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特開2024-96639電気化学セル、セルスタック、燃料電池、及び電気化学装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096639
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電気化学セル、セルスタック、燃料電池、及び電気化学装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/026 20160101AFI20240709BHJP
   H01M 8/0267 20160101ALI20240709BHJP
   H01M 8/0265 20160101ALI20240709BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240709BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20240709BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20240709BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20240709BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240709BHJP
【FI】
H01M8/026
H01M8/0267
H01M8/0265
C25B9/23
C25B9/60
C25B13/02 302
C25B9/77
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000283
(22)【出願日】2023-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 忠彦
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021DB06
4K021DB49
4K021DB53
5H126AA08
5H126AA11
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE22
5H126EE33
5H126EE35
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】例えばガス用流路溝の深さを抑えてセパレータ全体を薄型化する場合において、セパレータの強度の低下を抑制しつつ、流路溝での圧損を抑制できる電気化学セルの提供。
【解決手段】一実施の形態によれば、電気化学セル1は、隔膜10Mと隔膜10Mを挟む一対の電極10A,10Cとを含む膜電極接合体10と、一対の電極10A,10Cのうちの一方(10C)に重ねられるカソードセパレータ22とを備える。カソードセパレータ22は、電極10Cに対面する平坦なカソード側第1面22Aと、カソード側第1面22Aの反対に位置し、カソード側第1面22Aと平行な平坦なカソード側第2面22Bとを有する。そして、カソードセパレータ22には、カソード側第1面22Aからへこみ、カソード流体を通流させるカソード流体流路溝221が形成され、カソード流体流路溝221の深さは、部分的に異なっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜と前記隔膜を挟む一対の電極とを含む膜電極接合体と、
前記一対の電極のうちの少なくとも一方に重ねられるセパレータと、を備え、
前記セパレータは、前記電極に対面する平坦な第1面と、前記第1面の反対に位置し、前記第1面と平行な平坦な第2面とを有し、
前記セパレータには、前記第1面からへこみ、反応流体を通流させる反応流体流路溝が形成され、
前記反応流体流路溝の深さは、部分的に異なっている、電気化学セル。
【請求項2】
前記セパレータは、前記第2面からへこみ、流体を通流させる対向流路溝を有し、
前記反応流体流路溝における前記対向流路溝と対面しない部分の少なくとも一部の深さが、前記反応流体流路溝における他の部分の深さよりも大きくなっている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記対向流路溝における前記反応流体流路溝と対面しない部分の少なくとも一部の深さが、前記対向流路溝における他の部分の深さよりも大きくなっている、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記対向流路溝は、冷却水を通流させる冷却水用溝である、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記反応流体流路溝は、第1深さを有する第1部分と、前記第1深さよりも小さい第2深さを有する第2部分とを有し、
前記反応流体流路溝の上流端から下流端の間に、複数の前記第1部分と、複数の第2部分とが交互に形成される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記第1部分と前記第2部分との間には、前記反応流体流路溝の深さを前記第1深さから前記第2深さまで変化させる斜面部が形成される、請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記セパレータは、前記第2面からへこみ、前記第2面に流体を通流させる対向流路溝を有し、
前記反応流体流路溝における前記対向流路溝と対面しない部分の少なくとも一部に、前記第1部分が形成される、請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記セパレータは、前記反応流体流路溝において前記反応流体としての水素ガスを通流させるカソードセパレータであるか、又は、前記反応流体流路溝において前記反応流体としての酸化剤ガスを通流させるアノードセパレータである、請求項1乃至7のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項9】
