いられ、記録媒体Mの搬送に応じて搬送方向の異なる位置に所定の間隔(搬送方向間隔)で順次インクを吐出していくことで、シングルパス方式で画像を記録する。
【0033】
記録ヘッド211のノズルNから吐出されるインクとしては、温度によってゲル状又は固体状と、液状との間で相転移する相転移型インク(相変化インク)が用いられる。ここで、液状にはゾル状が含まれるものとする。本実施形態では、温度によってゲル状とゾル状との間で相転移するインクが用いられる。当該インクには、ゲル化剤が添加されている。ゲル化剤は、他の化合物に添加した場合にゲルを形成しうる化合物であり、各種公知のものを用いることができる。常温より高い所定の溶融温度以上でインクがゾルに相転移し、常温より高い所定のゲル転移温度以下でインクがゲルに相転移するように、インクにおけるゲル化剤の種類や濃度が調整されている。
【0034】
ラインヘッド21は、ラインヘッド21内に貯留されるインクを加熱するインク加熱部214(
図3参照)を備える。インク加熱部214は、CPU31(
図3参照)による制御下で動作し、ゾル状となる温度にインクを加熱する。ラインヘッド21の各HM212(各記録ヘッド211)は、加熱されてゾル状となったインクをノズルNから吐出する。このゾル状のインクは、記録媒体Mに吐出されると、記録媒体Mに着弾した直後に、自然冷却されることで速やかにゲル状に相転移してほとんど体積収縮が生じることなく記録媒体M上で凝固する。ここで、記録媒体M上で凝固するとは、記録媒体Mに着弾したインクの少なくとも一部が記録媒体Mに浸み込む前にインクの液滴の形状がある程度保持された状態で、すなわち記録媒体Mの表面形状とは異なる表面形状を有した状態で凝固することを言う。この状態で凝固したインクの表面は、表面形状に応じて入射光を散乱させる。本実施形態では、記録媒体Mへの着弾後、50~100ミリ秒程度で凝固するような特性及び温度のインクがノズルNから吐出される。
【0035】
なお、紫外線等のエネルギー線を照射することにより硬化する性質をさらに有する相転移型インクを用いてもよい。この場合には、
図1の記録部20に対して搬送方向下流側に、記録媒体M上のインクに対して紫外線を照射してインクを硬化、定着させる紫外線照射部(定着部)が設けられる。
【0036】
図3は、インクジェット記録装置1の主要な機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、搬送駆動部14及びロータリーエンコーダー15を有する搬送部10と、ラインヘッド21を有する記録部20と、CPU31(Central Processing Unit)、RAM32(Random Access Memory)、及びROM33(Read Only Memory)を有する制御部30と、記憶部40と、操作表示部50と、通信部60と、バス70などを備える。インクジェット記録装置1の各部は、バス70を介して接続されている。
【0037】
搬送部10の搬送駆動部14は、CPU31から供給される制御信号に基づいて図示略の搬送モーターに駆動信号を供給して搬送ローラー11を所定の回転速度で回転させることにより、搬送ベルト13を所定の移動速度で移動させる。また、搬送駆動部14は、CPU31から供給される制御信号に基づいて搬送ローラー11の回転速度、すなわち搬送ベルト13の移動速度を変化させることもできる。
【0038】
ロータリーエンコーダー15は、搬送ローラー11に取り付けられ、搬送ローラー11が所定の角度回転するごとにパルス信号(検出信号)を制御部30及びヘッド駆動制御部213に出力する。ロータリーエンコーダー15の構成は、特には限られないが、例えば、所定の円周上に配列された複数のスリットが設けられ搬送ローラー11とともに回転するコードホイールと、当該コードホイールのスリットに光を照射する発光部と、発光部から射出されスリットを通過した光を検出する受光部とを備え、受光部による光の検出結果に基づくパルス信号を制御部30及びヘッド駆動制御部213に出力する構成とすることができる。
【0039】
上述のとおり、記録部20のラインヘッド21は、ヘッド駆動制御部213と、HM212と、インク加熱部214とを備える。
ヘッド駆動制御部213は、CPU31から供給される制御信号、及び記録対象の画像の画像データに基づいて、HM212(記録ヘッド211)の記録素子に対して適切なタイミングで駆動信号を供給する。これにより、ヘッド駆動制御部213は、各記録素子に対応するノズルNからインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作をHM212に行わせる。また、この駆動信号は、搬送部10により搬送される記録媒体Mの位置を示すロータリーエンコーダー15からのパルス信号に同期して出力される。本実施形態では、制御部30及びヘッド駆動制御部213により記録制御部100(記録制御手段、コンピューター)が構成される。
【0040】
インク加熱部214は、電熱線を有し、CPU31から供給される制御信号に応じて電熱線に通電して電熱線を発熱させることによりインクを加熱する。
【0041】
制御部30のCPU31は、ROM33に記憶されたプログラム331や設定データを読み出してRAM32に記憶させ、当該プログラム331を実行して各種演算処理を行う。また、CPU31は、インクジェット記録装置1の全体動作を統括制御する。例えば、CPU31は、記憶部40に記憶された画像データに基づいて搬送部10及び記録部20の各部を動作させて記録媒体M上に画像を記録させる。
【0042】
RAM32は、CPU31に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。RAM32は、不揮発性メモリーを含んでいてもよい。
【0043】
ROM33は、CPU31により実行される各種制御用のプログラム331や設定データ等を格納する。なお、ROM33に代えてフラッシュメモリー等の書き換え可能な不揮発性メモリーが用いられてもよい。
【0044】
記憶部40には、通信部60を介して外部のコンピューター端末やプリントサーバーなどから入力されたプリントジョブ(画像記録命令)及び当該プリントジョブに係る画像データ等が記憶される。記憶部40としては、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)が用いられ、また、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などが併用されてもよい。
【0045】
操作表示部50は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといった表示装置と、操作キーや、表示装置の画面に重ねられて配置されたタッチパネルといった入力装置とを備える。操作表示部50は、表示装置において各種情報を表示させ、また入力装置に対するユーザーの入力操作を操作信号に変換して制御部30に出力する。
【0046】
通信部60は、所定の通信プロトコルに従って外部のコンピューター端末やプリントサーバーなどから上述のプリントジョブを取得し、また、画像形成に係るステータス信号を出力する。
【0047】
なお、インクジェット記録装置1は、他の構成要素をさらに備えていてもよい。例えば、インクジェット記録装置1は、記憶部40に記憶された画像データに対してラスタライズ処理、ハーフトーン処理、色変換処理、及び階調補正処理といった画像処理を行う画像処理部を備えていてもよい。
【0048】
(インクジェット記録装置の動作)
次に、インクジェット記録装置1の動作について、重複領域Roにおけるインク吐出動作を中心に説明する。
本実施形態のインクジェット記録装置1では、重複領域Roにおいては、重複領域RoにノズルNを有する2つのHM212の各々のノズルNから相補的にインクが吐出される。以下では、重複領域RoにノズルNを有する2つのHM212のうち、搬送方向(Y方向)上流側のHM212を上流側HM212Uと記し、搬送方向下流側のHM212を下流側HM212Dと記す。
【0049】
図4は、重複領域Roにおける相補的なインク吐出動作を説明する図である。
