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特開2024-96629墜落防止器具及び該器具に用いるブレーキ部ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096629
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】墜落防止器具及び該器具に用いるブレーキ部ユニット
(51)【国際特許分類】
   A62B 35/00 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
A62B35/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000260
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000223687
【氏名又は名称】藤井電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 義行
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184KA01
2E184LA27
(57)【要約】
【課題】メンテナンス性に優れた墜落防止器具及び該器具に用いるブレーキ部ユニットを提供することにある。
【解決手段】フレーム20と、ワイヤの基端が接続され、前記フレームに対して回転可能なドラム22と、衝撃緩衝機能を有するロック機構24と、を備えた墜落防止器具において、前記ドラム胴部28の回転軸方向の一方の面側にはロック機構設置空間46が形成され、前記ロック機構設置空間には、前記ロック機構を構成する、前記ドラムに対して動作可能に構成されたロック爪60と、前記ロック爪と係合可能な歯を有するギアプレート64と、摩擦制動面を有し前記ギアプレートと接触するディスクブレーキ70とが配置され、前記ギアプレートと前記ディスクブレーキはユニット化されてブレーキ部ユニット62を構成しており、前記ブレーキ部ユニットが前記ロック機構設置空間から取り外し交換可能に構成されたことを特徴とする。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
ワイヤの基端が接続され、前記フレームに対して回転可能なドラムと、
衝撃緩衝機能を有するロック機構と、
を備えた墜落防止器具において、
前記ドラム胴部の回転軸方向の一方の面側にはロック機構設置空間が形成され、
前記ロック機構設置空間には、前記ロック機構を構成する、前記ドラムに対して動作可能に構成されたロック爪と、前記ロック爪と係合可能な歯を有するギアプレートと、摩擦制動面を有し前記ギアプレートと接触するディスクブレーキとが配置され、
前記ギアプレートと前記ディスクブレーキはユニット化されてブレーキ部ユニットを構成しており、前記ブレーキ部ユニットが前記ロック機構設置空間から取り外し交換可能に構成された
ことを特徴とする墜落防止器具。
【請求項2】
前記ドラムは主軸で前記フレームに回転可能に軸支され、
前記ブレーキ部ユニットは前記主軸に差し込むことで前記ロック機構設置空間に配置され、前記ブレーキ部ユニットの少なくともディスクブレーキが前記フレームに回転不能に固定された
請求項1に記載の墜落防止器具。
【請求項3】
前記ブレーキ部ユニットが、少なくともギアプレート、ディスクブレーキ及びブレーキハブから構成された
請求項1又は2に記載の墜落防止器具。
【請求項4】
前記ブレーキ部ユニットを構成する各部材がステンレス製であり、
前記ブレーキハブの軸と前記ギアプレートの軸孔部との間に、滑り性を付与する表面処理が施されたカラーが設置された
請求項3に記載の墜落防止器具。
【請求項5】
前記ロック機構設置空間に前記ワイヤの基端が接続されるワイヤ取付溝が設けられた
請求項1に記載の墜落防止器具。
【請求項6】
請求項1に記載の墜落防止器具に用いるブレーキ部ユニットであって、
少なくともギアプレート、ディスクブレーキ及びブレーキハブから構成された
ことを特徴とするブレーキ部ユニット。
【請求項7】
ユニットを構成する各部材がステンレス製であり、
前記ブレーキハブの軸と前記ギアプレートの軸孔部との間に、滑り性を付与する表面処理が施されたカラーが設置された
