(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096932
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/031 20120101AFI20240709BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F16H57/031
H02K7/116
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066650
(22)【出願日】2024-04-17
(62)【分割の表示】P 2022570037の分割
【原出願日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020209986
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮平
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真治
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型化や製造コストの低減可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】ケース(1)は、回転電機(MG)及びギヤ(G)を収容する第1収容室(5)とインバータ装置(INV)を収容する第2収容室(3)とを形成するケース本体(11)とカバー部材(12)とを備える。カバー部材(12)は、ケース本体(11)に対して軸方向第2側(L2)に接合されて第1収容室(5)の軸方向第2側(L2)を覆うように配置される。ケース本体(11)は、第1収容室(5)と第2収容室(3)とを区画する区画壁部(70)と、第1収容室(5)の径方向(R)の外側を覆う周壁部(61)と、第2収容室(5)の軸方向第1側(L1)を覆う軸方向壁部(62)とを備え、これら区画壁部(70)と周壁部(61)と軸方向壁部(62)とが一体形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、
前記回転電機からの動力伝達経路に設けられた複数のギヤと、
前記回転電機から複数の前記ギヤを介して伝達される駆動力を複数の車輪に分配する差動歯車機構と、
前記回転電機を駆動制御するインバータ装置と、
ケースと、を備え、
前記回転電機の回転軸に沿う方向を軸方向として、
前記ケースは、前記回転電機及び複数の前記ギヤを収容する第1収容室と前記インバータ装置を収容する第2収容室とを形成するケース本体と、前記ケース本体に対して前記軸方向に接合されて前記第1収容室を塞ぐカバー部材と、を備え、
前記軸方向における、複数の前記ギヤに対して前記回転電機が配置されている側を軸方向第1側とし、その反対側を軸方向第2側として、
前記カバー部材は、前記ケース本体に対して前記軸方向第2側に接合されて、前記第1収容室の前記軸方向第2側を覆うように配置され、
前記ケース本体は、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する区画壁部と、前記第1収容室の径方向外側を覆う周壁部と、前記第1収容室の前記軸方向第1側を覆う軸方向壁部とを備え、前記区画壁部と前記周壁部と前記軸方向壁部とが一体形成されている、車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と、複数のギヤと、差動歯車機構と、インバータ装置と、ケースとを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-229174号公報には、そのような車両用駆動装置の一例として、回転電機(3)と減速機(11)とインバータ装置(4)とを備えた機電一体型ユニット(1)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。減速機(11)は、回転電機(3)の駆動力を車輪へ伝達する伝達機構である。回転電機(3)及びインバータ装置(4)は、回転電機ハウジング部(21)とインバータハウジング部(22)とを一体的に有する共通ハウジング(2)に収容されており、減速機(11)は共通ハウジング(2)とは別体の減速機ハウジング(11a)に収容されている。インバータ装置(4)は回転電機(3)を収容する回転電機ハウジング部(21)の上方に配置されたインバータハウジング部(22)に収容されている。共通ハウジング(2)は軸方向(X方向)の一方側で減速機ハウジング(11a)に接合され、他方側でエンドプレート(10)に接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の機電一体型ユニットでは、インバータハウジング部の軸方向に沿った大きさは、共通ハウジングと減速機ハウジングとの合わせ面、及び共通ハウジングとエンドプレートとの合わせ面により制限を受ける。つまり、インバータを収容する収容室のレイアウトは、車両用駆動装置のケースの分割面に依存する。また、ケースの合わせ面が軸方向の両側にあるため、ケースを固定するための締結部材や、ケースを密閉するためのシール部材の必要数が増加し、車両用駆動装置の体格の大型化やコスト増加を招く可能性がある。
【0005】
上記に鑑みて、車両用駆動装置の小型化や製造コストの低減が可能な技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた車両用駆動装置は、回転電機と、前記回転電機からの動力伝達経路に設けられた複数のギヤと、前記回転電機から複数の前記ギヤを介して伝達される駆動力を複数の車輪に分配する差動歯車機構と、前記回転電機を駆動制御するインバータ装置と、ケースと、を備え、前記回転電機の回転軸に沿う方向を軸方向として、前記ケースは、前記回転電機及び複数の前記ギヤを収容する第1収容室と前記インバータ装置を収容する第2収容室とを形成するケース本体と、前記ケース本体に対して前記軸方向に接合されて前記第1収容室を塞ぐカバー部材と、を備え、前記軸方向における、複数の前記ギヤに対して前記回転電機が配置されている側を軸方向第1側とし、その反対側を軸方向第2側として、前記カバー部材は、前記ケース本体に対して前記軸方向第2側に接合されて、前記第1収容室の前記軸方向第2側を覆うように配置され、前記ケース本体は、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する区画壁部と、前記第1収容室の径方向外側を覆う周壁部と、前記第1収容室の前記軸方向第1側を覆う軸方向壁部とを備え、前記区画壁部と前記周壁部と前記軸方向壁部とが一体形成されている。
【0007】
この構成によれば、ケース本体とカバー部材との接合面が軸方向における一方向側のみとなるので、第2収容室を軸方向に広く形成し易くなる。これにより、インバータ装置の軸方向の配置領域を広く確保し易くなる。その結果、第2収容室を軸方向に直交する方向(例えば上下方向)に広げることが抑制され、車両用駆動装置の大型化が抑制される。また、第1収容室と第2収容室とを形成するケース本体が一体形成されていると共に、ケース本体とカバー部材とによって第1収容室を形成することができるので、ケースを構成する部品点数を少なく抑えることができる。即ち、本構成によれば、車両用駆動装置の小型化や製造コストの低減が可能となる。