図4の下部は、重複領域RoにノズルNを有する上流側HM212U及び下流側HM212Dの一部を、搬送ベルト13に相対する側から(
図1の上方から)見た平面図である。上流側HM212Uは、2つの記録ヘッド211a、211bを有し、下流側HM212Dは、2つの記録ヘッド211c、211dを有する。この平面図では、上流側HM212UのノズルNの位置が着色した円により模式的に示され、また下流側HM212DのノズルNの位置が白色の円により模式的に示されている。重複領域Roにおいては、上流側HM212Uの任意のノズルNのX方向の位置は、下流側HM212Dのいずれか1つのノズルNのX方向の位置と略一致する。このようにX方向の位置が略一致する上流側HM212UのノズルN及び下流側HM212DのノズルNの組を、ノズル対NPと記す。
【0050】
図4の上部には、記録媒体Mのうち、上流側HM212U及び下流側HM212DのノズルNからインクが吐出される位置が微小な円により示されている。1つの円は、画像データにおける1つの画素データに対応し、以下では「ドット」と記す。ドットは、記録媒体Mに記録される画像Imを構成する画素と言い換えることもできる。各ドットには、対応する画素データがインクの吐出に対応する値である場合にはインクが吐出され、対応する画素データがインクの非吐出に対応する値である場合にはインクが吐出されない。X方向に配列されたドットからなる一本のラインにより、ライン画像Iが構成される。
図4には、24本のライン画像I1~I24が描かれている。このように複数のライン画像IをY方向に隣接させて複数記録することで、1つの画像Imが形成される。
【0051】
重複領域Roでは、記録媒体M上の1つのドットに対して、ノズル対NPのうち一方のノズルNのみがインクを吐出することができる。
図4の上部では、上流側HM212UのノズルNからインクが吐出される位置が、着色された円により示され、下流側HM212DのノズルNからインクが吐出される位置が、白色の円により示されている。よって、着色された円は、上流側HM212Uがインクを吐出可能なドットとして上流側HM212Uに配分されたドットを表し、白色の円は、下流側HM212Dがインクを吐出可能なドットとして下流側HM212Dに配分されたドットを表す。以下では、上流側HM212Uに配分されたドットからなる領域を「上流側吐出領域A」と記し、下流側HM212Dに配分されたドットからなる領域を「下流側吐出領域B」と記す。このように、重複領域Roでは、上流側HM212U及び下流側HM212Dにドットが配分されることで、相補的にインクが吐出される。記録媒体Mの搬送に応じて、記録媒体M上の各ライン画像Iの位置がノズルNと対向したタイミングで、各HM212が、当該HM212に配分されたドットにインクを吐出していくことで、ライン画像I1~I24がこの順に記録される。
【0052】
このような相補的なインク吐出を行うために、上記のドットの配分が反映されるように重複領域Roの画素データをマスクしたマスク画像データが、各HM212に対応して生成される。詳しくは、マスク画像データは、重複領域Roの画素データのうちHM212に配分されていないドットの画素データを、非吐出に対応する値に変更したデータである。マスク画像データは、例えば、制御部30が、画像Imに係る画像データのうち重複領域Roに対応する部分に対して、上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分に応じたマスクパターンを有する所定のマスクパターンデータをそれぞれ適用することにより生成される。このマスク画像データに基づいてヘッド駆動制御部213から各HM212の記録素子に駆動信号を供給することで、
図4に示す相補的なインク吐出が行われる。
【0053】
マスク画像データのうち1つのライン画像Iに対応する部分に基づいて各HM212のノズルNからインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせることで、1つのライン画像Iが記録される。この1つのライン画像Iを記録させるために記録制御部100(制御部30及びヘッド駆動制御部213)が行う制御を、「記録制御」と記す。記録制御部100は、記録制御を複数回行うことにより記録媒体Mに画像Imを形成させる。あるライン画像Iに係る記録制御と、当該あるライン画像Iに隣接するライン画像Iに係る記録制御とは、通常、時間的に一部重複する。あるライン画像Iを形成するために上流側HM212Uからインクが吐出されるタイミングと、下流側HM212Dからインクが吐出されるタイミングとの間には時間差があるためである。
【0054】
また、記録制御部100は、記録制御に係る処理の少なくとも一部を、所定回数の記録制御について(すなわち、所定数のライン画像Iについて)一括して行う。具体的には、本実施形態の記録制御部100は、画像Imの画像データにマスクパターンデータを適用してマスク画像データを生成する処理を、8つの(所定数の)ライン画像Iの分について一括して行う。画像データの計算処理は負荷が大きいためである。また、生成した8ライン分のマスク画像データを制御部30からヘッド駆動制御部213に送信する処理も、一括して行ってもよい。以下では、記録制御部100が所定数のライン画像Iについて一括して行う処理を「複数ライン一括処理」と記す。
【0055】
次に、重複領域Roにおける上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分の態様について詳しく説明する。
図4の上部に示すように、各ライン画像Iにおいて、X方向について配分するHM212が切り替わる切替位置Pが定められている。詳しくは、切替位置Pは、ライン画像I1~I8については切替位置P1であり、ライン画像I9~I16については切替位置P1よりも+X方向側の切替位置P2であり、ライン画像I17~I24については切替位置P2よりも+X方向側の切替位置P3である。1つのライン画像Iに着目した場合、X方向について切替位置Pの一方側(
図4の左側、-X方向側)のドットは、下流側HM212Dに配分され、切替位置Pの他方側(
図4の右側、+X方向側)のドットは、上流側HM212Uに配分される。すなわち、記録制御部100は、切替位置Pの一方側では下流側HM212DのノズルNからインクを吐出させ、切替位置Pの他方側では上流側HM212UのノズルNからインクを吐出させる。なお、上流側HM212U及び下流側HM212DのX方向の位置関係が
図4とは逆である場合(上流側HM212Uが-X方向側、下流側HM212Dが+X方向側にある場合)には、切替位置Pの一方側(-X方向側)のドットが上流側HM212Uに配分され、切替位置Pの他方側(+X方向側)のドットが下流側HM212Dに配分される。
【0056】
切替位置Pは、2以上の基準数のライン画像Iごとに(すなわち、基準数の記録制御ごとに)変更される。本実施形態では、基準数は「8」である。
図4の例では、ライン画像I1から8ラインごとに、切替位置Pが、P1、P2、P3と+X方向に変更される。切替位置Pが同一となる複数のライン画像IのY方向の幅を、切替ライン数Wyと記す。
図4では、切替ライン数Wyは8ライン(8ドット)である。
基準数は、上述した複数ライン一括処理において一括して処理を行うライン数(上述の「所定回数」)の整数倍とされる。本実施形態では、基準数は、一括して処理を行うライン数(8ライン)の1倍である。このようにすることで、複数ライン一括処理において切替位置Pを変える必要がないため、マスク画像データの生成に係る処理負荷を軽減することができるとともに、複数ライン一括処理を高速化することができる。
【0057】
また、切替位置Pは、重複領域RoのうちX方向の一部に設定された切替領域Rの範囲内で変更される。以下では、
図4において、X方向について切替領域Rの-X方向側の端を「一端CL」、+X方向側の端を「他端CR」と記す。また、X方向についての切替領域Rの幅(長さ)を「切替領域幅Wr」と記す。なお、重複領域Roの全部を切替領域Rに設定してもよい。
【0058】
