(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096909
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】生細胞数計測方法および生細胞数計測装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20240709BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240709BHJP
C12M 3/02 20060101ALI20240709BHJP
C12M 3/06 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 D
C12M3/02
C12M3/06
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066225
(22)【出願日】2024-04-16
(62)【分割の表示】P 2021003012の分割
【原出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】595145050
【氏名又は名称】株式会社日立プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 啓介
(72)【発明者】
【氏名】岡 憲一郎
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コンタミネーションのリスクが少なく、細胞に対して非侵襲的な手段で生細胞数を高精度に計測することができる生細胞数計測方法および生細胞数計測装置を提供する。
【解決手段】生細胞数計測方法は、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量を測定する工程と、細胞懸濁液のキャパシタンスを測定する工程と、予め求められた単位生細胞当たりのキャパシタンス、予め求められた単位死細胞当たりのキャパシタンス、懸濁質の量、および、細胞懸濁液のキャパシタンスに基づいて、細胞懸濁液に含まれる生細胞数、死細胞数、および、細胞の生存率のうちの一以上を演算する工程とを含む。生細胞数計測装置1は、濁度センサ2と、細胞懸濁液のキャパシタンスを測定する測定器3と、単位生細胞当たりのキャパシタンスと単位死細胞当たりのキャパシタンスのデータを記憶した記憶部と、生細胞数、死細胞数、および細胞の生存率のうちの一以上を演算する演算部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する細胞懸濁液に含まれる生細胞および死細胞を含む懸濁質の量を測定する工程と、
細胞の生死の状態によって変化する前記細胞懸濁液のキャパシタンスを測定する工程と、
所定単位の生細胞当たりのキャパシタンス、所定単位の死細胞当たりのキャパシタンス、前記懸濁質の量、および、前記細胞懸濁液のキャパシタンスに基づいて、全生細胞のキャパシタンスまたは全死細胞のキャパシタンスを演算する工程と、を含む生細胞数計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の生細胞数計測方法であって、
生細胞数が既知の前記細胞懸濁液のキャパシタンスを測定して、前記生細胞当たりのキャパシタンスを求める工程と、
死細胞数が既知の前記細胞懸濁液のキャパシタンスを測定して、前記死細胞当たりのキャパシタンスを求める工程と、を含む生細胞数計測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の生細胞数計測方法であって、
前記細胞懸濁液のキャパシタンスは、生細胞および死細胞で構成される細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが除かれてから演算に用いられる生細胞数計測方法。
【請求項4】
請求項3に記載の生細胞数計測方法であって、
前記細胞懸濁液に含まれる細胞を分離する工程と、
前記細胞が分離された無細胞液のキャパシタンスを測定する工程と、を含む生細胞数計測方法。
【請求項5】
光を透過する細胞懸濁液に含まれる生細胞および死細胞を含む懸濁質の量を測定する濁度センサと、
細胞の生死の状態によって変化する前記細胞懸濁液のキャパシタンスを測定する測定器と、
所定単位の生細胞当たりのキャパシタンス、所定単位の死細胞当たりのキャパシタンス、前記懸濁質の量、および、前記細胞懸濁液のキャパシタンスに基づいて、全生細胞のキャパシタンスまたは全死細胞のキャパシタンスを演算する演算部と、を備える生細胞数計測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の生細胞数計測装置であって、
所定単位の生細胞当たりのキャパシタンスと所定単位の死細胞当たりのキャパシタンスのデータを記憶した記憶部を備える生細胞数計測装置。
【請求項7】
請求項5に記載の生細胞数計測装置であって、
前記細胞懸濁液のキャパシタンスは、生細胞および死細胞で構成される細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが除かれてから演算に用いられる生細胞数計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の生細胞数計測装置であって、
前記細胞懸濁液に含まれる生細胞および死細胞で構成される細胞を分離する細胞分離装置と、
前記細胞が分離された無細胞液のキャパシタンスを測定する測定器と、を備える生細胞数計測装置。
【請求項9】
請求項8に記載の生細胞数計測装置であって、
前記細胞を分離する方式が、遠心分離法、中空糸膜による濾過法、平板膜による濾過法、回転フィルタ法、または、重力沈降法である生細胞数計測装置。
【請求項10】
請求項5に記載の生細胞数計測装置であって、
前記懸濁質の量を測定する方式が、透過光測定方式、散乱光測定方式、透過光・散乱光比較方式、積分球方式、または、粒子カウント方式である生細胞数計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の生死の状態によって変化するキャパシタンスの測定結果を生細胞数等の演算に用いる生細胞数計測方法および生細胞数計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を培養して有用物質を生産する方法が、醸造業、食品産業、化学産業、医薬品産業等の分野で利用されている。例えば、抗体医薬等のバイオ医薬品として、細胞が産生する物質を主成分とした製品が多く開発されている。このようなバイオ医薬品は、培養液中で細胞を培養し、培養液中に分泌された目的物質を分離精製することで生産されている。
【0003】
細胞を利用した有用物質の生産では、生産の効率化のための培養制御や、生産物に関する適切な品質管理が求められる。培養中には、細胞死等による不純物の増加を避けつつ、細胞数を高く保つことが望まれるため、細胞数や細胞の生死の状態をリアルタイムでモニタリングすることが重要とされる。
【0004】
従来、有用物質の生産に適した培養法としては、流加培養法、連続培養法等が知られている。これらの培養法では、栄養素の濃度や培養環境を維持しながら培養を行う。細胞の比増殖速度に応じてグルタミン等の添加量を制御する必要があるため、生細胞数のモニタリングが特に重要とされる。
【0005】
一般に、細胞数を計測する方法としては、オフラインによる方法とインラインによる方法とがある。オフラインによる細胞数計測方法は、培養系からサンプリングした細胞を対象とする。一方、インラインによる細胞数計測方法は、培養系内で培養中の細胞を対象とし、リアルタイムでのモニタリングや、コンタミネーションの低減に適している。
【0006】
オフラインによる細胞数計測方法としては、培養系から間欠的にサンプリングした培養液を顕微鏡で観察し、顕微鏡視野内において目視で観察される細胞を血球計算盤で計数する方法や、顕微鏡画像中の細胞を画像処理で自動的に計数する方法等がある。これらの方法では、トリパンブルーによる染色によって細胞の生死の判定が可能であり、生細胞と死細胞とを個別に計数することができる。
【0007】
インラインによる細胞数計測方法としては、培養液中における酸素消費量から細胞数を推定する方法や、培養液の静電容量、インピーダンスないし誘電率から細胞数を推定する方法等がある。酸素消費量に基づく方法では、溶存酸素濃度の低下が生細胞の酸素消費によるとの前提の下で生細胞を定量することができる。静電容量等に基づく方法では、電場に対する応答が生細胞と死細胞とで異なり、生細胞のみが細胞内外に分極を生じるとの前提に基づいて生細胞を定量している。
