(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096934
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】LMOカソード組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20240709BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240709BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240709BHJP
C01G 45/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/131
H01M4/62 Z
C01G45/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024066745
(22)【出願日】2024-04-17
(62)【分割の表示】P 2022523684の分割
【原出願日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】1915242.0
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】500024469
【氏名又は名称】ダイソン・テクノロジー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ロバート ロバーツ
(72)【発明者】
【氏名】ニッコーロ グエルリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリエット マリー ビヨー エポーズ ブーヴィル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エネルギー密度および性能の点において、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムベースの組成物と同等またはそれ以上である、シンプルで堅牢で費用効果の高いリチウム富化材料を提供する。
【解決手段】一般式:Li1+xMn1-xO2のリチウムイオンセルまたは電池のカソード組成物を提供する。ここで、組成物は、岩塩結晶構造を有する単相の形態であり、xの値は、0超0.3以下である。本化合物は、電気化学セルで使用するための正極またはカソードにも配合される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
Li1+xMn1-xO2
のリチウムイオン電池用カソード組成物であって、
ここで、前記組成物は、岩塩結晶構造を有する単相の形態であり、xの値は、0超0.
3以下である、
リチウムイオン電池用カソード組成物。
【請求項2】
xの値が、0.1以上である、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項3】
xの値が、0.17以上である、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項4】
xの値が、0.2以上である、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項5】
xの値が、0.2以上0.3以下である、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項6】
xの値が、0.1以上0.2以下である、請求項1に記載のカソード化合物。
【請求項7】
xの値が、0.2に等しい、請求項1から6のいずれか一項に記載のカソード組成物。
【請求項8】
前記単相結晶構造が、Fm3(バー)m空間群を示す、請求項1から7のいずれか一項
に記載のカソード組成物。
【請求項9】
前記組成物が、一般式:
(a)LiMnO2・(1-a)Li2MnO3
として表され、
ここで、2つの前駆体は、aによって定義される比率で提供され、aは、0超1未満の
範囲の値を有し、
前記前駆体は、ボールミルプロセスによって混合される、
請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項10】
aの値が、0.15以上0.7以下である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
aの値が、0.15以上0.4以下である、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
材料が、0.4LiMnO2・0.6Li2MnO3である、請求項9に記載の組成物
。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のカソード組成物を備える電極。
