(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096720
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】流動性無細胞組織マトリックス製品および製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/20 20060101AFI20240709BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20240709BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240709BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240709BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20240709BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20240709BHJP
A61M 5/32 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/36 130
A61L27/38
A61L27/44
A61L27/48
A61M5/31 530
A61M5/32
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024050815
(22)【出願日】2024-03-27
(62)【分割の表示】P 2020514969の分割
【原出願日】2018-10-19
(31)【優先権主張番号】62/574,678
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504154148
【氏名又は名称】ライフセル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】シュ,フゥイ
(72)【発明者】
【氏名】リ,フゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ポマリュ,ミン,エフ.
(72)【発明者】
【氏名】メッシナ,ダリン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】患者を治療する組織製品組成物、および組織製品組成物で満たされた注入デバイスを提供する。
【解決手段】組織製品組成物において、ヒアルロン酸系材料を含む流動性の担体と、前記担体内で混合された複数の無細胞の組織マトリックス粒子と、を含み、前記組織製品組成物は、前記組織マトリックス粒子と前記担体との体積の比率が1:9~9:1であり、前記担体および前記組織マトリックス粒子が混合されて、2%~20%の固形分を有するスラリーを形成することを特徴する組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織製品組成物であって、
ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、
担体内で混合された複数の無細胞組織マトリックス粒子とを含むことを特徴とする組織製品組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、
ヒアルロン酸系材料が架橋ヒアルロン酸であることを特徴する組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、
ヒアルロン酸系材料が非架橋ヒアルロン酸であることを特徴する組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物において、
担体が、混合前に約20mg/mLのヒアルロン酸濃度を有することを特徴する組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物において、
組織マトリックス粒子が真皮マトリックスに由来することを特徴する組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物において、
組織マトリックス粒子が真皮マトリックスおよび脂肪マトリックスに由来することを特徴する組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物において、
組成物が、組織マトリックス粒子と担体との比率を規定し、その比率が、1~9の間:19~1の間の範囲にあることを特徴する組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物において、
前記比率が19:1であることを特徴する組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の組成物において、
前記比率が9:1であることを特徴する組成物。
【請求項10】
請求項7に記載の組成物において、
前記比率が7:3であることを特徴する組成物。
【請求項11】
請求項7に記載の組成物において、
前記比率が5:5であることを特徴する組成物。
【請求項12】
請求項7に記載の組成物において、
前記比率が4:6であることを特徴する組成物。
【請求項13】
請求項7に記載の組成物において、
前記比率が1:9であることを特徴する組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物において、
担体および組織マトリックス粒子が混合されて、約1.5%~約14.25%の固形分を有するスラリーを形成することを特徴する組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の組成物において、
スラリーが、5Hzで、600Pa未満のG”値を有することを特徴する組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の組成物において、
5HzでのG”値が、500Pa未満であることを特徴する組成物。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか一項に記載の組成物において、
担体および組織マトリックス粒子と混合された複数の種細胞をさらに含むことを特徴する組成物。
【請求項18】
注入デバイスであって、
容積を規定するリザーバと、前記リザーバに流体的に結合された針とを含むシリンジと、
前記リザーバ内に保持された組織製品組成物とを備え、
前記組織製品組成物が、
ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、
担体内で混合された複数の無細胞組織マトリックス粒子とを含むことを特徴する注入デバイス。
【請求項19】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
ヒアルロン酸系材料が架橋ヒアルロン酸であることを特徴する注入デバイス。
【請求項20】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
ヒアルロン酸系材料が非架橋ヒアルロン酸であることを特徴する注入デバイス。
【請求項21】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
担体が、混合前に約20mg/mLの濃度を有することを特徴する注入デバイス。
【請求項22】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
組織マトリックス粒子が真皮マトリックスに由来することを特徴する注入デバイス。
【請求項23】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
組織マトリックス粒子が複数の源に由来することを特徴する注入デバイス。
【請求項24】
請求項23に記載の注入デバイスにおいて、
組織マトリックス粒子が、真皮マトリックスおよび脂肪マトリックスに由来することを特徴する注入デバイス。
【請求項25】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
組成物が、組織マトリックス粒子と担体との比率を規定し、その比率が、1~9の間:19~1の間の範囲にあることを特徴する注入デバイス。
【請求項26】
請求項25に記載の注入デバイスにおいて、
前記比率が19:1であることを特徴する注入デバイス。
【請求項27】
請求項25に記載の注入デバイスにおいて、
前記比率が9:1であることを特徴する注入デバイス。
【請求項28】
請求項25に記載の注入デバイスにおいて、
前記比率が7:3であることを特徴する注入デバイス。
【請求項29】
請求項25に記載の注入デバイスにおいて、
前記比率が4:6であることを特徴する注入デバイス。
【請求項30】
請求項25に記載の注入デバイスにおいて、
前記比率が5:5であることを特徴する注入デバイス。
【請求項31】
請求項25に記載の注入デバイスにおいて、
前記比率が1:9であることを特徴する注入デバイス。
【請求項32】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
担体および組織マトリックス粒子が混合されて、約1.5%~約14.25%の固形分を有するスラリーを形成することを特徴する注入デバイス。
【請求項33】
請求項32に記載の注入デバイスにおいて、
スラリーが、5Hzで、600Pa未満のG”値を有することを特徴する注入デバイス。
【請求項34】
