(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096918
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】新設または既設のPC鋼材の中間定着具およびそれを用いた中間定着工法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20240709BHJP
E04C 5/08 20060101ALI20240709BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20240709BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20240709BHJP
E01D 22/00 20060101ALN20240709BHJP
E01D 101/28 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E04C5/08
E04C5/12
E01D1/00 D
E01D22/00 A
E01D101:28
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066468
(22)【出願日】2024-04-17
(62)【分割の表示】P 2021055808の分割
【原出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岩生 知樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】野田 一成
(72)【発明者】
【氏名】大西 睦彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】成子 実花
(57)【要約】
【課題】緊張状態のPC鋼材に好適に使用される、部品点数が少なく作業性に優れた中間定着具を提供する。
【解決手段】この中間定着具30は、緊張状態のPC鋼材Bに装着可能に分割されたスリーブ100およびウェッジ140により構成され、スリーブ100は、ウェッジ140のテーパーに組み合わせられるテーパーを備えた中空円筒形状の内筒側のスリーブ片110と内筒側のスリーブ片110と中空円筒形状の外筒側のスリーブ片120とに分割され、せん断キーKによりスリーブ片110とスリーブ片120とが接合されることによりスリーブ100として一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる中間定着具であって、
前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、
前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備える内筒側のスリーブ片と前記内筒側のスリーブ片の外側に設けられる外筒側のスリーブ片とに分割されるスリーブと、を含み、
前記内筒側のスリーブ片および前記外筒側のスリーブ片について、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を少なくとも内筒側スリーブ片が備え、
前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする、PC鋼材の中間定着具。
【請求項2】
前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられたキー溝と前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられたキー溝とに跨ってキーが設けられて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されることを特徴とする、請求項1に記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項3】
前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられた雄ねじと前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられた雌ねじとが螺合されて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されることを特徴とする、請求項1に記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項4】
新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる中間定着具であって、
前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、
前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能なスリット部を備えるスリーブと、を含み、
前記スリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする、PC鋼材の中間定着具。
【請求項5】
前記連結部材は、前記互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、
前記雌ねじ穴に前記雄ねじが螺合されて前記壁面が連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されることを特徴とする、請求項4に記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項6】
前記スリーブにおけるテーパーが広がる方向の端面であって前記PC鋼材の長手方向に垂直な端面にて前記スリーブに接合される、平板状のプレートをさらに含み、
前記プレートは、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能、かつ、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部に設けられたウェッジ突起部が突出可能な切欠き部を備え、
前記プレートが前記スリーブの端面に接合されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ウェッジ突起部が前記プレートの切欠部から突出することを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれかに記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項7】
3次元形状のワイヤークリップをさらに含み、
前記ワイヤークリップは、
前記スリーブにおける、前記PC鋼材の長手方向の長さに対応する直線部と、
前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが広がる側に、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部の外周上に設けられたウェッジ溝部に嵌入される円弧部と、
前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが狭まる側に、前記スリーブにおけるテーパーが狭まる方向の端面であって前記PC鋼材の長手方向に垂直な端面に設けられたスリーブ穴部に嵌入される嵌入片と、を少なくとも備え、
前記ワイヤークリップの円弧部が前記ウェッジ溝部に嵌入されるとともに、前記ワイヤークリップの嵌入片が前記スリーブ穴部に嵌入されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ワイヤークリップの直線部が前記スリーブの外周に沿って配置されることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれかに記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項8】
新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる中間定着具を用いた中間定着方法であって、
前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに前記緊張状態のPC鋼材に装着可能な構造を備えたスリーブとを含む中間定着具を用いて、前記PC鋼材を定着する工法であって、
前記中間定着具により定着するPC鋼材がコンクリートに埋設されている場合にはコンクリートを斫って、前記緊張状態のPC鋼材を露出させる露出ステップと、
前記ウェッジのテーパーが狭まる方向が圧縮力を導入するコンクリートの方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記緊張状態のPC鋼材に装着するウェッジ装着ステップと、
前記スリーブのテーパーが狭まる方向が前記圧縮力を導入するコンクリートの方向になるように、前記PC鋼材に装着可能な構造を備えたスリーブを前記緊張状態のPC鋼材に装着するスリーブ装着ステップと、