【請求項14】
前記電極が、電気活性添加剤および/またはバインダーを含む、請求項13に記載の電
極。
【請求項15】
前記電気活性添加剤が、カーボンまたはカーボンブラックのうちの少なくとも1つから
選択される、請求項14に記載の電極。
【請求項16】
前記ポリマーバインダーが、PVDF、PTFE、NaCMCまたはアルギン酸ナトリ
ウムの少なくとも1つから選択される、請求項14または請求項15に記載の電極。
【請求項17】
請求項13から16のいずれか一項に記載のカソード、電解質およびアノードを備える
電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩塩構造を有する一連の電気活性リチウム富化マンガンカソード組成物に関
する。より具体的には、本発明は、電気化学セルにおいてバルクまたは複合カソード材料
として使用され得る一連の高容量リチウム富化酸化マンガンカソード組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の性能およびコストは、主に正極(カソード)の組成物に依存する
。現在利用可能なリチウムベースのカソード組成物は、主にそれらのエネルギー密度、電
気化学的性能および組成物を配合するために必要な原材料の価格に基づいて等級分けされ
る。マンガンは、地球の地殻中のマンガンがコバルトおよびニッケルよりもはるかに多量
に存在するため、リチウムベースのカソード組成物の理想的な唯一の遷移金属中心となる
。現在、より高い容量およびエネルギー密度は、ニッケル、コバルト、アルミニウムを含
む組成物で達成され得るが、これらの金属のコストははるかに高くなる。加えて、これら
のニッケル、コバルトおよびアルミニウムベースの組成物は、サイクルで発生する電圧プ
ロファイルの問題に依然として悩まされ、コストがかかり(コバルトおよびニッケルが含
まれるため)、サイクル中のガス損失などの重大な安定性の問題を示す。エネルギー密度
および性能の点において同等またはそれ以上のものを提供する、シンプルで堅牢で費用効
果の高いリチウム富化材料が必要である。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様では、本発明は、一般式:Li1+xMn1-xO2のリチウムイオン電池
用のカソード組成物を提供する。ここで、組成物は、岩塩結晶構造を有する単相の形態で
あり、xの値は0超0.3以下である。
【0004】
従来の規則的または層状のリチウムおよびマンガン富化組成物(Li1+xTm1-x
O2、ここでTmは主にMn)は、アルカリおよび遷移金属サイトの両方にリチウムイオ
ンを有する。リチウムイオンとコバルトイオンとが構造内の交互の層を完全に占める場合
、これは、理想的なLiCoO2 R3/mタイプの構造と比較される。
【0005】
改善された安定性および容量性能を有するカソード組成物は、上記で定義されたリチウ
ム富化酸化マンガン組成物によって達成され得ることが見出された。本発明のカソード組
成物はまた、従来技術の従来の層状リチウムマンガン酸化物構造と比較したとき、改善さ
れた電気化学的サイクルを示す。
【0006】
特に、組成物は、単相岩塩結晶構造(すなわち、Fm3(バー)m空間群を有する面心
立方格子)として提供される。具体的に同定された化合物は、前駆体であるLiMnO2
およびLi2MnO3をさまざまな比率で混合することによって、従来のボールミル技術
を使用して高収率で再現性よく製造され得る。加えて、他の従来の技術は、カソード組成
物の薄膜の製造のために使用され得、例えばPVD技術であり、ターゲット材料のスパッ
タリングおよび昇華/蒸発を含むがこれらに限定されない。
【0007】
具体例では、xの値は、0.1以上であることができる。xの値は、0.17以上であ
ることができる。xの値は、0.2以上であることができる。xの値は、0.2以上0.
3以下であることができる。xの値は、0.1以上0.2以下であることができる。xの
値は、0.2に等しくてもよい。
【0008】
特定の例では、xは、0.2に等しい。この特定の組成物は、Li1.2Mn0.8O
2である。この特定の組成物は、充電容量の向上および多数のサイクルにわたる安定性を
示す。
【0009】
組成物は、一般式:(a)LiMnO2・(1-a)Li2MnO3として表され、2
つの前駆体は、aによって定義される比率で提供され、aは、0超1未満の範囲の値を有
し、前駆体は、ボールミルプロセスによって混合されて岩塩構造を有するバルク組成物を
提供する。具体例では、aの値は、0.05超0.95未満の範囲の値を有する。
【0010】
特定の例では、aの値は、0.15以上0.7以下であることができる。aの値は、0
.15以上0.4以下であることができる。以下の本発明の実施例に示されるように、カ