【0008】
さらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】回転電機を駆動する電気系統の模式的回路ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1から
図3に示すように、車両用駆動装置100は、第1軸A1上に配置された回転電機MGと、第1軸A1と互いに平行な別軸である第2軸A2上に配置され、車輪Wと駆動連結される出力部材OUTと、回転電機MGからの動力伝達経路に設けられて、回転電機MGからの駆動力が伝達される複数のギヤGと、回転電機MGから複数のギヤGを介して伝達される駆動力を車輪に分配する差動歯車機構DFとを備えている。尚、
図1の断面図では、出力部材OUTは省略している。複数のギヤGには、カウンタギヤ機構CGを構成するギヤも含む。また、カウンタギヤ機構CGは、第1軸A1及び第2軸A2に平行な別軸である第3軸A3上に配置されている。車両用駆動装置100には、動力発生装置としての回転電機MGと、車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、回転電機MGの側から順に、カウンタギヤ機構CGを含む複数のギヤG、差動歯車機構DFが設けられている。
【0011】
上述したように、回転電機MGの軸心(第1軸A1)と出力部材OUTの軸心(第2軸A2)とは、互いに平行な別軸に配置されている。尚、差動歯車機構DFの軸心も第2軸A2である。カウンタギヤ機構CGの軸心(第3軸A3)は、第1軸A1及び第2軸A2に平行に配置されている。即ち、第1軸A1、第2軸A2及び第3軸A3は、互いに異なる仮想軸であり、互いに平行に配置されている。
【0012】
以下の説明においては、第1軸A1に平行な方向を軸方向Lとする。第1軸A1と第2軸A2とは互いに平行であるから、軸方向Lは第2軸A2にも平行な方向である。また、第3軸A3も、第1軸A1及び第2軸A2と互いに平行であるから、軸方向Lは第3軸A3にも平行な方向である。軸方向Lにおける一方側(本実施形態では、複数のギヤGに対して回転電機MGが配置される側)を「軸方向第1側L1」とし、その反対側を「軸方向第2側L2」とする。
【0013】
また、上記の第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。尚、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合やどの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。また、車両用駆動装置100が車両に取り付けられた状態で鉛直方向に沿う方向を「上下方向V」とする。また、本実施形態では、上下方向Vの一方側である上下方向第1側V1が上方であり、他方側である上下方向第2側V2が下方である。水平面に平行な状態で車両用駆動装置100が車両に取り付けられる場合には、径方向Rの1方向と上下方向Vとが一致する。
【0014】
また、軸方向L及び上下方向Vに直交する方向を「幅方向H」と称する。また、幅方向Hの一方側を幅方向第1側H1、他方側を幅方向第2側H2と称する。上下方向Vと同様に、径方向Rの1方向と幅方向Hとも一致する。尚、以下の説明では、各部材についての方向や位置等に関する用語は、製造上許容され得る誤差による差異を有する状態をも含む概念である。また、各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置100に組み付けられた状態での方向を表す。本実施形態では、幅方向Hは、車両用駆動装置100が車両に取り付けられた状態での車両の前後方向に相当する。尚、
図2は、軸方向第2側L2から見たケース本体11とカバー部材12との合わせ面及び締結部54の断面を示している(ケース本体11、カバー部材12、締結部54につては後述する)。
【0015】
車両用駆動装置100は、回転電機MGを駆動制御するインバータ装置INVと、回転電機MG、複数のギヤG、差動歯車機構DF、インバータ装置INVを収容するケース1とを備えている(
図1、
図2参照)。ケース1は、回転電機MG及び複数のギヤGを収容する機器収容室5(第1収容室)と、インバータ装置INVを収容するインバータ収容室3(第2収容室)とを形成するケース本体11を備えている。また、ケース1は、ケース本体11に対して軸方向Lに接合されて機器収容室5を塞ぐカバー部材12と、機器収容室5の内部に配置されてケース本体11に固定された区画部材13とを備えている。尚、機器収容室5には、差動歯車機構DF、出力部材OUTの一部も収容されている。また、機器収容室5とインバータ収容室3とは、後述する区画壁部70によって区画されており、機器収容室5は、カバー部材12と、ケース本体11の区画壁部70とによって囲われた空間として形成されている。ケース本体11は、機器収容室5とインバータ収容室3とを区画する区画壁部70と、機器収容室5の径方向Rの外側を覆う周壁部61と、機器収容室5の軸方向第1側L1を覆う軸方向壁部62を備え、区画壁部70と周壁部61と軸方向壁部62とが一体形成されている。ここで、「一体形成」とは、例えば1つの金型鋳造品(die casting)として、共通の材料により形成された一体部材のことを言う。
【0016】
インバータ収容室3は、上下方向Vに沿って区画壁部70から立設された側壁部7と、側壁部7の上下方向第1側V1の端部に接合される蓋部材79と、ケース本体11の区画壁部70とによって囲われた空間として形成されている。区画壁部70は、機器収容室5とインバータ収容室3とを上下方向Vにおいて区画している。
【0017】
回転電機MGは、複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機(Motor/Generator)であり、電動機としても発電機としても機能することができる。
図4に示すように、回転電機MGは、高圧バッテリBH(高圧直流電源)から電力の供給を受けて力行し、又は、車両の慣性力により発電した電力を高圧バッテリBHに供給する(回生する)。
【0018】
回転電機MGは、ケース1などに固定されたステータ81と、当該ステータ81の径方向内側に回転自在に支持されたロータ82とを有する。ステータ81は、ステータコア81cとステータコア81cに巻き回されたステータコイル83とを含み、ロータ82は、ロータコアとロータコアに配置された永久磁石とを含む。回転電機MGのロータ82は、入力ギヤG1に駆動連結されている。入力ギヤG1は、回転電機MGから差動歯車機構DFに駆動力を伝達する複数のギヤGの1つであり、回転電機MGのロータ82と一体回転するようにロータ82に連結された第1ギヤに相当する。また、入力ギヤG1は、カウンタギヤ機構CGに駆動連結されている。より詳しくは、入力ギヤG1は、カウンタギヤ機構CGのカウンタドリブンギヤG2(第3ギヤ)に噛み合っている。