また、X方向についての切替位置Pの変更幅Wxは、一定とされている。
図4では、便宜上、変更幅Wxが10ドットとされている。ただし、後述するように変更幅Wxは概ね30ドット以上とすることが好ましい。
なお、画像Imの形成中に、所定の態様で切替位置Pの変更幅Wxを変更してもよい。
【0059】
本実施形態のように、切替位置Pを2以上の基準数のライン画像Iごとに変更する方法によれば、変更幅Wxを適切に設定することで、HM212の繋ぎ目における画質の低下を効果的に抑制することができる。以下、その理由について説明する。
【0060】
重複領域Roでは、1つのライン画像Iにおいては、上流側HM212Uからインクが吐出された後、上流側HM212Uと下流側HM212DとのY方向の距離に応じた時間差をおいて下流側HM212Dからインクが吐出される。よって、上流側HM212Uから吐出されたインクの着弾タイミングと、下流側HM212Dから吐出されたインクの着弾タイミングとの間に時間差が生じる。このため、上流側HM212U及び下流側HM212Dからそれぞれ吐出されたインクの境界部分では、着弾タイミングが異なるインクが一部重なるように着弾することとなる。
【0061】
図5は、上流側HM212U及び下流側HM212Dから一部重なる位置に吐出されたインクの形状を示す図である。
ここでは、
図5(a)に示すように、下流側HM212Dから吐出された2つのインク液滴DDが着弾した後に、これに一部重なるように上流側HM212Uから吐出された2つのインク液滴DUが着弾している。
図5(b)は、着弾したインク液滴DD、DUを記録媒体Mの上方から撮影した画像である。
図5(c)は、
図5(b)のa1-a2線の位置におけるインク液滴DD、DUの高さのプロファイルを示す図である。
図5(c)に示すように、インク液滴DD、DUがそれぞれ別個の凸部を形成した状態で凝固している。これは、インク液滴DDが着弾して凝固した後にインク液滴DUが着弾し、インク液滴DD、DUが合一せずに別個のタイミングで凝固したためである。本実施形態のように、記録媒体M上に着弾した後速やかに凝固する相転移型インクを用いた場合には、特にこの傾向が表れやすい。
【0062】
一方、
図6は、上流側HM212Uから一部重なる位置に吐出されたインクの形状を示す図である。
ここでは、
図6(a)に示すように、
図5(a)と同一の位置に上流側HM212Uから4つのインク液滴DUが吐出されて着弾している。
図6(b)は、着弾したインク液滴DUを記録媒体Mの上方から撮影した画像である。
図5(b)及び
図6(b)を比較すると、インクの着弾後の濡れ広がり方が互いに異なることが分かる。
図6(c)は、
図6(b)のb1-b2線の位置におけるインク液滴DUの高さのプロファイルを示す図である。
図6(c)に示すように、4つのインク液滴DUが1つの凸部を形成した状態で凝固している。これは、ほぼ同時に着弾した4つのインク液滴DUが、互いに合一した後に凝固したためである。
【0063】
重複領域Roを除いた通常領域では、1つのHM212によりインクが吐出されるため、着弾したインクは、
図6(c)に示すような形状となる。一方、重複領域Roのうち上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bの境界では、着弾したインクは、
図5(c)に示すような形状となる。
図5(c)及び
図6(c)のようにインクの表面形状が互いに異なると、インクの表面における入射光の散乱の態様が互いに相違する。このため、例えば
図7に示す比較例のように、上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bの境界が密集すると、通常領域との間で光沢ムラや質感の違いが視認されてしまう。
図7の比較例は、切替位置Pを1ラインごとにランダムに変更したものである。この配分方法を適用した場合、領域Zに示すように、上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bの境界がX方向に長く延び、かつこの境界が1ラインの幅で密集した状態となる。よって、領域Zにおいて、通常領域との間で、光沢ムラ及び質感の違いが視認されやすい。
【0064】
また、重複領域Roのうち上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bの境界と、通常領域とでは、
図5(b)及び
図6(b)に示したように、着弾後のインクの濡れ広がり方が相違する。よって、
図7に示す比較例のように上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bの境界が密集すると、インクの濡れ広がり方の相違に起因して、通常領域との間で濃度ムラが視認されてしまう。
【0065】
これに対し、
図4に示したように、切替位置Pを2以上の基準数のライン画像Iごとに変更する本実施形態の配分方法によれば、上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bの境界のうちX方向に延びる境界bxが密集しないようにすることができる。例えば本実施形態のように基準数を「8」とすれば、境界bxが、Y方向について8ライン分だけ離隔されるため、
図7の比較例のように、Y方向についての狭い範囲において境界bxが密集することがない。
ただし、基準数が大きすぎると、Y方向に延びる境界byが長くなって視認されやすくなるため、基準数は所定の上限値以下とすることが好ましい。1200dpiの解像度においては、基準数を8以上64以下の範囲内で定めることがより好ましい。なお、解像度を1200dpiに対してm倍する場合には、基準数を8m以上64m以下の範囲内で定めればよい。
【0066】
また、
図4に示す切替位置P1、P2、P3…のように、切替位置Pを同一方向に繰り返し変更することで、この区間では、X方向に延びる境界bx同士がY方向に隣り合わないようにすることができる。ここで、X方向の変更幅Wxが小さ過ぎると、切替位置Pの変更の前後でY方向に延びる境界byが繋がって視認されやすくなるため、変更幅Wxは所定の下限値以上とすることが好ましい。1200dpiの解像度においては、変更幅Wxを30ドット以上の範囲内で定めることがより好ましい。なお、解像度を1200dpiに対してm倍する場合には、変更幅Wxを30mドット以上の範囲内で定めればよい。
【0067】
このように、本実施形態の配分方法を用いることで、重複領域Roと通常領域との間の光沢ムラ、質感の違い、及び濃度ムラ等を抑えて、HM212の繋ぎ目における画質の低下を抑制することができる。
【0068】
(切替位置の変更パターン)
次に、切替位置Pの種々の変更パターンについて具体的に説明する。
以下では、切替領域Rの切替領域幅Wrが96ドット(=96px(ピクセル))である場合を例に挙げて説明する。以下の
図8~
図16では、一端CLの位置を0pxとした画素数(ドット数)でX方向の位置を表す。
【0069】
<変更パターン(1)>
図8は、切替位置Pの変更パターン(1)を説明する図である。
変更パターン(1)では、第1の変更制御及び第2の変更制御が交互に行われる。このうち第1の変更制御は、基準数のライン画像Iごとに(本実施形態では、8ラインごとに)、X方向について切替領域Rの一端CL側から他端CR側に向かって(すなわち、+X方向に)、他端CRを超えない範囲内で切替位置Pを繰り返し変更する制御である。また、第2の変更制御は、基準数のライン画像Iごとに、X方向について他端CR側から一端CL側に向かって(すなわち、-X方向に)、一端CLを超えない範囲内で切替位置Pを繰り返し変更する制御である。
【0070】
第1の変更制御の開始後、nライン目のライン画像Iにおける切替位置Pは、X方向についての一端CLの位置をPclとして、下記の式(1)により算出される(ただし、小数点以下は切り捨てる)。
P=Pcl+Wx・n/8 …(1)
また、第2の変更制御の開始後、nライン目のライン画像Iにおける切替位置Pは、X方向についての他端CRの位置をPcrとして、下記の式(2)により算出される(ただし、小数点以下は切り捨てる)。
