(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096780
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】圃場作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240709BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240709BHJP
G05D 1/248 20240101ALI20240709BHJP
G05D 1/80 20240101ALN20240709BHJP
【FI】
A01B69/00 303K
A01B69/00 303M
G05D1/43
G05D1/248
G05D1/80
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060588
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2022171291の分割
【原出願日】2016-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】森下 孝文
(72)【発明者】
【氏名】宮本 惇平
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】直本 哲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和正
(72)【発明者】
【氏名】永田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】石見 憲一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 竣也
(72)【発明者】
【氏名】宮西 吉秀
(57)【要約】
【課題】走行機体の方向転換が行われる畦際領域に到達したことを適切に認識し、適正な方向転換走行が行われる圃場作業車両の提供。
【解決手段】畦際領域で方向転換しながら圃場内を走行する走行機体と、圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、自車位置を示す測位データを出力する測位ユニットと、作業装置の挙動及び走行機体の挙動の少なくともいずれかに基づいて畦際を検知する畦際検知モジュールと、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
畦際領域で方向転換しながら圃場内を走行する走行機体と、
前記圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、
自車位置を示す測位データを出力する測位ユニットと、
前記圃場作業装置の挙動及び前記走行機体の挙動の少なくともいずれかに基づいて畦際を検知する畦際検知モジュールと、を備えた圃場作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畦際領域で方向転換しながら圃場内を走行する走行機体と、前記圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、自車位置を示す測位データを出力する測位ユニットとを備えた圃場作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS装置により計測される位置情報を用いて目標経路上を自動走行する圃場作業車両である田植機が、特許文献1から知られている。この田植機では、直線状の目標経路上を自律走行しながら苗植付作業が行われ、枕地とも呼ばれる畦際領域に到達したことを運転者が確認すれば、所望の方向での機体方向転換を行うように運転者が旋回操作具を操作することにより、方向転換のための旋回走行が畦際領域において自動的に行われる。方向転換が行われると再び直線状の目標経路上を自律走行しながら植付作業が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
田植機などのように、隣り合う作業領域(走行軌跡)の位置合わせに正確さが要求される場合、枕地での自律走行での旋回において正確な位置合わせを自動で行うためには、高度な自機位置検出技術及び自動操舵制御技術が要求される。しかしながら、そのような方向転換走行が、自動操舵または人為操舵で行われる場合、方向転換走行を開始するタイミング、つまり田植機が畦際領域に到達したことを正確に認識すること、及び方向転換走行後の次の作業走行のための開始点での正確な位置合わせが重要であるが、非熟練者にとっては難しい運転操作となる。
このような実情に鑑み、少なくとも、走行機体の方向転換が行われる畦際領域(枕地)に到達したことを適切に認識し、適正な方向転換走行が行われる圃場作業車両が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による圃場作業車両は、畦際領域で方向転換しながら圃場内を走行する走行機体と、前記圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、自車位置を示す測位データを出力する測位ユニットと、前記圃場作業装置の挙動及び前記走行機体の挙動の少なくともいずれかに基づいて畦際を検知する畦際検知モジュールを備える。