請求項6に記載のブレーキ部ユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として高所作業において使用する墜落防止器具及び該器具に用いるブレーキ部ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
建築現場などの高所作業を行う際や昇降時には作業者の墜落を防止するためにリトラクタ式墜落防止器具が使用されている。
リトラクタ式墜落防止器具では、先端にフックを備えた長尺のワイヤがドラムに巻き回されて器具本体に収納されている。ドラムは巻取りバネで巻き取り方向に付勢されており、通常移動での引っ張りではワイヤが引き出され、ワイヤの張力が緩んだ場合には巻取りバネの付勢力によりワイヤが巻き取られる自動巻取り機能を備えている。また、ワイヤが器具本体から急激に引き出された際にはワイヤの引き出しを停止するロック機構を備えている。
【0003】
このリトラクタ式墜落防止器具をあらかじめ使用場所の上方に設置し、ワイヤを引き出してワイヤ先端のフックを作業者が装着する安全帯に接続して使用する。これにより、作業者が万一落下した場合でも、墜落防止器具のロック機構が作動することでワイヤの引き出しが停止するので墜落が阻止される。
【0004】
ワイヤロープタイプのリトラクタ式墜落防止器具として、漸進的にドラムを停止に至らせる摩擦ブレーキを備えた落下防止装置が知られている(例えば、特許文献1(第5-7頁、第2,3図)参照)。
摩擦ブレーキはロック機構に相当する制動デバイスに備えられており、制動デバイスではロック爪がドラムに取り付けられ、摩擦ブレーキはロック爪と係合可能な歯を有するラチェットと、摩擦材料層とを備えている。ラチェットは摩擦材料層と面接触しており、通常時の使用動作ではラチェットが回転しない十分な静止摩擦力を有するようにトルク調整されている。
【0005】
落下で器具本体からワイヤが引き出されドラムが高速回転すると、ドラムの回転を停止させるように制動デバイスが作動する。具体的には高速回転が生じることでロック爪とラチェットの歯とが係合する。このとき、ドラムに生じていた回転トルクがラチェットにかかり、摩擦材料層との静止摩擦力以上のトルクが生じることでラチェットが回転する。回転するラチェットは、面接触しているラチェットと摩擦材料層との摩擦力によって徐々に減速され、停止に至る。このような摩擦ブレーキの作用によって墜落阻止時の作業者の身体にかかる衝撃が緩和される。
【0006】
上記特許文献1の落下防止装置では、摩擦ブレーキは本体ケースの蓋に取り付けられている。具体的には、摩擦ブレーキが蓋の裏面に締め付け固定されている。この締め付け固定によって摩擦材料層をラチェットに押圧させることでラチェットに所望量の摩擦抵抗を付与している。本体ケースの蓋の表面側には補強用の負荷ブラケットが取り付けられている。
【0007】
またドラムは、回転軸方向の蓋側ではフランジとドラム胴部とが一体的に形成されており、ドラム胴部の本体ケース側では円盤状のフランジがネジにより取り外し可能に取り付けられている。このドラム胴部の回転軸方向の蓋側に位置する面には摩擦ブレーキのラチェットに対応するロック爪が設置され、本体ケース側に位置する面にはワイヤ取付溝が設けられている。このワイヤ取付溝にワイヤの基部が嵌めこまれ、ドラム胴部の本体ケース側に位置する面に円盤状のフランジを取り付けることでワイヤ取付溝がこのフランジで覆われる。これによりワイヤがドラムに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2020-526340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の落下防止装置の構造では、定期点検においてブレーキ交換が必要な場合、蓋を開けてこの蓋の裏面側からブレーキを構成する部材を全て取り外してから交換部材を取り付けるため、交換に手間と時間が掛かっていた。また、蓋の表面側に取り付けられている負荷ブラケットの交換も適宜行う必要があった。そして上記ブレーキの再組立後にはブレーキのトルク調整を蓋に取り付けられた状態で行う必要があるため、より多くの手間と時間が掛かっていた。ブレーキのトルク調整では、専用の装置(トルク調整装置)が必要になるため、このようなメンテナンス作業をリース会社やユーザーでは行いにくい問題を有していた。
