(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096787
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】二重層状水酸化物(DLH:Double Layered Hydroxide)型化合物、ならびにそのグラファイト-樹脂複合材料および電解質を備えるエネルギー貯蔵装置用の電極におけるその使用
(51)【国際特許分類】
C01G 53/04 20060101AFI20240709BHJP
C01G 49/02 20060101ALI20240709BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240709BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240709BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20240709BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20240709BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240709BHJP
H01M 4/32 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C01G53/04
C01G49/02 Z
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M10/30 A
H01M10/04 Z
H01M4/62 C
H01M4/32
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060833
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2021523567の分割
【原出願日】2019-07-11
(31)【優先権主張番号】62/697,478
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521016254
【氏名又は名称】ゲニン,フランソワ
(71)【出願人】
【識別番号】521016265
【氏名又は名称】ゲニン,ジャン-マリー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ゲニン,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ゲニン,ジャン-マリー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二重層状水酸化物(DLH)型化合物と、エネルギー貯蔵装置用の電極におけるそのような化合物の使用を提供する。
【解決手段】二価ニッケルイオンおよび三価ニッケルイオンの両方を含む二重層状水酸化物型化合物、ならびにFe
2+「グリーンラスト関連化合物」およびFe
3+「グリーンラスト関連化合物」を用いたこれまでに開発された電極に加えて、エネルギー貯蔵装置用の電極において、上記二重層状水酸化物型化合物を使用する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式を有し、二重層状水酸化物型構造を有する化合物:
[NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)]2+A2-
式中、xは0から1であり、A2-は電荷-2のアニオンである。
【請求項2】
A2-は、CO3
2-である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
上記化合物は、結晶サイズが50nmから1500nmである結晶の形態を有する、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
上記結晶の結晶サイズは約100nmである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
エネルギー貯蔵装置の電極用の、請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む、エネルギー貯蔵装置の電極用の材料。
【請求項7】
上記材料は、バインダをさらに含む複合材料である、請求項6に記載の材料。
【請求項8】
上記材料は、グラファイトをさらに含む、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載の材料を含む、エネルギー貯蔵装置用の電極。
【請求項10】
上記電極は、上記エネルギー貯蔵装置の放電時においてカソードである、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
上記電極は、上記エネルギー貯蔵装置の放電時においてアノードである、請求項9に記載の電極。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項に記載の電極を備えるエネルギー貯蔵装置。