また、本発明による圃場作業車両は、畦際領域で方向転換しながら圃場内を走行する走行機体と、前記圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、自車位置を示す測位データを出力する測位ユニットと、前記走行機体を自動操舵する自動操舵部と、前記自車位置又は、圃場作業装置の位置に基づいて、前記走行機体が前記畦際領域に近接したこと及び到達したことの少なくともいずれかを検知する畦際検知モジュールと、を備え、前記圃場作業装置の挙動に基づいて、前記畦際領域が設定される。
また、本発明による圃場作業車両は、畦際領域で方向転換しながら圃場内を走行する走行機体と、前記圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、自車位置を示す測位データを出力する測位ユニットと、前記走行機体を人為操作に基づいて操舵する人為操舵部と、前記走行機体を自動操舵する自動操舵部と、前記自車位置に基づいて前記走行機体が前記畦際領域に到達したことを検知する畦際検知モジュールとを備えている。
【0006】
この構成によれば、GNSS(Global Navigation Satellite System)やGPS(GlobalPositioning System)などを用いた測位ユニットから自車位置を示す測位データが得られるので、畦際領域の位置さえ予め設定しておけば、走行機体が前記畦際領域に到達したことを、畦際検知モジュールが検知することができ、これを運転者や自動操舵の制御系に伝えることができる。その結果、運転者が視覚的な確認で行っていた走行機体の畦際領域への到達を、安定的にかつ正確に検知することができ、運転者の負担を軽減することができる。
【0007】
畦際領域の位置を予め設定するための方法の1つは、畦際領域を含む圃場の地図データを装備し、当該地図データにおいて畦際領域を設定しておくことである。この地図データに基づく圃場地図と測位ユニットから得られる自車位置とをマッチングすることにより、走行する圃場作業車両の圃場内での位置がリアルタイムで算定される。したがって、走行機体が畦際領域に到達する時点を自動操舵の制御系や運転者に報知することが可能となる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記圃場の地図データを格納する圃場地図格納部が備えられ、前記畦際検知モジュールは、前記自車位置と前記地図データとを用いてマップマッチングすることで、前記走行機体が前記畦際領域に到達したことを検知する。
【0008】
圃場作業車両による実際の圃場作業において、圃場に対する作業を実施する非畦際領域(作業領域:一般には圃場の枕地以外の領域)での走行と、方向転換を行う畦際領域での走行とでは、車両の挙動が異なる。この車両の挙動には、走行機体の挙動と圃場作業装置の挙動とが含まれる。特に、非畦際領域から畦際領域への進入時に発生する車両挙動と、畦際領域から非畦際領域への進入時に発生する車両挙動とを検出し、その検出時点の自車位置とを組み合わせることで、畦際領域と非畦際領域との境界点が得られる。一般的な圃場では、隣接する境界点の間隔は、往復作業走行での走行軌跡の間隔、つまり作業幅にほぼ等しくなるので、最初に得られた境界点から、次の境界点を推定することも可能である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行機体または前記圃場作業装置あるいはその両方の挙動を前記走行機体の位置と関係付けて車両挙動として記録する車両挙動記録部が備えられ、前記畦際検知モジュールは、前記車両挙動に基づいて、前記走行機体が前記畦際領域に到達したことを検知する。
【0009】
非畦際領域から畦際領域への進入時に発生する車両挙動、畦際領域から非畦際領域への進入時に発生する車両挙動への進入時に発生する車両挙動、及び畦際領域から非畦際領域への進入時に発生する車両挙動は、圃場作業車両の種類や作業内容によって異なる。田植機による植付け作業や播種作業、トラクタによる耕耘作業、コンバインによる刈取り収穫作業では、共通する車両挙動として、圃場作業装置の作業開始と作業停止、圃場作業装置の作業位置への移行と非作業位置への移行、走行機体の方向転換走行の開始と停止が挙げられる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記車両挙動記録部は、前記圃場作業装置の作業開始と作業停止とを前記車両挙動として記録する。他の1つの実施形態では、前記車両挙動記録部は、前記圃場作業装置の作業位置への移行と非作業位置への移行とを前記車両挙動として記録する。さらに他の1つの実施形態では、前記車両挙動記録部は、前記走行機体の方向転換走行の開始と停止とを前記車両挙動として記録する。もちろん、これらの実施形態を、任意に組み合わせて適用してもよい。
【0010】
また、非畦際領域と畦際領域との境界点を人為的に決定してもよい。このため、本発明の実施形態の1つでは、前記畦際領域の走行(畦際走行モード)と前記畦際領域以外の走行(非畦際走行モード)との間の移行時に人為操作される走行モード切替操作具が備えられ、前記車両挙動記録部は、前記走行モード切替操作具の操作を前記車両挙動として記録する。
【0011】
上述したように、一度、非畦際領域と畦際領域との境界を車両挙動に基づいて決定すれば、それ以降の非畦際領域と畦際領域との境界を推定することが可能なので、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記畦際検知モジュールは、隣接する前回の作業走行経路における前記車両挙動から次回の前記走行機体の前記畦際領域への到達タイミングを推定する畦際推定部を有する。これにより、非畦際領域の走行中に畦際領域への接近状態を算定することができ、畦際領域への到達前または到達後に適切かつ必要な制御を行うことができる。
【0012】