隔膜と前記隔膜を挟む一対の電極とを含む膜電極接合体と、
前記一対の電極のうちの少なくとも一方に重ねられるセパレータと、を備え、
前記セパレータは、前記電極に対面する平坦な第1面と、前記第1面の反対に位置し、前記第1面と平行な平坦な第2面とを有し、
前記セパレータには、前記第2面からへこみ、冷却水を通流させる流路溝が形成され
前記流路溝の深さは、部分的に異なっている、電気化学セル。
【請求項10】
請求項1に記載の電気化学セルを複数重ねたセルスタック。
【請求項11】
請求項1に記載の電気化学セルを複数重ねたセルスタックを備え、発電を行う燃料電池。
【請求項12】
請求項1に記載の電気化学セルを複数重ねたセルスタックを備え、前記反応流体を電気分解する電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、電気化学セル、セルスタック、燃料電池、及び電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の燃料電池単セルを重ねることにより、発電時の出力電圧を増加させる燃料電池が知られている。複数の燃料電池単セルを重ねた構造体は、一般にセルスタックと呼ばれる。
【0003】
上記燃料電池単セルは、例えば、電解質膜及び電解質膜を挟み込む2つの触媒層を含む膜電極接合体と、膜電極接合体における2つの触媒層のそれぞれに重ねられる2つのガス拡散層と、2つのガス拡散層のそれぞれに重ねられる2つのセパレータと、を備える。
【0004】
以上のような燃料電池単セルにおいては、通常、セパレータにおけるガス拡散層に対面する面に反応ガスを流すためのガス用流路溝が形成される。発電運転の際には、このガス用流路溝に反応ガスが流され、反応ガスは、ガス用流路溝からガス拡散層に流れ、ガス拡散層は受け入れた反応ガスを拡散させて触媒層に透過させることで、触媒層の広い範囲に反応ガスが供給される。ガス拡散層は一般に多孔質体であり、これにより、反応ガスを拡散できる。
【0005】
上述の2つの触媒層は、詳しくは、アノード触媒層と、カソード触媒層とで構成される。また、上述の2つのセパレータは、詳しくは、アノード触媒層にガス拡散層を介して重なるアノードセパレータと、カソード触媒層にガス拡散層を介して重なるカソードセパレータとで構成される。そして、アノードセパレータのガス用流路溝に流される反応ガスが、ガス拡散層を介してアノード触媒層に供給される。カソードセパレータのガス用流路溝に流される反応ガスは、ガス拡散層を介してカソード触媒層に供給される。
【0006】
アノード触媒層及びカソード触媒層はそれぞれ、対応する反応ガスを供給されることで電気化学反応を発生させる。反応ガスとしては、一般に、水素ガスを含む燃料ガスと、酸素ガスを含む酸化剤ガスとが用いられる。この場合、アノード触媒層は、水素ガスと電気化学反応して、水素を、水素イオンと電子とに分解する。カソード触媒層は、酸素と水素イオンと電子とを電気化学反応させて、水を生成する。
【0007】
燃料電池は、上述したようにセルスタックにおいて燃料電池単セルを複数重ねることにより、発電時の出力電圧を増加できる。セルスタックでは、数十枚から数百枚の燃料電池単セルが重ねられることがある。そして、セルスタックでは、一般に、積層方向の両端に位置する燃料電池単セルのそれぞれに、集電板、絶縁体の板、及び締め付け板をこの順で配置して、両側の締め付け板を積層方向に締め付ける。これにより、複数の燃料電池単セルが重なり合う状態で保持される。
【0008】
また、上述した電気化学反応が発生する際には、反応熱が生じる。この反応熱を除去するために、アノードセパレータにおけるガス用流路溝が形成される面の反対の面及び/又はカソードセパレータにおけるガス用流路溝が形成される面の反対の面に、冷却水を通流させる流路溝が形成される場合がある。冷却水用の流路溝が形成される別個のセパレータを組み込む燃料電池も知られているが、上述のようにアノードセパレータ及び/又はカソードセパレータに冷却水用の流路溝を形成する場合には、薄型化の点で有利になる。
【0009】
以上のような燃料電池では、アノードセパレータ及びカソードセパレータを構成する部材として、チタン等の金属板や、カーボンを含むカーボン板が使用されることがある。金属板は、同じ厚さのカーボン板よりも、例えば3点曲げに対する強度が高い。そのため、燃料電池単セル又はセルスタックの製作時の取扱いに優れる。具体的には、例えば金属板からなるセパレータは、作業員が片手で持った場合であっても、その自重によって割れるということがまずない。
【0010】
しかしながら、金属板からなるセパレータでは、例えば腐食や酸化の問題が発生しやすい。すなわち、電気化学反応で発生した生成水は、触媒層であるカソード触媒層から例えばカソードセパレータのガス用流路溝に排出される。この際、カソードセパレータは水蒸気又は水に晒され、且つ酸化剤ガス中の酸素にも晒されるため、腐食や酸化による不動態が生じやすくなる。このような腐食や不動態は、セパレータの耐久性の低下や、電気抵抗の増大による電池特性の低下を招き得る。
【0011】
これに対して、カーボン板からなるセパレータでは、腐蝕による劣化や酸化による電気抵抗の増大が金属板を使用した場合よりも抑制できる。しかしながら、カーボン板からなるセパレータは、機械的強度を十分に確保し難い。そのため、燃料電池単セル又はセルスタックの製作時における作業員のハンドリングにおいて、又はセルスタック積層後の締め付け作業において、セパレータに割れが発生するリスクが高くなる。
【0012】