請求項33に記載の注入デバイスにおいて、
5HzでのG”値が、500Pa未満であることを特徴する注入デバイス。
【請求項35】
請求項18に記載の注入デバイスにおいて、
前記リザーバが組織製品組成物で完全に満たされていることを特徴する注入デバイス。
【請求項36】
請求項35に記載の注入デバイスにおいて、
前記リザーバの容積が0.5mL~200mLであることを特徴する注入デバイス。
【請求項37】
組織製品組成物の製造方法であって、
ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内で、複数の無細胞組織マトリックス粒子を混合するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項37に記載の方法において、
粒子サイズにより組織マトリックス粒子を選別するステップをさらに含むことを特徴する方法。
【請求項39】
請求項38に記載の方法において、
選別が、組織マトリックス粒子を少なくとも1つの篩にかけて濾過することを含むことを特徴する方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法において、
選別が、第1の篩径を規定する第1の篩と、第1の篩径とは異なる第2の篩径を規定する第2の篩とにかけて組織マトリックス粒子を濾過することを含むことを特徴する方法。
【請求項41】
請求項38に記載の方法において、
選別した組織マトリックス粒子の第1の混合物と、選別した組織マトリックス粒子の第2の混合物とを混合するステップをさらに含み、選別した組織マトリックス粒子の第1の混合物が、第1の平均粒子サイズを規定し、選別した組織マトリックス粒子の第2の混合物が、第1の平均粒子サイズとは異なる第2の平均粒子サイズを規定することを特徴する方法。
【請求項42】
請求項38に記載の方法において、
選別が、混合の前に行われることを特徴する方法。
【請求項43】
患者を治療する方法であって、
組織製品組成物を患者の体内に注入するステップを含み、
前記組織製品組成物が、
ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、
担体内で混合された複数の無細胞組織マトリックス粒子とを含むことを特徴とする方法。
【請求項44】
請求項43に記載の方法において、
前記組織製品組成物が患者の皮膚内に注入されることを特徴する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組織マトリックスに関し、より詳細には、審美的または非審美的目的のための組織再生を含む外科処置または医療処置に使用され得る注入材料に関する。
【0002】
本開示は、米国特許法第119条に基づいて、2017年10月19日に出願された米国仮出願第62/574,678号の優先権を主張するものであり、その全体が引用により本明細書に援用されるものとする。
【背景技術】
【0003】
現在、組織治療のための注入材料の改善に対する要求がある。例えば、様々な顔の特徴(例えば、線、皺、不十分な大きさ、または望ましい形状または形態ではない部分)を治療するために、ヒアルロン酸系材料などの注入材料が使用されることがある。そのような材料は、たとえ効果的であっても、最終的に体に吸収されるため、一時的な改善しか提供することができない。例えばヒアルロン酸(HA)を架橋することにより、吸収前に生体内でより長く持つヒアルロン酸材料を開発するための研究が行われてきたが、現在の材料は依然として注入後に体に必ず吸収されてしまう。
【0004】
シリンジまたは他の操作が容易な注入デバイスまたは移植システムによる注入に適していながらも、より長続きする効果をもたらすことができる組織製品組成物に対する満たされていない要求が存在する。
【0005】
そこで、本開示は、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内で混合された無細胞組織マトリックス粒子を有する組織製品組成物を提供する。また、本開示は、そのような組成物を有する注入デバイスおよびそのような組成物を製造する方法も提供する。さらに、そのような組成物を使用した治療方法も提供する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は組織製品組成物を提供する。この組織製品組成物は、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、担体内で混合された複数の無細胞組織マトリックス粒子とを含むことができる。
【0007】
また、本開示は、注入デバイスも提供する。この注入デバイスは、容積を規定するリザーバおよびリザーバに流体的に結合された針を含むシリンジと、リザーバ内に保持される組織製品組成物とを含むことができる。組織製品組成物は、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、担体内で混合された複数の無細胞組織マトリックス粒子とを含むことができる。
【0008】
本開示は、組織製品組成物の製造方法も提供する。この方法は、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内で複数の無細胞組織マトリックス粒子を混合するステップを含むことができる。
【0009】
本開示は、開示される組織製品組成物を使用した治療方法も提供する。
【0010】
上述した全体的な説明および以下の詳細な説明はともに、単なる例示および説明であって、特許請求の範囲に規定される本発明を限定するものではないことが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付図面は、本明細書中に組み込まれて、その一部を構成するものであり、本開示の例示的な実施形態を例示し、その説明とともに本開示の原理を説明するのに役立つものである。
【
図1】
図1は、本発明に従って提供される組織製品を製造する方法の例示的な一実施形態を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、異なる粒子サイズ分布を有する組織製品組成物の例示的な実施形態を示すグラフである。
【
図3】
図3は、流動性担体内で混合されていない無細胞組織マトリックス粒子を含む組織製品組成物の振幅掃引レポートを示すグラフである。
【
図4】
図4は、様々な組織製品組成物についての5HzでのG’値およびG”値を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明に従って形成された組織製品組成物の例示的な一実施形態と比較した既知の組織製品組成物の圧縮伸長および荷重挙動を示すグラフである。
【
図6】
図6は、様々な組織製品組成物について様々な針サイズを使用した注入力を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明に従って形成された組織製品組成物の例示的な一実施形態のトリクローム染色コラーゲンの顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、流動性担体内で混合されていない無細胞組織マトリックス粒子を含む組織製品組成物の顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、本発明に係る流動性担体と混合された無細胞組織マトリックス粒子を含む組織製品組成物の例示的な一実施形態の顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、本発明に従って形成された組織製品組成物の別の例示的な実施形態の顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、本発明に従って形成されたさらに別の組織製品組成物の顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、本発明に従って形成されたさらに別の組織製品組成物の顕微鏡写真である。
【
図13】
図13は、本発明に従って形成されたさらに別の組織製品組成物の顕微鏡写真である。
【
図14】
図14は、本発明に従って形成されたさらに別の組織製品組成物の顕微鏡写真である。
【
図15】
図15は、本発明に従って形成されたさらに別の組織製品組成物の顕微鏡写真である。
【
図16】
図16は、移植から4週間後の宿主真皮組織への組織製品組成物の一体化を示す顕微鏡写真である。
【
図17】
図17A~
図17Dは、流動性ヒアルロン酸担体を含む場合と含まない場合の、移植された組織製品組成物について観察された生物学的応答を比較する顕微鏡写真のグループである。
【
図19】
図19は、移植された組織製品組成物の体積保持を示すグラフである。
【
図20】
図20は、架橋された組織製品組成物のコラゲナーゼ耐性を示すグラフである。
【
図21】
図21は、様々な濃度のEDCを使用して架橋された移植架橋組織製品組成物の体積保持を示すグラフである。
【
図22】
図22は、様々な濃度のEDCを使用して架橋された移植架橋組織製品組成物における生物学的応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本開示に係る特定の例示的な実施形態を詳細に参照する。その特定の例が添付図面に示されている。同一または類似の部分を指すために、可能な限り、図面全体を通して同じ符号を使用するものとする。
【0013】