【0008】
特許文献1には、培養液のインピーダンスに基づいて、高精度に生細胞数を推定する細胞検査装置が記載されている。この細胞検査装置は、培養液のインピーダンスを計測するインピーダンスセンサと、細胞の培養開始から死滅までの培養期間の内の所定期間が複数の期間に分類され、分類された前記複数の期間毎に、前記インピーダンスを用いて、前記所定期間において培養液中の生存している生細胞数を推定するための係数を記憶する記憶部と、前記インピーダンスを取得し、前記インピーダンスに対して前記記憶部が記憶する前記期間毎の係数の少なくとも1つを用いて、生細胞数を推定する生細胞数推定部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有用物質を生産する際の培養液等を対象として、細胞懸濁液に含まれる生細胞数を高精度に定量する技術が求められている。しかし、サンプリングが必要である従来のオフラインによる方法や、静電容量等に基づく従来のインラインによる方法には、次のような課題がある。
【0011】
オフラインによる方法では、トリパンブルーによる染色によって細胞の生死の判定を行うことができるが、培養液を培養槽外にサンプリングする必要がある。このような方法では、培養槽が一時的に開放されたときに、培養槽内が雑菌で汚染されるリスクがある。トリパンブルーによる染色は、生細胞に対して侵襲的であるため、インラインによる方法では使用することが難しい。
【0012】
また、サンプリングを行う方法では、サンプリング後の培養槽への雑菌の侵入を防ぐために、サンプリング用配管を高温・高圧の蒸気等で滅菌しなければならない。蒸気滅菌の際には、配管内を加熱する時間や、滅菌時間や、配管内を室温に冷やす時間が必要になる。滅菌時間は通常20分以上必要であるため、サンプリング間隔が1時間程度以上になり、リアルタイムのモニタリングを適切に行うことはできない。
【0013】
インラインによる方法では、培養液をサンプリングしないため、滅菌時間がかかる等の問題は生じないが、測定方式に応じた幾つかの問題がある。
【0014】
酸素消費量に基づく方法では、溶存酸素濃度の測定時に、酸素量の制御を停止する必要があるため、培養液が一時的に低酸素濃度の状態になり、有用物質の生産効率や品質が悪化するという問題がある。また、従来の静電容量等に基づく方法では、生細胞と細胞膜を残した死細胞とを区別することができず、細胞膜を残した死細胞も定量される場合があるため、生細胞数を高精度に計測することができないという問題がある。
【0015】
そこで、本発明は、コンタミネーションのリスクが少なく、細胞に対して非侵襲的な手段で生細胞数を高精度に計測することができる生細胞数計測方法および生細胞数計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために本発明に係る生細胞数計測方法は、光を透過する細胞懸濁液に含まれる生細胞および死細胞を含む懸濁質の量を測定する工程と、細胞の生死の状態によって変化する前記細胞懸濁液のキャパシタンスを測定する工程と、所定単位の生細胞当たりのキャパシタンス、所定単位の死細胞当たりのキャパシタンス、前記懸濁質の量、および、前記細胞懸濁液のキャパシタンスに基づいて、全生細胞のキャパシタンスまたは全死細胞のキャパシタンスを演算する工程と、を含む。
【0017】
また、本発明に係る生細胞数計測装置は、光を透過する細胞懸濁液に含まれる生細胞および死細胞を含む懸濁質の量を測定する濁度センサと、細胞の生死の状態によって変化する前記細胞懸濁液のキャパシタンスを測定する測定器と、所定単位の生細胞当たりのキャパシタンス、所定単位の死細胞当たりのキャパシタンス、前記懸濁質の量、および、前記細胞懸濁液のキャパシタンスに基づいて、全生細胞のキャパシタンスまたは全死細胞のキャパシタンスを演算する演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、コンタミネーションのリスクが少なく、細胞に対して非侵襲的な手段で生細胞数を高精度に計測することができる生細胞数計測方法および生細胞数計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る生細胞数計測装置の構成を示す図である。
【
図2A】透過光測定方式による濁度センサの一例を示す図である。
【
図3】細胞懸濁液の濁度と細胞数との関係の一例を示す図である。
【
図4】反射伝送法による測定器の一例を示す図である。
【
図5】細胞懸濁液のキャパシタンスと生細胞数との関係の一例を示す図である。
【
図6】生細胞数計測装置を備えたバッチ式培養装置を示す図である。
【
図7】生細胞数計測装置を備えたフェドバッチ式培養装置を示す図である。
【
図8】生細胞数計測装置を備えたケモスタット式培養装置を示す図である。
【
図9】生細胞数計測装置を備えた灌流式培養装置を示す図である。
【
図10】バッチ培養による実施例1で使用した生細胞数計測装置を示す図である。
【
図11】バッチ培養による実施例1における生細胞数の計測結果を示す図である。
【
図12】実施例1の計測結果の従来法に対する偏差を示す図である。
【
図13】灌流培養による実施例2で使用した生細胞数計測装置を示す図である。
【
図14】灌流培養による実施例2における生細胞数の計測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る生細胞数計測方法および生細胞数計測装置について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
本実施形態に係る生細胞数計測方法は、細胞懸濁液に含まれる生細胞数を定量する計測方法に関する。この生細胞数計測方法では、培養液等の細胞懸濁液を計測対象として、細胞懸濁液に含まれる生細胞数、死細胞数、および、細胞の生存率のうちの一以上を測定と演算によって求める。
【0022】
本実施形態に係る生細胞数計測方法では、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量の測定と、細胞膜の分極によって生じる細胞懸濁液のキャパシタンスの測定とを行う。これらの測定を組み合わせると、キャパシタンスの測定結果を、細胞数と相関がある懸濁質の量で換算することができる。そのため、キャパシタンスの測定結果から、細胞数ないし細胞濃度の計測結果を得ることができる。
【0023】
また、本実施形態に係る生細胞数計測方法では、細胞懸濁液のキャパシタンスに対する、生細胞および死細胞のそれぞれによる寄与を考慮する。具体的には、予め求めておいた単位生細胞当たりのキャパシタンスと、予め求めておいた単位死細胞当たりのキャパシタンスとを、細胞懸濁液に含まれる全細胞数と細胞懸濁液のキャパシタンスとの連立モデル式に組み込み、細胞懸濁液に含まれる生細胞数や、死細胞数や、細胞の生存率を演算する。
【0024】
一般に、細胞懸濁液に電場を印加すると、細胞膜を持つ細胞が誘電体として振る舞うため、細胞内と細胞外との間で細胞膜を挟んで分極が生じる。細胞膜を持つ個々の細胞が、分極によってキャパシタンスを生じるため、キャパシタンスと細胞数との相関関係に基づいて、測定した細胞懸濁液のキャパシタンスから細胞膜を持つ細胞の量を求めることができる。
【0025】
従来の一般的な細胞数計測方法には、静電容量、インピーダンスないし誘電率から細胞数を推定するものがある。このような従来の一般的な方法は、生細胞数の定量を可能としているが、生細胞のみが分極を生じるとの前提に基づいている。実際の細胞懸濁液では、細胞膜を残した細胞死等も起こるため、分極を生じた死細胞が含まれている場合がある。従来の一般的な方法では、このような死細胞も生細胞として計数することになるため、生細胞数を高精度に計測できないという課題がある。
【0026】
これに対し、単位生細胞当たりのキャパシタンスと、単位死細胞当たりのキャパシタンスとを、予め求めておき、これらのデータを細胞懸濁液に含まれる全細胞数と細胞懸濁液のキャパシタンスとの連立モデル式に組み込んで演算を行うと、全ての生細胞について合成された全生細胞のキャパシタンスないし生細胞数と、全ての死細胞について合成された全死細胞のキャパシタンスないし死細胞数とを求めることができる。そのため、細胞の生存率が不明であっても、細胞懸濁液に含まれる生細胞数を高精度に求めることができる。
【0027】