P=Pcr-Wx・n/8 …(2)
上記式(1)、(2)における「8」を任意の基準数に置き換えることで、任意の基準数における切替位置Pを表す式が得られる。
なお、式(1)に代えて、切替位置Pを切り替えるたびに、前回の切替位置Pに対して+Wxを加算することで次回の切替位置Pを算出してもよい。また、式(2)に代えて、切替位置Pを切り替えるたびに、前回の切替位置Pに対して-Wxを加算することで次回の切替位置Pを算出してもよい。
【0071】
図8に示す例では、変更幅Wxは32pxとされている。よって、第1の変更制御では、切替位置Pは、8ラインごとに、切替位置P1=0px、切替位置P2=32px、切替位置P3=64px、切替位置P4=96px、と変更される。
その後、第2の変更制御では、切替位置Pは、8ラインごとに、切替位置P5=64px、切替位置P6=32px、切替位置P7=0px、と変更される。
以降、第1の変更制御及び第2の変更制御が交互に繰り返し行われる。
【0072】
切替位置Pは、制御部30が毎回算出してもよい。あるいは、切替位置Pの変更パターンの情報を含むテーブルデータを記憶部40に記憶させておき、当該テーブルデータを参照することで切替位置Pを特定してもよい。テーブルデータを用いる場合、画像ImのY方向の全ラインに対して切替位置Pを設定してもよいし、一部を設定し、それを繰り返し利用してもよい。以下の各変更パターンについても同様である。
【0073】
<変更パターン(2)>
図9は、切替位置Pの変更パターン(2)を説明する図である。
変更パターン(2)では、第1の変更制御が行われ、次回の切替位置Pが他端CRを超える場合には、切替位置Pを一端CLに戻して再度第1の変更制御が行われる。
【0074】
具体的には、第1の変更制御では、切替位置Pは、8ラインごとに、切替位置P1=0px、切替位置P2=32px、切替位置P3=64px、切替位置P4=96px、と+X方向に変更される。切替位置P4に達した場合、次回も+X方向に切替位置Pを変更すると、切替位置Pが128pxとなって他端CRを超えるため、切替位置P5は一端CL(0px)に設定される。その後、再度第1の変更制御が行われ、切替位置P6=32px、切替位置P7=64px、切替位置P8=96px、と+X方向に変更される。
以降、第1の変更制御が繰り返し行われる。
【0075】
<変更パターン(1a)>
図10は、切替位置Pの変更パターン(1a)を説明する図である。
変更パターン(1a)は、変更パターン(1)を一部改変したものである。変更パターン(1a)では、第1の変更制御において切替位置Pが他端CRに一致した場合には、変更幅Wxとは異なる所定の距離だけ他端CRから一端CL側に折り返した位置が次回の切替位置Pとされる。
【0076】
図10に示す例において、上記の所定の距離は16pxとされている。第1の変更制御においては、切替位置P4が他端CRに一致する。この場合には、16pxだけ他端CRから一端CL側に折り返した位置、すなわち80pxの位置が、次回の切替位置P5とされる。
【0077】
以降、第2の変更制御において、切替位置Pは、8ラインごとに変更幅Wx(32px)ずつ-X方向に変更される。よって、切替位置P6=48px、切替位置P7=16pxとなる。切替位置P7に達した場合、次回も-X方向に切替位置Pを変更すると、切替位置Pが-16pxとなって一端CLを超える。このため、次回の切替位置P8は、一端CLに設定される。
以降、第1の変更制御及び第2の変更制御が交互に繰り返し行われる。
【0078】
変更パターン(1a)によれば、第2の変更制御における切替位置Pが、第1の変更制御における切替位置Pとは異なる位置に設定される。このため、切替位置PがX方向について同一の位置に集中することで切替位置Pが視認されてしまう不具合の発生を抑制することができる。
【0079】
なお、第2の変更制御において切替位置Pが一端CLに一致した場合に、所定の距離だけ一端CLから他端CR側に折り返した位置を次回の切替位置Pとすることとしてもよい。
【0080】
<変更パターン(2a)>
図11は、切替位置Pの変更パターン(2a)を説明する図である。
変更パターン(2a)は、変更パターン(2)を、変更パターン(1a)と対応する態様で一部改変したものである。変更パターン(2a)では、第1の変更制御において切替位置Pが他端CRに一致した場合には、変更幅Wxとは異なる所定の距離だけ一端CLから他端CR側にずらした位置が次回の切替位置Pとされる。
【0081】
図11に示す例において、上記の所定の距離は16pxとされている。第1の変更制御においては、切替位置P4が他端CRに一致する。この場合には、一端CLに代えて、一端CLから16pxだけ他端CR側にずらした位置、すなわち16pxの位置が、次回の切替位置P5とされる。切替位置P5から開始される第1の変更制御では、切替位置Pは、切替位置P6=48px、切替位置P7=80pxとなる。切替位置P7に達した場合、次回も+X方向に切替位置Pを変更すると、切替位置Pが112pxとなって他端CRを超える。このため、次回の切替位置P8は、一端CLに設定される。
以降、同様にして第1の変更制御が繰り返し行われる。
【0082】
変更パターン(2a)によれば、複数回の第1の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができる。よって、変更パターン(1a)と同様の効果が得られる。
【0083】
<変更パターン(1b)>
図12は、切替位置Pの変更パターン(1b)を説明する図である。
変更パターン(1b)は、変更パターン(1)を一部改変したものである。変更パターン(1b)では、変更幅Wxは、当該変更幅Wxの整数倍が、X方向についての切替領域Rの切替領域幅Wr(長さ)と一致しないように定められている。
図12に示す例では、変更幅Wxは30pxとされている。
【0084】
また、変更パターン(1b)では、第1の変更制御において次回の切替位置Pが他端CRを超える場合には、他端CRから超える分だけ他端CRから一端CL側に折り返した位置が次回の切替位置Pとされる。また、第2の変更制御において次回の切替位置Pが一端CLを超える場合には、一端CLから超える分だけ一端CLから他端CR側に折り返した位置が次回の切替位置Pとされる。
【0085】
図12に示す例における最初の第1の変更制御では、切替位置Pは、8ラインごとに変更幅Wx(30px)ずつ+X方向に変更され、切替位置P2=30px、切替位置P3=60px、切替位置P4=90pxとなる。切替位置P4に達した場合、次回も+X方向に切替位置Pを変更すると、切替位置Pが120pxとなって他端CRを超える。このため、他端CRから超える分、すなわち、120px-96px=24pxだけ、他端CRから一端CL側に折り返した位置(96px-24px=72px)が、次回の切替位置P5とされる。
【0086】
以降、第2の変更制御において、切替位置Pは、8ラインごとに変更幅Wx(30px)ずつ-X方向に変更される。よって、切替位置P6=42px、切替位置P7=12pxとなる。切替位置P7に達した場合、次回も-X方向に切替位置Pを変更すると、切替位置Pが-18pxとなって一端CLを超える。このため、一端CLから超える分、すなわち18pxだけ、一端CLから他端CR側に折り返した位置(18px)が、次回の切替位置P8とされる。
以降、同様に第1の変更制御及び第2の変更制御が交互に繰り返し行われる。
【0087】
図13は、切替位置Pの変更パターン(1b)の他の例を説明する図である。
図13に示す例では、変更幅Wxは40pxとされている。
図13では、最初の第1の変更制御において、切替位置Pは、8ラインごとに切替位置P2=40px、切替位置P3=80pxと変更される。次回の切替位置Pは120pxとなるため、他端CRから超える分、すなわち、120-96=24pxだけ、他端CRから一端CL側に折り返した位置(96px-24px=72px)が、次回の切替位置P4とされる。
続く第2の変更制御では、切替位置P5=32に変更される。次回の切替位置Pは-8pxとなるため、一端CLから超える分、すなわち8pxだけ、一端CLから他端CR側に折り返した位置(8px)が、次回の切替位置P6とされる。