ソード組成物は、0.7LiMnO2・0.3Li2MnO3、0.6LiMnO2・0
.4Li2MnO3、0.5LiMnO2・0.5Li2MnO3、0.4LiMnO2
・0.6Li2MnO3、0.3LiMnO2・0.7Li2MnO3、0.2LiMn
O2・0.8Li2MnO3、0.15LiMnO2・0.85Li2MnO3、0.4
LiMnO2・0.6Li2MnO3のうちの1つから選択することができる。
【0011】
第2の態様では、本発明は、カソード(またはより一般的には電極)を提供する。カソ
ードは、PVD技術の一部としての薄膜としてのカソード組成物で作製することができ、
あるいは、カソードは、複合電極において活性なカソードとしてのカソード組成物を使用
して作製することができる。
【0012】
具体例では、本発明のカソード材料を含むカソードは、3つの部分を含む。第1は、(
60~98%の様々な質量パーセントで、しかしながら、通常、70、75、80、90
および95%で)前述の本発明の化合物である。カソードの第2の部分は、カーボンなど
の電気活性添加剤、例えば、Super Pおよびカーボンブラックを含み、これは、第
1の部分を除く残部の質量部分の60~90%を含む。第3の部分は、通常、PVDF、
PTFE、NaCMCおよびアルギン酸ナトリウムなどのポリマーバインダーである。場
合によっては、追加の部分が含まれ得、全体の割合が変わる。複合カソードの全体的な電
気化学的性能は、電気活性添加剤の導入によって改善することができ、得られるカソード
の構造特性は、カソード組成物の凝集および特定の基板への材料の接着を改善する材料を
加えることによっても改善することができる。
【0013】
第3の態様では、本発明は、上記の説明によるカソード、電解質およびアノードを備え
る電気化学セルを提供する。電解質は、例えば、ゲルまたはセラミックなどの液体または
固体の形態をとり得る。
【0014】
本発明をより容易に理解できるようにするために、本発明の実施形態を、例として、添
付の図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】存在する様々なLi-Mn-O化合物の粉末X線回折パターンを、それらの空間群および格子定数と共に示す。
【
図2】実施例1における合成された材料Li
1.2Mn
0.8O
2(または0.4LiMnO
2・0.6Li
2MnO
3)化合物の粉末X線回折パターンを示す。
【
図3】
図3Aは、45℃/10でのLi
1.2Mn
0.8O
2の第1のサイクルについての第1のサイクル定電流負荷曲線を示す。
図3Bは、45℃でC/10でのLi
1
.1Mn
0.9O
2の第1のサイクルについての第1のサイクル定電流負荷曲線を示す。
図3Cは、Li
1.2Mn
0.8O
2についてのサイクルの関数としての充電容量と放電容量との変化を示す。
図3Dは、Li
1.1Mn
0.9O
2についてのサイクルの関数としての充電容量と放電容量との変化を示す。
【
図4】400rpmでZrO
2ボールを有する従来の遊星ボールミル(上の線)の使用と700rpmおよびWCボールを有する高エネルギーボールミル(下の線)の使用とを比較した、Li
1.2Mn
0.8O
2の調製を示す。
【
図5】出発物質Li
2MnO
3、Li
2O
2およびMn
2O
3(上の線)を有するものと、出発物質Li
2MnO
3およびLi
2O
2(下の線)を有するものとを比較した、Li
1.2Mn
0.8O
2の調製を示す。
【
図6】Li
2MnO
3、Li
2O
2およびMn
2O
3からC/10充電およびC/5放電で調製されたLi
1.2Mn
0.8O
2の電気化学的データを示す。
【
図7】前駆体(下の線)、40分間のボールミル粉砕(下の線から2番目)、5時間のボールミル粉砕(上の線から2番目)および10時間のボールミル粉砕(上の線)のX線回折パターンを示す。
【実施例0016】
次に、本発明を以下の実施例を参照して説明する。
【0017】
(実施例1 リチウム富化酸化マンガン材料の合成)
前駆体であるLiMnO2およびLi2MnO3を含む材料を、表1に従って、WCジ
ャーおよびボールを使用して、異なるモル比率で混合した。全ての材料は、常に不活性雰
囲気下(アルゴン充填グローブボックス内)で取り扱われ、周囲雰囲気にさらされること
はなかった。つまり、常に湿気および酸素から保護されていた。遊星ボールミル(従来の
粉砕より約150%高いエネルギーを供給し得るFritsch Planetary
Micro Mill PULVERISETTE 7プレミアムライン)を使用して、
700rpmの速度で10分間の粉砕を行い、その後30分休ませた。この粉砕および休
止サイクルを少なくとも30回、すなわち、少なくとも5時間の総粉砕時間にわたって繰
り返した後、相純度を評価した。しかしながら、相純度を達成するために必要な粉砕時間