本出願において、単数形の使用は、特に明記しない限り、複数形を含む。本出願において、「または」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。さらに、「含んでいる」という用語、並びに、「含む」および「含まれる」などの他の形態の使用は限定的なものではない。同様に、「備えている」という用語、並びに、「備える」などの他の形態の使用も限定的なものではない。本明細書に記載の任意の範囲は、両端点と、両端点間の全ての値を含むものと理解されたい。
【0014】
本明細書で使用されている節の見出しは、単なる編成目的に過ぎず、記載されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。特許、特許出願、記事、書籍および論文に限定される訳ではないが、それらを含む、本出願で引用したすべての文書または文書の一部は、如何なる目的に対しても、その全体が引用により本明細書に明示的に援用されるものとする。
【0015】
本明細書で使用される「無細胞組織マトリックス」という用語は、組織再生を支援する足場として役立つのに必要な相当量の天然コラーゲンおよび糖タンパク質を保持する、ヒトまたは動物組織に由来する細胞外マトリックスを指す。「無細胞組織マトリックス」は、酸抽出精製コラーゲンなどの精製コラーゲン材料とは異なるものであり、それらは、他のマトリックスタンパク質を実質的に含まず、精製プロセスにより組織マトリックスの自然な微細構造特性を保持しない。「無細胞組織マトリックス」と呼ぶが、そのような組織マトリックスは、例えば幹細胞や「無細胞組織マトリックス」が移植される患者からの細胞を含む、外来性細胞と結合されることを理解されたい。さらに、本明細書でさらに説明するように、「無細胞組織マトリックス粒子」とは、無細胞組織マトリックスの粒子を指すことを理解されたい。
【0016】
「無細胞」または「脱細胞化」組織マトリックスは、光学顕微鏡を使用しても細胞が見えない組織マトリックスを指すことが理解されよう。
【0017】
様々なヒトおよび動物組織を使用して、患者を治療するための製品を製造することができる。例えば、様々な疾患および/または構造的損傷(例えば、外傷、手術、萎縮、および/または長期の摩耗や変性により)に起因して損傷または喪失したヒト組織の再生、修復、増加、補強および/または治療のための様々な組織製品が製造されている。そのような製品は、例えば、無細胞組織マトリックス、組織同種移植片または異種移植片、および/または再構成組織(すなわち、成長できる材料をもたらすために細胞が播種された、少なくとも部分的に脱細胞化された組織)を含むことができる。
【0018】
組織製品は、細胞成分の少なくとも一部を除去するために処理された真皮または他の組織からの無細胞組織マトリックス粒子を含むことができる。場合によっては、すべてまたは実質的にすべての細胞物質が除去され、それにより対応する細胞外マトリックスタンパク質が残る。本明細書では、真皮組織を無細胞組織マトリックス粒子の例示的な実施形態の供給源組織として主に説明するが、本明細書で説明する無細胞組織マトリックス粒子は他の組織タイプに由来し得ることを理解されたい。他の例示的な組織タイプには、脂肪組織、小腸粘膜下組織(SIS)組織、筋肉組織、血管組織および骨組織が含まれるが、これらに限定されものではない。
【0019】
本明細書に記載の供給源組織は、ヒトまたは動物の供給源に由来する。例えば、組織は死体から得られるものであってもよい。さらに、ヒトの組織は、生体ドナー(例えば、自己組織)から得ることもできる。組織は、ブタ、サルなどの動物または他の供給源から取得することもできる。動物の供給源を使用する場合、組織をさらに処理して、ブタや他の哺乳類には存在するがヒトや霊長類には存在しない1,3-α-ガラクトース部分などの抗原成分を除去することができる。さらに、組織は、抗原部分を除去するために遺伝的に改変された動物から得られるものであってもよい。Xu,Hui等による「A Porcine-Derived Acellular Dermal Scaffold that Supports Soft Tissue Regeneration:Removal of Terminal Galactose-α-(1,3)-Galactose and Retention of matrix Structure」Tissue Engineering,Vol.15,1-13(2009)を参照されたい。この文献は、引用によりその全体が援用されるものとする。
【0020】
本明細書で使用される「ヒアルロン酸系材料」は、ヒアルロン酸(HA)を含む材料である。HAはヒアルロン酸を指すとともに、その任意の塩も指し、それには、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウムおよびそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されるものではない。ヒアルロン酸系材料には、HAおよびその薬学的に許容される塩の両方を含むことができる。例示的なHA系材料は、JUVEDERM(登録商標)およびJUVEDERM VOLUMA(登録商標)として市販されている。ヒアルロン酸系材料は、例えばリドカインなどの追加の薬剤を含むことができることを理解されたい。
【0021】
本明細書におけるHAの「分子量」を表す数値はすべて、ダルトンでの重量平均分子量(Mw)を示すものとして理解されたい。
【0022】
HAの分子量は、固有粘度(m3/kg)=9.78×10-5×Mw0.690、というMark Houwinkの関係を使用する固有粘度測定から計算される。固有粘度は、欧州薬局方で規定されている手順(HAモノグラフ N°1472,01/2009)に従って測定される。
【0023】
本明細書で使用される高分子量HAは、少なくとも約1.0百万ダルトン(mw≧106Daまたは1MDa)~約4.0MDaの分子量を有するHA材料を云う。本組織製品組成物に組み込まれる高分子量HAは、約1.5MDa~約3.0MDaの範囲の分子量を有するか、または高分子量HAは、約2.0MDaの重量平均分子量を有することができる。別の例では、高分子量HAが約3.0MDaの分子量を有するようにしてもよい。
【0024】
本明細書で使用される低分子量HAは、約1.0MDa未満の分子量を有するHA材料を云う。低分子量HAは、約200,000Da(0.2MDa)~1.0MDa未満、例えば、約300,000Da(0.3MDa)~約750,000Da(0.75MDa)の分子量を有することができるが、最大0.99MDaである。好ましくは、低分子量HA材料と高分子量HA材料の分子量分布の間に重なりは存在しない。好ましくは、低分子量HAと高分子量HAの混合物は、二峰性の分子量分布を有する。混合物は、マルチモーダル分布を持つ場合もある。
【0025】
本発明の一態様では、組織製品組成物が、高分子量成分および低分子量成分を有するHAを含み、高分子量成分が、低分子量成分の重量平均分子量の少なくとも2倍の重量平均分子量を有し得る。例えば、組成物中の高分子量HAと低分子量HAの分子量比が少なくとも2:1であってもよい。例えば、組織製品組成物は、約500,000Daの重量平均分子量を有する低分子量成分と、約1.0MDaまたは少なくとも約1.0MDaの重量平均分子量を有する高分子量成分とを有するHAを含むことができる。別の例では、本発明に係る組織製品組成物が、約800,000Daの重量平均分子量を有する低分子量成分と、約1.6MDaまたは少なくとも約1.6MDaの重量平均分子量を有する高分子量成分とを有するHAを含むことができる。なお、多くの異なるタイプのHAを組織製品組成物に組み込むことができ、上述した例は限定することを意図していないことを理解されたい。
【0026】
いくつかの例示的な実施形態では、HAが、1または複数の適切な架橋剤を使用して架橋される。架橋剤は、多糖およびそれらの誘導体をそれらのヒドロキシル基を介して架橋するのに適していることが知られている任意の薬剤であってもよい。適切な架橋剤には、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(または1,4-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ブタンまたは1,4-ビスグリシジルオキシブタン;これらはすべてBDDEとして一般的に知られている)、1,2-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)エチレン、1-(2,3-エポキシプロピル)-2,3-エポキシシクロヘキサン、および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(一般にEDCとして知られている)が含まれるが、これらに限定されるものではない。他の適切なヒアルロン酸架橋剤には、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(PETGE)などの多機能PEG系架橋剤、ジビニルスルホン(DVS)、1,2-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)エチレン(EGDGE)、1,2,7,8-ジエポキシオクタン(DEO)、(フェニレンビス-(エチル)-カルボジイミドおよび1,6ヘキサメチレンビス(エチルカルボジイミド)、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、1-(2,3-エポキシプロピル)-2,3-エポキシシクロヘキサン、またはそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0027】