例えば、前記畦際推定部によって推定された到達タイミングの前に前記畦際領域への接近を報知する接近報知指令が出力されるならば、運転者は、畦際領域において行わなければならない操作や確認を、余裕をもって行うことができる。また、走行機体の畦際領域への不測の接近に伴う不都合を回避するため、前記畦際推定部によって推定された到達タイミングの前に前記走行機体を減速させる減速指令が出力されるような実施形態を採用することができる。さらには、記畦際推定部によって推定された到達タイミングから所定距離だけ走行した場合、走行機体を停止させる車両停止指令が出力されるような実施形態や前記畦際推定部によって推定された到達タイミングに応答して、走行機体を停止させる車両停止指令が出力されるような実施形態を採用することも可能である。
【0013】
非畦際領域での走行と、方向転換を行う畦際領域での走行とでまったく異なった操舵が行われる。このため、この2つの異なる走行を、自動操舵で行うか、人為操舵で行うかは、圃場作業車両の種類、圃場作業の種類、運転者の熟練度などによっても異なる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記人為操舵部による人為操舵が実行される人為操舵モードと前記自動操舵部による自動操舵が実行される自動操舵モードとを管理する操舵モード管理部とが備えられている。この構成では、前もって適切なアルゴリズムを組み込んでおけば、走行状況や周囲状況に応じて自動操舵と人為操舵とを適切に割り当てることができる。
【0014】
例えば、方向転換走行の操舵を自動で行うことが技術的に負担となる場合、前記操舵モード管理部は、前記畦際領域では人為操舵モードを選択し、前記畦際領域以外は自動操舵モードを選択するような構成を採用することができる。
【0015】
また、自動操舵と人為操舵とをフレキシブルに適用する場合には、前記自動操舵モードと前記人為操舵モードとを人為的に選択する操舵モード切替操作具が備えられている実施形態を採用するとよい。
【0016】
GNSSやGPSなど、衛星からの電波を用いた測位ユニットでは、受信状態が悪化などで動作不能が発生すれば、測位データが得られない不都合が生じる。このため、本発明の好適な実施形態では、車輪の回転数に基づいて走行距離を算定する走行距離算定部が備えられ、前記測位ユニットの動作不能時には、前記畦際検知モジュールは、前記走行距離算定部によって算定された走行距離に基づいて、前記走行機体が前記畦際領域に到達したことを検知する。これにより、一時的に測位ユニットが動作不能となっても、走行機体が畦際領域に到達したことが検知される。その際、測位ユニットの動作不能により走行距離算定部によって畦際領域に到達したことを検知した場合には、その時点で、走行機体を停止させてもよい。
【0017】
特に自動操舵で走行する場合、自動操舵の制御系が車両の種々の状況を把握しながら走行することは難しい。圃場での走行において重要な車両状況の1つは、走行機体の姿勢である。走行機体の姿勢は、実質的には走行機体の地面の対する傾斜によって決定される。特に、所定以上のピッチング角やローリング角は、走行に悪影響を及ぼす。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行機体の姿勢を判定する姿勢判定部が備えられ、前記姿勢が所定条件から外れた場合に、前記走行機体を減速または停止させる制動指令(停止指令や減速指令が含まれる)が出力される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による圃場作業車両に採用されている車両制御の基本原理を説明する模式図である。
【
図2】本発明による圃場作業車両に採用されている車両制御の基本原理を説明する模式図である。
【
図3】本発明による圃場作業車両の実施形態の1つである田植機の側面図である。
【
図4】本発明による圃場作業車両の実施形態の1つである田植機の平面図である。
【
図6】田植機の走行制御に関する機能を示す機能ブロック図である。
【
図7】記録された車両挙動の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による圃場作業車両の具体的な実施形態を説明する前に、
図1を用いて、その圃場作業車両に採用されている車両制御の基本原理を説明する。
図1では、圃場作業車両として、田植機、播種機、トラクタ、コンバインが想定されている。圃場作業装置として、田植機は植付け装置を備え、播種機は播種装置を備え、トラクタは耕耘装置を備え、コンバインは刈取装置を備える。これらの圃場作業装置は、それぞれの走行機体に作業位置と非作業位置との間で昇降可能に連結されている。
【0020】
この圃場作業車両(以下単に車両と略称する)は、
図1では、平行となっている上側畦と下側畦に境界付けられた圃場を、180度の方向転換走行(Uターン走行)を挟んだ往復直線状走行を繰り返しながら走行する。上側畦の近傍には、上側の畦際領域が設定され、下側畦の近傍には、下側の畦際領域が設定されている。車両は、畦際領域で方向転換走行を行い、それ以外の圃場領域で直線状の作業走行を行う。
【0021】
車両は、自車位置を示す測位データを出力する測位ユニットを装備している。さらには、走行機体を人為操作に基づいて操舵する人為操舵部だけではなく、走行機体を自動操舵する自動操舵部も装備されている。なお、測位ユニットから出力される測位データは、アンテナの位置が基準となるが、ここでは、自車位置は、アンテナの位置ではなく、車両の適切な位置、例えば、圃場作業装置の対地作用点などとなるように補正処理が施されている。
【0022】
この圃場における圃場走行の一例を以下に示す。
