(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096971
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】マイクロニードルデバイス及びそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
A61M37/00 520
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067580
(22)【出願日】2024-04-18
(62)【分割の表示】P 2022072350の分割
【原出願日】2019-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2018120639
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】堀 良太
(72)【発明者】
【氏名】西村 真平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、マイクロニードル1本あたりにつきより多くの生理活性物質を担持し、かつ投与することのできるマイクロニードルデバイスを提供する。
【解決手段】本発明の一形態は、マイクロニードルデバイスを製造する方法であって、マイクロニードルにコーティング液を塗布する工程を備え、コーティング液は、生理活性物質と、硫酸化多糖と、を含む、方法を提供する。かかる方法により製造されたマイクロニードルデバイスは、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備え、コーティングは、生理活性物質と、硫酸化多糖と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
基板上に配置されたマイクロニードルと、
マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備え、
コーティングは、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩と、コンドロイチン硫酸ナトリウムと、を含み、
デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比は0.01~0.36である、マイクロニードルデバイス。
【請求項2】
コーティング100質量部に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの量が0.5質量部以上である、請求項1に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項3】
コーティング100質量部に対するデクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩の量が、65質量部以上、99質量部以下である、請求項1又は2に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項4】
デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比が、0.011~0.222である、請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項5】
デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比が、0.089~0.222である、請求項4に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項6】
マイクロニードルが、10本/cm2以上かつ850本/cm2以下の針密度で基板上に配置された、請求項1~5のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項7】
マイクロニードル1本あたりのデクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩の担持量が、390ng以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項8】
マイクロニードルの材質が、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属、多糖類、又は樹脂である、請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項9】
基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備えるマイクロニードルデバイスを製造する方法であって、
マイクロニードルに、コーティング液を浸漬コーティングにより塗布する工程を備え、
コーティング液は、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩と、コンドロイチン硫酸ナトリウムと、を含み、
コーティング液における、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比は0.01~0.36である、方法。
【請求項10】
コーティング液におけるコンドロイチン硫酸ナトリウムの濃度が0.1質量%以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
コーティング液におけるデクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩の濃度が0.01質量%~90質量%である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