本発明に従って形成された組織製品組成物の例示的な一実施形態では、組織製品組成物が、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、担体内で混合される複数の無細胞組織マトリックス粒子とを含む。いくつかの例示的な実施形態では、流動性担体が、追加の薬剤と混合されていないHAを含み、他の例示的な実施形態では、流動性担体が、追加の薬剤と混合されたHAを含む。追加の薬剤としては、麻酔薬、例えば、アミノアミド局所麻酔薬およびその塩、またはアミノエステル局所麻酔薬およびその塩が挙げられるが、それらに限定されるものではない。例えば、プロカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、シメトカイン、プロポキシカイン、プロカイン、プロパラカイン、テトラカイン、またはそれらの塩、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。いくつかの実施形態において、麻酔薬には、アルチカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、ピペロカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカイン、またはそれらの塩、またはそれらの任意の組合せが含まれる。
【0028】
流動性担体は、当初は、組織マトリックス粒子と混合してスラリーを形成することができる流動性液体溶液の形態であってもよい。その後、形成したスラリーは、患者への投与のためにシリンジまたは他の注入デバイスに装填することができる。いくつかの例示的な実施形態では、流動性担体は、組織製品組成物の注入性を改善するのに十分な量の非架橋HAであってもよい。本明細書では、流動性担体がHAを含むとして記載しているが、HSGAG、CSGAGおよび/またはケラチン硫酸型GAGなど、他のグリコサミノグリカン(GAG)を流動性担体として利用できると考えられる。
【0029】
前述したように、無細胞組織マトリックス粒子は、ヒトまたは動物の組織マトリックスに由来するものであってもよい。適切な組織源には、同種移植組織、自家移植組織または異種移植組織が含まれる。異種移植片が使用される場合、組織には、ブタ、ウシ、イヌ、ネコを含む動物、家畜または野生の供給源、および/または他の任意の適切な哺乳動物または非哺乳動物の組織供給源からの組織が含まれる。いくつかの例示的な実施形態では、無細胞組織マトリックス粒子が、ブタなどの動物から採取された源真皮マトリックスに由来するものであってもよい。例示的な一実施形態では、源真皮マトリックスが、生物から除去された皮膚の1または複数の層を含むことができる。本明細書でさらに説明するように、既知の方法に従って、源組織マトリックスのサイズおよび形状を変化させて、様々な量の無細胞組織マトリックス粒子を生成することができる。
【0030】
供給源組織は、任意の望ましい手法を使用して動物供給源から採取することができるが、可能であれば、無菌または滅菌技術を使用して通常は採取するようにしてもよい。組織は、低温または凍結状態で保存するようにしてもよく、あるいは長期保存による望ましくない変化を防ぐために直ちに処理するようにしてもよい。
【0031】
無細胞組織マトリックスは、細胞の内殖および組織再生を可能にする適切な組織足場を提供することができる。皮膚の線、皺などにおいては、組織足場が、HAや他の一時的な充填材料のように交換する必要なく、失われたボリュームを埋めるための長期的な解決策になる。組織足場を既存の皮膚または損傷した皮膚に注入して、注入部位でより厚い真皮を生成することができる。組織の足場は、大量の組織の修復など、他の医療用途にも役立つ場合がある。
【0032】
無細胞組織マトリックスの使用に関して特定される具体的な問題の一つは、組織マトリックスにより形成されるネットワークに起因する、無細胞組織マトリックス材料の自然な形態での注入などの配置の困難さである。外科的移植は、無細胞組織マトリックス材料を移植して身体の特定の領域を修復するのに適した選択肢であるが、一部の用途では注入が好ましい場合がある。無細胞組織マトリックスの粒子化は、自然の形態で無細胞組織マトリックスを適用する場合と比較して、適用および注入を改善することが分かったが、粒子化されていても、純粋な無細胞組織マトリックスは、患者に容易に適用または注入されないことが分かった。特に、粒子状組織マトリックス材料の拡散する傾向に起因して、粒子状組織マトリックス材料の適用は制御が難しいことが分かった。さらに、粒子状無細胞組織マトリックスを注入するのに必要な注入力は比較的高く、シリンジなどの注入デバイスに装填された粒子状組織マトリックスのすべてを注入することは比較的難しいことが分かった。
【0033】
無細胞組織マトリックス材料を注入する上記問題のいくつかに対処するために、本明細書に記載の例示的な実施形態は、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内で混合される無細胞組織マトリックス粒子を含む組織製品組成物を提供する。形成した組織製品組成物は、本明細書でさらに説明するように、移植および/または注入領域での組織成長を促進する特性を維持しながら、純粋な無細胞組織マトリックス粒子よりも容易に適用することができる。
【0034】
本明細書に記載の組織製品組成物は、様々な異なる解剖学的部位を治療するために使用され得る。例示的な一実施形態では、組織製品組成物は、例えば、皮膚の厚さを増加させることにより、線、皺、空隙または窪みを治療して、(例えば、真皮の厚みを増すことにより)ボリュームを追加するための、または少量の失われた組織を交換するための、少量の移植に適した注入可能な組織製品組成物として形成されるものであってもよい。他の例示的な実施形態では、組織製品組成物は、構造組織の広い領域の修復、乳房組織置換、または比較的大量の損傷および/または喪失した組織を修復および/または交換する必要がある他の領域の修復など、大量移植に適したパテまたはペーストとして形成することができる。他の例示的な実施形態では、組織製品組成物は、HAまたは他の充填剤が利用される用途での使用に適した注入可能な組織製品組成物として形成されてもよく、注入された組織製品組成物が短期の治療ではなく長期の治療を示すものとなる。さらに他の例示的な実施形態では、組織製品組成物が、複数の供給源に由来するものであってもよい。例えば、組織製品組成物は、真皮マトリックスおよび脂肪マトリックスから生成されるものであってもよい。
【0035】
ここで
図1を参照すると、本発明に係る組織製品組成物を製造する方法100の例示的な一実施形態が示されている。この方法100は、概して、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内で複数の無細胞組織マトリックス粒子を混合して、組織製品組成物を生成するステップを含む。いくつかの例示的な実施形態では、方法100は、無細胞組織マトリックス粒子を流動性担体と混合108する前に、無細胞組織マトリックス粒子を生成するために、源真皮マトリックスなどの源組織マトリックスを処理するステップ102も含むことができる。例示的な一実施形態では、方法100は、最初に源組織マトリックスを浄化するステップ101を含み、それにより汚れまたは他の破片または微生物などの汚染物質を除去して、処理102のために源組織マトリックスを洗浄および準備する。いくつかの例示的な実施形態では、浄化101が、源組織マトリックスを洗浄することを含む。例えば、源組織マトリックスは、様々な生体適合性緩衝液での1回または複数回のすすぎで洗浄することができる。例えば、適切な洗浄溶液には、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の適切な生体適合性材料または生理学的溶液が含まれる。例示的な一実施形態では、水をリンス剤として使用して細胞をさらに破壊し、その後、リン酸緩衝生理食塩水または他の適切な生理食塩水を導入して、マトリックスタンパク質を生体適合性緩衝液に戻すことができる。多種多様な他の適切な浄化プロセスが知られていることから、ここでは、簡潔にするために浄化の詳細な説明は省略する。
【0036】
源組織マトリックスは、源組織マトリックスを複数の組織マトリックス粒子に分解するために処理される(102)。源組織マトリックスは、一般的に言えば、源組織マトリックスの構造に起因して、当初は、シリンジまたは他の注入デバイスを介した容易な適用または注入に適さない形態である可能性がある。例えば、源真皮マトリックスは平面シートの形態である場合もあり、その場合、容易に、注入デバイスで機能したり、注入デバイスに装填したり、あるいは注入デバイスから排出したりすることができない。源組織マトリックスを処理するために(102)、粉砕機または他の機械的分離装置を使用して、源組織マトリックスの粉砕、混合、細断、すりおろしおよび/または他の機械的撹拌により、源組織マトリックスを組織マトリックス粒子に分解するようにしてもよい。いくつかの例示的な実施形態では、処理102は、本明細書でさらに説明するように、多くの異なる粒子サイズ(直径)を有する組織マトリックス粒子を生成することができる。
【0037】
いくつかの場合において、処理102は、洗浄液または潤滑液を殆どまたは全く添加せずに組織を機械的に処理することにより実行することができる。例えば、組織は、溶媒を使用せずに粉砕または混合することにより機械的に処理されるようにしてもよい。例えば、組織の粉砕に水分が必要な場合、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水などの他の溶液ではなく、水を使用するようにしてもよい。代替的には、生理食塩水(例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、または塩および/または界面活性剤を含む溶液)などの生体適合性である一定量の溶媒を加えることにより、組織を処理することもできる。細胞溶解を促進する他の溶液が適切である場合もある。