まず、下側畦を乗り越えて圃場内に入り込んだ車両は、地点A1において、運転者の操作により、圃場作業装置を作業位置まで下降させ、直線状の作業走行(往路)を開始する。この圃場作業装置の下降は、作業開始を示す車両挙動として、地点A1の位置を示す測位データとともに記録される。直線状の作業走行を経て、車両が地点B1で方向転換領域に達すると、運転者の操作により、圃場作業装置を非作業位置まで上昇させ、180度の方向転換走行に移行する。この圃場作業装置の上昇は、作業停止を示す車両挙動として、地点B1の位置を示す測位データとともに記録される。
【0023】
畔際領域での方向転換走行が終了すれば、地点A2において、再び圃場作業装置を作業位置まで下降させ、直線状の作業走行(復路)を開始する。この圃場作業装置の下降も、作業開始を示す車両挙動として、地点A2の位置を示す測位データとともに記録される。なお、地点A2の位置は、作業幅(植付け幅や耕耘幅)に相当する往復作業走行間隔を考慮して、地点B1の位置から推定することができる。したがって、畦際領域での方向転換走行中に、車両が推定された地点A2に接近してくれば、その旨を運転者に報知して、圃場作業装置を作業位置まで下降させることを運転者に促すことができる。また、車両が推定された地点A2に到達した時に、自動的に圃場作業装置を作業位置まで下降させることも可能である。車両が再び直線状の作業走行(復路)を開始した位置が、最終的な地点A2として設定される。
【0024】
この直線状の作業走行(復路)の終点である地点B2、つまり車両が再び畔際領域に到達する地点も、地点A1の位置から推定することができる。したがって、車両が地点B2に接近してくれば、畦際領域に達する前に、圃場作業装置を非作業位置まで上昇させて、方向転換走行の準備を行うことを運転者に報知可能である。また、車両が推定された地点B2に到達した時に、自動的に圃場作業装置を非作業位置まで上昇させることも可能である。車両が畦際領域に到達すれば、自動的にまたは人為的に畦際領域内での方向転換走行に移行する。方向転換走行が終了すると、地点A3から再び直線状の作業走行(復路)を開始する。
【0025】
このようにして、地点B3、地点A4、地点B4、地点A5・・・を経由しながら、作業走行と方向転換走行を繰り返す。その際、地点A1を設定すれば、地点A1から、往復作業走行間隔を考慮して、地点B2、地点A3・・・を推定することができる。しかしながら、地点A3を推定する際には、地点A1から推定することもできるが、作業走行から方向転換走行に実際に移行した位置としての地点B2が検知されていることから、この地点B2から地点A3を推定することも可能である。特に、実際の畦際領域が直線的に延びているのではなく、斜めや段階的に延びている場合は、途中であらたに設定された地点から推定することで、そのような畦際領域の境界点を正しく検知することができる。
【0026】
例えば、
図2に示すように、畦際領域が段差をもっている場合、直線状の作業走行を推定された地点B4よりさらに直線状の作業走行を延長する必要がある。直線状の作業走行が自動操舵で行われている場合、自動操舵を解除して、手動操舵で方向転換走行に適した位置(新しく設定される地点B4)まで直線状の作業走行を続行する。地点B4が新しく設定されると、次の地点A5は地点B4から推定される。
【0027】
作業走行の開始点である地点A1、A2、・・・は、特定の車両挙動に基づいて自動的に設定することができる。そのような特定の車両挙動として適切なものは、例えば、圃場作業装置に対する作業開始指令、圃場作業装置の作業位置への位置変更の検出、圃場作業装置のための動力伝達クラッチの入り検出などである。さらに、運転者によって操作される操作具の状態を特定の車両挙動として利用してもよい。同様に、作業走行の終了点(方向転換走行の開始点)である地点B1、B2、・・・も、特定の車両挙動に基づいて自動的に設定することができる。そのような特定の車両挙動として適切なものは、例えば、圃場作業装置に対する作業停止指令、圃場作業装置の非作業位置への移行検出、圃場作業装置のための動力伝達クラッチの切り検出などである。さらに、運転者によって操作される操作具の状態を特定の車両挙動として利用してもよい。
【0028】
地点A1と地点B1とによって定義される最初の作業走行経路を、基準作業走行経路とすれば、以後の自動操舵用の目標作業経路をこの基準作業走行経路に基づいて算定することができる。作業走行は一般に直線状の走行であることから、方向転換走行に比べて簡単な操舵となるので、作業走行を自動操舵で実施し、方向転換走行を人為操舵で実施することは、制御的に好都合である。圃場形状が単純な矩形である場合、地点A1と地点B1とを設定すれば、その後の作業走行と方向転換走行との間の移行タイミング、つまり畦際領域への到達タイミング及び畦際領域からの離脱タイミングは地点A1と地点B1から推定することができる。
【0029】
直線状の作業走行(復路)から畦際領域に入っても、何らかの理由で方向転換走行が行われない場合、車両が畦に乗り上げてしまう不都合が生じる。このような不都合を回避するために、直線状の作業走行(復路)の終点である地点B2、B3、B4・・・を推定し、記録しておくことが重要となる。測位ユニットによって自車位置が算定できるので、この自車位置と作業走行(復路)の終点(畦際領域への進入点)の位置とを常に比較することができる。これにより、車両が畦際領域への進入する手前及び車両が畦際領域への進入した後での車両減速、警告の報知、車両の停止などを実施することができる。
【0030】