【0019】
図1から
図3に示すように、カウンタギヤ機構CGは、第1軸A1及び第2軸A2と平行な第3軸A3上に配置され、入力ギヤG1を介して回転電機MGと差動歯車機構DFとを駆動連結している。本実施形態では、カウンタギヤ機構CGが配置される第3軸A3は、第1軸A1と第2軸A2と結ぶ仮想面よりも上下方向Vにおいて下方(上下方向第2側V2)に配置されている(
図2参照)。
【0020】
カウンタギヤ機構CGは、軸部材によって連結された2つのギヤ(カウンタドリブンギヤG2、カウンタドライブギヤG3)を有する。即ち、カウンタギヤ機構CGは、第3軸A3上に配置され、入力ギヤG1(第1ギヤ)に噛み合うカウンタドリブンギヤG2(第3ギヤ)と、このカウンタドリブンギヤG2と一体的に回転すると共に後述する差動入力ギヤG4(第2ギヤ)に噛み合うカウンタドライブギヤG3(第4ギヤ)とを備えている。本実施形態では、軸方向Lにおいて、カウンタドリブンギヤG2(第3ギヤ)よりも回転電機MGの側にカウンタドライブギヤG3(第4ギヤ)が配置されている。
【0021】
尚、軸方向Lにおいて、カウンタドライブギヤG3(第4ギヤ)よりも回転電機MGの側にカウンタドリブンギヤG2(第3ギヤ)が配置されている構成を妨げるものではない。また、カウンタギヤ機構CGが配置される第3軸A3が、第1軸A1と第2軸A2と結ぶ仮想面よりも上下方向Vにおいて上方(上下方向第1側V1)に配置されている構成を妨げるものでもない。
【0022】
差動歯車機構DFは、出力部材OUTを介して車輪Wに駆動連結されている。差動歯車機構DFは、互いに噛合する複数の傘歯車を含んで構成され、差動入力ギヤG4(第2ギヤ)に入力される回転及びトルクを、第1サイドギヤS1及び第2サイドギヤS2を介して一対の出力部材OUT(即ち、一対の車輪W)に分配して伝達する。差動歯車機構DFと一体回転するように連結された差動入力ギヤG4は、回転電機MGから差動歯車機構DFに駆動力を伝達する複数のギヤGの1つであり、差動歯車機構DFに連結されて回転電機MGからの駆動力を差動歯車機構DFに伝達する。差動歯車機構DFは、差動入力ギヤG4を介して伝達された回転電機MGの駆動力を2つの出力部材OUTに分配する。これにより、車両用駆動装置100は、回転電機MGのトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させることができる。尚、当然ながら、第1サイドギヤS1及び第2サイドギヤS2は、差動歯車機構DFに含まれ、出力部材OUTには含まれない。
【0023】
上述したように、ケース本体11には、別部材として構成された区画部材13が機器収容室5を区切るように固定されている。区画部材13を有することによって、一体形成されたケース本体11において、回転電機収容室2とギヤ収容室4とを適切に形成することができる。回転電機収容室2が形成されたケース部材と、ギヤ収容室4が形成されたケース部材とを備える形態に比べて、ケース1の部品点数を少なく抑えることができる。また、区画部材13は、回転電機MG、入力部材IN、カウンタギヤ機構CGを支持する支持部材としても機能する。
【0024】
図1に示すように、回転電機MGのロータ軸82aは、軸方向第1側L1及び軸方向第2側L2の双方において軸受Bによって回転可能に支持されている。軸方向第1側L1の軸受Bは、ケース本体11に支持されており、軸方向第2側L2の軸受Bは、区画部材13によって支持されている。また、ロータ軸82aに連結された入力部材INは、軸方向第1側L1において軸受Bを介して区画部材13に支持され、軸方向第2側L2において軸受Bを介してカバー部材12に支持されている。カウンタギヤ機構CGも同様に、軸方向第1側L1において軸受Bを介して区画部材13に支持され、軸方向第2側L2において軸受Bを介してカバー部材12に支持されている。このように、区画部材13が支持部材として機能することにより、支持部材を設置する空間を機器収容室5内に別途設ける必要がなく、車両用駆動装置100の大型化が抑制される。
【0025】
図4に示すように、回転電機MGは、インバータ装置INVにより駆動制御される。このインバータ装置INVもケース1(ケース本体11)内に収容されている。インバータ装置INVは、直流電力と複数相の交流電力との間で電力を変換するインバータ回路60を備えている。インバータ回路60は、交流の回転電機MG及び高圧バッテリBHに接続されて、複数相(ここではU相、V相、W相の3相)の交流と直流との間で電力を変換する。高圧バッテリBHは、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。回転電機MGが、車両の駆動力源の場合、高圧バッテリBHは、大電圧大容量の直流電源であり、定格の電源電圧は、例えば200~400[V]である。インバータ回路60には、直流の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の電圧(直流リンク電圧)を平滑する直流リンクコンデンサ64(平滑コンデンサ)が備えられている。直流リンクコンデンサ64は、回転電機MGの消費電力の変動に応じて変動する直流リンク電圧を安定化させる。
【0026】
インバータ回路60は、複数のスイッチング素子を有して構成されている。具体的には、インバータ回路60は、上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成された交流1相分のアームを複数本(ここでは3本)備えている。スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC-MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。
図4に示すように、本実施形態では、スイッチング素子としてIGBTが用いられる形態を例示している。本実施形態では、フリーホイールダイオードも含め、インバータ回路60が1つのパワーモジュールに一体化されてスイッチング素子モジュールが構成されている。
【0027】
図4に示すように、インバータ回路60は、インバータ制御装置65(M-CTRL)により制御される。インバータ制御装置65は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。インバータ制御装置65は、回転電機MGの目標トルクに基づいて、公知のベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ回路60を介して回転電機MGを制御する。回転電機MGの目標トルクは、例えば、車両内の上位の制御装置の1つである車両制御装置91(VCL-CTRL)等の他の制御装置等から要求信号として提供される。回転電機MGの各相のステータコイル83を流れる実電流は電流センサ84により検出される。また、回転電機MGのロータの各時点での磁極位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ85により検出される。