コーティング液における、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比が、0.011~0.222である、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
コーティング液における、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比が、0.089~0.222である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
マイクロニードルの材質が、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属、多糖類、又は樹脂である、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルデバイス及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を投与するための形態として、マイクロニードルデバイスを用いた経皮投与が知られている。マイクロニードルデバイスは、マイクロニードルを皮膚の最外層にある角質層に刺して薬剤の通る微細な孔を形成することで、経皮的に薬剤を投与することを可能とする。マイクロニードルデバイスは、例えば、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備え、コーティングは生理活性物質を含む(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロニードルデバイスの使用による皮膚刺激を抑えるためには、単位面積あたりのマイクロニードルの本数(密度)を減らすことが考えられる。しかしながら、マイクロニードルの本数を減らすと、それに応じて投与することのできる生理活性物質の量が減るため、十分な薬効が発揮されない場合があった。そこで、本発明は、マイクロニードル1本あたりにつきより多くの生理活性物質を担持し、かつ投与することのできるマイクロニードルデバイスを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態に係るマイクロニードルデバイスは、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備え、コーティングは、生理活性物質と、硫酸化多糖と、を含む。
【0006】
硫酸化多糖は、コンドロイチン硫酸、カラギーナン、フコイダン、アスコフィラン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン類似物質、ケラタン硫酸、フノラン、ポルフィラン、アガロペクチン、ファーセルラン、ラムナン硫酸、グルクロノキシロラムナン硫酸、キシロアラビノガラクタン硫酸、グルクロノキシロラムノガラクタン硫酸、アラビナン硫酸、アラビノラムナン硫酸、硫酸化デキストラン、硫酸化ペントサン、硫酸化カードラン、及び硫酸化セルロース、並びにこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の硫酸化多糖であってよく、好ましくはコンドロイチン硫酸ナトリウムである。生理活性物質は、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩であってよい。コーティング100質量部に対する硫酸化多糖の量は、0.5質量部以上であってよい。生理活性物質に対する硫酸化多糖の質量比は、0.01~0.36であってよく、好ましくは0.011~0.222であり、より好ましくは0.089~0.222である。マイクロニードルは、10本/cm2以上かつ850本/cm2以下の針密度で基板上に配置されてよい。マイクロニードル1本あたりの生理活性物質の担持量は、390ng以上であってよい。
【0007】
本発明の一形態に係るマイクロニードルデバイスの製造方法は、マイクロニードルにコーティング液を塗布する工程を備え、コーティング液は、生理活性物質と、硫酸化多糖と、を含む。マイクロニードルデバイスは、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備える。
【0008】
硫酸化多糖は、コンドロイチン硫酸、カラギーナン、フコイダン、アスコフィラン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン類似物質、ケラタン硫酸、フノラン、ポルフィラン、アガロペクチン、ファーセルラン、ラムナン硫酸、グルクロノキシロラムナン硫酸、キシロアラビノガラクタン硫酸、グルクロノキシロラムノガラクタン硫酸、アラビナン硫酸、アラビノラムナン硫酸、硫酸化デキストラン、硫酸化ペントサン、硫酸化カードラン、及び硫酸化セルロース、並びにこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の硫酸化多糖であってよく、好ましくはコンドロイチン硫酸ナトリウムである。生理活性物質は、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩であってよい。コーティング液における硫酸化多糖の濃度は0.1質量%以上であってよい。コーティング液における、生理活性物質に対する硫酸化多糖の質量比は、0.01~0.36であってよく、好ましくは0.011~0.222であり、より好ましくは0.089~0.222である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マイクロニードル1本あたりにつきより多くの生理活性物質を担持し、かつ投与することのできるマイクロニードルデバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】マイクロニードルデバイスの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】担持体の種類とマイクロニードル1本あたりのデクスメデトミジン塩酸塩の担持量との関係を示すグラフである。