上述した例では、最初の作業走行で地点A1と地点B1とを設定し、その後の作業走行と方向転換走行との間の地点(車両の畦際領域へ到達点及び畦際領域からの離脱点)、A2、A3・・・、B2、B3・・・は地点A1と地点B1から推定された。車両が圃場の地図データを格納した圃場地図格納部を備えている場合は、自車位置と地図データとを用いてマップマッチングすることで、車両が畦際領域に到達したことや畦際領域から離脱したことが検知できるので、そのような地点A1と地点B1とを設定及びその他の地点の地点A1と地点B1からの推定は不要となる。
【0031】
次に、図面を用いて、本発明による圃場作業車両の具体的な実施形態の1つを説明する。
図3は、圃場作業車両の一例である乗用型の田植機の側面図であり、
図4は平面図である。この田植機は、走行機体Cと、圃場に対する作業を行う圃場作業装置とを備えている。ここでの圃場作業装置は、圃場に対する苗の植え付けが可能な苗植付装置Wである。なお、
図4に示す矢印Fが走行機体Cの「前」、矢印Bが走行機体Cの「後」、矢印Lが走行機体Cの「左」、矢印Rが走行機体Cの「右」である。
【0032】
図3に示されるように、走行装置としては、左右一対の前車輪10と左右一対の後車輪11とが備えられている。走行機体Cには、走行装置における左右の前車輪10を操向可能な操舵ユニットUが備えられている。
【0033】
図3と
図4とに示されるように、走行機体Cの前部には、開閉式のボンネット12が備えられている。ボンネット12内には、エンジン13が備えられている。走行機体Cには、前後方向に沿って延びる枠状の機体フレーム15が備えられている。機体フレーム15の前部には、支持支柱フレーム16が立設されている。
【0034】
図3に示されるように、苗植付装置Wは、油圧シリンダで構成される昇降シリンダ20の伸縮作動により昇降作動するリンク機構21を介して、走行機体Cの後端に昇降自在に連結されている。苗植付装置Wには、4個の伝動ケース22、各伝動ケース22の後部の左側部及び右側部に回転自在に支持された回転ケース23、各回転ケース23の両端部に備えられた一対のロータリ式の植付アーム24、圃場の田面を整地する複数のフロート25、植え付け用のマット状苗が載置される苗載せ台26等が備えられている。つまり、苗植付装置Wは、8条植え型式に構成されている。
【0035】
走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、苗植付装置Wに補給するための予備苗を載置可能な複数(例えば4つ)の通常予備苗台28、苗植付装置Wに補給するための予備苗を載置可能な1つのレール式予備苗台29が備えられている。また、走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、各通常予備苗台28とレール式予備苗台29とを支持する左右一対の予備苗フレーム30と、左右の予備苗フレーム30の上部に亘って連結される連結フレーム31と、が備えられている。連結フレーム31は、前面視で、U字状の形状となっている。連結フレーム31の左右端部は、それぞれ、連結ブラケット32を介して、左右の予備苗フレーム30の上部に連結されている。
【0036】
走行機体Cの中央部には、各種の運転操作が行われる運転部40が備えられている。運転部40には、運転者が着座可能な運転座席41、操縦塔42、前車輪10の手動の操向操作用のステアリングホイールにより構成される操向ハンドル43、前後進の切り換え操作や走行速度を変更操作が可能な主変速レバー44、操作レバー45等が備えられている。運転座席41は、走行機体Cの中央部に備えられている。操縦塔42に、操向ハンドル43、主変速レバー44が操作自在に備えられている。運転部40の足元部位には、搭乗ステップ46が設けられている。
【0037】
操向ハンドル43の下側の右横側に操作レバー45が備えられている。操作レバー45を上昇位置に操作すると、作業クラッチの一種である植付クラッチ(図示なし)が遮断状態に操作されて、苗植付装置Wが上昇する。操作レバー45を下降位置に操作すると、植付クラッチ(図示なし)が遮断状態に操作され、苗植付装置Wが下降する。中央のフロート25が圃場の田面に接地すると、苗植付装置Wが圃場の田面に接地して停止した状態となる。
【0038】
図5に示されるように、操舵ユニットUには、上述の操向ハンドル43、操向ハンドル43に連動連結されるステアリング操作軸54、ステアリング操作軸54の回動に伴って揺動するピットマンアーム55、ピットマンアーム55に連動連結される左右の連繋機構56、ステアリングモータ58、ステアリング操作軸54にステアリングモータ58を連動連結するギヤ機構57等が備えられている。
【0039】
操舵ユニットUは、自動操舵モード及び人為操舵モードで動作可能である。人為操舵モードでは、運転者が操向ハンドル43を操作する操作力に、ステアリングモータ58による操向ハンドル43の操作に応じた補助力を付与してステアリング操作軸54を回動操作し、前車輪10の操向角度を変更する。一方、自動操舵モードでは、ステアリングモータ58を自動制御し、ステアリングモータ58の駆動力によりステアリング操作軸54を回動操作し、前車輪10の操向角度を変更する。この実施形態では、操向ハンドル43とステアリングモータ58とが、走行機体Cを人為操舵する人為操舵部の構成要素として機能する。また、走行機体Cを自動操舵する自動操舵の制御機能は、後で説明する制御装置8(
図6参照)に構築され、制御装置8からの制御指令に基づいてステアリングモータ58が駆動する。なお、操向ハンドル43の操作変位が直接ステアリング操作軸54に伝達されるのではなく、操向ハンドル43の操作変位がセンサによって検出され、その検出値に基づいてステアリングモータ58が駆動される場合、いわゆるバイワイヤ方式が採用されている場合、人為操舵の制御機能も、制御装置8に構築される。
【0040】