前記スリーブを前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能させるスリーブ機能化ステップと、
前記分割された状態で前記緊張状態のPC鋼材に装着された2以上のウェッジ片を、前記ウェッジのテーパーの向きと前記スリーブのテーパーの向きとを一致させて、スリーブとして機能させた前記スリーブに挿入する挿入ステップとを含む、PC鋼材の中間定着工法。
【請求項9】
前記挿入ステップは、前記ウェッジを前記スリーブに、ジャッキを用いることなく作業者の手作業により挿入するステップを含む、請求項8に記載のPC鋼材の中間定着工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新設または既設の緊張状態のPC鋼材に好適に使用される中間定着具およびそれを用いた中間定着工法に関する。
なお、本発明において、楔体、楔、くさび、クサビ、ウェッジ(wedge)と記載する場合があるが、これらは同じ構造を備える。また、本発明が対象としている新設または既設のPC鋼材(PC用鋼材と記載する場合がある)におけるPC鋼材には、PC鋼線、PC鋼棒およびPC鋼より線(PC鋼撚線)ならびに外表面が(エポキシ等の)樹脂で被覆(コーティング)されたPC鋼材を含む。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物には埋設された緊張材の緊張力によってプレストレスが導入されているものがある。このようなコンクリート構造物は、補修、補強又は改修等のために一部の撤去が必要となる場合がある。例えば、橋桁の幅方向の一部を撤去し、残った部分で交通を維持しながら一部を新しい橋桁に架け代えることがある。また、橋桁の軸線方向の一部、例えば桁端部が劣化して補修が必要となったときに桁端部を一旦除去し、新たにコンクリートを打設して補修することがある。この他、建築物の一部を解体することもある。
【0003】
このようなときに、コンクリート構造物の撤去する部分と残す部分とにわたって連続する緊張材が配置され、プレストレスが導入されていると、緊張材の中間部分を露出させ、中間定着具を取り付けて残す部分のコンクリートに定着することが行われる。そして、コンクリート構造物の残す部分には緊張力が導入された状態の緊張材を維持し、撤去する部分の緊張材を切断するとともにコンクリート構造物を撤去することが行われている。
【0004】
このように緊張力が導入された状態の緊張材を中間部分で定着する中間定着構造を、たとえば特開2018-017029号公報(特許文献1)は開示する。
この特許文献1に開示された中間定着構造は、互いに分離可能で対となる半割ブロックを結合して定着ブロックが形成され、対となる前記半割ブロック間に形成された中空孔に緊張材が挿通されており、前記緊張材と前記中空孔の内周面との間に充填されて硬化した充填材によって前記定着ブロックと前記緊張材とが結合され、前記定着ブロックが前記緊張材の緊張力を伝達するように構造物に定着されており、前記緊張材の前記中空孔内に挿入された部分の外周面に、金属溶射によって付着した金属で複数の凸部が形成されていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された中間定着構造における中空孔でスリーブを形成してこのスリーブに対応するウェッジを組み合わせて中間定着具(半割スリーブと半割ウェッジを用いて半割スリーブをボルト締結する構成を備えた中間定着具)とすることができるが、このような中間定着具は部品点数が多く、それを理由として重量も重くなり、作業性が好ましくないという問題点がある。
【0007】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、新設または既設の緊張状態のPC鋼材に好適に使用される、作業性に優れた中間
定着具およびそれを用いた中間定着工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る新設または既設のPC鋼材の中間定着具およびそれを用いた中間定着工法は、以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明のある局面に係る新設または既設のPC鋼材の中間定着具は、新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる中間定着具であって、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備える内筒側のスリーブ片と前記内筒側のスリーブ片の外側に設けられる外筒側のスリーブ片とに分割されるスリーブと、を含み、前記内筒側のスリーブ片および前記外筒側のスリーブ片について、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を少なくとも内筒側スリーブ片が備え、前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする。また、前記外筒側のスリーブ片は、たとえばFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)製のシートで、前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とは前記内筒側のスリーブ片の外周にシート状の前記外筒側のスリーブ片を巻き付けることにより前記スリーブとして一体化されるものであっても構わない。この場合には、シート状の前記外筒側のスリーブ片の切欠き部は必須の構成ではない。
【0009】
好ましくは、前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられたキー溝と前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられたキー溝とに跨ってキーが設けられて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられた雄ねじと前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられた雌ねじとが螺合されて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されるように構成することができる。
【0010】
また、本発明の別の局面に係る新設または既設のPC鋼材の中間定着具は、新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる中間定着具であって、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能なスリット部を備えるスリーブと、を含み、前記スリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記連結部材は、前記互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、前記雌ねじ穴に前記雄ねじが螺合されて前記壁面が連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記スリーブにおけるテーパーが広がる方向の端面であって前記PC鋼材の長手方向に垂直な端面にて前記スリーブに接合される、平板状のプレートをさらに含み、前記プレートは、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能、かつ、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部に設けられたウェッジ突起部が突出可能な切欠き部を備え、前記プレートが前記スリーブの端面に接合されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ウェッジ突起部が前記プレートの切欠部から突出するように構成することができる。
【0012】
さらに好ましくは、3次元形状のワイヤークリップをさらに含み、前記ワイヤークリップは、前記スリーブにおける、前記PC鋼材の長手方向の長さに対応する直線部と、前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが広がる側に、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部の外周上に設けられたウェッジ溝部に嵌入される円弧部と、前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが狭まる側に、前記スリーブにおけるテーパーが狭まる方向の端面であって前記PC鋼材の長手方向に垂直な端面に設けられたスリーブ穴部に嵌入される嵌入片と、を少なくとも備え、前記ワイヤークリップの円弧部が前記ウェッジ溝部に嵌入されるとともに、前記ワイヤークリップの嵌入片が前記スリーブ穴部に嵌入されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ワイヤークリップの直線部が前記スリーブの外周に沿って配置されるように構成することができる。
【0013】