は短くなる可能性がある。相転移は、X線回折によって評価される。相転移が完了してい
ない場合は、同じプログラムが繰り返される。
【0018】
【0019】
ここでは、Mn
2O
3、MnO
2、Li
2O、Li
2O
2、Mn
2O
4、LiMn
2O
4を含むがこれらに限定されない代替の出発物質を使用し得る。Li
1.2Mn
0.8O
2を調製するための追加手段を、Li
2O、Mn
2O
3およびMnO
2で試したところ、
図2に示されるものと同じ相になった。
【0020】
代替的に、従来の遊星ボールミルであるRetschPM100ミルを使用した。ここ
で、両方のミルを使用して、400rpmの粉砕速度でZrO
2ボールを使用してLi
1
.2Mn
0.8Oを調製した。ここで、粉砕媒体の密度および回転速度が低くなると、結
果として、エネルギーの衝突が大幅に少なくなることが明確に理解され得る。両方のミル
によって使用された条件によって、Li
1.2Mn
0.8O
2の組成物で不規則岩塩相(
図4)を得ることに成功した。これは、高エネルギーでの調製が材料の生成への唯一の手
段ではないことを示す。
【0021】
あるいは、メカノフュージョンまたは従来の物理蒸着技術も、これらのカソード組成物
を調製するために考慮され得るものである。
【0022】
(実施例2 リチウム富化酸化マンガンカソード材料の構造分析および特性評価)
実施例1による材料を、Cu Kα放射線を用いたPanalytical Aeri
sベンチトップXRDを利用して実施した粉末X線回折(PXRD)で検査した。測定範
囲は、10~90°2θであった。
【0023】
図2は、合成された組成物の代表的な粉末X線回折パターンを示す。これらは、カチオ
ン不規則岩塩構造の特徴である。
図2に示すように、全てのパターンは、Fm3(バー)
m空間群を有する面心立方格子と一致する広い主要なピークを示しているように見える。
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、小さい結晶子サイズを有する材料を
もたらすボールミルプロセスのために、広いピークが表示されることに留意されたい。空
間群R3(バー)mまたはC2/mの層状LiMnO
2またはLi
2MnO
3構造を有す
る層状前駆体の存在の証拠は存在しない。これは、ボールミル合成が前駆体の材料を本発
明の組成物に変換したことを示す。不純物による余分なピークの存在は観察されなかった
。Li
1.2Mn
0.8O
2について示されている
図2のXRDの実施例は、組成物の変
化の結果としてバルク格子定数の変化に従ってピーク位置がわずかにシフトしている全て
のサンプルを示した。また、他の一般的なLi
pMn
fO
qの結晶相(比較のために
図1
に示すデータベースパターン)材料が最終製品に見られないことにも留意されたい。
図7
はまた、不規則岩塩相が主な特徴となるため、継続的な粉砕で初期の前駆体がゆっくりと
除去されるときに反応がどのように進行するかを示す。
【0024】
(実施例3 リチウム富化酸化マンガン材料の電気化学的分析)
実施例1による材料を、BioLogic BCSシリーズポテンショスタットを用い
て実施した定電流サイクルによって電気化学的に特性評価を行った。全てのサンプルを、
粉末カソードとして金属リチウムカウンター/参照電極を備えたSwagelokタイプ
のセルに組み立て、300mAh/gの容量によって定義されるC/10の電流レートで
2~4.8V vs.Li+/Liの間で循環した。使用した電解質は、LP40(1:
1(w/w比)のEC:DEC中のLiPF6の1M溶液)であった。
【0025】
図3a~dは、実施例1による組成物0.7LiMnO
2・0.3Li
2MnO
3およ
び0.4LiMnO
2・0.6Li
2MnO
3の第1のサイクルの充電およびその後の放
電中の電位曲線を示す。両方のサンプルは、C/10で200mAh/gを超える高い放
電容量を示す。調製した全ての材料の第1の放電容量の値について、以下の表に詳細を示
す。
【0026】
0.4LiMnO2・0.6Li2MnO3化合物は、充電の開始時に約4V vs
Li+/Liまで傾斜領域を示し、および約4.2V vs Li+/Liを中心とする
高電位プラトーは、第1の放電では不可逆的であるように見える。この一般的な特徴は、
材料中のリチウムの量に相関する式単位あたりLi>1.1を有するプラトーの長さを有
する全ての準備された材料で一貫していると見なされ得る。存在するリチウムが多いほど
、プラトーは長くなる。
【0027】
0.7LiMnO2・0.3Li2MnO3化合物は、異なる第1の電荷を示す。4.
8V vs Li+/Liに対しての高い電位カットオフまで、長い傾斜領域が観察され
る。電位プラトーは観察されず、放電時の不可逆性が少なくなるため、第1のサイクルの
クーロン効率が高くなる。
【0028】