【請求項13】
式FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3(式中、yは0~1である)の化合物を含む第2の電極をさらに備える、請求項12に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項14】
xが1であり、yが0である、請求項13に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項15】
xが0であり、yが1である、請求項13に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項16】
CO3
2-/HCO3
-緩衝液である電解質をさらに備える、請求項12から15のいずれか1項に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項17】
上記電解質のpHは約8~約12である、請求項16に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項18】
上記電解質のpHは約10である、請求項17に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項19】
(a)式NiII
6NiIII
2(OH)16CO3の化合物を得るために、NiII塩とNiIII塩とを無酸素雰囲気下で共沈させる、比率x={[Ni3+]/([Ni2+]+[Ni3+])}が1/4に等しい工程と、
(b)NiIII
8O16H10CO3を得るために、無酸素雰囲気下で過酸化水素を加えることにより上記式NiII
6NiIII
2(OH)16CO3の化合物を脱プロトン化する工程と、
を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物の調製方法。
【請求項20】
請求項12から18のいずれか1項に記載のエネルギー貯蔵装置の作成方法であって、
(a)請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物を請求項19に記載の方法で調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた上記化合物をグラファイトおよび第1のバインダと結合させて第1の複合材料を形成する工程と、
(c)上記第1の複合材料から第1の電極を作成する工程と、
(d)第2の複合材料を含む第2の電極を作成する工程であって、上記第2の複合材料は、グラファイト、第2のバインダ、および式FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3(式中、yは0~1である)の化合物を含む工程と、
(e)pHが約8~約12であるCO3
2-/HCO3
-緩衝液である電解質を得る工程と、
(f)上記エネルギー貯蔵装置を得るために、上記第1の電極、上記第2の電極および上記電解質を組み立てる工程と、
を含む方法。
【請求項21】
NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3におけるxが1であり、FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3におけるyが0である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3におけるxが0であり、FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3におけるyが1である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
上記第1の電極および上記第2の電極は、初期には三価の状態である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
上記第1のバインダは樹脂である、請求項20から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
上記第2のバインダは樹脂である、請求項20から24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
上記緩衝液のpHは約10である、請求項20から25のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、2018年7月13日に出願された「二重層状水酸化物(DLH)型化合物、ならびにそのグラファイト-樹脂複合材料および電解質を備えるエネルギー貯蔵装置用の電極におけるその使用」と題する米国仮特許出願第62/697,478号に対する優先権およびその利益を主張する。上記出願の開示の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、二価ニッケルイオンおよび三価ニッケルイオンの両方を含む二重層状水酸化物(DLH:Double Layered Hydroxid)型化合物と、エネルギー貯蔵装置用の電極におけるそのような化合物の使用とに関する。