また、本発明のさらに別の局面に係る新設または既設のPC鋼材の中間定着工法は、新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる中間定着具を用いた中間定着方法であって、
前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに前記緊張状態のPC鋼材に装着可能な構造を備えたスリーブとを含む中間定着具を用いて、前記PC鋼材を定着する工法であって、前記中間定着具により定着するPC鋼材がコンクリートに埋設されている場合にはコンクリートを斫って、前記緊張状態のPC鋼材を露出させる露出ステップと、前記ウェッジのテーパーが狭まる方向が圧縮力を導入するコンクリートの方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記緊張状態のPC鋼材に装着するウェッジ装着ステップと、前記スリーブのテーパーが狭まる方向が前記圧縮力を導入するコンクリートの方向になるように、前記PC鋼材に装着可能な構造を備えたスリーブを前記緊張状態のPC鋼材に装着するスリーブ装着ステップと、前記スリーブを前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能させるスリーブ機能化ステップと、前記分割された状態で前記緊張状態のPC鋼材に装着された2以上のウェッジ片を、前記ウェッジのテーパーの向きと前記スリーブのテーパーの向きとを一致させて、スリーブとして機能させた前記スリーブに挿入する挿入ステップとを含む。
【0014】
好ましくは、前記挿入ステップは、前記ウェッジを前記スリーブに、ジャッキを用いることなく作業者の手作業により挿入するように構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る新設または既設のPC鋼材の中間定着具およびそれを用いた中間定着工法によると、新設または既設の緊張状態のPC鋼材に好適に使用される、作業性に優れた中間定着具およびそれを用いた中間定着工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る中間定着具(中間定着具30)の使用が想定される新設のコンクリート構造物(プレストレストコンクリート部材)への適用(工区分け)を説明するための図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る中間定着具(中間定着具30)の使用が想定される既設のコンクリート構造物(プレストレストコンクリート部材)への適用(補修)を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る中間定着具(中間定着具30)の使用態様を説明するための図である。
【
図4】中間定着具30を構成する(A)スリーブ100(スリーブSに相当)および(B)ウェッジ140(ウェッジWに相当)の平面図である。
【
図5】
図4のスリーブ100(スリーブSに相当)が、ウェッジ140(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能する状態を示す(A)平面図および(B)せん断キーの機能を説明するための図である。
【
図6】
図4のスリーブ100(スリーブSに相当)およびウェッジ140(ウェッジWに相当)を用いた中間定着具30を、PC鋼材に装着する手順を説明するための図である。
【
図7】中間定着具30を構成する(A)(スリーブ100とは別の)スリーブ200(スリーブSに相当)および(B)(ウェッジ140とは別の)ウェッジ240(ウェッジWに相当)の平面図である。
【
図8】
図7のスリーブ200(スリーブSに相当)およびウェッジ240(ウェッジWに相当)を用いた中間定着具30を、PC鋼材に装着する手順を説明するための図である。
【
図9】中間定着具30を構成する(スリーブ100およびスリーブ200とは別の)スリーブS10、スリーブS11またはスリーブS20(スリーブSに相当)が、ウェッジW(ウェッジ140と同じ)に組み合わせられるスリーブとして機能する状態を示す平面図である。
【
図10】供試体を用いて本発明の実施の形態に係る中間定着具30を評価した試験結果を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態の第1の変形例に係る中間定着具を説明するための図である。
【
図12】本発明の実施の形態の第2の変形例に係る中間定着具を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、本発明の実施の形態に係る、新設または既設のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している緊張状態のPC鋼材に好適に適用される中間定着具、および、その中間定着具を用いて新設または既設のプレストレストコンクリート部材に好適に適用可能な中間定着工法について詳しく説明する。
ここで、以下の説明において参照する図については、本発明の容易な理解のために、内部ではなく外形で表現すべき部分を内部を透視するように表現している場合があったり、外形ではなく断面で表現すべき部分を外形で表現している場合があったり、断面ではなく外形で表現すべき部分を断面で表現している場合があったり、断面であってもハッチングを付していない場合があったり、断面でないのにハッチングを付している場合があったり、詳細な構造を省略した場合があったり、詳細な構造を省略したために同じ部材であっても図面間で一致しない場合があったりする。
【0018】
<中間定着具の使用が想定される構造物>
まず、
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る中間定着具(中間定着具30)の使用が想定される新設のコンクリート構造物(PC構造物、プレストレストコンクリート部材、コンクリート躯体)の一例について説明する。
新設のコンクリート構造物においては、一度に打設するコンクリート量が制約される等の関係で、工区を分割することがある。この時、緊張材(PC鋼材)は後工区分の長さを準備しているが、保管スペースの制約等によりコイル状で仮置きされる場合があり、この場合には端部(コイル状に巻かれているためにその終端)から定着具を挿入できない。このような場合に、先工区のコンクリート構造物にプレストレスを導入する方法として、本発明に係る中間定着具を
図1に示すように採用することが想定される。
【0019】
次に、
図2を参照して、本発明の実施の形態に係る中間定着具(中間定着具30)の使用が想定される既設のコンクリート構造物(PC構造物、プレストレストコンクリート部材、コンクリート躯体)の一例について説明する。
既設のコンクリート構造物においては、経年劣化等による補修が必要となる場合があり、このような補修を行う場合には開口部を設けて(コンクリートを斫ってPC鋼材を開口部に露出させて)既設のPC鋼材を定着することがある。この時、緊張材(既設PC鋼材)の両端はコンクリート内部に埋設されているために端部から定着具を挿入できない。このような場合に、プレストレスを導入する方法として、本発明に係る中間定着具を
図2に示すように採用することが想定される。
【0020】
図3に、新設または既設のコンクリート構造物(PC構造物、プレストレストコンクリート部材、コンクリート躯体)へ本発明に係る中間定着具(中間定着具30)が使用される態様(イメージ)を示す。緊張状態の既設PC鋼材に対して中間定着具を装着して既設PC鋼材を緊張させることになる。
これらの
図1~
図3に示す施工方法において用いられる中間定着具(中間定着具30)を構成する、新設または既設のPC鋼材Bを内面に挟み込むとともに外面にテーパーを備えたウェッジWと、そのウェッジWのテーパー面に沿った内面を備えたスリーブSとについて詳しく説明する。
【0021】
また、これらのスリーブSおよびウェッジWに用いる材料としては金属、樹脂、化学繊維等であって特に限定されるものではないが、以下においてはPC鋼材の定着具として通常用いられる種類の金属であるとして説明する。
なお、本実施の形態に係る中間定着具においては、スリーブSは大きく分別すると2種類あり(
図4~
図8に示す内筒外筒タイプと
図9に示すスリット壁面連結タイプ)、ウェッジWは2種類あるために(ウェッジWは分割数のみ異なり、スリーブSは構造が大きく異なる)、
・
図4~
図6を用いてスリーブSとしてスリーブ100(内筒外筒タイプのせん断キー接合型)を説明するとともにウェッジWとしてウェッジ140(3分割)を説明して、
・
図7および
図8を用いてスリーブSとしてスリーブ200(内筒外筒タイプのねじ螺合型)を説明するとともにウェッジWとしてウェッジ240(2分割)を説明して、
・
図9を用いてスリーブSとしてスリーブS10およびS20(スリット壁面連結タイプ)を説明する(
図9におけるウェッジWはウェッジ240(3分割)と同じ)。
【0022】
さらに、これらに共通して用いることのできる2つの変形例を
図11および
図12を用いて説明する。