【0038】
本方法100はさらに、源組織マトリックスまたは生成された組織マトリックス粒子を脱細胞化103して、注入後に患者に抗原応答を引き起こし得る実質的にすべての天然細胞物質を除去することを含むことができる。脱細胞化103は、複数の適切なプロセスを含むことができる。例えば、源組織マトリックスまたは組織マトリックス粒子から細胞を除去するための適切な方法には、細胞を破壊および/または細胞成分を除去するのに十分な濃度および時間で、デオキシコール酸、ポリエチレングリコールまたは他の界面活性剤などの界面活性剤で処理することが含まれる。いくつかの例示的な実施形態では、源組織マトリックスを組織マトリックス粒子に処理102した後に、脱細胞化103を行うことができ、他の例示的な実施形態では、源組織マトリックスを組織マトリックス粒子に処理102する前に、脱細胞化103を行うことができる。さらに他の例示的な実施形態では、源組織マトリックスを組織マトリックス粒子に処理102する前と後の両方で、脱細胞化103を行うことができる。脱細胞化103をいつ行うかにかかわらず、無細胞組織マトリックス粒子は、処理102と脱細胞化103の両方の後に生成されるべきである。
【0039】
任意選択的には、本方法100は、形成した無細胞組織マトリックス粒子をさらに浄化104して、処理102および/または脱細胞化103中に不注意で導入または生成された汚染物質を除去することを含むことができる。浄化104は、前述した浄化101と同様のものであっても、あるいは無細胞組織マトリックス粒子の追加の洗浄または処理を含むものであってもよい。例えば、追加の洗浄または処理を行って、霊長類以外の動物組織に存在し得るアルファ-1,3-ガラクトース部分などの抗原性物質を除去することができる。さらに、洗浄ステップの間、前および/または後に、追加の溶液または試薬を使用して材料を処理するようにしてもよい。例えば、酵素、界面活性剤および/または他の薬剤を1または複数のステップで使用して、細胞材料または脂質をさらに除去し、抗原性材料を除去し、かつ/または材料の細菌または他のバイオバーデンを低減することができる。例えば、細胞および脂質の除去を補助するために、ドデシル硫酸ナトリウムまたはTRISなどの界面活性剤を使用する、1または複数の洗浄ステップを含むようにしてもよい。さらに、酵素、例えば、リパーゼ、DNAses、RNAses、アルファ-ガラクトシダーゼまたは他の酵素を使用して、核物質、異種源からの抗原、残留細胞成分および/またはウイルスを確実に破壊することができる。さらに、酸性溶液および/または過酸化物を使用して、細胞材料をさらに除去し、細菌および/またはウイルス、または他の潜在的な感染性病原体を破壊するのを助けることができる。
【0040】
いくつかの例示的な実施形態では、無細胞組織マトリックス粒子が、流動性担体との混合108の前または後に滅菌107されるようにしてもよい。例示的な一実施形態では、当技術分野で知られているように、滅菌107が電子ビーム滅菌を含むことができる。当技術分野で知られているように、代替的な滅菌技術も使用することができる。
【0041】
無細胞組織マトリックス粒子および流動性担体は、任意の適切な方法で混合108することができる。例示的な一実施形態において、無細胞組織マトリックス粒子および流動性担体は、本発明に係る組織製品組成物を形成するために、ほぼ滅菌の条件下で大容量バッチで混合されるものであってもよい。混合108は、例えば、無細胞組織マトリックス粒子と流動性担体を一緒に攪拌してスラリーを形成することを含むことができる。混合108のパラメータおよび手法は、流動性担体および無細胞組織マトリックス粒子の特性、および組織製品組成物中のそれぞれの大体の量に従って、変更することができ、当業者であれば日常的な実験から容易に導き出すことができる。
【0042】
いくつかの例示的な実施形態では、安定化のためにヒアルロン酸系材料が架橋されている。架橋は、無細胞組織マトリックス粒子との混合108の前、後またはその間に起こるようにしてもよい。いくつかの実施形態において、材料が凍結乾燥後に架橋される。しかしながら、凍結乾燥プロセスの前または最中に材料を架橋することもできる。架橋は様々な方法で実行することができる。例示的な一実施形態では、ヒアルロン酸系材料を、グルタルアルデヒド、ジェネピン、カルボジイミド(例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC))およびジイソシアネート、または1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(または1,4-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ブタンまたは1,4-ビスグリシジルオキシブタン(これらはすべてBDDEとして一般的に知られている)などの1または複数の架橋剤と接触させることにより、架橋を行うことができる。さらに、材料を加熱することにより、架橋を行うようにしてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、材料を、減圧または真空で、70℃~120℃、または80℃~110℃、または約100℃まで、または特定の範囲内の任意の値に加熱するようにしてもよい。さらに、紫外線照射、ガンマ線照射および/または電子ビーム照射を含む、他の架橋プロセス、またはプロセスの組合せを使用して、開示された架橋製品の何れかを生成するようにしてもよい。さらに、真空は必須ではないが、架橋時間を短縮する場合がある。さらに、マトリックスタンパク質の融解が起きない限り、かつ/または架橋に十分な時間が提供される限りは、より低い又は高い温度を使用することができる。
【0043】
様々な実施形態では、架橋プロセスを制御して、所望の機械的、生物学的および/または構造的特徴を有する組織製品組成物を生成することができる。例えば、架橋は組織製品組成物の全体的な強度に影響を与える可能性があり、プロセスは所望の強度を生み出すように制御される。さらに、架橋の量は、移植時に組織製品組成物が所望の形状および構造(例えば、多孔性)を維持する能力に影響を与える可能性がある。このため、体内に移植されたとき、水性環境と接触したとき、かつ/または(例えば、周囲の組織または材料によって)圧縮されたとき、安定した三次元形状を生成するように架橋の量を選択することができる。
【0044】
過剰な架橋は、細胞外マトリックス材料を変化させる可能性がある。例えば、過剰な架橋はコラーゲンまたは他の細胞外マトリックスタンパク質を損傷する可能性がある。損傷したタンパク質は、組織製品組成物が患者に注入されたときに、組織再生を支援しない場合がある。さらに、過剰な架橋により、材料が脆くなったり、弱くなったりする場合がある。このため、所望の生物学的、機械的および/または構造的特徴を維持しながら、所望のレベルの安定性をもたらすように、架橋の量が制御される。
【0045】
いくつかの例示的な実施形態では、混合108の前、間または後に、流動性担体および/または無細胞組織マトリックス粒子に種細胞を導入することができる。種細胞は、いくつかの実施形態では、患者からの細胞、すなわち自己細胞を含み、組織製品組成物の適用前に組織製品組成物に播種される。いくつかの例示的な実施形態では、種細胞が、適用前に流動性担体および無細胞組織マトリックス粒子とともに培養されるようにしてもよく、他の例示的な実施形態では、種細胞は、適用後に組織製品組成物に適用されてもよい。種細胞には、注入された組織製品組成物への他の細胞の付着、浸潤および/または成長を促進する、脂肪細胞、様々な幹細胞、血液細胞などが含まれるが、これらに限定されるものではない。同様に、様々な成長因子または他の物質を組織製品組成物に含めるようにして、注入された組織製品組成物に対する細胞の成長を促進することができる。
【0046】
上述したように、組織製品組成物は、患者の中または上に埋め込まれたときに、細胞の内殖および組織再生を支援する能力を有する必要がある。さらに、組織製品組成物は、患者の自己細胞などの細胞のための担体として機能するとともに、そのような細胞の成長を支援する能力を備える必要がある。このため、本明細書に記載のプロセスは、(例えば、タンパク質構造に損傷を与えたり、かつ/または重要なグリコサミノグリカンおよび/または成長因子を除去したりすることにより)細胞外マトリックスタンパク質を変えてはならない。いくつかの実施形態では、製品が、顕微鏡検査によって証明され、かつ本明細書でさらに説明するように、正常なコラーゲンバンディングを有するであろう。
【0047】
種々の実施形態では、組織製品が、天然ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸の何れか一方または両方を保持するプロセスで処理される。このため、組織製品は、ヒアルロン酸および硫酸コンドロイチンの何れか一方または両方を含むことができる。さらに、ネイティブの成長因子を維持するプロセスを選択することができる。例えば、組織製品は、PECAM-1、HGF、VEGF、PDGF-BB、フォリスタチン、IL-8およびFGF-basicのなかから選択される1または複数の成長因子を含むように生産されるものであってもよい。
【0048】
A.例示的な組織製品組成物