以降、同様に第1の変更制御及び第2の変更制御が交互に繰り返し行われる。
【0088】
変更パターン(1b)によれば、第1の変更制御及び第2の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができる。さらに、変更幅Wxを適切に選択することで、複数回の第1の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができ、また、複数回の第2の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができる。このため、切替位置PがX方向について同一の位置に集中することで切替位置Pが視認されてしまう不具合の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【0089】
<変更パターン(2b)>
図14は、切替位置Pの変更パターン(2b)を説明する図である。
変更パターン(2b)は、変更パターン(2)を、変更パターン(1b)と対応する態様で一部改変したものである。変更パターン(2b)では、変更パターン(1b)と同様、変更幅Wxは、当該変更幅Wxの整数倍が、X方向についての切替領域Rの切替領域幅Wr(長さ)と一致しないように定められている。
図14に示す例では、変更幅Wxは40pxとされている。また、変更パターン(2b)では、第1の変更制御において次回の切替位置Pが他端CRを超える場合には、他端CRから超える分だけ一端CLから他端CR側にずらした位置が次回の切替位置Pとされる。
【0090】
図14に示す例における最初の第1の変更制御では、切替位置Pは、8ラインごとに変更幅Wx(40px)ずつ+X方向に変更され、切替位置P2=40px、切替位置P3=80pxとなる。切替位置P3に達した場合、次回も+X方向に切替位置Pを変更すると、切替位置Pが120pxとなって他端CRを超える。このため、他端CRから超える分、すなわち、120px-96px=24pxだけ、一端CLから他端CR側にずらした位置(24px)が、次回の切替位置P4とされる。
【0091】
次の第1の変更制御において、切替位置Pは、切替位置P5=64に変更される。この場合、次回の切替位置Pは104pxとなるため、他端CRから超える分、すなわち、104-96=8pxだけ、一端CLから他端CR側に折り返した位置(8px)が、次回の切替位置P6とされる。
以降、同様に第1の変更制御が繰り返し行われる。
【0092】
変更パターン(2b)においても、変更幅Wxを適切に選択することで、変更パターン(2a)と同様の効果が得られる。
【0093】
<変更パターン(1c)>
図15は、切替位置Pの変更パターン(1c)を説明する図である。
変更パターン(1c)は、変更パターン(1)を一部改変したものである。変更パターン(1c)では、画像Imの形成中に基準数(切替ライン数Wy)が変更される。より詳しくは、次回の切替位置Pの変更において切替位置Pの変更方向が前回の変更時から変化する場合には、次回の切替位置Pの変更に係る基準数を、切替位置Pの変更方向が変化しない場合よりも増大させる。
【0094】
図15を参照して具体的に説明する。第1の変更制御において、切替位置P4は他端CRに一致する。この場合、次回の切替位置P5(64px)への変更方向は-X方向であり、前回の切替位置P3から切替位置P4への変更時の変更方向(+X方向)から変化する。このため、次回の切替位置P5への変更に係る基準数(切替ライン数Wy)を、8ラインから16ラインに増大させる。すなわち、切替位置P4=96pxを適用して16本のライン画像Iが形成された後に、切替位置P5=64pxへの変更が行われる。以降の第2の変更制御においては、基準数は8ラインに戻される。
【0095】
また、第2の変更制御において、切替位置P7は他端CRに一致する。この場合、次回の切替位置P8への変更方向は+X方向であり、前回の切替位置P6から切替位置P7への変更時の変更方向(-X方向)から変化する。このため、次回の切替位置P8への変更に係る基準数(切替ライン数Wy)を、8ラインから16ラインに増大させる。すなわち、切替位置P7=0pxを適用して16本のライン画像Iが形成された後に、切替位置P8=32pxへの変更が行われる。以降の第1の変更制御においては、基準数は8ラインに戻される。
【0096】
変更パターン(1c)によれば、切替位置Pが逆方向に折り返して変更される前後の、Y方向に隣り合う境界bxのY方向の間隔を大きく確保することができる。よって、境界bxが密集することに起因する画質の低下を抑制することができる。
【0097】
<変更パターン(2c)>
図16は、切替位置Pの変更パターン(2c)を説明する図である。
変更パターン(2c)は、変更パターン(2)を、変更パターン(1c)と対応する態様で一部改変したものである。変更パターン(2c)においても、変更パターン(1c)と同様に、画像Imの形成中に基準数(切替ライン数Wy)が変更される。より詳しくは、次回の切替位置Pの変更において切替位置Pの変更方向が前回の変更時から変化する場合には、次回の切替位置Pの変更に係る基準数を、切替位置Pの変更方向が変化しない場合よりも増大させる。
【0098】
図16の最初の第1の変更制御において、切替位置P4は他端CRに一致する。この場合、次回の切替位置P5(0px)への変更方向は-X方向であり、前回の切替位置P3から切替位置P4への変更時の変更方向(+X方向)から変化する。このため、次回の切替位置P5への変更に係る基準数(切替ライン数Wy)を、8ラインから16ラインに増大させる。
また、切替位置P5=0pxに変更された場合、次回の切替位置P6(32px)への変更方向は+X方向であり、前回の切替位置P4から切替位置P5への変更時の変更方向(-X方向)から変化する。このため、次回の切替位置P6への変更に係る基準数(切替ライン数Wy)を、8ラインから16ラインに増大させる。
以降の切替位置P7への変更においては、基準数は8ラインに戻される。
【0099】
このような変更パターン(2c)によっても、変更パターン(1c)と同様の効果が得られる。
なお、変更パターン(1c)、(2c)では、切替位置Pの変更方向が変化する場合にのみ基準数を変えたが、これ以外のタイミングで基準数を変えてもよい。例えば切替位置Pを変更するたびに基準数を変えてもよい。この場合の基準数の変更態様は、8ライン、16ライン、32ライン…、のように一定幅で規則的に増減させてもよいし、ランダムに変えてもよい。
【0100】
(変形例)
続いて上記実施形態の変形例について説明する。以下では、上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する構成については共通の符号を付して説明を省略する。
【0101】
図17は、上記実施形態における上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分率の切り替え態様を示す図である。
図17の上段は、切替位置Pの周囲における上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bを示している。また、
図17の下段は、Y方向について切替ライン数Wyの範囲内における、切替位置Pの-X方向側から+X方向側にかけての上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分率を示している。
図17に示すように、上記実施形態では、切替位置PがX方向についての1点である。また、当該切替位置Pを境に、下流側HM212Dへのドットの配分率が1から0に切り替わり、上流側HM212Uへのドットの配分率を0から1に切り替わる。
これに対し、本変形例では、切替位置Pにおけるドットの配分率の切り替え態様が上記実施形態と異なる。
【0102】
図18は、本変形例における上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分率の切り替え態様を示す図である。