なお、本発明に係る中間定着具として採用可能な以下のような中間定着具が公知である。先行技術として上述した特許文献1(特開2018-017029号公報)に記載された、すでに緊張力が導入され、両端部が構造物に定着されている緊張材(PC鋼棒を含むPC鋼材)の中間部に取り付けられて、緊張材に緊張力が導入された状態を維持したまま周囲にある構造物に緊張材を定着させるものである。より具体的には、上述した特許文献1(特開2018-017029号公報)に記載された、互いに分離可能で対となる半割ブロックを結合して定着ブロックが形成され、対となる半割ブロック間に形成された中空孔に緊張状態の緊張材が挿通され、その後に対となる半割ブロックを緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトにより互いに結合させるものである。この中空孔でスリーブを形成してこのスリーブに対応するウェッジを組み合わせて中間定着具(特開2018-017029号公報に記載の中間定着具においてスリーブにウェッジを組み合わせた構成は、半割スリーブと半割ウェッジを用いて半割スリーブをボルト締結する構成となりこの構成は本願の一出願人により出願された実開昭57-084220号公報に記載の中間定着具と略等しい)としたものを、以下の説明において、先行技術または比較例として記載する場合がある。
【0023】
<1:内筒外筒タイプ:せん断キー接合型>
まず、スリーブ100およびウェッジ140について説明する。
中間定着具30を構成する、スリーブ100の平面図を
図4(A)に、ウェッジ140の平面図を
図4(B)に、
図4に示すスリーブ100(スリーブSに相当)が、ウェッジ140(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能する状態を示す平面図を
図5(A)に、スリーブとして機能する状態におけるせん断キーの機能を説明するための図を
図5(B)に、それらのスリーブ100およびウェッジ140を用いてスリーブ100(スリーブSに相当)が、ウェッジ140(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能するようにして、中間定着具30を、PC構造物から露出させた新設または既設のPC鋼材Bに装着する手順を説明するための図を
図6に、それぞれ示す。
【0024】
この中間定着具30は、
図4(A)に示すスリーブ100とそのスリーブ100に組み合わせられる
図4(B)に示すウェッジ140とにより構成される。なお、
図4(A)において左側に描かれた側面図(一部断面図)は右側に描かれた正面図に示す矢示X方向から見た図であって、
図4(B)において左側に描かれた側面図および右側に描かれた正面図は3分割されたウェッジ片を組み合わせてウェッジ140とした図である。ここで、正面図とは新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に垂直な面から見た図であって、側面図とは、新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に平行な面から見た図である(以下において同じ)。
【0025】
図4(B)に示すように、ウェッジ140は、新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)に分割されている。このように分割されているので、既設の新設または既設のPC鋼材Bに装着することができる。また、ウェッジ140は3つのウェッジ片を組み合わせることによりテーパー140Tを備えることになる。
【0026】
図4(A)に示すように、スリーブ100は、ウェッジ140のテーパー140Tに組み合わせられるテーパー100Tを備えた中空円筒形状の内筒側のスリーブ片110と内筒側のスリーブ片110とせん断キーKにより接合される中空円筒形状の外筒側のスリーブ片120とに分割されている。内筒側のスリーブ片110の外表面116にはせん断キーKを内包するキー溝118が、外筒側のスリーブ片120の内表面126にはせん断キーKを内包するキー溝128が、それぞれ設けられている。また、キー溝からせん断キーKがPC鋼材Bの長手方向に移動することを抑制するために、たとえば、内筒側のスリーブ片110のキー溝118の溝底面に穴を設けてせん断キーに設けられた突起部を係合させる(さらに、溝底面に雌ねじ穴を切るとともにせん断キーKを貫通する雌ねじ穴を切って全ねじボルト(所謂いもねじと呼ばれることもある全長に亘って雄ねじが切られて端面に六角穴が設けられたボルト)によりせん断キーKの雌ねじ穴と溝底面の雌ねじ穴とを螺合させる)ことも好ましい(せん断キーKに点線で図示)。内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120は新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に垂直な面から見て新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能な切欠き部(内筒側のスリーブ片110における本体112の一部を切り欠いた切欠き部114および外筒側のスリーブ片120における本体122の一部を切り欠いた切欠き部124)を備える。
【0027】
さらに、内筒側のスリーブ片110と外筒側のスリーブ片120とは、それぞれのキー溝118(内筒側のスリーブ片110)およびキー溝128(外筒側のスリーブ片120)にせん断キーKが内包されて、スリーブ片110とスリーブ片120とが接合されることによりスリーブ100として一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能することになる。
【0028】
さらに詳しくは、スリーブ片110は、中心に新設または既設のPC鋼材Bが挿通される(挿通される新設または既設のPC鋼材Bに対応した)テーパー100Tを備えた本体
112を備え、その本体112の一部が切欠き部114とされているためにテーパー100Tが全周にわたって存在するものではなく、切欠き部114の部分だけテーパー100Tが存在しないがこの中間定着具30としての機能には問題がない。
【0029】
ここで、せん断キーKの機能について
図5を参照して説明する。
図5(A)は、スリーブ片110とスリーブ片120とが接合されることによりスリーブ100として一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能する状態のスリーブ100とウェッジ140と(より詳しくはせん断キーKと)から構成される中間定着具30の側面図(左側)および正面図(右側)を示している。
図5(A)に示すスリーブ100(より詳しくは内筒側のスリーブ片110と外筒側のスリーブ片120)とウェッジ140と(より詳しくはせん断キーKと)から構成される中間定着具30において、新設または既設のPC鋼材Bをウェッジ140が挟持して新設または既設のPC鋼材Bに緊張力が作用すると、ウェッジ140がくさび効果により内筒側のスリーブ片110に喰い込んで(
図5(B)の黒塗り矢示)切欠き部114が拡張しよう(切欠き部114の切欠き幅が広がろう)とする(
図5(B)の曲線矢示)。このとき、内筒側のスリーブ片110と外筒側のスリーブ片120とは(互いのキー溝118およびキー溝128に内包された)せん断キーKを介して接合されているために、せん断キーKによる引っ掛かりにより内筒側のスリーブ片110の変形(切欠き部114の拡張)がせん断キーKを介して外筒側のスリーブ片120に伝達されるために、内筒側のスリーブ片110の変形(切欠き部114の拡張)を外筒側のスリーブ片120が負担することになる。このため、内筒側のスリーブ片110の変形が抑制されて、所望のくさび効果が発現して、所望の緊張力を新設または既設のPC鋼材Bに付与することができる。
【0030】
このような構造を備えた中間定着具30は、以下のように新設または既設のPC鋼材Bに装着される。なお、中間定着具により定着するPC鋼材Bがコンクリートに埋設されている場合にはコンクリートを斫って、緊張状態のPC鋼材Bを露出させる露出ステップが、以下に説明するウェッジ装着ステップの前に必要となる。
図6(A)に示すように、ウェッジ140のテーパー140Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは
図3の側面図に示す方向)になるように、分割された2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を露出した新設または既設のPC鋼材Bに、ウェッジ装着ステップとして装着する(ウェッジ側の黒塗り矢示参照)。
【0031】
スリーブ100のテーパー100Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは
図3の側面図に示す方向)になるように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120)を露出した新設または既設のPC鋼材Bに、スリーブ装着ステップとして装着する(スリーブ側の黒塗り矢示参照)。より詳しくは、
図6(A)における左右方向から2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120を新設または既設のPC鋼材Bへ接近させて装着する。