【0028】
インバータ制御装置65は、電流センサ84及び回転センサ85の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。インバータ制御装置65は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。
【0029】
車両制御装置91やインバータ制御装置65は、高圧バッテリBHよりも低電圧(例えば12~24[V])の電源である低圧バッテリBL(低圧直流電源)から電力を供給されて動作する低圧系回路である。このため、インバータ制御装置65には、各スイッチング素子に対するスイッチング制御信号(IGBTの場合、ゲート駆動信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する駆動回路が備えられている。インバータ制御装置65は、1枚、又は複数の基板に、上述したようなマイクロコンピュータ、その周辺回路、並びに駆動回路を構成する回路部品が実装されて構成されている。
【0030】
インバータ装置INVは、上述したようなインバータ制御装置65、直流リンクコンデンサ64、インバータ回路60(パワーモジュール)を含んだユニットとして構成されている。ユニットとしてのインバータ装置INVは、インバータ収容室3(第2収容室)に配置され、ボルト等の締結部材によってケース1に固定されている。尚、本明細書において、「インバータ装置INVと重複する」と称する場合、これらインバータ装置INVの構成要素の何れか1つ以上と重複する状態を言う。
【0031】
上述したように、本実施形態の車両用駆動装置100は、回転電機MGと、回転電機MGからの動力伝達経路に設けられた複数のギヤGと、回転電機MGから複数のギヤGを介して伝達される駆動力を複数の車輪Wに分配する差動歯車機構DFと、回転電機MGを駆動制御するインバータ装置INVと、ケース1とを備えている。ケース1は、回転電機MG及び複数のギヤGを収容する機器収容室5(第1収容室)とインバータ装置INVを収容するインバータ収容室3(第2収容室)とを形成するように一体形成されたケース本体11と、ケース本体11に対して軸方向Lに接合されて機器収容室5を塞ぐカバー部材12と、機器収容室5の内部に配置されてケース本体11に固定された区画部材13とを備えている。区画部材13は、機器収容室5を軸方向Lに区画して、回転電機MGを収容する回転電機収容室2と、複数のギヤGを収容するギヤ収容室4とを形成している。区画部材13は、
図2に示すように、幅方向Hに延在している。区画部材13は、ケース本体11とは別体の部材であり、区画部材締結部材18によってケース本体11に固定されている。区画部材13は、
図2に示すように、幅方向Hに延在している。換言すれば、区画部材13は、径方向Rに沿って延在する板状に形成されている。
【0032】
カバー部材12は、ケース本体11に対して軸方向第2側L2に接合されて、ギヤ収容室4の軸方向第2側L2を覆うように配置されている。カバー部材12は、接合面9においてケース本体11と接合され、カバー部材締結部材17によってケース本体11に固定されている。ケース本体11は、回転電機収容室2の径方向Rの外側を覆う周壁部61と、回転電機収容室2の軸方向第1側L1を覆う軸方向壁部62を備え、周壁部61と軸方向壁部62とが一体形成されている。ケース本体11における、機器収容室5とインバータ収容室3とを区画する区画壁部70の軸方向第1側L1の端部(区画壁部軸方向第1側端部70t)は、回転電機MGの軸方向第1側L1の端部(回転電機軸方向第1側端部MGt)よりも軸方向第1側L1に配置されている。尚、回転電機軸方向第1側端部MGtは、回転電機MGのステータコイル83のコイルエンド部の軸方向第1側L1の端部である。
【0033】
ケース本体11とカバー部材12との接合面9が軸方向Lにおける一方向側のみとなるので、インバータ収容室3を軸方向Lにおいて広く形成し易くなる。これにより、インバータ装置INVの軸方向Lの配置領域を広く確保し易くなる。その結果、インバータ収容室3を軸方向Lに直交する方向(例えば上下方向V)に広げることが抑制され、車両用駆動装置100の大型化が抑制される。また、機器収容室5とインバータ収容室3とを形成するようにケース本体11が一体形成されていると共に、ケース本体11とカバー部材12とによって機器収容室5を形成することができるので、ケース1を構成する部品点数を少なく抑えることができる。
【0034】
尚、回転電機収容室2とギヤ収容室4とは、区画部材13によって厳密に区画されるものではなく、両収容室は部分的に連通している。区画部材13よりも軸方向第1側L1に回転電機MGが配置されて回転電機収容室2が形成され、区画部材13よりも軸方向第2側L2に複数のギヤGが配置されてギヤ収容室4が形成される。
【0035】
上述したように、機器収容室5は、回転電機MGを収容する回転電機収容室2と、複数のギヤGを収容するギヤ収容室4とを有している。そして、ケース1は、軸方向Lにおいて回転電機収容室2とギヤ収容室4との間に配置されてケース本体11に固定された区画部材13を備えている。区画部材13によって、一体形成されたケース本体11において、複数の収容室が適切に形成される。
【0036】
また、回転電機MGのロータ82は、軸方向壁部62及び区画部材13により支持されている。即ち、ロータ82は、軸方向第1側L1においては、支持壁として機能する軸方向壁部62に支持され、軸方向第2側L2においては、支持壁として機能する区画部材13により支持される。このように、ロータ82は、ケース1を構成する堅固な支持壁によって適切に支持される。
【0037】
また、上述したように、区画壁部70の軸方向第1側L1の端部(区画壁部軸方向第1側端部70t)は、回転電機MGのステータ81の軸方向第1側L1の端部(ステータコア81cの端部、或いはステータコイル83のコイルエンド部の端部)よりも軸方向第1側に配置されている。同様に、区画壁部70の軸方向第1側L1の端部(区画壁部軸方向第1側端部70t)は、回転電機MGのロータ82の軸方向第1側L1の端部(ロータコアの端部)よりも軸方向第1側に配置されている。即ち、インバータ収容室3を軸方向Lにおいて広く形成でき、インバータ装置INVの軸方向Lの配置領域を確保し易くなっている。
【0038】
軸方向Lにおける区画壁部70の配置領域は、軸方向Lにおける区画部材13の配置領域と重複するように配置されている。即ち、区画壁部70は、区画部材13を挟んで軸方向Lの両側に形成されている。区画壁部70が区画部材13を挟んで軸方向Lの両側に形成されているので、機器収容室5の剛性、インバータ収容室3の剛性、区画壁部70の剛性を確保し易い。なお、本明細書において、2つの部材の配置に関して、「特定方向における配置領域が重複する」とは、2つの部材の当該特定方向における位置が同じとなる部分が2つの部材のそれぞれの少なくとも一部に存在することを指す。
【0039】