図18の上段に示すように、本変形例では、切替位置Pは、X方向に所定の切替幅Wpを有している。また、X方向について切替幅Wpの範囲内では、上流側HM212U及び下流側HM212Dにより相補的なインク吐出が行われる。より詳しくは、
図18の下段に示すように、X方向について切替幅Wpの-X方向側の端部位置Paから+X方向側の端部位置Pbにかけて、下流側HM212Dへのドットの配分率が1から0に単調減少し、上流側HM212Uへのドットの配分率が0から1に単調増加するように相補的なインク吐出が行われる。これにより、切替位置PにおけるY方向に延びる境界by(
図4参照)を視認されにくくすることができる。
【0103】
切替幅Wpが長過ぎると、切替幅Wp内において着弾タイミングが異なるドットが多数混在することになり、光沢ムラや濃度ムラとして視認されやすくなる。このため、切替幅Wpは、光沢ムラや濃度ムラが視認されない上限値以下の範囲内で定めることが好ましい。例えば、1200dpiの解像度においては、切替幅Wpは、10ドット以下(より好ましくは5ドット以下)とすることが好ましい。なお、解像度を1200dpiに対してm倍する場合には、切替幅Wpを10mドット以下(より好ましくは5mドット以下)とすればよい。
【0104】
なお、配分率の変化のプロファイルは、X方向について切替位置Pの切替幅Wpの-X方向側(一方側)から+X方向側(他方側)にかけて各HM212へのドットの配分率が漸増又は漸減するものであればよく、
図18の下段に示すものに限られない。
【0105】
図19は、本変形例におけるドットの配分率の他の切り替え態様を示す図である。
図19では、切替位置Pの切替幅Wpの-X方向側の端部位置Paにおいて、上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分率が0.5となっている。また、端部位置Paから、+X方向側の端部位置Pbにかけて、下流側HM212Dへのドットの配分率が0.5から0に単調減少し、上流側HM212Uへのドットの配分率が0.5から1に単調増加している。
【0106】
図20は、本変形例におけるドットの配分率の他の切り替え態様を示す図である。
図20では、切替位置Pの切替幅Wp内で、上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分率が略0.5で一定となっている。
図19及び
図20に示すような態様によっても、切替位置Pの切替幅Wpの-X方向側から+X方向側にかけて、下流側HM212Dへのドットの配分率は1から0に漸減し、上流側HM212Uへのドットの配分率は0から1に漸増する。
【0107】
なお、ドットの配分率は、記録ヘッド211ごとに異ならせてもよい。
図21は、記録ヘッド211ごとにドットの配分率の他の切り替える例を示す図である。
図21では、下流側HM212Dを構成する2つの記録ヘッド211のうち一方の記録ヘッド211cについては、
図18と同様に切替幅Wp内で配分率を単調減少させている。また、他方の記録ヘッド211dについては、端部位置Paで配分率を1から0に切り替えている。
また、上流側HM212Uを構成する2つの記録ヘッド211のうち一方の記録ヘッド211aについては、
図18と同様に切替幅Wp内で配分率を単調増加させている。また、他方の記録ヘッド211bについては、端部位置Paで配分率を0から1に切り替えている。
このような態様によれば、より細かく上流側HM212U及び下流側HM212Dへのドットの配分率を調整することができる。
【0108】
続いて、上述した動作を実現するために記録制御部100が実行する画像記録処理について説明する。
図22は、画像記録処理の制御手順を示すフローチャートである。
図22のフローチャートは、上述の変更パターン(1)を適用する場合の制御手順を示す。
この画像記録処理は、例えば記録制御部100が通信部60を介してプリントジョブ及び画像データを受信し、画像Imの形成を開始する場合に実行される。
【0109】
画像記録処理が開始されると、記録制御部100は、上述の第1の変更制御を開始する(ステップS101)。記録制御部100は、前回の切替位置Pの設定があるか否かを判別する(ステップS102)。前回の切替位置Pの設定がない(すなわち、初回の第1の変更制御である)と判別された場合には(ステップS102で“NO”)、記録制御部100は、切替領域Rの一端CLを切替位置Pに設定し(ステップS103)、処理をステップS105に移行させる。
【0110】
前回の切替位置Pの設定があると判別された場合には(ステップS102で“YES”)、記録制御部100は、前回の切替位置Pに+Wxを加算して次回の切替位置Pを算出する(ステップS104)。なお、ステップS104では、上述した式(1)に基づいて次回の切替位置Pを算出してもよい。
【0111】
記録制御部100は、算出した切替位置Pに応じて切替領域Rの画素データを上流側HM212U及び下流側HM212Dに配分した8ライン分のマスク画像データを生成する(ステップS105)。また、記録制御部100は、マスク画像データに基づいて各HM212の記録素子に駆動信号を供給し、ノズルNからインクを相補的に吐出させ、ライン画像Iを記録させる(ステップS106)。
【0112】
記録制御部100は、8ライン分のライン画像Iの記録が完了したか否かを判別し(ステップS107)、完了していないと判別された場合には(ステップS107で“NO”)、処理をステップS106に戻す。
【0113】
8ライン分のライン画像Iの記録が完了したと判別された場合には(ステップS107で“YES”)、記録制御部100は、画像Imの全ての部分の記録が終了したか否かを判別する(ステップS108)。画像Imの記録が終了していないと判別された場合には(ステップS108で“NO”)、記録制御部100は、切替位置Pが切替領域Rの他端CRに達したか否かを判別する(ステップS109)。切替位置Pが切替領域Rの他端CRに達していないと判別された場合には(ステップS109で“NO”)、記録制御部100は、処理をステップS104に戻して、切替位置Pの変更、及び次の8ライン分のライン画像Iの記録を行う。
【0114】
切替位置Pが切替領域Rの他端CRに達したと判別された場合には(ステップS109で“YES”)、記録制御部100は、第2の変更制御を開始する(ステップS110)。
【0115】
記録制御部100は、前回の切替位置Pに-Wxを加算して次回の切替位置Pを算出する(ステップS111)。なお、ステップS111では、上述した式(2)に基づいて次回の切替位置Pを算出してもよい。
【0116】
記録制御部100は、算出した切替位置Pに応じて、ステップS105と同様に8ライン分のマスク画像データを生成し(ステップS112)、ライン画像Iを記録させる(ステップS113)。
【0117】
記録制御部100は、8ライン分のライン画像Iの記録が完了したか否かを判別し(ステップS114)、完了していないと判別された場合には(ステップS114で“NO”)、処理をステップS113に戻す。
【0118】
8ライン分のライン画像Iの記録が完了したと判別された場合には(ステップS114で“YES”)、記録制御部100は、画像Imの全ての部分の記録が終了したか否かを判別する(ステップS115)。画像Imの記録が終了していないと判別された場合には(ステップS115で“NO”)、記録制御部100は、切替位置Pが切替領域Rの一端CLに達したか否かを判別する(ステップS116)。切替位置Pが切替領域Rの一端CLに達していないと判別された場合には(ステップS116で“NO”)、記録制御部100は、処理をステップS111に戻して、切替位置Pの変更、及び次の8ライン分のライン画像Iの記録を行う。
【0119】
ステップS108又はステップS115において、画像Imの全ての部分の記録が終了したと判別された場合には(ステップS108又はS115で“YES”)、記録制御部100は、画像記録処理を終了させる。
【0120】
図23は、画像記録処理の他の制御手順を示すフローチャートである。