本実施形態に係る生細胞数計測方法において、生細胞数の計測対象である細胞の種類は、懸濁質の量として総細胞数を測定できる限り、特に制限されるものではない。計測対象の細胞は、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、微細藻類、ラン藻類、細菌、酵母、真菌、藻類等のいずれであってもよい。計測対象の細胞としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、マウス抗体等の各種の抗体や、各種の生理活性物質や、医薬品原料、化学原料、食品原料等として有用な各種の有用物質を産生する細胞が好ましい。
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る生細胞数計測装置について、生細胞数計測方法の詳細と共に、図を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る生細胞数計測装置の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る生細胞数計測装置1は、濁度センサ2と、第1測定器3と、細胞分離装置4と、第2測定器5と、演算装置6と、を備えている。濁度センサ2、第1測定器3および第2測定器5は、演算装置6と、有線または無線による信号線を介して接続されている。
【0030】
図1において、生細胞数計測装置1は、細胞の培養や有用物質の生産を行うための培養槽7に備えられている。培養槽7内には、細胞懸濁液である培養液8が入れられている。濁度センサ2と第1測定器3は、培養槽7内に備えられている。細胞分離装置4は、抜出管7aと返送管7bを介して培養槽7と接続されている。返送管7bには、細胞分離装置4に培養液を循環させる循環ポンプ9が設置されている。細胞分離装置4には、排出管7cが接続されている。
【0031】
生細胞数計測装置1で用いられる生細胞数計測方法は、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量を測定する工程と、細胞の生死の状態によって変化する細胞懸濁液のキャパシタンスを測定する工程と、予め求められた単位生細胞当たりのキャパシタンス、予め求められた単位死細胞当たりのキャパシタンス、懸濁質の量、および、細胞懸濁液のキャパシタンスに基づいて、細胞懸濁液に含まれる生細胞数、死細胞数、および、細胞の生存率のうちの一以上を演算する工程と、を含む。
【0032】
濁度センサ2は、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量を測定するために備えられる。培養槽7内の培養液8は、懸濁質として細胞を含む細胞懸濁液であり、培養液8中では、浮遊状態の生細胞や死細胞等が懸濁質として測定される。濁度センサ2によって懸濁質の量を測定すると、細胞懸濁液である培養液8に含まれる生細胞と死細胞とを合わせた全細胞数を求めることができる。
図1において、濁度センサ2は、培養槽7にインラインで備えられており、測定部が培養槽7内に挿入されている。
【0033】
懸濁質の量を測定する方式としては、透過光測定方式、散乱光測定方式、透過光・散乱光比較方式、積分球方式、粒子カウント方式等の各種の方式を用いることができる。濁度センサ2としては、吸光光度計、レーザ・回折式測定装置等を用いることができる。このような光学的方式を用いると、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量をキャパシタンスの測定と同時期に正確に測定することができる。
【0034】
図2Aは、透過光測定方式による濁度センサの一例を示す図である。
図2Bは、
図2Aを部分的に拡大して示す図である。
図2Bは、
図2A中の破線aで囲まれた部位を拡大して示している。
図2Aに示すように、透過光測定方式による濁度センサ2としては、例えば、光源が一体的に設けられた透過光式濁度センサ10を用いることができる。透過光式濁度センサ10は、プローブ状の本体を有している。本体の先端側の側面は、本体の側方から中心軸側に向けて凹状に窪んでいる。中心軸側に窪んだ凹部が、測定対象の液体が満たされる検出部となる。
【0035】
透過光式濁度センサ10は、懸濁質の量の測定時に、検出部が設けられた先端側が測定対象の細胞懸濁液に浸漬される。
図2Bに示すように、検出部に臨む本体の基端側の面には、可視光、赤外光等の光を発する光源11が備えられる。一方、本体の先端側の面には、透過光12を検出する受光部13が備えられる。光源11から測定光が発せられると、測定部の細胞懸濁液を透過した透過光12が受光部13に届き、透過光12の強度が測定される。
【0036】
細胞懸濁液は、光を吸収、散乱ないし屈折させる懸濁質として、浮遊状態の生細胞や死細胞等を含む。細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量は、細胞以外によるバックグラウンドの影響、例えば、細胞よりも小さい懸濁質や培地成分等の影響が十分に小さい場合には、細胞懸濁液に含まれる全細胞数と同等であると見做すことができる。
【0037】
そのため、細胞懸濁液の濁度(E)を測定すると、次の式(1)に基づいて、細胞懸濁液に含まれる全細胞数(NT)を求めることができる。但し、式(1)中、I0は入射光の強度、Iは透過光の強度、kは測定条件に応じた定数、NTは全細胞数(細胞濃度)を表す。
【0038】
【0039】
式(1)で表される関係は、細胞懸濁液に含まれる懸濁質が低濃度である場合に成り立つ。そのため、細胞懸濁液に含まれる全細胞数(NT)を求める際には、全細胞数が既知である細胞懸濁液を用いて検量線を作成しておくことが好ましい。検量線は、懸濁質の量と全細胞数との関係が、直線的な比例関係となる範囲で作成することが好ましいが、このような範囲に限定されるものではない。
【0040】
例えば、細胞懸濁液に含まれる全細胞数(NT)は、次の式(2)で表されるように、懸濁質の量(濁度E)を変数とする関数として求めることもできる。懸濁質の量を変数とする関数は、例えば、1次関数等であり、全細胞数が既知である複数の細胞懸濁液を用いて、種々の全細胞数に対する懸濁質の量を測定した後、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量と全細胞数との関係を示す測定結果に対して関数をフィッティングさせて求めることができる。
【0041】
【0042】
図3は、細胞懸濁液の濁度と細胞数との関係の一例を示す図である。
図3において、縦軸は、培養液の濁度[a.u.]、横軸は、培養液中の細胞数[×10
8 cells/mL]を示す。
図3は、チャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster ovary:CHO)細胞を培養したときの濁度と、血球計算盤を用いた従来の計数方法による結果とを示している。
【0043】
図3に示すように、低濃度の領域では、培養液の濁度と全細胞数とが、直線的な比例関係となる。そのため、生細胞数の計測対象である細胞懸濁液が低濃度である場合は、懸濁質の量の測定値に定数を乗じることによって、懸濁質の量の測定値を全細胞数に変換することができる。一方、高濃度の領域では、培養液の濁度と全細胞数とが、非直線的な関係となる。そのため、細胞懸濁液が高濃度である場合は、フィッティングによって求められた関数を用いて、懸濁質の量の測定値を全細胞数に変換する。
【0044】
図3では、培養液の濁度と全細胞数との関係が、1.4×10
8cells/mLまで得られている。この細胞濃度は、高密度の灌流培養で一般的に用いられるレベルである。よって、
図3に示す結果からは、灌流培養のように動物細胞等を高密度に培養する場合であっても、懸濁質による自己遮蔽が起こり難い範囲であれば、懸濁質の量から全細胞数を求めることができるといえる。
【0045】
濁度センサ2の測定波長は、生細胞数の計測対象である細胞の種類等に応じて、適宜に設定することができる。一般には、測定波長が短波長側であるほど、測定の感度が向上する傾向がある。濁度センサ2の測定波長は、測定の感度を高くし、培養中の細胞に対して非侵襲的に測定を行う観点からは、可視光域から近赤外光域とすることが好ましい。
【0046】
濁度センサ2の測定波長は、特に、酵母や細菌等の場合は、600±10nm、動物細胞や大腸菌等の場合は、660±10nm、シアノバクテリア、微細藻類等の場合は、730±10nmが好ましい。また、外乱光や色による影響を低減する観点からは、840~910nmの近赤外光域が好ましい。
【0047】
第1測定器3は、細胞の生死の状態によって変化する細胞懸濁液のキャパシタンスを測定するために備えられる。第1測定器3としては、例えば、細胞懸濁液のインピーダンスを測定するインピーダンスアナライザ、マルチメータや、反射伝送法、集中定数法、共振法等による測定器を用いることができる。
図1において、第1測定器3は、培養槽7にインラインで備えられており、測定部が培養槽7内に挿入されている。