走行機体Cには、測位ユニット61が備えられ、走行機体Cの自機位置は、測位ユニット61からの測位データから求められる。測位ユニット61には、GNSSモジュールとして構成されている衛星航法用モジュールと、ジャイロ加速度センサと磁気方位センサを組み込んだモジュールとして構成されている慣性航法用モジュールとが含まれている。衛星航法用モジュールには、GPS信号やGNSS信号を受信するための衛星用アンテナが接続されている。少なくともこの衛星用アンテナは、電波受信感度が良好となる箇所、この実施形態では連結フレーム31に取り付けられている。衛星航法用モジュールと慣性航法用モジュールとは別の場所に設けてもよい。
【0041】
図6には、この田植機に装備されている制御装置8が示されている。なお、
図6では、制御装置8に構築されている機能部の内、主に操舵に関する機能部が示されている。この制御装置8は、
図1と
図2とを用いて説明された自動操舵と人為操舵に関する基本原理を採用している。制御装置8は、入力信号処理部8aを介して、測位ユニット61、車両状態検出センサ群9、接触検出器90、走行モード切替操作具65、操舵モード切替操作具66と接続している。また、制御装置8は、出力信号処理部8bを介して、報知デバイス7、車両走行機器群71、作業装置機器群72と接続している。なお、走行モード切替操作具65や操舵モード切替操作具66はスイッチやボタンで構成される。
【0042】
車両状態検出センサ群9は、走行機体Cの動作や姿勢、圃場作業装置としての苗植付装置Wの動作や姿勢を検出するために設けられた各種センサやスイッチからなる。接触検出器90は、それ自体はよく知られているので、
図3や
図4では図示されていないが、田植機と障害物との接触を検出する構造を有する。接触検出器90によって田植機と障害物との接触が検出されると、田植機は、緊急停止する。操舵モード切替操作具66は、自動操舵で走行する自動操舵モードと人為操舵で走行する人為操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。例えば、自動操舵で走行中に操舵モード切替操作具66を操作することで、人為操舵での走行に切り替えられ、人為操舵で走行中に操舵モード切替操作具66を操作することで、自動操舵での走行に切り替えられる。
【0043】
走行モード切替操作具65は、畦際領域と非畦際領域の境界を制御装置8に教えるためのティーチングスイッチであり、この実施の形態では、走行モード切替操作具65はAボタンとBボタンとを有する。運転者は、車両が方向転換走行から作業走行に移行する時にAボタンを押し、車両が作業走行から方向転換走行に移行する時にBボタンが押される。
【0044】
報知デバイス7には、ランプやブザーが含まれており、畦際領域への接近や自動操舵走行での目標走行経路からの外れなど、運転者に報知したい種々の情報を,制御装置8からの指令に基づいて視覚的または聴覚的に出力する。さらに、報知デバイス7にフラットパネルディスプレイなどが含まれておれば、文字情報を提供することも可能である。
【0045】
車両走行機器群71には、走行機体Cに搭載されている走行するための種々の動作機器や制御機器が含まれており、例えば、操舵ユニットUを構成するステアリングモータ58などの動作機器、エンジン回転数を調整する制御機器、クラッチやシフタなどのトランスミッション用動作機器、ブレーキ動作機器などである。作業走行機器群には、この実施形態では、圃場作業装置として搭載されている苗植付装置Wを昇降する昇降シリンダ20や苗植付装置Wの作業クラッチとして機能する植付クラッチなどの動作機器が含まれている。
【0046】
制御装置8には、畦際検知モジュール81、自動操舵部82、車両挙動記録部83、操舵モード管理部84、走行経路算定部85、走行距離算定部86、姿勢判定部87などが、実質的にはコンピュータプログラムで構築されている。
【0047】
畦際検知モジュール81は、最初の作業走行において設定された走行経路基準点である、畦際領域での走行から作業走行に移行する地点A1と、作業走行から畦際領域での方向転換走行に移行する地点B1と、測位ユニット61の測位データから得られる自車位置とに基づいて、走行機体Cが畦際領域に到達しているかどうかを検知する。
図1と
図2とを用いて説明したように、地点A1を苗植付装置(作業装置)Wの下降位置(作業位置)への下降により検知し、地点B1を苗植付装置Wの上昇位置(非作業位置)への上昇により検知し、それぞれ車両挙動として車両挙動記録部83に記録する。この地点A1と地点B1との間の走行経路(一般的には直線)が基準作業走行経路であり、自動操舵であっても、人為操舵であっても、この基準作業走行経路を往復作業走行間隔だけ順次平行移動させることで、次の作業走行経路が得られる。つまり、地点A1に対応する地点B2、A3、B4、A5・・・、及び地点B1に対応する地点A2、B3、B4、A4、B5・・・が推定される。この推定アルゴリズムは、畦際推定部810に構築されている。畦際領域の境界を示す地点の推定方法は、圃場の形状によって異なるので、圃場の形状毎に適切な推定アルゴリズムが選択できるような構成が好ましい。当該各地点と自車位置とを比較することにより、作業走行している走行機体Cが畦際領域に到達するまでの距離が検知され、制御装置8は、例えば、畦際領域に所定距離だけ接近した場合の接近報知や、畦際領域に到達した際の到達報知、走行機体Cの減速、走行機体Cの停止などの指令を出力することができる。
【0048】
走行経路算定部85は、上述した基準作業走行経路から、それ以降の作業走行を自動操舵で行うために必要となる走行経路データを算定する。自動操舵部82は、走行経路算定部85によって算定された走行経路データと、自車位置とのずれを算定し、自動操舵指令を生成し、操舵ユニットUに出力する。