図23のフローチャートは、上述の変更パターン(2)を適用する場合の制御手順を示す。
【0121】
画像記録処理が開始されると、記録制御部100は、第1の変更制御を開始する(ステップS201)。記録制御部100は、前回の切替位置Pの設定があるか否かを判別する(ステップS202)。前回の切替位置Pの設定がない(すなわち、初回の第1の変更制御である)と判別された場合には(ステップS202で“NO”)、記録制御部100は、切替領域Rの一端CLを切替位置Pに設定し(ステップS203)、処理をステップS206に移行させる。
【0122】
前回の切替位置Pの設定があると判別された場合には(ステップS202で“YES”)、記録制御部100は、前回の切替位置Pが切替領域Rの他端CRであるか否かを判別する(ステップS204)。前回の切替位置Pが他端CRであると判別された場合には(ステップS204で“YES”)、記録制御部100は、切替領域Rの一端CLを次回の切替位置Pに設定し(ステップS203)、処理をステップS206に移行させる。前回の切替位置Pが他端CRではないと判別された場合には(ステップS204で“NO”)、記録制御部100は、前回の切替位置Pに+Wxを加算して次回の切替位置Pを算出する(ステップS205)。なお、ステップS205では、上述した式(1)に基づいて次回の切替位置Pを算出してもよい。
【0123】
ステップS203又はS205が終了すると、記録制御部100は、ステップS206~S209の処理を実行する。ステップS206~S209の処理の内容は、
図22のステップS105~S108の処理の内容と同一であるので説明は省略する。
ステップS209において画像Imの記録が終了していないと判別された場合には(ステップS209で“NO”)、記録制御部100は、処理をステップS202に戻す。画像Imの全ての部分の記録が終了したと判別された場合には(ステップS209で“YES”)、記録制御部100は、画像記録処理を終了させる。
【0124】
(効果)
以上のように、本実施形態に係るインクジェット記録装置1は、X方向について互いに異なる位置に設けられた複数のノズルNを各々有する複数のHM212が、X方向についてのノズルNの配置範囲が一部重複する重複領域Roを有する位置関係で配列されているラインヘッド21と、ラインヘッド21に対してX方向に直交するY方向に相対移動する記録媒体Mに、ラインヘッド21の各ノズルNから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、X方向に延びるライン画像Iを記録させる記録制御を行う記録制御部100と、を備える。記録制御部100は、記録制御を複数回行うことにより記録媒体Mに画像を形成させる。記録制御部100は、記録制御においては、重複領域Roの少なくとも一部に設定された切替領域Rのうち、X方向について所定の切替位置Pの一方側では、重複領域RoにノズルNを有する2つのHM212のうち一方の下流側HM212DのノズルNからインクを吐出させ、切替位置Pの他方側では、他方の上流側HM212UのノズルNからインクを吐出させ、2以上の基準数のライン画像Iごとに切替位置Pを変更する。
このように切替位置Pを2以上の基準数のライン画像Iごとに変更する方法によれば、上流側吐出領域A及び下流側吐出領域Bの境界のうちX方向に延びる境界bxがY方向に密集しないようにすることができる。これにより、重複領域Roと、他の通常領域との間における光沢、質感、及び濃度の相違を視認されにくくすることができる。よって、複数のHM212の繋ぎ目における光沢ムラ、質感の差異、又は濃度ムラ等に起因する画質の低下を抑制することができる。
また、切替領域Rにおいて切替位置PをX方向に分散させることで、HM212のX方向への位置ずれに対する画質の変化にロバスト性を持たせることができる。
【0125】
また、記録制御部100は、変更パターン(1)、(1a)~(1c)では、基準数のライン画像Iごとに、X方向について切替領域Rの一端CL側から他端CR側に向かって他端CRを超えない範囲内で切替位置Pを繰り返し変更する第1の変更制御と、基準数のライン画像Iごとに、X方向について他端CR側から一端CL側に向かって一端CLを超えない範囲内で切替位置Pを繰り返し変更する第2の変更制御と、を交互に行う。このように切替位置Pを同一方向に繰り返し変更することで、この区間では、X方向に延びる境界bx同士がY方向に隣接しないようにすることができる。よって、境界bxをより視認されにくくすることができる。
【0126】
また、記録制御部100は、変更パターン(1a)では、第1の変更制御及び第2の変更制御において、一定の変更幅Wxで切替位置Pを変更し、第1の変更制御において切替位置Pが他端CRに一致した場合には、変更幅Wxとは異なる所定の距離だけ他端CRから一端CL側に折り返した位置を次回の切替位置Pとする。これによれば、第1の変更制御における切替位置Pと、第2の変更制御における切替位置Pとを異ならせることができる。よって、切替位置PがX方向について同一の位置に集中することで切替位置Pが視認されてしまう不具合の発生を抑制することができる。
【0127】
また、記録制御部100は、変更パターン(1b)では、第1の変更制御において次回の切替位置Pが他端CRを超える場合には、他端CRから超える分だけ他端CRから一端CL側に折り返した位置を次回の切替位置Pとし、第2の変更制御において次回の切替位置Pが一端CLを超える場合には、一端CLから超える分だけ一端CLから他端CR側に折り返した位置を次回の切替位置Pとする。これによっても、第1の変更制御における切替位置Pと、第2の変更制御における切替位置Pとを異ならせることができる。また、変更幅Wxを適切に選択することで、複数回の第1の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができ、また、複数回の第2の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができる。このため、切替位置PがX方向について同一の位置に集中することで切替位置Pが視認されてしまう不具合の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【0128】
また、記録制御部100は、変更パターン(2)、(2a)~(2c)では、基準数のライン画像Iごとに、X方向について切替領域Rの一端CL側から他端CR側に向かって他端CRを超えない範囲内で切替位置Pを繰り返し変更する第1の変更制御を行い、次回の切替位置Pが他端CRを超える場合には、切替位置Pを一端CL又は当該一端CLの近傍に戻して再度第1の変更制御を行う。このように切替位置Pを同一方向に繰り返し変更することで、この区間では、X方向に延びる境界bx同士がY方向に隣接しないようにすることができる。よって、境界bxをより視認されにくくすることができる。
【0129】
また、記録制御部100は、変更パターン(2a)では、第1の変更制御において、一定の変更幅Wxで切替位置Pを変更し、第1の変更制御において切替位置Pが他端CRに一致した場合には、変更幅Wxとは異なる所定の距離だけ一端CLから他端CR側にずらした位置を次回の切替位置Pとする。これによれば、複数回の第1の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができる。よって、切替位置PがX方向について同一の位置に集中することで切替位置Pが視認されてしまう不具合の発生を抑制することができる。
【0130】
また、記録制御部100は、変更パターン(2b)では、第1の変更制御において次回の切替位置Pが他端CRを超える場合には、他端CRから超える分だけ一端CLから他端CR側にずらした位置を次回の切替位置Pとする。これにより、複数回の第1の変更制御における切替位置Pを互いに異ならせることができる。よって、切替位置PがX方向について同一の位置に集中することで切替位置Pが視認されてしまう不具合の発生を抑制することができる。
【0131】