本発明に従って、様々なヒアルロン酸系材料を脂肪組織マトリックス粒子と混合して、以下の表1に記載の様々な組織製品組成物を生成することができる。なお、本明細書に記載のヒアルロン酸系材料は単なる例示に過ぎず、他のヒアルロン酸系材料を脂肪組織マトリックス粒子と混合できることを理解されたい。さらに、表1に示す組成物は例示に過ぎず、本発明に従って他の配合の組織製品組成物を形成することも可能である。
【0049】
表1に記載の組織製品組成物を配合するために、異なる4タイプのヒアルロン酸系材料を使用した。組成物1~11を形成するために使用されたすべてのHAタイプは、当初は、20mgHA/mLの濃度の溶液に含まれていた。HAタイプ1は、320PaのG’値を有する非架橋ヒアルロン酸であり、HAタイプ2とHAタイプ3は、対照的に、
図4に示すように、架橋度に応じて異なるG’値およびG”値を持つEDC架橋剤で架橋されたヒアルロン酸である。HAタイプ2のG’値は160Paであり、HAタイプ3のG’値は500~550であった。HAタイプ4も架橋されているが、架橋剤としてBDDEが使用されている。HAタイプ4のG’値は350Paである。
【0050】
ここで表1を参照すると、本発明に従って形成された組織製品組成物の例示的な実施形態が記載されている。なお、様々な組織製品組成物を表す組成物1~11を表1に例示するが、本発明に従って他の組織製品組成物を形成することができることを理解されたい。各組成物1~11では、無細胞組織マトリックス粒子がブタ無細胞真皮マトリックス(ADM)に由来し、流動性担体と混ぜ合わせたときに、「流動性ADM」とも呼ばれる無細胞真皮マトリックススラリー(ADMS)を生成した。20mgのHA/mLの濃度で提供された流動性担体と混合する前に、無細胞組織マトリックス粒子は150mg/mLの濃度であった。表1から分かるように、ADM:HAの比率は、本明細書でさらに説明されるように、様々な流動特性を有するスラリーを生成するように調整することができる。本明細書に記載の比率は、体積または質量の何れかによるものであり、表1に示す例示的な実施形態では、比率が、体積ADM:体積HAとして与えられることを理解されたい。いくつかの例示的な実施形態では、ADM:HAの比率が1:9から19:1の間で変化し得る。組成物1、2に例示するように、ADM:HAの比率は9:1にすることができ、組成物3、4で例示するように、ADM:HAの比率は7:3とすることができ、組成物5、6に例示するように、ADM:HAの比率は4:6にすることができ、組成物7に例示するように、ADM:HAの比率は1:9にすることができ、組成物8、9、10で例示するように、ADM:HAの比率は5:5にすることができ、組成物11に例示するように、ADM:HAの比率は19:1にすることができる。これらの比率は例示に過ぎず、組織製品組成物の他の例示的な実施形態は、例示的な比率の間の値を含む、ADM:HAの他の比率を有することができることを理解されたい。
【0051】
本開示の特定の態様によれば、所望の組織マトリックス粒子固形分を有する組織製品組成物を使用することができる。例えば、固形分が10%~15%など、固形分が2%~20%の材料が、組織マトリックス粒子と混合されるヒアルロン酸系材料の種類に応じて、望ましい場合がある。いくつかの例示的な実施形態では、組織製品組成物が、150mg/mLに相当する15%の無細胞組織マトリックス粒子の固形分を有する。
【0052】
再び
図1を参照すると、組織製品組成物を形成する方法100は、粒子サイズにより組織マトリックス粒子を選別するステップ105をさらに含むことができる。いくつかの例示的な実施形態では、選別105が、1または複数の篩を通して組織マトリックス粒子を濾過することを含み得る。選別105は、脱細胞化103の後であって、滅菌107の前に行われるように示されているが、必要に応じて、選別105は、脱細胞化103の前かつ/または滅菌107の後に行うことができることを理解されたい。さらに、組織マトリックス粒子は、濾過以外の方法で選別されるものであってもよい。
【0053】
例示的な一実施形態では、組織マトリックス粒子が、第1の篩径を規定する第1の篩と、第1の篩径よりも小さい第2の篩径を規定する第2の篩にかけられる。第1の篩は、第1の篩径よりも小さい粒子サイズの組織マトリックス粒子を通過させ、第2の篩は、第2の篩径より小さい粒子サイズの組織マトリックス粒子を通過させる。この意味で、第1の篩に残留する選別された組織マトリックス粒子の第1の混合物は、第1の篩径より大きい第1の平均粒子サイズを規定することができ、第2の篩に残留する選別された組織マトリックス粒子の第2の混合物は、第1の篩径より小さいが第2の篩径より大きい第2の平均粒子サイズを規定することができる。
【0054】
選別した組織マトリックス粒子の第1の混合物および選別した組織マトリックス粒子の第2の混合物を混ぜ合わせて(106)、所望のサイズ分布を有する組織マトリックス粒子混合物を生成することができる。なお、それぞれの篩径を規定する3以上の篩を使用して、粒子サイズによって組織マトリックス粒子を選別(105)することができることを理解されたい。例示的な一実施形態では、組織マトリックス粒子サイズが、50ミクロン~3500ミクロンの範囲であり得る。例えば、組織マトリックス粒子を篩にかけて、超微細粒子(例えば、50~100ミクロン)、微細粒子(100~400ミクロンなど)、中程度の粒子(例えば、0.4mm~0.6mm)、大きな粒子(例えば、0.8mm~1mm)、さらに大きな粒子(例えば、1mm超)というような、寸法の粒子を回収することができる。本開示のいくつかの態様では、この範囲の粒子サイズが、様々な生物学的応答を引き起こさない場合がある。言い換えれば、例えば、50ミクロン~3,500ミクロンの範囲の粒子サイズでは、生物学的反応に差異が生じない可能性がある。特定のサイズの注射針を必要とする様々なアプリケーションでは、生物学的反応が異なるかどうかを考慮する必要なく、特定のサイズの粒子を選択することができる。
【0055】
ここで
図2を参照すると、例示的な組織マトリックス粒子サイズ分布が例示されている。このグラフは、図示のように、本発明に従って形成された様々な組織製品組成物の第1の粒子サイズプロット201、第2の粒子サイズプロット202、および第3の粒子サイズプロット203を示している。第1の粒子サイズプロット201は、200~2000μmの範囲の粒子サイズを主に有する第1の組織製品組成物を示し、第2の粒子サイズのプロット202は、200~2000μmの範囲の粒子サイズを主に有する第2の組織製品組成物を示し、第3の粒子サイズプロット203は、図示のように、500~2500μmの範囲の粒子サイズを主に有する第3の組織製品組成物を示している。組織マトリックスの粒子サイズ分布を制御することにより、組織製品組成物の流れおよび/または拡散特性を調整することができる。
【0056】
B.例示的な組織製品組成物の特性
純粋な無細胞組織マトリックスシートおよび/または粒子と比較して、組織製品組成物の特性が本発明に従って如何に形成されたのかを判断するために、組織製品組成物の特性を測定するための様々な試験を行った。実施したそのような試験の一つは、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と無細胞組織マトリックス粒子とを含む組織製品組成物の様々な例示的な実施形態の開始温度を測定する示差走査熱量測定(DSC)であった。DSC分析から、流動性担体および無細胞組織マトリックス粒子を含む試験済みの組織製品組成物は、無細胞真皮マトリックスのシートの開始温度(56℃~58℃)と同様の55℃~60℃の範囲の開始温度を持つことが分かった。
【0057】
ここで
図3および4を参照すると、様々な組織製品組成物のレオロジー分析が示されている。
図3は、150mg/mLの濃度に対応する、15%の固形分を含む流動性(スラリー)形態の無細胞真皮マトリックスの振幅掃引レポートを例示している。使用した周波数掃引は、0.3%歪みであり、複合せん断歪みパーセンテージの関数として、弾性(「保存」)係数(G’)プロット301、粘性(「喪失」)係数(G”)プロット302、および位相角(δ)プロット303を求めた。レオロジーにおいて知られているように、G’は一般に、材料が変形後に形状を回復する能力、つまり弾性を示し、G”は一般に材料の粘度を示している。
【0058】
ここで
図4を参照すると、様々な組織製品組成物および流動性担体のG’値およびG’値が示されている。
図4のG’値およびG”値は、5Hzの周波数で振幅掃引を使用して求められたものである。G’値は各材料の左側に表示され、G”値は各材料の右側に表示されている。見て分かるように、純粋な組織マトリックスのG’値およびG”値は、ヒアルロン酸系材料またはHAタイプ1~4を含む流動性担体内で混合された組織マトリックス粒子を含む組成物1~7の何れか1つのそれぞれの値よりも高い。特に、組成物1~7の粘度は、純粋な組織マトリックス粒子の粘度よりも著しく低い。図示のように、組成物1~7のG”値は600Pa未満であり、組成物のいくつかは500Pa未満のG”値を有する。
【0059】
図5は、18ゲージ針を備えたシリンジを使用して注射された様々な組織製品組成物の圧縮伸長の関数として圧縮荷重を示すグラフ500を例示している。見て分かるように、純粋な無細胞組織マトリックス粒子の様々な注射についての荷重対伸長プロット501、502、503はすべて、注射中に大きな圧縮荷重変動を有し、注射中に10Nを超えるピーク圧縮荷重を有する。対照的に、ADM:HAの比率が9:1のHAタイプ1と混合された無細胞組織マトリックス粒子を含む組織製品組成物(90%の無細胞組織マトリックスと10%の流動性担体からなる組織製品組成物)の注射についての荷重対伸長プロット504は、注射中に比較的一定で低い圧縮荷重を有する。このため、無細胞組織マトリックス粒子を流動性担体と混合すると、注射中の組織マトリックス粒子へのピーク圧縮荷重が減少し、かつ注射が「より滑らか」になることを理解されたい。