【0049】
操舵モード管理部84は、人為操舵による走行である人為操舵モードと自動操舵による走行である自動操舵モードとを管理する。例えば、畦際領域では人為操舵モードを選択し、畦際領域以外(一般には直線状の作業走行)は自動操舵モードを選択するように設定可能である。また、操舵モード切替操作具66からの切替指令により、強制的に、人為操舵モードと自動操舵モードとを選択することも可能である。さらには、操向ハンドル43を操作すれば、強制的に自動操舵モードから人為操舵モードに切り替わるように設定することも可能である。
【0050】
車両挙動記録部83は、入力信号処理部8aと通じて入力された各種センサ検出信号や各種操作デバイスの操作信号、出力信号処理部8bを通じて車両走行機器群71や作業装置機器群72に出力された制御信号に基づいて、車両に生じた状態、特に作業走行の開始と終了に関する車両挙動を記録する。その際、各車両挙動は、当該車両挙動が生じた時に取得された自車位置とともに記録される。
【0051】
図7には、
図1に示されたような簡略化された圃場での走行において、車両挙動記録部83によって時系列で記録された車両挙動の一例が示されている。この例では、車両挙動記録部83の記録項目には、記録NO、挙動時刻、自車位置、挙動内容が含まれている。挙動時刻は、挙動時刻車両挙動が検出された時刻(タイムスタンプ)である。自車位置は車両挙動を検出された時の自車位置である。挙動内容は、検出された車両挙動を識別するものであり、ここでは、走行モード切替操作具65の操作内容(AはAボタンの操作、BはBボタンの操作を意味する)、苗植付装置Wやフロート25の位置、植付けクラッチ(作業クラッチ)の状態、操舵の状態(直進から旋回への操舵、または旋回から直進への操舵)が記録されている。なお、
図7では、各車両挙動の自車位置は同一となっているが、苗植付装置Wの昇降タイミングや旋回走行の操舵タイミングなどは異なるので自車位置は異なるが、ここでは、記録される自車位置は、特定の車両の基準位置に置き換える補正を行って記録されている。
【0052】
図1及び
図7から理解できるように、車両挙動記録部83の記録から、走行機体C及び作業装置である苗植付装置Wの各種状態、特に作業開始及び作業終了を読み取ることができる。この田植機による苗植付け作業の最初のプロセスとして、車両は畦から畦際領域に入り、畦際領域を出るタイミングで、記録NO「0001」が記録される。記録NO「0001」の内容は、
図1の地点A1の記録であり、その時の挙動時刻、自車位置、挙動内容が含まれる。挙動内容として、走行操作モードが「A」、苗植付装置位置が「下降位置」、フロート位置が「接地」、クラッチ状態が「入り」となっている。実際は、これらの挙動内容が検出されるタイミングは微妙に異なっているが、ここでは、同じタイミングとしている。つまり、記録NO「0001」が記録されたタイミングで、運転者によって、走行モード切替操作具65のAボタンが押されるとともに、作業走行するための設定が行われたことになる。
【0053】
この後、直線状の作業走行を行い、畦際領域に到達したタイミングで、記録NO「0002」が記録される。記録NO「0002」の内容は、
図1の地点B1の記録であり、その時の挙動時刻、自車位置、挙動内容が含まれる。挙動内容として、走行操作モードが「B」、苗植付装置位置が「上昇位置」、フロート位置が「離脱」、クラッチ状態が「切り」、操舵が「直進から旋回」となっている。つまり、記録NO「0002」が記録されたタイミングで、運転者によって、走行モード切替操作具65のBボタンが押されるとともに、方向転換走行するための設定が行われたことになる。このような走行モード切替操作具65のAボタンとBボタンの操作で、地点A1と地点B1との位置が記録される。この地点A1と地点B1を結ぶ線は、以後の作業走行の走行経路を推定するための基準作業走行経路として用いることができる。したがって、地点A1と地点B1以外では、走行モード切替操作具65の操作は不要となる。
【0054】
畦際領域での方向転換走行を終えて、畦際領域を出て、作業走行を行うタイミングで、記録NO「0003」が記録される。記録NO「0003」の内容は、
図1の地点A2の記録であり、その時の挙動時刻、自車位置、挙動内容が含まれる。なお、地点A2の位置は、畦際推定部810によって、圃場が
図1のような圃場であれば、往復作業走行間隔を用いて、地点B1から推定される。したがって、この推定された地点B1に、測位ユニット61から取得される自車位置が接近した時にまたは一致した時に作業走行の設定を自動で行うことができる。あるいは、車両が地点B1に接近していることを報知して、作業走行の設定を運転者に促すことができる。同様に、地点B2の位置も、地点A1から推定される。したがって、この推定された地点B2に、測位ユニット61から取得される自車位置が接近した時にまたは一致した時に方向転換走行の設定を自動で行うことができる。あるいは、車両が地点B2に接近していることを報知して、方向転換走行の設定を運転者に促すことができる。
【0055】
上述した説明から、畦際領域に到達したタイミングや畦際領域から出るタイミングは、苗植付装置Wやフロート25の位置変更、作業クラッチの切替操作、操舵角変化から判定することができるので、畦際領域の境界を認識させるティーチング操作具としての走行モード切替操作具65は必須ではない。畦際領域の境界は、上述した車両挙動の1つまたは組み合わせによって判定することができる。例えば、作業開始時には圃場表面に下降し、作業終了時には圃場表面から上昇するという苗植付装置Wの特性を利用する場合、苗植付装置Wの上昇姿勢から下降姿勢への下降動作を示す状態信号に基づいて、車両の畦際領域から作業領域(非畦際領域)への移行点を判定し、苗植付装置Wの下降姿勢から上昇姿勢への上昇動作を示す状態信号に基づいて、車両の作業領域(非畦際領域)から畦際領域への移行点を判定することができる。