【0048】
培養槽7内の培養液8のような細胞懸濁液は、生細胞と死細胞の両方を含んでいる可能性があり、生細胞だけでなく死細胞も分極を生じる場合がある。第1測定器3によって測定される細胞懸濁液のキャパシタンスは、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが十分に小さい場合には、全生細胞のキャパシタンスと全死細胞のキャパシタンスとの合成である全細胞のキャパシタンスと同等であると見做すことができる。
【0049】
そのため、第1測定器3によって細胞懸濁液のキャパシタンスを測定すると、単位生細胞当たりのキャパシタンスと、単位死細胞当たりのキャパシタンスと、細胞懸濁液に含まれる全細胞数と、細胞懸濁液のキャパシタンスとの連立モデル式から、細胞懸濁液に含まれる生細胞数や、死細胞数や、細胞の生存率を演算することができる。
【0050】
細胞分離装置4は、細胞懸濁液に含まれる細胞を分離する装置である。培養槽7内の培養液8は、培養中に細胞分離装置4に引き抜かれる。細胞分離装置4では、培養槽7から引き抜かれた培養液8が、細胞を含む濃縮された培養液と、細胞よりも小さい懸濁質や培地成分等を含む無細胞液とに分離される。細胞分離装置4において細胞分離処理が行われると、細胞を含む濃縮された培養液は、返送管7bを通じて細胞分離装置4から培養槽7に戻される。無細胞液は、排出管7cを通じて細胞分離装置4から生細胞数計測装置1の外部に排出される。
【0051】
細胞分離装置4による細胞分離処理は、細胞の培養中に、連続的に行われてもよいし、間欠的に行われてもよい。但し、生細胞数をリアルタイムで高精度にモニタリングする場合や、灌流培養のために細胞分離処理が必要な場合には、連続的に行うことが好ましい。
【0052】
細胞を分離する方式としては、遠心分離法、中空糸膜による濾過法、平板膜による濾過法、回転フィルタ法、重力沈降法等を用いることができる。細胞分離装置4としては、遠心分離機、膜分離装置、回転フィルタ式濾過装置、沈降分離槽等を用いることができる。このような方式を用いると、培養中の細胞への機械的なダメージが少ないため、細胞を比較的非侵襲的に分離することができる。死細胞の発生を抑制することができるため、有用物質を生産する場合に、効率的な生産や適切な品質を保つことができる。
【0053】
第2測定器5は、細胞が分離された無細胞液のキャパシタンスを測定するために備えられる。第2測定器5としては、第1測定器3と同様の測定器を用いることができる。
図1において、第2測定器5は、細胞分離装置4に接続された排出管7cにインラインで備えられており、測定部が排出管7c内に挿入されている。
【0054】
培養槽7内の培養液8のような細胞懸濁液は、細胞よりも小さい懸濁質や培地成分等を含んでおり、これらの成分も分極を生じる場合がある。第1測定器3によって測定される細胞懸濁液のキャパシタンスは、このような細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが大きい場合には、全細胞のキャパシタンスと同等であると見做せなくなるため、生細胞数を高精度に演算することができなくなる。
【0055】
このような場合、細胞懸濁液から分離された無細胞液のキャパシタンスを第2測定器5によって測定すると、細胞懸濁液のキャパシタンスから、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除くことができる。細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除いた細胞懸濁液のキャパシタンスは、全細胞のキャパシタンスと同等であると見做せるため、細胞懸濁液が細胞よりも小さい懸濁質や培地成分等を含む場合であっても、細胞懸濁液に含まれる生細胞数や、死細胞数や、細胞の生存率を高精度に求めることができる。
【0056】
図4は、反射伝送法による測定器の一例を示す図である。
図4に示すように、第1測定器3や第2測定器5としては、例えば、先端に電極が設けられた反射伝送法によるプローブ型の誘電率センサ14を用いることができる。誘電率センサ14は、ロッド状の本体を有している。本体の先端には、測定対象に電磁波を入射させる白金製等の電極プローブ15が備えられている。
【0057】
誘電率センサ14は、キャパシタンスの測定時に、電極プローブ15が設けられた先端側が測定対象の細胞懸濁液に浸漬される。
図4に示すように、測定対象の細胞懸濁液には、生細胞16や死細胞17が含まれている。電極プローブ15からの電磁波によって電場18が発生すると、生細胞16と死細胞17とは、互いに異なる大きさの分極を生じる。
【0058】
生細胞16は、誘電体となる健全な細胞膜を持つため、強く分極し、大きなキャパシタンスを持つ。一方、死細胞17は、細胞膜が損傷しているため、生細胞16よりも弱く分極するか、分極を起こさない。そのため、生細胞16や死細胞17からの反射波を検出すると、反射波の反射伝送特性から、全生細胞のキャパシタンスと全死細胞のキャパシタンスとの合成である全細胞のキャパシタンスを求めることができる。
【0059】
細胞懸濁液中で分極した細胞は、それぞれ、1つのコンデンサと見做すことができる。そのため、細胞懸濁液に含まれる全細胞のキャパシタンスは、細胞1個当たりのキャパシタンスを全細胞数で合成した値となる。すなわち、全細胞のキャパシタンスは、単位生細胞のキャパシタンスを単位生細胞数で合成して求められる全生細胞のキャパシタンスと、単位死細胞のキャパシタンスを単位死細胞数で合成して求められる全死細胞のキャパシタンスとの合成である。
【0060】
一般に、単位死細胞のキャパシタンス(Cd)は、単位生細胞のキャパシタンス(Cl)よりも十分に小さい。そのため、静電容量、インピーダンスないし誘電率から細胞数を推定する従来の一般的な細胞数計測方法では、通常、全細胞のキャパシタンスが全生細胞のキャパシタンスに相当すると見做す。これに対し、本実施形態に係る生細胞数計測方法では、死細胞のキャパシタンスを考慮するため、変数として、単位生細胞のキャパシタンス(Cl)と生細胞数(Nl)だけでなく、単位死細胞のキャパシタンス(Cd)と死細胞数(Nd)が加わる。
【0061】
細胞懸濁液のキャパシタンス(CT)は、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンス(CB)、全生細胞のキャパシタンス(CL)、全死細胞のキャパシタンス(CD)に対して、次の式(3)で表すことができる。式(3)は、各細胞が直列に並んだキャパシタンスとして簡略化した場合の関係式である。関係式は、キャパシタンス計測領域内での細胞配置に応じて立式することが望ましい。また、細胞懸濁液に含まれる全細胞数(NT)は、生細胞数(Nl)、死細胞数(Nd)を用いて、次の式(4)で表される。
【0062】
【0063】
【0064】
また、全生細胞のキャパシタンス(CL)は、単位生細胞のキャパシタンス(Cl)、生細胞数(Nl)に対して、次の式(5)で表すことができる。また、全死細胞のキャパシタンス(CD)は、単位死細胞のキャパシタンス(Cd)、死細胞数(Nd)に対して、次の式(6)で表すことができる。
【0065】
【0066】
【0067】
したがって、式(3)~(6)から、次の式(7)および(8)で表される連立モデル式が成り立つ。なお、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが十分に小さい場合には、CBの項を省略することができる。
【0068】
【0069】
【0070】
細胞の生存率(V)は、式(2)を用いると、次の式(9)で表される。
【0071】
【0072】
単位生細胞のキャパシタンス(Cl)は、生細胞数が既知である細胞懸濁液を用意し、この細胞懸濁液に含まれる全細胞のキャパシタンスを測定することによって、全細胞のキャパシタンスと既知の生細胞数に基づいて求めることができる。生細胞数が既知である細胞懸濁液としては、死細胞を含まない細胞懸濁液が好ましく、例えば、増殖期の細胞の懸濁液等を用いることができる。
【0073】
単位死細胞のキャパシタンス(Cd)は、死細胞数が既知である細胞懸濁液を用意し、この細胞懸濁液に含まれる全細胞のキャパシタンスを測定することによって、全細胞のキャパシタンスと既知の死細胞数に基づいて求めることができる。死細胞数が既知である細胞懸濁液としては、生細胞を含まない細胞懸濁液が好ましく、例えば、増殖期の細胞に対して細胞死を誘導する処理を施した懸濁液等を用いることができる。細胞死を誘導する処理としては、機械的ダメージを与える処理、栄養素を欠乏させる処理等が挙げられる。
【0074】
図5は、細胞懸濁液のキャパシタンスと生細胞数との関係の一例を示す図である。