当然ながら、機器収容室5、インバータ収容室3、区画壁部70等の剛性を充分に確保可能な場合などでは、軸方向Lにおける区画壁部70の配置領域が軸方向Lにおける区画部材13の配置領域と重複していなくてもよい。
【0040】
また、軸方向Lにおける区画壁部70の配置領域は、更に複数のギヤGの少なくとも一部の軸方向Lにおける配置領域と重複するように配置されている。区画壁部70がこのように配置されていると、軸方向Lの広い範囲にインバータ収容室3を形成することができる。即ち、ギヤ収容室4の上方にも区画壁部70が確保され、その分、軸方向Lに沿って十分な広さを有するインバータ収容室3を形成することができる。当然ながら、インバータ収容室3の広さを充分に確保可能な場合には、軸方向Lにおける区画壁部70の配置領域が、ギヤGの軸方向Lにおける配置領域と重複していなくてもよい。
【0041】
インバータ回路60と回転電機MGとは、インバータ回路60に電気的に接続されたインバータ側バスバー51と、ステータコイル83に電気的に接続された回転電機側バスバー53とが、コネクタなどの接続部材52によって電気的に接続されることによって、電気的に接続されている。回転電機MGとインバータ装置INVとを電気的に接続するための接続部材52の締結部54は、機器収容室5に配置されている。
図2に示すように、この締結部54において、軸方向Lに沿うバスバー締結部材55により締結されて回転電機MGの側の端子(回転電機側バスバー53)とインバータ装置INVの側の端子(インバータ側バスバー51)とが電気的に接続される。
【0042】
ここで、区画部材13は、軸方向Lに沿って、締結部54と重複しないように配置されている。換言すれば、接続部材52が締結部54において締結された状態において、区画部材13は、軸方向Lに沿って締結部54と重複しないように配置されている。つまり、区画部材13は、軸方向Lに沿う軸方向視で、締結部54と重複しないように配置されている。本実施形態では、区画部材13は、機器収容室5の内部に配置されている。或いは、区画部材13は、回転電機MGの径方向Rの外側に配置されているとも言える。また、本実施形態では、区画部材13は、差動歯車機構DFの径方向Rの外側に配置されているということもできる。尚、本明細書において、2つの部材の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が存在することを指す。
【0043】
このように、軸方向視で区画部材13が締結部54と重複しないように配置されていることにより、機器収容室5の中に配置される締結部54が、ケース本体11において開口する側(軸方向第2側L2)から視認可能であるから、締結部54の状態を確認し易い。また、締結部54において接続部材52を締結するための作業も実施し易い。ケース本体11の開口が、軸方向Lの一方側だけであっても、生産性やメンテナンスの容易性が損なわれない。
【0044】
尚、区画部材13が、軸方向L視で締結部54と重複して配置されている形態を妨げるものではない。例えば、区画部材13において、軸方向L視で締結部54と重複する位置に開口部(例えばサービスホールと称される)を設けることによって、当該開口部を介して締結部54における締結作業を軸方向第2側L2から行うようにしてもよい。或いは、軸方向第1側L1に締結部54を設け、ケース本体11の軸方向壁部62にサービスホールとなる開口部を設けて、締結部54における締結作業を軸方向第1側L1から行うように構成されていてもよい。尚、このような開口部(サービスホール)が設けられる場合には、当該開口部を塞ぐ蓋部材が備えられていると好適である。
【0045】
また、バスバー締結部材55は、軸方向第2側L2から挿入されてバスバー締結部材55の頭部が軸方向第2側L2に位置して、接続部材52の締結部54に締結される向きに配置されている。上述したように、ケース本体11は軸方向第2側L2が開放されている。また、締結部54よりも軸方向第2側L2に配置されている区画部材13は、軸方向Lに沿ってバスバー締結部材55(締結部54)と重複していない。即ち、区画部材13は、軸方向Lに沿う軸方向視でバスバー締結部材55(締結部54)と重複していない。従って、ケース本体11にカバー部材12を取り付ける前に軸方向第2側L2から容易にバスバー締結部材55により、インバータ装置INVと回転電機MGとを電気的に接続することができる。
【0046】
また、本実施形態では、インバータ装置INVの端子(インバータ側バスバー51)が、軸方向Lにおいてインバータ装置INVの軸方向第1側L1に配置され、回転電機MGのステータコイル83に接続された端子(回転電機側バスバー53)が、軸方向Lにおいて回転電機MGの軸方向第1側L1に配置されている。より具体的には、インバータ装置INVの端子(インバータ側バスバー51)が回転電機MGのステータコア81cに対して軸方向第1側L1に配置され、回転電機MGのステータコイル83に接続された端子(回転電機側バスバー53)が、ステータコア81cに対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0047】
本実施形態では、インバータ装置INVの端子(インバータ側バスバー51)と、回転電機MGのステータコイル83に接続された端子(回転電機側バスバー53)との双方が、ステータコア81cに対して軸方向Lにおける同じ側、ここでは軸方向第1側L1に配置されている。従って、短い配線距離で両者を電気的に接続することができる。
【0048】
当然ながら、インバータ側バスバー51が、ステータコア81cに対して軸方向第2側L2に配置されている場合もあり、この場合には、インバータ側バスバー51と回転電機側バスバー53との双方が、ステータコア81cに対して軸方向第2側L2に配置されていると好適である。但し、これらの例のように、インバータ側バスバー51と回転電機側バスバー53との双方が、ステータコア81cに対して軸方向Lにおける同じ側ではなく、互いに異なる側に配置される形態を妨げるものではない。例えば、インバータ側バスバー51がステータコア81cに対して軸方向第1側L1に配置され、回転電機側バスバー53がステータコア81cに対して軸方向第2側L2に配置されていてもよい。或いは、インバータ側バスバー51がステータコア81cに対して軸方向第2側L2に配置され、回転電機側バスバー53がステータコア81cに対して軸方向第1側L1に配置されていてもよい。配線距離は長くなるが、配線距離が長くなることによるインピーダンスの増加が許容可能な場合には、このような構成であってもよい。
【0049】
また、ケース本体11においてインバータ収容室3を形成する部分は、ケース本体11とカバー部材12との接合面9よりも軸方向Lにおけるカバー部材12の側に張り出していると共に軸方向Lに直交する方向(上下方向V、径方向R)に接合面9から離間している張り出し部19を有する。換言すれば、張り出し部19は、接合面9を軸方向Lに沿って跨いでおり、接合面9と径方向R視で重複する。
【0050】