【0060】
図6を参照すると、グラフ600は、18ゲージの針を介して、可能なときは21ゲージの針を介して注射された様々な組織製品組成物の最大圧縮荷重を示している。各試行では、プランジャを押し込んで18ゲージまたは21ゲージの針から注射するために、1mLの組織製品組成物をリザーバに入れた。プランジャは、1mm/秒の速度で合計40mm押し込んだ。既知のように、21ゲージの針は、18ゲージの針と比較して内径が大幅に小さくなっている。18ゲージの針の最大圧縮荷重は各材料の左側に示され、21ゲージの針の最大圧縮荷重は各材料の右側に示されている。21ゲージの針から純粋な無細胞組織マトリックスを注射する場合の最大圧縮荷重は示されていない。これは、粒子が全体的に大き過ぎて純粋な形態では21ゲージの針を通り抜けることができないためである。
図6から分かるように、18ゲージの針から純粋な無細胞組織マトリックス粒子を注射するための最大圧縮荷重は、本発明に従って形成された組成物1~7の何れか一つを18ゲージの針から注射するための最大圧縮荷重よりも著しく高かった。21ゲージの針を通して純粋な無細胞組織マトリックス粒子を注射するための最大圧縮荷重は示されていない。無細胞組織マトリックス粒子と流動性担体を含む組成物1、2、4、6を21ゲージ針から注射した場合には、純粋な無細胞組織マトリックス粒子を大幅に大きい18ゲージの針から注射した場合よりも、最大圧縮荷重が小さくなることが分かった。組成物3、5、7の注射は、21ゲージの針からも可能であったが、それぞれの最大圧縮荷重は、組成物1、2、4、6よりも高いことが分かった。このため、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内の無細胞組織マトリックス粒子の混合は、21ゲージ針からの注射に適した組織製品組成物を生成できることを理解されたい。
【0061】
C.組織製品組成物が無傷のコラーゲンの構造を有する
ここで、
図7~
図15を参照すると、様々な顕微鏡画像が示され、様々な組織製品組成物の全体的な構造および分布が例示されている。
【0062】
具体的に
図7を参照すると、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体内で混合された無細胞組織マトリックス粒子を含む組織製品組成物のトリクローム染色が示されている。
図7に見られるように、コラーゲン線維に目に見える損傷はなく、コラーゲンは正常なバンディングパターンを有している。
【0063】
具体的に
図8を参照すると、純粋な無細胞組織マトリックス粒子のヘモトキシリンおよびエオシン(H&E)染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン繊維は正常である。
【0064】
具体的に
図9を参照すると、無細胞組織マトリックス粒子と担体HA4を5:5の比率で含む組織製品組成物のH&E染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン繊維は正常であり、HA4分子は粒子の周辺に集まる傾向がある。
【0065】
具体的に
図10を参照すると、無細胞組織マトリックス粒子と担体HA2を9:1の比率で含む組織製品組成物のH&E染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン線維は正常であり、HA2分子は粒子間に散在する傾向がある。
【0066】
具体的に
図11を参照すると、無細胞組織マトリックス粒子と担体HA3を1:9の比率で含む組織製品組成物のH&E染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン線維は正常であり、HA3分子が粒子を取り囲んでいる。
【0067】
具体的に
図12を参照すると、純粋な無細胞組織マトリックス粒子のアルシアンブルー染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン繊維は正常である。
【0068】
具体的に
図13を参照すると、無細胞組織マトリックス粒子と担体HA4を5:5の比率で含む組織製品組成物のアルシアンブルー染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン繊維は正常であり、HA4分子は粒子の周辺に集まる傾向がある。
【0069】
具体的に
図14を参照すると、無細胞組織マトリックス粒子と担体HA2を9:1の比率で含む組織製品組成物のアルシアンブルー染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン線維は正常であり、HA2分子は粒子間に散在する傾向がある。
【0070】
具体的に
図15を参照すると、無細胞組織マトリックス粒子と担体HA3を1:9の比率で含む組織製品組成物のアルシアンブルー染色の顕微鏡画像が示されている。見られるように、コラーゲン線維は正常であり、HA3分子が粒子を取り囲んでいる。
【0071】
このように、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、担体内で混合された無細胞組織マトリックス粒子とを含む組織製品組成物は、組織成長を支援するのに適した構造を有することができることを理解されたい。
【0072】
D.担体としてヒアルロン酸(HA)を使用した組織製品組成物の生体内移植
流動性担体としてヒアルロン酸(HA)を使用する開示の組織製品組成物は、宿主真皮組織における生体内インプラントとして使用される場合に、特定の利点を有する。
【0073】
具体的に
図16を参照すると、無細胞組織マトリックス粒子(固形分15%)を20mg/mL(2%)の非架橋HA担体と19:1の体積比で混合した。無細胞組織マトリックス粒子の最終固形分は14.25%であり、HA担体の最終濃度は0.1%であった。組織移植では、混合物120μLを、ラットの背部の真皮と筋肉層との間の皮下空間に注射した。5匹のラットをそれぞれ4つの試験アームで試験した。移植の4週間後に外植を実施し、組織学処理とその後のH&E染色のために、外植片を10%ホルマリン15mL中に置いた。画像は20倍の倍率で撮影した。
図16に示すように、移植後4週間で、担体としてHAを含む移植された組織製品は、宿主真皮組織内に良好に統合された。線維芽細胞および血管新生による顕著な細胞浸潤が、炎症を殆どまたは全く伴わずに発生した。
【0074】
図17に示すように、担体としてHAを含む又は含まない組織インプラントにおける生物学的応答を試験した。15%の固形分を持つ無細胞組織マトリックス粒子を使用した。HAを担体として使用する場合、無細胞組織マトリックスを20mg/mL(2%)の非架橋HA担体と9:1の体積比で混合した。無細胞組織マトリックス粒子の最終固形分は13.5%で、HAの最終濃度は0.2%であった。組織移植のために、500μLの無細胞組織マトリックス粒子のみ、または無細胞組織マトリックス粒子と担体としてのHAの混合物をラットの背部に皮下注射した。5匹のラットをそれぞれ4つの試験アームで試験した。移植の4週間後または12週間後に外植を行い、組織学処理とその後のH&E染色のために、外植片を10%ホルマリン15mL中に置いた。画像は10倍の倍率で撮影した。細胞浸潤、血管新生および最小限の炎症などの生物学的反応を調べた。
図17A~
図17Dに示すように、同様の生物学的応答が、無細胞組織マトリックスのみを有する組織外植片と、担体としてHAを含む無細胞組織マトリックスとにおいて観察された。これらの結果は、HAを担体として使用しても、組織インプラントに対する宿主の生物学的反応に悪影響を与えず、結果は移植後少なくとも12週間持続することを示している。
【0075】
具体的に
図18Aおよび
図18Bに示すように、移植領域における真皮の厚さの増加を試験した。無細胞組織マトリックス粒子(15%固形分)を20mg/mL(2%)の非架橋HA担体と19:1の体積比で混合した。無細胞組織マトリックス粒子の最終固形分は14.25%であり、HA担体の最終濃度は0.1%であった。組織移植のために、混合物120μLを、ラットの背部の真皮と筋肉層との間の皮下空間に注射した。5匹のラットをそれぞれ4つの試験アームで試験した。移植の4週間後または12週間後に外植を行い、組織学処理とその後のH&E染色のために、外植片を10%ホルマリン15mL中に置いた。
図18に示すように、担体としてHAを使用した無細胞組織マトリックスの移植は、真皮組織の厚さを大幅に増加させ、真皮の厚さの増加は移植後12週間程度続いた(
図18B)。
【0076】
E.移植した組織製品組成物の体積保持
具体的に
図19に示すように、移植した無細胞組織マトリックスの体積保持を試験した。組織移植のために、500μLの無細胞組織マトリックス粒子(固形分15%)をラットの背部に皮下注射した。外植は、移植の4週間後、12週間後または24週間後に行った。4週間の外植については、10匹のラットをそれぞれ4つの試験アームで試験した。12週間および24週間の外植では、各グループに5匹のラットを試験し、各ラットに4つの試験アームを使用した。外植片を採取して、重みを加えた。
図19に示すように、移植した無細胞組織マトリックスは、移植後少なくとも24週間、元の体積(点線)の少なくとも90%を良好に保持した。
【0077】
具体的に