図5において、縦軸は、細胞懸濁液のキャパシタンス[pF/cm]、横軸は、培養液中の細胞数[×10
8 cells/mL]を示す。
図5は、CHO細胞を培養したときのキャパシタンスと、血球計算盤を用いた従来の計数方法による結果とを示している。なお、計測対象の細胞懸濁液としては、細胞の生存率が95%以上であることが確認されている試料を用いた。
【0075】
図5においては、細胞懸濁液のキャパシタンスと生細胞数との関係が、略線形的な関係として1.2×10
8cells/mLまで得られている。この細胞濃度は、高密度の灌流培養で一般的に用いられるレベルである。よって、
図5に示す結果からは、灌流培養のように動物細胞等を高密度に培養する場合であっても、必要に応じてバックグラウンドのキャパシタンスを差し引くことにより、細胞懸濁液のキャパシタンスと生細胞数との相関関係を利用できると分かる。
【0076】
演算装置6は、式(7)および(8)で表される連立モデル式を演算する演算部や、予め求められた単位生細胞当たりのキャパシタンスのデータ、および、予め求められた単位死細胞当たりのキャパシタンスのデータを記憶する記憶部や、生細胞数計測装置1の操作者からの入力を受け付ける入力部や、演算の結果を表示する表示部等を備えるコンピュータ等で構成される。
【0077】
演算装置6の演算部は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等によって構成することができる。記憶部は、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)等の記憶装置によって構成することができる。入力部は、キーボード、マウス、タッチパッド等の入力装置によって構成することができる。表示部は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、ブラウン管の各種の表示装置によって構成することができる。
【0078】
単位生細胞のキャパシタンス(Cl)のデータ、および、単位死細胞のキャパシタンス(Cd)のデータは、生細胞数や死細胞数が既知である細胞懸濁液を用いて予め求められた後、演算装置6の記憶部に記憶される。単位細胞当たりのデータとしては、1個の細胞のデータを用意してもよいし、所定の細胞集団のデータを用意してもよい。また、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量と総細胞数との関係を示す検量線のデータは、細胞数が既知である細胞懸濁液を用いて予め求められた後、演算装置6の記憶部に記憶される。
【0079】
演算装置6には、計測対象の細胞懸濁液について測定された懸濁質の量の測定結果の信号が、濁度センサ2から所定の時間間隔で入力される。懸濁質の量のデータは、予め求められた懸濁質の量と総細胞数との関係に基づいて総細胞数のデータに変換されて連立モデル式による演算に用いられる。
【0080】
また、演算装置6には、計測対象の細胞懸濁液について測定された測定結果の信号が、第1測定器3から所定の時間間隔で入力される。また、細胞が分離された無細胞液について測定された測定結果の信号が、第2測定器5から所定の時間間隔で入力される。第1測定器3や第2測定器5によって測定されたインピーダンス、伝送パラメータ等のデータは、細胞懸濁液のキャパシタンスのデータに変換されて連立モデル式による演算に用いられる。
【0081】
演算装置6は、濁度センサ2や、第1測定器3や、第2測定器5からの測定結果の入力と、記憶部に格納されている単位細胞当たりのデータに基づいて、式(7)および(8)で表される連立モデル式を演算する。すなわち、予め求められた単位生細胞当たりのキャパシタンス、予め求められた単位死細胞当たりのキャパシタンス、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量、および、測定された細胞懸濁液のキャパシタンスに基づいて、細胞懸濁液に含まれる生細胞数、死細胞数、および、細胞の生存率のうちの一以上を演算する。
【0082】
計測対象の細胞懸濁液について測定された細胞懸濁液のキャパシタンスは、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが除かれることなく、連立モデル式による演算に用いられてもよいし、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが除かれてから、連立モデル式による演算に用いられてもよい。細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが十分に小さい場合や、高精度が要求されない場合等には、バックグラウンド処理を省略することもできる。
【0083】
式(7)および(8)で表される連立モデル式による演算によると、全細胞数(NT)は、生細胞数(Nl)、死細胞数(Nd)、全生細胞のキャパシタンス(CL)、単位生細胞のキャパシタンス(Cl)、単位死細胞のキャパシタンス(Cd)のうち、生細胞数(Nl)と死細胞数(Nd)が未知数となるため、2式を連立的に解法することにより、生細胞数(Nl)および死細胞数(Nd)を求めることができる。細胞の生存率(V)は、これらの結果から計算することができる。
【0084】
連立モデル式の演算によって求められた生細胞数(Nl)や、死細胞数(Nd)や、細胞の生存率(V)の結果は、演算装置6の表示部に表示することができる。これらの結果は、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量や細胞懸濁液のキャパシタンスの測定時刻に沿った時系列のデータやグラフ等で表示してもよい。また、これらの結果と共に、単位生細胞のキャパシタンス(Cl)のデータや、単位死細胞のキャパシタンス(Cd)のデータを表示してもよい。
【0085】
生細胞数計測装置1は、計測対象である細胞を培養している間に、生細胞数(Nl)、死細胞数(Nd)および細胞の生存率(V)のうちの一以上をリアルタイムまたは所定のスケジュールにしたがって計測することができる。生細胞数計測装置1は、予め調製された細胞懸濁液の他に、バッチ培養、フェドバッチ培養、ケモスタット培養、灌流培養等のいずれの培養方式の培養液に対して用いられてもよい。
【0086】
<バッチ培養>
バッチ培養(回分培養)は、一回の培養毎に培地を用意し、培養中に培地を供給しない培養法である。バッチ培養によると、培養によって有用物質を生産する場合に、培養毎に品質がバラつく傾向があるが、コンタミネーションのリスクを分散・低減できる利点がある。
【0087】
図6は、生細胞数計測装置を備えたバッチ式培養装置を示す図である。
図6に示すように、生細胞数計測装置は、バッチ式培養装置に備えることができる。バッチ式培養装置は、生細胞数計測装置を構成する濁度センサ2、第1測定器3、細胞分離装置4、第2測定器5および演算装置6を備えている。また、循環ポンプ19aと、移送ポンプ19bと、返送ポンプ19cと、測定槽22と、を備えている。
【0088】
図6において、生細胞数計測装置は、バッチ培養によって有用物質の生産を行うための培養槽7に備えられている。濁度センサ2と第1測定器3は、培養槽7内に挿入されている。細胞分離装置4は、抜出管7aと返送管7bを介して培養槽7と接続されている。抜出管7aには、培養液を循環させる循環ポンプ19aが設置されている。
【0089】
細胞分離装置4には、移送管7dを介して測定槽22が接続されている。第2測定器5は、測定槽22内に挿入されている。移送管7dには、無細胞液を細胞分離装置4から測定槽22に送る移送ポンプ19bが設置されている。測定槽22は、返送管7eを介して培養槽7と接続されている。返送管7eには、無細胞液を測定槽22から培養槽7に戻す返送ポンプ19cが設置されている。
【0090】
バッチ式の培養槽7には、培養環境を制御するために、pHセンサ、溶存酸素センサ、熱電対等の温度センサや、培養液を攪拌する攪拌装置や、培養液に空気、酸素、窒素、二酸化炭素等を通気する通気装置や、培養液の温度を調節するヒータや、アルカリ溶液を培養槽7に供給する供給装置等を備えることができる。
【0091】
浮遊細胞を培養する場合は、モータで駆動される攪拌翼を備えた攪拌装置を用いることができる。培養雰囲気は、液面を介した通気や、液中での通気や、これらの両方によって制御することができる。培養液の温度は、通常、ヒータのオン・オフ制御によって培養や物質生産の至適温度に調整する。pHや溶存酸素濃度は、フィードバック制御等で設定値に維持する。
【0092】