【0003】
(背景技術)
エネルギー貯蔵装置(二次/充電式単電池、充電式電池および蓄電池など)は、一般に正極、負極および電解質を備える。慣例として、正極は、放電時のカソードであり、負極は、放電時のアノードである。本明細書において、用語「カソード」は、放電サイクルにおける正極を指し、用語「アノード」は、放電サイクルにおける負極を指す。
【0004】
(発明の概要)
一態様では、以下の式を有し、二重層状水酸化物(DLH)型構造を有する化合物を提供する:
[NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)]2+[A2-nH2O]
式中、xは0~1であり、A2-は電荷-2のアニオンである。
【0005】
いくつかの実施形態において、A2-は、CO3
2-である。
【0006】
二重層状水酸化物材料に取り込まれた水分子は、酸化還元プロセスに関与しない。水分子は、2つのCO3
2-イオンが残した中間層内のサイトを占め得る。NiII-NiIIIDLH材料すなわち[NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)]2+[CO3
2-nH2O]2-の場合、aが六角形ペーブメント(hexagonal pavement)におけるカチオン間の距離であれば、格子定数単位胞は(4×a)である。したがって、単位胞には、存在すると考えられる16個のサイトがあり、各CO3
2-イオンがサイトを3個ずつ(1つはナブラ構成であり、もう1つはデルタ構成である)占めるので、水分子は16個のサイトのうち最大10個を埋めることが可能である。しかし、水分子が埋めるサイトは、おそらく10個よりも少なく(n≦10)、したがって無作為に分布する。FeII-FeIIIDLH材料のFeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)]2+[CO3
2-mH2O]2-の場合、単位胞は、12個のサイトに対応する(2√3×a)である。水分子はこれらのサイトのうちの最大6個(m≦6)を埋めることが可能である。しかし、これらの材料中に存在する水分子はいずれも後述の脱プロトン化-プロトン化プロセスに関与しないので、存在する水分子の数は、これらの材料が電極として使用される際のこれらの材料の機能とは無関係である。したがって、以下では、全ての化学式において水分子を省略し、一方ではNiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3と表し、他方ではFeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3と表しても差し支えない。
【0007】
いくつかの実施形態では、上記化合物は、サイズが50nm~1500nmである平面六方晶(板状晶)の形態を有する。さらにいくつかの実施形態では、結晶の結晶サイズは約100nmである。
【0008】
いくつかの実施形態では、上記化合物は、エネルギー貯蔵装置の電極用である。
【0009】
別の態様では、エネルギー貯蔵装置の電極用の材料を提供する。この材料は、上記実施形態のいずれかに規定した化合物を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、上記材料は、バインダをさらに含む複合材料である。
【0011】
いくつかの実施形態では、上記材料は、グラファイトをさらに含む。
【0012】
別の態様では、上記実施形態のいずれかに規定した材料を含む、エネルギー貯蔵装置用の電極を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態では、上記電極は、エネルギー貯蔵装置の放電時においてカソードである。
【0014】
いくつかの実施形態では、上記電極は、エネルギー貯蔵装置の放電時においてアノードである。
【0015】
別の態様では、上記実施形態のいずれかに規定した電極を備えるエネルギー貯蔵装置を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態では、エネルギー貯蔵装置は、式FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3(式中、yは0~1である。)の化合物を含む第2の電極をさらに備える。いくつかの実施形態では、xが1であり、yが0である。他のいくつかの実施形態では、xが0であり、yが1である。
【0017】
いくつかの実施形態では、エネルギー貯蔵装置は、CO3
2-/HCO3
-緩衝液である電解質をさらに備える。いくつかの実施形態では、電解質のpHは約8~約12である。いくつかの実施形態では、電解質のpHは約10である。
【0018】
別の態様では、上記実施形態のいずれかに規定した式NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3の化合物の調製方法を提供する。この方法は、