【0032】
次に、
図6(B)に示すように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120)をスリーブ100として一体化してウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能させるために(スリーブ機能化ステップのために)、内筒側のスリーブ片110の外周面116に設けられたキー溝118に内包されたせん断キーKが、外筒側のスリーブ片120の内周面126に設けられたキー溝128に内包されるように(逆に、外筒側のスリーブ片120の内周面126に設けられたキー溝128に内包されたせん断キーKが、内筒側のスリーブ片110の外周面116に設けられたキー溝118に内包されるようにでも構わない)、新設または既設のPC鋼材Bの長手方向において内筒側のスリーブ片110と外筒側のス
リーブ片120とを接近せしめて(いずれか一方または双方を新設または既設のPC鋼材Bの長手方向にスライドさせて)、内筒側のスリープ片110と外筒側のスリープ片120とを接合させる。これにより分割されていたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120)がスリーブとして一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブ100として機能させることができるようになる。
【0033】
最後に、露出された新設または既設のPC鋼材Bに装着された分割された2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を、ウェッジ140のテーパー140Tの向きとスリーブ100のテーパー100Tの向きとを一致させて、一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能させることができるようになったスリーブ100に、挿入ステップとして挿入する。
このようにして、中間定着具30が新設または既設のPC鋼材Bへ装着される。
【0034】
<2:内筒外筒タイプ:ねじ螺合型>
次に、スリーブ200およびウェッジ240について説明する。
中間定着具30を構成するスリーブ200の平面図を
図7(A)に、ウェッジ240の平面図を
図7(B)に、それらのスリーブ200およびウェッジ240を用いてスリーブ200(スリーブSに相当)が、ウェッジ240(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能するようにして、中間定着具30を、PC構造物から露出させた新設または既設のPC鋼材Bに装着する手順を説明するための図を
図8に、それぞれ示す。
【0035】
この中間定着具30は、
図7(A)に示すスリーブ200とそのスリーブ200に組み合わせられる
図7(B)に示すウェッジ240とにより構成される。なお、
図7(A)において左側に描かれた側面図(一部断面図)は右側に描かれた正面図に示す矢示X方向から見た図であって、
図7(B)において左側に描かれた側面図および右側に描かれた正面図は2分割されたウェッジ片を組み合わせてウェッジ240とした図である。
【0036】
図7(B)に示すように、ウェッジ240は、新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片(ここでは2分割されているために2つのウェッジ片242およびウェッジ片244)に分割されている。このように分割されているので、既設の新設または既設のPC鋼材Bに装着することができる。また、ウェッジ240は2つのウェッジ片を組み合わせることによりテーパー240Tを備えることになる。
【0037】
図7(A)に示すように、スリーブ200は、ウェッジ240のテーパー240Tに組み合わせられるテーパー200Tを備え外ねじ(雄ねじ)216を備えた内筒側のスリーブ片210と、内筒側のスリーブ片210の外ねじ(雄ねじ)216に螺合される内ねじ(雌ねじ)226を備えた外筒側のスリーブ片220とに分割されている。内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220は新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に垂直な面から見て新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能な切欠き部(内筒側のスリーブ片210における本体部212の一部を切り欠いた切欠き部214および外筒側のスリーブ片220における本体部222の一部を切り欠いた切欠き部224)を備える。なお、新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能な切欠き部は、内筒側のスリーブ片210と外筒側のスリーブ片220とが接合できる構造であれば新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能な切欠き部224を必ずしも備える必要はない。たとえば、外筒側のスリーブ片220は、たとえばFRP製のシートで、内筒側のスリーブ片210と外筒側のスリーブ片220とは、内筒側のスリーブ片210の外周にシート状の外筒側のスリーブ片220を巻き付けることによりスリーブとして一体化されてウェッジ240に組み合わせられるスリーブとして機能するものであれば構わない。この場合には、シート状の外筒側のスリーブ
片220の切欠き部224は必須の構成ではないものとなる。さらに、内筒側のスリーブ片210と外筒側のスリーブ片220とは外ねじ(雄ねじ)216と内ねじ(雌ねじ)226とが螺合することによりスリーブ200として一体化されてウェッジ240に組み合わせられるスリーブとして機能することになる。
【0038】
さらに詳しくは、スリーブ片210は、中心に新設または既設のPC鋼材Bが挿通される(挿通される新設または既設のPC鋼材Bに対応した)テーパー200Tを備えた本体212を備え、その本体212の一部が切欠き部214とされているためにテーパー200Tが全周にわたって存在するものではなく、切欠き部214の部分だけテーパー200Tが存在しないがこの中間定着具30としての機能には問題がない。
【0039】
このような構造を備えた中間定着具30は、以下のように新設または既設のPC鋼材Bに装着される。なお、中間定着具により定着するPC鋼材Bがコンクリートに埋設されている場合にはコンクリートを斫って、緊張状態のPC鋼材Bを露出させる露出ステップが、以下に説明するウェッジ装着ステップの前に必要となる点は上述と同じである。
図8(A)に示すように、ウェッジ240のテーパー240Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは
図3の側面図に示す方向)になるように、分割された2以上のウェッジ片(ここでは2分割されているために2つのウェッジ片242およびウェッジ片244)を露出した新設または既設のPC鋼材Bに、ウェッジ装着ステップとして装着する(ウェッジ側の黒塗り矢示参照)。
【0040】
スリーブ200のテーパー200Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは
図3の側面図に示す方向)になるように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220)を露出した新設または既設のPC鋼材Bに、スリーブ装着ステップとして装着する(スリーブ側の黒塗り矢示参照)。より詳しくは、
図8(A)における左右方向から2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220を新設または既設のPC鋼材Bへ接近させて装着する。
【0041】
次に、
図8(B)に示すように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220)をスリーブ200として一体化してウェッジ240に組み合わせられるスリーブとして機能させるために(スリーブ機能化ステップのために)、内筒側のスリーブ片210の外ねじ(雄ねじ)216と外筒側のスリーブ片220の内ねじ(雌ねじ)226とを螺合させる。これにより分割されていたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220)がスリーブとして一体化されてウェッジ240に組み合わせられるスリーブ200として機能させることができるようになる。
【0042】
最後に、露出された新設または既設のPC鋼材Bに装着された分割された2以上のウェッジ片(ここでは2分割されているために2つのウェッジ片242およびウェッジ片244)を、ウェッジ240のテーパー240Tの向きとスリーブ200のテーパー200Tの向きとを一致させて、一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能させることができるようになったスリーブ200に、挿入ステップとして挿入する。
このようにして、中間定着具30が新設または既設のPC鋼材Bへ装着される。
【0043】
<3:スリット壁面連結タイプ>