バッチ式培養装置では、培養槽7内に入れられた培養液中で、培養中に培地を供給することなく、細胞の培養および細胞による物質生産を行う。バッチ式培養装置では、培養前に、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)とを予め求めておき、これらのデータを演算装置6の記憶部に格納しておく。
【0093】
細胞のバッチ培養中には、濁度センサ2によって、培養液に含まれる懸濁質の量を経時的に測定する。測定された懸濁質の量のデータは、培養液に含まれる懸濁質の量(濁度)と細胞数との関係に基づいて、全細胞数(NT)のデータに変換される。
【0094】
また、細胞のバッチ培養中には、第1測定器3によって、細胞懸濁液である培養液のキャパシタンス(CT)を経時的に測定する。細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが十分に小さくない場合には、第2測定器5によって、培養液から分離された無細胞液のキャパシタンスを経時的に測定し、培養液のキャパシタンスから、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除く。
【0095】
演算装置6は、所定の計測時の培養液に含まれる全細胞数(NT)のデータと培養液のキャパシタンス(CT)のデータを入力として、培養液の全細胞数(NT)と、培養液のキャパシタンス(CT)と、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と、単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)との連立モデル式から、生細胞数(Nl)や、死細胞数(Nd)や、細胞の生存率(V)を演算する。
【0096】
生細胞数計測装置を備えたバッチ式培養装置によると、死細胞が蓄積し易いバッチ培養中に、リアルタイムで生細胞数を高精度に計測することができる。バッチ培養中には、栄養素の消費や代謝物の蓄積が進むため、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが大きくなる。しかし、培養液のキャパシタンスから、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除くと、より高精度を得ることができる。
【0097】
<フェドバッチ培養>
フェドバッチ培養(流加培養)は、培養中に系外から培地自体や特定の培地成分を添加するが、培養液を培養が終わるまで排出しない培養法である。フェドバッチ培養によると、培養中に栄養素の補給と代謝物の希釈が行われるため、バッチ培養と比較して高密度の培養が可能であり、灌流培養と比較して培地コスト等を削減することができる。
【0098】
図7は、生細胞数計測装置を備えたフェドバッチ式培養装置を示す図である。
図7に示すように、生細胞数計測装置は、フェドバッチ式培養装置に備えることができる。フェドバッチ式培養装置は、生細胞数計測装置を構成する濁度センサ2、第1測定器3、細胞分離装置4、第2測定器5および演算装置6を備えている。また、循環ポンプ19aと、移送ポンプ19bと、排出ポンプ19dと、培地供給ポンプ19eと、培地槽21と、測定槽22と、を備えている。
【0099】
図7において、生細胞数計測装置は、フェドバッチ培養によって有用物質の生産を行うための培養槽7に備えられている。濁度センサ2と第1測定器3は、培養槽7内に挿入されている。細胞分離装置4は、抜出管7aと返送管7bを介して培養槽7と接続されている。抜出管7aには、培養液を循環させる循環ポンプ19aが設置されている。
【0100】
細胞分離装置4には、移送管7dを介して測定槽22が接続されている。第2測定器5は、測定槽22内に挿入されている。移送管7dには、無細胞液細胞分離装置4から測定槽22に送る移送ポンプ19bが設置されている。測定槽22には、排出管7fが接続されている。排出管7fには、無細胞液を測定槽22から装置の外部に排出する排出ポンプ19dが設置されている。
【0101】
培養槽7には、培地供給管7gを介して培地槽21が接続されている。培地槽21には、新鮮培地が用意される。培地供給管7gには、新鮮培地を培地槽21から培養槽7に送る培地供給ポンプ19eが設置されている。
【0102】
フェドバッチ式の培養槽7には、バッチ式の培養槽7と同様に、培養環境を制御するために、pHセンサ、溶存酸素センサ、熱電対等の温度センサや、培養液を攪拌する攪拌装置や、培養液に空気、酸素、窒素、二酸化炭素等を通気する通気装置や、培養液の温度を調節するヒータや、アルカリ溶液を培養槽7に供給する供給装置等を備えることができる。
【0103】
フェドバッチ式培養装置では、培養槽7内に入れられた培養液中で、培養中に新鮮培地を供給しながら、細胞の培養および細胞による物質生産を行う。フェドバッチ式培養装置では、バッチ式培養装置と同様に、培養前に、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)とを予め求めておき、これらのデータを演算装置6の記憶部に格納しておく。
【0104】
細胞のフェドバッチ培養中には、濁度センサ2によって、培養液に含まれる懸濁質の量を経時的に測定する。測定された懸濁質の量のデータは、培養液に含まれる懸濁質の量(濁度)と細胞数との関係に基づいて、全細胞数(NT)のデータに変換される。
【0105】
また、細胞のフェドバッチ培養中には、第1測定器3によって、細胞懸濁液である培養液のキャパシタンス(CT)を経時的に測定する。細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが十分に小さくない場合には、第2測定器5によって、培養液から分離された無細胞液のキャパシタンスを経時的に測定し、培養液のキャパシタンスから、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除く。
【0106】
演算装置6は、所定の計測時の培養液に含まれる全細胞数(NT)のデータと培養液のキャパシタンス(CT)のデータを入力として、培養液の全細胞数(NT)と、培養液のキャパシタンス(CT)と、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と、単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)との連立モデル式から、生細胞数(Nl)や、死細胞数(Nd)や、細胞の生存率(V)を演算する。
【0107】
生細胞数計測装置を備えたフェドバッチ式培養装置によると、死細胞が蓄積し易いフェドバッチ培養中に、リアルタイムで生細胞数を高精度に計測することができる。フェドバッチ培養中には、栄養素が供給されると共に代謝物の蓄積が進むため、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが大きくなる場合がある。しかし、培養液のキャパシタンスから、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除くと、より高精度を得ることができる。
【0108】
<ケモスタット培養>
ケモスタット培養は、培養中に連続的に培地を供給し、細胞を含む同量の培養液を連続的に排出させる培養法である。ケモスタット培養によると、培養環境が略一定に保たれるため、物質の生産性を安定させることができる。
【0109】
図8は、生細胞数計測装置を備えたケモスタット式培養装置を示す図である。
図8に示すように、生細胞数計測装置は、ケモスタット式培養装置に備えることができる。ケモスタット式培養装置は、生細胞数計測装置を構成する濁度センサ2、第1測定器3、細胞分離装置4、第2測定器5および演算装置6を備えている。また、循環ポンプ19aと、移送ポンプ19bと、排出ポンプ19dと、培地供給ポンプ19eと、培養液抜取ポンプ19fと、培地槽21と、測定槽22と、を備えている。
【0110】
図8において、生細胞数計測装置は、ケモスタット培養によって有用物質の生産を行うための培養槽7に備えられている。濁度センサ2と第1測定器3は、培養槽7内に挿入されている。細胞分離装置4は、抜出管7aと返送管7bを介して培養槽7と接続されている。抜出管7aには、培養液を循環させる循環ポンプ19aが設置されている。
【0111】
細胞分離装置4には、移送管7dを介して測定槽22が接続されている。第2測定器5は、測定槽22内に挿入されている。移送管7dには、無細胞液を細胞分離装置4から測定槽22に送る移送ポンプ19bが設置されている。測定槽22には、排出管7fが接続されている。排出管7fには、無細胞液を測定槽22から装置の外部に排出する排出ポンプ19dが設置されている。
【0112】