【
図3】コーティング液中のコンドロイチン硫酸ナトリウムの濃度(質量%)に対して、マイクロニードル1本あたりのコーティングの量、並びに、そこに含まれるデクスメデトミジン塩酸塩及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの量をプロットしたグラフである。
【
図4】コーティング液中のデクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度(質量%)に対して、マイクロニードル1本あたりのコーティングの量、並びに、そこに含まれるデクスメデトミジン塩酸塩及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの量をプロットしたグラフである。
【
図5】デクスメデトミジン塩酸塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比(CSNa/DEX比)に対して、マイクロニードル1本あたりに担持されたデクスメデトミジン塩酸塩の量(DEX量)をプロットしたグラフである。
【
図6】コーティング液中のコンドロイチン硫酸ナトリウムの濃度(質量%)に対して、マイクロニードル1本あたりのコーティングの量、並びに、そこに含まれるデクスメデトミジン塩酸塩及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの量をプロットしたグラフである。
【
図7】コーティング液中のデクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度(質量%)に対して、マイクロニードル1本あたりのコーティングの量、並びに、そこに含まれるデクスメデトミジン塩酸塩及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの量をプロットしたグラフである。
【
図8】デクスメデトミジン塩酸塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比(CSNa/DEX比)に対して、マイクロニードル1本あたりに担持されたデクスメデトミジン塩酸塩の量(DEX量)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態に係るマイクロニードルデバイスの製造方法は、マイクロニードルにコーティング液を塗布する工程(塗布工程)を備える。塗布工程の後、コーティング液を乾燥させる工程(乾燥工程)を実施してもよい。ここで、マイクロニードルデバイスは、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティングと、を備えるデバイスである。
【0012】
本発明におけるマイクロニードルデバイスの一実施形態を
図1に示す。マイクロニードルデバイス10は、基板2と、基板2の主面上に配置された複数のマイクロニードル4と、マイクロニードル4上に形成されたコーティング6と、を備える。本明細書において、基板2上にマイクロニードル4が複数配置された構成をマイクロニードルアレイという。コーティング6の詳細については、後述する。
【0013】
基板2は、マイクロニードル4を支持するための土台である。基板2の形状は特に限定されず、例えば、矩形又は円形であってよく、かつ、主面は平坦又は曲面であってよい。基板2の面積は、例えば、0.5cm2~10cm2、0.5cm2~5cm2、1cm2~5cm2、0.5cm2~3cm2、又は1cm2~3cm2であってよい。基板2の厚みは、50μm~2000μm、300μm~1200μm、又は500μm~1000μmであってよい。
【0014】
マイクロニードル4は、針形状の凸状構造物であってよい。マイクロニードル4の形状は、例えば、四角錐形等の多角錐形又は円錐形であってよい。マイクロニードル4は微小構造であり、マイクロニードル4の、基板2の主面に対する垂直方向の長さ(高さ)HMは、例えば、50μm~600μm、100μm~500μm又は300μm~500μmであることが好ましい。
【0015】
マイクロニードル4は、基板の主面上に、例えば、正方格子状、長方格子状、斜方格子状、45°千鳥状、又は60°千鳥状に配置される。
【0016】
マイクロニードル4が基板2上に配置される密度(針密度)は、マイクロニードル4を実質的に備える領域における、単位面積あたりのマイクロニードル4の本数で表される。マイクロニードル4を実質的に備える領域とは、マイクロニードルデバイス10に配置された複数のマイクロニードル4のうち最外部のマイクロニードル4を結んで得られる領域である。より多くの生理活性物質を皮膚内に導入する観点から、針密度は、例えば、10本/cm2以上、50本/cm2以上、又は100本/cm2以上であってよい。皮膚刺激を低減する観点から、針密度は、例えば、850本/cm2以下、500本/cm2以下、200本/cm2以下、又は160本/cm2以下であってよい。
【0017】
基板2又はマイクロニードル4の材質としては、例えば、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属、多糖類、及び合成の又は天然の樹脂素材が挙げられる。多糖類としては、プルラン、キチン、及びキトサンが例示される。樹脂素材は、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸-co-ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリアミノ酸(例えば、ポリ-γ-アミノ酪酸)等の生分解性ポリマーであってよく、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、環状オレフィン共重合体等の非分解性ポリマーであってもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る、マイクロニードルデバイス10の製造方法における塗布工程では、マイクロニードル4にコーティング液を塗布する。コーティング液は、生理活性物質と、硫酸化多糖と、を含む。