ブレーキを構成する部材は、定期点検時に赤さびが発見される頻度が高く、その多くが交換の必要があると判断されていた。そのため定期点検に要する時間が長くなる傾向があった。
【0010】
また、定期点検においてワイヤ交換が必要な場合、蓋を開けてドラムなど複数の部品を外し、ドラム胴部から円盤状のフランジを取り外してワイヤ取付溝に嵌め込んでいるワイヤを露出させることでドラムからワイヤを取り外していた。このドラムなど複数の部品の取り外しによって、製造組立時に設定していた巻取りバネの余巻きが解除されてしまうため、ワイヤ交換後は巻取りバネの余巻きを再設定する必要があった。また余巻きの再設定では余巻き数に誤りを生じて巻取りの強度が製造組立時とは異なってしまうおそれもあった。このようにワイヤ交換作業が煩雑となっており、時間が掛かっていた。
本発明の目的は、メンテナンス性に優れた墜落防止器具及び該器具に用いるブレーキ部ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の墜落防止器具は、フレームと、ワイヤの基端が接続され、前記フレームに対して回転可能なドラムと、衝撃緩衝機能を有するロック機構と、を備えた墜落防止器具において、前記ドラム胴部の回転軸方向の一方の面側にはロック機構設置空間が形成され、前記ロック機構設置空間には、前記ロック機構を構成する、前記ドラムに対して動作可能に構成されたロック爪と、前記ロック爪と係合可能な歯を有するギアプレートと、摩擦制動面を有し前記ギアプレートと接触するディスクブレーキとが配置され、前記ギアプレートと前記ディスクブレーキはユニット化されてブレーキ部ユニットを構成しており、前記ブレーキ部ユニットが前記ロック機構設置空間から取り外し交換可能に構成されたことを特徴とする。
【0012】
本発明の墜落防止器具では、前記ドラムは主軸で前記フレームに回転可能に軸支され、前記ブレーキ部ユニットは前記主軸に差し込むことで前記ロック機構設置空間に配置され、前記ブレーキ部ユニットの少なくともディスクブレーキが前記フレームに回転不能に固定されたことが好ましい。
本発明の墜落防止器具では、前記ブレーキ部ユニットが、少なくともギアプレート、ディスクブレーキ及びブレーキハブから構成されたことが好ましい。
【0013】
本発明の墜落防止器具では、前記ブレーキ部ユニットを構成する各部材がステンレス製であり、前記ブレーキハブの軸と前記ギアプレートの軸孔部との間に、滑り性を付与する表面処理が施されたカラーが設置されたことが好ましい。
本発明の墜落防止器具では、前記ロック機構設置空間に前記ワイヤの基端が接続されるワイヤ取付溝が設けられたことが好ましい。
【0014】
本発明のブレーキ部ユニットは、上記墜落防止器具に用いるブレーキ部ユニットであって、少なくともギアプレート、ディスクブレーキ及びブレーキハブから構成されたことを特徴とする。
本発明のブレーキ部ユニットでは、ユニットを構成する各部材がステンレス製であり、前記ブレーキハブの軸と前記ギアプレートの軸孔部との間に、滑り性を付与する表面処理が施されたカラーが設置されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る墜落防止器具では、ドラム胴部に形成されたロック機構設置空間に配置されるロック機構を構成する部材のうち、ロック爪と係合可能な歯を有するギアプレートと摩擦制動面を有しギアプレートと接触するディスクブレーキをブレーキ部ユニットとしてユニット化した。そして、このブレーキ部ユニットをロック機構設置空間から取り外し交換可能に構成した。このように、ブレーキ部材を容易に着脱交換することを可能としたので、この墜落防止器具はメンテナンス性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の墜落防止器具を示す図である。
図2】墜落防止器具の内部構造を示す正面図である。
図3】その背面図である。
図4】ワイヤを示す図である。
図5】ドラム胴部の正面図である。
図6】(A)は図5のA-A線断面図であり、(B)は図5のB-B線断面図である。
図7】ドラム胴部にフランジを取り付けた状態を示す正面図である。
図8図7の背面図である。
図9図7の側面図である。
図10】ドラム胴部のロック機構設置空間にロック機構を構成する各部材を配置した状態を示す正面図である。
図11図10の側面図である。
図12】本実施形態のブレーキ部ユニットの正面図である。