このように、ケース本体11が張り出し部19を有することによって、ケース本体11とカバー部材12との接合面9よりも軸方向第2側L2にまでインバータ収容室3(第2収容室)を設けることができる。従って、インバータ収容室3の容積を確保し易い。当然ながら、インバータ収容室3の広さを充分に確保可能な場合には、上記のようにケース本体11が張り出し部19を備えていなくてもよい。
【0051】
また、上述したように、複数のギヤGは、回転電機MGのロータ82と一体回転するように駆動連結された第1ギヤとしての入力ギヤG1と、差動歯車機構DFに連結されて回転電機MGからの駆動力を伝達する第2ギヤとしての差動入力ギヤG4とを含む。そして、回転電機MG及び入力ギヤG1は、第1軸A1上に配置され、差動歯車機構DF及び差動入力ギヤG4は、第1軸A1と互いに平行な別軸である第2軸A2に配置されている。さらに、第1軸A1及び第2軸A2と平行な第3軸A3上に配置されたカウンタギヤ機構CGは、入力ギヤG1に噛み合う第3ギヤとしてのカウンタドリブンギヤG2と、このカウンタドリブンギヤG2と一体回転すると共に差動入力ギヤG4と噛み合う第4ギヤとしてのカウンタドライブギヤG3とを備えている。
図1に示すように、軸方向Lにおける区画壁部70の配置領域は、軸方向Lにおける回転電機MGの配置領域の全体と重複すると共に、軸方向Lにおける入力ギヤG1の配置領域及び差動入力ギヤG4の配置領域の双方と重複するように配置されている。
【0052】
このように、区画壁部70の配置領域を軸方向Lに広く確保することにより、軸方向Lの広い範囲にインバータ収容室3を形成することができる。これにより、、軸方向Lにおいてインバータ収容室3の容量を確保し易くなるため、インバータ収容室3を軸方向Lに直交する方向(例えば上下方向V)に広げる必要性が低下する。その結果、軸方向Lに直交する方向に、車両用駆動装置100が大型化することを抑制することができる。
【0053】
尚、上記の形態に限らず、軸方向Lにおける区画壁部70の配置領域は、軸方向Lにおける回転電機MGの配置領域の全体と重複せず、その一部と重複するように配置されていても良い。また、軸方向Lにおける区画壁部70の配置領域は、軸方向Lにおける入力ギヤG1の配置領域及び差動入力ギヤG4の配置領域の双方と重複せず、これらの一方のみと重複するように配置されていても良い。
【0054】
また、上述したように、本実施形態では、カウンタギヤ機構CGが配置される第3軸A3は、第1軸A1と第2軸A2と結ぶ仮想面よりも上下方向Vにおいて下方(上下方向第2側V2)に配置されている。これにより、上下方向Vにおける上方(上下方向第1側V1)に空間を確保し易くなり、例えば、インバータ側バスバー51と回転電機側バスバー53とを電気的に接続する接続部材52が配置し易くなっている。
【0055】
尚、カウンタギヤ機構CGが配置される第3軸A3が、第1軸A1と第2軸A2と結ぶ仮想面よりも上下方向Vにおいて上方(上下方向第1側V1)に配置される場合には、相対的に径の小さいギヤ(この場合は、カウンタドライブギヤG3)の径方向Rの外側に接続部材52が配置されると好適である。
【0056】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0057】
(1)上記においては、第1軸A1に回転電機MG、第2軸A2に差動歯車機構DF、第3軸A3にカウンタギヤ機構CGが配置された3軸の車両用駆動装置100を例示した。しかし、車両用駆動装置100は、回転電機MG、差動歯車機構DF、カウンタギヤ機構CGが同軸配置された構成であってもよい。また、車両用駆動装置100は、第1軸A1,第2軸A2の2軸が平行に配置された2軸であってもよい。また、車両用駆動装置100は、第1軸A1,第2軸A2,第3軸A3とは異なる1つ以上の軸がさらに平行に配置され、4軸以上が平行に配置された構成であってもよい。
【0058】
(2)上記においては、車輪Wの駆動力源として回転電機MGを備えた電気自動車用の車両用駆動装置100を例示して説明したが、車両用駆動装置100は、車両の車輪Wの駆動力源として内燃機関及び回転電機MGの双方を備えたハイブリッド駆動装置(例えば、いわゆる1モータパラレル方式や2モータスプリット式等の各種形式のハイブリッド駆動装置)であってもよい。
【0059】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置(100)の概要について簡単に説明する。
【0060】
1つの態様として、車両用駆動装置(100)は、
回転電機(MG)と、
前記回転電機(MG)からの動力伝達経路に設けられた複数のギヤ(G)と、
前記回転電機(MG)から複数の前記ギヤ(G)を介して伝達される駆動力を複数の車輪(W)に分配する差動歯車機構(DF)と、
前記回転電機(MG)を駆動制御するインバータ装置(INV)と、
ケース(1)と、を備え、
前記回転電機(MG)の回転軸に沿う方向を軸方向(L)として、
前記ケース(1)は、前記回転電機(MG)及び複数の前記ギヤ(G)を収容する第1収容室(5)と前記インバータ装置(INV)を収容する第2収容室(3)とを形成するケース本体(11)と、前記ケース本体(11)に対して前記軸方向(L)に接合されて前記第1収容室(11)を塞ぐカバー部材(12)と、を備え、
前記軸方向(L)における、複数の前記ギヤ(G)に対して前記回転電機(MG)が配置されている側を軸方向第1側(L1)とし、その反対側を軸方向第2側(L2)として、
前記カバー部材(12)は、前記ケース本体(11)に対して前記軸方向第2側(L2)に接合されて、前記第1収容室(11)の前記軸方向第2側(L2)を覆うように配置され、
前記ケース本体(11)は、前記第1収容室(5)と前記第2収容室(3)とを区画する区画壁部(70)と、前記第1収容室(5)の径方向外側を覆う周壁部(61)と、前記第1収容室(5)の前記軸方向第1側(L1)を覆う軸方向壁部(62)とを備え、前記区画壁部(70)と前記周壁部(61)と前記軸方向壁部(62)とが一体形成されている。
【0061】
この構成によれば、ケース本体(11)とカバー部材(12)との接合面(9)が軸方向(L)における一方向側のみとなるので、第2収容室(3)を軸方向(L)に広く形成し易くなる。これにより、インバータ装置(INV)の軸方向(L)の配置領域を広く確保し易くなる。その結果、第2収容室(3)を軸方向(L)に直交する方向(例えば上下方向)に広げることが抑制され、車両用駆動装置(100)の大型化が抑制される。また、第1収容室(5)と第2収容室(3)とを形成するケース本体(11)が一体形成されていると共に、ケース本体(11)とカバー部材(12)とによって第1収容室(5)を形成することができるので、ケース(1)を構成する部品点数を少なく抑えることができる。即ち、本構成によれば、車両用駆動装置(100)は、の小型化や製造コストの低減が可能となる。
【0062】
また、前記第1収容室(5)は、前記回転電機(MG)を収容する回転電機収容室(2)と、複数の前記ギヤ(G)を収容するギヤ収容室(4)と、を有し、前記ケース(1)は、前記軸方向(L)において前記回転電機収容室(2)と前記ギヤ収容室(4)との間に配置されて前記ケース本体(11)に固定された区画部材(13)を備えると好適である。
【0063】