培養槽7には、培地供給管7gを介して培地槽21が接続されている。培地槽21には、新鮮培地が用意される。培地供給管7gには、新鮮培地を培地槽21から培養槽7に送る培地供給ポンプ19eが設置されている。また、培養槽7には、抜取管7hが接続されている。抜取管7hには、細胞を含む培養液の一部を培養槽7から抜き取る培養液抜取ポンプ19fが設置されている。培養槽7から抜き取られた培養液は、細胞が生産した有用物質と共に回収系統25に送られる。
【0113】
ケモスタット式の培養槽7には、バッチ式の培養槽7と同様に、培養環境を制御するために、pHセンサ、溶存酸素センサ、熱電対等の温度センサや、培養液を攪拌する攪拌装置や、培養液に空気、酸素、窒素、二酸化炭素等を通気する通気装置や、培養液の温度を調節するヒータや、アルカリ溶液を培養槽7に供給する供給装置等を備えることができる。
【0114】
ケモスタット式培養装置では、培養槽7内に入れられた培養液中で、培養中に新鮮培地を供給し、増殖した細胞を含む培養液の一部を抜き取りながら、細胞の培養および細胞による物質生産を行う。新鮮培地の供給速度と培養液の抜取速度を一定に保ち、培養槽7内の温度、pH、溶存酸素濃度を一定に保つ。ケモスタット式培養装置では、バッチ式培養装置等と同様に、培養前に、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)とを予め求めておき、これらのデータを演算装置6の記憶部に格納しておく。
【0115】
細胞のケモスタット培養中には、濁度センサ2によって、培養液に含まれる懸濁質の量を経時的に測定する。測定された懸濁質の量のデータは、培養液に含まれる懸濁質の量(濁度)と細胞数との関係に基づいて、全細胞数(NT)のデータに変換される。
【0116】
また、細胞のケモスタット培養中には、第1測定器3によって、細胞懸濁液である培養液のキャパシタンス(CT)を経時的に測定する。細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが十分に小さくない場合には、第2測定器5によって、培養液から分離された無細胞液のキャパシタンスを経時的に測定し、培養液のキャパシタンスから、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除く。
【0117】
演算装置6は、所定の計測時の培養液に含まれる全細胞数(NT)のデータと培養液のキャパシタンス(CT)のデータを入力として、培養液の全細胞数(NT)と、培養液のキャパシタンス(CT)と、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と、単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)との連立モデル式から、生細胞数(Nl)や、死細胞数(Nd)や、細胞の生存率(V)を演算する。
【0118】
生細胞数計測装置を備えたケモスタット式培養装置によると、細胞が逐次に抜き取られるケモスタット培養中に、リアルタイムで生細胞数を高精度に計測することができる。ケモスタット培養中には、細胞の抜き取りによって、培養槽内の細胞数が変動する可能性がある。しかし、生細胞数計測装置によってリアルタイムで生細胞数を高精度に計測することができるため、新鮮培地の供給量および培養液の抜取量を適切に調整することができる。
【0119】
<灌流培養>
灌流培養は、培養中に連続的に培地を供給し、細胞を含まない同量の培養液を連続的に排出させる培養法である。灌流培養によると、培養環境が一定に保たれ易いため、物質の生産性を安定させることができる。また、増殖した細胞の抜き取りが抑制されるため、ケモスタット培養と比較して、より高密度に細胞を培養することができる。
【0120】
図9は、生細胞数計測装置を備えた灌流式培養装置を示す図である。
図9に示すように、生細胞数計測装置は、灌流式培養装置に備えることができる。灌流式培養装置は、生細胞数計測装置を構成する濁度センサ2、第1測定器3、細胞分離装置4、第2測定器5および演算装置6を備えている。また、循環ポンプ19aと、移送ポンプ19bと、排出ポンプ19dと、培地供給ポンプ19eと、培養液抜取ポンプ19fと、培地槽21と、測定槽22と、を備えている。
【0121】
図9において、生細胞数計測装置は、灌流培養によって有用物質の生産を行うための培養槽7に備えられている。濁度センサ2と第1測定器3は、培養槽7内に挿入されている。細胞分離装置4は、抜出管7aと返送管7bを介して培養槽7と接続されている。抜出管7aには、培養液を循環させる循環ポンプ19aが設置されている。
【0122】
細胞分離装置4には、移送管7dを介して測定槽22が接続されている。第2測定器5は、測定槽22内に挿入されている。移送管7dには、無細胞液を細胞分離装置4から測定槽22に送る移送ポンプ19bが設置されている。測定槽22には、排出管7fが接続されている。排出管7fには、無細胞液を測定槽22から装置の外部に排出する排出ポンプ19dが設置されている。測定槽22から抜き取られた無細胞液は、細胞が生産した有用物質と共に回収系統25に送られる。
【0123】
培養槽7には、培地供給管7gを介して培地槽21が接続されている。培地槽21には、新鮮培地が用意される。培地供給管7gには、新鮮培地を培地槽21から培養槽7に送る培地供給ポンプ19eが設置されている。また、培養槽7には、抜取管7hが接続されている。抜取管7hには、細胞を含む培養液の一部を培養槽7から装置の外部に抜き取る培養液抜取ポンプ19fが設置されている。抜取管7hは、過剰に培養された細胞をブリーディングとして抜き取るために用いられる。
【0124】
灌流式の培養槽7には、バッチ式の培養槽7と同様に、培養環境を制御するために、pHセンサ、溶存酸素センサ、熱電対等の温度センサや、培養液を攪拌する攪拌装置や、培養液に空気、酸素、窒素、二酸化炭素等を通気する通気装置や、培養液の温度を調節するヒータや、アルカリ溶液を培養槽7に供給する供給装置等を備えることができる。
【0125】
灌流式培養装置では、培養槽7内に入れられた培養液中で、培養中に新鮮培地を供給し、細胞が分離された無細胞液を抜き取りながら、細胞の培養および細胞による物質生産を行う。新鮮培地の供給速度と無細胞液の抜取速度を一定に保ち、培養槽7内の温度、pH、溶存酸素濃度を一定に保つ。灌流式培養装置では、バッチ式培養装置等と同様に、培養前に、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)とを予め求めておき、これらのデータを演算装置6の記憶部に格納しておく。
【0126】
細胞の灌流培養中には、濁度センサ2によって、培養液に含まれる懸濁質の量を経時的に測定する。測定された懸濁質の量のデータは、培養液に含まれる懸濁質の量(濁度)と細胞数との関係に基づいて、全細胞数(NT)のデータに変換される。
【0127】
また、細胞の灌流培養中には、第1測定器3によって、細胞懸濁液である培養液のキャパシタンス(CT)を経時的に測定する。細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスが十分に小さくない場合には、第2測定器5によって、培養液から分離された無細胞液のキャパシタンスを経時的に測定し、培養液のキャパシタンスから、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスを除く。
【0128】
演算装置6は、所定の計測時の培養液に含まれる全細胞数(NT)のデータと培養液のキャパシタンス(CT)のデータを入力として、培養液の全細胞数(NT)と、培養液のキャパシタンス(CT)と、単位生細胞当たりのキャパシタンス(Cl)と、単位死細胞当たりのキャパシタンス(Cd)との連立モデル式から、生細胞数(Nl)や、死細胞数(Nd)や、細胞の生存率(V)を演算する。
【0129】
生細胞数計測装置を備えた灌流式培養装置によると、細胞が連続的に培養される灌流培養中に、リアルタイムで生細胞数を高精度に計測することができる。従来、灌流培養では、培養液の一部を抜き取る際に細胞分離処理が行われている。生細胞数計測装置では、このような細胞分離処理に用いられる既存の細胞分離装置を利用して、細胞以外によるバックグラウンドのキャパシタンスの測定に必要な無細胞液を回収することができる。
【0130】
以上の生細胞数計測方法および生細胞数計測装置によると、単位生細胞当たりのキャパシタンスと、単位死細胞当たりのキャパシタンスとを、細胞懸濁液に含まれる全細胞数と細胞懸濁液のキャパシタンスとの連立モデル式に組み込み、生細胞数や、死細胞数や、細胞の生存率を演算するため、細胞膜を残した細胞死等のように、死細胞がキャパシタンスを持つ場合であっても、生細胞数を高精度に計測することができる。また、細胞懸濁液に含まれる全細胞数は、濁質の量として光学的方式によって測定されるため、細胞数ないし細胞濃度の単位で表される計測結果が得られる。