図13図12の側面図である。
図14図12のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本実施形態>
以下、図面を参照しつつ本発明に係る実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態の墜落防止器具を示す図であり、本体ケースと蓋の部分は点線で示し、墜落防止器具の内部構造の側面を表している。図2は墜落防止器具の内部構造を示す正面図であり、図3はその背面図である。なお、図1図3ではワイヤが取り外されている状態である。
図1に示すように、本実施形態の墜落防止器具10は、本体ケース12と蓋14を有している。本体ケース12及び蓋14は、重ね合わせた状態でその内部に空間を形成するように構成されている。本体ケース12及び蓋14は、樹脂や金属により形成されていてもよく、また複数の材質を用いて形成されていてもよい。本体ケース12及び蓋14の上方には、墜落防止器具10を所望の設置場所に取り付けるための設置孔16が設けられている。本体ケース12及び蓋14の下方にはワイヤが出し入れされるガイド口18が設けられている。
【0018】
図1図3に示すように、本実施形態の墜落防止器具10は、フレーム20とドラム22とロック機構24を備えている。
フレーム20は荷重が加わったとき、その荷重に耐えうる強度を有している。フレーム20は本体ケース12側の第一フレーム20aと蓋14側の第二フレーム20bとで構成されている。第一フレーム20a及び第二フレーム20bの上方には設置孔16がそれぞれ設けられており、第一フレーム20a及び第二フレーム20bはこの設置孔16で重ね合わされた配置をしている。フレーム20の下方はドラム22及び後述する香箱36を挟み込んだ配置に形成されている。
【0019】
ドラム22は、主軸26でフレーム20に回動可能に軸支されている。ドラム22はドラム胴部28と2枚のフランジ30,32とにより構成されている。フランジ30,32はドラム胴部28の回転軸方向の面側にそれぞれ取り付けられている。
本体ケース12側に取り付けられたフランジ30のドラム胴部28とは反対側に位置する面には、その内部に巻取りバネ(図示なし)が収納された香箱36が取り付けられている。巻取りバネは、ドラム22がワイヤを巻き取る方向に回動するよう付勢されている。この巻取りバネの作用により墜落防止器具10に自動巻取り機能が備えられている。
【0020】
図4はワイヤを示す図である。
図4に示すように、ワイヤ38はワイヤロープ40とフック42とから構成されている。ワイヤロープ40は使用用途に合わせて任意の長さに設定されている。
ワイヤ38は、ワイヤロープ40の基端40aが後述するワイヤ取付溝に嵌め込まれることでドラム22に接続されている。このワイヤロープ40の基端40aにはワイヤスリーブ44が取り付けられている。ワイヤスリーブ44は円筒状の部材であり、その内部にワイヤロープ40を通した状態で圧着することによりワイヤロープ40に取り付けられている。ワイヤロープ40の基端40aにワイヤスリーブ44を取り付けることでドラム22に接続したワイヤ38の抜けが防止される。即ち、ワイヤスリーブ44はワイヤ38の抜け止めとして作用する。
ワイヤロープ40の先端40bにはフック42が取り付けられている。このフック42を作業者が装着する安全帯に接続することで墜落防止器具10と作業者とが接続される。
【0021】
図5はドラム胴部の正面図である。図6(A)は図5のA-A線断面図であり、図6(B)は図5のB-B線断面図である。
図5及び図6(A),(B)に示すように、ドラム胴部28は円柱状に形成されている。
ドラム胴部28の回転軸方向の蓋14側に位置する面にはロック機構設置空間46が形成されている。このロック機構設置空間46の底面は、ドラム胴部周面28aの高さよりも低い位置に形成されている。
ロック機構設置空間46の中心には、主軸26を通すための主軸挿通孔48が設けられている。この主軸挿通孔48の周囲には、後述するブレーキ部ユニットを配置するためのユニット配置領域50が形成されている。
ロック機構設置空間46内のユニット配置領域50の外方にはロック爪を配置するためのロック爪配置孔52が設けられている。本実施形態では、ロック爪が2箇所配置されているので、ロック爪配置孔52が2箇所設けられている。ロック爪配置孔52は、主軸挿通孔48の中心を中心として点対象の位置に形成されている。