区画部材(13)によって、一体形成されたケース本体(11)において複数の収容室が適切に形成される。
【0064】
また、前記回転電機(MG)がロータ(82)を備え、前記ロータ(82)が、前記軸方向壁部(62)及び前記区画部材(13)により支持されると好適である。
【0065】
この構成によれば、ロータ(82)が、ケース1(1)を構成する堅固な支持壁(軸方向壁部(62)及び区画部材(13))によって適切に支持される。
【0066】
また、前記回転電機(MG)がロータ(82)を備え、前記区画壁部(70)の前記軸方向第1側(L1)の端部(70t)が、前記ロータ(82)の前記軸方向第1側(L1)の端部よりも前記軸方向第1側(L1)に配置されていると好適である。
【0067】
この構成によれば、インバータ収容室(3)を軸方向(L)において広く形成でき、インバータ装置(INV)の軸方向(L)の配置領域を確保し易い。
【0068】
また、前記回転電機(MG)がステータ(81)を備え、前記区画壁部(70)の前記軸方向第1側(L1)の端部(70t)が、前記ロータ(82)の前記軸方向第1側(L1)の端部よりも前記軸方向第1側(L1)に配置されていると好適である。
【0069】
この構成によれば、インバータ収容室(3)を軸方向(L)において広く形成でき、インバータ装置(INV)の軸方向(L)の配置領域を確保し易い。
【0070】
また、前記軸方向(L)における前記区画壁部(70)の配置領域が、前記軸方向(L)における前記区画部材(13)の配置領域と重複するように配置されていると好適である。
【0071】
即ち、区画壁部(70)は、区画部材(13)を挟んで軸方向(L)の両側に形成されている。区画壁部(70)が区画部材(13)を挟んで軸方向(L)の両側に形成されているので、第1収容室(5)の剛性、第2収容室(3)の剛性、区画壁部(70)の剛性を確保し易い。
【0072】
また、前記軸方向(L)における前記区画壁部(70)の配置領域が、前記軸方向(L)における前記区画部材(13)の配置領域と重複するように配置されている場合において、前記軸方向(L)における前記区画壁部(70)の配置領域が、更に複数の前記ギヤ(G)の少なくとも一部の前記軸方向(L)における配置領域と重複するように配置されていると好適である。
【0073】
区画壁部(70)がこのように配置されていると、軸方向(L)の広い範囲に第2収容室(3)を形成することができる。即ち、ギヤ収容室(4)の上方にも区画壁部(70)が確保され、その分、軸方向(L)に沿って十分な広さを有する第2収容室(3)を形成することができる。当然ながら、第2収容室(3)の広さを充分に確保可能な場合には、軸方向(L)における区画壁部(70)の配置領域が、ギヤ(G)の軸方向(L)における配置領域と重複していなくてもよい。
【0074】
また、前記回転電機(MG)と前記インバータ装置(INV)とを電気的に接続するための接続部材(52)の締結部(54)が、前記第1収容室(5)に配置され、
前記区画部材(13)は、前記軸方向(L)に沿う軸方向視で、前記締結部(54)と重複しないように配置されていると好適である。
【0075】
このように、軸方向視で区画部材(13)が締結部(54)と重複しないように配置されていることにより、第1収容室(5)の中に配置される締結部(54)が、ケース本体(11)において開口する側(軸方向第2側(L2))から視認可能であるから、締結部(54)の状態を確認し易い。また、締結部(54)において接続部材(52)を締結するための作業も実施し易い。ケース本体(11)の開口が、軸方向(L)の一方側だけであっても、生産性やメンテナンスの容易性が損なわれない。
【0076】
また、前記接続部材(52)は締結部材(55)により締結され、前記締結部材(55)は、前記軸方向第2側(L2)から挿入され前記締結部材(55)の頭部が前記軸方向第2側(L2)に位置する向きに配置されていると好適である。
【0077】
第1収容室(5)の軸方向第2側(L2)を覆うように配置されるカバー部材(12)が、ケース本体(11)の軸方向第2側(L2)に接合されていない状態では、ケース本体(11)は、軸方向第2側(L2)が開放されている状態である。また、締結部(54)よりも軸方向第2側(L2)に配置されている区画部材(13)は、軸方向(L)に沿って締結部材(55)(締結部54)とは重複していない。即ち、区画部材(13)は、軸方向(L)に沿う軸方向視で締結部材(55)(締結部54)と重複していない。従って、ケース本体(11)にカバー部材(12)を取り付ける前に軸方向第2側(L2)から容易に締結部材(55)により、インバータ装置(INV)と回転電機(MG)とを電気的に接続することができる。
【0078】
また、前記インバータ装置(INV)の端子(51)が、前記軸方向(L)において前記インバータ装置(INV)の前記軸方向第1側(L1)に配置され、前記回転電機(MG)のステータコイル(83)に接続された端子(53)が、前記軸方向(L)において前記回転電機(MG)の前記軸方向第1側(L1)に配置されていると好適である。
【0079】
即ち、インバータ装置(INV)の端子(51)と、回転電機(MG)のステータコイル(83)に接続された端子(53)との双方が、ステータコア(81c)に対して軸方向(L)における同じ側、ここでは軸方向第1側(L1)に配置されている。従って、短い配線距離で両者を電気的に接続することができる。
【0080】
また、前記ケース本体(11)における前記第2収容室(3)を形成する部分は、前記ケース本体(11)と前記カバー部材(12)との接合面(9)よりも前記軸方向(L)における前記カバー部材(12)の側に張り出していると共に前記軸方向(L)に直交する方向に前記接合面(9)から離間している張り出し部(19)を有すると好適である。
【0081】
このように、ケース本体(11)が張り出し部(19)を有することによって、ケース本体(11)とカバー部材(12)との接合面(9)よりも軸方向第2側(L2)にまで第2収容室(3)を設けることができる。従って、第2収容室(3)の容積を確保し易い。
【0082】
また、複数の前記ギヤ(G)は、前記回転電機(MG)のロータ(82)と一体回転するように駆動連結された第1ギヤ(G1)と、前記差動歯車機構(DF)に連結されて前記回転電機(MG)からの駆動力を伝達する第2ギヤ(G4)とを含み、
前記回転電機(MG)及び前記第1ギヤ(G1)は、第1軸(A1)上に配置され、
前記差動歯車機構(DF)及び前記第2ギヤ(G4)は、前記第1軸(A1)と互いに平行な別軸である第2軸(A2)に配置され、
さらに、前記第1軸(A1)及び前記第2軸(A2)と平行な第3軸(A3)上に配置され、前記第1ギヤ(G1)に噛み合う第3ギヤ(G2)と、前記第3ギヤ(G2)と一体回転すると共に前記第2ギヤ(G4)と噛み合う第4ギヤ(G3)とを備えたカウンタギヤ機構(CG)を備え、
前記軸方向(L)における前記区画壁部(70)の配置領域が、前記軸方向(L)における前記回転電機(MG)の全体の配置領域と重複すると共に、前記軸方向(L)における前記第1ギヤ(G1)の配置領域及び前記第2ギヤ(G4)の配置領域の双方と重複するように配置されていると好適である。