【0131】
また、細胞懸濁液に含まれる濁質の量や細胞懸濁液のキャパシタンスの測定は、所定の周波数の範囲におけるインピーダンス測定や濁度測定によってリアルタイムで行うことができる。細胞をサンプリングする場合とは異なり、測定時に雑菌等が混入するリスクが少なく、染色や溶存酸素濃度の制御を行う場合のように、細胞に対して侵襲的な影響が加わることもない。よって、コンタミネーションのリスクが少なく、細胞に対して非侵襲的な手段で生細胞数を高精度に計測することができる。
【0132】
以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【0133】
例えば、前記の生細胞数計測装置1は、細胞分離装置4や、第2測定器5を備えているが、細胞懸濁液のキャパシタンスのバックグラウンド処理を行わない場合等には、細胞分離装置4や、第2測定器5の設置を省略することもできる。また、濁度センサ2や、第1測定器3や、第2測定器5としては、プローブ型等のインラインセンサが備えられているが、サンプリングを行わない限り、他の型式のセンサを用いてもよい。
【0134】
また、前記の生細胞数計測装置1や生細胞数計測方法では、式(7)および(8)で表される連立モデル式を演算に用いているが、全細胞数(NT)、生細胞数(Nl)、死細胞数(Nd)、全生細胞のキャパシタンス(CL)、単位生細胞のキャパシタンス(Cl)および単位死細胞のキャパシタンス(Cd)を変数とする限り、キャパシタンスを測定される細胞の空間的な配置や、考慮するバックグラウンドの範囲等に応じて、他の連立モデル式を演算に用いてもよい。
【実施例0135】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0136】
<実施例1>
バッチ培養において、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量の測定と、細胞懸濁液のキャパシタンスの測定とを行い、式(7)および(8)で表される連立モデル式に基づいて生細胞数を計測した。
【0137】
(細胞・培地)
生細胞数の計測対象の細胞としては、抗体(IgG)を産生する遺伝子組換体で、浮遊細胞に順化されているCHO細胞(ATCC CRL-12445細胞)を用いた。培地としては、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium:DMEM)に、インスリン(終濃度:10μg/mL)、トランスフェリン(終濃度:10μg/mL)、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS)(終濃度:10μg/mL)を添加した培地を用いた。
【0138】
(実験装置)
図10は、バッチ培養による実施例1で使用した生細胞数計測装置を示す図である。
図10に示すように、生細胞数計測装置としては、バッチ式の培養槽7に、濁度センサ2、静電容量計である第1測定器3、中空糸膜による濾過を行う細胞分離装置4、静電容量計である第2測定器5を付属させた装置を用いた。
【0139】
バッチ式の培養槽7において、計測対象の細胞であるCHO細胞を培養し、生細胞数をリアルタイムで計測した。また、比較対象として、血球計算盤を用いた従来の計測を並行して行った。従来の計測は、培養液を1日に1回サンプリングし、トリパンブルーで死細胞を染色し、顕微鏡視野内において目視で観察される細胞を血球計算盤で計数する方法で行った。
【0140】
(実験結果)
図11は、バッチ培養による実施例1における生細胞数の計測結果を示す図である。
図11において、横軸は、培養時間[day]、縦軸は、計測された生細胞数[×10
6cells/mL]を示す。〇のプロットは、サンプリングを行う従来のオフラインによる計測結果を示す。△のプロットは、測定された静電容量から細胞数を推定する従来のインライン方式による計測結果を示す。■のプロットは、懸濁質の量の測定と細胞懸濁液のキャパシタンスの測定とを行いモデル式に基づいて演算した実施例1による計測結果を示す。
【0141】
図12は、実施例1の計測結果の従来法に対する偏差を示す図である。
図12には、実施例1による生細胞数の計測結果についての従来のオフラインによる計測結果に対する測定差と、静電容量から細胞数を推定する従来のインライン方式による計測結果についての従来のオフラインによる計測結果に対する測定差とを比較して示す。
図12の各プロットは、
図11のプロットに対応している。従来のオフラインによる計測結果は、トリパンブルーで死細胞を染色し、血球計算盤で計数するため、最も精度が高い計測であると考えられる。
【0142】
図12に示すように、式(7)および(8)で表される連立モデル式に基づいて演算した実施例1による生細胞数の計測結果は、静電容量から細胞数を推定する従来のインライン方式による計測結果と比較して、血球計算盤による計数に対するバラつきが生じ難くなっている。従来のインライン方式では、血球計算盤による計数に対するバラつきが頻繁に発生しており、特に、細胞の生存率が低下する培養の後期でバラつきが拡大している。
【0143】
これらの結果から、式(7)および(8)で表される連立モデル式に基づいて演算する実施例1の細胞数計測方法は、バッチ培養において、従来の血球計算盤を用いた計数に近い高精度が得られることが分かる。
【0144】
<実施例2>
灌流培養において、細胞懸濁液に含まれる懸濁質の量の測定と、細胞懸濁液のキャパシタンスの測定とを行い、式(7)および(8)で表される連立モデル式に基づいて生細胞数を計測した。
【0145】
(細胞・培地)
生細胞数の計測対象の細胞としては、実施例1と同様に、抗体(IgG)を産生する遺伝子組換体で、浮遊細胞に順化されているCHO細胞(ATCC CRL-12445細胞)を用いた。培地としては、実施例1と同様に、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium:DMEM)に、インスリン(終濃度:10μg/mL)、トランスフェリン(終濃度:10μg/mL)、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS)(終濃度:10μg/mL)を添加した培地を用いた。
【0146】
(実験装置)
図13は、灌流培養による実施例2で使用した生細胞数計測装置を示す図である。
図13に示すように、生細胞数計測装置としては、灌流式の培養槽7に、濁度センサ2、静電容量計である第1測定器3、中空糸膜による濾過を行う細胞分離装置4、静電容量計である第2測定器5、演算装置6、制御装置24を付属させた装置を用いた。培養槽7の容量は1Lとした。細胞分離装置4には、分画分子量が300kDaである中空糸膜を備えた。
【0147】
灌流式の培養槽7において、計測対象の細胞であるCHO細胞を培養し、生細胞数をリアルタイムで計測した。種細胞としては、DMEM培地で1×105cells/mLに希釈したCHO細胞を培養槽7に播種した。培養条件は、培養温度:37℃、溶存酸素濃度:2.7mg/L、pH7.2に維持した。細胞分離装置4への培養液の循環速度は10mL/minとし、灌流率を新鮮培地の供給によって1vvd(30mL/h)とした。
【0148】
灌流培養中には、演算装置6によって生細胞数を計測し、培養開始から21日目の計測結果に基づいて、抜取管7hを通じたブリーディングを制御した。ブリーディングの量は、制御装置24による培養液抜取ポンプ19fの出力の制御によって、培養槽7内の生細胞数が1×107cells/mLに保たれるように調整した。
【0149】
(実験結果)
図14は、灌流培養による実施例2における生細胞数の計測結果を示す図である。
図14において、横軸は、培養時間[day]、縦軸は、計測された生細胞数[×10
6cells/mL]ないし細胞の生存率[%]を示す。〇のプロットは、生細胞数を示す。△のプロットは、細胞の生存率を示す。破線で挟まれた区間は、細胞濃度を制御した期間を示す。
【0150】
図14に示すように、式(7)および(8)で表される連立モデル式に基づいて演算した実施例2による生細胞数の計測結果は、灌流培養においても高精度が得られたため、培養時間が経過した段階においても、生細胞数を一定に保つことができた。
【0151】
これらの結果から、式(7)および(8)で表される連立モデル式に基づいて演算する実施例2の細胞数計測方法は、灌流培養において、生細胞数を一定に保つフィードバック制御等に利用できることが分かる。