上述したスリーブ100とウェッジ140とから構成される中間定着具30もスリーブ200とウェッジ240とから構成される中間定着具30も、いずれも内筒外筒タイプであったが、次に、スリット壁面連結タイプのスリーブS10、スリーブS11およびスリーブS20を含む中間定着具30について、
図9を参照して以下に詳しく説明する。なお
、スリーブS10、スリーブS11およびスリーブS20に組み合わせられる
図9に示すウェッジWは、上述した3分割されたウェッジ片から構成されるウェッジ140と同じであるために、ここでは繰り返して説明しない。
【0044】
中間定着具30を構成する、連結部材として頭付き六角穴付きボルト(以下においてキャップボルトと記載)T10を用いたスリーブS10の平面図を
図9(A)に、連結部材として頭なし六角穴付きボルト(全ねじボルト、所謂いもねじ、以下において全ねじボルトと記載)T20を用いたスリーブS11の平面図を
図9(B)に、スリーブS10およびスリーブS11とは異なるスリーブS20の平面図を
図9(C)に、それぞれ示す。なお、
図9(C)に示すスリーブS20は連結部材としてキャップボルトT10を用いているが、連結部材として全ねじボルトT20を用いても構わない。
【0045】
これらの
図9に示すスリット壁面連結タイプは、上述した内筒外筒タイプ(分割型)と異なり、ウェッジWに組み合わせられるテーパーを備えるとともに、新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に垂直な面から見て新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能なスリット部を備え、このスリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。
【0046】
図9(A)に示すスリーブS10および
図9(B)に示すスリーブS11は、連結部材が異なるものの(
図9(A)がキャップボルトT10で
図9(B)が全ねじボルトT20)、スリーブの構造は、部位B10に設けられる穴が穴H10(スリーブS10)と雌ねじ穴H11(スリーブS11)とで異なる以外は同じである。このスリーブS10およびスリーブS11は偏心した中空部(この中空部にウェッジ140および新設または既設のPC鋼材Bが内包される)を備えた中空円筒形状を備える。そして、偏心により、肉厚が厚い側(部位B10および部位B12がある側)に新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能なスリット部を備え、このスリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結される。
【0047】
図9(A)に示すスリーブS10のように、連結部材がキャップボルトT10である場合には、スリット部において互いに対向する壁面の少なくとも一方(ここでは一方の壁面である)の壁面(ここでは部位B12側の壁面とする)に設けられた雌ねじ穴H12と、他方の壁面(ここでは部位B10側の壁面とする)に設けられた穴H10とを備え、穴H10(ねじ穴ではなく貫通穴)を通されたキャップボルトT10の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。
【0048】
これに対して、
図9(B)に示すスリーブS11のように、連結部材が全ねじボルトT20である場合には、スリット部において互いに対向する壁面の少なくとも一方(ここでは両方の壁面である)の壁面(ここでは部位B12側の壁面とする)に設けられた雌ねじ穴H12と、他方の壁面(ここでは部位B10側の壁面とする)に設けられた雌ねじ穴H11とを備え、雌ねじ穴H11に螺合して通された全ねじボルトT20の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである
図9(B)に示すスリーブS11においては、部位B12側に雌ねじ穴H12を設けるのみならず部位B10側も雌ねじ穴H11を設けた上で連結部材として全ねじボルトT20を用いているために、部位B10側には雌ねじ穴ではなく穴H10を設けた上で連結部材としてキャップボルトT10を用いている
図9(A)に示すスリーブS10と比較して
、連結部材による過度の締め付けを防止することができる点が異なる。
【0049】
次に、
図9(C)に示すスリーブS20は、
図9(A)に示すスリーブS10および
図9(B)に示すスリーブS11と比較して、偏心した中空部(この中空部にウェッジ140および新設または既設のPC鋼材Bが内包される)を備えた中空角柱形状を備える。すなわち、
図9(A)に示すスリーブS10および
図9(B)に示すスリーブS11が中空円筒形状であるのに対して、
図9(C)に示すスリーブS20は中空角柱形状である点が異なる。そして、偏心により、肉厚が厚い側(部位B10および部位B12がある側)に新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能なスリット部を備え、このスリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能する点は、スリーブS20もスリーブS10およびスリーブS11と同じである。
【0050】
より詳しくは、
図9(A)に示したスリーブS10と同じく、スリーブS20においても、穴H10(ねじ穴ではなく貫通穴)を通されたキャップボルトT10の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。なお、上述したように、
図9(C)に示すスリーブS20は連結部材としてキャップボルトT10を用いているが、連結部材として全ねじボルトT20を用いても構わない。このときには、
図9(B)に示したスリーブS11と同じく、スリーブS20においても、雌ねじ穴H11を螺合して通された全ねじボルトT20の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。
【0051】
このような構造を備えた中間定着具30は、以下のように新設または既設のPC鋼材Bに装着される。なお、中間定着具により定着するPC鋼材Bがコンクリートに埋設されている場合にはコンクリートを斫って、緊張状態のPC鋼材Bを露出させる露出ステップが、以下に説明するウェッジ装着ステップの前に必要となる点は上述と同じである。以下においては、
図9(A)に示す中間定着具30を使用する場合について説明する。
図示しないが、ウェッジ140のテーパー140Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは
図3の側面図に示す方向)になるように、分割された2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を露出した新設または既設のPC鋼材Bに、ウェッジ装着ステップとして装着する。
【0052】
スリーブ100のテーパー100Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは
図3の側面図に示す方向)になるように、スリット部を備えたスリーブS10を露出した新設または既設のPC鋼材Bに、スリーブ装着ステップとして装着する。より詳しくは、スリーブS10のスリット部から新設または既設のPC鋼材Bを挿入させて装着する。
次に、スリーブS10のスリット部における互いに対向する壁面の1つを構成する部位に設けられた穴H10(ねじ穴ではなく貫通穴)を通されたキャップボルトT10の雄ねじを雌ねじ穴H12に螺合させて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能させる(スリーブ機能化ステップ)。これによりスリット部を備えたスリーブS10において、スリット部における互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブ(ここではスリーブ100とする)として機能させることができるようになる。
【0053】
最後に、露出された新設または既設のPC鋼材Bに装着された分割された2以上のウェ
ッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を、ウェッジ140のテーパー140Tの向きとスリーブ100のテーパー100Tの向きとを一致させて、一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能させることができるようになったスリーブ100に、挿入ステップとして挿入する。
このようにして、中間定着具30が新設または既設のPC鋼材Bへ装着される。
【0054】
<評価>
このような中間定着具30およびこの中間定着具30を用いた施工方法(中間定着工法)の評価について、参考重量(ウェッジを含む)とともに、供試体を用いて試験した結果について、
図10を参照して説明する。
なお、先行技術は特開2018-017029号公報に記載の中間定着具においてスリーブにウェッジを組み合わせた構成でボルト4本締めの中間定着具を中間定着具30として採用したものであって、実施例2が
図9(A)に示す中間定着具30であって、実施例3が