したがって、上述のような割れを回避するために、セパレータとして使用されるカーボン板では、通常、一定値以上の厚さが確保される。そのため、カーボン板の使用は、金属板を使用する場合よりも薄型化の点で不利になる。ここで、カーボン板に確保される上記一定値以上の厚さは、通常、セパレータに形成されるガス用流路溝の深さを考慮して定められる。具体的には例えば、カーボン板でなるセパレータの一方の面に形成されたガス用流路溝の底面から上記一方の面とは反対のセパレータの他方の面までのセパレータ厚さが一定値以上になるように、セパレータの厚さが定められる。
【0013】
なお、上述のようにガス用流路溝の深さを基準にカーボンからなるセパレータの厚さを定める場合、ガス用流路溝の深さを浅くし、浅くした溝の底面から一定値の厚さをセパレータに確保することで、セパレータの全体的な厚さを抑制することもできる。しかしながら、ガス用流路溝の深さを浅くすると、溝を流れる反応ガスに対する圧損が大きくなる。この場合には、反応ガスを通流させるためのブロアの容量が大きくなり、エネルギー消費量や、システム全体のサイズが不所望に大きくなる虞がある。すなわち、セパレータでは、ガス用流路溝の深さを浅くし、セパレータの全体を薄型化すると、ガス用流路溝での圧損が高くなり、一方で、ガス用流路溝の深さを大きくして圧損を低下させようとすると、セパレータの強度不足が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第5105865号
【特許文献2】特許第6696279号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、例えばガス用流路溝の深さを抑えてセパレータ全体を薄型化する場合において、セパレータの強度の低下を抑制しつつ、流路溝での圧損を抑制することができる電気化学セル、並びにこれを備えるセルスタック、燃料電池、及び電気化学装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一実施の形態に係る電気化学セルは、隔膜と前記隔膜を挟む一対の電極とを含む膜電極接合体と、前記一対の電極のうちの少なくとも一方に重ねられるセパレータと、を備える。前記セパレータは、前記電極に対面する平坦な第1面と、前記第1面の反対に位置し、前記第1面と平行な平坦な第2面とを有する。前記セパレータには、前記第1面からへこみ、反応流体を通流させる反応流体流路溝が形成され、前記反応流体流路溝の深さは、部分的に異なっている。
【0017】
また、一実施の形態に係るセルスタックは、上記の電気化学セルを複数重ねたセルスタックである。
【0018】
また、一実施の形態に係る燃料電池は、上記の電気化学セルを複数重ねたセルスタックを備え、発電を行う燃料電池である。
【0019】
また、一実施の形態に係る電気化学装置は、上記の電気化学セルを複数重ねたセルスタックを備え、前記反応流体を電気分解する電気化学装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、例えばガス用流路溝の深さを抑えてセパレータ全体を薄型化する場合において、セパレータの強度の低下を抑制しつつ、流路溝での圧損を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施の形態に係る電気化学セルの概略的な断面図である。
図2図1に示す電気化学セルのカソードセパレータの斜視図である。
図3図2に示すカソードセパレータの平面図である。
図4図1に示す電気化学セルを複数重ねたセルスタックを示す図である。
図5図1に示す電気化学セルのカソード流体流路溝で生じる圧損の状態を示すグラフと、比較例に係る電気化学セルのカソード流体流路溝で生じる圧損の状態を示すグラフと、を示す図である。
図6図1に示す電気化学セル及び比較例に係る電気化学セルのカソード流体流路溝で生じる圧損が同等になるようにそれぞれの溝深さを調整し、且つそれぞれのカソードセパレータにおいて一定値の厚さを確保した場合の、両者の厚さを比較するための図である。
図7図1に示す電気化学セルのカソード流体流路溝を流れるカソード流体の動きを説明する図である。
図8】第2の実施の形態に係る電気化学セルの概略的な断面図である。
図9】第3の実施の形態に係る電気化学セルの反応ガス流路溝としてのカソードセパレータの部分的な平面図である。
図10】第4の実施の形態に係る電気化学セルの概略的な断面図である。
図11】第5の実施の形態に係る電気化学セルの概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照しつつ各実施の形態について説明する。
【0023】
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る電気化学セル1の概略的な断面図である。図1に示す電気化学セル1は、膜電極接合体10と、第1ガス拡散層11と、アノードセパレータ12と、第2ガス拡散層21と、カソードセパレータ22と、を備えている。
【0024】
第1ガス拡散層11及びアノードセパレータ12は、この順で膜電極接合体10の一方の面に重ねられる。第2ガス拡散層21及びカソードセパレータ22は、この順で膜電極接合体10の上記一方の面とは反対の他方の面に重ねられる。電気化学セル1を構成する各部材が重なる方向を、以下の説明において厚さ方向TDと呼ぶ。図1及び以下の説明で用いる複数の図においては、厚さ方向TDを示す矢印が符号TDによって示されている。
【0025】
膜電極接合体10は、隔膜10Mと、隔膜10Mを挟む一対の電極10A,10Cと、有する。隔膜10Mは、例えば固体高分子膜(イオン交換膜)や、固体電解質膜(電解質膜)などのプロトン伝導性を有するイオン濾過膜である。
【0026】
本実施の形態では、電気化学セル1を固体高分子形燃料電池又は固体高分子形電気化学装置(固体高分子形電解装置)に組み込むことを想定している。したがって、隔膜10Mとしては、固体高分子膜が用いられる。ただし、電気化学セルの1の用途は特に限られるものではなく、固体高分子形とは異なる形式の装置で用いられてもよい。したがって、隔膜10Mの材料は、電気化学セル1の用途に応じて適宜選択されればよい。なお、電気化学セル1は燃料電池に組み込まれる場合、燃料電池単セルと呼ばれる場合もある。