【0019】
生理活性物質は、投与される対象に対して、治療又は予防効果を発揮する物質である。生理活性物質は、例えば、ペプチド、タンパク質、DNA及びRNA等の核酸、糖、糖タンパク、又はその他の高分子若しくは低分子化合物であってよい。
【0020】
生理活性物質の具体例としては、デクスメデトミジン、インターフェロンα、多発性硬化症のためのインターフェロンβ、エリスロポエチン、フォリトロピンβ、フォリトロピンα、G-CSF、GM-CSF、ヒト絨毛性腺刺激ホルモン、黄体形成(leutinizing)ホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、サケカルシトニン、グルカゴン、GNRHアンタゴニスト、インスリン、LHRH(黄体ホルモン放出ホルモン)、ヒト成長ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、フィルグラスチン、ソマトロピン、インクレチン、GLP-1アナログ(例えば、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、及びタスポグルチド)、蛇毒ペプチドアナログ、γグロブリン、日本脳炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、ロタウィルスワクチン、アルツハイマー病ワクチン、動脈硬化ワクチン、癌ワクチン、ニコチンワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、ライム病ワクチン、狂犬病ワクチン、肺炎双球菌ワクチン、黄熱病ワクチン、コレラワクチン、種痘疹ワクチン、結核ワクチン、風疹ワクチン、麻疹ワクチン、インフルエンザワクチン、おたふくかぜワクチン、ボツリヌスワクチン、ヘルペスウイルスワクチン、及びこれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。生理活性物質は、例えば、デクスメデトミジン又はデクスメデトミジン塩酸塩であってよい。コーティング液は、1種の生理活性物質を含んでいてよく、複数種の生理活性物質を含んでいてもよい。
【0021】
本発明において、硫酸化多糖は、コーティング液をマイクロニードル4上に担持することを助ける成分(担持体)である。硫酸化多糖は、皮膚組織に対して親和性を有し、生理活性物質の皮膚への吸収性を向上させる点において優れる。硫酸化多糖は、水酸基又はアミノ基に硫酸が結合した多糖である。
【0022】
硫酸化多糖における多糖は、天然の多糖であってよく、半合成又は合成された多糖であってもよい。多糖の主構造は、ムコ多糖(別名、グリコサミノグリカン)であることが好ましい。ムコ多糖とは、ウロン酸とヘキソサミンとを糖単位として有するヘテロ多糖である。硫酸化多糖における硫酸部位は、遊離酸の形であってもよく、塩を形成していてもよい。硫酸部位は、1価の金属塩、特にナトリウム塩であることが好ましい。コーティング液は、1種の硫酸化多糖を含んでいてよく、複数種の硫酸化多糖を含んでいてもよい。
【0023】
天然又は生物由来の硫酸化多糖としては、例えば、コンドロイチン硫酸、カラギーナン、フコイダン、アスコフィラン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン類似物質(ヘパリノイド)、ケラタン硫酸、フノラン、ポルフィラン、アガロペクチン、ファーセルラン、ラムナン硫酸、グルクロノキシロラムナン硫酸、キシロアラビノガラクタン硫酸、グルクロノキシロラムノガラクタン硫酸、アラビナン硫酸、及びアラビノラムナン硫酸、並びにこれらの塩が挙げられる。半合成又は合成の硫酸化多糖としては、例えば、硫酸化デキストラン、硫酸化ペントサン、硫酸化カードラン、及び硫酸化セルロース、並びにこれらの塩が挙げられる。
【0024】
ムコ多糖を主構造として有する硫酸化多糖としては、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパリノイド、及びケラタン硫酸、並びにこれらの塩が挙げられる。これらの中でも、コンドロイチン硫酸及びその塩がより好ましい。コンドロイチン硫酸の範囲には、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸)、コンドロイチン硫酸C、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、コンドロイチン硫酸H、及びコンドロイチン硫酸Kのいずれもが包含される。
【0025】
コンドロイチン硫酸の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム等のその他の金属との塩、及び、有機塩基との塩が挙げられる。コンドロイチン硫酸の塩は、好ましくはコンドロイチン硫酸のアルカリ金属塩であり、より好ましくはコンドロイチン硫酸ナトリウムである。
【0026】
コンドロイチン硫酸及びその塩の由来は限定されない。コンドロイチン硫酸及びその塩は、例えば、ブタ等の哺乳動物、サケ、サメ等の魚類、又は微生物から得ることができる。
【0027】
硫酸化多糖は、硫酸基の存在により、共通の物理学的、化学的、及び生理学的性質を有する傾向がある。硫酸化多糖における硫酸基の割合が増すにつれて、水に対する親和性、保水性、及び増粘作用が高くなるが、硫酸化多糖における硫酸基の割合は特に限定されない。硫酸化多糖における硫酸基の数は、多糖を主に構成するN個の糖単位あたり、0.25N個~2N個であってよく、好ましくは0.5N個~1.5N個である。多糖が2つの主な糖単位を有する場合、硫酸基の数は、多糖を主に構成する二糖単位あたり、0.5個~4個であってよく、好ましくは1個~3個である。