【0022】
また、ロック機構設置空間46内のユニット配置領域50の外方の位置には、図4に示すワイヤロープ40の基端40aが接続されるワイヤ取付溝54が設けられている。ワイヤ取付溝54は、ワイヤ配置領域54aとスリーブ配置領域54bとに分けられ、ドラム胴部周面28aにはこのワイヤ取付溝54と連通する開口部56が設けられている。ワイヤ38はドラム胴部周面28aから開口部56を通ってワイヤ取付溝54に取り付けられる。
【0023】
スリーブ配置領域54bはワイヤスリーブ44が嵌め込み可能な幅及び長さに設定されている。ワイヤ配置領域54aはワイヤロープ40が嵌め込み可能であって、かつワイヤスリーブ44が通過できない程度の幅に設定されている。これによりワイヤ取付溝54に嵌め込んだワイヤ38を長手方向に引いてもワイヤスリーブ44がワイヤ配置領域54aを通過することができないため、ドラム22に接続したワイヤ38が外れることがない。
【0024】
ドラム胴部28には、ワイヤ配置領域54aに嵌め込んだワイヤロープ40の上部を横断するボルト挿通孔58が形成されている。
このボルト挿通孔58にワイヤ外れ止めボルト(図示なし)を挿通することで、このワイヤ外れ止めボルトがワイヤ取付溝54に嵌め込んだワイヤ38の上部を通過するように設置されるのでワイヤ取付溝54からワイヤ38が外れることが防止される。
【0025】
図7はドラム胴部にフランジを取り付けた状態を示す正面図であり、図8はその背面図であり、図9はその側面図である。
図7図9に示すように、ドラム胴部28の回転軸方向の本体ケース12側に位置する面にはフランジ30が、蓋14側に位置する面にはフランジ32がそれぞれ取付けられている。
本体ケース12側に位置する面に取り付けられるフランジ30は、円盤状の平板部材により形成されている。
【0026】
蓋14側に位置する面に取り付けられるフランジ32は、円盤状の平板部材により形成され、ドラム胴部28のロック機構設置空間46が形成されている領域の上方には開口部32aが形成されている。また、ドラム胴部28の開口部56の上方には、ドラム胴部周面28a側からロック機構設置空間46のワイヤ取付溝54へとワイヤ38を通すための挿通孔32bが形成されている。この挿通孔32bは、ワイヤ38の基端40aに取り付けられたワイヤスリーブ44が挿通可能な径に設定されており、開口部32aと連通している。
ドラム胴部28にフランジ30,32が取り付けられることでドラム胴部周面28aとフランジ30,32とでワイヤが巻き取られる空間34が形成されている。
【0027】
図10はドラム胴部のロック機構設置空間にロック機構を構成する各部材を配置した状態を示す正面図である。図11はその側面図であり、ドラム胴部は断面としている。
図12は本実施形態のブレーキ部ユニットの正面図であり、図13はその側面図、図14図12のC-C線断面図である。
図10図11に示すように、ロック機構設置空間46には、ロック機構24を構成する、ロック爪60と、ブレーキ部ユニット62とが配置されている。
【0028】
ロック爪60には、ブレーキ部ユニット62の構成部材であるギアプレート64の歯64aと係合する係合部60aが設けられている。
ロック爪60は、ロック爪配置孔52に配置されており、ドラム22の回転に付随して、ドラム22の回転軸を中心としてこの中心周りを回転可能に構成されている。
また、ロック爪60はその係合部60aがギアプレート64の歯64aと係合する位置と係合しない位置とに動作可能に構成されている。ロック爪60はバネ66により係合部60aがギアプレート64の歯64aと係合しない方向へと付勢されている。
落下で器具本体10からワイヤ38が引き出されドラム22が高速回転すると、ロック爪60の係合部60aがギアプレート64の歯64aとの係合位置に移動して、ギアプレート64の歯64aと係合することで、ドラム22の回転が停止に至るように構成されている。
【0029】
図12図14に示すように、ブレーキ部ユニット62は、ブレーキハブ68、ディスクブレーキ70、ギアプレート64、カラー72、皿バネ74、ナット76から構成されている。これらの各部材を組み合わせてユニット化されている。
ブレーキ部ユニット62の各部材を構成する材質には防錆に優れたステンレスが採用されている。
【0030】