【0027】
一対の電極10A,10Cは、隔膜10Mの一方の面に接合されるアノード電極10Aと、隔膜10Mの上記一方の面とは反対の他方の面に接合されるカソード電極10Cと、で構成されている。アノード電極10A及びカソード電極10Cは、いわゆる触媒層を構成する部分である。
【0028】
アノード電極10A及びカソード電極10Cは、例えば導電体の薄膜、箔又は薄板からなる。詳しくは、アノード電極10A及びカソード電極10Cは、例えばカーボンまたは金属を含むガス透過性を有する基材に触媒を付着させて構成されてもよい。触媒は、ニッケル、イリジウム、金、銀、又は白金等の金属を含む触媒でもよいし、酸化ニッケル、二酸化イリジウムまたは酸化コバルト等の金属酸化物を含む触媒でもよいし、これらの組合せでもよい。
【0029】
なお、本実施の形態における膜電極接合体10は矩形の板状であり、アノード電極10A及びカソード電極10Cもそれぞれ矩形状に形成されている。また、膜電極接合体10に重ねられる第1ガス拡散層11、アノードセパレータ12、第2ガス拡散層21及びカソードセパレータ22も矩形状であり、電気化学セル1は全体として矩形の板状をなす。ただし、電気化学セル1又はその構成部材の形状は特に限られるものではない。
【0030】
第1ガス拡散層11はアノード電極10Aに重ねられ、アノード電極10Aに接している。第1ガス拡散層11は、ガス透過性及び導電性を有する部材であり、例えば多孔質体で形成される。第1ガス拡散層11は、具体的にはカーボンを含む板材又はシート材で形成されてもよく、より具体的にはカーボンペーパで形成されてもよい。
【0031】
アノードセパレータ12は第1ガス拡散層11を介してアノード電極10Aに重ねられ、第1ガス拡散層11に接している。アノードセパレータ12も導電性を有する。アノードセパレータ12は、具体的にはカーボンを含む板材又はシート材や、金属板等で形成されてもよい。
【0032】
アノードセパレータ12は、第1ガス拡散層11に接するアノード側第1面12Aと、アノード側第1面12Aの反対のアノード側第2面12Bと、を有している。アノード側第1面12Aは第1ガス拡散層11を介してアノード電極10Aと対面する平坦な面であり、アノード側第2面12Bはアノード側第1面12Aの反対に位置し、アノード側第1面12Aと平行な平坦な面である。ここで、アノードセパレータ12には、アノード側第1面12Aからへこみ、反応ガスとしてのアノード流体を通流させるアノード流体流路溝121が形成されている。
【0033】
本実施の形態では、アノードセパレータ12に複数のアノード流体流路溝121が形成されている。そして、複数のアノード流体流路溝121は、図示の例では互いに平行に延びている。詳しくは、複数のアノード流体流路溝121は、厚さ方向TDに直交する第1方向D1に間隔を空けて並び、厚さ方向TD及び第1方向D1の両方に直交する第2方向D2に延びている。アノードセパレータ12において隣り合うアノード流体流路溝121の間の部分は、リブと呼ばれる場合がある。図示のアノードセパレータ12においては、アノード流体流路溝121とリブとが第1方向D2に交互に位置する。なお、図1及び以下の説明で用いる複数の図には、第1方向D1を示す矢印が符号D1で示され、第2方向D2を示す矢印が符号D2で示されている。
【0034】
アノード流体流路溝121には、図示しないアノード流体供給源からアノード流体が供給される。アノード流体流路溝121は、入口から受け入れるアノード流体を出口まで通流させる。この際、アノード流体は第1ガス拡散層11によって拡散された状態でアノード電極10Aに供給される。アノード流体としては、水素ガスを含む燃料ガスが用いられる。
【0035】
なお、複数のアノード流体流路溝121の形成パターンは本実施の形態の態様に限られず、例えばアノード流体流路溝121は蛇行状に延びるように形成されてもよい。また、本実施の形態ではアノード側第2面12Bに溝が設けられない。ただし、アノード側第2面12Bに冷却水を通流させる流路溝が形成されてもよい。
【0036】
次に、第2ガス拡散層21及びカソードセパレータ22について説明する。第2ガス拡散層21はカソード電極10Cに重ねられ、カソード電極10Cに接している。第2ガス拡散層21は、ガス透過性及び導電性を有する部材であり、例えば多孔質体で形成される。第2ガス拡散層21は、具体的にはカーボンを含む板材又はシート材で形成されてもよく、より具体的にはカーボンペーパで形成されてもよい。
【0037】
カソードセパレータ22は第2ガス拡散層21を介してカソード電極10Cに重ねられ、第2ガス拡散層21に接している。カソードセパレータ22も導電性を有する。カソードセパレータ22は、具体的にはカーボンを含む板材又はシート材や、金属板等で形成されてもよい。本実施の形態では、一例としてカソードセパレータ22がカーボンを含む板材で形成されている。
【0038】
カソードセパレータ22は、第2ガス拡散層21に接するカソード側第1面22Aと、カソード側第1面22Aの反対のカソード側第2面22Bと、を有している。カソード側第1面22Aは第2ガス拡散層21を介してカソード電極10Cと対面する平坦な面であり、カソード側第2面22Bはカソード側第1面22Aの反対に位置し、カソード側第1面22Aと平行な平坦な面である。ここで、カソードセパレータ22には、カソード側第1面22Aからへこみ、反応ガスとしてのカソード流体を通流させるカソード流体流路溝221と、カソード側第2面22Bからへこみ、冷却水を通流させる対向流路溝230と、が形成されている。
【0039】