・式NiII
6NiIII
2(OH)16CO3の化合物を得るために、NiII塩とNiIII塩とを無酸素雰囲気下で共沈させる、比率x={[Ni3+]/([Ni2+]+[Ni3+])}が1/4に等しい工程と、
・NiIII
8O16H10CO3を得るために、無酸素雰囲気下で過酸化水素を急速に加えることにより上記式NiII
6NiIII
2(OH)16CO3の化合物を脱プロトン化する工程と、
を含む。
【0019】
別の態様では、上記実施形態のいずれかに規定したエネルギー貯蔵装置の作成方法を提供する。この方法は、
・上記実施形態のいずれかに規定した式NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3の化合物を上記に規定した方法で調製する工程と、
・工程(a)で得られた上記化合物をグラファイトおよび第1の樹脂バインダと結合させて第1の複合材料を形成する工程と、
・上記第1の複合材料(例えば、平面シート)から第1の電極を作成する工程と、
・第2の複合材料を含む第2の電極を作成する工程であって、上記第2の複合材料は、グラファイト、第2の樹脂バインダ、および式FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3(式中、yは0~1である)の化合物を含む工程と、
・pHが約8~約12であるCO3
2-/HCO3
-緩衝液である電解質を得る工程と、・上記エネルギー貯蔵装置を得るために、上記第1の電極、上記第2の電極および上記電解質を組み立てる工程と、
を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3におけるxが1である一方、FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3におけるyが0である。
【0021】
いくつかの実施形態では、NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3におけるxが0である一方、FeII
6(1-y)FeIII
6yO12H2(7-3y)CO3におけるyが1である。
【0022】
いくつかの実施形態では、第1のバインダは樹脂である。
【0023】
いくつかの実施形態では、第2のバインダは樹脂である。
【0024】
いくつかの実施形態では、緩衝液のpHは約10である。
【0025】
(図面の簡単な説明)
図1は、Fe
II
6(1-x)Fe
III
6xO
12H
2(7-3x)CO
3の物質収支図と、x(第二鉄モル比)が0から1まで変化し得るこの材料の対応ボルタンメトリックサイクルとを示す。鋼の腐食において観察されるような「グリーンラスト」は、x=1/3でのDHLである。
【0026】
図2は、LiFePO
4およびFePO
4の結晶構造を示す。
【0027】
(詳細な説明)
既存の充電式リチウムイオン電池は様々なデバイスおよび用途において広く使用されているが、様々な欠点を抱えている。例えば、このような電池はあまり「環境に優しい」ものではなく、リサイクル時に特定の予防措置を講じる必要のある場合がある。また、この種の電池では充電に比較的長い時間がかかる。さらに、リチウムを得られるリチウム鉱床が希少であるため、リチウム関連コストが高い。
【0028】
ソニーが1991年に商品化した第1世代リチウムイオン電池は、カソード(例えば、コバルト酸リチウムまたはマンガン酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物)とグラファイトアノードとの間のリチウムイオンの可逆的な交換によるものである。非常に反応性の高い電極が劣化するのを避けるため、エチレンカーボネートとプロピレンまたはテトラヒドロフランとの混合物に溶解したLiPF6塩などの非プロトン性電解質(すなわち、酸性の水素原子を有していない電解質)を使用する必要がある。このような電池の主な利点は、限られた振幅(limited amplitudes)に対する相対的な充放電速度にある。したがって、このような電池は、基本的には電子機器に用いられるが、ハイブリッド車にも用いられる。残念ながら、このような電池は深放電により急速に劣化するので、深放電に耐えられない。
【0029】
リン酸鉄リチウム電池として知られる第2世代リチウムイオン電池は、LiFePO4カソードおよびグラファイトアノードを用いる。これらの電池はLiCoO2電池のエネルギー密度よりもわずかに高いエネルギー密度を有するという利点を有するため、ロボット工学において広く普及している。しかし、そのエネルギー密度は、鉄の密度と比較した鉛の密度により、旧知の鉛電池のエネルギー密度の3分の1に留まる。リン酸鉄リチウム電池は、他のリチウムイオン電池よりもはるかに多くの充電サイクルに耐えるため、長い電池寿命を有する。また、部分充電を奨励する必要がない(すなわち、電池の充電を100%未満までとすることを奨励したり、電池の完全放電を避けたりする必要がない)。リン酸鉄リチウム電池は、高い電流強度(アンペア)に対応するので、該電池が大きな電力を発生させたり、急速再充電されたりすることを可能にする。