ブレーキハブ68は円盤状の平板に軸68aが立設しており、軸68a中心には主軸26が挿通可能な主軸孔68bが形成されている。軸68aは円柱状に形成されており、側面にはその一部が切り欠かれて平坦面68cが形成されている。
【0031】
ディスクブレーキ70は円盤状の平板からなり、支持プレート70aと摩擦層70bから構成されている。ディスクブレーキ70は支持プレート70a上に摩擦層70bが積層した構造をとり、この摩擦層70bが摩擦制動面としてギアプレート64と面接触するように配置されている。ディスクブレーキ70とギアプレート64とが押圧されることでこの面接触した接触面に静止摩擦力が付与されている。
本実施形態では、2枚のディスクブレーキ70を用い、ギアプレート64を上下から挟み込むように配置することでブレーキのトルク調整を行っている。
ディスクブレーキ70は、その中心に貫通孔(図示なし)が設けられており、この貫通孔はブレーキハブ68の軸68aの平坦面68cが形成された側面形状に対応する形状を有している。このディスクブレーキ70をブレーキハブ68の軸68aに挿通することで、貫通孔の形状と軸68aの形状とが合致する。これにより、ディスクブレーキ70はブレーキハブ68に対して独自に回動することができず、ブレーキハブ68の回動と連動することになる。
【0032】
ギアプレート64は、円盤状の平板からなり、その外周にロック爪60の係合部60aと係合可能な複数の歯64aを有している。本実施形態では歯64aの数を5個設けている。なお、歯64aの数は4個以下でもよく6個以上でもよい。歯64aの形状や大きさ、この歯64aと係合するロック爪60の係合部60aの形状や大きさ、ギアプレート64とロック爪60との間隔、ロック爪60を付勢するバネ66の付勢力など様々な要因により適宜調整される。
ギアプレート64は、その中心に軸孔部64bが設けられており、ブレーキハブ68の軸68aが挿通可能な円形状に形成されている。また、この軸孔部64bはブレーキハブ68の軸68aの径よりも大径に形成されている。このギアプレート64をブレーキハブ68の軸68aに挿通することで、軸孔部64bは軸68aよりも径が大きいので、ギアプレート64はブレーキハブ68に対して回動可能に構成される。
【0033】
図14に示すカラー72は、リング状の部材であり、その内径がブレーキハブ68の軸68aの径よりも大きく、外径がギアプレート64の軸孔部64bよりも小さい形状に設定されている。カラー72はその滑り性を確保するため、滑り性を付与する表面加工が施されている。カラー72を構成する材質としてはステンレスに限らず、樹脂、鉄や銅などの金属を採用してもよい。滑り性を付与する表面処理としては、フッ素樹脂やカーボン系材料(ダイヤモンドライクカーボン;DLC)などによるコーティングが挙げられる。
カラー72は、ブレーキハブ68の軸68aと、ギアプレート64の軸孔部64bとの間に設置される。
皿バネ74はナット76の緩み止めとして使用される。
【0034】
本実施形態のブレーキ部ユニット62は、ブレーキハブ68の軸68aにディスクブレーキ70、カラー72、ギアプレート64、ディスクブレーキ70、皿バネ74をこの順に挿通し、最後にナット76を締めることにより一体化される。
そして、ナット76による締め付けの程度によって、ギアプレート64に所望量の摩擦抵抗を付与するトルク調整が行われる。トルク調整は、通常時の使用動作ではギアプレート64が回転しない程度の静止摩擦力を有するように設定される。
【0035】
図10図11に示すように、上記構成のブレーキ部ユニット62は、主軸26に差し込むことでロック機構設置空間46内に形成されたユニット配置領域50に配置されている。そして図2に示すように第二フレーム20bによりブレーキハブ68が回転不能に固定されている。ブレーキハブ68と連動するディスクブレーキ70も回転不能に固定されている。即ち、ブレーキ部ユニット62の回転固定をフレーム20で行う構造を採用している。
ブレーキ部ユニット62は第二フレーム20bを取り外すことで器具本体10からの固定が解除され、ロック機構設置空間46からの取り外し交換が可能に構成されている。
【0036】