図2は、カソードセパレータ22の斜視図である。図1及び図2に示すように、本実施の形態では、カソードセパレータ22に複数のカソード流体流路溝221と複数の対向流路溝230とが形成されている。複数のカソード流体流路溝221は互いに平行に延びている。詳しくは、カソード流体流路溝221は、図示の例では、厚さ方向に見る場合にアノード流体流路溝121と交差する方向、詳しくは直交する方向に延びる。すなわち、複数のカソード流体流路溝221は、一例として、第2方向D2に間隔を空けて並び、第1方向D1に延びている。
【0040】
カソード流体流路溝221には、図示しないカソード流体供給源からカソード流体が供給される。カソード流体流路溝221は、入口から受け入れるカソード流体を出口まで通流させる。この際、カソード流体が、第2ガス拡散層21によって拡散された状態でカソード電極10Cに供給される。カソード流体としては、酸素ガスを含む酸化剤ガスが用いられる。
【0041】
一方で、対向流路溝230は冷却水を通流させる冷却水用溝である。複数の対向流路溝230は、第1方向D1に間隔を空けて並び、第2方向D2に延びている。対向流路溝230には水等の冷却水が供給され、対向流路溝230は、入口から受け入れる冷却水を出口まで通流させる。
【0042】
後述するように、複数の電気化学セル1を重ねることによりセルスタックを形成する際には、セルスタックの最下層に位置するもの以外の電気化学セル1は、対向流路溝230が形成されるカソード側第2面22Bが他の電気化学セル1のアノードセパレータ12のアノード側第2面12Bに接するように他の電気化学セル1に重ねられる。この際、対向流路溝230は、他の電気化学セル1のアノードセパレータ12のアノード側第2面12Bと協働して閉じた流路断面を形成し、冷却水を通流可能とする。これにより、冷却水は、通流する対向流路溝230が形成されるアノードセパレータ12と、他の電気化学セル1のカソードセパレータ22とで生じる熱を吸熱できる。
【0043】
なお、複数のカソード流体流路溝221及び複数の対向流路溝230の形成パターンは本実施の形態の態様に限られず、例えばカソード流体流路溝221及び対向流路溝230は、蛇行状に延びるように形成されてもよい。
【0044】
以下、カソード流体流路溝221の形状について詳述する。図1及び図2に示すように、本実施の形態では、カソード流体流路溝221の深さが、部分的に異なっている。図3はカソードセパレータ22の平面図である。図3においては、カソード流体流路溝221における深さが深くなる部分にドットが付されている。また、図3においては、対向流路溝230が破線で示されている。
【0045】
詳しくは、本実施の形態では、図1乃至図3に示すように、カソード流体流路溝221における対向流路溝230と厚さ方向TDで対面しない部分の少なくとも一部(図示の例では全部)の深さが、カソード流体流路溝221における他の部分(対向流路溝230と対面する部分)の深さよりも大きくなっている。
【0046】
より具体的には、カソード流体流路溝221は、図1に示すように、第1深さA1を有する第1部分221Aと、第1深さA1よりも小さい第2深さA2を有する第2部分221Bとを有する。これら複数の第1部分221Aと複数の第2部分221Bとは、カソード流体流路溝221の上流端から下流端の間に交互に形成されている。言うまでも無いが、深さが大きくなる第1部分221Aは、カソード流体流路溝221における対向流路溝230と対面しない部分の少なくとも一部(図示の例では全部)に形成されている。
【0047】
以上のようにカソード流体流路溝221の深さが部分的に異なる場合、カソード流体流路溝221における圧損を、例えば第2深さA2で一定の流路溝を有するセパレータよりも小さくできる。一方で、カソード流体流路溝221における深さが大きくなる箇所は部分的に形成されるため、カソードセパレータ22の過剰な強度低下を回避できる。そして、特に本実施の形態では、深さが大きくなる第1部分221Aが対向流路溝230が形成されない箇所に形成される。そのため、第1部分221Aの底面からカソード側第2面22Bまでの厚さが他の部分と同じになるか又は他の部分に対して過剰に小さくなることを抑制できる。したがって、カソードセパレータ22に適正な強度を確保しやすくなる。
【0048】
なお、本実施の形態におけるカソード流体流路溝221は、第1深さA1を有する第1部分221Aと、第1深さA1よりも小さい第2深さA2を有する第2部分221Bとを有するが、カソード流体流路溝221は本実施の形態の態様に限られるものではない。例えばカソード流体流路溝221は、第1深さA1と第2深さA2との間の深さを有する第3部分を例えば第1部分221Aと第2部分221Bとの間に有してもよい。また、カソード流体流路溝221は、その底面が波形(サインカーブ)をなすような形状に形成されてもよい。
【0049】
図4は複数の電気化学セル1を重ねたセルスタック100を示す。セルスタック100では、複数の電気化学セル1が、各厚さ方向を揃える状態で重ねられる。この際、上述したように、最下層に位置する電気化学セル1以外の電気化学セル1は、対向流路溝230が形成されるカソード側第2面22Bが、他の電気化学セル1のアノードセパレータ12のアノード側第2面12Bに接するように他の電気化学セル1に重ねられる。
【0050】
図4に示すセルスタック100では、積層方向の両端に位置する電気化学セル1のそれぞれに、集電板101、絶縁体の板(図示せず)、及び締め付け板102がこの順で配置される。そして、両側の締め付け板102を積層方向に締め付けることにより、複数の電気化学セル1が重なり合う状態で保持される。ここで、積層方向の両端に位置する2つの電気化学セル1の一方(図4の上側)では、アノードセパレータ12のアノード側第2面12Bが集電板101に接する。また、積層方向の両端に位置する2つの電気化学セル1の他方(図4の下側)では、カソードセパレータ22のカソード側第2面22Bが集電板101に接する。
【0051】