【0083】
このように、区画壁部(70)の配置領域を軸方向(L)に広く確保することにより、軸方向(L)の広い範囲に第2収容室(3)を形成することができる。これにより、、軸方向(L)において第2収容室(3)の容量を確保し易くなるため、第2収容室(3)を軸方向(L)に直交する方向に広げる必要性が低下する。その結果、軸方向(L)に直交する方向に、車両用駆動装置(100)が大型化することを抑制することができる。
【符号の説明】
【0084】
1:ケース、2:回転電機収容室、3:インバータ収容室(第2収容室)、4:ギヤ収容室、5:機器収容室(第1収容室)、9:接合面、11:ケース本体、12:カバー部材、13:区画部材、19:張り出し部、51:インバータ側バスバー(インバータ装置の端子)、52:接続部材、53:回転電機側バスバー(回転電機のステータコイルに接続された端子)、54:締結部、55:バスバー締結部材(締結部材)、61:周壁部、62:軸方向壁部、70:区画壁部、70t:区画壁部軸方向第1側端部(区画壁部の軸方向第1側の端部)、81:ステータ、82:ロータ、83:ステータコイル、100:車両用駆動装置、A1:第1軸、A2:第2軸、A3:第3軸、CG:カウンタギヤ機構、DF:差動歯車機構、G:ギヤ、G1:入力ギヤ(第1ギヤ)、G2:カウンタドリブンギヤ(第3ギヤ)、G3:カウンタドライブギヤ(第4ギヤ)、G4:差動入力ギヤ(第2ギヤ)、INV:インバータ装置、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、MG:回転電機、MGt:回転電機軸方向第1側端部(回転電機の軸方向第1側の端部)、R:径方向、W:車輪
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、
前記回転電機からの動力伝達経路に設けられた複数のギヤと、
前記回転電機から複数の前記ギヤを介して伝達される駆動力を複数の車輪に分配する差動歯車機構と、
前記回転電機を駆動制御するインバータ装置と、
ケースと、を備え、
前記回転電機の回転軸に沿う方向を軸方向とし、
前記軸方向と直交する方向を径方向として、
前記ケースは、前記回転電機及び複数の前記ギヤを収容する第1収容室と前記インバータ装置を収容する第2収容室とを形成するケース本体と、前記ケース本体に対して前記軸方向に接合されて前記第1収容室を塞ぐカバー部材と、を備え、
前記軸方向における一方側を軸方向第1側とし、その反対側を軸方向第2側として、
前記カバー部材は、前記ケース本体に対して前記軸方向第2側に接合されて、前記第1収容室の前記軸方向第2側を覆うように配置され、
前記ケース本体は、前記第1収容室と前記第2収容室とを前記径方向において区画する区画壁部と、前記第1収容室の前記径方向の外側を覆う周壁部と、前記第1収容室の前記軸方向第1側を覆う軸方向壁部とを備え、前記区画壁部と前記周壁部と前記軸方向壁部とが1つの鋳造品として一体形成されている、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第1収容室は、前記回転電機を収容する回転電機収容室と、複数の前記ギヤを収容するギヤ収容室と、を有し、
前記ケースは、前記軸方向において前記回転電機収容室と前記ギヤ収容室との間に配置されて前記ケース本体に固定された区画部材を備える、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記回転電機は、ステータを備え、
前記ステータに対して前記径方向の外側において、前記軸方向に延在すると共に前記区画部材を支える部材が、前記区画壁部と前記径方向に隙間を空けて配置されている、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記回転電機は、ステータを備え、
前記ステータに対して前記径方向の外側に、前記軸方向に延びる油路が形成された部材が設けられ、
当該部材は、前記軸方向壁部と反対側の端部において前記区画部材を支持している、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記回転電機はロータを備え、
前記ロータは、前記軸方向壁部及び前記区画部材により支持される、請求項2から4の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記回転電機はロータを備え、
前記区画壁部の前記軸方向第1側の端部が、前記ロータの前記軸方向第1側の端部よりも前記軸方向第1側に配置されている、請求項2から5の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記回転電機はステータを備え、
前記区画壁部の前記軸方向第1側の端部が、前記ステータの前記軸方向第1側の端部よりも前記軸方向第1側に配置されている、請求項2から6の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項8】
前記軸方向における前記区画壁部の配置領域が、前記軸方向における前記区画部材の配置領域と重複するように配置されている、請求項6又は7に記載の車両用駆動装置。
【請求項9】
前記軸方向における前記区画壁部の配置領域が、更に複数の前記ギヤの少なくとも一部の前記軸方向における配置領域と重複するように配置されている、請求項8に記載の車両用駆動装置。
【請求項10】
前記回転電機と前記インバータ装置とを電気的に接続するための接続部材の締結部が、前記第1収容室に配置され、
前記区画部材は、前記軸方向に沿う軸方向視で、前記締結部と重複しないように配置されている、請求項2から9の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項11】
前記接続部材は締結部材により締結され、前記締結部材は、前記軸方向第2側から挿入され前記締結部材の頭部が前記軸方向第2側に位置する向きに配置されている、請求項10に記載の車両用駆動装置。
【請求項12】
前記インバータ装置の端子が、前記軸方向において前記インバータ装置の前記軸方向第1側に配置され、
前記回転電機のステータコイルに接続された端子が、前記軸方向において前記回転電機の前記軸方向第1側に配置されている、請求項1から11の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項13】
前記軸方向壁部の内部に、前記径方向に延びる径方向油路が形成されている、請求項1から12の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項14】
前記回転電機は、ステータを備え、
前記ステータに対して前記径方向の外側において、前記径方向油路から前記軸方向に延びる軸方向油路が設けられている、請求項13に記載の車両用駆動装置。
【請求項15】
前記軸方向第1側は、前記軸方向における、複数の前記ギヤに対して前記回転電機が配置されている側である請求項1から14の何れか一項に記載の車両用駆動装置。