【0028】
硫酸化多糖の粘度平均分子量は、例えば、1000Da~500000Da、1000Da~100000Da又は7000Da~40000Daであってよいが、これに限定されない。粘度平均分子量は、第十五改正日本薬局方の一般試験法の粘度測定法第一法:毛細管粘度計法に準じて求められる極限粘度から、マーク-ホーウィンク-桜田の式を用いて算出することができる。
【0029】
コーティング液は、生理活性物質及び硫酸化多糖を溶解させる溶媒を1種以上含む。溶媒としては、例えば、水、多価アルコール、低級アルコール、及びトリアセチンが挙げられる。水は硫酸化多糖を良く溶解させるため、好適である。また、水は、デクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩も良く溶解させるという点でも、好適である。
【0030】
コーティング液は、上記生理活性物質、硫酸化多糖、及び溶媒以外に、他の成分(例えば、安定化剤、pH調整剤、血中への生理活性物質の移行を促進する成分、油脂、又は無機物)をさらに含んでいてよい。ただし、コーティング液は、界面活性剤、単糖、及び二糖を含まないことが好ましい。界面活性剤、単糖、及び二糖は、コーティング液の表面張力及び粘度を低下させ、マイクロニードル4の1本あたりの生理活性物質の担持量を低下させる可能性がある。
【0031】
安定化剤は、例えば、各成分の酸素酸化及び光酸化を抑制し、生理活性物質を安定化させる作用を有する。安定化剤の例は、L-システイン、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはその塩、又はジブチルヒドロキシトルエン(BHT)である。これらの安定化剤は、1種単独で使用してよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
pH調整剤としては、当業界で通常使用されるものを使用できる。pH調整剤としては、無機酸若しくは有機酸、アルカリ、塩、アミノ酸又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
コーティング液における硫酸化多糖の濃度は、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、1.3質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であってよく、また、20質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、又は8質量%以下であってよい。マイクロニードル1本あたりにつきより多くの生理活性物質を担持し、かつ投与することのできるマイクロニードルデバイス10を製造する観点から、コーティング液における硫酸化多糖の濃度は、例えば、1.3質量%~11質量%、1.5質量%~10質量%、2質量%~10質量%、0.5質量%~16質量%、0.5質量%~10質量%、又は4.0質量%~10質量%であってよい。
【0034】
コーティング液における生理活性物質の濃度は、生理活性物質の種類、治療の目的、疾患の状態、患者の状態、及び溶媒の性質に応じて調整することができる。コーティング液における生理活性物質の濃度は、例えば、0.01質量%~90質量%、0.1質量%~80質量%、1質量%~70質量%であってよい。
【0035】
コーティング液における、生理活性物質に対する硫酸化多糖の質量比は、例えば、0.01以上、0.02以上、0.025以上、0.03以上、0.035以上、0.04以上、0.05以上、又は0.08以上であってよく、また、0.36以下、0.35以下、0.3以下、0.27以下、0.26以下、0.24以下、0.23以下、0.20以下、0.18以下、又は0.17以下であってよい。生理活性物質がデクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩である場合、上記質量比は、0.011~0.222、0.044~0.222、又は0.089~0.222であることが好ましい。
【0036】
上記生理活性物質、硫酸化多糖、及び溶媒以外の、その他の成分の合計量は、コーティング液の全質量に対して、例えば、80質量%以下、60質量%以下、30質量%以下、又は20質量%以下であってよい。コーティング液は、上記生理活性物質、硫酸化多糖、及び溶媒以外の、その他の成分を含まなくてもよい。
【0037】
コーティング液に含まれる各成分の濃度は、例えば、液体クロマトグラフ法により測定することができる。また、生理活性物質以外の成分の濃度は、液体クロマトグラフ法により測定された生理活性物質の濃度、及び、コーティング液の配合時における各成分の割合に基づいて、算出することもできる。
【0038】
マイクロニードル4により多くのコーティング液を塗布する観点及び、マイクロニードル4の先端部分にコーティング6を形成する観点から、コーティング液の粘度は、25℃において、好ましくは500mPa・s~30000mPa・sであり、より好ましくは1000mPa・s~10000mPa・sである。同様の観点から、コーティング液の表面張力は、好ましくは10mN/m~100mN/mであり、より好ましくは20mN/m~80mN/mである。
【0039】
マイクロニードル4にコーティング液を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、インクジェット式コーティング又は浸漬コーティングにより、コーティング液を塗布することができる。なかでも、浸漬コーティングが好ましい。浸漬コーティングでは、コーティング液が溜められたリザーバーにマイクロニードル4を一定の深さまで浸漬し、次いでリザーバーからマイクロニードル4を引き出すことにより、マイクロニードル4にコーティング液が塗布される。