【0056】
制御装置8には、畦際領域への車両の到達に関する畦際検知モジュール81の判定結果に基づいて、種々の動作を実行させるための各種指令を出力するアルゴリズムが搭載可能である。以下にその一部を列挙する。
(1)記録された車両挙動が実行される予定の地点に到達しても、当該車両挙動が実行されない場合、車両の減速、エンジン停止などを行う。
(2)圃場での走行において、記録すべき各車両挙動が発生する位置や時間は、特定の範囲に限定することができる。このことから、特定範囲外での、車両挙動は記録対象外とすることで、記録精度が向上する。
(3)車両が畦際領域に入ったことが検知されると、自動操舵は禁止される。
(4)車両が畦際領域における操舵角、旋回半径などの操舵挙動が、方向転換走行のものと異なる場合、車両挙動記録部83への記録は停止される。例えば、旋回半径が大きい場合、方向転換走行ではなく、圃場からの離脱走行など、通常の作業走行でない走行とみなされる。
(5)特定の車両挙動の発生時に、当該車両挙動に不適切な車速が検出されている場合、車両を強制停止する。
【0057】
走行距離算定部86は、後車輪11の回転数または後車輪11への伝動系の回転数を検出するセンサ(車両状態検出センサ群9の1つ)からの検出信号に基づいて走行機体Cの走行距離を算定する。その際、圃場の状態から推定されるスリップ率を考慮すれば、より正確に走行距離を算定することができる。衛星からの電波信号に基づいて自車位置を算定する測位ユニット61の場合、何らかの事情で電波信号の受信感度が低下すると、測位データを出力できなくなる。そのリカバリとしてこの走行距離算定部86が利用される。例えば、畦際検知モジュール81は、測位ユニット61からの測位データが入力されない場合には、走行距離算定部によって算定された走行距離に基づいて、走行機体Cが畦際領域に到達したことを検知することができる。
【0058】
姿勢判定部87は、走行機体Cの傾斜角(ローリング角及びピッチング角)を検出する傾斜センサ(車両状態検出センサ群9の1つ)からの検出信号に基づいて走行機体の姿勢を、所定の傾斜しきい値と比較する。この実施の形態では、姿勢判定部87は、走行機体の姿勢が所定条件から外れた場合に、車両走行機器群71の1つである制動機器に対して走行機体を減速または停止させる制動指令を与える。
【0059】
姿勢判定部87の判定結果に基づく具体的な制御動作を以下に列挙する。
(1)検出された傾斜角が傾斜しきい値を超えたら、報知、減速、停止を実行する。
(2)検出された傾斜角が頻繁に傾斜しきい値を超えた場合、自動操舵を禁止する。
(3)検出された傾斜角の傾斜しきい値越えが許容時間続いた場合に、報知、減速、停止を実行する。この許容時間は、車速や圃場深さに依存して決定される。なお、圃場深さが所定値を超える場合には、車体の沈み込みを避けるため完全停車を禁止する。
(4)傾斜の加速度変化を算定し、急激な傾斜変動時には、傾斜しきい値以下でも自動操舵は禁止する。
【0060】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、方向転回走行を行う畦際領域と、作業走行を行う非畦際領域との境界点である地点A1と地点B1は、走行モード切替操作具のAボタンとBボタンの操作、その後の地点A2、A3・・・と地点B2、B3・・・は、地点A1と地点B1から推定され、車両挙動に基づいて確定された。制御を簡単にするため、車両挙動は利用せずに、地点A2、A3・・・と地点B2、B3・・・は、地点A1と地点B1から推定され、その推定された位置と異なる位置を正式な地点とする場合には、再び走行モード切替操作具のAボタンまたはBボタンを操作して、当該地点を決定してもよい。
(2)
図6で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、
図6の各機能部は他の機能部と統合または複数の機能部に分けることができる。独立した機能部同士は、車載LANなどで接続される。
(3)車両挙動記録部83に記録する車両挙動は、田植機では、上述した以外に、マーカの姿勢などを取り入れてもよい。それ以外にも、畦際領域と非畦際領域との境界で行われる車両挙動は車両挙動記録部83に記録すべき車両挙動の対象となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、作業装置として苗植付装置を備える上記乗用型の田植機以外にも、例えば、作業装置として播種装置を備える植播系水田作業車である乗用型の直播機、作業装置としてプラウ等を備えるトラクタ、若しくは、作業装置として刈取部等を備えるコンバイン等の農作業車、または、作業装置としてバケット等を備える建設作業車等の種々の作業車に適用できる。
【符号の説明】
【0062】
7 :報知デバイス
25 :フロート
26 :苗載せ台
43 :操向ハンドル
44 :主変速レバー
45 :操作レバー
61 :測位ユニット
65 :走行モード切替操作具
66 :操舵モード切替操作具
71 :車両走行機器群
72 :作業装置機器群
8 :制御装置
8a :入力信号処理部
8b :出力信号処理部
81 :畦際検知モジュール
810 :畦際推定部
82 :自動操舵部
83 :車両挙動記録部
84 :操舵モード管理部
85 :走行経路算定部
86 :走行距離算定部
87 :姿勢判定部
9 :車両状態検出センサ群
90 :接触検出器
U :操舵ユニット
W :苗植付装置(圃場作業装置)