また、記録制御部100は、X方向について一定の変更幅Wxで切替位置Pを変更し、変更幅Wxは、当該変更幅Wxの整数倍が、X方向についての切替領域Rの切替領域幅Wr(長さ)と一致しないように定められている。これにより、切替位置Pを効果的にX方向に分散させることができる。よって、切替位置PがX方向について同一の位置に集中することで切替位置Pが視認されてしまう不具合の発生を抑制することができる。
【0132】
また、記録制御部100は、変更パターン(1c)、(2c)では、画像Imの形成中に基準数を変更する。これにより、境界bx同士のY方向についての間隔、及び、Y方向に延びる境界byの長さをばらつかせることができる。よって、境界bx及び境界byをより視認されにくくすることができる。
【0133】
また、記録制御部100は、変更パターン(1c)、(2c)では、次回の切替位置Pの変更において切替位置Pの変更方向が前回の変更時から変化する場合には、次回の切替位置Pの変更に係る基準数を、切替位置Pの変更方向が変化しない場合よりも増大させる。これによれば、切替位置Pが逆方向に折り返して変更される前後の、Y方向に隣り合う境界bxのY方向の間隔を大きく確保することができる。よって、境界bxが密集することに起因する画質の低下を抑制することができる。
【0134】
また、変形例において、切替位置Pは、X方向に所定の切替幅Wpを有しており、記録制御部100は、記録制御においては、X方向について切替位置Pの切替幅Wpの一方側から他方側にかけて、2つのHM212の各々がインクを吐出可能なドットの配分率が漸増又は漸減するように2つのHM212により相補的なインク吐出を行わせる。これにより、切替位置PにおけるY方向に延びる境界byを視認されにくくすることができる。
【0135】
また、記録制御部100は、記録制御に係る処理の少なくとも一部を、所定回数の記録制御について一括して行い、基準数は、上記所定回数の整数倍である。これによれば、複数ライン一括処理において切替位置Pを変える必要がなくなる。このため、マスク画像データの生成に係る処理負荷を軽減することができるとともに、複数ライン一括処理を高速化することができる。
【0136】
また、複数のHM212の各々は、温度によってゲル状又は固体状と、液状との間で相変化する相転移型インクを各ノズルNから吐出する。相転移型インクを用いると、上流側HM212Uから吐出されたインクが凝固した後に、下流側HM212Dから吐出されたインクが着弾する。このため、通常領域との間でインクの表面形状が異なりやすいが、本実施形態の方法を適用することで、インクの表面形状の相違に起因する画質の低下を効果的に抑制することができる。
【0137】
また、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、ラインヘッド21に対してX方向に直交するY方向に相対移動する記録媒体Mに、ラインヘッド21の各ノズルNから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、X方向に延びるライン画像Iを記録させる記録ステップを含み、記録ステップを複数回行うことにより記録媒体Mに画像を形成させ、記録ステップにおいては、重複領域Roの少なくとも一部に設定された切替領域Rのうち、X方向について所定の切替位置Pの一方側では、重複領域RoにノズルNを有する2つのHM212のうち一方のHM212のノズルNからインクを吐出させ、切替位置Pの他方側では、他方のHM212のノズルNからインクを吐出させ、2以上の基準数のライン画像Iごとに切替位置Pを変更する。これにより、複数のHM212の繋ぎ目における光沢ムラ、質感の差異、又は濃度ムラ等に起因する画質の低下を抑制することができる。また、HM212のX方向への位置ずれに対する画質の変化にロバスト性を持たせることができる。
【0138】
また、本実施形態に係るプログラム331は、インクジェット記録装置1のコンピューターとしての記録制御部100を、ラインヘッド21に対してX方向に直交するY方向に相対移動する記録媒体Mに、ラインヘッド21の各ノズルNから画像データに基づいてインクを吐出させ、又はインクを吐出させない動作を行わせて、X方向に延びるライン画像Iを記録させる記録制御を行う記録制御手段として機能させ、記録制御手段は、記録制御を複数回行うことにより記録媒体Mに画像を形成させ、記録制御においては、重複領域Roの少なくとも一部に設定された切替領域Rのうち、X方向について所定の切替位置Pの一方側では、重複領域RoにノズルNを有する2つのHM212のうち一方のHM212のノズルNからインクを吐出させ、切替位置Pの他方側では、他方のHM212のノズルNからインクを吐出させ、2以上の基準数のライン画像Iごとに切替位置Pを変更する。これにより、複数のHM212の繋ぎ目における光沢ムラ、質感の差異、又は濃度ムラ等に起因する画質の低下を抑制することができる。また、HM212のX方向への位置ずれに対する画質の変化にロバスト性を持たせることができる。
【0139】
(その他)
なお、本発明は、上記実施形態及び各変形例に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施形態のラインヘッド21は、2つの記録ヘッド211からなるHM212が千鳥状に配列された構成を有していたが、これに限られず、単一の記録ヘッド211が千鳥状に配列された構成としてもよい。この場合には、記録ヘッド211が「インク吐出部」に相当する。
【0140】
また、上記実施形態では、第1の変更制御又は第2の変更制御において、基準数のライン画像Iごとに同一方向に繰り返し切替位置Pを変更する例を挙げて説明したが、これに限られない。例えば、基準数のライン画像Iごとに、切替位置Pの位置をX方向について切替領域Rの範囲内でランダムに変更してもよい。
【0141】
また、上記実施形態の切替位置Pの変更に係る動作は、左右方向(X方向)について逆転させてもよい。すなわち、切替領域Rの+X方向側の端を一端とし、-X方向側の端を他端としてもよい。
【0142】
また、Y方向に沿って配置したラインヘッド21をX方向(主走査方向)に走査しながらインクを吐出させることで画像Imを形成してもよい。この場合にも、ラインヘッド21と記録媒体Mとが相対移動する点は上記実施形態と同様である。よって、ラインヘッド21と記録媒体Mの相対位置関係の変化に応じて上記実施形態と同様の制御を行うことで、HM212の繋ぎ目における画質の低下を抑制することができる。この場合は、ラインヘッド21を走査させる機構により移動手段が構成される。
【0143】
また、上記実施形態では、相転移型インクを用いる例を挙げて説明したが、これに限定する趣旨ではなく、任意のインクについて本発明を適用することができる。
【0144】
また、上記実施形態では、搬送ベルト13を備える搬送部10により記録媒体Mを搬送する例を用いて説明したが、これに限定する趣旨ではない。搬送部10は、例えば回転する搬送ドラムの外周面上で記録媒体Mを保持して搬送するものであってもよい。
【0145】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0146】
1 インクジェット記録装置
10 搬送部
11、12 搬送ローラー
13 搬送ベルト
14 搬送駆動部
15 ロータリーエンコーダー
20 記録部
21 ラインヘッド
30 制御部
31 CPU
32 RAM
33 ROM
331 プログラム
40 記憶部
50 操作表示部
60 通信部
70 バス
100 記録制御部(記録制御手段)
211、211a~211d 記録ヘッド
212 HM(ヘッドモジュール)(インク吐出部)
212D 下流側HM(上流側ヘッドモジュール)(インク吐出部)
212U 上流側HM(上流側ヘッドモジュール)(インク吐出部)
213 ヘッド駆動制御部
214 インク加熱部
A 上流側吐出領域
B 下流側吐出領域
bx、by 境界
CL 一端
CR 他端
DD、DU インク液滴
I、I1~I24 ライン画像
Im 画像
M 記録媒体
N ノズル
NP ノズル対
P、P1~P8 切替位置
R 切替領域
Ro 重複領域
Wp 切替幅
Wr 切替領域幅
Wx 変更幅
Wy 切替ライン数