落下で器具本体10からワイヤ38が引き出されドラム22が高速回転すると、ロック爪60の係合部60aとギアプレート64の歯64aとが係合する。このとき、ドラム22に生じていた回転トルクがギアプレート64にかかり、ディスクブレーキ70の摩擦層70bとの静止摩擦力以上のトルクが生じることでギアプレート64が回転する。回転するギアプレート64は、面接触しているギアプレート64と摩擦層70bとの摩擦力によって徐々に減速され、停止に至る。このようなブレーキ部ユニット62の衝撃緩衝作用によって墜落阻止時の作業者の身体にかかる衝撃が緩和される。
【0037】
<本実施形態の作用効果>
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態の墜落防止器具10は、ドラム胴部28にロック機構設置空間46が形成され、このロック機構設置空間46にロック機構24を構成するロック爪60とギアプレート64とディスクブレーキ70が配置される。そしてこのロック機構24を構成する部材のうち、ギアプレート64とディスクブレーキ70はユニット化されてブレーキ部ユニット62を構成しており、このブレーキ部ユニット62がロック機構設置空間46から取り外し交換可能に構成されている。このように、ブレーキをユニット化することでブレーキ部材を容易に着脱交換することが可能となるので、この墜落防止器具10はメンテナンス性に優れる。
【0038】
ドラム22が軸支されている主軸26にブレーキ部ユニット62を差し込むことでブレーキ部ユニット62がロック機構設置空間46に配置されている。そして、ブレーキ部ユニット62のブレーキハブ68が第二フレーム20bに回転不能に固定されている。この固定によりディスクブレーキ70がフレーム20に回転不能に固定されている。
上記のようにブレーキ部ユニット62が取り付けられるので、蓋14を開けて第二フレーム20bを取り外すだけで器具本体10からブレーキ部ユニット62の着脱交換を簡便に行うことができる。また、ブレーキ部ユニット62の回転固定を第二フレーム20bにより行っているので、分解、再組立作業が極めて容易である。本実施形態の墜落防止器具10は、従来の落下防止装置のように蓋にブレーキ部材を取り付ける構造ではないので、蓋に負荷ブラケットを固定して補強する必要もない。
【0039】
本実施形態のブレーキ部ユニット62は、少なくともブレーキハブ68、ディスクブレーキ70及びギアプレート64から構成されている。ブレーキを構成する各部材を事前に組み立ててユニット化しておくことが可能である。また、例えばユニット組立時などにブレーキのトルク調整をしておくことができる。
ブレーキ部ユニット62は器具本体10から着脱可能に構成されているので、ブレーキ点検ではブレーキ部ユニット62を器具本体10から取り外し、この取り外した状態でユニットの分解や部材の一部交換、トルク調整などをすることができるため、点検作業を行いやすい。
【0040】
ブレーキ交換では、器具本体10から蓋14側の第二フレーム20bを外して交換対象のブレーキ部ユニット62を取り外し、交換部材となる新たなブレーキ部ユニット62を取り付けるだけの極めて簡便な作業で完了する。そして交換部材となる新たなブレーキ部ユニット62は事前にブレーキのトルク調整をしておくことができるため、ブレーキ交換時にはブレーキのトルク調整を行う必要もない。
このように、ブレーキ交換が簡便な作業となり、また交換時のブレーキのトルク調整が不要になって専用の装置も使用せずに済むので、リース会社やユーザーにユニット化したブレーキ部ユニット62を供給しておくことで、ユーザーサイドでのブレーキ交換作業が可能となる。
【0041】
また、ブレーキ部ユニット62の各部材を構成する材質にステンレスを採用したので、従来のブレーキ部材に比べて錆に非常に強くなり、定期点検時に行われるブレーキの交換頻度が低減されている。
そして、ブレーキハブ68の軸68aとギアプレート64の軸孔部64bとの間に、滑り性を付与する表面処理が施されたカラー72を設置した。ブレーキ部ユニットの各部材を鉄で作製した場合は焼付きを生じないのでカラーは不要だが、各部材をステンレス製とすることで、落下時にはブレーキハブ68とギアプレート64との間で焼付きを生じるおそれがある。本実施形態では、ブレーキハブ68とギアプレート64との間に滑り性を付与する表面処理が施されたカラー72を設置したので滑り性が確保され、焼付きの発生を防止できる。この焼付き発生防止としてカラー72を使用せず、ギアプレート64に滑り性を付与する表面処理を施して対応することも考えられるが、ギアプレートは部材自体が高価であり、長期使用などで表面処理が剥がれるなどして交換が必要になった場合には交換費用が高くなる。一方、カラーであればギアプレートよりも製造コスト、表面処理コストが安価で交換費用を抑えることができる。