図9(B)に示す中間定着具30であって、実施例4が
図9(C)に示す中間定着具30であって、実施例5が
図4~
図6に示す中間定着具30である。
【0055】
図10(A)に示すように、先行技術(スリーブ2分割、締結ボルト4本、参考重量8.8kg)に対して、実施例2(スリーブ分割なし、締結ボルト2本、参考重量6.2kg)、実施例3(スリーブ分割なし、締結ボルト2本、参考重量6.1kg)、実施例4(スリーブ分割なし、締結ボルト2本、参考重量6.8kg)、実施例5(スリーブ2分割、締結ボルト2本、参考重量8.0kg)、と、部品点数の低減、重量の低減、締結作業工数の削減が認められ、施工性が向上した。
【0056】
次に、性能確認試験結果(静的引張試験)の結果を
図10(B)に示す。
試験概要としては、横型引張試験機に(PC鋼材の一例として)PC鋼棒32mm(B種2号)を配置し、一端をPC鋼棒で一般的に使用される定着ナット、他端を本発明に係る中間定着具で定着した状態で引張試験を実施する。試験時の最大荷重を記録して、PC鋼棒の規格最大引張荷重(949kN)に対する最大荷重の割合を示す定着効率を算出する。
【0057】
このような試験の結果を
図10(B)に示す。実施例2~実施例4においては,定着効率が100%以上となり、破断位置も本発明に係る中間定着具の位置ではなく定着ナットであったことより定着具として十分な性能を確認することができた。なお,実施例3については、実施例2と同形状・同ボルト径とすることで同様の性能が見込める。また、実施例5については,他の実施例に比べて定着効率は小さいものの、せん断キーKの破壊により最大荷重が決定しているためにおり、せん断キーKの断面形状等を見直すことで定着効率の上昇が見込める。
以上のようにして、新設または既設の緊張状態のPC鋼材に好適に使用される、作業性に優れた中間定着具およびそれを用いた中間定着工法を提供することができる。
【0058】
<変形例>
以下において、本発明の実施の形態の変形例に係る(新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる)中間定着具について説明する。以下において説明する第1の変形例に係る中間定着具および第2の変形例に係る中間定着具は、狭小かつ暗い空間でウェッジ(くさび、楔)をセットするため施工状況を容易に確認・判断できることを目的としており、さらに詳しくは、ウェッジ自体の存在確認およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認を容易にするための構造を備える。なお、ウェッジ自体の存在確認以外およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認以外の新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に
好適に用いられる中間定着工法については上述した説明と同じであるためにここでは繰り返さない。また、以下において、上述した構造と同じ構造を備えた部材(たとえばウェッジ等)については同じ符号を付しており、その構造も作用効果も同じであるためにここでは繰り返して説明しない。
【0059】
さらに、以下に示す2つの変形例に係る中間定着具は、
図7に示した中間定着具を基本的な構造としているが、
図7に示すようにスリーブは外ねじを備えた内筒側のスリーブ片と内筒側のスリーブ片の外ねじに螺合される内ねじを備えた外筒側のスリーブ片とに分割され、内筒側のスリーブ片と外筒側のスリーブ片とは内ねじと外ねじとが螺合することによりスリーブとして一体化されるものには限定されない。たとえば、内筒側のスリーブ片と外筒側のスリーブ片とは、止めねじ取付け穴を通された止めねじが止めねじ用タップに螺合することによりスリーブとして一体化されるものであっても構わない。なお、
図11および
図12においては、これらの変形例についての容易な理解のために、ハッチングを付していない断面があったり、新設または既設のPC鋼材Bを一部の図にしか記載していない場合があったりする。また、
図11(G)は
図11(F)のA-A断面を示し、
図12(G)は
図12(F)のA-A断面を示す。
【0060】
<<第1の変形例>>
図11に示すように、本変形例に係る中間定着具は、押えプレートタイプであって、ウェッジ自体の存在確認についてはウェッジ後端にスリーブ後端から突出する突起を設けて視認可能にすることにより実現しており、ウェッジのセット位置の保持(脱落防止)についてはスリーブとボルト接続可能な押えプレートを設けて、この押えプレートを所定の位置までボルトにより押え付けることにより実現している。
【0061】
さらに詳しくは、
図11(E)および
図11(E)のA-A断面を示す
図11(A)に示すように、押えプレート300は、新設または既設のPC鋼材Bの長手方向に垂直な面から見て新設または既設のPC鋼材Bが挿入可能な切欠き部324を備えたたとえば金属製の平板であって、この押えプレート300を後述するスリーブ2100とボルト310により接続(より詳しくは外筒側のスリーブ片2220に設けられた雌ねじ穴2222とボルト310とを螺合させて接続)するためのボルト穴302を備える。
【0062】
図11(B)に示すように、ウェッジ340は上述した3分割タイプのウェッジ140に、ウェッジ340の後端にスリーブ2100の後端から突出する突起342を備えたものである。
図11(C)に示すように、外筒側のスリーブ片2220は上述した外筒側のスリーブ片220にボルト310と螺合するための雌ねじが設けられた雌ねじ穴2222を備えたものである。なお、
図11(D)に示すように、内筒側のスリーブ片210は上述した内筒側のスリーブ片210と同じであるために同じ符号を付している。これらの
図11(C)に示す外筒側のスリーブ片2220と
図11(D)に示す内筒側のスリーブ片210とにより、本変形例に係る中間定着具におけるスリーブ2100が構成される。
【0063】
このような構造を備えた本変形例に係る中間定着具において、ウェッジ自体の存在確認およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認方法について、
図11(E)~
図11(G)を参照して以下に説明する。
図11(A)に示した押えプレート300以外およびボルト310以外が新設または既設のPC鋼材Bに
図11(F)に示すように組付けられると、
図11(E)に示す黒塗り矢示の方向へ、押えプレート300以外およびボルト310以外が新設または既設のPC鋼材Bに組付けられた中間定着具へ、ボルト穴302と雌ねじ穴2222との位置が合致するように、押えプレート300がセットされる。
【0064】
押えプレート300のボルト穴302にボルト310を通して、雌ねじ穴2222にボルト310を(ここでは上下2箇所において十分に)螺合させる。このような作業過程において、ウェッジ340自体の存在確認についてはウェッジ340の後端にスリーブ2100の後端から突出する突起342を視覚により容易に確認することができる。また、スリーブ2100とボルト310により押えプレート300が螺合により確実に接続可能であるために、この押えプレート300が所定の位置(ボルト310が雌ねじ穴2222に十分に螺合する位置)までボルト310により押え付けられることにより、セット位置の担保と脱落防止とを容易に実現することができる。
【0065】
<<第2の変形例>>
図12に示すように、本変形例に係る中間定着具は、ワイヤークリップタイプであって、ウェッジ自体の存在確認についてはウェッジが存在しないとワイヤークリップの位置が定まらないために所定の位置にワイヤークリップが存在していることを視認することにより実現しており、ウェッジのセット位置の保持(脱落防止)についてはワイヤークリップでウェッジの端部を拘束するとともにワイヤークリップ端部をスリーブに固定してウェッジとスリーブとの位置関係を決定することにより実現している。
【0066】
さらに詳しくは、
図12(A)に示すように、ワイヤークリップ400は、
図12(A)の紙面の上下方向に対称な所定の形状を備えた金属ワイヤーである。このワイヤークリップ400は、後述するスリーブ2200(より詳しくは内筒側のスリーブ片2210の)スリーブのテーパーが狭まる方向の端面に設けられた嵌合穴2212に嵌入される嵌入片402と、嵌入片402から(
図12(A)に示す平面視で)略直角に曲げられてスリーブ2200のテーパーが狭まる方向の端面に位置することになる端面片404と、端面片404から(
図12(A)に示す平面視で)略直角に曲げられてスリーブ2200の外周面(より詳しくは外筒側のスリーブ片220の外周面)に位置することになる外周面片406と、外周面片406から(
図12(A)に示す平面視で)略直角に曲げられてスリーブ2200のテーパーが広がる方向の端面に位置することになる拘束端面片408と、拘束端面片408から連続してウェッジ140のテーパーが広がる方向の端面に設けられた拘束溝148に嵌入される(
図12(F)に示す方向から見た)円弧状の拘束円弧片410とから構成される。
【0067】