燃料電池又は電気化学装置は以上のようなセルスタック100を備えるとともに、コンプレッサ等のカソード流体供給源、水素ガスタンク等のアノード流体供給源、電力を取り出す又は供給するための配線等を備えることで構成される。なお、図4においては説明の便宜のために、簡易的に3つの電気化学セル1が重なる状態が示されている。ただし、一般には数十から数百個の電気化学セル1が重ねられてセルスタック100が形成される。
【0052】
次に、本実施の形態に係る電気化学セル1におけるカソード流体流路溝221で生じる圧損と、比較例に係る電気化学セルのカソード流体流路溝で生じる圧損とを計算した結果を説明する。図5(A)は、電気化学セル1におけるカソード流体流路溝221で生じる圧損の状態を示すグラフを示す。図5(B)は、比較例に係る電気化学セルのカソード流体流路溝で生じる圧損の状態を示すグラフを示す。
【0053】
図5(A)、(B)のグラフにおける横軸は、カソード流体流路溝の長手方向の位置を示す。横軸における符号Uは、カソード流体の入口の位置を示し、符号Dは、カソード流体の出口を示し、出口は大気に開放しているものとする。縦軸は、圧力(kPa)を示す。計算される圧損は、カソード流体の入口の位置に対応する圧力に対応する。この圧損は、カソード流体流路溝の入口から出口までカソード流体を送るために必要な力として計算されている。
【0054】
本実施の形態に係る電気化学セル1におけるカソード流体流路溝221では、第1部分221Aの深さ(第1深さA1)が0.4mmとなり、第2部分221Bの深さ(第2深さA2)が0.1mmとなるように寸法条件が設定された。比較例に係る電気化学セルでは、カソード流体流路溝の深さが0.1mmで一定になっている。そして、実施の形態及び比較例に供給するカソード流体は空気であり、流量の条件は、80cc/minに設定された。
【0055】
以上の条件で圧損を計算した結果、本実施の形態に係るカソード流体流路溝221で生じる圧損は、2.49kPaであった。一方で、比較例に係るカソード流体流路溝で生じる圧損は、3.68kPaであった。本実施の形態に係るカソード流体流路溝221で生じる圧損は、比較例に係るアノード流体流路溝で生じる圧損よりも抑えられている。本実施の形態に係るカソード流体流路溝221のように流路の断面積が変化する場合、断面積が変化する箇所で渦流れ等の発生により圧損が上昇することがある。しかし、実施の形態における圧損の数値と比較例における圧損の数値を対比すると、本実施の形態に係るカソード流体流路溝221で生じる圧損は、十分に抑えられていると評価できる。
【0056】
また、図5(A)のグラフを詳しく見ると、本実施の形態におけるカソード流体流路溝221では、出口側に向けて圧力低下が大きい範囲R1と、この圧力低下範囲R1から圧力低下が小さい範囲R2とが繰り返し生じる。圧力低下が大きい範囲R1は、カソード流体流路溝221において溝深さが浅い第2部分221Bに対応し、圧力低下が小さい範囲R2は、第1部分221Aに対応する。本実施の形態に係るカソード流体流路溝221では圧力が滑らかに推移しないが、比較例に比べて圧損が十分に小さいことが見て取れる。
【0057】
ここで、比較例に係る電気化学セルでは、カソード流体流路溝の深さを大きくすることにより、カソード流体流路溝で生じる圧損を本実施の形態に係るカソード流体流路溝221で生じる圧損と同等の値に調整できる。しかしながら、比較例に係る電気化学セルにおいてカソード流体流路溝の深さを大きくした場合には、カソードセパレータの厚さを所望の強度を確保するべく、大きくする必要性が生じる。そのため、カソード流体流路溝の深さを大きくしつつ例えば本実施の形態におけるカソードセパレータ22と同等の強度を比較例におけるカソードセパレータに確保する際には、比較例に係る電気化学セルが、本実施の形態に係る電気化学セル1よりも厚くなり得る。そのため、本実施の形態に係る電気化学セル1は、薄型化の点で有利になる。
【0058】
図6は、本実施の形態に係る電気化学セル1が薄型化で有利になることを説明する図である。詳しくは、図6は、本実施の形態に係る電気化学セル1及び比較例に係る電気化学セルそれぞれのカソード流体流路溝で生じる圧損が同等になるように各溝深さを調整し、且つそれぞれのカソードセパレータにおいて一定値の厚さを確保した場合の、両者の厚さを比較するための図である。
【0059】
図6の上段では、図5(A)、(B)に示した電気化学セル1及び比較例に係る電気化学セルが左右に並ぶ状態で示されている。図6の上段における2つの電気化学セルにおいては、上述したように、比較例に係る電気化学セルのカソード流体流路溝で生じる圧損は、実施の形態に係る電気化学セル1のカソード流体流路溝221で生じる圧損よりも大きい。一方で、電気化学セル1のカソードセパレータ22及び比較例に係る電気化学セルのカソードセパレータは、同じ厚さであり、対向流路溝の深さも同じになっている。
【0060】
上記比較例においては、上述したようにカソード流体流路溝の深さを大きくすれば、カソード流体流路溝で生じる圧損を実施の形態に係る電気化学セル1のカソード流体流路溝221で生じる圧損と同等にすることができる。図6の下段の右側には、比較例における圧損が実施の形態における圧損と同等となるように、カソード流体流路溝の深さを大きくした状態が示されている。また、図6の下段の左側には、上段左側に示された本実施の形態に係る電気化学セル1が同じ縮尺で示されている。
【0061】
比較例においてカソード流体流路溝の深さを大きくする場合、その他の条件を変更しないと、特にカソード流体流路溝の底面から対向流路溝の底面までの厚さが小さくなる。この点を考慮し、図6の下段右側の比較例では、カソード流体流路溝の底面から対向流路溝の底面までの厚さb1が、本実施の形態におけるカソードセパレータ22において確保される最低厚さ(一定値)と同じ値に設定されている。最低厚さは、カソード流体流路溝221の底面から対向流路溝230の底面までの厚さである。しかしながら、この場合、図6の下段の2つの電気化学セルを対比して明らかなように、比較例におけるカソードセパレータの厚さXは、本実施の形態におけるカソードセパレータ22の厚さYよりも大きくなる。したがって、本実施の形態に係る電気化学セル1が、従来のカソード流体流路溝が一定の深さの電気化学セルよりも薄型化の点で有利になることは明らかである。