リン酸鉄リチウム電池は、他のリチウムイオン電池よりも火災の危険性が低く、70℃の温度まで使用可能である。更に、得られる電圧安定性は、実質的に全放電サイクルを通して非常に高い。最後に、リン酸鉄リチウム電池は汚染度が低い。これは、リン酸鉄リチウム電池がとても長持ちするためであり、かつ、鉛への暴露は鉛中毒(サタニズムとしても知られている)を引き起こす可能性があるためである。また、リン酸鉄リチウム電池は、そのエネルギー密度の低下が緩やかであるため、より長期間貯蔵可能である。リン酸鉄リチウム電池の主な欠点は、放電の約80%付近で放電速度が激しく低下することである。さらに、リチウムが得られるリチウム鉱床が希少であるため、リチウム関連コストが高い。また、リチウムは、少量でも健康への危険性が高い。
【0030】
活性無機化合物LiFePO
4の結晶組織は、絡み合った(entangled)八面体と四面体からなるカンラン石の結晶構造と同じである(
図2参照)。その構造は、Li
+イオンの大きさがかなり大きくても該Li
+イオンが移動可能なチャネルを提示する。材料が受ける歪みによる変形により、チャネルが完全な直線状に留まらなくなる。したがって、放電中にLi
+イオンを導入することがますます困難になり、これによってもまた充放電サイクルの速度が制限される。
【0031】
リン酸鉄リチウム電池の活性化合物は、FeII
(1-x)FeIII
xLi(1-x)PO4と表されることができる。該活性化合物が第二鉄状態では、x=1で完全に充電されると、活性化合物はFeIIIPO4になる。一方、第一鉄状態では、x=0で完全に放電されると、活性化合物はLiFeIIPO4になる。
【0032】
カソードを充電する、LiFeIIPO4からのリチウム抽出は、次のように表すことができる。
充電:LiFeIIPO4-xLi+-xe-→xFeIIIPO4+(1-x)LiFeIIPO4
したがって、カソードを放電する、FeIIIPO4へのリチウム挿入は、次のようになる。
放電:FeIIIPO4+xLi++xe-→xLiFeIIPO4+(1-x)FeIIIPO4
層状複水酸化物のファミリーに関連する第一鉄-第二鉄のオキシヒドロキシ塩の例は、米国特許第9,051,190号に記載されており、その開示は、参照により本明細書に組み込まれるものとし、添付書類A)として本明細書に添付される。これらの二重層状水酸化物化合物(「DLH」)は、八面体の中心に位置する二価カチオンおよび三価カチオンを含む複数の層で構成され、その頂点は水酸化物(OH-)イオンに占められている。これらの複数の層(FeII(OH)2において観察されるものと同一である)の間には、アニオンおよび水分子を含む中間層が挿入されている。これにより、二価カチオンおよび三価カチオンの混合物による電荷の平衡化を引き起こす。すべての可能なDLHのうち、二価カチオンおよび三価カチオンが同じ元素に属するという特別なケースにより、技術的見地から見て新しく大変に興味深い特性がもたらされる。鉄の場合、第一鉄-第二鉄化合物ファミリーが得られる。この化合物ファミリーは、鋼の腐蝕過程の間に発生するので「グリーンラスト」と呼ばれる。この「グリーンラスト」は、過酸化水素H2O2に曝されると急速に酸化し得る。この酸化は、OH-イオンの脱プロトン化によってin situで進行し、初期結晶組織が完全に維持された完全な第二鉄化合物が得られる。挿入され得るすべてのアニオンのうち、炭酸イオンCO3
2-が、その安定性に鑑みて選択されてきた。式は、FeIII
6O12H8CO3である。このような活性化合物は、式FeII
4FeIII
2(OH)12CO3に対応する、第二鉄モル比x={[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])}が1/3である任意の「炭酸グリーンラスト」を合成する「典型的」な方法に従って、2つの塩(一方は第一鉄であり、他方は第二鉄である)を共沈させることで製造される。共沈は、グローブボックス内において窒素雰囲気下で行われ、過酸化水素を一度に大量に加えて、第二鉄形態のFeIII
6O12H8CO3を得る。ボルタンメトリックサイクルにより、一般式FeII
6(1-x)FeIII
6xO12H2(7-3x)CO3(式中、xが0~1である)をもたらす化合物のプロトン化-脱プロトン化現象が検出される。x=1で完全に充電された第二鉄状態では、式はFeIII
6O12H8CO3である。一方、x=0で完全に放電された第一鉄状態では、式はFeII
6O12H14CO3である。LiFePO4のカソードの場合についても、リチウムイオンLi+をプロトンH+に置き換えて類推することができる。
【0033】
電極を充電する、FeII
6O12H14CO3中のOH-イオンの脱プロトン化は次のように表すことができる。
充電:FeII
6O12H14CO3-6xH+-6xe-→xFeIII
6O12H8CO3+(1-x)FeII
6O12H14CO3
電極を放電する、FeIII
6O12H8CO3中のO2-またはOH-イオンのプロトン化は次のようになる。
放電:FeIII
6O12H8CO3+6xH++6xe-→xFeII