このワイヤークリップ400における特徴的な構造は、スリーブ2200のテーパーが狭まる方向の端面に設けられた嵌合穴2212に嵌入される嵌入片402とウェッジ140の拘束溝148に嵌入される円弧状の拘束円弧片410とを備えることである。なお、
図12(A)の寸法Lはスリーブ2200における新設または既設のPC鋼材Bの長手方向の長さに対応している。
図12(B)に示すように、ウェッジ140は、上述した3分割タイプのウェッジ140と同じであるために同じ符号を付している。なお、
図4(B)においては、ウェッジ140に拘束溝148の符号を付していない。
【0068】
図12(C)に示すように、内筒側のスリーブ片2210は上述した内筒側のスリーブ片210にワイヤークリップ400の嵌入片402が嵌入される嵌合穴2212を備えたものである。なお、
図12(C)に示すように、外筒側のスリーブ片220は上述した外筒側のスリーブ片220と同じであるために同じ符号を付している。これらの
図12(C)に示す外筒側のスリーブ片220と
図12(D)に示す内筒側のスリーブ片2210とにより、本変形例に係る中間定着具におけるスリーブ2200が構成される。
このような構造を備えた本変形例に係る中間定着具において、ウェッジ自体の存在確認およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認方法について、
図12(F)~
図12(G)を参照して以下に説明する。
【0069】
図12(A)に示したワイヤークリップ400以外が新設または既設のPC鋼材Bに組付けられると、
図12(E)および
図12(G)に示すように、ワイヤークリップ400の嵌入片402がスリーブ2200のテーパーが狭まる方向の端面に設けられた嵌合穴2212に嵌入されるとともに、ワイヤークリップ400の拘束円弧片410がウェッジ140の拘束溝148に嵌入されるようにして、ワイヤークリップ400がセットされる。このような作業過程において、ウェッジ140自体の存在確認については所定の位置にワイヤークリップ400が存在していることを視認することでウェッジの存在を容易に確認することができる。また、ワイヤークリップ400でウェッジ140端部における拘束溝148を拘束するとともにワイヤークリップ400の端部(嵌入片402)をスリーブ(嵌合穴2212)に固定することによりウェッジとスリーブとの位置関係を決定することによりセット位置の担保と脱落防止とを容易に実現することができる。
【0070】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
たとえば、以下のような変更がその一例として挙げられる。
・既設PC鋼棒中間定着具(中間定着具30)は、新設または既設のPC鋼材Bを把持するウェッジとそのウェッジを格納するスリーブとで構成され、ウェッジとスリーブとは金属製または樹脂製であることが好ましい。
・ウェッジとスリーブとは、既設PC鋼棒に取り付け可能な構造であればよく、上述した構造は一例に過ぎない。
・ウェッジは2分割以上であればよく、スリーブは半割部品をボルトで締結できるものであってもPC鋼棒が通るスリット(切欠き部)を有するものであっても、その形状が円柱形状、中空円筒形状、中実円筒形状、角柱形状、多角柱形状であっても構わない。
【0071】
・スリーブはPC鋼棒の長手方向(材軸)に対してテーパーは1方向(中間定着具30)、または、相対する向きに2方向(中間定着具32)有していても構わない。
・スリーブおよびウェッジのテーパー角度は任意であるが、5度~15度程度が好ましい。
・スリーブおよびウェッジのPC鋼棒の長手方向の長さは任意であるが、20mm~200mm程度が好ましい。
・スリーブおよびウェッジに用いられる材料は金属であっても樹脂であっても化学繊維であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、新設または既設の緊張状態のPC鋼材に好適に使用される中間定着具およびそれを用いた中間定着工法に好ましく、作業性に優れている点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0073】
100 スリーブ
110、120 スリーブ片
140 ウェッジ
142、144、146 ウェッジ片
200 スリーブ
210、220 スリーブ片
240 ウェッジ
242、244 ウェッジ片
S スリーブ
W ウェッジ
B 新設または既設PC鋼材
【手続補正書】
【提出日】2024-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新設または既設のコンクリート構造物の中間部における緊張状態のPC鋼材に好適に用いられる中間定着具であって、
前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、
前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能なスリット部を備えるスリーブと、を含み、
前記スリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする、PC鋼材の中間定着具。
【請求項2】
前記連結部材は、前記互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、
前記雌ねじ穴に前記雄ねじが螺合されて前記壁面が連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されることを特徴とする、請求項1に記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項3】
前記スリーブにおけるテーパーが広がる方向の端面であって前記PC鋼材の長手方向に垂直な端面にて前記スリーブに接合される、平板状のプレートをさらに含み、
前記プレートは、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能、かつ、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部に設けられたウェッジ突起部が突出可能な切欠き部を備え、
前記プレートが前記スリーブの端面に接合されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ウェッジ突起部が前記プレートの切欠部から突出することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項4】
3次元形状のワイヤークリップをさらに含み、
前記ワイヤークリップは、
前記スリーブにおける、前記PC鋼材の長手方向の長さに対応する直線部と、
前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが広がる側に、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部の外周上に設けられたウェッジ溝部に嵌入される円弧部と、
前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが狭まる側に、前記スリーブにおけるテーパーが狭まる方向の端面であって前記PC鋼材の長手方向に垂直な端面に設けられたスリーブ穴部に嵌入される嵌入片と、を少なくとも備え、
前記ワイヤークリップの円弧部が前記ウェッジ溝部に嵌入されるとともに、前記ワイヤークリップの嵌入片が前記スリーブ穴部に嵌入されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ワイヤークリップの直線部が前記スリーブの外周に沿って配置されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のPC鋼材の中間定着具。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の中間定着具を用いた中間定着方法であって、
前記中間定着具により定着するPC鋼材がコンクリートに埋設されている場合にはコンクリートを斫って、前記緊張状態のPC鋼材を露出させる露出ステップと、
前記ウェッジのテーパーが狭まる方向が圧縮力を導入するコンクリートの方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記緊張状態のPC鋼材に装着するウェッジ装着ステップと、
前記スリーブのテーパーが狭まる方向が前記圧縮力を導入するコンクリートの方向になるように、前記PC鋼材に装着可能な構造を備えたスリーブを前記緊張状態のPC鋼材に装着するスリーブ装着ステップと、
前記スリーブを前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能させるスリーブ機能化ステップと、
前記分割された状態で前記緊張状態のPC鋼材に装着された2以上のウェッジ片を、前記ウェッジのテーパーの向きと前記スリーブのテーパーの向きとを一致させて、スリーブとして機能させた前記スリーブに挿入する挿入ステップとを含む、PC鋼材の中間定着工法。
【請求項6】
前記挿入ステップは、前記ウェッジを前記スリーブに、ジャッキを用いることなく作業者の手作業により挿入するステップを含む、請求項5に記載のPC鋼材の中間定着工法。