【0062】
次に、電気化学セル1のカソード流体流路溝221におけるカソード流体の動きを説明する。図7は、カソード流体の状態を説明する図であり、カソードセパレータ22を厚さ方向に見た図である。図示しないが、図7のカソードセパレータ22の上方には第2ガス拡散層21が設けられる。
【0063】
カソード流体流路溝221に供給されるカソード流体は、図7における矢印αに沿って通流する。この際、カソード流体が、第2ガス拡散層21によって拡散された状態でカソード電極10Cに供給される。詳しくは、第2ガス拡散層21によってカソード流体が拡散することで、カソード電極10Cにおけるカソード流体流路溝221と対面する箇所だけでなく、カソード電極10Cにおける隣り合うカソード流体流路溝との間の部分(リブ)と対面する箇所にもカソード流体が拡散される。そして、発電時にカソード電極10Cでは、例えばカソード流体中の酸素と水素イオンと電子とが電気化学反応し、水が生成される。
【0064】
上述のようにカソード流体が拡散してカソード電極10Cに供給されるものの、カソード電極10Cにおけるカソード流体流路溝221と対面する箇所と、対面しない箇所(リブと対面する箇所)とでは発電時の電流密度にムラが生じ得ることが従前よりも知られている。具体的には、カソード電極10Cにおけるカソード流体流路溝221と対面しない箇所の電流密度が、多くの場合に対面する箇所の電流密度よりも小さくなる。この原因の一つとして、カソード電極10Cで生じた生成水は水蒸気として第2ガス拡散層21からカソード流体流路溝221へ拡散して移動しようとする際に、第2ガス拡散層21におけるカソード流体流路溝221と対面する箇所の空隙率よりも対面しない箇所の空隙率が生成水(液体)の溜まりによって小さくなり、カソード流体の透過抵抗が大きくなることが挙げられる。
【0065】
ここで、図5(A)に示したように、本実施の形態に係る電気化学セル1では、出口側に向けて圧力低下の大きい範囲R1から圧力低下の小さい範囲R2と、が繰り返し生じる。本件発明者は、この圧力の変化により、上述したカソード電極10C上で生じ得る電流密度のムラを緩和させるカソード流体の動きが生じ得ることを知見した。これによって、本実施の形態に係る電気化学セル1によれば、圧損の抑制に加えて、発電効率の向上の点でも有利になる。
【0066】
すなわち、圧力低下の小さい範囲R2(第1部分221A)から、圧力低下の大きい範囲R1(第2部分221B)に移行する境界において、カソード流体を逆流させる力が生じ得る。同時に、図7の矢印βに示すように、第2ガス拡散層21におけるカソード流体流路溝221と対面しない箇所から対面する箇所、次いでカソード流体流路溝221に、カソード流体が透過する流れが生じ得る。そして、矢印βに沿うカソード流体の流れが生じると、矢印γに示すように、第2ガス拡散層21におけるカソード流体流路溝221と対面しない箇所内でのカソード流体の対流が生じ得る。この結果、第2ガス拡散層21におけるカソード流体流路溝221と対面しない箇所内での酸素濃度が上昇し、カソード電極10Cに到達するカソード流体の濃度が向上し得る。
【0067】
また、矢印γに示す対流が生じた場合には、第2ガス拡散層21に停滞する生成水もカソード流体とともに、カソード流体流路溝221に流れ、第2ガス拡散層21における含水率が低下し、カソード流体の第2ガス拡散層21における透過効率が向上し得る。
【0068】
すなわち、本実施の形態ではカソード流体流路溝221の深さを部分的に異ならせることにより、第2ガス拡散層21におけるカソード流体流路溝221と対面しない箇所内でのカソード流体の対流が生じ得る。これにより、第2ガス拡散層21におけるカソード流体流路溝221と対面しない箇所内での酸素濃度が上昇し、カソード電極10Cに到達するカソード流体の濃度が向上し得る。さらには、第2ガス拡散層21における含水率が低下し、カソード流体の第2ガス拡散層21における透過効率が向上する。その結果、カソード電極10Cに供給されるカソード流体における酸素濃度を効果的に高めることが可能となって、発電効率の向上の効果が得られ得る。
【0069】
以上に説明したように本実施の形態に係る電気化学セル1は、隔膜10Mと隔膜10Mを挟む一対の電極10A,10Cとを含む膜電極接合体10と、一対の電極10A,10Cのうちの一方(10C)に重ねられるカソードセパレータ22と、他方(10A)に重ねられるアノードセパレータ12と、を備える。そして、このうちのカソードセパレータ22は、電極10Cに対面する平坦なカソード側第1面22Aと、カソード側第1面22Aの反対に位置し、カソード側第1面22Aと平行な平坦なカソード側第2面22Bとを有する。そして、カソードセパレータ22には、カソード側第1面22Aからへこみ、カソード流体を通流させるカソード流体流路溝221が形成され、カソード流体流路溝221の深さは、部分的に異なっている。
【0070】
このような電気化学セル1では、カソード流体流路溝221の深さが部分的に異なることにより、カソード流体流路溝221における圧損を、例えば深さが一定の溝の場合よりも小さくできる。一方で、カソード流体流路溝221における深さが部分的に大きくなる箇所は部分的に形成されるため、カソードセパレータ22の過剰な強度低下を回避できる。
【0071】
したがって、本実施の形態に係る電気化学セル1によれば、カソード流体流路溝221の深さを抑えてカソードセパレータ22全体を薄型化する場合において、カソードセパレータ22の強度の低下を抑制しつつ、カソード流体流路溝221での圧損を抑制することができる。
【0072】