図20に示すように、無細胞組織マトリックス粒子を様々な濃度の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)(0.00625%、0.0125%、0.025%、0.05%)で18時間処理して、架橋組織製品を形成した。架橋製品を最終滅菌にかけ、PBSで3回、それぞれ30分間洗浄した。組織をそれぞれ4時間、8時間および16時間、1250U/mLコラゲナーゼで処理する前に、チューブの重量と湿潤組織の重量を記録した。各条件で三つ組のサンプルを試験した。定温放置後、残りの組織を一晩乾燥させ、チューブ内の乾燥組織の重量を記録した。酵素処理前の湿潤組織に対する乾燥組織の重量比を各時点で計算した。
図20に示すように、架橋された無細胞組織マトリックスは、架橋されていない無細胞組織マトリックスと比較して、コラゲナーゼ耐性を大幅に増加させた。同じ定温放置期間では、架橋剤の濃度が高いほど、コラゲナーゼ耐性が高くなった。
【0078】
具体的に、
図21および
図22に示すように、架橋した無細胞組織マトリックスを生体内移植で試験した。500μLの無細胞組織マトリックス粒子(固形分15%)をそれぞれ0.0125%(修飾L)または0.05%(修飾H)EDCで架橋させ、ラットの背部に皮下注射した。5匹のラットを各条件で試験し、各ラットに4つの試験アームを使用した。外植は、移植後4週間または24週間行った。外植片を採取して、加重した。採取した外植片をH&E染色で染色し、代表的な画像を20倍の倍率で撮影した。
図21に示すように、移植した組織マトリックスの体積は少なくとも24週間良好に維持され、架橋のレベルが高い程、体積保持が良好であった。
図22に示すように、同様の生物学的応答が、非修飾、修飾Lおよび修飾Hの組織マトリックスを含む外植片で観察された。
【0079】
F.組織製品組成物の例示的な使用
本発明に従って提供される例示的な一実施形態では、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、担体内で混合された無細胞組織マトリックス粒子とを含む組織製品組成物を、シリンジに装填して、注入デバイスを形成することができる。いくつかの例示的な実施形態では、組織製品組成物を、前述した組織製品組成物の何れかとすることができる。シリンジは、一般に、容積を規定するリザーバと、リザーバに流体的に結合された針とを含む。組織製品組成物は、リザーバ内に保持され、いくつかの例示的な実施形態では、リザーバの容積を完全に満たすことができ、その容積は、0.5mL~5mLなど、任意の所望の容積とすることができる。特定の手順では、200mLなど、非常に大きな容量のリザーバを使用することができる。針の内径は、実行される注入部位と手順に基づいて、必要に応じて選択することができる。いくつかの例示的な実施形態では、針が、18ゲージ針、19ゲージ針、20ゲージ針、21ゲージ針またはより高いゲージ(より小さい内径)の針である。注入デバイスは、組織製品組成物で事前に満たされていてもよく、あるいは注入される前は保存されていてもよい。
【0080】
代替的には、注入デバイスは、組織製品組成物を空のシリンジ内に装填することによって、医師などのユーザにより処置中に形成されるものであってもよい。さらに、開示の組成物はキットとして提供することができ、その場合、組織マトリックス粒子が担体またはHA成分とは別の容器に保持され、ユーザが使用前に成分を混合することができる。キットは、2以上のシリンジ、2以上のバイアル、バイアル/シリンジの組合せ、または使用時に簡単に混合できるマルチコンパートメントシステムを含むことができる。注入デバイスをシリンジとして説明したが、注入デバイスは、組織製品組成物を患者に注入するのに適した他の形態を取り得ることを理解されたい。
【0081】
本発明に従って提供される例示的な一実施形態では、患者を治療する方法が提供される。この方法は、組織製品組成物を患者の体内に注入するステップを含み、組織製品組成物が、ヒアルロン酸系材料を含む流動性担体と、担体内で混合された無細胞組織マトリックス粒子とを含む。いくつかの例示的な実施形態では、組織製品組成物を、前述した組織製品組成物の何れかとすることができる。美容整形術の場合、組織製品組成物は、例えば皮膚の皺または他の線が現れるのを減らすために、患者の皮膚の1または複数の層内に注入される注入可能な組成物とすることができる。さらに、他の例示的な実施形態では、組織製品組成物が、患者の他の解剖学的位置に適用して大量の喪失および/または損傷した組織を修復および/または復元できるペーストまたはパテとして形成されるようにしてもよい。このように、本発明に従って形成される組織製品組成物は、多くの様々な用途に合わせて調整でき、様々な異なる方法で適用できることを理解されたい。
【0082】
本開示の原理は、特定の用途の例示的な実施形態を参照して本明細書に記載したが、本開示はそれに限定されないことを理解されたい。当業者および本明細書で提供される教示へのアクセスを有する者は、追加の変更、応用、実施形態、および均等物の置換がすべて本明細書に記載の実施形態の範囲内に含まれることを認識するであろう。よって、本発明は、上述した説明によって限定されると見なされるべきではない。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織製品組成物において、
ヒアルロン酸系材料を含む流動性の担体と、
前記担体内で混合された複数の無細胞の組織マトリックス粒子と、を含み、
前記組織製品組成物は、前記組織マトリックス粒子と前記担体との体積の比率が1:9~9:1であり、
前記担体および前記組織マトリックス粒子が混合されて、2%~20%の固形分を有するスラリーを形成することを特徴する組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、
前記ヒアルロン酸系材料が架橋ヒアルロン酸であることを特徴する組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、
前記ヒアルロン酸系材料が非架橋ヒアルロン酸であることを特徴する組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物において、
前記担体が、混合前に20mg/mLのヒアルロン酸濃度を有することを特徴する組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物において、
前記組織マトリックス粒子が真皮マトリックスに由来することを特徴する組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物において、
前記組織マトリックス粒子が脂肪マトリックスに由来することを特徴する組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物において、
前記比率が5:5~1:9であることを特徴する組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物において、
前記担体および前記組織マトリックス粒子が混合されて、2%~14.25%の固形分を有するスラリーを形成することを特徴する組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物において、
前記スラリーが、5Hzで600Pa未満のG”値を有することを特徴する組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物において、
5HzでのG”値が、500Pa未満であることを特徴する組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物が、さらに、
前記担体および前記組織マトリックス粒子と混合された複数の種細胞を含むことを特徴とする組成物。
【請求項12】
注入デバイスであって、
容積を規定するリザーバと、前記リザーバに流体的に結合された針とを含むシリンジと、
前記リザーバ内に保持された組織製品組成物とを備え、
前記組織製品組成物が、
ヒアルロン酸系材料を含む流動性の担体と、
前記担体内で混合された複数の無細胞組織マトリックス粒子とを含み、
前記組織製品組成物は、前記組織マトリックス粒子と前記担体との体積の比率が1:9~9:1であり、
前記担体および前記組織マトリックス粒子が混合されて、2%~20%の固形分を有するスラリーを形成することを特徴する
【請求項13】
請求項12に記載の注入デバイスにおいて、
前記ヒアルロン酸系材料が架橋ヒアルロン酸であることを特徴する注入デバイス。
【請求項14】
請求項12に記載の注入デバイスにおいて、
前記ヒアルロン酸系材料が非架橋ヒアルロン酸であることを特徴する注入デバイス。
【請求項15】
請求項12に記載の注入デバイスにおいて、
前記担体が、混合前に20mg/mLのヒアルロン酸濃度を有することを特徴する注入デバイス。
【請求項16】
請求項12に記載の注入デバイスにおいて、
前記組織マトリックス粒子が、真皮マトリックスに由来することを特徴する注入デバイス。
【請求項17】
請求項12に記載の注入デバイスにおいて、
前記組織マトリックス粒子が、脂肪マトリックスに由来することを特徴する注入デバイス。
【請求項18】
請求項12に記載の注入デバイスにおいて、
前記比率が5:5~1:9であることを特徴する注入デバイス。
【請求項19】
請求項12に記載の注入デバイスにおいて、
前記担体および前記組織マトリックス粒子が混合されて、2%~14.25%の固形分を有するスラリーを形成することを特徴する注入デバイス。
【請求項20】
請求項19に記載の注入デバイスにおいて、
前記スラリーが、5Hzで600Pa未満のG”値を有することを特徴する注入デバイス。
【外国語明細書】