【0040】
ここで、硫酸化多糖を含む本発明に係るコーティング液によれば、多くのコーティング液をマイクロニードル4に塗布することができ、したがって、マイクロニードル1本あたりにつきより多くの生理活性物質を担持し、かつ投与することのできるマイクロニードルデバイス10を製造することができる。
【0041】
マイクロニードル4に塗布されるコーティング液の量は、一例として、浸漬コーティングによる塗布の場合、マイクロニードル4を浸漬する深さによって調整することができる。ここで、マイクロニードル4を浸漬する深さとは、浸漬されたマイクロニードル4の頂点から塗布液の表面までの距離を示す。浸漬する深さは、マイクロニードル4の長さHMにもよるが、例えばHM/2以下であってよい。ただし、コーティング液を乾燥させることにより形成されるコーティング6に含まれる生理活性物質のうち、マイクロニードル4の基底部分に形成された部分に含まれる生理活性物質は、マイクロニードル4の先端部分に形成された部分に含まれる生理活性物質に比べて、皮膚内に導入されにくい。したがって、より多くのコーティング液をマイクロニードル4の主に先端部分に塗布することが好ましい。ここで、マイクロニードル4の先端部分とは、後述するように、マイクロニードル4の頂点から、基板2の主面(すなわち、基底部分)に対して垂直方向に測った長さが、例えば、マイクロニードル4の長さHMの50%以内の長さとなる部分を示す。
【0042】
塗布工程の後の乾燥工程では、コーティング液を乾燥させてマイクロニードル4上にコーティング6を形成することができる。ここで、コーティング液を乾燥させるとは、コーティング液に含まれる溶媒の一部又は全部を揮発させることを意味する。コーティング液の乾燥は、例えば、風乾、真空乾燥、凍結乾燥などの方法又はそれらの組み合わせにより行うことができる。好適な乾燥方法は、風乾である。
【0043】
ここで、硫酸化多糖を含む本発明に係るコーティング液は、高い粘度及び表面張力を有するため、コーティング液を乾燥させる前又は乾燥させている間にコーティング液が重力によって下方へ流れ広がることを、より低減することができる。したがって、マイクロニードル4が上を向くようにマイクロニードルアレイを置いてコーティング液を乾燥させた場合であっても、マイクロニードル4の主に先端部分にコーティング6を形成することができる。
【0044】
塗布工程及び乾燥工程は、繰り返し行うことができる。これらの工程を繰り返すことにより、形成されるコーティング6の量をより増やすことができる。
【0045】
以上の方法により作製される、本発明の一形態に係るマイクロニードルデバイス10は、生理活性物質と、硫酸化多糖と、を含むコーティング6をマイクロニードル4上に備える。
【0046】
マイクロニードルデバイス10を構成する、マイクロニードルアレイ、生理活性物質、及び硫酸化多糖の詳細は上述したとおりである。コーティング6は、上述したコーティング液から溶媒の一部又は全部が除去されたものである。したがって、上述のコーティング液とコーティング6とは、溶媒を除いて、同じ成分を有する。
【0047】
硫酸化多糖の量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、0.5質量部以上、1質量部以上、1.9質量部以上、2質量部以上、2.5質量部以上、3質量部以上、3.5質量部以上、5.0質量部以上、又は8.0質量部以上であってよく、また、27質量部以下、25質量部以下、22質量部以下、21質量部以下、20質量部以下、19質量部以下、18質量部以下、17質量部以下、14質量部以下、又は13質量部以下であってよい。
【0048】
生理活性物質の量は、100質量部のコーティング6に対して、例えば、99質量部以下、95質量部以下、92質量部以下、90質量部以下、89質量部以下、88質量部以下、87.5質量部以下、又は87質量部以下であってよく、また、65質量部以上、70質量部以上、72質量部以上、73質量部以上、74質量部以上、75質量部以上、77質量部以上、78質量部以上、79質量部以上、又は81質量部以上であってよい。
【0049】
コーティング6における、生理活性物質に対する硫酸化多糖の質量比は、例えば、0.01以上、0.02以上、0.025以上、0.03以上、0.035以上、0.04以上、0.05以上、又は0.08以上であってよく、また、0.36以下、0.35以下、0.3以下、0.27以下、0.26以下、0.24以下、0.23以下、0.20以下、0.18以下、又は0.17以下であってよい。生理活性物質がデクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩である場合、上記質量比は、例えば、0.011~0.222、0.044~0.222、又は0.089~0.222であることが好ましい。
【0050】
上記生理活性物質、硫酸化多糖、及び溶媒以外の、その他の成分の合計量は、コーティング6中の固形分100質量部に対して、例えば、95質量部以下、75質量部以下、50質量部以下、又は30質量部以下であってよい。本明細書において、固形分とは、コーティング液から溶媒を除いたときに残る成分をいう。
【0051】