6O12H14CO3+(1-x)FeIII
6O12H8CO3
バッテリ電極の活性化合物は、このように得られる。しかし、リン酸鉄リチウム電池の場合とは異なり、グラファイトを(挿入化合物(insertion compound)として)第2の電極に使用することはできない。
【0034】
したがって、上記FeII
6(1-x)FeIII
6xO12H2(7-3x)CO3化合物を含む電極と共に使用可能な第2の電極を提供することが望ましく、これが本開示の目的の一つである。
【0035】
本開示は、二重層状水酸化物型構造を有する新規な材料であって、式FeII
6(1-x)FeIII
6xO12H2(7-3x)CO3の二重層状水酸化物型化合物を第1の電極に用いたエネルギー貯蔵装置において、第2の電極として用いることができる材料を記載する。
【0036】
本材料の一般式は、[NiII
8(1-x)NiIII
8x-O16H2(9-4x)]2+A2-(式中、xは0~1であり、A2-は、電荷-2のアニオンである)である。特に、A2-は、CO3
2-であってもよい。
【0037】
特に、本材料の式は、[NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)]2+CO3
2-(NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)CO3とも記される)であってもよい。x=1で該材料が完全に酸化された状態(すなわち、エネルギー貯蔵装置において該材料がカソードの活物質である場合に、該材料が完全に充電された状態)では、該材料の式は、NiIII
8O16H10CO3である。x=0で該材料が完全に還元された状態(すなわち、エネルギー貯蔵装置において該材料がカソードの活物質である場合に、該材料が完全に放電された状態)では、本材料の式は、NiII
8O16H18CO3である。
【0038】
電極を充電する、NiII
8O16H18CO3中のOH-イオンの脱プロトン化は、次のように表される。
【0039】
充電:NiII
8O16H18CO3-8xH+-8xe-→xNiIII
8O16H10CO3+(1-x)NiII
8O16H18CO3
そして、電極を放電する、NiIII
8O16H10CO3中のO2-またはOH-イオンのプロトン化は、次のように表される。
【0040】
放電:NiIII
8O16H10CO3+8xH++8xe-→xNiII
8O16H18CO3+(1-x)NiIII
8O16H10CO3
上述のようにNiII-NiIIIDLH含有電極とFeII-FeIIIDLH含有電極との両方を備えるエネルギー貯蔵装置では、三価モル比はx={[MIII]/([MII]+[MIII])}(式中、MIIおよびMIIIは、それぞれ二価の状態の金属および三価の状態の金属である)であり、一方の電極がx=1であるとき他方の電極はx=0であり、また一方の電極がx=0であるときは他方の電極はx=1である。
【0041】
このようなエネルギー貯蔵装置においてどちらの電極がカソードとなりどちらの電極がアノードとなるかは実験的に決定され得る(そして、NiII-NiIIIDLHおよびFeII-FeIIIDLHについてのフェルミ準位およびブリュアンゾーンに依存することが多い)。
【0042】
カソードがNiII-NiIIIDLH含有電極である場合、カソードの放電は次のように表すことができる。
【0043】
NiIII
8O16H10CO3+8xH++8xe-→xNiII
8O16H18CO3+(1-x)NiIII
8O6H10CO3
アノードでのこれに対応する反応は次のようになる。
【0044】
FeII
6O12H14CO3-6xH+-6xe-→xFeIII
6O12H8CO3+(1-x)FeII
6O12H14CO3
電荷を平衡化すると次のようになる。
【0045】
3NiIII
8O16H10CO3+4FeII
6O12H14CO3→3xNiII
8O16H18CO3+3(1-x)NiIII
8O6H10CO3+4xFeIII
6O12H8CO3+4(1-x)FeII
6O12H14CO3
したがって、上記の場合、カソードはNiIII
8O16H10CO3であり、アノードはFeII
6O12H14CO3である。
【0046】
一方、カソードがFeII-FeIIIDLH含有電極である場合、カソードの放電は次のように表すことができる。
【0047】
FeIII
6O12H8CO3+6xH++6xe-→xFeII
6O12H14CO3+(1-x)FeIII
6O12H8CO3
アノードでのこれに対応する反応は次のようになる。
【0048】
NiII
8O16H18CO3-8xH+-8xe-→xNiIII
8O16H10CO3+(1-x)NiII
8O16H18CO3
電荷を平衡化すると次のようになる。
【0049】
4FeIII
6O16H8CO3+3NiII
8O16H18CO3→4xFeII
6O12H4CO3+4(1-x)FeIII
6O12H8CO3+3xNiIII
8O16H10CO3+3(1-x)NiII
8O16H18CO3
したがって、上記の場合、カソードはFeIII