【0042】
更に、本実施形態の墜落防止器具では、ドラム22のロック機構設置空間46にワイヤ取付溝54が設けられている。このワイヤ取付溝54にワイヤ38の基端40aを嵌め込み、ボルト挿通孔58にワイヤ外れ止めボルトを取り付けることでワイヤ38がドラム22に接続される。
定期点検においてワイヤ交換が必要な場合、蓋14を開けてからドラム22に巻き回されているワイヤ38を引き出し可能な限度まで全て引き出す。そしてボルト挿通孔58からワイヤ外れ止めボルトを外し、ワイヤ取付溝54に嵌め込まれていた交換対象のワイヤ38を取り外す。ワイヤ取付溝54はドラム胴部28の回転軸方向の蓋14側に位置する面に形成されたロック機構設置空間46に設けられているため、ドラム22を器具本体10から取り外すことなくワイヤ38を取り外すことが可能となる。ワイヤ取付溝54から取り外した交換対象のワイヤ38は、挿通孔32bからドラム胴部周面28a側へと通してガイド口18より取り除く。
【0043】
次に、取り除いた順序とは逆の順序で交換部材となる新たなワイヤ38をドラム胴部周面28a側からロック機構設置空間46側へと通す。そして、ワイヤ取付溝54にワイヤ38を嵌め込み、ボルト挿通孔58にワイヤ外れ止めボルトを取り付けることでワイヤ38がドラム22に接続される。最後に、ドラム22にワイヤ38を巻き付け、蓋14を閉めることで交換作業が完了する。このように、ワイヤ交換が極めて簡便な作業で完了する。
【0044】
従来のワイヤ交換作業に比べて、分解する部品数が少ないため作業時間の短縮を図ることができる。また、ドラム22など複数の部品の取り外し作業がないので、製造組立時に設定していた巻取りバネの余巻きが解除されることがない。そのため、巻取りバネの余巻きの再設定をする必要がなくなり作業工程を短縮できる。更に、再設定時の余巻き数の間違いを防ぐこともできる。
【0045】
<変形例>
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれるものとする。
上記実施形態では、ブレーキ部ユニット62のブレーキハブ68をフレーム20に固定することでディスクブレーキ70を回転不能とする構成としたが、これに限定されない。例えば、ブレーキハブ68を主軸26に固定することでディスクブレーキ70を回転不能とする構成としてもよい。
また、滑り性を付与する表面処理が施されたカラー72を設置することでブレーキハブ68とギアプレート64との間での焼付きを防止する構成としたが、これに限定されない。例えば、ブレーキハブ68の軸68a側面の少なくともギアプレート64が配置される領域に滑り性を付与する表面処理を施す構成としてもよい。
【0046】
また、ブレーキ部ユニット62を2枚のディスクブレーキ70によりギアプレート64の両方の面側から押圧することでトルク調整する方式としたがこれに限定されない。1枚のディスクブレーキ70によりギアプレート64の一方の面側のみから押圧することでトルク調整する方式を採用してもよい。
また、ロック機構24をブレーキ部ユニット62をフレーム20に回転不能に固定し、ロック爪60をドラム22に固定する構成としたがこれに限定されない。ブレーキ部ユニット62をドラム22側に固定し、ロック爪60をフレーム20又は本体ケース12や蓋14に固定する構成としてもよい。
更に、ブレーキ部ユニット62に皿バネ74とナット76を用いて各部材をユニット化する構成としたがこれに限定されない。皿バネ74とナット76の組み合わせに代えて、緩み止めナットを採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明された墜落防止器具は、高所作業において使用される器具に広く適用されうる。
【符号の説明】
【0048】
10 墜落防止器具
20 フレーム
22 ドラム
24 ロック機構
26 主軸
46 ロック機構設置空間
54 ワイヤ取付溝
60 ロック爪
62 ブレーキ部ユニット
64 ギアプレート
64b 軸孔部
68 ブレーキハブ
68a 軸
70 ディスクブレーキ
72 カラー
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