マイクロニードル4の1本あたりの生理活性物質の好ましい担持量は、生理活性物質の種類、治療の目的、疾患の状態、及び患者の状態による。生理活性物質がデクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩である場合、十分な薬効を発揮する観点から、マイクロニードル4の1本あたりのデクスメデトミジン又はその薬学的に許容可能な塩の担持量は、好ましくは390ng以上、451ng以上、又は670ng以上である。マイクロニードル4の1本あたりの生理活性物質の担持量の上限は特にないが、例えば、2μg以下、1μg以下、755ng以下、545ng以下又は500ng以下であってよい。マイクロニードル4の1本あたりの硫酸化多糖の担持量は、例えば、15ng~100ng、21ng~97ng、5ng~149ng又は67ng~149ngであってよい。マイクロニードル4の1本あたりのコーティング6の担持量は、例えば、490ng~700ng、516ng~642ng、456ng~836ng、又は819ng~836ngであってよい。
【0052】
コーティング6に含まれる各成分の量は、例えば、液体クロマトグラフ法により測定することができる。また、生理活性物質以外の成分の量は、液体クロマトグラフ法により測定された生理活性物質の量、及び、コーティング液の配合時における各成分の割合に基づいて、算出することもできる。マイクロニードル4の1本あたりに担持された各成分の量は、このように測定又は算出された値をマイクロニードルの本数で除することにより、求めることができる。
【0053】
マイクロニードル4が複数本ある場合、コーティング6は、全てのマイクロニードル4に形成されていてもよく、一部のマイクロニードル4にのみ形成されていてもよい。コーティング6は、マイクロニードル4の先端部分だけに形成されていてもよく、マイクロニードル4の全体を覆うように形成されていてもよい。コーティング6は、マイクロニードル4の先端部分に形成されていることが好ましい。ここで、マイクロニードル4の先端部分とは、マイクロニードル4の頂点から、基板2の主面(すなわち、基底部分)に対して垂直方向に測った長さが、マイクロニードル4の長さHMの50%以内、40%以内、30%以内、又は20%以内の長さとなる部分を示す。コーティング6の平均の厚さは、50μm未満であってよく、1μm~30μmであってよい。
【実施例0054】
<試験例1>担持体の比較
表1及び表2に示す成分を混和して、コーティング液1~4を調製した。表中、γ-PGAはγ-ポリグルタミン酸である。コンドロイチン硫酸ナトリウム(以下、CSNaということがある。)としては、マルハニチロ株式会社の医薬品グレードの製品を使用した。プルランとしては、株式会社林原の医薬品用の製品を使用した。γ-PGAとしては、日本ポリグル株式会社の製品を使用した。ポリビニルアルコールとしては、株式会社クラレの「クラレポバールPVA-205」(けん化度:約87.0mol%~89.0mol%、重合度:約500)を使用した。
【表1】
【0055】
【0056】
コーティング液1及び2について、ポリ乳酸製のマイクロニードルに対する接触角、表面張力、及び粘度を測定した。接触角は、液滴法(θ/2法)により測定した(温度23℃~25℃)。表面張力は、ペンダント・ドロップ法により、アンドレアスらの経験式を用いて算出した(温度24℃)。粘度は、キャピラリー流路での圧力損失から求めた(温度23℃~25℃)。結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
表3に示すように、コンドロイチン硫酸ナトリウムを含むコーティング液と、プルランを含むコーティング液とでは、表面張力及び粘度に大きな違いはみられなかった。
【0059】
次に、1cm2の領域に密度156本/cm2でマイクロニードルを備え、各マイクロニードルの形状は高さ500μmの四角錐である、ポリ乳酸のマイクロニードルアレイを用意し、マイクロニードルをコーティング液1~4中に約140μmの深さまで浸漬した。コーティング液からマイクロニードルを引き上げた後、マイクロニードル上のコーティング液1~4の溶媒を乾燥させて、マイクロニードルデバイス1~4を得た。
【0060】
溶媒を乾燥後、マイクロニードル上に形成されたコーティング中のデクスメデトミジン塩酸塩の量を高速液体クロマトグラフ法により定量し、そこからマイクロニードル1本あたりの担持体の量とコーティングの量を算出した。結果を表4及び
図2に示す。
【0061】
【0062】
担持体としてコンドロイチン硫酸ナトリウムを用いることにより、プルラン(非イオン性多糖)、ポリビニルアルコール(非イオン性ポリマー)、及びγ-PGAを用いた場合と比べて、マイクロニードル1本あたりにつきより多くの生理活性物質を担持するマイクロニードルデバイスを製造することができた。
【0063】
<試験例2>コーティング液の組成の比較
デクスメデトミジン塩酸塩、コンドロイチン硫酸ナトリウム、L-システイン(安定化剤)及び注射用水を混和し、表5に示すコーティング液5~13(実施例)を調製した。使用したコンドロイチン硫酸ナトリウムの詳細は試験例1と同様である。1cm2の領域に密度156本/cm2でマイクロニードルを備え、各マイクロニードルの形状は高さ500μmの四角錐である、ポリ乳酸のマイクロニードルアレイを用意し、マイクロニードルをコーティング液5~13中に約140μmの深さまで浸漬した。コーティング液からマイクロニードルを引き上げた後、マイクロニードル上のコーティング液5~13の溶媒を乾燥させて、マイクロニードルデバイス5~13(実施例)を得た。
【0064】
【0065】
溶媒を乾燥後、マイクロニードル上に形成されたコーティング中のデクスメデトミジン塩酸塩の量を高速液体クロマトグラフ法により定量し、そこからマイクロニードル1本あたりの担持体の量とコーティングの量を算出した。結果を表6に示す。
【0066】
【0067】
図3は、コーティング液中のコンドロイチン硫酸ナトリウムの濃度(質量%)に対して、マイクロニードル1本あたりのコーティングの量、並びに、そこに含まれるデクスメデトミジン塩酸塩及び担持体の量をプロットしたグラフである。
図3に示すように、コーティング液中にコンドロイチン硫酸ナトリウムを特定範囲の濃度で加えることにより、マイクロニードル1本あたりにつきさらに多くのデクスメデトミジン塩酸塩を担持するマイクロニードルデバイスを製造することができた。