特に本実施の形態では、カソード流体流路溝221において深さが大きくなる部分(第1部分221A)が、対向流路溝230が形成されない箇所に形成されるため、第1部分221Aの底面からカソード側第2面22Bまでの厚さが他の部分と同じになるか又は他の部分に対して過剰に小さくなることを回避できる。そのため、カソードセパレータ22に適正な強度を確保しやすくなる。
【0073】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。図8は、第2の実施の形態に係る電気化学セル2の概略的な断面図である。本実施の形態の構成部分のうちの第1の実施の形態と同じものには、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0074】
図8に示すように、本実施の形態ではカソード流体流路溝221における深さが緩やかに変化する。詳しくは、カソード流体流路溝221においては、第1部分221Aと第2部分221Bとの間に、カソード流体流路溝221の深さを第1深さA1から第2深さA2まで変化させる斜面部224が形成される。斜面部224の角度は、厚さ方向TDに対して5度以上であることが好ましい。
【0075】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。図9は、第3の実施の形態に係る電気化学セル3のカソードセパレータ22の部分的な平面図である。本実施の形態の構成部分のうちの第1及び第2の実施の形態と同じものには、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、図9においても、カソード流体流路溝221における深さが深くなる部分(第1部分221A)にドットが付されている。
【0076】
図9に示すように、本実施の形態ではカソード流体流路溝221における深さが部分的に大きくなる部分の角部が円弧状に面取り(R面取り)されている。すなわち、図8に示すようにカソード流体流路溝221において深さが大きくなる第1部分221Aは、平面視で矩形状となっており、本実施の形態では第1部分221Aの四隅が円弧状に面取りされている。第1部分221Aの角部における面取り部分の曲率半径は、カソード流体流路溝221の幅(長手方向に直交する方向での寸法)の1/2以下であることが好ましい。
【0077】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態について説明する。図10は、第4の実施の形態に係る電気化学セル4の概略的な断面図である。本実施の形態の構成部分のうちの第1乃至第3の実施の形態と同じものには、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0078】
図10に示すように、本実施の形態では、カソードセパレータ22のカソード側第2面22Bに形成された対向流路溝230におけるカソード流体流路溝221と厚さ方向TDに対面しない部分の少なくとも一部(図示の例では全部)の深さが、対向流路溝230における他の部分(カソード流体流路溝221と対面する部分)の深さよりも大きくなっている。これにより、本実施の形態では対向流路溝230における圧損を低減できる。
【0079】
なお、第4の実施の形態における対向流路溝230の態様は、例えば第1の実施の形態に適用されてもよい。すなわち、カソードセパレータ22において、カソード流体流路溝221の深さが部分的に異なっており、且つ、対向流路溝230の深さが部分的に異なっていてもよい。そして、カソード流体流路溝221における対向流路溝230と対面しない部分の少なくとも一部の深さが、カソード流体流路溝221における他の部分の深さよりも大きくなっているのと同時に、対向流路溝230におけるカソード流体流路溝221と対面しない部分の少なくとも一部の深さが、対向流路溝230における他の部分の深さよりも大きくなっていてもよい。この場合、カソード流体流路溝221及び対向流路溝230において、同時に圧損を抑制できる。
【0080】
<第5の実施の形態>
次に、第5の実施の形態について説明する。図11は、第5の実施の形態に係る電気化学セル5の概略的な断面図である。本実施の形態の構成部分のうちの第1乃至第4の実施の形態と同じものには、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0081】
図11に示すように、本実施の形態では、アノードセパレータ12におけるアノード側第2面12Bに冷却水を通流させるための対向流路溝230が形成されている。そして、アノード流体流路溝121の深さが部分的に異なっている。詳しくは、アノード流体流路溝121における対向流路溝230と対面しない部分の少なくとも一部の深さが、アノード流体流路溝121における他の部分(対向流路溝230と対面する部分)の深さよりも大きくなっている。このような構成では、アノードセパレータ12の強度の低下を抑制しつつ、アノード流体流路溝121での圧損を抑制できる。
【0082】
以上、各実施の形態を説明したが、上記実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述の実施の形態及びその他の変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1,2,3,4,5…電気化学セル、10…膜電極接合体、10M…隔膜、10A…アノード電極、10C…カソード電極、11…第1ガス拡散層、12…アノードセパレータ
12A…アノード側第1面、12B…アノード側第2面、121…アノード流体流路溝、21…第2ガス拡散層、22…カソードセパレータ、22A…カソード側第1面、22B…カソード側第2面、221…カソード流体流路溝、221A…第1部分、221B…第2部分、230…対向流路溝、100…セルスタック、101…集電板、102…締め付け板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11