6O16H8CO3であり、アノードはNiII
8O16H18CO3である。
【0050】
いくつかの実施形態では、エネルギー貯蔵装置内の電解質は、塩基性pH(例えば、pH8~pH12またはpH9~pH11)を有するCO3
2-/HCO3
-緩衝液とすることができる。いくつかの実施形態では、緩衝液のpHは、約10とすることができる。このような電解質の使用による明らかな利点は、鉄および鋼の腐蝕過程を理解するために行われたEh-pH図の先行研究により示された、プロトン化-脱プロトン化される「グリーンラスト」化合物が、この塩基性pHで非常に安定している一方で、pH4未満では溶解する点である。上述の共沈反応によって[NiII
8(1-x)NiIII
8xO16H2(9-4x)]2+CO3
2-活性生成物を調製すると、結晶サイズがマイクロメートルの10分の1のオーダー(例えば、50nm~150nm、75nm~125nm、または100nm程度)の生成物が得られる。したがって、得られた結晶同士を導電性樹脂で電気的に結合して、複合材料を形成する必要がある。グラファイト含有樹脂(バインダおよびグラファイトを含む)は、LiFePO4電池を含むすべての市販電池に一般的に使用されており、本発明の電極に使用してもよい。
【0051】
上述のNi
II
8(1-x)Ni
III
8xO
16H
2(9-4x)CO
3材料は、適切な二重層状水酸化物を合成し、その後、これを直ちに、過酸化水素を用いたin situ脱プロトン化により酸化することで得られる。炭酸アニオンCO
3
2-が挿入用に再度選択される。比率x={[Ni
3+]/([Ni
2+]+[Ni
3+])}は1/4に等しい。タコバイト(takovite)と名付けられ、式がNi
II
6Al
III
2(OH)
16CO
3,4H
2Oである鉱物が自然環境に存在し、ニューカレドニアなどのニッケル鉱床で見つけられる。この化合物は、Ni
II塩とAl
III塩の共沈により実験室で合成可能であることが分かっている。本発明者らは、Ni
II塩とNi
III塩との類似の共沈を無酸素雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下)で行うことにより、二重層状水酸化物化合物Ni
II
6Ni
III
2(OH)
16CO
3が得られることを見出した。この合成化合物を、直ちに、再び無酸素雰囲気(例えば、窒素雰囲気)下で充分な過酸化水素を用いて酸化すると、完全に酸化された新たな化合物Ni
III
8O
16H
10CO
3が得られる。そうすると、この化合物は劣化せずに空気に曝されることが可能となる。この化合物は、Fe-Niプロトン電池の第2の電極、すなわち、第1の電極が上記のようにFe
II
6(1-x)Fe
III
6xO
12H
2(7-3x)CO
3化合物(xは0~1)を含む電池の第2の電極として使用できる。電極を充電すると、二価の状態が自動的に実現される(
図1のボルタンメトリックサイクル参照)。
【0052】
化合物NiIII
8O16H10CO3は、第1のグラファイト系導電性樹脂(例えば、カーボンロレーヌ社として知られていた、現マーケン(Merken)社から入手可能なもの)内に組み込まれてもよく、FeII
6(1-x)FeIII
6xO12H2(7-3x)CO3化合物は、第2のグラファイト系導電性樹脂内に組み込まれてもよい。これにより、(電子機器や電気自動車などの用途に用いられるエネルギー貯蔵装置での使用に形状、体積、深さおよび表面が適した)2つの電極を構成するために、上記化合物に機械的強度を与える。そして、塩基性pH(例えば、pH8~pH12またはpH9~pH11)を有するCO3
2-/HCO3
-緩衝液である電解質を用いて、これらの電極をエネルギー貯蔵装置において利用することができる。いくつかの実施形態では、緩衝液のpHは約10とすることができる。
【0053】
エネルギー貯蔵装置の電力を大きくするために、複数対のこのような電極を(他の電池の場合と同様に)直列に配置することができる。
【0054】
刊行物や特許文献の引用は、これらのいずれも関連する従来技術であるものと認めることを意図するものではない。また、これらの内容または日付に関して承認するものでもない。当業者であれば、本明細書に記載された発明が様々な実施形態で実施可能であること、また上述の発明の説明およびそれに続く実施例は例示を目的としており以下の特許請求の範囲を限定するものではないことを理解するであろう。
【0055】
本明細書において明示されて用いられる全ての定義は、辞書に記載の定義、参照により援用された書類中の定義および/または定義された用語が有する通常の意味に優先すると理解されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】
図1は、Fe
II
6(1-x)Fe
III
6xO
12H
2(7-3x)CO
3の物質収支図と、x(第二鉄モル比)が0から1まで変化し得るこの材料の対応ボルタンメトリックサイクルとを示す図である。
【
図2】
図2は、LiFePO
4およびFePO
4の結晶構造を示す図である。