【0068】
なお、
図3の横軸を、コーティング液中のデクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度(質量%)に変えたグラフが
図4である。デクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度とは、コーティング液中の固形分(デクスメデトミジン塩酸塩、コンドロイチン硫酸ナトリウム、及びL-システイン)の全量に占めるデクスメデトミジン塩酸塩の割合を意味する。
【0069】
図5は、デクスメデトミジン塩酸塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比(CSNa/DEX比)を横軸として、マイクロニードル1本あたりに担持されたデクスメデトミジン塩酸塩の量(DEX量)をプロットしたグラフである。
図5中、実線は実測値を示し、破線は理論値を示す。理論値は、マイクロニードル1本あたりに最大限の量のコーティングが担持された場合に、そのコーティング中に含まれると推定されるDEX量を示す。理論値は、表6におけるデクスメデトミジン塩酸塩の量の最大値(486ng/ニードル)が得られたときのマイクロニードル1本あたりに担持されたコーティングの量(562ng)が、マイクロニードル1本あたりに担持することが可能なコーティングの最大量であると仮定して算出された。理論値の算出に用いた式は以下のとおりである。
DEX量の理論値(ng/ニードル)=562(ng/ニードル)×コーティング液中のデクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度(質量%)/100
図5に示されるように、CSNa/DEX比が0.044~0.222の場合は、多少のばらつきはあるものの、実測値と理論値が実質的に一致していた。一方、CSNa/DEX比が0.222を上回った場合は実測値が理論値を下回り、値の差はCSNa/DEX比の増加とともに大きくなった。このことから、0.222超のCSNa/DEX比ではコーティング液の物性に何らかの変化が起こり、この変化はマイクロニードルに担持されるDEX量の増加を阻害する方向に作用するものと推定される。
【0070】
<試験例3>コーティング液の組成の比較
デクスメデトミジン塩酸塩(生理活性物質)、コンドロイチン硫酸ナトリウム(担持体)、及び注射用水を混和し、表7に示すコーティング液14~23(実施例)を調製した。使用したコンドロイチン硫酸ナトリウムの詳細は試験例1と同様である。1cm2の領域に密度156本/cm2でマイクロニードルを備え、各マイクロニードルの形状は高さ500μmの四角錐である、ポリ乳酸のマイクロニードルアレイを用意し、マイクロニードルをコーティング液14~23中に約140μmの深さまで浸漬した。コーティング液からマイクロニードルを引き上げた後、マイクロニードル上のコーティング液14~23の溶媒を乾燥させて、マイクロニードルデバイス14~23を得た。
【0071】
【0072】
溶媒を乾燥後、マイクロニードル上に形成されたコーティング中のデクスメデトミジン塩酸塩の量を高速液体クロマトグラフ法により定量し、そこからマイクロニードル1本あたりの担持体の量とコーティングの量を算出した。結果を表8に示す。
【0073】
【0074】
図6は、コーティング液中のコンドロイチン硫酸ナトリウムの濃度(質量%)に対して、マイクロニードル1本あたりのコーティングの量、並びに、そこに含まれるデクスメデトミジン塩酸塩及び担持体の量をプロットしたグラフである。
図6に示すように、コーティング液中にコンドロイチン硫酸ナトリウムを特定範囲の濃度で加えることにより、マイクロニードル1本あたりにつきさらに多くのデクスメデトミジン塩酸塩を担持するマイクロニードルデバイスを製造することができた。
【0075】
なお、
図6の横軸を、コーティング溶液中のデクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度(質量%)に変えたグラフが
図7である。デクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度は、コーティング液中の固形分(デクスメデトミジン塩酸塩及びコンドロイチン硫酸ナトリウム)の全量に占めるデクスメデトミジン塩酸塩の割合を意味する。
【0076】
図8は、デクスメデトミジン塩酸塩に対するコンドロイチン硫酸ナトリウムの質量比(CSNa/DEX比)を横軸として、マイクロニードル1本あたりに担持されたデクスメデトミジン塩酸塩の量(DEX量)をプロットしたグラフである。
図8中、実線は実測値を示し、破線は理論値を示す。理論値は、マイクロニードル1本あたりに最大限の量のコーティングが担持された場合に、そのコーティング中に含まれると推定されるDEX量を示す。理論値は、表8におけるデクスメデトミジン塩酸塩の量の最大値(755ng/ニードル)が得られたときのマイクロニードル1本あたりに担持されたコーティングの量(822ng)が、マイクロニードル1本あたりに担持することが可能なコーティングの最大量であると仮定して算出された。理論値の算出に用いた式は以下のとおりである。
DEX量の理論値(ng/ニードル)=822(ng/ニードル)×コーティング液中のデクスメデトミジン塩酸塩の固形分換算の濃度(質量%)/100
図8に示されるように、CSNa/DEX比が0.089~0.222の場合は、実測値と理論値が実質的に一致していた。一方、CSNa/DEX比が0.222を上回った場合は実測値が理論値を下回り、値の差はCSNa/DEX比の増加とともに大きくなった。このことから、0.222超のCSNa/DEX比ではコーティング液の物性に何らかの変化が起こり、この変化はマイクロニードルに担持されるDEX量の増加を阻害する方向に作用するものと推定される。